健康情報: 柴胡加竜骨牡蛎湯 と うつ(鬱)

2010年9月11日土曜日

柴胡加竜骨牡蛎湯 と うつ(鬱)

『臨床応用 漢方處方解説 増補改正版』 矢数道明著 創元社刊
44 柴胡加竜骨牡蛎湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)〔傷寒論〕
  柴胡五・○ 半夏四・○ 茯苓・桂枝 各三・○ 黄芩・大棗・人参・竜骨・牡蛎 各二・五
  乾生姜・大黄 一・○(あるいは去大黄)去鉛丹

 大黄以外の諸薬を先に煮て、次に大黄を加えて再び少し沸騰させることになっている。しかし大黄の量を少なくして初めから一緒に煎じてもよい。滓を去り温服する。一般に鉛丹と大黄を去って用いる。
 本方の方名および処方構成には、さまざまの異説がある。

〔応用〕大柴胡湯または小柴胡湯証に似て、胸脇少陽の部位に属する病証であって、内外の邪を解散し、上衝を下し、停滞せる気と水を順通する。胸満煩驚とあるごとく、神経症を兼ねた疾患にしばしば応用される。
 すなわち本方は主として神経衰弱症・ヒステリー・血の道症・神経質・不眠症・神経性心悸亢進症・神経性陰萎・動脈硬化症・高血圧症・脳溢血・癲癇・分裂症・心臓弁膜症・狭心症・バセドー病等に用いられ、また小児夜啼症・夜驚症(ねぼける)・夜尿症・慢性腎炎・ネフローゼ・萎縮腎・尿毒症・脚気・慢性関節リウマチ・半身不随・四十腕・五十肩・火傷後の発熱・日射病・肩こり症・肝硬変症・禿頭病等に広く応用されている。

〔目標〕体応的には実証の方で、大柴胡湯小柴胡湯との中間程度ともいうべき、胸脇苦満、心下部の抵抗がある。心下部に膨満の感があり、腹部とくに臍上に動悸を認めることが多く、腹部大動脈の亢進による腹部神経症状がある。すなわち、上衝・心悸亢進・不眠・煩悶等の症状があり、驚きやすく、あるいはいらいらして怒りやすく、気分が変わりやすく、落ちつきを欠き、甚だしいときは狂乱・痙攣等の症状を呈する。小便不利・便秘の傾向がある。また一身尽く重く、転側すべからずとあることより、動脈不活発、体を動かすのが大儀であると訴える疲労感、浮腫や麻痺のあるものにも用いられる。
 脈は緊張強く、跳動する傾向がある。

〔方解〕構成の主薬をなすものは、柴胡と竜骨と茯苓である。柴胡は胸脇の実熱を瀉し、竜骨は気の動揺するのを収斂鎮静させ、茯苓は利尿により、停水が外にあふれて動揺するのを鎮静させる。さらに他薬との組合せによる作用として、柴胡は黄芩と協力して胸脇部に働き、解熱・疎通・鎮静の効がある。竜骨・牡蛎は鎮静的に作用し、胸腹の動悸を鎮め、心悸亢進・不眠・驚狂等の神経症状を治す。桂枝は上衝を治し、茯苓は尿利をよくし、半夏とともに胃内停水を去る。また茯苓は竜骨・牡蛎と協力して心悸亢進を治す。大棗と生姜とは諸薬を調和して薬効を強化する。大黄は内部の気をめぐらし、腸管を疎通し(下剤の目的でないので後で入れる)消炎かる鎮静の効能がある。

〔加減〕小柴胡湯あるいは大柴胡湯に竜骨・牡蛎を加える意味で柴胡加竜骨牡蛎湯というものと、中西惟患・宇津木昆台のように、全く独立した方名として柴胡竜骨牡蛎湯というべきであると唱えるものとがある。
 処方内容についても、(1)宋版では一二味、(2)成本では黄芩なく一○味、(3)小柴胡湯に二味を加えて九味、(4)大柴胡湯に二味を加えて一○味、(5)宋版に甘草を加えて一三味等の諸説がある。多くの場合鉛丹を去って用いている。
 いま冒頭のごとき処方をもってした。

〔主治〕
 傷寒論(太陽病中篇)に、「傷寒八~九日、之ヲ下シ、胸満煩驚、小便不利、讝語シ、一身尽ク重クシテ、転側スベカラザルモノ、柴胡加竜骨牡蛎湯之ヲ主ル」(山田正珍は、之を下すの次に「後復た火を以て之を迫劫し」を挿入すべしという)とあり、
 類聚方広義には、「狂病、胸腹動甚シク、驚懼人ヲ避ケ、兀座(ぼんやりしてすわる)独語シ、昼夜眠ラズ、或ハ猜疑(そねみうたがう)多ク、或ハ自ラ死セント欲シ、床ニ安ゼザル者ヲ治ス」
 「癇症、時々寒熱交作、鬱々トシテ悲愁シ、多夢少寝、或ハ人ニ接スルヲ悪ミ、或ハ暗室ニ屏居シ、殆ンド労瘵(肺結核)ノ如キヲ治ス。狂癇二症、亦当ニ胸脇苦満、上逆、胸腹動悸等ヲ以テ目的ト為スベシ。癲癇、居常胸満上逆シ、胸腹動アリ、毎月二三発ニ及ブ者、常ニ此方ヲ服シテ
懈ラザレバ、則チ屢々発スルノ患ナシ」とあり、
 饗英館療治雑話には、「此方ヲ癇症並ニ癲狂ニ用イテ屢々効ヲ得タリ。当今ノ病人、気鬱ト肝鬱トノ病人十ニ七~八ナリ。肝鬱ガ募ルト癇症トナル。婦人別シテ肝鬱、癇症多シ。此ノ湯ヲ知リ理会スレバ当今ノ難病ヲ療スルニ難カラズ。傷寒論ニ胸満煩驚、小便不利ノ者ニ用ユ。此ノ数症ノ中、胸満ガ主症ニシテ煩驚、小便不利ガ客症ナリ。畢竟胸満スル故ニ、自然ト胸中煩スル。故ニ心神安カラズ、事ニ触レテ驚クナリ。気胸膈ニ上行シ、結ブル故ニ鬱シテ行ラズ、此レヲ以テ小便不利ス。故ニ此方ヲ用ユル標準ハ胸満ナリ。固ヨリ大小便秘シ煩驚アラバ正面ノ証ナリ。(中略)」
「又一種ノ疳症ハ臍下ニ別シテ動悸ツヨク、心胸ヘ攻メ上リ、其ノ度毎ニ呼吸短促ヲ発シ、手足拘急シ、日ニ七~八度若クハ十度モ発スル症アリ。是レニハ苓桂朮甘湯・苓桂甘棗湯ノ類ヲ用フベシ。其ノ中心下ニ少腹ヨリ水気上衝スル許ニテ、臍下動悸ツヨキハ苓桂甘棗湯吉ナリ。病人ニヨク容体ヲ聞キ胸中マデモ上リ気味アリ、発スル毎ニ眩暈アラバ苓桂朮甘湯ヨシ。此ノ症ニ奔豚湯ノ場アリ。五苓散ノ場アリ。 (中略) サテ癲症トシカトモ見エズ、肝鬱ノ症ニテジリジリトジレ強ク、心腹膨張、或ハ痞塞シテ胸中迄モ満ノ気味アリ、大小便不利、肩ハリ気フサギナドスル病人婦人ニ多シ。此ノ症ハ気鬱ニ非ズ、肝鬱ナリ、柴胡加竜骨牡蛎湯甚ダ効アリ、只胸満スルヲ標準トスベシ。(後略)」とあり、また
 古方薬嚢には、「胸の中一杯につまりたる気持し、気落ちつかず、驚き易く、小便の出悪く、うわごとのような言を云い、からだ中がだるく、重くして身動きならぬもの、大病中に此症を発するものもあり、また平常の気鬱が亢じて此症を生ずる者もある。便通は大概秘し勝なり」とある。

〔鑑別〕
 ○大柴胡湯 92 (肝鬱(○○)・実熱症、心下急、鬱々微煩、神経症状少なし)
 ○苓桂朮甘湯 152 (癇症(○○)・心下悸、胃内停水・脈沈)
 ○苓桂甘棗湯 151 (癇症(○○)・臍下悸、脈沈数)
 ○抑肝散加陳皮半夏 145 (癇症(○○)腹動(○○)神経症状(○○○○)・左臍傍大動悸、虚証)
 ○柴胡姜桂湯 46 (肝鬱(○○)、腹動、虚証)
 ○甘麦大棗湯 27 (狂症(○○)・急迫、騒狂、神経症状甚だしく、腹筋拘急)

〔参考〕
 大塚敬節氏、柴胡加竜骨牡蛎湯に就て(漢方と漢薬 一巻七号)
 坂口 弘氏、柴胡竜骨牡蛎湯に就て(漢方と漢薬 復活一号)
 矢数道明、柴胡加竜骨牡蛎湯の運用について(日東洋医会誌 三巻一号)
 山田光胤氏、柴胡加竜骨牡蛎湯と鑑別を要する処方(薬局 一五巻五号)

〔治例〕
(一) 神経性心悸亢進症
 三八歳の婦人。出産二回、人工流産が一回あった。八ヵ月前き買物に出かけ、店何で突然呼吸が苦しくなり動悸がして、いまにも心臓が止まるような苦しみを覚え、胸がしめつけられるようで、胸元心下部に張ってきて、顔色蒼白となり苦悶し、大騒ぎとなった。医師の手当により静まったが、その後毎日同様の発作を繰り返し、一日に何回も起こることもあった。常に背や肩が凝り、めまいがしてのぼせ、足が冷え、手がふるえる。脈は緊で力があり、舌苔はない。腹診すると右左両季肋下、とくに右側に抵抗と圧迫感があり、右腹直筋に沿って、左心下から臍傍に至る拘攣と動悸を触れ、左臍下部においてとくに著明である。この部分を按ずるとすこぶる不快で、発作のときは必ずそこから始まってくるという。
 いままでそのことを訴えたが、一人もとりあってくれる医師がなかった。(この腹症は腹部大動脈の亢進で自律神経興奮と関連がある) 従来の病名は神経衰弱・ヒステリー・神経性心悸亢進症・植物神経般常症で、みな神経のせいとして相手にしてくれなかった。
 これはすなわち胸脇煩驚の証である。柴胡竜骨牡蛎湯を服用し始めてから一回の発作もなく、三ヵ月間服用して、腹部の動悸もほとんど消失し,気分が別人のように朗らかとなりました。 (著者治験、漢方百話)

(二) 高圧血症と脚弱
 六一歳の男子。赫ら顔でガッチリした性格、平素より血圧が高かった(一七五~一○○)。選挙運動で疲れ、一夜猛烈な頭痛が起こって、意識不明となり、脳溢血といわれた。意識回復後右脚無力となり、首まわらず、言語障害・右眼視力障害・右視野狭くなり、二人の附添いの肩につかまって来院した。大学病院では脳腫瘍の疑いがあるといわれたという。
 半年前の発病当時は七○キロもあったが、現在は五○キロになった。半年間は全く廃人同様の状態がつづいた。舌の露出不可能・心下堅く・胸脇苦満・臍上動悸亢進し、腱反射右左ともに減弱し、足搐搦はない。この歩行困難や運動障害を「一身尽く重く転側すべからざるもの」とみて、柴胡加竜骨牡蛎湯を与えた。
 服薬三日目から、歩行が軽くなり、一週間後には駅の階段を一人で昇降できたという。諸症好転して血圧も一二○~七○となり、再び元気回復し、諸団体の説表役員等を勤めるようになった。
(著者治験、漢方の臨床 二巻七号)

 


『餐英館療治雑話』(さんえいかんりょうちざつわ;そんえいかんりょうちざつわ)目黒道琢著
搐搦(チクジャク):けいれん)




漢方診療の實際』 大塚敬節 矢数道明 清水藤太郎共著 南山堂刊
柴胡加竜骨牡蠣湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)
 本方は大柴胡湯或は小柴胡湯の如くにして、心下部に膨満の感があり、腹部特に臍上に動悸を認め、上衝・心悸亢進・不眠・煩悶の状があって驚き易く、甚しい時は狂乱・痙攣等の症状を呈するものに用いる。多くは便秘・尿利減少の傾向がある。
  本方中の柴胡・黄芩は特に胸脇部に働き、解熱・疎通・鎮静の効がある。竜骨・牡蠣は鎮静的に作用し、胸腹の動悸を鎮め、心悸亢進・不眠・驚狂等の神経症状 を治する。桂枝は上衝を治し、茯苓は尿利をよくし、半夏と共に胃内停水を去る。茯苓は、また竜骨・牡蠣と協力して心悸亢進を治する。大棗・生姜は諸薬を調 和して薬効を強化する。大黄は腸管を疎通し、消炎かつ鎮静の効能がある。
 本方は以上の目標に従って、神経衰弱症・ヒステリー神経性心悸亢進症・陰萎症・癲癇・動脈硬化症・脳溢血・慢性腎臓炎・心臓弁膜病・バセドウ病・小児夜啼症・老人の慢性関節炎、火傷後の発熱等に用いられる。



『漢方処方応用の実際』 山田光胤著 南山堂刊
93.柴胡加竜骨牡蛎湯(傷寒論)
柴胡5.0,半夏4.0,茯苓,桂枝各3.0,黄芩,大棗,生姜,人参,竜骨,牡蛎各2.5,大黄1.0(但し大黄は適宜去加増減する)

目標〕 傷寒(熱病)では,発熱後数日たって なお熱があり,胸脇苦満があって,いわゆる脳症をおこし,意識混濁してうわごとをいつたり,全身が重く苦しく,ねがえりもできず,尿利が減少するもの.
 雑病(無熱の慢性病一般)では,熱がなくても小柴胡湯大柴胡湯の腹証に似て,季肋下や心下が硬く張り,腹診するとその部分に抵抗や圧痛をみとめ,また 臍傍の動悸が亢進している.心悸亢進,めまい,頭痛,頭重感,のぼせ,不眠,易疲労,不安,煩悶,憂うつ感,神経過敏や朦朧感,集中困難,記憶・記銘力減退(もの忘れ),物事に対する興味喪失 などの精神神経症状を呈し,便秘や尿利減少の傾向のあるもの.

説明〕 1) 傷寒論には,「熱病にかかって8~9日たった頃,大便が秘結するので下剤で下したところ,胸満煩驚,尿利減少,うわごとなどがおこり,全身ことごとく重くねがえりできないようなときに用いる」とある。
 胸満煩驚は,傷寒論正義に,煩驚とは狂状の如し云々とある.方輿輗に,この方……柴胡腹と称するもの多し,即ち胸満なり とある.
 そこで,煩驚とは種々な発揚性の精神神経症状といえる.ただ 実際には 無為,自発性減退 などの沈滞性の精神症状のこともある.
 柴胡腹とは,上腹部が膨満して硬く張り,肋骨弓のすぐ下,すなわち季肋下が一滞に硬く,抵抗・圧痛を呈する腹で,胸脇苦満の腹証である.
そこで,胸満は胸脇苦満と考えられる.したがって 自覚的には胸部が一杯につまって苦しい。

 2) 類聚方には,小柴胡湯の証で,胸部や腹部の動悸が亢進して,煩躁驚狂,大便が秘結し,尿利が減少するものとある.
 煩躁は苦しみもだえること.神経症で動悸・めまいの発作(不安発作)を呈して,今にも死にそうに苦しみさわぐのは,一種の煩躁である.驚狂は,狂躁状態を呈し,あばれ狂うことで,てんかんの発作や精神経の興奮状態,ヒステリー発作 などに相明する.

 3) 用方経権には,水飲(水毒)が胸部にあって,呼吸促迫,心悸亢進,顔色が黄色味を呈し,脈が弦数で,咽喉がかわいて水をのみ,身体が寒くなったり暑くなったりし,咳が少し出たりして虚労のようになったものに用い,また婦人の産後,諸種の貧血後,癰疔のあと などで身体が疲れ,活力が乏しく,顔色が悪く,動悸,息切れ,耳鳴,胸がふさがる感じ,時に身体が少しむくみ,脈緊数のものに用いる とある.

 4) 柴胡加竜骨牡蛎湯の腹証は,腹部の緊張がよい筋肉質のものと,いわゆる蛙腹で,膨満しているが軟弱ぎみのものがある.後者の場合には,時に軽度の心下部振水音を呈するものがある.これは,用方経権にいう水飲のあるものであろう.

 5) 本方中の茯苓には,水飲をさばき,桂枝と協力して動悸を鎮める効がある.竜骨は牡蛎との組合せで用い識のが特徴で,精神神経症状を鎮静 あるいは 調整する効がある.

参考〕 
 1) 失われた処方  現在する傷寒論にある柴胡加竜骨牡蛎湯は,ここにあげた処方になっているが,これは傷寒論本来の処方ではなくて,実は外台秘要の処方なのである.そのため,傷寒論には,本いう柴胡湯いま竜骨を加うと註釈があり,康平傷寒論では,又方としてこの処方をあがてある.又方とあるからには,当然本方があったわけであるが,長い年月の間に,その本方は失われてしまったことが推定される.そこで,和田東郭や 吉益南涯は,柴胡加竜骨牡蛎湯は大柴胡湯に竜骨・牡蛎を加えたものだといっている.
 また尾台榕堂は類聚方広義で,この方は甘草・黄芩がぬけているようだ,宋版傷寒論には黄芩が入っている といって,柴胡加竜骨牡蛎湯は小柴胡湯の加味方であるという立場をとっている.
 湯本求真氏も皇漢医学で,本方は小柴胡湯に竜骨,牡蛎,鉛丹,桂枝,茯苓,大黄を加えたものだ といっている.
 このように,本方については昔からいろいろな問題があるが,現在用いられ仲いる外台秘要の処方で充分効果があるから,実際にはこれでよいわけである.
 また 原方には鉛丹が入っているが、現在はこれを除いて用いている.鉛丹は入れなくても効果があるし,その方が用いやすい.大塚氏は,鉛丹を用いて,流涎がひどく,一種の鉛中毒症状を呈した患者を観察している.

 2) 特殊な用い方 (古人の口訣)
 a) 内科秘録に,小児のねぼけに用いるとある.小児13~14歳の頃,睡眠中急におきて走りまわったり,発狂したり,つき物がしたようにみえたり,俗にねぼけるというもので,本方が奇験があるとある.
 b) 袖珍方に,嘈囃を治すとある.
 c) 方輿輗に,火傷に用いられるとあり,一老婦人が灸にあてられて発熱,悪寒、喘急して横臥できず,胸満煩驚,動悸がひどかったが,本方を与え,2~3服で治ったという例をあげている.

応用〕  諸種の熱病,肺結核,胸膜炎,腹膜炎,神経症,血の道,不眠症,精神病,てんかん、」発作性心悸亢進,高血圧症,脚気,心臓弁膜症,心不全,狭心症,心筋梗塞 など.

鑑別〕  別項にあり.

症例〕  27歳の男子.精神分裂病.初診 34・12・10.
 既往歴  2年前に,大学を卒業してすぐ郵政省へ勤めた.しかし間もなく無為状態になって家にひきこもったままになった.約2ヵ月で急速に自然治癒したが,勤めがいやになり,兵庫県のある神社に住みこんで,農業をしながら信仰生活に入っていた.
 現病歴  ところが,半年ばかり前に,あるさぎ師にかかって神社や氏子がひどくめいわくをうけた.そのとき患者はその事件にかかりあったため,道徳上の責任を強く感じて悩み,3ヵ月ほど前に自宅へ帰って来た.
しかし それ以来いつもぼんやりして家にひきこもり,人に会うことをいやがり,入浴や理髪もしないで,一日中ね床の中にもぐりこんでいた.そして,時々「僕はだめになった」などとつぶやくことがあった.
 性格は,温和で真面目,几帳面だが,小心,敏感で感じやすい.
 現症  i) 精神症状  患者は二階の部屋に寝床をとり,頭から布団をかぶってねている.よびかけるとおきあがって丁寧に挨拶をした.話しかけるとよく応答し,疎通性はよく保たれていた.しかし表情は硬く無表情である.無為,自発性減退,独語,不眠 などのほか,問診により連合不良,迂遠思考 などや,つぎのような病的体験もみられた.
 「自分がよくわからず,自分のようでない.自分のしゃべっている言葉は,他人の言葉をそのまましゃべっているようだ.自分はあやつり人形のようだ」という させられ体験現実感喪失,何が何だかわからないで,異様な感じがするので恐ろしくてたまらない と感う 妄想知覚,自分がこのようでは人に悪く思われるだろうという 被害・罪業観念 など.

 ⅱ) 身体症状  器質的疾患を思わせる所見は何もみとめられない.漢方的には 長身,やせ型で,脈弦.腹証は 全体に板のように固く,右季肋下に抵抗・圧痛があり,また 両側の腹直筋の強直,右臍傍の動悸亢進をみとめた.
 治療・経過  先ず薬がのめるかどうかをみようと,柴胡加竜骨牡蛎湯エキス1日分4gを3包として3日分,および ベゲタミン2錠 を就寝前の頓服用として3包投与した.すると薬はよく服用したので,3日後に柴胡加竜骨牡蛎湯の煎剤を与えた.1週間後,睡眠剤を用いないで眠るようになった.また 以前のように事件に関するくりごとをいわなくなった.
 約1ヵ月後,父親と風呂屋へ行ったり,外出をしたりした.時々両親の肩をもむようになった.しかし もうよいといっても肩もみをやめず,しかも同じ所ばかりもむという.また タバコを非常にたくさん喫っていたのをやめたという.来客に挨拶をするようになった.
 -中略- その後40日目以降より約6ヵ月目頃までの間に,柴胡加竜骨牡蛎湯合反鼻交感丹,柴胡加竜骨牡蛎湯合三黄瀉心湯,竜骨湯合三黄瀉心湯 などを用い,人格が次第にまとまったようにみえ,父親の会社の伝票整理などを間違いなくやったり,来客の応対や電話のとりつぎなどもするようになった.その後2ヵ月間,再び 柴胡加竜骨牡蛎湯を用いた.しかし 8ヵ月頃から症状は一進一退で,なかなか自発的な積極性があらわれなかったので,反鼻交感丹合黄連解毒湯を用いたり,食欲不振になったとき甘草瀉心湯 を,フルンクロージスが出て 十味敗毒湯 を用いたりして11ヵ月がたった.
 11月27日 竜骨湯 に転方し,同時に,1週に1回ないし2回電撃療法を行ない,12月18日までの間(3週間)に合計6回施行した.そして,しばらく経過をみようと思って,一切の治療を終止した.
36年4月(廃療後1年4ヵ月)その後の報告をきいた.それによると,患者は父の経営する中小企業会社で働き,その経営方式を改善して,すっかり近代化してしまったということであった.その翌月,著者は廃療以来はじめて患者に会った.その時の印象は,やはり温和な,人あたりの軟らかい,礼義正しい人物であったが,表情や言動が別人のようにいきいきしていて驚かされた(日本東洋医学会誌第12巻第2号より).
 この患者は,昭和42年5月現在まで,廃療後7年間再発はおこらず,元気に生活している.


処方の鑑別
12.柴胡加竜骨牡蛎湯

 A. 腹証(胸脇苦満)について
 柴胡加竜骨牡蛎湯は,胸脇苦満があって精神・神経症状や心臓障害 などのあるものに用いる.患者は体力があって,漢方でいう実証である.ただ,大柴胡湯証よりは虚証で,小柴胡湯よりは実証である.
 1) 大柴胡湯  神経症状はあまりないが,血圧の高いことがある.体格は頑丈で,筋骨が発達し,筋肉の緊張がよい.心下部に振水音をみとめることは決してない.

 2) 柴胡桂枝湯  熱病では精神・神経症状を呈しないが,雑病では,てんかん発作や神経症に用いることがある.相見三郎氏は,てんかんで胸脇苦満がはっきりしないものは,この方がよいと述べている(日本東洋医学会 第10回総会).また,胸脇苦満と腹直筋の攣急があるものは,この方である.

 3) 四逆散  柴胡桂枝湯に似た腹証で,神経症状を呈することがある.ただ,全般的に筋肉の緊張がよい.ことに,腹直筋が強く緊張し,その上方の肋骨に接続する付近が固く,胸脇苦満とも腹皮攣急とも区別しがたいものである.
 纂方規範には,「黒田曰く,心下痞え塞がり,両季肋下強く張って凝り,左脇下の方は下腹までも攣急し,心下の凝りが強いため胸中まで痞満を覚え,なんとなく胸中が不快で肩や背中が張る」とある.この左脇下は,実際には右であってもさしつかえない.

 4) 加味逍遙散  種々な心気的訴えの多い婦人で,時には微熱が出ることもある.虚弱な体質だが,みかけ上は肥満型の婦人もある.ただ,肥満型でも筋肉が軟弱で緊張が悪い.
 腹証は,痩せて腹部軟弱で,心下部に振水音を呈する場合と,肥満型で腹筋厚く全体に軟弱なものとがあるが,いずれも軽度の胸脇苦満をみとまる.
 また 軽症の瘀血や月経異常を伴うことが多い.

 B.精神・神経症状について
 1) 桂枝加竜骨牡蛎湯  精神・神経症状はよく似ているが,体質が虚弱なもの,あるいは軽気や過労で身体が衰弱したもので,胸脇苦満がない.
 また 男子の遺精・夢精,女子の夢交に用いられる.その用い方は,求古館医譜によれば,患者が失精し,腹直筋が拘攣し 下腹まで索状に連なり,陰茎の先が冷たくなって遺精し,その翌日は背中にさむけを感じ,甚だしいときは皮膚が鳥肌になるようなものは桂枝加竜骨牡蛎湯 を用いるか,あるいは これに八味丸を兼用する.
 柴胡加竜骨牡蛎湯証の遺精は,高科先生方林によると「大柴胡湯加竜骨牡蛎湯を積聚(腹中の腫瘤)で,動悸が強く,遺精する人によい.ことに心疾の病人で動悸があって上逆するものには大変よくきく.また癇で奔気(奔豚の気--下腹から上へ向って激しくつき上がる気) のように発動し,人事不省になるような激しい症状に効がある」という.

 2) 抑肝散・抑肝散加陳皮半夏  成人では怒りやすく,子供では機嫌が悪くなり,不眠,小児のひきつけ などをおこすものにこの証がある.腹証は,両脇下の腹直筋が拘攣しているものが多い.
 抑肝散加陳皮半夏の腹証の特徴は,左の臍膀から心下に至る太く強い動悸である。これは 浅井南溟の口訣で,矢数道明氏が追試したもので,漢方と漢薬 第1巻第1号,第2号に発表されている.

 3) 三黄瀉心湯・黄連解毒湯  のぼせぎみで,気分がいらいらし,興奮しやすいのはこの方で,甚だしいときは精神異常を呈する.柴胡加竜骨牡蛎湯証には,上部がのぼせて下部の冷えるものがあるが,この方には冷えるものがない.顔色は赤ら顔,あるいは紅潮して,腹部は緊張がよく,上腹部が膨満したり,心下部が痞えて軽度の抵抗を示す.

 4) 奔豚湯  
物に驚いたり,恐ろしいめにあってから,激しい不安発作やヒステリー発作をおこすもの.発作は,何かが臍下からおこ希改候当e方へつき上げて来るような,激しい動悸がして,呼吸がとまりそうになり,今にも死ぬのではないかという不安を伴い,大さわぎをするものである.
 柴胡加竜骨牡蛎湯証のような胸脇苦満はない。

 5) 苓桂朮甘湯・苓桂甘棗湯  一種の癇症(神経質)で,臍下に特に動悸が強く,これが心下へ攻め上り,その発作がおこると呼吸促迫し,手足が拘急し,日に7,8回ないし10回もおこるようなものには,苓桂朮甘湯 や 苓桂甘棗湯 を用いる.そのうち,臍下の動悸が強いのは苓桂甘棗湯で,水毒が下腹から上衝して心下を突き,胸までつき上がる感じで,発作のたびにめまい(眩暈)があれば 苓桂朮甘湯 である.このような症状には,奔豚湯の場合もあり 五苓散 がよいこともある(
纂方規範より).

 6) 竜骨湯  うつ病や分裂病で無為の状態にあるもの.神経症者が奇妙な訴えをして,分裂病の妄想とまぎらわしいとき などに用いるが,柴胡加竜骨牡蛎湯との区別は,この方には胸脇苦満が無いことである.

 7) その他の処方  心臓病の動悸に 柴胡加竜骨牡蛎湯証 があるが,茯苓甘草湯加竜骨牡蛎
 や 茯苓杏仁甘草湯 などと区別しなければならないことがある.
 また 婦人血の道で 桃核承気湯,女神散 などと鑑別を要することもある.



※迂遠思考(うえんしこう)
circumstantial thinking,circumstantiality of thinking

迂遠(うえん)circumstantiality 
思考の形式的障害の一つで,話しが横道にそれて,まわりくどく,細部にこだわり,要点がつかめず,なかなか本筋の話しが進まない思路障害をいう.思考目標そのものは失われておらず,迂余曲折を経てそこへ達する.脳器質疾患,老年痴呆,知的障害などにみられる.また,性格変化を伴ったてんかんにみられる粘着性と呼ばれる思路様式は迂遠思考 circumstantial thinking の一つである.こうした傾向そのものは,高齢になると出現しやすいことはよく知られている.
『南山堂医学大辞典 プロメディカ 2007』より

連合弛緩:
考えがまとまらない、話があちこちに飛ぶ。全く関係のない観念が直接結びついてしまい会話成立せず。


※内科秘録(ないかひろく) 
本間 棗軒著
※袖珍方(しゅうちんほう) 
編者:李恒 
  袖珍とは袖に入れて携帯するのに便利な小形の本、ポケット判という意味
  
『普済方』のダイジェスト版?
※方輿輗(ほうよげい) 有持桂里著
臍膀 → 臍傍の間違い?






『漢方概論』
柴胡加竜骨牡蛎湯
柴胡 半夏各3 茯苓 桂枝各2 黄芩 大棗 生姜 人参 竜骨 牡蛎 大黄各1(但し大黄は適宜加減する)
以上の一一味を約五○○mlの水で煎じ、約二○○mlとし、滓を去り、一日二回に温服する。

本方証
『傷寒論』所載の主なるものを摘録すれば、
「傷寒、之を下し、胸満煩驚し、小便利せず、讝語し、一身盡く重く、転側す可からず。」(太陽病中篇)

以上の要約
小柴胡湯証にして、胸腹に動有り、煩躁、驚狂し、大便難く、小便不利の者を治す。」(『類聚方広議』)
「熱病、胸脇満ちて嘔せんと欲し、煩驚して心下悸し、小便少なく、讝語し、休作、時有り、一身尽く重く、転側す可らざる者は、柴胡加竜骨牡蛎湯之を主る。」(『医聖方格』)

〔病位〕少陽位で実証。
〔脈候〕緊、またはやや沈緊。
〔舌候〕多くは乾燥した微白苔。
〔腹候〕やや力あり、胸脇苦満(小柴胡湯参照)、臍上悸(柴胡桂枝乾姜湯参照)。
〔応用の勘どころ〕胸脇苦満、臍上悸、心悸亢進、便秘傾向、尿利減少、逆上感、神経症状。

鑑別
 柴胡桂枝乾姜湯桂枝加竜骨牡蛎湯。桂枝去芍薬加蜀漆竜骨牡蛎湯。桂枝甘草竜骨牡蛎湯。大柴胡湯。瀉心湯。小柴胡湯四逆湯半夏厚朴湯。半夏瀉心湯。生姜瀉心湯。甘草瀉心湯など。

応用
 神経衰弱、ノイローゼ、ヒステリー、更年期障害、血の道症、精神分裂症、癲癇、小児の夜啼症、不眠症、神経性心悸亢進、バセドー病、脚気など。
 高血圧、動脈硬化症、腎炎、耳鳴、慢性腎炎、火傷など。

注)
臍上悸(さいじょうき):臍上に腹部大動脈の拍動を触知。
胸脇苦満(きょうきょうくまん):季肋下の痞塞感と抵抗圧痛、および腹直筋の異常緊張。






『漢方精撰百八方』
100.〔柴胡加竜骨牡蛎湯〕(さいこかりゅうこつぼれいとう)
〔出典〕傷寒論
〔処方〕柴胡5.0 半夏4.0 茯苓、桂枝 各3.0 黄芩、大棗、生姜、人参、竜骨、牡蛎 各2.5 大黄1.0

〔目標〕体格がよく、体力が中等度、或いはそれ以上に充実した人が、腹部に胸脇苦満を呈し、臍傍の動悸が亢進していて、種々な精神、神経症状を呈し、煩躁して苦しみ、便秘や尿利減少を示すものである。  熱病の場合は、発病後数日経っていて、往来寒熱(さむけと熱感が交互に起こる)があり、意識が混濁したり、うわごとをいったりし、身体が重く、ねがいりができない。  一般雑病では、上腹部が膨満して抵抗や圧痛を示し、心悸亢進、精神不安、不眠、のぼせ、めまい、神経過敏や鈍感、疲労しやすい、煩悶、集中力困難や記憶力、記名力減退の訴え、物事に対する興感の喪失や憂鬱感などの精神症状を呈する。 〔かんどころ〕種々な精神、神経症状と胸脇苦満。臍傍の動悸亢進は時としてみられないこともある。体格は中等度以上で、中肉の場合もやや肥満型のこともあるが、肥っていても筋肉は余り緊張していないで、上腹部の膨満はそれほど固くない。反って中肉の人に、季肋下の抵抗の強い人がある。

〔応用〕発熱時の精神障害、神経症、ヒステリー、性的神経衰弱、てんかん、動脈硬化症、脳動脈硬化症、高血圧、脳溢血後遺症、発作性心悸亢進、心臓弁膜症、バセドー病等応用範囲が広い。 〔治験〕51才、男子 建築業  以前、急性肝炎で、ひどい黄疸が漢方で治ったこの人から、突然往診をたのまれた。4日前、急に倒れ、その時顔色が蒼く、血圧が110ぐらいで、医師に脳貧血といわれた。しかし、それ以来頭の具合が悪く、しばしば胸苦しくなり、めないがして、動悸が起こり、ひどくなると吐きけがする。昨日も今日も便通がないという。  患者は肥って、筋肉の緊張のよい、頑丈な人。舌に白苔があり、脈遅で、手足が冷え、血圧174/90、小便は近いが気持ちよく出ない。腹部は肥満し、胸脇苦満があり、ことに左に甚だしい。  私は、これを、急に起こった神経症と考えた。そして柴胡加竜骨牡蛎湯を投与した。患者はこの処方を2週間のんで、すっかり元気になった。今でもこの人は元気に働いている。                                   山田光胤


『漢方薬の実際知識』
2 柴胡加竜骨牡蠣湯(さいこかりゅうこつぼれいとう) (傷寒論)

 〔柴胡(さいこ)五、半夏(はんげ)四、茯苓(ぶくりょう)、桂枝(けいし)各三、黄芩(おうごん)、大棗(たいそう)、生姜(しょうきょう)、人参(にんじん)、竜骨(りゅうこつ)、牡蠣(ぼれい)各二・五、大黄(だいおう)一〕
  本方は、柴胡剤の中で大柴胡湯についで実証に用いられるが、小柴胡湯より少し実証にまで使え適応證に幅がある。本方證は、気の動揺が強いため ヘソ上部に動悸を訴え、精神も不安定となる。したがって、驚きやすく、不眠を訴え、とり越し苦労が多い。尿利は減少する傾向がある。また、気の動揺が強い ため身体を重く感じたり、身体を動かすことができなくなる。本方は、上衝、めまい、頭痛、頭重、心悸亢進、不眠、煩悶、神経疾患、狂乱、痙攣、浮腫、小便 不利、便秘などを目標とする。
 〔応 用〕
 柴胡剤であるために、大柴胡湯のところで示したような疾患に、柴胡加竜骨牡蠣湯證を呈するものが多い。特に神経系の疾患、循環器系の疾患に適応するものが多い。
 その他
 一 関節リウマチ、半身不随、四十肩、五十肩などの運動器系疾患。
 一 血の道などの婦人科系疾患
 一 そのほか、火傷、日射病、ヒステリーなど。
 


『漢方治療提要』 和田正系著 医道の日本社刊
柴胡加龍骨牡蠣湯(金)

柴胡2.4 半夏1.8 黄芩 大棗 生姜 人参 龍骨 鉛丹 桂枝 茯苓 牡蠣 各0.9 大黄 1.2
 以上12味,水430ccを以て,先づ11味を煮て,220ccを取り,後,大黄を入れ,再び煮て110ccを取り,1回に温服す.(通常1日3回)

〔註〕1.この方は小柴胡湯の甘草を去り,龍骨,牡蠣,鉛丹,桂枝,茯苓,大黄を加えたものである. 2.この方,成本には黄芩が無い.今,宋版に従う.

〔証〕小柴胡湯証で,胸腹に動悸あり,煩躁,驚狂し,大便かたく,小便不利の者.

〔目標〕大体,小柴胡湯の証で,神経症状の一層著明なものである.即ち胸脇満ちて,嘔吐せんとし,心下悸及び胸腹部の動悸甚しく或は不眠あり,煩躁若くは驚狂,讝語し,尿利減少,便秘の傾向ある者である.

〔応用〕1.熱性病,逆上して精神昏み,身体倦怠の状あって,安臥せず,二便渋滞し,脈数急なる症. 2.狂症で,胸腹の動悸甚しく,驚懼して,人を避け,独語し,昼夜寝ねず,或は猜疑多く,安臥せぬ者. 3.胸満感あり,心悸亢進し,身体微痛し,脈弦遅なる症. 4.神経衰弱性不眠症. 5.症候性癲癇様発作. 6.小児の夜啼症にて,胸腹に動悸ある者. 7.火傷後の発熱等. 8.心臓病. 9.脚気. 10.動脈硬化症. 11.ヒステリー. 12.慢性腎炎. 13.バセドウ氏病.

〔類証〕 1.桃核承気湯. 2.桂枝茯苓丸. 3.柴胡桂枝乾姜湯. 4.甘麦大棗湯

【驚懼】(きょうく)おどろきおそれること。


『漢方処方の手引き』 小田博久著 浪速社刊
柴胡加竜骨牡蠣湯(傷寒論)
 柴胡:五、半夏:四、茯苓・桂枝:三、黄芩・大棗・人参・竜骨・牡蠣:二・五、乾生姜・大黄:一(大黄を去ることもある。鉛丹を入れることが書かれてあっても現代では用いない)。
 大黄以外の生薬を先に煎じておいて最後に大黄を入れて少し沸騰させる。大黄を長時間煎じると加水分解されて効力がなくなる。ゆえに、最初から大黄を入れる場合には、多く入れる必要がある。

(主証)
 脈実。胸脇苦満、臍上動悸。小柴胡湯大柴胡湯の中間。かっと怒る。イライラ。

(客証)
 心悸亢進。不眠。小便不利。肩こり(左肩)。動脈硬化症。

(考察)
 肝胆の湿熱。
 虚証、腹張る→抑肝散。
 神経症状少い→大柴胡湯
 急迫狂躁→甘麦大棗湯
 貧血、代謝低下→柴胡桂枝乾姜湯

傷寒論(太陽病中篇)
 「傷寒八、九日、之を下し胸満煩驚、小便不利、譫語(うわごと)し、一身ことごとく重くして、転側すべからざる者、柴胡加竜骨牡蠣湯之を主る。」


明解漢方処方』 西岡一夫著 浪速社刊
柴胡加竜骨牡蠣湯(傷寒論)

 処方内容 柴胡五・○ 半夏四・○ 茯苓 桂枝各三・○ 黄芩 大棗 人参 竜骨 牡蛎各二・五 大黄 生姜各一・○(二九・五)

 必須目標 ①驚き易い、精神不安 ②強壮体質 ③尿量減少 ④胸腹部動悸 ⑤便秘  ⑥季肋部抵抗感あり

 確認目標 ①失精 ②譫妄(うわ言) ③不眠 ④肩凝り ⑤頭痛 ⑥狂症(てんかん発作など)

 初級メモ ①本方の目標は、大柴胡湯のようなガッチリした体格のクセに、見かけによらず小心者であることで、その原因は、“肝胆の鬱熱”である。
 ②もし虚証体質なら、抑肝散、柴胡桂枝乾姜湯などを考える。
 ③本方の処方内容は古方には珍らしく多味で、しかも書籍により薬味が一定しない、即ち黄芩の代りに鉛丹二・五が入っていたり、また鉛丹は膠飴の誤りであるとする説があったりする。
 ④処方内容は決して小柴胡湯、または大柴胡湯に竜骨牡蛎を加えたものでなく、南涯は加の字を去って、柴胡竜骨牡蛎湯というべきだと説いている。恐らく後人の筆が加わっているであろう。

 中級メモ ①南涯「裏病、内にせまるなり。水気胸に在り、血気逆して心を攻め循環する能わざる者を治す。その症に曰く、胸満、小便不利、これ水胸に在るの症なり。曰く煩驚、譫語、これ血気心を攻むるの劇しき者なり。曰く転側すべからず、これ循環する能わざるの症なり。曰く一身尽く重し、これ血気循らず水表に在るなり。この病人また常に動あるなり」。

 適応症 神経衰弱症。不眠症。心悸亢進。動脉硬化症。高血圧。慢性腎炎。てんかん。

 文献 「柴胡加竜骨牡蛎湯の運用について」矢数道明(日本東洋医学会誌3、1、9。漢方治療百話に転載)

柴胡加竜骨牡蛎湯 と うつ(鬱)(その2) に続く

http://kenko-hiro.blogspot.com/2010/09/blog-post_15.html




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