苓桂朮甘湯(りょうけいじゅつかんとう)
茯苓六・ 桂枝四・ 五味子三・ 甘草二・
本方は眩暈と身体動揺感及び心悸亢進とを目標にし諸病證に応用される。患者の顔色はやや貧血性で、脈は沈緊、或は沈緊でなくても相当に力がある。腹部は屡々振水音を聞き、また動悸の亢進を触れ、尿利減少がある。
處方中の茯苓と朮は水分の循流を計り、桂枝は血行を盛んにする。故に両者相協力して眩暈を治し、心悸亢進を鎮めるのである。甘草は諸薬の調和剤である。本方は眩暈・心悸亢進のみならず、水分の不循流・血行の不調に由る眼疾・脚弱症その他の諸症に応用される。従ってその応用は心臓弁膜症・慢性腎臓炎・高血圧 症・喘息・神経衰弱・結膜炎・角膜炎・網膜炎等である。
『漢方精撰百八方』
78.〔苓桂朮甘湯〕(りょうけいじゅつかんとう)
〔出典〕傷寒論、金匱要略
〔処方〕茯苓6.0 桂枝4.0 白朮3.0 甘草2.0
〔目標〕
自覚的
たちくらみがしやすく、常に頭が重く、動悸がしやすい。尿利に異常がある場合が多く、排尿回数がときに甚だしく多くなったり、逆に少なくなったりする。のぼせ易い。
他覚的
脈:沈弱又はときに浮弱。
舌:湿潤した微白苔。
腹:腹力は中等度又はやや軟で、上腹部に振水音を認める。
〔かんどころ〕たちくらみして、あたまが重く、どうきしやすく、小便少ない。
〔応用〕
1.小児、学童等の起立性調節障害
2.ノイローゼ
3.神経性心悸亢進
4.軽症脚気
5.耳鳴
6.慢性軸性視神経炎
7.慢性結膜炎
8.特発性夜盲症
9.心臓弁膜症
10.軽症胃アトニー
11.脚麻痺
12.仮性近視
〔治験〕
本方は、アトニー性体質の青少年にくる諸疾患にきわめて広範囲に適応する薬方である。ことに目下、小児科方面で問題となっている起立性調節障害(O.D)には、まことによく応ずる場合が多い。
47才の婦人。中肉中背で、あまり顔色は良くない。若いときから疲れやすい方であったが、最近息切れと、どうきとが非常におきやすくなった。以前に心臓弁膜症と診断せられたことがある。リューマチの既往はない。この頃とくに、いくら空気を吸い込んでも、充分に吸えないような感じ、即ち空気飢餓感がつよい。前額部痛、ことに眉毛の附近が常に痛み、たちくらみがし易い。のぼせ易く、首のうしろが凝る。ときに酸っぱい水が逆流してくる。くちがかわき、ねばる。みずおちがつかえ、足尖が非常に冷える。甚だしく疲れやすい。
脈は沈やや緊。舌は乾燥した微白苔。腹力は中等度よりやや実。中カン(月に完)の附近に軽度の抵抗と圧痛とがあり、かつ僅かに振水音をきく。左臍傍及び右回盲部に中等度の抵抗と圧痛とがある。心尖部その他に、聴診では雑音は証明されない。
以上の自他覚症状から、たちくらみ、のぼせ、息切れ並びに空気飢餓感(共に苓桂朮甘湯証中の短気という症候に含まれる症状)、頭痛、上腹部の振水音、脈沈やや緊等が本方証に該当するものと認めて、本方を与えたところ、一週間の服用でかなり好転し、更に10日分を服して諸症状が殆ど感じられなくなり、さらに10日分を服し終わって、別人のように感じられるようになったと喜ぶことしきり。
藤平 健
『漢方薬の実際知識』 東丈夫・村上光太郎著 東洋経済新報社 刊
11 駆水剤(くすいざい)
駆水剤は、水の偏在による各種の症状(前出、気血水の 項参照)に用いられる。駆水剤には、表の瘀水を去る麻黄剤、消化機能の衰退によって起こ る胃内停水を去る裏証Ⅰ、新陳代謝が衰えたために起こった水の偏在を治す裏証Ⅱなどもあるが、ここでは瘀水の位置が、半表半裏または裏に近いところにある ものについてのべる。
各薬方の説明
『《資料》よりよい漢方治療のために 増補改訂版 重要漢方処方解説口訣集』 中日漢方研究会
83.苓桂朮甘湯 傷寒論
茯苓6.0 桂枝4.0 白朮3.0 甘草2.0
(傷寒論)
○傷寒,若吐,若下後,心下逆満,気上衝胸,起則頭眩,脈沈緊,発汗則動経,身為振々揺者,本方主之(太陽中)
(金匱要略)
○心下有痰飲,胸脇支満,目眩,本方主之(痰飲)
○夫短気有微飲,当従小便去之,本方主之
〈現代漢方治療の指針〉 薬学の友社
立ちくらみやめまい,あるいはどうきがひどく,のぼせて頭痛がし,顔面やや紅潮したり,あるいは貧血し,排尿回数多く尿量減少して口唇部がかわくもの。
本方は急に立ち上った時とか,うつむいていた顔を急にあげたりした時,あるいは入浴時にふらふらとしてめまいをするような身体動揺感がひどい症状によく用いられる。自律神経不安定症で前記のような症状がある場合に奏効するが,頭汗,胸内苦悶,食欲不振などがあれば柴胡桂枝干姜湯が,咽喉に異物感があって気分がすぐれない場合は半夏厚朴湯が適する。本方は頭痛薬を廃薬させることが多い。桂枝茯苓丸を投与しても効果の少ない頭痛にも一度試みるべきである。また外見上卒中体質でもないのに血圧が高く尿量減少するものに本方と当帰芍薬散との合方を用いて効果がある。また眼底出血その他の眼科疾患に応用されることも多く,耳鳴を伴なった鼻づまり,蓄膿症には本方単独もしくは柴胡剤と合方して与えるとよい。本方適応症で食欲不振を伴なう場合は大柴胡湯あるいは小柴胡湯を合方する。五苓散との鑑別は一方に著しい口渇,浮腫あるいは悪心,嘔吐,下痢などの症状(五苓散適応症)他方に身体動揺感,心悸亢進が著明(本方適応症)であれば容易であるが,実際上きわめて困難な場合もある。このような時は本方を与えて悪心や浮腫が起れば五苓散に,逆に五苓散を与えてめまいがひどくなれば本方に転方するとよい。あるいは初めからこの両者を合方して与えることも考えられる。この合方はまた漢方治療における誤治の応急処置に広く使われる。
〈漢方処方解説シリーズ〉 今西伊一郎先生
本方は平素顔色がすぐれず貧血の傾向があって,めまい,立ちくらみなど身体平衡失調の傾向のあるものによく適応する。また自律神経不安定症候群や,あるいは精神不安あるものに繁用されるが,この二項と応用の目標欄記載事項を総合して,心臓ノイローゼや起立性めまい,あるいはメニエル氏病に応用する頻度が多い。本方は胃内停水があって,胃部振水音を認めることがあるが,ほとんど自覚することが少ない。したがって胃下垂,胃アトニーの傾向がある者の,入浴時や車船に乗った場合などにおこりやすい身体動揺感によく用いられる。自律神経不安定症候群を認める高血圧症,低血圧症に著効を奏するが,その応用の目安は貧血の傾向があるにもかかわらず,時々のぼせて顔面が紅潮したり,頭痛,不眠,耳鳴を訴えるものによく適応する。したがって本方が適する高血圧症は,一見虚弱で精神不安に伴って血圧が上昇し,水銀柱値の日差が割合にひどい,いわゆる良性高血圧症に好適である。また本方は常習性頭痛で,鎮痛剤を常用するものに用い奇効を奏することが少なくない。頭痛,めまい,耳鳴,精神不安,不眠の傾向がある者が本方を連用し,長年常用した鎮痛剤を廃薬した投薬経験を多数寄せられている。蓄膿症で葛根湯や葛根湯加辛夷川芎が適応しない虚弱体質で,頭痛,耳鳴を訴え粘稠な膿汁を認めない者に本方と小柴胡湯の合方で好転することが多い。
類証鑑別
身体が虚弱で自律神経不安定症候群がある半夏厚朴湯は,本方証にはない咽喉や胸部に異物感や痞塞感があり,反対にのぼせの傾向が認められないので本方との鑑別ができるが本方と合方する機会が多い。
〈漢方処方応用の実際〉 山田 光胤先生
○心下に停水(水毒)があって動悸,めまい(眩暈)の激しいものに用いる。たちくらみ,めまい,身体動揺感など程度の差はあるが,めまいが主訴である。同時に息切れと心悸亢進,頭痛,上衝などがあり,尿利が減少する。脈は沈,緊で腹部は全体に軟弱で心下部に振水音をみとめたり,膨満ぎみになったりする。また臍の近くで腹部大動脈の拍動が亢進するものが多い。
〈漢方診療の実際〉 大塚,矢数,清水 三先生
本方は眩暈と身体動揺感及び心悸亢進とを目標にし諸病証に応用される。患者の顔色はやや貧血性で脈は沈緊,或は沈緊でなくても相当に力がある。腹部は屢々振水音を聞き,また動悸の亢進を触れ,尿利減少がある。処方中の茯苓と朮は水分の循流を計り,桂枝は血行を盛んにする。故に両者相協力して眩暈を治し,心悸亢進を鎮めるのである。甘草は諸薬の調和剤である。本方は眩暈,心悸亢進のみならず,水分の不循流,血行の不調に由る眼疾,脚弱症その他の諸症に応用される。従ってその応用は心臓弁膜症,慢性腎臓炎,高血圧症,喘息,神経衰弱,結膜炎,角膜炎,網膜炎等である。
〈漢方処方解説〉 矢数 道明先生
いわゆる虚証で水毒によって起る。主訴は眩暈,身体動揺感,起立性眩暈,息切れと心悸亢進,上衝,頭痛等である。尿利減少と足冷がある。脈は沈緊で,腹部は軟弱のほうで,胃内停水があり,あるいは膨満することもある。
〈類聚方広義〉 尾台 榕堂先生
○飲家,眼目雲翳ヲ生ジ,昏暗疼痛,上衝頭眩シ,瞼腫レ眵涙多キ者ヲ治ス,芣茨ヲ加エテ尤モ奇効アリ,当に心胸動悸,胸脇支満,等ノ症ヲ以テ,目的ト為スベシ(中略)雀目症にも,亦奇効アリ。
〈漢方入門講座〉 竜野 一尾先生
運用 虚証で息切れ,動悸,眩暈するもの。
これらの症状は全部同じ程度でなく,一つが著明で一つが軽微であってもよく,時には一つが欠けていても差支えない。虚証の停水の土台の上にこういう症状が起っていることを目標にすればよい。「心下に痰飲あり,胸脇支満,目眩するもの」(金匱要略痰飲病)
心下部に停水があって,気の上衝に連れて胸脇部が支え張る感じがし,めまいを起すとの意だが,同じつかえると訓むにしても痞は気のつかえ,支は水を伴う気のつかえに使い分けている。眩暈は漢方では多くの場合水分代謝障害に結付いて起ると考えている。
「それ短気,微飲あり,当に小便より之を去るべし」(同右)短気は息切れで前条の胸脇支満と同じ状態で起る。胸が張れば息が切れる道理である。微飲は軽微な停水の意。
「傷寒,若しくは吐し,若くは下して後,心下逆満,気胸に上衝し,起ては則ち頭眩す。脉沈緊,汗を発するときは則ち経を動じ,身振々として揺をなす」(傷寒論太陽病中編)
前半は前々条とほぼ同意。経を動じの解釈はいろいろ出来て,経脈の意とも経絡の意ともとれる。身体の揺れる感じは眩にも通う症状で運動失調を指す。本方は大体虚証の体質で貧血性だがひどい冷え性ではない。脉は沈緊を定型的とするがそれに縛られず,沈のことも細のこともある。眩暈を目標にすの眩暈の原因が胃性であろうと循環系性,耳性,眼性等の如何を問わず使うが,その際心下部に拍水音があるとか,心悸亢進を伴うとか,脉沈緊とかがあればよい。眩暈に使う諸方中,小柴胡湯は胸脇苦満があって胃内停水なく,柴胡加竜骨牡蛎湯は煩驚腹動があり,桃核承気湯,桂枝茯苓丸,当帰芍薬散は他に循環障害の症状があって,眩は主症状ではなく,沢瀉湯は眩暈の程度が本方より遙かかに強度で心悸亢進はなく,真武湯は本方より一層虚しているから区別がつく。神経衰弱,神経質,ヒステリーの類や胃下垂,胃アトニーで貧血,眩暈,心悸亢進,息切れ,心下部膨満感などを訴えるものに頻用する。心下部に拍水音認めれば一層確実である。バセドウ氏病,心臓弁膜症,機能不全,神経性心悸亢進症などで貧血,心悸亢進,息切れを訴え,或は軽度の浮腫を伴うものにも用いる。慢性腎炎,萎縮腎などの浮腫が軽度なら心悸亢進を伴う虚証のものに使う。眩を羞明として急性カタル性結膜炎,殊にフリクテン性結膜炎にはよく使う。流涙,発赤を伴う。全身状態や胃部拍水音を参照して使う。船暈病では胸さきが支え息切れするものを目標にする。運動失調症や萎縮性或は麻痺性の足腰立たぬものにも宜い。
〈餐英館療治雜話〉 目黒 道琢先生
此方癇症,腹内動悸つよく,少腹より気上りて胸に衝き,呼吸短息,四肢拘急などする証に効あり。又心下逆満して,起ては頭眩し,動悸あるを標的とすれども,顔色鮮明にして表のしまり宜しからず,第一沈緊なる者に非ざれば効なしと云ふ。是れ和田家の秘訣なり。
〈勿誤方函口訣〉 浅田 宗伯先生
此方は支飲を去を目的とす。気咽喉に上衝するも目眩するも手足振掉するも皆水飲に因る也。起則頭眩と云が大法なれども臥して居て眩暈する者にても心下逆満さえあれば用る也。夫にて治せざる者は沢瀉湯なり,彼方はたとひ始終眩なくても冒眩と云ものにて顔がひっぱりなどする候ある也。また此方動悸を的候とすれば柴胡姜桂湯に紛れやすし。然れども,此方は顔色明にして表のしましあり。第一脈が沈緊になければ効なき者なり。又此方に没食子を加え喘息を治す。又水気より来る痿躄に効あり。矢張足ふるい或は腰ぬけんとし劇者は臥していると脊骨の辺にひくひくと動き或は一身中脉の処ひくひくとして耳鳴逆上の効ある者也。本論の所謂久而成痿の症何病なりともあらば此方百発百中也。
<漢方の臨床>第1巻 第3号
真武湯について 竹内 達先生
苓桂朮甘湯は傷寒論太陽中篇に出ている。即ち経に曰く「傷寒若クハ吐シ,若クハ下シテ後,心下逆満,気胸ニ上衝シ,起テバ則チ頭眩,脈沈緊茯苓桂枝白朮甘草湯之ヲ主ル」之は傷寒吐下を行いたる後幾分精気を損じて虚気の上衝と水分の停滞を生じた症で,心下逆満,気上衝胸起則頭眩が其主証で殊に起則頭眩が重要で,つまり坐位より急に起ち上った時に眩暈を感じ静好置では感じないので眩暈としては軽度のものである。本方は亦金匱の痰飲咳嗽病篇に出ている。即ち「心下痰飲有り,胸脇支満,目眩スルハ苓桂朮甘湯之ヲ主ル。夫レ短気微飲アルハ当ニ小便ヨリ之ヲ去ルベシ,苓桂朮甘湯之ヲ主ル」
前文では胸脇支満と目眩,後文では短気が主証となるが病因は同様で痰飲である,之即ち水分の停滞に外ならぬ,以上により考えるには本方は上衝,頭眩,短気を目標とし殊に痰飲あり小便不利の者を治するので脈は沈緊を原則とするが必ずしも沈緊でなくてもよい。本方は応用範囲の広いもので先ず第一に眩暈を目標とする。傷寒論にある様に吐下の為めに精気を損じて虚気の上衝と水分の停滞を生じ起てば即ち頭眩という軽い眩暈の場合もある。次は留飲症に伴う眩暈で此場合は腹壁が薄く弛緩し振水音があり顔面は貧血性で気力が無い,胃アトニー,胃下垂等の胃疾患或は神経衰弱症に多く見るもので屢々眩暈を主訴する,此眩暈に対しては本方,五苓散,沢瀉湯,半夏白朮天衣湯等が考えられ其区別はむつかしい場合もあるが本方の眩暈は概して軽度で心悸亢進を伴うことが多く,留飲症の眩暈より貧血症殊に心臓病による眩暈に適する所謂黄胖と称せられたものは心臓病の一部を指したもので黄胖の治方として本方は古来頻用された薬方の一つである。尚諸出血後の貧血による眩暈にはよく四物湯と合方して用いる。次は動悸を目的とする。之は心臓病,貧血に見る心悸亢進に有効で心下に動悸を訴えるもの或は所謂奔豚症の軽い者等に用いる。亦本方は水毒を去り上衝を治す理由から種々の眼病によく奏効することは興味深いことである。古方便覧には「上気強く目まいする持病に芎黄散を兼用すべし。眼病に此症多し。内障外障或は白翳或は星を生じ,又は血出る等に芎黄散或は紫円を兼用して下すべし」とあり,尾台榕堂は「飲家眼目に雲翳を生じ,昏暗疼痛,上衝頭眩,瞼腫○涙多き者を治するに芣茨を加えて尤も奇効あり」と云っている。亦動脈硬化,高血圧即ち卒中体質に伴う上衝,耳鳴,肩凝り等に本方に川芎,大果英a味して有効な事がある。合方及加減方として主なるものは次の者である。
(1) 聯珠飲
之は本方と四物湯の合方で血虚,眩暈,心下逆満を治す,即ち諸種の出血から貧血を起し全身に浮腫を生じ心悸亢進,眩暈,頭重,頭痛を訴える時に用いる。
(2) 苓桂朮甘合芎黄
本方と芎黄円の合方の証で上気,肩凝り,頭痛,便秘,又は高血圧で上気,肩凝り,眩暈があり劇しい体動により心悸亢進,短気を感ずるもので肥満して便秘勝ちの人に多い。殊に動悸のあるものに適する。
(3) 鍼砂湯
本方に鍼砂,牡蛎,人参を加えたもので原南陽の案である。黄胖症即ち諸貧血,虚悸即ち心臓弁膜症の初期等に最も屢々用いられ,心悸亢進,眩暈,呼吸息迫,顔面蒼白,浮腫等を目標とする。然しながら代償不全高度となり,肺水腫,肝臓増大,腹水等を来した者には奏効はむつかしい,又鎮墜を目的として動脈硬化,高血圧に卓効有りとし浅田方函にも「此方運用多端専ら鎮墜を以て主と為すなり」というている。亦此方は奔豚症にも用いることはあるが之にはむしろ定悸飲の方が適応する場合が多い。
(4) 定悸飲
之は本方に呉茱萸,牡蛎,李根皮を加したものでよく発作性心悸亢進症に用いられ此症は神経質の婦人に多いもので腹部軟弱で留飲があり,小心で驚き易く,発作性に強い心悸亢進を起して苦しみ,冷汗を流す等の時に有効である。
(5) 明朗飲
本方に車前子,細辛,黄連を加味し,和田東郭の創案で,専ら眼病に用いられ,急性結膜炎,発赤,のぼせ,パンヌス等で私は腎臓病性網膜炎網膜炎に卓効を現わした一例を経験している。(後略)
<連珠飲に就ての口訣>
〈勿誤方函口訣〉
此方は水分と血分と二道に渉る症を治す。婦人失血或は産後 男子痔疾下血の後 面部浮腫 或両脚微腫して 心下及水分に動悸あり,頭痛眩暈を発しまたは周身青黄浮腫して黄胖状を為す者に効あり。
※芣茨:車前子(しゃぜんし)
※表のしましあり。→表のしまりあり。の誤植
※瞼腫○涙の○は、さんずい+多
※聯珠飲=連珠飲(れんじゅいん)
(効能・効果)
〔効能・効果〕
体力中等度以下で、めまい、ふらつきがあり、ときにのぼせや動悸があるものの次の諸症:立ちくらみ、めまい、頭痛、耳鳴り、動悸、息切れ、神経症、神経過敏
(副作用)
【重い副作用】
【その他】
6 苓桂朮甘湯(りょうけいじゅつかんとう) (傷寒論、金匱要略)
〔茯苓(ぶくりょう)六、桂枝(けいし)四、朮(じゅつ)三、甘草(かんぞう)二〕
本方は、胃の機能が衰え、瘀水が胃部に停滞し、その瘀水が気の上衝とともに移動して起こるめまい、息切れ、心悸亢進などに用いられる。した がって、上衝、頭痛、めまい(起立性眩暈)、身体動揺感、心悸亢進、胃内停水、尿利減少、足の冷えなどを目標とする。また、筋肉の痙攣(眉、腕、顔などの 筋肉がピクピクと動くもの)や血圧が変動するものなどを目標にすることもある。
〔応用〕
駆水剤であるために、五苓散のところで示したような疾患に、苓桂朮甘湯證を呈するものが多い。
その他
一 神経質、神経衰弱、ノイローゼ、ヒステリー、精神分裂症などの精神、神経系疾患。 一 心臓弁膜疾、心不全、高血圧症、低血圧症その他の循環器系疾患。
一 眼底出血その他の眼科疾患。
一 そのほか、バセドウ氏病、冷房病、蓄膿症、脚気、水虫など。
苓桂朮甘湯の加味方
(1) 連珠飲(れんじゅいん) (本朝経験)
〔苓桂朮甘湯と四物湯(しもつとう)の合方〕
本方は、瘀水を貧血をかねており、血虚、めまい、心下逆満(下方より心下部に向かっておし上げられる充満感)に用いられるもので、諸出血後の 貧血によるめまい、耳鳴り、動悸、息切れ、顔面浮腫などを目標とする。本方は、四物湯(前出、駆瘀血剤の項参照)の適さない体質者には用いられない。
『《資料》よりよい漢方治療のために 増補改訂版 重要漢方処方解説口訣集』 中日漢方研究会
83.苓桂朮甘湯 傷寒論
茯苓6.0 桂枝4.0 白朮3.0 甘草2.0
(傷寒論)
○傷寒,若吐,若下後,心下逆満,気上衝胸,起則頭眩,脈沈緊,発汗則動経,身為振々揺者,本方主之(太陽中)
(金匱要略)
○心下有痰飲,胸脇支満,目眩,本方主之(痰飲)
○夫短気有微飲,当従小便去之,本方主之
〈現代漢方治療の指針〉 薬学の友社
立ちくらみやめまい,あるいはどうきがひどく,のぼせて頭痛がし,顔面やや紅潮したり,あるいは貧血し,排尿回数多く尿量減少して口唇部がかわくもの。
本方は急に立ち上った時とか,うつむいていた顔を急にあげたりした時,あるいは入浴時にふらふらとしてめまいをするような身体動揺感がひどい症状によく用いられる。自律神経不安定症で前記のような症状がある場合に奏効するが,頭汗,胸内苦悶,食欲不振などがあれば柴胡桂枝干姜湯が,咽喉に異物感があって気分がすぐれない場合は半夏厚朴湯が適する。本方は頭痛薬を廃薬させることが多い。桂枝茯苓丸を投与しても効果の少ない頭痛にも一度試みるべきである。また外見上卒中体質でもないのに血圧が高く尿量減少するものに本方と当帰芍薬散との合方を用いて効果がある。また眼底出血その他の眼科疾患に応用されることも多く,耳鳴を伴なった鼻づまり,蓄膿症には本方単独もしくは柴胡剤と合方して与えるとよい。本方適応症で食欲不振を伴なう場合は大柴胡湯あるいは小柴胡湯を合方する。五苓散との鑑別は一方に著しい口渇,浮腫あるいは悪心,嘔吐,下痢などの症状(五苓散適応症)他方に身体動揺感,心悸亢進が著明(本方適応症)であれば容易であるが,実際上きわめて困難な場合もある。このような時は本方を与えて悪心や浮腫が起れば五苓散に,逆に五苓散を与えてめまいがひどくなれば本方に転方するとよい。あるいは初めからこの両者を合方して与えることも考えられる。この合方はまた漢方治療における誤治の応急処置に広く使われる。
〈漢方処方解説シリーズ〉 今西伊一郎先生
本方は平素顔色がすぐれず貧血の傾向があって,めまい,立ちくらみなど身体平衡失調の傾向のあるものによく適応する。また自律神経不安定症候群や,あるいは精神不安あるものに繁用されるが,この二項と応用の目標欄記載事項を総合して,心臓ノイローゼや起立性めまい,あるいはメニエル氏病に応用する頻度が多い。本方は胃内停水があって,胃部振水音を認めることがあるが,ほとんど自覚することが少ない。したがって胃下垂,胃アトニーの傾向がある者の,入浴時や車船に乗った場合などにおこりやすい身体動揺感によく用いられる。自律神経不安定症候群を認める高血圧症,低血圧症に著効を奏するが,その応用の目安は貧血の傾向があるにもかかわらず,時々のぼせて顔面が紅潮したり,頭痛,不眠,耳鳴を訴えるものによく適応する。したがって本方が適する高血圧症は,一見虚弱で精神不安に伴って血圧が上昇し,水銀柱値の日差が割合にひどい,いわゆる良性高血圧症に好適である。また本方は常習性頭痛で,鎮痛剤を常用するものに用い奇効を奏することが少なくない。頭痛,めまい,耳鳴,精神不安,不眠の傾向がある者が本方を連用し,長年常用した鎮痛剤を廃薬した投薬経験を多数寄せられている。蓄膿症で葛根湯や葛根湯加辛夷川芎が適応しない虚弱体質で,頭痛,耳鳴を訴え粘稠な膿汁を認めない者に本方と小柴胡湯の合方で好転することが多い。
類証鑑別
身体が虚弱で自律神経不安定症候群がある半夏厚朴湯は,本方証にはない咽喉や胸部に異物感や痞塞感があり,反対にのぼせの傾向が認められないので本方との鑑別ができるが本方と合方する機会が多い。
〈漢方処方応用の実際〉 山田 光胤先生
○心下に停水(水毒)があって動悸,めまい(眩暈)の激しいものに用いる。たちくらみ,めまい,身体動揺感など程度の差はあるが,めまいが主訴である。同時に息切れと心悸亢進,頭痛,上衝などがあり,尿利が減少する。脈は沈,緊で腹部は全体に軟弱で心下部に振水音をみとめたり,膨満ぎみになったりする。また臍の近くで腹部大動脈の拍動が亢進するものが多い。
〈漢方診療の実際〉 大塚,矢数,清水 三先生
本方は眩暈と身体動揺感及び心悸亢進とを目標にし諸病証に応用される。患者の顔色はやや貧血性で脈は沈緊,或は沈緊でなくても相当に力がある。腹部は屢々振水音を聞き,また動悸の亢進を触れ,尿利減少がある。処方中の茯苓と朮は水分の循流を計り,桂枝は血行を盛んにする。故に両者相協力して眩暈を治し,心悸亢進を鎮めるのである。甘草は諸薬の調和剤である。本方は眩暈,心悸亢進のみならず,水分の不循流,血行の不調に由る眼疾,脚弱症その他の諸症に応用される。従ってその応用は心臓弁膜症,慢性腎臓炎,高血圧症,喘息,神経衰弱,結膜炎,角膜炎,網膜炎等である。
〈漢方処方解説〉 矢数 道明先生
いわゆる虚証で水毒によって起る。主訴は眩暈,身体動揺感,起立性眩暈,息切れと心悸亢進,上衝,頭痛等である。尿利減少と足冷がある。脈は沈緊で,腹部は軟弱のほうで,胃内停水があり,あるいは膨満することもある。
〈類聚方広義〉 尾台 榕堂先生
○飲家,眼目雲翳ヲ生ジ,昏暗疼痛,上衝頭眩シ,瞼腫レ眵涙多キ者ヲ治ス,芣茨ヲ加エテ尤モ奇効アリ,当に心胸動悸,胸脇支満,等ノ症ヲ以テ,目的ト為スベシ(中略)雀目症にも,亦奇効アリ。
〈漢方入門講座〉 竜野 一尾先生
運用 虚証で息切れ,動悸,眩暈するもの。
これらの症状は全部同じ程度でなく,一つが著明で一つが軽微であってもよく,時には一つが欠けていても差支えない。虚証の停水の土台の上にこういう症状が起っていることを目標にすればよい。「心下に痰飲あり,胸脇支満,目眩するもの」(金匱要略痰飲病)
心下部に停水があって,気の上衝に連れて胸脇部が支え張る感じがし,めまいを起すとの意だが,同じつかえると訓むにしても痞は気のつかえ,支は水を伴う気のつかえに使い分けている。眩暈は漢方では多くの場合水分代謝障害に結付いて起ると考えている。
「それ短気,微飲あり,当に小便より之を去るべし」(同右)短気は息切れで前条の胸脇支満と同じ状態で起る。胸が張れば息が切れる道理である。微飲は軽微な停水の意。
「傷寒,若しくは吐し,若くは下して後,心下逆満,気胸に上衝し,起ては則ち頭眩す。脉沈緊,汗を発するときは則ち経を動じ,身振々として揺をなす」(傷寒論太陽病中編)
前半は前々条とほぼ同意。経を動じの解釈はいろいろ出来て,経脈の意とも経絡の意ともとれる。身体の揺れる感じは眩にも通う症状で運動失調を指す。本方は大体虚証の体質で貧血性だがひどい冷え性ではない。脉は沈緊を定型的とするがそれに縛られず,沈のことも細のこともある。眩暈を目標にすの眩暈の原因が胃性であろうと循環系性,耳性,眼性等の如何を問わず使うが,その際心下部に拍水音があるとか,心悸亢進を伴うとか,脉沈緊とかがあればよい。眩暈に使う諸方中,小柴胡湯は胸脇苦満があって胃内停水なく,柴胡加竜骨牡蛎湯は煩驚腹動があり,桃核承気湯,桂枝茯苓丸,当帰芍薬散は他に循環障害の症状があって,眩は主症状ではなく,沢瀉湯は眩暈の程度が本方より遙かかに強度で心悸亢進はなく,真武湯は本方より一層虚しているから区別がつく。神経衰弱,神経質,ヒステリーの類や胃下垂,胃アトニーで貧血,眩暈,心悸亢進,息切れ,心下部膨満感などを訴えるものに頻用する。心下部に拍水音認めれば一層確実である。バセドウ氏病,心臓弁膜症,機能不全,神経性心悸亢進症などで貧血,心悸亢進,息切れを訴え,或は軽度の浮腫を伴うものにも用いる。慢性腎炎,萎縮腎などの浮腫が軽度なら心悸亢進を伴う虚証のものに使う。眩を羞明として急性カタル性結膜炎,殊にフリクテン性結膜炎にはよく使う。流涙,発赤を伴う。全身状態や胃部拍水音を参照して使う。船暈病では胸さきが支え息切れするものを目標にする。運動失調症や萎縮性或は麻痺性の足腰立たぬものにも宜い。
〈餐英館療治雜話〉 目黒 道琢先生
此方癇症,腹内動悸つよく,少腹より気上りて胸に衝き,呼吸短息,四肢拘急などする証に効あり。又心下逆満して,起ては頭眩し,動悸あるを標的とすれども,顔色鮮明にして表のしまり宜しからず,第一沈緊なる者に非ざれば効なしと云ふ。是れ和田家の秘訣なり。
〈勿誤方函口訣〉 浅田 宗伯先生
此方は支飲を去を目的とす。気咽喉に上衝するも目眩するも手足振掉するも皆水飲に因る也。起則頭眩と云が大法なれども臥して居て眩暈する者にても心下逆満さえあれば用る也。夫にて治せざる者は沢瀉湯なり,彼方はたとひ始終眩なくても冒眩と云ものにて顔がひっぱりなどする候ある也。また此方動悸を的候とすれば柴胡姜桂湯に紛れやすし。然れども,此方は顔色明にして表のしましあり。第一脈が沈緊になければ効なき者なり。又此方に没食子を加え喘息を治す。又水気より来る痿躄に効あり。矢張足ふるい或は腰ぬけんとし劇者は臥していると脊骨の辺にひくひくと動き或は一身中脉の処ひくひくとして耳鳴逆上の効ある者也。本論の所謂久而成痿の症何病なりともあらば此方百発百中也。
<漢方の臨床>第1巻 第3号
真武湯について 竹内 達先生
苓桂朮甘湯は傷寒論太陽中篇に出ている。即ち経に曰く「傷寒若クハ吐シ,若クハ下シテ後,心下逆満,気胸ニ上衝シ,起テバ則チ頭眩,脈沈緊茯苓桂枝白朮甘草湯之ヲ主ル」之は傷寒吐下を行いたる後幾分精気を損じて虚気の上衝と水分の停滞を生じた症で,心下逆満,気上衝胸起則頭眩が其主証で殊に起則頭眩が重要で,つまり坐位より急に起ち上った時に眩暈を感じ静好置では感じないので眩暈としては軽度のものである。本方は亦金匱の痰飲咳嗽病篇に出ている。即ち「心下痰飲有り,胸脇支満,目眩スルハ苓桂朮甘湯之ヲ主ル。夫レ短気微飲アルハ当ニ小便ヨリ之ヲ去ルベシ,苓桂朮甘湯之ヲ主ル」
前文では胸脇支満と目眩,後文では短気が主証となるが病因は同様で痰飲である,之即ち水分の停滞に外ならぬ,以上により考えるには本方は上衝,頭眩,短気を目標とし殊に痰飲あり小便不利の者を治するので脈は沈緊を原則とするが必ずしも沈緊でなくてもよい。本方は応用範囲の広いもので先ず第一に眩暈を目標とする。傷寒論にある様に吐下の為めに精気を損じて虚気の上衝と水分の停滞を生じ起てば即ち頭眩という軽い眩暈の場合もある。次は留飲症に伴う眩暈で此場合は腹壁が薄く弛緩し振水音があり顔面は貧血性で気力が無い,胃アトニー,胃下垂等の胃疾患或は神経衰弱症に多く見るもので屢々眩暈を主訴する,此眩暈に対しては本方,五苓散,沢瀉湯,半夏白朮天衣湯等が考えられ其区別はむつかしい場合もあるが本方の眩暈は概して軽度で心悸亢進を伴うことが多く,留飲症の眩暈より貧血症殊に心臓病による眩暈に適する所謂黄胖と称せられたものは心臓病の一部を指したもので黄胖の治方として本方は古来頻用された薬方の一つである。尚諸出血後の貧血による眩暈にはよく四物湯と合方して用いる。次は動悸を目的とする。之は心臓病,貧血に見る心悸亢進に有効で心下に動悸を訴えるもの或は所謂奔豚症の軽い者等に用いる。亦本方は水毒を去り上衝を治す理由から種々の眼病によく奏効することは興味深いことである。古方便覧には「上気強く目まいする持病に芎黄散を兼用すべし。眼病に此症多し。内障外障或は白翳或は星を生じ,又は血出る等に芎黄散或は紫円を兼用して下すべし」とあり,尾台榕堂は「飲家眼目に雲翳を生じ,昏暗疼痛,上衝頭眩,瞼腫○涙多き者を治するに芣茨を加えて尤も奇効あり」と云っている。亦動脈硬化,高血圧即ち卒中体質に伴う上衝,耳鳴,肩凝り等に本方に川芎,大果英a味して有効な事がある。合方及加減方として主なるものは次の者である。
(1) 聯珠飲
之は本方と四物湯の合方で血虚,眩暈,心下逆満を治す,即ち諸種の出血から貧血を起し全身に浮腫を生じ心悸亢進,眩暈,頭重,頭痛を訴える時に用いる。
(2) 苓桂朮甘合芎黄
本方と芎黄円の合方の証で上気,肩凝り,頭痛,便秘,又は高血圧で上気,肩凝り,眩暈があり劇しい体動により心悸亢進,短気を感ずるもので肥満して便秘勝ちの人に多い。殊に動悸のあるものに適する。
(3) 鍼砂湯
本方に鍼砂,牡蛎,人参を加えたもので原南陽の案である。黄胖症即ち諸貧血,虚悸即ち心臓弁膜症の初期等に最も屢々用いられ,心悸亢進,眩暈,呼吸息迫,顔面蒼白,浮腫等を目標とする。然しながら代償不全高度となり,肺水腫,肝臓増大,腹水等を来した者には奏効はむつかしい,又鎮墜を目的として動脈硬化,高血圧に卓効有りとし浅田方函にも「此方運用多端専ら鎮墜を以て主と為すなり」というている。亦此方は奔豚症にも用いることはあるが之にはむしろ定悸飲の方が適応する場合が多い。
(4) 定悸飲
之は本方に呉茱萸,牡蛎,李根皮を加したものでよく発作性心悸亢進症に用いられ此症は神経質の婦人に多いもので腹部軟弱で留飲があり,小心で驚き易く,発作性に強い心悸亢進を起して苦しみ,冷汗を流す等の時に有効である。
(5) 明朗飲
本方に車前子,細辛,黄連を加味し,和田東郭の創案で,専ら眼病に用いられ,急性結膜炎,発赤,のぼせ,パンヌス等で私は腎臓病性網膜炎網膜炎に卓効を現わした一例を経験している。(後略)
<連珠飲に就ての口訣>
〈勿誤方函口訣〉
此方は水分と血分と二道に渉る症を治す。婦人失血或は産後 男子痔疾下血の後 面部浮腫 或両脚微腫して 心下及水分に動悸あり,頭痛眩暈を発しまたは周身青黄浮腫して黄胖状を為す者に効あり。
※芣茨:車前子(しゃぜんし)
※表のしましあり。→表のしまりあり。の誤植
※瞼腫○涙の○は、さんずい+多
※聯珠飲=連珠飲(れんじゅいん)
(効能・効果)
- 【ツムラ・他】
- めまい、ふらつきがあり、または動悸があり尿量が減少するものの次の諸症。
- 神経質、ノイローゼ、めまい、動悸、息切れ、頭痛。
- 【コタロー】
- 立ちくらみやめまい、あるいは動悸がひどく、のぼせて頭痛がし、顔面やや紅潮したり、あるいは貧血し、排尿回数多く、尿量減少して口唇部がかわくもの。
- 神経性心悸亢進、神経症、充血、耳鳴、不眠症、血圧異常、心臓衰弱、腎臓病。
- 【三和】
- 頭痛、頭重、のぼせ、めまい、立ちくらみ、動悸、心悸亢進などがあって不眠、精神不安などを伴い尿量減少の傾向があるものの次の諸症。
- 神経性心悸亢進症、心臓弁膜症、血圧異常、起立性めまい、メニエル氏症候群、神経衰弱、腎臓疾患。
〔効能・効果〕
体力中等度以下で、めまい、ふらつきがあり、ときにのぼせや動悸があるものの次の諸症:立ちくらみ、めまい、頭痛、耳鳴り、動悸、息切れ、神経症、神経過敏
(副作用)
【重い副作用】
- 偽アルドステロン症..だるい、血圧上昇、むくみ、体重増加、手足のしびれ・痛み、筋肉のぴくつき・ふるえ、力が入らない、低カリウム血症。
【その他】
- 胃の不快感、食欲不振、軽い吐き気
- 発疹、発赤、かゆみ