健康情報: 帰脾湯(きひとう)と加味帰脾湯(かみきひとう) 効能・効果 副作用

2010年11月23日火曜日

帰脾湯(きひとう)と加味帰脾湯(かみきひとう) 効能・効果 副作用

『臨床応用 漢方處方解説 増補改訂版』 矢数道明著 創元社刊
28 帰脾湯(きひとう)〔済生方〕
人参・白朮・茯苓・酸棗仁・竜眼肉 各三・〇 黄耆・当帰・ 各二・〇 遠志・甘草・木香・大棗・乾生姜 各一・〇

応用〕元気胃腸の弱い虚弱体質の者が、身心過労の結果、種々の出血を起こして貧血をきたしたり、健忘症となったり、神経症状を起こしたりしたときに用いる。
本方は主として腸出血・子宮出血・胃潰瘍・血尿等による貧血と衰弱・白血病・バンチ病・健忘症・嚢腫腎・不眠症等に用いられ、また神経性心悸亢進症・食欲不振・月経不順・ヒステリー・神経衰弱・遺精・慢性淋疾・瘰癧等に応用される。

目標〕心と脾の虚で、貧血・心悸亢進・健忘・不眠症・諸出血等を主目標とする。患者は顔色蒼白、脈腹ともに軟弱で、元気衰え、疲労感を訴え、多かれ少なかれ神経症状をともなっている。炎症や充血などのない場合である。

方解〕人参・黄耆・白朮・茯苓・大棗・甘草の六味は脾を強くし、すなわち健胃強壮をもっぱらとしている。竜眼肉・遠志・酸棗仁は心を養い、神経を強め、かつ鎮静し、木香は気分をさわやかにし、当帰は貧血を補う。当帰はとくに人参と組んで新血を生ずるとされている。

加減〕加味帰脾湯。帰脾湯に柴胡三・〇、山梔子二・〇を加えたもので、帰脾湯の証にやや熱状の加わったものに用いる。

主治
済生全書(補益門)に、「脾経ノ失血、少シ寝テ発熱盗汗シ、或ハ思慮シテ脾ヲ破リ、血ヲ摂スルコト能ハズシテ以テ妄行ヲ致シ、或ハ健忘征忡(心悸亢進・むなさわぎのこと)、驚悸シテ寝ネズ、或ハ心脾傷痛嗜臥少食、或ハ憂思シテ脾ヲ傷リ、血虚発熱シ、或ハ肢体痛ヲナシ、大便調ハズ、或ハ婦人経候不準、哺熱内熱、或ハ瘰癧流注シテ消散潰斂スルコト能ハザルヲ治ス」とあり、
勿誤方函口訣には、「此ノ方ハ遠志、当帰ヲ加ヘテ、健忘ノ外、思慮過度シテ心脾二臓ヲ傷リ、血ヲ摂スルコトナラズ、或ハ吐血、衂血、或ハ下血等ノ症ヲ治スルナリ。此ノ方ニ柴胡・山梔ヲ加ヘタルハ、前症ニ虚熱ヲ挟ミ、或ハ肝火ヲ帯ブル者ニ用ユ、大凡ソ補剤ヲ用ユル時ハ小便通利少ナキ者多シ。此ノ方モ補剤ニシテ、且ツ利水ノ品ヲ伍セザレドモ、方中ノ木香気ヲ下シ、胸ヲ開ク、故ニヨク小便ヲシテ通利セシム」とあり、
方櫝弁解には、「他ノ補薬ヲ用イテ胸膈ニ泥ムコトアルトキハ此方ニ代ユベシ。十全大補湯、或ハ補中益気湯ノ類ハ、病人胸ニ滞ルコトヲ覚ユ、此方ハ譬バ氷砂糖ヲ食スルガ如シ、反テ能ク胸ヲ開ク」とある。

鑑別
○十全大補湯62(貧血(○○)・気血両虚、神経症状少なし)
 ○六君子湯147(脾胃虚(○○○)・胃内停飲)
 ○補中益気湯135(気虚(○○)・中気不足)
 ○黄土湯13(出血(○○)・陰虚証、悪寒、腹動悸・臍下不仁)


参考
 矢数道明、帰脾湯の運用について(漢方と漢薬 四巻一号・漢方百話)
 李建柱氏、帰脾湯に就て(漢方と漢薬 九巻一号・二号)
 坂口弘氏、益気湯と帰脾湯(東洋医学 一巻三号)、坂口弘氏外、加味帰脾湯の二症例(日東洋医会誌 二七巻三号)。

治例
 (一) 熱性病後の衰弱
 鈴木某が疫(腸チフス)を病んで、発病以来数十日、大骨枯稿、大肉陥下、ただ凸起するものは肋骨のみで、ひどく痩せた。薬は吐いて受けつけない。衰弱の極、ついに妄語を発するようになった。考えてみると、これは邪熱は既に去って、心と脾が至極虚したもので、それを補足すれば即ち病は治るはずである。そこで帰脾湯一貼を与えてみたところ吐かない。二貼与えてみると爽快になり、食欲が出て妄言は止んだ。人々は驚いてその薬効に感心した。この方を続け用いて日一日と快方に向い、ほどなく起床して全治した。
(和田泰庵、和漢医林新誌 一二二号)

 (二) 驚愕による神経症
 五〇歳の思子。あるとき戯れて他人と首引きをし、だまされて後ろへ倒れた。その時は別状なかったが、三日の後、昼夜発熱して譫語を発し、一医は外感として治したが効なく、古林見桃の診を乞うた。見桃はその前因を審にきいて、これは驚気心に入るの症なりとして帰脾湯を与えたところ全く癒えた。
(百々漢陰翁、漢陰臆乗)

 (三) 血尿
 四一歳の婦人。腎臓腎盂炎による血尿で臥床し、発病以来二三日、初め発熱三九度以上で一〇日間も持続した。現在三七度二分。顔面蒼白・心動悸・脈沈微・食欲不振、舌苔なく、口唇結膜ともに蒼白、貧血甚だしく心雑音をきき、肝腫大し、腎臓腫れ痛み、血尿が甚だしい。不眠と健忘があった。帰脾湯を与えて日一日と快方に向かい、服薬二ヵ月でほとんど全治した。
(著者治験、漢方と漢薬 四巻一号)

 (四) バンチ病
 四二歳の婦人。バンチ病の診断をうけた。呼吸困難・眩暈・頭痛・強度の貧血・脈微弱・脾腫甚だしく・腹水があり、心音は貧血性雑音で下肢には微腫を認めた。そこで帰脾湯を与えたが、三週間で自覚症はほとんど消退し、後に五積散で調理した。脾腫は二分の一ぐらいに縮小し、家事雑用を弁ずるに至った。
(木村久雄氏、漢方と漢薬 四巻一二号)

 (五) 嚢腫腎と子宮出血
 三九歳の婦人。五年前に嚢腫腎といわれ、手術をうけた。尿中蛋白はいつも陽性で、赤血球も認められ、両腎はひどく腫れていた。本症は約一ヵ月前より始まり、月経の後出血が長びき、塊状の下り物が沢山で止まらず、すっかり貧血してしてしまった。病院の婦人科では子宮筋腫による出血で、即刻入院して子宮全剔手術をしないと生命が危ないといわれたという。体格小、顔色は貧血して白紙のよう。動悸・呼吸困難・心下痞悶・めまい・食不振・絶対安静を守っているが出血は止まらないという。脈沈細微、腹軟弱であるが、両腎は小児頭大に腫大している。この患者には芎帰膠艾湯・黄土湯・十全大補湯・帰脾湯のいずれかにしたいと思ったが、発病前後数ヵ月、患者は身心過労の極倒れたこと、貧血があまりに高度であること、脾と心の虚を目標にして帰脾湯を与えた。本方服用後、三日目から出血やみ、食欲が出て、一五日間服用起、起床してデパートへ買物に出かけることができた。貧血も回復し、腎臓の腫大もかなり小さくなった。(著者治験、漢方の臨床 一〇巻一一号)

明解漢方処方』 西岡一夫著 浪速社刊
⑫帰脾湯(済生方)
黄耆 当帰各二・〇 人参 朮 茯苓 酸棗仁 竜眼肉各三・〇 遠志 甘草 木香 大棗 生姜各一・〇(二四・〇)
この方は四君子湯(脾胃の虚弱)を基にして、補血、止血の薬を加えたもので、四君子湯証の体質の人、即ち平常虚弱で顔色青白く食慾不振などの症ある人が、その上に何か精神的過労が加わって身心ともに疲労の極地になり、その結果、腎機能の障害(血尿、蛋白尿、腎臓腫大)を起してきたものを目標にする。古人も“思慮して脾を傷り、血を摂ること能わず”に用いるという。古方家の湯本求真氏は本方を酸棗仁湯の類方なりというが、果してどうであろうか、本方の主目標は四君子湯の脾胃の虚にあり、不眠、血虚を客証とみれば、古方ではむしろ人参湯と黄土湯の合方のように思え音¥なお熱症状のあるときは山梔子、柴胡各二・五を加えた加味帰脾湯を用いる。本方の詳細な研究については矢数道明氏が漢方と漢薬四巻一号(または漢方百話)に発表しておられる。出血性疾患。不眠症


『漢方処方の手引き』 小田博久著 浪速社刊
帰脾湯(済生方)
人参・白朮・茯苓・酸棗仁・竜眼肉:三、黄耆・当帰:二、遠志・甘草・木香・大棗・乾生姜:一。

(主証)
胃腸の弱い者の寝冷えによるかぜの初期。
精神的過労による症状(神経・内臓)。食欲不振。

(客証)
貧血・虚弱が多い。心悸亢進、不眠。出血。腎機能低下。軽度の消化器潰瘍。

(加減)
熱の症状ある場合、柴胡:三、山梔子:二を加える(加味帰脾湯)。

(考察)
脾虚。
胃弱く胃内停水→六君子湯。
気力乏しい→補中益気湯。
貧血、神経症状ない→十全大補湯。

済生全書(補益門)
「脾経の失血、少し寝て発熱盗汗し、あるいは思慮して脾を破り、血を摂すること能わずして、もって妄行をいたし、あるいは健忘征忡(むなさわぎ)、驚悸して寝ず、あるいは心脾傷痛して臥するをこのみ少食、あるいは憂思して脾を傷り、血虚発熱し、あるいは肢体痛をなし、大便調わず、あるいは婦人経をみるに不準、補熱内熱、あるいは瘰癧流注して消散潰斂すること能はざるを治す。」


『健康保険が使える漢方薬の選び方・使い方』 木下繁太郎著 土屋書店
帰脾湯

症状
身体が弱って元気がなく、疲れやすく、貧血で、動悸があり、眠れない、物忘れする、出血があるといった場合に用いるもの。平素胃腸が弱い虚弱な人が心労、過労出血などで弱って精神症状を起こした場合に使う処方です。

①虚弱体質で胃腸が弱い。
②疲れやすく顔色が蒼白。
③貧血。
④動悸、息切れ。
⑤眠れない。
⑥健忘症になった。
⑦出血。
⑧盗汗、夕方になると熱が出る。

腹 腹壁は軟弱で力がない。
脈 軟弱で力がない。
舌 舌苔なく貧血状。


適応
貧血、不眠症胃潰瘍、腸出血、子宮出血、血尿、食欲不振、神経性心悸亢進症、健忘症、神経衰弱、ヒステリー、白血病、再生不良性貧血、バンチ病、遺精、嚢腫腎、瘰癧の潰瘍、慢性淋疾。

【処方】黄耆、当帰 各2.0g。 人参、朮、茯苓、酸棗仁、龍眼肉 各3.0g。 
甘草、乾姜、木香 各1.0g。 遠志、大棗 各1.5g。
本方は、人参、白朮、茯苓、大棗、甘草、黄耆(健胃強壮作用)、龍眼肉、遠志、酸棗仁(精神安定、鎮静作用)、木香(気のうっ滞を除く)、当帰(補血作用)という構成になっています。

健 ツ(済生方)

加味帰脾湯

症状
虚弱体質で、血色が悪く貧血気味で、不眠、動悸、精神不安があって、微熱が出たり、盗汗をかいたりするものに用い、熱病の回復期、神経症、血の道症などに応用します。

①貧血。
②動悸、心悸亢進。
不眠
④精神不安。
⑤出血。
⑥顔面蒼白。
⑦病後の衰弱、疲労感、体力虚弱。
⑧微熱。
⑨盗汗(ねあせ)

腹 腹部は全体に軟弱で力がない。
脈 弱々しく細い。
舌 一定しません。


適応
貧血、不眠症、精神不安、神経症、腸出血、子宮出血、胃潰瘍等による貧血と衰弱、白血病、再生不良性貧血、食欲不振、神経性心悸亢進、神経衰弱、月経不順。

【処方】黄耆、当帰 各2.0g。 人参、朮、茯苓、酸棗仁、龍眼肉 各3.0g。 
甘草、乾姜、木香 各1.0g。 遠志、大棗 各1.5g。 柴胡3.0g。 梔子2.0g。

帰脾湯に柴胡、梔子を加えた処方で、全体の構成は四君子湯(84項参照、弱った消化器を治す)に酸棗仁、龍眼肉、遠志(鎮静、強壮)、黄耆(強壮、止汗)、当帰(補血)、木香(気分発散)、柴胡、梔子(解熱、消炎)という構成になっています。

本方は、人参、白朮、茯苓、大棗、甘草、黄耆(健胃強壮作用)、龍眼肉、遠志、酸棗仁(精神安定、鎮静作用)、木香(気のうっ滞を除く)、当帰(補血作用)という構成になっています。

健 ク・建・タ・ツ・東・虎(済生全書)

【参考】
うつ(鬱)に良く使われる漢方薬
http://kenko-hiro.blogspot.com/2009/04/blog-post_23.html