健康情報: 9月 2014

2014年9月20日土曜日

升麻葛根湯(しょうまかっこんとう) の 効能・効果 と 副作用

臨床応用 漢方處方解説 矢数道明著 創元社刊
p.663 流感・猩紅熱・水痘・衂血・皮膚病
53 升麻葛根湯(しょうまかっこんとう) 〔和剤局方・傷寒門〕
 葛根五・〇 芍薬三・〇 甘草一・五 升麻・乾生姜 各一・〇

 「時気瘟疫、頭痛発熱、肢体煩疼、瘡疹未発のとき」

 麻疹・痘瘡・猩紅熱などのように、発疹をともなう熱性病の初期、または流感の頭痛甚だしく脳症状のあるものに用いる。目痛み・鼻乾き・衂血し・不眠などがある。流行性感冒・麻疹・猩紅熱・水痘・衂血・眼充血・皮膚病・扁桃腺炎などに応用される。




和漢薬方意辞典 中村謙介著 緑書房
升麻葛根湯(しょうまかっこんとう) [万病回春]

【方意】 表の熱証による赤い発疹・発熱・肢体煩疼・激しい頭痛等のあるもの。
《太陽病.虚実中間から実証》
【自他覚症状の病態分類】

表の熱証
主証 ◎赤い発疹
◎発熱
◎肢体煩疼

◎激しい頭痛






客証 ○不眠
 発赤 瘙痒感
 結膜充血 眼痛
 濃厚な分泌液
 鼻乾 鼻出血
 首から上の汗





【脈候】 浮やや弱。

【舌候】 著変なし。

【腹候】 腹力中等度。

【病位・虚実】 体表部から首から上の病変に用いられ、裏証はなく太陽病である。脈力および腹力より虚実中間から実証。

【構成生薬】 葛根6.0 升衣3.0 芍薬3.0 甘草3.0 生姜1.0

【方解】 升麻には清熱・解毒・鎮痛作用があり、身熱・無汗・頭痛・咽喉痛・発疹・瘡腫に有効である。葛根は項背強、上焦および体表の充血性・炎症性の諸症状に対応する。以上より升麻・葛根の組合せは表の熱証による発疹・発赤・充血・瘙痒感等を治す。芍薬は筋肉の異常緊張を緩め、升麻・葛根・を助けて肢体煩疼・頭痛等を治す。生姜は升麻・葛根につれて表位に働いて新陳代謝を促し、甘草は諸薬の作用を補い増強する。


【方意の幅および応用】
 A1表の熱証:赤い発疹・発熱・肢体煩疼等を目標にする場合。
   麻疹などの発疹を伴う熱性疾患、結膜炎等の眼疾患、湿疹・蕁麻疹・皮膚瘙痒症、鼻出血、腐敗性口内炎
表の熱証:激しい頭痛を目標にする場合
   激しい頭痛を伴う熱性疾患(感冒、扁桃炎、脳脊髄膜炎等)

【参考】 *大人小児、時気瘟疫、頭痛発熱、肢体煩疼するを治す。及び瘡疹已に発し、及び未だ発生せず、疑似の間宜しく之を服すべし。『和剤局方』
*陽明の傷寒中風、頭疼、身痛、発熱、悪寒、汗なくして口渇し、目痛、鼻乾いて臥するを得ず。及び陽明の発斑出でんと欲して出でず、寒喧(けん)時ならざるを治す。『集解』
*此の方は胃中の熱及び血中の熱を清解する剤である。陽明経の表邪を発表する(足の陽明の脈、目に至り、鼻を挟む)。諸熱性病、目痛み、鼻乾き、不眠し、汗無くして悪寒発熱するものは、陽明経の熱症である。本症は痘瘡、麻疹、猩紅熱等、発疹を伴う熱性病の初期、又は流行性感冒にて脳症状の著明なものに用いられる。発疹の未だ現われざるもの、将に現われんとする時期に適応する。『漢方後世要方解説』
*斑疹已に出でたる者は服すること勿れ。重ねてその表を虚せしむ。
*升麻は表位の熱証に有効で、赤い痤瘡に、しばしば駆瘀血剤に加えて用いる。


森白伯翁のインフルエンザ治療
 森道伯先生は大正7年のあの流行性感冒の時、呼吸器性の者には小青竜湯加杏仁石膏で、脳症には升麻葛根湯加白芷川芎細辛、それから胃腸系の者には香蘇散加茯苓白朮半夏と、この3方でほとんど解決されたそうです。 
矢数道明『漢方と漢薬』8・1・55

麻疹の漢方治療
 麻疹は、漢方では治療の比袋的容易な病気の一つである。麻疹の治療には、升麻葛根湯・桂枝加葛根湯・葛根黄連黄芩湯など、太陽病の処方を用いて残りなく発疹させ、太陽病の段階で治癒するように務める。稀に次の少陽病の段階まで尾を引くことがあっても、小柴胡湯等で症状を清掃することができる。麻疹は残りなく発疹させれば、余病の麻疹肺炎の心配など要らなくなる。
 ハシカに特効薬のように効く升麻葛根湯という定方薬がある。熱っぽいと思ったらこれを飲ませる。もし本当にハシカであれば、5、6時間或いは1,2日のうちに出るだけの熱が出て、出るだけの皮疹がドッと出て、熱が急に下がり病人はさらりとしてしまう。もしハシカでなかった場合にも、この薬は感冒などの熱性病の初期によく効く薬だから、かまわず飲ませれば良い。 
木村左京『漢方の臨床』16・3・43

【症例】 腐敗性口内炎
 27歳の婦人。体格、栄養共に中等度。
 「1ヵ月前39℃から40℃の発熱をして病院へ行ってよくなりました。10日ばかり前より口があれて前の病院へ行きましたが、注射をするだけです。1日置きに通いました。血液もみましたが何ともない、原因は分からんといいました。2、3日前より口中が臭くて何も食べることもできず、その上歯がだんだん短かくなって来ました」
 口内歯齦腫脹、悪臭、開口困難、頚部淋巴腺腫脹、顔面蒼白、時々貧血状態を起こし、歯齦洗浄をせんとすれば出血と疼痛甚だしく困却するという。升麻葛根湯を処方し、甘草2.0とユキノ下2、30枚を五合位の水で煎じ、ビールビンに入れて何回もうがいをするように指示した。2日後元気で一人で来院。口腔内を診するに歯齦腫脹収縮して患部を圧するも疼痛なく、ただ出血するのみ。十全大補湯3剤、桂枝茯苓丸3日分与えてほとんど全治す。
野田一之丞『漢方と漢薬』10・6・31


『健保適用エキス剤による 漢方診療ハンドブック 第3版』
桑木 崇秀 創元社刊

升麻葛根湯(しょうまかっこんとう) <出典> 万病回春 (明時代)

<方剤構成>
 升麻・葛根・生姜はいずれも発散性で,ことに升麻には麻疹などで発疹の出ないのを出させる作用があるとされ、,方剤は全体として発散性の強い方剤と見ることができる。升麻は寒性,芍薬は涼性,葛根涼性で,温性の生姜があるものの,方剤全体としてはやや涼性で,一応表熱証用の方剤と言えよう。升麻は咽喉腫痛にようとされ,また芍薬が入っているので,鎮痛・鎮痙効果も期待される。

<適応>
 麻疹や猩紅熱や水痘の初期,発疹を促す目的で用いる。
 また,流感の頭痛はなはだしく,眼痛・咽喉腫痛・衂血(鼻血)・脳症状などのある場合に用いてよいようである。


『健康保険が使える 漢方薬 処方と使い方』
木下繁太朗 新星出版社刊

升麻葛根湯(しようまかつこんとう)
万病回春(まんびようかいしゆん)
 ツ

どんな人につかうか
 麻疹(はしか)の初期に、発疹(はつしん)を出させ、内攻を防ぐのに用いたものです。熱性病で、激しい頭痛、悪寒(おかん)、身体の痛み、発熱があり、鼻がかわいて眠れないといったものに用い、流感、麻疹、猩紅熱、皮膚病などに応用します。

目標となる症状
 ①頭痛、発熱。②悪寒(おかん)、身体痛。③目の充血、痛み、流涙。④くしゃみ、鼻水。⑤鼻の乾燥、鼻出血。⑥口渇、無汗。⑦発疹。⑧不眠

 特定の腹証なし。

 浮数。

 舌質は紅、白い舌苔(ぜつたい)。


どんな病気に効くか(適応症) 
 感冒の初期皮膚炎。麻疹(はしか)、風疹(ふうしん)、猩紅熱(しようこうねつ)、水痘、扁桃腺炎、流行性感冒、痘瘡、丹毒、鼻血、眼充血、発疹を協悪s熱性病の初期。

この薬の処方 葛根(かつこん)5.0g。芍薬(しやくやく)3.0g。升麻(しようま)2.0g。甘草(かんぞう)1.5g。生姜(しようきよう)0.5g

この薬の使い方
前記処方(一日分)を煎じてのむ。
ツムラ升麻葛根湯(しようまかつこんとう)エキス顆粒(かりゆう)、成人一日7.5gを2~3回に分け、食前又は食間にのむ。

使い方のポイント
体力のいかんにかかわらず、発疹を伴う熱性疾患の初期に用います。又頭痛、発熱、悪寒のある場合にも有効です。
比較的体力の低下した人の風邪で不安、不眠、頭痛、抑うつ状態があり、食欲不振な人には香蘇散(こうそさん)(79頁)が良い。
処方の解説 升麻(しようま)(サラシナショウマの根茎)、葛根(かつこん)は、発疹を十分出させて経過を短縮し、内攻(ないこう)を防ぐ(透疹(とうしん))効果があり、皮膚血管の拡張、発汗作用で解熱効果もあります。
 又升麻は抗菌、解毒、葛根は止瀉(ししや)作用もある。芍薬は消炎、抗菌、滋養強壮作用があり、葛根と共に筋肉の痙攣(けいれん)を鎮める。甘草は消炎、解毒作用があります。
 本方は升麻(しようま)、葛根(かつこん)で発疹を十分出させることが主要目的で、芍薬(しやくやく)を加えることでそのゆきすぎを抑え、体力を補い、解熱、抗菌、発汗などの効果が出るように組み立てられています。


『漢方後世要方解説』 矢数道明著 医道の日本社刊

p.45
第三 発表の剤(四方)
三八 升麻葛根湯…………感冒、麻疹、猩紅熱

発表の剤
方名及び主治 三八 升麻葛根湯(ショウマカッコントウ) 和剤局方 傷寒論
○ 大人、小児、時気瘟疫、頭痛発熱、肢体煩疼するを治す。及び蒼疹已に発し、及び未だ発生せず、疑似の間宜しく之を服すべし。
○陽明の傷寒中風、頭疼、身痛、発熱、悪寒、汗なくして口渇し、目痛、鼻乾いて臥することを得ず、及び陽明の発斑出でんと欲して出でず、寒喧(ケン)時ならざるを治す。(集解)
△足の陽明の脈、目に抵(イタ)り、鼻を挟む。故に目痛み、鼻乾く、又眠ること能わず。
処方及び薬能葛根五 升麻二 芍薬三 生姜二 甘草一・五 葱白一寸許りのもの二ヶ加える。足の陽明胃経の汗剤。
 升麻、葛根、葱白、生姜、芍薬=皆胃経の汗剤なり。
 升麻、芍薬=血熱を冷まし、
 甘草=以て胃を調え薬気を和す。
 斑疹已に出でたる者は服すること勿れ。重ねてその表を虚せしむ。
 
解説及び応用○此方は胃中の熱及び血中の熱を清解する剤である。陽明経の表邪を発表する。
 諸熱性病、目痛み、鼻乾き、不眠し、汗無くして悪寒するのは陽明経の熱症である。
 本症は痘瘡、麻疹、猩紅熱等発疹を伴なう熱性病の初期、又は流行性感冒にて脳症状の著明冗ものに用いられる。発疹の未だ現われざるもの、将に現われんとする時期に適応する。


応用
 ① 痘瘡、② 麻疹初期、③ 猩紅熱の初期、④ 衂血、⑤ 眼充血、⑥ 扁桃腺炎、⑦ 皮膚病の一種、⑧ 頭痛烈しき感冒。


『重要処方解説Ⅱ
■重要処方解説(92)
升麻葛根湯(ショウマカッコントウ)

ノザキクリニック院長
野崎 豊

■出典
 升麻葛根湯(ショウマカッコントウ)についてお話しいたします。日本では『万病回春(まんびょうかいしゅん)』の処方としている文献が多いようですが,中国では『小児薬証直訣(しょうにやくしょうじきけつ)』の処方としているものが多いようです。『万病回春』は明代龔廷賢(きょうていけん)らが,宋代の『和剤局方(わざいきょくほう)』などの方を解説したものといわれております。『小児薬証直訣』は,同じく宋代の銭仲陽(せんちゅうよう)の方を閻孝忠(えんこうちゅう)がまとめたものですが,その後散逸し,清代に『四庫全書』作成の折収録したものが伝わっております。

■構成生薬・薬能薬理
 升麻葛根湯の処方構成の基本薬物は葛根(カッコン),升麻(ショウマ),芍薬(シャクヤク),甘草(カンゾウ),生姜(ショウキョウ)です。ここで注意したいのは升麻葛根湯と名づけられておりますが,葛根湯(カッコントウ)に升麻を加味したものとは内容的にまったく違っている点であります。
 もっとも中心になる生薬の1つは升麻はキンポウゲ科サラシナショウマの根であります。『神経本草経(しんのうほうぞうけい)』では上品に収載されており,よく熱を清め,毒を解すと書かれております。上品ではありますが,多量に用いますと嘔吐,めまいなどの副作用がある点が面白いと思います。成分はフェノールカルボン酸類,トリテルペノイド類,苦味の原因と思われるクマリン類などが含まれ,鎮静,鎮痙,鎮痛,解熱,抗潰瘍作用,解毒作用などが知られております。面白いことは薬能として透発作用(発疹を早く出す作用),升提作用,すなわち消化器吸収能力が落ちた状態では,中気下陥といって脱肛,子宮脱を起こすことが知られておりますが,これを持ち上げて治すという意味の作用があります。動物実験で肛門部炎症を升麻が抑制することが報告されております。帰経としては脾経,胃経,肺経,大腸経となっております。
 葛根はマメ科のクズの根です。『神農本草経』では中品に収載され,渇を止め,潤いをつけ,腠を開き,皮膚をゆったりとし,汗を発し,熱を退ける薬です。成分は澱粉,isoflavone類,acetylcholine物質,flavonoid類などがあり,鎮痙,鎮痛,解熱,副交感神経刺激による消化管賦活作用,動物実験では冠動脈や脳動脈の拡張作用が知られております。
 芍薬はボタン科のシャクヤクの根です。『神農本草経』では中品で,草本が実を結んで硬くなっているようなひきつれを治す,またはひきつれは痛みを伴うので,痛みを治すといわれております。成分は明治40年朝比奈先生が安息香酸を見つけて以来,多くのものが知られておりますが,代表的にものにモノテルペン類があり,この中のpaeoniflorinは鎮静,鎮痛,抗痙攣,抗炎症作用を持つことが知られております。また,タンニン類,benzoic acid(抗菌作用あり)などがあります。そこで,芍薬は鎮痙や胃腸や子宮運動の調整,血液粘度の低下を促す薬として有名です。帰経は肝とされております。
 甘草はマメ科のカンゾウの根で,『神農本草経』では上品とされており,百薬の毒を消し,急迫症状をとることが知られております。成分のトリテルペノイド系サポニンglycyrrhizinは,抗アレルギー,抗潰瘍,抗炎症作用が知られております。flavonoid類の中にはpapaverine作用を持ち,鎮痙作用のあるものがあります。薬理としては解毒作用,ミネラルコルチコイド作用,胃酸分泌抑制作用,去痰,抗炎症作用が知られております。上品ではありますが,甘草もまた大量に長く服用すると,二次性アルデステロン症を起こすことが知られています。帰経は十二経すべてです。
 生姜はショウガ科ショウガの根茎で,『神農本草経』では中品とされ,百邪を彊御(防ぐ)するとされております。成分は精油中にzingiberolなどがあります。ジアスターゼ作用の促進,制吐作用,末梢循環を促進し,体を温め発汗させたり,胃液分泌を増し,胃腸蠕動を高め,ガスを出したり,半夏(ハンゲ),天南星(テンナンショウ)の解毒に役立ったりします。帰経は脾経,胃経,肺経です。
 以上の構成薬をまとめますと,脾経,胃経に属するものが中心で,作用も表ばかりでなく,裏に動くものが多いわけです。鎮痙,鎮痛,鎮静,解熱,解毒作用を持ったものでできております。すなわち重いかぜやインフルエンザなど,関節痛や頭痛が強く,熱の高いもので,やや裏に入ったもの,解熱作用以外に鎮静や解毒を必要とするものに使われるわけであります。



■古典・現代における用い方
 升麻葛根湯の条文を見ますと,『和剤局方』には「大人,小児の時気瘟疫(伝染病),頭痛,発熱,発熱,肢体煩痛(節々が痛む)を治す。および瘡疹(痘瘡,はしかすでに発し未だ発せず疑似の間(すなわちまだ発疹が出ていないか,出ていても十分に出ていない時)よろしくこれを服すべし」となっております。升麻,葛根15両,白芍薬(ビャクシャクヤク),甘草10両を粉にして3銭を毎回飲みなさいとあります。また小児では年齢相応に量を加減して飲みなさいと書かれてあります。面白いのは一度粉末にしたものを煎じて飲む点だと思います。
 この系列である『万病回春』では,升麻葛根湯は3ヵ所に出てきます。それは傷寒門,煩心門,痘瘡門です。傷寒門では「傷寒(現在の感冒),頭痛,時疫(流行病)にて憎悪壮熱して四肢痛み,発熱,悪寒,鼻乾きて眠るを得ざるを治す。重ねて寒喧時ならず,人多く疫を病み,たちまち煖(あたたか)くして衣を脱するを治す」。すなわち感冒,頭痛,流行病できわめて悪寒が強く,発熱のひどい時手足が痛み,鼻乾き眠れないようなものを治す,併せて寒かったり温かかったり一定しない時に流行病を病み,体がほてって着物を脱いでしまう状態を治すとされております。
 また「瘡疹すでに発し,未体f発せず疑似の間よろしく服すべし」となっております。すなわち発疹が出ていないで熱だけなので,はしかなのか痘瘡なのか,または突発性発疹症のようなものかわからず,熱が高いので何かあると疑っている時に服用しなさいというわけです。昔は,はしかは大変重い病気で,多くの子供の命がなくなり,これとのかかわり方で寿命が決まるともいわれておりました。これの治療に関して発疹を早く出し,内攻させないということが一番よい治療と,昔は考えられていたと思われます。
 薬については「升麻三銭,葛根三銭,白芍薬二銭,甘草二銭,以上を剉みて一剤とし,生姜三片,水煎し服す」とあります。1銭は大体1g強に当たり,生姜一片もほぼ同様です。また人によっては1銭を3gと解釈する方法もあるようです。
 「増補にいう,足の陽明の脈は目に抵(いた)りて鼻を挟む。故に目痛みて鼻乾く,それ眠る能わざるは陽明の経が胃に属し,胃が邪を受くればすなわち安臥する能わず。これ邪を受くるの初め,なお未だ内に及ばざるなり。汗なく悪寒,発熱するは表に寒邪あるなり,薬の性たるや辛は表に達せしむべく,軽は実を去らしむべし」とあります。辛(からい)は,カレーなどからいものを食べますと体がほてって汗が出るような現象であり,軽剤(麻黄(マオウ),葛根など)は,風邪が表にあって実証となっている場合に肌を軽く開いて風邪を除去する方剤で,これを用いるとうまく取れるということです。
 「升麻,葛根は辛,軽のものなり。故にこれを用いて表に達し,実を去る。実気が人を傷(そこ)なえば,気血はこのために壅滞する。芍薬をもって佐とし,血を和すに用いる。甘草をもって佐とし,気を調うるに用いる」。
 「頭痛には葱白(そうはく)三根を加え,同じく煎じて熱服す」。葱白は発汗解熱剤ですから,そういう働きを加えるということです。「咳嗽に桑白皮(そうはくひ)を加う」。桑白皮は鎮咳作用を増強したり,抗炎症作用,抗アレルギー作用を持っています。「上膈(胸)熱すれば黄芩,薄荷を加う」。黄芩,薄荷ともに抗炎症作用を持っており,薄荷は血管拡張作用もあり,発疹を早く出すと考えられていたようであります。「無汗には麻黄を加う」。麻黄はephedrineが入っており,発汗作用を持っております。「咽痛に桔梗(ききょう),甘草を加う」。桔梗はサポニンが多く,鎮咳去痰作用を持っております。甘草は痛みや咳などの劇しい症状,すなわち急迫症状を取るとされております。「発黄,丹毒には玄参(ゲンジン)を加う」。玄参は清熱で,血を清めて毒を出すとされております。血管拡張作用やジフテリア毒素の中和作用が知られております。
 煩心門では「升麻二銭,葛根二銭,甘草三分,以上を剉みて一剤となし,水煎して服す」となっております。
 痘瘡門では「発熱の初め,いまだ麻痘(麻疹と痘瘡),傷寒,傷食(食あたり)等の症を分たざるによろしくこれを解散すべし。庶(こいねが)わくば誤ることなからんことを。升麻,葛根,白芍薬各三浅,甘草一銭,右を剉み一剤とし,生姜三片,水煎し熱服す。寒月には蘇葉(ソヨウ)八分を加う。四肢逆冷は桂枝(ケイシ)一銭半を加う」とあります。蘇葉は精油があり,発汗作用があるので加えるのだろうと思います。四肢逆冷は手足が下の方から冷え上がる状態で,現代的にいえば自律神経失調状態,末梢循環不全などが考えられます。桂枝は解熱作用以外に,末梢血管拡張作用や健胃作用が知られております。
 「腰痛は当にこれ痘と知るべし。桂枝一銭半を加う。時気酷烈,発熱甚しくば,すなわちこれ毒気盛んなり。牛蒡子(ゴボウシ)一銭半を加う云々」とあります。牛蒡子は血管拡張作用もあり,熱もよく下げます。
 以上を見ますと,現在はしかの薬とぐらいに考えられている升麻葛根湯は,昔は加味方もいろいろあり,広用範囲の広い薬であったことがわかります。またこれらの処方の中で芍薬,甘草の比率が微妙に変化しており,生姜が加わったり,加わらなかったりしております。
 次に『小児薬証直訣』での升麻葛根湯の条文を見ますと,『傷寒,瘟疫,風熱,壮熱,頭痛,肢体痛,瘡疹すでに発し, いまだ発せず,よろしくこれを服すべし」となっております。すなわち瘟疫,風熱は伝染病ですが,風熱の場合は悪寒が少ない,または悪風があるかないかという状態です。傷寒や伝染病で,劇しく熱が出て頭痛する時の病気に使うということになっております。細かく剉んで乾した葛根,升麻,芍薬,炙った甘草,各等量,以上を粗末(あらい粉末)となし,毎服4銭を水で煎じて飲みなさいとなっております。
 ここで面白いことは炙甘草(シャカンゾウ)を使っていることと,宋代のものとしては,この条文で書かれておりますように,また『和剤局方』にも書かれておりますように,一度末にしたものを煎じて飲んでいたことがわかります。それが『万病回春』のことになると湯になったと考えられます。
 時代が下り,清代の『医方集解(いほうしゅうかい)』では「升麻葛根湯は陽明傷寒,中風,頭痛,身痛,発熱,悪寒,無汗口渇,目痛鼻乾,臥するを得ず,および陽明発斑(発疹)出で,出でず,寒喧時ならず,人多く疾病を治す」となっております。まだ気候が定まらず,暖かかったり寒かったりする時に,人は多く とくに伝染病にかかる,それを治すということであります。また「裏実表虚の状態に使用される」とか,「発疹は軽い時は蚊の刺すごときだが,重いと錦のようだ」などと述べております。薬は「升麻三銭,葛根二銭,芍薬二銭,甘草炙って一銭に姜を加えて煎じる」。
 「頭痛のある時は川芎(センキュウ)、白芷(ビャクシ)(解熱,抗アレルギー,清熱剤)を加え,身痛,背強ばる時は羗活(キョウカツ),防風(ボウフウ)(解表剤)を加え,熱退かず,春には柴胡(サイコ),防風(解表剤),黄芩(オウゴン)(清熱剤)を加え,夏は黄芩,石膏(セッコウ)(清熱剤)を加え,頭面腫の時は防風,荊芥(ケイガイ),連翹(レンギョウ),白芷,川芎,牛蒡子,石膏を加う。咽痛の時は桔梗を加え,斑出ているか,十分出ていない時は紫草茸(シソウジョウ)を加える」。紫草茸は発疹を早く出す薬と昔は考えていたようです。アリマキ科のラックカイガラムシが分泌した物質です。「脈弱いもの人参(ニンジン)(補気薬)を加え,胃虚で食少なきもの白朮(ビャクジュツ)(健胃利尿剤)を加え,腹痛むには芍薬を倍にする」と書かれております。およそ発疹が出ようとするか,または出ていない時に飲みなさいという註釈があります。
 同じく清代の『医宗金鑑(いそうきんかん)』では,升麻葛根湯として「升麻,葛根,白芍薬,山梔子(サンシシ),柴胡(サイコ),黄芩各一銭,黄連(オウレン),木通(モクツウ),甘草各五分,水で煎じて任意の時に服用する」となっております。これでは升麻葛根湯の中に,清熱剤である山梔子,黄芩,解表剤であるサイコ,また清熱剤である黄連,利水剤である木通が予め加わっている形になっております。
 「心下熾盛の上によく酒を飲み熱い食物を好み,ために心癰(はれもの)を生じ,初めは巨闕穴に起こり,鈍痛があって病く腫脹し,寒気がし,身体面赤,口渇してよく飲むものを治す」となっております。心火は中枢神経系の作用をいっておりまして,よく笑ったり,ひどいとうわ言をいったり,場合によっては意識がなくなったりします。酒を飲んでゲラゲラ笑ったり,しゃべっている人もちょうど心火の状態であります。そして身体面赤とは体,顔ともに赤い状態を指しているものと思われます。そういうものに対して,升麻葛根湯がよいとされております。ここでは内容も少し変わっておりますし,対象も今までのものとは少し違うようであります。
 しかし日本でも,この『医宗金鑑』の系列に入る処方が,『古今方彙(ここんほうい)』の小児初生雑病に升麻葛根湯として伝わっております。「小児丹毒にて身体発熱して面紅く,気急,啼叫驚搐するなどの軽いを治す」。いわゆる子供の丹毒で,熱が出て顔が赤く,何か劇しく叫んで泣いたり,場合によると痙攣したりする状態に効くとなっております。
 「麻升,葛根,白芍薬,山梔子,黄芩,柴胡,木通,甘草を水に煎じ母子同じく服す」と書かれております。ここで面白いことは,薬が乳に出ることを考えているのかもしれませんが,母子ともに服すとなっているのは興味ある点だと思います。
 他方『万病回春』や「小児薬証直訣』の系列も日本に伝わっております。有名なものには曲直瀬道三(まなせどうさん)が作った「衆方規矩(しゅうほうきく)』があります。『衆方規矩』傷寒門では「陽明の症,目痛み,鼻乾き,眠らず,自汗ありて熱を悪むを治す」。小児門では「痘疹の疑わしき間にこれを用う。并びに傷寒,頭痛,時疫,憎寒壮熱,肢体痛み,発熱,悪寒,鼻乾き,目痛みて眠ること得ざるを治す。兼て寒喧不時人多く疫を病むを治す」となっております。時疫とは流行病のことです。憎寒壮熱はきわめて熱が強く,悪寒もまた強い状態をいっております。
 「葛根三匁,升麻,芍薬,甘草各二匁,右,姜を入れて煎じて服す。頭痛するときは葱白を加う。欬嗽には桑白皮を加う。上膈の熱には黄芩,薄荷を加う。汗なきには麻黄を加う。咽痛には桔梗,甘草を加う。発黄,丹毒には玄参を加う。癮疹は紅点,蚤の刺す状(かたち)のこどし,この湯に宜し」と続きます。癮疹は現在の蕁麻疹と考えられておりますが,この当来は紅い点が蚤にさされたように出ることをいっていたようであります。
 「小児の傷風,身熱し,頭と項強ばり,自汗表和せざるには黄芩を加う」。頭項強ばりとはちょうど neck stiffness とか Nackenstarre のような状態を表わしております。「瘡疹一たび苗を見れば(発疹が出てしまったら)用いべからず,これを慎め。冬月には紫蘇葉(シソヨウ)八分を加う。四肢厥冷には桂枝一匁を加う。時気発熱の甚しきはすなわち毒気盛んなり,牛蒡子一匁半を加う。腰痛むはまさにこれ痘なることを知れ,桂枝一匁半を加う。按ずるに癮疹を治する最上の方なり云々」とあります。これは『万病回春』と内容的には同じです。
 以上,日本でも,清の時代になって中国で発達したような升麻葛根湯にほかのものが組み込まれた薬方と,『万病回春』『小児薬証直訣』の系統を引く升麻葛根湯が現在伝わっていることがおわかりいただけると思います。


■現代における用い方
 現在のわが国の文献では,今まで述べてきた使用目的をまとめて,発疹を伴う熱性病の初期,流感で頭痛が強く,脳症状のあるもの,目が痛むもの,鼻が乾くもの,鼻血,眠れないもの,皮膚炎などに使用するとなっております。用量につきましては厚生省の『一般用漢方処方の手引き』,同じ厚生省の『日本薬局方外生薬規格集』などには,葛根5~6g,芍薬3g,升麻1~3g,甘草1.5~3g,生姜1~3gと書かれております。また,矢数道明先生,大塚敬節先生,山田光胤先生などのご本にもまったく同様の量が示されております。これに対して中国の文献の訳の中には葛根9gとか,芍薬6gとか,また芍薬は赤芍薬(セキシャクヤク)が使われたり,いろいろな升麻葛根湯があります。


■症例提示
 最後に使用治験を述べさせていただきます。山田光胤先生はふだんあまり強くない中年の女性で,急に蕁麻疹と微熱が出てきたというものに使った著効例を報告されております。
 また森白伯先生は,升麻葛根湯に白朮,川芎,細辛(サイシン)を加え,インフルエンザで高熱を出した脳症に使い効果をあげたという記録を報告しておられるそうです。一般には,はしかの初期で,まだ発疹が出ないか,出ても十分でき上がっていない,ちょうどコブリック斑が出るか出ないか,出ても形が崩れていない時期に使うのが一番よいと思います。
 しかし,私も数十人に使いましたが,残念ながら著効をいえるものは少ししかありません。むしろ拙見で申し訳ありませんが,小児で下痢など裏が虚した,症状のない高熱を伴う感冒の初期に使い,著効を得ております。18例中17例で,これは同時期に at random に使用したアスピリンやポンタール単独の67%より高率でした。詳しくは日本東洋医学会雑誌36巻をお聞みいただけると幸いです。これらより考えますと,高熱を伴う病初期で,実証の反応を伴ったものに使うのがよろしいかと思います。


野崎 豊:
小児初期発熱での漢方医学上の証の特徴に関する研究
『日本東洋医学会誌,36:35~42,1985 74』
諸論
 小児はお大に較べ情報量が乏しく,問診による情報は殆んどないといっても過言ではない。多角的に捉える四診も初期発熱の時期では極端な裏証や虚証を除き明らかではない。他方,小児の病気のうち,発熱を主訴として,来院する患者は多く,一般病院では1日の患者数の7割以上を占めることも珍しくない。今回,このような時期に如何なる証が多くみられるかを,無作為に漢方薬のみを投与し,各治療方剤に対する効果より考察した。

対象と方法
 山梨療養所小児科外来を一年半にわたって来院した太陽病期の疑われた103名を対象とした(発症後3日以内で下痢,嘔吐等,裏の証を認めず,浮脈と発熱を有し,確認できる者では悪風または悪感を確めた)。内訳は男子59名,女子44名,無汗例74名,自汗例29名であった。これらは本治療前に西洋薬治療は行われていない。そこで,西洋薬の併用を一切行わず,ツムラ順天堂エキス剤のみ(1日量0.1~0.2g/kg/日)の経口投与を行った。
 効果判定は投薬3日以内に発熱および諸症状の消失を認めた者を有効と判定した。さらに,東洋医学的証,例えば自汗等も完全に消失した者を著効を判定した。











 今回用いた表証方剤中,最も実証方剤と考えられる麻黄湯症例を表1に示した。投与例15名中,男子7名,女子8名,2歳以下(2歳を含む)5名,2歳以降10名,無汗例13名であった。葛根湯症例を表2に示したが,投与例22名,男子15名,女子7名,2歳以下10名,以降12名,無汗例21名である。桂枝湯合麻黄湯各半湯症例を表3に示したが,投与例17名,2歳以下10名,2歳以降7名,無汗例5名,男子12名,女子5名である(同処方名は以下けいまかくはんとうと略す)。桂枝湯葛根湯各半夏症果を表4に示したが、投与例8名,男子3名,女子
名,2歳以下2名,2歳以降6名,無汗例4名である(同処方名は以下桂葛各半湯と略す)。今回,用いた表証方剤中で,最も虚証方剤と考えられる桂枝湯症例を表5に示した。投与例23名,男子11名,女子12名,2歳以下11名,2歳以降12名,無汗例19名であった。表証方剤でなく,やや裏に入った所で作用する升麻葛根湯例を表6に示した。投与例18名,男子11名,女子7名,2歳以下12名,2歳以降5名,無汗例13名であった。

 成績
 投与量の違いによる(0.15g/kg/日以上と未満) 効果を調べたが差がなかったため,0.1~1.2g/kg/日投与にまとめて以下の検討を行った。

 1) 各方剤間での効果の比較
 図1に示したが,升麻葛根湯を除いた表証方剤間でみると,桂麻各半湯が最も有効率が高く88%,次いで,桂枝湯69%,麻黄湯と桂葛各半湯の67%であった。葛根湯が最低で45%であった。桂麻各半湯葛根湯間には有意差(P<0.05)を認めた。この成績は小児では桂麻各半湯証,即ち,麻黄湯桂枝湯証の中間位(以下中間証と略す)の病位にある症例が多かったことを示していた。

 次に升麻葛根湯をみると94%と表証方剤中実証方剤である麻黄湯葛根湯より有意(P<0.01~0.05)に高率であるばかりでなく,逆に虚証方剤である桂枝湯に比べても有意(P<0.01)に高率であった。升麻葛根湯は和剤局方中で(表7),「大人,小児の時気,瘟疫,頭痛,発熱,肢体煩疼を治す,瘡疹すでに発し,及び,いまだ発せず,疑似の間,宜しくこれを服すべし」また「量を加減して小児に用いるとよい」と書かれている。薬味より升麻が重要な働きをしていると思われるが,矢数先生の書には,「苦寒で清熱解毒の作用を持ち熱毒,咽頭痛等によい」ことが記されている。また,長濱先生の書では陽明経の本経薬であると記されている。このことは升麻葛根湯が表証方剤に較べ,やや裏に入った所で働くことを意味している。即ち,小児では表証中間証でやや裏証に傾くことが示された。無汗例のみについてみると(図2),表証方剤間では桂麻各半湯が最も有効率が高く,葛根湯と有意差(p<0.05)を認めた。升麻葛根湯をみると,桂麻各半湯を除くすべての間に有意差を認めた。このことは,自汗症より実証例を集めても,表証中間証でやや裏証の多かったことを示しており,虚実にかかわらず,小児の特徴として,初期発熱時には中間証:T虚実)でやや裏証になりやすいことが示された。

 2) 同一症例での検討
 1年半の間に何度か来院した症例をまとめて表8に示した。個々の時期による証は異なった当然であるが,まとめてみると,今回の成績では虚証方剤がまったく無効で,より実証方剤が有効であった例は1例もなく,また升麻葛根湯がまったく無効で,表証方剤が有効であった例もなかった。全体でみると前記の結果とほぼ同様であった。しかも,慢性変化と異なり,本人の体質を病気によって変えることの少ない初期発熱という時期を考えると,その個人の太陽病期の1つの反応の現われ方をとらえてるとも考えられる。この点より見ると,個人でみると1方剤のみに反応した例と多方剤に反応して効のあった例がみられ,今後の症例の積み重ねが大切であるが,証にもしかすると幅の広がりがある場合がある可能性も示唆されていた。

 3) 性差でみた各方剤間の有効率の比較
 図3にまとめて示したが,同一方剤内での比較では性差のあるものはなく,同一方剤内での比較では性差のあるものはなく,小児は中性であることを示していた。しかし,男子では桂麻各半湯葛根湯に比べて有意に高率(p<0.01)であったが,女子の表証方剤間では差がなかった。また,女子の麻黄剤の有効率(50%)と低値であったことや麻黄の入った方剤では,桂葛各半湯を除きすべて男子がl女子に較べ高率であったことなど考慮すると,太陽病期には,麻黄方剤に多少の性差のある可能性が示されていた。

 4) 各方剤の各令比較
 各方剤の年齢による比較を図4にまとめて示した。表証方剤間のみでみると2歳以下では桂葛各半湯(100%),桂麻各半湯(90%),桂枝湯(73%),麻黄湯(60%),次いで葛根湯(50%)であった。しかし,これらの方剤間には有意差は認めなかった。3歳以上(2歳以降)では桂麻各半湯(86%),麻黄湯(70%),桂枝湯(67%),桂葛各半湯(50%),葛根湯(42%)の順であった。そのうち,桂麻各半湯葛根湯間に有意差(p<0.05)を認めた。この成績は年令とともに,全体に分布していた証が,一定化して来ている可能性を示唆していた。その他,桂枝湯がやや減り,麻黄湯が率をあげていることより,年長児が年少児に較べやや実証化している可能性もある。しかしこの点に関しては症例を増して今後,検討を行いたい。
 升麻葛根湯は2歳以下では92%,以降では100%であった。この両者間には有意差はなかったが,2歳以下ではみられなかった表証方剤との間の有意差が,3歳以上では麻黄湯葛根湯桂枝湯との間に認められた。このことは表裏の関係でみても証の一定化が年令と共に起きてくることを示していた。

 考案
 随証治療の観点よりみると,年令差か性差を論ずることはおかしいと考えられるが,他方,若年者では麻黄剤が比袋的(体重当り)多くの量を使用出来たり,老人には地黄や附子の入った方剤が使用出来る場合が多いのも事実である。この年令差や性差に関して,曲直道三が切紙の五十七ヶ月の中で,「少年壮盛老衰可異治㕝、男一婦有尺寸之別診気血之異治也」と述べている如く,昔から認める人がいたことも事実である。近年では稲木・山田は渋谷診療所の多数の患者の分析にて,性差のあることを報告している。小児期の証については水毒体質がよくいわれる所である。この点については西洋医学上でも小児の体内水分量の占める割合は大人のそれに比較し,高いことでもその合理性が示唆される。しかし,西洋医学上,小児の代謝,特に発熱時におけるその変化は大人のそれと較べると高い。即ち基礎代謝はそれほど違わないものの,1℃の体温上昇に対し大人は脈10/分の上昇を示すにすぎないのに,小児では脈20/分も上昇することからも分かるが,熱に対する代謝の亢進は,小児がはるかに高いことが知られている。ところが,東洋医学上,この点を言及したものはない。今回の成績で,発熱に対し小児では桂麻各半湯と升麻葛根湯の有効率が他に較べ著しく高率であったことは,前者は熱多く寒少ない状態に,後者は陽明経に引経する処方である点からみて,小児では陽性の反応が強いことが示されていた。これは西洋医学上,小児の熱に対する代謝亢進のはげしいことの東洋医学上の1つの証明とも考えられた。また,水毒体質は冷えとの関わで論じられることが多いが,熱に対して論じられることは少ない。小児では,その本質に陽性があるため,発熱の影響が代謝亢進や水分蒸発の促始等を通じて裏に何か影響を及ぼすことが示唆された。臨床上,小児寒がることが少なく,熱がってのどが乾くように症状が多く,時には温病の状態を呈することも少なくない。このことは今回の結果と共通した点が少なくない。
 以上、若干の治験を得たので報告する。
本要旨は第35回東洋医学会総会で報告した。


『漢方医学十講』 細野史郎著 創元社刊
p.94
 麻疹の初期に発疹を促すために升麻葛根湯を用いるが、単に葛根湯に升麻を加えても充分効くものである。


副作用
重大な副作用と初期症状
1) 偽アルドステロン症: 低カリウム血症、血圧上昇、ナトリウム・体液の貯留、浮腫、体重増加等の偽アルドステロン症があらわれることがあるので、観察(血清カリウム値の測定等) を十分に行い、異常が認められた場合には投与を中止し、カリウム剤の投与等の適切な処置を行う。
2) ミオパシー: 低カリウム血症の結果としてミオパシーがあらわれることがあるので、観察を十分に行い、脱力感、四肢痙攣・麻痺等の異常が認められた場合には投与を中止し、カリウム剤の投与等の適切な処置を行う。
[理由]
 厚生省薬務局長より通知された昭和53年2月13日付薬発第158号「グリチルリチン酸等を含 有する医薬品の取り扱いについて」に基づく。
 [処置方法]  原則的には投与中止により改善するが、血清カリウム値のほか血中アルドステロン・レニ ン活性等の検査を行い、偽アルドステロン症と判定された場合は、症状の種類や程度により適切な治療を行う。
低カリウム血症に対しては、カリウム剤の補給等により電解質バランスの適正化を行う。

2014年9月17日水曜日

桂麻各半湯(けいまかくはんと)(桂枝麻黄各半湯(けいしまおうかくはんとう)) の 効能・効果 と 副作用

漢方薬の実際知識 東丈夫・村上光太郎著 東洋経済新報社 刊
4 表証
表裏・内外・上中下の項でのべたように、表の部位に表われる症状を表証という。表証では発熱、悪寒、発汗、無汗、頭痛、身疼痛、項背強痛など の症状を呈する。実証では自然には汗が出ないが、虚証では自然に汗が出ている。したがって、実証には葛根湯(かっこんとう)麻黄湯(まおうとう)などの 発汗剤を、虚証には桂枝湯(けいしとう)などの止汗剤・解肌剤を用いて、表の変調をととのえる。

6 桂枝麻黄各半湯(けいしまおうかくはんとう)  (傷寒論)
〔桂枝湯と麻黄湯の合方〕
表証である悪感、発熱、頭痛があり、汗が出ないが体力は弱く、虚実の中間のものに用いられる。汗が出ないために、皮膚がかゆく感じられるものを目標とすることもある。
〔応用〕
つぎに示すような疾患に、桂枝麻黄各半湯證を呈するものが多い。
一 感冒、気管支炎その他の呼吸器系疾患。
一 皮膚瘙痒症、じん麻疹、湿疹その他の皮膚疾患。



明解漢方処方 西岡 一夫著 ナニワ社刊 
p.67
桂麻各半湯(けいまかくはんとう) (傷寒論)

処方内容 桂枝二・〇 芍薬 生姜 甘草 麻黄 杏仁 大棗各一・〇(八・〇)

必須目標 ①蕁麻疹(顔面、手足などの露出部分に発生し、砂のような小さな赤い斑点で痒みが劇しい) ②顔面紅潮 ③脉浮 

確認目標 ①腹部には発生しない ②大小便に異常がない ③食中毒によるものでない。

初級メモ ①汗腺の機能障害を治す薬で、寒冷蕁麻疹に繁用する。
②桂枝湯は自汗あり。麻黄湯は無汗で、その両者を合したので甚だ方意に苦しむ。現に吉益南涯は後人の攙入として傷寒論より削除している程である。がこれは条文によれば表熱病を誤治して壊証となり、汗腺の機能障害を起こしている場合の薬で実証の発汗剤である。

中級メモ ①傷寒論の本方の条文は錯乱している、これを復原されたのは荒木正胤氏で「身必痒」は桂枝二越婢一湯(大青竜湯より芍薬を去る)の条文に移すべし、という(漢方と漢薬一一巻七号)。

適応証 寒冷蕁麻疹。乾性皮膚病。



和漢薬方意辞典 中村謙介著 緑書房
桂枝麻黄各半湯(けいしまおうかくはんとう) [傷寒論]

【方意】 表の寒証による頭痛・悪寒・発熱・欬嗽等と、熱証による熱感・顔面紅潮等のあるもの。
《太陽病.虚実中間証》


【自他覚症状の病態分類】

表の寒証 熱証

主証 ◎頭痛
◎悪寒 ◎発熱
◎欬嗽
◎熱感
◎顔面紅潮


客証  咽痛
 項背痛
 身疼痛
 腰痛
 知覚異常
 知覚鈍麻
 瘙痒感
 高熱
 自汗





【脈候】 浮で脈力中等度・やや浮やや弱・浮で力あり・浮やや数。

【舌候】 著変なし。またはやや乾燥して無苔。

【腹候】 腹力中等度で著変なし。

【病位・虚実】 構成病態に表の寒証があり、更に浮脈より太陽病に位置する。脈力、腹力共に中等度のため虚実中間である。

【構成生薬】 桂枝5.0 大棗3.0 芍薬3.0 甘草3.0 麻黄3.0 杏仁3.5 生姜1.0

【方解】 本方は桂枝湯と麻黄湯との1/3ずつの合方であって、重複する生薬はそのまま合せて加えてある。また、桂枝湯に麻黄・杏仁が加わったものと考えることもできる。麻黄・杏仁は共に表の水毒による欬嗽に対応するため、本方には桂枝湯証にはみられないこれらの症状が存在する。一方本方には麻黄・桂枝の組合せがあるため、麻黄湯証ほど強くはないが、桂枝湯証よりは深部の疼痛に有効である。本方のような温剤を用いなければならない場合には、一般に身体は寒冷を感じて体表を引きしめ、熱の放散を極力抑えて効率よく産熱にはげむ。しかし本方証の患者では体温調節失調をきたしているのか熱証が存在し異常な病態を呈している。

【方意の幅および応用】
 A 1表の寒証:頭痛・悪寒・発熱・欬嗽等を目標にする場合。
    咽痛で始まる感冒、遷延性の感冒、種々の熱性疾患の初期
   2表の寒証:項背痛・身疼痛・腰痛等を目標にする場合。
    感冒の腰痛、腰痛症。
B   熱証:熱感・顔面紅潮・瘙痒感等を目標にする場合。
    蕁麻疹・皮膚瘙痒症などで痒み・発赤があり、発疹・分泌液等の皮膚症状の少ないもの

【参考】 *太陽病、之を得て八九日、瘧状の如く、発熱悪寒し、熱多く寒少なく、其の人嘔せず、清便自可ならんと欲し、一日二三度発し、面白反って熱色ある者は、未だ解せんと欲せざる也。身必ず痒し。桂枝麻黄各半湯に宜し。『傷寒論』
*桂枝湯、麻黄湯、二方証相い半ばする者を治す。『方極附言』
*此の方は外邪の壊症になりたる者に活用すべし。類瘧の者は勿論、其の他風疹を発して痒痛する者に宜し。一男子、風邪後腰痛止まず、医、疝として療し、その痛益々劇し、一夕此の方を服せしめ、発汗して脱然として愈ゆ。『勿誤薬室方函口訣』
*本方は日数を経てなお太陽病位にあるカゼ等の疾患に用いるが、咽喉痛をもって発するカゼの初期にも用いられる。
*本方意には桂枝湯の自汗と麻黄湯の欬嗽とが混在する。
*本方意には裏証を伴わないために二便に変化がない。同様に悪心・嘔吐もない。また、瘙痒症に用いる場合でも皮膚症状が少ないことが目標になる。


【症例】 のどチク奮戦記
 風に吹かれながらウトウトしていたのがいけなかった。ホテルに近づく少し前あたりから、のどがチクチクと痛んできて、両肩から大椎のあたりへかけて、何となくうそ寒い。上衣のボタンをかけ、座席に身をすくめていると、肩のあたりは依然として寒いのに、そのほか全体は何となくむし暑くベットリと汗ばんでくる。鼻水がしきりに出はじめる。宿に着くや否や、麻附細を服用。20分ほどしても、のどは依然として痛く、鼻水も止まらない。食事をしていると、顔も体も暑くて、しきりに汗が出るが、やはり肩から大椎のあたりへかけての、平たい逆三角形の部分が寒い。食事も早めに引きあげ、もう一服麻附細を飲んでベッドにもぐる。一晩中ジトジトと汗をかき、熟睡できないままに早朝に目覚める。洗面所で顔を見ると、異常に赤い。依然としてのどは痛む。脈はかなり速く、浮でやや緊。諸症状は、昨日と少しも変わらない。むしろ熱が高くなっているようだ。麻附細を飲む。早く治さぬと気管におちこむと気が気でないが、一向に良くならぬ。一日ベッドにもぐっていたい所だが、そうもいかない。夕方、宿舎に帰りつく。症状は依然として変わらず、暑くて汗ばみ、そして寒く、かつ鼻水が出る。頭ははじめから全く痛まなかった。麻附細を飲んで寝る。依然のどは痛む。何となくいがらっぽくなってきた。その夜、暑く、かつ寒く、寝苦しい。全身が汗ばんで気持ちが悪い。3時に目覚める。脈は依然として浮数やや緊。腕がかゆい。つばを飲んでみる。やはりまだのどが痛い。わずかに咳が出はじめる。のどにかすかに痰がからむ。待てよ。昨日の朝、あんなに顔が赤かったではないか。自汗が終始つき光選工ているではないか。左腕がかゆいではないか。体が熱くて、汗が出るのに、肩の一部に悪寒を感ずるではないか。そうだ、これははじめから桂枝麻黄各半湯の証だったのだ。
 そこで早速、桂枝湯エキスと麻黄湯各2.0を合わせて服用し、またベッドにもぐる。するとどうだろう。さっきまではジトジト汗ばんで不愉快だったのに、今度はさらっとしていて、実にサッパリしている。自汗が止んだのだ。そのうち、2、30分すると、しっとりと汗ばんできて、体全体がもみほぐされるように心地良い。つばを飲みこんでみると、のどの痛みはすでに半減している。今度はピタリと証に合ったのだ。鍵は錠前の鍵穴にキッチリとはまり、いまや錠前は開かれつつあるのだ。やがて夜の明ける頃には微似汗も全く止み、のどの痛みは完全に消えうせ、3日ぶりに爽快な朝を迎えることができた。
藤平健 『漢方の臨床』 22・11・31


『漢方臨床ノート 治験篇』 藤平健著 創元社刊
p86
 咳の治療経験
p.88
 〔3〕 桂麻各半湯
 こじれたカゼの咳には桂枝二麻黄一湯、桂麻各半湯、桂枝二越婢一湯の三方がしばしば応用せられる。この中でも桂麻各半湯は最も頻用される薬方である。
 10歳の小女。一週間ばかり前にカゼをひき、熱はひいたが、だんだん咳がひどくなってきた。ことに夜寝てから特に激しく咳込む。
 脈は浮数やや弱。発汗の傾向はない。舌には乾湿中等度の薄い白苔がある。腹力は中等度よりやや軟で、心下に軽い抵抗と圧痛があり、右肋骨弓下にも軽度の抵抗と圧痛とがあり、両腹直筋も軽度に緊張している。すなわち軽度の心下支結と胸弦苦満とがあるわけである。この女児は平素やや虚弱で、疲れやすく、カゼをひきやすいため、今まで断続的に柴胡桂枝湯をのんでいた患者である。したがって現在このような腹候が見られるからといって、直ちにこれに食い付くわけにはいかない。先急後緩の原則にしたがって、まず急を要するほうから治さなくてはならない。慢性症はしばらく措いておいて、急性症をまず治めなくてはならない。そこでこれらの腹候にはかかわりなく桂麻各半湯三日分を与えた。これがうまく当たって、さしもの咳も三日でおさまった。
(「古医学研究」6巻2号、昭和35年2月)

p.354
 頭痛の治験例
p.355
 〔第3例〕 感冒後の頭痛
 患者は27歳の顔色悪き中背の婦人。約三週間前カゼをひいた。熱や悪寒はなくなったが、頭痛が残ってしまって、どうしてもとれない。
 〔自覚症状〕 ときに咳が出るが、痰はほとんどない。食思はあまり良好でない。二便に著変がない。
 〔他覚症状〕 脈はやや浮。舌にはわずかに乾燥した微白苔があり、腹力は中等度で左右の腹直筋がわずかに拘攣している。
 〔診断ならびに経過〕 桂枝麻黄各半湯の証とみて、三日分を投与。二日間の服用で、三週間苦しんだ頭痛が完全に消退した。
(「古医学研究」2巻10号、昭和31年10月)


『漢方医学〔1〕』  社団法人日本東洋医学会編 財団法人日本漢方医学研究所発行
p.95
桂麻各半湯
 これは傷寒論にある漢方であって,太陽病の桂枝湯と麻黄湯との中間位にあって,両者の合方というような形のものであります。

 内容
 桂麻各半湯正しくは,桂枝麻黄各半湯は,桂枝,芍薬,生姜,甘草,麻黄,大棗,杏仁の7種類の構成から成り立っております。これは桂枝湯1/3量と麻黄湯1/3量を合せたものであります。つまり太陽病の桂枝湯証と麻黄湯証が同時に存在しておりますので,両者の処方の合方によって,同時に治癒をはかるという形をとっているのであります。表証-体表に現われる発熱,痛み,などの諸症状-はあつても桂枝湯証は,脈が浮弱,悪寒,発熱があって,のぼせ,身体痛,発汗しやすいという証が認められますし,麻黄湯証は,脈は浮緊で,悪寒,悪風,発熱,頭痛があり,欬嗽,胸満(胸が一杯になったように苦しい),身体痛,関節痛,腰痛などがあり,自然には発汗しない状態にある場合です。つまり麻黄湯は表実証であって,桂枝湯は表虚証でありますので,桂枝麻黄各半湯は,その中間にある証を示すわけであります。具体的に申しますと,麻黄湯証があって,それにそれよりも弱い,幾分桂枝湯証に傾いた証を現わすということであります。

 目標
 桂麻各半湯は感冒,気管支炎,皮膚瘙痒症,蕁麻疹,湿疹のある時期のものなどに用いられます。

 症例
 (1) 5才の女児,昨年より欬嗽がすこしあったが,今朝から悪寒して発熱したということです。体格は中くらいで,色はやや黒く,しまった身体をしています。頭痛,四肢の筋肉痛があ識。脈でやや緊の方でありますが,舌苔はありません。麻黄湯を用うるには,すこし症状も軽く,脈もあまり緊張も強くないようですし,食欲も便通も悪くないので,桂麻各半湯を与えましたが,翌日は平熱となって元気になったということです。
   (※昨年より欬嗽が少しあった? → 昨日より欬嗽が少しあった の方が正しいのでは?)

 (2) 28才の男子,中肉中背で,昨夜より悪寒,発熱があったが,今朝は腰痛が強くなったということであります。脈は浮数で,やや緊張が弱い方だが,浮弱というほどではないようです。自汗はないが,すこし食欲が落ちているということです。頭痛や,腰痛があります。現在は6月なので,流感という線が強いようです。麻黄湯を用うるには,脈がすこし弱いようですが,葛根湯を用うるには項背強という証が認められませんので,麻黄湯よりすこし弱いという点で桂麻各半湯を用いましたが,翌日は正常になったようです。

 (3) 50才の男子,体格は中等,栄養も良好ながっしりした身体つきであります。本日昼間より,身体が赤くなって,掻痒感がつよいということです。食欲も便通も正常とのことです。腹証に胸脇苦満などはなく,舌苔も認めません。脈は沈緊であって,胸腹部には赤い細かな発疹が認められて,搔把した爪痕よって,その痕が隆起しております。蕁麻疹ですが,皮膚の広範囲の発赤,発疹より桂麻各半湯を投与して,数日を経ずして軽快しました。

 鑑別
 麻黄湯は脈証も,表証としての主訴も桂麻各半湯よりは強くて,表実証であります。
 葛根湯は脈浮緊であって,項背強という証があって,首すじの強ばりを訴えます。桂麻各半湯よりは,すこしく実証の方であります。
 桂枝湯は,体格的には同様ですが,自汗を伴う点で,桂麻各半湯より表虚証です。
 麻黄附子細辛湯は,悪寒はっても熱感はすくなく,脈も沈んでいて,陰証の症状が明らかです。
 真武湯は,脈はやや弱く,悪寒も熱感も強くなく,高熱であっても,身体は熱がらない。自汗はなく,時に下痢を伴うことがあります。小児では鑑別の困難なこともあります。




『健保適用エキス剤による 漢方診療ハンドブック 第3版』
桑木 崇秀 創元社刊
p.218 
桂麻各半湯(けいまかくはんとう) <出典> 傷寒論(漢時代)

方剤構成
 麻黄 杏仁 甘草 桂枝 芍薬 生姜 大棗

方剤構成の意味
 桂枝湯と麻黄湯の合方である。桂枝湯は自然に汗の出やすい体質の人の発散剤,麻黄湯は汗の出にくい体質の人の発散剤であるが,これを合わせたものは麻黄と桂枝を共に含むので,麻黄湯と同じく強い発汗剤となり,汗の出にくい体質向きの方剤ということになる。
 さて合方と言っても,甘草と桂枝は共通するので,麻黄湯から見れば,これに芍薬と生姜・大棗の組を加えたものと見ることができる。芍薬は桂枝湯のところでも述べたように,いわゆる「風邪(ふうじゃ)」を治す薬であり,鎮痛・鎮痒作用があることが知られている。生姜・大棗の組は一種の緩和作用であるから,麻黄湯の発汗作用に,鎮痛・鎮痒作用が加わり,それにさらに緩和作用が加わったと見ればよかろう(したがって,麻黄湯よりはやや虚証向きと言える)。
 もう一との見方は,桂枝湯に麻黄と杏仁が加わったと見る見方で,桂枝湯が汗の出やるい虚弱児のアセモなどに用いられたことは既に述べたが,これを汗の出にくい体質向きにつくり変えたと見ることもできよう。ただこの場合,杏仁は不要かと思われるが,杏仁に祛痰作用があることと関連して,杏仁が発疹の発散に役立つ可能性も否定できない。

適応
 自然に汗の出にくい体質の者の皮膚掻痒症,蕁麻疹,湿疹の初期(急性期)。
 ただし,発疹がほとんどないか,軽度のもの。また明らかに熱証の者には適さない。
 やや温性であるが,証は特に考慮しないで用いることができる。



『健康保険が使える 漢方薬 処方と使い方』
木下繁太朗 新星出版社刊




桂麻各半湯(けいまかくはんとう)
傷寒論(しょうかんろん)
 東

どんな人につかうか
 桂枝湯(72頁)と麻黄湯(200頁)を、それぞれ半量ずつ合方したもの。比較的体力の弱い人で、頭痛、悪寒(おかん)、発熱のある人の咳(せき)や皮膚のかゆみに用い、こじれた風邪(かぜ)、蕁麻疹(じんましん),皮膚炎,麻疹(ましん)、風疹などに応用します。

目標となる症状
 ①発熱。②寒気(さむけ)。③頭痛。④かるい咳(せき)。⑤無汗。⑥蕁麻疹(じんましん)、皮膚炎(顔面、手足に赤い斑点(はんてん)があって,かゆみが強く,多少熱を伴う)。⑦自面紅潮。

 不定。  浮、弱。  薄い白苔(はくたい)。

どんな病気に効くか(適応症) 
 感冒せきかゆみ。気管支炎、麻疹、風疹、蕁麻疹(じんましん)、湿疹、皮膚炎。

この薬の処方
 桂枝(けいし)3.5g、芍薬(しやくやく)、生姜(しようきよう)、甘草(かんぞう)、麻黄(まおう)、大棗(たいそう)各2.0g。杏仁(きようにん)2.5g。
この薬の使い方 
前記処方を一日分として煎(せん)じてのむ。

東洋桂麻各半湯(けいまかくはんとう)エキス細粒(さいりゆう)、成人一日4.5gを2~3回に分け、食前又は食間に服用する。

使い方のポイント・処方の解説
桂枝湯(けいしとう)では力不足、麻黄湯(まおうとう)では強すぎるといった場合に用います。
桂枝湯(けいしとう)と麻黄湯(まおうとう)を半々に合方したので、桂麻各半湯(けいまかくはんとう)といいますが、見方を変えれば、葛根湯(かつこんと う)の葛根(かつこん)を杏仁(きようにん)に変えたものに相当し、頚(くび)、肩のこりをとる作用は弱くなるが、鎮咳(ちんがい)、袪痰(きよたん)作用が強まります。
皮膚炎にも良く用いますが、発疹(はつしん)が顔面、手足などの露出部に出ていて、腹部にはないような場合に用います。
エキス剤では、桂枝湯(けいしとう)エキス、麻黄湯(まおうとう)エキスを、半々に加えて用いてもよく、小児の感冒にも有効例が報告されています。
傷寒論には「太陽病、之(これ)を得て八九日、瘧症(ぎやくじよう)の如く、発熱悪寒し、熱多く寒少なく、其の人嘔(おお)せず、清便(せいへん)自家せんと欲し、 一日二三度発す、其の少しも汗出ずるを得る能わざるを以て、身必ず痒(かゆ)し、桂枝麻黄各半湯(桂麻各半湯)に宜(よろ)し」と記載されています。


『図説 東洋医学 <湯液編Ⅰ 薬方解説> 』 
山田光胤/橋本竹二郎著 
株式会社 学習研究社刊

桂枝麻黄各半湯(けいしまおうかくはんとう)

  やや虚  
   中間  
  やや実 

●保 出典 傷寒論 別名 桂麻各半湯(けいまかくはんとう)

目標 比較的体力の低下した人および体質虚弱の人。頭痛,発熱,悪寒(おかん)があり,脈は浮で緊張も弱い。喘咳(ぜんがい)を伴う。発汗しないので,皮膚がかゆい場合にもよい。

応用 感冒,気管支炎,皮膚瘙痒(そうよう)症。(その他:蕁麻疹(じんましん),湿疹の初期)

説明 本方証の虚実は,麻黄湯と桂枝湯の中間にある。皮膚瘙痒は,皮膚に異常がなく,汗腺がふさがって発汗を妨げられる場合で,発汗を促してかゆみを治す。

桂枝(けいし)3.5g 大棗(たいそう)2.0g 杏仁(きょうにん)2.5g 麻黄(まおう)2.0g 甘草2.0g 芍薬2.0g 生姜3.0g




副作用
重大な副作用と初期症状
1) 偽アルドステロン症: 低カリウム血症、血圧上昇、ナトリウム・体液の貯留、浮腫、体重増加等の偽アルドステロン症があらわれることがあるので、観察(血清カリウム値の測定等) を十分に行い、異常が認められた場合には投与を中止し、カリウム剤の投与等の適切な処置を行う。
2) ミオパシー: 低カリウム血症の結果としてミオパシーがあらわれることがあるので、観察を十分に行い、脱力感、四肢痙攣・麻痺等の異常が認められた場合には投与を中止し、カリウム剤の投与等の適切な処置を行う。
[理由]
 厚生省薬務局長より通知された昭和53年2月13日付薬発第158号「グリチルリチン酸等を含 有する医薬品の取り扱いについて」に基づく。
 [処置方法]  原則的には投与中止により改善するが、血清カリウム値のほか血中アルドステロン・レニ ン活性等の検査を行い、偽アルドステロン症と判定された場合は、症状の種類や程度により適切な治療を行う。低カリウム血症に対しては、カリウム剤の補給等 により電解質 バランスの適正化を行う。

その他の副作用


頻度不明
過敏症注1) 発疹、発赤、そう痒等
自律神経系 精神興奮等
消化器 食欲不振、胃部不快感、悪心、嘔吐等
泌尿器 排尿障害等


 注1) このような症状があらわれた場合には投与を中止すること。