健康情報: 4月 2012

2012年4月22日日曜日

小建中湯(しょうけんちゅうとう) の 効能・効果 と 副作用 (その2)

勿誤方函口訣〉 浅田 宗伯先生
此方は中気虚して腹中の引っぱり痛むを治す。すべて古方書に中と云ふは,脾胃のことにて建中は脾胃を建立するの義なり。此方は柴胡別甲,延年類,解労散なとの如く,腹中に痃癖(硬結)ありて引ぱり痛むと異にして唯血の乾き, 俄に腹皮の拘急する者にて,強く按ぜば底に力なく,譬えば琴の糸を上より按すが如きなり。積聚腹痛などの症にしても,すべて建中は血を潤し,急迫の気を緩むるの意を以て,考え用ゆべし。全体腹ぐざぐざとして力無く,その内にここかしこに,凝りある者は此湯にて共あり,即ち後世大補湯,人参栄養湯の祖にして補虚調血の妙を寓す。症に臨んで汎く運用すべし。」

古方薬嚢〉 荒木 性次先生
腹中急に痛む者,その痛み工合は引っぱられるように痛むもの多し。胸の動悸高き,身体疲れ易く,手足の裏ほてり,時に鼻血を出したり,腹痛したり,動悸したり,手足だるく絞められるように痛みたり,又は唇口中などはしゃぐ者,顔色勝れず,身体痩せ,動悸したり,腹痛みたりして小便の回数多き者などに本方の証多し。しかし,身体肥え,顔色良くして,本方の証の者もあり,いわゆる見掛け倒しの体格というべし。

 〈漢方の臨床〉 第16巻第8号 竜野 一雄先生
(1) 名称
建とは「体を高く立てて歩く」ことで(漢字語源辞典)人篇をつければ健となり、建中とは弱まった脾胃をおぎなってしゃんとさせることである。小は大に対していう言葉で,大建中湯が脾胃の虚と寒が強いのに対して小建中湯はただ脾胃の虚だけで寒はない。症状も大建中湯ははげしい時があるが,小建中湯の方はそんなことはない。

(2) 処方の構成
小建中湯は桂枝加芍薬湯の甘草を増量し,膠飴を加えたものである。(中略)
桂枝は気味辛温で,衛気を補い,腎の陽気を補い,腎の陽気の虚によって起る上衝,頭痛,悸,小便不利等を治す。
芍薬は気味苦平で,栄気を補い,大量に使うときは裏の陰気を補い,血虚による筋急(傷寒論弁脉法3)を緩め,背,腹の筋緊張を治す。また火生土の五行相生の関係から脾を補う作用がある。
甘草は気味甘平で,心胸の陽気,胃気を補い,また急迫を治す。
大棗は気味甘平,薬能は甘草とほぼ似ているが,甘草は全身的に,大棗は胸に作用することが多い。
生姜は気味辛温で,甘い薬が胃になづむことを防ぎ,併せて心胸の陽気を補う。
膠飴は気味甘平で,専ら脾胃の虚を補う。

(3) 用途
1 症状
桂枝加芍薬湯は腹部だけの局所的疾患が対象になるが,小建中湯は腹部と全身的にもっと疲労性が加わったもの,全身的に虚労の状態で処方内の薬物の有効な範囲の疾病に対して使われる。但し小建中湯は一番虚労の場合に使うことが多いが,傷寒論にも出ているように虚労でなくとも太陰病などで使うこともある。
虚労は金匱要略消渇小便利の237条に虚は衛気の不足で,労は栄気が竭きたものだと書いてある。即ち虚労とは栄衛の虚を云ったことがわかる。金匱要略虚労病を見ると虚労は決して一種類ではなく,上の心胸の虚労は炙甘草湯,中の脾胃の虚労は小建中湯,下の腎の虚労は桂枝加竜骨牡蛎湯,天雄散,八味丸が使われ,その他,表裏の虚労は黄耆建中湯,肝の虚労は酸棗仁湯,血の陰気の虚労は大黄蟅虫丸,気血の虚労は薯蕷丸が使われる。
小建中湯の適応症になる虚労の主な症状は金匱要略の虚労病を読むとわかるが,その症状を全身的と局所的とに分けると
全身的には疲労感,貧血,発汗,盗汗,手足煩,目眩
局所的には胸部なら喘,悸,息切れ,胸満,腹部なら下痢,腹満,食欲不振,下腹部なら陰痿,失精,少腹弦急,小便不利又は自利,夜尿,背部なら肩こり,最長筋の凝り,疲労感,腰痛,頸部ならリンパ腺腫脹などが起こる。
 虚労とは瘀血は自覚症と他覚症との間に対応でなく反って矛盾があることがしばしば観察される。
 例えば他に熱証がないのに手足煩,咽乾口燥し,年令はまだ若いのは五六十才ぐらいの老人性の症状が出たりする。
 ことに症状と脉との間には矛盾を認めることが多い。例えば 表証がないのに脉は浮になったり,腹鳴や頸部リンパ腺腫脹があって脉は沈か弦になりそうなのに大脉であったり,虚寒なのに脉は弦而だったりする。



※蟅:本来は庶の下に虫。蟅で代用。



漢方古方要方解説 奥田謙三著 医道の日本社刊
小建中湯<ショウケンチュウトウ>(傷寒論及金匱要略)
桂枝 生薑 大棗各一・八 甘草一・二 芍薬三・六 膠飴一六・〇
右六味、水一合四勺を以て、先づ五味を似て六勺を取り、滓を去り、後膠飴を入れ、更に微火にて溶解せしめ、之を一回に温服す(通常一日二、三回)。
「嘔家ハ建中湯ヲ用フ可ラズ。甜キヲ以テノ故也。」
此の方、成本に在りては甘草の量稍や多く、金匱要略に在りては生薑の量稍や少なし。今、類聚方広義の改むる所に従ふ。
此の方、能く中気を建立す。故に之を建中湯と名くと。
又、小と称するは、其の大建中湯に比して作用緩和なるを以てなり。
此の方は、桂枝湯の去加方と見做すべきものにして、即ち其の原方中に於て芍薬を増量し、更に膠飴を加味せるものなり。然るに成方の上より之を見れば、膠飴は本方の主薬なり。

薬能
膠飴 コゥイ しるあめ(汁飴)、若くは其の固形柔軟なるもの。其性能
薬徴続篇に云く
「膠飴ノ功ハ蓋シ甘草及ビ蜜ニ似タリ。 故ニ能ク諸々ノ急ヲ緩ム」と。
又、古方薬議に云く
「味甘温、虚乏ヲ補ヒ、気力ヲ益シ、痰ヲ消シ、嗽ヲ止メ、五臓ヲ潤ホス」と。

本方証
小建中湯の証として、傷寒論に挙ぐる主なるものの要を摘めば
(一)傷寒、脈渋弦にして、当に腹中急痛すべき証。(太陽病中篇)。
(二)



明解漢方処方 西岡 一夫著 ナニワ社刊
p.48
小建中湯(しょうけんちゅうとう) (傷寒論,金匱)

処方内容 桂枝 大棗各四・〇 芍薬六・〇 甘草 生姜各二・〇(一八・〇) 以上の煎剤に膠飴二〇・〇を溶解する。

必須目標 ①虚弱体質で疲労し易い。 ②小便の回数も量も多い。 ③腹壁薄く直腹筋拘攣している。 ④痩型で寒さを嫌う ⑤食慾異常なし

確認目標 ①口中乾燥(体液の欠乏) ②心悸亢進 ③腹痛 ④衂血 ⑤手掌足心煩熱 ⑥夢精 ⑦下痢


初級メモ ①本方の目標は虚労である。虚労とは精神や肉体を使って起した疲労でなく、虚弱虚弱体質の貧血性の疲れを指し仮令え丈夫な体の者でも病後には、一時的にこの状態になる。もっとも虚労の名称は古方のものでなく後人の名付けたものであろう。
 ②虚労して貧血し腹中冷えて腹筋ひきつれ腹痛するのが本方の正証であって、上逆に二次的な客証である。
 ③本方の建中湯の名称は、多分後人の作で南涯は古今録験(書名)にあるように芍薬湯が正名であろうという。建中とは焦をてるの意であるが、こ英方は焦(脾胃)というよりも腹部に中心があり、且つ中焦の名称自身、古方でない用語である。

中級メモ ①原典に「嘔家は建中湯を与うべからず、甜(あま)きをもっての故なり」というが、これは後人の説で実際に適さないことが多い。
 ②「腹中急痛する者は先ず小建中湯を与え、癒えざる者は小柴胡湯を与えて之を主る」とあるように、その両者の腹中痛は区別し難いが、一応の鑑別点として嘔気あるは小柴胡湯、嘔気ないのは小建中湯と考えてはどうか。実際には小柴胡湯の腹痛は少なく、嘔気あるときは黄連湯の胃痛が多い。
 ③南涯「病裏にあり。血滞し、裏気急して上逆する者を治す。その症に曰く、急痛、煩、これ裏気の急なり。曰く痛、悸、これ血滞なり。曰く衂、悸して煩、これ上逆なり。心中悸して煩する者は気急して血滞少なし。その腹中痛む者は血滞多くして気急未だ劇しからず。悸して衂して腹中痛む者は血滞多く気急も劇しきなり。この方桂枝加芍薬湯に較べて気逆甚しく急迫する故に甘草を倍にし膠飴を加う」。

適応証 虚弱児の感冒、腹痛、夜尿症、脱腸。結核性腹膜炎。結膜炎。黄疸。


類方 当帰建中湯(金匱)
 小建中湯に当帰四・〇を加える。小建中湯症に瘀血の証の加わったもので、直腹筋も左側が拘攣す識。やせた婦人の腹痛、腰痛、帯下を目標にする。帰耆建中湯で代用してもよい。小建中湯も本方も同じく腹痛であるが、小建中湯のように上逆の症(動悸、心煩、衂血)はない。

文献 「小建中湯を語る」大塚他(漢方の臨床4,2、48)


2012年4月15日日曜日

小建中湯(しょうけんちゅうとう) の 効能・効果 と 副作用

漢方診療の實際 大塚敬節 矢数道明 清水藤太郎共著 南山堂刊
小建中湯(しょうけんちゅうとう)
一般に本方は太陰病また は脾虚の證に用いられる。即ち患者は身体虚弱で、疲労し易く、腹壁が薄く腹直筋は腹表に浮んで、拘攣している場合が多い。弦の場合もあり、芤の場合もあ る。症状としては、屡々腹痛・心悸亢進・盗汗・衂血・夢精・手足の煩熱・四肢の倦怠疼痛感・口内乾燥等を訴え、小便は頻数で量も多い。ただし急性熱性病の 経過中に此方を用うべき場合があり、その際には以上の腹證に拘泥せずに用いてよい。本方は桂枝・生姜・大棗・芍薬・甘草・膠飴の六味から成り、桂枝湯の 芍薬を増量して、膠飴を加えたもので、一種の磁養強壮剤である。膠飴・大棗は磁養強壮の効があるだけでなく、甘草と伍して急迫症状を緩和し、更にこれに芍 薬を配する時は、筋の拘攣を治する効がある。また桂枝は甘草と伍して、気の上逆を下し、心悸亢進を鎮める。以上に更に生姜を配すると薬を胃に受入れ易くさ せかつ吸収を促す効がある。小建中湯は嘔吐のある場合及び急性炎症症状の激しい場合には用いてはならない。小健中湯は応用範囲が広く、殊に小児に用いる場 合が多い。所謂虚弱児童・夜尿症・夜啼症・慢性腹膜炎の軽症、小児の風邪・麻疹・肺炎等の経過中に、急に腹痛を訴える場合等に用いられる。また慢性腹膜炎 の軽症、肺結核で経過の緩慢な場合、カリエス・関節炎・神経衰弱症等に応用する。時にフリクテン性結膜炎・乳児のヘルニア・動脈硬化症で眼底出血の徴ある 者に用いて効を得たことがある。黄耆健中湯は此方に黄耆を加えた方剤で小建中湯證に似て更に一段と虚弱の状が甚しい場合に用い、或は盗汗が止まず、或は腹 痛の甚しい場合、或は痔瘻・癰疽・慢性淋疾・慢性中耳炎・流注膿瘍・慢性潰瘍湯に応用することがある。
当帰建中湯は、小建中湯に当帰を加えた方 剤で、婦人の下腹痛・子宮出血・月経痛及び産後衰弱して下腹から腰背に引いて疼痛のある場合に用いられる。また男女を問わず、神経痛・腰痛・慢性腹膜炎等 にも応用する。当帰は増血・滋養・強壮・鎮痛の効がある。本方は小建中湯の膠飴を去って、当帰を加えたものであるが、衰弱の甚しい場合には、膠飴を加えて 用いる。
黄耆建中湯当帰建中湯とを合して帰耆建中湯と名づけて、運用することがある。


漢方精撰百八方
10. [方名] 小建中湯(しょうけんちゅうとう)
[出典] 傷寒論

[処方] 桂枝4.0 芍薬6.0 大棗4.0 甘草2.0 膠飴20.0 生姜

[目標] カゼなどの急性外因性疾患で、脈は軽くおさえると渋滞し、強くおさえると弦で弾力性の張りがない脈で、腹中急痛する者に本方が適する。弦は少陽の脈であるから本方の奏効しない場合には小柴胡湯を投与する。また動悸があって熱のある場合に本方が適する。
  気力ががなく、腹痛があり、動悸して鼻血を出したり、夢精したり、四肢が痛む,手足がほてる、口が乾く等の者に本方が適する。また小便が頻数で皮膚につやがない、また妊婦の腹痛の場合にも用いられる。

[かんどころ] 右の証の表現は複雑なようであるが、本方は一般に直腹筋拘急の腹証のあるものに応用すれば間違いない。

[応用] 小建中湯とは建中つまり胃腸を丈夫にする薬金で、胃腸の弱い人にはすべて応用される。殊に子供などで、とりとめて胃腸病でもないのに腹のしくしく痛むもの、便意を催してトイレに行くが通じがないまま出て来るとまた行きたくなるというようなのには本方をやればてきめんに効く。そのような子供は虚証の体質で疲れやすい。大人でも時々腹痛を訴えたりして癌ノイローゼになっているようなのに本方をやると簡単になおってしまう。

老婦人などで頻尿で外出も出来ないようなのに本方をやるとなおる場合が多い。
冷え性で夜も寝つけないという者に本方をやるとポカポカして良く眠れるようになる。
胃下垂は近頃は手術で胃を切除することをすすめられる場合が多いが、そんな場合本方をやるだけでなおってしまうものが多い。常習性下痢も本方でなおる。
胃潰瘍、十二指腸潰瘍で病院で胃切除を指示された者でも大低は本方をやるだけでその必要もなく治ってしまう。

  小児喘息は虚弱体質の子どもに多いものであるが、本方の腹証のある小児喘息ならば、本方をやるだけで治る場合が多いもので、麻黄の入った処方はむしろ用いない方がよい。
  カゼをひきやすい体質の人には平素から本方を運用しているとカゼをひかないようになる。
  黄耆建中湯で肋骨カリエスを手術せずに全治せしめた二例を経験している。
相見三郎著



漢方薬の実際知識 東丈夫・村上光太郎著 東洋経済新報社 刊
6 建中湯類(けんちゅうとうるい)
建中湯類は、桂枝湯からの変方として考えることもできるが、桂枝湯は、おもに表虚を、建中湯類は、おもに裏虚にをつかさどるので項を改めた。
建中湯類は、体全体が虚しているが、特に中焦(腹部)が虚し、疲労を訴えるものである。腹直筋の拘攣や蠕動亢進などを認めるが、腹部をおさえると底力のないものに用いられる。また、虚弱体質者の体質改善薬としても繁用される。
各薬方の説明
1 小建中湯(しょうけんちゅうとう)  (傷寒論、金匱要略)
〔桂枝(けいし)、生姜(しょうきょう)、大棗(たいそう)各四、芍薬(しゃくやく)六、甘草(かんぞう)二、膠飴(こうい)二〇〕
本方は、桂枝加芍薬湯(前出、表証の項参照)に膠飴を加えたもので、太陰病に用いられる。したがって、虚証体質者の貧血性の疲れや腹部の虚し たもの、すなわち、消化器系が虚しているものに用いられ、疲労性の諸症状を治す。本方證の腹部は、腹壁がうすき感じられ、表面に腹直筋が浮かんでひきつれ ているようにみえるものが多いが、軟弱なものもある。煩熱、心悸亢進(動悸、呼吸促迫)、のぼせ、めまい、盗汗、衂血、咽乾、腹痛、四肢の倦怠感、黄疸、 遺精、小便過多(回数、量ともに多い)、下痢(消化不良便)などを目標とする。ただし、本方は、悪心、嘔吐のある場合および急性炎症症状のはげしいものに は用いてはならない。
〔応用〕
つぎに示すような疾患に、小建中湯證を呈するものが多い。
一 夜尿症、頻尿、腎硬化症、腎臓結石、前立腺肥大症その他の泌尿器系疾患。
一 胃酸過多症、胃酸欠乏症、胃下垂症、胃アトニー症、胃潰瘍、胃癌、肋膜炎その他の消化器系疾患。
一 心臓弁膜症、動脈硬化症、高血圧症、低血圧症その他の循環器系疾患。
一 気管支喘息、肺結核、肺気腫その他の呼吸器系疾患。
一 神経衰弱、ノイローゼその他の精神、神経系疾患。
一 関節炎その他の運動器系疾患。
一 黄疸、急性肝炎、肝硬変、胆石症その他の肝臓、胆嚢の疾患。
一 フリクテン性結膜炎、眼瞼炎、眼底出血、眼科疾患。
一 鼻炎、衂血その他の鼻疾患。
一 そのほか、ヘルニヤ、痔、脱肛、直腸潰瘍、紫斑病、ルイレキ、アデノイド、カリエス、脊椎不全症、腺病質、脚気、遺精、疫痢、脱毛症など。 


《資料》よりよい漢方治療のために 増補改訂版 重要漢方処方解説口訣集 中日漢方研究会 
 37.小建中湯(しょうけんちゅうとう) 傷寒論
桂枝4.0 生姜4.0(乾1.0) 大棗6.0 芍薬6.0 甘草2.0
右方の如く煎じ滓を去り膠飴20.0を加え火に上せ煮沸すること五分間にて止め,之を温服す。
(金匱要略)
○夫男子平人脉大為労,極虚亦為労(宜本方) (虚労)
○男子平人,脉虚弱細微者,喜盗汗也(宜本方) (虚労)
○男子面色薄者,主渇及亡血,卒喘悸脉浮者,裏虚也(宜本方) (虚労)
○男子脉虚沈弦,無寒熱,短気裏急,小便不利,面色白時目瞑,兼衂,少腹満,此為労使之然(宜本方)(虚労)
○労之為病,其脈浮大,手足煩,春夏劇,秋冬瘥,陰寒精自出,皆為労得之(宜本方) (虚労)
○脈沈小遅名脱気,其人疾行則喘喝,手足逆寒,腹満甚則溏泄,食不消化也(宜本方) (虚労)
○虚労,裏急,悸,腹中痛,夢失精,四肢痠疼,手足煩熱,咽乾口燥本方主之

(傷寒論)
○傷寒,陽脉濇陰脉弦,法当腹中急痛,先与小建中湯,不差者,小柴胡湯主之(太湯中)




現代漢方治療の指針〉 薬学の友社
虚弱体質で疲労し易く,のぼせ,腹痛や動悸があり,冷え症で手足がほてり,排尿回数,尿量共に多いもの,本方は桂枝加芍薬湯に飴を加えたもので,腹直筋が異常に緊張した場合の腹痛に著効を示す。本方は小児を対象とする場合が多く,特に虚弱児の体質改善としてよく用いられ,扁桃肥大でしばしば再発するものによい。虚弱者の夜尿症には適するが,強健な小児には無効である。(越婢加朮湯の項参照)。虚弱体質の人や老人,涯牛の便秘で大黄剤で腹痛あるいは下痢の甚だしい場合には本方を試みるべきである。本方と大建中湯とは用途が類似するが,大建中湯適応症は腹中強く冷感を覚え,且つ腸の蠕動亢進を自覚し,腹痛,腹部膨満感,嘔吐を伴なうような症状に適するのに対し,本方の適応症状は前記症状より緩和で,また悪心,嘔吐が劇しい場合は本方は禁忌である。小柴胡湯との鑑別は小柴胡湯適応症に胸や脇腹に重苦しさがあるのに対し,本方適応症は腹痛や腹部の動悸などを訴え,前者に比べて更に虚弱な体質の人に適する。本方は高熱を伴なった急性症状には無効である。

 〈漢方処方解説シリーズ〉 今西伊一郎先生
本方は貧血,冷え症の虚弱な体質であるにかかわらず,のぼせや手足の熱感があるもの。あるいは神経質で胃腸が虚弱なものの,体質改善薬として,また前記疾患の治療に,しばしば繁用されている。
①体質改善 神経質で貧血冷え症,腺病質,胃腸無力症などの虚弱体質で,食物の好ききらいがあったり,栄養が身につかず病気にかかりやすい虚弱な体質に本方を連用させ識とすぐれた効果を発揮する。
②虚弱者の便秘 本方は自律神経系の失調を調整する作用があり,前記記載の虚弱な体質者や老人,乳幼児など大黄剤では腹痛や下痢がはなはだしいものに,よく適応する。
③小児夜尿症 神経質で虚弱な小児の夜尿症に用いられる。排尿回数,尿量ともに多いもので,夜中起こして排尿させた後に,また失禁すると訴えるものを目安に応用することが多い。
④ヘルニア 前述の神経質で虚弱なもののヘルニアに応用して,しばしば奇効を奏するが,その多くは,そけいヘルニアでかんとんヘルニアには無効である。
症状と処方鑑別 第①項の虚弱体質の改善には,本方と小柴胡湯が繁用される。本方は神経質で貧血冷え症の体質で,消化器系が弱く,小柴胡湯は呼吸器と消化器系が共い弱い点が目安となる。第③項の頻尿,夜尿症に貧血冷え症,排尿回数が多い点では当帰芍薬散と類似する。しかし,本方は胃競dのぼせて頭痛を訴え,冷え症ではあるが,時には四肢の熱感を自覚することが特徴的であり,当帰芍薬散は受尿回数は多いが,排尿量が少なく従って尿失禁の地図も,割合に小さいことなどを参考として確認するとよい。


漢方処方応用の実際〉 山田 光胤先生
○腹が急に激しく痛み,脈が渋,弦のもの,この痛みはひきすれるような痛みが多い。
○体力のない虚弱な人が,熱病にかかった初期,二~三日目ごろ,心悸亢進して身体が苦しいもの。
○身体が虚弱で疲れやすく,腹壁の筋肉が薄く腹直筋のみが拘攣し,あるいは腹が痛み,あるいは動悸がし,鼻出血があり,あるいは夢精,手足がだるい,手足が煩熱し,咽喉や口が乾燥し,尿の量や回数が増えるなどの症状を呈するもの。
○建中湯はその名の通り,中(体内)の機能を”うちたてる”のである。愚按口訣に「脾胃虚して(消化力が低下して兄:寒に中り,栄衛和せず(血行や代謝がうまくゆかず)腹中痛み,脈虚細なるもの傷寒,雑病ともこれを用う。」とあり,また「理中湯は脾胃の虚寒を治し,建中湯は栄衛の不和を調のう。故に霍乱吐瀉には理中湯,裏急,悸,衂,腹中痛み,失精,四肢痠痛,手足煩熱し咽乾,口燥等の証には建中湯なり。」と記してある。
○煩熱はホテリで,自覚的に熱感があり,且つ他覚的にも熱く触知されるもの。手足があつ苦しく蒲団の外へ出したがり,好んで冷たいものに触れたがる。
○方読弁解「脈数ならずして弦,腹痛拘急し,甘きを好むものによく応ず,この方桂枝芍薬を以て腹中を和し,脾胃を養い,急を緩む,膠飴,虚冷を補い,腹中に入って腹力を生じ,はりをつける効あり。」といっている。
○古家方則①小建中湯加当帰は久しく下血して顔色唇舌が紅沢を失い,あるいは眉梁骨より天庭に至って頭痛し,あるいは蝉が鳴くような耳鳴りのするものを治す。
②小建中湯 頭痛,鼻梁骨に係るもの,これ正陽徴少の痛みなり,此方によろし。
③小建中湯 大便通ぜず,腹状常の如く,あるいは一ヵ月あるいは三ヵ月あるいは一年に及ぶものによろし。
④積年の痔出血で口唇蒼白にして虚に至るもの,方中加当帰最もよきなり。
⑤舌上破れ,飲食すること能わず,患うること久しく諸薬験なきによろし。
⑥虚証にして多忘するもの(健忘症)。但し老人は治せず。

<針術秘要>
①年久しく四肢の関節痛みて腫れ,屈伸すること能わざるものを治す。方内に附子を加うべし。
②虚労および諸咳,白沫を吐し,盗汗出るものを治す。

<諸書の記載>
①産婦,手足煩熱,咽喉口燥,腹中拘攣のものは本方がよい。(処方筌蹄)
②下痢,赤白(血性・粘液便)急性慢性をとわずただ腹中大いに痛むものを治して神効あり。

<証治準縄>
③黄疸で,もし小便自利,腹中急痛などあれば男女に拘わらず本方を用いてよい。
④小建中湯,黄耆建中湯は陰虚の感冒や房事過多の上にかぜを引き,また,元来腎虚の上にかぜを引き,全身に熱感あって足が冷えるものに用いる。


漢方診療30年〉 大塚 敬節先生
○小建中湯は桂枝湯の芍薬の量を増して,これに膠飴を加えたものである。膠飴は米を蒸して麦芽で糖化して作ったあめである。
○建中は中を建立する意だと古人は言っている。中は中焦を指しているから,ここでは消化機能をさしている。
○小建中湯は桂枝湯や桂枝加芍薬湯に類似しているから,これらの用法を知っていることは,この薬方を応用するに役立つ。しかし小建中湯には,またそれ自身の証がある。
○小建中湯は体質の弱い人,殊に小児に多く用いられるが,平素丈夫な人でも,無理を重ねたりして,疲れているときには,小建中湯の証をあらわすことがある。だからやせているとか,血色が
わるいとかいうような,外観だけで証をきめてはならない。
○小建中湯証では,腹直筋が二本の棒の様に,臍の両側で,突っぱっている場合もあるが,大建中湯の腹証に似ていて,腹一体が軟弱無力で,腹の蠕動運動を腹壁を通じて望見できる場合もある。
○幼児が風邪,麻疹,肺炎などにかかったとき,とつぜん腹痛を訴えることがあり,この場合に小建中湯を用いてよいか,小柴胡湯を用いてよいか,きめかねることがある。このような時にはまず小建中湯を用いてみるとよい。
○結核性腹膜炎の軽症で,腹水がない場合に,小建中湯の証が多い。便秘しているときに,これで便通のつくことがある。
○虚弱児童で衂血のよく出栽ものに小建中湯の証がある。紫斑病の衂血をこれで止めたこともある。
○冷え症で小便が近くて量が多く,疲れやすいものにもよい。
○小建中湯の証と桂枝加竜骨牡蛎湯の証とがよく似ていることがある。ともに遺精したり,手足がだるかったり,口がはしゃいだりする場合に用いる。


漢方診療の実際〉 大塚,矢数,清水 三先生
一般に本方は太陰病または脾虚の証に用いられる。即ち患者は身体虚弱で疲労し易く,腹壁が薄く腹直筋は腹表に浮んで拘攣している場合が多い。脈は弦の場合もあり,芤の場合もある。症状としては,屡々腹痛,心悸亢進,盗汗,衂血,夢精,手足の煩熱,四肢の倦怠疼痛感,口内乾燥等を訴え,小便は頻数で量も多い。ただし急性熱性病の経過中に此方を用うべき場合があり,その際には以上の腹証に拘泥せずに用いてよい。本方は桂枝,生姜,大棗,芍薬,甘草,膠飴の六味から成り,桂枝湯の芍薬を増量して,膠飴を加えたもので,一種の磁養強壮剤である。膠飴,大棗は磁養強壮の効があるだけでなく,甘草と伍して急迫症状を緩和し,更にこれに芍薬を配する時は,筋の拘攣を治する効がある。また桂枝は甘草と伍して,気の上逆を下し,心悸亢進を鎮める。以上に更に生姜を配すると薬を胃に受入れ易くさせかつ吸収を促す効がある。小建中湯は嘔吐のある場合及び急性炎症症状の激しい場合には用いてはならない。小健中湯は応用範囲が広く,殊に小児に用いる場合が多い。所謂虚弱児童,夜尿症,夜啼症,慢性腹膜炎の軽症,小児の風邪,麻疹,肺炎等の経過中に,急に腹痛を訴える場合等に用いられる。また慢性腹膜炎の軽症,肺結核で経過の緩慢な場合,カリエス,関節炎,神経衰弱症等に応用する。時にフリクテン性結膜炎,乳児のヘルニア,動脈硬化症で眼底出血の徴ある者に用いて効を得たことがある。黄耆建中湯は此方に黄耆を加えた方剤で,小建中湯証に似て更に一段と虚弱の状が甚しい場合に用い,或は盗汗が止まず,或は腹痛の甚しい場合,或は痔瘻,癰疽,慢性淋疾,慢性中耳炎,流注膿瘍,慢性潰瘍湯に応用することがある。当帰建中湯は,小建中湯に当帰を加えた方剤で,婦人の下腹痛,子宮出血,月経痛及び産後衰弱して下腹から腰背に引いて疼痛のある場合に用いられる。また男女を問わず,神経痛,腰痛,慢性腹膜炎等にも応用する。当帰は増血,滋養,強壮,鎮痛の効がある。本方は小建中湯の膠飴を去って,当帰を加えたものであるが,衰弱の甚しい場合には,膠飴を加えて用いる。黄耆建中湯当帰建中湯とを合して帰耆建中湯と名づけて,運用することがある。


漢方処方解説〉 矢数 道明先生
虚証の体質で,いわゆる太陰病に属し,脾胃(消化器系)の虚弱なものに多く,痛や急迫症状をともなうものである。小児に用いることが多い。(中略)本方を用いる目標の第一は全身の疲労状態,精力の虚乏である。脈は大であるか,又は沈微細のこともあり,腹痛のあるときは弦又は芤の場合もある。腹証としては腹直筋が表面に浮んで拘攣していることが多い。または軟弱のこともある。そしてしばしば腹痛,心悸亢進,衂血,盗汗,手足の煩熱,四肢倦怠,夢精,口内乾燥,小便頻数等がある。


漢方入門講座〉 竜野 一雄先生
(構成)桂枝加芍薬湯より甘草が多く,水飴が入っているので裏虚の程度はずっと顕著になり,全身的な虚労状態を呈する。

運用 1. 全身の疲労状態
之を虚労というが,疲労状態に於て発生した諸症,疲労性疾患などをその中に含めている。疲労状態に対して使う処方は小建中湯以外にもかなり多いが,小建中湯の目標になるのは次の如き場合である。「それ男子平人,脉大なるを労となす。極虚も亦労となす。」(金匱要略虚労)は脉でこれを知る方法を要記したもので,大の脉は熱によって起るべきはずなのに熱のない平人がその脉を呈するのは矛盾であって,之は労のためだというのである。極虚の脉とは沈微細小等を指す。「男子面色薄き者は渇及び亡血を主る。卒に喘悸し,脉浮の者は裏虚なり。」(同上)
  色艶ノ悪い者は渇や貧血があり,急に息切れがしたり,動気がしたりする。それは虚労だが,そのうち,脉浮の者は虚労だというのである。小建中湯の適応症にはこれらの症状を呈するものが頗る多い。喘息にも使うことが出来る。「男子脉虚沈弦。寒熱無く,短気裏急,小便不利,面色白く時に目瞑し,衂を兼ね,少腹満のものはこれ労の然らしむるなり。」(同上)息がせまり,腹のすじがつれ,めまい,鼻血,下腹部膨満などは小建中湯証にしばしば見る症状だ。目瞑を転用してフリクテン性結膜炎,眼底出血に本方を使う。
「労の病たる其脉浮大,手足煩,春夏に劇しく秋冬は瘥ゆ。陰こごえ,精自ら出で,酸削して行くこと能わず」(同上)夏まけ,脚気と称せられる症候群は手足がほてりだるく足の力が弱る。また陰部が冷たくなり遺精する。この二ツの症候群は別々に現われることも同時に相伴うこともある。遺精の方は,小建中湯でも治すがむしろ別の処方を使うことが多い。精自出は夜尿症に転用する。
「男子平人,脉虚弱細微の者はしばしば盗汗す。」(同上)黄耆を入れなくとも,小建中湯を盗汗に使うことがある。
「脉沈小遅を脱気と名づく,其人疾行すれば則ち喘喝し,手足逆寒,腹満甚しきときは則ち溏泄す。食消化せざるなり。」(同上前)半は前述した所と重複する。 後半は恰も桂枝加芍薬湯に似て,一層虚しているからである。
「人,年五六十其病脉大の者は痺背を俠みて行る。若しくは腸鳴。馬刀俠癭の者は皆労して之を得となす。」(同上)痺とは痛みと知覚麻痺を含んでいる。それが背の両側に起るの意で,実際小建中湯を背痛に使うことがあ識。馬刀とは腋下腺腫張,俠癭は頸腺腫張で,年令から見ると悪性腫瘍だろうが,之を結核性,白血病等の場合に応用しても宜い。実際にるいれきや,バンチ氏病に小建中湯を用いた例を私は持っている。
以上の諸条は凡て小建中湯の適応証になるが,しかし他の処方(例えば当帰建中湯黄耆建中湯桂枝加竜骨牡蛎湯八味丸等)の適応証をもその中に含んでいるから,個々の場合に具体的にどの処方が適応するかは選んで行かねばならぬ。なお以上の諸条を要約して,特に小建中湯証になるものを挙げると,「虚労,裏急,悸,衂,腹中痛み,夢に失精し,四肢痠疼,手足煩熱,咽乾口燥するものは小建中湯之を主る。」(同上)となる。裏急は腹部がつれるとの意で,つれるのが腹筋であっても腸管であってもいいのだから,古方家は之を直腹筋が緊張するものと解してそれを小建中湯の大切な腹証にしているが,実際には腹直筋だけとは限らない。また反対に腹壁が軟弱なこともある。腸管にとれば腹中で何かつれる感じとしてもよく,そのつれるのが腸管の蠕動が急に昂るために起ったもの或は部分的な痙攣であってもいいわけだ。悸は自覚的な搏動亢進感で他覚的に認められるのは動と表現している。ただ悸といっても心悸とかの部位を指定していないから,何処の悸であっても宜いことになる。腹中痛みの中は桂枝加芍薬湯の腹痛に対して病む所が深いことを表現したと思われるが,また別に解釈すると腹の中央とも取れ,側腹部や下腹部ではなく,大体臍を中心とし,或は直腹筋辺ということになる。臨床的にもそういう場合が多い。また腹中と訓むと腹全体と取れ,臨床的にも部位を定めず,腹のあちこちが痛いのに小建中湯の適応証になるものがある。手足煩熱はほてって苦になるの意,咽乾は他覚的に水分が欠乏している状態,口燥は自覚的にかわいてはしゃぐ感を云う。なおこの条を普衍して千金方には「男女積冷気滞,或は大病後常に復せざるに因って四肢苦重,骨肉痠疼を苦しみ吸々として少気し,行動すれば喘乏し,胸満気急,腰背強痛,心中虚悸,咽乾唇燥,面体白色,或は飲食に味無く,脇肋腹張す。五臓の気竭くときは則ち常に復すべきこと難し,(後略)」としてある。これによって上の文を補足すべきであろう。前述の各症状は虚労の脉を呈し,虚労の症状を現わす場合はその症状が多種多様であろうとも小建中湯証になり得るものである。虚労の状態を呈して小建中湯の適応症になるのは過労やスポーツ後の疲労,神経衰弱(胃腸性,生殖老性)夏まけ,脚気,などで全身倦怠疲労感,息切れ,動悸,手足がほてり,だるいもの。神経性心悸亢進症,腺病質,扁桃腺肥大症,アデノイド,肺門リンパ腺炎,るいれき等で微熱を出したり,或は全身の疲労感を主とするもの,肺尖カタル肺浸潤の軽症で疲労,倦怠,微熱,盗汗,肩凝り,軽咳するもの,脊椎カリエスで微熱,背腰痛のある初期,結核性腹膜炎で腹満硬結があり,全身的及び脉虚状著明のもの,鼻血,脱毛症などで他に所見なく虚労性のものなどに頻用する。虚労で類証鑑別を要するのは,
当帰建中湯 症状は主に下腹部腰背部の疼痛として現われ,また子宮出血,痔出血,婦人科疾患等下部の循環障害に多く用いる。
八味丸は下腹部に限局し,小建中湯は上腹部又は腹全体に亘る。口渇,小便自利は共通するが,八味丸の方が遥かに顕著である。
桂枝加竜骨牡蛎湯 下腹部に所見が多く腹緊張も小建中湯は上腹部,桂枝加竜骨牡蛎湯は下腹部に見られる。
桂枝加竜骨牡蛎湯には腹動がある。
小柴胡湯 実に属し胸脇にかかり,小建中湯は虚に属し,腹部を主とする。
人族湯は胃腸のアトニー状態のみならず,停水や冷える症状が著明である。
真武湯は小建中湯より虚状顕著で且つ停水症状を伴う。

運用 2. 虚証の腹痛に使う。
前に引いた条文にも腹痛はあったが更に之を補うと「婦人腹中痛むもの」(金匱要略婦人雑病)婦人とは限らず女性的体質と解すれば一般にも通用される。「傷寒,陽脈濇,陰脉弦なるは法当に腹中急痛すべし,先づ小建中湯を与へ,差えざるものは小柴胡湯を与へて之を主る。」(傷寒論太陽病中篇)は小柴胡湯の所で既に述べた通りで,虚証の腹中痛に用いる。臨床的には胃アトニー,胃下垂,胃酸過多症,胃潰瘍,胃癌等で全身的疲労性を主にして食欲不振或は反対に食欲亢進し過ぎるもの,胃痛を兼ねるものに使う。胆石痛で虚証のもの,即ち殺弱く,心下部軟弱,時には腹直筋だけが著明に緊張しているが,押すと底力のないものに使う。また原因不明の腹痛や小児の腹痛などで顔d啼出するもの。夜啼症にも宜い。

運用 3. 虚証の黄疸
「男子の黄,小便自利するは当に虚労の小建中湯を与ふべし。」(金匱要略黄疸)この場合の黄疸は脾虚によって起ったものである。他に著明な状態や症状がなく,脉弱,小便自利する虚労性の各種黄疸に使う。茵蔯蒿湯の黄疸は実証だし,茵陳五苓散の黄疸は小便不利である。

運用 4. 虚証の消化不良
前に引いた「脉沈小遅なるを脱気と名づく。」云々の条に「腹満甚しきときは則ち溏泄す。食消化さぜるなり。」によって消化不良に本方を使う機会がある。なお,傷寒論太陽病に「傷寒脉浮にして緩,手足自ら温き者は繫りて太陰に在り(中略)七八日至り,暴煩下痢日に十余行すと雖も必ず自ら止む。脾家実し,腐穢当に去るべきを以ての故なり。」とあり脾虚によって消化不良性の腐穢が下るとしている。それ故普通の下痢ではなく特に消化不良便の出るような場合,殊に腹満を伴う場合に使う。例えば消化不良,醗酵性下痢,疫痢などが適応証になる。消化不良便に対しては四逆湯の完穀下痢というものがあって鑑別を要する。腹満は共通することがあるが,四逆湯は手足が冷え,



※痠痛(さんつう):だるい痛み又は、重だるい  痠は「だるい」の意味
※動気? 動悸の誤植か?
※(同上前)半? (同上)前半の誤植か?
※普衍? 敷衍のことか?

2012年4月12日木曜日

辛夷清肺湯(しんいせいはいとう) の 効能・効果 と 副作用

『《資料》よりよい漢方治療のために 増補改訂版 重要漢方処方解説口訣集』 中日漢方研究会
42.辛夷清肺湯(しんいせいはいとう) 外科正宗
辛夷2.0 枇杷葉2.0 知母3.0 百合3.0 黄芩3.0 山梔3.0 麦門冬5.0 石膏5.0 升麻0.5~1.0

現代漢方治療の指針〉 薬学の友社
局部に熱感や炎症症状があって,痛みや鼻閉を伴うもの。
本方はいわゆる「ちくのう症」の内服薬として知られているもので,葛根湯,葛根湯加辛夷川芎,伯州散などについで応用されている。本方応用の目安は,副鼻腔炎や鼻茸などに関係する次の諸疾患を,対象にすると使いやすい。
鼻茸> 慢性鼻炎や副鼻腔炎などの分泌物に刺激されて続発する,鼻粘膜性炎症性のもので,鼻閉や臭覚障害を訴えるもの。
副鼻腔ムコツレ> 慢性副鼻腔炎の経過中に,排膿孔が持続的に閉塞し,洞腔に粘液性の隆起物があるもの。
後鼻孔鼻茸> 後鼻腔に下垂し鼻閉塞を訴えるもの。
膿胸> 胸腔に膿が貯溜し,熱状,胸痛などがあって呼気に臭気を伴うもの。

外科正宗〉 陳 実 功先生
肺熱,鼻内瘜肉,初め榴子(ざくろの実)の如く,日後漸く大きく,孔竅を塞ぎ,気宜通ぜざるものを治す。

勿誤方函口訣〉 浅田 宗伯先生
此方は脳漏鼻淵鼻中瘜肉或鼻不聞香臭等の症凡て熱毒に属する者に用て効あり。脳漏鼻淵は大抵葛根湯加川芎大黄或は頭風神方に化毒丸を兼用して治すれども熱毒あり。疼痛甚しき者は此方に非れば治すること能はず。



副鼻腔ムコツレ:副鼻腔粘液嚢胞(ふくびくうねんえきのうほう)
※瘜肉(こくみ): ポリープ。贅肉で瘤や疣の類。
※鼻内瘜肉:(ポリープ)鼻茸。



『一般用漢方処方の手引き』 厚生省薬務局 監修 薬業時報社 刊
成分及び分量〕 辛夷2~3,知母3.0,百合3.0,黄芩3.0,山梔子1.5~3,麦門冬5~6,石膏5~6,升麻1~1.5,枇杷葉1~3

用法及び用量〕 湯

効能又は効果〕 鼻づまり,慢性鼻炎,蓄膿症

解説〕 外科正宗




参考文献名
生薬名
辛夷
知母
百合
黄芩
山梔子
麦門冬
石膏
升麻
枇杷葉
処方分量集
2.0 3.0 3.0 3.0 3.0 5.0 5.0 0.5~1 2.0
診療の実際
2.0 3.0 3.0 3.0 3.0 5.0 5.0 1.0 2.0
診療医典
2.0 3.0 3.0 3.0 3.0 5.0 5.0 1.0 2.0
処方解説 注1 2.0 3.0 3.0 3.0 3.0 5.0 5.0 1.0 2.0
漢方処方集 注2 3.0 3.0 3.0 3.0 1.5 6.0 6.0 1.5 1.0
漢方あれこれ 注3 2.0 3.0 3.0 3.0 3.0 5.0 5.0 1.0 3.0
応用の実際
明解処方




注1 肺熱,鼻内瘜肉,初めざくろの実の如く,日後漸く大きく,孔竅を塞ぎ,気宣通せざるものを治す。鼻閉塞,鼻茸,肥厚性鼻炎,上顎洞化膿症などに応用される。他の処方で効かないとき試みるとよい。

注2 濃い鼻汁が出る熱性の蓄膿症,肥厚性鼻炎。

注3 濃がたくさんたまって,口をあけただけで膿がみえるというような症状。

参考 浅田宗伯の勿誤薬室方函によると「肺熱,鼻内瘜肉,初めは榴子の如く,日後漸く大きく,孔竅を閉塞し,気の室通せざるを治す。」
勿誤薬室方函口訣によると
「此方は脳漏鼻淵,鼻中瘜肉,或は鼻香臭を聞かざる等の症,すべて熱毒に属する者に用いて効あり。脳漏鼻淵は大抵葛根湯加川芎大黄,或は頭風神方に化毒丸を兼用して治すれども,熱毒あり疼痛甚しき者は,此方にあらざれば治すること能はず。」



『改訂版 漢方薬の選び方・使い方―健康保険が使える』 木下繁太郎著 土屋書店刊
辛夷清肺湯(しんいせいはいとう)
症状
濃い鼻汁が出る熱性の蓄膿症や慢性鼻炎に用いられるもので、濃厚や鼻汁が出て、鼻が詰まり、熱を持って頭痛がするような場合に用います。
①濃い鼻汁。

②鼻閉。
③頭痛。

腹脈舌 不定

適応
鼻閉、蓄膿症、慢性鼻炎、肥厚性鼻炎、鼻茸(はなたけ)、上顎洞化脳症。

【処方】 辛夷、枇杷葉、各2.0g。 知母、百合、黄芩、山梔子、 各3.0g。
麦門冬、石膏 各5.0g。 升麻1.0g。

葛根湯加川芎辛夷(36頁)も同様に蓄膿に用いますが、これは割合に初期で軽く、頭痛、肩こりを伴うものに用い、本方はこじれて治りにくいものに用います。

健 ク・小・サ・タ・ツ(外科正宗)(げかせいしゅう)
 ※上顎洞化脳症は、上顎洞化膿症の誤植と思われる。


臨床応用 漢方処方解説』 矢数 道明著 創元社刊
56 辛夷清肺湯(しんいせいはいとう) 〔外科正宗〕
新感・枇杷葉各二・〇 知母・百合・黄芩・梔子 各三・〇 麦門・石膏 各五・〇 升麻一・〇

「肺熱、鼻内瘜肉、初め榴子(ざくろの実)の如く、日後漸く大きく、孔竅(こうきょう)を塞(ふさ)ぎ、気宣通(せんつう)せざるものを治す。」

鼻閉塞・鼻茸・肥厚性鼻炎・上顎洞化膿症などに応用される。他の処方で効かないとき試みるとよい。



和漢薬方意辞典』 中村謙介著 緑書房
辛夷清肺湯(しんいせいはいとう) 〔外科正宗〕

【方意】 上焦の熱証上焦の湿証による濃厚な鼻汁・鼻閉等のあるもの。 《少陽病.実証》

【自他覚症状の病態分類】

上焦の熱証
上焦の湿証



主証  ◎濃厚な鼻汁
◎鼻閉




客証  ○後鼻漏
○顔面頭部の熱感
○鼻根部の疼痛
鼻ポリープ
嗅覚脱失
口渇





【脈候】 弦やや緊。

【舌候】 乾燥した白苔。

【腹候】 腹力中等度。

【病位・虚寒】本方意の病態は上焦の熱証と、慢性化膿傾向の湿証である。表証も裏証もなく少陽病に相当する。脈力および腹力があり、局所も内圧の上昇傾向があって実証である。

【構成生薬】 麦門冬5.0 石膏5.0 知母3.0 百合3.0 黄芩3.0 梔子3.0 辛夷2.0 枇杷葉2.0 升麻1.0

【方解】 辛夷は温性で慢性化膿傾向の湿証に対応し、鼻閉を通じ、濃厚な鼻汁・頭痛を治す。黄芩・梔子・石膏・知母は解熱・消炎・清熱作用を持ち、熱証による熱感・炎症・口渇を去る。升麻も清熱・解毒作用を持つ他に鎮痛作用もあり石膏・知母に協力する。百合・麦門冬・枇杷葉には滋潤作用があり咳嗽・喀痰を治すが、本方では農厚な鼻汁を稀薄化し排泄を促す。

【方意の幅および応用】
A 上焦の熱証・上焦英湿証:濃厚な鼻汁・鼻閉等を目標にする。
急慢性鼻炎、副鼻腔炎、鼻ポリープ、嗅覚脱失、アレルギー性鼻炎

【参考】*肺熱、鼻内の息肉(はなたけ)、初めは榴子の如く、日後漸く大となり、孔竅を閉塞し、気宜通せざるを治す。『外科正宗』
*此の方は脳漏鼻淵(副鼻腔炎など膿汁を排出する鼻疾患)、鼻中息肉、或は鼻不聞香臭等の症、凡て熱毒に属する者に用いて効あり。脳漏鼻淵は大抵葛根湯加川芎大黄、或は頭風神方に化毒丸を兼用して治すれども、熱毒あり疼痛甚だしき者は此の方に非ざれば治すこと能わず。『勿誤薬室方函口訣』
*慢性副鼻腔炎には葛根湯加辛夷川芎大黄が第一選択である。これで及ばず、熱証強く疼痛の止まない者には本方が考えられる。本方単方では無効のものに小柴胡湯を合方すると良いことがある(松田邦夫)。

【症例】アレルギー性鼻炎(通年性)
患者は40歳男性。
4年前から年間を通じて水鼻が出る。医療を受けても無効だった。
体格中等度、カゼを引きやすい。鼻閉、鼻水、匂いを感じない、凝り(腰)、便通(1日1行、有形便)、食欲良好、嗜好(タバコ1日20本)。
舌は紅色を呈して中央部は乾、周辺部は潤。脈は沈でやや弱。腹部は左右とも胸脇苦満と腹皮拘急を認める。
初め小青竜湯を投与し無効だったので、辛夷清肺湯に変方して約180日間服用するうちに軽快した。
緒方玄芳『漢方治療症例選集』2・223

本方無効の慢性副鼻腔炎および痔瘻例
患者は35歳の男性。
某病院で蓄膿症で治療を受けているが、根治手術を勧められている。
体格大柄、不安な気持ちがする、顔色は無い、汗かき(全身)、便通(1日1行、有形便、気持ち良く出る)、食欲良好、嗜好(野菜、肉)。
舌は白色苔で覆われていて潤。脈は沈でやや弱。腹部は全般に膨隆して硬く触れ、左右に高度の胸脇苦満を認める。
葛根湯加辛夷川芎桔梗黄芩を投与した。約60日服用したが良くならないので、荊芥連翹湯に変方した。飲みにくいというので、辛夷清肺湯に変方して約4ヵ月服用したがあまり効果はなかった。
その後痔瘻になったといって来院した。そこで、『外科正宗』に托裏消毒散に変方した。以来、一貫して同方を服用し続け、4年後には「蓄膿症は良くなったので、手術はやらなくて良い」と耳鼻声の主治医にいわれたと報告してくれた。その後も同方を飲んでいると体調が良いからと、3年半ほど飲んで廃薬した。その間痔瘻も治っていた。
緒方玄芳『漢方治療症例選集』2・232


『漢方診療ハンドブック』 桑木崇秀著 創道社刊
辛夷清肺湯(しんいせいはいとう) <出典>外科正宗(明時代)

<方剤構成>
辛夷 枇杷葉 麦門冬 知母 百合 升麻 石膏 黄芩 梔子

<方剤構成の意味>
鼻を開く作用があると言われる辛夷を主薬として,これに枇杷葉以下多くの発散薬(黄芩・梔子のほかはすべて発散性)を配合した方剤で,鼻づまりを治すには格好の方剤と言えそうである。
  ただ方剤中には寒性薬の代表ともいうべき石膏が入っており,他の構成生薬も辛夷を除いてすべて寒性または平性であるから,明らかに熱証用の方剤であり,寒証者には用い難い。

<適応>
慢性副鼻腔炎・肥厚性鼻炎。ことに鼻茸にようようである。ただし,明らかに寒証の者には適さない。

【一般用漢方製剤承認基準】

辛夷清肺湯
〔成分・分量〕
辛夷2-3、知母3、百合3、黄芩3、山梔子1.5-3、麦門冬5-6、石膏5-6、升麻1-1.5、枇杷葉1-3

〔用法・用量〕


〔効能・効果〕
体力中等度以上で、濃い鼻汁が出て、ときに熱感を伴うものの次の諸症:
鼻づまり、慢性鼻炎、蓄膿症(副鼻腔炎)


【添付文書等に記載すべき事項】
してはいけないこと
(守らないと現在の症状が悪化したり、副作用が起こりやすくなる)
次の人は服用しないこと
生後3ヵ月未満の乳児。
〔生後3ヵ月未満の用法がある製剤に記載すること。〕
相談すること
1.次の人は服用前に医師、薬剤師又は登録販売者に相談すること
(1)医師の治療を受けている人。
(2)妊婦又は妊娠していると思われる人。
(3)体の虚弱な人(体力の衰えている人、体の弱い人)。
(4)胃腸虚弱で冷え症の人。
2.服用後、次の症状があらわれた場合は副作用の可能性があるので、直ちに服用を中止し、この文書を持って医師、薬剤師又は登録販売者に相談すること
関係部位 症状
消化器 食欲不振、胃部不快感


まれに下記の重篤な症状が起こることがある。その場合は直ちに医師の診療を受けること。
症状の名称 症 状
間質性肺炎 階段を上ったり、少し無理をしたりすると息切れがする・息苦しくなる、空せき、発熱等がみられ、これらが急にあらわれたり、持続したりする。
肝機能障害 発熱、かゆみ、発疹、黄疸(皮膚や白目が黄色くなる)、褐色尿、全身のだるさ、食欲不振等があらわれる。


3.1ヵ月位服用しても症状がよくならない場合は服用を中止し、この文書を持って医師、薬
剤師又は登録販売者に相談すること
〔用法及び用量に関連する注意として、用法及び用量の項目に続けて以下を記載すること。〕
(1)小児に服用させる場合には、保護者の指導監督のもとに服用させること。
〔小児の用法及び用量がある場合に記載すること。〕
(2)〔小児の用法がある場合、剤形により、次に該当する場合には、そのいずれかを記載す
ること。〕
1)3歳以上の幼児に服用させる場合には、薬剤がのどにつかえることのないよう、よく注
意すること。
〔5歳未満の幼児の用法がある錠剤・丸剤の場合に記載すること。〕
2)幼児に服用させる場合には、薬剤がのどにつかえることのないよう、よく注意すること。
〔5歳未満の用法及び用量を有する丸剤の場合に記載すること。〕
3)1歳未満の乳児には、医師の診療を受けさせることを優先し、やむを得ない場合にのみ
服用させること。
〔カプセル剤及び錠剤・丸剤以外の製剤の場合に記載すること。なお、生後3ヵ月未満の用法がある製剤の場合、「生後3ヵ月未満の乳児」をしてはいけないことに記載し、用法及び用量欄には記載しないこと。〕
保管及び取扱い上の注意
(1)直射日光の当たらない(湿気の少ない)涼しい所に(密栓して)保管すること。
〔( )内は必要とする場合に記載すること。〕
(2)小児の手の届かない所に保管すること。
(3)他の容器に入れ替えないこと。(誤用の原因になったり品質が変わる。)
〔容器等の個々に至適表示がなされていて、誤用のおそれのない場合には記載しなくて
もよい。〕
【外部の容器又は外部の被包に記載すべき事項】
注意
1.次の人は服用しないこと
生後3ヵ月未満の乳児。
〔生後3ヵ月未満の用法がある製剤に記載すること。〕
2.次の人は服用前に医師、薬剤師又は登録販売者に相談すること
(1)医師の治療を受けている人。
(2)妊婦又は妊娠していると思われる人。
(3)体の虚弱な人(体力の衰えている人、体の弱い人)。
(4)胃腸虚弱で冷え症の人。
2´.服用が適さない場合があるので、服用前に医師、薬剤師又は登録販売者に相談すること
〔2.の項目の記載に際し、十分な記載スペースがない場合には2´.を記載すること。〕
3.服用に際しては、説明文書をよく読むこと
4.直射日光の当たらない(湿気の少ない)涼しい所に(密栓して)保管すること
〔( )内は必要とする場合に記載すること。〕

2012年4月8日日曜日

柴胡桂枝湯(さいこけいしとう) の 効能・効果 と 副作用


『漢方精撰百八方』 
9. [方名] 柴胡桂枝湯(さいこけいしとう)
[出典] 傷寒論

[処方] 柴胡4.0 桂枝4.0 黄?3.0 人参3.0 芍薬5.0 甘草2.0 半夏5.0 大棗4.0 生姜

[目標] 急性疾患の急性期を経過した後に微熱があり、心下部がつまった感じがして嘔気がしたり、神経症状を起こしてうわごとをいったりする者に用いる。また心腹卒中痛の者。

[かんどころ] 小柴胡湯の証で虚証がかったもの、つまり小柴胡湯証と小建中湯証の重複したような証。

[応用] 本方は非常に興味のある処方で、わたしの経験では今日の副腎皮質ホルモンの適応症の殆んど全部が本方の証であるように思われる。
まずてんかん(癲癇)であるが、殆んどすべてのてんかんは本方証であることを経験している。そして日本東洋医学会誌13.4に報告し、昨年十一月までの症例(第15回日本綜合医学会報告)では、取扱例38例中全治24例、軽快継続2例、軽快1例、中止4例、廃療7例で、ほぼ本方で癲癇を全治せしめ得る自信を得た。傷寒論小柴胡湯の条文に「血弱気尽きそう理開き、邪気因って入り正気と相搏り、脇下に結び、正邪分争、往来寒熱、休作時有り、云々」とある休作とは癲癇の発作に当たり、正邪分争は自律神経失調状態のことで、それが気力減弱、適応失調の桂枝加芍薬湯証を基盤として起るのが癲癇であると理解されると思う。
チック症も今日は自律神経症と理解されているが本方でこれを治している。
夜尿症は小児ばがりでなく成人にもあるもので、病院で手術までしてもどうにもならないものを本方の一発で全治せしめた経験もある。
小児の自家中毒症も自律神経失調症のーつと認められるが、本方で簡単になおっている。
一般にノイローゼといわれるものも間脳性疾患と思われるが、本方で恢復するところを見ると、西洋医学的に単に臓器に病理学的変化を証明できないからと言って身体的疾患でないと判断することは早計であろう。
胃下垂も単に胃の形態学的変化だけで胃切除などを行なうべきものではない、本方で胃下垂の愁訴が解決するところからしても胃下垂は自律神経失調の局所的表現と見るべきであろうと思う。
精神身体医学で最も興味のある潰瘍性大腸炎を頓挫的に本方で全治せしめた例もある。其他蕁麻疹、腰痛、リウマチ、起立性調節障害、円形禿頭、喘息、偏頭痛等々。
相見三郎著


 『漢方薬の実際知識』 東丈夫・村上光太郎著 東洋経済新報社 刊
1 柴胡剤
柴胡剤は、胸脇苦満を呈するものに使われる。胸脇苦満は実証では強く現 われ嘔気を伴うこともあるが、虚証では弱くほとんど苦満の状を訴えない 場合がある。柴胡剤は、甘草に対する作用が強く、解毒さようがあり、体質改善薬として繁用される。したがって、服用期間は比較的長くなる傾向がある。柴胡 剤は、応用範囲が広く、肝炎、肝硬変、胆嚢炎、胆石症、黄疸、肝機能障害、肋膜炎、膵臓炎、肺結核、リンパ腺炎、神経疾患など広く一般に使用される。ま た、しばしば他の薬方と合方され、他の薬方の作用を助ける。
柴胡剤の中で、柴胡加竜骨牡蛎湯柴胡桂枝乾姜湯は、気の動揺が強い。小柴胡湯加味逍遥散は、潔癖症の傾向があり、多少神経質気味の傾向が ある。特に加味逍遥散はその傾向が強い。柴胡桂枝湯は、痛みのあるときに用いられる。十味敗毒湯荊防敗毒散は、化膿性疾患を伴うときに用いられる。
各薬方の説明(数字はおとな一日分のグラム数、七~十二歳はおとなの二分の一量、四~六歳は三分の一量、三歳以下は四分の一量が適当である。)  
5 柴胡桂枝湯(さいこけいしとう)
〔柴胡(さいこ)五、半夏(はんげ)四、桂枝(けいし)二・五、黄芩(おうごん)、人参(にんじん)、芍薬(しゃくやく)、生姜(しょうきょう)、大棗(たいそう)各二、甘草(かんぞう)一・五〕
本方は小柴胡湯(しょうさいことう)と桂枝湯(けいしとう)の合方であるため、小柴胡湯證に表証をかねているものに用いられる。したがって、 発熱、悪寒、頭痛、関節煩疼、腹痛、嘔吐、嘔気、悪心、心下部が痞えて緊張や疼痛のあるものを目標とする。神経症状を目標とすることもある。
〔応用〕
柴胡剤であるために、大柴胡湯や小柴胡湯のところで示したような疾患に、柴胡桂枝湯證を呈するものが多い。
その他 
一 盗汗、皮膚掻痒症など。


《資料》よりよい漢方治療のために 増補改訂版 重要漢方処方解説口訣集』 中日漢方研究会
27.柴胡桂枝湯(さいこけいしとう) 傷寒論
柴胡5.0 半夏4.0 桂枝2.5 黄芩2.0 人参2.0 芍薬2.0 生姜2.0(乾1.0) 大棗2.0 甘草1.5

(傷寒論)
傷寒六七日,発熱,微悪寒,支節煩疼,心下支結,外証未去者,本方主之。

現代漢方治療の指針〉 薬学の友社
自然発汗があって微熱,悪寒し,しぞおちがつかえ頭痛,関節痛があるもの。あるいは胃痛悪心,腹痛が劇しく食欲不振などを伴なうもの。
本方は桂枝湯と小柴胡湯との合方であり,感冒がこじれて微熱が続き食欲もない場合,即ちもはや葛根湯もしくは桂枝湯は使えないが頭痛,関節痛,盗汗などの症状が残ってい小柴胡湯も不適であるという段階によく奏効する。
柴胡桂枝干姜湯との鑑別は,柴胡桂枝干姜湯適応症は頭痛よりむしろのぼせを伴って頭重があり,口内のかわき,頭汗,腹部の動悸などを目標とすればよい。本方はまた胸やけあるいは悪心,嘔吐を伴なった胃腸の劇痛によく用いられ本方と安中散の合方は胃・十二指腸潰瘍にしばしば著効を示す。肋間神経痛には柴陥湯と共によく利用されるが両者の鑑別は柴陥湯の項を参照のこと。

漢方処方解説シリーズ〉 今西伊一郎先生
(1) 呼吸器疾患 感冒のこじれや胸部疾患またはその疑いのあるもので,微熱ががなかなかとれず悪寒や頭痛がして自然発汗があり,食欲減退して全身倦怠感のあるもの。
(2) 胃腸・肝臓疾患,胃痛,腹痛,背部放線痛がひどくまたは胃痙攣様の疼痛,痙攣痛があって悪心,嘔吐を伴い食欲不振のもの。
(3) 更年期障害,体温の上昇は認められないが熱感があって頭痛,肩こり,疲労倦怠感を伴い食欲が減退す識もの。
本方は小柴胡湯と桂枝湯を合方したもので非常に応用範囲が広い処方である。とくに応用の目標欄記載の疾患および移動性盲腸炎や腎盂炎に繁用されている。
① 感冒 初期症状がこじれた人の目標欄(1)の記載症候群を目安に発病後4~5日から10日前後あるいはそれ以上,いつまでもスッキリしないと訴えるものに投与すれば良い。(後略)


漢方処方応用の実際〉 山田 光胤先生
本方は小柴胡湯と桂枝湯の合方で,傷寒の場合は,小柴胡湯証に表証が加わったものである。そこで熱病の場合は,小柴胡湯証に似て悪寒と発熱感が交互におこり,熱が高く,脈が浮で,頭痛,関節痛,悪心,嘔吐などがあり,心下支結がみられるものである。雑病の場合は胸腹が急に痛むもの,時には上腹部に持続的鈍痛のおこるものである。
○類聚方広義では「発汗の時期を失して,胸脇が満ちて,嘔きけがし,頭痛,身痛,往来寒熱が何日も癒えず,心下支撑(支結)飲食進まぬもの,あるいは発汗したり,下剤を用いたりしたあと,病気がいぜんとしてよくならず,またことさらに悪くもならず,ただ熱気纆繞として去らず,胸満微悪寒し,嘔気があって食欲がなく,数日た改aても治りそうで治らないもの。」
○医療手引草には柴胡湯は調和の剤で,感冒にかかったあと,余熱が残り,あるいは身体がだるく,少し頭痛や悪寒があるものに用いる。……大抵の外感で発熱,頭痛,熱強く少しでも身体がだるい気味のあるものにまずこの方を用いて発散するとある。
○雑病の指示は,金匱要略に,外台の柴胡桂枝湯方は心腹卒中痛を治すとある。心腹は胸腹で卒中痛は突然の痛みである。
○この点について類聚方広義に疝家(疝の病人)が腰や腹がひきつれ,痛みが胸脇に連なり,さむけと熱感がおこりさめし,心下痞硬があって嘔気するものとある。
※支撑:しとう

漢方治療の実際〉 大塚 敬節先生
○神経症や血の道症に用いることがあり,尾台榕堂は類聚方広義で婦人がこれといった原因もないのにさむけを訴えたり,熱感をおぼえたり,頭痛がしたり,めまいがしたり,みずおちがつっぱるように感じたり,嘔吐や悪心があったり,からだがだるかったり,またしびれ感を訴えたり,鬱々として人に接するのを嫌い,あるいは頻々として欠伸をする者はこれを血の道症というが,この方が良いとのべている。私もこれを神経症によく用いる。

漢方処方解説〉 矢数 道明先生
太陽の邪と少陽の邪とを兼ねたもので,表熱症状,心下部の緊張症状があもな目標である。太陽の症状は頭痛,頭重,関節痛,発熱,微悪寒,脈浮等であり,少陽の心下部を中心とした腹部の所見は,心下支結(みぞおちのところがつかえて堅くなる)臍傍あるいは下腹部等に腹筋の緊張や苦満や疼痛を訴え,直腹筋の緊張が強い。この心下部症状の場合は熱がなくてもよい。また多分に神経症状を目標にとることもある。


漢方入門講座〉 竜野 一雄先生
運用 1. 発熱
「傷寒6,7日,発熱微悪寒,支節煩疼,微嘔,心下支結,外証未だ去らざるものは柴胡桂枝湯 之を主る」(傷寒論太陽下) 微悪寒,微嘔は薬の分量が減っているせいもあるが,同時に陽気が乏しくなっているからでもある。発熱微悪寒,支節煩疼は表証で,外証未だ除かざるものに該当する。支節の支は肢と同じで四肢のこと,節は関節,軽いから身体でなく支節に限られている。煩疼は煩が主で疼が従,煩は熱でわずらわしい感じ,疼は主として自覚的ないたみ。以上の症状は熱によって起ったものであり,熱の在る場所は表と心下である。微嘔と心下支結は共に心下の痰飲症状である。支結とは心下部が自覚的にも緊張感を訴え,他覚的にも緊張が認められることを云う。臨床的にはこ英自覚的緊張感は疼痛のこともあり,他覚的の緊張は肋骨弓下縁から直腹筋が臍近くまで緊張を増していることである。柴胡桂枝湯の証は表熱があり,心下に血熱と水とがある。表熱は裏気をして上衝させようとする。心下の水とは支結というのが痰飲性のものであり,柴胡桂枝湯が結胸の部類に偏入されているも英であり,且つ後に述べるように津液を通じる作用があることからも容易に考えられる。所が傷寒だと熱症状を主とするもので主と成て表の熱症状が著明に現れて来る。之に反して後条に述べる無熱性の腹痛では水血が主になってくる。この時は表証はなく専ら心下から腹中にかけての症状が現れている。この辺の消息をよく考えたら柴胡桂枝湯証の病理はつかめるであろう。「発汗多く,亡陽譫語する者は下すべからず。柴胡桂枝湯を与えてその栄衛を和して以て津液を通じ,後自ら愈ゆ」(傷寒論発汗後)はその病理を解く一つの鍵である。発汗すると表の水分が汗によって失われ,熱が奪われ,実している気は脱力され、虚していれば益虚に陥る。そうすると内の熱が動いて表の生理的な熱をカバーして行かなければならぬ。熱は単独には動かず,熱を動かすのは気である。そこで気も動かねばならなくなる。斯くして裏の熱と気が動くにつれて上衝の症状を伴うことがある。微嘔などはそれである。譫語もそれである。譫語は承気湯でも明らかな如く陽の症状で熱,実の場合に起る。譫語とか狂とかは血熱が頭の方に昇って行って起るが,譫語は中焦の熱,狂は下焦の血から起ることが多い。柴胡桂枝湯は心下支結というが如く中焦が中心で上焦にも波及する状態である。柴胡桂枝湯は表が虚している。そこへ熱が行ってもただ補うだけで過剰にならぬ限り病的症状は現れない。前に引用した条文も発熱微悪寒で寒より熱の方が優っているのは裏熱が表に行って亡陽をカバーするのと同じ状態であろう。熱は表に行くと同時に上の頭への昇って行く。頭は発汗剤を使った位だから陽気の熱が多かったと見なければならぬ。そこへ裏から熱が上って行ったので譫語を起したのであろう。熱は膀胱経に入れば狂となり,胃経に入れば譫語になる。水が減れば火が盛んになる。津液を亡すれば熱症状が強くなる。承気湯などの胃の実熱なら胃症状が著明だが,表虚亡陽では心下の症状は著明でなく反って虚している部分(今の場合は頭)の症状の方が著明になる。不可下とは譫語を起す承気湯証もあるから譫語なら下すものと思って承気湯などを使ってはいけないと戒めたもので,傷寒論の文章は実に行届いている。柴胡桂枝湯を与うというのは,必ずしも柴胡桂枝湯の絶対指示ではない。他の柴胡剤を見合せて使えということだ。だから場合によっては小柴胡湯も,柴胡去半夏加括呂湯も柴胡桂枝干姜湯も使う場合があるかも知れぬ。之から起して栄衛を和し,津液を通じるのは柴胡桂枝湯ばかりでなく他の柴胡剤にもその機序があることを含んでおいてよい。柴胡桂枝干姜湯などは正に亡陽である。傷寒論はこんな風にして他と引較べながらそのものを考え,応用の途を開いていくのである。
柴胡桂枝湯が栄衛を和すとはどういうことであろうか。之は処方の構成上主として桂枝湯が与る所である。桂枝湯の適応証に「病常に自汗出づるものはこれ栄気和すと為す。栄気和するものは外諧わず。衛気,栄気と共に諧和せざるを以ての故に爾り。栄は脉中を行り,衛は脉外を行るを以てその汗を発し,栄衛和するときは則ち愈ゆ」(太陽中)がそれである。栄衛は漢方の基本的な生理だが,栄はさかえる。栄養を運ぶの意,衛は脉外を流れる気の意だが,血管を指しているらしく,現代医学的に云えば血管運動神経,血管収縮神経,その血管自律神経などを指しているものらしい。之を衛生と概称している。栄衛と汗の関係は栄気が和していても衛生が不和だと汗が出る。「病人蔵に他病無く,時に発熱し,自汗出でて愈えざるものはこれ衛生の不和なり」(太陽中)も参考になる。つまり守る衛生が弱くなっていると血から水分の汗が漏れて来るというのだ。「其脉浮にして汗出づること流珠の如きものは衛気衰うるなり」(弁脉法)が是である。前述の衛気,栄気の不諧和と表現したのは衛気が衰え栄気が正常でアンバランスになっていると云うことである。栄衛の不調和を示す脉や症状は他に多くの例証があるが,今の場合は自汗出であって,この状態は柴胡桂枝湯の発汗後と共通しており,栄衛を調和することによって津液の循環を調整するのである。それは主として桂枝湯が与ることなので,柴胡桂枝湯に於ても亦津液を通じるということが言えるのである。柴胡桂枝湯の証はそればかりでなく津液を通ぜぬもう一つの要因がある。それは心下支結で表現されている所の変化であり,之は小柴胡湯の胸脇苦満の変形であることは誰しも気が付く所であろう。之は即ち胸膈部(部位からいうと胸,脇,心下になり内臓からいうと肺,肝,胃などが之に当たる。)に熱を滞び,気が実し,水が停滞している状態である。大小柴胡湯とか柴胡桂枝湯とかは此等の状態のそれぞれに度合の強弱こそあれ皆この状態を具えている。身体を上中下に分ければその中部がふさがっているから,上下の気の通じが悪くなる。それに伴って上下の津液のめぐりが悪くなる。それを通じるには中部のふさがりを取らねばならぬ。柴胡剤はそういう働きをする薬で殊に柴胡桂枝湯は栄衛を和す働きと相俟って上下の津液のめぐりを流通させる働きがある。津液を通じるとは之を云う。ひとり上下ばかりでなく,表裏に於ても亦津液の流通疎碍が起るし,それを通じるのも柴胡桂枝湯の役目である。(中略)
柴胡桂枝湯は下剤になる。但し通常の下剤の概念とは凡そ違ったもので,上下の津液がめぐらぬために便中の水分が不足し,便が硬くなって出にくいのを津液をめぐらすことによって便通を容易にするとの意味である。心下支結の症状があれば使う。肺結核で微熱がとれぬもの,内熱のために津液が不足し,津液が不足するから内熱がとれぬという悪循環を繰返していると見て柴胡桂枝湯でこの微熱が取れることがある。漢方はこういうふうに条文を聞み,生かし,運用して行くから一つのものが10にも20にも応用されるのであり,一見妙な使い方をしているようでも決して思付きや出鱈目でなく,理に合ったことをしているのである。それを胸脇苦満とか心下支結とかの症状だけにしがみ付いているから動きがと取れなくなるのだ。柴胡桂枝湯は条文通りの場合に使うことがあるのも勿論だが,その中の症状をうまく転がして使うことも頗る多い。例えば感冒が抜け切らずに微熱が続いているもの。四肢煩疼を主にして発熱心下支結するもの,発熱嘔吐心下部が支結するもの等々。また無熱の時でも構わない。例を挙げると,発熱を主にする場合。体温は高熱でも微熱でもよい。微悪寒も必発ではない。往来寒熱することもある。脉は浮細数,弦細,寸口尺小緊など症状に応じて現われ方が違う。食欲不振,軽咳,頭痛,関節筋痛,心下部の重苦しい感成;,心下部が全体に緊張し或は直腹筋が特に緊張し,或は肋骨弓下が僅かに緊張するなど度合は様々だが,大部分のものに心下症状が見られる。感冒,流感,中耳炎,その他凡ての急性発熱性の病気で前記症状のあるもの。肺結核,肋膜炎で発熱,或は微熱,自汗,軽咳,軽い胸痛などあり,心下部症状を伴うもの。
マラリヤ,初期に寒熱往来して心下部に緊張あるもの。慢性でも脉,腹証を参照して使うことがある。小柴胡湯との鑑別は本方には表証があるか心下部の所見が軽いか,若くは心下部の緊張が一見した所では強そうに見えるが薄く浅く緊張していて深く根を張っていない。亡津液があるかなどで見当がつく。柴胡桂枝干姜湯との区別は,柴胡桂枝干姜湯には表証がなく,上衝が主で,口渇,頭汗,腹動などがあるからそれに目をつける。心下部の緊張は強ければ柴胡桂枝湯だと直ぐに判るが,弱いときには両者全く同じことがあって区別が付きかねる。その時は他の症状で区別して行くより外はない。

運用 2. 腹痛
金匱要略の寒疝に「心腹卒中するものを治す」という。外台には寒疝腹中痛むものとなっている。心腹とは心臓と腹という意味ではなく,概して心下部ということだ。卒中痛は卒かに中り痛むで宣通発作の意。 寒疝は腹が冷えて痛むものでその部位は不定である。柴胡桂枝湯の腹痛は概して心下部,或は臍部,稀には側腹部に起る。之は心下支結の応用であって,心下部全体がピンと緊張していることもあり,直腹筋だけが目立って緊張していることもある。胃酸過多症,胃カタル,胃潰瘍,胃痙攣,腹石症,胆嚢炎などで発熱の有無に拘らず,心下部の緊張感,圧重感,病痛,劇痛を発し,同部が緊張しているもの,或は呑酸嘈囃,或は嘔吐,或は黄疸等を伴うこと社悪現乗:急性虫垂炎の初期に胃部疼痛,嘔吐するもの,急性大腸炎で少し発熱悪寒が残り,腹痛下痢するもの,或は荏苒として左下腹部の不快感が去らず圧痛あり,便通渋り粘液止まぬもの,肋間神経痛で前胸部又は側胸部に痛みを訴え,発熱心下支結の候あるもの。

運用 3. 神経症状
小柴胡湯を癇とし,桂枝湯を上衝とすると柴胡桂枝湯は興奮性の神経症状が強いものに使うことが判る。条文の譫語は極端な場合だが,そこまで行かずに,癇,神経質,神経症,ヒステリーなどと呼ばれるものに使うことが屢ある。「婦人故なく憎寒壮熱,頭痛眩暈,心下支結,嘔吐悪心,支体酸輭或は麻痺,鬱々として人に対するをにくみ,或は頻々として欠伸するもの。俗にこれを血の道と謂う。此方に宜し」(類聚方広義)もよい参考になる。矢数道明氏は神経が亢ぶり身体中を掻き皮膚紋画症あるものに著効を奏した経験を発表しておられる。痒みを亡陽煩躁と見たものである。柴胡剤や瀉心剤と鑑別を要する。脉や腹証では鑑別困難なことがあるから多くは症状で区別する。

蕉窓方意解〉 和田 東郭先生
これまた小柴胡湯と桂枝湯を合したる方なり。故にその腹候は,小柴胡湯の腹候にして,鳩尾にしかとしたる凝りありて,任脈通りに凝り強きものと知るべし,すでに任脈に凝り強くなりて邪気その凝りに引きしめられるゆえ,その熱の位は小柴胡湯よりは,また一等上わざめしたるようにみえて,実は底に根づよき熱とは格別軽きものなり。故に本論に傷寒6,7日と説けり。6,7日とは熱の位は小柴胡湯よりすこし強きをいうなり。されども任脈の凝りにしめつけるゆえ,上わべにうく熱は,少なき意ゆえに,本論に,熱微悪寒と説けり。(やはり微の字を発熱もかけてみるべし,本論において外にもこの文例あり) 姜桂湯は心下に飲を蓄うるゆえ,心下の結聚底に沈み腹表は,飲ばかりなるゆえ微結といえり,この症は飲少なく心下の痞鞕表に浮かみやすき形なり。故に本論に心下支結と説けり,すなわちこの心下を桂枝,芍薬にて柔らぐるなり,支節煩疼とは鳩尾に引きしむること強きゆえ,四肢の関節に気めぐらす。かつ初め桂枝表症の時分,汗解たらず,かれこれするうちに柴胡の症に移り,もはや汗も止みて出でざるゆえ,最初よりの邪熱水飲関節の間に滞るなり,故に本論に支節煩疼と説けり,外証とは最初よりの桂枝の位の外症なり,これをもって,これを観ずれば桂枝湯を合方したるは鳩尾より任脈をゆるむるためにして,また関までも桂枝にて表散することにもあるべし。 (この症,汗止むようになるは鳩尾にしまり強くなるゆえなり。桂芍を組みては,ぜひとも,心下鳩尾にかかるなり,この方,表と裏とを兼ざるとは自然の具合いにてあらかじめいいがたし。)


医療引手草〉 加藤 謙斎先生
古方ノ柴桂湯ハ調和ノ剤ニシテ感冒時ノ後余熱アリ,或ハ身ダルク少シ頭痛又悪寒ナドアルニ用ルナリ。少シ小便濁リ口中粘リナドスルヲ目当トスベシ,又婦人諸病ニ用テヨシ。此方瘀血ヲメグラス意アリ。婦人腰痛ニハ大黄ヲ加ヘテ用ル尤モヨシ。或ハドコニテモ痛ムコトニ用テ効アリ。


古方節義
此方ハ表裏ヲ和スル剤タルニヨッテ感冒傷寒ノ後調理ノ剤トナスベシ。其外瘧痢,産後,積聚疝気ノ類悪寒発熱アル者ニスベテ用ユベシ。又婦人瘀血血滞ニ因テ種々ノ證ヲナスモノ必ズ用ユベシ甚ダ効アリ。此證多クハ大便秘結スルモノナリ。或ハ耳鳴手足麻痺疼痛ヲナスコトアリ。此湯ヲ宜トス。尤モ何レモ大黄ヲ加フベシ。
大抵外感発熱頭痛熱強ク少シニテモ身ダルキ気味アルニ先此方ヲ用テ発散スルナリ。
柴胡湯和解ノ薬,桂枝湯栄衛ヲ和スル,此二ツヲ合シタル意ニテ用ベシ。故ニ気血ヲメグラシ和スル良剤ナリ。又婦人ノ病ハ多クハ気滞ニ瘀血ヲ兼ルモノナリ。肩背痛ミ,腰痛ミ,或ハ足痛ミ或ハ腹左ノ方ニ動悸アリ,或ハ積聚アルノ証スベテ柴桂湯ヲ用ユベシ。此柴桂湯ハ何病ニモ意ヲ以テ用カタ多シ。産時ノ血ブルヒナドニ竜王湯フリダシ薬ノ類ニテ効ナキニ此方即効アリ。尤モ瘀血ツヨキニハ大黄ヲ加ルナリ。



『漢方医学十講』 細野史郎著 創元社刊
柴胡桂枝湯
柴胡桂枝湯(さいこけいしとう)
   
〔傷寒論〕 〔細野常用一回量〕
柴胡(さいこ) Bupleuri Radix 四両
2.5g
黄芩(おうごん) Scutellariae Radix 一両半
1.5g
半夏(はんげ) Pinelliae Tuber 二合半、洗う
2.7g
人参(にんじん) Ginseng Radix 一両半
0.7g
甘草(かんぞう) Glycyrrhizae Radix 一両、炙る
0.3g
芍薬(しゃくやく) Paeoniae Radix 一両半
3.0g
桂枝(けいし) Cinnamomi Cortex 一両半、皮を去る
2.4g
大棗(たいそう) Zizyphi Fructus 六枚、擘く
5.0g
生姜(しょうきょう) Zingiberis Rhizoma 一両半、切る
6.5g

右九味。以水七升。煮取三升。去滓温服一升。本云人参湯。作如桂枝法。加半夏柴胡黄芩。

本方は柴桂湯(さいけいとう)と略称され、小柴胡湯と桂枝湯の合方で、小柴胡湯の薬味に桂枝と芍薬を加えたものである。だから単に薬方の構成上から見ても、 桂枝湯の太陽病証と小柴胡湯の少陽病証との混在したものに用いるものと考えられる。つまり少陽病の時期となり、その病状が具(そな)わりながら、なお桂枝 湯を用いるべき表証が残っていて、前述の『傷寒論』の条文のような状態となり、また少陽病で頭痛や悪風が止まず、自汗も止まないような状態に用いるのであ る。
さらに『傷寒論』中、本方に関する条文を拾ってみると、
「発汗多。亡陽讝語者。不可下。與柴胡桂枝湯。和其栄衛。以通津液。後自癒。」
(発汗すること多く、亡陽讝語するものは下すべらかず。柴胡桂枝湯を与え、その栄衛を和し、以て津液を通ぜば、後自ら癒ゆ。)
とある。
このように譫語するものはすでに陽明病の症状であるが、この場合の讝語は胃実によるものではなく、虚弱な人が発汗過多のために亡陽を来たし、その結果起 こったもので、亡陽を救うことが急務であって、胃実と考えて決して攻下してはならない。陽気を補う桂枝湯に和剤である小柴胡湯を合わせた柴胡桂枝湯を用い るとよいのである。
このほか『金匱要略』にも付方として、
「外台柴胡桂枝湯方。治心腹卒中痛者。」(外台の柴胡桂枝湯の方は、心腹卒中痛する者を治す。)
とあるとおり、本方は腹痛の治療薬方ともなり得る。
さらに、これら『傷寒論』『金匱要略』に述べられている使い方をおしひろめて、急性・慢性の種々の病気にも応用することができる。
まず、カゼのこじれたものに甚だよく効くことは『傷寒論』の教えるとおりであるが、自汗の出やすい感冒では、すぐ後に来るであろう少陽病の治療をも含め て、予防的に初発より用いることもある。したがって吉益東洞の時代に、流感の新しい治療薬と世に唱えられ、後世方家の間でも賞用されたものである。
私は、背筋の微悪寒がいつまでもとれず、ぞくぞくするものには、本方に黄連の極く少量(〇・一g)を加えて用いる。
なお、太陽・少陽の併病でも実証に傾くものには、私は、小柴胡湯に葛根湯を合わせて柴葛湯(さいかつとう)と略称して、よく用いている。この柴葛湯から人 参・大棗を去り石膏を加えたものに、浅田家方の柴葛解肌湯(さいかつげきとう)という薬方がある。主治は太陽・少陽の合病を治すとなっているが、きわめて 良い薬方で、「大正八、九年に全国的にひろがった流感のときに沢山の死亡者が出たが、自分はこの薬方だけで悪性の肺炎に追い込むこともなく、死亡者を出す こともなかった」と恩師新妻荘五郎先生から聞いたことがある。

柴胡桂枝湯の適応症
〔1〕呼吸器系
肺結核、胸膜炎で、微熱、自汗などがあり,表虚を伴っている場合に用いる。ただし、柴胡桂枝乾姜湯証の”裏の虚”にまで陥っていないもので、しばしば軽い 関節痛を伴うことが、本方を決める手がかりとなることがある。しかし、前述のように、感冒薬として用いる場合が一番多いであろう。
〔2〕消化器系
本方は小柴胡湯加芍薬の意もあり、小柴胡湯方後にあるように、腹中痛を治すことにもなり、種々の腹痛を伴う腹部疾患に用いる。『金匱要略』の腹満寒疝宿食 病篇に「心腹卒中痛を治す」とあり、『外台秘要』には「寒疝腹痛のもの」とあることも、拠りどころである。本方を用いる腹痛は、上腹部、臍部、側腹部など のこともあるが、心下支結を目標として与える。もちろん胸脇苦満証はほとんど全例に確認される。
胃酸快多のある胃炎、胃・十二指腸潰瘍に、本方に牡蛎を加えて、胸やけや上腹痛を止め、胃痙攣はもとよ胆石症、胆嚢炎などでも、発熱の有無にかかわらず、応用される。
胆石症では、胆石疝痛の特効薬とも言われよく用いられる大柴胡湯ほどではないが、体力が落ちてきて、それほど強く治い発作が頻々と起こるような場合には、本方の適することが多い。
また、腹膜炎、急性虫垂炎の初期または軽症のものに用いられる。その場合、茴香または大黄を加えることが多い。
急性大腸炎の腹痛、下痢するもの、あるいは常に左下腹部に不快感、圧痛があり、大便がしぶって快痛せず粘液を混じたりするものにも、本方を応用することがある。
〔3〕神経症状
小柴胡湯の適応症状に神経症状のあることはすでに述べたが、本方は、桂枝を含み、上衝をともなう神経症状を治すのをよく経験する。なおノイローゼやヒステリーの状態にも用いられる。
〔4〕血の道症
本方は第一講で述べた逍遙散の実証性のものと考えられ、血の道症、子宮附属器炎、卵管炎などにも用いられる。また腰痛には蒼朮や茴香を加えて用いることがある。
尾台陽動は『類聚方広義』において、「婦人。無故憎寒。壮熱。頭痛。眩暈。心下支結。嘔吐悪心。支体酸軟。或痺。鬱々悪対人。或頻々欠伸者。俗謂之血道。 宜此方……。」(婦人、故なく憎寒し、壮熱あり、頭痛眩暈、心下支結、嘔吐悪心、支体酸軟(四肢が痛痛み、力が入らなくなる)し、或いは痺(くんぴ)(麻 痺)し、鬱々として人に対するを悪み、或は頻々欠伸する者は、俗に之を血の道と謂う。此の方に宜し。……」と言っている。
柴胡桂枝湯の症例
〔症例1〕女子、二十二歳。
〔既 往症〕幼時より腸が弱く、疫痢、赤痢にかかり、また肺炎にも三回かかった。十五歳のとき、呼吸困難、心悸亢進を来たし、レ線で診た結果、心肥大と言われ、 同時に諸関節が腫れたと言う(リウマチ性のものであったと想像される)。四年前より疲れやすくなり、医師より肝腫大と診断され、次第に右側胸部に疼痛を来 たし、その程度と回数を増し、さらに右背中、肩にも痛みが放散するようになり、昨年病院で手術を受けたところ、胆嚢に膿がたまっていた。手術後二ヵ月ほど はよかったが、その後、再び疼痛を来たし、立っているのが辛く、立っていると右側胸部、背中がつまってくる。毎日この鈍痛はあるが、二~三週間に一回くら いは疝痛発作が起こってくる。最近一ヵ月ほどは三七・五~三八度の発熱が続いている。
〔現症〕食欲不振、少し食べるといやになり、それ以 上無理に食べるとムカムカしてくる。腹には膨満感があり、ことに暁方になるとガスがたまり、腹が張ってくる。便通は五~七日に一度、それも下剤をかけて やっと出る。尿は、約二ヵ月前に頻尿で膀胱炎と言われたことがあるが、一日二~三回で出にくい。寝つき、睡眠も悪く、目がさめやすく、びっくりして目を開 くこともある。常に頭痛があり、顔が赤く熱くなり、目がかすむ。いわゆる冷えのぼせがあり、立ちくらみ、動悸もあり、寝汗がときどき出る。手足は冷え、冬 は背柱のあたりに寒気を感じ、関節痛が起きることもある。
一見栄養の良い、いわゆる水ぶとりで、食べる量は少ないのに一向に痩せることはない。諸種多彩な症状から言っても、水毒で、アレルギー性体質でもある。
身長は中ぐらい、よく太っていて、皮膚は白く、頬は赤い。顔は腫れぼったく、舌は白苔があり、爪は非常に軟らかく爪半月はない。脈は弦小軟で、按ずると凹んだ感じがして、右関上の脈は特に弱い。尿ウロビリノーゲン反応(+)のほかには尿所見はない。
レ線透視検査をすると、胃粘膜は荒れ、やや肥厚している感じ、緊張はよく、牛角型で、幽門は固く閉じ、通過困難の様子。十二指腸部は強く変形していて、三 時間後になお胃の中にバリウムが残り、小腸部には散在した腸炎の像がある。六時間後もなお十二指象部には造影剤が残っていた。
この患者はそれほど実証でなく、また腹候は、手術瘡のある右季肋部にはそれほど抵抗を認めず、


※諧和(かいわ;かいか)
(1)やわらいで親しみあうこと。協調。
(2)音・調子などがよく整うこと。

※爾り:しかり(然り)

柴胡桂枝湯は条文通りの場合に使うことがあるのも勿論だが,その中の症状をうまく転がして使うことも頗る多い。→ いわゆる転用(てんよう)のこと。

※荏苒(じんぜん):なすことのないまま歳月が過ぎるさま。また、物事が延び延びになるさま。

※支体酸輭:だるく痛

※姜桂湯=柴胡姜桂湯=柴胡桂枝乾姜湯=柴胡桂枝干姜湯



【一般用漢方製剤承認基準】
柴胡桂枝湯
〔成分・分量〕
柴胡4-5、半夏4、桂皮1.5-2.5、芍薬1.5-2.5、黄芩1.5-2、人参1.5-2、大棗1.5-2、甘草1-1.5、生姜1(ヒネショウガを使用する場合2)

〔用法・用量〕


〔効能・効果〕
体力中等度又はやや虚弱で、多くは腹痛を伴い、ときに微熱・寒気・頭痛・はきけなどのあるものの次の諸症:
胃腸炎、かぜの中期から後期の症状



【添付文書等に記載すべき事項】
してはいけないこと
(守らないと現在の症状が悪化したり、副作用が起こりやすくなる)
次の人は服用しないこと
生後3ヵ月未満の乳児。
〔生後3ヵ月未満の用法がある製剤に記載すること。〕
相談すること
1.次の人は服用前に医師、薬剤師又は登録販売者に相談すること
(1)医師の治療を受けている人。
(2)妊婦又は妊娠していると思われる人。
(3)高齢者。
〔1日最大配合量が甘草として1g以上(エキス剤については原生薬に換算して1g以上)含有する製剤に記載すること。〕
(4)今までに薬などにより発疹・発赤、かゆみ等を起こしたことがある人。
(5)次の症状のある人。
むくみ
〔1日最大配合量が甘草として1g以上(エキス剤については原生薬に換算して1g以上)含有する製剤に記載すること。〕
(6)次の診断を受けた人。
高血圧、心臓病、腎臓病
〔1日最大配合量が甘草として1g以上(エキス剤については原生薬に換算して1g以上)含有する製剤に記載すること。〕
2.服用後、次の症状があらわれた場合は副作用の可能性があるので、直ちに服用を中止し、この文書を持って医師、薬剤師又は登録販売者に相談すること
関係部位 症状
皮膚 発疹・発赤、かゆみ
その他 頻尿、排尿痛、血尿、残尿感

まれに下記の重篤な症状が起こることがある。その場合は直ちに医師の診療を受けること。
関係部位 症状
皮膚 発疹・発赤、かゆみ
その他 頻尿、排尿痛、血尿、残尿感


〔1)は、1日最大配合量が甘草として1g以上(エキス剤については原生薬に換算して1g以上)含有する製剤に記載すること。〕
3.1ヵ月位(かぜの中期から後期の症状の場合には1週間位)服用しても症状がよくならない場合は服用を中止し、この文書を持って医師、薬剤師又は登録販売者に相談すること
4.長期連用する場合には、医師、薬剤師又は登録販売者に相談すること
〔1日最大配合量が甘草として1g以上(エキス剤については原生薬に換算して1g以上)含有する製剤に記載すること。〕
〔用法及び用量に関連する注意として、用法及び用量の項目に続けて以下を記載すること。〕
(1)小児に服用させる場合には、保護者の指導監督のもとに服用させること。
〔小児の用法及び用量がある場合に記載すること。〕
(2)〔小児の用法がある場合、剤形により、次に該当する場合には、そのいずれかを記載すること。〕
1)3歳以上の幼児に服用させる場合には、薬剤がのどにつかえることのないよう、よく注意すること。
〔5歳未満の幼児の用法がある錠剤・丸剤の場合に記載すること。〕
2)幼児に服用させる場合には、薬剤がのどにつかえることのないよう、よく注意すること。
〔3歳未満の用法及び用量を有する丸剤の場合に記載すること。〕
3)1歳未満の乳児には、医師の診療を受けさせることを優先し、やむを得ない場合にのみ服用させること。
〔カプセル剤及び錠剤・丸剤以外の製剤の場合に記載すること。なお、生後3ヵ月未満の用法がある製剤の場合、「生後3ヵ月未満の乳児」をしてはいけないことに記載し、用法及び用量欄には記載しないこと。〕
保管及び取扱い上の注意
(1)直射日光の当たらない(湿気の少ない)涼しい所に(密栓して)保管すること。
〔( )内は必要とする場合に記載すること。〕
(2)小児の手の届かない所に保管すること。
(3)他の容器に入れ替えないこと。(誤用の原因になったり品質が変わる。)
〔容器等の個々に至適表示がなされていて、誤用のおそれのない場合には記載しなくてもよい。〕
【外部の容器又は外部の被包に記載すべき事項】
注意
1.次の人は服用しないこと
生後3ヵ月未満の乳児。
〔生後3ヵ月未満の用法がある製剤に記載すること。〕
2.次の人は服用前に医師、薬剤師又は登録販売者に相談すること
(1)医師の治療を受けている人。
(2)妊婦又は妊娠していると思われる人。
(3)高齢者。
〔1日最大配合量が甘草として1g以上(エキス剤については原生薬に換算して1g以上)含有する製剤に記載すること。〕
(4)今までに薬などにより発疹・発赤、かゆみ等を起こしたことがある人。
(5)次の症状のある人。
むくみ
〔1日最大配合量が甘草として1g以上(エキス剤については原生薬に換算して1g
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以上)含有する製剤に記載すること。〕
(6)次の診断を受けた人。
高血圧、心臓病、腎臓病
〔1日最大配合量が甘草として1g以上(エキス剤については原生薬に換算して1g以上)含有する製剤に記載すること。〕
2´.服用が適さない場合があるので、服用前に医師、薬剤師又は登録販売者に相談すること
〔2.の項目の記載に際し、十分な記載スペースがない場合には2´.を記載すること。〕
3.服用に際しては、説明文書をよく読むこと
4.直射日光の当たらない(湿気の少ない)涼しい所に(密栓して)保管すること
〔( )内は必要とする場合に記載すること。〕




2012年4月2日月曜日

苓桂朮甘湯(りょうけいじゅつかんとう) の 効能・効果 と 副作用(2)

(傷寒論)
傷寒,若吐,若下後,心下逆満,気上衝胸,起則頭眩,脈沈緊,発汗則動経,身為振々揺者,本方主之(太陽中)

(金匱要略)
心下有痰飲,胸脇支満,目眩,本方主之(痰飲)
夫短気有微飲,当従小便去之,本方主之



漢方診療の實際 大塚敬節 矢数道明 清水藤太郎共著 南山堂刊
 苓桂朮甘湯(りょうけいじゅつかんとう)
茯苓六・ 桂枝四・ 五味子三・ 甘草二・
本方は眩暈と身体動揺感及び心悸亢進とを目標にし諸病證に応用される。患者の顔色はやや貧血性で、脈は沈緊、或は沈緊でなくても相当に力がある。腹部は屡々振水音を聞き、また動悸の亢進を触れ、尿利減少がある。
處方中の茯苓と朮は水分の循流を計り、桂枝は血行を盛んにする。故に両者相協力して眩暈を治し、心悸亢進を鎮めるのである。甘草は諸薬の調和剤である。本 方は眩暈・心悸亢進のみならず、水分の不循流・血行の不調に由る眼疾・脚弱症その他の諸症に応用される。従ってその応用は心臓弁膜症・慢性腎臓炎・高血圧 症・喘息・神経衰弱・結膜炎・角膜炎・網膜炎等である。



漢方薬の実際知識 東丈夫・村上光太郎著 東洋経済新報社 刊
11 駆水剤(くすいざい)
駆水剤は、水の偏在による各種の症状(前出、気血水の 項参照)に用いられる。駆水剤には、表の瘀水を去る麻黄剤、消化機能の衰退によって起こ る胃内停水を去る裏証Ⅰ、新陳代謝が衰えたために起こった水の偏在を治す裏証Ⅱなどもあるが、ここでは瘀水の位置が、半表半裏または裏に近いところにある ものについてのべる。

6 苓桂朮甘湯(りょうけいじゅつかんとう)  (傷寒論、金匱要略)
〔茯苓(ぶくりょう)六、桂枝(けいし)四、朮(じゅつ)三、甘草(かんぞう)二〕
本方は、胃の機能が衰え、瘀水が胃部に停滞し、その瘀水が気の上衝とともに移動して起こるめまい、息切れ、心悸亢進などに用いられる。した がって、上衝、頭痛、めまい(起立性眩暈)、身体動揺感、心悸亢進、胃内停水、尿利減少、足の冷えなどを目標とする。また、筋肉の痙攣(眉、腕、顔などの 筋肉がピクピクと動くもの)や血圧が変動するものなどを目標にすることもある。
〔応用〕
駆水剤であるために、五苓散のところで示したような疾患に、苓桂朮甘湯證を呈するものが多い。
その他
一 神経質、神経衰弱、ノイローゼ、ヒステリー、精神分裂症などの精神、神経系疾患。 一 心臓弁膜疾、心不全、高血圧症、低血圧症その他の循環器系疾患。
一 眼底出血その他の眼科疾患。
一 そのほか、バセドウ氏病、冷房病、蓄膿症、脚気、水虫など。
苓桂朮甘湯の加味方
(1) 連珠飲(れんじゅいん)  (本朝経験)
〔苓桂朮甘湯と四物湯(しもつとう)の合方〕
本方は、瘀水を貧血をかねており、血虚、めまい、心下逆満(下方より心下部に向かっておし上げられる充満感)に用いられるもので、諸出血後の 貧血によるめまい、耳鳴り、動悸、息切れ、顔面浮腫などを目標とする。本方は、四物湯(前出、駆瘀血剤の項参照)の適さない体質者には用いられない。

増補版 現代漢方治療の指針 漢方をよりよく より多くの人に』 小太郎製薬株式会社 薬学の友社 
苓桂朮甘湯 レイケイジュツカントウ 傷寒論
適応症
肺結核、不整脈、心臓神経症、心臓弁膜症、高血圧症、低血圧症、ノイローゼ、ヒステリー、結膜炎、フリクテン、角膜炎、涙嚢炎、白内障、眼底出血、鼻炎、蓄膿症、メニエル氏症候群

目標
立ちくらみやめまい、あるいは動悸がひどく、のぼせて頭痛がし、顔面やや紅潮したり、あるいは貧血し、排尿回数多く尿量減少して口唇部がかわくもの。

構成
茯苓 桂枝 朮 甘草

備考
本方は急に立ち上った時とか、うつむいていた顔を急にあげたりした時、あるいは入浴時にふらふらとしてめまいをするような身体動揺感がひどい症状によく用いられる。自律神経不安定症で前記のような症状がある場合の奏効するが、頭汗、胸内苦悶、食欲不振などがあれば柴胡桂枝干姜湯が、咽喉に異物があ改a希子成二置すぐれない場合は半夏厚朴湯が適する。
本方は頭痛薬を常用する慢性患者に劇的な効果を示し、長年常用した頭痛薬を廃薬させることが多い。桂枝茯苓丸を投与しても効果の少ない頭痛にも一度試みるべきである。また外見上卒中体質でもないのに血圧が高く尿量減少するものに本方と当帰芍薬散との合方を用いて効果がある。
また眼底出血その他の眼科疾患に応用されることも多く、耳鳴を伴なった鼻づまり、蓄膿症には本方単独もしくは柴胡剤と合方して与えるとよい。
本方適応症で食欲不振を伴なう場合は大柴胡湯あるいは小柴胡湯合方する。
五苓散との鑑別は一方に著しい口渇、浮腫あるいは悪心、嘔吐、下痢などの症状(五苓散適応症)他方に身体動揺感、心悸亢進が著明(本方適応症)であれば容易であるが、実際上きわめて困難な場合もある。このような時は本方を与えて悪心や浮腫が起れば五苓散に、逆に五苓散を与えてめまいがひどくなれば本方に転方するとよい。あるいは初めからこの両者を合方して与えることも考えられる。この合方はまた漢方治療における誤治の応急処置に広く使われる。


漢方処方応用の実際  山田光胤著  南山堂刊
240.苓桂朮甘湯 りょうけいじゅつかんとう(傷寒・金匱)
茯苓6.0 桂枝4.0 朮3.0 甘草2.0

目標〕 心下に停水(水毒)かあって動悸,めまい(眩暈)の激しいものに用いる.
たちくらみ,めまい,身体動揺感など程度の差はあるが,めまいが主訴である.同時にに息切れと心悸亢進,頭痛,上衝 などがあり,尿利が減少する.脈は沈緊で,腹部は全体に軟弱で心下部に振水音をみとめたり,膨満ぎみになったりする。また臍の近くで腹部大動脈の拍動が亢進するものが多い.


説明〕 茯苓,朮,甘草に更に一味を加えた処方が3方ある.乾姜が加わると,苓姜朮甘湯 となり,大棗が加わると 苓桂甘棗湯 となり,桂枝が加われば本方となる。その目標は,苓姜朮甘湯は腰以下の甚だしい 冷えであり,苓桂甘棗湯は激しい心悸亢進であり,苓桂朮甘湯はめまい(眩暈)である.これらの3方は,いずれもその基礎に水毒のある証で,僅か1味の薬の 違いによって,その薬効の方向が異なる例である.
桂枝は,上衝 すなわち 気の上逆を引き下げる働きがある,本方証のめまいは,水毒の上衝である.


応用〕  胃下垂症,メニエール症候群,神経性心悸亢進,不安神経症,ヒステリー,血の道症,心臓弁膜症 その他の心疾患,バセドウ病,結膜炎,慢性軸性視神経炎,翼状贅片 などの眼疾患に車前子を加えて用いる.腎炎,ネフローゼ,高血圧症,喘息,蓄膿症,貧血症 などに広く用いられる.
鑑別〕 炙甘草湯の項 参照.

15.炙甘草湯 しゃかんぞうとう
本方の証は 心悸亢進が主で,これに息切れが加わり 脈の結代がある.
また 四肢の煩熱や甲状腺腫を伴うことがある.
1) 木防已湯(もくぼういとう) 息切れ (呼吸促迫) が主で,動悸 (心悸亢進) を伴う.浮腫,尿利減少のあることが多い.
2) 苓桂朮甘湯(りょうけいじゅつかんとう) めまいを主とし,心悸亢進を従とするほか,尿利が減少することもある.
3) 苓桂甘棗湯(りょうけいかんそうとう) 下腹からおこって,上の方へつき上がり,咽喉にまで到って,咽喉をふさぐほど激しい動悸である.一種の神経症状で,ヒステリー発作 などにみられる劇的症状である. 大塚氏は,「発作の激しい時な人事不省に陥るものもある.このさい腹全体で動悸がし,ことに臍下に強く,みぞおちは塞ったようで,気が胸につき上がり,発作の時は呼吸も促迫して四肢を痙攣さすものである」といっている(漢方治療の実際).
4) 苓桂五味甘草湯(りょうけいごみかんぞうとう) 動悸,上衝があって,咳がひどくでるものに用いる.
5) 茯苓甘草湯(ぶくりょうかんぞうとう) よく似ているが,嘔きけを伴うことが多い.
6) 桂枝甘草竜骨牡蛎湯(けいしかんぞうりゅうこつぼれいとう) 火逆 すなわち 火傷や熱射病による心悸亢進である.
7) 桂枝甘草湯(けいしかんぞうとう) 突然の激しい心悸亢進に頓服として用いる.持続して長期間服用するには,苓桂甘棗湯 や 苓桂朮甘湯 があるが,本方の加味方である.



臨床応用 漢方処方解説 矢数 道明著 創元社刊
152 苓桂朮甘湯(りょうけいじゅつかんとう) 〔傷寒・金匱〕
茯苓 六・〇  桂枝四・〇  白朮三・〇  甘草二・〇

応用〕  胃の元気が衰え、水飲が中焦(胃部)に停滞し、気の上逆や、上衝頭眩等を発するものに用いる。本方の運用を新撰類聚方に従って類別列挙すると、次のごとくである。
(1) 神経性疾患 神経衰弱・神経質・ノイローゼ・ヒステリー・分裂症・血の道症等
(2) 心臓疾患 心臓弁膜症・心不全・心臓喘息・神経性心悸亢進症(動悸・貧血・浮腫)・バセドー病
(3) 眼疾患 カタル性結膜炎・フリクテン性結膜炎・角膜パンヌス・翼状贅片・角膜乾燥症・慢性軸性視神経炎・中心性視神経萎縮(羞明・充血・流涙・眼痛をともなう)
(4) 運動神経系 運動失調・痿躄・脚弱・眼球振盪症・メニエール症候群・小脳および錐体外路疾患・癲癇(眩暈・身体動揺感・耳鳴・腹部動悸をともなう)
(5) 腎疾患 慢性腎炎・ネフローゼ・萎縮腎
(6) その他、高血圧症・喘息・蓄膿症・難聴・咽中炙肉感・貧血症・禿髪症・水虫等に広く応用される。

目標〕 いわゆる虚証で水毒によって起こる。主訴は眩暈・身体動揺感・起立性眩暈・息切れと心悸亢進・上衝・頭痛等である。尿利減少と足冷がある。脈は沈緊で、腹部は軟弱のほうで、胃内停水があり、あるいは膨満することもある。

方解〕 心下部の停水が、気の上逆とともに上部に動いて起こる症状であるから、本方は停水を去り、気の上逆を下して動揺症状を治すものである。
茯苓は胃内の停水を去り、気の上衝による動揺性症状を治すもので、白朮がこれに協力し、水分の順行をよくする。桂枝は気の上逆を引き下げる。甘草は桂枝とともに気を順らし、裏の虚を補うものである。

変方〕 後世方の四物湯(当帰・芍薬・川芎・地黄)と本方を合方して聯珠飲(れんじゅいん)(本間棗軒の家方)と名づけ、貧血による動悸、息切れ、顔面浮腫状などに用いる。
本方に東洞の応鐘散(おうしょうさん)(川芎・大黄二味)加え、血圧亢進などに起こる上気・肩こり・めまい・頭痛・動悸・便秘などに用いた。
また本方に鍼砂・牡蛎・人参を加えて原南陽は鍼砂湯(しんしゃとう)と名づけ、心臓弁膜症・貧血・神経症による動悸・眩暈・呼吸困難などに用いた。
また本方に呉茱萸・牡蛎・李根皮を加えて定悸飲(ていきいん)と名づけ、胃腸虚弱で神経質の者に現われる発作性心悸亢進症に用いた。
さらに本方に車前子・細辛・黄連を加えて明朗飲(めいろういん)と名づけ、眼科一般・視力障害・網膜炎などに用いてよいことがある。

主治
傷寒論(太陽病中篇)に、「傷寒、若クハ吐シ、若クハ下シテ後、心下逆満、気胸ニ上衝シ、起テバ則チ頭眩ス。脈沈緊、汗ヲ発スルトキハ則チ経ヲ動カシ、身振々トシテ揺ヲナス者、苓桂朮甘湯之ヲ主ル」とあり、
金匱要略(痰飲病門)に、「心下ニ痰飲アリ、胸脇支満、目眩スルモノ、苓桂朮甘湯之ヲ主ル」「夫レ短気、微飲アリ、当サニ小便ヨリ之ヲ去ラシムベシ、苓桂朮甘湯之ヲ主ル、腎気丸之ヲ主ル」とあり、 餐英館療治雑話には、「此方癇症、腹内動悸ツヨク、少腹ヨリ気上リテ胸ニ衝キ、呼吸短息、四肢拘急ナドスル証ニ効アリ。又心下逆満シテ、起テバ頭眩シ、動悸アルヲ標的トスレドモ、顔色鮮明ニシテ表ノシマリ宜シカラズ、第一脈沈緊ナル者ニ非ザレバ効ナシト云フ、是レ和田家ノ秘訣ナリ」とある。

鑑別
五苓散41(小便不利水毒・脈浮、渇、水逆吐あり) ○真武湯75(心下悸眩暈・脈沈弱、陰虚証、手足厥冷) ○当帰芍薬散107(心悸眩暈・脈弱、血症、貧血) ○苓姜朮甘湯150(心下悸・腰脚寒冷、小便自利、脈沈弱)
※下線は共通の症候 もとは傍点(○)

参考
木村長久氏、苓桂朮甘湯について(漢方と漢薬 二巻四号)
藤平建氏、慢性軸性視神経炎患者の全身症状知見補遺(日本眼科学会雑誌 五五巻四号)
慢軸患者一九七例に現われた全身症状を観察し、眼精疲労・注意力散漫・感情不安状態・頭痛・頭重・起首時眩暈等は、苓桂朮甘湯の証に該当するもの多きを知り、本方製剤投薬により、視力の良転せるもの九五%、偽性近視の軽減または治癒せるもの七一%、調節時間の正常に復帰せるもの六〇%、諸種総合症状の軽快せるもの八八%、治癒せるもの一二%、慢軸の治療に相当効果を収めたと報告している。

治例
(一) 神経衰弱 
一八歳の中学生。近ごろ気分がすぐれず、学校の成績思わしからず、頭が変になったという。
脈は沈んで力がない。胃内停水のあることを告げ、診ると拍水音著明、角膜反射消失、瞳孔が大きい。神経質の患者によく見る所見である。膝蓋腱反射も亢進している。腹直筋の攣急も甚だしく、小便頻数、苓桂朮甘湯を投薬し、尿量増加とともに三週間で全治した。
(竹内達氏、漢方と漢薬 七巻二号)

(二) 発作性心搏動頻数症
三三歳の男子。数年前に心臓肥大を指摘されたが元気であった。二年前、野球試合中に気分が悪くなり、心動悸脈頻数となり倒れた。以来胸部の重圧感・狭窄感・心搏頻数・結滞が起こり、動悸・呼吸困難・起立時めまい・嘔気・頻尿・多汗症が起こるようになった。
 苓桂朮甘湯に牡蛎四・〇を加え、漸次好転し、三ヵ月にて出勤した。
(著者治験、和漢薬 一三一号)

(三) 眩暈を主訴とする神経症
 下総国小見川西雲寺の僧、臍下に動悸があって、時々心下に迫り、眩暈卒倒せんとする。頭の中は常に大石を載せたようで、上盛下虚(上吊ってのぼせ、下が虚脱する)して脚が弱くなり、しっかり歩くことができない。国中の医が手を尽したが効かない。余は苓桂朮甘湯に妙香散を兼用として与えたが、これを服すること数十日で、数年来の宿痾がすっかりよくなった。
 (浅田宗伯翁、橘窓書影)

(四) 眼疾(角膜実質炎?)
 一女が初め頭瘡を患ったが、それが治国工たら両眼に雲がかかり、すっかり見えなくなってしまった。上逆と心煩があり、時々小便不利がある。よって苓桂朮甘湯に芎黄散を兼用し、時々紫円を以てこれを攻めた。すると雲が去って左眼が少し見えるようになった。
 このとき医を変えて緩補の剤をのんでいたら再び雲がかかって見えなくなってしまった。そこで再び先生に懇願してきた。先生は前方を以て押し通されたが、服用すること数ヵ月で両目ともに見えるようになった。
(吉益東洞翁、建珠録)

(五) 耳聾
 京都効外西岡の良山和尚は、年七十になり、数年前から耳がきこえなくなった。先生に治を求めてきたが、心胸部が苦しく、上気がひどい。そこで苓桂朮甘湯に芎黄散を兼用させること数ヵ月及んだが効果がない。和尚は嫌になって服薬を中止してしまった。
 すると数日して来ていうのに、薬をやめてから、よく聞こえるようになったと、とてもよろこんでいる。先生は診察していうのに、まだまだ治ってはいない、再び薬を飲むと復聞えなくなるであろう。服薬を続けていてそれで聞えるようになったら、それはほんとうに毒がとれたのであると。因て更に前方を服すること数ヵ月に及ぶと、果して先生の言の如くであった。
(吉益東洞翁、建珠録)

※妙香散(みょうこうさん)
和剤局方
木香 山薬 茯神 茯苓 黄耆 遠志 人参 桔梗 甘草 辰砂 麝香
【功用】補気寧神,行気開鬱。
【主治】心気不足,志意不定,驚悸恐怖,悲憂惨戚,虚煩少睡,喜怒无常,夜多盗汗,飲食无味,頭目昏眩,梦遺失精。



漢方概論 藤平健 小倉重成著 創元社刊

茯苓桂枝白朮甘草湯(苓桂朮甘湯)
茯苓4 桂枝3 白朮2 甘草1
以上の四味を約五〇〇mlの水で煎じ、約二〇〇mlとし、滓を去り、一日二回に温服する。

本方証
『傷寒論』所載の主なるものを摘録すれば、
『若しくは吐し、若しくは下して後、心下に逆満し、気、胸に上衝し、起てば則ち頭眩し、身、振々として動揺す。」(太陽病中篇)また、『金匱要略』では、
①「心下に痰飲あり、胸脇支満し、目眩めく。」(痰飲咳嗽病篇)
②「短気して、微飲有り」

以上の要約
「心下悸し、上衝し、起てば則ち頭眩し、小便不利の者を治す。」(『方極附言』)
〔病位〕少陽の変位で虚証。
〔脈候〕浮弱時により浮。
〔舌候〕著変がない。
〔腹候〕腹力やや軟、ほとんどに胃部拍水音を認額る。胃部に按圧に対して抵抗を示すこと、及び動機を認めることがある。
〔応用の勘どころ〕 起立性眩暈(起テバ則チ頭眩シ)、逆上、心悸亢進し、胃部拍水音がある。

鑑別
五苓散。苓桂甘棗湯。瀉心湯など。

応用
胃アトニー、起立性調節障害、ポロプシー、神経衰弱、神経性心悸亢進、眩暈、メニエル症候群、慢性球起視束炎など。



類聚方広義〉 尾台 榕堂先生
○飲家,眼目雲翳ヲ生ジ,昏暗疼痛,上衝頭眩シ,瞼腫レ眵涙多キ者ヲ治ス,芣茨ヲ加エテ尤モ奇効アリ,当に心胸動悸,胸脇支満,等ノ症ヲ以テ,目的ト為スベシ(中略)雀目症にも,亦奇効アリ。 ※雲翳(うんえい)


明解漢方処方 西岡 一夫著 浪速社刊
苓桂朮甘湯(りょうけいじゅつかんとう) (傷寒論,金匱)
処方内容 茯苓六・〇 桂枝 朮各四・〇 甘草二・〇(一六・〇)

必須目標 ①胃内停水 ②尿書減少 ③神経質 ④目眩

確認目標 ①脉は沈緊脉 ②心悸亢進 ③眼病(涙目が多い) ④汗無し

初級メモ ①本方証の性格は,陰証の半夏厚朴湯に似て甚だ気迷い性が多い。
五苓散と本方は,その処方内容が類似しているが,五苓散は裏熱があるため吐下,口渇の症を伴うが,本方は熱症なく,ただ胃部の停水が上衝するだけであって,苦情は主として上半身の水毒症として現れる。
③呼吸困難(短気)に用いる茯苓杏仁甘草湯と本方との区別は,増補処方篇の茯苓杏仁肺草湯の項を参照して頂きたい。
④瞼腫れ,涙目などの眼病には,車前子三・〇を加えるか,または明朗飲を用いる。なお慢性軸性視神経炎には本方証が多く,即ち水毒の上衝が主な原因であるとの藤平健氏の発表は,水毒の現代医学的解明に曙光を投げている。(漢方の臨床誌二巻一号)。

中級メモ ①東洞は本方使用の際は常に芎黄散(大黄一・〇 川芎二・〇 以上を粉末とし,酒で服す)を兼用している。これは血毒の上衝を傍治するためと思われる。
②南涯「裏病にして心下に在り。心下に水滞して気外発するを得ず上逆する者を治す。その症に曰く逆満,支満,短気,これ水滞して気外発するを得ざるなり。曰く胸に上衝,目眩,頭眩,これ気上逆なり。茯苓甘草湯症は気上逆して水を動かす、故に悸して満せず生姜を加えてその気を逐うなり。この方の症は水,気を閉じる故に満して悸せず汗出でず朮を加えて以って水を逐うなり。」

適応症 自律神経不安定症。心臓弁膜症、眼病。難聴。

類方 鍼砂湯(原南陽)
本方に牡蛎四・〇 鍼砂(還元鉄で代用)一・五 人参二・〇を加えた処方で心臓弁膜症。心臓肥大症。黄胖病(悪性貧血の一種)に長期連用する。

56 茯苓杏仁甘草湯 ぶくりょうきょうにんかんぞうとう (金匱)
茯苓六・〇 杏仁四・〇 甘草一・〇(一一・〇)
心臓性の咳嗽で,先ず呼吸困難を主目標にし、そのほか浮腫,喘咳,狭心症などの症ある者に用いる。老人で顔色のすぐれない者にこの証が多い。
南涯「この方は水、胸にあって気を塞さぐ者を治す。面色青く短気するものに応じるなり」と。また曰く「この方、上より気を閉じるもの故、最初より短気あり,苓桂朮甘湯は心下の痰飲によって、先ず胸脇支満、目眩、気上衝などあって、次に短気を発す。これ両者の違いなり」と。狭心症。心臓喘息。心臓性浮腫。

60 明朗飲 めいろういん (和田東郭)
苓桂朮甘湯に車前子三・〇 細辛 黄連各一・五を加えた処方で水毒が上逆して眼疾を発し、眼痛み赤脉を生じ、流涙して開くことの出来ない症に用いる。慢性。急性結膜炎。



-考え方から臨床の応用まで- 漢方処方の手引き 小田 博久著 浪速社刊
苓桂朮甘湯 りょうけいじゅつかんとう (傷寒論)
茯苓:六、桂枝:四、白朮:三、甘草:二。

(主証)
脈沈緊。めまい。胃内停水。上半身の水毒症状。尿量減少。

(客証)
心悸亢進。息切れ。頭痛。

(考察)
実証ではない。
脈浮、口渇、嘔吐→五苓散。脈沈弱、小便自利、足腰の冷え→苓姜朮甘湯
脈沈弱、手足厥冷→真武湯

傷寒論(太陽病中篇)
「傷寒、もしくは吐し、もしくは下して後、心下逆満、気胸に上衝し、起てば則ち頭眩す。脈沈緊、汗を発するときは則ち経を動かし、身振々として揺をなす者、苓桂朮甘湯之を主る。」

金匱要略(痰飲病門)
「心下に痰飲あり、胸脇支満、目眩するもの苓桂朮甘湯之を主る。」
「それ短気、微飲あり、まさに小便より之を去らしむべし、苓桂朮甘湯之を主る。腎気丸(八味丸)之を主る。」
 「それ短気、微飲あり、まさに小便より之を去らしむべし、苓桂朮甘湯之を主る。腎気丸(八味丸)之を主る。」

連珠飲 れんじゅいん (本間棗軒経験方)
四物湯と苓桂朮甘湯の合方。
(主証) 脈沈。貧血。めまい。胃弱くない。
(客証) ひどい貧血でない。顔面浮腫。頭重。
(考察) 瘀血による血行障害と上半身の水毒。
勿誤方函口訣
「この方は、水分と血分の二道にわたる症を治す。婦人出血、あるいは産後、男子痔疾、下血の後、腹部浮腫、あるいは両脚微腫して心下、および水分に動悸あり、頭痛、眩暈を発し、または周身青黄、浮腫、黄胖状をなすものに効あり。」


漢方処方の応用法 改訂版 小太郎生薬生理化学研究所編
大阪大学助教授 高橋真太郎先生 医学博士 西山英雄先生 校閲

苓桂朮甘湯 レイケイジュツカントウ (傷寒論) 「レイジット」
応用 頭痛 のぼせ 目めい 耳鳴り 蓄膿症 喘息 心臓弁膜症 神経衰弱 胃アトニー 胃炎 慢性腎炎 低血圧症 高血圧症 内耳炎 結膜炎 メニエル氏症候群症状

目標 
時にはのぼせたり顔のほてることがあって腹部はしばしば振水音を聞き動悸がある
尿量は少ないか又は尿意頻繁である
目まいや身体動揺感があり 心機亢進するなどのもの 
口のかわくもの

構成 茯苓 桂枝 朮 甘草

備考
本方は低血圧症に多い目まい、頭痛、のぼせ、耳鳴、心機亢進に最も多く使われるもので、それが更に強度となった神経衰弱、ヒステリー等によく奏効する。急に立上がったときふらふらしたり、目まいするのは本方の適応症であり、頭痛薬を常用する慢性患者に本方を与えて快癒することが多い。外見上卒中体質でないのに血圧が高く尿量少ないものに用いて効果がある。
また眼底出血その他の眼科に応用されることも多く、蓄膿症に本方と柴胡剤を合方して効果がある。








【一般用漢方製剤承認基準】
苓桂朮甘湯
〔成分・分量〕
茯苓4-6、白朮2-4(蒼朮も可)、桂皮3-4、甘草2-3
〔用法・用量〕

〔効能・効果〕
体力中等度以下で、めまい、ふらつきがあり、ときにのぼせや動悸があるものの次の諸症:
立ちくらみ、めまい、頭痛、耳鳴り、動悸、息切れ、神経症、神経過敏



【添付文書等に記載すべき事項】
してはいけないこと
(守らないと現在の症状が悪化したり、副作用が起こりやすくなる)
次の人は服用しないこと
生後3ヵ月未満の乳児。
〔生後3ヵ月未満の用法がある製剤に記載すること。〕
相談すること
1.次の人は服用前に医師、薬剤師又は登録販売者に相談すること
(1)医師の治療を受けている人。
(2)妊婦又は妊娠していると思われる人。
(3)高齢者。
〔1日最大配合量が甘草として1g以上(エキス剤については原生薬に換算して1g以
上)含有する製剤に記載すること。〕
(4)今までに薬などにより発疹・発赤、かゆみ等を起こしたことがある人。
(5)次の症状のある人。
むくみ
〔1日最大配合量が甘草として1g以上(エキス剤については原生薬に換算して1g以
上)含有する製剤に記載すること。〕
(6)次の診断を受けた人。
高血圧、心臓病、腎臓病
〔1日最大配合量が甘草として1g以上(エキス剤については原生薬に換算して1g以
上)含有する製剤に記載すること。〕
2.服用後、次の症状があらわれた場合は副作用の可能性があるので、直ちに服用を中止し、この文書を持って医師、薬剤師又は登録販売者に相談すること
関係部位
症 状
皮 膚
発疹・発赤、かゆみ
まれに下記の重篤な症状が起こることがある。その場合は直ちに医師の診療を受けること。
症状の名称
症 状
偽アルドステロン症、ミオパチー
手足のだるさ、しびれ、つっぱり感やこわばりに加えて、脱力感、筋肉痛があらわれ、徐々に強くなる。
〔1日最大配合量が甘草として1g以上(エキス剤については原生薬に換算して1g以上)含有する製剤に記載すること。〕
3.1ヵ月位服用しても症状がよくならない場合は服用を中止し、この文書を持って医師、薬剤師又は登録販売者に相談すること
4.長期連用する場合には、医師、薬剤師又は登録販売者に相談すること
〔1日最大配合量が甘草として1g以上(エキス剤については原生薬に換算して1g以
上)含有する製剤に記載すること。〕
〔用法及び用量に関連する注意として、用法及び用量の項目に続けて以下を記載すること。〕
(1)小児に服用させる場合には、保護者の指導監督のもとに服用させること。
〔小児の用法及び用量がある場合に記載すること。〕
(2)〔小児の用法がある場合、剤形により、次に該当する場合には、そのいずれかを記載すること。〕
1)3歳以上の幼児に服用させる場合には、薬剤がのどにつかえることのないよう、よく注意すること。
〔5歳未満の幼児の用法がある錠剤・丸剤の場合に記載すること。〕
2)幼児に服用させる場合には、薬剤がのどにつかえることのないよう、よく注意すること。
〔3歳未満の用法及び用量を有する丸剤の場合に記載すること。〕
3)1歳未満の乳児には、医師の診療を受けさせることを優先し、やむを得ない場合にのみ服用させること。
〔カプセル剤及び錠剤・丸剤以外の製剤の場合に記載すること。なお、生後3ヵ月未満の用法がある製剤の場合、「生後3ヵ月未満の乳児」をしてはいけないことに記載し、用法及び用量欄には記載しないこと。〕
保管及び取扱い上の注意
(1)直射日光の当たらない(湿気の少ない)涼しい所に(密栓して)保管すること。
〔( )内は必要とする場合に記載すること。〕
(2)小児の手の届かない所に保管すること。
(3)他の容器に入れ替えないこと。(誤用の原因になったり品質が変わる。)
〔容器等の個々に至適表示がなされていて、誤用のおそれのない場合には記載しなくてもよい。〕
【外部の容器又は外部の被包に記載すべき事項】
注意
1.次の人は服用しないこと
生後3ヵ月未満の乳児。
〔生後3ヵ月未満の用法がある製剤に記載すること。〕
2.次の人は服用前に医師、薬剤師又は登録販売者に相談すること
(1)医師の治療を受けている人。
(2)妊婦又は妊娠していると思われる人。
(3)高齢者。
〔1日最大配合量が甘草として1g以上(エキス剤については原生薬に換算して1g以上)含有する製剤に記載すること。〕
(4)今までに薬などにより発疹・発赤、かゆみ等を起こしたことがある人。
(5)次の症状のある人。
むくみ
〔1日最大配合量が甘草として1g以上(エキス剤については原生薬に換算して1g以上)含有する製剤に記載すること。〕
(6)次の診断を受けた人。
高血圧、心臓病、腎臓病
〔1日最大配合量が甘草として1g以上(エキス剤については原生薬に換算して1g以上)含有する製剤に記載すること。〕
2´.服用が適さない場合があるので、服用前に医師、薬剤師又は登録販売者に相談すること
〔2.の項目の記載に際し、十分な記載スペースがない場合には2´.を記載すること。〕
3.服用に際しては、説明文書をよく読むこと
4.直射日光の当たらない(湿気の少ない)涼しい所に(密栓して)保管すること
〔( )内は必要とする場合に記載すること。〕




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