健康情報: 7月 2014

2014年7月31日木曜日

二朮湯(にじゅつとう) の 効能・効果 と 副作用

『漢方医学』 Vol.33 No.1 2009 (43) 31

107 漢方重要処方マニュアル 基礎と実践の手引き

五淋散・二朮湯
東京女子医科大学東洋医学研究所 稲木一元

二朮湯(にじゅつとう)
構成生薬/半夏,蒼朮,威霊仙,黄芩,香附子,陳皮,白朮,茯苓,甘草,生姜,天南星,和羗活

処方の特徴

1.二朮湯とは

 二朮湯は,肩関節周囲炎 (五十肩) および上肢の痛みに用いる漢方薬である. 二種の朮 (蒼朮(そうじゅつ) ・白朮(びゃくじゅつ) ) の配合されていることが処方名の由来であろう. 生薬構成は, 水毒に用いる二陳湯に, 蒼朮, 白朮, 天南星(てんなんしょう) , 威霊仙(いれいせん) ,羗活(きょうかつ) など,水毒による痛みに用いる生薬が加味されている. 蒼朮と白朮の違いについて浅田 宗伯は 「発汗除湿の功は蒼者を優(まさ)れりと為 な す.而(しか)して理中利水の力は反って白者に及ばず.二朮各々長 ずる所あり」 1) とする. しかし, 薬理学的には両者の差異はなお明らかでな く, 古医書における蒼朮・白朮と現在のソウジュツ ・ビャクジュツとの適合性についても検証が必要とされる 2)

2. 臨床上の使用目標と応用
 二朮湯を用いる目標は, 肩関節および上肢の疼痛である.肩関節周囲炎(五十肩),頸肩腕症候群, 上腕神経痛 に有用とされる.いわゆる水毒体質(浮腫傾向)に用いるとされるが, こだわる必要はない.

論説

1.原典の記載
 〔原典〕二朮湯の出典は一般に龔廷賢の『万病回春』(1587年成立)とされるが,虞摶(ぐたん) の『医学正伝』(1515年成立)に,ほぼ同じ処方が朱丹渓のものとして記載される.こうしたことから,本処方は朱丹渓の創方とも推定される3)
 ここでは,こうした議論は保留して, 『万病回春』巻之五・臂痛(ひつう)門4)の記載を紹介する.
 〔条文〕臂(ひじ)痛むは,湿痰,経絡に横行するに因(よ)る.
 ○二朮湯 痰飲,双臂(そうひ)痛むを治す.又,手臂(しゅひ)痛むを治す.是れ上焦の湿痰,経絡の中に横行して痛みを作(な)す.
 〔解説〕大意は,「肩から腕のあたりが痛むのは,経絡に水毒があるからだ.これには二朮湯を用いる.また,手から肘にかけて痛むのにもよい」.臂とは,肩の付け根から肘まで.上腕全体とも解釈できる5).痰飲(たんいん)は,いわゆる水毒(すいどく)の意.非生理的状態にあり,体内で偏在し病的状態を惹起した体液を痰飲あるいは水毒と呼ぶ.朝,顔がむくむ,夕方足がむくむ,舌辺縁に歯痕が見られる,心窩部拍水音などの徴候をみる.疼痛性疾患には水毒の関与が多いとされ,二朮湯もこれに対応する処方の一つ.

2.中国医書の記載
 虞摶(1438~1517)『医学正伝』 (1515年成立)痛風門には,朱丹渓の書からの引用として,「手臂(しゅひ)痛むは是(これ)上焦(じょうしょう)の湿痰経絡の中に横行して痛みを作(な)すなり」6)と,『万病回春』と同文があり,名称のない処方が記載される. その内容は『万病回春』二朮湯から羗活を除いたものである.

3.江戸期医書の論説(筆者意訳)
 香月牛山(1656~1740)の『牛山活套』には,「肩臂(けんひ)痛は多くは痰に属するなり.二朮湯を用うべし」7)とある.
 甲賀通元の『古今方彙』(1747年初版)には,二朮湯は「痰飲にて双臂痛む者,及び手臂痛むを治す」8)とある.
 浅井貞庵(1770-1829)の『方彙口訣』 臂痛門・二朮湯には,「此の方は痰で手や臂(ひじ)の痛むに好(よ)い.故に痰を取り気滞を行(めぐ)らす」9)という.


4.近年の論説
 大塚敬節は,1963年の『漢方の臨床』誌での座談会で「五十肩の人でいろいろやって効かなかったのに,このごろ二朮湯というのをやってじつによく効くことを経験しました.(略)いままで五十肩に用いた処方としてはこの二朮湯が一番効くように思います」10)と述べた.その後の座談会で,二朮湯につ いての反響が大きかったと述べて,「ある時,五十肩の患者に,最初, 葛根湯加朮附(カッコントウカジュツブ)を使ったのです.すると, その患者は便秘して,食欲がなくなり,すこしもよくならないというのです.この患者はやせぎすの六十歳をすぎた人(略).この二朮湯を使いましたら,すごく調子がよくて,一週間か十日でとんとん拍子によくなって治ってしまったのです.(略)五十肩で治りにくい患者があったら一応これを使ってみ たらいいと思うんです」11)と言ってい る. 大塚敬節・矢数道明らの『漢方診療 医典(第6版)』頸肩腕症候群の項にも 「水毒のある者を目標にするが,証にとらわれずに用いてよい」12)とある.

症例
 肩の痛みに二朮湯(松田邦夫治験)13)
 〔症例〕77歳,婦人.(略)〔現病歴〕右側の肩から上腕にかけて痛み,手がしびれる.疲れる.食欲がない.(略)夜間尿1~2回.〔現症〕身長162cm,体重41kg.舌は乾燥ぎみで,腹部軟弱.血圧158-76.〔経過〕二朮湯を投与.2ヵ月後には,肩や腕の痛み,手のしびれはすっかり治った.食欲も出て疲れなくなった.(略)



鑑別
 ①五積散(ゴシャクサン)
 肩から上腕の痛みで要鑑別.五積散では足冷えなど寒冷による症状が見られる.鑑別し難い例もある.
 ②桂枝加朮附湯(ケイシカジュツブトウ)
 上肢の関節痛で要鑑別.桂枝加朮附湯は非常に虚弱で冷え症の者の肩,肘,手首の関節痛や上腕の神経痛に用いる.鑑別し難い例もある.
 ③疎経活血湯ソケイカッケツトウ)
 肩関節周囲炎で要鑑別.疎経活血湯では,手足の冷え,皮膚粘膜の乾燥萎縮傾向などをみることが少なくない.しかし,多くは鑑別困難で試行錯誤によらざるをえない。


●文献・注
 1)浅田宗伯『古方薬議』(木村長久・校訓『和訓 古方薬議・続録』,春陽堂書店,1982,p.55-58)
 2)鳥居塚和生・編著『モノグラフ生薬の薬効・薬理』,医歯薬出版株式会社,2003,p.225-238
 3)大塚敬節は「この処方は『万病回春』に出ていて,もとは朱丹渓から出ている という」(大塚敬節,矢数道明ほか『漢方診療医典・第6版』,南山堂,2001,p.192)という.小山誠次は朱丹渓の出 典となる書を挙げる(『古典に基づくエ キス漢方方剤学』,(株)メディカルユーコ ン,1998,p.490-493).しかし,五淋散の項で述べたように,朱丹渓の撰になる本が限定されていることから,疑点も残る.
 4)龔廷賢『万病回春』5-64a~b:和刻漢籍 11輯p.204
 5)浅井貞庵の『方彙口訣』臂痛門に「さて此の臂痛は俗に云うひぢの痛みなり. 一体が肩より肘(ひじり)までを臑(かいな) と云う.肘より腕(うでくび)まで一尺の処を臂と云う.俗にうでと云う.故に此の臂痛の中には臑痛のことも兼ねて有るなり」(集成78巻p.555)という.
 6)虞摶『医学正伝』(4-56b:和刻漢籍8輯 p.142)
 7)香月牛山『牛山活套』(1-30b:集成61巻 p.378)
 8)歴代漢方医書大成(電子版)V2.0,2007に収載される版を参照した.
 9)浅井貞庵『方彙口訣』臂痛門(集成78巻 p.556)
 10)大塚敬節「漢方の診療を語る」での発言:漢方の臨床,10巻3号,p.32-33,1963
 11)大塚敬節「漢方の診療を語る」での発 言:漢方の臨床,10巻11号,p.3-17, 1963
 12)大塚敬節・矢数道明ら『漢方診療医典 (第6版)』,南山堂,2001,p.193
 13)松田邦夫『症例による漢方治療の実 際』,創元社,1992,p.193-194


『図説 東洋医学 <湯液編Ⅰ 薬方解説> 』 
山田光胤/橋本竹二郎著 
株式会社 学習研究社刊

二朮湯(にじゅつとう)
  やや虚  
   中間   
  やや実  

●保 出典 万病回春

目標 体力中等度の人を中心に用いられる。痰飲(たんいん)(水毒)による肩や上腕の痛み。病人は胃内停水のあることが多いが,必発ではなく,また余り虚証ではない。俗に四十肩,五十肩といわれ,腕を上げると痛みに耐えかね,あるいは何かの拍子に激しい痛みが肩から腕にかけて走ることがある。

応用 頸肩腕症候群,肩胛(けんこう)関節周囲炎(五十肩),上腕神経痛,肩こり。

説明 夜間就眠中に痛みが増強するのも特徴の一つ。手足の冷えが強いものには附子(ぶし)(0.5~1.0g)を加えるとよい。比較的体力のある人の肩や上腕の痛みで,やや急性期で,頸・肩および肩胛部がこる場合には葛根湯(かっこんとう)を用い,体力の低下した冷え症の人の肩や上腕の痛みには桂枝加朮附湯(けいしかじゅつぶとう)を用いる。

朮(じゅつ)1.5g 茯苓(ぶくりょう)1.5g 香附子(こうぶし)1.5g 黄芩(おうごん)1.5g 甘草1.5g 半夏2.0g 生姜2.0g 羗活1.5g 威霊仙1.5g 陳皮1.5g 天南星1.5g 白朮1.5g
 ●生姜の代りに乾生姜(かんしょうきょう)1.5gを用いてもよい。

 

臨床応用 漢方處方解説 矢数道明著 創元社刊
p681
91 二朮湯(にじゅつとう) 〔万病回春・臂痛門〕
    白朮・茯苓・陳皮・南星・香附・黄芩・霊仙・羗活各二・五 半夏 四・〇 蒼朮三・〇 
    甘草・乾生姜 各一・〇

 「痰飲双臂(ひ)(うで)痛む者、及び手臂痛むを治す。」
 近年大塚敬節氏の経験発表があり、四十腕・五十肩に用いて奇効を奏することがある。その文標は水毒肥満者に効があるが、特別証にとらわれずに用いてよい。
 五十肩・四十腕・上[月専」神経痛などに用いる。


和漢薬方意辞典 中村謙介著 緑書房
二朮湯(にじゅつとう) [万病回春]

【方意】 上焦の水毒による肩関節痛・上腕痛等のあるもの。時に脾胃の虚証を伴う。
《少陽病から太陰病.虚実中間》

【自他覚症状の病態分類】

上焦の水毒 脾胃の虚証

主証 ◎肩関節痛
◎上腕痛







客証 ○関節腫痛
○弛緩性筋肉
 関節水腫
 尿不利
 浮腫
 身重

○胃腸虚弱
 心下痞
 食欲不振


 





【脈候】 弦やや弱・滑。

【舌候】 乾湿中間で微白苔。

【腹候】 腹力やや軟。

【病位・虚実】 水毒が中心的病態である。寒証紙:熱証を伴わず、陰陽は偏らずに少陽病から太陰病にまたがる。虚実も虚実中間を中心に幅広く用いられる。

【構成生薬 半夏4.0 蒼朮3.0 白朮2.5 陳皮2.5 茯苓2.5 香附子2.5 黄芩2.5 威霊仙2.5
         羗活2.5 天南星2.5 甘草2.0 生姜1.0

【方解】 蒼朮・白朮・茯苓の利水作用は水毒を主る。威霊仙・羗活は鎮痛・鎮痙作用があり、利水薬と組合されると水毒による疼痛に有効である。天南星は去痰作用の他に鎮痙・消炎作用があり、黄芩の清熱作用もあいまって疼痛の除去に協力する。香附子・陳皮・半夏・生姜は脾胃の虚証に対応し、心下痞・食欲不振を治す。甘草は諸薬の作用を調和し増強する。

【方意の幅および応用】
A 上焦の水毒:肩関節痛・上腕痛等を目標にする。
  肩関節周囲炎、頚腕症候群、上腕神経痛

【参考】 *痰飲、双臂痛むを治す。又、手臂痛むを治す。是れ上焦の湿痰、経絡の中に横行して痛みを作す。臂痛は風寒湿に搏たるるに因る。或は睡後、手、被の外に在り、寒邪の為に襲われ、遂に臂痛ましむ。及び乳婦、臂を以て児に枕し、風寒に傷られて臂痛を致す。悉く後の三方に依って選び用う。五積散の臂痛,寒に因るを治す。烏薬順気散の臂痛、風に因るを治す。蠲痺湯の臂痛、湿に因るを治す。風湿相搏ち、身体煩疼し、手足冷痺し、四肢沈重するを兼ねて治す。

『万病回春』
*本方は疼痛以外に目標を定めがたいが、水毒があるため水肥りの傾向のものによく応じる。
 また脾胃の虚証の者にも良い。激痛には効果が不十分。手足の冷える者には附子を加える。

【症例 五十肩
 ある時五十肩の患者に、最初は葛根湯加朮附を使ったのです。すると、その患者は便秘して、食欲がなくなり、少しも良くならないというのです。この患者は痩せぎすの60歳をすぎた人で、二朮湯を用いるような体質とは思えなかった。しかし『古今方彙』をみますと、臂痛門すなわちひじの痛みというところに、まっ先にこの二朮湯の処方が載っているのです。これは『万病回春』(龔廷賢著)から引いたことになっていますが、これは朱丹渓の店方なんですね。それで記載されている主治をみますと、痰飲つまり水毒があって両方のひじの痛む者、および手とひじの痛む者を治すとあって、二朮湯とは白朮と蒼朮が入っているからそういったわけですね。そこで今話しました患者にこの二朮湯を使いましたら、すごく調子社f良くて、1週間か10日でとんとん拍子に良くなって治ってしまったのです。それ以来というものは五十肩の患者なら太っていようが痩せていようが、なんでもかんでも当分それを使ってみれば、そのうち、これで効く者と効かない者とが自ら分かると思いましたので、五十肩とみればとにかく一応これを使うことにしてやってみたのです。すると中には多少効かないのもありましたが、大体において効くのです。
 しかし、この二朮湯に含まれている薬物をみますと、白朮、天南星、陳皮、茯苓、香附子、黄芩、威霊仙、羗活、半夏、甘草ですから、大してそんなに五十肩に効くとは思えないのですが、実際には非常に効くんですね。ですから、これは五十肩の特効薬ではないけれども、五十肩で治りにくい患者があったら一応使ってみたらいいと思うんです。そんなわけで今も私はさかんにこれを使っております。
大塚敬節 『漢方の臨床』 10・11・4

※この二朮湯に含まれている薬物をみますと、白朮、天南星、陳皮、茯苓、香附子、黄芩、威霊仙、羗活、半夏、甘草ですから、
 → 薬味に蒼朮と生姜が抜けている。


『健保適用エキス剤による 漢方診療ハンドブック 第3版』
桑木 崇秀 創元社刊


二朮湯(にじゅつとう) <出典>万病回春(明時代)

方剤構成
 半夏 生姜 茯苓 陳皮 甘草 白朮 蒼朮 香附子 羗活 威霊仙 天南星 黄芩

方剤構成の意味
 半夏から甘草までは二陳湯,これに白朮・人参・大棗を加えると六君子湯になるが,人参・大棗は除かれている。
 これに香附子・羗活・威霊仙・天南星という発散性鎮痛ないし鎮痙薬を配合したものが本方剤で,本方剤は二陳湯ないし六君子湯を使いたいような胃アトニー者(ただし,人参が除かれているのでその程度は軽い)の痛みを目標につくられた方剤と見ることができよう。
 二朮湯の名は,白朮と蒼朮の両方が入っていることから名付けられたものであろうが、白朮が収斂性であるのに対して蒼朮は発散性で,蒼朮は方剤全体の発散性を増す目的で加えられたものであろう。
 この方剤の特徴は,構成生薬が甘草を除いてすべて燥性薬であることで(潤性で収斂性がある人参・大棗が除かれていることに注意),しかもその大半が温性で補性であることから,この方剤が寒虚湿証向きの方剤であることがわかる。
 なお,構成生薬中に黄芩という消炎性健胃薬が入っているが,これは白朮という胃アトニー向き健胃薬に配して,単なる胃アトニーではなく,炎症も若干ある場合を想定して,この方剤がつくられているのであろうか。

適応
 胃アトニー傾向のある寒虚湿証者,ことに湿の著しい者の五十肩・頸腕症候群。ただし,六君子湯を用い識ほどの虚証ではない。



『健康保険が使える 漢方薬 処方と使い方』
木下繁太朗 新星出版社刊


二朮湯(にじゅつとう)
 ツ
万病回春(まんびょうかいしゅん) 朱丹渓(しゅたんけい)
 どんな人につかうか
 五十肩、頚腕症候群(けいわんしょうこうぐん)の特効薬で、筋肉にしまりのない水毒体質の人で、胃腸があまり強くなく、腕や肩の痛む人に用います。

目標となる症状
 ①筋肉、関節がだるくしびれ、痛みがある。②運動障害。③軽い浮腫。④水ぶとり体質。⑤胃腸があまり丈夫でない。⑥腕、肩が痛む。

 腹力は中等度ないしやや弱、心窩部(しんかぶ)に振水音を認めることがある。
 滑。 舌苔(ぜつたい)は湿(しめ)って白き厚い。


どんな病気に効くか(適応症) 
 五十肩。四十腕、頚腕症候群、上腕神経痛、慢性関節炎、慢性関節リウマチ、肩関節周囲炎、腰痛症、膝関節症。
この薬の処方 半夏(はんげ)4.0g 蒼朮(そうじゆつ)各3.0g。黄芩(おうごん)、香附子(こうぶし)、陳皮(ちんぴ)、白朮(びやくじゆつ)、茯苓(ぶくりよう)、威靈仙(いれいせん)、天南星(てんなんしよう)、羗活(きようかつ)各2.5g。甘草、生姜各1.0g。

この薬の使い方
前記処方(一日分)を煎(せん)じてのむ。
ツムラ二朮湯(にじゆつとう)エキス顆粒(かりゅう)、成人一日7.5gを2~3回に分け、食前又は食間にのむ。

使い方のポイント
水毒肥満の人に効くが、中程度の体力の人ならこだわらず使える。
甲賀通道の古今方彙(ここんほうい)に「痰飲(たんいん)にて雙臂(そうひ)の痛む者及び手臂(しゆひ)の痛む者を治す」とあるが、上肢にこだわらず使える。
中医学では湿痺(しつひ)(着痺(ちやくひ)、筋肉や関節のだるいしびれ痛み、運動障害、軽度の浮腫)を治す薬で、袪風湿(きよふうしつ)、化痰利水の効ありとされています。


処方の解説
 蒼朮(そうじゅつ)白朮(びゃくじゅつ)茯苓(ぶくりよう)は利水剤で浮腫をとり、羗活(きようかつ)威靈仙(いれいせん)は鎮痛作用があり、特にしびれや痛みに効きます。羗活(きようかつ)は発汗作用があって、特に上半身のしびれやこわばりに効く。天南星(てんなんしよう)半夏(はんげ)は袪痰(きよたん)、鎮静作用があり、天南星(てんなんしよう)は鎮痙にも効く。香附子(こうぶし)は鎮痛、自律神経系の調整、陳皮(ちんぴ)生姜(しようきよう)甘草(かんぞう)は健胃と吸収促進、黄芩(おうごん)は消炎、利尿作用がある。以上の総合効果で浮腫消退、利尿、鎮痛、鎮痙、袪痰などの効果がある。



副作用
1) 重大な副作用と初期症状
1) 間質性肺炎 :発熱、咳嗽、呼吸困難、肺音の異常等があらわれた場合には、本剤の投与を中止し、速やかに胸部X線、胸部CT等の検査を実施するとともに副腎皮質ホルモ ン剤の投与等の適切な処置を行うこと。

[理由]
本剤によると思われる間質性肺炎の企業報告の集積により、厚生労働省内で検討された結果、上記の副作用を記載。(平成22年10月26日付薬食安発1026第1号「使用上の注意」 の改訂について に基づく) 

[処置方法]
直ちに投与を中止し、胸部X線撮影・CT・血液ガス圧測定等により精検し、ステロイド剤 投与等の適切な処置を行う。


2) 偽アルドステロン症 :低カリウム血症、血圧上昇、ナトリウム・体液の貯留、浮腫、体重増加等の偽アルドステロン症があらわれることがあるので、観察(血清カリウム値の測定等)を十分に行い、異常が認められた場合には投与を中止し、カリウム剤の投与等の適切な処置を行う。

3) ミオパシー :低カリウム血症の結果としてミオパシーがあらわれることがあるので観察を十分に行い、脱力感、四肢痙攣・麻痺等の異常が認められた場合には投与を中止し、カリウム剤の投与等の適切な処置を行うこと

[理由]〔2)3)共〕
厚生省薬務局長よ り通知された昭和53年2月13日付薬発第158号 「グリチルリチン酸等を含有す る医薬品の取り扱いについて」 及び医薬安全局安全対策課長よ り通知された平成9年12月12日 付医薬安第51号 「医薬品の使用上の注意事項の変更について」 に基づく。


[処置方法]
原則的には投与中止により改善するが、血清カリウム値のほか血中アルドステロン・レニン活性等の検査を行い、偽アルドステロン症と判定された場合は、症状の種類や程度によ り適切な治療を行う。 低カリウム血症に対しては、カリウム剤の補給等により電解質バランスの適正化を行う。



4) 肝機能障害、黄疸: AST(GOT)、ALT(GPT)、Al‑P、γ‑GTP 等の昇を伴う肝機能障害、黄疸があらわれることがあるので、観察を十分に行い、異常が認められた場合には投与を中止し、適切な処置を行う

 [理由]
本剤によると思われる肝機能障害、黄疸の企業報告が集積されたため、厚生労働省医薬食 品局安全対策課と検討の上、上記の副作用を記載した。(平成15年7月9日付事務連絡「医薬品の使用上の注意の改訂について」に基づく)ため。


[処置方法]
 原則的には投与中止により改善するが、病態に応じて適切な処置を行う。

2) その他の副作用

とくになし

2014年7月22日火曜日

薏苡仁湯(よくいにんとう) の 効能・効果 と 副作用

明解漢方処方 西岡 一夫著 ナニワ社刊
p.149
薏苡仁湯(よくいにんとう) (明医指掌)
 麻黄 当帰 朮各四・〇 薏苡仁八・〇 桂枝 芍薬各三・〇 甘草二・〇(二八・〇)

 麻杏薏甘湯のリウマチより一層深部に病邪があり、血分にも苦情を生じている者に用いる。なお桂芍知母湯証の変型リウマチで、附子剤不適のとき本方を代りに使用することもある。即ち当帰剤(当帰芍薬散、当帰拈痛湯)の一つである。慢性関節リウマチ。筋肉リウマチ。



臨床応用 漢方處方解説 矢数道明著 創元社刊
p.591 関節リウマチ・筋肉リウマチ・関節炎

143 薏苡仁湯(よくいにんとう) 〔明医指掌〕
     麻黄・当帰・白朮・各四・〇 薏苡仁一〇・〇 桂枝・芍薬 各三・〇 甘草二・〇

応用〕 関節リウマチの亜急性期および慢性期に入った場合に多く用いる。
 すなわち、本方は主として多発性関節リウマチ・漿液性関節炎によく用いられ、また結核性関節炎・筋肉リウマチや脚気等に応用される。

目標〕 亜急性期と慢性のものに用いることが多く、麻黄加朮湯、麻杏薏甘湯よりもやや重症で、これらの処方を用いても治らず、熱感・腫痛が去らず、慢性に移行せんとするのが目標である。外来を訪れる程度の亜急性のものによく効く。桂芍知母湯を用いる一歩手前ということろに用いてよい。

方解〕 本方は麻黄加朮湯と麻杏薏甘湯とを合方して杏仁を去り、当帰と芍薬を加えたものである。あるいは麻黄加朮湯の杏仁のかわりに当帰・薏苡仁・芍薬を加えたものである。
 表の水の動揺を治すのが麻黄加朮湯で、当帰・芍薬・薏苡仁は血燥を治すわけである。

主治
 明医指掌には、「手足ノ流注(多発性リウマチ)、疼痛、麻痺不仁、以テ屈伸シ難キヲ治ス」とあり、
 勿誤方函口訣には、「此方ハ麻黄加朮湯、麻黄杏仁薏苡甘草湯ノ一等重キ処ヘ用ユルナリ。其ノ他桂芍知母湯ノ症ニシテ附子ノ応ゼザル者ニ用イテ効アリ」とある。
鑑別
○麻黄加朮湯 137 (身痛関節痛・初期で軽症)
麻杏薏甘湯 140 (身痛関節痛・初期で軽症)
桂芍知母湯 32 (関節痛・慢性痼疾化し、強直甚だしく削痩)
○舒筋立安散 55 (関節痛・慢性症に用い、瘀血あり)

治例
(一) 関節リウマチ
 筋骨質のがっちりした体格の六〇歳の男子。約一年前から、四肢の関節に痛みを覚えるようになった。現在左右の膝関節が主として痛んでいるが、左の方の痛みが強い。数日前、左の膝関節に注射をしてもらったら、その部がひどく腫れて、かえって痛むようになった。たまに足の外くるぶしのあたりに痛みのくることがあるという。
 脈は浮いていて、緊張がよく、腹部の筋肉も弾力があり、腹直筋はやや緊張している。これに薏苡仁湯加桃仁・防已各三・〇を一五日分与えたが、これを飲んで一キロぐらい歩いたが少しも痛まず、ほとんど治った。
 (大塚敬節氏、漢方治療の実際)

(二) 漿液性関節炎とリウマチ
 三三歳の主婦。初診は昭和三九年三月である。約一年前に右の腓腸筋に疼痛が起こり、神経痛といわれ治療をうけた。項背部にいつも湿疹ができていて痒く、アレルギー性体質だといわれたことがある。
 その後一ヵ月ぐらいすると、右の膝関節が腫れて痛み、水がたまったので今回も水をとった。このときは単なる関節炎であるといわれた。すると二ヵ月後には左の膝関節が腫れてきて、ここからも水をとった。そのうちに左右の腕関節にも腫れと痛みが来るようになった。 多発性関節リウマチだということで、副腎皮質ホルモン剤を飲んだ。すると盆状に顔が腫れたばかりでなく、顔色が黒くなってきた。
 なかなかよくならないので、一二月に入院して加療に努めたが、思わしくなかったという。
 栄養は中等度で、顔色は腫れていて赤い。脈は浮でやや数、舌白苔がある。腹力は普通で、とくに圧痛や苦満も痞硬もない。
 そこで副腎皮質ホルモン剤を中止させ、薏苡仁湯を与えると、一〇日の服用で約三割ぐらい楽になったという。皮質ホルモン剤で痛みを止めていたものを中止させて漢方薬だけにすると、たいていは一時ものすごい痛みが起こり、症状が強くなるものであるが、この患者の場合は、中止しても反動持;起きずに、順調に好転し、一ヵ月目には八割方よくなったとよろこび、二ヵ月後には九割どおり治りましたと感謝され、前後六ヵ月の服薬で全治した。
(著者治験)

(三) リウマチ
 三六歳の婦人、独身の若務者。二ヵ月前より右拇指の関節から腫れと痛みが始まり、強直を起こし、それから全身の関節に波及した。この患者もいままで全身に湿疹が出ていて、アレルギー体質だといわれていた。副腎皮質ホルモンの治療をうけていたが、これ以上続けない方がよいといわれ、痛みを耐えているという。
 栄養は比較的よい方で、顔色も普通、脈は沈んでいる。舌苔はない。腹部は軟かで力はあり特記すべきものがない。現在は右拇指関節が腫れて強直を起こしているのと、疲れると全身の関節が痛みだすということで、勤務はがまんしながら続けている。
 この患者には薏苡仁湯を与えた。そして加工附子の末〇・五グラムを二回ずつ兼用させた。すると一〇日後には痛みを忘れ、一ヵ月後には拇指の強直が治って動くようになり、従来の主治医であった大学の医師は驚いて、何か薬をのんだかとたずねたので、漢方薬のことを話すと、自分もかねて漢方を研究してみたいと思っていたと、率直にその効果をほめてくれたという。ちょうど半年間続けて落治廃薬した。
(著者治験)

  (四) リウマチと下肢麻痺に与えて体質一変
 酒〇と〇という六〇歳の婦人。初診は昭和三九年六月九日であった。水ぶくれの肥満型で顔色は普通。半訴は二年前から両腰がガ決ガクになって力が抜け、立っているとシビレて足が棒のようになる。ツネってもわからない。便所へ行って立ち上がる時が大変な騒ぎである。階段や坂道の上下など、とても一人ではできない。駅の階段で必ず人手をかりることで有名になっていた。
 脈は弱く、血圧は一八〇ぐらい、心臓が肥大している。食思、便通は変わりがなく、腹部はひどく膨満している。
 薏苡仁湯を与えたが、これを二〇日分飲むと、二年間悩んでいた足のシビレ感や棒のようになるのが治り、膝に力がついてきた。さらに二〇日分のむと、駅の階段も一人で平気で上下できるようになって、近所の人や友人の間で大評判とな改aた。足をツネると感覚があるのに驚いた。血圧も一三〇~八〇となり、自由に歩くことができるようになった。
 半年間服用すると、いままで七〇キロもあり、太って困っていたのに五〇キロき痩せ、身体が軽く自由になった。
 婦人で水ぶくれの肥満体質で、足がシビレで棒ようになり、長く立っていられないというようなのには、防已黄耆湯がよく用いられる。あるいは八味丸や痿証方なども考えられる。しかし私は、薏苡仁湯を選んだ。
 薏苡仁湯は「明医指掌」の処方で、「手足の流注疼痛、麻痺不仁、以て屈伸し難きを治す」とあり、麻黄加朮湯と、麻杏薏甘湯とを合方して、杏仁を去り、当帰・芍薬を加えたもので、表水の動揺と血燥を治すものである。表水をよく消導して、この水ぶくれによって起こっていた諸症状が、すべてよくなった代表的症例である。
(著者治験)


和漢薬方意辞典 中村謙介著 緑書房
薏苡仁湯(よくいにんとう) [明医指掌]

【方意】 水毒による関節筋肉の腫痛・関節水腫等のあるもの。時に軽度の熱証を伴う。
《少陽病,虚実中間からやや実証》
【自他覚症状の病態分類】

水毒 熱証

主証 ◎関節筋肉の腫痛




客証 ○関節水腫
 四肢のこわばり
 麻痺
 水肥り
 下身半沈重
 浮腫
 滲出液 鼻汁
 寒がり 手足冷
 局所の熱感




【脈候】 弦やや緊。

【舌候】 乾燥中間で白苔。

【腹候】 やや軟。


【病位・虚実】水毒が中心的な病態であるが、やや熱証を帯びる傾向があり陽証である。構成病態に表の寒証や裏の実証がなく、少陽病に相当する。脈力および腹力より虚実中間からやや実証である。
【構成生薬】 薏苡仁10.0 当帰4.0 蒼朮4.0 麻黄4.0 桂枝3.0 芍薬3.0 甘草2.0

【方解】 薏苡仁には利水・消炎作用があり水毒を主る。蒼朮も利水作用がある。麻黄は表証を治す上に、水毒より生じる関節痛を治す。以上の薏苡仁・蒼朮・麻黄の組合せは水毒から派生する関節筋肉腫瘍・関節水腫・麻痺・浮腫等を治療する。これに更に筋肉の異常緊張を主る芍薬が組合さって筋肉の疼痛に一層有効になっている。桂枝の解肌発表作用は有名であるが、本方では当帰と共に血行を改善し薏苡仁・蒼朮・麻黄の作用に協力する。甘草は構成生薬全体の作用を調和し補強する。


【方意の幅および応用】
 A1 水毒:関節筋肉の腫痛・関節水腫等を目標にする場合。
    関節リウマチ、結合織炎、筋炎、肩関節周囲炎、変形性膝関節症、漿液性関節炎。
  2 水毒:水肥り・浮腫・滲出液等を目標にする場合。
 
【参考】 *手足流注、疼痛、麻痺、不仁、以って屈伸し難きを治す。
*此の方は麻黄加朮・麻杏薏甘湯の一等重き処へ用いるなり。其の他桂芍知母湯の症にして附子の応ぜざる者に用いて効あり。
*此の方は関節リウマチの亜急性期及び慢性期に入りたる場合に多く用いられる。麻黄加朮湯・麻杏薏甘湯よりも重症にて、これ等の方を用いても治せず、熱、腫痛、荏苒として去らざるもの、又慢性となって桂芍知母湯の一歩手前のものに用いて良い。
『漢方後世要方解説』
*急性期の関節炎には麻黄加朮湯・麻杏薏甘湯を用い、これより進異して腫脹・熱感が完治せず、慢性期に移行しようとするものに本方を用いる。更に陳旧化し、寒証・虚証を現してものには桂枝芍薬知母湯が良い。
*一方、桂枝芍薬知母湯に似て附子の応じない者に本方が有効なことがある。本方意の疼痛は激しくはないが長期にわたり完治しにくい傾向がある。
*『医通』にいう、経に曰く、手屈して伸びざるもの、その病筋に在りと、薏苡仁湯之を主る。伸びて屈せざるもの、その病骨に在り、近効附子湯・十味剉散を選用す。
*本方の疼痛は夕方に増強する傾向がある。本方意には、或重或痛・挙体艱難・手足冷痛・腰腿沈重無力者とあり、防已黄耆湯との鑑別を必要とする。
*筋肉痛が主な場合は麻杏薏甘湯・薏苡仁湯。関節腫痛が主な場合は桂枝芍薬知母湯大防風湯

【症例】 変形性膝関節症
 56歳、男性。膝関節痛で久しい間治療したが、経過は思わしくない。治を漢方に求めて来院したのは約5ヵ月前である。右側の膝関節の疼痛のため、杖にすがっての来院である。関節は腫脹しているが、貯溜液は認められない。触れても熱感はない。脈にも異常は認められない。腹部は上部において、腹直筋の緊張があるが、小腹部においては抵抗はなく軟弱である。食事には変わりなく、二便も普通である。
 以上の病証により私は薏苡仁湯を処方した。しかしこれは誤診ではなかろうか。何となれば、腫脹があるが灼熱はない、もちろん貯溜液もない。主訴は疼痛のみだから或いは桂朮苓附の証ではなかったかとも考えた。
 しかし約1ヵ月後再来のときには腫脹は去り、疼痛も非常に快方になったので誤診ではなかったと思われる。そして同方を継続すべきかを考慮したが、今度こそは桂朮苓附湯が適中の証と診断し、これに薏苡仁を加味して1ヵ月分持ち帰らせた。1ヵ月後の3度目の来院のときには、他覚的の症状は全く認められない。歩行にもそんなに苦痛は感じられなくなった。来春の農繁期に備えるべく当分服薬するという。
高橋道史 『漢方の臨床』 11・3・29


『健保適用エキス剤による 漢方診療ハンドブック 第3版』

薏苡仁湯(よくいにんとう) <出典> 明医指掌(明時代)

方剤構成
 麻黄 甘草 桂枝 当帰 芍薬 蒼朮 薏苡仁

方剤構成の意味
 麻黄湯から杏仁を除いて,当帰以下を加えたものである。
 麻黄湯は温性の発表剤であるが,これに蒼朮・薏苡仁という湿を除く薬物,芍薬という鎮痛薬,血液循環をよくする当帰が加えられて,やや慢性化して貧血傾向のあるリウマチ向きの方剤につくり上げられている。リウマチは漢方では風湿(ふうしつ)と言い,関節に水がたまって痛い病気とされているが,この方剤はまさに風湿の方剤である。小青竜湯の場合と同じく,ここでも潤性薬たる杏仁は除かれている。

適応
 多発性関節リウマチまたは筋肉リウマチ。ただし寒証で,汗かきでない,やや慢性化したもの。


『健康保険が使える 漢方薬 処方と使い方』
木下繁太朗 新星出版社刊


薏苡仁湯(よくいにんとう)
 ツ、阪、カ、順、東、ト、サ、松、本、建
明医指掌(めいいししよう)

どんな人につかうか
 慢性、亜急性の関節リウマチによく用いるもので、四肢の関節や筋肉が腫れて熱をもち痛む(腫脹、熱感、疼痛)場合に用い、それほど重症でなく、体力のある人で麻杏薏甘湯(まきようよくかんとう)(203頁)などで治りにくい時に有効です。

目標となる症状
 ①四肢の関節、筋肉の疼痛、腫脹、熱感、しびれ、痛み、重だるさ、運動障害、軽い浮腫。②慢性あるいは亜急性のもの。③体力中等度。

 腹力中程度、その他不定
 滑。
 舌苔(ぜつたい)は白ないし白膩(はくじ)。


どんな病気に効くか(適応症) 
 関節痛筋肉痛。多発性関節リウマチ、漿液性(しようえきせい)関節炎、筋肉リウマチ、結核性関節炎、脚気(かつけ)、肩関節周囲炎(けんかんせつしゆういえん)、頚肩腕症候群、腰痛症、膝関節水腫、慢性関節炎。
この薬の処方 薏苡仁(よくいにん)8.00g。麻黄(まおう)、当帰(とうき)、朮(じゆつ)各4.0g。桂枝(けいし)、芍薬(しやくやく)各3.0g、甘草(かんぞう)2.0g。

この薬の使い方
前記処方(一日量)を煎(せん)じてのむ。
ツムラ薏苡仁湯(よくいにんとう)エキス顆粒(かりゅう)、成人一日7.5gを2~3回に分け、食前又は食間に服用する。
カネボウは6g、又は錠剤で18錠が一日量。順興15錠。

使い方のポイント・処方の解説
麻杏薏甘湯(まきようよくかんとう)よりやや重症で、熱感も腫痛もとれない時に本方を用います。
関節に水がたまって、腫脹、疼痛のある時期に用いてよいことがあります。
中医学の「湿痺(しつぴ)」の状態に使う処方で、水分の排泄障害で、組織に浮腫が生じ、これに伴って血行障害や筋肉の痙攣(けいれん)がおき、固定した痛みとしびれ、重だるさがある状態と考えます。
薏苡仁(よくいにん)は組織の浮腫を利尿作用でとり、筋の痙攣(けいれん)を治し(利水除痺(りすいじよひ))、朮(じゆつ)も袪風湿(きよふうしつ)の作用があり、ほぼ同様で、両者共体力補強効果がある。桂枝(けいし)麻黄(まおう)は発汗、血行促進、利尿。当帰(とうき)芍薬(しゃくやく)は滋養強壮(じようきようそう)作用。芍薬(しやくやく)甘草(かんぞう)は筋痙攣(けいれん)を緩解(かんかい)し、全体として「通陽利水(つうようりすい)、活血止痙(かつけつしけい)」の効果があります。



『重要処方解説Ⅰ』 
薏苡仁湯(よくいにんとう) 日本東洋医学会/理事 菊谷豊彦
 
  薏苡仁湯(ヨクイニントウ )といわれる処方には,『明医指掌』と『外科正宗』の二つのものがあります。ここでは『明医指掌』の薏苡仁湯について述べます。処方内容を申しますと,本方は麻黄(マオウ),当帰(トウキ),朮(ジュツ),薏苡仁(ヨクイニン),桂枝(ケイシ),芍薬(シャクヤク),甘草(カンゾウ)の7種類の組み合わせです。

構成生薬の薬能
 麻黄は発汗剤とされ,頭痛,発熱,鎮咳,身体疼痛,関節痛,筋肉痛に用いられます。麻黄の成分であるエフェドリンは交感神経興奮作用を示します。麻黄は本方においては桂枝と組んで発汗作用を示します。また本方においては主として鎮痛作用により,関節の痛み,筋肉の痛みを鎮めます。
 薏苡仁はハトムギの種子で,排膿,利尿,鎮痛の作用があります。当帰はセリ科トウキの根で,血液循環の改善,鎮痛,補血,強壮作用などがあります。芍薬は,ボタン科シャクヤクの根で,収斂,緩和,鎮痛,鎮痙の作用があります。芍薬は,平滑筋と横紋筋の両者に作用して鎮痙,鎮痛の作用をあげます。朮はキク科,オケラの根で,水分代謝の不全に対して利尿作用があります。ほかに健胃作用もあります。桂枝はクスノキ科のCinnamomum Cassiaの幹または枝の皮で,発汗,解熱,鎮痛作用があります。大棗はクロウメモドキ科のナツメの果実で,緩和,強壮,利尿作用があります。生姜はショウガ科ショウガの根茎で,健胃,矯味の作用があります。

■証
 証の概略について述べます。原典の『明医指掌』には「手足の流注(関節リウマチの意味),疼痛,麻痺不仁,以テ屈伸シ難キヲ治ス」とあります。今述べましたように流注は慢性関節リウマチの意味でありますが,現代のような厳密な意味での慢性関節リウマチではなく,幅広く意味がとられ,リウマチ性疾患を意味するものと思われます。したがって本方は慢性関節リウマチ,筋肉リウマチ,結合織炎,関節炎一般,筋肉炎一般等に用いられるのであります。
 本方には麻黄が含まれております。麻黄剤一般の使用方法として,ある程度以上の胃腸が丈夫であること,実証であることが必要条件であります。薏苡仁湯において, 当然,あまりの虚証,あるいは胃腸虚弱者は適明ではありません。
 また本方は附子剤ではないので,極端な陰証のものには用いられません。したがって実証,陽証,胃腸が丈夫であるというような傾向のものの方が適しております。
 使用目標は,全体として実証,陽証,胃腸が丈夫であるというものの関節の疼痛と腫脹,筋肉の疼痛と腫脹を持つものということになります。

■応用疾患
 応用としては,(1)慢性関節リウマチ:前述のようにあまり虚証,陰証でない場合で,しかも関節炎症状が比較的軽いもの,とくに発病初期と限らず,発病後数年経過していてもよいのであります。急性期のもの,発熱,関節腫脹,疼痛,熱感,発赤などが強いものには十分な効果はあがりにくいのであります。
 関節リウマチは漢方的には水毒と考えられております。たとえばmorning stiffness, すなわち朝のこわばり感,顔面浮腫,関節の腫れ,関節水腫などはその現われであります。これらに対して,薏苡仁湯に含まれる薏苡仁,朮は利尿作用により,麻黄は,桂枝とともに発汗作用により水分代謝の調節をはかると考えられます。
 芍薬,当帰は,血液の循環を改善すると考えられます。一般に慢性関節リウマチでは冷え症の場合が多いので,当帰,芍薬は血流改善によって保温作用が期待されます。
 浅田宗伯(あさだそうはく)の『勿誤方函口訣(ふつごほうかんくけつ)』によりますと「此ノ方(薏苡仁湯)ハ 麻黄加朮湯(マオウカジュツトウ),麻黄杏仁薏苡甘草湯(マオウキョウニンヨクイカンゾウトウ)の一等重キ処ヘ用フルナリ。其ノ他桂芍知母湯(ケイシャクチモトウ)ノ証ニシテ附子ノ応ゼラル者ニ用ヒテ効アリ」といわれています。
 麻黄加朮湯,麻黄杏仁薏苡甘草湯(麻杏薏甘湯(マキョウヨクカントウ))の両者は,比較的軽症の関節リウマチの症状に用いられます。
 桂芍知母湯は『金匱要略』の歴節病(れきせつびょう)に出ている処方であります。「諸肢節疼痛,身体おう羸(痩せる)脚腫脱スル如ク,頭眩,短気,温々(うんうん)吐セント欲スルモノ,桂芍知母湯之ヲ主ル」といわれております。眩暈(目がくらむ),呼吸が乱れ,吐き気を催すというようなのは,疼痛による反射現象と考えられます。桂芍知母湯は附子剤であり,漢方医学上,陰証,虚証に用いられます。『勿誤方函』では,桂芍知母湯の証で附子の効かない場合に薏苡仁湯が用いられると述べてあります。附子剤に反応しにくいリウマチがあることも事実であります。
 ちなみに慢性関節リウマチは『金匱要略』では歴節といわれ,唐代においては白虎病(びゃっこびょう),宋代においては白虎歴節風(びゃっこれきせつふう),あるいは痛風(つうふう),元代以後は痛風といわれました。もちろん現代の痛風とは意味が違っております。また膝関節の慢性となったものは鶴膝風(かくしつふう)とも呼ばれます。もちろん当時の病名は現在のような十分な病因的な検索が行なわれておりませんので,慢性関節リウマチ以外に,結核性の関節炎なども含まれていたものでありましょう。
 私は慢性関節リウマチの治療において,急性期の関節炎症状がなく,症状が比較的軽微で,class,stage ともあまり進行していない症例においては,桂枝加朮附湯,桂枝二越婢一湯加苓朮附(ケイシニエッピイチトウカリョウジュツブ),薏苡仁湯の3者から湯液を選択することが多いのであります。3者とも慢性関節リウマチに用いられるのでありますが,とくに一番虚証,陰証のものに桂枝加朮附湯(ケイシカジュツブトウ),次に桂枝二越婢一湯加苓朮附,その次に薏苡仁湯の順序に選んでおります。各々の湯液の選び方は必ずしも明快にはいかず,時に迷うこともありますが,脈証,腹証,全身的な症候などを参考にして決定しております。
 漢方の治療の原則は,2者のいずれを選ぶか迷った時には,虚証と考えて処方を選んだ方が間違いがありません。明らかな陽証,実証では,前々回にお話しいたしました越婢加朮湯(エッピカジュツトウ)が選ばれることもあります。しかし慢性関節リウマチでは,9割以上の症例が虚証,陰証であると考えられます。
 (2) 筋肉リウマチ,結合織炎,回帰性リウマチ:これらの疾患に対しては,決定的な治療法がまだないというのが実状でありましょう。このような場合にも薏苡仁湯は適応致します。ひどい虚証,陰証でないことがその使用法の条件となりましょう。このような病態では通常激烈な症状がありません。薏苡仁湯は軽症で慢性的経過をとる場合がよい適応であります。
 (3) 関節炎はSLE,PNなど膠原病に合併しやすいのですが,このような疾患以外にベーチェット病,白血病,血友病などの血液疾患,外傷,結核などにおいてもしばしば併発いたします。このような場合においても薏苡仁湯は適応となり得ます。
 (4) 変形性関節症:周知のように,本症では老人性変化が主役をなしており,一般的には鎮痛剤を服用するしか治療の方法はありません。この際薏苡仁湯では使用価値があります。日本人に多い変形性膝関節症を始めとして,変形性股関節症,変形性腰椎症にも用いることができます。もちろん薏苡仁湯の使用意義は,疼痛,浮腫,関節腫脹などの症状の緩解に限られます。
 典型的な脚気は最近ほとんど見られませんが,脚気様症候群は春から夏にかけては時々見られます。このような場合にはビタミンB1は第一選択として用いられますが,薏苡仁湯を併用いたしますと症状の緩解に役立つことがあります。
 関節リウマチの治療において,軽症の場合は漢方のみでは治療はなかなか困難であります。もしたとえ一時的に上手に治療し得ても必ず再発があります。私は漢方薬とともに金療法を行なっております。慢性炎症を鎮めるためには,金療法はどうしても必要と考えております。もちろん肝障害,腎障害,造血器障害などのあるリウマチ患者には,金のような重金属の注射は禁忌であります。このような肝障害,腎障害などのあるリウマチ患者では,西洋医学的な鎮痛,抗炎症剤が使用されております。一般的に申しますと,今まで述べてきましたように,越婢加朮湯桂枝加朮附湯,薏苡仁湯の鎮痛作用は比較的弱いのであります。副腎皮質ホルモン,フェニールフタゾン,インドメサシンなどの鎮痛作用には遠く及ばないといってよいでしょう。
 漢方薬の長所は,体質療法的に陰,陽,虚,実,水毒,血証などに注目して,強壮作用,利尿作用,鎮痛作用などが総合化されている点であります。もし漢方薬を服用して胃腸障害を起こすようでありますならば,それは誤治であります。これは医師側の過失といってもよいのであります。したがって患者の体質をよく見きわめた上で薬を用いますと,胃腸を損うことなく漢方治療が行なわれます。その結果,リウマチの悪化因子が取り除かれるわけであります。

■症例
 第1の症例は64才の女性であります。昭和51年に某大学付属病院において,脳腫瘍のため手術が行なわれております。術後,尿崩症と視神経萎縮を併発し,さらに昭和48年ごろ認められたりうまち症状が悪化しました。両側の手の関節の腫脹,近位指節関節の紡錘腫脹,手のこわばり等が出現しております。CRPは陰性,RAテストは陰性,関節レ線上は異常ありません。脈は東洋医学的に平,比較的実証,陰陽の中間証,腹部は比較的実です。薏苡仁湯をエキス剤として6g分罠食前に服用せしめました。昭和52年4月より治療を開始しております。これ以外に金療法も開始しております。金療法の金が十分治療量に達する前に関節症状が緩解したところから,薏苡仁湯の効果であろうと推察されました。本例ではほかに鎮痛剤は服用しておりません。
 第2例は40才の女性で,主訴は手のこわばり感と筋肉痛であります。東洋医学的には腹部,脈に著変はありません。関節痛は遠位の指節関節にわずかにあるのみです。本例に薏苡仁湯1日9gを服用させまして23週投与しております。ほかに金療法も行なっておりますので効果は断言できませんが,薏苡仁湯投与以来筋肉痛と手のこわばりは軽快に向かっております。なお本例はCRP(-),stage Ⅰ,class 1 であります。
 第3例は39才の女性であります。対称的に近位指節関節痛があります。ほかに両手の関節,両膝の痛みがあります。腫脹と熱感はありません。軽い朝のこわばり感があります。CRP(-),RAテスト陽性,血沈25mm,本例は昭和45年1月28日から薏苡仁湯1日6gを投与し,金療法も併用しております。関節の痛みは,肘,肩にも出現しております。本例にも金療法を施行しておりますので断言できませんが,金療法が十分行なわれている前から関節痛が全般に軽減しております。本例では東洋医学的には脈と腹部に著変はありません。45年11月まで治療を続け,関節痛,朝のこわばりはほとんど消失しております。
 第4例は45才の女性で,class 1,stage Ⅰのpassible RA です。昭和45年1月より疲労感が強く,寝汗,膝関節の運動痛を感ずるようになりました。45年4月15日初診,朝のこわばり感と顔面の浮腫感も見られました。膝関節痛はありましたが腫桟と熱感は見られませんでした。金療法を開始しております。CRP(-),RAテスト(-),血沈値1時間15mm。東洋医学的には脈は沈,弱,腹証にては小腹不仁の傾向と正中芯が認められました。また冷え症でもありました。当初薏苡仁湯1日6gを投与して経過を見るうち,関節痛と朝のこわばり感は消失しました。45年10月より附子理中湯(ブシリチュウトウ)に変えた結果,冷えと,当時認められた胃腸障害は消失しました。

■鑑別処方
 (1) 麻黄加朮湯(マオウカジュツトウ)は関節痛,筋肉痛があり,表熱,表実,浮腫,小便不利を治します。麻黄湯の証で小便不利する場合に用いられます。
 (2) 越婢加朮湯(エッピカジュツトウ)は,麻黄加朮湯とは汗が出るか出ないか,口渇の有無によって使いわけられます。越婢加朮湯は自汗,口渇が認められます。
 (3) 麻杏薏甘湯(マキョウヨクカントウ)は,身体痛,関節痛があって,初期で軽症に用いられます。
 (4) 桂枝加朮附湯(ケイシカジュツブトウ)は関節痛,筋肉痛があって脈は虚しています。陰証,虚証に用いられます。
 (5) 桂枝二越婢一湯加苓朮は,繰り返し述べますように,桂枝加朮附湯と薏苡仁湯の中間症に用いられます。
 (6) 桂芍知母湯(ケイシャクチモトウ)は慢性痼疾化したもの,特にclass,stageともに3,4と進行したものに用いられることが多いのであります。
 (7) 大防風湯(ダイボウフウトウ)桂芍知母湯と同じく慢性に経過したもので,虚証となり,血虚,すなわち貧血傾向の証を呈しているものに用いられます。本方は補血強壮を主とした四物湯(シモツトウ)を基本にしています。さらに種々の鎮痛強壮剤が有合されています。
 (8) 防已黄耆湯(ボウイオウギトウ)は表虚,水毒が基本であるので薏苡仁湯と違っております。


『■重要処方解説Ⅱ(49)』
薏苡仁湯(よくいにんとう)
東京都立府中病院整形外科医長 関 直樹

■出典
 本日は薏苡仁湯(ヨクイニントウ)についてお話し申し上げます。薏苡仁湯の出典は『明医指掌(みんいししょう)』であります。もっとも,同じ薏苡仁湯にも『外科正宗(げかせいしゅう)』の薏苡仁湯や,一貫堂の薏苡仁散などもありますが,これらの内容は『明医指掌』のものとはまったく違います。また,今日ではほとんど用いられていない処方かと思います。したがいまして,現在では薏苡仁湯と申しますと,『明医指掌』のものを指すのが一般的であります。

■構成生薬・薬能薬理
 薏苡仁湯の構成は,薏苡仁(ヨクイニン)8g,蒼朮(ソウジュツ)4g,当帰(トウキ)4g,麻黄(マオウ)4g,桂皮(ケイヒ)3g,芍薬(シャクヤク)3g,甘草(カンゾウ)2gの7種類の生薬から成り立っております。次にそれぞれの生薬について簡単に解説いたします。
 薏苡仁はイネ科のハトムギの種でありまして,主要成分は,澱粉,蛋白質のほか,えぐ味成分,トリテルペノイド,油脂類などであります。動物を用いた実験的薬理作用は,解熱作用や,痙攣抑制作用など中枢抑制作用,筋弛緩作用,抗腫瘍作用などがあるようです。漢方における薬効すなわち薬能は,利尿,排膿,消炎,鎮痛,滋養などといわれております。また,昔からいぼ取りの特効薬として用いられたり,現在では健康食品として用いられておりますことは,よく知られているところであります。
 次の蒼朮はキク科のホソバオケラなどの根であります。β-eudesmol および hinesol などの精油が主成分に含まれておりますが,薬理作用として,抗消化性潰瘍作用,利胆作用,血糖降下作用,電解質代謝促挿作用,抗菌作用などが,動物を用いた実験で証明されております。薬能は,水毒を逐う,すなわち頻尿や多尿,反対に尿の出にくいもの,そういう状態を改善させたり,咳や嘔吐や下痢,こういうものにも用いられます。また,薏苡仁湯に限らず,疼痛性疾患に用いられる処方には,よく蒼朮が入っていることを考えますと,痛みに対しても何らかの効果があると思われます。
 当帰はセリ科の植物で,根を用います。 精油や脂肪酸などが含まれており,中枢抑制作用,鎮痛作用,解熱作用,筋弛緩作用,血圧降下・末梢血管拡張作用,抗炎症作用など多方面から,その薬理作用が研究されております。薬能としては,血液の停滞を改善し,さらに血液を補い痛みをとる,などの働きがあると考えられております。
 麻黄はマオウ科の植物で,ephedrineを含むアルカロイドが主要成分であることはよく知られております。薬理作用は中枢興奮作用,交感神経興奮作用,鎮咳作用,発汗作用,抗炎症作用,抗アレルギー作用などであります。薬能は,呼吸困難,咳嗽,浮腫を改善し,関節や身体の痛みを和らげる働きがあるといわれております。
 桂皮は,クスノキ科の高木,桂(カツラ)の枝の皮であります。 現在までにわかっております桂皮の主要成分は,cinamic aldehyde のような精油でありますとか,ジテルペノイド,糖質,タンニンなどであります。これらの薬理作用として,解熱作用,鎮静・鎮痙作用,末梢血管拡張作用,抗血栓作用,抗炎症・抗アレルギー作用などが,動物実験で確認されております。薬能は,頭痛,発熱,悪風,汗が出て体が出て体が痛む,こういうものを治す作用があるといわれております。
 次に芍薬ですが,これはボタン科の植物で,根を薬用に用います。芍薬の主要成分は,モノテルペン配糖体やpaeonolueとその配糖体で,実験薬理学的には,鎮静・鎮痙・鎮痛作用,末梢血管拡張作用,抗炎症作用,抗アレルギー作用,免疫賦活作用,胃腸運動促進作用,抗胃潰瘍作用,抗菌作用などが,モルモット,イヌ,ラット,マウスなどで確かめられております。薬能としましては,筋肉が硬くなってひくつれるものを治したり,また腹痛,頭痛,知覚麻痺,疼痛,腹部膨満,咳きこむもの,下痢,化膿性のできものなどを治すと考えられております。
 最後の甘草はマメ科の植物で,根を用います。有名なglycyrrhizin などのサポニンが甘草の主要成分で,鎮静・鎮痙作用,鎮咳作用,抗消化性潰瘍作用,抗炎症作用,抗アレルギー作用などが認められており,薬理学的研究が最も進んでいる生薬の1つであります。腹部の拘攣,疼痛などの急迫症状や,手足の冷え,煩悶して落ち着かないもの,体の下から上の方に突き上げてくるような症状など,さまざまな急迫症状を治す薬能があると考えられております。

■古典・現代における用い方
 さて,この薏苡仁湯の出典である『明医指掌』には「手足の流注(るちゅう),疼痛,麻痺不仁。以て屈伸し難きを治す」とあります。ルチュウはリュウチュウともいいます。これは現代医学においても流注腫瘍という言葉があるように,カリエスの際の寒性膿瘍のことを指しますが,昔も確かに同じような意味に使っていたと思われます。しかし,この場合は,これとは違う意味で,関節リウマチのような疾患をいったのだと解釈されます。リウマチの語源がギリシア時代の医学の液体病理学説の発想に基づく「流れる」という意味であることを考え合わせますと,東西の発想に共通するものがあり,興香をそそられます。
 いずれにしましても,『明医指掌』の条文にもありますように,薏苡仁湯を用いる適応疾患としましては,慢性関節リウマチを含む関節痛疾患,あるいは手足の痛みなどでありましょう。
 さて,リウマチに関して専門外の方も多数おられると思われますので,ここでリウマチについて,若干の説明をしておきます。
 リウマチという言葉は大変おおざっぱな概念でありまして,本当の慢性関節リウマチはもちろんのこと,膠原病,変形性関節症,腰痛など四肢・体幹など支持組織の疾患を,十把一からげにリウマチといっております。これが広い意味のリウマチであります。
 しかし,これではあまりに漠然としすぎていますし,また患者さんに説明するにも誤解を与えかねませんので,私どもはなるべく狭い意味でのリウマチ,すなわち慢性関節リウマチに限定して,リウマチというべきだろうと考えます。
 ところで,慢性関節リウマチ,以後RAと申し上げますが,RAの診断,特に初期の場合の診断についてでありますが,これが簡単なようで,やや難しいのであります。と申しますのも,血液などの臨床検査のみで必ずしも診断が下せないからであります。具体的に申しますと,血液検査でRAテストが(+)だからといって,必ずしもRAとはいえないのであります。では,何に基づいてRAと診断するかと申しますと,それはアメリカ・リウマチ協会の定めた診断規準を用い識のが一般的であります。それには次の11項目を指標にします。
 ①朝のこわばり
 ②少なくとも1つの関節の運動痛または圧痛
 ③少なくとも1つの関節の腫脹
 ④少なくとももう1つの関節症状,すなわち多発性疾患であること
 ⑤左右対称性罹患
これらのことは少なくとも6週長続いていることが必要です。
 ⑥皮下結節またはリウマチ結節
 ⑦X線で特有の変化
 ⑧リウマトイド因子の証明
 ⑨滑液のムチン沈降試験
 ⑩滑膜の病理組織所見
 ⑪リウマチ結節i英茶密織所見
 以上11項目のうち,7項目以上該当すれば典型的RA,5~6項目以上の場合確実なRA,3~4項目のとき多分RAなどと診断するわけです。しかもSLEとか,リウマチ熱とか,痛風などの疾患ではないということ果念頭におかなければなりません。
 なお,1987年にアメリカ・リウマチ協会の診断基準が多少変わりまして,もう少し日常臨床に即したものになりました。わが国でも新基準を使用する方向で検討されております。ご参考までに末尾に掲げておきます。
 また,RAにもいろいろなタイプの経過があり,大きくは3つのタイプに分けられます。1つは単周期型で,これは一定期間の炎症を過ぎると,その後は炎症が収まってしまうもので,第2の型は多周期型で,炎症の活動と寛解を繰り返すもの,第3は進行性タイプで,いろいろな治療にもかかわらず徐々に悪化し,重度の肢体障害をきたすものという3つの型があり,それぞれ35%,50%,15%といわれております。このことは,薬効の検定の際に留意すべきことと思われます。なぜならば,自然経過で寛解するものがあるからであります。その他,まれではありますが,肺臓炎,心筋炎などの重要臓器の病変を主とし,生命に対する予後の著しく悪いRAがありまして,これを悪性関節リウマチといいます。また,回帰性リウマチといって,あちこちの関節や関節周囲に急性の発作性の炎症が出現し,これを年余にわたり繰り返すものの,発作と発作の間はほとんど何の症状もないリウマチがあります。
 RAの原因は,免疫異常,すなわち自己免疫疾患であろうということはおおむね認められているところですが,その免疫系を狂わせる最初のものが何かということになりますと,ウイルス感染,遺伝的素因などいろいろのファクターが考えられておりますが,まだまだよくわかっていないのが実状です。
 現代医学の治療法は,根本的なものは残念ながらまだありません。非ステロイド系の鎮痛消炎剤,金療法,D-ペニシラミンなどの免疫調節剤などいろいろありますが,いずれも抜本的なものとはいえないようです。しかも,薬効が強力な反面,副作用も無視できません。
 さて,そこで期待されて登場したのが漢方薬ということになります。とはいっても,現代医学で難しい疾患は,漢方薬でも難しいといわざるを得ません。しかし,漢方薬を基本に使い,それのみではどうしても痛みや炎症をコントロールできない場合に,最小限の西洋薬を併用して,何とかRAをコントロールできれば,漢方薬の存在意義は確かにあるといってもよいでしょう。ごく初期のRAや,活動性の少ないRAの場合には,漢方薬のみでも十分効果的なことがあります。
 いずれにいたしましても,この薏苡仁湯は,比較的軽度なRAや初期のRAまたはRA以外の関節痛疾患などに用いられます。先に述べましたように,麻黄が入っておりますので,どちらかというと実証の方で,胃腸の弱くない人に用いる処方であります。と申しますのも,漢方薬な考えでは,麻黄は病邪を発汗などというかたちで,無理やり追い出そうという薬ですので,それなりの体力があることが必要とされていると考えられるからです。
 次に,薏苡仁湯と鑑別すべき処方を述べてみましょう。
 関節痛疾患に使われる処方としては,桂枝二越婢一湯(ケイシニエッピイチトウ),桂枝二越婢一湯加朮附(ケイシニエッピイチトウカジュツブ),越婢加朮湯(エッピカジュツトウ)麻杏薏甘湯(マキョウヨクカントウ)桂枝加朮附湯(ケイシカジュツブトウ)防已黄耆湯(ボウイオウギトウ)桂枝芍薬知母湯(ケイシシャクヤクチモトウ)大防風湯(ダイボウフウトウ)二朮湯(ニジュツトウ)などがあります。薏苡仁湯は後世方ですので,『傷寒論』『金匱要略』などの古方と同じ次元で比較することは,やや難しいと思いますが,以下に鑑別点を述べてみます。
 桂枝二越婢一湯は,桂枝湯(ケイシトウ)と越婢加朮湯の各エキスを2:1に混ぜますとそれに近い処方になりますが,石膏(セッコウ)が入っていることを考えますと,薏苡仁湯に比べ,やや体力がまさり,しかも熱証を帯びたものに用いられます。しかし,必ずしもそうクリアカットに分けられるものではありませんし,またその必要もないかもしれません。ある程度,使う側の好みということもあるでしょう。
 局所的には熱感があって薏苡仁湯の適応と考えられる方が,全身的には冷えがある場合には,薏苡仁湯に附子(ブシ)を加味するとよいでしょう。あるいは桂枝二越婢一湯加朮附もよいと思います。この場合には,桂枝加朮附湯エキスと越婢加朮湯エキスを2:1に合方するわけです。
 越婢加朮湯は,麻黄・石膏剤の代表的な処方で,かなりの実証で,関節の炎症所見も非常に活動的に者に適応します。
 麻杏薏甘湯は,古方で,薏苡仁湯とは麻黄,薏苡仁,甘草が共通します。冷えるところで仕事をしたり,たくさん汗をかいたりして節々が痛くなり,特に夕刻に痛みが強くなるような疾患によいと,先哲は教えています。また,浅田宗伯(あさだそうはく)は『勿誤薬室方函口訣(ふつごやくしつほうかんくけつ)』に「麻杏薏甘湯の症状が一段と強いものに薏苡仁湯がよい」と記しております。
 桂枝加朮附湯は,麻黄剤が使えないような虚証で,しかも附子剤ですので,当然冷えがあるような陰証の方の薬です。関節炎の急性期にはあまり用い現れません。発赤や熱感がある急性期の関節炎は陽証と判断されるからです。したがって,もっぱら慢性的な関節炎や関節周囲炎または変形性関節症などに用いられます。
 防已黄耆湯は,疲れやすく,汗が多くて尿量は少なく,下腿に浮腫を認めるような,虚証の水毒体質の方に適応します。
 二朮湯も似たような体質の人に用いられますが,さらに消化機能を高めるような処方構成になっております。もともとは肩の痛みに作られた処方ですが、必ずしも肩のみにとらわれなくてもよいと思われます。
 桂枝芍薬知母湯大防風湯とも附子剤で,RAなとを長期間患って,かなり虚証になつたものに用います。なかでも大防風湯は,気・血とも虚したもの,すなわち慢性関節リウマチの末期に用います。

■症例提示
 最後に,症例についてお話してみたいと思います。現代における漢方医学の第一人者,矢数道明先生の治験例を拝借させて頂きます。
 36歳の婦人で,2ヵ月前から親指の関節に腫れと痛みが始まり,その後全身に関節に波及したということです。この方はそれ以前に全身に湿疹が出ていて,アレルギー体質だといわれていたそうです。関節の痛みに対して,大学病院の主治医から副腎皮質ホルモンの治療を受けていましたが,それ以上続けない方がよいといわれ,痛みを耐えていたということです。栄養は比較的よい方で,顔色も普通,脈は沈んでいる。舌苔はない。腹部は軟らかで力はあり,特記すべきものがない。疲れると全身の関節が痛みだすということで,我慢しながら勤務を続けていたそうです。
 この方に薏苡仁湯に加工附子末を加えて投与すると,1ヵ月ほどでかなりよくなり,大学病院の主治医が大変驚き,何か薬を飲んだのかと尋ねたので,漢方薬のことを話すと,自分もかねてから漢方を研究してみたいと思っていたと,率直にその効果をほめてくれたということです。半年間服薬を続け,全治廃薬したそうです。RAで,皆このようによく治るといいのですが,なおなかそうはいきません。先ほども申し上げたとおり,附子を加えるとよいことがあるようです。その場合,患者さんが冷え性であるということが前提条件だと思います。
 次の症例も矢数先生の治験例です。
 60歳の婦人。水ぶくれの肥満型で顔色は普通。主訴は2年前から腰がガクガクになって力が抜け,立っていると足が棒のようになる。トイレで立ち上がるときが大変つらい。階段や坂道は1人で歩けず,馬の階段で必ず人手を借りることで有名になっていたそうです。脈は弱く,血圧は180くらい,心臓が肥大している。食欲,便通は変わりなく,腹部はひどく膨満している。
 薏苡仁湯を20日間飲むと,2年間悩んでいた足のシビレ感や棒のようになるのが治り,膝に力がついてきた。さらに20日間飲むと,駅の階段も1人で昇リ降りできるようになり,近所の人や友人の間で評判になったということです。半年間服用すると,70キロの体重が50キロにやせ,身体が軽くなったとのことです。
 この例は変形性膝関節症だと思います。効く時はこのようにすばらしく効くものです。以上,矢数道明先生のご報告の2症例を引用させていただきました。
 私自身は,この薏苡仁湯の使いかたがうまくありません。特にRAには,ついつい越婢加朮湯や桂枝二越婢一湯などを好んで使っておりますので,これはといった症例に乏しいのですが,肩関節周囲炎に用いて効果があ改aたと思われる1例をご紹介します。
 患者は昭和4年生まれの女性で,昭織62年5月の初診の方です。約1年前より左肩の痛みと運動制限があります。初診の4ヵ月前に某整形外科を受診したところ,積極的に肩を動かしなさいといわれ,それなりに一生懸命 active exercise をやっていましたが,好転せず,当科を受診したというわけです。可動域は,屈曲が90度,外転が70度,結髪動作は何とかできるものの,結帯動作は不可能です。夜間,床に就いてからの肩の痛みが強いということでしたので,最初はインドメサシン坐薬(25mg)を1個,就眠前に使うよう処方しました。ところがこの坐薬を4日使ったところ,顔が腫れてきたということで,すぐに中止をしました。中肉中背の方で,特に虚証とも思われず,薏苡仁湯エキスを7.5g投与しますと,2週間後には屈曲120度となり,結帯動作も可能になりました。もちろん痛みも軽減しています。2ヵ月後には夜間の痛みも軽くなり,結局3ヵ月半の服用でほとんどよくなり,終了としました。
 この人は58歳でしたが,いわゆる五十肩といってよいかと思います。五十肩は特に治療しなくて経自然によくなるとはいわれておりますが,2週間の薏苡仁湯服用で,約1年前からの痛みと可動域制限がとれはじめたことを考えますと,薏苡仁湯の効果があったと思われます。
 次は変形性膝関節症の症例です。大正12年生まれの女性,初診は昭和60年8月です。初診の1ヵ月前に,歩きすぎたせいか右膝の痛みが出現したため,当科を受診しました。右膝に熱感が軽度認められます。越婢加朮湯エキス5.0gを2週間投与しただけで軽快しましたので,その後は様子を見ていました。5ヵ月後,再び痛みが出てきたとのことで再診しました。同じような所見でしたので,再度越婢加朮湯を投与しましたが,今回はなかなか痛みがひきません。エキス剤を7.5gに増量してみましたが,あまり効果がなく,かなりつらいとのことでしたので,非ステロイド性抗炎症剤を投与しました。これはよく効いたのですが,2週間くらい飲み続けているうちに胃腸をこわしたといいますので,以後は越婢加朮湯をベースに,どうしてもつらいときだけ,頓服で消炎鎮痛剤を使いなさいと指導しました。これが61年の12月のことです。
 以後この越婢加朮湯と消炎鎮痛剤の頓用を続けていましたが、あまりはかばかしくありませんでしたので,62年4月に,試みに薏苡仁湯に変えてみますと,これは前の薬よりよいといいます。それ以後,きちんと朝昼晩と服用し,痛みは確実によくなっております。薏苡仁湯に変えてからは,西洋薬はまったく必要がなくなりました。最近は寒いせいか,やや痛いと訴えますが,痛みが軽くなったせいで,昼はよく飲み忘れるとのことで,最近では1日2回だけ飲んでいます。近いうちに,痛みはすっかりなくなるものと期待しております。

*  *  *

 「慢性関節リウマチの診断基準(1987改訂)」アメリカリウマチ学会作成
 ①少なくとも1時間以上持続する朝のこわばり(6週間上持続)
 ②3個以上の関節の腫脹(6週以上持続)
 ③手関節,中手指節関節,近位指節関節の腫脹(6週以上持続)
 ④対称性関節腫脹
 ⑤手・指のX線変化
 ⑥皮下結節(リウマチ結節)
 ⑦リウマトイド因子の存在
 以上7項目中,4項目を満たすものを慢性関節リウマチと診断する。


■参考文献
 1) 皇甫 中:『明医指掌』
 2) 浅田宗伯:『勿誤薬室方函口訣』1878年版.近世漢方医学書集成巻96,名著出版,1982
 3) 山田光胤,丁 宗鉄監修:『生薬ハンドブック』.津村順天堂,1977
 4) 矢数道明:『臨床応用漢方処方解説』.創元社,1977




副作用
1)重大な副作用と初期症
1) 偽アルドステロン症: 低カリウム血症、血圧上昇、ナトリウム・体液の貯留、浮腫、体重増加等の偽アルドステロン症があらわれることがあるので、観察(血清カリウム値の測定等) を十分に行い、異常が認められた場合には投与を中止し、カリウム剤の投与等の適切な処置を行うこと。
2) ミオパチー: 低カリウム血症の結果としてミオパチーがあらわれることがあるので、観察を十分に行い、脱力感、四肢痙攣・麻痺等の異常が認められた場合には投与を中止し、カリウム剤の投与等の適切な処置を行うこと。
[理由]
厚生省薬務局長より通知された昭和53年2月13日付薬発第158号「グリチルリチン酸等を含 有する医薬品の取り扱いについて」に基づく。

[処置方法]
原則的には投与中止により改善するが、血清カリウム値のほか血中アルドステロン・レニ ン活性等の検査を行い、偽アルドステロン症と判定された場合は、症状の種類や程度によ り適切な治療を行うこと。低カリウム血症に対しては、カリウム剤の補給等により電解質バランスの適正化を行う。

2) その他の副作用

頻度不明
過敏症注1) 発疹、発赤、瘙痒等
自律神経系 不眠、発汗過多、頻脈、動悸、全身脱力感、精神興奮等
消化器 食欲不振、胃部不快感、悪心、嘔吐、腹痛、下痢等
泌尿器 排尿障害等
注1)このような症状があらわれた場合には投与を中止すること
 
過敏症:発疹、発赤、瘙痒等
このような症状があらわれた場合には投与を中止すること。
[理由]
本剤には桂皮(ケイヒ)が含まれているため、発疹、発赤、瘙痒等の過敏症状があらわれるおそれがある。

自律神経系:不眠、発汗過多、頻脈、動悸、全身脱力感、精神興奮等
[理由]
 本剤には麻黄(マオウ)が含まれているため、不眠、発汗過多、頻脈、動悸、全身脱力感、精神興 奮等の自律神経系症状があらわれるおそれがある為。

[処置方法]  原則的には投与中止にて改善するが、病態に応じて適切な処置を行う。


消化器:食欲不振、胃部不快感、悪心、嘔吐、腹痛、下痢等
[理由]本剤には麻黄(マオウ)、当帰(トウキ)、薏苡仁(ヨクイニン)が含まれているため、食欲不振、 胃部不快感、悪心、嘔吐、腹痛、下痢等の消化器症状があらわれるおそれがある。
また、昭和58年4月22日付第21次再評価結果「ヨクイニンエキス」を参考とした。


[処置方法]  原則的には投与中止にて改善するが、病態に応じて適切な処置を行う。

泌尿器:排尿障害等

[理由]
 本剤には麻黄(マオウ)が含まれているため、排尿障害等の泌尿器症状があらわれるおそれがある。

[処置方法]
  直ちに投与を中止し、適切な処置を行う。



 

2014年7月20日日曜日

桂芍知母湯(けいしゃくちもとう) の 効能・効果 と 副作用

漢方診療の實際 大塚敬節 矢数道明 清水藤太郎共著 南山堂刊
桂芍知母湯
 本方は葛根湯の 葛根の代わりに防風を、大棗の代わりに知母をそれぞれ置き替え、それに朮と附子とを加えたものとみることができる。知母には滋潤・鎮静の効があり、防風に は発汗・解熱・鎮静の効がある。朮には鎮痛・健胃・利尿の効があり、附子は新陳代謝を振興して血行をよくし、鎮痛の効がある。従って本方は葛根加朮附湯の證に似て、それよりも一段と虚して身体枯燥の状があるものを目標とする。
 本方は以上の目標に従って、関節リウマチ・神経痛等で身体枯燥の状のあるものに用いる。


 漢方精撰百八方 
8.〔方名〕 桂枝芍薬知母湯(けいししゃくやくちもとう)

〔出典〕 金匱要略

〔処方〕 桂枝4.0 知母4.0 防風4.0 芍薬4.0 甘草2.0 麻黄3.0 白朮4.0 附子0.5~1.0 生姜

〔目標〕 諸肢節疼痛、身体尪羸(病弱で瘠せてよろよろする)、脚腫脱するが如く、息切れがしてむかむかして吐き気のするものに本方が適する。

〔かんどころ〕 慢性関節炎、畸型性関節リウマチで関節のふしくれ立ったものに本方が効く。

〔応用〕 本方は比較的頻用される処方で、殊にの肩胛関節の痛むものによい。      結核性肩胛関節炎。結核性体質の者で肩胛関節炎を患うものでレントゲン写真で特に関節面破壊像の認められないものに本方を与えると比較的短時日に治癒することを経験するが、元来が結核性関節炎の初期はその鑑別が困難なものであるから、いきなりギブスで固定することをせず、一応本方で治療してみることを奨める。
  防風は風を治し湿を去る、一身尽く痛むを治すとあり、発汗解熱鎮痛の作用がある。知母には滋潤鎮静の作用があるので、慢性炎症に応用される。
  本方の処方構成は葛根湯に類似している。すなわち葛根湯の葛根の代りに防風が、大棗の代わりに知母が入ったものが本方であるから、本方は葛根湯証の慢性化したものとも考えられ。
  本方に類似の方として葛根加朮附湯、越婢加朮附湯、桂枝加苓朮附湯があるが、普通の関節リウマチにはこれ等の諸方が適する。

  45才女。顔がかっかとほてる、右肩が痛く、疲れ切った感じである。本人は四年前結核性腹膜炎を患い、腹水がたまったのを真武湯を投与して五ヵ月で治癒せしめたことがあるが、未だに顔色が悪く元気がない、そこで桂枝芍薬知母湯を与えたところ一週間分で肩の痛いのは治ったが、顔面に湿疹が出来て痒いと言って来た。そこで桂枝加黄耆湯をやったところ一週間の服薬で治ったが、今度は頭痛がして肩がこるという。そこで葛根湯を投与してーヵ月して全治した。本例からしても本方と葛根湯との近似性が認められる。
  60才男。十ヶ月前から心臓が悪く、腰痛と左肩のつけ根が痛い。四十肩と診断されたが治らない。本方投与一ヶ月で全治した。


漢方薬の実際知識 東丈夫・村上光太郎著 東洋経済新報社 刊
4 表証
表裏・内外・上中下の項でのべたように、表の部位に表われる症状を表証という。表証では発熱、悪寒、発汗、無汗、頭痛、身疼痛、項背強痛など の症状を呈する。実証では自然には汗が出ないが、虚証では自然に汗が出ている。したがって、実証には葛根湯(かっこんとう)麻黄湯(まおうとう)などの 発汗剤を、虚証には桂枝湯(けいしとう)などの止汗剤・解肌剤を用いて、表の変調をととのえる。
3 桂芍知母湯(けいしゃくちもとう)  (金匱要略)
〔桂枝(けいし)、知母(ちも)、防風(ぼうふう)、生姜(しょうきょう)、芍薬(しゃくやく)、麻黄(まおう)各三、朮(じゅつ)四、甘草(かんぞう)一・五、附子(ぶし)〇・五〕
 本方は、葛根加朮附湯の葛根、大棗を去り、かわりに防風、知母を加えたもので、葛根加朮附湯よりもさらに虚証となり、身体枯燥(表虚)の状を 呈している。したがって、表に属する筋肉は枯燥し萎縮しているが、裏に属する関節は腫れて、あたかも鶴の膝のようになったもの。本方證は、知覚麻痺や運動 障害を訴えるものもある。
〔応用〕
つぎに示すような疾患に、桂芍知母湯證を呈するものが多い。
一 関節リウマチ、神経痛など。



明解漢方処方 西岡 一夫著 ナニワ社刊
p.66
桂芍知母湯(けいしゃくちもとう) (金匱)

処方内容 桂枝 芍薬 知母 防風 麻黄各三・〇 朮四・〇 甘草 生姜各一・五 附子一・〇(二三・〇)
     急性関節リウマチ  慢性畸型関節リウマチ

必須目標 ①慢性で四肢(特に膝関節)に熱をもって疼痛し、木のコブのように変型していて、その周厚は反って肉落ち痩せているリウマチ。 

確認目標 ①皮膚はカサカサに乾燥し体も痩せている。
②ときには両脚微腫していることもある。

初級メモ ①必須目標にあるような変型膝関節リウマチを漢方用語では鶴膝風(かくしつふう)という。

 ②鶴膝風に使う処方は古方では本方だけしかないから一応収録したが、先輩の治験例を読んでも、本方は余り効果がないらしい。

中級メモ ①本方の効果が余り期待出来ないため、原南陽は附子を烏頭に代えて用いるべきだという。
 ②鶴膝風には本方よりもむしろ後世方の舒筋立安散(二五味方)に乳香、没薬の二味を鎮痛剤として加味した処方の方が成功している場合が多い。
 ③吉田一郎氏の説によれば、本方は慢性鶴膝風に用いる処方でなく、外邪によって起った急性関節リウマチに用いるべき処方であるという。(漢方二巻四号)


適応証 慢性畸型関節リウマチ。

追記 この原稿を書き終えてから発見したのだが「漢方の臨床一一巻四号」に矢数道明氏が”舒筋立安散”で卓効のあった治験例を発表しておられる。参照願いたい。ただし従来の竹茹が生姜に代っている。

※竹茹 → 竹筎



『漢方臨床ノート 治験篇』 藤平健著 創元社刊
p.524
関節リウマチ

 桂枝芍薬知母湯による慢性関節リウマチの治験

 慢性関節リウマチは40歳以後の婦人に見られることが多く、ことに月経閉止後に発病することがしばしばであることから、内分泌的要因があるものと想像されてはいるが、真の原因に関しては未だ定説がない。本症は医療の東西を問わず、頑強に治療に抗して患者を苦しめ、医師を困却せしめる疾患の一つである。近時、新薬の出現によって患者の病苦はかなり軽減せられる場合が多くなってきたとはいえ、いまだ根治の困難な疾病の部類に属しているものということができよう。
 最近私は、定型的な桂枝芍薬知母湯証を呈する本症の患者を取り扱い、同湯を投じて順調な経過をたどっている一症例を経験する機会を得たので、ここに、これを報告して、同学の方々の御参考に供したいと考える次第である。
 患者は48歳の中背の婦人。初診・昭和32年6月21日。
 何の原因もなく、昨年3月初旬から両手の指関節に疼痛と腫脹とが発し来たり、次いで足・膝の関節にも波及してきた。コーチゾンや、その他諸種の治療により、幾分は好転したが、以後は頑として治療に抗して、依然かなりの運動障害と疼痛とに日夜苦しめられつつ今日に至っている。
 患者は、顔色わるく、極度に痩せた、公務員の妻。家人に支えられて、ようやく診察台に横臥できた。全身骨と皮ばかりという記容も決して極端ではないというほどの痩せようである。
 両側の手関節ならびに足関節は、背側の腫脹が著明で、その皮膚は特殊の光沢を示し、手関節は屈曲位で、足関節は尖足位で、拘縮を呈し、膝関節は紡錘形の腫脹を呈している。両手の指関節は一つ一つが紡錘に腫脹し、中指関節は伸展位、末端指関節は屈曲位拘縮を呈している。両手の骨関節、前膞伸筋、三頭膞筋、三角筋、四頭股筋は、すでにかなりの萎縮を呈している。
 自覚症状としては、大便は一日一行、小便は五~六回、夜間尿はない。睡眠は疼痛のひどくないときは普通。食欲がなく、極端に食が細い。口渇はないが口燥があり、口がねばつく。少し歩いても息切れがしやすく、汗ばみやすい。歩行は家人の介助を得てようやく可能の程度。帯をしめることができないが、着物は時間をかければ何とか着ることができる。腫脹した各関節は、常時ではないが、痛んでいることのほうが多い。悪寒、頭痛、腰痛、発熱、耳鳴、肩こり等はない。
 他覚症状としては、脈は沈にして、やや細。舌には湿潤するでもなく、乾燥するでもない、薄い白苔がある。腹力は、表面は硬く、内部は軟弱である。すなわち、左右の腹直筋は強く拘攣して、さながら二枚のうす板を張ったようである。しかしよく安じてみると、内部の方はスカッとしていて力がない。胸脇苦満、瘀血の圧痛点等は証明されない。
 以上の自他覚症状を総合して、本症は『金匱要略』所載の「諸肢節疼痛シ、身体尪羸(おうるい)、脚腫脱スルガ如ク、頭眩短気シ、温々トシテ吐セント欲スルモノハ、桂枝芍薬知母湯之ヲ主ル」に該当するものと判断した。よってこれを投与。
 二週間目には疼痛がかなり減退し、食欲も相当に出てきた。投薬五週間後には介助なしに、ほとんど普通に歩行できるようになり、歩いても息切れがしなくなった。腫脹していた諸関節は一様に腫脹の減退を認め、当初のほぼ半ばの程度となり、拘縮も著減し、帯がひとりで結べるようになった。投薬八週間後には、身体全体にわずかながら肉がつき、体力も出てきて、少量の洗濯や掃除ができるようになった。四ヵ月後の現在もない服薬中であるが、現在では、諸関節の腫脹は著明に減退し、疼痛は全く消失し、食欲は亢進して、血色も良好となり、単独で苦痛を感ずることもなく来院できるようになっている。いまだ完治の域に達しているわけではないが、この状態で経過すれば、遠からず完治に近い状態に到達しうるのではないかと思う。
 以上の治療経験から見て、本症例が桂枝芍薬知母湯の証を呈していたことは、方に質してこれを立証したわけであるから、まちがいのなかったものと考えてよいと思う。前述の桂枝芍薬知母湯の条文中の「身体尪羸」の解釈に諸説があって、あるいは、これを身体の痩せ衰得ている意味に取り(『類聚方広義』頭注)、あるいはこれを疼痛する関節が木のこぶしの如く腫起している意にとって、決っして身体が痩せている意味ではないとしている(『勿誤薬室方函口訣』『金匱要略述義』)等、まちまちであるが、私はわずか一例の経験から早急な断定を下すことは危険であるとは思うが、以上の治療経験から見て、両方の意味をともに含んでいるものと見てよいのではないかと考える次第である。
 なお、方中の附子は白河附子を使用し、1日量1.8gを用いた。
(「日本東洋医学会誌」8巻3号、昭和32年12月)


臨床応用 漢方處方解説 矢数道明著 創元社刊
p.654
32 桂芍知母湯(けいしゃくちもとう)〔金匱・歴節病〕
    桂枝・知母・防風・芍薬・麻黄・生姜(乾生姜一・〇)各三・〇  朮四・〇 甘草一・五 附子〇・五~一・〇

 「諸肢節疼痛、身体尪羸(おうるい)(痩せる)脚腫脱する如く、頭眩、短気、温々吐せんと欲するもの。」
 関節リウマチ・関節炎などで、腫脹疼痛があり、膝関節が腫れて、上下の筋肉が萎縮し、鶴の膝のようになったもの、また下肢の運動および知覚の麻痺したものなどに応用される。


-考え方から臨床の応用まで- 漢方処方の手引き 
小田 博久著 浪速社刊
p.156
桂芍知母湯(けいしゃくちもとう) (金匱)
 桂枝・知母・防風・芍薬・麻黄:三、白朮:四、甘草:一・五、乾生姜一、附子:〇・五~一。

主証
 慢性関節リウマチで、関節変形して上下の筋肉に萎縮。

客証
 皮膚乾燥(ガサつく)。痩(や)せている。めまい。

考察
 長期服用の必要。
 関節変形して軟骨がせり出し、その周囲筋に萎縮のみられるものは、鶴膝風(かくしつふう)と呼ばれる。
金匱要略(歴節病)
 「諸肢節疼痛身体尩羸(おうるい)(やせる)、脚腫脱する如く、頭眩、短気、温々吐せんとするもの。」


和漢薬方意辞典 中村謙介著 緑書房
桂枝芍薬知母湯(けいししゃくやくちもとう) [金匱要略]

【方意】 表の水毒寒証による激しい関節痛・関節腫脹・寒がり等と、表の寒証による頭痛・悪寒・発熱等と、熱証による局所の熱感・自汗・顔面紅潮等と、虚証による疲労倦怠等のあるもの。
《太陰病から少陰病、虚実中間からやや虚証》

【自他覚症状の病態分類】

表の水毒・寒証 表の寒証 熱証 虚証 脾胃の虚証
主証 ◎激しい関節痛
◎関節腫脹
◎下腿足部腫脹
◎寒がり
◎頭痛
◎悪寒 ◎発熱
◎局所の熱感
◎自汗
◎顔面紅潮
◎疲労倦怠
客証  手足攣痛
 腰痛 神経痛
 運動知覚麻痺
 顔色不良
 冷え 微腫
 尿不利
 カゼ引き易い
 咳嗽
 高熱
 口渇
 皮膚粘燥
 目眩
 息切れ
 筋萎縮
 るいそう
 乾嘔 嘔吐
 悪心



【脈候】 浮数でやや力あり・浮弱・微弱・沈で力あり。

【舌候】 口舌乾燥、或いはやや湿潤し、多くは無苔時に白苔。 

【腹候】 少しく陥凹して軟、時に腹直筋の緊張がある。


【病位・虚実】 水毒・寒証が中心的病態であり陰証で太陰病から少陰病の相当する。しかし表証・熱証が顕著な場合には太陽病或いは少陽病に相当した病状を呈する。脈力および腹力より、また自他覚症状より虚実中間からやや虚証である。

【構成生薬】 蒼朮5.0~10.0 桂枝4.0 知母4.0 防風4.0 芍薬3.0 麻黄3.0 甘草2.0
        生姜1.0 附子a.q.(0.5)

【方解】 本方は桂枝加朮附湯から大棗を去り、知母・防風・麻黄を加えたものと考えられる。桂枝加朮附湯は寒証・表の水毒・表の寒証・表の虚証を構成病態としている。本方意にもこれらの構成病態があり、麻黄が加わったために表の水毒・表の寒証を除く作用が強調される。更に防風も温性で表の代謝を亢進させて発汗し鎮痛作用がある。本方ではで麻黄・桂枝の組合せとなっており、表の虚実に関しては桂枝加朮附湯と異なり表の実証である。知母は寒性で清涼・解熱・止渇作用があり、熱証に有効である。本方意は寒証を主としているが、熱証も混在しているものである。なお、脾胃の虚証には桂枝湯と同じく生姜・大棗が対応している。

【方意の幅および応用】
 A 表の水毒寒証:激しい関節痛・関節腫脹等を目標にする場合。
   関節リウマチ、関節炎、神経痛、末梢神経炎、片麻痺
 B 表の寒証:悪寒・発熱等を目標にする場合。
   関節リウマチの急性増悪期、急性副鼻腔炎

【参考】 *諸肢節疼痛し、身体尪羸(おうるい)し、脚腫れて脱するが如く、頭眩短気し、温々として吐せんと欲す、桂枝芍薬知母湯之を主る。
『金匱要略』
*風毒腫痛し、寒を憎み、壮熱し、渇して脈数、膿を成さんと欲する者を治す。痛風、走注して骨節疼痛し、手足攣痛する者を治す。痘瘡、貫膿十分ならず、或は期を過ぎて結痂せず、憎悪身熱成、一処疼痛し、脈数なる者は、余毒癰を成さんと欲する也。此の方に宜し。若し膿已に成る者は、早に披針にて割開すべし。伯州散を兼用す。
『類聚方広義』
*此の方は身体瘣★(かいらい)(木の瘤)と言うが目的にて、歴節数日を経て頭眩、乾嘔などする者を治す。又腰痛、 鶴膝風(鶴の脚のように膝のみの腫脹)にも用ゆ。又俗にきびす脚気と称する者、此の方効あり。脚腫如脱とは足首腫れて、靴脱するが如く、行歩すること能わざるを言う。
『勿誤薬室方函口訣』
*本方は鶴膝風と言われる膝関節の変形・疼痛のあるものに用いられるが、表の寒証の存在す識場合に有効とされる。これがない場合には烏頭湯を第一に考える。
*患秀の栄養が悪くて痩せていて、罹患関節は腫れ、周囲の肉が落ち、皮膚はガサガサと枯燥しているものを目標にする。桂枝加朮附湯では及ばない場合に用いる。


※尪=鬼-ム+王
※★(疒+畾)

【症例】 膝の脱力
 年は24歳、女子。始め左足首が痛み出し、次にはその痛みが膝に上って、歩くのが苦痛だというのです。押すと痛むし、屈伸するのが一番辛いようです。左足には腫れも出現。越婢加朮湯をやりましたが効きません。
 陽が虚している所に、水が絡んでこうなったのだろうという風に考えて、桂枝や附子や白朮の入っている甘草附子湯に代えました。
 経過が良いといっている中に、今度は膝ががくがくとして膝から下が抜けそうだといい出しました。そこで気が付いて桂枝芍薬知母湯をやりますと数日の患いが一遍に吹っ飛んでしまいました。桂枝芍薬知母湯の証に「脚腫脱するが如し」とあるのを目標にしました。『勿誤薬室方函口訣』に「俗にきびす脚気と称する者、此の方効あり。脚腫如脱とは足首腫れて、靴脱するが如く、行歩すること能わざるを言う」とある。
荒木性次『七合』279


『健保適用エキス剤による 漢方診療ハンドブック 第3版』
桑木 崇秀 創元社刊

p.310
桂芍知母湯(けいしゃくちもとう)
方剤構成
 附子 芍薬 蒼朮 生姜 麻黄 甘草 桂枝 防風 知母

方剤構成の意味> 
 附子・芍薬・蒼朮・生姜は真武湯から茯苓を去り,白朮を蒼朮(発散性が強い)に代えたもの,麻黄・甘草・桂枝は麻黄湯から杏仁を去ったものに相当する。桂枝・芍薬・生姜・甘草は桂枝湯から大棗を去ったものであるから,方剤中には桂麻各半湯が,より湿証向きに手直しされて(潤性薬である杏仁と大棗が除かれている)含まれているとも見ることができる。
 防風は発散・鎮痛薬,知母も発散性の解熱・消炎薬で,真武湯に発表剤としての効果を賦与し,さらに燥湿効果を強化したものと見ることができよう。附子・芍薬・防風の鎮痛作用,知母の消炎作用も,発散・燥湿作用とともに,この方剤の欠くことのできない一要素と考えねばなるまい。附子を主薬としする真武湯がもとになっている方剤であるから,寒虚証向きであることは言うまでもない。


適応
 慢性関節リウマチ。ただし,湿寒虚証で,寒証は著しいが,汗かきでないことを条件とする。

『健康保険が使える 漢方薬 処方と使い方』
木下繁太朗 新星出版社刊

桂枝芍薬知母湯(けいししゃくやくちもとう)
金匱要略(きんきようりゃく)
 三

どんな人につかうか
 手足の関節に慢性の痛みがあり、肉が落ちて関節だけ(特に膝(ひざ)関節)が木のこぶのように腫(は)れて変形(鶴の膝(ひざ)の様な形)しているので、体力が衰え、やせて皮膚がかさかさしているものに用い、関節リウマチ、神経痛に応用します。

目標となる症状
 ①関節の腫張(しゅちょう)、変形(鶴膝風(かくしつふう))。②関節痛。③四肢筋肉(ししきんにく)の萎縮。④下肢の運動、知覚の麻痺。⑤頭痛、めまい。⑥息切れ。むかつき(乾嘔)。⑦皮膚枯燥(こそう)。⑧やせ。⑨足のむくみ。

 一定せず。 沈、細。 舌質淡紅(ぜつしつたんこう)、舌苔は白。

どんな病気に効くか(適応症) 
 関節リウマチ神経痛。変形性膝関節リウマチ(鶴膝風(かくしつふう))、関節炎、多発性関節炎、変形性関節症。

この薬の処方
 桂枝(けいし)、知母(ちも)、防風(ぼうふう)、生姜(しようきよう)、芍薬(しやくやく)、麻黄(まおう)各3.0g。朮(じゆつ)4.0g。甘草1.5g。附子(ぶし)1.0g。
この薬の使い方前記処方を一日分として煎(せん)じてのむ。
サンワ桂枝芍薬知母湯(けいししやくやくちもとう)エキス細粒(サンワロンT末)、成人一日9.0g。2~3回に分け、食前又は食間にのむ。

使い方のポイント・処方の解説
四肢や軀幹(くかん)のしびれ、痛み、冷え、関節の腫張(しゆちよう)があり、関節に発赤、熱感、疼痛(とうつう)のあるもので、体力が衰え、全身的な熱症状のないものを目標に用います。
②桂枝(けいし)防風(ぼうふう)附子(ぶし)麻黄(まおう)は冷(ひ)えをとり、湿(しつ)を利し、風を去る温性の効果があり、知母(ちも)は、ユリ科のハナスゲの根茎で、清涼(せいりよう)、解熱(げねつ)、鎮静(ちんせい)、利尿(りによう)作用があり、関節の熱をとってくれます。芍薬(しゃくやく)は、痛みをとめ、血行を良くし、朮(じゆつ)甘草(かんぞう)生姜(しようきよう)は、胃腸の働きを良くし、浮腫(ふしゆ)を取ります。
 以上の総合効果で、鎮痛、血液循環の促進、浮腫(ふしゆ)を治し、消炎、鎮痛の効果をあらわします。


重大な副作用と初期症状
1) 偽アルドステロン症: 低カリウム血症、血圧上昇、ナトリウム・体液の貯留、浮腫、体重増加等の偽アルドステロン症があらわれることがあるので、観察(血清カリウム値の測定等) を十分に行い、異常が認められた場合には投与を中止し、カリウム剤の投与等の適切な処置を行う。
2) ミオパシー: 低カリウム血症の結果としてミオパシーがあらわれることがあるので、観察を十分に行い、脱力感、四肢痙攣・麻痺等の異常が認められた場合には投与を中止し、カリウム剤の投与等の適切な処置を行う。
[理由]
 厚生省薬務局長より通知された昭和53年2月13日付薬発第158号「グリチルリチン酸等を含 有する医薬品の取り扱いについて」に基づく。
 [処置方法]  原則的には投与中止により改善するが、血清カリウム値のほか血中アルドステロン・レニ ン活性等の検査を行い、偽アルドステロン症と判定された場合は、症状の種類や程度により適切な治療を行う。低カリウム血症に対しては、カリウム剤の補給等 により電解質 バランスの適正化を行う。

その他の副作用

頻度不明
過敏症注1) 発疹、発赤、瘙痒等
自律神経系 不眠、発汗過多、頻脈、動悸、全身脱力感、精神興奮等
消化器 食欲不振、胃部不快感、悪心、嘔吐等
泌尿器 排尿障害等
その他 のぼせ、舌のしびれ等

注1) このような症状があらわれた場合には投与を中止すること。

2014年7月17日木曜日

葛根加朮附湯(かっこんかじゅつぶとう) の 効能・効果 と 副作用


漢方精撰百八方 
37.[方名]葛根湯かっこんとう
(4)肩背痛のあるもので、脈浮数の者。又、肩、肩甲部の神経痛に用う。加朮附にして用いて効を得ることが多い。
(10)副鼻腔炎、肥厚性鼻炎、臭鼻症、嗅覚障害等に適用する。副鼻腔炎には、最もよく用いられる薬方の一つで、桔梗、薏苡仁、辛夷、川芎等を加味する場合が多い。なお、葛根加朮附湯、苓朮附湯にして奏効する場合もある。
(12)眼科疾患では、麦粒腫、眼瞼縁炎、急性結膜炎、急性角膜炎、虹彩炎等、炎症症状を伴うものに頻用される。加味薬は、石膏、桔梗、薏苡仁、反鼻、朮、附子、川芎等である。


漢方薬の実際知識 東丈夫・村上光太郎著 東洋経済新報社 刊
4 表証
表裏・内外・上中下の項でのべたように、表の部位に表われる症状を表証という。表証では発熱、悪寒、発汗、無汗、頭痛、身疼痛、項背強痛など の症状を呈する。実証では自然には汗が出ないが、虚証では自然に汗が出ている。したがって、実証には葛根湯(かっこんとう)麻黄湯(まおうとう)などの 発汗剤を、虚証には桂枝湯(けいしとう)などの止汗剤・解肌剤を用いて、表の変調をととのえる。
2 葛根湯(かっこんとう)  (傷寒論、金匱要略)
〔葛根(かっこん)八、麻黄(まおう)、生姜(しょうきょう)、大棗(たいそう)各四、桂枝(けいし)、芍薬(しゃくやく)各三、甘草(かんぞう)二〕
本方は、つぎにのべる桂枝湯に葛根、麻黄を加えたもの、また、麻黄湯の杏仁(きょうにん)を去り、葛根、生姜、大棗を加えたものとして考えら れる。本方は、麻黄湯についで実証の薬方であり、太陽病のときに用いられる。本方證では汗が出ることなく、悪寒、発熱、脈浮、項背拘急、痙攣または痙攣性 麻痺などを目標とする。発熱は、全身の発熱ばかりでなく、局所の新しい炎症による充実症状で熱感をともなうものも発熱とすることがある。また、皮膚疾患で 分泌が少なかったり、痂皮を形成するもの、乳汁分泌の少ないものなどは、無汗の症状とされる。本方は特に上半身の疾患に用いられる場合が多いが、裏急後重 (りきゅうこうじゅう、ひんぱんに便意を催し、排便はまれで肛門部の急迫様疼痛に苦しむ状態)の激しい下痢や、食あたりの下痢などのときにも本方證を認め ることがある。本方の応用範囲は広く、種々の疾患の初期に繁用される。
〔応用〕
つぎに示すような疾患に、葛根湯證を呈するものが多い。
一 感冒、気管支炎、気管支喘息その他の呼吸器系疾患。
一 赤痢、チフス、麻疹、痘瘡、猩紅熱その他の急性熱性伝染病。
一 急性大腸炎、腸カタル、腸結核、食あたりその他の胃腸系疾患。
一 五十肩、リウマチその他の運動器系疾患。
一 皮膚炎、湿疹、じん麻疹その他の皮膚疾患。
一 よう、瘭疽などの疾患。
一 蓄膿症、鼻炎、中耳炎、結膜炎、角膜炎その他の眼科、耳鼻科疾患。
一 そのほか、リンパ腺炎、リンパ管炎、小児麻痺、神経痛、高血圧症、丹毒、歯齦腫痛など。
葛根湯の加減方
 
(6) 葛根加朮附湯(かっこんかじゅつぶとう)
葛根湯に朮三、附子一を加えたもの〕
葛根湯證で、痛みが激しく、陰証をかねたものに用いられる。したがって、腹痛を伴うことがある。本方は、附子と麻黄、葛根、桂枝などの組み合 わさった薬方であるため、表を温め表の新陳代謝機能を高めるが、本方證には身体の枯燥の状は認められない。特に神経系疾患、皮膚化膿性疾患に、本方證のも のが多い。


『漢方医学十講』 細野史郎著 創元社刊
p.90
〔六〕 肩こり、その他の肩の筋痛
 肩こりに対しては、もちろん有力な薬方である。浅田宗伯の『勿誤薬室方函口訣』にもあるように、積年の肩背凝結があって、その痛みがときどき心下に刺し込むものに、本方で一汗かかせると忘れたようになくなった、というほどの卓効を現わすことがある。
 寝ちがいと俗称される状態や肩の筋痛の場合にも葛根湯が応用されるが、これに地黄(ぢおう)・独活(どっかつ)を加えて用い、これを独活葛根湯と称する。この方は産後の柔中風という手足の運動の麻痺を来たしたものにもよい。
 葛根湯に蒼朮(そうじゅつ)・附子を加えると、頑固な三叉神経痛や肩臂の神経痛(五十肩)、むちうち損傷、リウマチ様疼痛にもよく効く。
 頸筋は腰とともに力学的負担の多いところで、神経反射的にも種々の臓器の反射が筋の凝りとなって現われやすいところであり、筋の凝りが二次的にもまた種々の障害を起こすものである。筋の硬直が血行障害を起こすためか、眩暈(げんうん)などをよく伴い、しばしば本方に真武湯(第八講詳述)の合方、すなわち葛根湯加茯苓白朮附子のゆく状態が現われる。

葛根湯の治験例

〔症例 1〕 左三叉神経痛(女子)
一昨年、左の頬にひどい三叉神経痛が起きた。医者は歯からきているのだと言って、歯を次から次と全部抜いてしまったが、一向によくならなかった。それでも口腔内や歯齦、顔面など各所に注射をしてもらっているうちに、いつとはなく治ってしまった。
今度の病気は、昨年秋からのことだが、前回同様の左三叉神経痛で、痛みは前回以上に激しかった。きれいな唾液が絶えず口の中で滾々と湧くが、痛みのために口も動かせず、呑み込むことも吐くこともできない。
現 在、或る神経痛専門の医者にいろいろと親切に治療してもらっているが、いまだにあまり好転しない。この頃では、頭も痛むし、口唇にちょっとさわっても電気 にでも触れたようにひどく痛む。口は少ししか開かないので、話すことも思うにまかせないし、食事もただ液状のものだけで、固形物は噛むことも飲み込むこと もできない。また、このようになってから、両肩、ことに左がひどく凝るという。
病人は、皮膚、顔面とも蒼白く艶のない水太りの感じである。 脈は沈み気味の小さい弦緊数で、ことに右関上の脈が弱い(脾虚の脈)。右脾兪に圧痛がある。舌は厚い白苔があり、よく湿っている。腹は、診るといつも痛い 痛いと騒ぎ、ことに横臥させると痛みは強くなり、ゆっくり腹診もできない。たた腹壁はやや脂肪と水で膨満し、左下腹部の隅の皮膚がひどく過敏である。小腹急結(桃核承気湯証の腹候)とみた。
そこで手早く、左頬車、左右の列欠などに置針、右脾兪に皮内置針、厥陰兪(両側)に灸を施した。痛みは直ちにやや軽快した。
そして、葛根湯加蒼朮附子(葛根四・五 麻黄二・五 桂枝三・〇 芍薬四・七 甘草二・〇 大棗三・〇 生姜四片 蒼朮五・五 附子一・〇各g)(以上、一日量)を煎剤として与えた。
二日後、やや好転の兆しが出る。薬が効いたのか、針灸が効いたのか明らかではないが、灸をもう少し、両側の陽陵泉、臨泣、胆兪へも増してみた。ところが、かえって悪化してきた。すなわち針灸による刺激が多過ぎたにちがいない。
同じく葛根湯加蒼朮附子を分量比を少し変えて(蒼朮八・二五 附子一・五 生姜五片 葛根七・〇 麻黄四・〇 桂枝五・〇 芍薬七・〇 甘草一・五 大棗四・五各g)を一日量として二週間分を与えておいた。
そ の後、東京からひどく喜びの電父がかかった。さしもの激しい三叉神経痛も、あれ以来漸次鎮静して、この頃ではほとんど普通に食事も話もできるようになっ た。しかし、時にちょっとした拍子にピリリと痛むことがあるとのことである。そこで前方三週間分送ったが、再び、私が東京で診たときは、九分通り以上によ くなっていた。そして次の一ヵ月後は忘れてしまったように治っていた。(東京診療所にて)

〔症例 2〕 右三叉神経痛(女子)
数年前、右頬や軟口蓋、口唇などが痛み、それが頭の方へも放散したことがあった。その後、こんな神経痛が一年に数回起こるのだが、そのつど注射で治る。こん なことで三年前に上の歯を全部抜いてしまったのだが、その後しばらくは痛まなかった。ところが、今年の二月頃、例の痛みが起こり始め、話をしても、上を向 いても寝ても痛む。今度はいろいろと注射をしてもらうのだが、少しもよくならず、近頃ひどくやせてきた。
特徴は、肩がひどく凝ること、食欲はあり、大便は一日一回。睡眠はよい。中背で少し太り気味で、両頬に細絡がつよいので(とくに右側)一見赭ら顔のようである。
脈―沈・小・弦・数、按じて弱。
舌―右奥のところどころに帯黄白色の厚い苔がある。やや湿り気味。
腹―小腹急結の腹候があるほか、特記すべきことはない。
両肩で僧帽筋の上部広範に高度の筋肉の攣急がある。
よって葛根湯加蒼朮附子乳香(葛根七・〇 麻黄四・〇 桂枝五・〇 芍薬七・〇 甘草一・五 大棗四・五 生姜五片 蒼朮八・五 附子一・五 乳香一・六各g)(一日量として一日三回)。桃核承気湯の粒剤一・〇g(一日一回)を兼用として与えた。
一ヵ 月後、たいへんよくなり、痛みも止んだ。その翌年六月末に来たとき、「あれから一ヵ年間は全く痛まなかったが、この二〇日ほど前から、右側の上下の歯齦が 歯もないのに痛みはじめ、前回同様ひどく肩が凝る。しかし、痛みの程度は前回よりはるかに軽いとのこと。再び前方を与えると数週を出ずして治った。
 しかし、その後も前回に懲りて続いて服薬していた。


和漢薬方意辞典 中村謙介著 緑書房
葛根湯加朮附(かっこんとうかじゅつぶ) [本朝経験]

【方意】 寒証による四肢痛・手足冷と、表の水毒による手足のこわばり・尿不利等と、表の寒証による無汗のあるもの。しばしば表の寒証による項背強・悪寒等を伴う。
《太陽病或いは太陰病.実証》
【自他覚症状の病態分類】

寒証 表の水毒 表の実証 表の寒証
主証 ◎四肢痛
◎手足冷
◎こわばり
◎尿不利
◎浮腫
◎無汗
客証


○項背強
 頭痛
 悪寒
 発熱



【脈候】 脈力あり。

【舌候】 

【腹候】


【病位・虚実】 葛根湯証の構成病態の表の寒証が顕著な場合には太陽病であるが、これが明らかではなく、寒証・表の水毒が顕著な場合には太陰病に相当したところで用いる。無汗で脈力があり、実証である。

【構成生薬】 葛根8.0 麻黄4.0 大棗4.0 桂枝3.0 芍薬3.0 甘草2.0 生姜1.0 蒼朮3.0 附子a.q.(0.5)

【方解】 葛根湯に蒼朮・附子を加えたものである。更に茯苓を加えて葛根湯加苓朮附という。茯苓は強心・利尿・鎮痛作用、蒼朮は温性利尿・鎮痛作用、附子は大熱薬で新陳代謝を振興し、利尿・強心・鎮痛作用がある。このため本方は葛根湯証で寒証と水毒が顕著なものとなる。

【方意の幅および応用】
 A 寒証表の水毒:四肢痛・手足痛・こわばり・尿不利・浮腫を目標にする。
   頚腕症候群、肩関節周囲炎、骨髄炎、脳炎、小児四肢痿弱、脊椎カリエス、結核性リンパ腺炎

【参考】 *炎症性疾患ではそのごく初期か、陳旧期に用いる。極期は禁忌である。

求真医談 痛風に附子を用うることは少ないと云ったが、全然使わぬ訳ではない。本病の慢性軽度のものに桂枝加苓朮附湯、葛根加朮附湯を与えて効を収めた経験が多々ある。
 本病が極めて激烈に多発性に来た場合には麻黄杏仁薏苡甘草湯が最も良い。左程急激でなくて、一種名状し難し疼痛があり、殊に起居動作に悩む者には麻黄加朮湯が良い。此の証の者は多く悪天候を予知する程湿気に感じ易い。またその主薬は朮であるが、麻黄杏仁薏苡甘草湯の主薬は薏苡仁であるから、大体之を以て疼痛の性状を推察し得る。痛風の頑固な一例(坐骨神経痛?)は数年前60歳の男子、職業は八百屋、飲食其他は別に常に異ならぬが、ただ左臀部、左大腿部に執拗なる疼痛があり起居に困難を感じ、職業に従事するを得ざるものに、項背筋腰背筋の攣急、及び遅にして軟弱な脈状を目標として葛根加朮附湯(附子5.0)を与え、更に腹証に従って大柴胡湯桃核承気湯(大黄4.0 芒硝4.0)を合用せしめて速効を得た。
湯本一雄 『漢方と漢薬』 1・6・71

※一種名状し難し疼痛? →  一種名伏し難し疼痛?

【症例】 慢性湿疹
 患者は22歳の中学校の教官。3年前から顔面の諸所、項背部に慢性湿疹ができて、諸種の治療を受けたが治癒しない。体格は中等度。二便に著変なく、項背のこわばり、肩凝り、口燥も軽度にある。脈は弦にして、やや弱。舌には乾燥した白苔が中等度にある。腹力は中等度で、右左の腹直筋は中等度に拘攣し、臍傍斜下約2横指の所に中等度の抵抗と圧痛とがある。心下には軽度の振水音を証明する。
 以上により葛根加苓朮附湯の証と認めて7日分を投与。1週間後には湿疹は全体に乾燥して良転してきた。約1ヵ月でほとんど良くなったが完治に至らず、2ヵ月を経た頃には、また少し逆戻りの徴候がみえはじめてきた。そこで瘀血の処置が必要と考えて、桂枝茯苓丸(3g)を兼用した。2週間後にはほぼ根治に至った。
藤平健『漢方通信』5・8

湿疹
 45歳の男性。約半月ほど前から、眼のまわりが痒くなったので、某眼科を訪れたところ、そこでつけてくれたテラマイシンにかぶれ、またたく間に湿疹が眼瞼から顔面全体に広がってきた。皮膚科に転医したが、薬をつければつけるほど悪化し、まぶたも腫れふさがって、物をみることもできなくなってしまった。
 顔面全体が痛がゆい。頭痛がし、わずかながら寒気があり、首の後ろがわずかに凝る。渇はない。患者の顔面全体は一面滲出液と痂皮に覆われ、眼瞼は腫れふさがっている。全体として顔面は紅潮している感じである。
 二便は正常。脈は浮やや緊。舌には乾湿中等度の白苔が中等度。腹力はやや充実。
 以上の自他覚症状から、第1に葛根加苓朮附湯を考えたが、あまりに湿潤がひどいので、まず越婢加朮附湯を試みに1日分を投与してみた。それで眼がやや開けられるようになり、滲出液も減少の傾向を見せはじめた。更に4日分を投与。一時良くなるかにみえたが、顔がこわばるので、オリーブ油を塗ったら、またもとにもどってしまった。そこで、わずかな項背のこわばりを目標として、葛根加苓朮附湯(附子0.3g)1日分を与えてみた。これが良く奏効して、急速に湿疹が乾いてきた。附子を0.5gに増量して、更に2日分を投与。ますます具合良く、眼もすっかり開けられるようになり、湿疹が乾いて、腫れていた顔がひきしまって一まわり小さくなった。前方を更に3日分服して全く治癒した。
藤平健 『漢方臨床ノート・治験篇』 303


『健保適用エキス剤による 漢方診療ハンドブック 第3版』
桑木 崇秀 創元社刊

p.220
②葛根加朮附湯(かっこんかじゅつぶとう)
 桂枝湯から桂枝加朮附湯をつくったように,葛根湯に蒼朮と附子を加えて,葛根加朮附湯として用いることがある。
 葛根湯をより寒証向き,湿証向き,疼痛向きに直したもので,葛根湯を用いたいような人のリウマチや神経痛に用いる。



『健康保険が使える 漢方薬 処方と使い方』
木下繁太朗 新星出版社刊

葛根加朮附湯(かっこんかじゅつぶとう)
 三

どんな人につかうか
 肩や頚部にこりや緊張感があり、冷えや痛みで苦しむ時、悪寒(おかん)発熱する場合などに用い、肩こり、上半身の関節痛、疼痛、五十肩などに応用します。

目標となる症状
 ①頭痛。②肩こり、項背部(こうせぶ)のこりや痛み。③腕の冷えや痛み、手指のこわばり。④悪寒、発熱。⑤冷え、疼痛、しびれ。⑥腹痛。⑦皮膚のかゆみ。⑧化膿。⑨分泌。⑩自然発汗がない。

   葛根湯(かっこんとう)に準じます。


どんな病気に効くか(適応症) 
 悪寒発熱して頭痛があり、項部肩背部に緊張感のあるものの、肩こり肩甲部の神経痛上半身の関節リウマチ、五十肩、筋肉痛、感冒、中耳炎、瘙痒性皮膚疾患(そうようせいひふしっかん)、湿疹(しっしん)。

この薬の処方
 葛根(かっこん)4.0g。麻黄(まおう)、生姜(しょうきょう)、大棗(たいそう)各3.0g。桂枝(けいし)、芍薬(しゃくやく)、甘草(かんぞう)各2.0g。白朮(びゃくじゅつ)3.0g。加工附子1.0g。
 ※葛根湯(かっこんとう)(48頁)に白朮(びゃくじゅつ)、附子(ぶし)を加えたものあるいは桂枝加朮附湯(けいしかじゅつぶとう)(68頁)に葛根(かっこん)、麻黄(まおう)を加えたものに相当する。

この薬の使い方
前記処方を一日分として煎(せん)じてのむ。
サンワ葛根加朮附湯(かっこんかじゅつぶとう)(サンワロンC末)成人一日4.0g。を2~3回に分け、食前又は食間にのむ。

使い方のポイント
 上半身の冷え、痛みを目標に使います。葛根湯では強すぎる、虚証の風邪の初期にも使えます。急性疾患にも慢性疾患にも使えます。胃腸の弱い人には注意して使う。
処方の解説
 葛根(かっこん)芍薬(しゃくやく)甘草(かんぞう)附子(ぶし)は鎮痛作用。生姜(しょうきょう)朮(じゅつ)附子(ぶし)は利尿作用、麻黄(まおう)桂枝(けいし)は発汗作用があります。桂枝加朮附湯(けいしかじゅつぶとう)よりは発汗作用と、首、肩の筋緊張(きんきんちょう)を緩和(かんわ)する力が強くなっています。

『皇漢医学』 湯本求真著 燎原社刊
p.382
葛根加朮湯方
 葛根湯中ニ朮七・〇ヲ加フ

 煎法用法同前
(主治)葛根湯證ニシテ朮ノ證アルモノヲ治ス而シテ此方ヲ「コレラ」病ニ用ユルコトハ既ニ述ベタリ

p.384
葛根加朮附湯方
 葛根加朮湯中ニ附子〇・五以上ヲ加フ
 煎法用法同前
(主治)葛根加朮湯證ニシテ附子ノ證アルモノヲ治ス




【副作用】
重大な副作用と初期症状
1) 偽アルドステロン症: 低カリウム血症、血圧上昇、ナトリウム・体液の貯留、浮腫、体重増加等の偽アルドステロン症があらわれることがあるので、観察(血清カリウム値の測定等) を十分に行い、異常が認められた場合には投与を中止し、カリウム剤の投与等の適切な処置を行う。
2) ミオパシー: 低カリウム血症の結果としてミオパシーがあらわれることがあるので、観察を十分に行い、脱力感、四肢痙攣・麻痺等の異常が認められた場合には投与を中止し、カリウム剤の投与等の適切な処置を行う。
[理由]
 厚生省薬務局長より通知された昭和53年2月13日付薬発第158号「グリチルリチン酸等を含 有する医薬品の取り扱いについて」に基づく。
 [処置方法]  原則的には投与中止により改善するが、血清カリウム値のほか血中アルドステロン・レニ ン活性等の検査を行い、偽アルドステロン症と判定された場合は、症状の種類や程度により適切な治療を行う。低カリウム血症に対しては、カリウム剤の補給等 により電解質 バランスの適正化を行う。

その他の副作用

頻度不明
過敏症注1) 発疹、発赤、瘙痒等
自律神経系 不眠、発汗過多、頻脈、動悸、全身脱力感、精神興奮等
消化器 食欲不振、胃部不快感、悪心、嘔吐等
泌尿器 排尿障害等
その他 のぼせ、舌のしびれ等

注1) このような症状があらわれた場合には投与を中止すること。

2014年7月12日土曜日

桂枝加苓朮附湯(けいしかりょうじゅつぶとう) の 効能・効果 と 副作用

明解漢方処方 西岡 一夫著 ナニワ社刊
p.62
桂枝加朮附湯(けいしかじゅつぶとう) (吉益家方)

 処方内容 桂枝湯に朮四、〇 附子一、〇を加える。

p.63
類方 ①桂枝加苓朮附湯(東洞家方)
 前方に茯苓四、〇を加えた処方で前方の症に動悸と尿量減少がはなはだしくなったときに用いる。この処方内容は苓桂朮甘湯真武湯甘草附子湯などを含んでおり、慢性リウマチで動悸、目眩、身ふるえる場合に用いる他、梅毒の眼病、筋肉痙攣にも応用する。


 漢方精撰百八方 
66.〔方名〕桂枝加朮附湯(けいしかじゅつぶとう)

〔出典〕傷寒論

〔処方〕桂枝、芍薬、大棗、生姜各4.0 甘草2.0 白朮4.0 附子0.5~1.0

〔目標〕自覚的 発汗傾向があって、悪寒し、尿利がしぶり、手足の関節が痛み、或いはその運動が不自由。
他覚的
 脈 浮弱または浮にして軟。
 舌 乾湿中等度の微白苔又は苔なし。
 腹 腹力は中等度以下。

〔かんどころ〕さむけし、汗ばみ、小便しぶり、節々痛んで、手足が不自由。

〔応用〕1.関節リウマチ又は神経痛
2.脳出血後の半身不随
3.関節炎
4.痛風

〔治験〕先哲は本方を脳出血後の半身不随に多用して、よい治験を数多く報告している。確かに本方は脳出血後の半身不随には奏効する場合が多い。しかし陽実証のそれには応ずることが少なく、それには続命湯の応ずる場合が多いように思う。
  私は本方を陽虚証の関節リウマチ或いは神経痛に実に屡々用いる。
  どちらかというと、関節リウマチには桂枝二越婢一加朮附湯、神経痛には本方という傾向がなきにしも非ずではあるが、一概にそうもいえず、かえってとらわれてはいけないようである。
  悪寒とか、発汗傾向とか、尿不利とかは、必ずしも揃って出てくるとは限らないから、全体的に陽虚証で、身体のどこかに疼痛又は運動障害のある場合には、一応本方を試みてみるべきであろう。
  動悸や、尿不利の傾向が更に加わり、又は強まっている時は、茯苓4.0を加えて、桂枝加苓朮附湯として用いるが、このようにして用いる場合の方がむしろ普通である。
  神経痛やリウマチには、あまりに日常多用しすぎて、例を選ぶのにかえって困惑するくらいなので、症例を挙げるのは省略する。                                    
藤平 健




漢方薬の実際知識 東丈夫・村上光太郎著 東洋経済新報社 刊
4 表証
表裏・内外・上中下の項でのべたように、表の部位に表われる症状を表証という。表証では 発熱、悪寒、発汗、無汗、頭痛、身疼痛、項背強痛など の症状を呈する。実証では自然には汗が出ないが、虚証では自然に汗が出ている。したがって、実証には葛根湯(かっこんとう)・麻黄湯(まおうとう)などの 発汗剤を、虚証には桂枝湯(けいしとう)などの止汗剤・解肌剤を用いて、表の変調をととのえる。

〔桂枝加附子湯に朮四を加えたもの。〕
桂枝加附子湯證に、水毒をかねたもので、水毒症状の著明なものに用いられる。したがって、関節の腫痛や尿利減少などを呈する。本方は、貧血、頭痛、気上衝、脱汗、口渇、四肢の麻痺感(屈伸困難)・冷感などを目標とする。

(8) 桂枝加苓朮附湯(けいしかりょうじゅつぶとう)
桂枝加朮附湯に茯苓(ぶくりょう)四を加えたもの〕
桂枝加朮附湯證で、心悸亢進、めまい、尿利減少、筋肉痙攣などを強く訴えるものを目標とする。本方は、苓桂朮甘湯(りょうけいじゅつかんと う)(後出、駆水剤の項参照)、真武湯(しんぶとう)、甘草附子湯(かんぞうぶしとう)(いずれも後出、裏証Ⅱの項参照)などの薬方の加減方としても考え られる。



『健保適用エキス剤による 漢方診療ハンドブック 第3版』
桑木 崇秀 創元社刊


桂枝加朮附湯(けいしかじゅつぶとう)
方剤構成
 桂枝 芍薬 生姜 大棗 甘草 蒼朮 附子

(略)


 本方剤に茯苓を加えたものを桂枝加苓朮附湯(けいしかりょうじゅつぶとう)と言い、ほぼ本方剤と同様に用いられる。茯苓には湿を除く作用とともに鎮静作用もあり、桂枝加朮附湯よりさらにそれらの作用が強化されたと考えればよい。


『漢方医学 Ⅰ 総論・薬方解説篇』 財団法人漢方医学研究所
p.227
桂枝加苓朮附湯(けいしかりょうじゅつぶとう)
■構成
 桂枝4,芍薬4,甘草2,大棗4,生姜4(乾生姜の場合は1),茯苓4,朮1,附子1

■方解
 桂枝加附子湯の加減方に1つである。吉益東洞の創案になるもので,類方に桂枝加朮附湯がある。桂枝加附子湯が冷え症の人の疼痛性疾患や知覚鈍麻に有効なことは前述した通りであるが,この際の附子の薬効の本態については定見を得ていない。東洞は逐水をその本態としたことについては前述したが,これより発展して桂枝加朮附湯に至ったのは『金匱要略』瘙湿喝病篇中の次の条文である。つまり,「傷寒八九日,風湿あいうち,身体疼煩して自ら転側する能わず。嘔せず,渇せず,脈浮虚にして渋なるものは桂枝附子湯これを主る。もし,取便堅く,小便自利する者は去桂加白朮湯これを主る………一服して身の痹れを覚ゆ。半日ばかりにして再服し,三服すべて尽くし,その人冒状の如し。怪しむなかれ。即ちこれ朮附ならびに皮中を直りて水気を追い,未だ除くを得ざるのみ」というのがそれで,これが東洞が附子の薬効の本態を逐水とした根墟ともなっている。桂枝加苓朮附湯は駆水効果をもつ茯苓を加えることによって一層の効果果期待したものであろう。
 また別の眼からみれば桂枝加苓朮附湯は真武湯に桂枝,甘草,大棗三味の加味されたものであり,更に方中に苓桂求甘湯の要素を含むなどより,桂枝加附子湯,桂枝加朮附湯とはやや違ったニュアンスをもっているように思われる。

■応用
 桂枝加附子湯,桂枝加朮附湯二方とほぼ同様の目的に使用される。つまり冷え症,虚弱体質の関節痛神経痛,腰痛,脳卒中後の半身不随などが主要な目標であるが,前述したように真武湯苓桂朮甘湯の要素を含んでいるので,下痢,動悸,めまい等も考慮されよう。これら三方の中では最も広く使われているように思われる。


※瘙湿喝病篇 → 痙湿暍病篇の間違い
苓桂求甘湯 → 苓桂朮甘湯の間違い



『皇漢医学』 湯本求真著 燎原社刊
p.133
桂枝加附子湯方、
桂枝 芍薬 大棗 生姜各七、〇甘草五、〇附子二、五
 煎法用法同前

桂枝加朮附湯
 前方中ニ朮七、〇ヲ加フ
 煎法用法同前

桂枝加苓朮附湯方
 前方ニ茯苓七、〇ヲ加フ
 煎法用法同前

 余曰ク此二方ハ東洞翁ノ創方ナレドモ其實ハ師ノ桂枝加附子湯、桂枝去芍薬加茯苓朮湯ヲ合方セシニ外ナラザレバ本方ニハ勿論此二方ノ精神ヲ宿シ又此二方ノ原方タル桂枝湯ノ方意モ隠レルノミナラズ本方中ニハ茯苓、桂枝、朮、甘草ヲ包含スルガ故ニ苓桂朮甘湯ノ精神ヲ寓シ又茯苓。芍薬、生姜、朮、附子ヲ有スルヲ以テ眞武湯ノ方意ヲモ含蓄ス故ニ本方ハ桂枝湯、桂枝加附子湯、桂枝去借家決加茯苓朮湯、苓桂朮甘湯眞武湯ニ關スル師説及諸説ヲ參照シテ活用スベキモノニシテ之ヲ概括的ニ説明スルハ至難ナリ是レ本方方々意ノ複雜ニシテ臨床上應用範圍ノ廣大ナル所以ナリ。



『phil漢方 No.37』 
処方紹介・臨床のポイント
新宿海上ビル診療所 室賀 一宏 日本TCM 研究所 安井 廣迪
桂枝加苓朮附湯(方機)
組成:桂枝4.0 芍薬4.0 大棗4.0 乾生姜1.0 甘草2.0 朮4.0 茯苓4.0 加工附子0.5~1
主治:陽気不通、寒湿痺
効能:通陽散寒祛湿、止痛

プロフィール
  吉益東洞が『傷寒論』の桂枝加附子湯に朮を加えて桂枝加朮附湯と名づけ、更に茯苓を加えて、その適応症を「湿家、眼目明らかならざる者、或は耳聾、或は肉 瞤筋愓する者、桂枝加苓朮附湯之を主る」(『方機』)と述べたものが、すなわち本方である。東洞の常用処方であり、後に尾台榕堂もこの処方を多用した。湯本求真は桂枝加朮附湯ではなくこの桂枝加苓朮附湯のみを用いると記し(『皇漢医学』)、その中には苓桂朮甘湯真武湯の方意をも含蓄すると述べている。浅田宗伯が本方を用いてフランス公使レオン・ロッシュを治療した有名な逸話がある(『橘窓書影』)。医療用漢方製剤には桂枝加朮附湯と桂枝加苓朮附湯がともに存在し、同じように使用されている。

方解
  本方は、基本骨格は桂枝湯であるが、基本的には寒湿痺を治療する処方である。桂枝湯は営衛を調和して風寒邪の侵襲を防御し、同時に配剤された附子の散寒温 通の作用を加えて陽気と血を温通させ、寒が主たる原因で生じた疼痛や痺れを改善する。蒼朮は祛風湿し、茯苓は利水によって寒湿の邪を外泄する。芍薬は関節 痛、筋肉痛に対して緩急止痛に働き、甘草、大棗、生姜は中焦を鼓舞する。生姜には附子の散寒作用を増強する働きもある。

四診上の特徴
  本方に関する四診上の特徴を述べた記載は少ない。長谷川らはその使用目標について、「本方は、比較的体力が低下し、四肢冷感を訴える例の、四肢関節の疼 痛・腫脹、筋肉痛、麻痺、しびれ感などを目標に用いる。腹部は、一般に腹力が弱く、時に心窩部振水音、腹直筋の緊張を認める。一般に、関節痛・筋肉痛(寒 冷により増悪)のほか、微熱、盗汗、手足のこわばり、浮腫などを伴う」と述べている。
 尾台榕堂は、「心悸、目眩、身瞤動者」には、桂枝加朮附湯に茯苓を加味して桂枝加苓朮附湯として用いるように指示している。これは、苓桂朮甘湯もしくは真武湯の方意を反映させたもので、眩暈、立ちくらみ、労作時の動悸などを伴う場合のあることを示唆している。

臨床応用
  適応疾患は、関節痛、神経痛、筋肉痛など疼痛性疾患と、麻痺やしびれを呈する疾患である。関節リウマチ、肋間神経痛、上腕神経痛、三叉神経痛、肩関節周囲 炎、諸種の関節痛ならびに筋肉痛、腰痛症、変形性膝関節症、脳卒中後遺症などに用いられる。花輪は、交通事故外傷、むちうち症、リウマチ、神経痛などで 「冷えると古傷が疼く」ものに有用で、「胃腸にやさしい鎮痛剤」と記載している。しかし、初期でも病態が合えば使用可能である。

関節リウマチ(RA)
 桂枝加朮附湯、桂枝加苓朮附湯は、RAの代表的治療薬の一つとして用いられてきた。これまでの報告では、主にStageⅠ・Ⅱの比較的関節変化の少ない患者が対象であり、関節の腫脹、熱感が軽い場合に適応となるとされている。
  谷崎らは、classical又はdefinite RAと診断されプロトコールを満たした36例に桂枝加朮附湯を投与し、4、8、12週ごとに臨床症状などを評価した結果、12週投与した27例中14例 (51.9%)に明らかな臨床効果が認められたと報告している。投与対象は関節の腫脹・疼痛のみられる比較的活動性の高い症例であった。
  Imadayaらは95例のRAに対し漢方治療を行い、ランスバリー指数により判定を行ったところ、68%の有効率であった。有効処方は桂芍知母湯、桂枝加苓朮附湯、桂枝二越婢一湯の順で有効であり、全体の94%を占めていた。特に桂枝加苓朮附湯は発病初期の活動性の高い症例に有効であったと報告してい る。
 同様に古田らは、活動性の高い36例のRAに対し随証治療を行い、14例で桂枝加苓朮附湯を使用した。うち8例が有効であり、単独投 与は6/8例で有効であった。また松多は52例のRA患者で、桂枝加苓朮附湯または桂枝加朮附湯のみで2ヵ月経過を診た患者に対し、各種DMARDを追加 して治療効果を検討したところ、金製剤との併用が効果的であったと報告している。
 安田らもclassical又はdefinite RAと診断されて治療中の患者に対し、「手足の冷え」を主要項目とし、「手足の痺れ」、「四肢の腫脹」、「自然発汗」、「尿量減少」がみられた症例に桂枝加苓朮附湯を投与した。その結果、全般改善度でやや改善以上の効果がみられた割合は7/13例(53.8%)であり、特に「手足の冷え」がみられた場合に有効であったと述べている。

変形性膝関節症
  高岸は27名に桂枝加朮附湯を用いた結果、全般改善度は著明改善1例、中等度改善11例、軽度改善10例で中等度改善以上は44%であったと述べている。 患者自身の評価では「良くなった以上」は48.1%、「やや良くなった以上」は81.5%であった。さらに、高齢者になるにしたがい、「改善以上」の比率 が上昇したと報告している。

腰下肢痛(骨粗鬆症を含む)
  大竹は、腰痛症の治療結果をまとめた報告で、桂枝加朮附湯は変形性腰椎症より骨粗鬆症に伴う痛みに有効なことが多いと述べている。その中で、骨粗鬆症患者 では小腹不仁などの腎虚の兆候が少なかったと報告している。さらに、非ステロイド系消炎鎮痛剤(NSAID)との治療効果を比較したとこ
ろ、投与4週目ではNSAID投与群と桂枝加朮附湯を中心とした漢方治療群で治療効果に差を認めなかったが、12週後では有意に漢方治療群で痛みが軽減していた。さらに、骨量(骨皮質幅・MCI)と骨密度の推移をDIP法とm-BMD法で9ヵ月間追跡したところ、無治療群と比較し有意に増加していた。
 さらに、骨粗鬆症治療薬のイプリフラボン、NSAID、桂枝加朮附湯をそれぞれ投与した3 群でMCI の変化を9ヵ月間追跡した結果、桂枝加朮附湯とNSAID では同様な鎮痛効果を示したがNSAID 投与群では骨量が維持されなかった。桂枝加朮附湯ではイプリフラボンと同等な骨量維持効果を認めた
た め、桂枝加朮附湯は単に疼痛改善のみならず骨代謝に直接影響している可能性が示唆された。また、骨代謝マーカー(Osteocalcin、intact- Osteocalcin、ALPⅢ)の変動があるか否かをDXAでの骨量測定(BMD)と同時に行った結果、ALPⅢは3ヵ月で有意に低下し、BMDは 6ヵ月後には有意に増加した。またいずれの骨代謝マーカーにおいても、初期に明らかに高値で高回転を示した症例においては、3ヵ月後に低下していた。よっ て、特に高回転型と思われる骨粗鬆症に対し桂枝加朮附湯は骨代謝を抑制したと考えられる。
 田北はビタミンD製剤と桂枝加朮附湯を併用することにより、煎じ薬では骨密度を増加させ、エキス剤の場合には低下させないと報告している。
 佐々木らは腰椎変性疾患で疼痛を訴えている20例に桂枝加苓朮附湯を用いたところ、著効2例、有効9例、やや有効4例、無効5例であったと報告している。

帯状疱疹後神経痛(PHN)
  本方は帯状疱疹の急性期よりも、その後に生じるPHNに対して使用される機会が多く、特に胸神経領域に頻用される。菅谷らは、PHNに対する桂枝加朮附湯 の効果を検討した。27例の投与群と30例の非投与群に対し、10段階の疼痛スコアで評価した結果、開始時が10として、1ヵ月後で投与群が 7.33±1.3、非投与群が7.87±1.1(p<0 .05="" 7.16="" p=""> また、里村らは、体力に乏しく筋肉の緊張が弱く冷え症など 虚証タイプで、発症1ヵ月以上経過した48~89歳のPHN患者40名に対し、神経ブロックの補助療法として桂枝加朮附湯を投与した。その結果、1ヵ月後 で有効以上34例(85%)、3ヵ月後は36例(90%)で、胸神経領域に比較し三叉神経第1枝領域では不変の割合が高かったと述べている。
 白藤は、PHNの部位と有効処方の関係を考察し四肢末梢の寒湿性疼痛を訴える場合に桂枝加朮附湯を用いると効果的であると述べている。

三叉神経痛及び顎・顔面痛
  堀江らは、虚証を呈する三叉神経痛の患者5例に対しカルバマゼピンと桂枝加朮附湯を併用したところ疼痛の改善を認め、3例ではカルバマゼピンを中止できた と報告している。神野らは、虚証あるいは虚実中間証で冷えを有する根管治療後疼痛7例、非定型顔面痛6例、三叉神経痛2例、顎関節症1例の計16例に、桂枝加朮附湯を投与し効果を検討した。その結果、各疾患で著効、有効を合わせた有効率はそれぞれ6/7例、1/6例、1/2例、1/1例で、全体として 56.2%であった。この他、複合性局所疼痛症候群(カウザルギー)や放射線治療後などの疼痛、上眼窩神経炎などにも有効であったと報告がある。

脳血管障害後遺症
 吉益東洞は脳卒中の後遺症(半身麻痺など)に本方をしばしば用いた。尾台榕堂にも著効を示した症例報告がある。大塚は、7ヵ月前に脳出血を発症した半身不随の65歳の男性に対して効果のあった興味深い症例を記している。
 脳血管疾患の後遺症、特にしびれや痛みに対して本方を使用した報告がいくつかみられる。佐々木らは桂枝加苓朮附湯を被核出血の後遺症に、後藤らは桂枝加苓朮附湯及び桂枝加朮附湯を視床痛の症例に用いて効果を得たと報告している。

その他
 赤澤は、糖尿病性神経障害による痛みやしびれを訴える50例に対し桂枝加朮附湯を投与したところ、著効34%、有効30%、改善30%、やや改善6%であったと報告している。
 また、城石らは八味地黄丸がしびれや冷感に対して70~80%の効果であるが、桂枝加朮附湯は冷感に対して62.5%、疼痛に対して50%の効果があることを報告している。
  関矢らは、クローン病、下痢を伴う直腸癌術後の吻合部からの出血、急性腸炎の下痢、チョコレート嚢胞による生理痛に、目眩と腹痛・腹満の5例において効果 を得たと述べている。これらの症例では腹直筋の緊張がみられ、桂枝加苓朮附湯を桂枝加芍薬湯真武湯または苓桂朮甘湯の合方と解釈して用いると応用が広がる可能性を示唆している。
 また渡辺らは、サルコイドーシスの患者5例において、四肢冷感や関節痛、しびれなどを目標に用いて、症状の改善と同時にACEやsIL-2受容体などの検査成績も改善したとしている。



誌上漢方講座 症状と治療
 生薬の配剤から見た漢方処方解説(3) 村上光太郎
 6.附子について
 附子は新陳代謝機能を復興ないし亢進させる生薬であるため、実証の人に用いることはできない生薬であり、もし誤って使用すれば死をまねくのに対し、虚寒証の人に用いれば驚くほどの効果が認められる。従ってその効果を期待して繁用されている生薬ではあるが、その組み合わせの事を知らずに使用して、虚寒証の人に用いているのにかえって害を生じたり、無効であったりの例が繁々見られる。というのも、附子は単独で用いるものではなく、他の生薬と配剤して附子の作用を選択的に要所要所に効かせる工夫をしなければならないことをわすれているからにほかならない。
 すなわち附子を表に行く生薬(例、麻黄、葛根、桂枝、防風)と共に用いると、附子の作用は表に誘導されて、表の組織を温め、表の新陳代謝機能を亢める働きとなっているが、附子を半表半裏ないし裏に行く生薬(例、黄連、黄芩、乾姜、人参、茯苓)と共に用いると、附子の作用は半表半裏から裏に誘導されて内臓諸器管の新陳代謝機能を亢めるようになる。ところが附子を全身(表、半表半裏、裏)に行く生薬(例、防已、細辛、白朮、芍薬)と共に用いれば附子の作用は全身に誘導される。しかしこの様に全身に誘導される場合は、前二者に比べて附子の作用は弱くなって、新陳代謝の賦活という面よりも水毒症状を治功という作用に変わってしまう。また附子を食道、咽部、胸部に行く生薬(例、半夏、梔子)と共に用いると附子の作用は食道、咽部、胸部に誘導され、食道、咽部、胸部の新陳代謝機能を亢めるようになる。
 これを実際に桂枝湯の加減方にあてて見ると更によく理解できる。すなわち桂枝湯に附子を加えた桂枝加附子湯では、附子の作用は桂枝によって表に誘導されると共に、芍薬によって全身に誘導される。しかし全身に誘導されると作用は弱くなるため、主に表、即ち筋肉の部位に達し、麻痺、刺激、温補作用を示すようになり(関節の部位にも少し働く)、四肢痙攣、運動障害、麻痺、小便難などを治すようになる。また桂枝湯から芍薬を除いて附子を加えた桂枝附子湯では附子は桂枝によって表に誘導されるだけであるため、表証があり、裏に邪のないもの、関節に痛みなく、ただ筋肉が痛むだけのものに用いる薬方となっている。桂枝湯に白朮と附子とを加えた桂枝加朮附湯は、附子の作用を表に誘導する桂枝と、全身に誘導する芍薬、白朮がある。全身に誘導するものが、このように多くなれば表のみならず全身に効くようになるため、筋肉だけでなく、関節にも効くようになる。従って水毒症状が著明となり、四肢の麻痺、屈伸困難、尿利減少などに用いる。この桂枝加朮附湯に更に茯苓を加えたものが、桂枝加苓朮附湯である。本方には附子の作用を表に誘導する桂枝と、半表半裏から裏に誘導する茯苓と、全身に誘導する芍薬、白朮があるため、結局、附子は全身に働き、水毒症状を除く作用にしかなりえず、心悸亢進、めまい、筋肉の痙攣(茯苓と桂枝と甘草の組み合わせの薬効の増強)、尿利減少(桂枝と白朮の組み合わせの薬効の増強)などのみとなる。ところが、この桂枝加苓朮附湯より桂枝、大棗、甘草を除いたものは真武湯(茯苓、芍薬、生姜、白朮、附子)で本方には附子の作用を半表半裏から裏に誘導する茯苓と、全身に誘導する芍薬、白朮があるため、全身にも誘導されるが、多くは半表半裏から裏に誘導され、内臓諸器管の新陳代謝機能を亢めるように働く。従って本方と桂枝加朮附湯とは表裏の関係にある薬方であることがわかる。
 葛根加朮附湯葛根湯に白朮と附子を加えたもので、附子の作用を表に誘導する葛根、麻黄、桂枝と、全身に誘導する芍薬、白朮があるが、表に誘導するものが多いため、主に表の新陳代謝機能を亢めるように働いている。甘草附子湯(桂枝、白朮、甘草、附子)や麻黄細辛附子湯(麻黄、細辛、附子)では表に誘導するものと、全身に誘導するものが一つずつ含まれているため、主に表に働き、筋肉の痛みなどを治すが、関節にも少し働く。真武湯と附子湯(茯苓、芍薬、白朮、人参、附子)とを比べると生姜と人参が入れ替わっているにすぎない。この生姜は胃内停水を除くが、人参は全身の水の偏調を調えるように働く。しかしそれ以上に大切な事は、真武湯では附子の作用を半表半裏から裏に誘導するものは茯苓のみで、全身に誘導するものは芍薬と白朮があるが、附子湯を見ると、附子の作用を半表半裏から裏に誘導するものが茯苓と人参の二種となり、全身に誘導するものは真武湯と同じ芍薬と白朮であるため、附子湯の方が半表半裏から裏の新陳代謝機能を亢める作用が強く、虚証の薬方である事がわかる。附子理中湯人参湯加附子〕(人参、白朮、甘草、乾姜、附子)は附子の作用を半表半裏から裏に誘導する人参、乾姜と、全身に誘導する白朮があるため、ほとん選;内臓諸器管の新陳代謝機能を亢めるように働く。四逆湯(甘草、乾姜、附子)も同様に半表半裏ないし裏に効く。しかし本方と前方は附子と乾姜の組み合わせとなるため、新陳代謝を亢める作用は相乗的に亢まるため、非常に虚証(虚寒証)に用いる薬方となっている。利膈湯(半夏、梔子、附子)では、附子の作用は半夏、梔子によって食道、咽部、胸部に誘導されるため、咽喉が塞って嚥下困難をきたし、嘔吐、粘痰を吐し、口渇を訴えるものに用いる薬方であることがわかる。
 以上の様に附子を配剤した場合には、虚実を注意することは勿論、附子がどこに効いているかを常に考えながら使用しなければとんでもない事になるのはまれではない。例えば当帰芍薬散(当帰、芍薬、川芎、茯苓、白朮、沢瀉)を服用している婦人があったとする。この人が、冷えが強く、新陳代謝機能もおとろえているというので附子を加えたとすれば、附子の作用を全身に誘導する芍薬、白朮と、半表半裏から裏に誘導する茯苓があるため、附子は多くは半表半裏から裏に作用し、その部位の新陳代謝機能を亢め、冷えを除くように働く。普通の場合はこれでよいのであるが、もしこの婦人が妊婦であったならどうであろうか。胎児の位置は裏位であるので、附子の作用は胎児にも強く作用する。しかしいくら母親が虚証であっても、胎児は新陳代謝の盛んな実証であるため、実証に附子を与えることになり、危険である。このような事は、附子の温補作用のみに注意し、その作用する位置を考えなかったために起こる問題であり、よく注意しなければならない。また、冷えが強く、手が真白く、ロウのようになった時に、附子の効く位置の事を考えず温補作用のみ考え、すぐ真武湯をと考える傾向があるが、これなども半表半裏から裏に強い寒があるのなら真武湯を用いてもよいが、それほど強くない場合は附子の作用を表に誘導して表を温め、表の新陳代謝機能を亢めるようにすべきであることは今さら言うに及ばないことであろう。

※内臓諸器管? 内臓諸器官では
※一般的には、桂枝加朮附湯の駆水作用を強めたものが桂枝加苓朮附湯と言われ、ほぼ同じように使われていますが、上記のように、村上光太郎先生は、桂枝加附子湯と桂枝加苓朮附湯は全く異なるものとされています。村上先生の理論では、桂枝加苓朮附湯は、関節リウマチなどの関節に対する症状に対しては、効果が期待できないことになります。



副作用
 本剤は使用成績調査等の副作用発現頻度が明確となる調査を実施していないため、発現頻度は不明である。

a 重大な副作用
1) 偽アルドステロン症 :低カリウム血症、血圧上昇、 ナトリウム・体液の貯留、浮腫、体重増 加等の偽アルドステロン症があらわ  れることがあるので、観察(血清カリ ウム値の測定等)を十分に行い、異常 が認められた場合には投与を中止  し、カリウム剤の投与等の適切な処置を行うこと。

2) ミオパシー :低カリウム血症の結果としてミオパシーがあらわれることがあるので、観察を十分に行い、脱力感、四肢痙攣・麻痺等の異常が認められた場合には投与を中止し、カリウム剤の投与等の適切な処置を行うこと。


その他の副作用

頻度不明
過敏症注1) 発疹、発赤、瘙痒等
その他 心悸亢進、のぼせ、舌のしびれ、悪心等
注1)このような症状があらわれた場合には投与を中止すること。