健康情報: 4月 2009

2009年4月30日木曜日

インフルエンザと普通の風邪との違い

新型インフルエンザが話題となっていますが、インフルエンザと普通の風邪とはどこが違うのでしょうか?
風邪の定義にもよりますが、広義の風邪の中に、インフルエンザは含まれます。インフルエンザと、他の風邪をと区分する際は、普通感冒と呼びます。
昔は、検査キットなどはありませんでしたので、インフルエンザと普通感冒は、その症状より区分するしかありませんでした。症状による見分け方は、下記のとおりです。
インフルエンザと普通感冒との違い(厚生労働省「インフルエンザの基礎知識」より)

インフルエンザ 普通感冒
症状 高熱頭痛関節痛筋肉痛、咳、のどの痛み、鼻水など のどの痛み、鼻水、鼻づまり、くしゃみ、咳、発熱(高齢者では高熱でないこともある)
発症 急激 比較的ゆっくり
症状の部位 強い倦怠感など全身症状 鼻、のどなど局所的
すなわち
  • 38度~40度前後の突然の発熱
  • 全身の倦怠感、関節痛、筋肉痛
  • 鼻水が、ひきはじめではなく発熱などの症状の後に出る
このような症状が出た場合は、インフルエンザの疑いありということです。
ただ、体質などによっては、インフルエンザの感染しても、高熱などを発しない場合もありますので、油断は大敵です。(直中の少陰などと言います)
インフルエンザを含めて風邪に使われる漢方薬には、葛根湯(かっこんとう)麻黄湯(まおうとう)桂枝湯(けいしとう)香蘇散(こうそさん)参蘇飲(じんそいん)桂枝麻黄各半湯(けいしまおうかくはんとう(桂麻各半湯(けいまかくはんとう))、桂枝二麻黄一湯(けいしにまおういちとう)、桂枝二越婢一湯(けいしにえっぴいちとう)、大青竜湯(だいせいりゅうとう)小青竜湯(しょうせいりゅうとう)柴胡桂枝湯(さいこけいしとう)小柴胡湯(しょうさいことう)麻黄附子細辛湯(まおうぶしさいしんとう(麻黄細辛附子湯(まおうさいしんぶしとう))藿香正気散(かっこうしょうきさん)、竹葉石膏湯(ちくようせっこうとう)、半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)麦門冬湯(ばくもんどうとう)など、色々とあります。
風邪に葛根湯とよく言われますが、葛根湯が効くのは、本当に初期だけです。しかも使うには、首のこり、無汗などが目標となり、節々が痛い場合などは、葛根湯よりも、麻黄湯の方が適応となりますし、汗が出ていれば桂枝湯(又は桂枝加葛根湯)の適応となります。
奥田謙蔵先生の流れをくむ先生方は、葛根湯より桂麻各半湯の方が使い易い旨をおっしゃっています。
藤平健先生の「のどチクの風邪」に、桂麻各半湯や桂枝二麻黄一湯、桂枝二越婢一湯、及び麻黄附子細辛湯を使うのは、有名です。
中医学では温病(うんびょう)の考えがあり、日本とは異なる薬方を使うようです。


【関連情報】
インフルエンザの漢方治療
http://kenko-hiro.blogspot.com/2009/05/blog-post.html

2009年4月27日月曜日

甲字湯、乙字湯、丙字湯、丁字湯について

乙字湯(おつじとう)は、痔疾(じしつ)に効果がある漢方薬として良く知られています。乙というからには、甲字湯や丙字湯はあるのでしょうか?

答えは………

あります。


『叢桂亭医事小言』(そうけいていいじしょうげん)という江戸時代後期に著された書物の中に、
甲字湯、乙字湯、丙字湯、丁字湯があります。


甲字湯(こうじとう)は、桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)に生姜(しょうきょう)と甘草(かんぞう)を加えた薬方です。
いわゆる210処方に含まれており、一般用薬としても販売されています。


乙字湯(おつじとう)は、現在主として使われるものは、浅田宗伯の創作した薬方で、
当帰(とうき)、 柴胡(さいこ)、黄芩(おうごん)、当帰(とうき)、升麻(しょうま)、大黄(だいおう)、甘草(かんぞう)からなりますが、『叢桂亭医事小言』に記載の乙字湯は、
柴胡(さいこ)、黄芩(おうごん)各七分、升麻(しょうま)、大黄(だいおう)各四分、甘草(かんぞう)三分、大棗(たいそう)四分、生姜(しょうきょう)二分となっていて、
当帰(とうき)が含まれておらず、大棗(たいそう)と生姜(しょうきょう)が含まれています。
当帰には滋潤、鎮痛、駆瘀血作用がありますので、痔核に用いるには、
浅田宗伯の薬方が優れているように思われます。

大塚敬節は、乙字湯より大黄を去り、桃仁(とうにん)、牡丹皮(ぼたんぴ)、魚腥草(ぎょせいそう:どくだみ)を加えて用いると記しています。


丙字湯は、甘草(かんぞう)六分、梔子(しし)四分、沢瀉(たくしゃ)二分、当帰(とうき)、地黄(じおう)、滑石(かっせき)、黄芩(おうごん)各五分
からなり、「諸淋を治する方」となっています。


丁字湯は、牡蛎(ぼれい)一銭六分、茯苓(ぶくりょう)一銭二分、呉茱萸(ごしゅゆ)八分、橘皮(きっぴ)四分、朮(じゅつ)、枳実(きじつ)各六分、甘草(かんぞう)、生姜(しょうきょう)各二分、人参(にんじん)三分からなる薬方です。


十干(じっかん)は、甲乙丙丁戊己庚辛壬癸です。
上記のように甲乙丙丁はありますが、残りの十干の○字湯は、不明です。

2009年4月24日金曜日

WTTCと漢方

W・T・T・Cは、厳密に言えば漢方薬ではなく家伝薬の一種となりますが、藤瘤(とうりゅう)、訶子(かし)、菱実(りょうじつ)、薏苡仁(よくいにん)の4種類の生薬から成立っている、生薬製剤です。
各10~15gを煎剤として用います。

WTTC(ダブリュティーティーシー)という名は、
・藤瘤(Wisteria floribunda)
・訶子(Terminalia chebula)
・菱実(Trapa japonica)
・薏苡仁(Coix lacyma-jobi)
の植物学名(ラテン名)の頭文字をつないだものだそうです。

古くから横須賀市の薬局で、「船越の胃腸薬」と称して用いていたものを、昭和30年頃に、千葉大学の中山恒夫教授がガンに有効だと発表して有名になりました。
昭和34年ですからかなり昔の話ですが、「化学療法に関するパネルディスカッション」において千葉大の中山教授が「漢方療法の経験」と題して、胃の患者168名にWTTCを投与された症例を発表し、延命効果があったとしています。
(日本医師会雑誌、第41巻第12号、945頁、昭和34年)。
内容は、
「漢方薬というのが古くからあって,それが癌にも使われている.私,3年ばかり前に,知っている人から頼まれまして,噴門癌(胃ガン)の患者なんですが, 軽く取れると思ってあけてみましたら,Dissemination(ガンが広範囲に広がっている)のような形で全然取れませんで,Probe(試験切除) をやりました.もちろん3月ぐらいで死ぬだろう……本人にはもちろん言いませんが,『癌をすっかり取ったからお前は再発することはない』と,こう本人には 言ったんですが,家の人には『3月ぐらいで死ぬだろう』と言ったんですが,1年半くらいたってその患者がピンピンして私の所に挨拶に来ました.『先生が 言った通りだ.先生は手術がうまい,再発なんかしない.飯もだんだん食えるようになった』と,こう言うんです.それから私,こういうばかなことはない,と にかく試験切片を採って検鏡してあるんですから,確かに胼胝性潰瘍とか何とかじやない.それからこれは食べ物のせいか環境のせいか,そういう特殊なことが あるのかと思って聞きましたら,『帰ってから近所の者にすすめられて漢方薬を飲んだ.あれを今でも飲んでいる.非常に工合がいい』と,こういうことなんで す」と。                     その患者の飲んだ「漢方薬」は、藤瘤(ふじこぶ)、詞子(かし)、菱の実(ひしのみ)、薏苡仁(よく いにん)を各10gを煎じ薬として服用したというものです。藤瘤、詞子、菱の実、薏苡仁の学名の頭文字が、W、T、T、CでしたのでWTTCという処方に 名前を付けて患者に投与し、すでに転移のあるガン患者168例について調べてみたところ、WTTCを投与したグループはかなり延命効果があることが明らか となりました。私自身もWTTCを用いて、なかなか良い効果があると実感しています。」
とのことです。

胃に限らず他の臓器の者についても追試されています。


『漢方症例選集』(緒方玄芳著)にも記載されていますので、抜粋してみます。

治験例1
患者は59歳の女性。 初診は昭和47年8月28日。
現病歴=昭和47年6月、健康診断で右卵巣の異常を指摘されて、同年8月3日、某病院で手術をうけ、右卵巣に原発したもので、既に腹腔内転移が肉眼ではっきり認められる状態であった。 従って、すでに放射線治療の適応ではなかった。主治医が家族に「手遅れの状態であるから、あとは漢方でも飲んでみたらどうか」といった主旨のことを話したそうだ。
現症=体格は小柄で、筋肉は締っていて、顔色よく、生来著患を知らぬ。舌は淡紅色。脈は沈で細、小。腹部は臍から下方に正中線皮切痕がみられ、中等度の左右胸脇苦満がある。
 そこで、WTTCを投与したところ、段々元気になって、年末にはすっかり健康を取戻し、現職に復帰し、8月以後、患者は来院しなくなった。
その後、昭和48年12月初め、突然来院して右鼡径部に不調を訴えた。それから後は、またWTTCを 飲み続けた。昭和49年8月、直腸の疑いで初回の手術をうけた病院で手術をうけた。執刀医の説明によれば、前回の手術のときの病巣はきれいになっていて、 異常を認めなかった。しかし、直腸にできていたのでこれを切除して、人工肛門を増設したという。そして後三ヶ月位はもつでしょうとのことだった。
昭和49年12月2日、患者は来院して、「多量の帯下が流出し、また左下腹部におできが生じた」と訴えた。みると腹部は腹水のため高度に膨隆し、左鼡径部に拇指頭大に腫れた瘤を認める。
 托裏消毒飲を与えたところ、数日後に自潰し、開口したが、水様のものが少々流出し、肉芽の腐ったようなものが出口をふさいでいるので、千金内托散を与え たところ、約三週間できれいになった。しかし、一方、腹水は依然たまっていて、一般状態はよくならない。
ただ末期にみられる疼痛は全くといってよいほど訴えない。そんな状態がつづく内、昭和50年2月初め、死亡した旨、知らせをうけた。

治験例2
患者は40歳の男性。 初診は昭和50年5月12日。
 最初、肺ないしその附近にあって、コバルト照射で数年間はなんとか抑えていたが、昭和49年ころから腹部臓器にすすみ、最近遂に末期症状をきたした。
 そこで患者の妻に後刻薬を取りにくるようにいった。彼女が薬を取りに来たとき、「末期で腹水が一杯たまっています。」というと、彼女は「よくわかっています。病院の先生にそのことを聞きました」「漢方で も治すことはできません」「そのこともよく知っています。今の苦しみが少しでも楽になれば、と思いお願いするのです。病院の先生はあと一ヶ月の命だとおっ しゃっています」「そこまでの承知の上での話なら薬を出しましょう。今よりは楽になり、延命効果も上がると思います」といってWTTCを30日分渡した。それを飲み終えて、次回、請薬にきた彼の妻は「腹部の膨満がとれ、小便が多量に出て、
食欲が出て、浣腸なしで便通がある。顔面浮腫が消えた。」と報告してくれた。
 その後もひきつづき服用したが、9月10日の時点では顔に浮腫があわわれ、衰弱が増してきて、一ヵ月後には遂に死亡した。

治験例3
患者は70歳の男性。 初診は昭和50年5月28日。
現病歴=昭和49年7月10日、直腸で某病院で切除術と人工肛門増設術とをうけた。昭和50年1月腹水がたまって、微熱が続くようになった(主治医は今年6月までもてばよい方でしょう、といった由)。
 を投与したところ、まず、熱がでなくなり、浮腫と腹水が現象し、食欲が増進した。つづけて投与し、10月18日、請薬に来院した時は浮腫、腹水とも消失し、体重が2kg増え、調子がよいといっていた。
 後日,新聞紙上で彼の死亡報道を読み、以外に思った。数日後、遺族の話をきいたところ、次のような経過を聞いた。
 「死亡の数日前、勤務先で尻持ちをついて、腎部を強打し、その直後入院したが、腹水が急に大量にたまってきて、遂に死亡した。
その間、余り苦しむことがなかった。」と。

長倉製薬株式会社(大阪)が、W.T.T.C.という名称で商品化しています。
(粒状の医薬品です)


土方康世氏(茨木市・東洋堂土方医院)は、WTTCに霊芝・梅寄生(ラテン名の頭文字GE)を加方したものを、WTTC-GEと称して、癌(がん)の他、単純ヘルペス感染症(口唇ヘルペス、ヘルペス性口内炎、性器ヘルペス等)や、慢性肝炎、アトピー性皮膚炎に応用されています。

アトピー性皮膚炎に対する効果は、下記のサイトで概容を見ることができます。
http://nels.nii.ac.jp/els/110002536680.pdf?id=ART0002814846&type=pdf&lang=jp&host=cinii&order_no=&ppv_type=0&lang_sw=&no=1240553272&cp=


癌(ガン)に応用される漢方薬などについては、下記のサイトもご参考下さい。
http://kenko-hiro.blogspot.com/2008/11/blog-post_28.html

2009年4月23日木曜日

うつ(鬱)に良く使われる漢方薬

 うつ病に関しては、国内の患者は100万人を超えると言われています。「心の風邪」とも言われ、正しい治療を行えば、一般的には半年から1年で治ると言われています。

 しかしNHKの報道では、実際には4人に1人は治療が2年以上かかり、半数が再発するとのことです。

 更には、医師の能力にも問題があり、不必要に多くの種類や量の抗うつ薬を投与され、薬の副作用で、病気がひどくなったりしている人もいるとも放送していました。

 今まで飲んでいた薬を減らすことで、劇的に改善した方も出演していました。
何か症状が出るとそれに対処する薬を使いたくなる気持ちは、わからないでもないですが、放送されていた薬の量は、尋常ではありませんでした。医師や薬剤師は、その薬の量を見て何とも思わないのでしょうか?

 番組では、双極性障害であるのに、うつ病の治療が行われ、良くならない例も出ていました。双極性障害の方に安易に抗うつ薬が使われると、逆効果になりかねないようです。

 「うつ先進国」のイギリスでは2年前から、国を挙げて抗うつ薬に頼らず、カウンセリングでうつを治す認知行動療法(CBT, Cognitive Behavioral Therapy)(「心理療法」)を治療の柱に据え、効果を上げているとの報道もありました。しかし日本では、まだ保険で認められていないので、全額自費になってしまい、「心理療法」を受けるのは難しいようです。

 日本の保険は、検査をしたり、薬を出したりしないとお金がもらえない仕組みです。問診にどれだけ時間を掛けても、例えば3分間しか話しを聞かなくても、1時間話しを聞いても、もらえる報酬は同じです。 ですので、保険の仕組みとして、どうしても検査漬、薬漬になりがちです。


漢方薬は、色々な症状に対して単一の処方(薬方)で対応可能なことがあります。複雑な病態の場合は、複数の処方(薬方)を合方(ごうほう・がっぽう)することもありますが、多くはせいぜい二~三方です。


うつ病に良く用いられる漢方薬には、
香蘇散(こうそさん)柴胡加竜骨牡蠣湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)柴胡桂枝乾姜湯(さいこけいしかんきょうとう)桂枝加竜骨牡蠣湯(けいしかりゅうこつぼれいとう)半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)甘麦大棗湯(かんばくたいそうとう)加味逍遙散(かみしょうようさん)などのいわゆる順気剤(じゅんきざい)があります。
 その他、酸棗仁湯(さんそうにんとう)加味帰脾湯(かみきひとう)分心気飲(ぶんしんきいん)などが用いられます。

 また、体力が低下している場合など、十全大補湯(じゅうぜんたいほとう)補中益気湯(ほちゅうえっきとう)を併用することもあります。
症状
便秘がち










汗をかきやすい











疲れやすい







のぼせやすい










めまい











肩が凝る










耳鳴りがする










のどに何かつかえている感じ










起床時口中が粘り、苦い









ささいなことが気になる






イライラする





気分が沈む

悲しい
睡眠障害






夢をよく見る










物忘れをする










治療効果があらわれ、やや快方に向かった時に油断をしていると、突然自殺に走ってしまう場合がありますので、注意が必要です。


甘麦大棗湯(かんばくたいそうとう):理由もなく悲しんだり怒ったりし、むやみにあくび(欠伸)をする。


柴胡加竜骨牡蛎湯(さいこかりゅうこつぼれいとう):胸脇苦満(きょうきょうくまん(胸や脇の圧迫感・季肋下部の抵抗・圧痛))があり、動悸が激しく、クヨクヨする、気分が沈む等の神経症状が強い。便秘がある。
柴胡加竜骨牡蠣湯については、「柴胡加竜骨牡蠣湯 と うつ(鬱)」もご参照下さい。
http://kenko-hiro.blogspot.com/2010/09/blog-post.html

柴胡桂枝乾姜湯(さいこけいしかんきょうとう)
 体質が虚弱で、皮膚枯燥してつやがなく、脈・腹ともに力なく、胸脇苦満はほとんど認めないものに用います。

桂枝加龍骨牡蠣湯(けいしかりゅうこつぼれいとう)柴胡加竜骨牡蛎湯とほぼ同様だが、体力は弱く、胸脇苦満や便秘傾向はない。のぼせて汗が出やすく、毛髪が抜けやすい。
桂枝加竜骨牡蛎湯については、「桂枝加竜骨牡蛎湯とうつ(鬱)」もご参照下さい。
http://kenko-hiro.blogspot.com/2010/10/blog-post.html


加味逍遙散(かみしょうようさん):背中が急にカーッと熱くなり汗が出て、そのあと寒くなる。不定愁訴(ふていしゅうそ)がむやみに多い。加味逍遥散
http://kenko-hiro.blogspot.com/2010/10/blog-post_25.html


香蘇散(こうそさん):平素から胃腸が弱く、気分が沈み、ささいなことが気になる。
http://kenko-hiro.blogspot.com/2010/09/blog-post_18.html


女神散(にょしんさん): のぼせとめまいがあり、不安、動悸、不眠、頭重などの訴えのある人に使われる処方です。神経症状は一定で、余り変化せず、一つ二つの訴えをいつまでも頑固に固執する傾向があります。別名を安栄湯(あんえいとう)ともいいます。


酸棗仁湯(さんそうにんとう)
 虚弱体質で、身心の疲労、不眠を伴う鬱(うつ)に用いられます。

加味帰脾湯(かみきひとう):疲労倦怠・食欲不振・動悸・貧血・不眠・感情不安定などの精神症状の顕著な場合に用いられます。心身共に衰微している状態です。

四逆散(しぎゃくさん)
 胸脇苦満・口苦・口粘・肩背強急・心下痞鞕・手足厥冷・掌蹠自汗・疲労倦怠・神経過敏:抑鬱気分などのあるものに用いる。

・抑肝散加芍薬(よくかんさんかしゃくやく)・抑肝散加陳皮半夏(よくかんさんかちんぴはんげ)
 感情不安定・興奮・多怒・寝つきが悪い・心悸亢進・腹直筋緊張・四肢痙攣などのあるものに抑肝散加芍薬を用います。
 もし、腹力低下し、腹部大動脈の拍動の亢進のある場合には抑肝散加陳皮半夏を使用する。


三黄瀉心湯(さんおうしゃしんとう)
 体力が中程度またはそれ以上で、不安感、焦燥感とともに感情の動揺が激しくて、便秘気味の人に合う処方です。

黄連解毒湯(おうれんげどくとう)
 三黄瀉心湯とほぼ同じ症状で、便秘がない人はこちら。

半夏瀉心湯
 心窩部のもたれ、悪心、嘔吐、食欲不振、ときに心窩部の振水音、腹鳴下痢などの胃腸症状とともに、不眠、落着かないなどの精神神経症状を訴えるものに用います。

桃核承気湯(とうかくじょうきとう)
 下腹部の急迫性の圧痛があるものに用います。多くは月経異常と便秘を伴います。
 月経時に気が荒くなって、イライラしたり、怒ったりするもの、あるいは狂ったように乱暴するもので、特殊に腹証(小腹急結(しょうふくきゅうけつ))があるものに用いる。


桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)
 のぼせ、肩こり、めまい、足の冷えなどを伴う鬱(うつ)に効果があります。左の下腹部に充実した抵抗と圧痛があることも処方の目安の一つです。


当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)
貧血・顔色蒼白・手足冷・寒がり・小腹硬満・月経異常・腹痛・上腹部振水音・浮腫傾向・尿不利・無気力・疲労倦怠・前屈姿勢などのあるものに用います。
しばしば、頭冒・目眩・耳鳴・亡背強急・心悸亢進・不眠・不定愁訴・感情不安定などを伴います。


半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう): 体力がなく体質も弱い虚証タイプで、不眠感や不眠、動悸、抑欝感などがある場合に効果を発揮します。咽喉(ノド)に何かが痞えて(つかえて)いるような異物感があることが重要な目安になります。

正心湯(しょうしんとう):極度の精神疲労により、意識が呆然として、とりとめのないことを口走るというものに用いられます。

・大承気湯(だいじょうきとう):
 強い便秘・腹堅満・食欲不振・微熱・熱臭のある自汗・燥屎・口渇・心煩などのあるものに用いられます。肥満して腹力あり、便秘するものの抑鬱気分の顕著な場合、躁状態が激しく狂暴な傾向のあるある場合にも使われます。

竜骨湯(りゅうこつとう)
 他の漢方薬方が無効の際に、ときに著効がある場合があります。
 抑鬱気分・易驚・悲傷・健忘・不眠・独語・痴狂などのあるものに用いる。
 普段から驚き易く精神不安定で、希望を失い、がっかりしてよく物忘れをし、悲感的で哀愁にたえず、性欲がなくなり,時に独語を発したり精神薄弱や狂人のような者に用いる。

反鼻交感丹(はんぴこうかんたん)
 極度のうつ状態などで、呆然自失の態のものに用いて、著効のある場合があります。
 呆然自失・放心・失心・抑鬱気分・健忘などのあるものに用いられます。
 気虚が顕著で、うつ状態で気の抜けたようなもの。
 

十全大補湯(じゅうぜんだいほとう)
 疲労倦怠・気力減退・自汗・盗汗、貧血、顔色不良、羸痩(るいそう)、全身衰弱、皮膚枯燥、口乾などのあるものに用います。


清心蓮子飲(せいしんれんしいん)
 うつ傾向、泌尿生殖器系症状、胃腸虚弱を目標として用います。


茵蔯蒿湯(いんちんこうとう)
 急・慢性肝炎、胆石症、蕁麻疹、皮膚掻痒症などで、不眠、興奮を呈する者に用います。


苓桂朮甘湯(りょうけいじゅつかんとう)
 不安感があって、動悸、めまい、ふらつきのある方(水毒)。
 不安神経症タイプで、不安感が強いと血圧が変動しやすく、動悸、めまいを訴える方に使われます。
 立ちくらみにも良く使われます。

2009年4月22日水曜日

打撲傷や捻挫の民間療法

1.饂飩粉(うどんこ)と酒
打ってから三十分以内に、
饂飩粉(うどんこ)(メリケン粉)盃(さかずき)一杯(いっぱい)を、
酒盃一杯でどろどろに溶いてすぐに飲む。
酒はよく薬を廻(めぐ)らすものなので、欝血(うっけつ)を去ると思われる。
捻挫(ねんざ)にも効く。


2.梔子(くちなし)と蕃椒(とうがらし)
蕃椒(とうがらし)粉少々か、赤蕃椒ならば約二本を粉にして、梔子(くちなし)粉大匙三杯(おおさじさんばい)と混ぜ、卵白(しろみ)で、どろっとするくらいに煉(ね)ります。
これを患部にたっぷり塗り、
油紙(ゆし)か生紙(きがみ)を当てて繃帯(ほうたい)をしておき、
熱を除(と)って、からからになったら取り替える。


3.梔子(くちなし)と蕎麦(そば)粉
 梔子粉(くちなしこ)茶匙(ちゃさじ)二杯に、卵白(しろみ)一個分を入れ、
固すぎぬように、蕎麦(そば)粉(なければ饂飩粉(うどんこ))少々を混ぜて
生紙に延べ、患部に貼る。


4.黄檗(きはだ)粉と饂飩粉(うどんこ)
黄檗(きはだ、黄柏)粉茶匙一杯と卵白半個分、饂飩粉茶匙一杯、
それに酢 五六滴を混ぜてどろどろに煉り、
半紙に塗って貼る。
挫いたのにもよろしい。


5.卸し黒芋(おろしさといも)
里芋(さといも)の皮を剥(む)いて卸金(おろしがね)で卸し、
とろとろになったものに、
饂飩粉(うどんこ)をつなぎに入れてねっとりさせる。
これを二分(にぶ;約6mm)くらいの厚みに患部に塗り、
ガーゼか日本紙を当てて繃帯(ほうたい)をし、
熱を除って硬ばってきたら取り替える。
捻挫(ねんざ)や火傷(やけど)に特効有り。
大きな「おでき」に貼ったところ、
蜂の巣のように沢山口が開き、膿(うみ)が出て
痕方(あとかた)もなく治ったという例もある。


6.蓬(よもぎ)の貼薬
蓬(よもぎ、艾)を洗って擂木(すりこぎ)でとんとん叩き、
これをそのまま当てて繃帯(ほうたい)しておき、
からからになったら取り替える。


7.接骨木の煎汁(にわとこのせんじゅう)
 接骨木の枝や葉を一緒にして濃く煎じ出し、
これで患部をぴしゃぴしゃたでる(蒸す)ようにすると、
温まるにつれて痛みが薄らぎ、欝血(うっけつ)を去ります。
またこれで風呂を立て温まるのも奇効がある。

8.玉蜀黍(とうもろこし)
玉蜀黍(とうもろこし)を焼いて実をこそげ、
布巾(ふきん)に包んで金槌(かなづち)で叩くと、
粉々になる。
これに御飯粒(ごはんつぶ)を少し入れて
そくひのように煉り、
なお、酒か酢を少量入れてどろどろにしたのを、
打身の箇所にはって、
乾く度に貼り替える。

※そくひは漢字で書けば、“続飯”。米粒を練って作った糊のこと

9.大黄の粉末(だいおうのふんまつ)
大黄(だいおう)の粉末を童尿(乳児の小便)で糊(のり)より軟らかいくらいに溶いて塗り、
油紙を当てて繃帯(ほうたい)をしておく。
童尿は、有効成分を色々と含んでいて、昔から珍重されている。


10.生姜(しょうが)の汁と葛粉
古生姜(ひねしょうが)の搾り汁(しぼりじる)を酒と等分にしたものに、
葛粉(くずこ)をべとべとになるくらいに入れて煉り混ぜ、
打ち身の所へ貼り付ける。

2009年4月15日水曜日

夜泣きに使われる漢方薬・民間薬


「夜泣き」は生後2~3ヵ月から1歳半ぐらいの赤ちゃんに見られることが多く、原因がないのにどうしても泣きやまないものをいいます。一般的には生後6~8ヵ月頃になると夜泣きを訴えるケースが多く、原因もわからずこれという決定的な解決策がないため、育児中のお母さん・お父さんの悩みの一つになっています。 しかし、これは赤ちゃんの睡眠がリズムを作っていく成長の一過程です。病気ではないため、成長していくにつれ治っていきます。「夜泣き」は、発育期の赤ちゃんに見られる当たり前のこととして受け取られています。

1.小建中湯(しょうけんちゅうとう)
夜泣きなどに良く使われる漢方薬としては、小建中湯(しょうけんちゅうとう)が有名です。
甘くて比較的飲み易い薬ですが、体質的には余り元気が無く、昼間もじっとしているようなタイプです。典型的なのは、お腹をさわると、二本の棒があるように腹直筋がつっぱっているような子供だと良く効くようです。

抑肝散(よくかんさん、よっかんさん)という漢方薬も良く使われます。
最近は、アルツハイマーなどの認知症に効果があるということで、
こちらの方が有名になっているようですが、
もともとは、『保嬰撮要』(ほえいていよう)という、
いわゆる小児科の本に記載されている漢方薬です。
(リンク先は、漢方の専門家の方ですので読み難いと思いすが、ご参考まで)

この本の中に、子供と母親が同じ漢方薬を飲む旨が書かれているそうです。
いわゆる「疳(かん)の強い子」の夜泣きや不眠などに使われます。

内容的には、四逆散(しぎゃくさん)が基本になっていると考えられます。

抑肝散(よくかんさん)に、陳皮(ちんぴ)と半夏(はんげ)を加えた
抑肝散加陳皮半夏(よくかんさんかちんぴはんげ)としても良く使われます。

甘麦大棗湯(かんばくたいそうとう)という漢方薬(順気剤の一種)も良く使われます。
特徴的なのは、よく「あくび」(欠伸)をする というものです。
不安が強くて泣きやまない場合などに応用されます。
右腹直筋のつっぱりを目標とすることもあります。

中に入っている薬味(やくみ)は、甘味料として良く使われる甘草(かんぞう)、
果物でもあるナツメ、それに小麦(こむぎ)で、
まるでただの食品です。
何でこんなものが効くのかと思われるような漢方薬なのですが、
ピタッと合えば、おどろくほど効果が出るようです。



4.柴胡清肝散(さいこせいかんさん)
いわゆる一貫堂方です。
一貫堂の創始者の森道伯は、体質を大きく、
a.瘀血証体質(おけつしょうたいしつ) 、
b.臓毒証体質(ぞうどくしょうたいしつ)、
c.解毒証体質(げどくしょうたいしつ)の三大証に分類し、

そのうち、解毒証体質の子供には柴胡清肝散(さいこせいかんさん)を投与するとしています。


その他、瘀血証体質の人には通導散(つうどうさん)
臓毒証体質の人には防風通聖散(ぼうふうつうしょうさん)
解毒証体質で青年期になると荊芥連翹湯証(けいがいれんぎょうとう)
解毒証体質で壮年期には龍胆瀉肝湯(りゅうたしゃかんとう)が使われます。
なお、この龍胆瀉肝湯(りゅうたしゃかんとう)は一般的な龍胆瀉肝湯(りゅうたしゃかんとう)とは異なりますので注意が必要です。
医療用のエキス剤では、小太郎の竜胆瀉肝湯(りゅうたしゃかんとう)のみが一貫堂方です。


解毒証体質とは、生まれつき肝臓の解毒作用が弱くいろいろな毒素を解毒排泄できないために、幼少時より発病しやすい体質です。戦前は結核など感染症になりやすく、現在はアレルギー体質の人に多いと言われています。
解毒証体質の人は、顔色が浅黒い、体格は痩せ型、首が細く、胸が狭い、お腹を触ると非常にくすぐったがる。すぐに風邪をひく、扁桃腺がよく腫れる、中耳炎になりやすい、神経質で虚弱児が多いなどの特徴があります。
このような体質で、夜泣きをする場合には、柴胡清肝散(さいこせいかんさん)が良いと考えられます。


5.小柴胡湯(しょうさいことう)
小建中湯とは反対に、昼間は元気に遊ぶような子に用いられます。


6.桂枝加龍骨牡蠣湯(けいしかりゅうこつぼれいとう)
ふだん手のひらがじっとり湿っている神経質タイプで、
手足がだるくて疲れやすい、頭がのぼせ、眠れず胸や腹部の動悸を自分で感じる、気分が憂うつで物忘れ しやすく、さ細なことにも興奮しやすい症状のある場合に用いられています。
また、体質虚弱で疲れやすく、興奮しやすいものの神経質、不眠症、小児夜泣き、 小児夜尿症、眼精疲労に効果があります。


7.五疳強心薬(ごかんきょうしんやく)
奇応丸(きおうがん)や救命丸(きゅうめいがん)などのことで、
厳密には漢方薬ではなく、家伝薬や売薬と呼ばれる生薬製剤です。
古くから子供の万能薬として用いられています。

麝香(じゃこう)や牛黄(ごおう)などが主成分として配合されています。

蟾酥(せんそ)が配合されているものもありますが、
蟾酥(せんそ)を配合した五疳強心薬は、
近年は小児用としては余り用いられていないようです。


7.民間薬
癇症に、孫太郎虫(まごたろうむし)、蝸牛(かたつむり)、赤蛙(あかがえる)、蜈蚣(むかで)などが用いられます。



夜泣きの参考サイト

▼赤ちゃんの夜泣きは怖くない - gooベビー
http://baby.goo.ne.jp/member/ikuji/nenne/12/
▼生活リズム・夜泣きに関するQ&A:育児情報ひろば!
http://www.meiji-hohoemi.com/mamapapa/qa/rhythm.html
▼赤ちゃんの夜泣き オルゴール健康法
http://www.musicbox.jp/nyuyouji/yonaki.html
▼夜泣きといえば All About
http://tag.allabout.co.jp/002117000000000000/index.htm
▼寝ぐずり・夜泣きの対処方法
http://www11.plala.or.jp/fumimaru-web/o-suimin-1.html
▼トータルアカデミーのTSA赤ちゃんマッサージ、夜泣き、ぐずり Q&A
http://www.t-s-a.jp/yonaki.html


2009年4月14日火曜日

DHAとEPAとDPA

脂肪酸は一方の端にメチル基(-CH3)、他方の端にカルボキシル基(-COOH)が付た長い炭素の鎖構造を採っています。この炭素の鎖の一部が二重構造となっているもの不飽和脂肪酸と呼んでいます。
不飽和脂肪酸内、メチル末の炭素から数て3つめが最の二重結合であるものをn-3(ω-3)系脂肪酸といいます。n-3系脂肪酸には、α-ノレン酸、エイコサペンタエン酸(EPA)、ドコサペンタエン酸(DPA)、ドコサヘキサン酸(DHA)などがあります。
特に、EPAやDHAは魚油やアザラシなどの海獣油中に多く含まれています。魚を主食する日本の漁村の人々やイヌイットに、脳血栓、心筋梗塞などが少ないのは、EPAやDHの摂取が多いためであることが明らかとなりました。
n-3系脂肪酸は体内では合成されないこともあり、今、たいへん注目されています。EPA、DHAに共通する働きとしては、「中性脂肪の低下」「血小板凝集の抑制」が報告れています。

(1)EPA
EPAはアラキドン酸と同様に細胞膜のリン脂質に取り込まれ、EPAを多く摂取すると胞膜に取り込まれているアラキドン酸と置換され、ロイコトリエンやトロンボキサンの生や働きを抑制します。このために以下のような種々の働きを示しますと考えられていす。

・高脂血症改善作用
EPAの働きとして有名なのは血液中のトリグリセリド(TG)を抑える働きです。高T血症は虚血性心臓病と密接な関係があります。

・血小板凝集抑制作用、血液粘度低下作用
これらの作用は血液の循環を改善するとともに、TGを低下させる作用とあいまって、体として動脈硬化の進展を抑制するといえます。
一方で、大量に摂取すると鼻血が出やすくなる、抜歯のあと血が止まりにくいなどといたことがみられることがあります。いわゆる抗凝固剤(アスピリン、チクロピジン、ワファリンなど)との併用には注意が必要です。

抗アレルギー作用、抗炎症作用:
クローン病、関節リウマチ、SLE、psoriasisなどの免疫異常との関連のある疾患に対し使用されます。
最近では喘息の患者さんに1日1800-2700mg投与すると、通常の喘息予防薬ならびに療薬の使用量が著明に減少したとの報告例が多く見られます。

糖尿病、うつ病、片頭痛、さらには分裂病にも有用との報告があります。

最近、アルツハイマー病の患者では、n-3脂肪酸であるEPA摂取により、認知機能の改が認められる場合のあることが報告されました。


さらにEPAには「血液粘度の低下」「HDLの増加」があるといわれています。



(2)DHA
DHAには「記憶学習能力の向上」「視力の向上」「抗炎症作用」「血しょうコレステロー低下」が、生理作用としてあげられています。

記憶学習能に関する報告として、Soderbregらはアルツハイマー病で死亡したヒト(平年齢80歳)と他の疾患で死亡した人(平均年齢79歳)の脳のリン脂質中のDHAを較した結果、脳の各部位、特に記憶に関与していると言われている海馬においては、アツハイマー病の人ではDHAが1/2以下に減少している事を報告しています。さらに、Lucaらは300名の未熟児の7~8歳時の知能指数(IQ)を調べた結果、DHAを含む母乳を与られたグループに比較して、DHAを含まぬ人工乳を与えられたグループではIQがおよ10程低い事を報告しています。福岡大学・薬学部・藤原らは、脳血管性痴呆や多発梗性痴呆のモデルラットを用いてDHAの投与による一過性の脳虚血により誘発される空認知障害の回復を明らかにしました。また海馬の低酸素による細胞障害(遅発性神経細壊死)や脳機能障害の予防を示唆しており、具体的な疾患に対するDHAの治療効果をる程度予測させるものと考えられます。その他、栄養学的にDHA食を与えた動物では憶・学習能力が高いという実験成績は多くの研究機関より報告されています。

一方、ヒトへの臨床試験として、群馬大学・医学部・宮永ら(神経精神医学教室)と湘予防医科学研究所 所長・矢澤 一良の共同研究により、老人性痴呆症の改善効果が得れました。カプセルタイプの健康食品レベル(純度50%)のものですが、1日当たりDHとして700mg~1,400mgを6ケ月間投与した結果、脳血管性痴呆13例中10例に、まアルツハイマー型痴呆5例中全例にやや改善以上の効果があらわれ、その精神神経症状おける、意思の伝達、意欲・発動性の向上、せん妄、徘徊、うつ状態、歩行障害の改善見られています。(表1、2)。また千葉大学・医学部・寺野ら(第2内科)と矢澤 一との共同研究においても、脳血管性痴呆症患者(16名)が6ケ月のDHAカプセル摂(720mg/日)により有意に改善することを示しました。投与群では赤血球変形形態おび全血粘度に改善がみられ(表3)、脳血管障害の改善を介している可能性を示唆してます。

表1) DHA投与による改善度について

診断名

改 善

やや改善

不 変

悪 化

脳血管性痴呆
(n=13)

9
(69.2)
1
(7.7)
2
(15.4)
1
(7.7)

アルツハイマー型痴呆

(n=5)

1
0

5
(100)

0

0

0

0



表2)精神・神経症状の改善項目

脳血管性痴呆
( n=13 )
アルツハイマー型痴呆
( n=5 )

意志伝達
(協調、会話)

4
(30.8)
1
(20.0)

意欲・発動性
(意欲低下)

3
(23.1)
3
(60.0)

精神症状
(せん妄)
(徘徊)

2(15.4)
1(7.7)

0(0.0)
1(20.0)

感情障害
(う つ)

1
(7.7)
0
(0.0)
歩行障害 1(7.7) 0(0.0)


表3)DHA投与群と非投与群における投与前、投与6ケ月後の赤血球変形能、全血度、血小板凝集能(collagen凝集)の変化

赤血球

変形能

全血

粘度

血小板

凝集能

投与前

投与後

投与前

投与後

投与前

投与後

DHA
投与群
0.64
-0.15
0.81**
-0.18
3.62
-0.36
3.57**
-0.37
65(2.8) 60(7.7)
DHA
非投与群
0.69
-0.12
0.66
-0.19
3.62
-0.38
3.6
-0.38
61(9.0) 63(7.6)

各群ともn=16、mean(SD)、※p<0.05、※※p<0.01(投与前との比較)

2009年4月11日土曜日

分心気飲(ぶんしんきいん)とは 効能 と 副作用

分心気飲(ぶんしんきいん)は、和剤局方に収載されている漢方薬方で、
「気の鬱するの、心遣いするの、退屈するの、肝積起こすの、思案するのといって、
心は一処に凝るものぞ、その凝り聚るのを、さらりと捌きをつけて、
引き分けてしまうのが、此の方なり」と記載されています。
『和剤局方』(わざいきょくほう)とは、大観年間(1107年 - 1110年)に国家機関の関与のもと中国にて発行された医薬品の処方集の名称です。又、日本では、その後の増補版である1151年発行の『太平恵民和剤局方』(たいへいけいみんわざいきょくほう)を指す場合もあります。これは、享保17年(1732年)当時の“和剤局方”である『太平恵民和剤局方』をもとに、江戸幕府が今大路親顕らに校刻させたものを官本として刊行したためであると言われています。

分心気飲(ぶんしんきいん)について調べてみました。

『和漢薬方意辞典』 中村 謙介著 緑書房刊
分心気飲(ぶんしんきいん) 出典 和剤局方(わざいきょくほう)
【方意】
上焦の気滞による抑鬱気分(よくうつきぶん)・心胸痞悶(しんきょうひもん)・希死念慮と脾胃の水毒による心下痞硬・食欲不振・悪心・嘔吐等のあるもの。《太陰病.虚証》

【自他覚症状の病態分類】

上焦の気滞 脾胃の水毒

主証 ◎抑鬱気分
◎心胸痞悶
◎希死念慮
◎心下痞硬
◎食欲不振
◎悪心
◎嘔吐


客証  自責感
 胸肋虚脹
 頭冒 目眩
 四肢倦怠
 便秘
 噯気 呑酸
 上腹部振水音
 浮腫


【脈候】(空白)
【舌候】(空白)
【腹候】心下痞硬(しんかひこう)があり、上腹部に振水音を認める。
【病位・虚実】上焦は少陽の部位であるが、気滞は沈滞傾向を示し陰証であり、脾胃の毒も陰証で太陰病に相明する。虚証である。
【構成生薬】桂枝1.5 芍薬1.5 木通1.5 半夏1.5 甘草1.5 大棗1.5 燈心草1.5 桑白皮2.0 青皮2.0 陳皮2.0 大腹皮2.0 羗活2.0 茯苓2.0 蘇葉2.0 生姜1.0
【方解】本方は気滞が原因となって脾胃の水毒を発生した病態に用いる。青皮・陳皮・葉は気滞に対応し、桂枝・羗活は気をめぐらせてこれを助ける。木通・燈心草・茯苓・夏・桑白皮は水毒を去る。大腹皮は健胃・利水作用、芍薬は血をめぐらせて鎮痛する。棗・生姜は本方を穏やかにし、甘草は諸薬を調和する。
【方意の幅および応用】
A.上焦の気滞+脾胃の水毒:抑鬱気分・心胸痞悶・心下痞硬・食欲不振等を目標にする  鬱病、神経症、不食症、自律神経失調症、浮腫、妊娠咳嗽、乳房痛、腹膜炎

【参考】*此の方は心胸間の鬱気を分け開く方剤の意を以って分心気飲と名づけられた即ち胸膈に気鬱結すれば水も亦従って停滞する。これを分解して水道より順下せしめるがある。胃虚の傾向があり、心下痞硬し、心下胃中に水を蓄え、上って胸中に波及し、症を発するものによい。

【症例】妊娠咳嗽2例
 「本郷真砂町栗原彌四郎妻、行年40余、妊娠7ヵ月、悪寒胸滿、短気咳嗽、大便秘結小便不利、渇して冷水を引く。其脈沈緊、食に味なく、四肢倦怠、気宇舒暢せず。而し咳嗽日に甚だしく、小便利せず一身腫を発す。即ち小青竜加石膏を与うるに効なし。因分心気飲を投ずるに大に効あり、5日を出でずして其症全く癒ゆ。此婦分娩後、乳房腫して痛む。十全流気飲を与え効なし。乃ち更に分心気飲を投ずるに腫痛霍然として去る。 本郷1局目鍛冶職金田伊三郎妻、年41、妊娠7ヵ月咳嗽を患い、夜に至れば殊に甚し。大便堅くして時々下血す。小便頻数、頭肩背膂倶に疼痛、右膝亦痛む。口苦く食になく、舌微苔。表に熱なく両脚酸疼而重く、脈沈緊数。其咳たる乾咳に属す。臥せば即喘鳴、余以て外邪痰飲を兼ねたるの症と治し小青竜加石膏を始めとし、諸方を用ゆるにだに効なきのみならず、其咳益甚だしく、胸満して痛み、其声嗄す。因て之を友人に談るに友人以て不治となす。是に於て一夜熟考し、乃ち分心気飲3貼を与うるに其夜咳嗽分を減ず、翌日に至り止む、隨て諸症去る。而して胎気安静ならず、故に紫蘇和気飲にじ、服すること4日にして休薬す。」 山田業精『温知医談』38号

気鬱3例
 「1婦離男憂悲日あり、頃日食せず、或は食するときは必ずこれを吐し、体倦み微熱す他医補気養血の剤を投じて反て増劇す。予に治を求む。分心気飲に香附子山梔子を加え18、9貼にて癒ゆること、十に七、八なり。後調理して全く癒ゆ。」
 「1男子20計り、謹読の士なり。去秋以来通夜寝られず、五心煩熱し、頭鬱冒し盗して飲食進まず、或は洒々として悪寒し咳嗽す。上症當春2月に及んで癒えず。一医謂く之れ陰虚火動なり、治するに清離滋坎湯を用ゆること十余日にして反て増劇す。予に治求む、分心気飲を用ゆること数貼にして大効を得たり、上件の諸症は気鬱なり」
 「気鬱に外邪を挟んで、咳嗽発熱などあって、労瘵の如く病むことあり。一男子189なり。去春より、微咳吐痰し、或は汗あり、胸膈痞悶し、時に疼痛し、口舌乾き、不して夜安眠することなし。他療効なし。予に治を求む。これを診するに沈清なり。分心飲を用て奇効を得たり。此は俗子滋陰降火湯の症と見る也。大に誤り也。」『和漢纂言方』
気鬱による精神錯乱 「攝州一婦、平素姑に得られず、鬱を懐くこと日久し。仲春親とし、数々失礼有り、姑に教訓せらる。其夜安臥すること能わず、次日に至て口に無倫のを出し、目、親疏を弁ずること能わず。蓋し鬱を抱いて失心風を兼たる症也。法当さにづ其虚を補うべし。直指方分心気飲を用い、三十貼にして其症始めて平復。帰脾湯を用い半夏陳皮を加えて安し」『医方口訣集』


【参考】
※舒暢:心をのびのびさせる
※気宇:物事に対する心のもち方。気がまえ。
※念慮: あれこれと思いめぐらすこと。また、その思い。思慮。
※希死念慮:死にたいと願うことです。
ただし、自殺願望とは、違うのは、客観的に理解できない理由で死にたいと願うことです幻聴があって死ねと言われているからとか、ただ死にたいとか。死という言葉が、頭にかんで離れないとか。精神の障害があって正常な判断ができない場合に、死にたいと願ときにこの言葉を使います。
※【霍然】カクゼン:{霍焉(カクエン)}
①ぱっと消えうせるさま。ぱっと飛びたつさま。
②はやいさま。にわかに。
※背膂(ハイリョ):背骨
※酸疼:(体が)だるくて痛い((からだが)だるくていたい)
※臥す(ふす):うつぶせになる。また、転じて、ふせて寝る。
※嗄:かれる(かる)。声がかれる。かすれる。「嗄声(サセイ)(しわがれ声)」
※頃日(けいじつ):このごろ。近ごろ。頃来(ケイライ)。頃者(ケイシャ)。〔副詞的にも使う
※倦む(うむ):
1.{動詞}つかれる(つかる)。ぐったりする。《同義語》⇒渇(ケン)。《類義語》疲「疲倦(ヒケン)」
2.{動詞}うむ。ぐったりしてだれる。ものうくなる。《同義語》惓。《類義語》怠。
※五心煩熱
・五心が火照る症状である。五心とは手のひらが二つで二心、足の裏が二つで二心、あ一つの心は顔である。手のひらは「たなごころ」といい、掌と書く。掌は「手の心」の味がある。
・全身の煩わしい熱のことです。
・両側の手のひら・足の裏および胸中に熱感があること。
主として陰虚火旺あるいは病後の余熱未清でみられ、治法は滋陰退熱・清熱養陰・清肝脾など。実火内欝で生じることもあり、治法は散火解欝。
※労瘵(ろうさい):肺結核

※和漢纂言方(わかんさんげんほう)?
『和漢纂言要方』は、下津春抱一著  正徳2年序刊

※清離滋坎湯
《万病回春》《古今方彙》
「生地黄・熟地黄・天門冬・当帰・山薬・白芍薬(酒)・白茯苓・山茱萸・白朮・黄柏(炒)・知母・沢瀉・牡丹皮・甘草(炙)・生姜、大棗」水煎。
※攝州(摂州):摂津国(せっつのくに)のこと。領域は現在の、大阪府の大阪市(鶴見区生野区、平野区、東住吉区各区の一部を除く)と堺市(堺区と北区の一部)、北摂地域(槻市と豊能町の一部を除く)、兵庫県の阪神地域と神戸市の須磨区以東(東灘区、灘区中央区、兵庫区、長田区、淡河町を除く北区、名谷団地および総合運動公園を除く須磨区)※懐く(なつく)
※倫:み{名詞}すじみち。きちんと整った順序。「倫序」「言中倫=言倫に中たる」〔語・微子〕
※親疏(しんそ)⇒親疎
したしいことと、うといこと。また、したしい人と、間がらの遠い人。
※医方口訣集
土佐道寿 編集
http://archive.wul.waseda.ac.jp/kosho/ya09/ya09_00536/ya09_00536_0002/ya09_00536_0002.pdfp10


『漢方医学大辞典』 2 薬方篇 p.87
分心気飲(ぶんしんきいん)
「大平恵民和剤局方」巻三の方。
①木香・炒桑白皮・炮大腹子・炒桔梗・麦門冬(芯を除く)・草果仁・炙大腹皮・厚朴(粗皮を除き、生姜の汁で製する)・白朮・人参各0.5両、丁香皮・炙甘草各1両、炒香附・紫蘇葉・陳皮(白みを除く)・藿香各1.5両。粗末にして、毎回2銭に生姜3切れ、大棗1個、燈心10茎を加えて水で煎服。気滞胸満、心胸痞悶、脇肋虚脹、噎塞不通、噫気呑酸、嘔逆悪心、頭目昏迷、四肢倦怠、面色萎黄、口苦舌乾、飲食減少、日漸消痩、あるいは大便虚秘等症、及び病後に胸膈虚痞、不思飲食の症を治す。
②木通・赤芍薬・赤茯苓・肉桂(粗皮を除く)・半夏(湯で洗う)・炒桑白皮・大腹皮・陳皮(はらわたを除く)・青皮(白みを除く)・炙甘草・羌活各1両、蘇葉4両。粗末にして、毎回3銭に生姜3切れ、大棗2個、燈心5茎を加えて水で煎服。治証は上に同じ。

『漢方一貫堂の世界 -日本後世派の潮流』 松本克彦著 自然社刊
理気について
分心気飲
理気剤とは
 研究所に時々遊びに来られる小児科の先生が、「我々には気剤というと何かトランキライザーのような気がして、半夏厚朴湯もなかなか喘息の治療とはよく結びつかない」と言っておられたが、確かに気というのは難しい概念である。「気の概念のない西洋医学はつまらない」と言った中医師があるとのことで、漢方でいう気、或いは中国人が言う気とは、我々が日常使う「気が滅入る」、「気が進まない」等より、やや広いしかもある実体をもった何かを指しているようだが、さて説明しようとするとなかなか表現できない。
 どうしたらよいかと考えあぐね、ふと浅井貞庵の『方彙口訣』を開いてみたところ、昔の人は誠にうまく説明しているので、以下これを借りて読者の御理解を得たいと思う。
 「この気という字が甚だのみこみ難きことなれば、これをとくと悟らねばならぬ。一体が人間の一身というものは、血・気の属とありて、血と気の二つよりほかはなきぞ。・・・・・・・・病のできるもこの二つ、生きておるのもこの二つなり。」
 昔の人にもやはり気という言葉は分りにくかったとみえるが、生命体の基本として、気という概念は血とともに不可欠なもののようである。そして、「七情の気にくるい過不及ができると、その通う路にむらができる。」として疾患はまず精神的な気の乱れがその出発点であるとしている。そしてこれは、心身医学という言葉通り、さまざまな身体機能と直結しているのである。
 「気というものが種々ありて、内経にいう頭気、胸気、腹気、脛気あり。呼吸すると気息の気あり、うんと腹努うとすると、腹へ脹る気あり、足を踏みこたえ腰へ努うとすると腰足の気あり、気を下へ努うとすると放屁になる気あり、小便中に止めようとすれば小便を止める気あり、胃気の逆して噫びになる気あり、面部へ逆上すれば面の赤くなる気あり。」即ちこのような広範な身体活動は、すべて気の働きとされるのである。それならどんな病気でもすべて気のせいにして、気剤を与えればよいかのように思えるが、そうでもないようである。
 「もし如何様な病にても、気の関らぬ病はなきといえども、余り手広く無辺としては、病の曲輸に境が立たざるぞ。左様な訳ではなきぞ、気と名指すべき一筋のことあれば、それは分心気飲の類、七八方の条にて会得すべきぞ。それ故只今にても気剤という薬ありて、順気、降気、調気、理気、下気、補気、利気の手段工夫することなり。」
 ということになる。
 しかし大きく分けて気剤は補気剤と理気剤との二つに分けられように思われ、人参・黄耆を主とする補気、益気の方剤の代表を医王湯即ち補中益気湯とするならば、我々は理気剤の代表としてここにあげた分心気飲を常用しているのである。
 さて補気、補血というと、これはら直にち補剤、補法に結びつくが、理気、理血の方は気実血実である気滞や瘀血に用いられるにしても、直ちに瀉法といった強い感じは与えない。もともと理という文字には筋道をつけて整えるといった意味合いがあるようで、これば破気、破血となるとやや強い意味合いが含まれてくる。


方名と方意
 まずこの分心気飲という名前について『方彙口訣』では、
「気の鬱するの、心遺いするの、退屈するの、肝積起すの、思案するのといいて、心は一処へ凝るものぞ。その凝り聚るのを、さらりと捌きをつけて挽き分けてしまうのがこの方なり」と説明し、さらに、
「気が一処に凝り滞れば、また一処には気の至らぬ届かぬ処ができる。一方に凝り聚れば一方は脱けて去る処ができる。・・・・・・その凝るところが、その人、その質によりて、或は頭面、或は胸腹、或は手或は足というように、その処へ鬱し潴る。潴るとはやむらになる。この胸の痞え、脇の脹り、頭目の昏み、眩いする、みな上焦へ凝り聚りたるぞ。すると四肢倦怠となる。上へ逆すると手足は脱けてくる・・・・・・」
とその主治を解説している。
 この処方は『局方』、正確には宋の勅撰方剤集である『太平恵民和剤局方』に集録されているが、実はこの書の巻の三「一切の気を治する」の篇には同名の処方が二つあり、一つは「宝慶新増方」中に、今一つは「新添諸局経験秘方」中にある。我々が現在一般に用いているのは、後の方の処方であるが、「治証前の分心気飲と同じ」となっているのて、薬味構成は違っていても、ほぼ同じ方意をもっていると考えてよいであろう。
 即ち、
「男子、婦人、一切の気和せざるを治す。多くは憂愁思慮、怒気傷神、或は食に臨んで憂戚し(憂い、悩む)、或はこと意に随はざるに因り、鬱抑の気、留滞して散ぜざらしめ、胸膈の間に停まり、流暢する能はず、心胸痞悶して、脇肋虚脹し、噎塞して通ぜず、噫気、呑酸、嘔噦悪心、頭目昏眩、四肢倦怠し、面色は萎黄にて、口苦舌乾して、飲食は減少し、日漸みて羸痩を致す、或は大腸虚秘し、或は病の後に因り、胸膈虚痞し、飲食を思わざる、併せて皆これを治す」とある。

処方構成
 「木通・赤芍薬・赤茯苓・肉桂・半夏・桑白皮・大腹皮・陳皮・青皮・甘草炙・羗活各一両 紫蘇一両、右粗末と為し、毎三銭を服す、水一盞に生姜三片、棗二ヶ灯心五茎と同煎し、七分に至り、滓を去りて温服す、時候に拘らず常に服すれば、滞気を消化し、陰陽は升降し、三焦調順して脾は和し、食を進む」
となっているが、現在一般に生姜・大棗・灯心草を加えて処方する場合が多いようなので、まとめて構成を考えてみたい。
 しかし、薬味数が多く、一つずつにすると却って複雑になるため、薬味の量は別に措いて、このつい肉桂・赤芍薬・甘草・生姜・大棗を桂枝湯として、また、茯苓・半夏・陳皮を二陳湯としてまとめ、この両者の合方に気剤、利水剤を加えたものと考えると分りやすくなる。
 さて桂枝湯は『傷寒論』の最初に出てくる方剤で、
「桂枝三両、芍薬三両、甘草炙る二両、生姜片に切る三両、大棗十二枚(個)擘く」
となっており、現代中医学の解説によると、
「桂枝は発汗解肌、白芍は斂陰和営で、一方は散じ、一方は収め、表を解し、同時に裏を和して営衛を調和させる。この二薬を基本に、生姜は桂枝を助けて表邪を辛散し、大棗は桂枝と芍薬を助けて営血を和すので、効果は一層強められる。甘草は諸薬の調和薬で、全体として発汗解肌、営衛調和の方剤である。」
とされ、二組の表裏補瀉の剤の組み合せよりなる見事なシンメトリッシュな構成で、あらゆる方剤の基本といわれるのも当然であろう。
 桂枝・生姜・・・・・・・・・発汗解肌(表)
 芍薬・大棗・・・・・・・・・斂陰和衛(裏)
 甘草・・・・・・・・・・・・・・・諸薬調和

また二陳湯は『和剤局方』に収載されており、内容は、
「半夏・橘紅(陳皮)各五両、茯苓三両、炙甘草二両五銭」
と単純な処方で、半夏と橘紅は陳い方がよいとのことでこう名付けられたとのことであるが、
「半夏は燥湿化痰、降逆止嘔、陳皮は理気化痰、燥湿健脾、茯苓は健脾滲湿、甘草は和中健脾。」
 で、全体として燥湿化痰についての基本方剤とされている。
 次に桑白皮と大腹皮について考えてみると、桑白皮は帰経は肺で効能は瀉肺平喘、行水消腫、大腹皮は帰経は脾・胃・大小腸で行気寛中、利水消腫となっており、いずれも行気、消腫利水薬ではあっても、作用点について上下の違いがある。またこの両者に方剤中の赤茯苓(茯苓皮)・生姜(皮)・陳皮を合わせると、『中蔵経』にある利水消腫の五皮飲(散)となり、これらの三方の方意が本剤成立の基礎となっていると思われる。
 これにさらに袪風湿解表の羗活と、行気寛中解表の蘇葉という二つの解表薬を配しているが、前者は太陽経即ち背側、後者は太陰経で腹側の違いがある。勿論この時代に帰経の考えはまだはっきりとは完成されてはいなかったであろうが、これらの処方構成をみると、或る程度の経別、蔵腑別の薬効の違いは考えられていたような気がする。
 一方、木通と灯心草であるが、この両者は細管のあるものはよく水を通じるという訳か、降火利水、清熱利水というよく似た効能をもち、これまでのような対象的な組み合せはみられない。その為か、以前中島先生に「灯心草はやはりお使いですか」とお伺いしたところ、「いや抜いています」とのお返事で、特に抜くと方意が変わるという程のものでもないようである。
 さて残るは青皮であるが、青皮は柑橘類の未熟な果実、陳皮はその感熟果皮で古くなったものがよいとされ、前者の性は猛々しく、疏肝破気、消積化滞の効があり、後者の性は緩やかで健脾行気、燥湿化痰の作用があるとされている。この違いはシネフリンの含有量でほぼ説明できるそうであるが、ミカンの青い果実と熟した実との薬効の差は、わざわざシネフリンをもち出すまでもなく、素朴に考えてもなにか違いがあるように思われる。しかし現在日本の市場でこの両者さらには同じく甘橘類の果皮である橘皮や枳実・枳殻も含めて、どれだけ区別されているかは疑問である。
 それはさておき陳皮・青皮を組み合わせた処方は他にもあり、求楽紙応e、肝脾不和、脇肋疼痛、胃脘脹痛等の場合は、青皮・陳皮の両薬を合わせて配合するのがよいとなっており、この場合もこの考えが当てはまるように思われる。
 このように分解し今一度全体の処方構成を考えてみると、結局は桂枝湯を中心に、表は羗活・蘇葉を加えて発散作用を強め、裏は二陳湯に、大腹皮・桑白皮・青皮を加えて行気利水に重点をおき、最後に木通或は灯心草で小便に出そうとするのがこの処方である。
 桂枝湯――営衛調和・発汗解肌 羗活・蘇
 羗活・蘇葉――燥湿化痰・理気和中
 桑白皮・大腹皮・青皮――行気寛中利水
 木通・灯心草――清熱利水
 この処方を、中島先生は「防風通聖散の虚証に対するものとして使つ言ている」と言われているが、発表攻裏の方といわれる防風通聖散が、主に大便に下そうとするのに対し、本方はやや緩和な薬味を用いて、小便に利そうとする違いがあるようである。

臨床での運用
 さて、前述のように細かく説明してくると、何となく分かったような気になるが、いざ患者に向いあった時、何をどう使ったらよいか分らなくなるのが漢方の常である。このことについても、また中島先生がうまく説明しておられる。
 「あまり訴えが多くて、何が何だか証が分らないような時には、まず迷わずこの心分気飲を出すと宜しい。そのうちだ喜だんと訴えが固まってきて、証が立てられるようになる。」そして「インテリにはこの方がよく合うようで、永い間この方ばかり飲んでいる医者がいる。」とのことで、私も患者に会うのがいやになったという医師に、この方を用いてみて良効を得たことがあり、あっさりとして飲みやすく、いわゆる不定愁訴症候群とか、軽度の神経症に対して欠かすことのできない方剤である。
 先日我々の研究所に見学に来られた医故会の先生方から、分心気飲というのをよく使っているようだが、健保にあるものでは何を使ったらよいかと尋ねられ、苦しまぎれに苓桂朮甘湯半夏厚朴湯を合わせたようなものですと答えたところ、数日後にあれから早速二つを合方して使ってみたが、非常に評判がよく便利にしていますと言われ、赤面したことがある。
 私は両者の合方を使ったことはあまりないが、水逆、気逆に対する両方に、さらに痰飲・水腫を除く五苓散を加えれば、本方の方意にやや近づくかもしれない。
 また、最近、茯苓飲合半夏厚朴湯というエキス剤が出されたが、作用点はやや下ながらも本方と同系統の方意をもつものといえよう。
 以前、左右の眼が一ヵ月位の周期で、交互にいびつに見える程突出し、一応鞏膜炎と言われているが数年間ステロイド剤が離せないという患者さんが来られ、いろいろ清熱剤を使ってみたがさっぱり反応がなく、ふと「喘咳、気逆して、目脱せんと欲す」という言葉を思い出し、分心気飲を使ってみたところ、ステロイド剤が大幅に減って、喜ばれたことがある。
 これ程でなくても、朝起きると瞼が腫れる、顔がむくむ、手が握りにくいといった症状をもつ患者はよく見られ、これに軽いアレルギー性鼻炎や喘息の気があり、あれこれと訴えが多いとなると、まず本方の適応となるが、時には面疱その他頭面部の炎症に、清熱剤と組合せて用いて効果的な場合もある。
 但しこの方は単にこれら上焦の諸症状のみに対するものでなく、中・下焦に対しても満遍なく薬が配合されていることが特長で、腹部膨満感から軽い便秘症まで改善されることがあり、前にあげた局方の条文にもあるように、常に服すれば滞気は除かれ三焦は調和し、食が進むようになるのである。

その他の理気剤
 最近の中国の方剤書には比較的理気剤の種類は少なく、却って日本の古医書に種々の理気剤があげられているように思われる。
 この原因について理気剤は、一般に燥湿・利水の性質を具えているため、乾燥地帯が多く、燥性を警戒する中国と、気候が湿潤で湿症のの多い日本との風土の違いによるものか、或いは民族性・社会性の違いか、それとも日本の漢方に滋陰の考え方が充分入りきっていないせいなのかはよく分らない。
  しかし、これまで我々が使ってみてよいと思われる代表的な理気の方剤を、分心気飲と比較のもとにいくつか紹介したい。

 三和散(和剤局方)
 沈香・蘇葉・大腹皮・木香・檳榔・木瓜・川芎・生姜・甘草
 同じく『和剤局方』にあげられ、「五臓調わず、三焦和せず、心腹痞悶し、胸肋慎脹し・・・・・・・・腸胃燥渋し、大便秘難するを治す」となっており、分心気飲に比して利水薬が少ない代りに、中下焦に対する気薬と補薬が加えられている。そのため腹部症状が主な場合、例えば消化器系が弱く、下痢と便秘をくり返すとか、体が弱くて便秘でも下剤はあまり使用したくないような場合によく用いている。

 九味檳榔湯(浅田方函)
 檳榔・厚朴・桂枝・橘皮・生姜・大黄・木香・甘草・蘇葉
 『浅田方函』に「脚気腫満、短気及び心腹痞積して気血凝滞する者を治す」とあり、破気の作用のある檳榔を主薬として、一連の気剤に大黄を加えた構成である。これについては、すでに坂口弘先生を中心に甲状腺機能亢進症等の症例報告も多く発表されているが、分心気飲に比して、破気降気の作用はやや強いように思われ、また大黄によってかなり頑固な便秘にも対処し得る便利さがあるが、利水剤がないため、坂口先生も使用に当ってはよく茯苓等を加味しておられるようである。

 木香順気散(医薬統旨)
 木香・香附子・枳殻・檳榔・青皮・陳皮・厚朴・蒼朮・砂仁・甘草
 主治は「気滞し腹痛み且つ脹り矢気を得れば則ち減ず、或は噯噫嘔逆」となっており、最近中国の方剤学の本によく見られる。これとまぎらわしい名前に、羅天益の木香順気湯というのもあり、また木香調気散という処方もあるようである。
 この方から檳榔を除き、四苓湯を加えると『万病回春』の分消湯となるが、水腫・腹水まで至らず、ただ腹部がよく腫るという訴えは、慢性肝炎等でもよく見られ、この方剤が効果的なことがある。分消湯については、また改めて紹介したい。

 五磨飲(医方集解)
 木香・烏薬・檳榔・沈香・枳実
 『医方集解』に厳氏の四磨湯から人参を去り、枳実、木香を加え白酒にて磨し服す、五磨飲子と名づく、暴怒して卒死するを治す」となっている。これにさらに大黄を加えたものが『証治準縄』の六磨湯で、「怒れば気は上り上逆した気は胸膈を壅塞し、甚しければ清竅(五官)はこれがため閉塞す」と説明がある。我々の研究所では白酒による磨沸まではせず、粉末にしておいて時々屯服として用いているが、一時的に血圧が一八〇位に上り、針でどうしてもおさまらなかった患者が、この方を服した後一〇分位で一四〇迄下り気分も落着いて喜んで帰宅したことがある。しかし粉末にしてあまり長期間置くと一般に理気薬は蒸散しやすいため、効果は減るかも知れない。

 以上理気剤について、思いつくまま述べてきたが:気という概念はきわめて多彩でつかみにくい代りに、うまく使えば非常に広い利用価値がある。さまざまな疾患に応用することができるが:心身医学が問題になっている今日、向精神薬や時に針炙との併用を含めて、まだまだ今後研許が必要だと思われる。しかし最後に使用に当っての注意を、やはり『方彙口訣』から借りておこう。
 「陰血、津液、腎精の不足という症は、この気門では療治できぬぞ、それ故虚労の症にて六味丸で陰を補はねばならぬという時に、この方の中を用いると愈よ火が盛んになり燥いて死するようになる、さすればこの門の薬方は幅広く使うことなれども、虚労がちの精血不足の症には用いられざるぞ、このことはよくよく心得置くべきことぞ。」



※方彙口訣(ほういくけつ):浅井貞庵(あさいていあん)著 江戸時代
※中蔵経:華佗著となっているが、仮託とされる。
※甘橘類?:柑橘類の誤植と思われる。
※鞏膜炎(きょうまくえん、強膜炎): 強膜の炎症。強膜前面に充血・疼痛(とうつう)・膨隆などを起こす。結核・リューマチ・膠原(こうげん)病などが原因。
※鞏膜(強膜):眼球の外壁の後方大部分を形成し、前方で角膜につながる白色の丈夫な膜。膠原(こうげん)繊維と弾性繊維に富む。
※『済生方』:厳氏済生方 厳用和著 宝祐元年(一二五三)
  別に、『厳氏済生続方』もある。 咸淳三年(一二六七)
※羅天益(1220~1290年),字謙甫,元代醫家。
東垣は晩年になって、その道を後世に伝える弟子を友人の周徳父に相談したところ、羅天益を紹介された。そして天益は貧苦にもかまわず、東垣に就いて喜び3年学んだ。
東垣の著作は没後、羅天益の尽力で刊行されていった。
『内外傷弁惑論』(1247)、『脾胃論』(1249)、『医学発明」 (1249頃)、『蘭室秘蔵』(1251)、また天益が編纂した『東垣試効方』(1266)、引用文のみ残る『傷寒会要』(1238)、『用薬法象』 (1251前)。
 ※針炙?:針灸の誤りと思われる。

※四磨湯(しまとう)
  人参、檳榔、沈香、烏薬
  行気降逆、寛胸散結
  七情諸傷、肝気鬱結。胸膈煩悶、上気喘急、心下痞満、食欲不振

※六磨湯(ろくまとう)
  沈香、木香、檳榔子、烏薬、枳実、大黄、当帰、生地黄
  腹痛、腹部膨満、便秘、便が硬い、残便感がある、浯気、時に便秘と下痢の交代。舌質は淡紅、あるいはやや紫色、舌苔は薄黄、脈は弦。
  (四逆散半夏厚朴湯で代用?)


『病名漢方治療の実際-山本巌の漢方医学と構造主義』 坂東正造著 メディカルユーコン刊
◆分心気飲加減「中島紀一経験方」
 <組成> 桂枝、羗活、独活、紫蘇葉、藿香、厚朴、香附子、枳実、陳皮、大腹皮、檳榔子、茯苓、灯心草、木通、半夏、前胡、桑白皮、生姜、芍薬、当帰、大棗、甘草
<構造>
①紫蘇葉、香附子、藿香……抗うつ作用。
②檳榔子、枳実、厚朴、芍薬、甘草……平滑筋の運動機能の異常を調整しジスキネジーを治す。 ③半夏、前胡、桑白皮、厚朴、陳皮、茯苓、桔梗……鎮咳去痰作用。心因性咳嗽を治す。
④大腹皮、檳榔子、茯苓、灯心草、木通……利水作用。浮腫を治す。
⑤桂枝、芍薬、生姜、大棗、甘草、厚朴、陳皮……鎮痙鎮痛作用。
 本方は、基本に広範な理気薬を配合し、更に病態の変化に対応する加減法を加えて用いれば、気剤の総司として用いることができる。つまり、香蘇散(正気天香湯)、半夏厚朴湯、平胃散(不換金正気散および藿香正気散)、三和散五積散、六欝湯、桂枝加芍薬湯、四逆散などの方意を含んでいる。そのため、次のような疾患に応用される。
a)上部消化管機能異常症候群 食道痙攣、噴門痙攣、食道低緊張、空気嚥下症、高緊張胃、逆流性食道炎、幽門および前庭部の痙攣、十二指腸からの逆流現象、幽門脱、胃アトニー等。
b)胆嚢、胆道の機能異常……胆道ジスキネジー。
c)過敏性腸症候群。
d)呼吸困難……心因性咳嗽。
e)下部尿路の機能異常……尿管ジスキネジー。
f)子宮の痙攣。
本方は、一般に気うつ、不安、緊張感、怒り、精神的葛藤などによって起こる心因性の機能障害の改善に用いられる。

※中島紀一(中島随象):一貫堂 矢数格氏の弟子。神戸かんぽう会名誉会長 神戸・長田
昭和60年6月9日没(享年87歳) 医師中島紀一氏の第子としては、山本巌氏や松本克彦氏がいる。


【一般用漢方製剤承認基準】
なし
【参考】
潤勝散(じゅんしょうさん) 株式会社建林松鶴堂
薬味:人参 半夏 生姜 桂皮 柴胡 甘草 黄芩 茯苓 桑白皮 大棗 木香 良姜 紫蘇子
小柴胡湯合分心気飲去芍薬 木通 灯心草 青皮 陳皮 大腹皮 羗活 加 木香 良姜
(紫蘇葉と紫蘇子の違いもある)

又は、
小柴胡湯合良枳湯去枳実加木香桑白皮紫蘇子

効能・効果
胆石、胆のう炎の疼痛、胃腸痛、消化不良、食欲増進、腫気※)、肝臓病
※)「腫気(しゅき)」とは、はれもののことを示します。

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 相談すること 
1.次の人は服用前に医師、薬剤師又は登録販売者に相談すること
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関係部位症状
皮膚発疹・発赤、かゆみ


3.1ヵ月位服用しても症状がよくならない場合は服用を中止し、この文書を持って医師、薬剤師又は登録販売者に相談すること


保管及び取扱い上の注意
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