健康情報: 8月 2019

2019年8月27日火曜日

生薬の配剤から見た漢方処方解説(まとめ)

誌上漢方講座 症状と治療
生薬の配剤から見た漢方処方解説(まとめ)
 村上 光太郎

 生薬の配剤を考える時、なるほど、その組み合わされた生薬の相互作用について考えるが、いざ随証療法を行なおうとした場合、もはや薬方に配剤されている個々の生薬の相互作用を考えず、薬方単位で考える事が多い。この場合、単方で投薬す識時には問題はないが、合方しなければならない時には種々の問題を惹起する事がある。このような時に生薬の配剤を考えれば多くの問題が解決する。
 例えば図52について見ると明瞭であろう。すなわち、精神不安、興奮しやすい、胃が痞えるの症状は気の症状であり、足腰の痛み(関節痛、腰痛)の症状は気または水の症状であり、多汗、涙が出やすいの症状は水の症状であり、口乾(水はほしくない)の症状は血の症状であり、のぼせの症状は血または気の症状である。従ってこの患者は気、血、水すべてが変調している事がわかる。従ってこの患者は気、血、水すべてが変調している事がわかる。しかし症状を見ると、気と血の症状より気と水の症状が多いために「気と水」と「血と気と水」の合方と考える方が合理的である(精神不安、興奮しやすいと言う症状が、この人の主訴ならば、順気剤を考えなければならないが、そうではないので「気と水」と考える。「気と水」の症状を見ると、胃が痞えるという症状を除けばすべて表の症状である。ところで、「気と水」の症状の時には順序だてて考えなければならない事はすでに述べた(生薬の配剤から見た漢方処方解説(11)を参照)とおりである。①の胸脇苦満があるならば柴胡剤を用いるという項は、この人の症状には胸脇苦満がないので該当しない。
 ところで、この人はアレルギー体質である事を訴えている。このようにアレルギー体質であるとか、腺病質であるとか、リンパ腺がはれるとか等訴える人には、体質改善の出来る薬方を配剤する方が望ましい。ところで体質改善できる薬方は種々あり、例えば、柴胡剤、建中湯類、駆瘀血剤、瀉心湯類、解毒剤、下焦の疾患などが主なものである。他の薬方にも体質改善の出来る薬方はあるが、漢方の薬方のすべてが体質改善できるかと言うとそうではなく、例えば、駆水剤、表証、麻黄剤、承気湯類などはほとんど体質改善を行なうことは出来ないものである。従ってこれらの薬方を使用する場合に、もし前記のような症状があるならば体質改善の出来る薬方を合方する方が良い事は言うまでもない。
 さて本題に帰って、②の表の症状のみあるいは少し半表半裏の症状がある程度ならば表証、麻黄剤、皮膚疾患の薬方を用いるという項はどうであろうか。この人の症状を、表、半表半裏、裏に分けて見ると、ほとんどの症状が表で、半表半裏は口乾(水はほしくない)と胃の痞えという症状であり、裏の症状は排尿一日三~四回、夜間排尿一~二回と言う症状である。以上の事より、腰痛や関節痛が主訴であるという事と合せて考えれば、表の症状が極端に多いので、表証、麻黄剤、皮膚疾患の薬方を考えれば良い事がわかる(生薬の配剤による漢方処方解説(7)を参照)。しかし、表の症状ではあっても、皮膚に炎症、あるいは分泌物等を訴え仲いないので、まず皮膚疾患の各薬方は除かれる。ところでこの人は多汗症であり、全身に多く汗をかき、涙も出やすいと訴えている事より、発汗している状態である。従って無汗の状態の時に用いる麻黄と桂枝あるいは麻黄の配剤された、発汗剤となる薬方ではなく、桂枝と大棗あるいは麻黄と石膏の配剤された、止汗剤となる薬方が処方されなければならない事はすぐに理解できよう。すると当然、桂枝湯、麻杏甘石湯、越婢湯が考えられる。ところで、この人は咳を訴えていないので、それを主訴とする薬方の麻杏甘石湯は除かれる。更にこの人の関節に水の溜まる事を考えれば、それを除けるように加減方を考えるのは当然で、桂枝加朮湯あるいは越婢加朮湯という事になる。この二方は同様に虚証に用いる薬方ではあるが、麻黄剤を使用できるか否かによって使い分ける。一般に麻黄剤あるいは地黄剤、および薬方中に順気生薬の配剤されていない薬方は、胃腸の悪い人が用いれば更に悪くなる事が繁々みられる。従って、そのような時は用いないようにする事が望ましい事は言うまでもない。しかし、これは絶対に使用してはならないと言う事ではなく、どうしても使用しなければならない時は相応の処置を行う。
 この患者に桂枝加朮湯あるいは越婢加朮湯を投薬すれば治癒すると思える症状を除いて見ると、アレルギー体質、口乾(水はほしくない)、排尿一日三~四回、夜間一~二回などが残る。(精神不安、興奮しやすい、のぼせ、胃の痞えは処方によれば治るかもしれない症状である)。これらの症状は「血と気と水」の症状である。従ってそれに用いる薬方、すなわち解毒剤、駆瘀血剤、下焦の疾患、加味逍遙散を考えればよい事がわかる。しかし、この患者は多汗症であり、便通も一日一回でスッキリ出る事、および症状が激しいと言うのではないため、実証とは言えない。従って解毒剤では防已黄耆湯(清上防風湯、荊防敗毒散は皮膚の症状がないので用いない)が、駆瘀血剤では桂枝茯苓丸、加味逍遙散(当帰芍薬散は冷えが強い人に用いる薬方であり、この患者は冷えを訴えず、のぼせを訴えているため除かれる)が、下焦の疾患では八味丸が考えられる。
 いま、仮に「気と水」の薬方を越婢加朮湯を使用すると決めると、「血と気と水」の方の薬方としては桂枝茯苓丸および八味丸を除かなければならない。なぜなら桂枝茯苓丸と越婢加朮湯あるいは八味丸と越婢加朮湯の合方は、いずれも虚証ないし虚証に近い薬方同士の組み合わせであり、一見良いように思えるのであるが、これらの二方が組み合わされれば越婢加朮湯中の麻黄と石膏の組み合わせに桂枝を配剤したことになり、強い発汗剤に変わるからである。従って、もしこの二方を投薬して何の害も起こらなければもうけものであり、害作用が起こることは十分考えておかねばならない。この時起こる害作用は、もはや瞑眩(めんけん)とか、副作用とか言えるものではなく、毒を盛っているのだとの自覚が必要であろう。従って越婢加朮湯に合方できる相手としては防已黄耆湯あるいは加味逍遙散と言う事になる。この患者の訴えが精神不安ないし、興奮しやすいという気の症状を訴えるよりは腰やひざ等の下焦の症状を強く訴えているため、順気剤的意味をもつ加味逍遙散よりは、下焦にも効果の強く及ぶ防已黄耆湯の方が良いと思える(ただし、血に対しては弱い)。従って越婢加朮湯と防已黄耆湯の合方という薬方が考えられる。一見、これで良いように思えるが、この患者は胃の痞えを訴えている。しかし、越婢加朮湯を使用すれば、含まれている麻黄、石膏によって更に胃が悪くなる可能性はある。しかし合方された防已黄耆湯ではその事は取り去れない。とすれば下焦には効果が弱いが、胃の痞えも取れるであろう加味逍遙散を合方する方が良い事になる。
 それでは、桂枝加朮湯を使用すると決めた場合はどうなるであろうか。相手の薬方は当然「血と気と水」の薬方である事は先に述べたとおりである。また虚証も当然変わる事はない。従って解毒剤では防已黄耆湯が、駆瘀血剤では桂枝茯苓丸、加味逍遙散が、下焦の疾患では八味丸が考えられる。今、桂枝茯苓丸と桂枝加朮湯の合方では主薬が共通である。このように主薬が共通である組み合わせは、特別な場合を除き避けるようにする。従って桂枝加朮湯の相手としては防已黄耆湯、加味逍遙散、八味丸が考えられる。この患者の年齢が若いならば、胃が悪くなると訴えるだけで地黄の作用を考え、八味丸を除かなければならないが、この患者は老齢であるため、八味丸による消化器系への悪影響は少ない。従って一つの薬方として考えられる。また丁度、排尿回数も少なく、かつ夜間排尿が一~二回ある事、のぼせを生じ、精神不安や興奮しやすいとの症状を訴えることも八味丸を用いる可能性を示している。従って胃の痞えを強く考えるのなら桂枝加朮湯と加味逍遙散を、強く考えないのなら桂枝加朮湯と八味丸という事になる。この患者は水はほしくないと言う瘀血の症状を訴えているが、他に瘀血を強く表わす症状を訴えていないので、瘀血がそんなに強くないとすれば、桂枝加朮湯と防已黄耆湯の合方と言う事になる。
 以上、この患者には越婢加朮湯と加味逍遙散(胃があまり強くない時)の合方を与えるか、桂枝加朮湯と八味丸(胃があまり弱くない時)または桂枝加朮湯と加味逍遙散あるいは桂枝加朮湯と防已黄耆湯(瘀血が少ない時)を再度症状を追加して聞いて与えるようにすればよい事がわかる。
 ところで、この薬方を考える時に出た事ではあるが、見かけ上は証に合っているようだが中に入っている薬味を見ると全く異なった薬方を投薬している事がある事を忘れてはならない。
 例えば、越婢加朮湯を参考にして再度考えてみよう(実際は証に従って治療しなければならないのだが、わかりやすくするために、病名や症状で表現する事を許していただきたい)。越婢加朮湯を神経痛やリウマチの時に用いようとしたが、
 (一)その患者は消化器系が弱いので麻黄剤は胃にこたえるであろうと、小建中湯あるいは安中散を合方する。
 (二)その患者は痛みが強いので柴胡桂枝湯を合方する。
 これらはいずれも良いように思われるかもしれない。しかしいずれも共通の落とし穴がある事を忘れてはいけない。すなわち越婢加朮湯は麻黄と石膏の組み合された薬方であり、止汗作用を目的に作られている。また小建中湯と柴胡桂枝湯は桂枝と大棗の組み合された薬方で止汗作用を目的に作られている。また安中散は桂枝の発汗作用を目的に配剤されているが、麻黄に比べると発汗作用は弱い薬方である。しかしこれらが合方されると麻黄と桂枝と石膏の組み合せとなり止汗作用から(あるいは弱い発汗作用から)強い発汗作用へと変わる。従ってこのような合方は避けなければならない事がわかる。
 それではこのような処方があった場合は、どのように処理したら良いであろうか。いずれの場合も随証療法をしたら良いのは当然であるが、前記のように、消化器系が弱いからとか、痛みがあるのでその部分のみ強めようと考え仲合方するだけであるだけなら、次のような解決法もあるので検討していただきたい。
 越婢加朮湯と小建中湯の合方の場合。
①小建中湯を裏証Ⅰの六君子湯に変える。
②または小建中湯と同様に、中焦に効果を現す補中益気湯に変えるなどが考えられる。
 越婢加朮湯と安中散の合方の場合。
①安中散を同じ裏証Ⅰの六君子湯に変える。
②安中散を加味逍遙散に変える。
③安中散を変えるのではなく、越婢加朮湯を桂枝加朮湯に変える(少し虚証の薬方となるるが)などが考えられる。
 越婢加朮湯と柴胡桂枝湯の場合。
①柴胡桂枝湯を小柴胡湯に変え、芍薬甘草湯を頓服とする(あるいは柴胡桂枝湯を除いて芍薬甘草湯を頓服とする)。
②越婢加朮湯を桂枝加朮湯にするなどが考えられる。
 このように種々ある処理法の中で、より患者に適した方法を取れば良いのである。
 ではもう一例、問題を考えていただこう(図53参照)。顔が赤い、胸や脇の圧迫感の症状は気の症状であり、手の痛む(筋肉痛)の症状は気または水の症状であり、汗が出にくい、涙が出やすい等の症状は水の症状であり、アザの症状は血の症状(この症状だけでは血があるとは言えない)であり、不眠、のぼせの症状は血または気の症状である。従ってこの患者も気、血、水のすべてが変調している事がわかる。しかし、主訴が上腕痛である事を考えると「気と血」の症状より「気と水」の症状が多い(重要である)と言える。従って「気と水」と「血と気と水」の合方を考えればよいのである。
 ところで「気と水」の症状と見る時は順序だてて考えなければならない事は前記と同じであるが、「気と水」の単独の薬方で処理するなら、気、気または水、水の所にあるすべての症状について考えなければならないが、「気と水」「血と気と水」の合方であるならば症状によっては「気と水」の方の症状と、「血と気と水」の方の症状とに分けて考える事が出来るのは当然である。例えばいま、拡脇苦満と言う症状を「気と水」の方の症状としれば「気と水」の方の薬方に最初の柴胡剤という事になる。しかし胸脇苦満とか、食欲不振という症状を「血と気と水」の方の症状だとすれば、残りの症状は表の症状だけとなる。従って「気と水」の薬方としては①の胸脇苦満があるならば……という項は該当せず、②の表証のみ、あるいは少し半表半裏の症状がある程度ならば表証、麻黄剤、皮膚疾患の薬方を選用すると感う事になる。
 いま、まず、後者の方の考え方で考えてみよう。この人は上腕痛を強く訴えているのであって、皮膚疾患を訴えているのではないので、当然皮膚疾患の各薬方は除かれる。また涙は出やすいという症状はあるが、全身の所に汗が出にくいと言う症状があること、および上腕痛が強いことより、実証である事がわかる。従って表証では麻黄湯、葛根湯を、麻黄剤では麻杏薏甘湯、大青竜湯、小青竜湯などの薬方が考えられる。今、この患者には冷えや瘀水の溜る症状が見られない事などにより、水の滞の出やすい大青竜湯、小青竜湯は除かれる。また強い筋肉痛がある事より、麻黄湯、葛根湯そのままでは効果が強い。従って加減方を考えないのであれば、麻杏薏甘湯が良い事がわかる。加減方も考えとなると、麻黄湯、葛根湯も考えられるが、この患者が腰の倦怠感も訴えているので、上焦だけに効果なある葛根湯の加減方を考えるのではなく、全身に効果のある麻黄湯を考えなくてはならない。更にこの患者にはのほせがあるが、寒を示す冷えが見えない事より、当然加減方としては麻黄湯加薏苡仁となる。さて、麻杏薏甘湯あるいは麻黄湯加薏苡仁を投薬するのであるならば、この患者は本来、食欲不振を訴えているのであるから「気と血と水」の方でそれを取り除ける薬方を考えなければならない事は当然である。従って柴胡剤(胸脇苦満、食欲不振)で瘀血も治せる薬方と言う事になり、加味逍遙散が考えられる。
 次に前者の考え方、すなわち「気と水」の方に胸脇苦満をおいた場合を考えてみよう。当然、柴胡剤が考えられ、汗が出にくいので実証ととった場合、痛み(上腕痛)が精神的なものより来ているのであれば、柴胡加竜骨牡蛎湯などを考える事もあるが、この患者は使い痛みより来ているため該当する薬方はない(痛みが胸脇苦満に由来するものであれば強くても治る。また柴胡剤としてすできあげている薬方に限定しているので該当する薬方はないのであって、加減方も考えれば対応する薬方は作れる)。とすれば涙が出やすいと言う症状を取って、虚証まで考えれば柴胡桂枝湯が考えられる。とすれば残りの症状で「血と気と水」の薬方を考えなければならない事になる。残った症状は、汗が出にくい、不眠、アザ、のぼせ、耳鳴、夜間排尿(痛みのため)であるので解毒剤、下焦の疾患、駆瘀血剤(瘀血単独の症状でないので省略)、加味逍遙散の中で該当するものは防風通聖散と八味丸が考えられる。この患者が老齢である事、やせ型である事を考えれば八味丸の方がよりよいと思える。いま、八味丸だけであるならば、食欲不振があるので使用できないが、柴胡桂枝湯が合方されるので使用できる。
 以上のように麻杏薏甘湯と加味逍遙散あるいは柴胡桂枝湯と八味丸が考えられるが農作業の使い痛みより起こった事を考えれば麻薏甘湯と加味逍遙散の方が良いと思う。




※このようにアレルギー体質であるとか、腺病質であるとか、
  原文は「線病質」であったが、「腺病質」に訂正。
  腺病質とは滲出性(しんしゅつせい)あるいはリンパ体質(アレルギー、湿疹などになりやすい体質)の小児や無力体質(体力のない体質)、神経質のこと。

※承気湯類などはほとんど体質改善を行なうことは出来ないものである。
 承気湯類の中でも、桃核承気湯は駆瘀血剤でもあるので、体質改善できる。
 ただし、桃心の品質に注意。
 また、ここで書かれている体質できない漢方薬でも飲み続けていれば、薬効とは関係なく、年齢などで、改体は変わる可能性はある。

※体質改善の出来る薬方を合方する方が良い事は言うまでもない。
 体質改善の薬方を合方すると、薬味が増え、薬効が弱まる可能性もあるので注意。
 症状が激しい時は、「先急後緩」で体質改善は後にした方が良いかも。

※相応の処置
 裏証Ⅰ(安中散等)や柴胡剤等を合方する、人参を加えるなど。

※駆瘀血剤では桂枝茯苓丸、加味逍遙散
 単に、血-気ー水 であれば、駆瘀血剤として桂枝茯苓丸も候補となるが、
 気-水 + 血=気-水 のように、合方する場合は
 血-気-水の駆瘀血剤は加味逍遙散のみのはずなので、桂枝茯苓丸は候補とはならない。

※芍薬甘草湯を頓服
 芍薬甘草湯は二味であるから効果があり、合方して薬味が増えると効果が弱くなるため頓服にする。基本的に芍薬甘草湯は合方しないのが村上先生の考え方。



 

2019年8月13日火曜日

生薬の配剤から見た漢方処方解説(11)

誌上漢方講座 症状と治療
生薬の配剤から見た漢方処方解説(11)
 村上 光太郎
  a、調胃承気湯、防風通聖散、通聖消毒飲(図45参照)
 調胃承気湯は大黄と芒硝による下剤であるが、これに消炎作用の山梔子、連翹と、心下痞を治す黄芩、発汗、健胃生薬の薄荷を加えた薬方が涼膈散である。従って本方は心下痞があり、体表には炎症がある人に用いる薬方であるが、症状は激しく、実証の人に用いる薬方であることがわかる。これに駆瘀血生薬の当帰、芍薬、川芎を加え、更に体表の駆水生薬の麻黄、防風と、全身の駆水生薬の白朮、胃内停水を除く生姜、解熱作用の滑石、石膏を加え、桔梗と荊芥、連翹による消炎、排膿作用を加えたものが防風通聖散である。本方より駆水作用のある生姜、白朮、解熱作用の石膏を除いて、解毒作用のある牛蒡子を加えたものが通聖消毒飲でうる(連翹を欠けている)。しかし体表の駆水生薬である防風、麻黄や、解熱作用のある滑石等は残っているため、ほとんど防風通聖散と同じ薬効果を現すことがわかる。
  f、温清飲、柴胡清肝散、荊芥連翹湯、竜胆瀉肝湯(図46参照)
 温清飲は柴胡清肝散、荊芥連翹湯、竜胆瀉肝湯(一貫堂方)の基本となっている。温清飲はいわずもがな、四物湯(駆瘀血剤)と黄連解毒湯(心下痞、精神不安)の合方であり両方の薬能を現しているが、これに胸脇苦満を治す柴胡(量が少ないため、体質改善薬となる)、消炎、排膿作用をもつ桔梗、連翹、解熱作用の天花粉(瓜呂根)、薄荷、解毒作用のある牛蒡子を加えたものが柴胡清肝散であり、皮膚に炎症あるいは排膿があり、心下痞や精神不安と共に瘀血症状のある人の体質改善をして治そうとするものである。柴胡清肝散より天花粉と牛蒡子を除き、表の発汗剤である防風、鎮痛、鎮静剤である白芷を加え、気うつの順気剤である枳殻を加え、更に荊芥を加えて桔梗、荊芥、連翹を完全としたものが荊芥連翹湯である。従って柴胡清肝散と基本的には同じであるが、柴胡清肝散の場合には直接的に牛蒡子を加えて強く排膿していたのが除かれ、鎮痛作用のある白芷を加え、体質的な病毒を除こうとしている薬方である。柴胡清肝散の柴胡、桔梗、天花粉、牛蒡子を除き、健胃剤の竜胆、利尿剤の沢瀉、木通、車前子を加えたものが竜胆瀉肝湯で、柴胡清肝散は体毒と共に体表の毒を除こうとするのに反して、体毒を利尿に導き、治そうとするものである。ところで竜胆瀉肝湯には一貫堂方と異なる薬方が一般には用いられており、これは四物湯より芍薬、川芎が除かれ、黄連解毒湯より黄連、黄柏が除かれた薬方に、甘草と竜胆、沢瀉、木通、車前子が加えられた薬方である。従って駆瘀血作用や解毒作用は弱くなるが、駆水作用は一貫堂方と同じであることがわかる。
 以上のように考えていただければ、すべての薬方の解理ができるわけで、処方(薬方)名ばかりに目をおけるのではなく、配剤された生薬が何であるかに目を向けていただければ、合方、加減方などが誤りなく行なえる。
 ところで、これらの薬方を用いる場合には、どのようにしたら無理なく、自由に使用できるかというと、まず、病人の病変の程度を、病状より気・血・水で把握し、
 一、もし気の症状のみ、あるいは気の症状に、無視できる程度の血あるいは水の症状がある場合には気よりなっていると考え、順気剤を用いる。
 二、もし血の症状のみ、あるいは血の症状に、無視できる程度の気あるいは水の症状がある場合は瘀血であると考え、駆瘀血剤を用いる。
 三、もし水の症状のみ、あるいは水の症状に、無視できる程度の気あるいは気の症状がある場合は瘀水であると考え、駆水剤を用いる。
 気・血・水の各症状が混在する場合は、吉益南涯の気血水説に従って、次のように分類する。
 四、もし気と血の症状の時、あるいは気と血の症状に、無視できる程度の水の症状がある場合は瘀血であると考え、駆瘀血剤を用いる。
 五、もし気と血と水のすべての症状があれば、駆瘀血剤、解毒剤(図47参照)、下焦の疾患(図48参照)、加味逍遙散等より選用する。
 六、もし気と水の症状の時、あるいは気と水の症状に、無視できる程度の血の症状がある場合は気と水の病気と考え、更に表、半表半裏、裏、上、中、下等を考えて用いる。なお以下は順序どおりに使用を考えるものとする。従って上位の症状がないか、あるいはすでに上位の薬方が与えられたが症状が残った時には下位の薬方を考えるようにする。
 ①、胸脇苦満があるならば、まず柴胡剤を用いる。
 ②、表証の症状のみ、あるいは少し半表半裏の症状がある程度ならば、表証、麻黄剤、皮膚疾患の薬方を選用する。
 ③、中焦の症状が主な時は、建中湯類を用いる。
 ④、裏証の症状が主な時は、冷えがある程度の時は裏表Ⅰの薬方を、更に冷えが強く、新陳代謝が衰えている時は裏証Ⅱの薬方を用いる。
 ⑤、便秘の症状だけに時は、承気湯類を用いる。
 ⑥、心下痞の症状がある時は、瀉心湯類を用いる。
 ⑦、口渇、漏水の症状を主としる時は、白虎湯類を用いる。
 ⑧、以上のいずれにも属しない場合は、(血と気と水)あるいは(気と水、気と血)あるいは(気と水、血と気と水)のいずれかに考えなおし、再度、それらの薬方を考える。
 以上のようにして病人の証と薬方の証を結びつける(随証療法)のは比較的簡単であるが、病人の証の把握のためには、病人の症状を気・血・水に分類必要がある。しかし種々の症状を血にとったり、気にとったりするなど、人によりマチマチである事は少なくない。従って参考までに、私の用いている方法を記すますのでご利用ください(図49参証)。
 すなわち、全身の所の高熱、微熱、悪寒より下の、少し太い線で囲まれた、すなわち首、肩、背の所では首筋がこるから背部がだるいまで、胸の所ではつまる感じから心悸亢進まで、小便の所では無色から普通まで、などの症状群は気・血・水のいずれによっても起こらない症状か、あるいは気・血・水のいずれによっても起こる症状であるため、その症状であるため、その症状だけでは気・血・水の判断がつかない症状群である事を示している。
 次の太い線でかこまれた、すなわち全身の所では精神不安や興奮しやすい、のど、口、舌の所ではのどが痛いから声がかれるまで、腹の所では蠕動亢進などの症状群は気の症状であることを示している。
 次の太い線でかこまれた、すなわち全身の所では浮腫、蟻走感、皮膚の所では分泌物から腫物まで、のど、口、舌の所では口内炎、胸の所では喘鳴からケイレン痛、息切れまでなどの症状群、および少し離れた所にある排尿の所の出にくいから残尿感までの症状群は、気によっても起こる症状であるし、水によっても起こる症状であるため、これらの症状だけで気より起きたとか、水より起きた症状であると断定できない症状群である事を表している。
 次の太い線でかこまれた、すなわち顔の所ではあれるから青黒いまで、全身の所では身体動揺感から多汗までと、少し離れたところにある、頭の所では頭汗、胸の所では胸水、痛む、胃の所では胸やけから嘔吐までと、更に少し離れたところにある、大便の所では下痢便から粘液便、兎糞便まで、排尿の所では一回量(多い、少ない)の症状群は水によって起こる症状である事を示している。
 次の太い線でかこまれた、すなわち顔の所ではしみ、赤黒い、皮膚の所では紫斑が出来やすいからアザまで、婦人科の不妊症から月経困難(軽い、ひどい)まで、小便の所の赤味がかる、血尿などの症状群は、血によって起こる症状である事を示している。
 次の太い線でかこまれた、すなわち全身の所の不眠、手の所のマヒ感などの症状群と、少し離れた所にある頭の所ののぼせから耳鼻の所の鼻血までの症状群と、更に少し離れた所にある、腹の所の膨満感、足、腰の所のマヒ感などの症状群は血によっても起こる症状でもあるし、気によっても起こる症状でもある事を表している。従って当然、これらの症状だけで血より起きたとか、気より起きた症状であるとは断定できない症状群である事を表している。
 以上の事を頭に置いて、実際の病人にあたり、例えば気の所だけあるいは気の所の症状が多く、気または水、あるいは血または気の所の症状が少ないか、それほど重要な症状でない時は気の病として順気剤を用いる。
 同様に水の所だけあるいは水の所の症状が多く、気または水、あるいは水または血の所の症状が少ないか、それほど重要な症状でない時は水の病として駆水剤を用いる。
 また血の所だけあるいは血の所の症状が多く、水または血、あるいは血または気の症状が少ないか、それほど重要な症状でない時は血の病として駆瘀血剤を用いる。
 しかし、気の所、気または水の所、水の所に症状が多く、血および血または気の所に症状がないか、またはそれほど重要な症状でない時は気と水の病と考え、各種の薬剤を考える。
 また気の所、血の所、または気の所に症状が多く、気また水、水または血の所に症状が少ないか、それほど重要な症状でない時は気と血の病として駆瘀血剤を用いる。
 更に全体に症状があれば、すなわち、気の所、気または水の所、水の所、水または血の所、血の所、血または気の所に症状がちらばっていれば水と気と血の病として考え、各種の薬剤を用いる。
 これらに、先に述べた方法を組み合わせて考え正しい薬方を使用していただきたい。
 それでは実際に二~三の例にあたって見ると、図50では症状は気と水の病であるため、順番に見て行くと、まず胸脇苦満はないので①ではない。次いで症状のある位置を見るとほとんど表証であることがわかる。従ってこの人には表証、麻黄剤、皮膚疾患の薬方より選べばよい事がわかる。表証の薬方は純粋に表の症状のみに近く、麻黄剤はかなり半表半裏の症状を含み、皮膚疾患の薬方は皮膚の異常が主となるので、この人には表証の薬方を用いれば良い事がわかる。しかしこの人は多汗症であり、しかも疲労倦怠感があるので虚証である事がわかる。従って虚証の薬方である桂枝湯を用いればよいことがわかる。
 図51でも症状は気、気と水、水の所にあるため気と水の病である。従って順番に見て行くと、胸脇苦満はないので①ではない。胃の痞え、腹鳴などの症状があるため表証の症状のみあるいは多いとも言えないので②でもない。下痢、口苦い、首筋がこるなどがあるので中焦が主であるとも言えない。また裏証が主でもない。従って③、④ではない。下痢をしているので便秘ではないので⑤でもない。胸がつまる感じ、つかえるなどより考えると心下痞が考えられる。従って瀉心湯類を用いることがわかる。
 以上のようにして考えていただければ随証療法も容易になるでしょう。
                              (おわり)




※本方は心下痞があり、体表には炎症がある人に用いる薬方であるが
歯痛に用いる薬方として有名。
瀉心湯類? 承気湯類?

※通聖散毒飲
文中は通聖消毒散となっていたが、見出しと合わせ通聖消毒飲に訂正。

※柴胡清肝散、荊芥連翹湯、竜胆瀉肝湯(一貫堂方)は、解毒証体質に使われる薬方。


※柴胡清肝散の場合には直接的に牛蒡子を加えて強く排膿していたのが除かれ、
 原文は
 柴胡清肝湯の場合には直接的に牛蒡子を加えて強く排膿していたのが除かれ、
 であるが、湯を散に訂正

※ところで竜胆瀉肝湯には一貫堂方と異なる薬方が一般には用いられており、
 原文は
 ところで竜肝瀉肝湯には一貫堂方と異なる薬方が一般には用いられており、
 であるが、肝を胆に訂正

 一般の竜胆瀉肝湯は、薛立斎(せつりつさい)のもの。
 医療用の漢方エキス剤では小太郎のものが一貫堂方で、他社の竜胆瀉肝湯は薛氏の薬方。
 
※これは四物湯より芍薬、川芎が除かれ、
 原文は
 これは温清飲より芍薬、川芎が除かれ、
 であり、間違いではないが、後で黄連解毒湯が出てくることから、四物湯の方が適当。

※⑦から⑧に移る前に、(気と水)+(気と水) で考える。

※気の所、血の所、または気の所に症状が多く、気また水、水または血の所に症状が少ないか、それほど重要な症状でない時は気と血の病として駆瘀血剤を用いる。
原文は、
気の所、血の所、または気の所に症状が多く、気また水、水または血の所に症状が少ないか、それほど重要な症状でない時は血の病として駆瘀血剤を用いる。
と「血の病」となっているが、訂正。
ただし、使う薬方は駆瘀血剤で同じ。

※桂枝湯を用いればよいことがわかる。
 首筋がこる、肩こりがあるので桂枝加葛根湯の方が良いのでは? と村上先生に質問したことがあるが、そこまでは必要ないだろうとのことだった。

※従って瀉心湯類を用いることがわかる。
 瀉心湯類の中の半夏瀉心湯か?
 精神不安が強ければ甘草瀉心湯か?
 嘔吐が強ければ生姜瀉心湯か?

2019年8月3日土曜日

生薬の配剤から見た漢方処方解説(10)

誌上漢方講座 症状と治療
生薬の配剤から見た漢方処方解説(10)
 村上 光太郎

 I、駆水剤
  a、桂枝甘草湯、苓桂朮甘湯、茯苓甘草湯、苓姜朮甘湯(図36参照)
 桂枝甘草湯は、桂枝と甘草が配剤されたもので、桂枝の発汗作用、気の上衝を押える作用に甘草の急迫症状の緩解作用が加わり、心下悸が強く、自分で胸を押えなくては安心できない時に用いる薬方である。
 本方に茯苓、白朮を加えた苓桂朮甘湯は、茯苓と桂枝、甘草による心悸亢進やめまいを治す作用と茯苓白朮の胃内停水を除く作用、桂枝と白朮および茯苓の利尿作用が配剤されている。従って胃内停水があり、尿利減少しているため、その水により各種の異常を起こすものに用いる。この場合、桂枝が配剤されているため、気の上衝を治す作用があることは当然である。従って水毒は上焦へと向かっている事を表わしており、心悸亢進やめまいを生じるようになった人に用いる薬方となっている。
 これが苓姜朮甘湯になると、桂枝がないため、茯苓と白朮や乾姜の胃内停水を除く作用、乾姜による新陳代謝を亢めて温める作用だけとなるため、水毒は上焦へとは移動せず、下焦へと集まり、その部位に溜まるようになる。従って、胃部から腰部にかけて、水のため冷えを感じるようになる。本方の目標に「水中に坐せるが如く、また五千金を帯ぶるが如し」とあるのはこの水毒のためである。
 茯苓甘草湯は苓桂朮甘湯より白朮を除き、生姜を加えたもので、茯苓と桂枝、甘草の心悸亢進やめまいを治す作用と、桂枝と茯苓の利尿作用、生姜の胃内停水を除く作用がある。
 基本的には苓桂朮甘湯と同じであるが、苓桂朮甘湯の方には白朮が加わるため、胃内停水、利尿作用などの症状は茯苓甘草湯よりも強い時に用いる薬方である事がわかる。言い換えれば、苓桂朮甘湯は茯苓甘草湯より実証の薬方である事がわかる。
  b、苓桂朮甘湯、苓桂甘棗湯、苓桂味甘湯(図37参照)
 この三方の違いは白朮か大棗か五味子かの違いである。この三種の生薬のうち、白朮のみは茯苓ないし桂枝との配剤により薬効が変化する生薬であるが、大棗や五味子の薬効は変化せず、相加作用のみしかない。すでに「生薬の配剤から見た漢方処方解説(2)」の所で述べたように、鎮咳剤としては、五味子の方が大棗より実の薬味であり、大棗には精神的なものが加わる。他の薬味、すなわち茯苓、桂枝、甘草は三方とも共通であり、気の上衝のため、水毒は上焦に向かっており、心悸亢進やめまいを治す作用を持っている事は言うまでもない。
  c、猪苓湯、苓桂朮甘湯、五苓散、茯苓沢瀉湯、茯苓甘草湯、茯苓甘棗湯(図38参照)
 猪苓湯は茯苓と沢瀉、猪苓の尿利をよくする組み合わせに滑石の消炎、利尿、止渇剤と阿膠の止血剤を加えたものであり、尿の出が悪く、しかも血尿、蛋白尿など出ているものに用いる薬方である。しかし、桂枝がないため、本方の水毒は上焦には向かいにくいが、下焦の炎症が激しい時は、その熱によって気の上衝とともに水の上衝が少し加わる場合もある。
 五苓散は、苓桂朮甘湯の甘草を除き、沢瀉、猪苓を加えたもので、茯苓と甘草、桂枝の組み合わせが、茯苓と桂枝だけとなり、心悸亢進やめまいが少し弱く、反対に茯苓、沢瀉の利尿作用が桂枝と白朮または茯苓の利尿作用と重なるため、利尿作用は非常に強くなっている。従って五苓散は水毒が非常に強いため、「類は友を呼ぶ」と言われるように、水毒のため水を飲みたくなり、煩渇飲引と言われるほど、すなわち、いくら水を飲んでも飲みたりないほど強い時に用いる薬方である。
 これが茯苓沢瀉湯になると、茯苓と猪苓、沢瀉の組み合わせが茯苓と沢瀉だけとなり、利尿作用は少し弱くなるが、甘草が配剤されたため、茯苓と桂枝、甘草の組み合わせは完全となり、心悸亢進やめまいを治す作用も完全となる。また、生姜が配剤されているため、茯苓と白朮の組み合わせとともに作用して、胃内停水を治す作用は更に強くなっている。従って本方は利尿作用は強くなるが、胃内停水や心悸亢進、めまいなども強くなっていることがわかる。本方より更に沢瀉を除いて、利尿作用を弱めた形の薬方が苓桂朮甘湯である。この事は逆に考えれば、水毒が強く、その水毒を体外に強く排泄しなければならない時は五苓散を、それに対して水毒が少し弱くなれば茯苓沢瀉湯を、更に弱くなり、桂枝と茯苓、白朮だけでたりる程度であれば、苓桂朮甘湯を用いれば良いと言う事を表わしており、水毒の事より考えれば、一番実証の薬方が五苓散、ついで茯苓沢瀉湯であり、苓桂朮甘湯が更に虚証の薬方であることがわかる。
 茯苓甘草湯は、茯苓沢瀉湯より白朮を除き、 桂枝と白朮の利尿作用、茯苓と白朮の胃内停水を除く作用が除かれ、生姜の胃内停水を治す作用、桂枝と茯苓の利尿作用、茯苓と桂枝、甘草の心悸亢進やめまいを治す作用だけとなるため、茯苓沢瀉湯より虚証の薬方となる。
 本方と苓桂朮甘湯を比べても、本方には生姜の胃内停水を除く作用が加わっているが、茯苓と白朮の胃内停水を除く作用が減少し、更に桂枝と白朮の利尿作用が除かれているため、水毒は苓桂朮甘湯よりも弱い事がわかる。
 茯苓甘草湯と苓桂甘棗湯との違いは、胃内停水を除く生姜を配剤するか、精神的(急迫的な)咳嗽を治す大棗を配剤するかの違いである。従って両方の薬方とも茯苓と桂枝、甘草の心悸亢進やめまいを治すとともに、桂枝と茯苓の利尿作用があり、茯苓甘草湯は胃内停水が、苓桂甘棗湯は咳嗽がある場合に用いる薬方である事がわかる。また、これら両方とも苓桂朮甘湯より茯苓と白朮の利尿作用が欠けているため、茯苓甘草湯(生姜の胃内停水を除く作用はあるが、茯苓と白朮の組み合わせによって起こる胃内停水を除く作用より弱い)も苓桂甘棗湯も苓桂朮甘湯版り虚証の薬方である。
  d、苓桂甘棗湯、良枳湯(図39参照)
 苓桂甘棗湯は良枳湯に含まれている。良枳湯は茯苓と桂枝、甘草の心悸亢進やめまいを治す作用と、茯苓と桂枝の利尿作用、大棗の精神的な咳嗽を治す作用 などの苓桂甘棗湯証に更に半夏と枳実と良姜が加わった薬方となっている。従って半夏はすでに配剤されている甘草、大棗とともに鎮痛剤となり、枳実は気うつの順気剤であるため、心悸亢進、めまい、利尿、咳嗽、鎮痛のすべての作用が増強され、更に良姜による健胃作用も強まっている。
  e、平胃散、四苓湯(五苓散)、分消湯(図40参照)
 分消湯は平胃散より甘草、大棗を除き、四苓湯(五苓散より桂枝を除いたもの)と木香、香附子、枳実、大腹皮、縮砂、燈心草を加えたものであり、平胃散、四苓湯の薬効に、更に駆瘀血(香附子)、健胃(枳実、大腹皮、木香、縮砂)、利尿(大腹皮、燈心草)を加え、枳実による作用の増強が加わったものである。ところで、平胃散は蒼朮の麻痺作用に生姜の胃内停水を治す作用、陳皮の健胃作用が加わり、これらの作用が順気生薬の厚朴により強められている薬方である。また、四苓湯は五苓散より気の上衝を治す桂枝が除かれた薬方であるため、茯苓と白朮の胃内停水を除く作用、茯苓と沢瀉、猪苓の利尿作用だけとなっている。しかし、これらの作用は分消湯では平胃散の厚朴と更に加えられた枳実により強められているため、分消湯の水毒は五苓散より強く、更に健胃作用と駆瘀血作用が加わった薬方である事がわかる。
 j、その他
  a、不換金正気散、藿香正気散、平胃散、二陳湯(図41参照)
 不換金気散、藿香正気散の両方とも平胃散、二陳湯(去茯苓)を含んでいる。二陳湯(去茯苓)は半夏と生姜の鎮嘔作用、半夏と甘草(不換金正気散と藿香正気散は更に大棗が加わっている)による鎮痛作用、陳皮の健胃作用が含まれている。この二陳湯(去茯苓)に更に健胃剤の藿香、順気剤の厚朴、麻酔作用のある蒼朮が加えられたものが不換金正気散である。
 言い換えれば、平胃散に半夏と藿香を加えたものであり、急に起こった痛みを蒼朮によって麻酔し、また半夏と大棗、甘草の鎮痛作用も相乗的に働かせて痛みをとるとともに、陳皮、藿香の健胃作用、半夏、生姜の鎮嘔作用によって症状の緩解を図り、これらに順気生薬の厚朴が加えられて、更に強力な薬方となっているのが不換金正気散であるといえる。従工て不換金正気散は平胃散のように体力のあまり衰えていない、急性病的な症状に用いる部分(蒼朮)と各種の健胃生薬によって慢性的な症状を治そうとする部分を含んでいる。この不換金正気散より麻酔作用のある蒼朮を除き、鎮痛、鎮静作用のある白芷、利尿作用のある大腹皮、白朮、順気剤の蘇葉、排膿作用のある桔梗を加えたものが藿香正気散である。従って、水毒は藿香正気散の方が不換金正気散よりも強く、藿香正気散には排膿作用も加わっているが、不換金正気散のような麻酔性の鎮痛作用がないため慢性的な消化器系疾患に用いる薬方であることがわかる。
  b、小半夏湯、二陳湯、温胆湯(図42参照)
 半夏の鎮嘔作用を目的にすれば、小半夏湯となり、これを胃内停水を除くために、茯苓を加えたものが小半夏加茯苓湯である。更に健胃生薬である陳皮を加えれば二陳湯となり、胃が弱く、胃内停字によって嘔吐、悪心のあるものに用いるようになる。この二陳湯に解熱、止渇作用のある竹筎を加え、順気生薬の枳実を加えて作用を強力としたものが温胆湯であり、同様に胃が弱く、胃内停水によっては嘔吐、悪心はあるが、内熱により水の上衝が非常に強く、熱と水のため不眠を訴えるようになったものに用いる薬方であることがわかる。不眠が更に強くなれば、本方に黄連と酸棗仁を加えて用いられる。
  c、十味敗毒湯、荊防敗毒散(図43参照)
 十味敗毒湯と荊防敗毒散の違いは、十味敗毒湯には桜皮が配剤されているのに対して、荊防敗毒散には羗活、前胡、薄荷、連翹、金銀花、枳実が配剤されている事である。共通の部分は茯苓の駆水剤とともに、発汗、解熱剤の独活、防風、胃内停水を除く生姜、駆瘀血剤の川芎、桔梗と荊芥による消炎と排膿作用、柴胡の胸脇苦満を治す作用(実際は配剤量が少ないため、胸脇苦満とは現れず、胸のあたりが変だとか、アレルギー体質、虚弱体質などの体質改善が必要であるという事だけの事が多い)などがある。従って十味敗湯更には更に収れん、解毒作用、すなわち、皮膚病を治す桜皮とともに作用するので、胃内停水のみならず体表にも水毒があり、瘀血も少しあって、体表には炎症あるいは膿が溜りやすい体質傾向の人に用いる薬方である。荊防敗毒散は十味敗毒湯の桜皮を金銀花に替えて浄血、解毒作用とし、更に発汗剤となる羗活、薄荷、および鎮咳、去痰剤となる前胡を加え、更に連翹を加えることにより、桔梗と荊芥の組み合わせろ桔梗と荊芥、連翹の組み合わせとして完全とし、気うつの順気剤を加えて配剤された薬味の数の増加による作用の低減を防ぐとともに、増強された発汗作用を更に強力とした薬方である。従って、荊防敗毒散は十味敗毒湯より実証の薬方となっている。
   d、大承気湯、加味承気湯、通導散(図44参照)
 通導散には万病回春に記載の薬方と、一貫堂方では芒硝の有無が般なるが、芒硝は大黄とともに配剤されている事を考えれば、万病回春方が、一貫堂方より少し実に用いる薬方である事がわかる。
 さて、これらの薬方の基本となっている大承気湯あるいは大承気湯去芒硝は、大黄と芒硝(あるいは大黄のみ)の下剤の作用が、枳実、厚朴の順気生薬によって強められている薬方であり、強烈な下剤である。これに当帰、紅花の駆瘀血生薬を加え、甘草の諸薬の調和作用を加えたものが、加味承気湯であり、当帰や紅花の駆瘀血作用を下剤および気うつの順気剤により強い駆瘀血剤として、瘀血を強く排除しようとする薬方である。この加味承気湯に更に駆瘀血生薬の蘇木、気うつの順気生薬の帰国を加えて強力とし、合わせu健胃生薬の陳皮、利尿作用の木通を加え、水毒までも治そうと考えたのが通導散である。  (以下次号につづく)


※大棗や五味子の薬効は変化せず、相加作用のみしかない。
 桂枝+大棗(止汗作用)の薬効は現れないのか?

※従って本方は利尿作用は強くなるが、胃内停水や心悸亢進、めまいなども強くなっていることがわかる。
 猪苓が無い分、利尿作用は弱くなっているのでは?

※本方より更に沢瀉を除いて
 本方より更に沢瀉(と生姜)を除いて
 
※茯苓甘草湯は、茯苓沢瀉湯より白朮を除き、
 茯苓甘草湯は、茯苓沢瀉湯より白朮と沢瀉を除き、

※良枳湯は茯苓と桂枝、甘草の心悸亢進やめまいを治す作用と、茯苓と桂枝の利尿作用、大棗の精神的な咳嗽を治す作用iなどの苓桂甘棗湯証
桂草+大棗の止汗作用が書かれていないのは何故?

※藿香正気散
 胃腸薬や駆水剤としてよりも、夏風邪に使う漢方薬として有名。何故?

※これを胃内停水を除くために、
 これに胃内停水を除くために、

※本方に黄連と酸棗仁を加えて用いられる。
 加味温胆湯

※桜皮
 十味敗毒湯には桜皮を使うものと樸樕を使うものとがある。

※気うつの順気剤
 薄荷、枳実

※荊防敗毒散は十味敗毒湯より実証の薬方
 医療用漢方製剤には、十味敗毒湯はあるが、荊防敗毒散は無い。
 このため荊防敗毒散が使われる頻度は低いと思われる。
 『勿誤薬室方函口訣』には、十味敗毒湯は荊防敗毒散の加減方と記されている。
   荊防敗毒散は『万病回春』、十味敗毒湯は華岡青洲の創方。

※大承気湯去芒硝
 =小承気湯