健康情報: DHAとEPAとDPA

2009年4月14日火曜日

DHAとEPAとDPA

脂肪酸は一方の端にメチル基(-CH3)、他方の端にカルボキシル基(-COOH)が付た長い炭素の鎖構造を採っています。この炭素の鎖の一部が二重構造となっているもの不飽和脂肪酸と呼んでいます。
不飽和脂肪酸内、メチル末の炭素から数て3つめが最の二重結合であるものをn-3(ω-3)系脂肪酸といいます。n-3系脂肪酸には、α-ノレン酸、エイコサペンタエン酸(EPA)、ドコサペンタエン酸(DPA)、ドコサヘキサン酸(DHA)などがあります。
特に、EPAやDHAは魚油やアザラシなどの海獣油中に多く含まれています。魚を主食する日本の漁村の人々やイヌイットに、脳血栓、心筋梗塞などが少ないのは、EPAやDHの摂取が多いためであることが明らかとなりました。
n-3系脂肪酸は体内では合成されないこともあり、今、たいへん注目されています。EPA、DHAに共通する働きとしては、「中性脂肪の低下」「血小板凝集の抑制」が報告れています。

(1)EPA
EPAはアラキドン酸と同様に細胞膜のリン脂質に取り込まれ、EPAを多く摂取すると胞膜に取り込まれているアラキドン酸と置換され、ロイコトリエンやトロンボキサンの生や働きを抑制します。このために以下のような種々の働きを示しますと考えられていす。

・高脂血症改善作用
EPAの働きとして有名なのは血液中のトリグリセリド(TG)を抑える働きです。高T血症は虚血性心臓病と密接な関係があります。

・血小板凝集抑制作用、血液粘度低下作用
これらの作用は血液の循環を改善するとともに、TGを低下させる作用とあいまって、体として動脈硬化の進展を抑制するといえます。
一方で、大量に摂取すると鼻血が出やすくなる、抜歯のあと血が止まりにくいなどといたことがみられることがあります。いわゆる抗凝固剤(アスピリン、チクロピジン、ワファリンなど)との併用には注意が必要です。

抗アレルギー作用、抗炎症作用:
クローン病、関節リウマチ、SLE、psoriasisなどの免疫異常との関連のある疾患に対し使用されます。
最近では喘息の患者さんに1日1800-2700mg投与すると、通常の喘息予防薬ならびに療薬の使用量が著明に減少したとの報告例が多く見られます。

糖尿病、うつ病、片頭痛、さらには分裂病にも有用との報告があります。

最近、アルツハイマー病の患者では、n-3脂肪酸であるEPA摂取により、認知機能の改が認められる場合のあることが報告されました。


さらにEPAには「血液粘度の低下」「HDLの増加」があるといわれています。



(2)DHA
DHAには「記憶学習能力の向上」「視力の向上」「抗炎症作用」「血しょうコレステロー低下」が、生理作用としてあげられています。

記憶学習能に関する報告として、Soderbregらはアルツハイマー病で死亡したヒト(平年齢80歳)と他の疾患で死亡した人(平均年齢79歳)の脳のリン脂質中のDHAを較した結果、脳の各部位、特に記憶に関与していると言われている海馬においては、アツハイマー病の人ではDHAが1/2以下に減少している事を報告しています。さらに、Lucaらは300名の未熟児の7~8歳時の知能指数(IQ)を調べた結果、DHAを含む母乳を与られたグループに比較して、DHAを含まぬ人工乳を与えられたグループではIQがおよ10程低い事を報告しています。福岡大学・薬学部・藤原らは、脳血管性痴呆や多発梗性痴呆のモデルラットを用いてDHAの投与による一過性の脳虚血により誘発される空認知障害の回復を明らかにしました。また海馬の低酸素による細胞障害(遅発性神経細壊死)や脳機能障害の予防を示唆しており、具体的な疾患に対するDHAの治療効果をる程度予測させるものと考えられます。その他、栄養学的にDHA食を与えた動物では憶・学習能力が高いという実験成績は多くの研究機関より報告されています。

一方、ヒトへの臨床試験として、群馬大学・医学部・宮永ら(神経精神医学教室)と湘予防医科学研究所 所長・矢澤 一良の共同研究により、老人性痴呆症の改善効果が得れました。カプセルタイプの健康食品レベル(純度50%)のものですが、1日当たりDHとして700mg~1,400mgを6ケ月間投与した結果、脳血管性痴呆13例中10例に、まアルツハイマー型痴呆5例中全例にやや改善以上の効果があらわれ、その精神神経症状おける、意思の伝達、意欲・発動性の向上、せん妄、徘徊、うつ状態、歩行障害の改善見られています。(表1、2)。また千葉大学・医学部・寺野ら(第2内科)と矢澤 一との共同研究においても、脳血管性痴呆症患者(16名)が6ケ月のDHAカプセル摂(720mg/日)により有意に改善することを示しました。投与群では赤血球変形形態おび全血粘度に改善がみられ(表3)、脳血管障害の改善を介している可能性を示唆してます。

表1) DHA投与による改善度について

診断名

改 善

やや改善

不 変

悪 化

脳血管性痴呆
(n=13)

9
(69.2)
1
(7.7)
2
(15.4)
1
(7.7)

アルツハイマー型痴呆

(n=5)

1
0

5
(100)

0

0

0

0



表2)精神・神経症状の改善項目

脳血管性痴呆
( n=13 )
アルツハイマー型痴呆
( n=5 )

意志伝達
(協調、会話)

4
(30.8)
1
(20.0)

意欲・発動性
(意欲低下)

3
(23.1)
3
(60.0)

精神症状
(せん妄)
(徘徊)

2(15.4)
1(7.7)

0(0.0)
1(20.0)

感情障害
(う つ)

1
(7.7)
0
(0.0)
歩行障害 1(7.7) 0(0.0)


表3)DHA投与群と非投与群における投与前、投与6ケ月後の赤血球変形能、全血度、血小板凝集能(collagen凝集)の変化

赤血球

変形能

全血

粘度

血小板

凝集能

投与前

投与後

投与前

投与後

投与前

投与後

DHA
投与群
0.64
-0.15
0.81**
-0.18
3.62
-0.36
3.57**
-0.37
65(2.8) 60(7.7)
DHA
非投与群
0.69
-0.12
0.66
-0.19
3.62
-0.38
3.6
-0.38
61(9.0) 63(7.6)

各群ともn=16、mean(SD)、※p<0.05、※※p<0.01(投与前との比較)