健康情報: 当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん) の 効能 と 副作用

2011年5月31日火曜日

当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん) の 効能 と 副作用

漢方診療の實際』 大塚敬節 矢数道明 清水藤太郎共著 南山堂刊
当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)
 当帰 川芎各三・ 芍薬 茯苓 朮 沢瀉各四・

  本方は元来婦人の腹痛に用いるべき方剤であるが、婦人に拘わらず、男子にもまた用いられる。即ちその目標とする處は、男女老若を問わず、貧血の傾向があ り、腰脚が冷え易く、頭冒・頭重・小便頻数を訴え、時に目眩・肩凝り・耳鳴・動悸のある事がある。筋肉は一体に軟弱で女性的であり、疲労し易く、腹痛は下 腹部に起り、腰部或は心下に波及することがあるが、腹痛がなくても本方を用いてよい。ただし、悪心・嘔吐のある者には用いない。此方は当帰・川芎・茯苓・ 白朮・芍薬・沢瀉の六味からなり、当帰・川芎・芍薬と伍して、貧血を治して、血行をよくし、茯苓・白朮・沢瀉と伍して、目眩・頭冒・頭重・動悸等を治し、 且つ尿利を調整する。



『漢方精撰百八方』
44.〔方名〕当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)
〔出典〕金匱要略
〔処方〕当帰2.0 芍薬6.0 茯苓、白朮各3.0 沢瀉5.0 川芎2.0
〔目標〕証には、婦人妊娠して、腹痛し、小便少なく、冒眩し、手足寒冷なる者、とある。
 しかし一般には、妊娠に関係なく、男女ともに、瘀血症状のあるもので、陰虚証に属していて且つ水毒症状を帯びるものに適用される。
 即ち、貧血、手足寒冷、小便不利、或いは頻数、心悸亢進k眩暈、頭重、腹痛、軽度の浮腫があり、左腹直筋の攀急するものに適用される。女子では帯下、子宮出血がある。
 左腹直筋の攀急があるといっても、腹力は桂枝茯苓丸証よりは虚していて、時には腹直筋の攀急が認められず、腹全体が軟弱な場合にも適用される。実際には本方証と桂枝茯苓丸証と区別しにくい場合もあるが、本方証は症状が沈滞的傾向を帯び、桂枝茯苓丸証は、より流動的で、上衝傾向が強いように思う。
〔かんどころ〕いわゆる瘀血の臍傍の圧痛点の存在、出血傾向、鬱血傾向等の瘀血症状があり、更に浮腫、尿利異状、心悸亢進、眩暈等のある陰虚証のものに適用される。
〔応用〕駆瘀血剤としては、桂枝茯苓丸と共に最も頻用される薬方である。特に婦人の虚状を帯びた瘀血症状にはよく用いられる。また柴胡剤との兼用、合方でもよく使われる。大柴胡湯と合方するような場合もあるが、この場合は、水毒症状を兼ねた瘀血症状を目標として用いるので、必ずしも虚状が著明とはかぎらない。兎に角、応用範囲の広い薬方である。
(1)妊婦の腹痛で、下腹部が攀急し、尿利が減少するもの。妊娠中毒症の傾向があり、浮腫があるもの。
(2)産後で、眩暈、貧血、四肢寒冷、軽度浮腫、尿利減少するもの。
(3)出産時、弛緩性出血が強いものに、出産前数週間本方を連用する。習慣性流産。
(4)平常、手足に冷感を覚え、頭重、眩暈、子宮出血、月経異状があるもの、月経はどちらかと言えば早くなりがちで、量が多い傾向である。その点桂枝茯苓丸証はその反対の傾向にあると思われる。
(5)痔疾で出血を伴うもの、便秘の傾向が在れば加大黄にする。 伊藤清夫


漢方薬の実際知識』 東丈夫・村上光太郎著 東洋経済新報社 刊
3 駆瘀血剤
 
  駆瘀血剤は、種々の瘀血症状を呈する人に使われる。瘀血症状は、実証 では便秘とともに現われる場合が多く、瘀血の確認はかんたんで、小腹急結 によっても知ることができるが、虚証ではかなり困難な場合がある。駆瘀血剤は体質改善薬としても用いられるが、服用期間はかなり長くなる傾向がある。
駆瘀血剤の適応疾患は、月経異常、血の道、産前産後の諸病その他の婦人科系疾患、皮下出血、血栓症、動脈硬化症などがある。駆瘀血剤の中で、 抵当湯(ていとうとう)・抵当丸は陳旧性の瘀血に用いられる。当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)は瘀血の証と水毒の証をかねそなえたものであり、加味逍遙散はさらに柴胡剤、順気剤の証をかねそなえたものである。

4 当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん) (金匱要略)
 〔当帰(とうき)、川芎(せんきゅう)各三、芍薬(しゃくやく)、茯苓(ぶくりょう)、朮(じゅつ)、沢瀉(たくしゃ)各四〕
  本方は、虚証の循環障害に用いられるもので、駆瘀血剤と駆水剤の作用をかねそなえている。虚証であるために、瘀血の腹証である小腹急結も下腹 痛としてしか認めることができない。しかし、下腹痛は激しく、劇痛を訴えることが多い。また、種々の神経症状をも訴える。したがって、貧血、全身倦怠感、 頭痛、頭重、めまい、肩こり、耳鳴り、不眠、心悸亢進、腹痛、腰脚の冷え、月経不順などを目標とする。本方は胃腸を害することがあるので、胃腸の弱い人に は、柴胡剤などと合方する。本方は妊娠期間中に服用すると、妊娠腎、悪阻その他の妊娠時の各種疾患を軽減し、出産も軽く、新生児も健康である。
 〔応用〕
 駆瘀血剤であるために、大黄牡丹皮湯や桃核承気湯のところで示したような疾患に、当帰芍薬散を呈するものが多い。
 その他
 一 リウマチ、半身不随その他の運動器系疾患。
 一 そのほか、神経痛、脚気、腺病質など。




《資料》よりよい漢方治療のために 増補改訂版 重要漢方処方解説口訣集』 中日漢方研究会
54.当帰芍薬散 金匱要略
当帰3.0 桂枝,茯苓,牡丹皮,桃仁,芍薬,各等分右煉蜜にて丸となし,1日量3.0を用う。1日3回

(金匱要略)
○婦人宿有癥病,経断未及三月,而得漏下不止,胎動在臍上者,為癥痼害妊娠,六月動者,前三月経水利時胎也,下血者,後断三月衃也,所以血不止者,其癥不去故也,当下其癥,本方主之(妊娠)

現代漢方治療の指針〉 薬学の友社
 貧血冷え症で下眼瞼が貧血して眼の周辺に薄黒いクマドリが出て,頭重,めまい,肩こり,動悸などがあって,排尿回数多く尿量減少し咽喉がかわくもの。あるいは冷えて下腹部に圧痛を認めるかまたは痛みがあるもの。
 本方は男女を問わず筋肉骨格共に軟弱で血行障碍に起因する貧血冷え症の人の体質改善薬であり,長期間連用することにより身体を温め血色を良くし肌を美しくするので,内服美容薬としても有名である。にきび,しみ取りには本方に薏苡仁を加える。また長期服用により往々不妊症を治すこともあるか台,本方と小柴胡湯との合方を妊娠中に常用すれば流産,早産,妊娠腎を予防し,特に出産予定前3ヵ月にわたりこの合方を服用するとお産を軽くし,産後の肥立ちもよくし,健康な新生児が得られる。またこの合方にどくだみを併用しておけば通常胎毒といわれる新生児の湿疹を防止できる。本方は虚弱な婦人に多い自律神経不安定症にもよく用いられるが,胸内苦悶があって胸部または腹部の動悸が著しくのぼせる場合は柴胡桂枝乾姜湯が 咽喉に異物感があって,から咳をして神経衰弱が甚だしい場合は半夏厚朴湯が適する。また婦人や卒中体質でないものの高血圧症であまり血圧は高くなく,めまいや立ちくらみがひどく,尿意頻繁な症状には本方と苓桂朮甘湯との合方を用いることが多い。本方適応症状で便秘する場合は大黄1回0.3乃至0.5グラム加えるとよい。本方服用後のぼせて便秘する時三黄瀉心湯を投与するかあるいは桂枝茯苓丸に転方すべきである。本方適応症状であるにも拘らずしばしば見られる副作用は胃腸障碍であるから胃腸の虚弱な人に投与する際には小柴胡湯と合方するか,補中益気湯あるいは柴胡桂枝干姜湯の応用を考慮すること。本方服用後悪心嘔吐,胃痛,下痢などをもよおす場合は安中散,五苓散,小柴胡湯,半夏厚朴湯,半夏瀉心湯のうち適当な処方で治療すれば良い。

漢方治療30年〉 大塚 敬節先生
○当帰芍薬散は妊娠中の腹痛,婦人科的疾患の腹痛に用いるばかりでなく,冷え症で,血色がすぐれず,頭重,めまい,動悸,肩こりなどを訴えるものにも用いる。男女ともに用いてよい。
○妊娠中の諸種の障害を予防する意味で,この方を内服せしめる場合がある。いつも早期破水で胎児が死亡してそだたない婦人に妊娠3ヵ月頃よりこの方を内服せしめたところ,予定日よりおくれて丈夫な男児を無事に分娩した。妊娠するたびに腎臓炎を起す患者に,妊娠と判明すると同時に,この方を内服せしめて腎臓炎を予防することに成功して無事に分娩を終った例もある。
○当帰芍薬散は元来,粉末にして酒でのむことになっているが,水でせんじてのんでもよい。胃の弱い人には,煎じてのんだ方が胃にもたれなくてよい。

漢方治療の実際〉 大塚 敬節先生
○筆者の恩師湯本求真翁はすべての慢性病に必ず桂枝茯苓丸か当帰芍薬散を用いた。例えば大柴胡湯合桂枝茯苓丸とか小柴胡湯加当帰芍薬散というふうにしていた。先生によれば慢性病はすべて瘀血に関係があるからこれを治するには瘀血を治する方剤を必ず用いなければならないというのであった。桂枝茯苓丸と当帰芍薬散との使用上の区別を先生は次のように話された。筋肉が軟弱で,しまりがわるく,血色のすぐれない貧血の傾向があるものに用いる。当帰芍薬散は貧血性瘀血を治する効がある。美人には当帰芍薬散の証が多い。私は先生に説に暗示を得て,当帰芍薬散の目標を次のように定めた。当帰芍薬散の目標は男女老若を問わず,貧血の傾向があり,腰脚が冷えることがある。筋肉は一体に軟弱で,女性的であり,疲労しやすく,腹痛は下腹部に起り,腰部或は心下に波及することがあるが腹痛がなくても本方を用いてよい。

漢方処方応用の実際〉 山田 光胤先生
○痩せ型で貧血ぎみの婦人,手足や腰脚が冷え,脈も腹部も緊張が弱く,頭重感,頭痛,めまい,肩こり,動悸,耳鳴,腰痛,などを訴え,疲れやすいもの,月経不順や月経困難があるもの。
○当帰芍薬散の古典の指示は,婦人懐妊(妊娠)腹中㽲痛(こわばり矢む)するには当帰芍薬散之を主る。ただし実際には,妊娠中に限らず広く女子の病気に用いられる。また男子に用いることもある。
○当帰芍薬散の腹証は多くの場合軟弱無力で,心下部に振水音をみとめることも少なくない。またときには下腹部が自覚的に冷え,他覚的には冷たいことをみとめることがある。
○胃弱の人で,当帰,川芎,が胃にもたれるものがある。こういうとき,わたしは当帰,川芎の分量を減らしたり,更に人参湯を合方したりして用いる。
○<類聚方広義> 妊娠中や産後,下痢腹痛,尿利減少,腰脚麻痺脱力,或は眼が赤くなって痛むもの。もしくは下痢が止まずさむけがするものには附子を加え,また下痢しないで便秘するものには大黄を加える。
○脱肛 百疢一貫に男子の脱肛で時々糸のように出血し,卒倒して後で腹が痛むものに本方を用いてよくなったとある。
○歯痛がひどくて,水でも湯でもしみて痛むものによいということが鍼術秘要と古家方則にある。
○証治摘要 婦人が月経のさいやお産の前後に軽い頭痛のおきるときは本方に香附子散を兼用する。
○打撲,驚愕,急に力業をしたあとなどで,気の凝ったときは,さむけも熱もなく呼吸が促迫し,胸が痛むことが多い。腹診すると右胸脇より心胸中に攣急して痛むものである。これは水血凝結(体液や血液のめぐりわるい)した実証のものである。しかしこれは下痢の症ではないから,当帰芍薬散がよいということが古訓医伝にあるので参考にされたい。
○内科秘録 帯下,婦人が稀薄な帯下があって,いつも卵の白身のようなものを下し,ひどいときは下着を潤すほどにある。しかし臭気も痛みもない。種々と治療しても止まず,若い時は多いが年をとると減少する。また月経が終ると薄い水のような帯下があり,一生こういうことが続く者がある。このような水様の帯下のある人はほとんど不妊症で,これを白淫という。このようなときにはみな当帰芍薬散がよい。
○古家方則
 ①関節炎,膝関節が痛む人が,常に疝によって小腹(下腹)が攣急するとき。
 ②流産,常習性の流産には当芍散と人参湯煉丹を兼用するとよいと書いてある。
  ただし患者は当帰芍薬散だけで習慣性流産にしばしば効果を得ている。
  また冷え症で胃腸の弱い婦人に人参湯の合方がよいことも経験している。
 ③耳疾患,耳漏が多く,難聴気味のものによい。
  方中に猪苓を等分加えて,散とし食後酒で服用し,1日3回用いる。


漢方診療の実際〉 大塚,矢数,清水 三先生
 本方は元来,婦人の腹痛に用いるべき方剤であるが,婦人に拘わらず,男子にもまた用いられる。即ちその目標とする処は,男女老若を問わず,貧血の傾向があり,腰脚が冷え易く,頭冒,頭重,小便頻数を訴え,時に目眩,肩凝り,耳鳴,動悸のある事がある。筋肉は一体に軟弱で女性的であり,疲労し易く,腹痛は下腹部に起り,腰部或は心下に波及することがあるが,腹痛がなくても本方を用いてよい。(中略)本方の運用は頗る広く,婦人妊娠中の諸種の障害を未然に防ぎ,産後の肥立をよくする効がある。また月経痛,及びその他の婦人科的諸疾患に応用する場合が多い。その他慢性腎炎,半身不随症,軽症の心臓弁膜症,脚気等にも用いられる。


漢方入門講座〉 竜野 一雄先生
 (構成) 当帰,川芎は循環障害(血証)茯苓,白朮,沢瀉は水分代謝障害(水証),芍薬は補力の薬だから,この処方は血水証で,しかも虚証に行くものだと見当がつく。そのうち血証は下腹部に,水証は心下部に病変の主体がある。そして虚の状態において,水血が相互に関係しながら全身的な症状を呈してくるものである。
 運用 1. 虚証,貧血性,冷え性の人の神経症状を目標にする。
 疲労倦怠性で無気力,眩暈,耳鳴,肩の凝り,頭痛,頭重,心悸亢進,不眠症を訴える男子でも女子でもかまわない。この場合局所に拘泥せず全身的な体質を狙った方がよい。事実この処方は,ある意味では体質改善薬であり,その意味では病にかかるのを予防するともいえよう。なぜならそういう体質の素地の下に発病しやすい条件がえられるからである。当帰芍薬散証の人は熟練すれば一目で大体見当がつくもので,第一血色が悪い。決して赤ら顔ではない。それもただ貧血して色が生白いというのではなく,蒼味がかり,何となく黒味を帯びているような血色で,しかも色艶がない。艶々しいなどは有り得ない。そうしてやや乾燥気味でありながら水っぽいようなたるんだ肌である。つまり皮下に水気を帯びて,そのために血のめぐりが悪く,締りがなくてたるんでいるような肌をしている。冷え性であることは時候につり合わない厚着をしていたり,襟元をきつくし,あるいは時々襟を合わせるような仕草をしたり,夏でも足袋をはいていたり,冬は足袋カバーをしていたり,衣服をしっかり身につける風で,和服なら襟を見れば重ね着していることが直ぐ判り,春ならいつまでも冬仕度のままだし,秋なら早くも冬仕度という次第。冬なら手をこすったり,火鉢が置いてあればそれを抱えるようにして手をかざし,手をこすり合わせる。もちろん風に当ることを好まないから窓や襖を締め切りたがる。夏なら扇風機の当る所は好まない。虚証であることは何となく活気がなく,疲れたような眼,物腰,声も低くあるいは細く,ゆっくりと短く切って話す。時には反対に高い調子で早口に話すものもいるが,それは少ない。じっとしていてあまり身体を動かさない。時にはひとつの姿勢を長く保つことが出来ないで,しばしば姿勢を変えるが,その際何かにもたれるとか,腕や膝を組んでX線状を作るとかしたがる。前こごみで決して身体をそらすことはない。歩き方も物静かで足音も低く,歩幅もせまい。ドアーの開け方にもそれがあらわれる。およそこんなふうで当帰芍薬散だなとの第一印象を受けるが,しかし,それだけではまだ本当に確実とはいいかねる。次に訴えをきいているうちに,ますます確かにそうだとの判断が下せるようになる。その訴えは一言にしてつくせば,どこがどうということのないような訴えで,しかも訴える数が多く,こちらから引張り出していけば後から後から訴えが出てくる。だから普通の医師からは神経質だとあしらわれてしまうような結果にもなるが,よく考えてみるとぐあいの悪くないところからは訴えの出てくるはずがない。神経を起こす本がなければならぬ道理である。ただそれが身体的にどこという局所的な変化を他覚的に証明しがたいので,神経だと一蹴されてしまうに過ぎない。不定な訴えで全身的に亘っているものは全身的体質的に取扱うのが正しい。当帰芍薬散が神経質,神経衰弱,ヒステリー,卵巣機能不全,更年期などと称せられるものに多く使われる取以はは実はこの点に基づいている。その他前に挙げた眩暈,耳鳴以下の各症状を主訴とするものにも適用されることはいうまでもない。

 運用 2. 月経障害
 月経不順,月経困難,月経過多過少,経閉,帯下,子宮出血等および,それに伴う諸症状に使う。諸症状とは例えば腰痛,足腰の冷え,運用1の神経症状などである。

 運用 3. 貧血性,鬱血性の循環障害症状
 例えば痔,脱肛,凍傷,神経痛,リウマチ,流産癖,早期破水,子宮脱,不妊症,半身不随などに使う機会が相当にある。この際体質を考慮すべきはもちろんである。

 運用 4. 虚証の浮腫
 月経時の浮腫,腎臓疾患,妊娠腎での浮腫などその種類を問わず,循環障害に伴うものを体質的にみて此方を用いる。脉は沈弱で小便自利である。浮腫を転用して,湿疹等の皮膚病,虚証のじん麻疹に本方を使うことがある。又小便自利を転用して,夜尿症や前立腺肥大,萎縮腎等で,夜数回に及ぶものを治す。八味丸と区別を要するが,八味丸には口渇や下腹部の軟弱がある。

 運用 5. 下腹痛
 「婦人腹中諸疾痛」(金匱要略婦人雑病)
 「婦人懐妊,腹中★痛」(同書妊娠病)
 腹中とは腹の深部と解しておく。疾痛,★痛ともに急痛の義。病理的には局所性貧血と水分過剰によって起ると考えられる。急性に起こる場合ももちろんあるが,鈍痛が永く続いた場合にも本方を使ってよい。特に婦人としたのは,婦人は生殖器における循環障害を起こしやすいからだが,男子に用いてももちろん差支えない。

 運用 6. その他
 前述した症状を本にして運用すべき場合で,例えば心悸亢進,浮腫,或は眩により,心臓弁膜症に或は胃部拍水音により,胃アトニーを伴う胃症状に虚証のいぼに本方加薏苡仁(8.0)を,腹痛により慢性腹膜炎や胃痙攣に,全身状態及び神経症状を目標に肺結核に使う如くである。


漢方処方解説〉 矢数 道明先生
 虚証の瘀血(血虚)と水毒による症状で,体質は陰虚証である。主訴は貧血と腹痛である。全体的に見て,貧血性で筋肉の緊張は弱く,痩せ型,色白で脈も沈んで弱く,腹壁は一般に軟かく,心下部に拍水音を証明することが多く,下腹部の抵抗や圧痛は一定しない。腹証奇覧では臍傍に拘攣するものがあって,これを圧迫すると腰や背にひびくのをもって本方の腹証としている。腹痛は下腹の深部に起こり,温かい手で按ずると軽快する。小便は近く多量で,ときには浮腫がある。訴えは全身倦怠,足冷感,頭重,眩暈,耳鳴り,肩こり,腰痛,心悸亢進等である。


〈漢方と漢薬〉 第2巻 第9
当帰芍薬散の運用について 大塚 敬節先生

 当帰芍薬散の金匱要略,婦人妊娠病編と婦人雑病編とに見え,桂枝茯苓丸と好に日常,予等の繁用する方剤である。
 妊娠病編では,婦人懐妊,腹中㽲痛,当帰芍薬散主之。
とあり,婦人雑病編では,
 婦人腹中諸疾痛,当帰芍薬散主之。
となっている。右の論によって,当帰芍薬散が,婦人の諸種の腹痛を治する所以を知り得るのであるが,此方の運用は唯それだけに止るだろうか。金匱要略に現れたる文字に拘々たる時は,本方の運用は極めて狭い範囲に限定せられてしまうのであるが,薬能の方面より帰納して得たる知識と,先輩の治験,口訣等より得たる暗示とを資料にして,再び金匱要略の章句を玩味してみると,此方剤が諸種の疾患に広く応用せられる所以を知り得るのである。
 さて此方は吉益南涯の得意の方で,盛んに諸病に活用し,その運用方面に於ては,南涯の発明が頗る多いが故に,先づ南涯は如何に当帰芍薬散を解説したか,その方面から筆を進めてみよう。南涯は方庸では,「当帰芍薬散。腹中の血滞り,気急不循の者を治す。其症に曰く腹中拘急,是れ血滞り気急なり,当帰建中湯は其症同じと雖ども其所以在少し異れり,当帰建中湯は下より迫る故に,脚攣急或は腰背に引きて痛むの症あり,此方の症は腹より起って胸背に迫る。故に胸背強痛して攣急腰痛なし」とあって,当帰建中湯と当帰芍薬散の腹痛とは,その位置が異なることを指摘している。また金匱要略釈義でも,これに類した説明があり,当帰芍薬は,肩背心下へ差込む傾向があり,心下には水気が滞り,虚里の動が亢ぶり,小便自利等があると云っている。ところで,南涯の続建珠録や成蹟録を見れば気付く様に,南涯は足の攣急する者にも当帰芍薬散を用いている。この場合は足の攣急を客証と診たものであろう。なお右の南涯の説を明瞭ならしめるためには,南涯の気水血薬徴や薬能考を見る必要がある。左に薬能考を引用する。
 当帰 血滞りて気循らざるを治す。曰く厥寒,日?痛,曰く刺痛なる者は血滞りて気循らざるの証なり。
 芍薬 血気急,循環する能はざる者を治す。曰く頭痛,曰く腹痛,曰く身疼痛,曰く急痛,曰く攣急,曰く悪寒,曰く下利なる者は,血気急,循環する能はざるの証なり。
 茯苓 血分に水気ある者を治す。曰く肉瞤筋惕,曰く四支聶々動く(気暢んと欲して行かず,水気を塞ぐなり)曰く,身重く振々揺をなす,曰く身瞤動,曰く臍下悸,曰く心下満,曰く頭眩なる者は,血分に水気あるの証なり。曰く悸,曰く動,曰く煩躁なる者は,水少きなり,曰く重,曰く満なる者は,水多きなり,水の多少に在るなり。  主として水気を逐ふ者なり。故に能く身煩疼或は心下満痛,或は心下満なる者は水気不循の証なり。若し気の不循劇ければ小便自利す,以って其気を逐へば則ち自利故に復す,気鬱結すれば則ち小便不利す,朮をもって之を逐へば則ち必ず効を得るなり。
 沢瀉 血気迫りて水を逐ふ者を治す。曰く眩,曰く渇なる者は血気迫るの証なり,曰く汗出で,曰く吐水,曰く小便不利或は反って多き者は水を逐ふの証なり。
 川芎 血気の上攻する者を治す。

 右の薬能を頭に入れておいて,南涯の治験を読むと了解が容易である。

 男女老若の如何を問わず,血色の勝れないこと,貧血の傾向があり,或は皮膚が土色であること,腰脚が冷え易いこと,冷えると頭が重く(殊に後頭部)何か物をかぶっている様で,天気のわるい時などは,それが特に著しいこと,冷えると小便頻数になること,時に眩暈や耳鳴があり,肩が凝ったり動悸がしたりする,また筋肉が一体に軟弱であること,疲労し易いこと,胃内停水を証明するが,食欲には変化の少ないこと,下腹部が拘急し,それが腰部にまで波及し或は心下部まで連ること,そして以上の諸症状が寒冷に遭へば,増悪すること等は,当帰芍薬散を用うる予の案であるが,腹痛のある時は,眩暈や頭冒を訴えることが少く,頭重や肩凝りを訴えるときは,腹痛を伴わない場合が多い。これは葛根湯証で下痢する場合は項背強急を訴えることがなく,項背強急のある時は,下痢を伴わないと同じ機転によるものであろう。
 右の案を持して,予は,脚気,慢性気管支炎,腎臓炎,妊娠腎,流産癖,早期破水癖,関節ロイマチス,神経痛,痔疾,諸種の下腹痛特に子宮及びその附属器に来る(炎症激しからずして)疼痛,涙嚢炎,陰性の眼充血(充血という言葉は穏当でないかも知れないが)慢性中耳炎,半身不随症等に用いて効を得た。その他,現代医学的には病名の附け様のない病人で,先に述べた如き症状を訴える者にも,此方は仲々効のあるものである。予が此の案を得るに至ったのは,湯本求真先生の口訣にヒントを得たものである。
 南涯の気血水薬徴や観証弁疑の説に多分の影響をうけたというよりは,寧ろ南涯の説を押し広めて徹底せしめたと,云った方が適当かと思われる。宇津木昆台は,当帰芍薬散条に於て,実に,此方は,活用広くして,神仙の伝方なること疑なしと云っている。左に古訓医伝の一節を引用して,知見を広める一助にしようと思う。

 古訓医伝 巻20
 ○婦人,懐妊,腹中★痛,当帰芍薬散主之。さて懐妊は,元より水血胞内に集りて,胎を養ふ者なれば,動もすれば,其水血和せずして,腹中★痛をなすなり,★痛とは,俗にうねうね痛と云これなり,字典に,★又作☆,音絞,説文に,腹中急也とあ責,広韵に,腹中急痛とあり,方書に穢気感触邪熱而発之病とあり,音樛ともあり,音惆ともありて,小痛なりと云り,これ多くは右の脇腹より,心胸に迫り,下は小腹に至るまで,水血和せずして痛む者なり,皆右の方を主として用ゆべし,同じ腹痛にても左りは柴胡のかかる者なり,真中は建中湯の痛なり,柴胡と,この当帰芍薬湯とは,上心胸までに及ぶなり,小建中湯は,腹中のみなり,又上に及ぶときは転変によりて,大建中湯か,又半夏瀉心湯のかかる者もあり,これ同じ腹痛にても,左右上下にて少しづつの差別あるを察すべし(大塚曰く,以上の如く疼痛の位置によって方剤が決定しているのではない。これは参考にすればよいと思う。)この方は,至て活用が多くして,一切の打撲驚動より,右の胸腹へさしこみ,心胸咽喉までも,迫りて痛み,息も留るように覚え,或は水血堅凝して,塊物を生じて,痛む等まで,ことごとく水血の凝結を解散して,痛をゆるめること、実に奇妙なり,若し水血の凝結の甚しき証には,人参を加え,又瘀血のある者には,大黄を加え,背部までも徹して凝る者には,葛根を加うべし,男女共に,水血の凝りを目当とし,右の方を主として用ゆべし,左の方には少しも効なし,(大塚曰く,予防昆台先生を尊信すること厚きも,本方が左側痛に効なしとの説には讃同いたし難し)三因方,腹痛下利治法の条に,この当帰芍薬散を挙たり,其文に曰,治妊娠,腹中絞痛,心下急満,及産後,血暈,内虚,気乏,崩中,久痢,常服通暢血脉,不生癰瘍,消痰養胃,明目,益津とあり,其方後に元和紀用経云,本六気経緯内,能袪風補労,養真陽退邪熱,緩中,安和心志,潤沢容色,散邪寒温瘴疫,安期先生,賜李小君,久餌之薬,后仲景増減,為婦人懐妊腹痛,本方,用芍薬四両沢瀉茯苓川芎各一両当帰白朮各二両亦可以蜜為丸服と云り,実にこの方は,活用広くして,神仙の伝方なること疑なし,余もこれまで一切腹痛に,水血の凝りたる証に用て,毎々功を得たり,散薬,丸薬にして用ふるよりは,煎湯の方大に功あり故に当帰芍薬湯と改む。

予は当帰芍薬散を湯として用ふる場合は,次の分量を大体の標準としている。
  当帰 川芎 各2.0 茯苓 朮 各5.0 沢瀉7.0 芍薬 6.0-12.0
  水三合五勺に清酒五勺を混じたる液に右六味を入れ煮て二合を取り1日3回服用。
 さて,予は順序として,ここに南涯の治験を掲ぐべきではあるが,その大半は既に,湯本求真先生著皇漢医学に引用されてあるから,徒に紙数を費すのを惜しみ,これる割愛し,これに代るに,先輩の簡単な口訣を少しばかり採録してみる。

 (1)荻野台州曰く,子嗽なる者は,胎気の生長に因り,水心下に停りて欬をなすなり,当帰芍薬散に宜し。
 (先哲医話)
 按ずるに,子嗽は今日の妊娠咳である。これと同じ意味のことが方輿輗にも出ている。

 (2)婦人妊身,便閉或は便遠の者必ず産重し,此方を用て可なり。(腹証奇覧)

 (3)下疳,腐爛痒痛,水血浸瀾の者,当帰芍薬散料之を主る。(長沙瘍方)

 (4)血風瘡,甚しき者,紅色,疼痒,脂水流れ,痂落ちざる者は当帰芍薬散料之を主る。(長沙瘍方)
    小林孤雲按ずるに血風瘡は,血水を追ふなり,形楊梅瘡の如く往来寒熱す,小なる者は赤小豆の如く大なる者は梅李の如し。


 (5)当帰芍薬湯,中風右身不遂,手足甚しからず,胸肋脇腹,拘急攣痛の者を治す。若し水血の凝結甚しき者は,烏頭一両を加ふ。肩背強急の者には葛根四両を加ふ。(風寒熱病方緯篇)

 (6)走馬牙疳にて歯齦潰爛する症にて,軽く,膿血なくあるいは虚損の者を治す,頣骨腐敗する者は,潰注と称す,此方にて大ひに効ある者なり。(鍼術秘要)

 (7)耳孔より臭膿を出し音声出て難きを治す,方内に猪苓を加へ或は散となし酒にて服すこと尤も妙なり。(鍼術秘要)

 (8)膝頭腫大にして疼痛し,其人常に少腹攣急する者,方内に附子を加ふ。(鍼術秘要)
    附子を加へずとも効あり。軽々に附子を加へてはならぬ。

以上で本稿を終るのであるが,当帰芍薬散が婦人妊娠病編と婦人雑病編とに出ているということを頭に入れ,婦人に拠って代表される一種の傾向,それば単に体質のみでなく,その日常の挙動より精神の方面までも,婦人的(この言葉は学問的ではないが,男性的に対立する一種の傾向)なることを目的とする時は,婦人でも本方を用ゆべからざる者あり,男子にも亦本方を用ゆべき者のあることを推知せられたい。吉益東洞が遂に一生,此方を用いずして世を去り,吉益南涯が益んに此方を活用したということは,二人の為人を知っている者にとっては,興味深いことである。

勿誤方函口訣>  浅田 宗伯先生 此の方は吉益南涯得意にて,諸病に活用す。其治験続建殊録に悉し,全体は婦人の腹中★痛を治するが本なれども,和血に利水を兼ねたる方故,建中湯の症に水気を兼ぬる者か,逍遙散の症に痛を帯る者か,何れも広く用ゆべし。華岡青洲は呉茱萸を加えて多く用いられたり。又胎動腹痛に此の方は★痛とあり,芎帰膠艾湯には只腹痛とありて,軽きに似たれども爾らず。此方は痛甚しくして大腹(上腹部)にあるなり。膠艾湯は小腹(下腹)にあって腰にかかる。故に早く治せざれば将に堕胎の兆となるなり,二湯の分を能く弁別して用ゆべし。


     当帰芍薬散の効く人が、長く病気をしている場合には、
     柴胡桂枝乾姜湯を加えるととても良く なることが多い。(益田総子)
     
     当帰芍薬散がよく効く人なら、むくむ時は半夏白朮天麻湯が効き、
     体調不良や微熱が長く続くなら、柴胡桂枝乾姜湯がよく効きます。
     カゼを引いたなら桂枝湯が効きますし、
     おなかの弱い人なら人参湯や小建中湯が効く場合が多いのです。(益田総子)


※肉瞤筋惕(にくじゅんきんてき):筋肉がぶるぶる震えること。筋肉がピクピクと動くこと
★:疒に巧のつくり
☆:疒+千

【添付文書等より】
効能
【ツムラ】
筋肉が一体に軟弱で疲労しやすく、腰脚の冷えやすいものの次の諸症。

  • 貧血、倦怠感、更年期障害(頭重、頭痛、めまい、肩こり等)、月経不順、月経困難、不妊症、動悸、慢性腎炎、妊娠中の諸病(浮腫、習慣性流産、痔、腹痛)、脚気、半身不随、心臓弁膜症。

【クラシエ・他 】
比較的体力が乏しく、冷え症で貧血の傾向があり、疲労しやすく、ときに下腹部痛、頭重、めまい、肩こり、耳鳴り、動悸などを訴える次の諸症。

  • 月経不順、月経異常、月経痛、更年期障害、産前産後あるいは流産による障害(貧血、疲労けん怠、めまい、むくみ)、めまい、頭重、肩こり、腰痛、足腰の冷え症、しもやけ、むくみ、しみ。

【コタロー】
貧血、冷え症で胃腸が弱く、眼の周辺に薄黒いクマドリが出て、疲れやすく、頭重、めまい、肩こり、動悸などがあって、排尿回数多く尿量減少し、咽喉がかわくもの、あるいは冷えて下腹部に圧痛を認めるか、または痛みがあるもの、あるいは凍傷にかかりやすいもの。

  • 心臓衰弱、腎臓病、貧血症、産前産後あるいは流産による貧血症、痔核、脱肛、つわり、月経不順、月経痛、更年期神経症、にきび、しみ、血圧異常。

【三和】
貧血、冷え症で顔色が悪く、頭重、めまい、肩こり、動悸、足腰の冷え等の不定愁訴があって、排尿回数が多くて尿量が少なく、下腹部が痛むものの次の諸症。

  • 貧血症、冷え症、婦人更年期症、不妊症、流産癖、妊娠腎、ネフロ―ゼ、月経不順、子宮内膜炎、血圧異常、痔脱肛、尋常性ざ瘡。

【ホノミ】
比較的体力が乏しく冷え症の次の諸症。

  • 貧血、月経不順、月経異常、更年期神経症、めまい、耳なり、ヒステリー、浮腫、つわり、妊娠腎、帯下、慢性腎炎、血圧異常、冷え症、腰痛、坐骨神経痛、各種婦人科系疾患の補助療法、産前・産後或は流産による障害時の疲労けん怠・回復促進、心臓衰弱、痔核、脱肛

【一般用】
体力虚弱で、冷え症で貧血の傾向があり疲労しやすく、ときに下腹部痛、頭重、めまい、肩こり、耳鳴り、動悸などを訴えるものの次の諸症:
  • 月経不順、月経異常、月経痛、更年期障害、産前産後あるいは流産による障害(貧血、疲労倦怠、めまい、むくみ)、めまい・立ちくらみ、頭重、肩こり、腰痛、足腰の冷え症、しもやけ、むくみ、しみ、耳鳴り


【副作用】
胃の不快感、食欲不振、吐き気、下痢
発疹、発赤、かゆみ
肝機能の異常

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