tag:blogger.com,1999:blog-68279123202357331852024-03-13T17:59:11.788+09:00健康情報Unknownnoreply@blogger.comBlogger383125tag:blogger.com,1999:blog-6827912320235733185.post-74180735940926765362021-11-11T00:15:00.018+09:002022-05-23T22:50:36.875+09:00『漢方薬の実際知識』の生薬の配剤からみた薬方解説<p> まえがき</p><p> 昨今、日増しに伝えられる公害問題や薬の副作用などによって、漢方薬が見なおされ、いわゆる副作用のない薬として、一般大衆の漢方への関心がたかまってきている。これらのことを反映して、漢方薬関係書が数多く出版されている。したがって、近時一般大衆の漢方薬への知識は、かなりたかくはなっているが、まだ民間薬との区別さえわからない人がほとんどといってよい。そのため、なまはんかな勉強をした一般大衆による素人療法がまかりとおっている。しかし、漢方薬も誤った使い方をすれば、死への転帰をたどったり、あるいは病気が悪化したり、下痢が止まらなくなったりすることもまれではない。一般素人がいだいている”漢方薬だから作用はおだやかである”という考えだけで使用することは、おそろしい結果を招くことにもなる。</p><p> 一般素人のかたが漢方薬を使用する際には、専門家の指導を受ける必要のあることはいうまでもないことである。</p><p> ところで、漢方薬を系統的に記した書物は、あんがい、みあたらないようである。そこで本書は、これらのことを考え、漢方薬の薬方を構成する意義から説き起こし、各薬方の関連性についてのべ、主要漢方生薬の解説を行なった。さらにその内容については、一般素人にもわかりやすく、正しい漢方薬の知識がえられ、また、漢方薬について知識のある人にとっても、薬方の整理をする一助ともなれるように心がけたつもりである。</p><p> 昭和四七年一一月</p><p> </p><p>増補によせて</p><p> 本書は「まえがき」で記しているように、漢方薬が薬方を構成する意義から説き起こし、各薬方の関連性について述べ、主要薬方解説を記したが、漢方薬が薬方を構成する理由のところでほんの一部を記したにすぎないため、主要薬方解説での、1 柴胡剤、2 順気剤、3 駆瘀血剤、……などの区分がなぜなされているかの理由を明瞭には記していない。したがってともすればこの区分を、ただ単なる薬方の羅列であると思い、安易に見過ごしがちである。</p><p> しかし本書の区分はただ単に薬方を分類するためにあるのではなく、一面では生薬の配剤による変化を追うとともに、他面では類似の薬効(薬方の効く部位、病人の体力、病勢)を追って区分されている。いいかえれば本書の区分の意図は、薬方の方意を正しく把握し、随證療法を単純化することにある。</p><p> 随證療法の単純化は次のようにして行なわれる。すなわち、患者の病状により得られた各種の情報を気、血、水に分類し、それが主に気だけの場合には気順剤を、主に水だけの場合には駆水剤を、主に血だけあるいは気と血、血と水、気と血と水の場合には駆瘀血剤(気と血と水の場合には解毒剤、下焦の疾患、その他の項に記された薬方を用いることもある)を用いる。しかし、それが気と水の場合には複雑で、患者の症状によって種々のものが用いられる。すなわち、1 胸脇苦満あるいはそれに類する症状があれば柴胡剤を、2 症状が表証のみであれば、表証、麻黄剤を、3 中焦の症状が主であれば建中湯類を、4 裏証の症状が主であれば裏証Ⅰ(冷え)、裏証Ⅱ(冷えと新陳代謝の低下)を、5 便秘なら承気湯類を、6 心下痞があれば瀉心湯類を、7 以上のいずれにも該当しなければ解毒剤、下焦の疾患、皮膚疾患、その他の項に記載の薬方を用いる。</p><p> いうまでもないことであるが、合病であるならば同じことを再度繰り返して薬方を合わせて使用すればよいのである。しかし、生薬は組み合わせて用いれば薬効が変化することがあり、いま、合方した薬方がはたして目的とする薬効を発現させるかどうかを見きわめなければ使用することはできない。このためにも組合わせによる変化を正しく把握しておかなければならない。</p><p> このような理由により、「第九章 生薬の配剤からみた薬方解説」を追加したものである。</p><p> 昭和五六年六月</p><p> </p><p>2 漢方薬が薬方を構成する理由</p><p> 生薬を二種以上、同時に使用した場合、そのときに現われる薬効が、単にそれぞれ単独で使用したときに起こる作用を合わせただけ(相加作用という)であるならば、症状をみて各症状に有効な生薬を加え合わせればよいことになる(漢方薬以外の薬は、このような考え方で組み合わされている)。</p><p> しかし、二種以上の生薬をまぜて服用したときに起こる現象は、ただ単にそれぞれの生薬によって起こる作用を加え合わせたということでは、説明のつかないことが多い。あるときはその作用が、ただ単に加え合わせたと考えられる以上に強くなり(相乗作用という)、あるときは弱くなり(相殺作用という)、またあるときは、まったく別の作用を示す(方向変換という)。たとえば、麻黄(まおう)を例にとってみると、麻黄単独の作用は、発汗剤で皮膚の排泄機能障害を治すものである。ところが、この麻黄に桂枝(けいし)を加えると、発汗剤となり、石膏を加えると、止汗剤(方向変換)となる。さらに麻黄と桂枝と石膏の三種を合わせると、麻黄と桂枝の作用である発汗作用が助長される(相乗作用)。また麻黄に朮(じゅつ)を加えると、利尿剤(方向変換)となり、麻黄に杏仁(きょうにん)を加えると、鎮咳剤(方向変換)になる。このように、加えられる相手によってその作用が変わっていくわけである。</p><p> 附子の作用は、組み合わされた相手によって、その作用するところが異なってくる。たとえば、附子に桂枝、葛根(かっこん)、麻黄などの表(ひょう)へ行く生薬を加えると、附子の作用は表に誘導され、表の組織を温め、表皮の新陳代謝機能をたかめるが、乾姜(かんきょう)、黄連(おうれん)、黄芩(おうごん)、人参(にんじん)、茯苓(ぶくりょう)など半表半裏(はんぴょうはんり)から裏(り)へいく生薬を加えると、附子の作用は半表半裏から裏に誘導されて、内臓諸器官の新陳代謝をたかめ、体表にまではその作用がおよばない(第九章参照)。また防已(ぼうい)、細辛(さいしん)、白朮(びゃくじゅつ)、芍薬(しゃくやく)など全身にいく生薬を加えると附子の作用は全身にゆきわたり、全身の新陳代謝機能をたかめるようになり、半夏(はんげ)、梔子(しし)など咽部から胸部にいく生薬を加えると、附子の作用は食道、咽部、胸部の新陳代謝機能をたかめるようになる。</p><p> したがって、一つ一つの薬物の作用を知っているだけでは、組み合わされたものの薬効はわからない。しかし、すべての生薬の組み合わされた作用を知ることは無理であり、また実用的飛はない。ここに、発病から死にいたるまでを克明に記録し:病勢の変化をとらえ、そのときどきに必要な一連の薬方をさきにつくっておき、病人の現わした症状から、どの時期であるかをみきわめ、それに対応する薬方を与えるほうが合理的である。このように漢方では、生薬単独の作用のみならず、まぜ合わされたときの作用も明確に把握するために薬方というものがつくられたわけである。</p><p> </p><p>第九章 生薬の配剤からみた薬方解説</p><p> 漢方治療は随證療法であることは既に述べたが、このことは言い方を変えれば、病人の現わしている「病人の證」と、生薬を組み合わさたときにできる「薬方の證」とを相対応させるこということである。 「病人の證」は四診によって得られた各種の情報を基に組み立てされ、どうすれば(何を与えれば)治るかを考えるのであるが、「薬方の證」は配剤された生薬によって、どのような症状を呈する人に与えればよいかが決定される。したがって「病人の證」と「薬方の證」は表裏の関係にある。「薬方の證」は一つの薬方では決まっており、「病人の證」は時とともに変化し、固定したものではない。</p><p> しかし、「病人の證」、「薬方の證」いずれもが薬方名を冠しているため、あたかも證の変化がないように「病人の證」を固定化して考え、変化のない薬方の加減、合方などを極端に排除したり、あるいは反対に各薬味の相加作用のみによって薬方が成立していると考え、無責任な加減がなされるなど、間違ったことがよく行われている。本書の薬方解説は 第二章 2漢方薬が薬方を構成する理由 のことろで明記しているように、生薬の配剤を基に記しているが、配剤に関しての説明が不十分である。したがって薬方解説の各節の区分の理由を明確にし、加減方、合方などを行なうときの参考となれるよう記した。</p><p> 二種以上の生薬を組み合わせて使用したときに起こる現象は相加作用、相殺作用、相乗作用、方向変換などで言い表わされることは既に述べたが、一般の薬方のような多種類の生薬が配剤された場合においてはさらに複雑で、桂枝、麻黄、半夏、桔梗、茯苓、附子などのように個々の生薬の相互作用で理解できるものと、柴胡、黄連・黄芩、芍薬などのようにその生薬の有無、量の多少によって薬方の主證あるいは主證の一部が決定するものとがある。したがってある薬方の薬能を考えたり、薬方を合方して使用する場合にはそれらのことを注意して考えなければならない。</p><p>1 生薬の相互作用で理解できるもの</p><p>1 桂枝について</p><p> 消えしは発汗剤であるが、麻黄または防風と組み合わされれば発汗作用はさらに強くなり(相加作用)、大棗と組み合わされれば反対に止汗作用(方向変換)を現わすようになる。したがって麻黄湯(麻黄、杏仁、甘草、桂枝)では桂枝+麻黄の組合せとなり、発汗剤として働くが、桂枝湯(桂枝、芍薬、生姜、大棗、甘草)では桂枝+大棗の組合せとなり、止汗剤として働いている。また桂枝は芍薬と組み合わされれば緩和剤(方向変換)となり、筋肉の緊張やひきつれて痛むのを治すようになる。白朮や茯苓と組み合わされれば利尿剤(方向変換)となり、 地黄と組み合わされれば強壮剤(方向変換)となる。</p><p> 先の桂枝湯では桂枝+芍薬の組合せを含むため、肩こり、身体疼痛など筋肉の緊張やひきつれて痛むのを治す。したがって、そのような痛みがない場合には桂枝去芍薬湯として投薬する。痛みがなくても芍薬を入れておいてもよいのではないかと考えられる人もあるかと思うが、一般には生薬は相乗効果のある組合せを除いて考えれば、その効果は、1 単独で使用する(民間薬)、2 四~五種類を組み合わせて使用する(例、古方)、3 七種以上を組み合わせて使用する(例、後世方の順に、すわわち薬味の数が増えるにしたがって薬方の作用は弱くな識傾向がある。(相乗効果があれば、組み合わせて使用するほうが薬方の作用が強くなるのほ当然である)。</p><p> しかし適応證の範囲、言い換えれば證の取りやすさという点で考えると、作用とは逆に薬味が増えるにしたがって安易に薬方を使えるようになる利点がある。以上のことから考えれば、先の桂枝去芍薬湯も必要でない緩和作用を除き、より強く、スムースに治癒させることを目的に行なわれているのである。</p><p> これらの組合せでできたものの多くは、第六章 主要薬方解説 4表証に記されている。</p><p> </p><p>2.麻黄について</p><p> 麻黄(地上部の節を除いたもの)は、第二章 漢方薬について 2漢方薬が薬方を構成する理由のところで記したように、桂枝と同じく発汗剤となるが、石膏と組み合わせると止汗剤となる。麻黄+桂枝は先に述べたように発汗剤であったが、これと麻黄+石膏の止汗剤と組み合わせれば麻黄+桂枝+石膏の組合せとな責、発汗作用は強烈となる。このことは注意しなければならないことで、知らずに薬方を合方して使用し、失敗することは多い。たとえば桂枝湯(桂枝、芍薬、生姜、大棗、甘草)〔桂枝+大棗・止汗剤〕と越婢湯(麻黄、石膏、生姜、大棗、甘草)〔麻黄+石膏・止汗剤〕の二つの薬方を合方すれば麻黄+桂枝+石膏の組合せができ、非常に強い発汗剤となる。すなわち虚証の薬方どうしの組合せなのに、非常に実証の薬方へと一変する。同様なことはしばしば見られることで、同方する場合には十分注意しておかなければ失敗することはまれではない。 </p><p> また葛根湯(葛根、麻黄、桂枝、甘草、生姜、大棗)のように、同一薬方内に麻黄+桂枝と桂枝+大棗のように相反する組合せが生じた場合には実の薬味(この場合は麻黄)の方の組合せの薬効が現われる(このとき注意しなければならないのは、附子が入っている薬方では虚の附子の薬効の方が優先することである)。したがって本方は麻黄+桂枝の組合せの発汗作用が現われるようになる。</p><p> ここで注意しなければならないのは発汗と無汗ということ仲;ある(図36参照)。これはただ単に体表の汗の有無をいうのではなく、体表に汗を出そうとしているかどうかが問題となる。すなたい、体表よりスムーズに汗が出ている(実像の発汗)か、たとえ汗は出ていなくても森より表に水が移動してきて、表に水が溜まって浮腫を形成している過程(浮腫はおすと軟らかい)ならば(虚像の発汗)汗が出ているものとして止汗剤、たとえば越婢湯、麻杏甘石湯(麻黄、杏仁、甘草、石膏)などを与える。</p><p> 反対に浮腫が形成される傾向がなく、体表に汗が出ていない(実像の無汗)か、たとえ汗が出ているようにみえても、表に水が溜まって実腫(浮腫はおすと硬い)となっている、すなわち裏より表への水の移動がないならば、その汗の出方は水がもれ出るような感じとなる(虚像の無汗)、このような場合には発汗剤、たとえば麻黄湯、小青竜湯(麻黄、桂枝、芍薬、乾姜、甘草、細辛、五味子、半夏)などを与える。その他、麻黄は杏仁と組み合わせれば鎮咳剤となり、白朮と組み合わせれば利尿剤となる。したがって麻黄加朮湯では麻黄+桂枝(無汗・浮腫)、麻黄+杏仁(咳)、麻黄+白朮(浮腫、尿不利)の組合せとなり、それぞれの薬効が現われる。</p><p> これらの組合せでできたものの多くは、第六章 主要薬方解説 4表証、5麻黄剤 に記されている。</p><p> </p><p>3 半夏について<br /> 半夏を単独で用感れば咽喉痛を引き起こし、胃がむかむかし、強くなれば嘔吐を引き起こすようになるため、半夏は一般に単独では用いず、常に生姜(乾姜)あるいは大棗・甘草と組み合わせて使用される。しかし利膈湯(半夏、梔子、附子)などの薬方のように生姜または大棗・甘草がなくて使用されることもあるが、これらは例外的な薬方である。すなわち、半夏は生姜と組み合わされれば鎮吐作用を現わし、大棗・甘草と組み合わされれば鎮痛、鎮静磁用を現わすようになる。</p><p> この組合せを基本薬方とし、薬効の変化がよく理解できる一連の薬方があるので以下に記す。すなわち、半夏と生姜を合わせたものは小半夏湯といわれ、鎮吐作用を目的に使用される。これに胃内停水の症状が加われば小半夏湯に茯苓を加えた、小半夏加茯苓湯として使用する。したがって胃内停水があり、ときに嘔吐する人に与えるのであるが、胃内停水が嘔吐として体外に出ることができず、咽部まで上がってきて、そこに留まるような感じ、すなわち咽部の異常感の出てくるようになったものには気(第四章 漢方の診断法 3気血水説 参照)の異常と考えて順気作用のある生薬の厚朴、蘇葉を入れ、半夏厚朴湯として与える。</p><p> この半夏の組合せは種々の薬方に応用されるため、一つの系列としてはとりえない。</p><p>4 茯苓について<br /> 茯苓の組合せは体の中に水の偏在を治すのを目的に作られたもので、単独あるいは組み合わされることにより種々の水の移動を生じるため、絶対的なものではないが、主な薬効は次のようになる。すなわち茯苓と白朮を組み合わせれば胃の機能を亢め、胃内停水を除くように働き、茯苓と猪苓、沢瀉を組み合わせれば尿利をよくするように働き、茯苓と桂枝・甘草を組み合わせれば心悸亢進やめまいを鎮めるように働く。</p><p> したがって胃内停水があり、その瘀水が気の上衝とともに移動して心悸亢進やめまいを起こすようなものには茯苓+白朮(胃内停水)、茯苓+桂枝・甘草(心悸亢進、めまい)の組み合わされた苓桂朮甘湯(茯苓、桂枝、白朮、甘草)を用いるが、胃内停水が気の上衝がないため移動せず、かえって胃から腰のあたりに瘀水が溜まって冷たく感じるようになれば、体を温める乾姜と胃内停水を除く茯苓+白朮を組み合わせた苓姜朮甘湯(茯苓、乾姜、白朮、甘草)を用いるようになる。苓桂朮甘湯と同じように症状を現わすが、胃内停水がそれほど強くなければ茯苓+白朮の組合せでなくても、胃内停水を除く作用のある生姜だけの駆水作用で十分であるから、茯苓甘草湯(茯苓、桂枝、生姜、甘草)とする。</p><p> 胃内停水ではなく、気管支に水毒があれば生姜のかわりに五味子を入れた苓桂味甘湯(茯苓、桂枝、五味子、甘草)に、反対に精神的な症状が加われば、虚証の人では大棗(実証の人には大棗では効果がない)と変えた苓桂甘棗湯(茯苓、桂枝、甘草、大棗)とするなどがある。</p><p> これらの組合せでできたものの多くは、第六章 主用薬方解説 11駆水剤 に記されている。</p><p> 5.桔梗について</p><p> 桔梗は単独で用いれば膿や分泌物のあるときに使用し、膿や分泌物を除く作用がある。これに芍薬が組み合わされると作用は一変して、発赤、腫脹、疼痛に効くようになるが、誤って膿や分泌物のあるときに使用すればかえって悪化する。しかし桔梗に芍薬と薏苡仁を加えれば発赤腫脹の部分があり、しかも分泌物が多く出ている部分もある場合に効くようになる。桔梗に荊芥、連翹を加えても同様の効果がある。</p><p> たとえば排膿湯(桔梗、甘草、生姜、大棗)は桔梗単独の作用、すなわち患部に膿や分泌物のあるときに用いるが、排膿散(桔梗、芍薬、枳実、卵黄)となれば、桔梗と芍薬の組合せとなり、発赤、腫脹、疼痛のあるものに用いるようになる。誤って使用しやすい例に葛根湯の加減方がある。すなわち葛根湯加桔梗石膏の桔梗と石膏はあたかも相反した、寒い用いる桔梗と、熱に用いる石膏が組み合わされているようにみえるが、桔梗は葛根湯の中に含まれている芍薬と組み合わされたものであり、石膏との相加作用を目的に作られたものである。したがって本方は上焦の部位に発赤、腫脹、疼痛のあるときに用いられる。もし炎症もあるが膿もたくさん出るというようになれば前記の組合せにしたがって、葛根湯加桔梗薏苡仁にしなければならい。 <br /> これらの加減は同じ表証の薬方中では、桂枝湯にはそのまま代用できるが、麻黄湯には芍薬とともに考えなければならないことは、いまさら言うに及ばないことであろう。この桔梗の組合せは種々の薬方に応用されるため、一つの系列としてはとりえない。</p><p>6 附子について</p><p> 附子の作用は組み合わされた相手によって、その作用する位置(部位)の変わってくることとは、すてに、第二章 漢方薬について 2漢方薬が薬方を構成する理由 の項で述べた。</p><p> いま、ここに桂枝湯(桂枝、芍薬、生姜、大棗、甘草)を例にとって考えると、その違いが明らかになってくる。すなわち、桂枝湯に附子を加えると桂枝加附子湯になるが、この場合は附子の作用を表に誘導する桂枝と、全身に誘導する芍薬の組合せとなる。全身に誘導するものは作用が弱いため、桂枝加附子湯の附子はほとんど表の組織に対して、麻痺、刺激、温補作用を現わす。したがって裏に近い関節に働くよりも、表の筋肉に働くようになり、筋肉に関係した症状すなわち筋肉の痛、痙攣、麻痺を主とし、芍薬の作用も加わって運動障害などを治す。</p><p> いま、桂枝加附子湯から芍薬を除けば桂枝附子湯となるが、本方では附子の作用は桂枝にのみ誘導されるため、表の組織へのみ作用し、筋肉の痛み、痙攣、麻痺などを治すようになる。したがって本方の目標に「骨節に痛みなく、ただ身体疼痛するもの」とあるのは容易に理解できる。</p><p> 桂枝加附子湯に白朮を加えれば桂枝加朮附湯となり、附子の作用を全身に誘導するものが芍薬、白朮の二種類となるため、しだいに全身に対する作用が出始める。そのため関節に関係した症状が加わり、全身的な水毒症状も明らかとなる。したがって四肢の麻痺、屈伸困難、尿利減少などを治す。</p><p> 桂枝加朮附湯にさらに茯苓を加えれば桂枝加苓朮附湯となるが、茯苓は附子の作用を半表半裏~裏に誘導するため、表に誘導する桂枝、全身に誘導する芍薬、白朮と組み合わされて、附子の作用はどこにも偏らず、全身を温める作用となり、水毒症状を呈する人に用いるようになる。</p><p> 本方より、附子の作用を表に誘導する働きのある桂枝と、附子の作用とは関係のない大棗、甘草を除いたものが真武湯(茯苓、芍薬、生姜、白朮、附子)であり、附子の作用は、全身に対する作用もあるが、、主に半表半裏~裏に働くようになる。したがって本方は桂枝加朮附湯と表裏が相対応する薬方である。</p><p> また当帰芍薬散(当帰、芍薬、川芎、茯苓、白朮、沢瀉に附子を加えれば、附子の作用を全身に誘導する芍薬、白朮と、半表半裏~裏に誘導する茯苓があるため、全身に対する作用もあるが、主に半表半裏~裏に働くようになる。したがって半表半裏~裏に強い冷えがある場合によく附子を加えるのであるが、いくら冷えが強いからといっても妊婦には使用してはならない。なぜなら、胎児は裏位にあるため、附子の作用は胎児にも強く作用する。しかし、いくら母親は虚証であっても、胎児は新陳代謝がさかんな実証であるため、実証に附子を与えることになりき、危険である。このようなことは附子の温補作用のみに注意し、その作用する位置を考えなかったために起こることであり、よく注意しなければならない。</p><p> その他、 特殊な例として、半夏や梔子は附子の作用を咽部から胸部に誘導する働きがあるため、利膈湯(半夏、梔子、附子)などでは咽喉の新陳代謝が衰えて咽喉がふさがったり、嚥下困難などを呈するようになったものに用いる。</p><p> これらの組合せでできたものの多くは、第六章 主要薬方解説 4表証、8裏証Ⅱ に記されている。</p><p><br /></p><p>7 その他の生薬について</p><p> 相加作用のみで考えることのできる生薬は多く、黄耆(寝汗、黄汗)、薏苡仁(皮膚を潤し、瘀血、血燥を治す)、人参(全身の水)、生姜(胃内停水)、駆瘀血生薬(当帰、芍薬、桃仁、牡丹皮、地黄など)など種々がある。</p><p> また下剤、温補剤の関係は表裏の関係であり、便秘していても実証か虚証かによって使い分けなければならないことはいうまでもない。気のうっ滞を治す順気剤である厚朴、枳実、蘇葉と大黄+芒硝を加えたもの、たとえば大承気湯(大黄、芒硝、枳実、厚朴)は最も実証の人に用い、大黄のみを加えたもの、たとえば小承気湯(大黄、厚朴、枳実)がこれに継ぐ。気の上衝を治す順気剤である桂枝と大黄+芒硝を加えたもの、たとえば桃核承気湯(大黄、芒硝、桂枝、桃仁、甘草)はさらに弱くなり、大黄のみを加えたもの、たとえば柴胡加竜骨牡蠣湯(柴胡、半夏、茯苓、桂枝、黄芩、大棗、人参、竜骨、牡蛎、生姜、大黄)がこれに継ぐ。 順気剤のない大黄+芒硝を加えたもの、たとえば調胃承気湯(大黄、芒硝、甘草)はさらに弱くなり、大黄のみを加えたもの、たとえば三黄瀉心湯(大黄、黄芩、黄連)がこれに継ぐ。ここまでは実証の便秘に用いられる。</p><p> 次いで梔子を加えたもの、たとえば黄連解毒湯(梔子、黄芩、黄連、黄柏)が続く。虚証の便秘となると、さらに虚したときに用いる乾姜を加えたもの、たとえば人参湯(人参、白朮、甘草、乾姜)を用いる。新陳代謝がさらに衰えると附子を加えたもの、たとえば真武湯(茯苓、芍薬、生姜、白朮、附子)を用い、さらに虚になると附子+乾姜を加えたもの、たとえば四逆湯(甘草、乾姜、附子)を用いて新陳代謝機能を亢進させる。下痢の場合でも虚実によって同様に使用する。</p><p> これらの組合せでできたものの多くは、第六章 主要薬方解説 3駆瘀血剤、9承気湯類 に記されているほか、種々の薬方に応用されている。</p><p> </p><p> 2 生薬の有無、量の多少によって薬方の主證あるいは<br /> 主證の一部が決定するもの <br /></p><p> 1 柴胡について</p><p> 柴胡は三~四グラム以上(大人量)、薬方に加えられると、その薬方の主證あるいは主證の一部は胸脇苦満として決まってしまうもので、加えられた柴胡の量が多くなれば胸脇苦満が強く認められるが、少なければ胸脇苦満としては認められない。</p><p> たとえば小柴胡湯(柴胡、半夏、l生姜、大棗、甘草、黄芩、人参)は柴胡が七・〇グラムあり、四逆散(柴胡、芍薬、枳実、甘草)は柴胡が五・〇グラムあるためいずれも胸脇苦満を認められが、補中益気湯(柴胡、黄芩、人参、白朮、当帰、陳皮、生姜、大棗、甘草、升麻)は柴胡が二・〇グラムのため胸脇苦満はほとんど認められない。また柴芍六君子湯は六君子湯に柴胡(四・〇グラム)と芍薬(三・〇グラム)を加えたものであるが、柴胡が四・〇グラムのため胸脇苦満を強く呈するものもあるが、ほとんど認められず六君子湯證のみめだつものもある。したがって加えられた柴胡の量は薬方の薬能を知るうえで重要なことである。これらの組合せでできたものは、第六章 主要薬方解説 1柴胡剤 に記されている。 </p><p> 2 黄連・黄芩について</p><p> 黄連、黄芩がともに、あるいはいずれかが薬方に加えられると、その薬方の主證あるいは主證の一部は心下痞として決まってしまうもので、量の変化は心下痞の強さとは一致せず、一般に一・〇グラム以上ずつ加えると心下痞を治すようになる。</p><p> たとえば三黄瀉心湯(大黄、黄連、黄芩)と黄連解毒湯(黄芩、黄連、黄柏、梔子)では前者は寺連、黄芩が各三・〇グラム(煎剤として長期服用する場合)であり、後者は各一・五グラムであるため、量の多少が心下痞の強さと一致するように見えるが、黄連湯(半夏、黄連、乾姜、人参、桂枝、大棗)と半夏瀉心湯(半夏、黄芩、黄連、乾姜、人参、甘草、大棗)では前者は黄連のみ三・〇グラム入っているが、後者は黄芩二・五グラムと黄連一・〇グラムが入っているため、量から見ると後者が実証のように思えるが:実際は前者が実証の薬方となる。いずれにしても、黄連、黄芩の有無は薬方の薬能を知るうえで重要である。</p><p> これらの組合せでできたものは、第六章 主要薬方解説 10瀉心湯類 に記されている。</p><p><br /></p><p>3 甘草について</p><p> 甘草は単独で用いると急迫症状(精神的)を緩解させる作用があるが、芍薬と組み合わせれば急迫性の激しい筋肉の痙攣と疼痛に効くようになる。</p><p> したがって甘草湯(甘草)は神経の興奮による各種の急迫症状を緩解するが、芍薬枝湯(芍薬、甘草)では急迫性の激しい筋肉の痙攣と疼痛に用いる。しかし甘草のこれらの作用は他に強い作用の薬物があれば表には現われにくくなり、ほとんど効果を期待できなくなる。このことは甘草湯や芍薬甘草湯を用いる場合に、注意しなければならない。ただ柴胡桂枝湯(柴胡、半夏、生姜、大棗、甘草、芍薬、桂枝、黄芩、人参)は例外で、家種の薬物が組み合わされたにもかかわらず鎮痛作用を現わす。しかし、この場合の痛みは急迫性の痛みというより鈍痛である。</p><p><br /></p><p>4 芍薬について</p><p> 芍薬は少量(四・〇グラム以下)使用する場合と多量(六・〇グラム以上)使用する場合では薬方の効く位置き変化を生じる。すなわち、少量の場合には体の各所の筋肉の緊張を緩解するが、多量となると奏位(主に中焦)にのみ働き、腹満や腹部の緊張を緩解するようになる。 <br /></p><p><br /></p><p>※證 一般的には「証」が使われるが、村上先生は旧字体である「證」を使われていた。</p><p>※『漢方薬の実際知識 増補版』の昭和五十六年頃は、まだ、白虎湯類が無い。</p><p>※その他の項 に 旧版 では排膿散及湯 があるが、増補版には無い。<br /> その間に、桔梗の組み合せ に気付き、排膿散及湯は使わなくなった。 </p><p> ※長沢元夫先生は、生薬の組み合わせによる効能の変化は否定的。</p><p>※薬方<br /> 一般的には漢方処方と言われるが、村上先生は(漢方)薬方と呼んでいた。 <br />処方は単に薬物を組み合わせたもの、薬方は方意のあるもの。</p><p>※病人の現わしている「病人の證」と、生薬を組み合わさたときにできる「薬方の證」とを相対応させるこということである。 <br />いわゆる「方証相対」のこと。</p><p>※「薬方の證」は一つの薬方では決まっており<br /> 実際に応用する際は、色々な使い方があり、「薬方の證」は一見沢山あるように見える。「余白の證」「転用」なども重要。</p><p>※白朮や茯苓と組み合わされれば利尿剤(方向変換)となり<br /> 桂枝自体は尿を止める働きがあるので、注意が必要。</p><p> </p><p>※桂枝湯と越婢湯の二つの薬方を合方<br /> 桂枝湯と越婢湯とを合わせた薬方に桂枝二越婢一湯がある。<br /> 太陽病、発熱悪寒、熱多寒少、脈微弱者、此無陽也、不可発汗、宜桂枝二越婢一湯。</p><p></p><p></p><p></p><p></p><p>※実像の発汗、虚像の発汗、実像の無汗、虚像の無汗<br /> 漢方用語の虚実とは無関係なので注意。<br /> </p><p>※茯苓の組合せは体の中に水の偏在を治すのを目的に作られたもので、単独あるいは組み合わされることにより種々の水の移動を生じるため、絶対的なものではない<br /> 茯苓は組み合わされることにより、作用が強調されるが、基本的に組み合わせと関係ない作用も弱いながらある。</p><p><br /></p><p>※排膿湯と排膿散<br />排膿散と排膿湯とを合方したものを排膿散及湯(はいのうさんきゅうとう)と言い、一般には排膿散と排膿湯との両方の効果を持つもの、すなわち、発赤・腫脹・疼痛があり、膿や分泌物がある時に用いると言われているが、村上先生の理論では、排膿散及湯は、桔梗と芍薬の組み合わになるので、結局は排膿散の効果である、発赤・腫脹・疼痛のある時に使うべきもので、膿や分泌物がある時には使えない。膿や分泌物がある時に使うと、治らないばかりか悪化する可能性がある(治ることもある)。<br />『漢方薬の実際知識』をの初版が出た頃は、この組み合わせのことがわかっておらず、排膿散及湯を使って良い場合と効果が無い場合、悪化する場合があり、改訂版を出す頃に桔梗と芍薬の組み合わせがわかったとのこと。<br />発赤・腫脹・疼痛があり、膿や分泌物がある時は、桔梗+芍薬+薏苡仁の組合せか、桔梗+荊芥・連翹の組み合わせを用いる。</p><p>※本方は上焦の部位に発赤、腫脹、疼痛 <br />葛根湯は上焦に用いる薬方なので。<br /><br />※炎症もあるが膿もたくさん出るというようになれば前記の組合せにしたがって、葛根湯加桔梗薏苡仁にしなければならい。 <br /> 花粉症、アレルギー性鼻炎などに応用できるが、エキス剤に無い。</p><p> ※桔梗の組み合わせ<br /> 桔梗に唐辛子を組合わせると、桔梗の作用が無くなる。韓国料理のトラジ(桔梗)に唐辛子を組合せたものは、薬効が無くなるので食品として食べても問題無い。(膿や分泌物が無い時でも食べられる)。</p><p> </p><p>※桂枝加朮附湯にさらに茯苓を加えれば桂枝加苓朮附湯となるが、……全身を温める作用となり、水毒症状を呈する人に用いるようになる。 <br /> 多くの漢方の解説書では、桂枝加苓朮附湯は、桂枝加朮附湯より、より水毒の強い関節炎などに用いるとある。村上先生の説では、桂枝加苓朮附湯は関節炎には効果が期待できない。</p><p>※柴胡は三~四グラム以上(大人量)、薬方に加えられると、その薬方の主證あるいは主證の一部は胸脇苦満</p><p> 通常、柴胡が入れば柴胡剤と呼ばれるが、柴芍六君子湯は、柴胡はあるものの、余り柴胡剤とは呼ばれない。あくまでも六君子湯の加減。 </p><p> また、柴胡剤の中でも柴胡湯類と他の柴胡剤は分けられることがある。<br />四逆散や柴胡桂枝乾姜湯は柴胡剤ではあるが、柴胡湯類ではない。</p><p> </p><p>※量の変化は心下痞の強さとは一致せず、一般に一・〇グラム以上ずつ加えると心下痞を治すようになる。<br />量の変化は心下痞の強さとは一致せず、一般に合わせて一・〇グラム以上加えると心下痞を治すようになる。に訂正すべき。</p><p> 合わせて1gなので、黄連と黄芩のどちらか一方だけでも良いが、通常は黄連・黄芩を合わせて用いる。大黄黄連瀉心湯や黄連湯は、黄連のみで黄芩は含まれていない。黄芩のみで黄連が含まれていない薬方は?<br />一般的な生薬として考えると、黄連にはベルベリンが含まれ、黄柏にもベルベリンが含まれており、一般に代用薬として使われることがあるが、漢方的には、黄柏は心下痞に用いられず、黄連の代用とはならない。</p><p>※煎剤として長期服用する場合<br /> 急性期に振り出して飲む際は、生薬の量は多い。</p><p><br /></p><p>※他に強い作用の薬物があれば表には現われにくくなり<br />「表」は、部位をあらわす表裏の「表」ではなく、単に「おもて」の意味。</p><p> </p><p>※甘草のこれらの作用は他に強い作用の薬物があれば表には現われにくくなり、ほとんど効果を期待できなくなる。<br />甘草瀉心湯は?<br /></p><p> </p>Unknownnoreply@blogger.com0tag:blogger.com,1999:blog-6827912320235733185.post-81216562903352692402019-09-24T22:40:00.002+09:002021-10-19T22:50:59.431+09:00誌上漢方講座 症状と治療 生薬の配剤から見た漢方処方解説 の勝手なまとめ<p>誌上漢方講座 症状と治療 生薬の配剤から見た漢方処方解説の勝手なまとめ<br />
<br />
1.陰陽・虚実・寒熱・表裏・内外・上中下を理解する<br />
2.薬味の組み合せを覚える<br />
3.症状を血-気-水に分け、それぞれの症状に対応する系統を覚える。<br />
4.薬方(漢方処方)の系統図を覚える<br />
5.薬方(漢方処方)で治る(可能性のある)症状を覚える<br />
6.実際に使ってみる<br />
<br />
<br />
1.陰陽・虚実・寒熱・表裏・内外・上中下は『漢方薬の実際知識』参照。<br />
特に虚実には注意。<br />
発汗は基本的には虚証。ただし、虚像の発汗・実像の発汗に注意。<br />
麻杏甘石湯や越婢湯は、発汗している状態に用いるので虚証の薬方。<br />
(一般的な漢方の本では、麻杏甘石湯や越婢湯は実証の薬方) <br />
<br />
2.薬味の組み合せ<br />
相加作用、相乗作用、方向変換、相殺作用の四つ。<br />
基本的には相加作用と考えて良いが、繁用される薬味に特殊な組み合せが多く注意が必要(組み合せによっては期待する作用と反対の場合がある) <br />
<br />
麻黄(組み合わせなし) → 発汗作用<br />麻黄 + 桂枝 → 発汗作用(相加作用)<br />麻黄 + 石膏 → 止汗作用(方向変換)<br />麻黄 + 桂枝 + 石膏 → 大発汗作用(相乗作用)<br />麻黄 + 杏仁 → 鎮咳作用(方向変換)<br />麻黄 + 白朮 → 利尿作用(方向変換)<br /><br />
桂枝 → のぼせを抑える(組み合わされても変化しない薬効)(尿を止める)<br />桂枝(組み合わせなし) → 発汗作用<br />桂枝 + 麻黄・防風 → 発汗作用(相加作用)<br />桂枝 + 大棗 → 止汗作用(方向変換)<br />桂枝 + 芍薬 → 緩和作用(方向変換)<br />桂枝 + 白朮 → 利尿作用(方向変換)<br />桂枝 + 茯苓 → 利尿作用(方向変換)<br />桂枝 + 地黄 → 強壮作用(方向変換)<br />桂枝 + 茯苓 + 甘草 → 心悸亢進・めまいを治す(方向変換)<br /><br />
半夏(単独) → 胃のムカムカ(嘔)、咽喉痛を起こす<br />半夏 + 生姜 → 鎮嘔・鎮痛作用(方向変換・相殺作用)<br />半夏 + 大棗・甘草 → 鎮痛・鎮嘔作用(方向変換・相殺作用)<br /><br />
桔梗(単独) → 化膿・分泌物を治す<br />桔梗 + 芍薬 → 発赤・腫痛を治す(方向変換)<br />桔梗 + 芍薬 + 薏苡仁 → 化膿・分泌物も発赤・腫痛も治す (方向変換)<br />桔梗 + 荊芥・連翹 → 化膿・分泌物も発赤・腫痛も治す (方向変換)<br />桔梗 + 蕃椒(トウガラシ) → (方向変換)<br /><br />
茯苓(単独) → 胃内停水を除き、心悸亢進・めまいを治し、利尿作用<br />茯苓 + 白朮 → 胃の機能亢進・胃内停水を除く<br />茯苓 + 猪苓・沢瀉 → 利尿作用<br />茯苓 + 桂枝 + 甘草 → 心悸亢進・めまい・筋肉の痙攣を鎮める<br /><br />
知母 + 石膏 → 口渇・漏水を治す<br /><br />
附子を表に導く 麻黄・葛根・桂枝・防風<br />附子を半表半裏~裏に導く 黄連・黄芩・乾姜・人参・茯苓<br />附子を全身に導く 防已・細辛・白朮・芍薬 → 水毒を除く<br />附子を食道・咽部・胸部に導く 半夏・山梔子<br /><br />
柴胡(4g以上) → 胸脇苦満(主証又は主証の一部)<br />柴胡(3g) + 順気剤 → 胸脇苦満(主証又は主証の一部)<br />柴胡(3g未満) → 体質改善(胸脇苦満はないかあっても弱い)<br /><br />
黄連・黄芩(合わせて1g以上) → 心下痞(主証又は主証の一部)<br />
(どちらか一方でも良いが、組み合わせた方が良い)<br />
<br />
甘草 → 急迫症状の緩解(薬味の少ない時)<br />甘草湯 → 精神的な痛み、神経の興奮による各種の急迫症状を治す<br />芍薬甘草湯 → 急迫性の激しい筋肉の痙攣と疼痛のあるものを治す<br />甘麦大棗湯 → 甘草と大棗による急迫した筋肉の拘攣、神経の興奮、諸疼痛の緩解<br />柴胡桂枝湯 → 薬味は多いが痛みに効果がある<br /><br />
芍薬(4g以下) → 全身の筋肉の拘攣の緩解(緩和・鎮痛作用)<br />芍薬(6g以上) → 裏位の筋肉の拘攣の緩解(緩和・鎮痛作用)<br /><br />
黄耆 → 盗汗、黄汗を治す<br />薏苡仁 → 皮膚を潤し、瘀血・血燥を治す(皮膚病・いぼ・ガン・むち打ち等)<br />人参 → 全身の水毒を除く<br />生姜 → 胃内停水を除く<br />乾姜 → 新陳代謝機能亢進(体を温める作用) + 生姜(胃内停水を去る)<br />蒼朮 → 麻痺作用<br /><br />
駆瘀血生薬 当帰・川芎・桃仁・牡丹皮・地黄<br />鎮咳薬 杏仁・五味子・麦門冬・大棗<br />順気生薬(鬱滞) 厚朴・蘇葉・枳実・薄荷<br />順気生薬(上衝) 桂枝<br /><br />
【鎮咳剤】<br /> 麻黄 + 杏仁<br /> |<br /> (麻黄)<br /> |<br /> 杏仁<br /> |<br /> 麻黄 + 石膏<br /> |<br /> 五味子<br /> |<br /> 細辛<br /> |<br /> 麦門冬<br /> |<br /> 大棗<br /> |<br /> 麻黄 + 附子<br /><br /><br /><br /><br /><br />【下剤、温補剤】<br /> 大黄 + 芒硝 + 順気剤(鬱滞)<br /> |<br /> 大黄 + 順気剤(鬱滞)<br /> |<br /> 大黄 + 芒硝 + 順気剤(上衝)<br /> |<br /> 大黄 + 順気剤(上衝)<br /> |<br /> 大黄 + 芒硝<br /> |<br /> 大黄≒センナ≒アロエ<br /> | (アロエは使わない方が良い)<br /> 山梔子<br /> |<br /> 車前子<br /> |<br /> 乾姜≒麦芽糖(マルツエキス)≒蜂蜜<br /> |<br /> 附子<br /> |<br /> 乾姜 + 附子<br /> <br /><br />
<br />
</p>Unknownnoreply@blogger.com0tag:blogger.com,1999:blog-6827912320235733185.post-84054171861530286352019-08-27T22:28:00.000+09:002019-09-20T22:40:41.100+09:00生薬の配剤から見た漢方処方解説(まとめ)誌上漢方講座 症状と治療<br />
生薬の配剤から見た漢方処方解説(まとめ) <br />
村上 光太郎<br />
<br />
生薬の配剤を考える時、なるほど、その組み合わされた生薬の相互作用について考えるが、いざ随証療法を行なおうとした場合、もはや薬方に配剤されている個々の生薬の相互作用を考えず、薬方単位で考える事が多い。この場合、単方で投薬す識時には問題はないが、合方しなければならない時には種々の問題を惹起する事がある。このような時に生薬の配剤を考えれば多くの問題が解決する。<br />
例えば図52について見ると明瞭であろう。すなわち、精神不安、興奮しやすい、胃が痞えるの症状は気の症状であり、足腰の痛み(関節痛、腰痛)の症状は気または水の症状であり、多汗、涙が出やすいの症状は水の症状であり、口乾(水はほしくない)の症状は血の症状であり、のぼせの症状は血または気の症状である。従ってこの患者は気、血、水すべてが変調している事がわかる。従ってこの患者は気、血、水すべてが変調している事がわかる。しかし症状を見ると、気と血の症状より気と水の症状が多いために「気と水」と「血と気と水」の合方と考える方が合理的である(精神不安、興奮しやすいと言う症状が、この人の主訴ならば、順気剤を考えなければならないが、そうではないので「気と水」と考える。「気と水」の症状を見ると、胃が痞えるという症状を除けばすべて表の症状である。ところで、「気と水」の症状の時には順序だてて考えなければならない事はすでに述べた(生薬の配剤から見た漢方処方解説(11)を参照)とおりである。①の胸脇苦満があるならば柴胡剤を用いるという項は、この人の症状には胸脇苦満がないので該当しない。<br />
ところで、この人はアレルギー体質である事を訴えている。このようにアレルギー体質であるとか、腺病質であるとか、リンパ腺がはれるとか等訴える人には、体質改善の出来る薬方を配剤する方が望ましい。ところで体質改善できる薬方は種々あり、例えば、柴胡剤、建中湯類、駆瘀血剤、瀉心湯類、解毒剤、下焦の疾患などが主なものである。他の薬方にも体質改善の出来る薬方はあるが、漢方の薬方のすべてが体質改善できるかと言うとそうではなく、例えば、駆水剤、表証、麻黄剤、承気湯類などはほとんど体質改善を行なうことは出来ないものである。従ってこれらの薬方を使用する場合に、もし前記のような症状があるならば体質改善の出来る薬方を合方する方が良い事は言うまでもない。<br />
さて本題に帰って、②の表の症状のみあるいは少し半表半裏の症状がある程度ならば表証、麻黄剤、皮膚疾患の薬方を用いるという項はどうであろうか。この人の症状を、表、半表半裏、裏に分けて見ると、ほとんどの症状が表で、半表半裏は口乾(水はほしくない)と胃の痞えという症状であり、裏の症状は排尿一日三~四回、夜間排尿一~二回と言う症状である。以上の事より、腰痛や関節痛が主訴であるという事と合せて考えれば、表の症状が極端に多いので、表証、麻黄剤、皮膚疾患の薬方を考えれば良い事がわかる(生薬の配剤による漢方処方解説(7)を参照)。しかし、表の症状ではあっても、皮膚に炎症、あるいは分泌物等を訴え仲いないので、まず皮膚疾患の各薬方は除かれる。ところでこの人は多汗症であり、全身に多く汗をかき、涙も出やすいと訴えている事より、発汗している状態である。従って無汗の状態の時に用いる麻黄と桂枝あるいは麻黄の配剤された、発汗剤となる薬方ではなく、桂枝と大棗あるいは麻黄と石膏の配剤された、止汗剤となる薬方が処方されなければならない事はすぐに理解できよう。すると当然、桂枝湯、麻杏甘石湯、越婢湯が考えられる。ところで、この人は咳を訴えていないので、それを主訴とする薬方の麻杏甘石湯は除かれる。更にこの人の関節に水の溜まる事を考えれば、それを除けるように加減方を考えるのは当然で、桂枝加朮湯あるいは越婢加朮湯という事になる。この二方は同様に虚証に用いる薬方ではあるが、麻黄剤を使用できるか否かによって使い分ける。一般に麻黄剤あるいは地黄剤、および薬方中に順気生薬の配剤されていない薬方は、胃腸の悪い人が用いれば更に悪くなる事が繁々みられる。従って、そのような時は用いないようにする事が望ましい事は言うまでもない。しかし、これは絶対に使用してはならないと言う事ではなく、どうしても使用しなければならない時は相応の処置を行う。<br />
この患者に桂枝加朮湯あるいは越婢加朮湯を投薬すれば治癒すると思える症状を除いて見ると、アレルギー体質、口乾(水はほしくない)、排尿一日三~四回、夜間一~二回などが残る。(精神不安、興奮しやすい、のぼせ、胃の痞えは処方によれば治るかもしれない症状である)。これらの症状は「血と気と水」の症状である。従ってそれに用いる薬方、すなわち解毒剤、駆瘀血剤、下焦の疾患、加味逍遙散を考えればよい事がわかる。しかし、この患者は多汗症であり、便通も一日一回でスッキリ出る事、および症状が激しいと言うのではないため、実証とは言えない。従って解毒剤では防已黄耆湯(清上防風湯、荊防敗毒散は皮膚の症状がないので用いない)が、駆瘀血剤では桂枝茯苓丸、加味逍遙散(当帰芍薬散は冷えが強い人に用いる薬方であり、この患者は冷えを訴えず、のぼせを訴えているため除かれる)が、下焦の疾患では八味丸が考えられる。<br />
いま、仮に「気と水」の薬方を越婢加朮湯を使用すると決めると、「血と気と水」の方の薬方としては桂枝茯苓丸および八味丸を除かなければならない。なぜなら桂枝茯苓丸と越婢加朮湯あるいは八味丸と越婢加朮湯の合方は、いずれも虚証ないし虚証に近い薬方同士の組み合わせであり、一見良いように思えるのであるが、これらの二方が組み合わされれば越婢加朮湯中の麻黄と石膏の組み合わせに桂枝を配剤したことになり、強い発汗剤に変わるからである。従って、もしこの二方を投薬して何の害も起こらなければもうけものであり、害作用が起こることは十分考えておかねばならない。この時起こる害作用は、もはや瞑眩(めんけん)とか、副作用とか言えるものではなく、毒を盛っているのだとの自覚が必要であろう。従って越婢加朮湯に合方できる相手としては防已黄耆湯あるいは加味逍遙散と言う事になる。この患者の訴えが精神不安ないし、興奮しやすいという気の症状を訴えるよりは腰やひざ等の下焦の症状を強く訴えているため、順気剤的意味をもつ加味逍遙散よりは、下焦にも効果の強く及ぶ防已黄耆湯の方が良いと思える(ただし、血に対しては弱い)。従って越婢加朮湯と防已黄耆湯の合方という薬方が考えられる。一見、これで良いように思えるが、この患者は胃の痞えを訴えている。しかし、越婢加朮湯を使用すれば、含まれている麻黄、石膏によって更に胃が悪くなる可能性はある。しかし合方された防已黄耆湯ではその事は取り去れない。とすれば下焦には効果が弱いが、胃の痞えも取れるであろう加味逍遙散を合方する方が良い事になる。<br />
それでは、桂枝加朮湯を使用すると決めた場合はどうなるであろうか。相手の薬方は当然「血と気と水」の薬方である事は先に述べたとおりである。また虚証も当然変わる事はない。従って解毒剤では防已黄耆湯が、駆瘀血剤では桂枝茯苓丸、加味逍遙散が、下焦の疾患では八味丸が考えられる。今、桂枝茯苓丸と桂枝加朮湯の合方では主薬が共通である。このように主薬が共通である組み合わせは、特別な場合を除き避けるようにする。従って桂枝加朮湯の相手としては防已黄耆湯、加味逍遙散、八味丸が考えられる。この患者の年齢が若いならば、胃が悪くなると訴えるだけで地黄の作用を考え、八味丸を除かなければならないが、この患者は老齢であるため、八味丸による消化器系への悪影響は少ない。従って一つの薬方として考えられる。また丁度、排尿回数も少なく、かつ夜間排尿が一~二回ある事、のぼせを生じ、精神不安や興奮しやすいとの症状を訴えることも八味丸を用いる可能性を示している。従って胃の痞えを強く考えるのなら桂枝加朮湯と加味逍遙散を、強く考えないのなら桂枝加朮湯と八味丸という事になる。この患者は水はほしくないと言う瘀血の症状を訴えているが、他に瘀血を強く表わす症状を訴えていないので、瘀血がそんなに強くないとすれば、桂枝加朮湯と防已黄耆湯の合方と言う事になる。<br />
以上、この患者には越婢加朮湯と加味逍遙散(胃があまり強くない時)の合方を与えるか、桂枝加朮湯と八味丸(胃があまり弱くない時)または桂枝加朮湯と加味逍遙散あるいは桂枝加朮湯と防已黄耆湯(瘀血が少ない時)を再度症状を追加して聞いて与えるようにすればよい事がわかる。<br />
ところで、この薬方を考える時に出た事ではあるが、見かけ上は証に合っているようだが中に入っている薬味を見ると全く異なった薬方を投薬している事がある事を忘れてはならない。<br />
例えば、越婢加朮湯を参考にして再度考えてみよう(実際は証に従って治療しなければならないのだが、わかりやすくするために、病名や症状で表現する事を許していただきたい)。越婢加朮湯を神経痛やリウマチの時に用いようとしたが、<br />
(一)その患者は消化器系が弱いので麻黄剤は胃にこたえるであろうと、小建中湯あるいは安中散を合方する。<br />
(二)その患者は痛みが強いので柴胡桂枝湯を合方する。<br />
これらはいずれも良いように思われるかもしれない。しかしいずれも共通の落とし穴がある事を忘れてはいけない。すなわち越婢加朮湯は麻黄と石膏の組み合された薬方であり、止汗作用を目的に作られている。また小建中湯と柴胡桂枝湯は桂枝と大棗の組み合された薬方で止汗作用を目的に作られている。また安中散は桂枝の発汗作用を目的に配剤されているが、麻黄に比べると発汗作用は弱い薬方である。しかしこれらが合方されると麻黄と桂枝と石膏の組み合せとなり止汗作用から(あるいは弱い発汗作用から)強い発汗作用へと変わる。従ってこのような合方は避けなければならない事がわかる。<br />
それではこのような処方があった場合は、どのように処理したら良いであろうか。いずれの場合も随証療法をしたら良いのは当然であるが、前記のように、消化器系が弱いからとか、痛みがあるのでその部分のみ強めようと考え仲合方するだけであるだけなら、次のような解決法もあるので検討していただきたい。<br />
越婢加朮湯と小建中湯の合方の場合。<br />
①小建中湯を裏証Ⅰの六君子湯に変える。<br />
②または小建中湯と同様に、中焦に効果を現す補中益気湯に変えるなどが考えられる。<br />
越婢加朮湯と安中散の合方の場合。<br />
①安中散を同じ裏証Ⅰの六君子湯に変える。<br />
②安中散を加味逍遙散に変える。<br />
③安中散を変えるのではなく、越婢加朮湯を桂枝加朮湯に変える(少し虚証の薬方となるるが)などが考えられる。<br />
越婢加朮湯と柴胡桂枝湯の場合。<br />
①柴胡桂枝湯を小柴胡湯に変え、芍薬甘草湯を頓服とする(あるいは柴胡桂枝湯を除いて芍薬甘草湯を頓服とする)。<br />
②越婢加朮湯を桂枝加朮湯にするなどが考えられる。<br />
このように種々ある処理法の中で、より患者に適した方法を取れば良いのである。<br />
ではもう一例、問題を考えていただこう(図53参照)。顔が赤い、胸や脇の圧迫感の症状は気の症状であり、手の痛む(筋肉痛)の症状は気または水の症状であり、汗が出にくい、涙が出やすい等の症状は水の症状であり、アザの症状は血の症状(この症状だけでは血があるとは言えない)であり、不眠、のぼせの症状は血または気の症状である。従ってこの患者も気、血、水のすべてが変調している事がわかる。しかし、主訴が上腕痛である事を考えると「気と血」の症状より「気と水」の症状が多い(重要である)と言える。従って「気と水」と「血と気と水」の合方を考えればよいのである。<br />
ところで「気と水」の症状と見る時は順序だてて考えなければならない事は前記と同じであるが、「気と水」の単独の薬方で処理するなら、気、気または水、水の所にあるすべての症状について考えなければならないが、「気と水」「血と気と水」の合方であるならば症状によっては「気と水」の方の症状と、「血と気と水」の方の症状とに分けて考える事が出来るのは当然である。例えばいま、拡脇苦満と言う症状を「気と水」の方の症状としれば「気と水」の方の薬方に最初の柴胡剤という事になる。しかし胸脇苦満とか、食欲不振という症状を「血と気と水」の方の症状だとすれば、残りの症状は表の症状だけとなる。従って「気と水」の薬方としては①の胸脇苦満があるならば……という項は該当せず、②の表証のみ、あるいは少し半表半裏の症状がある程度ならば表証、麻黄剤、皮膚疾患の薬方を選用すると感う事になる。<br />
いま、まず、後者の方の考え方で考えてみよう。この人は上腕痛を強く訴えているのであって、皮膚疾患を訴えているのではないので、当然皮膚疾患の各薬方は除かれる。また涙は出やすいという症状はあるが、全身の所に汗が出にくいと言う症状があること、および上腕痛が強いことより、実証である事がわかる。従って表証では麻黄湯、葛根湯を、麻黄剤では麻杏薏甘湯、大青竜湯、小青竜湯などの薬方が考えられる。今、この患者には冷えや瘀水の溜る症状が見られない事などにより、水の滞の出やすい大青竜湯、小青竜湯は除かれる。また強い筋肉痛がある事より、麻黄湯、葛根湯そのままでは効果が強い。従って加減方を考えないのであれば、麻杏薏甘湯が良い事がわかる。加減方も考えとなると、麻黄湯、葛根湯も考えられるが、この患者が腰の倦怠感も訴えているので、上焦だけに効果なある葛根湯の加減方を考えるのではなく、全身に効果のある麻黄湯を考えなくてはならない。更にこの患者にはのほせがあるが、寒を示す冷えが見えない事より、当然加減方としては麻黄湯加薏苡仁となる。さて、麻杏薏甘湯あるいは麻黄湯加薏苡仁を投薬するのであるならば、この患者は本来、食欲不振を訴えているのであるから「気と血と水」の方でそれを取り除ける薬方を考えなければならない事は当然である。従って柴胡剤(胸脇苦満、食欲不振)で瘀血も治せる薬方と言う事になり、加味逍遙散が考えられる。<br />
次に前者の考え方、すなわち「気と水」の方に胸脇苦満をおいた場合を考えてみよう。当然、柴胡剤が考えられ、汗が出にくいので実証ととった場合、痛み(上腕痛)が精神的なものより来ているのであれば、柴胡加竜骨牡蛎湯などを考える事もあるが、この患者は使い痛みより来ているため該当する薬方はない(痛みが胸脇苦満に由来するものであれば強くても治る。また柴胡剤としてすできあげている薬方に限定しているので該当する薬方はないのであって、加減方も考えれば対応する薬方は作れる)。とすれば涙が出やすいと言う症状を取って、虚証まで考えれば柴胡桂枝湯が考えられる。とすれば残りの症状で「血と気と水」の薬方を考えなければならない事になる。残った症状は、汗が出にくい、不眠、アザ、のぼせ、耳鳴、夜間排尿(痛みのため)であるので解毒剤、下焦の疾患、駆瘀血剤(瘀血単独の症状でないので省略)、加味逍遙散の中で該当するものは防風通聖散と八味丸が考えられる。この患者が老齢である事、やせ型である事を考えれば八味丸の方がよりよいと思える。いま、八味丸だけであるならば、食欲不振があるので使用できないが、柴胡桂枝湯が合方されるので使用できる。<br />
以上のように麻杏薏甘湯と加味逍遙散あるいは柴胡桂枝湯と八味丸が考えられるが農作業の使い痛みより起こった事を考えれば麻薏甘湯と加味逍遙散の方が良いと思う。<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
※このようにアレルギー体質であるとか、腺病質であるとか、<br />
原文は「線病質」であったが、「腺病質」に訂正。<br />
腺病質とは滲出性(しんしゅつせい)あるいはリンパ体質(アレルギー、湿疹などになりやすい体質)の小児や無力体質(体力のない体質)、神経質のこと。
<br />
<br />
※承気湯類などはほとんど体質改善を行なうことは出来ないものである。<br />
承気湯類の中でも、桃核承気湯は駆瘀血剤でもあるので、体質改善できる。<br />
ただし、桃心の品質に注意。<br />
また、ここで書かれている体質できない漢方薬でも飲み続けていれば、薬効とは関係なく、年齢などで、改体は変わる可能性はある。 <br />
<br />
※体質改善の出来る薬方を合方する方が良い事は言うまでもない。<br />
体質改善の薬方を合方すると、薬味が増え、薬効が弱まる可能性もあるので注意。<br />
症状が激しい時は、「先急後緩」で体質改善は後にした方が良いかも。<br />
<br />
※相応の処置<br />
裏証Ⅰ(安中散等)や柴胡剤等を合方する、人参を加えるなど。<br />
<br />
※駆瘀血剤では桂枝茯苓丸、加味逍遙散<br />
単に、血-気ー水 であれば、駆瘀血剤として桂枝茯苓丸も候補となるが、<br />
気-水 + 血=気-水 のように、合方する場合は<br />
血-気-水の駆瘀血剤は加味逍遙散のみのはずなので、桂枝茯苓丸は候補とはならない。<br />
<br />
※芍薬甘草湯を頓服<br />
芍薬甘草湯は二味であるから効果があり、合方して薬味が増えると効果が弱くなるため頓服にする。基本的に芍薬甘草湯は合方しないのが村上先生の考え方。<br />
<br />
<br />
<br />
Unknownnoreply@blogger.com0tag:blogger.com,1999:blog-6827912320235733185.post-89472478193495329042019-08-13T11:21:00.000+09:002019-08-26T18:31:29.756+09:00生薬の配剤から見た漢方処方解説(11)誌上漢方講座 症状と治療<br />
生薬の配剤から見た漢方処方解説(11) <br />
村上 光太郎<br />
a、調胃承気湯、防風通聖散、通聖消毒飲(図45参照)<br />
調胃承気湯は大黄と芒硝による下剤であるが、これに消炎作用の山梔子、連翹と、心下痞を治す黄芩、発汗、健胃生薬の薄荷を加えた薬方が涼膈散である。従って本方は心下痞があり、体表には炎症がある人に用いる薬方であるが、症状は激しく、実証の人に用いる薬方であることがわかる。これに駆瘀血生薬の当帰、芍薬、川芎を加え、更に体表の駆水生薬の麻黄、防風と、全身の駆水生薬の白朮、胃内停水を除く生姜、解熱作用の滑石、石膏を加え、桔梗と荊芥、連翹による消炎、排膿作用を加えたものが防風通聖散である。本方より駆水作用のある生姜、白朮、解熱作用の石膏を除いて、解毒作用のある牛蒡子を加えたものが通聖消毒飲でうる(連翹を欠けている)。しかし体表の駆水生薬である防風、麻黄や、解熱作用のある滑石等は残っているため、ほとんど防風通聖散と同じ薬効果を現すことがわかる。<br />
f、温清飲、柴胡清肝散、荊芥連翹湯、竜胆瀉肝湯(図46参照)<br />
温清飲は柴胡清肝散、荊芥連翹湯、竜胆瀉肝湯(一貫堂方)の基本となっている。温清飲はいわずもがな、四物湯(駆瘀血剤)と黄連解毒湯(心下痞、精神不安)の合方であり両方の薬能を現しているが、これに胸脇苦満を治す柴胡(量が少ないため、体質改善薬となる)、消炎、排膿作用をもつ桔梗、連翹、解熱作用の天花粉(瓜呂根)、薄荷、解毒作用のある牛蒡子を加えたものが柴胡清肝散であり、皮膚に炎症あるいは排膿があり、心下痞や精神不安と共に瘀血症状のある人の体質改善をして治そうとするものである。柴胡清肝散より天花粉と牛蒡子を除き、表の発汗剤である防風、鎮痛、鎮静剤である白芷を加え、気うつの順気剤である枳殻を加え、更に荊芥を加えて桔梗、荊芥、連翹を完全としたものが荊芥連翹湯である。従って柴胡清肝散と基本的には同じであるが、柴胡清肝散の場合には直接的に牛蒡子を加えて強く排膿していたのが除かれ、鎮痛作用のある白芷を加え、体質的な病毒を除こうとしている薬方である。柴胡清肝散の柴胡、桔梗、天花粉、牛蒡子を除き、健胃剤の竜胆、利尿剤の沢瀉、木通、車前子を加えたものが竜胆瀉肝湯で、柴胡清肝散は体毒と共に体表の毒を除こうとするのに反して、体毒を利尿に導き、治そうとするものである。ところで竜胆瀉肝湯には一貫堂方と異なる薬方が一般には用いられており、これは四物湯より芍薬、川芎が除かれ、黄連解毒湯より黄連、黄柏が除かれた薬方に、甘草と竜胆、沢瀉、木通、車前子が加えられた薬方である。従って駆瘀血作用や解毒作用は弱くなるが、駆水作用は一貫堂方と同じであることがわかる。<br />
以上のように考えていただければ、すべての薬方の解理ができるわけで、処方(薬方)名ばかりに目をおけるのではなく、配剤された生薬が何であるかに目を向けていただければ、合方、加減方などが誤りなく行なえる。<br />
ところで、これらの薬方を用いる場合には、どのようにしたら無理なく、自由に使用できるかというと、まず、病人の病変の程度を、病状より気・血・水で把握し、<br />
一、もし気の症状のみ、あるいは気の症状に、無視できる程度の血あるいは水の症状がある場合には気よりなっていると考え、順気剤を用いる。<br />
二、もし血の症状のみ、あるいは血の症状に、無視できる程度の気あるいは水の症状がある場合は瘀血であると考え、駆瘀血剤を用いる。<br />
三、もし水の症状のみ、あるいは水の症状に、無視できる程度の気あるいは気の症状がある場合は瘀水であると考え、駆水剤を用いる。<br />
気・血・水の各症状が混在する場合は、吉益南涯の気血水説に従って、次のように分類する。<br />
四、もし気と血の症状の時、あるいは気と血の症状に、無視できる程度の水の症状がある場合は瘀血であると考え、駆瘀血剤を用いる。<br />
五、もし気と血と水のすべての症状があれば、駆瘀血剤、解毒剤(図47参照)、下焦の疾患(図48参照)、加味逍遙散等より選用する。<br />
六、もし気と水の症状の時、あるいは気と水の症状に、無視できる程度の血の症状がある場合は気と水の病気と考え、更に表、半表半裏、裏、上、中、下等を考えて用いる。なお以下は順序どおりに使用を考えるものとする。従って上位の症状がないか、あるいはすでに上位の薬方が与えられたが症状が残った時には下位の薬方を考えるようにする。<br />
①、胸脇苦満があるならば、まず柴胡剤を用いる。<br />
②、表証の症状のみ、あるいは少し半表半裏の症状がある程度ならば、表証、麻黄剤、皮膚疾患の薬方を選用する。<br />
③、中焦の症状が主な時は、建中湯類を用いる。<br />
④、裏証の症状が主な時は、冷えがある程度の時は裏表Ⅰの薬方を、更に冷えが強く、新陳代謝が衰えている時は裏証Ⅱの薬方を用いる。<br />
⑤、便秘の症状だけに時は、承気湯類を用いる。<br />
⑥、心下痞の症状がある時は、瀉心湯類を用いる。<br />
⑦、口渇、漏水の症状を主としる時は、白虎湯類を用いる。<br />
⑧、以上のいずれにも属しない場合は、(血と気と水)あるいは(気と水、気と血)あるいは(気と水、血と気と水)のいずれかに考えなおし、再度、それらの薬方を考える。<br />
以上のようにして病人の証と薬方の証を結びつける(随証療法)のは比較的簡単であるが、病人の証の把握のためには、病人の症状を気・血・水に分類必要がある。しかし種々の症状を血にとったり、気にとったりするなど、人によりマチマチである事は少なくない。従って参考までに、私の用いている方法を記すますのでご利用ください(図49参証)。<br />
すなわち、全身の所の高熱、微熱、悪寒より下の、少し太い線で囲まれた、すなわち首、肩、背の所では首筋がこるから背部がだるいまで、胸の所ではつまる感じから心悸亢進まで、小便の所では無色から普通まで、などの症状群は気・血・水のいずれによっても起こらない症状か、あるいは気・血・水のいずれによっても起こる症状であるため、その症状であるため、その症状だけでは気・血・水の判断がつかない症状群である事を示している。<br />
次の太い線でかこまれた、すなわち全身の所では精神不安や興奮しやすい、のど、口、舌の所ではのどが痛いから声がかれるまで、腹の所では蠕動亢進などの症状群は気の症状であることを示している。<br />
次の太い線でかこまれた、すなわち全身の所では浮腫、蟻走感、皮膚の所では分泌物から腫物まで、のど、口、舌の所では口内炎、胸の所では喘鳴からケイレン痛、息切れまでなどの症状群、および少し離れた所にある排尿の所の出にくいから残尿感までの症状群は、気によっても起こる症状であるし、水によっても起こる症状であるため、これらの症状だけで気より起きたとか、水より起きた症状であると断定できない症状群である事を表している。<br />
次の太い線でかこまれた、すなわち顔の所ではあれるから青黒いまで、全身の所では身体動揺感から多汗までと、少し離れたところにある、頭の所では頭汗、胸の所では胸水、痛む、胃の所では胸やけから嘔吐までと、更に少し離れたところにある、大便の所では下痢便から粘液便、兎糞便まで、排尿の所では一回量(多い、少ない)の症状群は水によって起こる症状である事を示している。<br />
次の太い線でかこまれた、すなわち顔の所ではしみ、赤黒い、皮膚の所では紫斑が出来やすいからアザまで、婦人科の不妊症から月経困難(軽い、ひどい)まで、小便の所の赤味がかる、血尿などの症状群は、血によって起こる症状である事を示している。<br />
次の太い線でかこまれた、すなわち全身の所の不眠、手の所のマヒ感などの症状群と、少し離れた所にある頭の所ののぼせから耳鼻の所の鼻血までの症状群と、更に少し離れた所にある、腹の所の膨満感、足、腰の所のマヒ感などの症状群は血によっても起こる症状でもあるし、気によっても起こる症状でもある事を表している。従って当然、これらの症状だけで血より起きたとか、気より起きた症状であるとは断定できない症状群である事を表している。<br />
以上の事を頭に置いて、実際の病人にあたり、例えば気の所だけあるいは気の所の症状が多く、気または水、あるいは血または気の所の症状が少ないか、それほど重要な症状でない時は気の病として順気剤を用いる。<br />
同様に水の所だけあるいは水の所の症状が多く、気または水、あるいは水または血の所の症状が少ないか、それほど重要な症状でない時は水の病として駆水剤を用いる。<br />
また血の所だけあるいは血の所の症状が多く、水または血、あるいは血または気の症状が少ないか、それほど重要な症状でない時は血の病として駆瘀血剤を用いる。<br />
しかし、気の所、気または水の所、水の所に症状が多く、血および血または気の所に症状がないか、またはそれほど重要な症状でない時は気と水の病と考え、各種の薬剤を考える。<br />
また気の所、血の所、または気の所に症状が多く、気また水、水または血の所に症状が少ないか、それほど重要な症状でない時は気と血の病として駆瘀血剤を用いる。<br />
更に全体に症状があれば、すなわち、気の所、気または水の所、水の所、水または血の所、血の所、血または気の所に症状がちらばっていれば水と気と血の病として考え、各種の薬剤を用いる。<br />
これらに、先に述べた方法を組み合わせて考え正しい薬方を使用していただきたい。<br />
それでは実際に二~三の例にあたって見ると、図50では症状は気と水の病であるため、順番に見て行くと、まず胸脇苦満はないので①ではない。次いで症状のある位置を見るとほとんど表証であることがわかる。従ってこの人には表証、麻黄剤、皮膚疾患の薬方より選べばよい事がわかる。表証の薬方は純粋に表の症状のみに近く、麻黄剤はかなり半表半裏の症状を含み、皮膚疾患の薬方は皮膚の異常が主となるので、この人には表証の薬方を用いれば良い事がわかる。しかしこの人は多汗症であり、しかも疲労倦怠感があるので虚証である事がわかる。従って虚証の薬方である桂枝湯を用いればよいことがわかる。<br />
図51でも症状は気、気と水、水の所にあるため気と水の病である。従って順番に見て行くと、胸脇苦満はないので①ではない。胃の痞え、腹鳴などの症状があるため表証の症状のみあるいは多いとも言えないので②でもない。下痢、口苦い、首筋がこるなどがあるので中焦が主であるとも言えない。また裏証が主でもない。従って③、④ではない。下痢をしているので便秘ではないので⑤でもない。胸がつまる感じ、つかえるなどより考えると心下痞が考えられる。従って瀉心湯類を用いることがわかる。<br />
以上のようにして考えていただければ随証療法も容易になるでしょう。<br />
(おわり)<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
※本方は心下痞があり、体表には炎症がある人に用いる薬方であるが<br />
歯痛に用いる薬方として有名。<br />
瀉心湯類? 承気湯類?<br />
<br />
※通聖散毒飲<br />
文中は通聖消毒散となっていたが、見出しと合わせ通聖消毒飲に訂正。<br />
<br />
※柴胡清肝散、荊芥連翹湯、竜胆瀉肝湯(一貫堂方)は、解毒証体質に使われる薬方。<br />
<br />
<br />
※柴胡清肝散の場合には直接的に牛蒡子を加えて強く排膿していたのが除かれ、<br />
原文は <br />
柴胡清肝湯の場合には直接的に牛蒡子を加えて強く排膿していたのが除かれ、<br />
であるが、湯を散に訂正<br />
<br />
※ところで竜胆瀉肝湯には一貫堂方と異なる薬方が一般には用いられており、 <br />
原文は<br />
ところで竜肝瀉肝湯には一貫堂方と異なる薬方が一般には用いられており、<br />
であるが、肝を胆に訂正<br />
<br />
一般の竜胆瀉肝湯は、薛立斎(せつりつさい)のもの。<br />
医療用の漢方エキス剤では小太郎のものが一貫堂方で、他社の竜胆瀉肝湯は薛氏の薬方。<br />
<br />
※これは四物湯より芍薬、川芎が除かれ、<br />
原文は<br />
これは温清飲より芍薬、川芎が除かれ、<br />
であり、間違いではないが、後で黄連解毒湯が出てくることから、四物湯の方が適当。<br />
<br />
※⑦から⑧に移る前に、(気と水)+(気と水) で考える。<br />
<br />
※気の所、血の所、または気の所に症状が多く、気また水、水または血の所に症状が少ないか、それほど重要な症状でない時は気と血の病として駆瘀血剤を用いる。<br />
原文は、<br />
気の所、血の所、または気の所に症状が多く、気また水、水または血の所に症状が少ないか、それほど重要な症状でない時は血の病として駆瘀血剤を用いる。<br />
と「血の病」となっているが、訂正。<br />
ただし、使う薬方は駆瘀血剤で同じ。<br />
<br />
※桂枝湯を用いればよいことがわかる。<br />
首筋がこる、肩こりがあるので桂枝加葛根湯の方が良いのでは? と村上先生に質問したことがあるが、そこまでは必要ないだろうとのことだった。<br />
<br />
※従って瀉心湯類を用いることがわかる。<br />
瀉心湯類の中の半夏瀉心湯か?<br />
精神不安が強ければ甘草瀉心湯か?<br />
嘔吐が強ければ生姜瀉心湯か?Unknownnoreply@blogger.com0tag:blogger.com,1999:blog-6827912320235733185.post-26201698436498508982019-08-03T08:00:00.001+09:002019-08-12T10:43:48.842+09:00生薬の配剤から見た漢方処方解説(10)誌上漢方講座 症状と治療<br />
生薬の配剤から見た漢方処方解説(10)<br />
村上 光太郎<br />
<br />
I、駆水剤<br />
a、桂枝甘草湯、苓桂朮甘湯、茯苓甘草湯、苓姜朮甘湯(図36参照)<br />
桂枝甘草湯は、桂枝と甘草が配剤されたもので、桂枝の発汗作用、気の上衝を押える作用に甘草の急迫症状の緩解作用が加わり、心下悸が強く、自分で胸を押えなくては安心できない時に用いる薬方である。<br />
本方に茯苓、白朮を加えた苓桂朮甘湯は、茯苓と桂枝、甘草による心悸亢進やめまいを治す作用と茯苓白朮の胃内停水を除く作用、桂枝と白朮および茯苓の利尿作用が配剤されている。従って胃内停水があり、尿利減少しているため、その水により各種の異常を起こすものに用いる。この場合、桂枝が配剤されているため、気の上衝を治す作用があることは当然である。従って水毒は上焦へと向かっている事を表わしており、心悸亢進やめまいを生じるようになった人に用いる薬方となっている。<br />
これが苓姜朮甘湯になると、桂枝がないため、茯苓と白朮や乾姜の胃内停水を除く作用、乾姜による新陳代謝を亢めて温める作用だけとなるため、水毒は上焦へとは移動せず、下焦へと集まり、その部位に溜まるようになる。従って、胃部から腰部にかけて、水のため冷えを感じるようになる。本方の目標に「水中に坐せるが如く、また五千金を帯ぶるが如し」とあるのはこの水毒のためである。<br />
茯苓甘草湯は苓桂朮甘湯より白朮を除き、生姜を加えたもので、茯苓と桂枝、甘草の心悸亢進やめまいを治す作用と、桂枝と茯苓の利尿作用、生姜の胃内停水を除く作用がある。<br />
基本的には苓桂朮甘湯と同じであるが、苓桂朮甘湯の方には白朮が加わるため、胃内停水、利尿作用などの症状は茯苓甘草湯よりも強い時に用いる薬方である事がわかる。言い換えれば、苓桂朮甘湯は茯苓甘草湯より実証の薬方である事がわかる。<br />
b、苓桂朮甘湯、苓桂甘棗湯、苓桂味甘湯(図37参照)<br />
この三方の違いは白朮か大棗か五味子かの違いである。この三種の生薬のうち、白朮のみは茯苓ないし桂枝との配剤により薬効が変化する生薬であるが、大棗や五味子の薬効は変化せず、相加作用のみしかない。すでに「生薬の配剤から見た漢方処方解説(2)」の所で述べたように、鎮咳剤としては、五味子の方が大棗より実の薬味であり、大棗には精神的なものが加わる。他の薬味、すなわち茯苓、桂枝、甘草は三方とも共通であり、気の上衝のため、水毒は上焦に向かっており、心悸亢進やめまいを治す作用を持っている事は言うまでもない。<br />
c、猪苓湯、苓桂朮甘湯、五苓散、茯苓沢瀉湯、茯苓甘草湯、茯苓甘棗湯(図38参照)<br />
猪苓湯は茯苓と沢瀉、猪苓の尿利をよくする組み合わせに滑石の消炎、利尿、止渇剤と阿膠の止血剤を加えたものであり、尿の出が悪く、しかも血尿、蛋白尿など出ているものに用いる薬方である。しかし、桂枝がないため、本方の水毒は上焦には向かいにくいが、下焦の炎症が激しい時は、その熱によって気の上衝とともに水の上衝が少し加わる場合もある。<br />
五苓散は、苓桂朮甘湯の甘草を除き、沢瀉、猪苓を加えたもので、茯苓と甘草、桂枝の組み合わせが、茯苓と桂枝だけとなり、心悸亢進やめまいが少し弱く、反対に茯苓、沢瀉の利尿作用が桂枝と白朮または茯苓の利尿作用と重なるため、利尿作用は非常に強くなっている。従って五苓散は水毒が非常に強いため、「類は友を呼ぶ」と言われるように、水毒のため水を飲みたくなり、煩渇飲引と言われるほど、すなわち、いくら水を飲んでも飲みたりないほど強い時に用いる薬方である。<br />
これが茯苓沢瀉湯になると、茯苓と猪苓、沢瀉の組み合わせが茯苓と沢瀉だけとなり、利尿作用は少し弱くなるが、甘草が配剤されたため、茯苓と桂枝、甘草の組み合わせは完全となり、心悸亢進やめまいを治す作用も完全となる。また、生姜が配剤されているため、茯苓と白朮の組み合わせとともに作用して、胃内停水を治す作用は更に強くなっている。従って本方は利尿作用は強くなるが、胃内停水や心悸亢進、めまいなども強くなっていることがわかる。本方より更に沢瀉を除いて、利尿作用を弱めた形の薬方が苓桂朮甘湯である。この事は逆に考えれば、水毒が強く、その水毒を体外に強く排泄しなければならない時は五苓散を、それに対して水毒が少し弱くなれば茯苓沢瀉湯を、更に弱くなり、桂枝と茯苓、白朮だけでたりる程度であれば、苓桂朮甘湯を用いれば良いと言う事を表わしており、水毒の事より考えれば、一番実証の薬方が五苓散、ついで茯苓沢瀉湯であり、苓桂朮甘湯が更に虚証の薬方であることがわかる。<br />
茯苓甘草湯は、茯苓沢瀉湯より白朮を除き、 桂枝と白朮の利尿作用、茯苓と白朮の胃内停水を除く作用が除かれ、生姜の胃内停水を治す作用、桂枝と茯苓の利尿作用、茯苓と桂枝、甘草の心悸亢進やめまいを治す作用だけとなるため、茯苓沢瀉湯より虚証の薬方となる。<br />
本方と苓桂朮甘湯を比べても、本方には生姜の胃内停水を除く作用が加わっているが、茯苓と白朮の胃内停水を除く作用が減少し、更に桂枝と白朮の利尿作用が除かれているため、水毒は苓桂朮甘湯よりも弱い事がわかる。<br />
茯苓甘草湯と苓桂甘棗湯との違いは、胃内停水を除く生姜を配剤するか、精神的(急迫的な)咳嗽を治す大棗を配剤するかの違いである。従って両方の薬方とも茯苓と桂枝、甘草の心悸亢進やめまいを治すとともに、桂枝と茯苓の利尿作用があり、茯苓甘草湯は胃内停水が、苓桂甘棗湯は咳嗽がある場合に用いる薬方である事がわかる。また、これら両方とも苓桂朮甘湯より茯苓と白朮の利尿作用が欠けているため、茯苓甘草湯(生姜の胃内停水を除く作用はあるが、茯苓と白朮の組み合わせによって起こる胃内停水を除く作用より弱い)も苓桂甘棗湯も苓桂朮甘湯版り虚証の薬方である。<br />
d、苓桂甘棗湯、良枳湯(図39参照)<br />
苓桂甘棗湯は良枳湯に含まれている。良枳湯は茯苓と桂枝、甘草の心悸亢進やめまいを治す作用と、茯苓と桂枝の利尿作用、大棗の精神的な咳嗽を治す作用 などの苓桂甘棗湯証に更に半夏と枳実と良姜が加わった薬方となっている。従って半夏はすでに配剤されている甘草、大棗とともに鎮痛剤となり、枳実は気うつの順気剤であるため、心悸亢進、めまい、利尿、咳嗽、鎮痛のすべての作用が増強され、更に良姜による健胃作用も強まっている。<br />
e、平胃散、四苓湯(五苓散)、分消湯(図40参照)<br />
分消湯は平胃散より甘草、大棗を除き、四苓湯(五苓散より桂枝を除いたもの)と木香、香附子、枳実、大腹皮、縮砂、燈心草を加えたものであり、平胃散、四苓湯の薬効に、更に駆瘀血(香附子)、健胃(枳実、大腹皮、木香、縮砂)、利尿(大腹皮、燈心草)を加え、枳実による作用の増強が加わったものである。ところで、平胃散は蒼朮の麻痺作用に生姜の胃内停水を治す作用、陳皮の健胃作用が加わり、これらの作用が順気生薬の厚朴により強められている薬方である。また、四苓湯は五苓散より気の上衝を治す桂枝が除かれた薬方であるため、茯苓と白朮の胃内停水を除く作用、茯苓と沢瀉、猪苓の利尿作用だけとなっている。しかし、これらの作用は分消湯では平胃散の厚朴と更に加えられた枳実により強められているため、分消湯の水毒は五苓散より強く、更に健胃作用と駆瘀血作用が加わった薬方である事がわかる。<br />
j、その他<br />
a、不換金正気散、藿香正気散、平胃散、二陳湯(図41参照)<br />
不換金気散、藿香正気散の両方とも平胃散、二陳湯(去茯苓)を含んでいる。二陳湯(去茯苓)は半夏と生姜の鎮嘔作用、半夏と甘草(不換金正気散と藿香正気散は更に大棗が加わっている)による鎮痛作用、陳皮の健胃作用が含まれている。この二陳湯(去茯苓)に更に健胃剤の藿香、順気剤の厚朴、麻酔作用のある蒼朮が加えられたものが不換金正気散である。<br />
言い換えれば、平胃散に半夏と藿香を加えたものであり、急に起こった痛みを蒼朮によって麻酔し、また半夏と大棗、甘草の鎮痛作用も相乗的に働かせて痛みをとるとともに、陳皮、藿香の健胃作用、半夏、生姜の鎮嘔作用によって症状の緩解を図り、これらに順気生薬の厚朴が加えられて、更に強力な薬方となっているのが不換金正気散であるといえる。従工て不換金正気散は平胃散のように体力のあまり衰えていない、急性病的な症状に用いる部分(蒼朮)と各種の健胃生薬によって慢性的な症状を治そうとする部分を含んでいる。この不換金正気散より麻酔作用のある蒼朮を除き、鎮痛、鎮静作用のある白芷、利尿作用のある大腹皮、白朮、順気剤の蘇葉、排膿作用のある桔梗を加えたものが藿香正気散である。従って、水毒は藿香正気散の方が不換金正気散よりも強く、藿香正気散には排膿作用も加わっているが、不換金正気散のような麻酔性の鎮痛作用がないため慢性的な消化器系疾患に用いる薬方であることがわかる。 <br />
b、小半夏湯、二陳湯、温胆湯(図42参照)<br />
半夏の鎮嘔作用を目的にすれば、小半夏湯となり、これを胃内停水を除くために、茯苓を加えたものが小半夏加茯苓湯である。更に健胃生薬である陳皮を加えれば二陳湯となり、胃が弱く、胃内停字によって嘔吐、悪心のあるものに用いるようになる。この二陳湯に解熱、止渇作用のある竹筎を加え、順気生薬の枳実を加えて作用を強力としたものが温胆湯であり、同様に胃が弱く、胃内停水によっては嘔吐、悪心はあるが、内熱により水の上衝が非常に強く、熱と水のため不眠を訴えるようになったものに用いる薬方であることがわかる。不眠が更に強くなれば、本方に黄連と酸棗仁を加えて用いられる。<br />
c、十味敗毒湯、荊防敗毒散(図43参照)<br />
十味敗毒湯と荊防敗毒散の違いは、十味敗毒湯には桜皮が配剤されているのに対して、荊防敗毒散には羗活、前胡、薄荷、連翹、金銀花、枳実が配剤されている事である。共通の部分は茯苓の駆水剤とともに、発汗、解熱剤の独活、防風、胃内停水を除く生姜、駆瘀血剤の川芎、桔梗と荊芥による消炎と排膿作用、柴胡の胸脇苦満を治す作用(実際は配剤量が少ないため、胸脇苦満とは現れず、胸のあたりが変だとか、アレルギー体質、虚弱体質などの体質改善が必要であるという事だけの事が多い)などがある。従って十味敗湯更には更に収れん、解毒作用、すなわち、皮膚病を治す桜皮とともに作用するので、胃内停水のみならず体表にも水毒があり、瘀血も少しあって、体表には炎症あるいは膿が溜りやすい体質傾向の人に用いる薬方である。荊防敗毒散は十味敗毒湯の桜皮を金銀花に替えて浄血、解毒作用とし、更に発汗剤となる羗活、薄荷、および鎮咳、去痰剤となる前胡を加え、更に連翹を加えることにより、桔梗と荊芥の組み合わせろ桔梗と荊芥、連翹の組み合わせとして完全とし、気うつの順気剤を加えて配剤された薬味の数の増加による作用の低減を防ぐとともに、増強された発汗作用を更に強力とした薬方である。従って、荊防敗毒散は十味敗毒湯より実証の薬方となっている。<br />
d、大承気湯、加味承気湯、通導散(図44参照)<br />
通導散には万病回春に記載の薬方と、一貫堂方では芒硝の有無が般なるが、芒硝は大黄とともに配剤されている事を考えれば、万病回春方が、一貫堂方より少し実に用いる薬方である事がわかる。<br />
さて、これらの薬方の基本となっている大承気湯あるいは大承気湯去芒硝は、大黄と芒硝(あるいは大黄のみ)の下剤の作用が、枳実、厚朴の順気生薬によって強められている薬方であり、強烈な下剤である。これに当帰、紅花の駆瘀血生薬を加え、甘草の諸薬の調和作用を加えたものが、加味承気湯であり、当帰や紅花の駆瘀血作用を下剤および気うつの順気剤により強い駆瘀血剤として、瘀血を強く排除しようとする薬方である。この加味承気湯に更に駆瘀血生薬の蘇木、気うつの順気生薬の帰国を加えて強力とし、合わせu健胃生薬の陳皮、利尿作用の木通を加え、水毒までも治そうと考えたのが通導散である。 (以下次号につづく)<br />
<br />
<br />
※大棗や五味子の薬効は変化せず、相加作用のみしかない。<br />
桂枝+大棗(止汗作用)の薬効は現れないのか?<br />
<br />
※従って本方は利尿作用は強くなるが、胃内停水や心悸亢進、めまいなども強くなっていることがわかる。<br />
猪苓が無い分、利尿作用は弱くなっているのでは?<br />
<br />
※本方より更に沢瀉を除いて<br />
本方より更に沢瀉(と生姜)を除いて <br />
<br />
※茯苓甘草湯は、茯苓沢瀉湯より白朮を除き、<br />
茯苓甘草湯は、茯苓沢瀉湯より白朮と沢瀉を除き、<br />
<br />
※良枳湯は茯苓と桂枝、甘草の心悸亢進やめまいを治す作用と、茯苓と桂枝の利尿作用、大棗の精神的な咳嗽を治す作用iなどの苓桂甘棗湯証<br />
桂草+大棗の止汗作用が書かれていないのは何故?<br />
<br />
※藿香正気散<br />
胃腸薬や駆水剤としてよりも、夏風邪に使う漢方薬として有名。何故?<br />
<br />
※これを胃内停水を除くために、<br />
これに胃内停水を除くために、<br />
<br />
※本方に黄連と酸棗仁を加えて用いられる。<br />
加味温胆湯<br />
<br />
※桜皮<br />
十味敗毒湯には桜皮を使うものと樸樕を使うものとがある。<br />
<br />
※気うつの順気剤<br />
薄荷、枳実<br />
<br />
※荊防敗毒散は十味敗毒湯より実証の薬方<br />
医療用漢方製剤には、十味敗毒湯はあるが、荊防敗毒散は無い。<br />
このため荊防敗毒散が使われる頻度は低いと思われる。 <br />
『勿誤薬室方函口訣』には、十味敗毒湯は荊防敗毒散の加減方と記されている。<br />
荊防敗毒散は『万病回春』、十味敗毒湯は華岡青洲の創方。<br />
<br />
※大承気湯去芒硝<br />
=小承気湯 <br />
Unknownnoreply@blogger.com0tag:blogger.com,1999:blog-6827912320235733185.post-74639660988005579112019-07-27T09:14:00.000+09:002019-08-02T21:11:10.812+09:00生薬の配剤から見た漢方処方解説(9)誌上漢方講座 症状と治療<br />
生薬の配剤から見た漢方処方解説(9)<br />
村上 光太郎<br />
<br />
F、裏証Ⅰ・Ⅱ<br />
a、半胃散、補気建中湯、四君子湯(図26参照)<br />
平胃散、補気健中湯、四君子湯の関係を見ると、補気建中湯、四君子湯の方意が含まれている。平胃散や補気建中湯には蒼朮が配剤されているため、この二方は痛みが激しい時に麻酔を目的に用いる薬方であることがわかる。ところでこの二方には厚朴が配剤されているため、麻酔作用は更に強くなり、また同時に配剤されている陳皮や生姜の健胃作用も強力となっていることは今更、言うに及ばない。従工てこられ二方は消化器系が悪く、消化障害を起こし、しかも痛みが激しい時に用いられる薬方であるが、麻酔作用のある薬物が配剤されているという事は、平素健康な人が暴飲暴食によって急に痛みを覚える人に用いる薬方であることがわかる(もし、これらの薬方を平素より消化器系の弱い人に用いれば、蒼朮の麻酔作用により痛みが早く止まるため、治ったものと勘違いして、再び無理をし、結果的には治らない事になるため、平素より消化器系の弱い人には用いないようにするほうがよい)。平胃散はこれらに大棗と甘草が配剤されているが、大棗の精神的なことによって起こる咳に対する鎮咳作用は、他に強い作用の生薬が配剤されれば表面には現れてこないし、甘草の鎮痛作用も同様に現われず、他の生薬の調和の意味しかない。従って平胃散は健胃作用と麻酔(鎮痛)作用が順気生薬(厚朴)によって強められた薬方である。この平胃散に四君子湯を配剤し、更に全身の水毒を協す人参、胃内停水を治す茯苓と白朮の組み合わせ、尿利をよくする茯苓と沢瀉の組み合わせがあり、心下痞を治す黄芩が配剤された薬方が補気建中湯である。また本方には更に鎮咳作用のある麦門冬が配剤されているため、補気健中湯には平胃散の消化器系の障害を治す作用に、水毒の症状が激しくなり、全身症状まで現われ、咳までも出始めた人に用いる薬方となっている。<br />
b、平胃散、不換金正気散、香砂六消子湯(図27参照)<br />
平胃散と不換金正気散を比べると、不換金正気散には平胃散には平胃散にはない半夏と藿香が配剤されているため、半夏と生姜の組み合わせによる鎮痛作用、半夏と甘草、大棗の組み合わせによる鎮痛作用が加わり、更に藿香による健胃作用が陳皮や生姜の作用と共に強力となっている。従って不換金正気散は平胃散の健胃作用が更に強くなり、嘔吐なども強くなった人に用いる薬方となっている。不換金正気散は更に色々と加減がなされ、数多くの薬方が構成されている。ところで平胃散より麻酔作用のある蒼朮、順気生薬の厚朴を除いて、茯苓を加えた(大棗も除かれている)薬方は二陳湯といい、胃内停水によって嘔吐等を発する人に用いる薬方である。本方に砂仁、香附子、人参、白朮、大棗を加えたものは香砂君子湯といい、健胃作用(砂仁)、駆瘀血作用(香附子)、全身の水毒および駆水作用(人参、白朮)が更に加わるため、水毒が強く、瘀血も少し加わった人に用いる薬方である。ところで二陳湯および香砂六君子湯には蒼朮およびそれを強力にする順気生薬(厚朴)が入っていないため、麻酔して痛みを止めるのではなく、水毒の変調を治す薬方であるから、急な暴飲暴食による痛みには効果がない事がわかる。<br />
c、六君子湯、半夏白朮天麻湯(図28参照)<br />
半夏白朮天麻湯の中には六君子湯に含まれている生薬のほか(甘草、大棗は欠けている)健胃消化薬となる麦芽、神麹、黄柏。強壮、鎮静の天麻。表虚を治す黄耆。胃内停水を治し、新陳代謝を高める乾姜。尿利をよくする沢瀉(茯苓と組み合わされて)。麻酔作用のある蒼朮が配剤されている。従って水毒の異常は消化器系はもちろん、全身に及んでおり、そのために起こる各種の症状に用いられる。<br />
d、人参湯、桂枝人参湯、苓姜朮甘湯(図29参照)<br />
人参湯と桂枝人参湯の関係ほ見ると、人参湯に気の上衝(のぼせ)をおさえる桂枝が配剤されたものが桂枝人参湯である。この場合、人参湯に配剤されている白朮には駆水作用があるが、その駆水の方法すなわち発汗するか、利尿に導くか等が不明である。従って水毒が強ければ効果が期待できないことがある。しかし順気生薬である桂枝が配剤されれば、桂枝の発汗作用と共に、桂枝と白朮が配剤されることによって起こる利尿作用が加わるので水毒の解消方法が明瞭となり、水毒が多少強い場合にも用いられるようになる。<br />
人参湯と苓姜朮甘湯の関係は、人参湯には人参が、苓姜朮甘湯には茯苓が配剤されている。人参湯は全身の水毒をめぐらす人参、胃内停水を除き、新陳代謝機能を亢進させる乾姜、駆水作用のある白朮が配剤されているため、水毒は胃内停水に止まらず、全身におよんでいることがわかる。一方、苓姜朮甘湯は乾姜および茯苓と白朮による胃内停水を除く作用だけとなっている。また生姜ではなく、乾姜が配剤されている事は新陳代謝機能もおとろえている事を現わす。この事は胃内停水も胃の中に停まらず、下腹部から腰部にまで及ぶようになっている事を現わしている。従って人参湯のように全身の冷えというよりも腰部の水毒のため、腰部の冷えを強く感じる時に用いる薬方であることがわかる。<br />
e、附子湯、真武湯(図30参照)<br />
附子湯と真武湯の関係を見ると、附子湯には人参が、真武湯には生姜が配剤されており、他の生薬は共通である。人参は全身の水毒を巡らせ、生姜は胃内停水を除く作用がある。従って附子湯は全身の水毒がある人に、来局名湯は胃内停水が強い人に用いる薬方である事がわかる。ところで共通部分を見ると、茯苓と白朮による胃内停水を除く作用、芍薬の筋肉の緊張を柔らげる作用があり、更に附子が配剤されている。附子の温補作用は配剤された生薬によって作用する部位が変化する事はすでに述べたが、附子湯では附子は茯苓、人参によって半表半裏から裏へ、また、芍薬、白朮によって全身に誘導されるため、結果的には半表半裏より裏へ強く作用する(全身に誘導された場合、附子の作用は、水毒の症状を治す作用へと変わり、新陳代謝の賦活作用は現われない)。ところが、真武湯の附子の作用は茯苓によって半表半裏から裏に誘導され、芍薬、白朮によって全身に誘導されるため、半表半裏から裏に強く働くが、全身にも及ぶことになり、半表半裏から裏位の新陳代謝の賦活作用は附子湯よりも劣ることになる。<br />
f、四逆湯、甘草附子湯(図31参照)<br />
四逆湯は 乾姜と附子が配剤されているため、新陳代謝の賦活作用は最も強い部類に属する。しかし甘草附子湯は附子のみが配剤されているため、四逆湯に比べると新陳代謝の賦活作用は弱い。また附子の作用する部位を見ると、四逆湯では附子の作用は乾姜によって半表半裏から裏へ誘導され、半表半裏から裏の部位の新陳代謝を亢めるが、甘草附子湯では附子の作用は桂枝によって表に誘導され、白朮によって全身に誘導されるため、結局附子は表の組織に作用し、表の部位の新陳代謝機能を亢めるようになる。従って四逆湯と甘草附子湯はいずれも新藻代謝の賦活剤であると言っても、作用する部位はまったく異なる事を知らなければならない。<br />
G、承気湯類<br />
a、大黄甘草湯、調胃承気湯、桃核承気湯(図32参照)<br />
大黄甘草湯の大黄は言うまでもなく下剤であり、共に配剤されている甘草は大黄により起こるであろう腹痛等の障害を少しでも緩解させるために配剤されているものである。本方に芒硝を加えて下剤の作用を強めたものは調胃承気湯であり、更にこの作用を順気生薬(桂枝)によって強め、駆瘀血生薬を配剤したものが桃核承気湯である。従って桃核承気湯が一番実証の用いる薬方であり、次いで調胃承気湯、大黄甘草湯と続いて虚証の人に用いる薬方となつている事がわかる(生薬の配剤から見た漢方処方解説(4)を参照)<br />
b、潤腸湯、麻子仁丸、小承気湯(図33参照)<br />
小承気湯に麻子仁、杏仁、芍薬が配剤された薬方が麻子仁丸であり、麻子仁丸より芍薬を除いて更に桃仁、当帰、地黄、黄芩、甘草を加えた薬方が潤腸湯である。小承気湯は大黄の下剤を気うつの順気剤(厚朴、枳実)で強めたものであり、下剤としては強力な部類に属する。それに更に緩下剤である麻子仁を加えて作用を強力としているが、芍薬によって半表半裏から裏位の痛み(芍薬の量が多いため)、すなわち腹痛等を鎮めるため、強い下剤になって起こるであろう腹痛等を鎮めると共に、薬味の数も多くなっているため、作用は緩和となっている。潤腸湯は本方に更に駆瘀血剤である桃仁、当帰、補血、強壮剤である地黄、心下痞を治す黄芩を配剤しているため、更に下剤の作用は緩和となっている。<br />
H、瀉心湯類<br />
a、黄連湯、半夏瀉心湯、生姜瀉心湯(図34参照)<br />
三方の違いは黄連湯には桂枝が、半夏瀉心湯には黄芩が、生姜瀉心湯には黄芩と生姜が配剤されている。共通な部分を見ると、黄連の心下痞を治す作用(黄芩が入れば更によい)、半夏と生姜(実際は乾姜が配剤されている)の鎮嘔作用、半夏と大棗、甘草の鎮痛作用、人参の全身の水毒を治す作用、乾姜の胃内停水を除く作用があり、更に乾姜による新陳代謝の賦活作用がある。従って心下痞があり、胃内停水、全身の水毒がある。言い換えれば胃内停水が動けばそれにつれて種々の症状が出る時に用いられるもので、現わしている個々の症状に合わせて加減して薬方が作られる。すなわち、気の上衝(のぼせ)が強ければ桂枝を配剤して黄連湯として用い、心下痞が強ければ黄芩を更に配剤して黄連と黄芩の組み合わせを作り、確実性を高めた半夏瀉心湯とし、胃内停水が強ければ乾姜の量を減らし、生姜を加えた生姜瀉心湯にする。<br />
b、黄連阿膠湯、大黄黄連瀉心湯、三黄瀉心湯(図35参照)<br />
大黄黄連瀉心湯は大黄と黄連が配剤されたもので、心下痞を治す黄連(黄連にはこの他、消炎、健胃、鎮痛作用もあるのは当然である)にその作用を強めるため、下剤の大黄が配剤されている。この大黄黄連瀉心湯に心下痞を治す黄芩が配剤されれば三黄瀉心湯となり、心下痞を治す作用は更に明瞭となる。<br />
三黄瀉心湯は実証の薬方であるが、黄連、黄芩の作用を大黄で強力とするのではなく、筋肉の緊張をやわらげる芍薬(瘀血も巡らす)と血燥を潤し肌膚をなめらかにする作用のある阿膠と卵黄が加えられたものが黄連阿膠湯である。従って薬味の数は増えるが、下剤ないし順気剤による作用がないため、薬味の数が増えただけ、結局作用は弱くなり虚証の薬方へと変わっている。<br />
(以下次号に続く)<br />
<br />
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※砂仁<br />
縮砂(Amomi Semen)<br />
<br />
※新陳代謝の賦活作用は附子湯よりも劣ることになる。<br />
原文は<br />
新陳代謝の賦活作用は附子よりも劣ることになる。 となっているが、附子湯に訂正。<br />
<br />
※四逆湯<br />
回逆湯(かいぎゃくとう)とも。<br />
四逆散とは全くことなるので注意。<br />
薬方名に数字がある時は、薬味の数に関係あることが多いが、四逆湯は乾姜(カンキョウ)、甘草(カンゾウ)、附子(ブシ)、白朮(ビャクジュツ)、桂枝(ケイシ)の五味。<br />
四逆散は、柴胡(サイコ)、枳実(キジツ)、芍薬(シャクヤク)、甘草(カンゾウ)の四味。<br />
<br />
※潤腸湯は本方に更に駆瘀血剤である桃仁、当帰、補血、強壮剤である地黄、心下痞を治す黄芩を配剤しているため、更に下剤の作用は緩和となっている。<br />
潤腸湯から芍薬が除かれている意味は?<br />
薬味が多くなり作用が緩和になったため、芍薬は除いたのか?<br />
<br />
※生姜瀉心湯<br />
生姜は日局ショウキョウ(干生姜)ではなく、生のショウガを使うべき。<br />
簡便な方法としては半夏瀉心湯のエキスにショウガの擦りおろしを加える<br />
(ただし、乾姜が減量されていない点は注意)<br />
更にショウガの擦りおろしの代わりにチューブのショウガでも?<br />
(出始めの頃のチューブのショウガにはショウガが入っていないことがあったらしいが現在は?)<br />
<br />
<br />Unknownnoreply@blogger.com0tag:blogger.com,1999:blog-6827912320235733185.post-15650050298658872702019-03-07T06:36:00.003+09:002019-07-26T22:18:44.799+09:00生薬の配剤から見た漢方処方解説(8)誌上漢方講座 症状と治療<br />
生薬の配剤から見た漢方処方解説(8)<br />
村上 光太郎<br />
<br />
<b>C、駆瘀血剤 </b><br />
<b> a、桃核承気湯、調胃承気湯(図・16参照)</b><br />
桃核承気湯と調胃承気湯を見ると、桃核承気湯には調胃承気湯が含まれている。今、調胃承気湯の大黄、芒硝は強い下剤であり、甘草は二薬の調和および、弱いながらも大黄、芒硝の作用発現時に起こる腹痛を防ぐ作用がある。従って桃核承気湯も強い下剤であることがわかる。桃核承気湯には調胃承気湯に更に順気生薬の桂枝と駆瘀血生薬の桃仁が加えられているため、調胃承気湯より更に下剤の作用は強くなり(順気生薬による)、駆瘀血剤の作用も強くなっている(下剤、順気生薬による)。従って桃核承気湯を駆瘀血剤として使用する場合には、常に下剤の作用がある事を忘れてはならない。<br />
<b>b、四物湯、七物降下湯、八物降下湯(図・17参照)</b><br />
これら三方の関係は、四物湯を基本として七物降下湯が作られ、更に七物降下湯を基本として八物降下湯が作られたものである。従って、当然四物湯の駆瘀血剤の薬能は他の薬方へと受けつがれ、七物降下湯では更に黄耆の表虚を治す作用、釣藤の鎮静、鎮痙作用、黄柏の消炎性健胃の作用が加わる。また八物降下湯では釣藤と黄耆の組み合わせによる降圧作用を目的にするだけでなく、更に降圧作用のある杜仲を加えることによって作用の増強が図られている。<br />
<b>c、十全大補湯、連珠飲、八物湯(図・18参照)</b><br />
十全大補湯と連珠飲との関係は連珠飲に人参(全身の水毒)と黄耆(表虚、寝汗)が加えられたものが十全大補湯であり、十全大補湯と八物湯(別名八珍湯)との関係は八物湯に桂枝(気の上衝を治す、茯苓と甘草と共に心悸亢進やめまいを治す)と黄耆が加えられたものが十全大補湯である。また連珠飲と八物湯の関係は桂枝が入るか、人参が入るかの違いとなる。すなわち上焦の症状が多くなれば連珠飲であり、全身の症状なら八物湯であるとも言える。これらの関係をさらに単純な薬方で見ると更に明瞭となる。すなわち連珠飲は四物湯と苓桂朮甘湯の合方よりなっており、八物湯は四湯物と四君子湯の合方よりなっているからである。<br />
<b>d、胃風湯</b><br />
胃風湯は八物湯去甘草、地黄に桂枝、粟を加えたものとして考えることが出来る。また前記のCの関係図を考え合わせると、連珠飲去甘草、地黄に人参、粟を加えたとも考えることができる。すなわち、十全大補湯の黄耆を除いて粟を加え、更に地黄、甘草を除いたものであると言える。地黄の強壮作用がなくなっているという事は、胃風湯が十全大補湯より少し実証の人に用いる薬方である事を現わしており、甘草が除かれている事は、薬味の数が多いので薬効にはほとんど関係はない。また黄耆が除かれているので表虚(寝汗)もなく、粟が配剤されているので裏虚(特に腸管の弛緩)を治す作用がある。言い換えれば胃風湯は十全大補湯より表実裏虚証の人に用いる薬方であるといえる。<br />
<b>e、柴胡清肝散、荊芥連翹湯(図・20参照)</b><br />
柴胡清肝散と荊芥連翹湯の関係はいずれも温清飲に桔梗と連翹の組み合わせと、柴胡、および薄荷、甘草が配剤されており、荊芥連翹湯には発汗解熱作用のある防風と、桔梗、荊芥・連翹と共に排膿作用のある白芷が配剤されており、これらの作用を枳殻によって増強させている。従って柴胡清肝散と荊芥連翹湯は非常に良く似た薬効をもった薬方であることがわかる。ただ牛蒡子は先天的な体毒を、桔梗、荊芥、連翹と白芷の組み合わせは蓄積された体毒を治すとする区別もある。<br />
<b>D、表証、麻黄剤</b><br />
<b>a、桂枝湯、真武湯(図・21参照)</b><br />
まず、桂枝湯およびその加減方についてそれらの関係を見ると、桂枝湯は桂枝と芍薬による筋肉の緊張緩和作用と、桂枝と大棗による止汗作用があり、更に桂枝の気の上衝を押える作用と、生姜の胃内停水を除く作用があるため、頭痛、身疼痛、自汗を治し、l気の上衝によって起こる乾嘔、心下悶などにも用いられる薬方である。本方に新陳代謝の賦活作用を有する附子を加えた桂枝加附子湯では、附子の作用は桂枝によって表に、芍薬によって全身に誘導されるが、全身への誘導は弱いため、ほとんど表の組織すなわち筋肉の新陳代謝を亢めるように働く薬方となり、桂枝湯によって治す症状に、更に冷えや筋肉の新陳代謝障害によって起こる麻痺感や四肢の運動障害などが加わる。<br />
桂枝加附子湯に更に白朮を加えた桂枝加朮附湯では、附子の作用は芍薬と白朮によって全身に誘導される量が多くなり、表の少し深い部位、すなわち関節にも働くようになる。また白朮が入ったため桂枝と白朮による利尿作用も加わる。従って更に関節の腫痛や尿利減少と共に四肢の麻痺感、屈伸困難なども加わる。桂枝加朮附湯には更に茯苓を加えた桂枝加苓朮附湯では、附子の作用は桂枝によって表へ、芍薬と白朮によって全身へ、茯苓によって半表半裏から裏に誘導されるため、結局附子は全身に同じように働くことになり、新陳代謝の賦活作用と言うよりは駆水作用の意味合いが強くなり、心悸亢進、めまい、尿利減少、筋肉の痙攣などを訴えるようになる。<br />
桂枝湯より桂枝を除き、茯苓と白朮を加えた桂枝去桂加茯苓白朮湯では、芍薬の筋肉をやわらげる作用と、生姜および茯苓と白朮による胃の機能を亢め、胃内停水を去る作用が加わるため、頭痛、項背痛があり、胃部の水毒によって胃部が虚し、心下満や心下微痛を呈するようになったものに用いられる薬方である。ところで本方は桂枝をわざわざ抜いているのはなぜであろうか。桂枝は白朮や茯苓と組み合わされれば利尿剤となり、また茯苓は桂枝と甘草が組み合わされれば心悸亢進やめまいを治す作用が加わるので、本薬方のように桂枝を除いて本薬方のように桂枝を除いて桂枝去桂としなくてもよいように思えるであろう。<br />
ここで傷寒論の条文を引き出して見ると、理由がよくわかるので次に引用しておく。<br />
「服桂枝湯、或下之、仍頭項強痛、翕翕発熱、無汗、心下満微痛、小便不利者、桂枝去桂加茯苓白朮湯主之」<br />
すなわち、桂枝湯を服用し、また下剤を服用して下したが、なお頭項強痛、熱は体表に集まって発熱し、無汗で心下満微痛、小便不利の者は桂枝去桂加茯苓白朮湯これを主るというのであ音¥このことは無汗であるので桂枝加苓朮湯のような桂枝と大棗の組み合わせはあってはならない。また桂枝は茯苓と組み合わされれば利尿作用となるが、また一方、桂枝は発汗剤として働く場合には利尿を妨げる逆の作用もあるので、症状として小便不利が明らかにある場合には桂枝が配剤されるのは良くない。従って桂枝を除いた薬方とされたのである。<br />
この桂枝去桂加茯苓白朮湯と反対に、桂枝のかわりに大棗を除き、更に芍薬、生姜を除いた薬方は苓桂朮甘湯といい、桂枝と茯苓による利痢作用(桂枝による逆の作用も一応頭に置いておく)と、桂枝と茯苓、甘草による心悸亢進各まめいを治す作用、茯苓と白朮の胃内停水を除く作用を持つ薬方である。従って本方には小便不利の症状は少なく、あっても尿利減少程度であるが、心悸亢進、めまい、立ちくらみ、胃内停水など水毒症状を激しく訴える事を目標とすることがわかる。<br />
また桂枝加苓朮附湯と真武湯との関係を見ると、桂枝加苓朮附湯より桂枝、大棗、甘草が除かれた薬方が真武湯である。従って、先に述べた桂枝加苓朮湯と桂枝去桂加茯苓白朮湯の関係と同様な関係が桂枝加苓朮附湯と真武湯の間になりたち、更に附子の作用する部位は表に誘導する桂枝がなくなり、全身に誘導する芍薬と白朮、半表半裏から裏に誘導する茯苓となるため、附子の作用は半表半裏から裏に誘導され、その部位の冷えを治し、新陳代謝を亢めている。従って腹痛、胃内停水(生姜、茯苓と白朮)を基本とし、これが附子の新陳代謝の賦活作用と共に働き、心悸亢進、嘔吐、浮腫、水様性下痢、四肢全体の麻痺と疼痛(筋肉よりも関節に強く働くので運動失調なども治す)などの症状を目標とする。<br />
<b>b、葛根加朮附湯、桂芍知母湯(図・22参照)</b><br />
葛根湯加術附湯は葛根湯に白朮と附子を加えたものであり、附子の作用は葛根、麻黄、桂枝により表に誘導され、芍薬、白朮により全身に誘導されるため、多くは表の新陳代謝を盛んにする。桂芍知母湯の場合でも附子の作用は麻黄、桂枝、防風によって表に誘導され、芍薬、白朮によって全身に誘導されるため、多くは表の新陳代謝を盛んにする。このように二方とも表の部位に働き、筋肉の新陳代謝によって起こる麻痺感や四肢の運動障害に用いられる事がわかる。ただ桂芍知母湯には知母による内熱をさます働きがあるため、内熱により起こる関節の腫痛を治す作用が加わる。<br />
<b>c、葛根湯、桂枝湯(図・23参照)</b><br />
葛根湯と桂枝湯の関係は今更言うには及ばないかもしれないが、桂枝湯に葛根と麻黄が加えられたものが葛根湯である。この二方の薬効の違いをただ単に葛根及び麻黄の単独の薬効に帰因させてはならない事はすでに述べて来た事であり、麻黄の配剤により、桂枝と大棗の組み合わせに変わり、従って薬方の虚実も変わって虚証の薬方の桂枝湯が、実証の薬方の葛根湯へと変わっている。<br />
<b>d、小青竜湯、苓甘姜味辛夏仁湯(図・24参照)</b><br />
小青竜湯と苓甘姜味辛夏仁湯は細辛(鎮咳・胃内停水)、半夏と乾姜(鎮嘔)、半夏と甘草(鎮痛)、五味子(鎮咳)の共通する部分もあるが、小青竜湯には更に麻黄、桂枝、芍薬が配剤されており、苓甘姜味辛夏仁湯には杏仁、茯苓が配剤されている。<br />
小青竜湯に配剤された麻黄と桂枝は発汗剤であり、桂枝と芍薬は筋肉の緊張を和らげる作用がある。従って小青竜湯は共通の部分より考えられる水毒を、発汗して治そうとした薬方である。これに対して、苓甘姜味辛夏仁湯に配剤された杏仁には鎮咳作用があり、茯苓には駆水作用がある。従って苓甘姜味辛夏仁湯は共通の部分より考えられる水毒を、利尿(完全に利尿に限定するのは、茯苓だけであるので少し不十分であるが)して治そうとした薬方である事がわかる。<br />
<b>E、建中湯類</b><br />
<b>a、桂草湯、当帰建中湯、当帰四逆湯(図・25参照)</b><br />
これら三方のうち、桂枝湯、当帰四逆湯の芍薬は三ないし四グラムであるのに対し、当帰建中湯の芍薬は六グラムである。従って桂枝湯、当帰四逆湯は表位の痛みを目標とするのに対し、当帰建中湯は裏位の痛みを目標とする薬方である。桂枝湯と当帰四逆湯を比べれば、桂枝湯にある生姜(胃内停水)が欠ける代わりに、当帰(瘀血)、木通(利尿)、細辛(鎮咳、胃内停水)が加わるため、桂枝湯より利尿作用が強くなり、また駆瘀血作用も加わる。当帰四逆湯に更に生姜と呉茱萸(胃内停水、冷え症)を加えた当帰四逆加呉茱萸生姜湯は、水毒が更に強くなり、冷めも強くなって起こる各種の水毒症状に用いる。<br />
(次号に続く)<br />
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※釣藤と黄耆の組み合わせによる降圧作用?<br />
今までこの組み合わせの説明無し<br />
<br />
※胃風湯<br />
<br />
『漢方の臨床』三巻二号に「胃風湯について」と題して細野史郎氏が発表してから慢性下痢に良く使われるようになった。<br />
真武湯でも止まらないような下痢に効くことがある。<br />
<br />
※粟(あわ)<br />
栗(くり)ではないので注意。<br />
<br />
<br />
※柴胡清肝散<br />
本来は柴胡清肝散が正しいが、最近は柴胡清肝湯と呼ばれることが多い。<br />
同名異方が多く、更に柴胡清肝湯は別にあるので注意。<br />
<br />
※柴胡清肝散と荊芥連翹湯は非常に良く似た薬効をもった薬方であることがわかる。<br />
一貫堂の解毒証体質で使用される。<br />
解毒証体質には、竜胆瀉肝湯(一貫堂方)も使われるが、一般的な竜胆瀉肝湯(薛立斎方)とは異なるので注意。<br />
医療用漢方のエキス剤では、小太郎の竜胆瀉肝湯が一貫堂方。<br />
<br />
※、桔梗、荊芥、連翹と白芷の組み合わせ<br />
桔梗、荊芥・連翹の組み合わせは、桔梗の項で説明があったが、桔梗、荊芥、連翹と白芷との組み合わせの説明はなかった。<br />
<br />
※復下之 仍頭強痛 → 或下之 仍頭項強痛 に訂正<br />
ただし、大塚敬節先生の本では、柳田子和の説を採り、「或」を「復」に改め、「また」と読んでいる。 <br />
【参考】<br />
桂枝湯を服し、或は之を下し、仍(な)お頭項強ばり痛み、翕翕(きゅうきゅう)として発熱(ほつねつ)し、汗無く、心下満微痛(しんかまんびつう)、小便不利の者は、桂枝去桂加茯苓白朮湯 之を主(つかさど)る。<br />
<br />
<br />
※桂枝は発汗剤として働く場合には利尿を妨げる逆の作用もあるので、症状として小便不利が明らかにある場合には桂枝が配剤されるのは良くない。<br />
五苓散には桂枝が含まれ、目標は口渇、尿利減少なのは?<br />
五苓散から桂枝を除いた薬方に四苓湯がある。<br />
何故か「湯」。Unknownnoreply@blogger.com0tag:blogger.com,1999:blog-6827912320235733185.post-56721214992390847322019-02-14T07:22:00.002+09:002019-03-07T06:21:53.040+09:00生薬の配剤から見た漢方処方解説(7)誌上漢方講座 症状と治療<br />
生薬の配剤から見た漢方処方解説(7)<br />
村上 光太郎<br />
<br />
<b>漢方の薬能は、配剤された生薬の相互作用あるいは主薬の薬能によって理解できることはすでに述べた。この事は逆に見れば配剤された生薬の相異によって、作用のよく似たいくつかのグループに分類することができる事を表わしている。すなわち、</b><br />
一、麻黄や桂枝を主体とする組み合わせによって理解できるグループ……表証(図1参照)、麻黄剤(図2参照)<br />
二、附子を主体とする組み合わせによって理解できるグループ……裏証Ⅱ(図3参照)<br />
三、茯苓を主体とする組み合わせによって理解できるグループ……駆水剤(図4参照)<br />
四、黄連、黄芩を主体とする組み合わせによって理解できるグループ……瀉心湯類(図5参照)<br />
五、柴胡を主体とする組み合わせによって理解できるグループ……柴胡剤(図6参照)<br />
六、駆瘀血生薬を主体とする組み合わせによって理解できるグループ……(図7参照)<br />
七、便秘(宿便)のみを目標とする組み合わせ……承気湯類<br />
八、配剤された生薬が異なっていても類似の作用となる組み合わせ……裏証Ⅰ(図9参照)<br />
九、順気生薬を主体とする組み合わせによって理解できるグループ……順気剤(図10参照)<br />
十、芍薬を主体とする組み合わせによって理解できるグループ……建中湯類(図11参照)<br />
などである。それではそれらのグループ別に生薬の配剤について見てみよう。<br />
<br />
<b>A、柴胡剤</b><br />
a、大柴胡湯、四逆散、解労散(図12参照)<br />
大柴胡湯と四逆散の関係を見ると、四逆散には大柴胡湯にない甘草があり、大柴胡湯には四逆散去甘草に半夏の組み合わせ、黄芩の配剤、大黄による増強作用が加わっている。今、甘草の薬効はすでに述べたように、薬味の数が多くなったり、作用の強い生薬があれば効果が現れないので(各生薬の調和の作用はある)、四逆散去甘草は四逆散と同一であると考える事ができる。従って四逆散と大柴胡湯との関係は、大柴胡湯の一部が四逆散である、すなわち言いかえれば四逆散は大柴胡湯の中に含まれているといえる。それでは四逆散を用いず、常に大柴胡湯を用いればと思われるかもしれないが、生薬の作用(効果)の強度は薬味が少ないほど強く現れるので、もし四逆散で効く病人に対して大柴胡湯を用いつと作用は弱くなり、効果の発現は遅延する。従って当然四逆散を用いる方が良いのである。しかし病人の症状が四逆散で包含されないほど激しく、また多岐にわたっていれば薬味もそれにつれて多くなるのは当然である。今、大柴胡湯は四逆散より、半夏の組み合わせと黄芩、すなわち、嘔吐、痛み、心下痞が多く、かつ症状は激しい人に用いる薬方であり、あるいは便秘の傾向があることをあらわしている。ところでこれらの二方は柴胡による胸脇苦満、芍薬による鎮痛作用および枳実による作用の増強があるのは当然である。<br />
解労散と四逆散の関係を見ると、解労散は四逆散に茯苓、別甲、生姜、大棗が配剤されたもので、茯苓、生姜の駆水作用と別甲の解毒作用が加えられたものである。従って四逆散証で肝臓機能が衰え、水毒の症状が加わった時に用いる薬方であることがわかる。解労散と大柴胡湯との関係は四逆散と大柴胡湯との関係と同じく、大柴胡湯にある嘔吐、心下痞を治す作用がなく、鎮痛作用も弱い。しかし解労散は四逆散のときとは異なり、大柴胡湯より駆水作用はまさっている。一方解毒作用については大柴胡湯は柴胡と枳実、大黄(増強作用)であるのに対し解労散は柴胡、別甲と枳実であるた、いずれが強いかは明瞭ではない。<br />
b、小柴胡湯、五苓散、浄腑湯(図12参照)<br />
浄腑湯には胡黄連と黄芩の配剤されたものと、それらの代わりに黄連が配剤されたものとがある。しかし黄連と黄芩との違いは、心下痞という面より見ればなく、二方とも同じである。また小柴胡湯と五苓散の合方は柴苓湯と呼ばれ、浄腑湯はこの柴苓湯から桂枝と猪苓が除かれ、三稜、莪朮、山査子が加えられたと考えることができる。桂枝と猪苓が除かれたことは気の上衝がなく、茯苓と桂枝、甘草による心悸亢進やめまいを治す作用、茯苓と猪苓、沢瀉による利尿作用の両方が不完全であるため弱くなっていることをあらわしている。三稜と莪朮は塊を緩め、気を破る作用をもち、山査子には建示、消化の効がある。このことは気の上衝を治す作用のある桂枝が、気うつを治す三稜と莪朮に変わり、作用の増強がさらに強くなっている。従って桂枝、猪苓が欠けることによる虚証へのへの移行は、三稜、莪朮の増加により打ち消され、更に実証への薬方へと変わっている。すなわち浄腑湯は柴苓湯の実証の薬方であることがわかる。<br />
<br />
<b>B、順気剤</b><br />
a.麦門冬湯、竹葉石膏湯、釣藤散(図14参照)<br />
麦門冬湯と竹葉石膏湯との違いを見ると、麦門冬湯には竹葉石膏湯にない大棗があり、竹葉石膏湯には麦門冬湯にない竹葉、石膏がある。今、麦門冬における半夏、甘草、大棗の組み合わせが、竹葉石膏湯では半夏、甘草となっている。しかし半夏、大棗、甘草は半夏、甘草でも代用できるので鎮痛作用は麦門冬湯とほとんど同一である。従って麦門冬湯と竹葉石膏湯の差は竹葉と石膏の増加であるといえる。すなわち麦門冬による鎮咳作用は、竹葉の去痰、止渇作用が入るため更に強くなり、石膏の清熱作用が加わっている。<br />
竹葉石膏湯と釣藤散との関係は、釣藤散には竹葉石膏湯にある竹葉、粳米が除かれ、釣藤、橘皮、茯苓、防風、菊花、生姜が加えられたもので、竹葉の去痰、止渇作用と粳米の滋養強壮作用がないため、麦門冬だけによる釣藤散の鎮咳作用は、 竹葉石膏湯に比べて弱い事を示している。また釣藤散には鎮静作用のある橘皮、駆水作用のある茯苓、防風、生姜が配剤されている。<br />
ところで基本となっている麦門冬湯の麦門冬には鎮咳作用が、半夏、甘草には鎮痛作用が、人参には駆水・健胃作用があり、また釣藤となるため増量された各種の生薬はこの基本の作用を増強するとともに、鎮静作用が加わったものである。従って釣藤散は麦門冬湯より実証の薬方で、更に鎮静作用が加わった薬方である事がわかる。<br />
b、麦門冬湯、小柴胡湯、半夏瀉心湯(図15参照)<br />
麦門冬湯と小柴胡湯あるいは半夏瀉心湯との違いは、麦門冬湯には麦門冬、粳米があり、小柴胡湯には柴胡、黄芩、生姜があり、半夏瀉心湯には黄連、黄芩、乾姜がある。これら三方の共通となる生薬には人参、半夏、甘草、大棗があるが、すでに述べたように柴胡、黄連、黄芩などは主薬あるいは主薬の一部となる生薬であり、麦門冬湯の麦門冬もこれに類するものである。従ってこれら三方は主薬以外がほとんど同じで、主薬が異なる例である。このような場合には、これら三方の間にはそれほど強い関係はなく、それぞれが別のグループを形成する。すなわち小柴胡湯のように柴胡が配剤された薬方は黄連、黄芩の有無に関係なく柴胡剤とされ、半夏瀉心湯のように柴胡が無く、黄連、黄芩が配剤された薬方は瀉心湯類であり、麦門冬湯のような薬方は順気剤として取り扱われている。 <br />
<br />
<br />
※一方解毒作用については大柴胡湯は柴胡と枳実、大黄(増強作用)であるのに対し解労散は柴胡、別甲と枳実であるた、いずれが強いかは明瞭ではない。<br />
大黄は相乗作用なので、相加作用の別甲よりも解毒作用は強くなるのでは?<br />
<br />
※基本となっている麦門冬湯の麦門冬には鎮咳作用が<br />
元は、「基本となっている麦門冬には鎮咳作用が」と書かれているが、意味が通じにくいので訂正。<br />
<br />
<br />
※釣藤<br />
釣藤はもともとは樹皮を使用していて、釣藤散は樹皮を用いるべきとの意見もある。<br />
釣藤鈎(ちょうとうこう)は長く煎じると効果が無くなるので、自分で煎じる場合には、終わり頃に入れて少しだけ、煎じるのがコツ。<br />
市販のエキス剤は、釣藤鈎を通常通り煎じてしまっているので、効果が弱い。<br />
その際は釣藤鉤末を加えて飲むと効果が上がる。<br />
<br />
現在の釣藤鈎の基原は<br />
Uncaria rhynchophylla Miquel,<br />
Uncariasinensis Haviland,<br />
Uncaria macrophyllaWallich <br />
<br />
ちなみに、サプリメントで使われるキャッツクローは、<br />
Uncaria tomentosa <br />
同属植物で、リンコフィリンも含まれているので、代替品として使える可能性?Unknownnoreply@blogger.com0tag:blogger.com,1999:blog-6827912320235733185.post-36869179033965466992019-02-05T21:10:00.002+09:002019-03-07T06:37:17.725+09:00生薬の配剤から見た漢方処方解説(6)誌上漢方講座 症状と治療<br />
生薬の配剤から見た漢方処方解説(6)<br />
村上 光太郎<br />
<br />
<b>2.黄連、黄芩について</b><br />
黄連、黄芩がともに、あるいは黄連のみ、あるいは黄芩のみが薬方に加えられると、その薬方の主証、あるいは主証の一部は心下痞として決まってしまう。このとき、配剤された黄連や黄芩の量が多いか、少ないかは、心下痞を治す強さとは一致しない。ただ黄連あるいは黄芩のみを単独で薬方中に組み入れるよりは、黄連と黄芩をともに組み入れる方が作用は強くなる。またこれら黄連、黄芩の作用を強くするためには、順気剤あるいは下剤がともに配剤されている。一般に黄連のみ、あるいは黄芩のみ、あるいは黄連と黄芩を合わせて1.0ぐらむ以上が配剤されていれば心下痞を治すことができる。<br />
たとえば、<b>三黄瀉心湯</b>(大黄2.0、黄連黄芩各1.0)は黄連と黄芩が各1.0グラムあるので心下痞を治す作用があり、これらが下剤の大黄と配剤されているので、心下痞を治す作用は強くなっている。したがって、三黄瀉心湯は便秘し、心下痞が強い人に用いる薬方であることがわかる。類似の薬方に<b>大黄黄連瀉心湯</b>(大黄2.0、黄連1.0)があるか台、本方も黄連が1.0グラム配剤されているので、心下痞を治す作用がある。また本方にも下剤の大黄が配剤されているため、心下痞を治す作用が増強されていることは三黄瀉心湯と同様である。<br />
しかし、本方は黄連と黄芩の組み合わせではないため、三黄瀉心湯と比べて見ると、本方は心下痞を治す作用は弱い。<b>黄連解毒湯</b>(黄芩3.0、梔子2.0、黄連、黄柏各1.5)では、黄芩が3.0グラムと黄連が1.5グラム配剤されているので心下痞を治す作用がある。また、ここに配剤されている山梔子は、大黄の適応証の人より虚証の人に用いる下剤(生薬の配剤から見た漢方処方解説(4)を参照)であるため、黄連と黄芩の心下痞を治す作用は大黄ほどは強められていないにしても、かなり強くなっている。したがって便秘があり、心下痞もある人に用いるが、本方は便秘よりは心下痞の方に重点が移っている。<br />
ところで、<b>附子瀉心湯</b>(大黄2.0、黄芩、黄連各1.0、附子0.5)という薬方があるが、本方は三黄瀉心湯に附子を加えただけの薬方である。したがって、黄連、黄芩の組み合わせに、大黄の下剤が加わり、増強されていることは三黄瀉心湯と同様であるが、附子が入ったため、附子の温補作用、新陳代謝の賦活作用の働く位置を見ると、本方の附子は薬方中の黄連、黄芩によって半表半裏から裏を温めるように働くため、本方証の人は冷えが強いというのではなく、裏より冷えてくるという人に用いる薬方であることがわかる。<br />
以上の薬方はいずれも実証の薬方であるため、心下痞が気の上衝とともに移動し、顔面紅潮、精神不安、イライラ、不眠、各種出血などの症状を呈する人に用いるが、 以下の虚証の薬方では気の上衝はそれほど強くないため、心下痞は胸まで(心中懊憹)あるいは腹まで(腹中雷鳴)しか移動せず、嘔吐や下訳なども呈するようになる。<br />
たとえば、<b>黄連湯</b>(半夏5.0、黄連、甘草、乾姜、人参、桂枝、大棗各3.0)では心下痞を治すものは黄連しかなく、順気剤の桂枝で強められているとはいっても、気の上衝を治す順気剤であるため、増強の作用は弱い。その他、本方には桂枝と大棗による止汗作用、乾姜による新陳代謝の賦活作用(附子を配剤したほどは強くないが)と胃内停水を除く作用、人参による全身の水毒を移動させる作用があり、更に半夏と乾姜による鎮嘔作用がある。したがって、本方は心下痞があり嘔吐するとともに、胃内停水があるため冷えを感じ、そのために痛みを覚える虚証の人に用いる薬方であることがわかる。<b>半夏瀉心湯</b>(半夏5.0、黄芩、乾姜、人参、甘草、大棗各2.5、黄連1.0)は黄連と黄芩の組み合わせにより、心下痞を治そうとするもので、前方と同様に乾姜による新陳代謝の賦活作用と胃内停水を除く作用があり、人参による全身の水毒を移動させる作用がある。また半夏は乾姜と組み合わされて、鎮嘔作用も呈している。したがって、本方も心下痞があり、嘔吐するとともに胃内停水があるため、冷えや痛みを感じる人に用いる薬方であることがわかる。本方と前に述べた黄連湯との違いを見ると、本方は黄連と黄芩の組み合わせによって、心下痞を治そうとしているのに対して、黄連湯は黄芩のかわりに桂枝が入っているため、心下痞を治す作用は少し強く、またのほせを治すようになっているが、桂枝と大棗の止汗剤が入っているため、表虚の人に用いる薬方であることがわかる。<b>生姜瀉心湯</b>(半夏瀉心湯の乾姜の量を1.0に減じ、生姜2.0を加えたもの)や<b>甘草瀉心湯</b>(半夏瀉心湯に甘草1.0を増量したもの)や<b>椒梅瀉心湯</b>(半夏瀉心湯に烏梅、蜀椒各2.0を加えたもの)なども基本は半夏瀉心湯であるため、黄連、黄芩による心下痞があるのは当然である。ただ、生姜瀉心湯は半夏瀉心湯よりは生姜の量を増してあるので、胃内停水が強く、その水毒によって起こる各種の症状を治すために用いられる。甘草瀉心湯は半夏瀉心湯より甘草の量を増やしてあるので精神不安を呈する場合に用いられる。<br />
椒梅瀉心湯は、半夏瀉心湯に烏梅と蜀椒を加えたもので、寒と痛みが強い場合に用いる薬方である。また、<b>黄連阿膠湯</b>(黄連3.0、黄芩2.0、芍薬2.5、阿膠3.0、卵黄1個)も黄連と黄芩があるため、心下痞を治す作用があり、心下痞を治す作用があり、その心下痞の移動によって起こる各種の症状に用いられる。 なお、本方に配剤されている葛根は項背の拘攣を治す働きがある。<br />
ところで、生薬の配剤から見た漢方処方解説(5)の1、柴胡についてのところですでにでた薬方であるが、たとえば、<b>大柴胡湯</b>(柴胡6.0、半夏、生姜各4.0、黄芩、芍薬、大棗各3.0、枳実2.0、大黄1.0)では黄芩が3.0グラムあるため、心下痞を治す作用があるが、これが気うつを治す順気剤の枳実、便秘を治す大黄と一緒になっているため、心下痞を治す作用は非常に強くなっている。ところで、本方に配剤されている柴胡は胸脇苦満を治す作用があり、半夏と生姜には鎮嘔作用があり、芍薬による筋肉の緊張の緩解作用があるが、いずれも気うつを治す順気剤の枳実と下剤の大黄がともに配剤されているので、それらの作用も強くなっている。<b>柴胡加竜骨牡蛎湯</b>(柴胡5.0、半夏4.0、茯苓、桂枝各3.0、黄芩、大棗、生姜、人参、竜骨、牡蛎各2.5、大黄1.0)では黄芩が大黄と組み合わされているため、心下痞を治す作用が強いが、大柴胡湯のように気うつの順気剤ではなく、気の上衝を治す順気剤である桂枝が配剤されているため、心下痞を治す作用は大柴胡湯よりおとる。ところで、本方に配剤されている柴胡は胸脇苦満を治す作用があり、半夏と生姜、半夏と大棗の組み合わせの鎮嘔作用、鎮痛作用があり、茯苓と桂枝の心悸亢進、めまい、筋肉の痙攣を治す作用があり、生姜の胃内停水を治す作用や、人参の全身の水毒を移動させる作用や、竜骨、牡蛎の精神不安や動悸をしずめる作用があるが、これらの作用は、いずれも大黄および桂枝によって作用が強められていることも忘れてはならない。<b>小柴胡湯</b>(柴胡7.0、半夏5.0、生姜4.0、黄芩、大棗、人参各3.0、甘草2.0)も黄芩が配剤されているため、心下痞を治す作用があるが、本方にはその作用を増強する下剤や順気剤が何も配剤されていないため、心下痞を治す作用は黄芩に由来する程度の強さである。また、本方の柴胡は胸脇苦満を治し、半夏と生姜および半夏と大棗、甘草によって鎮嘔作用、鎮吐作用を呈し、生姜は胃内停水を、人参は全身の水毒を移動させる作用がある。<b>柴胡桂枝乾姜湯</b>(柴胡6.0、桂枝、瓜呂根、黄芩、牡蛎各3.0、乾姜、甘草各2.0)も黄芩が配剤されているが、本方は、前方の小柴胡湯とは異なり、順気剤の桂枝が配剤されているため、心下痞を治す作用は小柴胡湯より実の薬方となっている。また、本方の柴胡は胸脇苦満を治し、乾姜には新陳代謝の賦活作用と胃内停水を除く作用がある。ところで、さきに述べたように、本方は心下痞の面より見れば、本方には柴胡は6.0グラムしかなく、小柴胡湯の7.0グラムより少ないこと、および本方には新陳代謝の賦活作用のある乾姜が配剤されているため、小柴胡湯より虚証の薬方となる。<br />
これらの薬方を見れば、いずれも柴胡が配剤され、かつ黄芩が配剤されている。このことは心下痞と胸脇苦満とは明瞭に区別できる場合もあるが、多くは明瞭にはできないことを示しており、薬方を選用する場合の示唆を与えるものである。なお柴胡が配剤された場合は、黄連、黄芩の有無にかかわらず、柴胡剤として処理され、柴胡がなく黄連、黄芩が配剤されれば、瀉心湯類として処理されている。<br />
<b>3、知母と石膏について</b><br />
知母と石膏は組み合わされると初めて裏熱による渇をしずめ、体液の忘失(遺尿、自汗、分泌物)を防ぐ効果があるもので、これは知母のみでも薬効は現れないし、石膏のみでも現れない(煩渇のみなら治る)薬効である。したがって知母と石膏がともに薬方中に配剤された場合には、白虎湯類として取り扱われ、同様の効果を期待して用いられるものである。<br />
たとえば、<b>白虎湯</b>(知母、粳米、石膏、甘草)は知母と石膏があるので裏熱があり、のどが渇き、汗や尿などが多く出たため、体液の枯燥の様子を呈する人に用いる薬方である。白虎加人参湯(知母、粳米、石膏、甘草、人参)、白虎加桂枝湯(知母、粳米、石膏、甘草、桂枝)なども同様である。また消風散(当帰、地黄、石膏各3.0、防風、蒼朮、木通、牛蒡子各2.0、知母、胡麻1.5、蝉退、苦参、荊芥、甘草各1.0)も知母と石膏が組み合わされているので裏熱があり、口渇を訴え、分泌物の多いものに用いられるものである。<br />
<b>4、甘草について</b><br />
甘草は、各種の急迫症状を緩解する作用があるが、その作用は今までの他の薬物とは異なり、単独あるいは芍薬と配剤された場合にその作用が強く現れるが、他に強い作用のある薬物があれば、急迫症状の緩解作用はそれほど強く現れない。<br />
たとえば、<b>甘草湯</b>(甘草)は神経の興奮による各種の急迫症状を緩解する作用があり、<b>芍薬甘草湯</b>(芍薬、甘草)は急迫性の激しい筋肉の痙攣と疼痛のあるものに用いられる。すなわち、甘草単独では、精神的な痛みを治すが、芍薬と配剤されれば、筋肉の痛みや痙攣を治すようになる。<b>甘麦大棗湯</b>(甘草5.0、大棗6.0、小麦20.0)も甘草と大棗による急迫した筋肉の拘攣、神経の興奮、諸疼痛等を緩解している。これに更に他の薬物が入り、薬味の数が増えれば、甘草に由来する急迫症状の緩解作用という意味はなくなり、共存する芍薬による作用の緩和、鎮痛剤として筋肉の拘攣などを緩解する作用のみとなってくる。したがって、甘草湯あるいは、芍薬甘草湯を鎮痛剤として、あるいは急迫症状を緩解させるために使用する場合には、他の薬方と合方して用いれば、その目的を達せられないので、頓服として用いなれればならないことがわかるであろう。しかし、<b>柴胡桂枝湯</b>(柴胡、半夏、桂枝、黄芩、人参、芍薬、生姜、甘草)のみは、芍薬甘草湯に由来する薬効が生じる。ただし、急迫症状というよりは何となく痛いという感じである。<br />
<b>5、芍薬について</b><br />
前項で、すでに述べたように、芍薬の作用には緩和、鎮痛剤として筋肉の拘攣などを緩解する作用がある。 しかし、芍薬のこの薬効が現れる場所は使用した芍薬の量によって変化するため、更に複雑となっている。すなわち、芍薬の配剤量が4.0グラム以下であれば、全身の筋肉に作用して緩和、鎮痛剤として働いているが、その配剤量が6.0グラム以上となれば裏位(腹部)の筋肉に作用して緩和、鎮痛作用を現すようになっている。<br />
たおてば、<b>桂枝湯</b>(桂枝、芍薬、生姜、大棗各4.0、甘草2.0)では芍薬は4.0グラムしかないため、全身の筋肉に作用し、筋肉の拘攣を緩解したり、鎮痛作用を現したりする。当然のことながら芍薬と甘草による急迫症状の緩解作用は、薬味の数が多いためなのか、あるいはあっても少しであるが、芍薬と桂枝の組み合わせにより起こる緩和剤としての筋肉の緊張を柔らげる作用があり、桂枝と大棗による止汗作用もある。この桂枝湯に芍薬を加えたものが<b>桂枝加芍薬湯</b>(桂枝湯の芍薬の量を6.0としたもの)で、芍薬の量が6.0グラムとなるため、全身の筋肉に作用してい然もなが裏虚を治す作用、すなわち、腹部の筋肉に作用して腹満、腹痛を治す作用となっている。<b>小建中湯</b>(桂枝、生姜、大棗各4.0、芍薬6.0、甘草2.0、膠飴20.0)は、桂枝加芍薬湯に膠飴を加えたもので、当然、芍薬の量は6.0グラムあるため腹部の虚したものに用いられ、緩和、鎮痛剤として腹部の筋肉の拘攣などを緩解する作用となっている。<b>黄耆建中湯</b>(小建中湯に黄耆4.0を加えたもの)、<b>当帰建中湯</b>(小建中湯より膠飴を去って当帰を加えたもの)、<b>帰耆建中湯</b>(小建中湯に黄耆2.0、当帰3.0)を加えたもの)なども、同様に芍薬の量が6.0グラムあるため腹部に作用している。<br />
<br />
以上が配剤された生薬を見れば、その相互作用ないし、生薬の有無、量の多少によって、理解のできるものであるが、なかには配剤された生薬が違っているのに類似の作用を呈するものもある。<br />
たとえば、<b>柴胡桂枝湯加牡蛎茴香</b>(柴胡5.0、半夏4.0、桂枝2.5、黄芩、人参、芍薬、生姜、大棗、各2.0、牡蛎3.0、茴香2.0)は心下部が痞え、動悸、胃痛、胸やけがある人に用いる薬方であり、<b>安中散</b>(桂枝4.0、延胡索、牡蛎各3.0、茴香、甘草、縮砂各2.0、良姜1.0)も心下部の痛みや痞え、動悸、胃痛、胸やけなどに用いられる。また、<b>六君子湯</b>(人参、白朮、茯苓、半夏各4.0、陳皮、生姜、大棗各2.0、甘草1.0)や<b>四君子湯</b>(人参、白朮、茯苓各4.0、甘草1.5)も同様に心下部の痞え、動悸、胃痛、胸やけなどを呈する人に用いられる。<b>平胃散</b>(蒼朮、厚朴、陳皮各3.0、生姜、大棗各2.0、甘草1.0)も心下部の痞え、胃痛、胸やけなどを呈するなど、これらの薬方は配剤された生薬が異なっているにもかかわらず、類似の薬効を呈するようになっている。これらの各薬方の違いは虚実の違いである。ただ、平胃散には蒼朮が配剤されるため、蒼朮の麻痺作用が期待され、突発性(暴飲暴食による)の痛みに使用される。<br />
また、<b>半夏白朮天麻湯</b>(半夏、白朮、陳皮、茯苓各3.0、麦芽、天麻、生姜、神麹各2.0、黄耆、人参、沢瀉各1.5、黄柏、乾姜各1.0)は心下痞があり、胃内停水、頭痛、嘔吐、めまい、冷え症に用いられるが、<b>呉茱萸湯</b>(呉茱萸3.0、人参2.0、大棗、生姜各4.0)も同様の症状に用いられる。ただ、半夏白朮天麻湯は、常習性の頭痛であるのに対して、呉茱萸湯は平素は頭痛がなく、ときに嘔吐すれば頭痛が始まるという人に用いられる。<br />
(以下次号に続く) <br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
※以上の薬方はいずれも実証の薬方である<br />
附子瀉心湯は附子が入っていても実証?<br />
<br />
※心下痞が気の上衝とともに移動し、顔面紅潮、精神不安、イライラ、不眠、各種出血などの症状を呈する人に用いるが、
以下の虚証の薬方では気の上衝はそれほど強くないため、心下痞は胸まで(心中懊憹)あるいは腹まで(腹中雷鳴)しか移動せず、嘔吐や下痢なども呈するようになる<br />
心下痞が主証、<br />
顔面紅潮、精神不安、イライラ、不眠、各種出血、心中懊憹、腹中雷鳴、嘔吐、下痢は客証<br />
<br />
<br />
※生姜瀉心湯(半夏瀉心湯の乾姜の量を1.0に減じ、生姜2.0を加えたもの)<br />
ここで用いる生姜は、日局ショウキョウ、すなわち乾生姜ではなく、本来の意味での生姜(生のショウガ)の方が良い。エキス剤を使う時は、半夏瀉心湯エキスを溶かした油に、ショウガをすりおろしたものを加えたりする。<br />
乾姜と生姜については中国と日本で異なっている。<br />
<br />
※椒梅瀉心湯<br />
モルヒネが効かない時に、鎮痛作用を期待して用いる。<br />
烏梅は青梅から作ったものである必要有。<br />
染め物用の烏梅は不可。<br />
<br />
※甘草瀉心湯は半夏瀉心湯より甘草の量を増やしてあるので精神不安を呈する場合に用いられる。<br />
薬味が多い時には、甘草の効果は余り出てこないのでは?<br />
4,甘草について 参照<br />
他に強い作用のある薬物があれば、急迫症状の緩解作用はそれほど強く現れない。<br />
<br />
※その心下痞の移動によって起こる各種の症状<br />
頭痛、めまい、嘔吐、腹中雷鳴、下痢など <br />
<br />
先に上げた主証 心下痞の際の客証の項を参照 <br />
<br />
※人参の全身の水毒を移動させる作用 <br />
一時的に浮腫をきたす可能性がある。飲んでいれば治る(瞑眩的)。<br />
<br />
※知母と石膏は組み合わされると初めて裏熱による渇をしずめ、体液の忘失(遺尿、自汗、分泌物)を防ぐ効果がある<br />
= 口渇・漏水<br />
口渇があるものには、八味丸や駆水剤があるが、駆水剤は口渇があって、尿利減少。八味丸は、口渇があって、多尿又は尿利減少。<br />
遺尿は多尿よりも更に多い。<br />
<br />
知母と石膏の組み合わせは、量的な比は特に決まっていない。<br />
熱を下げるためには、石膏を多くする。<br />
<br />
※知母と石膏がともに薬方中に配剤された場合には、白虎湯類として取り扱われ<br />
『漢方薬の実際知識』では、白虎湯類はまだ無い。<br />
白虎湯、白虎加人参湯、白虎加桂枝湯はその他に、<br />
消風散は皮膚疾患に分類されている。<br />
<br />
※頓服として用いなければなならい<br />
できれば1時間以上、最低30分以上は、時間をあけて服用。 <br />
<br />
※芍薬と甘草による急迫症状の緩解作用は、薬味の数が多いためなのか、あるいはあっても少しであるが、<br />
芍薬と甘草による急迫症状の緩解作用は、薬味の数が多いためなのか、無いか、あるいはあっても少しであるが、<br />
<br />
※この桂枝湯に芍薬を加えたものが桂枝加芍薬湯<br />
もともと芍薬はあるので、この桂枝湯の芍薬を増量したものものが桂枝加芍薬湯 <br />
<br />
※膠飴<br />
※当帰建中湯(小建中湯より膠飴を去って当帰を加えたもの)<br />
膠飴は滋潤剤であり、瘀血を除くのには邪魔となるので、当帰建中湯では除いている。<br />
滋潤剤一般に、瘀血を除くのを邪魔する作用がある。<br />
帰耆建中湯に膠飴が入っているのは?<br />
<br />
※平胃散には蒼朮が配剤されるため、蒼朮の麻痺作用が期待され、突発性(暴飲暴食による)の痛みに使用される。<br />
急性の症状には平胃散が良いが、慢性の痛みに平胃散を用いると、麻痺作用により、治っていないのに治った気になってしまうことがあるので、注意が必要。 Unknownnoreply@blogger.com0tag:blogger.com,1999:blog-6827912320235733185.post-85133707835649473022019-01-31T07:07:00.003+09:002019-03-07T06:37:43.222+09:00生薬の配剤から見た漢方処方解説(5)誌上漢方講座 症状と治療<br />
生薬の配剤から見た漢方処方解説(5)<br />
村上 光太郎<br />
<br />
すでに生薬の相互作用で説明できる生薬について述べたが、これらはただ単に「こんな事がある」と言うのではなく、常に頭に入れておき、投薬に際して注意しなければならない。しかし現実はこれらの事を考えずに使用し、失敗しているのが時々見受けられる。更に問題となるのは、このような使用例をもって起きた症状を、漢方薬を使用した時の副作用として記載されたりする例があるので注意しなければならない。問題となる例を次にあげる。<br />
処方例1 桂枝加朮附湯<br />
越婢加朮附湯<br />
右の二方の合方は桂枝加朮附湯にしようか、越婢加朮附湯にしようかと迷い、どちらにしてよいな判断をつけかねて、「えいままよ」と合方したものであるならば問題である。<br />
なるほど<b>桂枝加朮附湯</b>(桂枝、芍薬、生姜、大棗、甘草、白朮、附子)は桂枝と大棗の組み合わせであり、汗の出ている、虚証の人に用いられる薬方であるし、<b>越婢加朮附湯</b>(麻黄、石膏、生姜、大棗、甘草、白朮、附子)は麻黄と石膏の組み合わせであり、桂枝加朮附湯と同じく、汗の出ている、虚証の人に用いる薬方である。それでは二方の使い分けはどのようにして決められるかと言うと、すでに<b>葛根湯</b>(2、桂枝についての項参照)の所で述べたと同様な理由により、すなわち麻黄の組み合わせが桂枝の組み合わせよりも実証の薬味の組み合わせであるため、桂枝加朮附湯と越婢加朮附湯はいずれも虚証の、汗の出ている、または汗の出やすい、あるいは浮腫を形成している(その浮腫はおさえると柔らかい)人に用いる薬方であっても、越婢加朮附湯を与める人より更に虚した人に桂枝加朮附湯を与える。と言えば分かりやすいようであるが、実際、いざ使用するときは判断に迷うことはよくある。しかし、だからと言って合方したのでは大変なことになると言う例である。<br />
すなわち越婢加朮附湯と桂枝加朮附湯の合方は、とりもなおさず越婢加朮附湯中の麻黄と石膏による止汗剤は、桂枝加朮附湯中の桂枝と大棗による止汗剤と組み合わされて、桂枝と麻黄と石膏の組み合わせが出来るため非常に強い発汗剤となり、実証の人に用いる薬方になってしまう。従ってこの二方を合方して虚証の人に実証の薬方を投薬することになり、服用すれば何らかの副作用というか、薬害というかが起こるのは当然である。もし何も起こらなければよかったと胸をなでおろさなければならない。ところがこのように投薬の問違いをして起きた種々の症状をもって漢方にも副作用があると言われる事が繁々見受けられるのは憤まんやる方なしである。<br />
それでは桂枝加朮附湯と越婢加朮附湯はいかなる時にも合方してはならないかと言うと、そうではなく、合方された時の薬効を考えて実証の人に用いるのならば問題はないのは当然である。しかし、このようにある時は組み合わせてはならないと言い、ある時は組み合わせてもよいと言うような結果だけを見て、漢方は時によって好き勝手に、何か分からないことを言うので困ると言う人がいるが、もう一歩踏み込んで、薬味の組み合わせを見ればそのことはよく理解できよう。<br />
この例でも分かるように実証の薬方同士とか、虚証の薬方同士の組み合わせなら用いてもよいが、実証の薬方と虚証の薬方を組み合わせてはならないと言っている人がいるが、これらはすべてナンセンスなことであることがわかるであろう。すべて、処方に配合された薬味の組み合わせが、どのようになってい識かによって決まるものである。<br />
処方例2 桂枝湯<br />
麻杏甘石湯<br />
この処方例は桂枝湯(桂枝、芍薬、生薬、大棗、甘草)を服用していて調子がよかったのであるが、急に咳が強くなったため、鎮咳の目的で麻杏甘石湯を合方されるようになったとする。桂枝湯を服用して調子がよかったのであるから、患者は虚証であることは間違いない。桂枝湯は桂枝と大棗、麻杏甘石湯は麻黄と石膏の組み合わせであり、いずれも(止汗剤)である。従って桂枝湯を服用していた人の咳を止めるのに、実証の鎮咳剤ではなく、同様に止汗剤となる麻杏甘石湯を考えたというのは一見よいように思える。しかし、合方して用いると処方果1と同じく、桂枝と麻黄と石膏の組み合わせとなり強い発汗剤となる。従ってこの処方を与えるのは逆治となる。それではどうしたらよいかと言うことになるが、麻黄の入っていない鎮咳剤(例えば苓桂甘棗湯など)を考えるようにする。<br />
ところが、桂枝湯と同じように表に用いるが、反対に実証の薬方の<b>葛根湯</b>(葛根、麻黄、桂枝、芍薬、生姜、大棗、甘草)に麻杏甘石湯の合方となるとどうであろうか。葛根湯は麻黄と桂枝の組み合わせとなり、汗の出ない実証の人に用いる薬方である。麻杏甘石湯は先に述べたように止汗剤であるため、虚証の薬方である。従って実証の薬方と虚証の薬方との合方となり、相反するものの組み合わせのように見える。しかし組み合わされて使用すれば、桂枝と麻黄と石膏の組み合わせとなり、実証の薬方となる。従って咳が非常に強くなっていれば、葛根湯よりも実になったと考えられるので、このような組み合わせも考えられる。<br />
同様に虚証の薬方と実証の薬方の組み合わせの例では、桂枝湯と麻黄湯の合方がある。この場合は、 麻黄と桂枝の組み合わせは麻黄湯単独の場合と同じである。それではなぜ桂枝湯と麻黄湯が合方されるかというと、麻黄湯にない芍薬、生姜、大棗を増すことによって薬味の数を増し、作用を温和にし、また桂枝と芍薬の鎮痛作用を加えるためである。<br />
処方例3 葛根湯加川芎辛夷<br />
排膿湯<br />
葛根湯加川芎辛夷は上焦に膿が多く出る人に用いる薬方で、この膿の多く出るのを治す作用は川芎辛夷によっていることは、葛根湯加桔梗石膏が反対に上焦に炎症が激しくかつ痛みもある人に用いる薬方(ただし桔梗は芍薬と組み合わされているが)であることよりも理解できる。また<b>排膿湯</b>(甘草、桔梗、大棗、生姜)は、桔梗の薬効により膿の多く出ている人に用いる薬方であることはすでに述べた。従って、膿の多く出るのを治す薬方である葛根湯加川芎辛夷と排膿湯の合方であるため、一見この組み合わせはよいように思われる。しかし、ここで注意しなければならないのは、排膿湯と葛根湯加川芎辛夷を同時に服用すれば、排膿湯中の桔梗は葛根湯中の芍薬と組み合わされたことになり、川芎辛夷の膿を止める作用と、桔梗と芍薬の炎症を止める作用の相反する作用が組み合わされている。桔梗が配剤されている薬方で、炎症を止める作用と膿を止める作用の両方をだそうとすれば、桔梗に芍薬と薏苡仁を組み合わすか、桔梗を荊芥、連翹と組み合わさなければならない。ところが本方には薏苡仁も荊芥、連翹もない。<br />
桔梗と芍薬の組み合わせと川芎辛夷の組み合わせのように、生薬に虚実の差のない組み合わせの場合には(虚実の差がある場合には実の組み合わせの薬効が現れることはすでに述べた)、その薬効はどのようになるか(消炎として働くか、排膿として働くか、あるいは打ち消し合って薬効が出なくなるか)不明である。このような組み合わせのように、使用して見なければどうなるか分からず、またひょっとして害を及ぼすかも分からない組み合わせの処方を用いるのは、漢方ではありえないことである。しかし、この処方をまちがえて作り投薬し、発赤、腫脹が激しくなったという例は多い。<br />
処方例4 八味丸去附子<br />
<b>八味丸</b>(地黄、山茱萸、山薬、沢瀉、茯苓、牡丹皮、桂枝、附子)に附子が入っているため、新陳代謝が盛んな子供が使用するにはいくら下焦が虚しているといっても、附子が邪魔になってくる。そこで、附子と桂枝を除いた薬方の六味丸が用いられているのである。<br />
しかし、附子は虚実を間違えると危険であり、使用が難しいというので、前記の処方のように附子だけを除いた八味丸去附子とすればどうなるであろうか。附子の作用は桂枝によって表に誘導され、沢瀉、茯苓によって半表半裏から裏に誘導されるため、表を少し温めて新陳代謝機能を亢めるが、多くは半表半裏から裏を温めて新陳代謝機能を亢めるように働いていたのであるが、今附子だけを除いたとすれば桂枝が残る。八味丸去附子には大棗が入っていないため、桂枝は発汗剤として働く。従って尿を止める作用にもなる。また桂枝は茯苓と組み合わされているため、心悸亢進やめまいを治す。従って、八味丸去附子は尿を止め、心悸亢進やめまいを治すのを目的とする薬方であるならば問題はないが、八味丸の目標のように口渇、多尿あるいは尿利減少を治そうとした場合、桂枝が薬方中にあるため、尿の出るのを調節する効果はなく、八味丸や六味丸のように下焦に特に強く効かせていたものとは違った効果をもつ薬方となる。従って、附子の入っている薬方から安易に去附子とするのは考えものである。<br />
去附子とは反対に、加附子の場合すなわち当帰芍薬散加附子の場合には、注意しなければならないことがあることはすでに述べたが、同様に加減方を桂枝茯苓丸にしたらどうであろうか。この場合当帰芍薬散加附子とは異なり、附子は表に誘導する桂枝、半表半裏から裏に誘導する茯苓、全身に誘導する芍薬があるため、結局附子の作用は桂枝加苓朮附湯などと同じように全身の新陳代謝を盛んにするため、心悸亢進やめまいを治す作用、すなわち駆水剤と同じような働きしかないことになり、当帰芍薬散加附子を用感る時のような心配は少ない。<br />
処方例5 大承気湯、小承気湯、調胃承気湯、大黄牡丹皮湯、桃核承気湯<br />
これらは組み合わせて投薬されたと言う意味ではなく、これらの薬方が単独でまたは他の薬方と合方して処方された場合に、ただ黙って投薬するのではなく、何かひとこと言っておかなければならない処方例である。言うまでもなく、これらは、大黄と芒硝、大黄と順気剤、大黄と芒硝の順気剤の組み合わせであり、強い下剤である。従って本方を服用すれば、軟便あるいは下痢便となるのは当然のことである。そのため、患者に不必要な心配をかけることのないように、予め注意を与えておかなければならない。このことは逆に言えば、服用しても軟便にも下訳便にも(普通便でもよいが)ならず、もとのままの状態であるならば効果はないと思わなければならない。<br />
ところが反対に、便秘していないので下剤の作用のある大黄はいらないからと言って、安易に去大黄とする傾向がある。例えば柴胡加竜骨牡蛎湯去大黄や大柴胡湯去大黄などがこれらの例であるが、大黄の薬効が下剤としてだけに働くのではなく、他の薬味の薬効を強めたり、清熱剤として働いたりもするので、このような加減をするには十分な注意が必要であることは言うまでもない。<br />
<br />
<br />
生薬の有無あるいは量の多少によって薬方の主証あるいは主証の一部が決定するもの<br />
<br />
1.柴胡について<br />
柴胡が薬方に中に四g(時として三g)以上配剤された場合には、薬方の主証あるいは主証の一部に、胸脇苦満を治す作用が加わる。従ってどのような薬方であっても、胸脇苦満を治す作用を加えたければ柴胡を加えたらよい。しかしその量が三gに満たなければ、それらは胸脇苦満を治す作用としては現れず、体質改善としてのみ働くようになる。この柴胡の加方は相加作用的であるが、柴胡の場合は主証の一部が決定するのに対して、他の一般の相加作用だけの生薬の加減は客証(あるいは副証)の変化に留まり、主証の変化までは及ばない。<br />
例えば<b>大柴胡湯</b>(柴胡、半夏、生姜、黄芩、芍薬、大棗、枳実、大黄)では、柴胡が六g配剤されているため、胸脇苦満を治す作用がある。この柴胡は同時に気うつを治す順気剤である枳実と、下剤である大黄とが配剤されているため、胸脇苦満を治す作用は強烈となっている。なお、ここで配剤された半夏は、生姜と組み合わられて鎮痛剤として働くことは今更うまでもないことであろう。<b>柴胡加竜骨牡蛎湯</b>(柴胡、半夏、茯苓、桂枝、黄芩、大棗、生姜、人参、竜骨、牡蛎、大黄)は、柴胡が五gしか配剤されていないこと、気の上衝を治す順気剤である桂枝と下剤である大黄が組み合わされていることより、大柴胡湯よりも虚証の薬方であることがわかる。また本方には、半夏と生姜、大棗の組み合わせ(鎮嘔、鎮痛)、茯苓と桂枝の組み合わせ(心悸亢進、めまい)、および人参、生姜(水毒)の薬効が組み合わされている。<b>四逆散</b>(柴胡、芍薬、枳実、甘草)では、柴胡の量は柴胡加竜骨牡蛎湯と同じであるが、本方には気うつの順気剤となる枳実はあるものの、下剤がなく、下剤による作用の増強がないため、柴胡加竜骨牡蛎湯よりも虚証の薬方となる。<b>小柴胡湯</b>(柴胡、半夏、生姜、黄芩、大棗、人参、甘草)では、柴胡は順気剤とも下剤とも組み合わされていないため、作用の増強はなく、柴胡七gだけの作用しかない。また本方には、半夏と生姜、大棗、甘草の組み合わせおよび生姜と人参が組み合わされているため、それらの薬効が加えられている。<b>柴胡桂枝乾姜湯</b>(柴胡、桂枝、瓜呂根、黄芩、牡蛎、乾姜、甘草)は、柴胡に気の上衝を治す順気剤である桂枝が配剤されているため、小柴胡より実証の薬方となりそうであるが、柴胡は六gしかなく、小柴胡湯より少なく、また本方には新陳代謝の賦活作用のある乾姜が配剤されていることより、小柴胡湯より虚証の薬方となっている。<b>加味逍遙散</b>(当帰、芍薬、柴胡、白朮、茯苓、生姜、牡丹皮、山梔子、甘草、薄荷)では柴胡は三gであり、胸脇苦満を治す作用は弱い。これが<b>補中益気湯</b>(黄耆、人参、白朮、当帰、陳皮、生姜、大棗、柴胡、甘草、升麻)では柴胡は二gであり、胸脇苦満はほとんど見られず、体質改善薬として用いられる。また加味逍遙散や補中益気湯のように配剤された薬味の数が多い薬方は、作用が弱くなっている。<br />
(以下次号に続く) <br />
<br />
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※「えいままよ] → 「えい、ままよ」<br />
<br />
※汗の出ている、虚証の人<br />
汗が出ているので表虚のはずであるが、麻黄や石膏が入っているため、一般的には越婢加朮附湯は実証向けの薬方(処方)と言われている。<br />
同様に汗が出る時に用いる麻杏甘石湯も、一般的には麻黄や石膏が入っているため、一般的には実証の薬方と言われる。<br />
ただ、村上先生は虚証としているが、麻黄や石膏が入っている薬方(処方)は胃腸障害を起こし易いので、胃腸の弱い人に用いる時は注意が必要な旨はおっしゃっていた。<br />
一般的に、胃腸が弱い人は虚証と言われるので、それに用いることができない(難しい)越婢加朮附湯や麻杏甘石湯は実証と言われるのもある意味しょうがないのかもしれない。<br />
<br />
※咳が非常に強くなっていれば、葛根湯よりも実になったと考えられる<br />
村上先生の虚実の考え方の一つに、症状が激しいのは実というものががる。<br />
<br />
※桂枝湯と麻黄湯の合方 <br />
桂枝麻黄各半湯(けいしまおうかくはんとう)(桂麻各半湯(けいまかくはんとう))<br />
奥田謙蔵系列の先生は、風邪には葛根湯より桂麻各半湯の方を良く使うとも。<br />
<br />
※柴胡加竜骨牡蛎湯去大黄<br />
ツムラ12番の柴胡加竜骨牡蛎湯は、実際は柴胡加竜骨牡蛎湯去大黄なので注意が必要。<br />
大自敬節先生に大黄は加減するものと言われて抜いたと言われている?<br />
<br />
※ 大黄の薬効が下剤としてだけに働くのではなく<br />
大黄の清熱作用に近い生薬としては犀角(さいかく)があったが、<br />
犀角はワシントン条約で使用不可。<br />
<br />
※薬方に中に四g(時として三g)以上配剤された場合<br />
半量処方の場合は?<br />
バランスの関係。 <br />
<br />
※半夏は、生姜と組み合わられて鎮痛剤として働く<br />
半夏と生姜の組み合わせは鎮痛よりも痛嘔が主。(鎮痛作用もある)<br />
半夏と甘草・大棗との組み合わせが痛鎮が主。<br />
<br />
※生姜(水毒)<br />
ここの水毒は胃内停水が主。全身の水毒ではなく部分的な水毒。<br />
<br />
※<b>柴胡桂枝乾姜湯</b>(柴胡、桂枝、瓜呂根、黄芩、牡蛎、乾姜、甘草)は、~~~小柴胡湯より虚証の薬方となっている。<br />
本来は柴胡の量が六gと少なくても、順気剤である桂枝が入っていることで、薬効は柴胡七gの小柴胡湯より強くなるはず。<br />
後の説明では、柴胡湯類の方が強くなるとのこと。<br />
同じ柴胡剤でも、大柴胡湯、柴胡加竜骨牡蛎湯、小柴胡湯、柴胡桂枝湯などは柴胡湯類だが、四逆散や柴胡桂枝乾姜湯は柴胡湯類ではない。 <br />
<br />
<br />
Unknownnoreply@blogger.com0tag:blogger.com,1999:blog-6827912320235733185.post-46198718515477083552018-08-01T22:06:00.000+09:002019-03-07T06:37:54.028+09:00生薬の配剤から見た漢方処方解説(4)誌上漢方講座 症状と治療<br />
生薬の配剤から見た漢方処方解説(4)<br />
村上 光太郎<br />
<br />
<b>7、順気生薬と下剤について</b><br />
<br />
気のうっ滞を治す枳実、厚朴、蘇葉等や気の上衝を治す桂枝等の順気生薬が、薬方中に配剤された場合、その薬方の薬効は、ただ単に基の薬方に順気生薬が相加的に加えられたというのでは説明がつかず、すでにある生薬及び生薬の組み合わせで生じた薬効を相乗的に増強していると考えなければ説明がつかない。特に気のうっ滞を治す順気生薬が配剤された場合は、気の上衝を治す順気生薬が配剤された場合と比べて薬効は非常に強くなる。また薬方中に大黄あるいは大黄と芒硝の組み合わせたものが配剤された場合も同様に、相乗的に薬効が増強される。<br />
今、駆瘀血生薬の桃仁について考えて見ると更に理解が容易になるであろう。桃仁の駆瘀血作用を増強する方法は種々のものがある。それらをまとめて見ると①桃仁の使用量を増やす、②他の駆瘀血生薬と組み合わせる、③順気生薬を加える、④下剤を加える、な体登置ある。①及び②の方法は相加的であり、③及び④の方法は相乗的である。従って駆瘀血剤を質的に変化されるのではなく、強さだけを増強したいのであれば③及び④の方法を使用すればよいと考えるのは当然である。<br />
この場合、③の方法だけでも、④の方法だけでも、また③と④の両方を用いてもよい。③として桂枝を、④として大黄と芒硝を考えて、先の桃仁に加えたものを見ると、桃核承気湯(桃仁、桂枝、大黄、芒硝、甘草)〔この場合、余分に甘草があるが、甘草は主薬となりえない時には、ほとんどその本来の作用は現さず、主に他薬の調和やその薬方を飲みやすくする効果しかない〕となる。本方体試f順気剤の桂枝は大黄と芒硝による下剤を強め、また桃仁の駆瘀血作用を強める。また大黄と芒硝による下油は順気剤である桂枝帝、駆瘀血生薬の桃仁の作用を強める。また互いに影響しあって強力となった桂枝と大黄と芒硝の組み合わせは、更に桃仁の作用を強めているため、本方には駆瘀血生薬は桃仁だけしかないにもかかわらず、強力な駆瘀血剤となっている。<br />
また、下剤(下痢止め)、温補剤の一連の生薬を例にとって見ると更に明瞭となる(表参照)。この一連の生薬は患者の虚実によつ言て使い分けがなされる。例えば便秘をしている人でも、虚証の人に用いる場合は温補剤である乾姜、附子が配剤された薬方で便通をつけるが、実証の人に用いる場合は大黄あるいは大黄と芒硝の組み合わせで便通をつけるか、更に順気剤を加えて作用を増強させて用いる。下痢している場合も同様に考えて使用すれば良いのである。<br />
これを実際に薬方にあてて見ると更に明瞭となる。すなわち、気のうっ滞を治す順気剤である厚朴、枳実、蘇葉と下剤である大黄と芒硝を加えたもの、例えば<b>大承気湯</b>(大黄、芒硝、枳実、厚朴)は最も実証の人に用いる薬方であり、便秘は強く、あるいは下痢している場合には、下痢は激しく、下痢すれば苦痛を強く訴え、また下痢による疲労も強く、大騒ぎする人に用いる。しかし気のうっ滞を治す順気剤に大黄だけを加えたもの、例えば<b>小承気湯</b>(大黄、厚朴、枳実)は下剤と気のうっ滞を治す順気剤と言う意味では大承気湯と同じであるが、下剤そのものが大黄と芒硝の組み合わせから大黄だけに変わっているため、小承気湯は大承気湯より下剤の作用は弱い。<br />
下剤に気の上衝を治す順気剤が配剤された場合は、気のうっ滞を治す順気剤が配剤された場合より更に下剤(下痢止め)の作用は弱く、例えば先に述べた桃核承気湯は気の上衝を治す桂枝と下剤の大黄と芒硝の組み合わせであり、小承気湯の気のうっ滞を治す厚朴、枳実と下剤の大黄の組み合わせより虚証の薬方である。気の上衝と治す桂枝と下剤だけの組み合わせ、例えば<b>柴胡加竜骨牡蛎湯</b>(柴胡、半夏、茯苓、桂枝、黄芩、大棗、人参、竜骨、牡蛎、生姜、大黄)は下剤という面から見れば、桃核承気湯より芒硝が欠けた形であるため、桃核承気湯よりも虚証である。<br />
順気剤の配合されていない大黄と芒硝だけの例えば<b>調胃承気湯</b>(大黄、芒硝、甘草)は順気剤による作用の増強がないため、それのある柴胡加竜骨牡蛎湯よりも虚証の薬方となっている。<b>三黄瀉心湯</b>(大黄、黄連、黄芩)は、下剤は大黄だけであるため調胃承気湯より虚証の薬方となる。<br />
ここまではこの項に関係した、すなわち順気生薬や下剤によって薬効が相乗的に増強されている例であるが、更に便秘あるいは下痢している人に用いる生薬、あるいは温補剤として用いる生薬という面で虚証の薬方まで見ると、大黄を用いると便通はつくが、同時に腹痛も生じるという人には、大黄は実証の薬味となり、強すぎるので、作用の弱い山梔子の配剤された薬方、例えば<b>黄連解毒湯</b>(山梔子、黄連、黄芩、黄柏)が用いられる。更に虚証となって新陳代謝が衰え始める(冷えも強くなる)と便の状態が今までの大黄あるいはその組み合わせを用いたような太くて大きい塊の便ではなく、ウサギの糞のように小さい塊となった、コロコロした便となる。このような時には乾姜の配剤された、例えば<b>人参湯</b>(人参、白朮、甘草、乾姜)を用いる。 更に虚が強くなり、新陳代謝機能の衰えが強くなると、乾姜では働きが弱すぎるため、附子の配剤された、例えば<b>真武湯</b>(茯苓、芍薬、生姜、白朮、附子)を用いる。更に虚が強くなると、附子だけでは弱いため、附子と乾姜を組み合わせた、例えば四逆湯(甘草、乾姜、附子)を用いて新陳代謝機能を亢める。今、便秘について述べて来たが、大黄の配剤された場合同様、下剤の場合は虚実によって使い分ける。すなわち下痢していてもそれほど苦にならないような場合、水様性便、泥状便、完穀下痢(食べたものが消化せず、便の中に出る下痢)の場合は虚証なので乾姜または附子あるいは乾姜と附子を組み合わせて用いるが、下痢でも裏急後重の甚だしい下痢(トイレから離れることの出来ないほど激しい下痢)、少し下痢しても今にも死ぬかと思うように訴える人、またそれほどまでいかなくても下痢すれば疲労感の甚だしい場合(裏急後重の強いほど、症状を激しく訴えるほど実証となる)は実証なので大黄または大黄と芒硝あるいな更に順気剤を加えたものを用いる。<br />
<br />
<b>8、相加作用のみの生薬</b><br />
<br />
薬方の薬効を見てい決と、今まで述べてきたような、組み合わされると薬効に変化を生じるものは生薬全体から言うと案外少なく、この項で述べるような相加作用のみ考えればすむと言う生薬の方が種類が多い。しかし使用される薬方の頻度や、誤って使用した時の危険性なども考え合わせると、組み合わせて使用すれば変化する生薬の方が重要である。<br />
相加作用のみで考えることの出来る生薬としては黄耆(寝汗、黄汗を治す)、薏苡仁(皮膚を潤し、瘀血、血燥を治す)〔ただし、薏苡仁は桔梗と芍薬が組み合わされて用いられる場合には桔梗の薬効に方向変換を起こすことはすでに述べた〕、人参(全身の水毒を治す)、生姜(胃内停水を治す)〔ただし、生姜は半夏と組み合わされて用いられる場合には半夏の薬効に相殺作用を起こすことはすでに述べた〕、駆瘀血生薬(当帰、川芎、桃仁、牡丹皮、地黄など)、鎮咳剤として用いられる生薬(杏仁、五味子、麦門冬、大棗)〔ただし、大棗は半夏と組み合されて用いられる場合には半夏の薬効に方向変換を起こすことはすでに述べた〕など種々のものがある。<br />
たとえば黄耆建中湯(桂枝、芍薬、生姜、大棗、甘草、黄耆、膠飴)は小建中湯に黄耆を加えただけのもので、小建中湯証に黄耆(表虚:盗汗、皮膚の乾燥)が加わったものある。当帰建中湯(桂枝、芍薬、生姜、大棗、甘草、当帰)は小建中湯より膠飴を除いて、当帰を加えたもので、小建中湯証に当帰の薬効(駆瘀血作用)が加わったものである。それでは帰耆建中湯はと言うと、小建中湯に黄耆と当帰を加えたもので、小建中湯証より表虚が強く、かつ瘀血が認められる人に用いる薬方である。<br />
またよく、交通事故の後遺症(例えばムチウチ症)に使用される桂枝茯苓丸加薏苡仁も同様に瘀血を治す桂枝茯苓丸に、皮膚を潤し、瘀血、血燥を治す作用のある薏苡仁を相加的に加えたものである。従って桂枝茯苓丸を用いるより実証の人には桃核承気湯加薏苡仁<br />
あるいは大黄牡丹皮湯加薏苡仁とすればよいし、虚証の人には当帰芍薬散加薏苡仁あるいは加味逍遙散加薏苡仁とすれば良いことは、薏苡仁が相加作用のみの生薬であることを知っていれば今更、言う必要のない事であろう。<br />
人参と生姜の薬効の違いは<b>附子湯</b>(茯苓、芍薬、人参、白朮、附子)と<b>真武湯</b>(茯苓、芍薬、生姜、白朮、附子)を見れば明らかである。すなわち寒と瘀水が全身に広がっているか、体の一部に停滞しているか、あるいは胃部に停滞しているかによって、人参の組み入れられている附子湯を用いるか、生姜の組み入れられている真武湯を用いるかが決められる。それでは胃内停水もあるし、全身にも瘀水があるという場合にはどうすればよいかについては今更、言うに及ばないことであろう。<br />
駆瘀血剤の各薬方の関係は駆瘀血生薬が相加作用よりなるため、配剤された生薬を見ればよく理解できる。すなわち<b>四物湯</b>(芍薬、当帰、川芎、地黄)は当帰、川芎、地黄の駆瘀血生薬(地黄は強壮剤にもなる)に筋肉の緊張を和らげ、緩和鎮展作用のある芍薬が組み入れられている。従って四物湯は虚証で瘀血があり、そのために痛む所がある人に用いる薬方である事がわかる。この地黄の代わりに茯苓の組み合わせとおき変えた、すなわち茯苓と白朮の組み合わせによる胃の機能を亢め、胃内停水を去る作用と、茯苓と沢瀉の組み合わせによる利尿作用を加えたものが<b>当帰芍薬散</b>(芍薬、当帰、川芎、茯苓、白朮、沢瀉)である。従って本方と四物湯を比べれば、本方には四物湯にある、強壮剤の地黄が欠けているため、本方は四物湯より実証の人に用いる薬方であることがわかる。しかも本方には茯苓の組み合わせがあるため、四物湯は瘀血を治す作用しかないが、本方には瘀血と瘀水を治す作用がある事がわかる。<b>桂枝茯苓丸</b>(芍薬、牡丹皮、桃仁、桂枝、茯苓)では四物湯の当帰、川芎の代わりに、駆瘀血作用の強い牡丹皮、桃仁が入っていること、強壮剤となる地黄が欠けている事より、四物湯より実証の人に用いる薬方である事がわかる。また本方には茯苓が入っているため瘀水はあるが、当帰芍薬散のように白朮や沢瀉がないため、瘀水を積極的に体外に出すことは出来ない。従って本方の瘀水は当帰芍薬散と比べて弱いことがわかる。また本方には桂枝が配剤されているため、7、順気生薬と下剤の項ですでに述べたように、瘀血や瘀水を治す作用は強くなっている。しかし瘀水を治す作用は強くなっていると言っても、茯苓と桂枝の組み合わせとなるため、心悸亢進やめまいを鎮める働きとなり、当帰芍薬散の茯苓と白朮や沢瀉の組み合わせによる駆水作用には劣る。従工て一般によく言われる、当帰芍薬散は冷え(瘀水)てのぼせる人に用いるが、桂枝茯苓丸はのぼせ(瘀血)て冷える(瘀水)人に用いると言う使用目標もよく理解できるであろう。<b>桃核承気湯</b>(桃仁、大黄、芒硝、桂枝、甘草)では駆瘀血生薬の桃仁が下剤(大黄、芒硝)や順気剤(桂枝)と組み合わされているため、駆瘀血剤としては強くなり、実証の薬方となっている。<b>大黄牡丹皮湯</b>(桃仁、牡丹皮、大黄、芒硝、冬瓜子)では駆瘀血生薬の桃仁、牡丹皮が下剤(大黄、芒硝)と組み合わされて駆瘀血作用が強くなり、更に排膿を主とし、駆水、駆瘀血、順気(気うつ)の作用を併せもつ冬瓜子が配剤されているため、最も実証の薬方となってる。<br />
駆水剤である<b>苓桂味甘湯</b>(茯苓、桂枝、甘草、五味子)、<b>苓桂甘棗湯</b>(茯苓、桂枝、甘草、大棗)、<b>茯苓甘草湯</b>(茯苓、桂枝、甘草、生姜)の三者は、茯苓、桂枝、甘草は同じく配剤されているが、茯苓の組み合わせの薬効を除いて見ると、三者の違いは明瞭となる。すなわち、三者の違いは配剤されている五味子、大棗、生姜の違いであり、苓桂味甘湯や苓桂甘棗湯は杏仁より虚証の鎮咳薬である五味子を用いるか、精神的なものまで含めた大棗を用いるかの違いであり(生薬の配剤から見た漢方処方解説(2)を参照)、生姜を加えられた茯苓甘草湯の場合は胃内停水が認められるかどうかによって使用が決められるのである。<br />
以上、1から8までが生薬の相互作用によって理解できるものである。<br />
(以下次号に続く) <br />
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※気の上衝を治す桂枝等<br />
等とあるが、他に思い付かない<br />
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※従って駆瘀血剤を質的に変化されるのではなく、強さだけを増強したいのであれば③及び④の方法を使用すればよいと考えるのは当然である。<br />
①も同じ生薬の量を増やすだけなので、質は変わらないのでは?<br />
<br />
※強力に駆瘀血となっている<br />
桃仁と杏仁の区別は難しい場合があり、市場品は混入している場合が多い。<br />
村上先生は、桃仁は杏仁の代用になるが、杏仁は桃仁の代用にはならないとおっしゃっていた。<br />
杏仁が混入している可能性の高い現在の桃核承気湯は桃仁の薬効、すなわち駆瘀血作用が足りないので、基本的に使わないとおっしゃっていた。<br />
大黄牡丹皮湯か桂枝茯苓丸を考慮。<br />
<br />
<br />
※下痢している場合も同様に考えて使用すれば良いのである。<br />
漢方の入門書の一部には、便秘を実証、下痢を虚証としているものがあるが、<br />
便秘にも虚証のものがあり、下痢にも実証のものがある。<br />
実証の下痢には、一般的には下剤として知られる大黄、大黄+芒硝、あるいは大黄+芒硝+順気剤を用いる。<br />
村上先生によると虚実の一つの考え方として、症状を強く訴えるものは実証で、それほど強く訴えないものは虚証。<br />
<br />
※ 気の上衝と治す桂枝と下剤だけの組み合わせ、例えば<b>柴胡加竜骨牡蛎湯</b>(柴胡<br />
ツムラのエキス剤(12番)には大黄が含まれていないので注意。<br />
傷寒論には鉛丹が書かれているが、現在入れることはまずない。<br />
<br />
※ウサギの糞のように小さい塊となった、コロコロした便となる。このような時には乾姜の配剤された、例えば人参湯(人参、白朮、甘草、乾姜)を用いる。<br />
兎糞便には、麻子仁丸や渇腸湯が良く使われるが、大黄が配合されている。<br />
<br />
※下痢すれば疲労感の甚だしい場合<br />
今常は、実証ではなく、虚証なのでは?<br />
<br />
※ただし大棗は、<br />
桂枝と組み合されて用いられる場合には桂枝の薬効(発汗作用)に方向変換(止汗作用)を起こす <br />
の意味の文が抜けている。<br />
<br />
※当帰建中湯<br />
小建中湯に当帰を加えたものではなく、小建中湯から膠飴を除いて当帰を加えたもの。<br />
つまり、桂枝加芍薬湯に当帰を加えたものになるのでは?<br />
村上先生の考えとしては、 小建中湯と桂枝加芍薬湯の違いは、基本的な所では同じ。<br />
<br />
膠飴は駆瘀血作用を邪魔するので除く。<br />
<br />
※桂枝茯苓丸加薏苡仁<br />
桂枝茯苓丸加薏苡仁はエキス剤にあるが、桃核承気湯加薏苡仁、大黄牡丹皮湯加薏苡仁、当帰芍薬散加薏苡仁、加味逍遙散加薏苡仁はエキス剤には無い。<br />
ただし、薏苡仁単味はあるので、それを加えると良い。<br />
<br />
※<br />
すなわち寒と瘀水が全身に広がっているか・・・・・・人参、<br />
体の一部に停滞しているか、あるいは胃部に停滞しているかによって・・・・・・生姜<br />
(生姜は胃内停水ばかりではない)<br />
<br />
※全身にも瘀水があるという場合にはどうすればよいかについては今更、言うに及ばないことであろう。<br />
人参と生姜の両方を用いる<br />
<br />
※桃核承気湯(桃仁、大黄、芒硝、桂枝、甘草)では駆瘀血生薬の桃仁が下剤(大黄、芒硝)や順気剤(桂枝)と組み合わされているため、駆瘀血剤としては強くなり、実証の薬方となっている。<br />
最近の桃仁は質が良くない(杏仁などが混ざっている)ので、村上先生は余り使わなくなったとおっしゃっていた。代わりに桂枝茯苓丸や大黄牡丹皮湯を使う。<br />
一部に、左の瘀血に桃核承気湯、右の瘀血に大黄牡丹皮湯と言う場合があるが、村上先生は否定。Unknownnoreply@blogger.com0tag:blogger.com,1999:blog-6827912320235733185.post-80080007746839335842018-07-09T18:30:00.002+09:002019-03-07T06:38:06.076+09:00生薬の配剤から見た漢方処方解説(3)誌上漢方講座 症状と治療<br />
生薬の配剤から見た漢方処方解説(3)<br />
村上 光太郎<br />
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4.桔梗について<br />
桔梗を民間薬として使用する場合は、排膿、鎮痛、袪痰、解熱、強壮剤として咽喉痛、扁桃炎、気管支炎、肋膜炎、化膿症等に広く用いられている。しかし漢方では桔梗の薬効が他の生薬と組み合わせて用いることによって変化することを重視している。すなわち、桔梗の作用は患部に膿や分泌物が多いものを治すが、この桔梗を芍薬と共に用いれば患部が赤く腫れ、疼痛のあるものを治すようになる。これを間違えて、桔梗を発赤、腫脹、疼痛のある人に用いたり、桔梗と芍薬を合わせて膿や分泌物の多い人に用いたりすれば、治るどころかかえって悪化する。それでは患部に膿がたまって分泌物が出ている所もあるし、発赤、腫脹、疼痛のある部分もあって、どちらを使ったらよいかわからないような時にはどうしたらよいであろうか。このような時には桔梗に芍薬と薏苡仁を組み合わせて用いるか、桔梗に荊芥、連翹(荊芥あるいは連翹だけでもよい)を組み合わせて用いるようにすればよいのである。<br />
これを実際の薬方にあててみると更に明療になる。すなわち<b>排膿湯</b>(桔梗、甘草、生姜、大棗)では桔梗に芍薬が組み合わされていないため、患部は緊張がなく、膿や分泌物が多く出ている場合に用いる薬方である。しかし<b>排膿散</b>(桔梗、芍薬、枳実、卵黄)では桔梗は芍薬と組み合わされているため、患部は赤く腫れ、疼痛のある場合に用いるようになっている。ところで、この薬方に組み込まれている枳実のように、気うつを治す生薬(例、厚朴、蘇葉)を加えれば他の生薬の薬効を強くする作用がある。従って本方では桔梗と芍薬の組み合わせによる腫脹、疼痛を治す作用は更に強くなっている。<br />
葛根湯の加減方は多くあるが、その中で帰郷の入った加減方を見ると、炎症によって患部に熱感のあるものに用いる葛根湯加桔梗石膏という薬方がある。この基本の薬方である葛根湯を忘れ、桔梗と石膏のみを見つめ、桔梗は温であり、石膏は寒であるから逆の作用となり、組み合わせるのはおかしいと考えてはならない。なるほど桔梗と石膏は相反する作用をもったものであっても、桔梗と葛根湯の中に含まれている芍薬とを組み合わせたものと、石膏とは同じ作用となり、相加作用を目的に用いられている薬方であることがわかる。従って同じ加減方は桂枝湯にも適用され、桂枝湯加桔梗石膏として用向責現罪決置、同じ表証に用いる薬方でも、麻黄湯に適用しようと思えば麻黄湯加桔梗石膏ではなく、麻黄湯加芍薬桔梗石膏として考えなければならない。また患部に化膿があり、膿汁も多く、また発赤、腫脹もある人に葛根湯を用いる場合は葛根湯加桔梗薏苡仁として与えなければならないことも理解できよう。桔梗と荊芥(連翹)の組み合わせの例には十味敗毒湯(柴胡、桜皮、桔梗、生姜、川芎、茯苓、独活、防風、甘草、荊芥)がある。本方は発赤、腫脹もあるが化膿もあり、分泌物が出ている人に用感る薬方である。<br />
<br />
5.茯苓について<br />
茯苓も組み合わせによって変化する生薬であるが、茯苓の場合は今まで述べた他の生薬とは異なり、薬効のほとんど全部が変化するというのではなく、薬効の多くの部分が変化しているが、少しは基の薬効も残っているというような不完全な変化である。すなわち、茯苓は単独で使用しても胃内停水を除き、心悸亢進やめまいを治し、利尿作用もあるが、その作用は弱く、他の生薬と組み合わすことにより、必要な薬効を強く現すことが出来る。<br />
茯苓と白朮を組み合わせると胃の機能を亢め、胃内停水を去るか、茯苓と猪苓、沢瀉を組み合わせれば利尿剤となり、尿利を良くし、茯苓に桂枝、甘草を組み合わせれば心悸亢進、めまい、筋肉の痙攣を鎮める働きとなる。<br />
これを実際の薬方にあたって見ると、苓姜朮甘湯(茯苓、乾姜、白朮、甘草)では茯苓は白朮と組み合わされているため、胃内停水がある人に用いる薬方である。この薬方に配剤されている乾姜には生姜の作用すなわち胃内停水を除く作用と新陳代謝の賦活作用がある。従って本方には先に述べた茯苓と白朮の組み合わせによって生じる胃内停水を除く作用と、乾姜がもっている胃内停水を除く作用の相加作用があるため、胃内停水を除く作用は強力となっている。また本方には生姜ではなく乾姜が配剤されているという事は、新陳代謝の衰えがあらため胃内停水が多くなり、水毒が胃内にとどまらず、胃から下腹部、腰部一帯にかけて広くかつ沢山ある事を表している。従工て本方を使用するときの目標の一つに、腰を冷水中につけているように感じるほど冷える人に用いるというのがあるのが理解できよう。<b>苓桂朮甘湯</b>(茯苓、桂枝、白朮、甘草)では茯苓と白朮の組み合わせの胃内停水を除く作用と、茯苓と桂枝、甘草の組み合わせの心悸亢進、めまいを治す作用と共に、桂枝のもっているのぼせをおさえる作用があり、更に桂枝と白朮の組合わせの利尿作用があるため、苓桂朮甘湯は瘀水が胃部に停滞し(胃内停水)、その瘀水が気の上衝と共に移動して起こる心悸亢進、めまい、尿利減少などに用いる薬方であることがわかる。<b>茯苓甘草湯</b>(茯苓、桂枝、生姜、甘草)では茯苓と桂枝、甘草の組み合わせの心悸亢進やめまいを鎮める作用と、生姜の胃内停水を治す作用がある。しかし胃内停水を治す作用の強い茯苓と白朮の組み合わせがないという事より、茯苓甘草湯の胃内停水はそんなに強くはないという事がわかる。従って本方証には水毒によって起こる口渇はないか、あっても微弱である(水毒が強くなれば口渇は強くなり、煩渇引飲という症状を呈するようになり、また水を服用すると嘔吐を引きおこすようになる)。<b>茯苓沢瀉湯</b>(茯苓、沢瀉、桂枝、白朮、生姜、甘草)では、茯苓と沢瀉の組み合わせの利尿作用と、茯苓と白朮の組み合わせの胃の機能を亢めて胃内停水を去る作用と、茯苓と桂枝、甘草の心悸亢進やめまいを治す作用がある。また生姜があるため、茯苓と白朮の組み合わせの胃内停水を除く作用は増強され、桂枝と白朮、茯苓の組み合わせの利尿作用があるので、茯苓と沢瀉の利尿作用は増強される。従って本方は胃内停水があり、めまい、心悸亢進、尿利減少、口渇などがある場合に用いる。<b>五苓散</b>(茯苓、白朮、猪苓、桂枝、沢瀉)では茯苓と猪苓、沢瀉の組み合わせの利尿作用と、茯苓と白朮の組み合わせの胃内停水を除く作用と、茯苓と桂枝の心悸亢進やめまいを治す作用があり更に桂枝と白朮の利尿作用があるため、茯苓と猪苓、沢瀉の利尿作用は増強される。従って本方は茯苓沢瀉湯に似ているが、余分に猪苓が配剤されているため利尿作用は五苓散の方が強く、また水毒も強い。<br />
これら茯苓の組み合わせで生じる一連の薬方は駆水剤として考えられ、それらの薬方の虚実は水毒を治す力が強いか、弱いかによって知ることが出来る。すなわち、茯苓と桂枝、甘草の組み合わせと生姜による茯苓甘草湯が一番虚証の薬方で、生姜の代わりに胃内停水を除く作用の強い茯苓と白朮の組み合わせの苓桂朮甘湯が続き、その水毒を尿として出す茯苓と沢瀉lの組み合わせのある茯苓沢瀉湯が水毒を治す力が強いのでより実証の薬方となり、更に猪苓が入って利尿作用を強力にしたものが五苓散である(表参照)。<br />
<br />
6、附子について<br />
附子は新陳代謝機能を復興ないし亢進させる生薬であるため、実証の人に用いることはできない生薬であり、もし誤って使用すれば死をまねくのに対し、虚寒証の人に用いれば
驚くほどの効果が認められる。従ってその効果を期待して繁用されている生薬であるが、その組み合わせの事を知らずに使用して、虚寒証の人に用いているのにかえって害を生じたり、無効であったりの例が繁々見られる。というのも、附子は単独で用いるものではなく、他の生薬と配剤して附子の作用を選択的に要所要所に効かせる工夫をしなければならないことをわすれ仲いるからにほかならない。<br />
すなわち附子を表に行く生薬(例、麻黄、葛根、桂枝、防風)と共に用いると、附子の作用は表に誘導されて、表の組織を温め、表の新陳代謝を亢める働きとなっているが、附子を半表半裏ないし裏に行く生薬(例、黄連、黄芩、乾姜、人参、茯苓)と共に用いると、附子の作用は半表半裏から裏に誘導されて内臓諸器管の新陳代謝を亢めるようになる。ところが附子を全身(表、半表半裏、裏)に行く生薬(例、防已、細辛、白朮、芍薬)と共に用いれば附子の作用は全身に誘導される。しかしこの様に全身に誘導される場合、前二者に比べて附子の作用は弱くなって、新陳代謝の賦活という面よりも水毒を治すという作用に変わってしまう。また附子を食道、咽部、胸部に導く生薬(例、半夏、梔子)と共に用いると附子の作用は食道、咽部、胸部に誘導され、食部、咽部、胸部の新陳代謝を亢めるようになる。<br />
これを実際に桂枝湯の加減方にあてて見ると更によく理解できる。すなわち桂枝湯に附子を加えた桂枝加附子湯では、附子の作用は桂枝によって表に誘導されると共に、芍薬によって全身に誘導される。しかし全身に誘導されると作用は弱くなるため、主に表、即ち筋肉の部位に達し、麻痺、刺激、温補作用を示すようになり(関節の部位にも少し働く)、四肢痙攣、運動障害、麻痺、小便難などを治すようになる。また桂枝湯から芍薬を除いて附子を加えた桂枝附子湯では附子は桂枝によって表に誘導されるだけであるため、表証があり、裏に邪のないもの、関節に痛みなく、ただ筋肉が痛むだけのものに用いる薬方となっている。桂枝に白朮と附子とを加えた桂枝加朮附湯は、附子の作用を表に誘導する桂枝と、全身に誘導する芍薬、白朮がある。全身に誘導するものが、このように多くなれば表のみならず全身に効くようになるため、筋肉だけでなく、関節にも効くようになり、従って水毒症状が著明となり、四肢の麻痺、屈伸困難、尿利減少などに用いる。この桂枝加朮附湯に更に茯苓を加えたものが桂枝加苓朮附湯である。本方には附子の作用を表に誘導する桂枝と、半表半裏から裏に誘導する茯苓と、全身に誘導する芍薬、白朮があるため、結局、附子は全身に働き、水毒を除く作用にしかなりえず、心悸亢進、めまい、筋肉の痙攣(茯苓と桂枝と甘草の組み合わせの薬効の増強)、尿利減少(桂枝と白朮の組み合わせの薬効の増強)などのみとなる。ところが、この桂枝加苓朮附湯より桂枝、大棗、甘草を除いたものは<b>真武湯</b>(茯苓、芍薬、生姜、白朮、附子)で本方には附子の作用を半表半裏から裏に誘導する茯苓と、全身に誘導する芍薬、白朮があるため、全身にも誘導されるが、多くは半表半裏から裏に誘導され、内臓諸器官の新陳代謝を亢めるように働く。従って本方と桂枝加朮附湯とは表裏の関係にある薬方であることがわかる。<br />
葛根加朮附湯は葛根湯に白朮と附子を加えたもので、附子の作用を表に誘導する葛根、麻黄、桂枝と、全身に誘導する芍薬、白朮があるが、表に誘導するものが多いため、主に表の新陳代謝機能を亢めるように働いている。<b>甘草附子湯</b>(桂枝、白朮、甘草、附子)や<b>麻黄細辛附子湯</b>(麻黄、細辛、附子)では表に誘導するものと、全身に誘導するものが一つずつ含まれているため、主に表に働き、筋肉の痛みなどを治すが、関節にも少し働く。真武湯と<b>附子湯</b>(茯苓、芍薬、白朮、人参、附子)とを比べると生姜と人参が入れ替わっているにすぎない。この生姜は胃内停水を除くが、人参は全身の水の偏調を調えるように働く。しかしそれ以上に大切な事は、真武湯では附子の作用を半表半裏から裏に誘導するものは茯苓のみで、全身に誘導するするものは芍薬と白朮があるが、附子湯を見ると、附子の作用を半表半裏から裏に誘導するものが茯苓と人参の二種となり、全身に誘導するものは真武湯と同じ芍薬と白朮であるため、附子湯の方が半表半裏から裏の新陳代謝を亢める作用が強く、虚証の薬方であることがわかる。<b>附子理中湯</b>〔人参湯加附子〕(人参、白朮、甘草、乾姜、附子)は附子の作用を半表半裏から裏に誘導する人参、乾姜と、全身に誘導する白朮があるため、ほとんど内臓諸器官の新陳代謝機能を亢めるように働く。<b>四逆湯</b>(甘草、乾姜、附子)も同様に半表半裏ないし裏に効く。しかし本方と前方は附子と乾姜の組み合わせとなるため、新陳代謝機能を亢める作用は相乗的に亢まるため、非常に虚証(虚寒証)に用いる薬方となっている。利膈湯(半夏、梔子、附子)では附子の作用は半夏、梔子によって食道、咽部、胸部に誘導されるため、咽喉が塞って嘔吐困難をきたし、嘔吐、粘痰を吐し、口渇を訴えるものに用いる薬方であることがわかる。<br />
以上の様に附子を配剤した場合には虚実を注意することは勿論、附子がどこに効いているかを常に考えながら使用しなければとんでもない事になるのはまれではない。例えば当帰芍薬散(当帰、芍薬、川芎、茯苓、白朮、沢瀉)を服用している婦人があったとする。この人が、冷えが強く、新陳代謝機能もおとろえているというので附子を加えたとすれば、附子の作用を全身に誘導する芍薬、白朮と、半表半裏から森に誘導する茯苓があるため、附子は多くは半表半裏から裏に作用し、その部位の新陳代謝を亢め、冷えを除くように働く。普通の場合はこれでよいのであるが、もしこの婦人が妊婦であったならどうであろうか。胎児の位置は裏位であるので、附子の作用は胎児にも強く作用する。しかしいくら母親が虚証であっても、胎児は新陳代謝の盛んな実証であるため、実証に附子を与えることになり、危険である。このような事は、附子の温補作用のみに注意し、その作用する位置を考えなかったために起こる問題であり、よく注意しなければならない。また、冷えが強く、手が真白く、ロウのようになった時に、附子の効く位置の事を考えず温補作用のみ考え、すぐ真武湯をと考える傾向があるが、これなども半表半裏から裏に強い寒があるのならば真武湯を用いてもよいが、それほど強くない場合は附子の作用を表に誘導して表を温め、表の新陳代謝を亢めるようにすべきであるこ選は今さら言うに及ばないことであろう。<br />
(以下次号に続く) <br />
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※桔梗<br />
韓国では一般的な食品として食べられる(トラジ、ドラジ)。<br />
唐辛子と組み合わせることで薬効が無くなる(方向変換)?<br />
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※桔梗湯は?<br />
桔梗湯は桔梗と甘草の二味。芍薬は無い。<br />
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『傷寒論』<br />
少陰病、二三日咽痛するものは、甘草湯を与うべし。差えざるものは桔梗湯を与う。<br />
甘草湯の方。 甘草(二両)。 右一昧、水三升をもって、煮て一升半を取り、津を去り、七合を温服す。日に二服す。<br />
桔梗湯の方。 桔梗(一両)、甘草(二両)。 右二昧、水三升をもって、煮て一升を取り、澤を去り、温め分かちて再服す <br />
<br />
『金匱要略』<br />
咳して胸満振寒し、脈数、咽は乾きて渇せず、時に濁唾腱臭を出し、久々にして膿の米粥のごときを吐するものは肺纏たり。桔梗湯これを主る。<br />
桔梗湯の方(また血痺を治す)。桔梗(一両)、甘草(二両)。右二味、水三升をもって、煮て一升を取り、分かち温め再服す。すなわち膿血を吐するなり。<br />
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『症候による漢方治療の実際』<br />
傷寒論には、甘草湯でよくならない咽痛にこの方を用いることになっているので、急性咽頭炎にも用いるが、扁桃炎や扁桃周囲炎で悪寒や熱のないものに用いてよい。<br />
ある日、のどが腫れ塞って、口を開けることもできず、飲食もできないという青年を診察した。脈は大きいが、熱も悪寒もない。歯の間からのぞいてみると、扁桃周囲炎らしい。そこで桔梗湯を与えたところ、なかなか呑めないので、少しずつ口に入れて、1口ずつ呑み込むことにした。すると一日分を3分の1位のんだ時、急に嘔逆の状になって、のどに力が入ったとたんに、いちどに、膿血が口から流れ出て、それきり治ってしまった。周囲炎の患部が破潰したのである。桔梗には排膿の作用もあり、催吐作用もあるから、こんな結果になったのであろう。<br />
<br />
<br />
※排膿湯と排膿散<br />
排膿湯と排膿散の合方である排膿散及湯は、桔梗と芍薬の組み合わせであるため、基本的には排膿散の効果となる。<br />
この桔梗の組み合わせのことが最初の頃はわからず、<br />
『漢方薬の実際知識』の初版ではこの排膿散及湯が収載されていたが、<br />
改訂版では削除された。<br />
一般的に言われる排膿散及湯の効果を求めるのであれば、更に薏苡仁を加えるか、荊芥・連翹を加える必要がある。<br />
<br />
※麻黄湯に適用しようと思えば麻黄湯加桔梗石膏ではなく、麻黄湯加芍薬桔梗石膏として考えなければならない。<br />
同様に、小柴胡湯加桔梗石膏は、村上先生の考えでは誤りで、小柴胡湯加芍薬桔梗石膏とすべき。<br />
<br />
※乾姜と生姜<br />
<br />
※更に桂枝と白朮の組合わせ → <br />
更に桂枝と白朮・茯苓の組合わせ<br />
<br />
※茯苓と桂枝の心悸亢進やめまいを治す作用があり<br />
桂枝がないので不完全<br />
<br />
※附子:死をまねく<br />
植物学者の白井光太郎(しらい みつたろう)氏がトリカブトの中毒で死んだことは有名。<br />
現在は、トリカブトの塊根を附子と呼ぶことが多いが、<br />
本来は、烏鳥 、附子、側子、天雄など、部位で異なる。<br />
更に同じ附子でも、修治で生附子、白河附子、塩附子など異なる。<br />
昔は小児の尿に浸ける修治もあったとのこと。<br />
現在一般に手に入る附子は高温で減毒されているので、余り毒性を心配する必要はない。<br />
トリカブトの中毒を解毒するには、黒豆と甘草とを一つかみずつ煎じて飲む。<br />
<br />
※全身に誘導される場合、前二者に比べて附子の作用は弱くなって、新陳代謝の賦活という面よりも水毒を治すという作用に変わってしまう。<br />
村上先生の理論では、 <br />
桂枝加苓朮附湯は表に導く桂枝、<br />
半表半裏から裏に導く茯苓、<br />
全身に導く芍薬、白朮<br />
(大棗、生姜、甘草は特に無い)<br />
となり、附子は全身に誘導され、関節炎や関節リウマチに使うのは<br />
おかしくなる。<br />
一般的には、桂枝加朮附湯の更に水毒の激しいものに、桂枝加苓朮附湯を使うとされている。<br />
<br />
同様に苓桂朮甘湯に附子を加えると、温補作用は期待できず、駆水作用が強くなる。<br />
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<br />
※小便難などを治すようになる(桂枝加附子湯)<br />
桂枝は尿を止める働きがあるが?<br />
<br />
※咽喉が塞って嘔吐困難をきたし、嘔吐、粘痰を吐し、口渇を訴えるものに用いる薬方であることがわかる。<br />
口渇はどこから来たのか?Unknownnoreply@blogger.com0tag:blogger.com,1999:blog-6827912320235733185.post-60572740525453686632018-07-07T13:18:00.000+09:002019-03-07T06:39:59.180+09:00生薬の配剤から見た漢方処方解説(2)誌上漢方講座 症状と治療<br />
生薬の配剤から見た漢方処方解説(3)<br />
村上 光太郎<br />
<br />
<b> 2.桂枝について</b><br />
桂枝は、麻黄と組み合わせれば、発汗剤(相加作用)となることはすでに述べたが:この麻黄を防風に変えても同様に発汗剤(相加作用)となる。しかし、麻黄を大棗に変えれば、まったく逆に止汗剤(方向変換)となる。ところで、桂枝の作用は、麻黄と同様に発汗剤となるが、桂枝と大棗を組み合わせたために止汗剤に変化したことを知らず、桂枝湯が止汗剤であるからといって、直ちに桂枝を止汗剤として考えている人がいるのは困ったことである。すなわち、生姜、大棗、甘草のような生薬は、本来持っている独自の薬効も大切ではあるが、それ以上に他の生薬と組み合わせれば、その生薬の薬効に変化をもたらす場合があることを忘れてはならない。その他、桂枝に芍薬を組み合わせれば、緩和剤(方向変換)となり、桂枝に白朮を組み合わせれば利尿剤(方向変換)となり、桂枝に地黄を組み合わせれば強壮剤(方向変換)となる。<br />
なお、桂枝は組み合わされても変化しない薬効の部分としてのぼせを押える作用がある。<br />
これを実際に種々の薬方に当たって見ると更に明瞭となる。すなわち<b>桂枝湯</b>(桂枝、芍薬、生姜、大棗、甘草)では、桂枝は大棗と組み合わされているため、止汗剤として働決が、桂枝は同時に芍薬とも組み合わされているため、緩和剤の作用が加わる。したがって、桂枝湯は筋肉の緊張があり(症状としては肩こり、腰痛、頭痛、四肢の疼痛など)、のぼせがあり、汗の出ている人に用いることがわかる。<br />
ところで、古い薬方集を見ると薬方中の生姜、大棗、甘草を抜いて書かれた書物が案外多く見られる。このような書物の薬方を見るときには、その薬方がどちらの薬効を期待して使用されているかを考え、生姜、大棗、甘草の加減をしなければ逆治をすることも繁々おこり、大変なことになるのは感うまでもない。<br />
たとえば、先の桂枝湯から生姜、大棗、甘草を除いたならば、桂枝と芍薬だけとなり、桂枝の発汗作用とのぼせを押える作用とともに、桂枝と芍薬の組み合わせによる緩和作用があるため、無汗でのぼせがあり、筋肉の緊張がある人に用いる薬方となり、桂枝湯よりは実証の人に用いる薬方となってしまう。したがって、ここまで考えず、桂枝湯証の人に、桂枝と芍薬だけの薬方を与えれば、汗がどんどん出るため、更に虚証となり、脱汗状態となり、しかも、尿は出なくなり、病状は悪化するであろう。桂枝湯より芍薬を除いた桂枝去芍薬湯では、桂枝と大棗の組み合わせだけになるため、のぼせがあり、汗も出ているが、肩こり、腰痛などの筋肉の痛みがない人に用いる薬方であることがわかる。ところで、肩こり、腰痛などの筋肉の痛みがないときに、芍薬を除かなくても良いのではないかと考える人もあるかと思うが、一般に生薬は、相乗効果のある組み合わせを除いて考えれば、その効果は①、単独で使用する(例、民間薬)②、四~五種類を組み合わせて使用する(例、古方)③、七種類以上を組み合わせて使用する。(例、後世方)の順に、すなわち、薬味の数が増えるにしたがって、薬方の作用は弱くなる傾向がある。(相乗効果があるあれば、組合わせて使用する方が薬方の作用が強くなるのは当然である。) しかし、適応証の範囲、言い換えれば、証の取りやすさという点で考えると、作用とは逆に薬味が増えるにしたがって安易に薬方を使えるようになる利点がある。実上のことから考えれば、先の桂枝加芍薬湯も必要でない緩和作用を除き、より強く、かつスムーズに治癒させることを目的に、芍薬が除かれているのである。<br />
ところで注意しなければならないことは、漢方では「転用」が繁々行われるということである。すなわち、薬味の組み合わせによって薬効を知ったとしても、それが実際に応用されるためには、この転用ということを熟知していなければ、薬方の適応の範囲が非常に狭くなり、薬方の証のほんの一部分しか使用できない。このように転用をしない使い方では、正しく漢方を使用できるとはいいがたい。転用には種々のものがある。たとえば、自汗という症状(すなわち、止汗剤を用いなければならないとき)は、転用すれば皮膚病、潰瘍、耳漏、蓄膿症などで、薄い分泌物が多量に流れ出ている場合と考え、止汗剤を与えるようにするし、無汗という症状(すなわち、発汗剤を用いなければならないとき)は分泌物が少量出るか、あるいは皮膚が乾燥して、カサカサしているものや、乳汁分泌不足で困るような状態として考えることができる。同様な考えで、帯下を小便自利として処理することもある。<br />
したがって、先の桂枝湯では皮膚病、潰瘍、耳漏、蓄膿症などで、薄い分泌物が多く出て、のぼせ・肩こり・頭痛などがある場合に用いれば良いことがわかる。<b>葛根湯</b>(葛根、麻黄、桂枝、芍薬、生姜、大棗、甘草)では、麻黄と桂枝の組み合わせの発汗作用と、桂枝と芍薬の筋肉の緊張を和らげる作用がある。しかし、ここで注意しなければならないことは、桂枝は大棗とも組み合わされ仲いるということである。<br />
生薬の組み合わせには、ときどきこのような逆の作用の組み合わせが同一薬方内に入っている場合があるが、 このような場合には両方の薬効が現われるのではなく、組み合わされたために新しい薬効ができるのでなければ実証の薬味の組み合わせの薬効が現われる。<br />
(しかし、附子が薬方中に配剤されている場合には、虚証である附子の組み合わせの薬効の方が現れる)。<br />
したがって、葛根湯の場合は、桂枝と大棗の止汗作用の組み合わせと、桂枝と麻黄の発汗作用の組み合わせが同一薬方内に入っているが、実証の無汗を治す、すなわち桂枝と麻黄の組み合わせの薬効が現われるのである。<b>苓桂朮甘湯</b>(茯苓、桂枝、白朮、甘草)では、桂枝は白朮および茯苓と組み合わわれているので利尿剤となる。また茯苓に桂枝と甘草を組み合わせると心悸亢進、めまいなどを生じる人に用いる薬方であることがわかる。<b>桂枝人参湯</b>(桂枝、人参、白朮、乾姜、甘草)では、桂枝は白朮と組み合わされているので、尿利減少があることがわかる。ところで、桂枝の組み合わせとは関係がないのであるが、ここに配剤されている人参は全身の水毒を除く作用があり、乾姜は附子ほどの強い作用ではないが、体を温める作用、すなわち新陳代謝を亢める働きがあるので、桂枝人参湯は尿利減少と新陳代謝機能の衰えた場合に用いるのである。<br />
しかし、このように体に水が溜り(尿利減少)、新陳代謝機能の衰えが見られるような場合には、下痢という症状(寒による下痢)が現われやすくなる。したがって、桂枝人参湯は顔色が青白く(新陳代謝機能が衰えているため)、下痢、尿利減少などの症状を現わしている人に用いることがわかる。<b>防已茯苓湯</b>(防已、黄耆、桂枝、茯苓、甘草)では、桂枝は茯苓および甘草があるため、尿利減少(桂枝と茯苓の組み合わせ)や心悸亢進、めまい(茯苓と桂枝、甘草の組み合わせ)がある人に用いる薬方であることがわかる。ところで、このように尿利減少があるということは、転用すれば浮腫があるということになるため、この薬方は浮腫も治す作用も持っていることを忘れてはならない。<b>八味丸</b>(地黄、山茱萸、山薬、沢瀉、茯苓、牡丹皮、桂枝、附子)も同様に考えると、桂枝は茯苓と組み合わされて尿利減少を治し、地黄と組み合わされて強壮剤となっている。したがって虚証の人の尿利減少を治す作用がある薬方であることがわかる。<br />
<br />
<b> 3.半夏について</b><br />
生薬の薬効の発見には、種々の方法があり、初期の段階では、たまたま病気のときに食べたら効いたので(たとえば、マタタビの果実を強壮剤として使用することを始めたのは旅人が疲れて動けなくなったとき、丁度そこにあったマタタビの果実を食べたら元気になり、再びタビができたので使用するようになった。)とか、動物が疾病を癒すために、あるいは他の目的で本能的に用いるのを見て(たとえば、イカリソウを強壮、強精剤として使用を始めたのは、中国に淫羊という動物がいて、その中の一頭の雄の淫羊は非常に精力が強く、多くの雌の淫羊を従えていたが、それはこの植物を食べていたからであった。そこで、この植物を淫羊藿〔インヨウカク〕となづけて強壮、強精剤として使用することになった)使用を始めたのがほとんどであった。しかし、そのようにして、多くの生薬が集まり始めると、次第に理由をつけて生薬を探り始めた。その理由づけとして使用された主なものは<br />
<b>①同形生薬</b>(病気になっている状態と同じ形の生薬は、その病気に効くとか、希望の形、望まれる形に生薬なら効果があるという考え方で使用されるようになった生薬、たとえば藤のコブ(瘤)は形が人の癌に似ているので、癌に効くのではないかと、タンポポを切ると白汁が多く出るので、乳汁分泌不足に効くのではないかと考えて使用したり、同じ朝鮮人参でも、人間の形、特に男性に使用する場合は女性に似た形の人参を、女性に使用する場合は男性に似た形の人参を好んで使用するなどのようなもの)。 <br />
<b>②同色生薬</b>(同じ色をしたものは、その色の病気に効くという考えで使用されるようになった生薬。たとえば、サフランのメシベやアカネの根は色が赤いので血液の病気、すなわち婦人病などに効くとか、熟地黄は黒いので腎臓病などになり、顔色がドス黒くなったものに与えるなどのようなもの。これらの考方は発展して五行説の中の五色〔肝臓、胆のうは青。心臓、小腸は赤。脾臓、胃は黄。肺、大腸は白。腎臓、膀胱は黒〕に取り入れられている)。<br />
<b>③同効生薬</b>(ある生薬を服用して起こる症状と同じ症状が病気のときに起こったならば、その生薬を服用すれば治るという考えで使用されるようになった生薬)の三つの形態があげられる。半夏は最後の同効生薬の考え方で作られた生薬である。すなわち、半夏をかんで服用、あるいは煎じて服用すれば、咽が痛くなり、あるいは胃がムカムカしてくる。これは非常に明瞭に現われる症状であるから、各自が服用して見れば生薬の効果が非常に理解しやすくなると思う。しかし、胃内停水があったり、その他の水毒の症状の激しい人や、風邪などをひいてもとより咽の痛い人が服用したときには、もとより症状のない方(胃のムカムカ、咽喉痛のいずれか)の症状が現われてくるか、まったくそのような症状は現われない。<br />
ところが半夏を生姜とともに煎じるか半夏を生姜とともに煮て作った姜半夏を用いた場合には、たとえ症状がない人が用いても咽喉が痛くなったり、胃がムカムカしたりすることはなく、反対にそのような症状があれば治すことができるようになる。ところで、このように半夏の有害な作用を消し、薬効のみを引き出すことができるのは生姜だけかというとそうではなく、半夏に大棗と甘草を加えても薬効を引き出すことができる。ただ半夏に生姜を加えた場合には鎮嘔作用(方向変換、相殺作用)の方が強く現われ、半夏に甘草と大棗を加えた場合には鎮痛作用(方向変換、相殺作用)の方が強く現われるようになる。<br />
これを実際の薬方にあてて見ると、更に明瞭となる。すなわち、<b>小半夏湯</b>(半夏、生姜)は胃がムカムカし、嘔吐となったり、咽喉部に痛みを感じる人に用いるが、半夏と生姜の組み合わせであるため、嘔吐が主体であることはいうまでもない。この小半夏湯のような症状を呈する人がもし胃内停水が強く現われているならば、どうすればようであろうか。生姜の薬効の一つに胃内停水を除く作用があるので、胃内停水が弱い場合には小半夏湯のままでよいのであるが、今症状が強く現われているので、その作用を助けてやらなければならない。<br />
したがって、駆水作用のある茯苓(極端に胃内停水が強ければ茯苓とともに白朮も加えなければならないが、この場合は、茯苓のみに止めた)を加えた<b>小半夏加茯苓湯</b>を与えることになる。もし、この小半夏加茯苓湯のように胃内停水があるが、嘔吐として出てこず、かえって胃内停水が気の上衝とともに昇ってきて、咽部で止まり、そこに水の停滞が起き、気の停滞とともに咽部の異常感(軽いときは咽がかれるような感じから、酷くなると、咽がつまる感じまである)を覚えるようになった人には、原因となる胃内停水を治すとともに気が留まるのを除くように考えれば治るのであるから、胃内停水を除く小半夏加茯苓湯に気が留まるのを治す厚朴、蘇葉を加えた<b>半夏厚朴湯</b>を与えればよいことがわかる。このことは、薬味の組み合わせを知らず、<b>半夏厚朴湯</b>の薬効を気の症状ばかりを重視して、咽中炙肉感があり、神経症状の特異な人に用いるものであると考えている傾向があるが、その基本となる小半夏加茯苓湯の薬効を忘れてはならないことを意味している。<b>麦門冬湯</b>(麦門冬、粳米、半夏、大棗、甘草、半夏)では、半夏と大棗、甘草の組み合わせとなるため、鎮痛作用が現われる。すなわち、麦門冬湯では麦門冬は鎮咳剤として働き、その咳が激しくなり、痙攣性の咳嗽となり、咽部の痛くなるを半夏と大棗、甘草の組み合わせによって治すのであり、全身の水の変調を治すために人参も加えられている。ところで、鎮咳剤として使用されている生薬も病人の虚実によって種々の生薬が使用されることを知っておかなければならない。(表参照)。すなわち、実証の人の咳には麻黄と杏仁の組み合わせでできる麻杏甘石湯、麻杏薏甘湯、麻黄湯などを用い、少し虚したときには麻黄の入った薬方を用いる。更に虚したときには杏仁の入った茯苓杏仁甘草湯などを用いる。更に虚が強くなれば、五味子の入った苓桂味甘湯などを用い、更に虚せば麦門冬の入った麦門冬湯などを用い、更に虚せば、精神不安を静めて鎮咳作用をだす大棗の入った苓桂甘棗湯などを用いるようになる。<br />
しかし、麻黄は常に鎮咳作用を現わすわけではなく、ときには鎮咳作用がなくなったり、あるいは組み合わされた生薬によって虚実が変化することが多いので()印をつけているのである。 <br />
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※桂枝はのぼせを押える作用がある。<br />
尿を止める働きにもなるので注意。<br />
文中の「しかも、尿は出なくなり」も、この桂枝の働きが前提に書かれている。 <br />
ただ、桂枝+白朮(・茯苓)→利尿作用 は尿を止める働きはなくなる。<br />
<br />
<br />
※同名異方<br />
同じ薬方名でも薬味が異なる場合があり、ここでの桂枝湯はその例とも言える。<br />
現代のエキス製剤でも、同じ薬方名で、内容が異なることがあるので注意が必要。<br />
例えば、竜胆瀉肝湯においては、小太郎の竜胆瀉肝湯は一貫堂方であるが、<br />
他のメーカーの 竜胆瀉肝湯は、薛立斎の薬方であるので注意が必要。<br />
<br />
また、ツムラの柴胡加竜骨牡蛎湯は大黄が無いが、他メーカーには大黄が入っている。<br />
<br />
その他、白朮と蒼朮との違いがあったり、分量が異なっていたりする場合があるので、<br />
エキス剤を使う際にも、薬方名だけで決めるだけでなく、薬方の薬味まで良く確認した方が良い。<br />
同じ薬方名でもメーカーによっては、効果の違いを感じる場合もあるように聞いています。<br />
<br />
<br />
意味合いが少し異なりますが、カット生薬を自分で煎じる際、生姜の量には注意してください。<br />
本によっては、生(なま)のショウガの分量を書いてあるものと、<br />
日局ショウキョウ(乾生姜、干生姜)の量を書いているものがあるからです。<br />
<br />
それを知らずに風邪を引いたので葛根湯を飲んでみようと、村上先生の『漢方薬の実際知識』を見ながら、そこに書いてある分量をそのまま、日局ショウキョウを量り込んで煎じたら、辛くて大変なことになりました。<br />
後で聞いた所、『漢方薬の実際知識』に書かれている生姜の分量は、生(なま)のショウガの量とのことでした。<br />
なお、生姜瀉心湯などは生(なま)のショウガの方が良く効くようです。<br />
<br />
また別件ですが、『皇漢医学』に書かれている分量は多過ぎて、そのままでは使えないそうです。わざと書いているとのことです。<br />
このように、出典には注意が必要です。<br />
<br />
※生薬の組み合わせには、ときどきこのような逆の作用の組み合わせが同一薬方内に入っている場合があるが、<br />
虚実の逆の作用の場合の解説。<br />
寒熱が逆の作用はどちらが出るかわからない。<br />
<br />
※桂枝人参湯(けいしにんじんとう)<br />
『傷寒論』下篇<br />
太陽病、外証いまだ除かずして、しばしばこれを下し、ついに協熱下痢し、利下止まず、心下痞し、表裏解せざるもの、桂枝人参湯之を主る<br />
とあり、<br />
もともとは、急性熱性疾患(傷寒)の誤下による下痢を治療する処方。<br />
<br />
藤平健氏が常習性の頭痛に効く旨の発表をしてからは頭痛によく使われるようになった。<br />
<br />
※防已茯苓湯(ぼういぶくりょうとう)<br />
余り有名でない薬方。防已黄耆湯と比較されることが多い。<br />
<br />
※同形生薬<br />
海狗腎や鹿鞭のような男性生殖器が強壮・強精剤に使われるのも同形生薬。<br />
更に男性生殖器と形が似ている肉蓯蓉や鎖陽などが強壮・強精剤に使われるのも同様。<br />
現代医学的でも肝臓加水分解物が肝臓病に使われるが、これも一種の同形生薬?<br />
<br />
<br />
※同効生薬<br />
ホメオパシー(homeopathy)も"similia similibus curantur"「同種のものが同種のものを治す」として、似た考え方。<br />
ただ、ホメオパシーは高度に希釈を行い、繰り返して薄めたものほど効くとされており、違う部分もある。<br />
<br />
※半夏の鎮痛作用<br />
基本的には咽の痛みに対する鎮痛作用。<br />
甘草・大棗と書かれているが、大柴胡湯のように、甘草の無い場合も。<br />
また、利膈湯(りかくとう)のように生姜や甘草・大棗の組み合わせのないものもある。<br />
利膈湯加味のように改良された薬方もあるが、咽喉ガンなどで食物が通らないような時には、利膈湯の方が良く効くとのこと。<br />
利膈湯加味は薬味が増え、効果がマイルドになっている。<br />
(一般的に薬味か増える程、適用範囲は広がるが、効果はマイルドになる(切れが悪くなる))<br />
<br />
大半夏湯(半夏、人参、蜂蜜)(金匱要略 胃反,嘔吐する者は,大半夏湯之を主る)も生姜や甘草・大棗が無い。<br />
蜂蜜が甘草・大棗の代わり?<br />
<br />
※実証の人の咳には麻黄と杏仁の組み合わせでできる麻杏甘石湯、麻杏薏甘湯、麻黄湯などを用い<br />
麻杏甘石湯は村上先生の説明では通常、虚証。<br />
麻黄+石膏の鎮咳作用は虚証の咳。<br />
<br />
記載が古いのでこのような誤りがある。Unknownnoreply@blogger.com0tag:blogger.com,1999:blog-6827912320235733185.post-36847549508952009242018-07-02T07:11:00.001+09:002019-03-07T06:40:51.297+09:00生薬の配剤から見た漢方処方解説誌上漢方講座 症状と治療<br />
<span style="font-size: x-large;">生薬の配剤から見た漢方処方解説</span><br />
村上光太郎<br />
<br />
漢方医学が他の医療と異なるところは、随証療法であることは誰もが知っている事であり、漢方を使用す識場合は、それによらなければならないのであるが、現実は忘れられ、他の医療と同様に病名あるいは症状で用いられる機会が多くなり、本来の意味での漢方ではなくなり、効果の面では劣り、副作用の問題(随証療法をすれば起こるわけのない問題であるが、証を間違ったため、当然起こりうる各種の症状を副作用として記録している)が生じるようになり、漢方の良さ、特徴が葬り去られ、安っぽい医薬品(生薬製剤)に変化しつつある事は非常に悲しむことである。<br />
しかし随証療法をするとなると、種々の問題(例えば、使用できる薬方の数の問題、加減方が出来ない事など)が生じる。これらはカット生薬(全形生薬を適当な大きさに刻んだもの)を用いて薬方を作れば済むことではないか、と言われれば、実にそのとおりと言わなければならないが、現実は、漢方を服用し、よほどその良さを理解した人でなければ正しく煎じたり、正確に服用したりしてくれないもので、煎じるときに吹きこぼしたり、煎じ足りなかったり、服用のときに一日三回服用しなければならないところを、一日一回や、二回でごまかしたり、一日煎じて服用したら次の日の一日は服用を休むなど、これで薬効を期待するのは虫が良すぎるのではないかと思うような事がまかり通っている。<br />
しかしこれで効くわけがないと思える服用方法をしながら、”漢方薬だから長く続けて飲まなければ効かないのさ”と言って悦に入っている人もいる。このような事をなくするためにエキス顆粒製剤が出ているのであるから、非常に重宝なわけである。しかし、一面このことは服用のしやすさと随証療法を困難にする事との諸刃の剣となっている。そこでエキス顆粒製剤を用いて随証療法を行おうとすれば、単方(製剤となっているものをそのまま)で投薬すれば良いものも多くあるが、少なからず合方(製剤を二つ以上合わせて)して投薬する必要が出てくるのな当然である。<br />
ところで、随証療法というものに再び振り返って見ると、「証に随って治療する」と言うことであり、言い方を変えれば、病人の現わしている「病人の証」と、生薬を組み合わせたときに出来る「薬方の証」とを相対させると言う事である。「病人の証」は「望診」、「聞診」、「問診」、「切診」の四診によって得られた情報を基に組み立てられ、どうすれば(何を与えれば)治るか考えて決定されるものであるが、「薬方の証」は配剤された生薬によって、どのような症状を呈する人に与えればよいかが決定される。したがって、「病人の証」と「薬方の証」は表裏の関係にある。<br />
しかし、「薬方の証」は一つの薬方では決まっているが、「病人の証」は時とともに変化し、固定したものではない。<br />
しかし、「病人の証」と「薬方の証」は、いずれもが薬方名を冠しているため、あたかも証の変化がないように考え、「病人の証」を固定化して考え、変化のない薬方の加減や合方を極端に排除し、単方での使用を要求したり、証の変化を無視して持重させようとする人がいる。また反対に各薬方の相加作用のみによって薬方が成立していると考えて、無責任な加減方や合方がなされるなど間違ったことが平気で行われ、そのために起こる種々の問題の責任が、あたかも漢方医学や薬方にあるかのように言われるのは憤まんやる方ない気持ちである。<br />
「病人の証」を正しくとらえるためには、多くの「薬方の証」を知っている事が近道であるため、漢方の勉強を志すときは、まず薬方の勉強からなされるわけであるが、多くの薬方をすべて理解しようとすれば、それだけで一生が終わってしまうほどの薬方があり、それではと言って、エキス顆粒製剤だけの薬方の勉強では、とうてい、今対応している病人の証には不十分である。そこで、エキス顆粒製剤を用いて、種々の「病人の証」に対応しようとすれば、合方して新しい多くの薬方を考えなければならないことになる。 しかし、合方して使用したときに、それぞれの薬方の薬効が独立して、別々に効いてくれるのであるならば問題はないが、たとえば神経痛か関節痛(このような病名による使用法は本来の漢方の使用方法ではないが、薬能の変化を理解しやすくするために使用させていただく)で桂枝加朮附湯(桂枝、芍薬、蒼朮、大棗、甘草、生姜、附子)を服用していた人が、風邪を引いて喘息気味になったので、麻杏甘石湯(石膏、杏仁、麻黄、甘草)を同時に服用したとするとどうなるであろうか。桂枝加朮附湯がその人の証に正しく合っているならば(虚証の人であるならば)その人は、桂枝加朮附湯と麻杏甘石湯を合わせて服用すれば、汗がどんどん流れ出て、脱力感が生じ、ときには脱汗(死の直前の多汗状態)に近い状態となるであろう。それではと言うので急いで人参湯(甘草、蒼朮、人参、乾姜)や真武湯(茯苓、芍薬、生姜、白朮、附子)を単独で、あるいは合わせて投薬しても、体表の状態は元には治りにくい。<br />
<br />
それではなぜこのようなことが起こるのかと言う事を理解するためには、基本に返って再度考えなければならない。<br />
すなわち、二種以上の生薬を配剤した場合に現われる薬効は、ただ単に配剤された生薬の個々の薬効をすべて記載したらすむと言う単純なものではなく、種々の変化が起こることがあるからで、その事は清水藤太郎氏によって薬物の相互作用を、①相加作用(配剤された生薬それぞれの薬効総和となる組み合わせ)、②相乗作用(配剤された生薬それぞれの薬効の総和よりも作用が強くなる組み合わせ)、③相殺作用(配剤することによって、それぞれの薬効の一部あるいは全部が無くなり、無効となる組み合わせ)、④方向変換(配剤されることによって、本来持っていたそれぞれの薬効とは異なった薬効を現わすようになる組み合わせ)の四種に分類されている。この分類は、実際の薬方の説明には非常に有効で、こられの組み合わせによる変化を常に頭に入れておかなければ失敗することは<ruby><rb>希</rb><rp>(</rp><rt>まれ</rt><rp>)</rp></ruby>ではない。しかし、この相互作用だけですべての薬方が理解できるほど漢方は甘くはなく、生薬によれば、その有無、量の多少によっても薬方の本質にかかわるほどに重大な影響を与えるものがある。それらを理解して初めて漢方が理解できるようになる。<br />
生薬の勉互作用で理解できるものとしては、麻黄、桂枝、半夏、桔梗、茯苓、附子などがあげられ、生薬の有無、量の多少によって薬方の主証あるいは主証の一部が決定するものには柴胡、黄連、黄芩、芍薬、甘草などがある。以下順次それぞれについて述べる。<br />
<br />
<span style="font-size: large;">生薬の相互作用で理解できるもの</span><br />
<br />
1.麻黄について<br />
麻黄は発汗剤として用いられるが、麻黄に桂枝を組み合わせてもやはり発汗剤(相加作用)として働く。ところがこの麻黄が石膏と組み合わされて使用されると、まったく逆に止汗剤(方向変換)として働くようになる。<br />
更に麻黄と桂枝と石膏の三者を組み合わせると、麻黄と桂枝の発汗作用が更に強烈となり(相乗作用)、麻黄と石膏の止汗作用はみられなくなる。この事はよく注意しなければならない事で薬事の事をよく考えずに合方して、失敗することは<ruby><rb>希</rb><rp>(</rp><rt>まれ</rt><rp>)</rp></ruby>ではない。麻黄に杏仁を組み合わせれば鎮咳剤(方向変換)となり、麻黄に白朮を組み合わせれば利尿剤(方向変換)となる。ところで、ここで少し注意をしておきたいのは、麻黄は古来より使用する場合には節を去ることが義務づけられているが、この理由として、麻黄(茎の節を去ったもの)は発汗剤として働き、麻黄(節のみ)および麻黄(根のみ)は止汗剤として働くという事が言われている。しかし、現実には麻黄の地上部すべてがカットされて入っているため、品質は劣ると言わなければならない。しかし節の割合は節間に比べて非常に少ないため、この事はあまり問題になっていない。<br />
このように、使用部分によって薬効の異なる(あるいは逆となる)生薬は多く、例えばアズキを見ると、全草(茎、葉)は尿を止める作用があるため、夜尿症などに応用されるが、種子(赤小豆)は反対に利尿剤として、単独で煎じて服用したり、鯉とともに煎じて服用したり、赤小豆湯(赤小豆、商陸、麻黄、桂枝、連翹、反鼻、大黄、生姜)などの薬方に組み込んで使用されている。ゴボウの場合は更に印象深く、ゴボウの根をあまり<ruby><rb>晒</rb><rp>(</rp><rt>さら</rt><rp>)</rp></ruby>さずに多食すれば、ニキビや吹出物が出来るが、種子(<ruby><rb>牛蒡子</rb><rp>(</rp><rt>ごぼうし</rt><rp>)</rp></ruby>、悪実)や葉茎を煎じて、あるいは炊いて食べると、ニキビや吹出物を治す働きがある。また使用方法によって、薬効の変化するものもあり、たとえば、ゲンノショウコでは、一日約30以eなるべく濃く煎じて服用すれば、下痢止めとなるが、一日約10gを淡く煎じて服用しれば、反対に便秘に効くようになる。ハチミツのように、生のハチミツをなめると下剤となるが、一度沸かしたハチミツをなめると、下痢止めとなるものもある。これらの事は、生薬を使用する場合に怠りがちである修治の重要性に再度目を向けなければならない事を物語っている。<br />
話を麻黄の組み合わせにもどし、実際に薬方中での用いられ方を見ると、葛根湯(葛根、麻黄、桂枝、甘草、芍薬、生姜、大棗)では麻黄は桂枝と組み合わされているため、葛根湯は発汗剤として働いている。麻黄の組み合わせではないが、桂枝は芍薬と組み合わされると緩和剤として働くので、葛根湯は肩こりなどの筋肉の緊張があり(緩和剤)、無汗(発汗剤)の人に用いられる薬方であることがわかる。このように葛根湯は発汗剤で”表”に効果のある薬方であるが、人体を再度よく見つめて見ると、大気にふれる事の出来る部分(すなわち表)は体の表面と口から始まり、胃を通って肛門に至る、体内の表面とがあることに注意しなければならない。体の表面は<ruby><rb>外</rb><rp>(</rp><rt>がい</rt><rp>)</rp></ruby>の表といい、体内の表面は<ruby><rb>内</rb><rp>(</rp><rt>ない</rt><rp>)</rp></ruby>の表といって区別される。表に効果のある薬方は、当然外の表にも内の表にも同じように効くことを忘れてはならない。ただし、外の表での汗が出ているということは、内の表では無汗であるということ、すなわち便秘であると言うことになる。また外の表での無汗であるということは、内の表では発汗していることであり、下痢をしている事を示している。したがって葛根湯は無汗の薬方であるため、消化器系(内の表)に変化があれば、下痢という症状で現われることがあることを示している。ただここで注意しなければならないのは、すべての下痢を無汗として処理したり、すべての便秘を発汗として処理してはならないと言うことである。あくまでも内の表の発汗あるいは無汗として考えられるものだけに適用できるもので、裏位に変化がある場合に起こる便秘や下痢については、この考え方は適用できないのは当然である。麻黄湯(杏仁、麻黄、桂枝、甘草)では麻黄と桂枝の組み合わせの発汗剤と、麻黄と杏仁の組み合わせの鎮咳剤とがあるため、無汗で咳のある場合に用いられる。麻杏甘石湯(石膏、杏仁、麻黄、甘草)では、麻黄と石膏の組み合わせによる止汗剤と、麻黄と杏仁の組み合わせの鎮咳剤とがあるため、麻黄とは反対に咳すれば汗が出るという事を目標に用いられている。越婢加朮湯(麻黄、石膏、生姜、大棗、甘草、白朮)でも麻黄と石膏の組み合わせとなり、止汗剤となるため、越婢加朮湯は多汗のある場合に用いられる(麻黄と白朮の組み合わせもあるため、利尿剤としても働くのは当然である)。<br />
ところで、ここで注意しなければならない事は、発汗と無汗ということである。(図参照)<br />
これはただ単に、体表の汗の有無だけで発汗と無汗を分けるのではなく、体表に汗を出そうとしている(体表に汗が出ようとしている)かどうかが問題となるのである。すなわち、体表より運動したときのようにスムーズに汗が出ているならば、汗が出ている(実像の発汗)とするが、たとえ体表には汗が出ていなくとも、裏(体内)より表(体表)に向かって水が移動してきつつあり、表に水が溜って浮腫を形成している過程(浮腫は押すと軟らかである)ならば(虚像の発汗)汗が出ているものとして止汗剤を与える。先に述べた越婢加朮湯では、多汗のとき(実像の発汗)にも用いられるが、浮腫が形成されつつあれば、汗はなくても(虚像の発汗)用いられることがわかる。また浮腫が形成される傾向がなく、体表に汗が出ていない(実像の無汗)か、たとえ汗が出てるように見えても、表(体表)に水が多く溜りすぎて(浮腫は押すと硬い)もれて出るように見えるなら、すなわち、裏より表への水の移動がないならば、汗は出ていないもの(虚像の無汗)として発汗剤を与える。小青竜湯(麻黄、桂枝、芍薬、乾姜、甘草、細辛、五味子、半夏)では、麻黄と桂枝の組み合わせとなるため、無汗の人に用いられる。したがって実像の無汗に用いる場合には汗が出ていないが虚像の無汗に用いる場合は汗がもれて出ているように見えるとき、すなわち、顔が<ruby><rb>膨</rb><rp>(</rp><rt>は</rt><rp>)</rp></ruby>れて流れているように見える顔、鼻水はいつ落ちたともわからないように、ポタリ、ポタリと落ちる水鼻などを目標に用いられる。大青竜湯(麻黄、杏仁、桂枝、生姜、大棗、甘草、石膏)では、麻黄と桂枝と石膏の組み合わせとなるため、強烈な発汗剤となり、実証の人にしか用いる事が出来ない事は言うまでもない。また麻黄と杏仁の組み合わせもあるため鎮咳剤にもなる。<br />
ところで、桂枝湯と越婢湯を合方すればどうなるであろうか。桂枝湯(桂枝、芍薬、生姜、大棗、甘草)には桂枝が含まれており、越婢湯には麻黄と石膏が含まれている。いずれの薬方も発汗しているのを止めて治す虚証の薬方である。しかし、この二方が合方されれば、麻黄と桂枝と石膏の組み合わせとなり、大青竜湯と同様な実証の薬方となる。したがって、一つ一つの薬方が虚証の薬方だからと言っても、虚証の薬方ができるとは限らない事がよくわかるであろう。同様なことは桂枝湯と麻杏甘石湯の合方などのように多くの薬方で見られる。また傷寒論を勉強するときでも、この事を知っていれば理解しやすい事は<ruby><rb>希</rb><rp>(</rp><rt>まれ</rt><rp>)</rp></ruby>ではない。<br />
一例をあげると「太陽病、発熱、悪寒、熱多寒少、脈微弱者、不可発汗大汗、宜桂枝二越婢一湯」という文を解釈するときに、桂枝二越婢一湯の薬味の組み合わせを見れば、脈微弱、不可発汗大汗の文は桂枝二越婢一湯を用いてはいけない注意書きの文であることがわかるであろう。<br />
(次回に続く) <br />
<br />
<br />
※蒼朮<br />
桂枝加朮附湯には、一般的には白朮を使用する。<br />
朮については、村上先生は余り厳密な区分はされていらっしゃらず、朮と記載されていれば、一般的には白朮を用いるが、蒼朮でもかまわない感じでした。更に蒼朮の方には鎮痛作用があるので、痛みがある時には蒼朮の方が良い旨のことをおっしゃっていた。<br />
エキス剤にも白朮を用いているものと、蒼朮を用いているものとがある。 <br />
中医学を学んでいる人は、白朮と蒼朮とは厳密に区別するので、この考え方には賛同されないと思われる。<br />
人参湯の蒼朮は謎。一般的には白朮を用いる。胃痛を抑える目的?<br />
真武湯は白朮となっている。<br />
<br />
※実像、実像<br />
ここでの虚像・実像の虚実と、漢方で良く使われる虚証・実証の虚実とは異なるので注意。<br />
「実像」は見た目のまま、<br />
「虚像」は見た目と異なるというくらいの意味で、 <br />
本文に記載されているように、虚像の発汗は見た目は汗が出ていないように見えるので一見すると無汗のように見えるが、実際には発汗であること。<br />
<br />
※越婢湯は虚証 <br />
一般的には、麻杏甘石湯や越婢湯は実証と言われることが多い。<br />
一般的に、汗が出ているのは虚証としているので、発汗しているのを止めて治す薬方は虚証の薬方という村上先生の説明の方が合っているように思う。<br />
ただ、麻黄や石膏は胃腸に障るので、麻杏甘石湯や越婢湯は、消化器系の弱い人には用いないのは当然。<br />
この胃腸が弱いのをいわゆる虚証としてとらえ、麻杏甘石湯や越婢湯は用いられないので実証の薬方と考え、一般的には実証というように思われる。 <br />
漢方の虚実の考え方の違い?<br />
<br />
<br />
※大青竜湯と桂枝二越婢一湯<br />
大青竜湯と桂枝二越婢一湯との違いは、<br />
(薬味の分殺の違いを除けば)<br />
桂枝、生姜、大棗、甘草、麻黄、石膏は共通、<br />
杏仁が入ったものが大青竜湯(麻黄+杏仁→鎮咳作用)、<br />
芍薬が入ったものが桂枝二越婢一湯(桂枝+芍薬→緩和作用)。<br />
<br />
※薬方<br />
(漢方)処方と呼ばれることが多いが、本来は薬方が正しいとのこと。<br />
この書では本文は一貫して「薬方」と書かれているが、タイトルは「漢方処方」となっていて矛盾している。<br />
<br />
※ハチミツ<br />
生は下剤で一度沸かすと下痢止めと書かれているが、<br />
加熱した蜂蜜を用いる蜜煎導は便秘に用いる。<br />
外用剤(坐薬)なので逆の作用?(不明)<br />
<br />
<br />
【傷寒論の条文】<br />
陽明病、自汗出、若発汗、小便自利者、此為津液内竭、雖硬不可攻之、当須自欲大便、宜蜜煎導而通之、若土瓜根及大猪胆汁、皆可為導。<br />
<br />
蜜煎導方<br />
蜜七合<br />
一味内銅器中、微火煎之、稍疑似飴状、擾之勿令焦著、欲可丸、併手捻作挺、令頭鋭、大如指長二寸許、当熱時急作、冷則硬、以内穀道中、以手急抱、欲大便時、乃去之。<br />
<br />
<br />
<br />Unknownnoreply@blogger.com0tag:blogger.com,1999:blog-6827912320235733185.post-74181160016999795722018-03-14T06:38:00.001+09:002018-03-20T00:01:05.483+09:00杏蘇散(きょうそさん) の 効能・効果 と 副作用<span style="font-size: large;"><b>『薬局製剤 漢方212方の使い方』<span style="font-size: small;"> 第4版</span></b></span><br />
埴岡 博・滝野 行亮 共著<br />
薬業時報社 刊<br />
<br />
<br />
<span style="font-size: large;"><b><u>K37 杏蘇散(きょうそさん)</u></b></span> <br />
<br />
<b>出典</b><br />
楊仁斎(宋)の「直指方」に『上気して喘嗽し,浮腫するを治す』とあり,虞天民(明)の「医学正伝」に『上気して喘嗽し,面目浮腫するを治す』とある。<br />
<br />
<b>構成</b><br />
麻黄,杏仁,甘草,桑白皮は五虎湯去石膏と解することができる。麻黄,杏仁,桑白皮,大腹皮,陳皮は利水剤で,五味子,烏梅は収斂剤,甘草,阿膠は緩急剤である。<br />
<br />
<b>目標</b><br />
気と共に水が上衝して喘咳となり,顔面浮腫を呈する症状を用いる。心不全の場合の呼吸困図に相当するが,衆方規矩の新版によれば『痰の字を使っていないということは,痰のない咳に用いるべきである』という。これは脾胃に痰飲がないということで,稀薄な痰が間断なく出て病人が横になっていられないで上体を起こしていなければならない状態も使ってよい。<br />
また『久喘,久咳,労嗽で汗のない人に用いて奇効がある』とあるのも目標に加えてよいだろう。<br />
<br />
<b>応用</b><br />
(1) 心臓喘息,肺水腫<br />
(2) 慢性気管支炎で痰の出ないもの<br />
<br />
<b>留意点</b><br />
◎中医学で風寒感冒に同名のものを使うが全く方意を異にするので注意を要する。それは温病条弁のもので香蘇散去香附子の加味方である。<br />
<br />
<b>文献</b><br />
1.北山友松子・増広口訣中巻17丁(宝暦4)<br />
2.衆方規矩(燎原書房覆刻・昭555) P.159<br />
<br />
<b>K37 杏蘇散</b><br />
〔<b>成分・分量</b>〕<br />
蘇葉 3.0<br />
五味子 2.0<br />
杏仁 2.0<br />
大腹皮 2.0<br />
烏梅 2.0<br />
紫苑 1.0<br />
桔梗 1.0<br />
桑白皮 1.0<br />
甘草 1.0<br />
陳皮 1.0<br />
麻黄 1.0<br />
阿膠 1.0<br />
以上12味 18.0<br />
カット。500→250煎<br />
<br />
〔<b>効能・効果</b>〕<br />
せき,痰<br />
<br />
〔<b>ひとこと</b>〕<br />
平成4年6月24日厚生省薬務局長通知によって従来阿膠の代りにゼラチンを使用するよう指定していたのを,阿膠を使うようになった。<br />
<br />
<br />
<span style="font-size: large;"><b>『漢方 新一般用方剤と医療用方剤の精解及び日中同名方剤の相違』</b></span><br />
愛新覚羅 啓天 愛新覚羅 恒章 <br />
文苑刊<br />
<br />
40 <ruby><rb>杏蘇散</rb><rp>(</rp><rt>きょうそさん</rt><rp>)</rp></ruby><br />
《温病条辨》<br />
<br />
[成分]:蘇葉3(6)g、麻黄1~1.5g(なし)、桔梗1~1.5(6)g、杏仁2(6)g、紫苑1g(なし)、桑白皮1~1.5g(なし)、陳皮1~1.5(橘皮6)g、取腹皮2g(なし)、五味子2g(なし)、烏梅2g(なし)、阿膠1~1.5g(なし)、甘草1~1.5(6)g、(半夏6g、前胡6g、茯苓6g、枳殻6g、生姜6g、大棗2個)<br />
<br />
[服用]:湯剤とする。1日1剤で、1日量を3回に分服する。 <br />
<br />
[効能]:軽宣涼燥、宣肺化痰<br />
<br />
[主治]:外感涼燥、肺気不宣<br />
<br />
[症状]:微頭痛、悪寒、無汗、咳嗽、痰が薄く少ない、咽や鼻の乾燥、鼻づまりなど。舌苔が白少、脈が浮弦。<br />
<br />
[説明]:軽宣涼燥と宣肺化痰の効能を持っており、外感涼燥と肺気不宣の病気を治療することができる。<br />
本方は《温病学》では秋燥の外感涼燥を治す方剤である。<ruby><rb>外感涼燥証</rb><rp>(</rp><rt>がいかんりょうそうしょう</rt><rp>)</rp></ruby>とは外から燥邪が寒邪と共に衆に侵入する病気である。<br />
本方に含まれている蘇葉、麻黄は辛温解表し、桔梗、杏仁、紫苑、桑白皮は止咳平喘し、陳皮、大腹皮た降逆除満し、五味子、烏梅は斂肺止咳男%阿膠は補血養陰し、甘草は諸薬の薬性を調和させる。(半夏、前胡、茯苓、枳殻は化痰平喘し、生姜、大棗は調和脾胃する)。<br />
本方は原著では五味子、大腹皮、烏梅、麻黄、桑白皮、阿膠、紫苑がなく、前胡、枳殻、半夏、茯苓、生姜、大棗がある。<br />
<ruby><rb>杏仁</rb><rp>(</rp><rt>きょうにん</rt><rp>)</rp></ruby>は<ruby><rb>杏子</rb><rp>(</rp><rt>きょうし</rt><rp>)</rp></ruby>とも言い、止咳平喘薬で、性味が苦、微温であり、小毒があり、肺、大腸の経脈に入る。止咳平喘と潤腸通便の作用がある。使用は過量しないようにし、また、小児に慎重に用いる。湯剤の常用薬量は3~10gである。<br />
<ruby><rb>蘇葉</rb><rp>(</rp><rt>そよう</rt><rp>)</rp></ruby>は<ruby><rb>紫蘇</rb><rp>(</rp><rt>しそ</rt><rp>)</rp></ruby>、<ruby><rb>紫蘇葉</rb><rp>(</rp><rt>しそよう</rt><rp>)</rp></ruby>とも言い、辛温解表薬で、性味が辛、温であり、肺、脾の経脈に入る。発表散寒、行気寛中と解毒の作用がある。湯剤の常用薬量は3~10gである。<br />
《医宗金鑑》には杏蘇飲がある。杏蘇散は蘇葉、杏心、桔梗、橘皮(橘紅)、甘草、前胡、枳殻、生姜もあり、本方と効能が似ているが異なる方剤である。また本方という杏蘇散は香蘇散と異なる方剤である。香蘇散は一般用と医療用の漢方方剤である。<br />
本方は’74年に厚生省が承認したものより、桔梗を1gから1~1.5gに、陳皮を1gから1~1.5gに、甘草を1gから1~1.5gに、麻黄を1gから1~1.5gに、、桑白皮を1gから1~1.5gに、阿膠を1gから1~1.5gに変えている。また阿膠の代わりに、ゼラチン、良質のニカワを用いても許可したことが消除されている。<br />
日本と中国の方剤を比べると主に、日本で使用されている杏蘇散は発汗(麻黄)、平喘(紫蘇、桑白皮)の効能が強く、補血止血(阿膠)と斂肺固気(五味子、烏梅)の効能があるが、中国で使用されている杏蘇散は化痰降逆(半夏、前胡、茯苓、枳殻)の効能が強い。<br />
外感涼燥型に属するインフルエンザ、慢性気管支炎、気管支喘息、気管支拡張症、肺気腫などの治療には本方を参考とすることができる。 <br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<span style="font-size: large;"><b>『衆方規矩解説(49)』</b></span><br />
日本東洋医学会会長 室賀 昭三<br />
<br />
<b><span style="font-size: large;">喘嗽門・咳嗽門</span></b><br />
<br />
■杏蘇散<br />
次は附方として、<ruby><rb>杏蘇散</rb><rp>(</rp><rt>キョウソサン</rt><rp>)</rp></ruby>が出ております。「上気痰喘咳嗽して、面目浮腫するを治す。蘇(<ruby><rb>紫蘇</rb><rp>(</rp><rt>シソ</rt><rp>)</rp></ruby>)、会(<ruby><rb>五味子</rb><rp>(</rp><rt>ゴミシ</rt><rp>)</rp></ruby>)、腹(<ruby><rb>大腹皮</rb><rp>(</rp><rt>ダイフクヒ</rt><rp>)</rp></ruby>)、梅(<ruby><rb>烏梅</rb><rp>(</rp><rt>ウバイ</rt><rp>)</rp></ruby>)、杏(<ruby><rb>杏仁</rb><rp>(</rp><rt>キョウニン</rt><rp>)</rp></ruby>)、陳(<ruby><rb>陳皮</rb><rp>(</rp><rt>チンピ</rt><rp>)</rp></ruby>)、桔(<ruby><rb>桔梗</rb><rp>(</rp><rt>キキョウ</rt><rp>)</rp></ruby>)、卑(<ruby><rb>麻黄</rb><rp>(</rp><rt>マオウ</rt><rp>)</rp></ruby>)、桑(<ruby><rb>桑白皮</rb><rp>(</rp><rt>ソウハクヒ</rt><rp>)</rp></ruby>)、膠(<ruby><rb>阿膠</rb><rp>(</rp><rt>アキョウ</rt><rp>)</rp></ruby>)、菀(<ruby><rb>紫菀</rb><rp>(</rp><rt>シオン</rt><rp>)</rp></ruby>)、甘(<ruby><rb>甘草</rb><rp>(</rp><rt>カンゾウ</rt><rp>)</rp></ruby>)。右姜(<ruby><rb>生姜</rb><rp>(</rp><rt>ショウキョウ</rt><rp>)</rp></ruby>)一銭を入れ煎じ服す」。<br />
「按ずるに痰なくして咳嗽するを治するの主方なり。楊仁斉が『直指方』に上気喘嗽面腫を治すといい、虞天民が『正伝』(医学正伝)に上気喘咳面目浮腫を治すという。二書ともに疾の字なく、方<br />
中に疾薬なし」と書いてありますが、桑白皮、紫苑、紫蘇、五味子、杏仁、桔梗、麻黄など呼吸疾<br />
患にかなり頻用される内容が多く入っていますので、この薬は使ってみても面白いのではないかと<br />
思いますが、現在は杏蘇散をお使いになっている先生はないようです。私の記憶では矢数道明先生が以前一回お使いになったのを見たような気がして調べてみましたが、先生の本には発表されておりませんでした。<br />
<br />
<br />
<span style="font-size: large;"><b>『漢方処方・方意集』</b></span> 仁池米敦著 たにぐち書店刊<br />
p.95<br />
<ruby><rb>杏蘇散</rb><rp>(</rp><rt>きょうそさん</rt><rp>)</rp></ruby> <ruby><rb>杏蘇飲</rb><rp>(</rp><rt>きょうそいん</rt><rp>)</rp></ruby>とも言う。<br />
<br />
[<b>薬局製剤</b>] 蘇葉3 五味子2 杏仁2 大腹皮2 烏梅2 紫苑1 桔梗1 桑白皮1 甘草1 陳皮1 麻黄1 阿膠1 阿膠を除く以上の切断又は粉砕した生薬をとり、1包として製し、これに阿膠鴎を添付する。<br />
<br />
«仁斉直指方»紫蘇葉3 五味子2 杏仁2 <ruby><rb>大腹皮</rb><rp>(</rp><rt>だいふくひ</rt><rp>)</rp></ruby>2 烏梅2 <ruby><rb>紫苑</rb><rp>(</rp><rt>しおん</rt><rp>)</rp></ruby>1 桔梗1 <ruby><rb>桑白皮</rb><rp>(</rp><rt>そうはくひ</rt><rp>)</rp></ruby>1 甘草1 陳皮1 麻黄1 阿膠1<br />
紫蘇葉と阿膠以外を煎じて、煎じ終わる数分前に紫蘇葉を加えて煎じ滓を去った後、煎液に阿膠を溶かして服用する。<br />
<br /> 【方意】 津液と気を補って湿邪と熱を除き、肺大腸と腎を調えて、気と水の行りを良くし上逆した気を降ろし、<ruby><rb>喘嗽</rb><rp>(</rp><rt>ぜんそう</rt><rp>)</rp></ruby>(喘ぎ咳をする症状)や浮腫などに用いる方。<br />
<br />
[原文訳]«仁斉直指方・喘嗽»<br />
○上氣して、<ruby><rb>喘嗽</rb><rp>(</rp><rt>ぜんそう</rt><rp>)</rp></ruby>して浮腫するを治す。<br />
<br />
<br />
«温病条弁»茯苓6 半夏5 杏仁5 大棗4 紫蘇葉3 <ruby><rb>前胡</rb><rp>(</rp><rt>ぜんこ</rt><rp>)</rp></ruby>3 桔梗3 枳殻3 橘皮3 乾生姜1 甘草1 紫蘇葉以外の薬を煎じる、煎じ終わる数分前に紫蘇葉を加え煎じて服用する。(中医処方)<br />
【方意】 津液と気を補って気滞と湿邪を除き、肺大腸と脾胃を調えて、気と水の行りを良くし発散し痰を去り上逆した学を降ろし、咳嗽や<ruby><rb>鼻塞</rb><rp>(</rp><rt>びそく</rt><rp>)</rp></ruby>などに用いる方。 【適応】燥より本臓が<ruby><rb>傷</rb><rp>(</rp><rt>やぶ</rt><rp>)</rp></ruby>られ頭が<ruby><rb>微</rb><rp>(</rp><rt>わず</rt><rp>)</rp></ruby>かに痛み<ruby><rb>悪感</rb><rp>(</rp><rt>おかん</rt><rp>)</rp></ruby>する者・<ruby><rb>咳嗽</rb><rp>(</rp><rt>がいそう</rt><rp>)</rp></ruby>し稀痰する者・<ruby><rb>鼻塞</rb><rp>(</rp><rt>びそく</rt><rp>)</rp></ruby>(鼻がつまる症状)し咽が<ruby><rb>塞</rb><rp>(</rp><rt>ふさ</rt><rp>)</rp></ruby>がる者・鼻ヅマリ・鼻の病・脈が弦で汗が無い者など。<br />
<br />
[原文訳]«温病条弁・上焦篇・補秋燥勝氣論»<br />
○燥により本臓が<ruby><rb>傷</rb><rp>(</rp><rt>やぶ</rt><rp>)</rp></ruby>られ、頭が<ruby><rb>微</rb><rp>(</rp><rt>わず</rt><rp>)</rp></ruby>かに痛み<ruby><rb>悪寒</rb><rp>(</rp><rt>おかん</rt><rp>)</rp></ruby>し、<ruby><rb>咳嗽</rb><rp>(</rp><rt>がいそう</rt><rp>)</rp></ruby>し稀痰し、<ruby><rb>鼻塞</rb><rp>(</rp><rt>びそく</rt><rp>)</rp></ruby>し<ruby><rb>咽</rb><rp>(</rp><rt>のど</rt><rp>)</rp></ruby>が<ruby><rb>塞</rb><rp>(</rp><rt>ふさ</rt><rp>)</rp></ruby>がり、脉が弦で汗が無ければ、杏蘇散が<ruby><rb>之</rb><rp>(</rp><rt>これ</rt><rp>)</rp></ruby>を主る。 <br />
<br />
<br />
<br /><br />
<span style="font-size: large;"><b>『一般用漢方製剤製造販売承認基準 』</b></span> <br />
厚生労働省医薬・生活衛生局 平成29年4月1日<br />
<br />
37 杏蘇散<br />
〔成分・分量〕蘇葉 3、五味子 2、大腹皮 2、烏梅 2、杏仁 2、陳皮 1-1.5、桔梗1-1.5、麻黄1-1.5、桑白皮1-1.5、阿膠1-1.5、甘草1-1.5、紫苑1 <br />〔用法・用量〕湯(原則として) <br />〔効能・効果〕体力中等度以下で、気分がすぐれず、汗がなく、ときに顔がむくむものの次の諸症: せき、たん、気管支炎<br />
<div style="font-family: monospace; font-size: 20px; left: 233.4px; top: 1057.01px; transform: scaleX(1.59143);">
<span class="highlight end selected">散</span> </div>
<br />
<br />
<br />Unknownnoreply@blogger.com0tag:blogger.com,1999:blog-6827912320235733185.post-79286224953881101642017-01-19T21:58:00.000+09:002017-03-22T05:32:47.085+09:00帰耆建中湯(きぎけんちゅうとう) の 効能・効果 と 副作用<span style="font-weight: bold;"><span style="font-weight: bold;"><span style="font-weight: bold;"><span style="font-size: large;">『<a href="http://kenko-hiro.blogspot.com/2008/10/92-p293-342.html">漢方診療の實際</a>』</span> 大塚敬節 矢数道明 清水藤太郎共著 南山堂刊</span></span></span> <br />
<a href="http://kenko-hiro.blogspot.jp/2012/04/blog-post_15.html"><span style="font-weight: bold;">小建中湯</span></a>(<a href="http://kenko-hiro.blogspot.jp/2012/04/blog-post_15.html">しょうけんちゅうとう</a>) <br />
一
般に本方は太陰病または脾虚の證に用いられる。即ち患者は身体虚弱で、疲労し易く、腹壁が薄く腹直筋は腹表に浮んで、拘攣している場合が多い。脈は弦の場
合もあり、芤の場合もある。症状としては、屡々腹痛・心悸亢進・盗汗・衂血・夢精・手足の煩熱・四肢の倦怠疼痛感・口内乾燥等を訴え、小便は頻数で量も多
い。ただし急性熱性病の経過中に此方を用うべき場合があり、その際には以上の腹證に拘泥せずに用いてよい。本方は桂枝・生姜・大棗・芍薬・甘草・膠飴の六
味から成り、<a href="http://kenko-hiro.blogspot.com/2010/11/blog-post_26.html">桂枝湯</a>の
芍薬を増量して、膠飴を加えたもので、一種の磁養強壮剤である。膠飴・大棗は磁養強壮の効があるだけでなく、甘草と伍して急迫症状を緩和し、更にこれに芍
薬を配する時は、筋の拘攣を治する効がある。また桂枝は甘草と伍して、気の上逆を下し、心悸亢進を鎮める。以上に更に生姜を配すると薬を胃に受入れ易くさ
せかつ吸収を促す効がある。<a href="http://kenko-hiro.blogspot.jp/2012/04/blog-post_15.html">小建中湯</a>は嘔吐のある場合及び急性炎症症状の激しい場合には用いてはならない。<a href="http://kenko-hiro.blogspot.jp/2012/04/blog-post_15.html">小建中湯</a>は応用範囲が広く、殊に小児に用いる場
合が多い。所謂虚弱児童・夜尿症・夜啼症・慢性腹膜炎の軽症、小児の風邪・麻疹・肺炎等の経過中に、急に腹痛を訴える場合等に用いられる。また慢性腹膜炎
の軽症、肺結核で経過の緩慢な場合、カリエス・関節炎・神経衰弱症等に応用する。時にフリクテン性結膜炎・乳児のヘルニア・動脈硬化症で眼底出血の徴ある
者に用いて効を得たことがある。 <br />
<br />
黄耆建中湯は<a href="http://kenko-hiro.blogspot.jp/2012/04/blog-post_15.html">此方</a>に黄耆を加えた方剤で,<a href="http://kenko-hiro.blogspot.jp/2012/04/blog-post_15.html">小建中湯</a>證に似て更に一段と虚弱の状が甚しい場合に用い、或は盗汗が止まず、或は 腹痛の甚しい場合、或は痔瘻・癰疽・慢性淋疾・慢性中耳炎・流注膿瘍・慢性潰瘍等に応用することがある。 <br />
当帰建中湯は、<a href="http://kenko-hiro.blogspot.jp/2012/04/blog-post_15.html">小建中湯</a>に当帰を加 えた方剤で、婦人の下腹痛・子宮出血・月経痛及び産後衰弱して下腹から腰背に引いて疼痛のある場合に用いられる。また男女を問わず、神経痛・腰痛・慢性腹 膜炎等にも応用する。当帰は増血・滋養・強壮・鎮痛の効がある。本方は<a href="http://kenko-hiro.blogspot.jp/2012/04/blog-post_15.html">小建中湯</a>の膠飴を去って、当帰を加えたものであるが、衰弱の甚しい場合には、膠飴を 加えて用いる。 <br />
黄耆建中湯と当帰建中湯とを合して帰耆建中湯と名づけて、運用することがある。 <br />
<br />
<br />
<br />
<span style="font-weight: bold;"><span style="font-weight: bold;"><span style="font-weight: bold;"><span style="font-size: large;">『<a href="http://kenko-hiro.blogspot.com/2007/05/blog-post.html">漢方薬の実際知識</a>』</span> 東丈夫・村上光太郎著 東洋経済新報社 刊 </span></span></span><br />
<br />
6 建中湯類(けんちゅうとうるい) <br />
<div>
建中湯類は、桂枝湯からの変方として考えることもできるが、桂枝湯は、おもに表虚を、建中湯類は、おもに裏虚にをつかさどるので項を改めた。 </div>
<div>
建中湯類は、体全体が虚しているが、特に中焦(腹部)が虚し、疲労を訴えるものである。腹直筋の拘攣や蠕動亢進などを認めるが、腹部をおさえると底力のないものに用いられる。また、虚弱体質者の体質改善薬としても繁用される。 </div>
<div>
<br />
各薬方の説明 </div>
4 帰耆建中湯(きぎけんちゅうとう) (本朝経験) <br />
<div>
〔<a href="http://kenko-hiro.blogspot.jp/2012/04/blog-post_15.html">小建中湯</a>に黄耆二、当帰三を加えたもの〕 </div>
<div>
本方は、<a href="http://kenko-hiro.blogspot.jp/2014/05/blog-post_21.html">黄耆建中湯</a>と<a href="http://kenko-hiro.blogspot.jp/2014/05/blog-post_23.html">当帰建中湯</a>を合方したもので、気・血・表・裏すべてが虚したものに用いられる。したがって、腫物が自潰し、いつまでもサラサラした膿が多量に出て治らないものを目標とする。 </div>
<div>
(1)十全大補湯(じゅうぜんだいほとう)(前出、駆瘀血剤の項参照)は、本方に地黄(じおう)、人参(にんじん)、朮(じゅつ)を加えた形である。<br />
<br /></div>
<span style="font-size: large;">『<b>臨床応用 漢方處方解説</b>』</span> 矢数道明著 創元社刊 <br />
p.285 <br />
<a href="http://kenko-hiro.blogspot.jp/2012/04/blog-post_15.html">小建中湯</a>(しょうけんちゅうとう) 〔傷寒・金匱〕 <br />
桂枝・生姜(乾生姜は一・〇)・大棗 各四・〇 芍薬六・〇 甘草二・〇 <br />
膠飴二〇・〇 <br />
五味を法のごとく煎じ、滓を去って膠飴を加え、再び火にのせて五分間煮沸して溶かし、三回に分けて温服する。 <br />
(中略) <br />
<br />
p.287 <br />
〔加減方〕<br />
<ruby><rb>帰耆建中湯</rb><rp>(</rp><rt>きぎけんちゅうとう</rt><rp>)</rp></ruby>。黄耆建中湯と当帰建中湯とを合わせたもので、表裏と気血とともに虚したものに用いる。十全大補湯はこの方に地黄と人参と白朮とを加えたものである。<br />
<br />
<br />
p.287<br />
十味敗毒湯((じゅうみはいどくとう) 〔華岡青洲〕<br />
(中略)<br />
〔目標〕小柴胡湯の適応する体質傾向を有し、神経質で、胸脇苦満があり、化膿効を繰り返すフルンクロージス、アレルギー性の湿疹、蕁麻疹などを起こしやすい体質者が目標である。<br />
癰・癤の場合は初期で、発液腫痛があり、発病後数日以内に用いるのがよい。軽いものは四~五日で消退し治癒する。それ以後は托裏消毒飲、または千金内托散、さらに遷延したものは帰耆建中湯や十全大補湯などを用いるようになる。<br />
<br />
<br />
<span style="font-size: large;"><b>『漢方 新一般用方剤と医療用方剤の精解及び日中同名方剤の相違』</b></span><br />
愛新覚羅 啓天 愛新覚羅 恒章 <br />
文苑刊<br />
<br />
33 <ruby><rb>帰耆建中湯</rb><rp>(</rp><rt>きぎけんちゅうとう</rt><rp>)</rp></ruby><br />
《普済本事方》<br />
<br />
[成分]:膠飴20(30)g、桂皮3~4(桂枝9)g、芍薬5~6g(18)g、生姜1~1.5(9)g、大棗3~4g(4個)g、甘草2~3(炙甘草6)g、当帰3~4(9)、黄耆2~4(9)g<br />
<br />
[服用]:湯剤とする。1日1剤で、1日量を3回に分服する。 <br />
[効能]:温補気血、緩急止痛<br />
<br />
[主治]:虚労裏急、気虚血虚<br />
<br />
[症状]:裏急腹痛、喜按喜暖、食欲不振、煩躁、不安、心悸、自汗、時々発熱、疲れやすい、下痢しやすい、立ち眩み、寝浅い、顔や唇の蒼白色、など。舌色が淡、舌苔が薄白、脈が沈細。<br />
<br />
<br />
[説明]:<br />
本方は温補気血と緩急止痛の効能を持っており、虚労裏急と気虚血虚の病気を治療することができる。<br />
本方は小建中湯に補血薬の当帰と補気薬の黄耆を加えた変方である。<br />
本方に含まれている小建中湯(膠飴、桂枝、芍薬、生姜、大棗、炙甘草)は温中補虚として和裏緩急し、当帰は補血し、黄耆は補気する。桂皮は用いられれば温中袪寒する。<br />
本方は生薬を水煎する時に、阿膠は他の生薬の後で入れて溶かす。<br />
本方は小建中湯より、補血補気(当帰、黄耆)の効能が強い。そこで本方は小建中湯で治療できる病気の上に、気虚と血虚の重い場合に適用する。小建中湯は一般用と医療用の漢方方剤である。<br />
本方は膠飴がなくても、生姜1~1.5gをヒネショウガ2~4gに変えても厚生労働省に許可されている。<br />
本方は'74年に厚生省が承認したものより、桂枝4gを桂皮3~4gに、甘草を2gから2~3gに、生姜を4gから1,:1.5gに、大棗を4gから3~4gに、当帰を4gから3~4gに変えている。また、生姜1~1.5gをヒネショウガ2~4gに変えても許可することが増やされている。<br />
日本と中国の方剤を比べると、中国で使用されている帰耆建中湯は生薬の薬量が多いので効能が強い。<br />
臨床応用は陳英:帰蓍建中湯治療崩漏227例療效観察、甘粛中医学院学報 1993 10(1)。<br />
呉鳳海:帰蓍建中湯合三草三根湯治療乙型肝炎20例、中華実用中西医雑誌 1992 5 (12)。郭恒岳:帰蓍建中湯治療潰瘍性大腸炎有效2例、国際中医中薬雑誌 2005 28(2)。儲浩然、等:加味帰蓍建中湯対慢性低血圧、四川中医 1991 10(11)。藤本誠、他:帰耆建中湯が有効であった潰瘍性大腸炎の2例、日本東洋医学雑誌 2004 55(5)。引網宏彰、他:Diabetic Foot(糖尿病性足病変)に対する帰耆建中湯加味方の使用経験、日本東洋医学雑誌 2004 55(6)。引網宏彰、他:帰耆建中湯加附子が奏効した糖尿病性壊疽の2症例、日本東洋医学会雑誌 2000 50(6)。林克美、他:帰耆建中湯加味方が有効であった関節リウマチの2例、日本東洋医学会雑誌 54(別冊)。長坂和彦、他:帰耆建中湯加附子による難治性皮膚潰瘍19症例の検討、和漢医薬学雑誌 2001 18(別冊)。小川昇子、他:帰耆建中湯加烏頭が有效であった術後腰部脊柱管狭窄症の1例、日本東洋医学雑誌 2009 60(2)。<br />
<br />
虚労裏急と気虚血虚の型に属する病後の衰弱、手術後の衰弱、神経衰弱症、胃潰瘍、十二指腸潰瘍、虚血性腸炎、無形成性貧血、慢性肝炎、糖尿病性足病変などの治療には本方を参考とすることができる。<br />
<br />
<span style="font-size: large;"><b>『薬局製剤 漢方212方の使い方』<span style="font-size: small;"> 第4版</span></b></span><br />
埴岡 博・滝野 行亮 共著<br />
薬業時報社 刊<br />
<br />
<br />
<span style="font-size: large;"><b><u>K31 帰耆建中湯(かんぞうしゃしんとう)</u></b></span> <br />
<br />
<b>出典</b><br />
外科の名医,華岡青洲の残した瘍科方筌に載った処方である。<br />
古方の当帰建中湯と黄耆建中湯との合方であり、桂皮加芍薬湯加当帰黄耆ともいえる。青洲が好んで用いたといわれれている。<br />
<br />
<b>構成</b><br />
太陰病の代表的治剤である桂枝加芍薬湯は内虚の殻満,腹痛を治する方剤である。本方はそれに血虚を補う当帰と,表虚を救う黄耆を加えたものとみられる。<br />
当帰はニコチン酸,葉酸などのビタミンB群やリグスチライドなどを含む。精油成分のブチリデンフタライド,リグスチジンは自律神経やホルモンの調節役をする一種のトランキライザー様の作用があると報告されている。<br />
黄耆は肌表部の水毒(皮水、浮腫、盗汗など)を去る利尿作用の他に,γアミノブチル酸を主体とする血圧降下作用も報告されている。<br />
<br />
<b>目標</b><br />
青洲は『虚病後,虚脱,盗汗出ずる者を治す』といっているが,金匱要略の黄耆建中湯には『虚労裏急(腹直筋の拘攣),諸の不足(気力・体力など)』とあり、同じく当帰建中湯には『婦人産後,虚るい不足,腹中刺痛止まず,呼吸として少気(浅い呼吸)あるいは少腹拘急を苦しみ,痛み腰背に引き,飲食すること能わざるを治す。産後1ヵ月,日に4~5剤を得て善となす。人をして強壮ならしむに宜し』とあるので,この二方の合方である本方の目標としても参考となる。<br />
即ち,病後や産後などで気力体力が消耗して,皮膚に色艶乏しくて締りがなく,手足がほてったり少し体を動かすと動悸がしたり息切れしたりして,汗が出てくるといった人で,腹力なく腹筋は薄くて表面につっ張っていることなどが目標となる。<br />
体力の回復剤として用いられるが,青洲は痔漏やカリエス,慢性中耳炎,癰,癤など慢性潰瘍や化膿性腫物などで,炎症が少なく稀薄な分泌物が長く続くものに多用している。<br />
また,耳げれは体質なもので,本方や小建中湯の合うタイプが多いようである。<br />
<br />
<b>応用</b><br />
(1) 小建中湯証で更に虚状のもの。<br />
(2) 盗汗。<br />
(3) 慢性中耳炎,痔瘻。<br />
(4) 癰。<br />
(5) 寒性膿瘍,下腿潰瘍。<br />
(6) るいれき,カリエス。<br />
<br />
<b>留意点</b><br />
◎金匱要略の産後篇に載っている当帰建中湯には膠飴(アメ)が入っていない。当帰建中湯加黄耆と見た場合,膠飴が入っていなくてもいいわけだが、黄耆建中湯加当帰と考えれば膠飴が必要である。<br />
◎痔瘻などに反鼻を加えたり,伯洲散を兼用したりする応用例もある。<br />
◎黄耆は日本産でなく,紅耆とか晋耆とかの中国産がよい。ただし値は10倍ほどする。<br />
◎当帰は大和当帰を用いる。中国産は別種である。韓国産は日本の大和当帰の種を使っているので,北海当帰といわれる日本在来種と大和種との交配種より良い場合がある。使用してよい。<br />
<br />
<b>文献</b><br />
1.大塚敬節ら・漢方診療医典(昭44) p.386<br />
2.華岡青洲・瘍科方筌<br />
3.細野史郎・方証吟味(昭53) p.226,604<br />
<br />
<b>K31</b><br />
<b>帰耆建中湯</b><br />
〔<b>成分・分量</b>〕<br />
当帰 4.0<br />
桂皮 4.0<br />
生姜(干) 4.0<br />
大棗 4.0<br />
芍薬 5.0<br />
甘草 2.0<br />
黄耆 2.0 <br />
以上7味 22.0<br />
カット。500→250煎<br />
<br />
〔<b>効能・効果</b>〕<br />
身体虚弱で,疲労しやすいものの次の諸証:<br />
虚弱体質,病後の衰弱,ねあせ<br />
<br />
〔<b>ひとこと</b>〕<br />
●体が弱って盗汗するもの。症状によっては反鼻を加味する。<br />
●甘草は炙る。<br />
<br />
<br />
<span style="font-size: large;"><b>『漢方処方・方意集』</b></span> 仁池米敦著 たにぐち書店刊<br />
p.80 <ruby><rb>帰耆建中湯</rb><rp>(</rp><rt>きぎけんちゅうとう</rt><rp>)</rp></ruby> 小建中湯に当帰・黄耆を加えたもの。<br />
<br />
[<b>薬局製剤</b>] 芍薬5 当帰4 桂皮4 大棗4 黄耆2 甘草2 生姜1 以上の切断又は粉砕した生薬をとり、1包として製する。<br />
<br />
<br />
«瘡科方筌»芍薬5 当帰4 桂枝4 大棗4 黄耆2 甘草2 乾生姜1 虚が<ruby><rb>甚</rb><rp>(</rp><rt>はなは</rt><rp>)</rp></ruby>しい場合は諸薬を煎じて濾した後に、<ruby><rb>膠飴</rb><rp>(</rp><rt>こうい</rt><rp>)</rp></ruby>20g(加減する)を加え溶かして服用する。<br />
※ 瘡科方筌:瘍科方筌の誤植? <br />
<br />
【方意】 血と気を補い、脾胃と肝胆を調えて、血と気の行りを良くし上逆した気を降ろし表を固め、<ruby><rb>瘡瘍</rb><rp>(</rp><rt>そうよう</rt><rp>)</rp></ruby>や<ruby><rb>自汗</rb><rp>(</rp><rt>じかん</rt><rp>)</rp></ruby>などに用いる方。<br />
気を温め補って湿邪と寒熱を除き、脾胃と心小腸を調えて、気と水の行りを良くし上逆した気を降ろし表を固め、<ruby><rb>瘡瘍</rb><rp>(</rp><rt>そうよう</rt><rp>)</rp></ruby>や<ruby><rb>自汗</rb><rp>(</rp><rt>じかん</rt><rp>)</rp></ruby>などに用いる方。<br />
<br />
【適応】<ruby><rb>癰疽</rb><rp>(</rp><rt>ようそ</rt><rp>)</rp></ruby>(化膿性の大きなできものなどが出来る病)などが<ruby><rb>潰</rb><rp>(</rp><rt>つぶ</rt><rp>)</rp></ruby>れた後に口が塞がらない者・<ruby><rb>瘡癰</rb><rp>(</rp><rt>そうよう</rt><rp>)</rp></ruby>(皮膚疾患の総称)・膿が多く出て<ruby><rb>自汗</rb><rp>(</rp><rt>じかん</rt><rp>)</rp></ruby>(しきりに汗が出る症状)し<ruby><rb>盗汗</rb><rp>(</rp><rt>とうかん</rt><rp>)</rp></ruby>(眠ると汗が出る症状)する者・<ruby><rb>虚労</rb><rp>(</rp><rt>きょろう</rt><rp>)</rp></ruby>(虚して疲労する病)して<ruby><rb>自汗</rb><rp>(</rp><rt>じかん</rt><rp>)</rp></ruby>し<ruby><rb>盗汗</rb><rp>(</rp><rt>とうかん</rt><rp>)</rp></ruby>する者・疲労・小児の虚弱体質の改善・諸病の後に虚脱して盗汗が出る者・貧血・不妊・月経の異常など。<br />
<br />
[原文訳]«瘡科方筌»<br />
○<ruby><rb>癰疽</rb><rp>(</rp><rt>ようそ</rt><rp>)</rp></ruby>が<ruby><rb>潰</rb><rp>(</rp><rt>つぶ</rt><rp>)</rp></ruby>れた後に、膿が多く出て、自汗し<ruby><rb>盗汗</rb><rp>(</rp><rt>とうかん</rt><rp>)</rp></ruby>して<ruby><rb>止</rb><rp>(</rp><rt>や</rt><rp>)</rp></ruby>まざりて、日々に虚状を<ruby><rb>爲</rb><rp>(</rp><rt>な</rt><rp>)</rp></ruby>す者を治す。<br />
<br />
«勿誤薬室方函»<br />
○補病の後に、虚脱して、<ruby><rb>盗汗</rb><rp>(</rp><rt>とうかん</rt><rp>)</rp></ruby>が出るものを治す。<br />
<br />
«勿誤薬室方函口訣»<br />
○此の方は、青洲の創意にて<ruby><rb>瘡瘍</rb><rp>(</rp><rt>そうよう</rt><rp>)</rp></ruby>に用ゆれども、虚労の<ruby><rb>盗汗</rb><rp>(</rp><rt>とうかん</rt><rp>)</rp></ruby>・自汗症に用いて宜し。<外臺>の黄耆湯・前胡建中湯・樂令建中湯の類は<ruby><rb>總</rb><rp>(</rp><rt>すべ</rt><rp>)</rp></ruby>て此の方に<ruby><rb>胚胎</rb><rp>(</rp><rt>はいたい</rt><rp>)</rp></ruby>する<ruby><rb>也</rb><rp>(</rp><rt>なり</rt><rp>)</rp></ruby>。<br />
<br />
㊥<ruby><rb>胚胎</rb><rp>(</rp><rt>はいたい</rt><rp>)</rp></ruby>=はじまりのこと。<br />
<br />
<br />
<span style="font-size: large;">『改訂 一般用漢方処方の手引き』</span> <br />
監修 財団法人 日本公定書協会<br />
編集 日本漢方生薬製剤協会 <br />
<br />
<span style="font-size: large;">帰耆建中湯</span><br />
(きぎけんちゅうとう) <br />
<br />
<b>成分・分量</b><br />
当帰3~4,桂皮3~4,生姜1~1.5(ヒネショウガを使用する場合2~4),大棗3~4,芍薬5~6,甘草2~3,黄耆2~4,膠飴20(膠飴はなくても可)<br />
<br />
<b>用法・用量</b><br />
湯<br />
<br />
<b>効能・効果</b><br />
体力虚弱で,疲労しやすいものの次の諸症:虚弱体質,病後,術後の衰弱,ねあせ,湿疹・皮膚炎,化膿性皮膚疾患<br />
<br />
<b>原典</b> 普済方事方<br />
<br />
<b>出典</b> 瘍科方筌<br />
<br />
<b>解説</b><br />
(1)本朝経験方の一つ華岡青洲家の方である。<br />
(2)大虚のときには膠飴を用いる。<br />
(3)黄耆建中湯よりもいっそう体力が低下したため気血のおとろえがさらに強いものに用いる。<br />
<br />
<br />
<style>
table {
border-collapse: collapse;
}
th {
border: solid 1px #666666;
color: #000000;
background-color: #FFFFFF;
}
td {
border: solid 1px #666666;
color: #000000;
background-color: #ffffff;
}
thead th {
background-color: #FFFFFF;
}
</style>
<br />
<table>
<thead>
<tr>
<th></th>
<th>生薬名
</th>
<th>当帰
</th>
<th>桂枝
</th>
<th>生姜
</th>
<th>大棗
</th>
<th>芍薬
</th>
<th>甘草
</th>
<th>黄耆
</th>
<th>膠飴
</th>
</tr>
</thead>
<tbody>
<tr>
<th>参考文献
</th>
<td></td>
<td></td>
<td></td>
<td></td>
<td></td>
<td></td>
<td></td>
<td></td>
<td></td>
</tr>
<tr>
<th>処方分量集
</th>
<td></td>
<td>4
</td>
<td>4
</td>
<td>4
</td>
<td>4
</td>
<td>5
</td>
<td>2
</td>
<td>2
</td>
<td>-
</td>
</tr>
<tr>
<th>診療医典
</th>
<td></td>
<td>4
</td>
<td>4
</td>
<td>4
</td>
<td>4
</td>
<td>5
</td>
<td>2
</td>
<td>2
</td>
<td>-
</td>
</tr>
<tr>
<th>応用の実際
</th>
<td>注1
</td>
<td>4
</td>
<td>4
</td>
<td>4
</td>
<td>4
</td>
<td>5
</td>
<td>2
</td>
<td>2
</td>
<td>-
</td>
</tr>
<tr>
<th>漢方あれこれ
</th>
<td>注2
</td>
<td>4
</td>
<td>3
</td>
<td>2
</td>
<td>3
</td>
<td>6
</td>
<td>3
</td>
<td>2
</td>
<td>-
</td>
</tr>
<tr>
<th>厚生省内規 黄耆建中湯
</th>
<td></td>
<td>-
</td>
<td>3~4
</td>
<td>3~4
</td>
<td>3~4
</td>
<td>6
</td>
<td>2~3
</td>
<td>3~4
</td>
<td>20
</td>
</tr>
<tr>
<th>民間薬百科
</th>
<td></td>
<td>4
</td>
<td>4
</td>
<td>4
</td>
<td>4
</td>
<td>5
</td>
<td>2
</td>
<td>2
</td>
<td>-
</td>
</tr>
<tr>
<th>治療百科
</th>
<td></td>
<td>3
</td>
<td>4
</td>
<td>1
</td>
<td>3
</td>
<td>5
</td>
<td>2.5
</td>
<td>3
</td>
<td>20
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
注1 虚弱児,大病後の衰弱,痔瘻および諸種の痔疾患,慢性中耳炎,カリエス,慢性潰瘍その他化膿性腫物などに用いられる。黄耆建中湯に準じて用いる。<br />
<br />
注2 小建中湯に黄耆を加えたものが黄耆建中湯であるから,これに当帰を加えたものだとも云える。そこで,本方は黄耆建中湯よりさらに虚証のもの用いる。<br />
<br />
<br />
<span style="font-size: large;"><b>『勿誤薬室方函口訣解説(18)』</b></span> 日本東洋医学会評議員 藤井 美樹<br />
帰荊湯 蓍帰建中湯 帰脾湯 桔梗湯(傷寒論) 桔梗湯(外台) 桔梗解毒湯<br />
<br />
蓍帰建中湯<br />
<br />
次に、<ruby><rb>蓍帰建中湯</rb><rp>(</rp><rt>ぎきけんちゅうとう</rt><rp>)</rp></ruby>に移ります。これは出典は華岡青洲の工夫による処方でありまして、いわゆる本朝経験方であります。「諸病のあと虚脱、盗汗出ずる者を治す。即ち、<ruby><rb>当帰建中湯</rb><rp>(</rp><rt>トウキケンチュウトウ</rt><rp>)</rp></ruby>方中に<ruby><rb>黄蓍</rb><rp>(</rp><rt>オウギ</rt><rp>)</rp></ruby>を加え、或は証に随って<ruby><rb>反鼻</rb><rp>(</rp><rt>ハンピ</rt><rp>)</rp></ruby>を加う。此の方は青洲の創意にて瘡瘍に用うれども、虚労の盗汗、自汗症に用いて宜し。『外台』の<ruby><rb>黄蓍湯</rb><rp>(</rp><rt>オウギトウ</rt><rp>)</rp></ruby>、<ruby><rb>前胡建中湯</rb><rp>(</rp><rt>ゼンコケンチュウトウ</rt><rp>)</rp></ruby>、<ruby><rb>楽令建中湯</rb><rp>(</rp><rt>ラクレイケンチュウトウ</rt><rp>)</rp></ruby>の類は総て此の方に胚胎する也」。<br />
これは処方の内容からゆきますと、<ruby><rb>小建中湯</rb><rp>(</rp><rt>ショウケンチュウトウ</rt><rp>)</rp></ruby>という処方がありますが、小建中湯の<ruby><rb>膠飴</rb><rp>(</rp><rt>コウイ</rt><rp>)</rp></ruby>の代わりに、黄蓍と当帰を加えたものであります。処方内容は黄耆、当帰、<ruby><rb>桂枝</rb><rp>(</rp><rt>ケイシ</rt><rp>)</rp></ruby>、<ruby><rb>生姜</rb><rp>(</rp><rt>ショウキョウ</rt><rp>)</rp></ruby>、<ruby><rb>大棗</rb><rp>(</rp><rt>タイソウ</rt><rp>)</rp></ruby>、<ruby><rb>芍薬</rb><rp>(</rp><rt>シャクヤク</rt><rp>)</rp></ruby>、<ruby><rb>甘草</rb><rp>(</rp><rt>カンゾウ</rt><rp>)</rp></ruby>という構成になっております。<br />
青洲というのは、全身麻酔で初めて乳癌の手術を行なった有名な華岡青洲でありまして、彼の工夫であります。<br />
<br />
<br />
<span style="font-size: large;"><b>『一般用漢方製剤の添付文書等に記載する使用上の注意』 </b></span><br />
<br />
<b>【添付文書等に記載すべき事項】</b><br />
<br />
<span style="border: medium solid;"> してはいけないこと </span><br />
(守らないと現在の症状が悪化したり、副作用が起こりやすくなる)<br />
<br />
<b> 次の人は服用しないこと</b><br />
生後3ヵ月未満の乳児。<br />
〔生後3ヵ月未満の用法がある製剤に記載すること。〕<br />
<br />
<span style="border: medium solid;"> 相談すること </span><br />
<b>1.次の人は服用前に医師、薬剤師又は登録販売者に相談すること</b><br />
(1)医師の治療を受けている人。<br />
(2)妊婦又は妊娠していると思われる人。<br />
(3)胃腸の弱い人。<br />
<br />
(4)高齢者。<br />
〔1日最大配合量が甘草として1g以上(エキス剤については原生薬に換算して1g以上)<br />
含有する製剤に記載すること。〕<br />
(5)今までに薬などにより発疹・発赤、かゆみ等を起こしたことがある人。<br />
(6)次の症状のある人。<br />
むくみ<br />
〔1日最大配合量が甘草として1g以上(エキス剤については原生薬に換算して1g以上)含有する製剤に記載すること。〕<br />
(7)次の診断を受けた人。<br />
高血圧、心臓病、腎臓病<br />
〔1日最大配合量が甘草として1g以上(エキス剤については原生薬に換算して1g以上)含有する製剤に記載すること。 〕<br />
<br />
<br />
<b>2.服用後、次の症状があらわれた場合は副作用の可能性があるので、直ちに服用を中止し、この文書を持って医師、薬剤師又は登録販売者に相談すること</b><br />
<br />
<table border="1" cellpadding="1" cellspacing="1" style="width: 358px;">
<tbody>
<tr>
<td valign="top" width="101">関係部位</td>
<td valign="top" width="252">症状</td></tr>
<tr>
<td valign="top" width="101">皮膚</td>
<td valign="top" width="252">発疹・発赤、かゆみ</td></tr>
</tbody></table>
<br />
<br />
まれに下記の重篤な症状が起こることがある。その場合は直ちに医師の診療を受けること。<br />
<br />
<table border="1" cellpadding="1" cellspacing="1" style="width: 568px;">
<tbody>
<tr>
<td valign="top" width="148">症状の名称</td>
<td valign="top" width="415">症状</td></tr>
<tr>
<td valign="top" width="148">偽アルドステロン症、<br />
ミオパチー</td>
<td valign="top" width="415">手足のだるさ、しびれ、つっぱり感やこわばりに加えて、脱力感、筋肉痛があらわれ、徐々に強くなる。</td></tr>
</tbody></table>
〔1日最大配合量が甘草として1g以上(エキス剤については原生薬に換算して1g以上)<br />
含有する製剤に記載すること。〕<br />
<br />
<b>3.1ヵ月位服用しても症状がよくならない場合は服用を中止し、この文書を持って医師、薬剤師又は登録販売者に相談すること</b><br />
<br />
<b><b>4.長期連用する場合には、医師、薬剤師又は登録販売者に相談すること</b></b><br />
〔1日最大配合量が甘草として1g以上(エキス剤については原生薬に換算して1g以上)含有する製剤に記載すること。〕<br />
<br />
〔用法及び用量に関連する注意として、用法及び用量の項目に続けて以下を記載すること。〕<br />
<br />
(1)小児に服用させる場合には、保護者の指導監督のもとに服用させること。<br />
〔小児の用法及び用量がある場合に記載すること。〕<br />
<br />
(2)〔小児の用法がある場合、剤形により、次に該当する場合には、そのいずれかを記載す<br />
ること。〕<br />
<br />
1)3歳以上の幼児に服用させる場合には、薬剤がのどにつかえることのないよう、よく<br />
注意すること。<br />
〔5歳未満の幼児の用法がある錠剤・丸剤の場合に記載すること。〕<br />
<br />
2)幼児に服用させる場合には、薬剤がのどにつかえることのないよう、よく注意すること。<br />
〔3歳未満の用法及び用量を有する丸剤の場合に記載すること。〕<br />
<br />
3)1歳未満の乳児には、医師の診療を受けさせることを優先し、やむを得ない場合にのみ<br />
服用させること。<br />
〔カプセル剤及び錠剤・丸剤以外の製剤の場合に記載すること。なお、生後3ヵ月未満の用法がある製剤の場合、「生後3ヵ月未満の乳児」を<span style="border: medium solid;"> してはいけないこと </span>に記載し、用法及び用量欄には記載しないこと。〕<br />
<br />
<br />
保管及び取扱い上の注意<br />
(1)直射日光の当たらない(湿気の少ない)涼しい所に(密栓して)保管すること。<br />
〔( )内は必要とする場合に記載すること。〕<br />
(2)小児の手の届かない所に保管すること。<br />
(3)他の容器に入れ替えないこと。(誤用の原因になったり品質が変わる。)<br />
〔容器等の個々に至適表示がなされていて、誤用のおそれのない場合には記載しなくてもよい。〕<br />
<br />
<br />
【外部の容器又は外部の被包に記載すべき事項】<br />
注意<br />
1.次の人は服用しないこと<br />
生後3ヵ月未満の乳児。<br />
〔生後3ヵ月未満の用法がある製剤に記載すること。〕<br />
2.次の人は服用前に医師、薬剤師又は登録販売者に相談すること<br />
(1)医師の治療を受けている人。<br />
(2)妊婦又は妊娠していると思われる人。<br />
(3)胃腸の弱い人。<br />
(4)高齢者。<br />
〔1日最大配合量が甘草として1g以上(エキス剤については原生薬に換算して1g以上)含有する製剤に記載すること。〕<br />
(5)今までに薬などにより発疹・発赤、かゆみ等を起こしたことがある人。<br />
(6)次の症状のある人。<br />
むくみ<br />
〔1日最大配合量が甘草として1g以上(エキス剤については原生薬に換算して1g以上)含有する製剤に記載すること。〕<br />
(7)次の診断を受けた人。<br />
高血圧、心臓病、腎臓病<br />
〔1日最大配合量が甘草として1g以上(エキス剤については原生薬に換算して1g以上)含有する製剤に記載すること。〕<br />
2´.服用が適さない場合があるので、服用前に医師、薬剤師又は登録販売者に相談すること<br />
〔2.の項目の記載に際し、十分な記載スペースがない場合には2´.を記載すること。〕<br />
3.服用に際しては、説明文書をよく読むこと<br />
4.直射日光の当たらない(湿気の少ない)涼しい所に(密栓して)保管すること<br />
〔( )内は必要とする場合に記載すること。〕<br />
<br />
Unknownnoreply@blogger.com0tag:blogger.com,1999:blog-6827912320235733185.post-45822203353265719132016-06-25T21:45:00.000+09:002017-01-26T07:00:59.090+09:00甘草瀉心湯(かんぞうしゃしんとう) の 効能・効果 と 副作用<span style="font-size: large;">『<a href="http://kenko-hiro.blogspot.com/2008/10/92-p293-342.html">漢方診療の實際</a>』</span> 大塚敬節 矢数道明 清水藤太郎共著 南山堂刊<br />
<a href="http://kenko-hiro.blogspot.jp/2011/12/blog-post.html"><span style="font-weight: bold;">半夏瀉心湯</span></a>(<a href="http://kenko-hiro.blogspot.jp/2011/12/blog-post.html">はんげしゃしんとう</a>)<br />
半夏五・ 黄芩 乾姜 人参 甘草 大棗各二・五 黄連一・<br />
本方の目標は心下部痞塞感・悪心・嘔吐・食欲不振等で、他覚的には心下部に抵抗を増し、屡々胃内停水・腹中雷鳴・下痢を伴い、舌には白苔を生ずる。<br />
半夏は胃内停水を去り、嘔吐を止め、黄連・黄芩と共に胃腸の炎症を去る。黄連・黄芩は苦味剤で、消炎健胃の効があり、人参と乾姜は胃腸の血行をよくして機能の回復を促す。甘草・大棗は諸薬を調和してその協同作用を強化するものである。<br />
本方と<a href="http://kenko-hiro.blogspot.com/2014/05/blog-post_13.html">黄連湯</a>とは類似しているがその相違は、<a href="http://kenko-hiro.blogspot.com/2014/05/blog-post_13.html">黄連湯</a>では腹痛が目標の一つになっている。また腹部に圧痛がある。本方では腹痛及び腹部圧痛を伴うこともある が、<a href="http://kenko-hiro.blogspot.com/2014/05/blog-post_13.html">黄連湯</a>の恒常的なるに似ず、また程度も軽い。舌苔は<a href="http://kenko-hiro.blogspot.com/2014/05/blog-post_13.html">黄連湯</a>に著明であり、本方では欠くことが多い。本方の応用は胃カタル・腸カタルである。<br />
加減方としては生姜瀉心湯と甘草瀉心湯とがある。<br />
【生姜瀉心湯】(しょうきょうしゃしんとう)<br />
<a href="http://kenko-hiro.blogspot.jp/2011/12/blog-post.html">半夏瀉心湯</a>から乾姜一・を減じ生姜二・を加える。<br />
本方は半夏瀉心湯の處方中、乾姜の量を減じて生姜を加えたものである。応用目標は半夏瀉心湯の證で、噫気・食臭を発し、腹中雷鳴・下痢は胃腸内で発酵が盛 んな為であってこれは生姜の治する所である。応用は胃腸カタル・発酵性下痢・過酸症・胃拡張等である。<br />
【甘草瀉心湯】(かんぞうしゃしんとう)<br />
<a href="http://kenko-hiro.blogspot.jp/2011/12/blog-post.html">半夏瀉心湯</a>に甘草一・を加える。<br />
本方は半夏瀉心湯の處方中、甘草の量を増したものであって、半夏瀉心湯の證で腹中が雷鳴して不消化下痢を起し、或は下痢せずに心煩して気分不穏を覚える者を治する。甘草を増量したのは、甘草は急迫症状を緩和する効があって心煩・気分不穏を除くからである。<br />
本方の応用としては胃腸カタル、産後の口内糜爛を伴う下痢、神経衰弱・不眠症等である。<br />
<br />
<span style="font-size: large;">『<b>臨床応用 漢方處方解説</b>』</span> 矢数道明著 創元社刊<br />
p.506 <br />
119 <a href="http://kenko-hiro.blogspot.jp/2011/12/blog-post.html">半夏瀉心湯</a>(<a href="http://kenko-hiro.blogspot.jp/2011/12/blog-post.html">はんげしゃしんとう</a>)〔傷寒・金匱〕<br />
半夏五・〇 黄芩・乾姜・人参・甘草・大棗各二・〇 黄連一・〇<br />
<br />
水六〇〇ccをもって煮て四〇〇ccとし、滓を去り、再び火にかけて煎じつめて二五〇ccとし、三回に分けて温服する。一般には再煎を省略しているが、再煎するとのみやすくなる。<br />
<br />
〔応用〕 少陽の病位に属するものである。すなわち熱の邪と心下に痞えて、痞硬をきたし、上下に動揺を起こし、嘔吐・腹中雷鳴・下痢などを発するものに用いる。<br />
本方は主として胃腸疾患として、急性、慢性胃炎・腸炎・胃酸過多症・胃拡張症・胃下垂症・胃潰瘍・十二指腸潰瘍・口内炎・吃逆・便秘・下痢・神経哀弱・経閉・癲癇・舞踏病等にも応用される。<br />
<br />
〔目標〕 心下部の痞塞感が第一で、悪心・嘔吐・食欲不振を訴え、他覚的には心下部に抵抗を認め、しばしば胃内停水・腹中雷鳴・下痢などをともない、舌白苔を生ずることが多い。<br />
<br />
〔方解〕 本方中の黄連と黄芩は、心下の実熱をさますものである。黄芩は心下から上と、表に作用し、血熱や血煩を治し、黄連は心下から下方に作用し、煩躁症状を治すとされている。また両者は協力して心下の気の痞えを治し、上下に波及する動揺症状を治するものである。半夏・乾姜はよく気をめぐらし、胃の停水をさばき、心下の水が気の上衝につれて動いて嘔吐を起こすものを治す。人参・甘草・大棗は諸薬を調和する。右の諸薬が協力して心下の熱邪と水邪を去り、心下の痞硬を除き、升降の気を順通するものである。<br />
<br />
〔加減〕 生姜瀉心湯。<a href="http://kenko-hiro.blogspot.jp/2011/12/blog-post.html">半夏瀉心湯</a>の方中、乾姜の量を減じて生姜を加えたものである。応用目標は、<a href="http://kenko-hiro.blogspot.jp/2011/12/blog-post.html">半夏瀉心湯</a>の証で、噯気・食臭を発し、腹中雷鳴・下痢するものである。<br />
噯気・食臭および腹中雷鳴・下痢は胃腸内で醗酵が盛んなためであって、生姜のつかさどるところである。<br />
胃腸カタル・醗酵性下痢・過酸症・胃拡張等に応用される。<br />
甘草瀉心湯。<a href="http://kenko-hiro.blogspot.jp/2011/12/blog-post.html">半夏瀉心湯</a>方中、甘草の量を増したものであって、<a href="http://kenko-hiro.blogspot.jp/2011/12/blog-post.html">半夏瀉心湯</a>の証で、腹中雷鳴して、不消化下痢を起こし、あるいは下痢はないが、心煩して気分すぐれず、不安を覚えるものを治すのである。甘草は急迫症状を緩和するもので、心煩、気分不安を治すのである。<br />
胃腸炎・口内炎・産後口中糜爛・下痢・神経哀弱・不眠症・ノイローゼ・夢遊病に応用される。<br />
<br />
〔主治〕<br />
傷寒論(太陽病下篇)に、「傷寒五六日、嘔シテ発熱スル者ハ、柴胡ノ証具ハル。<ruby><rb>而</rb><rp>(</rp><rt>シカ</rt><rp>)</rp></ruby>ルニ他薬ヲ以テ之ヲ下シ、柴胡ノ証<ruby><rb>仍</rb><rp>(</rp><rt>ナ</rt><rp>)</rp></ruby>ホ在ル者ニハ、<ruby><rb>復</rb><rp>(</rp><rt>マタ</rt><rp>)</rp></ruby>柴胡湯ヲ与フ。此レ已ニ之ヲ下スト雖モ、逆トナサズ、必ズ蒸々トシテ振ヒ、<ruby><rb>卻</rb><rp>(</rp><rt>カエツ</rt><rp>)</rp></ruby>テ発熱汗出デテ解ス。若シ心下満シテ硬痛スル者ハ、此レヲ結胸ト為スナリ。大陥胸湯之ヲ主ル。但満シテ痛マザル者ハ、此レヲ痞ト為ス。柴胡之ヲ与フルニ中ラズ、<a href="http://kenko-hiro.blogspot.jp/2011/12/blog-post.html">半夏瀉心湯</a>ニ宜シ」とあり、<br />
金匱要略(嘔吐病門)に、「嘔シテ腸鳴リ、心下痞スル者ハ、<a href="http://kenko-hiro.blogspot.jp/2011/12/blog-post.html">半夏瀉心湯</a>之ヲ主ル」とある。<br />
勿誤方函口訣には、「此方ハ飲邪併結シテ心下痞硬スル者ヲ目的トス。故ニ支飲或ハ<ruby><rb>澼飲</rb><rp>(</rp><rt>ヘキイン</rt><rp>)</rp></ruby>ノ痞硬ニハ効ナシ。飲邪併結ヨリ来ル嘔吐ニモ、噦逆ニモ、下利ニモ皆運用シテ特効アリ。千金翼ニ附子ヲ加フルモノハ、即チ附子瀉心湯ノ意ニテ、飲邪ヲ温散サセル老手段ナリ。又虚労或ハ脾労心下痞シテ下利スル者、此方ニ生姜ヲ加エテヨシ、即チ生姜瀉心湯ナリ」とある。<br />
<br />
〔鑑別〕<br />
○生姜瀉心湯119(<ruby><rb>心下痞塞</rb><rp>(</rp><rt>○○○○</rt><rp>)</rp></ruby>・水気の動揺強く、留飲、噯気あり)<br />
○甘草瀉心湯119(<ruby><rb>心下痞塞</rb><rp>(</rp><rt>○○○○</rt><rp>)</rp></ruby>・気の動揺強く、心煩、神経症状強し)<br />
○三黄瀉心湯48(<ruby><rb>心下痞</rb><rp>(</rp><rt>○○○</rt><rp>)</rp></ruby>・水気なく、のぼせて便秘)<br />
○茯苓飲124(<ruby><rb>心下痞</rb><rp>(</rp><rt>○○○</rt><rp>)</rp></ruby>・胃内停水強く、拍水音著明で虚証)<br />
<br />
〔治例〕<br />
(一) 神経哀弱症<br />
この患者は心臓神経症で、心下痞を訴え、不安感が強く、体格は偉大であるが、気持は至って小さく、貧血気味で疲れやすく、足冷え、不眠症で種々の治療を経て効がなかつた。腹部は比較的軟弱で、心下部に少しく停滞の感があり、胃内停水が認められる。私は初め六君子湯・茯苓飲・半夏厚朴湯・柴胡加竜牡湯などを与えたが、これらをのむとかえって心下に痞えて気持が悪いといって薬を返すのであった。最後に<a href="http://kenko-hiro.blogspot.jp/2011/12/blog-post.html">半夏瀉心湯</a>を与えたところ、初めて心下のつかえが去り、不安感もなくなり、食欲もすすみ、睡眠も可良となって治癒した。<br />
<a href="http://kenko-hiro.blogspot.jp/2011/12/blog-post.html">半夏瀉心湯</a>および他の加減方は、心下痞硬のものもあるが、それほど硬くなく、心下痞満、心下痞のものが相当に多い。<br />
(著者治験、漢方百話)<br />
<br />
(二)胃拡張症兼幽門狭窄<br />
四四歳の男子。生来健康で酒を好み、暴飲暴食を続けていた。胃を悪くしたので禁酒したが、今度の大の甘党になってしまった。<br />
昨年暮れより心下部不快となり、むねやけを訴え、夕方になると嘔吐するようになった。臭いゲップがしきりに出る。内科医の診断では胃拡張症、幽門狭窄症といわれたという。<br />
体格は中等度であるが痩せ衰えて、顔色は蒼ざめて煤けたようである。脈は普通であるが、舌には白苔があり、口中常に不快で、嘔吐の後には口渇を訴える。<br />
診療中に数回臭気ある噯気を繰り返している。腹証は心下部に、臍の近くまで、ちょうど団扇(うちわ)を横たえた形と大きさに、堅く張りつめている。按すと石のように硬い。幽門部と思われるところは、とくに抵抗がある。胃の蠕動膨隆が微かに見られる。ときどき腹鳴がある。大便一日一回、小便は変わらない。<br />
本患者に対して割は<a href="http://kenko-hiro.blogspot.jp/2011/12/blog-post.html">半夏瀉心湯</a>加茯苓を与えたところ、服薬一〇日にして主訴の大半が解消し、一ヵ月後には軽作業に従事するようになった。本証は生姜瀉心湯の証であろうが、<a href="http://kenko-hiro.blogspot.jp/2011/12/blog-post.html">半夏瀉心湯</a>加茯苓がよく奏効した。<br />
(著者治験、漢方と漢薬 三巻一号)<br />
<br />
(三) 一〇年間つづいた下痢<br />
二七歳の婦人。約一〇年前から下痢が続いている。一日二~三行で、腹痛をともない、月経時に増悪する。朝復がさめ罪改人必ず腹が痛み、ガスがたまる。いくら下痢しても口渇がなく、尿量な少ない。下痢が続いても患者の顔色はよく、栄養も中等度、腹部にも弾力がある。<br />
参苓白朮散・真武湯・胃風湯などを与えたが効果がなく、かえって悪い。そこで甘草瀉心湯にしたところ、これがすばらしくよく効いて、下痢はすっかり止まり、みぞおちが気持よくすいて、食がすすむようになった。<br />
甘草瀉心湯は、心下痞硬・腹中雷鳴・下痢を目標に用いる方剤で、しばしば悪心・嘔吐をともない、下痢するときは多くは口渇をともなうものである。この患者には腹中雷鳴もなく、口渇もなかったが、甘草瀉心湯がよく効いた。<br />
(大塚敬節氏、漢方診療三十年)<br />
<br />
(四) 夢遊病と憑依症(つきもの)<br />
近江の国大津の人が来て、秘かに先生に語っていう。私に十六歳の一人娘があって既に婚約をしているが、この娘には奇病がある。毎夜家の者が寝静まると、秘かに起き出でて踊り出すのである。その舞踊のさまは、まことに絶妙閑雅で、恰も名妓の舞いに似ている。私はかくれてこれを盗み見ているが、舞いはいつも同じではなく、曲を変午r踊っている。時間が来ると止めて床に就くのであるが、明朝は常の如く起きて普通の人と変りがない。本人にきいてみても少しも記憶がない。狐狸のわざかと祈禱などもしたが治らない。婚家に知れたら恐らく破談になるであろうと心配で先生の治療を頼みに来たという。<br />
先生きいてこの証は即ち<ruby><rb>狐惑病</rb><rp>(</rp><rt>こわくびょう</rt><rp>)</rp></ruby>(精神病の一種、この場合は夢遊病)である。診察の後、甘草瀉心湯を与えたところ、数日にしてこの奇病は治し、無事結婚し子を生んだ。<br />
また、一婦人が櫃の中に猫のいるのを知らずに蓋をし、二三日後にこれを開いたところ、猫は飢えて怒りの表情物凄く、婦人をにらんで飛び去った。婦人はあまりのことに驚いて、それ以来奇妙な病気となってしまった。それは起居動作から鳴き声まで猫とそっくりになった(これは<ruby><rb>憑依症</rb><rp>(</rp><rt>ひょういしょう</rt><rp>)</rp></ruby>である)。先生の友人清水某は、先生の話をきいていたので、これに甘草瀉心湯を与えたところ、この病も治ったという。<br />
(中神琴溪翁、生々堂治験)<br />
<br />
<br />
<span style="font-weight: bold;"><span style="font-weight: bold;"><span style="font-weight: bold;"><span style="font-size: large;">『<a href="http://kenko-hiro.blogspot.com/2007/05/blog-post.html">漢方薬の実際知識</a>』</span> 東丈夫・村上光太郎著 東洋経済新報社 刊</span></span></span><br />
10 瀉心湯類(しゃしんとうるい) <br />
<div>
瀉心湯類は、黄連(おうれん)、黄芩(おうごん)を主薬とし、心下痞硬(前出、腹診の項参照)および心下痞硬によって起こる各種の疾患を目標に用いられる。</div>
6 <a href="http://kenko-hiro.blogspot.jp/2011/12/blog-post.html">半夏瀉心湯</a>(<a href="http://kenko-hiro.blogspot.jp/2011/12/blog-post.html">はんげしゃしんとう</a>) (傷寒論、金匱要略) <br />
<div>
〔半夏(はんげ)五、黄芩(おうごん)、乾姜(かんきょう)、人参(にんじん)、甘草(かんぞう)、大棗(たいそう)各二・五、黄連(おうれん)一〕 </div>
<div>
本
方は、少陽病で瘀熱(おねつ、身体に不愉快な熱気を覚える)と瘀水が心下に痞え、その動揺によって嘔吐、腹中雷鳴、下痢などを程するものに
用いられる。したがって、悪心、嘔吐、心下部の痞え(自覚症状)、食欲不振、胃内停水、腹中雷鳴、上腹痛、軟便、下痢(裏急後重)、精神不安、神経過敏な
どを目標とする。 </div>
<div>
本方の心下痞をつかさどる黄連のかわりに胸脇苦満をつかさどる柴胡に、冷えをつかさどる乾姜のかわりに生姜に変えたものが<a href="http://kenko-hiro.blogspot.com/2011/04/blog-post.html">小柴胡湯</a>(前出、柴胡剤の項参照)である。 </div>
<div>
〔応用〕 </div>
<div>
つぎに示したような疾患に、<a href="http://kenko-hiro.blogspot.jp/2011/12/blog-post.html">半夏瀉心湯</a>證を呈するものが多い。 </div>
<div>
一 胃カタル、腸カタル、胃アトニー症、胃下垂症、胃潰瘍、十二指腸潰瘍その他の胃腸系疾患。 </div>
<div>
一 月経閉止、悪阻その他の婦人科系疾患。 </div>
<div>
一 そのほか、不眠症、神経症、口内炎、食道狭窄、宿酔)など。 </div>
<br />
<br />
7 生姜瀉心湯(しょうきょうしゃしんとう) (傷寒論) <br />
<div>
〔<a href="http://kenko-hiro.blogspot.jp/2011/12/blog-post.html">半夏瀉心湯</a>の乾姜の量を一に減じ、生姜二を加えたもの〕 </div>
<div>
本方は、<a href="http://kenko-hiro.blogspot.jp/2011/12/blog-post.html">半夏瀉心湯</a>證に似るが、より水毒が強く、おくび、食臭を発し、腹中雷鳴、下痢するものに用いられる。したがって、心下痞、心下の緊張、噫気(あいき、おくび)、下痢、嘔吐などを目標とする。本方證の下痢は軽症で、むしろ、おくび、嘔吐感の強い場合に用いられる。 </div>
<br />
8 甘草瀉心湯(かんぞうしゃしんとう) (傷寒論、金匱要略) <br />
<div>
〔<a href="http://kenko-hiro.blogspot.jp/2011/12/blog-post.html">半夏瀉心湯</a>に甘草一を増加したもの〕 </div>
<div>
本方は、<a href="http://kenko-hiro.blogspot.jp/2011/12/blog-post.html">半夏瀉心湯</a>にくらべて、補力作用と鎮静作用がいちじるしく増しており、<a href="http://kenko-hiro.blogspot.jp/2011/12/blog-post.html">半夏瀉心湯</a>證で、腹中雷鳴、不消化性下痢、心煩して精神不安を 覚えるもの、喀血して興奮するものに使われる。したがって、心下痞、精神不安、安臥することができない。乾嘔、腹鳴、食欲不振、下痢などを目標とする。 </div>
<div>
〔応用〕 </div>
<div>
<a href="http://kenko-hiro.blogspot.jp/2011/12/blog-post.html">半夏瀉心湯</a>のところで示したような疾患に、甘草瀉心湯證を呈するものが多い。 </div>
<div>
その他 </div>
<div>
一 神経衰弱、ヒステリー、精神病、不眠症その他の精神、神経系疾患。<br />
<br />
<br />
<span style="font-size: large;"><b>『漢方 新一般用方剤と医療用方剤の精解及び日中同名方剤の相違』</b></span><br />
愛新覚羅 啓天 愛新覚羅 恒章 <br />
文苑刊<br />
p.35<br />
30 <ruby><rb>甘草瀉心湯</rb><rp>(</rp><rt>かんぞうしゃしんとう</rt><rp>)</rp></ruby><br />
《傷寒論》[成分]:半夏5(12)g、乾姜2.5(9)g、黄芩2.5(9)g、黄連1(3)g、人参2.5(9)g、甘草2.5~3.5(炙甘草12)g、大棗2.5g(4個)<br />
<br />
[用法]:湯剤とする。1日1剤で、1日量を3回に分服する。 <br />
<br />
[効能]:補中降逆、消痞止痢<br />
<br />
[主治]:胃虚嘔逆、中阻下痢<br />
<br />
[症状]:上腹部の痞満、上腹部を押して痛まない、乾嘔、心煩、不安、腹脹、腸鳴、下痢など。舌苔が黄膩、脈が弦数。<br />
<br />
[説明]:<br />
本方は補中降逆と消痞止痢の効能を持っており、胃虚嘔逆と中阻下痢の病気を治療することができる。<br />
本方は《傷寒論》では太陽病の兼変証の痞証を治す方剤であり、人参がない。<ruby><rb>痞証</rb><rp>(</rp><rt>にしょう</rt><rp>)</rp></ruby>とは気の運行異常によって、胸部または腹部の痞えが主な症状となる病気である。<br />
本方は《金匱要略》では百合狐惑陰陽毒病を治す方剤であり、人参がある。<ruby><rb>百合狐惑陰陽毒病</rb><rp>(</rp><rt>いんようこわくいんようどくびょう</rt><rp>)</rp></ruby>とは百合病、狐惑病、陰陽毒という三つの病気を指す。<ruby><rb>合百病</rb><rp>(</rp><rt>びゃくごうびょう</rt><rp>)</rp></ruby>とは心肺陰虚によって起こる病気の一つであり、症状は黙然し、頭がぼーっとする、何をやりたいのにやられない、口が苦い、尿が濃く少ない、脈が微数、などに現れる。<ruby><rb>狐惑病</rb><rp>(</rp><rt>こわくびよう</rt><rp>)</rp></ruby>とは湿熱毒邪によって起こる病気の一つであり、症状は目赤、咽喉部や前陰後陰の潰瘍、落ち着かないなどに現れる。咽喉部の潰瘍を蜮か惑と言い、前陰と後陰の潰瘍を狐と言う。<ruby><rb>陰陽毒</rb><rp>(</rp><rt>いんようどく</rt><rp>)</rp></ruby>とは疫毒感染によって起こる急性熱病の一つであり、症状は紫斑か赤い斑点、咽頭痛、身痛、発熱などに現れる。陰毒と陽毒に分かれる。<br />
本方は<a href="http://kenko-hiro.blogspot.jp/2011/12/blog-post.html">半夏瀉心湯</a>に補気薬の炙甘草の薬量を三両(9g)から四両(12g)に増やした変方である。<br />
本方に含まれている<a href="http://kenko-hiro.blogspot.jp/2011/12/blog-post.html">半夏瀉心湯</a>(半夏、乾姜、黄芩、黄連、人参、炙甘草、大棗)は和胃降逆して開結除痞し、増量の炙甘草は補中緩急の効能を強める。<br />
本方は<a href="http://kenko-hiro.blogspot.jp/2011/12/blog-post.html">半夏瀉心湯</a>より、補中緩急の効能(炙甘草の増量)が強い。本方は胃気の虚弱による胃気中阻と胃気上逆に病気に適用する。<a href="http://kenko-hiro.blogspot.jp/2011/12/blog-post.html">半夏瀉心湯</a>は一般用と医療用の漢方方剤である。<br />
本方は’74年に厚生省が承認したものより、半夏を4~5gから5gに、乾姜を2~2.5gから2.5gに、黄芩を2.5~3gから2.5gに、甘草を3~4.5gから2.5~3.5gに変えている。また生姜の不可が消除されている。<br />
日本と中国の同名方剤を比べると、中国体r使用されている甘草瀉心湯は生薬の薬量が多いので効能が強い。<br />
臨床応用と実験研究は文紅梅:甘草瀉心湯治療慢性胃炎42例、中医薬導報 2001 8(2)。<br />
畢明義:重剤甘草瀉心湯治療急性胃腸炎60例、山東中医誌 1986 5(3)。腸麗、等:甘草瀉心湯治療胃腸神経官能症、浙江中医雑誌 2006 51(4)。 周南:甘草瀉心湯治療胃虚便秘、北京中医 1984 3(1)。 元山幹雄:甘草瀉心湯が奏効した睡眠時遊行症(夢遊病)の一症例、日本東洋医学雑誌 1996 46(5)。 鈴木雅典、他:酵素阻害活性による漢方処方の検討(第5報) Adenosine3',5'-Cyclic monophosphate Phosphodiesteraseによる<a href="http://kenko-hiro.blogspot.jp/2011/12/blog-post.html">半夏瀉心湯</a>,甘草瀉心湯,生姜瀉心湯の研究、医学雑誌 1991 111(11)。<br />
胃虚嘔逆と中阻下痢の型に属する口内炎、胃炎、胃潰瘍、十二指腸潰瘍、慢性大腸炎などの治療には本方を参考とすることができる。 </div>
<div>
<br />
<br />
<span style="font-size: large;"><b>『薬局製剤 漢方212方の使い方』<span style="font-size: small;"> 第4版</span></b></span><br />
埴岡 博・滝野 行亮 共著<br />
薬業時報社 刊<br />
<br />
<br />
<span style="font-size: large;"><b><u>K27 <ruby><rb>甘草瀉心湯</rb><rp>(</rp><rt>かんぞうしゃしんとう</rt><rp>)</rp></ruby></u></b></span> <br />
<br />
<b>出典</b><br />
傷寒論の太陽病下篇と金匱要略の百合狐惑陰陽毒病脉證篇に出る。<br />
『急性熱性病の緩症で,下法を使うべきでなかったのに下したため,1日に数十回も下痢し,食物が消化せず,腹中がごろごろと鳴り心下部がつかえて押すと硬くて張る。むかむかと嘔き気がし心煩して不安である。医師はこの心下痞をみて,これは病が残っているのだといって,またも下剤をかけたところその痞えはますます甚だしくなった。これは結熱ではなくただ胃中が虚して客気が上逆するため心下を硬くしているだけである。甘草瀉心湯を使うべきだ。』(太陽病中)<br />
『狐惑の病というのは,傷寒のような病形をしている。眠いのだけれど目が閉じられず,寝ても起きてもじっとしていられない不安がつきまとう。咽喉に潰瘍ができたときは惑で陰部に潰瘍ができたとかは狐である。飲食を欲しがらず,食べものの匂いをきらい,顔色が赤くなったと思えばすぐ幸くなったり,白くなったりする。上部に潰瘍があるときは声がかれる。この場合は甘草瀉心湯を使うべきだ。』(金匱要略)<br />
<br />
<b>構成</b><br />
半夏瀉心湯の甘草2.5gを3.5gに増量した処方である。<br />
傷寒論の同方には人参が入っていない。これは脱漏したのであろうという説と,本来傷寒論の甘草瀉心湯と金匱要略の甘草瀉心湯とは別の処方であって同じものとして論議してはいけないとの説がある。</div>
<div>
</div>
<div>
<b>目標</b></div>
<div>
半夏瀉心湯の目標は心下痞硬,悪心,嘔吐,食欲不振体,腹中雷鳴して下痢するものにも用いるが,この腹中雷鳴の不消化症状がひどくなり,精神不安が加わって来ると甘草瀉心湯を用いなければならない。この段階は,胃腸全体が腹鳴,心下痞硬といった限局されない場合は半夏瀉心湯で,より急性になり嘔吐も下痢もあって,とくに症状が胃の方にかたよっている場合は生姜瀉心湯を,腸の方に症状が強いときには甘草瀉心湯を用いる。<br />
下痢は半夏瀉心湯の場合は軽症で,軟便に近く,本方の場合は水様下痢である。人参湯の下痢も下痢便でまちがい易いが,甘草瀉心湯は下痢すると一時気分がよくなるが,人参湯の場合はかえって疲労感が増す。甘草瀉心湯で下痢がかえってひどくなる場合があるがこの場合は人参湯がよく,その反対に人参湯で治らない場合,甘草瀉心湯がよい場合もある。<br />
金匱要略では狐惑病の治法として甘草瀉心湯をあげているが,不眠,幻想,幻覚,多夢,夢遊,強迫観念などの精神科領域の症状に使う。この場合も心下痞硬,腹鳴,下痢などの症状を伴うことが多い。<br />
また,口内に潰瘍ができるのが惑であるという条文を利用して,口内炎,舌炎,嗄声などにも応用するが,この場合も胃腸症状,精神症状を問い,それがあれば適中することが多い。最近の中国からの報文ではベーチェット症候群が狐惑病に相当すると成て研究が進められているようである。 </div>
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<div>
<br />
<b>応用</b><br />
(1) 胃炎,腸炎,胃腸炎,消化不良,食傷,神経性下痢,腹鳴,心下痞硬するもの,あるいは嘔吐,腹痛を伴うことがある。<br />
(2) 胃アトニー,胃拡張,胃下垂,食欲不振等で胃部が重苦しくつかえ,食欲減退,あるいは不安不眠等の神経症状があり,あるいは腹鳴,げっぷ,軟便等があるもの。<br />
(3) 神経衰弱,ノイローゼ,精神分裂症等で精神不安,いらいら,不眠,錯覚,幻想,幻覚,気鬱,気分が変り易い等があり,あるいは心下痞硬,腹鳴下痢があるもの。<br />
(4) 吐血,喀血で興奮はしているが瀉心湯ほどのぼせや顔面紅潮のないもの。<br />
(5) 声が嗄れるもので精神不安,興奮,不眠,心下痞硬等があるもの。<br />
(6) 小舞踏病,夢遊病に用いた例がある。<br />
<br />
<br />
<b>留意点</b><br />
◎甘草には偽アルデステロン症発症や,電解質異常が副作用として報ぜられているが,炙甘草湯にすることによって防げるようである。とくにことわりがない限りは甘草はすべてフライパンで炒ったものを使うとよい。<br />
◎甘草瀉心湯の不眠は多夢による不眠,浅眠で全く眠れないのではないことに留意。<br />
◎ビールを飲んで下痢を訴える患者は殆ど本方証である。口内炎に用いると動はVB2を併用するとよい。(西岡一夫・明解漢方処方) <br />
<br />
<br />
<b>文献</b><br />
1.龍野一雄・新撰類聚方(昭34) p.171<br />
<br />
2.細野史郎・漢方治療の方証吟味 (昭53) P.83<br />
3.大塚敬節・漢方診療30年 (昭34) p.180, 224<br />
<br />
4.大塚敬節ら・金匱要略講数 (昭54) p.84 </div>
<br />
<b>K27</b><br />
<b>甘草瀉心湯</b><br />
〔<b>成分・分量</b>〕<br />
半夏 5.0<br />
乾姜 2.5<br />
<br />
人参 2.5<br />
大棗 2.5<br />
黄芩 2.5<br />
甘草 3.5<br />
黄連 1.0 <br />
以上7味 19.5<br />
カット。500→250煎<br />
<br />
〔<b>効能・効果</b>〕<br />
みぞおちがつかえた感じのある次の諸症:胃・腸炎,口内炎,口臭,不眠症,神経症<br />
<br />
<br />
〔<b>ひとこと</b>〕<br />
●おなかがゴロゴロというのが本方の下痢で,雷鳴がない下痢は人参湯や四逆湯である。<br />
●半芩連参,姜甘棗の甘草倍量。●乾姜は乾生姜を使いたい。<br />
●甘草は炙る。<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<span style="font-size: large;"><b>『漢方処方・方意集』</b></span> 仁池米敦著 たにぐち書店刊<br />
p.74 乾姜人参半夏丸(かんぞうしゃしんとう)<br />
[<b>薬局製剤</b>] 半夏5 甘草3.5 乾姜2.5 人参2.5 大棗2.5 黄芩2.5 黄連1 以上の切断又は粉砕した生薬をとり、1包として製する。<br />
<br />
«傷寒論»半夏5 甘草3.5 乾姜2.5 人参2.5 大棗2.5 黄芩2.5 黄連1 <br />
<br />
【方意】 気を温め補って湿邪と寒熱を除き、脾胃と心小腸を調えて、気と水の行りを良くし上逆した気を降ろし精神を安定し、下痢や腹中の雷鳴などに用いる方。<br />
<br />
【適応】傷寒し中風し下した後に下痢が止まらない者・下痢を一日数十回し穀が消化しない者・胃中の不和による下痢・腹中が雷鳴し心下が痞硬(痞えて硬い症状)し満する者・産後の<ruby><rb>口糜瀉</rb><rp>(</rp><rt>こうびしゃ</rt><rp>)</rp></ruby>(口内炎を伴う下痢)・胃潰瘍・胃腸の病・乾嘔(カラエズキ)し<ruby><rb>心煩</rb><rp>(</rp><rt>しんぱん</rt><rp>)</rp></ruby>(煩わしくいじ胸に熱感がある症状)し<ruby><rb>安</rb><rp>(</rp><rt>やすら</rt><rp>)</rp></ruby>かでない者・不眠など。<br />
<br />
[原文訳]«傷寒論・弁太陽病脈証併治下»<br />
○傷寒し中風し、醫がえって<ruby><rb>之</rb><rp>(</rp><rt>これ</rt><rp>)</rp></ruby>を下して後に、<ruby><rb>其</rb><rp>(</rp><rt>その</rt><rp>)</rp></ruby>人が下利し、日に數十行し、穀が化せず、腹中が雷鳴し、心下が<ruby><rb>痞鞕</rb><rp>(</rp><rt>ひこう</rt><rp>)</rp></ruby>して滿し、乾嘔し、<ruby><rb>心煩</rb><rp>(</rp><rt>しんぱん</rt><rp>)</rp></ruby>し、<ruby><rb>安</rb><rp>(</rp><rt>やすら</rt><rp>)</rp></ruby>かを得ざる。醫は心下痞を見て、病むこと盡ならざと謂う。<ruby><rb>復</rb><rp>(</rp><rt>また</rt><rp>)</rp></ruby><ruby><rb>之</rb><rp>(</rp><rt>これ/rt><rp>)</rp></rt></ruby>を下す。<ruby><rb>其</rb><rp>(</rp><rt>その</rt><rp>)</rp></ruby>痞は<ruby><rb>益々</rb><rp>(</rp><rt>ますます</rt><rp>)</rp></ruby>甚だし。<ruby><rb>此</rb><rp>(</rp><rt>これ</rt><rp>)</rp></ruby>は結熱に非ず。但だ胃中が虚して客氣が上逆するを<ruby><rb>以</rb><rp>(</rp><rt>も</rt><rp>)</rp></ruby>つが故に鞕から<ruby><rb>使</rb><rp>(</rp><rt>し</rt><rp>)</rp></ruby>む<ruby><rb>也</rb><rp>(</rp><rt>なり</rt><rp>)</rp></ruby>。甘草瀉心湯が<ruby><rb>之</rb><rp>(</rp><rt>これ</rt><rp>)</rp></ruby>を主る。<br />
<br />
«勿誤薬室方函口訣»<br />
○此の方は、胃中が不和なる下利を主とする。故に、穀が化せざりて雷鳴し下利するが目的なり。若し、穀が化せざりて雷鳴がなく下利する者ならば、理中・四逆の<ruby><rb>之</rb><rp>(</rp><rt>ゆ</rt><rp>)</rp></ruby>く處なり。<外臺>の水穀不化に作りて<ruby><rb>清穀</rb><rp>(</rp><rt>せいこく</rt><rp>)</rp></ruby>と文を異にす。従うべし。又、産後の<ruby><rb>口糜瀉</rb><rp>(</rp><rt>こうびしゃ</rt><rp>)</rp></ruby>に用いて奇効あり。<ruby><rb>此</rb><rp>(</rp><rt>これ</rt><rp>)</rp></ruby>等の<ruby><rb>芩連</rb><rp>(</rp><rt>ごんれん</rt><rp>)</rp></ruby>は、反って健胃の効ありと云うべし。<br />
<br />
<br />
<span style="font-size: large;"><b>『金匱要略講話』</b></span> 大塚敬節主講 財団法人 日本漢方医学研究所編 創元社刊<br />
p.83 <br />
<br />
狐惑之爲病。狀如傷寒。默默欲眠。目不得閉。臥起不安。蝕於喉爲惑。蝕於陰爲狐。不欲飮食。惡聞食臭。其面目乍赤乍黑乍白。蝕於上部則聲喝。<span style="font-size: x-small;">一作嗄</span> 甘草瀉心湯主之。<br />
甘草瀉心湯方<br />
甘草<span style="font-size: xx-small;">四兩</span> 黃芩 人參 乾薑<span style="font-size: xx-small;">各三兩</span> 黃連<span style="font-size: xx-small;">一兩</span> 大棗<span style="font-size: xx-small;">十二枚</span> 半夏<span style="font-size: xx-small;">半升</span><br />
右七味。水一斗。煮取六升。去滓再煎。溫服一升。日三服。<span style="font-size: xx-small;">○傷寒論。再煎下。有取三升三字。</span><br />
<br />
<b>〔訓〕</b><br />
<br />
<ruby><rb>狐惑</rb><rp>(</rp><rt>こわく</rt><rp>)</rp></ruby>の<ruby><rb>病</rb><rp>(</rp><rt>やまい</rt><rp>)</rp></ruby>たる、<ruby><rb>状</rb><rp>(</rp><rt>かたち</rt><rp>)</rp></ruby>傷寒の如く、<ruby><rb>黙々</rb><rp>(</rp><rt>もくもく</rt><rp>)</rp></ruby>として<ruby><rb>眠</rb><rp>(</rp><rt>ねむ</rt><rp>)</rp></ruby>らんと欲し、目<ruby><rb>閉</rb><rp>(</rp><rt>と</rt><rp>)</rp></ruby>ずるを得ず、<ruby><rb>臥起</rb><rp>(</rp><rt>がき</rt><rp>)</rp></ruby><ruby><rb>安</rb><rp>(</rp><rt>やす</rt><rp>)</rp></ruby>からず。<ruby><rb>喉</rb><rp>(</rp><rt>こう</rt><rp>)</rp></ruby>を<ruby><rb>蝕</rb><rp>(</rp><rt>しょく</rt><rp>)</rp></ruby>するを<ruby><rb>惑</rb><rp>(</rp><rt>わく</rt><rp>)</rp></ruby>と<ruby><rb>為</rb><rp>(</rp><rt>な</rt><rp>)</rp></ruby>し、<ruby><rb>陰</rb><rp>(</rp><rt>いん</rt><rp>)</rp></ruby>を<ruby><rb>蝕</rb><rp>(</rp><rt>しょく</rt><rp>)</rp></ruby>するを<ruby><rb>狐</rb><rp>(</rp><rt>こ</rt><rp>)</rp></ruby>と<ruby><rb>為</rb><rp>(</rp><rt>な</rt><rp>)</rp></ruby>す。飲食を欲せず、食臭を<ruby><rb>聞</rb><rp>(</rp><rt>き</rt><rp>)</rp></ruby>くを<ruby><rb>悪</rb></ruby><br />
<rp>)</rp>にく<rp>)</rp>み、その面目<ruby><rb>乍</rb><rp>(</rp><rt>たちま</rt><rp>)</rp></ruby>ち赤く、<ruby><rb>乍</rb><rp>(</rp><rt>たちま</rt><rp>)</rp></ruby>ち黒く、<ruby><rb>乍</rb><rp>(</rp><rt>たちま</rt><rp>)</rp></ruby>ち白し。上部を<ruby><rb>蝕</rb><rp>(</rp><rt>しょく</rt><rp>)</rp></ruby>すれば<ruby><rb>則</rb><rp>(</rp><rt>すなわ</rt><rp>)</rp></ruby>ち<ruby><rb>声</rb><rp>(</rp><rt>こえ</rt><rp>)</rp></ruby><ruby><rb>喝</rb><rp>(</rp><rt>かっ</rt><rp>)</rp></ruby>す(一に<ruby><rb>嗄</rb><rp>(</rp><rt>か</rt></ruby><rp>(</rp><rt>に作る)。<ruby><rb>甘草瀉心湯</rb><rp>(</rp><rt>かんぞうしゃしんとう</rt><rp>)</rp></ruby><ruby><rb>之</rb><rp>(</rp><rt>これ</rt><rp>)</rp></ruby>を<ruby><rb>主</rb><rp>(</rp><rt>つかさど</rt><rp>)</rp></ruby>る。</rt> <ruby><rb>甘草瀉心湯</rb><rp>(</rp><rt>かんぞうしゃしんとう</rt><rp>)</rp></ruby>の方<br />
甘草(四両)、黄芩、人参、乾薑(各三両)、黄連(一両)、大棗(十二枚)、半夏(半升)<br />
右七味、水一斗、<ruby><rb>煮</rb><rp>(</rp><rt>に</rt><rp>)</rp></ruby>て六升を取り、<ruby><rb>滓</rb><rp>(</rp><rt>かす</rt><rp>)</rp></ruby>を<ruby><rb>去</rb><rp>(</rp><rt>さ</rt><rp>)</rp></ruby>り、<ruby><rb>再煎</rb><rp>(</rp><rt>さいせん</rt><rp>)</rp></ruby>し、一升を<ruby><rb>温服</rb><rp>(</rp><rt>おんぷく</rt><rp>)</rp></ruby>す。日に三服す。(傷寒論、再践の下に、三升を取るの三字有り。)<br />
<br />
<b>〔解〕</b> <br />
<b>大塚</b> 「狐惑の病」というのは、熱のある傷寒のようで、眠たいのだけれど目が閉じられないし、寝ても起きてもじっとしていられない不安がつきまとう。<ruby><rb>喉</rb><rp>(</rp><rt>のど</rt><rp>)</rp></ruby>に潰瘍ができた場合は惑で、陰部に潰瘍ができた場合は狐だ、と云っているが、これは後人の註釈ではないかね。つまり、この条文のなかで「蝕於喉為惑、蝕於陰為狐」と「其面目乍赤乍黒乍白、蝕於上部則声喝」とは後人の註釈文で、これにひっかかると意味がよくわからなくなると思います。つまり、狐惑病は、眠りたくても眠れず、不安感があって、寝ても起きてもいられず、食欲がなくて、食物の臭いを嗅ぐのも嫌だというもので、こういうときには甘草瀉心湯の証であると、考えればいいわけです。狐惑の病というのも百合病に似ているね。<br />
山田 そうですね。「<ruby><rb>憑</rb><rp>(</rp><rt>つ</rt><rp>)</rp></ruby>きもの」というのは『病源候論』には出ているのですが、『素問・霊枢』には出てきませんね。そうしますと、割に新しいもので、うんと古い時代にはなかったのではないでしょうか。『金匱』が漢代のものだとしますと、おかしいことになります。狐惑病が狐つきだとしますと納得がいかなくなりますが、臨床的には、私は分裂病に半夏瀉心湯を使って、妄想がとれたことがあります。甘草瀉心湯でもあります。<br />
大塚 狐惑というのは、いろいろ説があって、狐にまどわされたような病気だと云っている人もいるし、また『医宗金鑑』を見ると、下疳が狐で、惑は、上部、つまり口の中の潰瘍だと云っているね。この疳という字は、潰瘍のようなものを云う場合と、全然それに関係なく身体の弱い子供の結核性の腹膜炎のようなものを云っている場合があるようだけれど、この場合は、文章から考えると潰瘍の方ですね。実際にも甘草瀉心湯は、アフター性口内炎に使うとよく効きますね。私自身が、子供のときから非常に悩まされてきましたが、甘草瀉心湯を<ruby><rb>服</rb><rp>(</rp><rt>の</rt><rp>)</rp></ruby>んでf治してきました。小学校の五年頃から三十歳まで駄目でしたね。<br />
狐惑病に対して面白いことを云っているのは和田東郭で、これは強中病だと云っているのです。強中病というのは、ペニスが一日中、<ruby><rb>起</rb><rp>(</rp><rt>た</rt><rp>)</rp></ruby>ちづめになっているという病気で、それにいいと云っています。この文章からは、そんな意味は取れないわね。ただ中神琴溪は、夢遊病に使っていますね。 琴溪の患者の娘が年頃になって嫁にやらねばならないのに、夜中になると起きて舞を舞うのだそうです。それがひどく上手に舞うのだそうですが、朝になって聞くと全然そんなことは知らないのだそうです。嫁に行ってから毎晩そんなことをされたのでは困るので、何とか治さなくてはいけないとたのまれて、甘草瀉心湯をやったら、それっきり治ったということが書いてあります。甘草瀉心湯は面白い薬方ですね。<br />
<br />
<br />
<span style="font-size: large;"><b>『臨床傷寒論』</b></span> 細野史郎・講話 現代出版プランニング刊<br />
p.246<br />
第九十二条<br />
<br />
傷寒中風、医反下之、其人下利日数十行、穀不化、腹中雲鳴、心下痞鞕而満、乾嘔、<br />
心煩不得安、医見心下痞、謂病不尽、復下之、其痞益甚、甘草瀉心湯主之。<br />
<br />
〔<b>訳</b>〕傷寒の中、<ruby><rb>医</rb><rp>(</rp><rt>い</rt><rp>)</rp></ruby><ruby><rb>反</rb><rp>(</rp><rt>かえ</rt><rp>)</rp></ruby>って<ruby><rb>之</rb><rp>(</rp><rt>これ</rt><rp>)</rp></ruby>を<ruby><rb>下</rb><rp>(</rp><rt>くだ</rt><rp>)</rp></ruby>し、其の人下利、日にd数十<ruby><rb>行</rb><rp>(</rp><rt>こう</rt><rp>)</rp></ruby>、<ruby><rb>穀化</rb><rp>(</rp><rt>こくか</rt><rp>)</rp></ruby>せず、腹中雷鳴、心下<ruby><rb>痞鞕</rb><rp>(</rp><rt>ひこう</rt><rp>)</rp></ruby>して<ruby><rb>満</rb><rp>(</rp><rt>まん</rt><rp>)</rp></ruby>し、<ruby><rb>乾嘔</rb><rp>(</rp><rt>かんおう</rt><rp>)</rp></ruby>、<ruby><rb>心煩</rb><rp>(</rp><rt>しんぱん</rt><rp>)</rp></ruby>して安きを得ず、医、心下痞を見て病<ruby><rb>尽</rb><rp>(</rp><rt>つ</rt><rp>)</rp></ruby>きずと<ruby><rb>謂</rb><rp>(</rp><rt>い</rt><rp>)</rp></ruby>い、<ruby><rb>復</rb><rp>(</rp><rt>また</rt><rp>)</rp></ruby><ruby><rb>之</rb><rp>(</rp><rt>また</rt><rp>)</rp></ruby>を下す、其の<ruby><rb>痞</rb><rp>(</rp><rt>ひ</rt><rp>)</rp></ruby><ruby><rb>益</rb><rp>(</rp><rt>ます</rt><rp>)</rp></ruby>々<ruby><rb>甚</rb><rp>(</rp><rt>はなはだ</rt><rp>)</rp></ruby>し、<ruby><rb>甘草瀉心湯</rb><rp>(</rp><rt>かんぞうしゃしんとう</rt><rp>)</rp></ruby>之を主る。<br />
<br />
〔<b>講話</b>〕
これも、傷寒中風となっていますが、傷寒でも中風がかった状態という意味でしょうか。これについては、そう意味がないという人もありますし、そこは御随意に解釈して下さって結構です。そういう状態の人は、本来なら下してはいけないのだけれども、医者が誤って下してしまった。その結果、下痢が日に数十行もいき、食べ物がほとんど消化していない下痢便が出て、腹がゴロゴロと鳴り、みぞおちは痞えて硬く、膨満し、空えずきして、胸苦しく、安静にしていられない。医者は心下の痞に注目して、病がまだ尽きずとして、再びこれを下したら、この痞がますますひどくなった。甘草瀉心湯がいくんだということです。<br />
この甘草瀉心湯も、半夏瀉心湯に甘草を加えただけの薬方ですが、この場合には乾姜の量を減らさないのです。けれども、浅田では大体甘草の使い方は少なく、半夏瀉心湯には甘草の量を、一回〇・三gしか入れない。甘草瀉心湯の場合はそれより少し多くて、〇・七~〇・八gで一gにもなっていません。それ位の量を入れて甘草瀉心湯と言っている。それでも充分に効きます。<br />
一般の先生方の分量集などを見ておりますと、特に古方派では、薬味の量がとても多いように感じます。黄連や柴胡でも惜し気なく使っていますし、甘草などムチャクチャに多いですね。それをある程度修正したのが、大塚、矢数両先生の『経験・漢方処方分量集』で、相当に量を減らしてあります。私の分量に近い分量になっています。私のところの分量は非常に少ないのですよ。例えば半夏瀉心湯ですと『傷寒論』などの分量に比べて、別表のように非常に少ないのです。<br />
とにかく、薬というものは、多く使えばよいというものではありません。ほんの少量でも、驚くほどの効果をみることもあるのです。その例として、前にもお話ししたことがあるかもしれませんが。子供のヒステリーのような症状を治す甘麦大棗湯を与えるのに、エキス顆粒剤を作ったところ、吸着が悪くて、賦形剤の乳糖の量が多くなり、一回分が一〇回分くらいの分量になったのです。それで、結局、一〇分の一ほどを与えたことになりましたが、それでもよく効きました。要するに、薬というものは本に書いてある分量を正確に使わなくてはいけないということはないのです。<br />
場合によっては量が多過ぎて、いわゆる瞑眩を起こしたりするのです。瞑眩というのは、中毒ではないかと私は考えています。浅田の量で与えていて、瞑眩みたいなことは経験しませんでしたからね。とにかく、分量についてはもって検討の余地があると思いますね。<br />
中国の分量なんか見ていると、ずい分多いですね。あんなに多く使う必要はないのではないかと思います。以前の東洋医学会総会に中国から初めて参加した、ある先生の話によると、大変な量で、それを大きなヤカンで煎じるらしい。それでうまく効くのかどうか、効くのかもわかりませんけどね。私にはどうしても理解できないのです。<br />
半夏瀉心湯は苦い薬で、実際、分量が少ない方が飲みよいです。そういう点、酒飲みだった浅田先生は、自分の舌に合わせて分量を調整していたのではないかと私は思うのですよ。それに新妻荘五郎先生は、それに輪をかけた酒飲みでしたから、その口に合うように量を決めてしまったのかもしれませんね。それを我々が、浅田先生の言い付けのように守っている。これは馬鹿者のやることですけど、そういうところに何か漢方の秘密のようなものがあるように思います。もう少し、半夏瀉心湯について、かいつまんで、話しておきましょう。私、口訣を書き残そうとして筆を取っているのですが、それに相当詳しく書いてあります。その一つを申し上げますと、半夏瀉心湯というのは、要するに胃腸の悪い時に持っていくわけですが、胃の症状が特によく現れている時と、胃の症状は奥にひそんでいて、いわゆる瀉心湯を持っていくような精神神経症状だけが出ている時の二つに大別できると思います。胃の薬としては、大学でマーゲンブンを持っていくような使い方、あんなマーゲンブンが効くのかと思っていましたら、胃の痛みが止まりますからね。私、初め、大学が治すのかと思っていたのですが。<br />
半夏瀉心湯もよく効きますよ。例えば蓄膿症などの鼻の悪い人、眼が真っ赤になってなかなか治らない人、よく頭痛を起こしてどうにもならなかった人、また帯下が多くて困っていた人、もっと奇妙なことには脱疽の人などに与えて、いずれもよく治っています。<br />
このように、広範囲な症状に応用しうるわけですが、実際どういう場合に半夏瀉心湯を持っていたらいいかというと、私は、他の症状はどうであれ、胃が痞えてぐあいが悪いと訴える患者を診て、みぞおちが張っているようだったら、まず半夏瀉心湯を考えます。みぞおちを押さえてみて、痛いというよりも不愉快に感じる人ですね。しかし、心下痞鞕は必須条件というのではなく、胃に故障がある場合には持っていっていいのです。また、お腹がゴロゴロいうとか、大便が軟らかいとか、下痢するとか、むかついたり、げっぷが出たりということも使用目標になります。むかつくのはそんなに多くないです。また、けっぷが出る時は生姜を入れた方がよろしい。<br />
甘草瀉心湯になると、腸の方まで広く故障が起こっている、また神経性の症状が強く出てきている場合などに応用できます。例えば、中神琴渓が言っているように、夜な夜な夢遊病で起き出して行っては、えもいわれぬうまく踊りを舞い、日々その踊りの手が変わり、まるで神にでも操られているような様子なのですね。そうして十分に踊ったあげく、コソコソと床に入って何もなかったように眠ってしまうという娘を嫁にやることになったが、どうしたものでしょうかと相談に来られて、それに甘草瀉心湯かを与えたところ、すっと治ったという話です。<br />
そういう面白い例を、昔から不思議がって書いてあります。その他にも、お産のあとなどに、よく口の中が荒れてくる口中糜爛、または、アフタ性口内炎などにも効を奏する時があります。一番不思議だったのは、狐惑病という病気に非常によく効いて喜ばれたことです。これも胃腸に故障があって、それが性器や頭の方へ影響したものなのでしょうね。<br />
また、私の次男が発表した脱疽の例も面白いです。脱疽の場合、私のところでは一般に千金内托散を使いますが、これは傷口を癒して非常によく効きます。慢性の傷口など、びっくりするくらい早く塞がってしまいます。<br />
これは、千金内托散である程度まで治った脱疽ですが、もう一つきれいにならないのです。その折り、患者が胃のぐあいが悪いと言い出したのです。おかしいなあと思ってよく診てみると、心下痞鞕があるので半夏瀉心湯を持っていったわけです。それを飲ませて一週間もたたないうちに、胃の調子がよくなるにつれて、脱疽の部分の肉も盛り上がってきて、すっかり良くなってしまいました。その後、再発してきたときにも、千金内托散より半夏瀉心湯で効果がありました。それ以来、何人かの脱疽の人を半夏瀉心湯で治しましたが脱疽の治療薬としては、やはり千金内托散も重要です。脱疽に半夏瀉心湯が効くというのではなくて、半夏瀉心湯でも効く時があるというふうに覚えておいてください。<br />
この他に、半夏瀉心湯はアトピー性皮膚炎とかいろいろな症状に効くことがありますが、やはりどの場合も効かせどころは胃腸なのです。その胃腸からの信号を脳に送っているのか、肺に送っているのか、或は肝臓や生殖器に送っているかで、内臓-内臓反射により、いろいろな症状が出てくるわけでしょう。それを我々は体外から、皮膚炎や脱疽、心下痞鞕といった内臓-体壁反射を診て診断しているわけです。<br />
そういった判断をするには、真に無欲な医学の眼で診ていることが大切で、半夏瀉心湯をやったらすぐ良くなるという気持ちでやってはいけません。こうした無の哲学までを教えてくれる漢方は、本当に有難いなと、つくずく思います。<br />
<br />
<span style="font-size: large;"><b>『類聚方広義解説(73)』</b></span><br />
北里研究所附属東洋医学総合研究所部長 大塚恭男<br />
本日は<ruby><rb>半夏瀉心湯</rb><rp>(</rp><rt>ハンゲシャシントウ</rt><rp>)</rp></ruby>、<ruby><rb>甘草瀉心湯</rb><rp>(</rp><rt>カンゾウシャシントウ</rt><rp>)</rp></ruby>、<ruby><rb>生姜瀉心湯</rb><rp>(</rp><rt>ショウキョウシャシントウ</rt><rp>)</rp></ruby>のお話をいたします。<br />
半夏瀉心湯の原文を読みます。「嘔して心下痞鞕し、腹中雷鳴する者を治す」とあります。吐いてみぞおちがつかえたように硬くなり、おなかの中でゴロゴロ鳴るような状態を治すというわけです。内容は「半夏半升、黄芩、乾姜、人参、甘草各三両、大棗十二枚、黄連一両。右七味、水一斗を以て、煮て六升を取り、滓を去り、再び煮て三升を取り、一升を温服す。日に三服す」となっております。もちろんこの分量は従来通り昔の分量ですから今のものとは違います。<br />
『類聚方』が引用している元の原典の条文が、ここでは二つあげられております。その一つは、『傷寒論』の太陽病篇の下巻から引かれたものです。それは「傷寒五六日、嘔して発熱する者は<ruby><rb>柴胡湯</rb><rp>(</rp><rt>サイコトウ</rt><rp>)</rp></ruby>の証具る。そかして他薬を以て之を下し、柴胡の証なおある者は、また柴胡を与う。これすでに之を下すといえども逆となさず。必ず<ruby><rb>蒸々</rb><rp>(</rp><rt>ジョウジョウ</rt><rp>)</rp></ruby>として振い、かえって発熱汗出でて解す。もし心下満して鞕痛する者はこれ結胸となすなり。<ruby><rb>大陥胸湯</rb><rp>(</rp><rt>ダイカンキョウトウ</rt><rp>)</rp></ruby>之を主る。ただ満して矢まざる者はこれを痞となす。柴胡之を与うるに<ruby><rb>中</rb><rp>(</rp><rt>あた</rt><rp>)</rp></ruby>らず。半夏瀉心湯に宜し」というものです。<br />
これは傷寒という病気になって五、六日経過し、吐いて熱の出るものは柴胡を主剤とした処方の適応証である。そして柴胡剤以外の薬で之を下してしまって、なお柴胡の証が残っているものはまた柴胡湯を与える。そしてこれを下したとしてもまったく逆の方法ではない。全身から熱が出て、かえって汗が出て緩解する。もしみぞおちが張って硬くなって痛むものは結胸というものであるから、<ruby><rb>大陥胸湯</rb><rp>(</rp><rt>ダイカンキョウトウ</rt><rp>)</rp></ruby>の主治するものである。ただみぞおちが張って痛まないものは痞(つかえ)という状態である。柴胡の適応ではなくて半夏瀉心湯がいいのであるということであります。<br />
次の条文は『金匱要略』の嘔吐・下利病篇に出てくるものです。「嘔して腸鳴し、心下痞する者」とあり、吐いておなかがゴロゴロ鳴ってみぞおちがつかえるものが半夏瀉心湯の対象であるということです。これに対して吉益東洞先生の考案が「為則桉ずるに、心下痞は、心下痞は、まさに心下痞鞕に作るべし」とあります。東洞先生の考えるには、心下痞、つまりみぞおちがつかえる状態と書かれておりますが、本当は心下痞鞕、つまりみぞおちがつかえて硬くなって抵抗があるという状態の方が正しいのではないかということであります。<br />
これらについては尾台榕堂先生の註が欄外に載っております。その始めは「痢疾、腹痛にて、嘔して心下痞鞕し、あるいは便に膿血ある者、及び飲食、湯薬の腹に下るごとに、ただちに漉々として声あり、転泄する者に以下の三方を撰用すべし」とあります。下痢を伴う病気でおなかが痛み、吐いてみぞおちがつかえて硬くなり、あるいは便に膿や血がまじるもの、あるいな飲物、食べ物、薬などがおなかに入るこどにゴロゴロと音がして下痢するものは、ここに述べた半夏瀉心湯、甘草瀉心湯、生姜瀉心湯の三つのうちの適当なものを選んで使ったらよいということであります。<br />
次の註は「疝瘕、<ruby><rb>積聚</rb><rp>(</rp><rt>しゃくじゅ</rt><rp>)</rp></ruby>にて痛、心胸を侵し、心下痞鞕し、悪心、嘔吐、腸鳴あり、あるいは下利する者を治す」とあります。おなかに動く塊り、あるいは固定した塊りがあって痛んだり、胸部を侵したり、あるいはみぞおちがつかえて硬くなったり、吐き気がして吐いたり、おなかがゴロゴロ鳴ったり、下痢するものを治すのだというわけです。つづいて「もし大便秘する者は、消塊丸、あるいは陥胸丸を兼用す」とあり、これはただこの場合便秘があったら消塊丸あるいは陥胸丸というものを兼用したらよいというわけであります。消塊丸、陥胸丸の内容はよくわかりません。<br />
次の註は「心下満して鞕痛する云々、の説は小柴胡湯に見る」とあり、これは先ほど申しあげました条文の説明であります。『類聚方広義』の中の小柴胡湯のところに書いてあるということでありまして、これはのちに触れたいと思います。<br />
以上のようでありますが、くだいて申しますと、半夏瀉心湯というものはみぞおちがつかえて硬くなり、おなかがゴロゴロ鳴って、場合によると下痢をし、吐き気があったり、嘔吐をするという場合であります。心下満して鞕痛する云々は小柴胡湯に見ると書いてありますが、これは最初の『傷寒論』の条文の後半の部分でありまして、「もし心下満して鞕痛する者は、これ結胸となすなり」というものが前提が何かということなのです。これに対する尾台榕堂先生の註は、先ほど申しましたように小柴胡湯の条に見えておりまして、これをご紹介しますと、「傷寒五、六日、嘔して発熱云々」という証は、「もし心下満して」以下の句を受けて、実際に下してしまった時にどういうふうに変わってきたかということを書いたものだという説明であります。<br />
具体的なお話をいたしますと、半夏瀉心湯というものは、私どもは非常によく使う処方であります。今の病名で申しますと、胃炎とか胃潰瘍、十二指腸潰瘍、腸炎、胃下垂、胃アトニーなど、非常に幅広く使われるわけです。漢方的に申しますと、大体実証と呼ばれる方であります。ですからあまり体質の弱い方などには半夏瀉心湯の証は少ないということになります。<br />
また半夏瀉心湯は、次の甘草瀉心湯のところで申しますが、やや神経症的なものに対して効果のある場合があります。たとえば胃腸症状を伴うような神経症などに使うことがあります。胃というものはかなりストレスなどの神経的なものによっていろいろな変化をこうむる臓器ですが、そういうものに対して半夏瀉心湯はかなり有効であるといえると思います。<br />
吉益東洞先生は心下痞と心下痞鞕を非常に厳密に区別しておりますが、心下痞という状態、つまりみぞおちがつかえるだけであって、みぞおちが軟弱である場合は半夏瀉心湯を使ってはいけないのかということなりますが、必ずしもそう極端にいうこともまた当たっていないのではないかと思います。大体において心下痞というのは虚証の場合が多く、漢方処方でいいますと<ruby><rb>四君子湯</rb><rp>(</rp><rt>シクンシトウ</rt><rp>)</rp></ruby>、<ruby><rb>六君子湯</rb><rp>(</rp><rt>リックンシトウ</rt><rp>)</rp></ruby>といったものが適当と思われます。心下痞鞕と申しますと、みぞおちがつかえて、さらに抵抗があるという状態で、半夏瀉心湯のような、より実証の胃症状に使うということです。原則としては確かにその通りですが、あまりそれにこだわると間違えることもあるのではないかと思います。心下痞はみぞおちがつかえるだけで、抵抗があまりなくても半夏瀉心湯を使ってよい場合もあると思います。<br />
<br />
次は<b><ruby><rb>甘草瀉心湯</rb><rp>(</rp><rt>カンゾウシャシントウ</rt><rp>)</rp></ruby></b>です。これは大変面白い処方で、半夏瀉心湯に甘草が少し多くなったもので、半夏瀉心湯とよく似た処方です。読みますと「半夏瀉心湯の証にして、心煩安きを得ざる者を治す」とあります。胸苦しくて何か不安感を覚えるものを 治すのであるというわけです。「半夏瀉心湯方内に甘草一両を加う。<ruby><rb>半夏</rb><rp>(</rp><rt>ハンゲ</rt><rp>)</rp></ruby>、<ruby><rb>甘草</rb><rp>(</rp><rt>カンゾウ</rt><rp>)</rp></ruby>、<ruby><rb>黄芩</rb><rp>(</rp><rt>オウゴン</rt><rp>)</rp></ruby>、<ruby><rb>乾姜</rb><rp>(</rp><rt>カンキョウ</rt><rp>)</rp></ruby>、<ruby><rb>人参</rb><rp>(</rp><rt>ニンジン</rt><rp>)</rp></ruby>、<ruby><rb>大棗</rb><rp>(</rp><rt>タイソウ</rt><rp>)</rp></ruby>、<ruby><rb>黄連</rb><rp>(</rp><rt>オウレン</rt><rp>)</rp></ruby>」というもので、甘草が一両だけ多くなっております。「右七味、煮ること半夏瀉心湯のごとくす」となっております。<br />
この処方の引用の原典は二つありまして、一つは『傷寒論』の太陽病下篇にあります。その内容は「傷寒中風、医反って之を下し、その人下利すること、日に数十行、穀化せす、腹中雷鳴し、心下痞鞕して満し、乾謳心煩して安きを得ず。医、心下痞するを見て、病尽きずといい、また之を下し、その痞ますます甚だし。これ結熱に非らず。ただ胃中虚し、客気上逆するを以ての故に鞕からしむるなり」とあります。<br />
傷寒という急性重症の伝染病、中風という軽症のタイプの病気で、下してはならないのに下してしまった。そうすると一日に何十回と下痢をした。食べ物が消化しなくておなかがゴロゴロ鳴ってみぞおちは硬くつかえ、張ってからえずきがし、胸苦しくて不安感がある。医者はみぞおちがつかえている状態を見て、病気が治っていないと思い、またさらにこれを下すというような誤治を重ねるわけです。つかえはますますひどくなります。これは熱があるのではなくて、胃中が空虚になって、邪気が上にあがってきて、以上のような症状を起こして硬くしてしまったのであるということであります。そしてこの方は甘草瀉心湯のあずかるとことろであるというわけです。<br />
これを簡単に申しますと、半夏瀉心湯と非常に似ている状態ですが、まだ下痢が日に数十行とか、痞ますますはなはだしという状態で、腹中雷鳴、その他の症状がすべて半夏瀉心湯より少し急性増悪と申しますか、よりはげしい症状を起こしたという印象を受けます。<br />
次の条文は『金匱要略』の百合・<ruby><rb>狐惑</rb><rp>(</rp><rt>こわく</rt><rp>)</rp></ruby>・陰陽毒病篇から引かれたものであります。「狐惑の病たる、状傷寒のごとく、黙々として眠らんと欲し、目閉ずることを得ず。臥起安からず、喉を触するを惑となし、陰を触するを狐となす」とあります。狐惑という病気は傷寒のような状態を呈し、黙々として眠ろうとするのだが目を閉じても眠ることができない、寝ても覚めても不安感がある、そしてのどの潰瘍を惑といい、陰部の潰瘍を狐というのであるというわけです。つづいて「飲食を欲せず。食臭を聞くことを悪み、その面目たちまち赤くたちまち黒くたちまち白し。上部を蝕すれば則ち声喝す」とあります。これは食欲がなくて、ものの臭いをかいでも気持が悪くなり、顔はたちまち赤くなったり、黒くなったり白くなったり不安定な状態になる。上気道の方をやられると声がかれてしまう状態になるというわけであります。<br />
これに対して東洞先生の考案は、「まさに急迫の証あるべし」となっております。甘草瀉心湯に関していえることは、一言をもってすれば、半夏瀉心湯に比べて急迫症状があるのだということであります。<br />
初めの条文は半夏瀉心湯のいわゆる急迫状態体であると理解してよろしいのですが、二番目の条目の状態が非常に面白いと申しますか、ここに書いてあるのは精神神経症状です。場合によると神経症の域を出て精神病に近い状態、漢方でいう狐惑病という状態です。江戸時代からこれをいわゆる精神病に使っています。たとえば夢遊病です。夜、起きていろいろな動作をするのですが、翌日になって本人はまったく記憶がないという患者に使った症例など、江戸時代の中神琴溪という人が記しております。最近でも精神分裂病と思われるものに使って、その妄想に対して効果があったというような症例もあります。<br />
またこれは非常にしばしば不眠症に使われます。私自身も経験がありますが、不安、不眠ということで不眠症に使うこともあります。また食臭を聞くことを悪むと、臭いをかいだだけでムカムカする状態で、つわりのようなものに使うことができると思いますし、先ほど半夏瀉心湯のところで申しましたように、胃症状を伴う神経症一般から、胃症状を離れて純粋に精神神経症状だけを対象にしてもこの処方を使うことができます。そして、これはかなり効果があると私は思っております。<br />
ままここに書いてあります「喉を触する」という口内潰瘍というか、今のアフタ性口内炎のようなものに対する適応を見ることができますし、また陰部潰瘍に対する適応もここに見えますが、このようにアフタ性口内炎に使ったり、ベーチェット病のようなものに使う可能性もあります。私自身はアフタ性口内炎に使った例があります。ベーチェットに使った例はありませんが、この条文から見て考えられないことはないと思うわけです。<br />
次に<b><ruby><rb>生姜瀉心湯</rb><rp>(</rp><rt>ショウキョウシャシントウ</rt><rp>)</rp></ruby></b>です。条文は「半夏瀉心湯証にして、乾噫食臭、下利の者を治す」とあります。乾噫はげっぷです。非常に臭いげっぷを治す、あるいは下痢を治すというわけであります。「半夏瀉心湯方内において、乾姜二両を減じ、生姜四両を加う」とあり、内容はそっくり同じで乾姜が減って生姜が増えるわけであります。生姜とは、生のヒネショウガのことで、現在日本薬局方でいっている生姜ではありません。日本薬局方の生姜は乾かした生姜で、むしろ乾姜に近いわけです。「右八味、煮ること、半夏瀉心湯のごとくす」とあり、半夏瀉心湯と同じように調製するということであります。<br />
条文は『傷寒論』の太陽病下篇に出ております。「傷寒、汗出でて解するの後、胃中和せず、心下痞鞕し、乾噫し、食臭し、脇下に水気あり。腹中雷鳴し、下利する者」とあります。急性熱性伝染病の傷寒という状態になって、汗が出て一応緩解した状態になったと思ったが、どうも胃の調子が具合が悪い、そしてみぞおちがつかえて硬くなって、げっぷがして食べ物の臭いがし、脇下(肋骨弓のあたり)に水の鳴る音がし、水分の貯留が見られ、おなかの中はゴロゴロ鳴って下痢するものというわけであります。<br />
欄外の註に「およそ噫気、乾嘔を患い、あるいは嘈囃呑酸、あるいは平日飲食ごとに悪心妨満を覚え、脇下に水飲升降する者」とあります。およそげっぷが出たり、吐こうと思って音はするのだけれども実際にものは出ない、あるいはムカムカしたり胸やけがしたりする、あるいはものを食べたりするごとに何となく吐き気がしてもたれる感じがし季肋部(心下部)に余分な水分が昇降するような気がする人というわけです。そしてつづいて「その人多くは、心下痞鞕し、あるいは臍上に凝塊あり。この方を長服し、五椎より十一椎に至り、及び章門(肝経にして右の季肋下部)に灸すること日に数百壮し、消塊丸、消石大円等を兼用すれば、自然に効あり」とあります。そういう人は多くはみぞおちがつかえて硬くなり、あるいは臍の上に何か抵抗がある。この方を長く飲んでお灸を併用し、さらに消塊丸、消石大円等を兼用すれば効があるということですが、消塊丸の内容はわかりません。消石大円の内容は大黄、硝石、甘草であり、これらを酢で練って丸にしたものであります。<br />
註の二は「噫は説文に曰く、食臭気なりと」であり、噫は、『説文』という後漢の時代の字引によると、食べ物の臭気であるということであります。さらに次の註は「水気は飲という」とあります。<br />
この条文は、とくに通過障害のはげしい状態で、食臭のあるげっぷをし、はなはだしい時はもっと臭いげっぷをして、腸閉塞まではいかなくても、かなり強い通過障害の起こったような状態にこれを使ってよいのではないかといわれております。<br />
<br />
<br />
※桉:案の異体字<br />
<br />
<span style="font-size: large;"><b>『類聚方広義解説Ⅱ(80)』</b></span> <br />
甘草瀉心湯・生姜瀉心湯 日本東洋医学会会長 松田 邦夫<br />
<br />
本日は『<ruby><rb>類聚方広義</rb><rp>(</rp><rt>るいじゅほうこうぎ</rt><rp>)</rp></ruby>』のテキスト136頁5行目から137頁10行目まで、<ruby><rb>甘草瀉心湯</rb><rp>(</rp><rt>カンゾウシャシントウ</rt><rp>)</rp></ruby>と<ruby><rb>生姜瀉心湯</rb><rp>(</rp><rt>ショウキョウシャシントウ</rt><rp>)</rp></ruby>を解説します。<br />
<br />
■甘草瀉心湯<br />
<br />
甘草『瀉心』湯 治半夏瀉心湯證。而心煩不得安者。<br />
於半夏瀉心湯方内。加甘草一兩。<br />
半夏<span style="font-size: xx-small;">九分</span>甘草<span style="font-size: xx-small;">六分</span>黄芩乾薑人薓大棗<span style="font-size: xx-small;">各四分五釐</span>黄連一分<span style="font-size: xx-small;">五釐</span><br />
右七味。煮如半夏瀉心湯。<br />
<br />
初めは<ruby><rb>吉益東洞</rb><rp>(</rp><rt>よしますとうどう</rt><rp>)</rp></ruby>の言葉です。<br />
「甘草瀉心湯。<ruby><rb>半夏瀉心湯</rb><rp>(</rp><rt>ハンゲシャシントウ</rt><rp>)</rp></ruby>の証にして、心煩して安きを得ざるものを治す。<br />
半夏瀉心湯方内に、<ruby><rb>甘草</rb><rp>(</rp><rt>カンゾウ</rt><rp>)</rp></ruby>一両を加う」。<br />
甘草瀉心湯は半夏瀉心湯に甘草一両を加えたもので、半夏瀉心湯証で、胸苦しく少しもじっとしていられないものを治す。<br />
「<ruby><rb>半夏</rb><rp>(</rp><rt>ハンゲ</rt><rp>)</rp></ruby>(九分)、甘草(六分)、<ruby><rb>黄芩</rb><rp>(</rp><rt>オウゴン</rt><rp>)</rp></ruby>、<ruby><rb>乾姜</rb><rp>(</rp><rt>カンキョウ</rt><rp>)</rp></ruby>、<ruby><rb>人参</rb><rp>(</rp><rt>ニンジン</rt><rp>)</rp></ruby>、<ruby><rb>大棗</rb><rp>(</rp><rt>タイソウ</rt><rp>)</rp></ruby>(各四分九厘)、<ruby><rb>黄連</rb><rp>(</rp><rt>オウレン</rt><rp>)</rp></ruby>(一分五厘)。右七味、煮ること半夏瀉心湯のごとくす」。<br />
本文を読んでみましょう。『<ruby><rb>傷寒論</rb><rp>(</rp><rt>しょうかんろん</rt><rp>)</rp></ruby>』太陽病下篇の条文です。<br />
<br />
<br />
『傷寒中風。』醫反下之。其人下利。日數十行。穀不可。<br />
腹中雷鳴。心下痞鞕而滿。乾嘔心煩不得安。醫見心<br />
下痞。謂病不盡。復下之。其痞益甚。『此非結熱。<br />
但以胃中虛。客氣上逆。故使鞕也。』<br />
<br />
「傷寒中風、医かえってこれを下し、その人下利、日に数十行、穀化せず、腹中雷鳴し、心下痞鞕して満、乾嘔心煩して安きを得ず。医心下痞を見て、病尽きずと謂い、またこれを下し、その痞益々はなはだし。これ結熱にあらず、ただ胃中虚し、客気上逆するをもっての故に、鞕からしう、(甘草瀉心湯これを主る)』。<br />
テキストの『 』内は後人の註です。傷寒中風で表証のあるものを、医者が誤って下したために、下痢を日に数十回もするようになり、飲食物は消化せず、腹鳴し、心下部はつかえて硬く膨満して硬いのをみて、病邪が心下に充満しているためと判断して、重ねてまたこれを下したところが、そのつかえがますますひどくなってしまった。これは胃中が空虚で、邪気の上逆によって硬くなっているのであるから、甘草瀉心湯の主治である、ということです。<br />
次は『<ruby><rb>金匱要略</rb><rp>(</rp><rt>きんきようりゃく</rt><rp>)</rp></ruby>』の百合狐惑陰陽毒病篇の条文です。<br />
<br />
○『狐惑之爲病。<br />
狀如傷寒。』默默欲眠。目不得閉。臥起不安。蝕<br />
於喉『爲惑。』蝕於陰『爲狐』不欲飮食。惡聞食<br />
臭。其面目乍赤乍黑乍白。『蝕於上部』則聲喝。<br />
<br />
<br />
「狐惑の病たる、状傷寒のごとく、黙々として眠らんと欲し、目閉ずるを得ず、臥起安からず、喉を蝕するを惑となし、陰を蝕するを狐となす。飲食を欲せず、食臭を聞くことを悪み、その面目たちまち赤くたちまち黒くたちまち白し。上部を蝕すればすなわち声喝す。(甘草瀉心湯これを主る)」。<br />
狐惑病は熱のある傷寒のようで、眠りたくても眠れず、不安感があって寝ても起きてもいられない、食欲がなくて、食物のにおいを嗅ぐのも嫌だという。こういう時には甘草瀉心湯の証である、ということです。「喉に潰瘍ができた場合は惑で、陰部に潰瘍ができた場合は狐である」は、後人の註釈文です。<br />
<br />
■甘草瀉心湯の頭註<br />
<ruby><rb>尾台榕堂</rb><rp>(</rp><rt>おだいようどう</rt><rp>)</rp></ruby>の頭註は、「この方は、半夏瀉心湯方内に、さらに甘草一両を加う。しかもその主治するところ大いに同じからず。曰く下利日に数十行、穀化せずと。曰く乾嘔心煩して、安きを得ずと。曰く黙々として眠らんと欲し、目を閉ずるを得ず、臥起安からざるものと。これ皆急迫するところありてしかるものなり。甘草を君薬となす所以なり」とあります。<br />
まず甘草について考えてみましょう。吉益東洞の『<ruby><rb>薬徴</rb><rp>(</rp><rt>やくちょう</rt><rp>)</rp></ruby>』に、「甘草、急迫を主治するなり。故に裏急、急痛、攣急を治す。しかしてかたわら厥冷、衝逆、これら諸般の急迫の毒を治するなりhとあります。甘草は急迫、すなわち急に痛んでくるとか、急に痙攣するなど、急激に激しく起こる症状に用います。<br />
荒木性次の『<ruby><rb>新古方薬囊</rb><rp>(</rp><rt>しんこほうやくのう</rt><rp>)</rp></ruby>』には、「甘草は味甘平。緩和と主として逆を巡らす効あり。逆とはまさに反することなり。巡るとは元に戻ることなり。故によく厥を復し、熱を消し、痛みを和らげ、煩を治す」とあります。<br />
甘草瀉心湯は半夏瀉心湯の甘草の量を増やしたものです。甘草には急迫症状を緩和する作用があって、心煩、気分不穏を除きます。そこで甘草瀉心湯の証は、半夏瀉心湯の証に似て、急迫症状があり、もし下痢する場合その下痢は激しいのです。しかし半夏瀉心湯の場合と同じく、必ずしも下痢しない場合もあります。この薬方は半夏瀉心湯証と同様に心下痞硬、腹中雷鳴、下痢を目標としますが、下痢しない場合は腹中雷鳴のないことが多くあります。本方は胃腸炎、口内炎、神経症、不眠症などに用いられます。<br />
<br />
■甘草瀉心湯の使用目標と治験例<br />
『<ruby><rb>勿誤薬室方函口訣</rb><rp>(</rp><rt>ふつごやくしつほうかんくけつ</rt><rp>)</rp></ruby>』甘草瀉心湯の条には、「また産後の口糜瀉に用い奇効あり」とあります。 口糜瀉とは口内炎を伴う下痢です。<br />
<ruby><rb>浅田宗伯</rb><rp>(</rp><rt>あさだそうはく</rt><rp>)</rp></ruby>の『<ruby><rb>橘窓書影</rb><rp>(</rp><rt>きっそうしょえい</rt><rp>)</rp></ruby>』の、口糜瀉の例が載っています。「麻布相模殿橋寓、福地左兵衛の妻、歳二十五、六。産後数月下痢止まず、心下痞硬し、飲食進まず、口糜瀉、両眼赤腫し、脈虚数にして羸痩はなはだし。すなわち甘草瀉心湯を与う。服すること数十日、下痢止み諸症まったく癒ゆ」とあります。<br />
荒木性次の『新古方薬嚢』には次のようにあります。「甘草瀉心湯の証、風邪その他で熱のある場合、通じをつけたら治るだろうと下剤を与えて下したため下痢が止まず、下痢はその回数はなはだ多く、食物を消化せず、そのまま出て、腹中が盛んにゴロゴロ鳴り、胃のあたりがうんと張って、中にたくさん物がつかえているような気がし、吐き気を催し、どうにも気の落ち着かざるもの、体は何でもなく、ただ妙にふさぎ込んで、食物を欲しがらず、寝ても落ち着かず、しわがれたる声を出すもの、気の落ち着かないところが本方の目のつけどころなり。本方は胃腸の病や、あるいは胃腸に基づく気うつ症によろし」。<br />
不眠症や神経症に用いるのは、心下痞硬のある場合です。<br />
<ruby><rb>中神琴渓</rb><rp>(</rp><rt>なかがみきんけい</rt><rp>)</rp></ruby>は、甘草瀉心湯を用いて夢遊病を治しています。彼の『<ruby><rb>生々堂治験</rb><rp>(</rp><rt>せいせいどうちけん</rt><rp>)</rp></ruby>』述べられた症例は有名です。<br />
「近江大津の人某、 来り先生にまみえて人を退けて秘かにいう。小人に一女あり。年甫十六云々。奇疾あり…、毎夜家人の熟睡するを待ちて、秘かに起きて舞踊す。その舞の清妙閑雅なる、婉然として才妓のもっとも秀でたるものに似たり」。つまり琴渓の患者が年頃になって嫁にやらなければならないのに、夜中になると起きて舞を舞うのだそうです。それがひどく上手に舞うのですが、朝になって聞くと、そんなことは全然知らないというのだそうです。嫁に行ってから毎晩そんなことをされては困るので、何とか治さなければと頼まれて、甘草瀉心湯を与えたところ、数日もたたないうちに治ったというのです。甘草瀉心湯はおもしろい薬ですね。<br />
<br />
為則桉。當有急迫證。<br />
<br />
「<ruby><rb>為則</rb><rp>(</rp><rt>ためのり</rt><rp>)</rp></ruby>桉ずるに、まさに急迫の証あるべし」。<br />
吉益東洞が考えるのに、甘草瀉心湯の証は、急に痛むとか、急に痙攣するなど、急で激しい症状がある、ということです。<br />
頭註に、「慢驚風に、この方宜しきものあり」とあります。慢驚風、すなわち慢性の小児のひきつけに甘草瀉心湯が有効だと、尾台榕堂は述べています。<br />
明治の初め、温知社初代社首になった名臨床医、<ruby><rb>山田業広</rb><rp>(</rp><rt>やまだぎょうこう</rt><rp>)</rp></ruby>の治験をあがてみましょう。<br />
「余、好んで甘草瀉心湯を用ゆ。先年旧松浦侯の留守居添え役を勤めたる人、四、五日目に夜間にわかに昏冒す。その状てんかんのごとく沫を吐するばかりなり。あるいは癇となし、あるいは蛔となし、種々薬すれども癒えず。およそ一年余にして余に治を乞う。甘草瀉心湯を投ずるに一度も発せず。今ここに一酒店の主人、酒を嗜み日夜度なし。絶食同様なり。しばしば厠に登る。まず下痢に類す。気鬱、らい惰、心気常を失し、健忘、時に罵詈す。また大声を発することもあり。<ruby><rb>帰脾湯</rb><rp>(</rp><rt>キヒトウ</rt><rp>)</rp></ruby>などを用ゆれども効なし。余に治を乞う。酒を厳禁し<ruby><rb>甘草瀉心湯加茯苓</rb><rp>(</rp><rt>カンゾウシャシントウカブクリョウ</rt><rp>)</rp></ruby>を投ずるに、日一日より快く大効を得たり」。<br />
<br />
<br />
■生姜瀉心湯<br />
次は生姜瀉心湯です。最初に吉益東洞の言葉です。<br />
<br />
生薑瀉心湯 治半夏瀉心湯證。而乾噫食臭。下利者。<br />
於半夏瀉心湯方内。減乾薑各一分五釐生薑六分<br />
右八味。煮如半夏瀉心湯。<br />
『傷寒汗出解之後。胃中不和。』心下痞鞕。乾噫食臭。<br />
脇下有水氣。腹中雷鳴。下利者。<br />
<br />
<br />
「生姜瀉心湯。半夏瀉心湯証にして、乾噫食臭、下利するものを治す。<br />
半夏瀉心湯方内において、乾姜二両を減じ、<ruby><rb>生姜</rb></ruby><br />
<rp>)</rp>ショウキョウ<rp>)</rp>四両を加う。 半夏(九分)、甘草、人参、黄芩、大棗(各四分五厘)、黄連、乾姜(各一分五厘)、生姜(六分)。<br />
右八味、煮ること半夏瀉心湯のごとくす」。<br />
条文は『傷寒論』太陽病下篇です。<br />
「傷寒、汗出でて解するの後、胃中和せず、心下痞鞕、乾噫食臭、脇下水気あり、腹中雷鳴、下利するものは、(生姜瀉心湯これを主る)」。<br />
傷寒で表証のあるものを<ruby><rb>麻黄湯</rb><rp>(</rp><rt>マオウトウ</rt><rp>)</rp></ruby>などで発汗させて、表証が消えた後、消化機能が調和せず、心下はつかえて硬く、食べたもののにおいがげっぷになって出てくる。このような時は、脇腹に停水があって、腹部では腸の蠕動が亢進して、ゴロゴロと腹が鳴って下痢する。これは生姜瀉心湯の主治である。「乾噫食臭」は、食べ物のにおいのする臭いげっぷが出ることです。<br />
生姜瀉心湯は半夏瀉心湯の乾姜を減らし、その代わりに生姜を加えたものです。生姜を加えたのは、腸内の異常醗酵を治すためのものです。生姜瀉心湯は半夏瀉心湯証に似て、食臭のあるおくびが出たり、胸焼けがしたりするものに用います。<br />
『新古方薬嚢』には、生姜瀉心湯を用うべき症候として、「胃の具合悪く心下部つかえ、おくびが出て臭く、腹ゴロゴロと鳴り、下痢するもの。おくびが目標なり。とくに臭きげっぷには本方の行くところ多し。しかれどもおくびに拘り、かえって証を誤ることもあり。必ずしも本方の専売特許ではなきが故なり」とあります。<br />
下痢は必ずなければならない症状ではありません。生姜瀉心湯は胃腸炎、醗酵性下痢、胃酸過多症などに用いられます。<br />
<br />
■生姜瀉心湯の頭註と先哲の治験<br />
<br />
頭註に、「およそ噫気乾嘔を患い、あるいは嘈囃呑条、あるいは平日飲食するごとに悪心妨満を覚え、脇下に水飲升降するもの、その人多くは心下痞鞕し、あるいは臍上に凝塊あり。この方を長服き…五椎より十一椎に至り、および章門に灸すること、日に数百壮、<ruby><rb>消塊丸</rb><rp>(</rp><rt>ショウカイガン</rt><rp>)</rp></ruby>、<ruby><rb>消石大円</rb><rp>(</rp><rt>ショウセキダイエン</rt><rp>)</rp></ruby>等を兼用すれば、自然に効あり」とあります。<br />
げっぷやからえずきが出たり、また胸焼けがし、酸っぱい水が上がったり、また普段飲食するたびにむかついたり、膨満感が強くて脇の下に水毒が上下するような人は、たいていみぞおちがつかえて硬く、あるいは臍の部分にしこりを触れるものである。その時は生姜瀉心湯を長い間服用し、背骨の第五番目から第一一番目までの間と章門(右の季肋部にある肝経の経穴)に、毎日数百壮の灸をすれば自然に治る。その際、消塊丸、消石大思等を兼用するとよい、ということです。<br />
続いて頭註に、「噫は、<ruby><rb>説文</rb><rp>(</rp><rt>せつもん</rt><rp>)</rp></ruby>に曰く、食臭気なりと。水気は飲と謂う」とあります。<br />
吉益東洞が生姜瀉心湯を用いて瞑眩を起こした次の症例は、『<ruby><rb>医事惑問</rb><rp>(</rp><rt>いじわくもん</rt><rp>)</rp></ruby>』にあって有名です。<br />
「余、京祇園町伊勢屋長兵衛というものを療治したることあり。その病人泄瀉の症にて世医治し難しという。すなわち余を招く。行きてこれを見るに、心下痞硬、水瀉嘔逆してまさに絶え喜とす」というわけで、東洞は、普通の医者は穏やかな薬ばかり用いるが、私の薬は病に的中する時は大いに瞑眩するだろう、けれども瞑眩を恐れていては病は治らないと述べて、そのことをあらかじめ病気のものに承知させて、生姜瀉心湯三袋を与えた。すると病人は大いに吐き下しをして意識を失った。家中騒動となり、医者を集めて診察させたところ、皆、死んでいるといった。<br />
再び呼ばれて行った東洞は、「前と同じ薬を口に入れて通るなら飲ませなさい」といって帰った。その夜、病人は夢から覚めたように目を開き、親戚一同がなぜ集まっているのかと尋ねた。こうして病人はすっかり丈夫になり、それまでいつもおなかをこわしてばかりいたものが、それ以後は何を食べてもあたらなくなったということです。<br />
<br />
■甘草瀉心湯の症例呈示<br />
<br />
最後に私の症例を述べます。<br />
下痢に甘草瀉心湯を用いた例で、六一歳の女性です。この人は普段から風邪をひきやすく、胃が弱く、下痢しやすい人です。<br />
一昨日から急にひどい下痢を起こして来ました。何も悪いものを食べた覚えはなかったので、食事に気を付てけ様子をみることにしました。ところが下痢はますますひどくなり、昨日は一日に十数回下りました。腹がゴロゴロとひどく鳴って痛み、気持ちが悪くていても立ってもいられません。テムネスが強く、排便後いつまでも残っているような感じが取れません。軽い吐き気もあり、あまり食欲がありません。身長152cm、体重48kg。顔貌は苦悶状に近い様子ですが、栄養状態は保たれています。<br />
診察のために横になってもらいましたが、ベッドに落ち着いて寝ていられず、しきりに腹を押さえて気持ちが悪いことを訴えます。脈は沈弱、舌は乾燥して薄い白苔があります。腹診すると心下痞硬が著明です。おなかの中でゴロゴロという音がよく聞こえます。血圧は124/72です。<br />
そこで急迫症状の強い下痢を考えて甘草瀉心湯を与え、三日後に再診しました。患者は、薬を服用したその日から排便はまったく止まったので驚いているといいます。あの激しいゴロゴロは?と読きますと、それもまったくないと答えます。ただ食欲が低下したというので<ruby><rb>六君子湯</rb><rp>(</rp><rt>リックンシトウ</rt><rp>)</rp></ruby>に変方しました。この日、心下痞硬をみると、非常に軽減していました。さらに一週間後来診、便通は正常で、食欲も回復しました。心下痞硬はなお軽度に残存していました。<br />
この例は心下痞硬、腹中雷鳴して激しい下痢をする甘草瀉心湯の典型例でした。心煩して気分不穏を覚え、急迫症状も明らかでした。下痢で心下痞硬して噫気が多く、腹痛する時は、半夏瀉心湯の適応が多いものです。下痢が激しければ甘草瀉心湯を用い、悪臭のある噫気が多い時には生姜瀉心湯を用います。<br />
ところで<ruby><rb>人参湯</rb><rp>(</rp><rt>ニンジントウ</rt><rp>)</rp></ruby>証も下心痞硬の強い場合があります。通常は人参湯証を甘草瀉心湯証と誤ることはありませんが、もし甘草瀉心湯を与えてかえって下痢が増加するようなら、人参湯、<ruby><rb>真武湯</rb><rp>(</rp><rt>シンブトウ</rt><rp>)</rp></ruby>、または<ruby><rb>参苓白朮散</rb><rp>(</rp><rt>ジンリョウビャクジュツサン</rt><rp>)</rp></ruby>などに変方する必要があります。<br />
次は下痢、口内炎に甘草瀉心湯を用いた例です。<br />
二四歳の男性。高校時代から下痢しやすかったそうです。とくに牛乳で下痢します。また口内炎ができやすいといいます。人に勧められて<ruby><rb>小建中湯</rb><rp>(</rp><rt>ショウケンチュウトウ</rt><rp>)</rp></ruby>を飲んだこともありましたが、無効だったといいます。最近はいつも下痢しています。必ず腹がゴロゴロ鳴ります。便は不消化便で、軟便ないし水容便ですが、渋ることはありません。回数は日に一、二回です。胃部膨満感があり、胃がもたれます。空腹時になると胃がチクチク痛みます。とくに朝食後の胃痛が強いそうです。食後は腹が張り、食べすぎると必ず口内炎ができます。痩せた、顔色が悪い青年です。腹診しますと、心下痞硬、心下振水音、臍上正中芯、両側腹直筋拘攣、及び臍痛を認めます。<br />
このように胃腸が弱く、やや虚状を帯び、心下部痞塞感、あるいは精神不安を伴う口内炎には甘草瀉心湯がよいのです。この例も甘草瀉心湯を与えて、一ヵ月後には口内炎がだいぶよくなり、二ヵ月後には下痢はほとんどしなくなり、顔色がよくなりました。半年後には、最後まで残っていた朝食後の胃痛も消失し、下痢はまったくしなくなりました。口内炎も出なくなり、薬を止めました。<br />
<br />
<br />
<span style="font-size: large;"><b>【一般用漢方製剤承認基準】</b></span><br />
<br />
<span style="font-size: large;"><b>甘草瀉心湯</b></span><br />
<br />
<br />
〔成分・分量〕 半夏5、黄芩2.5、乾姜2.5、人参2.5、甘草2.5-3.5、大棗2.5、黄連1<br />
<br />
〔用法・用量〕 湯<br />
<br />
〔効能・効果〕 体力中等度で、みぞおちがつかえた感じがあり、ときにイライラ感、下痢、はきけ、 腹が鳴るものの次の諸症: 胃腸炎、口内炎、口臭、不眠症、神経症、下痢<br />
<br />
<br />
<br />
<span style="font-size: large;"><b>『一般用漢方製剤の添付文書等に記載する使用上の注意』 </b></span><br />
<br />
<b>【添付文書等に記載すべき事項】</b><br />
<br />
<span style="border: medium solid;"> してはいけないこと </span><br />
(守らないと現在の症状が悪化したり、副作用が起こりやすくなる)<br />
<br />
<b> 次の人は服用しないこと</b><br />
生後3ヵ月未満の乳児。<br />
〔生後3ヵ月未満の用法がある製剤に記載すること。〕<br />
<br />
<span style="border: medium solid;"> 相談すること </span><br />
<b>1.次の人は服用前に医師、薬剤師又は登録販売者に相談すること</b><br />
(1)医師の治療を受けている人。<br />
(2)妊婦又は妊娠していると思われる人。<br />
(3)高齢者。<br />
〔1日最大配合量が甘草として1g以上(エキス剤については原生薬に換<br />
算して1g以上)含有する製剤に記載すること。〕<br />
(4)今までに薬などにより発疹・発赤、かゆみ等を起こしたことがある人。<br />
(5)次の症状のある人。<br />
むくみ<br />
〔1日最大配合量が甘草として1g以上(エキス剤については原生薬に換算して1g以上)<br />
含有する製剤に記載すること。〕<br />
(6)次の診断を受けた人。<br />
高血圧、心臓病、腎臓病<br />
〔1日最大配合量が甘草として1g以上(エキス剤については原生薬に換算して1g以上)含有する製剤に記載すること。〕<br />
<br />Unknownnoreply@blogger.com0tag:blogger.com,1999:blog-6827912320235733185.post-87356521306504776002016-04-14T04:44:00.003+09:002016-07-29T22:01:26.249+09:00乾姜人参半夏丸(かんきょうにんじんはんげがん) の 効能・効果 と 副作用<span style="font-size: large;">『<b>和漢薬方意辞典</b>』</span> 中村謙介著 緑書房 p.142<br />
<ruby><span style="font-size: large;"><b><rb>乾姜人参半夏丸料</rb></b></span><rp>(</rp><rt>かんきょうにんじんはんげがんりょう</rt><rp>)</rp></ruby> [金匱要略]<br />
<br />
<b>【方意】</b> <span style="background-color: #999999;">脾胃の水毒の動揺</span>による激しい悪心・嘔吐・吃逆と、<span style="background-color: #999999;">脾胃の水毒</span>・<span style="background-color: #999999;">脾胃の虚証</span>による食欲不施・心下痞硬等と、<span style="background-color: #999999;">虚証</span>による疲労倦怠・衰弱・るいそうのあるもの。時に寒証を伴う。 <br />
《太陰病から少陰病.虚証》 <br />
<br />
<br />
<b>【自他覚症状の病態分類】</b> <br />
<table border="1" cellpadding="1" cellspacing="1" style="width: 544px;"><tbody>
<tr> <td valign="top" width="19"><br /></td> <td valign="top" width="141">脾胃の水毒の動揺</td> <td valign="top" width="126">脾胃の水毒<br />
脾胃の虚証</td> <td valign="top" width="125">虚証</td> <td valign="top" width="125"> 寒証</td> </tr>
<tr> <td valign="top" width="19">主証 </td> <td valign="top" width="141">◎激しい悪心 <br />
◎激しい嘔吐</td> <td valign="top" width="126">◎食欲不振<br />
◎心下痞硬<br />
<br /></td> <td valign="top" width="125">◎疲労倦怠<br />
◎衰弱<br />
◎るいそう <br />
<br />
<br /></td> <td valign="top" width="125"></td> </tr>
<tr> <td valign="top" width="19">客証 </td> <td valign="top" width="141">○吃逆</td><td valign="top" width="126"> 弛緩性便秘</td><td valign="top" width="125"><br /></td><td valign="top" width="125"> 手足厥冷</td></tr>
</tbody></table>
<br />
<br />
<b>【脈候】</b> 軟・弱・沈細・微細。 <br />
<br />
<div>
<b>【舌候】</b> 湿潤して無苔、時にわずかに乾燥して微白苔。 <br />
<br />
<b>【腹候】</b> 軟、時に微満するが舟底状に陥凹しているものもある。心下部の痞塞感と抵抗、つまり心下痞硬が必発である。<br />
<br />
<b>【病位・虚実】</b> 水毒は陰陽共にあるが、本方意は寒証を伴い陰証である。疲労倦怠・衰弱が激しい場合があり虚証は深い。しかしいまだ精神活動・循環機能の顕著な低下に至らず、太陰病位を主とし少陰病位にかかる。<br />
<br />
<b>【構成生薬】</b> 半夏6.0 人参3.0 乾姜3.0</div>
<br />
<b>【方解】</b>
乾姜は寒証の水毒の上下への動揺を主り、嘔吐・下痢等の種々な症状を治す。人参は滋養・強壮・滋潤作用を有し、乾姜・人参の組合せは脾胃の機能低下と水毒に対応する。更に半夏には鎮嘔・鎮吐作用があり、三者の組合せにより長期の悪心、強度の嘔吐に有効となる。生姜は鎮嘔作用が強く、乾姜は長期の悪心・嘔吐によって引き起こされた虚証を補い、寒証を温める作用が強い。<br />
<br />
<b>【方意の幅および応用】</b> <br />
A1 <span style="background-color: #999999;">脾胃の水毒の動揺</span>:激しい嘔を目標にする場合。 <br />
つわりまたはその他の持続性の強度の嘔吐、食べるとすぐに吐出するもの、胃下垂、周期性嘔吐症<br />
2 <span style="background-color: #999999;">脾胃の水毒の動揺</span>:激しい吃逆を目標にする場合。<br />
<div>
術後などの難治な吃逆<b> </b><br />
<br />
<b>【参考】</b> *妊娠、嘔吐止まず。乾姜人参半夏丸之を主る。『金匱要略』 <br />
*嘔吐止まず、心下痞硬する者を治す。『類聚方』 <br />
*此の方は本悪阻を治する丸なれども、今料となして、諸嘔吐止まず、胃気を虚する者に用いて捷功あり。『勿誤薬室方函口訣』</div>
<div>
*本方は即効性があり、最初の二、三服で効果の現れることが多い。伏竜肝の浸漬液で煎じると更に良い。<br />
*小半夏湯・小半夏加茯苓湯など種々用いて止まらない嘔吐に用いる。本方で止まらない嘔吐には、烏梅丸を併用すると良いことがある。(大塚敬節)。</div>
*吃逆には半夏瀉心湯・橘皮竹筎湯・柿蒂湯・呉茱萸湯・調胃承気湯・小承気湯も用いられる。<br />
<br />
<b>【症例】</b> 術後の嘔吐<br />
私の友人の女性薬剤師さんが婦人科疾患で手術を受けた。手術は順調にいったらしいのだが、術後、嘔吐が激しくなり、全く食事を受けつけなくなった。内科の
医師と協同して、いろいろと手をつくしたが、5~6日たっても嘔吐が止まらない。<br />
そこで見舞いに行って診察してみると、脈も腹力も弱り切っているが、心窩部だけが、非常に抵抗が強く、かつ圧痛も強い。診る前の見当では、<a href="http://kenko-hiro.blogspot.jp/2014/05/blog-post.html">小半夏加茯苓湯</a>あたりで片がつくのではないかなどとタカをくくっていたのだったが、そのように簡単なものではないことを思い知らされた。<br />
脈も腹力も極端に虚している。だのに、このように心窩がコチコチになっているとは、いったいどうしたことか。薬方は何を擬したらよいのか。結論の出ないまま家に帰り、
『類聚方広義』を初めから終りまで、丹念に読み直してみた。何辺ひっくりかえしてみても、乾姜人参半夏丸のところでひっかかる。本方の条文は「嘔吐止まざるもの」だけの簡単なものだが、東洞翁は「案ずるに、まさに心下痞硬の証あるべし」と、『類聚方』で意見を付け加えている。このような虚状の強い太陰の薬方の腹候に、まさか心下痞硬などという実証を思わせるような腹候が出るはずはないのではないか。ややもすれば薬味偏重の傾向のある東洞翁の、いわば思考的
産物なのではなかろうか。言い換えれば、臨床の裏付けを欠く単なる推論に過ぎないのではなかろうか。常に、このところを、そんなふうに考えていたのであっ
た。<br />
ところが、現実にこのような患者さんに直面してみると、この乾姜人参半夏丸以外には擬すべき薬方がない。しかも東洞翁が補足した心下痞硬の腹候を、本方証の重要な一要因に加えた上である。そこで本方を煎じて、翌朝病室に持参し服用せしめた。これがまさに劇的に奏効して、1服してさしもの頑固な嘔吐が止まり、夕刻
からは流動食が入るようになった。引き続き本方を約1ヵ月服用して、すっかり元気になって退院できたのである。<br />
藤平 健『漢方臨床ノート・治験篇』215<br />
<br />
<br />
<span style="font-size: large;"><b>『症状でわかる 漢方療法』</b></span> 大塚敬節著 主婦の友社刊<br />
p.182 <br />
<br />
<span style="font-size: large;"><b><ruby><rb>乾姜人参半夏丸</rb><rp>(</rp><rt>かんきょうにんじんはんげがん</rt><rp>)</rp></ruby></b></span><br />
<br />
<br />
<b>処方</b> 乾姜、人参各1g、半夏2g。<br />
以上の三味を粉末とし、ヒネショウガの汁を加えて、<ruby><rb>米糊</rb><rp>(</rp><rt>こめのり</rt><rp>)</rp></ruby>で丸薬を作り、えんどう豆を球状にしたくらいとし、一回に十個、一日三回飲む。<br />
<br />
<br />
<b>目標</b> 嘔吐の止まりにくいもの。<br />
<br />
<b>応用</b> つわり。<br />
<br />
<br />
<span style="font-size: large;"><b>『漢方 新一般用方剤と医療用方剤の精解及び日中同名方剤の相違』</b></span><br />
愛新覚羅 啓天 愛新覚羅 恒章 <br />
文苑刊<br />
p.34<br />
29<ruby><rb>乾姜人参半夏丸</rb><rp>(</rp><rt>かんきょうにんじんはんげがん</rt><rp>)</rp></ruby><br />
《金匱要略》<br />
[成分]:乾姜3(15)g、人参3(15)g、半夏6(30)g<br />
<br />
[用法]:散剤または湯剤とする。散剤は1日3回で1回1.5~5gを服用する。湯剤は1日1剤で1日量を3回に分服する。 <br />
<br />
[効能]:補中補気、降逆止嘔<br />
<br />
[主治]:脾胃虚寒、胃気上逆<br />
<br />
[症状]:吐き気、嘔吐、胃脘脹満、畏寒喜暖、胃脘の脹痛、食欲不振、食べると吐き気がする、嘔吐など。舌苔が胖大、舌苔が白厚、脈が細緩。<br />
<br />
<br />
[説明]:<br />
本方は補中補気と降逆止嘔の効能を持っており、脾胃虚寒と胃気上逆の病気を治療することができる。<br />
本方は《金匱要略》では婦人妊娠病を治す方剤である。<ruby><rb>婦人妊娠病</rb><rp>(</rp><rt>ふじんにんしんびょう</rt><rp>)</rp></ruby>とは婦人が妊娠中にかかる病気である。<br />
本方に含まれている乾姜は胃を暖め、人参は胃気を補い、半夏は燥湿降逆して止嘔する。<br />
<ruby><rb>乾姜</rb><rp>(</rp><rt>かんきょう</rt><rp>)</rp></ruby>は<ruby><rb>干姜</rb><rp>(</rp><rt>かんきょう</rt><rp>)</rp></ruby>とも書き、温裏薬で、性味が辛、熱であり、脾、胃、心、肺の経脈に入る。主に通心助陽し、臓腑の沈寒痼冷を除き、経脈の寒気を発散し、感寒腹痛を治すという四つの作用がある。湯剤の常用薬量は3~10gである。<ruby><rb>沈寒痼冷</rb><rp>(</rp><rt>ちんかんこれい</rt><rp>)</rp></ruby>とは長引く寒冷の病気を指す。<br />
<br />
[成分]の( )中は中国で使用されている丸剤の生薬量である。本方は中国の製法と服用法では生薬を粉末とし、生姜を煮た糊状の汁で薬末を小丸とし、1日3回で1回3~6gを服用する。また、生薬を1/3の薬量と同様な比率で水煎し湯剤とすることができる。湯剤は1日1剤で1日量を3回に分服する。<br />
本方は'74年に厚生省が承認したものより、乾姜を1~3gから3gに、人参を1~3gから3gに、半夏を2~6gから6gに変えている。散剤の服用量を1回1~1.5gから1回1.5~5gに変えている。また、乾姜に限ったことが消除されている。<br />
日本と中国の同名方剤を比べると、中国で使用されている乾姜人参半夏丸は剤型に関わらず、1日の服用量が多いので効能が強い。<br />
脾胃虚寒と胃気上逆の型に属する妊娠嘔吐、消化不良、胃下垂、慢性胃炎、十二指腸潰瘍、胃腸機能低下などの治療に本方を参考とすることができる。<br />
<br />
<br />
<br />
<span style="font-size: large;"><b>『薬局製剤 漢方212方の使い方』<span style="font-size: small;"> 第4版</span></b></span><br />
埴岡 博・滝野 行亮 共著<br />
薬業時報社 刊<br />
<br />
<span style="font-size: large;"><b><u>K26. <ruby><rb>乾姜人参半夏丸料</rb><rp>(</rp><rt>かんきょうにんじんはんげがんりょう</rt><rp>)</rp></ruby></u></b></span> <br />
<br />
<br />
<span style="font-size: large;"><b><u>K26-①. <ruby><rb>乾姜人参半夏丸</rb><rp>(</rp><rt>かんきょうにんじんはんげがん</rt><rp>)</rp></ruby></u></b></span> <br />
<br />
<b>出典</b><br />
原方は丸剤で「金匱要略」の婦人妊娠病篇が出典である。<br />
乾姜1両,人参1両,半夏2両を末として生姜汁の糊で悟桐子大の丸とし,1回10丸1日3回のむことになっている。<br />
丸剤を煎剤とする時には丸の1日量を三倍したものを1日量とすることが伝承されている。こ場合も,乾姜3.0,人参3.0,半夏6.0とする。<br />
古来,ひね生姜のしぼり汁の糊で丸を製することになっているため,煎薬もひね生姜のしぼり汁とハチミツを入れるとよい。冷してのんだ方がのみ易い。<br />
せんじ薬は「乾姜人参半夏丸料」と呼ぶ。<br />
<br />
<b>構成</b><br />
つわりの治療薬としては小半夏加茯苓が有名である。<br />
最近は副作用を極端におそれる風潮があって,妊娠すると現代薬はもちろん,漢方薬までも拒否するようだ。<br />
だから,せっかくの良薬があってもその恩恵に浴することなく,遂には衰弱がはげしくなってから,せめて漢方薬でも飲もうか,漢方薬なら副作用も少ないだろうと訪れてくる人がいる。<br />
こんな時,小半遊加茯苓湯では間に合わない。<br />
乾姜で体を温め,半夏で嘔を止め,人参で元気を回復する手段をとらねばならない。これが本方である。<br />
また,原因を問わず,嘔吐がとまらず,胃気が虚しているものに用いて速効がある。<br />
<br />
<b>応用</b><br />
(1) つわりやその他の嘔吐で,体が衰弱しているもの。<br />
(2) 胃の虚寒で手足が冷え,心下痞硬のするもの。<br />
<br />
<b>留意点</b><br />
◎指針では乾姜に,いわゆる湯通し乾姜を指定しているが,古方の乾姜は乾生姜であるから局方の生姜を使う方がよい。<br />
◎使用上の注意に温めて服用するよう指示されているが,かならずしも温める場合だけでなく,冷飲の方がよい場合もある。<br />
これは悪阻などでは温いものを受けつけないからで,むしろ氷片を浮かせて飲む方がよいこともある。<br />
◎猪苓散もあた悪阻につかう。本方との鑑別は,のどが渇かず,水を欲しがらなかったのに,吐いたあと甚だしく水を飲みたがるという特異な証を呈したら猪苓散。と覚える。<br />
<br />
<b>文献</b><br />
1.金匱要略方論(中国・人民衛生出版社版) p.68<br />
<br />
2.龍野一雄・新撰類聚方(昭34) p.254<br />
3.浅田宗伯・勿誤薬室方函口訣(明11)上巻41丁ウ<br />
<br />
<b>K26</b><br />
<b>乾姜人参半夏丸料</b><br />
〔<b>成分・分量</b>〕<br />
乾姜 3.0<br />
人参 3.0<br />
半夏 6.0 以上3味 12.0<br />
カット。500→250煎<br />
<br />
<b>K26-①</b><br />
<b>乾姜人参半夏丸</b><br />
〔<b>成分・分量</b>〕<br />
乾姜 3.0<br />
人参 3.0<br />
半夏 6.0 以上3味 12.0<br />
末とし生姜汁糊を結合剤として丸薬120個とする<br />
<br />
〔<b>効能・効果</b>〕<br />
体力が衰え嘔気,嘔吐のやまない次の諸症:つわり,胃炎,胃アトニー<br />
<br />
〔<b>ひとこと</b>〕<br />
●つわりに限ったことでなく,はきけが止まらず,胃気が衰えているものなら何病でもよい。<br />
●本来は丸であるが,丸よりも丸料のほうが良く効くようである。<br />
●指針ではしょうがのしぼり汁と米糊で製丸するようになっているが,原典では「生姜汁糊」である。ショウガの汁を温めて糊化した糊のことである。<br />
<br />
<br />
<span style="font-size: large;">『改訂 一般用漢方処方の手引き』</span> <br />
監修 財団法人 日本公定書協会<br />
編集 日本漢方生薬製剤協会 <br />
<br />
<span style="font-size: large;">乾姜人参半夏丸</span><br />
(かんきょうにんじんはんげがん) <br />
<br />
<b>成分・分量</b><br />
乾姜3,人参3,半夏6<br />
<br />
<b>用法・用量</b><br />
(1)散:1回1.5~5g 1日3回<br />
(2)湯:上記量を1日量とする<br />
<br />
<b>効能・効果</b><br />
体力中等度以下で,はきけ、嘔吐が続きみぞおちのつかえを感じるものの次の諸症:つわり,胃炎,胃腸虚弱<br />
<br />
<br />
<b>原典</b> 金匱要略<br />
<br />
<b>出典</b> 勿誤薬室方函<br />
<br />
<b>解説</b><br />
小半夏湯の去加方で,生姜を去り,乾姜,人参を加えた処方である。つわりや頑固な嘔囲に用いる。<br />
<br />
<style>
table {
border-collapse: collapse;
}
th {
border: solid 1px #666666;
color: #000000;
background-color: #FFFFFF;
}
td {
border: solid 1px #666666;
color: #000000;
background-color: #ffffff;
}
thead th {
background-color: #FFFFFF;
}
</style>
<br />
<table>
<thead>
<tr>
<th></th>
<th>生薬名
</th>
<th>乾姜
</th>
<th>乾薑
</th>
<th>人参
</th>
<th>半夏
</th>
<th>用法・用量
</th>
</tr>
</thead>
<tbody>
<tr>
<th>処方分量集
</th>
<td></td>
<td>3
</td>
<td>-
</td>
<td>3
</td>
<td>3
</td>
<td>(丸料として記載)
</td>
</tr>
<tr>
<th>診療の実際
</th>
<td></td>
<td>3
</td>
<td>-
</td>
<td>3
</td>
<td>-
</td>
<td>(丸料として記載)
</td>
</tr>
<tr>
<th>診療医典
</th>
<td>注1
</td>
<td>3
</td>
<td>-
</td>
<td>3
</td>
<td>3
</td>
<td>(丸料として記載)
</td>
</tr>
<tr>
<th>症候別治療
</th>
<td></td>
<td>1
</td>
<td>-
</td>
<td>1
</td>
<td>2
</td>
<td>以上を粉末とし生姜の汁を加えて米糊で丸とし,1回3ずつ1日3回服用
</td>
</tr>
<tr>
<th>処方解説
</th>
<td></td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td></td>
</tr>
<tr>
<th>後世要方解説
</th>
<td></td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td></td>
</tr>
<tr>
<th>漢方百話
</th>
<td></td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td></td>
</tr>
<tr>
<th>応用の実際
</th>
<td>注2
</td>
<td>1
</td>
<td>-
</td>
<td>1
</td>
<td>2
</td>
<td></td>
</tr>
<tr>
<th>明解処方
</th>
<td></td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td></td>
</tr>
<tr>
<th>改訂処方集
</th>
<td></td>
<td>1
</td>
<td>-
</td>
<td>1
</td>
<td>2
</td>
<td>生姜汁を加えて0.3の糊丸とし30丸を3回に分服
</td>
</tr>
<tr>
<th>漢方入門講座
</th>
<td>注3
</td>
<td>1
</td>
<td>-
</td>
<td>1
</td>
<td>2
</td>
<td>左の割合で粉末とし,ヒネショウガの絞りを以て丸薬とし1回2ずつ1日3回服用
</td>
</tr>
<tr>
<th>新撰類聚方
</th>
<td></td>
<td>-
</td>
<td>1
</td>
<td>1
</td>
<td>2
</td>
<td>左三味、末とし生姜汁で糊丸とし梧子大のものを10丸1日3回服用
</td>
</tr>
<tr>
<th>漢方医学
</th>
<td></td>
<td>3分
</td>
<td>-
</td>
<td>3分
</td>
<td>6分
</td>
<td>以上を粉末とし,米糊で丸とし,1回2を服用
</td>
</tr>
<tr>
<th>精撰百八方
</th>
<td></td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td></td>
</tr>
<tr>
<th>古方要方解説
</th>
<td>注4
</td>
<td>-
</td>
<td>3
</td>
<td>3
</td>
<td>6
</td>
<td>左三味を細末にし,生姜汁及び糊を以て丸となし1回4を服す。或は水煮し,生姜汁を合して服用するも、亦可なり。<br />
(通常1日2,3回)
</td>
</tr>
<tr>
<th>成人病の漢方療法
</th>
<td></td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td></td>
</tr>
</tbody>
</table>
<br />
<br />
注1<br />
嘔吐:頑固につづく嘔吐,殊に妊娠つわりの嘔吐に,乾姜人参半夏丸に烏梅丸を兼用して著効を得ることがある。金匱要略には「妊娠、謳吐止まざるは乾姜人参半夏丸之を主る」とあって,小半夏湯,小半夏加茯苓湯などを用いても止まない嘔吐に,これを用いる。<br />
<br />
注2 消化機能が衰えて,みぞおちが硬く痞え,嘔気,嘔吐が止まないもの。崇蘭館試験方口訣に,「嘔吐して湯薬をきらうものにこの丸を用いるとよい。煎剤でもよいhとある。<br />
<br />
注3 つわり:「妊娠,嘔吐止まざるものは乾姜人参半夏丸之を主る」(金匱要略 妊娠)つわりの聖剤である。つわりだと煎じ薬の臭いをかいだだけで胸がむかつくという人がある。その時は実に有難い処方だ。つわりには本方の他,小半夏加茯苓湯,生姜半夏湯,四苓散,半夏瀉心湯なども使う。<br />
<br />
注4 故に方極にいわく「嘔吐止マズ,心下痞鞕スル者ヲ治ス」と。此の説,能く方法の効用を約言せりというべし。<br />
<br />
<br />
<span style="font-size: large;"><b>『漢方処方・方意集』</b></span> 仁池米敦著 たにぐち書店刊<br />
p.71 <ruby><rb>乾姜人参半夏丸</rb><rp>(</rp><rt>かんきょうにんじんはんげがん</rt><rp>)</rp></ruby> <ruby><rb>乾姜人参半夏丸料</rb><rp>(</rp><rt>かんきょうにんじんはんげがんりょう</rt><rp>)</rp></ruby>(七一頁)・<ruby><rb>半夏乾姜人参丸</rb><rp>(</rp><rt>はんげかんきょうにんじんがん</rt><rp>)</rp></ruby>(三七七頁)と同じ。<br />
<br />
[<b>薬局製剤</b>] 半夏6 人参3 乾姜3 以上の生薬をそれぞれ末とし、「生姜汁」と「丸糊」を結合剤として丸剤の製法により丸剤120個とする。<br />
<br />
«金匱要略» 半夏末6 人参末3 乾姜末3 生姜汁と米糊にて丸として一回2gを服用する。<br />
<br />
【方意】 気を温め補って湿邪と寒を除き、脾胃と肺大腸を調えて、気と水の行りを良くし痰を去り上逆した気を降ろし、<ruby><rb>悪阻</rb><rp>(</rp><rt>おそ</rt><rp>)</rp></ruby>などに用いる方。<br />
<br />
【適応】 妊娠して嘔吐が止まらない者・<ruby><rb>悪阻</rb><rp>(</rp><rt>おそ</rt><rp>)</rp></ruby>(ツワリのこと)・諸の嘔吐が止まらず胃気が虚する者など。<br />
<br />
[原文訳]«金匱要略・婦人妊娠病脈証併治»<br />
○妊娠し、嘔吐が<ruby><rb>止</rb><rp>(</rp><rt>や</rt><rp>)</rp></ruby>まざれば、乾姜人参半夏丸が<ruby><rb>之</rb><rp>(</rp><rt>これ</rt><rp>)</rp></ruby>を主る。<br />
«勿誤薬室方函口訣»<br />
○此の方は、<ruby><rb>本</rb><rp>(</rp><rt>もと</rt><rp>)</rp></ruby>は<ruby><rb>悪阻</rb><rp>(</rp><rt>おそ</rt><rp>)</rp></ruby>を治する丸なれども、今、<ruby><rb>料</rb><rp>(</rp><rt>りょう</rt><rp>)</rp></ruby>となして諸の嘔吐が<ruby><rb>止</rb><rp>(</rp><rt>や</rt><rp>)</rp></ruby>まざりて胃気が虚する者に用いて<ruby><rb>捷効</rb><rp>(</rp><rt>しょうこう</rt><rp>)</rp></ruby>あり。<br />
注<ruby><rb>捷効</rb><rp>(</rp><rt>しょうこう</rt><rp>)</rp></ruby>=効き目がよくはやい。<br />
<br />
<br />
<ruby><rb>乾姜人参半夏丸料</rb><rp>(</rp><rt>かんきょうにんじんはんげがんりよう</rt><rp>)</rp></ruby> <ruby><rb>乾姜人参半夏丸</rb><rp>(</rp><rt>かんきょうにんじんはんげがん</rt><rp>)</rp></ruby>(七一頁)と同じ。<br />
[<b>薬局製剤</b>] 半夏6 人参3 乾姜3 以上の切断又は粉砕した生薬をとり、1包として製する。<br />
«金匱要略» 半夏6 人参3 乾姜3<br />
<br />
p.377<br />
<br />
<rp>(</rp><rt>半夏乾姜人参丸</rt><rp>(</rp><rt>はんげかんきょうにんじんがん</rt><rp>)</rp> <ruby><rb>乾姜人参半夏丸</rb><rp>(</rp><rt>かんきょうにんじんはんげがん</rt><rp>)</rp></ruby>«金匱要略»(七一頁)と同じ。 «金匱要略» 半夏6 乾姜3 人参3 生姜汁を加えて丸にし、一回1gを服用する。<br />
<br />
<br />
<br />
<span style="font-size: large;"><b>『金匱要略講話』</b></span> 大塚敬節主講 財団法人 日本漢方医学研究所編 創元社刊<br />
p.497 <br />
<br />
姙娠嘔吐不止。乾薑人參半夏丸主之。<br />
<br />
乾薑人參半夏丸方<br />
乾薑 人參<span style="font-size: xx-small;">各一兩</span> 半夏<span style="font-size: xx-small;">二兩</span><br />
<br />
右三味。末之。以生薑汁糊爲丸。如梧子大。飮服十丸。日三服。<b>〔訓〕</b><br />
妊娠、<ruby><rb>嘔吐</rb><rp>(</rp><rt>おうと</rt><rp>)</rp></ruby><ruby><rb>止</rb><rp>(</rp><rt>や</rt><rp>)</rp></ruby>まざるは<ruby><rb>乾薑人参半夏丸之</rb><rp>(</rp><rt>かんきょうにんじんはんげがん</rt><rp>)</rp></ruby><ruby><rb>主</rb><rp>(</rp><rt>つかさど</rt><rp>)</rp></ruby>る。<br />
乾薑人参半夏丸の方 乾薑、人参(各一両)、半夏二両)<br />
右三味、<ruby><rb>之</rb><rp>(</rp><rt>これ</rt><rp>)</rp></ruby>を<ruby><rb>末</rb><rp>(</rp><rt>まつ</rt><rp>)</rp></ruby>を<ruby><rb>末</rb><rp>(</rp><rt>まつ</rt><rp>)</rp></ruby>とし、生薑汁を以って<ruby><rb>糊</rb><rp>(</rp><rt>のり</rt><rp>)</rp></ruby>にて丸と<ruby><rb>為</rb><rp>(</rp><rt>な</rt><rp>)</rp></ruby>すこと<ruby><rb>梧子大</rb><rp>(</rp><rt>ごしだい</rt><rp>)</rp></ruby>の如くし、一丸を服す。日に三服す。<br />
<br />
<b>〔解〕</b> <br />
<br />
<b>大塚</b>
妊娠嘔吐ですから「つわり」ですね。つわりには小半夏加茯苓湯を使いますが、それでもなお<ruby><rb>治</rb><rp>(</rp><rt>おさ</rt><rp>)</rp></ruby>まらないような場合には、乾薑人参半夏丸の主治どある、ということです。<br />
別にこれは妊娠に限らず嘔吐の薬として使えます。ただ私は丸薬でなく、煎じて飲ませましたが、同じように効きました。飲むときは、冷たくして飲むように指示します。<br />
<br />
<br />
<span style="font-size: large;"><b>『金匱要略解説(57)』</b></span> 北里研究所東洋医学総合研究所診療部門長 石野 尚吾<br />
婦人妊娠病②-乾姜人参半夏丸・当帰貝母苦参丸・葵子茯苓散・当帰散・白朮散<br />
■乾姜人参半夏丸<br />
本日はテキスト198頁の<ruby><rb>乾姜人参半夏丸</rb><rp>(</rp><rt>カンキョウニンジンハンゲガン</rt><rp>)</rp></ruby>からです。<br />
「妊娠嘔吐止まざるは、乾姜人参半夏丸これを主る。<br />
乾姜人参半夏丸の方。<br />
<ruby><rb>乾姜</rb><rp>(</rp><rt>カンキョウ</rt><rp>)</rp></ruby>(一両)、<ruby><rb>人参</rb><rp>(</rp><rt>ニンジン</rt><rp>)</rp></ruby>(一両)、<ruby><rb>半夏</rb><rp>(</rp><rt>ハンゲ</rt><rp>)</rp></ruby>(二両)。<br />
右三味、これを末とし、<ruby><rb>生姜</rb><rp>(</rp><rt>ショウキョウ</rt><rp>)</rp></ruby>汁をもって糊にして丸となすこと<ruby><rb>梧子</rb><rp>(</rp><rt>ゴシ</rt><rp>)</rp></ruby>大のごとくし、十丸を飲服す。<br />
妊娠中の嘔吐ですから、悪阻です。悪阻が強くて治まらない時には、乾姜人参半夏丸を使いなさい。主治であると、簡潔明瞭な処方です。<br />
生姜を蒸して乾燥させた乾姜と<ruby><rb>朝鮮人参</rb><rp>(</rp><rt>チョウセンニンジン</rt><rp>)</rp></ruby>、半夏の三味からできている処方です。これらを粉末として、生姜汁で作った糊で丸薬として梧子大に作り、その一〇を一度に飲み、一日に三回服用するということです。<br />
『<ruby><rb>類聚方広義</rb><rp>(</rp><rt>るいじゅほうこうぎ</rt><rp>)</rp></ruby>』には、「嘔吐止まず、心下痞鞕するものを治す。<ruby><rb>為則</rb><rp>(</rp><rt>ためのり</rt><rp>)</rp></ruby>按ずるに、まさに心下痞鞕の証あるべし」とあります。<br />
心下痞鞕は、みぞおちのあたりがつかえて抵抗のある状態です。同じく頭註には、「妊娠して悪阻ことに甚だしく、湯薬を服することあたわざるものに、この方を用いれば、徐々に効を収めて宜しとなす。大便不通のものには、<ruby><rb>大簇丸</rb><rp>(</rp><rt>ダイゾクガン</rt><rp>)</rp></ruby>、<ruby><rb>黄鐘丸</rb><rp>(</rp><rt>オウショウガン</rt><rp>)</rp></ruby>等を間服す。もし蚘を兼ねるものは、<ruby><rb>鷓鴣菜丸</rb><rp>(</rp><rt>シャコサイガン</rt><rp>)</rp></ruby>に宜し」とあります。<br />
回虫がある場合には鷓鴣菜丸を一緒に飲むとよい。大便が出ない時には、<ruby><rb>大黄</rb><rp>(</rp><rt>ダイオウ</rt><rp>)</rp></ruby>、人参の入った大簇丸または黄鐘丸を、その間に服用するとよいということです。<br />
『<ruby><rb>聖剤発蘊</rb><rp>(</rp><rt>せいざいはつうん</rt><rp>)</rp></ruby>』には、「妊娠悪阻の証にして心下痞硬するものに効あり。急なる時は湯剤にして生姜汁を合して用いるもまた可なり。妊娠、八、九ヵ月に至りて悪阻の症止まず。あるいは嘈雑して<ruby><rb>煤</rb><rp>(</rp><rt>すす</rt><rp>)</rp></ruby>色のものを吐す。吐血するもあり。これは甚だ難症と知るべし。多くは産後に死す。この方、男子もまた心下痞硬して嘔吐止まず、水薬ともに受けざるものに用うべし」とあります。<br />
<br />
■乾姜人参半夏丸の構成生薬<br />
<br />
構成生薬の薬能について解説します。<br />
乾姜は生姜の根茎を蒸して乾燥させたものです。『<ruby><rb>神農本草経</rb><rp>(</rp><rt>しんのうほんぞうきょう</rt><rp>)</rp></ruby>』の中品に収載され、 「中を温め、寒を散じ、裏寒の証を治す」とあります。胃腸を温め、寒を追い、その結果として消化機能が正常化され、水毒がとれ、嘔吐、下痢などが治るということです。<br />
『<ruby><rb>薬徴</rb><rp>(</rp><rt>やくちょう</rt><rp>)</rp></ruby>』 には、「水分、体液の遍在、停滞を治す。また嘔吐、咳、下痢、手足の冷え、煩悶して落ち着かないもの、腹部、胸部、腰部の疼痛も治す」とあります。<br />
乾姜は体を深部から温める作用があり、体が温まり冷えがとれた結果、水分調整機能も円滑に作動し、水分代謝が円滑に行われると考えられます。本処方の「嘔吐止まず」とあるのは、乾姜の適応症状の一つと考えられます。<br />
現代医学的には鎮吐作用、唾液分泌亢進作用、鎮痙作用、鎮痛作用、抗消化性潰瘍作用などがあります。<br />
人参はウコギ科のオタネニンジンを基源植物とし、オタネニンジンの細根を除いた根、またはこれを軽く湯通しし乾燥させた<ruby><rb>御種人参</rb><rp>(</rp><rt>オタネニンジン</rt><rp>)</rp></ruby>と、蒸して乾燥させた<ruby><rb>紅参</rb><rp>(</rp><rt>コウジン</rt><rp>)</rp></ruby>とがあります。わが国では紅参はほとんど使いません。主に御種人参を使います。<br />
『神農本草経』の上品に収載されていて、古来から最も珍重されている生薬の一つで、「人参は一名<ruby><rb>人銜</rb><rp>(</rp><rt>ジンカン</rt><rp>)</rp></ruby>、<ruby><rb>鬼蓋</rb><rp>(</rp><rt>キガイ</rt><rp>)</rp></ruby>といい、甘、微寒。山谷に生じ、五臓を補い、精神を安じ、魂魄を定め、驚悸を止め、邪気を除き、目を明らかにし、心を開き、血を益す。久しく服すれば身を軽くし、年を延ぶ」とあります。<br />
また『<ruby><rb>皇漢医学</rb><rp>(</rp><rt>こうかんいがく</rt><rp>)</rp></ruby>』には、「古来人参をもって万病の霊薬となし、病者危篤に瀕するあれば病症のいかんを問わず、表裏内外、陰陽虚実を論ぜず、必ずこの薬を与うるが常なりしも、これ皆後世派人のいう言にして、人参は断じて万能の神薬に非ず。大観すればこの薬物は胃の衰弱、疲労に伴う新陳代謝の衰弱を目的とし、これに続発する食欲不振、悪心、嘔吐、消化不良、下痢などの症状を副目的として用うべきにして、もしこれに背反すれば必ず有害無益なり」とあります。<br />
現代医学的には疲労回復促進作用、抗ストレス作用、強壮作用、性ホルモン増強作用、抗胃潰瘍作用、免疫増強作用などがあります。<br />
半夏はサトイモ科のカラスビシャクの根茎で、『神農本草経』の下品に収載されていて、古来から鎮吐、鎮嘔の要薬とされ、非常に多く用いられています。<br />
『薬徴』には、「半夏は痰飲、嘔吐を主治するなり。旁ら心痛、逆満、咽痛、咳悸、腹中雷鳴を治す」とあります。<br />
<ruby><rb>陶弘景</rb><rp>(</rp><rt>とうこうけい</rt><rp>)</rp></ruby>は、「およそこれを用いるには十回ばかり湯で洗って、滑らかなものをことごとくなす。そうせねば毒があって喉を刺激する。処方の中に半夏がある時には必ず生姜を用いる。それは毒を制するためである」といっています。しかし実際には半夏が入っている処方で、生姜が入っていないものも数多くみられます。<br />
現代医学的には、中枢抑制作用、鎮吐作用、鎮痛作用、鎮痙作用などがあります。<br />
半夏を妊娠中に用いることに対していろいろな論議があります。『<ruby><rb>素問</rb><rp>(</rp><rt>そもん</rt><rp>)</rp></ruby>』六元正紀大論には「<ruby><rb>黄帝</rb><rp>(</rp><rt>こうてい</rt><rp>)</rp></ruby>問うて曰く、婦人の妊娠これを毒することいかんと。<ruby><rb>岐伯</rb><rp>(</rp><rt>きはく</rt><rp>)</rp></ruby>曰く、故あらば落とすことなきなり」とあり、これは妊娠に薬を使うことはどんなものであろうか、という問いに対して、それなりの理由があればどんな薬を用いても差し支えない、流産することもないと答えています。<br />
『<ruby><rb>本草綱目</rb><rp>(</rp><rt>ほんぞうこうもく</rt><rp>)</rp></ruby>』には、「半夏は多く用いるが脾胃を瀉す。諸血証および口渇するものには用いることを禁ず。それは津液を乾かすからである。妊娠はこれを忌む」とあります。<br />
『<ruby><rb>稿本方輿輗</rb><rp>(</rp><rt>こうほんほうよげい</rt><rp>)</rp></ruby>』には、「乾姜人参半夏丸は悪阻を治するの方の祖ともいうべきものなれども、後世にては妊娠に半夏を忌みて、半夏の入りたる方を妊婦に用いるには、半夏を去りて用う。本邦にて二十年、三十年前までは皆妊娠に半夏を忌みたり。今の世にてはちらほら用いるようになりたり。妊娠中に半夏を忌みざるという兆しは、『<ruby><rb>千金</rb><rp>(</rp><rt>せんきん</rt><rp>)</rp></ruby>』の<ruby><rb>茯苓半夏湯</rb><rp>(</rp><rt>ぶくりょうはんげとう</rt><rp>)</rp></ruby>とて、悪阻に用いたる方ありて、半夏の入りたることあり。これらをもって半夏を忌まぬことを知るべし」とあります。<br />
さらに『校正方輿輗』には、「妊娠嘔吐止まざれば、すなわち悪阻病なり。治方は乾姜人参半夏丸を始め、千金<ruby><rb>外台</rb><rp>(</rp><rt>げだい</rt><rp>)</rp></ruby>諸書多く半夏を用う。しかるに金の<ruby><rb>張元素</rb><rp>(</rp><rt>ちょうげんそ</rt><rp>)</rp></ruby>、妊に半夏を忌むことをいい出し、それより以後天下の医流皆これに<ruby><rb>遵</rb><rp>(</rp><rt>なら</rt><rp>)</rp></ruby>わざるものなし。明に至りて独り<ruby><rb>婁全善</rb><rp>(</rp><rt>ろうぜんぜん</rt><rp>)</rp></ruby>曰く、余、阻病を治するにしばしば半夏を用うるも、いまだかつて胎を動かさずというもまた故あり。因なきの義なり。妊病の方は何ぞや必ずしも拘泥せんや。云々」とあります。<br />
漢方は長い歴史の中で試行錯誤を繰り返し、淘汰され、有効な、かつ安全な薬方を伝えてきました。証を誤らなければ、妊婦も漢方薬を服用できます。本方や<ruby><rb>小半夏加茯苓湯</rb><rp>(</rp><rt>ショウハンゲカブクリョウトウ</rt><rp>)</rp></ruby>、<ruby><rb>半夏厚朴湯</rb><rp>(</rp><rt>ハンゲコウボクトウ</rt><rp>)</rp></ruby>、<ruby><rb>小柴胡湯</rb><rp>(</rp><rt>ショウサイコトウ</rt><rp>)</rp></ruby>などを妊婦に用いますが、現在まで半夏による流産を起こしたという報告はないようです。<br />
<br />
■乾姜人参半夏丸の使用目標<br />
臨床上の使用目標は、重症な悪阻、全身哀弱がひどく、食べるとすぐ吐く、食事も服薬もできぬほどの悪阻、悪心が強く吐こうとしても容易に吐けない、吐いた後も悪心がありヌラヌラとした粘液がいつまでも出てくるもの、このような嘔吐には半夏と生姜または乾姜を配した処方が適応です。半夏と生姜または乾姜を配した処方は、本方のほこに小半夏加茯苓湯、<ruby><rb>半夏瀉心湯</rb><rp>(</rp><rt>ハンゲシャシントウ</rt><rp>)</rp></ruby>などがあります。悪阻だけでなく、一般的な嘔吐の薬として用います。丸剤だけでなく煎じて飲ませます。飲む時は冷まして飲ませます。<br />
腹証は、腹直筋に力がなく、腹部軟弱無力状で、腹壁は舟の底のように窪んでいます。しかしみぞおちだけは硬く張っていて、その部に抵抗や圧痛があったりする状態です。脈は沈弱です。太陰の虚証で激しい嘔吐があり、そのまま疲労困憊しておなかが窪み、心下部だけが硬く張って、つかえた感じの時に使います。<br />
悪阻については『<ruby><rb>婦人寿草</rb><rp>(</rp><rt>ふじんことぶきそう</rt><rp>)</rp></ruby>』には、「月の重なるにしたがいおのずから半癒するなり。(中略)飲食進まず、形体痩憊してすくわざるに至るなり」とあり、実際の運用としては膈間の水毒症状として、<ruby><rb>茯苓</rb><rp>(</rp><rt>ぶくりょう</rt><rp>)</rp></ruby>、<ruby><rb>沢瀉</rb><rp>(</rp><rt>タクシャ</rt><rp>)</rp></ruby>、<ruby><rb>朮</rb><rp>(</rp><rt>ジュツ</rt><rp>)</rp></ruby>、半夏などの入った処方を用いています。<br />
<br />
■乾姜人参半夏丸の鑑別処方<br />
鑑別すべき処方として小半夏加茯苓湯があります。悪阻に最もよく用いられる処方であり、みぞおちとあたりにポチャポチャと振水音があり、急にギュッと胸に突き上げてくるような嘔吐が起こる時、そして眩暈、動悸がします。悪心が強く粘液を吐く、軽度の口渇があるなどであり、表証はないが裏証がある状態です。裏証とは内臓から直接現れる症状で、嘔吐、下痢、腹痛、口渇などです。いろいろな吐き気に使用しますが、悪阻の薬として有名です。しかし本方で嘔吐が止まらない時には乾姜人参半夏丸、半夏厚朴湯、<ruby><rb>人参湯</rb><rp>(</rp><rt>ニンジントウ</rt><rp>)</rp></ruby>などを証によって選用します。<br />
<ruby><rb>五苓散</rb><rp>(</rp><rt>ゴレイサン</rt><rp>)</rp></ruby>は中間証で、口が乾いて尿の出が悪く、水を飲むと噴射状に吐き、またすぐ水を飲みたくなり、嘔吐が強いわりには悪心をあまり訴えない、吐いた後さっぱりするなど、表裏の証(表態とは体の表面に現れる症状で悪寒、頭痛、発熱など)があります。<br />
人参湯は、ふだんから胃腸が弱く、気力弱く、顔色青白く、脈拍弱く、手足が冷えやすい、心下に振水音を認める。口の中に薄い唾液が溜まり、吐き出してもすぐまた溜まるものです。<br />
半夏厚朴湯は、虚証、気分塞ぎ、咽喉や食道部に異物感、いわゆる梅核気があり、時に胃内停水があります。胃腸の弱い人に用いられます。神経症状では動悸、眩暈、頭痛、肩凝り、恐怖感などを訴えます。<br />
<br />
Unknownnoreply@blogger.com0tag:blogger.com,1999:blog-6827912320235733185.post-7664692247211720372016-03-06T12:34:00.002+09:002016-06-15T05:50:58.281+09:00 加味逍遙散加川芎地黄(かみしょうようさんかせんきゅうじおう)(加味逍遙散合四物湯(かみしょうようさんごうしもつとう)) の 効能・効果 と 副作用<span style="font-size: large;"><b>『漢方 新一般用方剤と医療用方剤の精解及び日中同名方剤の相違』</b></span><br />
愛新覚羅 啓天 愛新覚羅 恒章 <br />
文苑刊<br />
<br />
p.32<br />
<ruby><rb>加味逍遙散加川芎地黄</rb><rp>(</rp><rt>かみしょうようさんかせんきゅうじおう</rt><rp>)</rp></ruby><br />
(別名:<ruby><rb>加味逍遙散合四物湯</rb><rp>(</rp><rt>かみしょうようさんごうしもつとう</rt><rp>)</rp></ruby>)<br />
《太平恵民和剤局方》<br />
<br />
[成分]:柴胡3(6)g、当帰3~4(6)g、芍薬3~4(白芍6)g、茯苓3(6)g、白朮3(6)g、甘草1.5~2(炙甘草3)g、生姜1~2(焼生姜3)g、薄荷1(1)g、牡丹皮2(3)g、山梔子2(炒山梔3)g、地黄3~4(熟地黄6)g、川芎3~4(6)g<br />
<br />
[用法]:湯剤とする。1日1剤で、1日量を3回に分服する。 <br />
<br />
[効能]:疏肝清熱、養血健脾<br />
<br />
[主治]:肝鬱化熱、血虚脾弱<br />
<br />
[症状]:頭痛、目赤、顔赤、口渇、怒りやすい、煩躁、疲れ、立ち眩み、皮膚の乾燥、月応不順、経期或いは月経後期の腹痛など。舌色が淡、舌苔が薄白、脈が弦虚。<br />
<br />
[説明]:<br />
本方は疏肝清熱と養血健脾の効能を持っており、肝鬱化熱と血虚脾弱の病気を治療することができる。<br />
本方は加味逍遙散と四物湯の合方である。<br />
本方に含まれている加味逍遙散(柴胡、当帰、白芍、茯苓、白朮、炙甘草、生姜、薄荷、牡丹皮、山梔子)は疏肝清熱し養血健脾し、四物湯(熟地黄、当帰、白芍、川芎)は補血活血する。加味逍遙散でも四物湯でも当帰と白芍がある。<br />
本方は白朮を蒼朮に替えても厚生労働省に許可されている。本方は'74年厚生省が承認したものより、当帰を3gから3~4gに、芍薬を3gから3~4gに、川芎を3gから3~4gに、地黄を3gから3~4gに、乾生姜1gを生姜1~2gに変え、方剤名を加味逍遙散合四物湯から加味逍遙散加川芎地黄に変えている。また、白朮を蒼朮に替えても許可することが増やされている。本方は医療用漢方方剤と保険適用薬でもある。<br />
日本と中国の同名方剤を比べると、中国体使用されている加味逍遙散加川芎地黄は薄荷以外の生薬の薬量が多いので総合的に効能が強い。<br />
臨床応用は徐佩芳:丹梔逍遙散合四物湯治療難性蕁麻疹28例、泰山医学院学報1991 13(4)。<br />
肝鬱化熱と血虚脾弱の型に属するうつ病、不眠症、自律神経失調症、メニエール病、神経症、乳腺小葉増殖、月経前期緊張症、更年期障害、肝炎、肝斑、骨盤内炎症性疾患、貧血、特異性血小板減少症、蕁麻疹などの治療には本方を参考とすることができる。<br />
<br />
<br />
<br />
<span style="font-size: large;"><b>『薬局製剤 漢方212方の使い方』<span style="font-size: small;"> 第4版</span></b></span><br />
埴岡 博・滝野 行亮 共著<br />
薬業時報社 刊<br />
<br />
<span style="font-size: large;"><b><u>K25. <ruby><rb><ruby>加味逍遙散合四物湯<rt></rt></ruby></rb><rp>(</rp><rt>かみしょうようさんごうしもつとう</rt><rp>)</rp></ruby></u></b></span><br />
<br />
<b>出典</b><br />
浅田宗伯先生(1815~1894)の著物<ruby><rb>勿誤</rb><rp>(</rp><rt>ふつご</rt><rp>)</rp></ruby>薬室方函口訣の加味逍遙散條に『男子婦人遍身に疥癬のようなものができて、かゆくてたまらずいろんな治療をして効かないものに,この処方に四物湯を合して効くときがある』の記載がある。<br />
<br />
<b>構成</b><br />
四物湯は当帰,芍薬,川芎,地黄で構成されている。加味逍遙散の中にはすでに当帰,芍薬があるので,2方の合方といっても,単に川芎,地黄を加味するだけでよい。皮膚病に四物湯が効くことは黄解散との合方の温清飲や,当帰飲子などでよく理解される。加味逍遙散もまた地骨皮,荊芥などを加味して鵞掌風(進行性指掌角皮症)などに応用されている。<br />
<br />
<b>目標</b><br />
加味逍遙散と言えばただちち神経質な婦人を連想する。このような虚証の婦人あるいは男子でも悪液質の人の皮膚病,ことに面疱,肝斑によく用いられる。<br />
湿疹一般にも用いられるが,急性のものではなく亜急性または慢性の皮膚炎で滲出が少なく結痂も作らず,乾燥性体rかゆみのはげしいものに良い。<br />
また,化粧かぶれにつづく再発性顔面皮膚炎や,その後のリール氏黒皮症にも奏効する。ただ痩せ型の栄養のわるい人という条件と,すくなくとも1年以上の長期間にわたっての服薬を必要とすることを忘れてはならない。<br />
<br />
<b>応用</b><br />
(1) 肝斑,リール黒皮症,にきび,雀斑。<br />
(2) 女子顔面再発性皮膚炎,慢性湿疹。<br />
(3) 進行性指掌角皮症。<br />
不眠症,不眠症に随伴する驚悸症,心悸亢進,気鬱症,胃障害,神経症。<br />
<br />
<b>留意点</b><br />
◎にきびに当帰芍薬散加薏苡仁,桂枝茯苓丸加薏苡仁が常識であるが,これらが効かない場合,本方で奏効する場合が多い。<br />
◎甘いものが好き,水分をよく飲む,という人には本方が使われる機会が多い。どちらも禁止することが治る早道である。<br />
◎地黄は胃障害や,じんましんの原因になることが報告されているが,本方に組み込まれた場合はあまりその例は聞かない。もしも,そのようなことがあれば本方の証でないことの証明でもある。<br />
<br />
<b>文献</b>1.浅田宗伯・勿誤薬室方函口訣(明11)46丁オ<br />
2.大塚敬節ら・漢方診療の実際(昭29)P.275~276<br />
3.細野史太ら・漢方治療の方証吟味(昭53)P.418,576,582,597,612,618,636,651<br />
<br />
<br />
<b>K25 加味逍遙散合四物湯</b><br />
〔<b>成分・分量</b>〕<br />
当帰 3.0<br />
芍薬 3.0<br />
柴胡 3.0<br />
茯苓 3.0<br />
白朮 3.0<br />
川芎 3.0<br />
地黄 3.0<br />
甘草 1.5<br />
牡丹皮 2.0<br />
山梔子 2.0<br />
生姜(干) 1.0<br />
薄荷 1.0<br />
以上12味 28.5<br />
カット。500→250煎<br />
<br />
〔<b>効能・効果</b>〕<br />
皮膚が枯燥し,色つやの悪い体質虚弱な婦人で胃腸障害はなく,肩がこり,疲れやすく精耳;安などの精神神経症状ときに便秘の傾向のある次の諸症:冷え症,虚弱体質,月経不順,月経困難,更年期障害,血の道症,湿疹,しみ<br />
<br />
〔<b>ひとこと</b>〕<br />
●遍身に疥癬のような皮膚炎を起し,とても痒いものを治すという(浅田口訣)<br />
●甘草は炙る。<br />
<br />
<br />
<span style="font-size: large;">『改訂 一般用漢方処方の手引き』</span> <br />
監修 財団法人 日本公定書協会<br />
編集 日本漢方生薬製剤協会 <br />
<br />
<span style="font-size: large;">加味逍遙散加川芎地黄(加味逍遙散合四物湯)</span><br />
(かみしょうようさんかせんきゅうじおう<br />
(かみしょうようさんごうしもつとう)) <br />
<br />
<b>成分・分量</b><br />
当帰3~4,芍薬3~4,白朮3(蒼朮も可),茯苓3,柴胡3,川芎3~4,地黄3~4,甘草1.5~2,牡丹皮2,山梔子2,生姜1~2,薄荷葉1<br />
<br />
<b>用法・用量</b><br />
湯<br />
<br />
<b>効能・効果</b><br />
体力中等度以下で,皮膚があれてかさかさし,ときに色つやが悪く,胃腸障害はなく,肩がこり,疲れやすく精神不安やいらだちなどの精神神経症状,ときにかゆみ,便秘の傾向のあるものの次の諸症:湿疹・皮膚炎,しみ,冷え症,虚弱体質,月経不順,月経困難,更年期障害,血の道症<b><span style="font-size: xx-small;">注)</span></b><br />
胃腸が虚弱なものの次の諸症:神経症,不眠症<br />
<b>«備考»</b><br />
注) 血の道症とは,月経,妊娠,出産,産後,更年期など女性のホルモン変動に伴って現れる精神不安やいらだちなどの精神神経症状および身体症状のことである。<br />
【注)表記については,効能・効果欄に記載するのではなく,<効能・効果に関連する注意>として記載する。<br />
<br />
<b>原典</b> 本朝経験方<br />
<br />
<b>出典</b><br />
<br />
<b>解説</b><br />
加味逍遙散と四物湯を合方した処方である。加味逍遙散に川芎と地黄を加えた処方で,主に婦人の頑固な皮膚病に用いられる。胃腸虚弱で下痢しやすいもの,本方を服用して食欲減退するものには用いてはならない。
<style>
table {
border-collapse: collapse;
}
th {
border: solid 1px #666666;
color: #000000;
background-color: #FFFFFF;
}
td {
border: solid 1px #666666;
color: #000000;
background-color: #ffffff;
}
thead th {
background-color: #FFFFFF;
}
</style>
<br />
<table>
<thead>
<tr>
<th></th>
<th>生薬名
</th>
<th>当帰
</th>
<th>芍薬
</th>
<th>朮
</th>
<th>白朮
</th>
<th>茯苓
</th>
<th>柴胡
</th>
<th>川芎
</th>
<th>地黄
</th>
<th>熟地黄
</th>
<th>甘草
</th>
<th>牡丹皮
</th>
<th>丹皮
</th>
<th>山梔
</th>
<th>山梔子
</th>
<th>梔子
</th>
<th>乾生姜
</th>
<th>生姜
</th>
<th>乾姜
</th>
<th>薄荷葉
</th>
<th>薄荷
</th>
<th>用法・用量
</th>
</tr>
</thead>
<tbody>
<tr>
<th>厚生省内規 加味逍遙散
</th>
<td></td>
<td>3
</td>
<td>3
</td>
<td>3
</td>
<td>-
</td>
<td>3
</td>
<td>3
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>1.5~2
</td>
<td>2
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>2
</td>
<td>-
</td>
<td>1
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>1
</td>
<td>-
</td>
<td>*1
</td>
</tr>
<tr>
<th>厚生省内規 四物湯
</th>
<td></td>
<td>3~4
</td>
<td>3~4
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>3~4
</td>
<td>3~4
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>*2
</td>
</tr>
<tr>
<th>処方分量集
</th>
<td></td>
<td>3
</td>
<td>3
</td>
<td>-
</td>
<td>3
</td>
<td>3
</td>
<td>3
</td>
<td>3
</td>
<td>-
</td>
<td>3
</td>
<td>2
</td>
<td>2
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>2
</td>
<td>1
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>1
</td>
<td></td>
</tr>
<tr>
<th rowspan="2">診療の実際
</th>
<td rowspan="2">注1
</td>
<td>3
</td>
<td>3
</td>
<td>3
</td>
<td>-
</td>
<td>3
</td>
<td>3
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>1.5
</td>
<td>2
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>2
</td>
<td>-
</td>
<td>2
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>1
</td>
<td rowspan="2">*3
</td>
</tr>
<tr>
<td>3
</td>
<td>3
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>3
</td>
<td>-
</td>
<td>3
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
</tr>
<tr>
<th rowspan="2">診療医典
</th>
<td rowspan="2">注2
</td>
<td>3
</td>
<td>3
</td>
<td>-
</td>
<td>3
</td>
<td>3
</td>
<td>3
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>2
</td>
<td>2
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>2
</td>
<td>1
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>1
</td>
<td rowspan="2">*4
</td>
</tr>
<tr>
<td>3
</td>
<td>3
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>3
</td>
<td>3
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
</tr>
<tr>
<th>症候別治療
</th>
<td></td>
<td>3
</td>
<td>3
</td>
<td>3
</td>
<td>-
</td>
<td>3
</td>
<td>3
</td>
<td>3
</td>
<td>3
</td>
<td>-
</td>
<td>1.5
</td>
<td>2
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>2
</td>
<td>-
</td>
<td>2
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>1
</td>
<td>*5
</td>
</tr>
<tr>
<th>処方解説
</th>
<td>注3
</td>
<td>3
</td>
<td>3
</td>
<td>-
</td>
<td>3
</td>
<td>3
</td>
<td>3
</td>
<td>3
</td>
<td>3
</td>
<td>-
</td>
<td>1.5
</td>
<td>-
</td>
<td>2
</td>
<td>2
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>1
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>1
</td>
<td>-
</td>
<td>*6
</td>
</tr>
<tr>
<th rowspan="2">後世要方解説
</th>
<td rowspan="2">注4
</td>
<td>3
</td>
<td>3
</td>
<td>-
</td>
<td>3
</td>
<td>3
</td>
<td>3
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>1.5
</td>
<td>2
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>2
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>1.5
</td>
<td>-
</td>
<td>1
</td>
<td rowspan="2">*7
</td>
</tr>
<tr>
<td>4
</td>
<td>4
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>4
</td>
<td>-
</td>
<td>4
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
</tr>
<tr>
<th>漢方百話
</th>
<td></td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td></td>
</tr>
<tr>
<th rowspan="2">応用の実際
</th>
<td rowspan="2">注5
</td>
<td>3
</td>
<td>3
</td>
<td>3
</td>
<td>-
</td>
<td>3
</td>
<td>3
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>2
</td>
<td>2
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>2
</td>
<td>2
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>1
</td>
<td rowspan="2">*8
</td>
</tr>
<tr>
<td>4
</td>
<td>4
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>4
</td>
<td>4
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
</tr>
<tr>
<th>明解処方
</th>
<td></td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td></td>
</tr>
<tr>
<th>改訂処方集
</th>
<td></td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td></td>
</tr>
<tr>
<th>漢方入門講座
</th>
<td></td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td></td>
</tr>
<tr>
<th>漢方医学
</th>
<td>注6
</td>
<td>3
</td>
<td>3
</td>
<td>-
</td>
<td>3
</td>
<td>3
</td>
<td>3
</td>
<td>0
</td>
<td>0
</td>
<td>-
</td>
<td>2
</td>
<td>2
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>2
</td>
<td>-
</td>
<td>2
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>1
</td>
<td>*9
</td>
</tr>
<tr>
<th>精撰百八方
</th>
<td></td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td></td>
</tr>
<tr>
<th>古方要方解説
</th>
<td></td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td></td>
</tr>
<tr>
<th>成人病の漢方療法
</th>
<td>注7
</td>
<td>3
</td>
<td>3
</td>
<td>3
</td>
<td>-
</td>
<td>3
</td>
<td>3
</td>
<td>0
</td>
<td>0
</td>
<td>-
</td>
<td>2
</td>
<td>2
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>2
</td>
<td>-
</td>
<td>1
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>1
</td>
<td>*10
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
<br />
〔注〕 合方の場合は数量の多い方を取る。たとえば3~4では4。<br />
*1 漢方製剤等(一般用医薬品)の取り扱いについて(その一)記載。<br />
*2 漢方製剤等(一般用医薬品)の取り扱いについて(その一)記載。<br />
*3 加味逍遙散(上段)と四物湯(下段)の合方。<br />
*4 加味逍遙散(上段)と四物湯(下段)の合方。<br />
*5 加味逍遙散に川芎,地黄各3を加える。<br />
*6 加味逍遙散に四物湯の合方。すなわち川芎と地黄を各3加える。<br />
*7 加味逍遙散(上段)に四物湯(下段)を合方。<br />
*8 加味逍遙散(上段),四物湯(下段)を合して。<br />
*9 加味逍遙散加地黄川芎。 <br />
*10 加味逍遙散。症状により地黄・川芎を加味する。<br />
<br />
注1 湿疹:虚証の婦人に多く見られる慢性湿疹で,貧血の傾向があり、発疹の状態は滲出液が少なく結痂を作らず,乾燥して瘙痒を訴えるものによい。<br />
面疱:この方も貧血性,あるいは悪液質性の人によく用いられる。 <br />
<br />
注2 五十肩(肩関節周囲炎):夜間,床に入ると,手がだるく痛み,あるいは蒲団に入れていると煩熱し,蒲団から出すと冷えて痛み,手のおきどころがなく,安眠のできないものに用いる。婦人に多くみられる。<br />
湿疹:虚弱の婦人で,貧血気味,慢性化し,分泌物も少なく,乾燥性で痒みを覚えるというものには本方がよい。<br />
肝斑(しみ):虚弱貧血性の婦人で,更年期近くになって現われたものに本方で快方に向うものがある。<br />
鞏皮症:虚証の婦人に発したもので,内分泌障害や神経症状のあるものに長期に服用させるとよいことがある。<br />
<br />
注3 頑固な婦人病,湿疹には四物湯の合方,すなわち川芎と地黄を各3.0加える。<br />
<br />
注4 婦人の皮膚病で諸薬の応じないものに,四物湯を合方してよいことがある。<br />
<br />
注5 加味逍遙散は花物湯と合して湿疹などの皮膚病に用いられる。<br />
<br />
注6 加味逍遙散加地黄川芎として記載<br />
五十肩:注2の五十肩と同文。<br />
肝斑(しみ).月経不順,疲労惓怠,肩こり,頭痛などがあって大便の快通しないものによい。地黄,川芎を加えてよいことがある。<br />
黒皮症:この方の効くものがある。<br />
<br />
注7 加味逍遙散:皮膚の病気,貧血ぎみの足腰が冷える虚弱体質の婦人で,湿疹が慢性化して乾燥し,痒みのあるものに用いる。腹診すると,軽い胸脇苦満を認めることがある。本方は肝機能の障害で発生する肝斑にもよく用いられ,また症状により,地黄,川芎,荊芥,地骨皮などを加える。足腰が冷える虚弱タイプの婦人の慢性蕁麻疹に用いられる。症状により,地黄,川芎を加味する。<br />
<br />
<br />
<span style="font-size: large;"><b>『漢方処方・方意集』</b></span> 仁池米敦著 たにぐち書店刊<br />
p.62 加味逍遙散合四物湯<br />
[<b>薬局製剤</b>] 当帰3 芍薬3 柴胡3 茯苓3 白朮3 川芎3 地黄3 牡丹皮2 山梔子2 甘草1.5 生姜1 薄荷1 以上の切断又は粉 以上の切断又は粉砕した生薬をとり、1包として製する。<br />
<br />
«経験方» 当帰3 芍薬3 柴胡3 茯苓3 白朮3 川芎3 熟地黄3 牡丹皮2 山梔子2 甘草1.5 乾生姜1 薄荷葉1 葉荷葉以外を煎じ、煎じ終わる数分前に薄荷葉を加え煎じて服用する。<br />
<br />
【方意】血と津液を補って瘀血と風邪と虚熱を除き、肝胆と脾胃を調えて、血と気の行りを良くし上逆した気を降ろし精神を安定し、血の道や皮膚病などに用いる方。<br />
<br />
【適応】 <ruby><rb>遍身</rb><rp>(</rp><rt>へんしん</rt><rp>)</rp></ruby>(全身のこと)に<ruby><rb>疥癬</rb><rp>(</rp><rt>かいせん</rt><rp>)</rp></ruby>(主に皮膚の薄いところが痒くて発疹するもの)の如きを発し<ruby><rb>甚</rb><rp>(</rp><rt>はなは</rt><rp>)</rp></ruby>だしく痒い者・<ruby><rb>瘡瘍</rb><rp>(</rp><rt>そうよう</rt><rp>)</rp></ruby>(皮膚疾患の総称)・皮膚病(<ruby><rb>疥癬</rb><rp>(</rp><rt>かいせん</rt><rp>)</rp></ruby>の如きもの・湿疹・アトピー性皮膚炎などの症状)・手掌角化症・主婦湿疹・シミ(<ruby><rb>肝斑</rb><rp>(</rp><rt>かんぱん</rt><rp>)</rp></ruby>)・水虫・爪が<ruby><rb>割</rb><rp>(</rp><rt>わ</rt><rp>)</rp></ruby>れる者・バセドウ病・肝の病・月経の異常・血の道など。<br />
<br />
[原文訳]«勿誤薬室方函口訣»<br />
○男子や婦人が、<ruby><rb>遍身</rb><rp>(</rp><rt>へんしん</rt><rp>)</rp></ruby>に<ruby><rb>疥癬</rb><rp>(</rp><rt>かいせん</rt><rp>)</rp></ruby>の如きものを發し、<ruby><rb>甚</rb><rp>(</rp><rt>はなは</rt><rp>)</rp></ruby>だしく痒く諸治の効がなき者は、加味逍遙散に四物湯を合方して験あり。<br />
<br />
<br />
<br />
<b>【添付文書等に記載すべき事項】</b><br />
<span style="border: medium solid;"> してはいけないこと </span><br />
(守らないと現在の症状が悪化したり、副作用が起こりやすくなる)<br />
<b>1.次の人は服用しないこと</b><br />
生後3ヵ月未満の乳児。<br />
〔生後3ヵ月未満の用法がある製剤に記載すること。〕<br />
<br />
<br />
<span style="border: medium solid;"> 相談すること </span> <br />
<b> 1.次の人は服用前に医師、薬剤師又は登録販売者に相談すること</b><br />
(1)医師の治療を受けている人。<br />
(2)妊婦又は妊娠していると思われる人。<br />
(3)体の虚弱な人(体力の衰えている人、体の弱い人)。<br />
(4)胃腸の弱い人。<br />
(5)高齢者。<br />
〔1日最大配合量が甘草として1g以上(エキス剤については原生薬に換算して1g以<br />
上)含有する製剤に記載すること。〕<br />
(6)今まで薬などにより発疹・発赤、かゆみ等を起こしたことがある人。<br />
(7)次の症状のある人。<br />
むくみ<br />
〔1日最大配合量が甘草として1g以上(エキス剤については原生薬に換算して1g以<br />
上)含有する製剤に記載すること。〕<br />
(8)次の診断を受けた人。<br />
高血圧、心臓病、腎臓病<br />
〔1日最大配合量が甘草として1g以上(エキス剤については原生薬に換算して1g以<br />
上)含有する製剤に記載すること。〕<br />
<br />
<br />
<b>2.服用後、次の症状があらわれた場合は副作用の可能性があるので、直ちに服用を中止し、この文書を持って医師、薬剤師又は登録販売者に相談すること</b><br />
<br />
<table border="1" cellpadding="1" cellspacing="1" style="width: 358px;">
<tbody>
<tr>
<td valign="top" width="101">関係部位</td>
<td valign="top" width="252">症状</td></tr>
<tr>
<td valign="top" width="101">皮膚</td>
<td valign="top" width="252">発疹・発赤、かゆみ</td></tr>
<tr>
<td valign="top" width="101">消化器</td>
<td valign="top" width="252">吐き気 ・嘔吐、食欲不振、胃部 不快感、腹痛</td></tr>
</tbody></table>
<br />
<br />
まれに下記の重篤な症状が起こることがある。その場合は直ちに医師の診療を受けること。<br />
<br />
<table border="1" cellpadding="1" cellspacing="1" style="width: 568px;">
<tbody>
<tr>
<td valign="top" width="148">症状の名称</td>
<td valign="top" width="415">症状</td></tr>
<tr>
<td valign="top" width="148">偽アルドステロン症、<br />
ミオパチー</td>
<td valign="top" width="415">手足のだるさ、しびれ、つっぱり感やこわばりに加えて、脱力感、筋肉痛があらわれ、徐々に強くなる。</td></tr>
</tbody></table>
〔1日最大配合量が甘草として1g以上(エキス剤については原生薬に換算して1g以上)<br />
含有する製剤に記載すること。〕<br />
<br />
<br />
<b>3.服用後、次の症状があらわれることがあるので、このような症状の持続又は増強が見られた場合には、服用を中止し、この文書を持って医師、薬剤師又は登録販売者に相談すること</b><br />
下痢<br />
<br />
<b>4.1ヵ月位服用しても症状がよくならない場合は服用 を中止し、この文書を持って医師、薬剤師又は登録販売者に相談すること</b><br />
<br />
<br />
<b><b>5.</b>長期連用する場合には、医師、薬剤師又は登録販売者に相談すること</b><br />
〔1日最大配合量が甘草として1g以上(エキス剤については原生薬に換算して1g以上)含有する製剤に記載すること。〕<br />
〔効能又は効果に関連する注意として、効能又は効果の項目に続けて以下を記載すること。〕<br />
血の道症とは、月経、妊娠、出産、産後、更年期など女性のホルモンの変動に伴って現れ る精神不安やいらだちなどの精神神経症状および身体症状のことである。<br />
<br />
<br />
〔用法及び用量に関連する注意として、用法及び用量の項目に続けて以下を記載すること。〕<br />
(1) 小児に服用させる場合には、保護者の指導監督のもとに服用させること。<br />
〔小児の用法及び用量がある場合に記載すること。〕<br />
(2)〔小児の用法がある場合、剤形により、次に該当する場合には、そのいずれかを記載すること。〕<br />
1)3歳以上の幼児に服用させる場合には、薬剤がのどにつかえることのないよう、よく注意すること。<br />
〔5歳未満の幼児の用法がある錠剤・丸剤の場合に記載すること。〕<br />
2)幼児に服用させる場合には、薬剤がのどにつかえることのないよう、よく注意すること。<br />
〔3歳未満の用法及び用量を有する丸剤の場合に記載すること。〕<br />
3)1歳未満の乳児には、医師の診療を受けさせることを優先し、やむを得ない場合にのみ<br />
服用させること。<br />
〔カプセル剤及び錠剤・丸剤以外の製剤の場合に記載すること。なお、生後3ヵ月未満の用法がある製剤の場合、「生後3ヵ月未満の乳児」を<span style="border: medium solid;"> してはいけないこと </span>に記載し、用法及び用量欄には記載しないこと。〕<br />
<br />
<br />
保管及び取扱い上の注意<br />
(1)直射日光の当たらない(湿気の少ない)涼しい所に(密栓して)保管すること。<br />
〔( )内は必要とする場合に記載すること。〕<br />
(2)小児の手の届かない所に保管すること。<br />
(3)他の容器に入れ替えないこと。(誤用の原因になったり品質が変わる。)<br />
〔容器等の個々に至適表示がなされていて、誤用のおそれのない場合には記載しなくてもよい。〕<br />
<br />
【外部の容器又は外部の被包に記載すべき事項】<br />
注意<br />
1.次の人は服用しないこと<br />
(1)生後3ヵ月未満の乳児。<br />
〔生後3ヵ月未満の用法がある製剤に記載すること。〕<br />
2.次の人は服用前に医師、薬剤師又は登録販売者に相談すること<br />
(1)医師の治療を受けている人。<br />
(2)妊婦又は妊娠していると思われる人。<br />
(3)体の虚弱な人(体力の衰えている人、体の弱い人)。<br />
(4)胃腸が弱く下痢しやすい人。<br />
(5)高齢者。<br />
〔1日最大配合量が甘草として1g以上(エキス剤については原生薬に換算して1g以 上)含有する製剤に記載すること。〕<br />
(6)今までに薬などにより発疹・発赤、かゆみ等を起こしたことがある人。<br />
(7)次の症状のある人。<br />
むく み<br />
〔1日最大配合量が甘草として1g以上(エキス剤については原生薬に換算して1g以 上)含有する製剤に記載すること。〕<br />
(8)次の診断を受けた人。<br />
高血圧、心臓病、腎臓病<br />
〔1日最大配合量が甘草として1g以上(エキス剤については原生薬に換算して1g以 上)含有する製剤に記載すること。〕 <br />
2´.服用が適さない場合があるので、服用前に医師、薬剤師又は登録販売者に相談すること 〔2.の項目の記載に際し、十分な記載スペースがない場合には2´.を記載すること。〕<br />
4.服用に際しては、説明文書をよく読むこと<br />
5.直射日光の当たらない(湿気の少ない)涼しい所に(密栓して)保管すること<br />
〔( )内は必要とする場合に記載すること。<br />
<br />
〔効能又は効果に関連する注意として、効能又は効果の項目に続けて以下を記載すること。〕<br />
血の道症とは、月経、妊娠、出産、産後、更年期など女性のホルモンの変動に伴って現れる<br />
精神不安やいらだちなどの精神神経症状および身体症状のことである。 <br />
<br />Unknownnoreply@blogger.com0tag:blogger.com,1999:blog-6827912320235733185.post-53172118303057262492015-10-04T16:35:00.000+09:002016-03-06T11:43:31.663+09:00加味温胆湯(かみうんたんとう) の 効能・効果 と 副作用<span style="font-size: large;">『<b>漢方精撰百八方</b>』</span><br />
95.〔加味温胆湯〕(かみうんたんとう)<br />
〔出典〕千金方<br />
<br />
〔処方〕半夏5.0 茯苓4.0 竹筎、陳皮 各3.0 枳実、甘草、遠志、玄参、人参、地黄、酸棗仁、大棗、生姜 各2.0<br />
<br />
〔目標〕不眠に用いる処方で、平素、胃腸が弱く、胃アトニーや胃下垂のある人や、或いは大熱、大病のあとで、胃腸の機能が衰えた人が、元気が回復せず、気が弱くなって些細なことに驚いたり、何でもないことに胸騒ぎがして、息がはずんだり、動悸がしたりし、気分は憂鬱で、夜はよく眠れない。また、たまたま眠れば、夢ばかりみて、起きてから眠ったという満足感がなく、自然に汗が出たり、寝汗が出たり、頭からばかり汗がでたりしやすい。<br />
食欲はなく、腹部は、心下部に振水音があったり、臍傍の動悸が亢進したりする。<br />
<br />
〔かんどころ〕「虚煩して眠るを得ず」というところがつけめである。体が衰弱して苦しく、そのために眠れないのが本方の不眠である。そこで、大病のあと、慢性病患者などの不眠に用いる。<br />
<br />
〔応用〕神経症、不眠症、胃下垂症、胃アトニー症、衰弱による虚煩等<br />
<br />
〔治験〕衆方規矩に、次のような面白い治験がある。<br />
ある人が主君と口論したため、閉門になって1年以上も家に閉じこもっていたところ、熱感があって苦しく、腹が張って嘔吐し、夜は眠れないようになった。他の医者はみな、陰虚大動だといって治療したが、なかなか治らなかった。自分は、気鬱により痰飲を生じたからだと思って、加味温胆湯に黄連を加えて用いたところ、病状がよくなった。<br />
山田は、虚弱体質の人、衰弱した人の不眠には、本方を用いてよい結果を得ている。<br />
著明な治験例は、漢方で治る病気の第1集(34頁)にあるから参照されたい。<br />
附記方 加味温胆湯加黄連、加味温胆湯に黄連1.0~2.0を加える。<br />
山田光胤<br />
<br />
<br />
<span style="font-size: large;">『<b>和漢薬方意辞典</b>』</span> 中村謙介著 緑書房 <br />
<b><span style="font-size: large;"><ruby>加味温胆湯<rt>かみうんたんとう</rt></ruby> </span></b> [衆方規矩] <br />
<br />
<b>【方意】</b> <span style="background-color: #999999;">上焦の熱</span><span style="background-color: #999999;">証による精神症状</span>としての心煩・不眠・神経過敏・易驚・抑鬱気分等と、<span style="background-color: #999999;">脾胃の水毒</span>による上腹部振水音・心下痞・食欲不振等のあるもの。 <br />
《少陽病.虚実中間からやや虚証》<br />
<br />
<b>【自他覚症状の病態分類】</b> <br />
<table border="1" cellpadding="1" cellspacing="1" style="width: 544px;"><tbody>
<tr> <td valign="top" width="19"><br /></td> <td valign="top" width="141">上焦の熱証による<br />
精神症状</td> <td valign="top" width="126">脾胃の水毒</td> <td valign="top" width="125"><br /></td> <td valign="top" width="125"><br /></td> </tr>
<tr> <td valign="top" width="19">主証 </td> <td valign="top" width="141">◎心煩<br />
◎不眠<br />
◎神経過敏<br />
◎易驚<br />
◎抑鬱気分<br />
<br /></td><td valign="top" width="126">◎上腹部振水音<br />
◎心下痞 <br />
<br /></td><td valign="top" width="125"><br />
<br />
<br /></td> <td valign="top" width="125"><br /></td> </tr>
<tr> <td valign="top" width="19">客証 </td> <td valign="top" width="141">○息切れ<br />
○動悸<br />
○健忘<br />
○繊憂細慮<br />
疲労倦怠<br />
恐怖 自汗<br />
目眩 卒倒<br />
<br />
<br /></td><td valign="top" width="126">○食欲不振<br />
四肢浮腫<br />
弛緩性体質</td><td valign="top" width="125"><br /></td><td valign="top" width="125"><br /></td></tr>
</tbody></table>
<br />
<br />
<b>【脈候】 </b>やや軟・やや弱。<br />
<br />
<b>【舌候】 </b>やや乾燥して、微白苔から白黄苔。<br />
<br />
<div>
<b>【腹候】 </b>やや軟、上腹部振水音と心下痞塞感がほぼ必発である。<br />
<br />
<b>【病位・虚実】</b> 上焦の熱証が中心的な病態であり少陽病に位する。脈力、腹力よ全虚実中間であるが、疲労倦怠を伴うこともあり、やや虚証にわたる。<br />
<br />
<b>【構成生薬】</b> 半夏6.0 茯苓6.0 陳皮3.0 竹筎3.0 甘草1.5 枳実1.5 生姜1.5 黄連1.0 酸棗仁1.0<br />
<br />
<b>【方解】</b>
二陳湯の半夏・茯苓・陳皮・生姜・甘草に、竹筎・黄連・酸棗仁・枳実の主に寒性の生薬が加味されたものである。二陳湯は脾胃の水毒による上腹部の振水音・悪心・嘔吐・食欲不振を主識。竹筎は微寒性、清涼・解熱・止渇・鎮咳・去痰作用の他、上焦の熱証を冷まし、これより派生する精神症状を鎮静させる。黄連も寒性で上焦の熱証を去る。竹筎・黄連の組合せは鎮静作用が強く、心煩・不眠・神経過敏・易驚・抑鬱気分等の熱証による精神症状を治す。酸棗仁は平、精神疲労を補い、竹筎・黄連に協力する。枳実は寒性、主に気滞を主るが、少量の本方では気のめぐりを改善し、精神症状に有効に働く。<br />
<br />
<b>【方意の幅および応用】</b><br />
A <span style="background-color: #999999;">上焦の熱証による精紳症状</span>+<span style="background-color: #999999;">脾胃の水毒</span>:心煩・不眠・易驚・精神過敏・抑鬱気分・上腹部振水音・心下痞等を目標にする場合。<br />
不眠症、多夢、健忘症、ノイローゼ、鬱病<br />
B <span style="background-color: #999999;">脾胃の水毒</span>:上腹部振水音・心下痞等を目標にする場合。</div>
<div>
慢性胃炎、胃下垂<br />
<b>【参考】</b> *千金方の温胆湯は半夏・茯苓・橘皮・竹筎・甘草・枳実・生姜の七味。大病後虚煩眠るを得ざるを治す。此れ胆寒の故なり。<br />
*病後虚煩て睡臥することを得ず、及び心胆虚怯し、事に触れて驚き易く、短気悸乏するを治す。</div>
<div>
*『千金』の温胆湯は駆痰の剤なり。古人淡飲のことを胆寒と言う。温胆は淡飲を温散するなり。此の方は『霊枢』流水場に根柢して、其の力一層優とす。後世の竹筎温胆湯・清心温胆湯等の祖方なり。</div>
<div>
*癇家の概治は『千金』温胆湯を最とす。凡そ諸症の変出不定の者は、皆肝胆の気鬱に係る。宜しく此の方を主とすべし。而して其の証に眩い、妄りに之を易うる勿れ。『先哲医話』</div>
<div>
*この方の大切な目標は痰である。痰は今日の喀痰の意味ではなく、病的な水の意味である。一般に水毒といわれている。この痰があって、物事に驚きやすく、夢でうなされたり、不吉な夢を見て眠れなかったり、むなさわぎがするというようなものを目標にして、この方を用いる(大塚敬節)。</div>
<div>
*二陳湯は脾胃の水毒が主であり、本方f上焦の熱証による精神症状が主である。</div>
<div>
*本方意の精神症状はオドオドとして不安感が強い。驚きやすくビックリしたように目を大きく見開いていることがある。心配性は帰脾湯のほうが良い。</div>
<div>
*元来胃腸が虚弱で弛緩性体質の者、或いは大病後で体力の回復が十分でない者などの精神症状に有効である。</div>
<br />
<br />
<br />
【症例】 出産後の不眠<br />
28歳、婦人。産後元気が回復せず、蒼い顔をして不眠に悩んでいる。眠ろうとする盗汗が出て、なかなか眠れない。肺結核を疑われて、その方の検査をしたが、異常は発見されなかったという。気分が重くて仕事をする気がしない。二階への階段を上下するとき、息が切れるという。<br />
私はこれに温胆湯加黄連酸棗仁(つまり加味温胆湯)を用いたが、10日分を飲み終わらないうちに、盗汗が止み、5時間ほど熟睡ができるようになった。続いて1ヵ月ほど飲むと、血色も良くなり、息切れもなくなり、仕事も楽しくできるようになり、安眠を得るようになった。<br />
大塚敬節 『症候による漢方治療の実際』 32<br />
<br />
眩暈・動悸・不眠<br />
箕輪亀山老侯は、歳40余。かつて、御奏者番を勤めていた時、宮中で眩暈(何に何かかぶさっているようで、目眩がする)を訴えた。この眩暈は辞職の後も治らず、心下に動悸があり、夜間安眠することができない。その上、時々目眩して卒倒しそうになる。<br />
辻元為春院がこれを数年治療したが、効がないので捨ててあるという。余はこれに『千金方』の温胆湯加黄連酸棗仁を与え、眩暈の時は小烏沈散(烏薬、人参、沈香、甘草からなる方)を服せしめた。すると数十日たって、夜は快眠できるようになり、多年の持病を忘れ、亀山に移住した。<br />
浅田宗伯 『橘窓書影』<br />
<br />
<br />
<span style="font-size: large;"><b>『薬局製剤 漢方212方の使い方』<span style="font-size: small;"> 第4版</span></b></span><br />
埴岡 博・滝野 行亮 共著<br />
薬業時報社 刊<br />
<br />
<span style="font-size: large;"><b><u>K22. <ruby>加味温胆湯<rt>かみうんたんとう</rt></ruby></u></b></span> <br />
<br />
<b>出典</b><br />
万病回春の虚煩の項に加味温胆湯がある。これは本方の一味違いがあって,玄参の代りに五味子が入っている。<br />
玄参の入っている加味温胆湯は「医療衆方規矩大成」に出ている。 <br />
<br />
<b>構成</b><br />
二陳湯に枳実,竹茹を加えたものが温胆湯で,その上に酸棗仁,遠志,五味子,人参,熟地黄を加えると万病回春の加味温胆湯になる。<br />
医療衆方規矩大成の同名方は,五味子に代って玄参が入っているが,これは改版の際の誤記で,玄参であることの意味はない。<br />
加味された遠志,五味子,人参,熟地黄はいずれも栄養剤で,しかも精神安定作用をもっている。温胆湯よりも体の弱い人によい。<br />
<br />
<b>目標</b><br />
現代の眠剤が,ほとんど要指示薬であるため,漢方薬で何かないかと同業者や製薬会社によく質問をうける。<br />
漢方では,その病情によって瀉心湯,酸棗仁湯,柴胡加竜骨牡蛎湯,抑肝散などを使いわけるので,単一の処方を推賞することはできないが,ひと口で言って陽性の精神不安は瀉心湯,怒りっぽいのは抑肝散,驚き易いのは柴胡竜牡,そして陰症で精神不安ていどなら温胆湯や酸棗仁湯,驚悸が加われば加味温胆湯となる。<br />
酸棗仁湯は原方では15gもの酸棗仁を使っている。相当大量なので胃腸障害を起し易くやむを得ず半量ていどに減ずるが,そうすると,こんどは効きめがなかったりあるいはかえって眠れなかったりする。<br />
その点,加味温胆湯は胃腸薬が原処方でそれに加味されたものであるから,胃腸虚弱な人にも安心して使える。 <br />
<br />
<b>応用</b><br />
不眠症,不眠症に随伴する驚悸症,心悸亢進,気鬱症,胃障害,神経症。<br />
<br />
<b>留意点</b><br />
◎指針の処方は玄参があって五味子がない。これは,すみやかに五味子の入っている回春の処方に改めるべきである。<br />
◎酸棗仁が黒いものと赤いものがある。黒は北方産,赤は南方産という。古来,黒いものをえらぶことになっている。<br />
◎また酸棗仁は必ず炒って使わなければならない。炒って使えば催眠に,炒らないものは覚醒にと用途がちがう。<br />
◎地黄は熟地黄を使う。<br />
◎竹茹は,ともすれば竹細工の削りかすを混じる。とくに薬用として製造されたものを厳選する。<br />
◎枳実は香気のあるものを使う。異臭があって黒いものは乾燥前あるいは乾燥中に腐敗したものである。<br />
<br />
<b>文献</b><br />
1.万病回春(香港・医林書局版) 上巻p.233<br />
2.医療衆方規矩大成 (寛政-天保年間。吉文字屋版) 112丁<br />
3.校正衆方規矩 (寛保2年・万屋作右衛門板) 下巻5丁表<br />
<br />
<br />
<b>K22 加味温胆湯</b><br />
〔<b>成分・分量</b>〕<br />
半夏 5.0<br />
茯苓 4.0<br />
陳皮 3.0<br />
竹茹 3.0<br />
酸棗仁 2.0<br />
玄参 2.0<br />
遠志 2.0<br />
人参 2.0<br />
地黄 2.0<br />
大棗 2.0<br />
枳実 2.0<br />
生姜(干) 2.0<br />
甘草 2.0<br />
以上13味 33.0<br />
カット。500→250煎<br />
<br />
〔<b>効能・効果</b>〕<br />
胃腸が虚弱なものの次の諸症:神経症,不眠症<br />
<br />
〔<b>ひとこと</b>〕<br />
●黄連1.0-2.0の加味がよいと衆方規矩に載っている。もちろん玄参入りでなく五味子入りである。<br />
<br />
<br />
<br />
<span style="font-size: large;">『改訂 一般用漢方処方の手引き』</span> <br />
監修 財団法人 日本公定書協会<br />
編集 日本漢方生薬製剤協会 <br />
<br />
<span style="font-size: large;">加味温胆湯</span><br />
(かみうんたんとう) <br />
<br />
<b>成分・分量</b><br />
半夏3.5~6,茯苓3~6,陳皮2~3,竹茹2~3,生姜1~2,枳実1~3,甘草1~2,遠志2~3,玄参2(五味子3に変えても可),人参2~3,地黄2~3,酸棗仁1~5,大棗2,黄連1~2(黄連のない場合も可)<br />
遠志,玄参,人参,黄地,大棗のない場合もある。<br />
<br />
<b>用法・用量</b><br />
湯<br />
<br />
<b>効能・効果</b><br />
体力中等度以下で,胃腸が虚弱なものの次の諸症:神経症,不眠症<br />
<br />
<b>原典</b> 万病回春<br />
<br />
<b>出典 </b>医療衆方規矩<br />
<br />
<b>解説</b><br />
本方は温胆湯の加味方であるが,千金方,万病回春,古今医鑑など類似方があって,それをそれぞれひきついでいるため現代の成本には著者によって,同名で構成内容が若干異なる処方が記載されている。<br />
温胆湯に比較して,神経症状の激変しやすいものによく,特に慢性病や大病のあと衰弱して眠れなくなったものを治す効果にすぐれている。<br />
<br />
<style>
table {
border-collapse: collapse;
}
th {
border: solid 1px #666666;
color: #000000;
background-color: #FFFFFF;
}
td {
border: solid 1px #666666;
color: #000000;
background-color: #ffffff;
}
thead th {
background-color: #FFFFFF;
}
</style>
<br />
<table>
<thead>
<tr>
<th></th>
<th>生薬名
</th>
<th>半夏
</th>
<th>茯苓
</th>
<th>陳皮
</th>
<th>竹茹
</th>
<th>乾生姜
</th>
<th>生姜
</th>
<th>枳実
</th>
<th>枳殻
</th>
<th>甘草
</th>
<th>遠志
</th>
<th>玄参
</th>
<th>人参
</th>
<th>地黄
</th>
<th>熟地黄
</th>
<th>酸棗仁
</th>
<th>大棗
</th>
<th>黄連
</th>
<th>五味子
</th>
</tr>
</thead>
<tbody>
<tr>
<th>処方分量集
</th>
<td>注1
</td>
<td>3.5
</td>
<td>3.5
</td>
<td>-
</td>
<td>3
</td>
<td>1
</td>
<td>-
</td>
<td>3
</td>
<td>-
</td>
<td>2
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>3
</td>
<td>2
</td>
<td>-
</td>
<td>3.5
</td>
<td>-
</td>
<td>2
</td>
<td>-
</td>
</tr>
<tr>
<th>診療の実際
</th>
<td></td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
</tr>
<tr>
<th>診療医典
</th>
<td></td>
<td>6
</td>
<td>6
</td>
<td>2.5
</td>
<td>2
</td>
<td>-
</td>
<td>3
</td>
<td>1.5
</td>
<td>-
</td>
<td>1
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>2~5
</td>
<td>-
</td>
<td>1.5
</td>
<td>-
</td>
</tr>
<tr>
<th>症候別治療
</th>
<td>注2
</td>
<td>4
</td>
<td>4
</td>
<td>2
</td>
<td>2
</td>
<td>-
</td>
<td>3
</td>
<td>1.5
</td>
<td>-
</td>
<td>1
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>5
</td>
<td>-
</td>
<td>1.5
</td>
<td>-
</td>
</tr>
<tr>
<th>処方解説
</th>
<td></td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
</tr>
<tr>
<th>後世要方解説
</th>
<td></td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
</tr>
<tr>
<th>漢方百話
</th>
<td>注3
</td>
<td>6
</td>
<td>6
</td>
<td>3
</td>
<td>2
</td>
<td>1
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>1
</td>
<td>1
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>1
</td>
<td>-
</td>
<td>1
</td>
<td>-
</td>
</tr>
<tr>
<th>応用の実際
</th>
<td>注4
</td>
<td>5
</td>
<td>4
</td>
<td>3
</td>
<td>3
</td>
<td>2
</td>
<td>-
</td>
<td>2
</td>
<td>-
</td>
<td>2
</td>
<td>2
</td>
<td>2
</td>
<td>2
</td>
<td>2
</td>
<td>-
</td>
<td>2
</td>
<td>2
</td>
<td>2<span style="font-size: xx-small;">*1</span>
</td>
<td>-
</td>
</tr>
<tr>
<th>明解処方
</th>
<td></td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
</tr>
<tr>
<th>漢方医学
</th>
<td></td>
<td>5
</td>
<td>3
</td>
<td>3
</td>
<td>3
</td>
<td>-
</td>
<td>2
</td>
<td>3
</td>
<td>-
</td>
<td>2
</td>
<td>2
</td>
<td>2
</td>
<td>2
</td>
<td>2
</td>
<td>-
</td>
<td>2
</td>
<td>2
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
</tr>
<tr>
<th>現代入門
</th>
<td></td>
<td>5
</td>
<td>3
</td>
<td>3
</td>
<td>3
</td>
<td>-
</td>
<td>2
</td>
<td>3
</td>
<td>-
</td>
<td>2
</td>
<td>2
</td>
<td>2
</td>
<td>2
</td>
<td>2
</td>
<td>-
</td>
<td>2
</td>
<td>2
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
</tr>
<tr>
<th>精撰百八方
</th>
<td></td>
<td>5
</td>
<td>4
</td>
<td>3
</td>
<td>3
</td>
<td>-
</td>
<td>2
</td>
<td>2
</td>
<td>-
</td>
<td>2
</td>
<td>2
</td>
<td>2
</td>
<td>2
</td>
<td>2
</td>
<td>-
</td>
<td>2
</td>
<td>2
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
</tr>
<tr>
<th>図説東洋医学
</th>
<td></td>
<td>5
</td>
<td>4
</td>
<td>3
</td>
<td>3
</td>
<td>1
</td>
<td>-
</td>
<td>2
</td>
<td>-
</td>
<td>2
</td>
<td>2
</td>
<td>2
</td>
<td>2
</td>
<td>2
</td>
<td>-
</td>
<td>3
</td>
<td>2
</td>
<td>2<span style="font-size: xx-small;">*2</span>
</td>
<td>-
</td>
</tr>
<tr>
<th>黙堂柴田良治処方集
</th>
<td></td>
<td>4
</td>
<td>2
</td>
<td>2
</td>
<td>2
</td>
<td>-
</td>
<td>1
</td>
<td>2
</td>
<td>-
</td>
<td>1
</td>
<td>3
</td>
<td>-
</td>
<td>3
</td>
<td>-
</td>
<td>3
</td>
<td>3
</td>
<td>2
</td>
<td>-
</td>
<td>3
</td>
</tr>
<tr>
<th>漢方処方大成
</th>
<td></td>
<td>5.2
</td>
<td>1.5
</td>
<td>1.8
</td>
<td>2.2
</td>
<td>-
</td>
<td>○
</td>
<td>2.2
</td>
<td>-
</td>
<td>1.5
</td>
<td>1.5
</td>
<td>-
</td>
<td>1.5
</td>
<td>-
</td>
<td>1.5
</td>
<td>1.5
</td>
<td>○
</td>
<td>-
</td>
<td>1.5
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
<br />
<br />
*1 更に加えてよいことがある。<br />
*2 加える場合もある。<br />
○文献に分量の記載なし<br />
<br />
<div>
<span style="border: solid;"> 注1 </span>
上記の生薬に麦門冬3.0,当帰・山梔子各2.0,辰砂1.0が加味された万病回春の処方が記載されている。<br />
<br />
<span style="border: solid;"> 注2 </span>
不眠。</div>
<div>
</div>
<div>
</div>
<span style="border: solid;"> 注3 </span> 胃障害による不眠症。<br />
<br />
<span style="border: solid;"> 注4 </span> 神経症,不眠症,胃下垂症,胃アトニー症,大病後の衰弱による虚煩。<br />
<br />
参考:類似の加味方として,万病回春に竹茹温胆湯※(柴胡5.0,桔梗,陳皮,半夏,竹茹,茯苓各3.0,香附子,人参,黄連各2.0,枳実,甘草,乾生姜各1.0)<br />
千金方に千金温胆湯※(半夏5.0,陳皮3.0,甘草,竹茹各2.0,乾生姜各1.0)。<br />
古今医鑑に清心温胆湯※(半夏,茯苓,陳皮,白朮各3.0,当帰,川芎,芍薬,麦門,遠志,人参,竹茹各2.0,黄連,枳実,香附,菖蒲,甘草各1.0)などがある。<br />
※矢数道明「処方解説」 <br />
熱のある下痢の初期に用いる。このとき,項背がこわばり,心下が痞える。勿誤薬室方函口訣には,小児の下痢によく用いられるとある。また汗が出て,喘鳴を発することもある。<br />
<br />
<span style="border: solid;"> 注5 </span> 原本には葛根を先に煮ることになっている。普通は一諸に煮て用いている。裏の熱がはなはだしく,表熱もあり,表裏の鬱熱によって心下が痞えて下痢し,喘して汗が出,心中悸等の症のあるものに用いる。<br />
<br />
<span style="border: solid;"> 注6 </span> はしか:高熱を出し,咳をして下痢気味のときは葛根黄連黄芩湯を用いる。<br />
<br />
<br />
<span style="font-size: large;"><b>『症状でわかる 漢方療法』</b></span> 大塚敬節著 主婦の友社刊<br />
p.54<br />
▼<大病後、疲れて眠れないもの>…<ruby><rb>温胆湯</rb><rp>(</rp><rt>うんたんとう</rt><rp>)</rp></ruby>、<ruby><rb>加味温胆湯</rb><rp>(</rp><rt>かみうんたんとう</rt><rp>)</rp></ruby>、<ruby><rb>竹茹温胆湯</rb><rp>(</rp><rt>ちくじょうんたんとう</rt><rp>)</rp></ruby><br />
神経過敏になり、ささいなことに驚き、安眠できず、ときに気うつの状となり、あるいは息切れがしたり、食欲不振となるものがある。私は、温胆湯に<ruby><rb>酸棗仁</rb><rp>(</rp><rt>さんそうにん</rt><rp>)</rp></ruby>5g、<ruby><rb>黄連</rb><rp>(</rp><rt>おうれん</rt><rp>)</rp></ruby>1gを加えて加味温胆湯として用いることにしている。竹茹温胆湯は、感冒、流感、肺炎などで、一応、解熱したのち、せきが出て、<ruby><rb>痰</rb><rp>(</rp><rt>たん</rt><rp>)</rp></ruby>が多く、寝苦しくて安眠できないものに用いる。<br />
<br />
p.180 <br />
<br />
<span style="font-size: large;"><b><ruby><rb>加味温胆湯</rb><rp>(</rp><rt>かみうんたんとう</rt><rp>)</rp></ruby></b></span><br />
<ruby><rp>(</rp><rt><br /></rt></ruby><br />
<br />
<br />
<b>処方</b> 温胆湯に、酸棗仁4g、黄連2gを加える。<br />
<br />
<b>目標</b> 温胆湯でも安眠が十分でないもの。<br />
<br />
<b>応用</b> 不眠症。<br />
<br />
<br />
<span style="font-size: large;"><b>『衆方規矩解説(49)』</b></span><br />
日本漢方医学研究所常務理事 杵渕 彰<br />
<br />
<b><span style="font-size: large;">不寝門・怔忡門</span></b><br />
<br />
<br />
本日は、不寝門、怔忡門についてお話しいたします。<br />
まず不寝門ですが、これは不眠についての処方の解説です。このテキストでは三つの薬方が出されており、その加減方が加えられております。不眠という症状
は、漢方医学的にどのように説明されていたのかといいますと、中国隋時代の巣元方という人の『病源候論』に「衛気が夜になっても陽の部分ばかりまわって陰
の部分に入らないためである」と書かれております。このような言い方ではわかりにくいのですが、気持が落着かず、頭が冴えているような状態という程度のこ
とでしょうか。現代生理学で、覚醒時と睡眠時の血行動態の違いがわかっておりますが、このような点と共通するところもあり、興味深いものと思われます。<br />
また、漢方的な不眠の原因としては、五行でいう心熱と胆冷があげられております。五行でいう心とは木・火・土・金・水の火な配当配当究標、笑いとか高揚性
を意味し、胆は肝、木に配当され、怒りとか攻撃性、決断力を意味します。胆の冷えとか、胆の虚は、不安感や脅えのような意味になります。ここで出ている温
胆湯(ウンタントウ)は、名前の通り冷えている胆を温める薬ということです。心熱は気分の高揚した興奮状態です。胆冷は胆虚と表現されることもあります
が、不安、焦燥感の状態と考えられます。<br />
加藤謙斎という江戸時代の医師に『衆方規矩方解』という、このテキストの『衆方規矩』についての解説や、先人の口訣などを集めた本がありますが、それによると不眠は「これが驚悸、怔忡のもとぞ。これらの類いの惣まくりは<a href="http://kenko-hiro.blogspot.com/2010/11/blog-post_23.html">帰脾湯(キヒトウ)</a>に安神丸(アンシンガン)を兼用すべし」とあります。このまま受け取るわけにはゆきませんが、不眠という症状が重視されていたことがうかがわれます。 <br />
このテキストに記載されている薬方は、胆虚の時、病気のあとなどで、虚証になっていて不安、焦燥感が強く、不眠の時に使われるものです。ここには述べられておりませんが、心熱の不眠に使われる薬方は<a href="http://kenko-hiro.blogspot.jp/2012/11/blog-post_13.html">三黄瀉心湯(サンオウシャシントウ)</a>とか、<a href="http://kenko-hiro.blogspot.jp/2011/12/blog-post_17.html">黄連解毒湯(オウレンゲドクトウ)</a>のような黄連(オウレン)剤が主であります。<br />
<br />
■温胆湯<br />
最初は温胆湯(うんたんとう)です。テキストを読みますと「心虚胆怯れ、事に触れて驚き易く、夜不祥の異像を夢みて心驚くことを致し、気鬱して痰涎を生じ、或いは短気、悸乏、自汗、飲食味なく、或いは傷寒一切の病後虚煩して眠臥することを得ざるを治す」とあります。<br />
薬味は「守(半夏(ハンゲ))、陳(陳皮(チンピ))、苓(茯苓(ブクリョウ)、実(枳実(キジツ))各二匁、茹(竹筎(チクジョ))一匁、甘(甘草(カ
ンゾウ)五分。右、姜(生姜(ショウキョウ))、棗(大棗(タイソウ))を入れて煎じ服す」と八味からなっております。後世方の場合、生姜と大棗は数えず
に、これを六味温胆湯(ロクミウンタントウ)ということもあります。<br />
この薬方は中国の南宋、十二世紀後半に陳言が著わした『三因極一病証
方論』という本で、通称『三因方』の虚煩門に収載されている薬方です。同名異方が『肝胆経』虚実寒熱の証治のところに、虚労で起きるめまいや、歩行困難に
使う薬方として出ております。このテキストにあるものと同じ温胆湯の方は、原典では「大病ののち虚煩眠るを得ざるを治す。胆寒ゆるが故なり。この薬これを
主る。また驚悸を治功」となっております。この温胆湯は現在でも使われている薬方ですが、あとに出てくる加減方や加味温胆湯(カミウンタントウ)とともに
使用目標が共通しているところも多いので、あとで一括してお話しいたします。<br />
テキストで次にある「一方」というのは、「胆の虚、痰熱
し、驚悸して眠らざるを治す。前の方に、茯苓を去りて生姜を加う」とあります。これは唐の時代の孫思邈の『千金要方』に記載されているものです。書かれた
時代としては、前の『三因方』よりもさらに前になりますが、茯苓の入っている三因方温胆湯の方が多く使われてきておりますので、このテキストではこちらの
『千金要方』の温胆湯をあとにしているのだと思います。 <br />
テキストではもう一つ「一方」として「痰火ありて驚惕し、眠らざるを治す。驚悸
の症痰火に属して気虚を兼ねる者、宜しく痰火を清しうして以て虚を補うべし」とあり、薬味は「参(人参(ニンジン)、伽(白朮(ビャクジュツ))、神(茯
神(ブクシン))、沂(当帰(トウキ))、[生也](生地黄(ショウジオウ))、酸(酸棗仁(サンソウニン))炒る、門(麦門冬(バクモンドウ)、守(半
夏)、実(枳実)、連(黄連)、茹(竹筎(チクジョ))、丹(山梔子)各等分、辰(辰砂(シンシャ)五分別、甘(甘草)二分。右生姜一片、大棗一ヶ、梅
(烏梅(ウバイ))一ヶ、瀝(竹瀝(チクレキ))を入れて煎じ、辰砂の末を調えて服す」というものが記載されております。これは『万病回春』の驚悸門の温
胆湯で、このテキストにある条文の前半が記載されております。この方も現在しばしば使われておりますが、辰砂、烏梅、竹瀝を去り、生地黄の代わりに乾地黄
(カンジオウ)を使用しております。<br />
<br />
■加味温胆湯<br />
次に加味温胆湯(カミウンタントウ)として「病後
虚煩して睡臥することを得ず。及び心胆虚怯し、事に触れて驚き易く、短気悸乏するを治す。守(半夏(ハンゲ)三匁半、陳(陳皮(チンピ)二匁二分、茹(竹
筎(チクジョ))、実(枳実(キジツ))各一匁半、苓(茯苓(ブクリョウ))、甘(甘草(カンゾウ))各一匁一分、遠(遠志(オンジ))[玄彡](玄参
(ゲンジン)、参(人参(ニンジン))、芐(地黄(ジオウ)、酸(酸棗仁(サンソウニン))炒る、各一匁。右姜(生姜(ショウキョウ))、棗(大棗(タイ
ソウ))を入れて煎じ服す」と述べられております。<br />
これは『万病回春』の虚煩門の加味温胆湯と条文が一致しており、薬味も玄参と五味子が
入れ替わっているだけで一致しております。ただし、このテキストでは生薬名が略字となっておりまして、玄参[玄彡]と五味子(玄)とは間違いやすい字に
なっておりますので、『万病回春』の加味温胆湯とまったく同じものと考えてもよいかもしれません。<br />
<br />
以上、四つの薬方をあげて「按ずるに病後に虚煩して眠らざる者に前の方を選んで数奇を得る」と書かれております。<br />
以上の薬方は『三因方』『千金方』『万病回春』の温胆湯と、やはり『万病回春』の加味温胆湯の四薬方です。これらの薬方の中で、三方以上に共通している生
薬は半夏、陳皮、茯苓、枳実、竹茹、甘草、生姜、大棗の八味と多く、一つの薬方群といえましょう。この一群の薬方のもととなっているのは「虚煩眠るを得ざ
るを主る方」という小品流水湯(ショウヒンリュウスイトウ)であるといわれております。これは半夏、粳米(コウベイ)、茯苓の三味からなるもので、さらに
これは『黄帝内経霊枢』の半夏湯(ハンゲトウ)から出たものといわれております。また別の見方をいたしますと、これは<a href="http://kenko-hiro.blogspot.jp/2013/10/blog-post.html">二陳湯(ニチントウ)</a>が原方と考えることもできましょう。また頻用処方である<a href="http://kenko-hiro.blogspot.jp/2012/11/blog-post_11.html">竹茹温胆湯(チクジョウンタントウ)</a>もここには出てきておりませんが、このグループに入れられる薬方であります。<br />
これらの薬方の使い方ですが、先ほどお話ししたように、虚証で神経過敏になっている不眠に用いられておりますが、テキストにあるように、病後とか、家族の
看病疲れとか、過労などで虚証となった人や元来胃腸の虚弱な人の入眠障害、就眠障害に効果があり、しばしば動悸を伴い、息切れや寝汗を伴うこともありま
す。顔色は悪く、腹証を見ても胃内停水があり、臍傍の悸が触れることが多いようです。<br />
不眠以外にも神経症領域に使われておりますが、香月
牛山は『回春』の温胆湯を加減温胆湯(カゲンウンタントウ)と呼んで「この方は痰を治するのみならず、狂癲癇を治するの妙剤なり」と述べております。ま
た、浅井貞庵は、『三因方』の温胆湯について「その容態にては上逆、めまい少しも動かせず、立つこともできん」ような状態に用いると書いております。これ
ら四薬方の中で、現在も多く使われておりますのは『三因方』と『回春』の温胆湯です。この二つの鑑別はなかなか困難でありますが、『三因方』の温胆湯に比
べれば『回春』の温胆湯の方が黄連(オウレン)、山梔子(サンシシ)が入っている分やや煩燥の度合いが強く、不眠を苦痛に感じ、じっと横になっていられな
い人の方が多いようです。<br />
目黒道琢の『餐英館療治雑話』に「温胆湯の訣」という記事がありますが、その中で「不眠には<a href="http://kenko-hiro.blogspot.com/2010/11/blog-post_23.html">帰脾湯(キヒトウ)</a>、温胆湯、<a href="http://kenko-hiro.blogspot.jp/2013/09/blog-post_910.html">抑肝散(ヨクカンサン)</a>の
それぞれの場合があるのでよく鑑別しなければならない」と述べております。このうち温胆湯のゆくものは「痰の気味があり、そのため息切れや驚悸、怔忡など
の症状があれば温胆湯の効かないはずはない」と言い切っております。しかし、「急に効果を見ることはむずかしいので、転方せずに治療すべきだ」といってお
ります。<br />
不眠は、現代医学的には、原因別に環境性、身体性、精神病性、脳器質疾患性、神経症性、神経質性、老人性、薬物禁断性、本態性と
いうように分類されていますが、温胆湯類はこの分類の中の神経質性、神経症性の不眠と、精神病性の不眠の一部に効果があると思います。また、このような神
経質性不眠の方は不眠を主訴として受診される方が多いので、このテキストでは温胆湯類のみをとり上げているのでしょう。<br />
そのほかに不眠に用いられる薬方は、先にお話しした心熱の場合のような興奮のために眠れないものには<a href="http://kenko-hiro.blogspot.jp/2011/12/blog-post_17.html">黄連解毒湯(オウレンゲドクトウ)</a>、<a href="http://kenko-hiro.blogspot.jp/2012/11/blog-post_13.html">三黄瀉心湯(サンオウシャシントウ)</a>などの黄連剤、この興奮とは違ったイライラ感での不眠には<a href="http://kenko-hiro.blogspot.jp/2013/09/blog-post_910.html">抑肝散</a>など、抑うつ気分に伴うものは<a href="http://kenko-hiro.blogspot.com/2010/11/blog-post.html">大柴胡湯(ダイサイコトウ)</a>や<a href="http://kenko-hiro.blogspot.com/2010/09/blog-post.html">柴胡加竜骨牡蛎湯(サイコカリュウコツボレイトウ)</a>、<a href="http://kenko-hiro.blogspot.com/2010/11/blog-post_23.html">帰脾湯</a>などがしばしば使われます。心下痞硬を伴う時は甘草瀉心湯(カンゾウシャシントウ)がよく効きます。また『金匱要略』の<a href="http://kenko-hiro.blogspot.com/2010/11/blog-post_16.html">酸棗仁湯(サンソウニントウ)</a>は有名であり、とても素晴らしい効果を見ることがありますが、対象となる患者は温胆湯のものと近く、ターゲットはより狭いものと私は考えております。したがって温胆湯の方が使いよいように思っております。<br />
しかし、浅田宗伯は<a href="http://kenko-hiro.blogspot.com/2010/11/blog-post_16.html">酸棗仁湯</a>と
温胆湯との鑑別について次のように述べております。すなわち「もし心下肝胆の部分にあたりて停飲あり、これが為に動悸して眠りを得ざるは温胆湯の症なり。
もし胃中虚し、客気膈を動かして眠るを得ざる者は甘草瀉心湯の症なり。もし血気、虚燥、心火亢ぶりて眠りを得ざるものは<a href="http://kenko-hiro.blogspot.com/2010/11/blog-post_16.html">酸棗仁湯</a>の主なり」といいますが、実際には温胆湯と<a href="http://kenko-hiro.blogspot.com/2010/11/blog-post_16.html">酸棗仁湯</a>との鑑別はむずかしいように思います。<br />
また、『三因方』の温胆湯の加味方では、このテキストの不寐門の最後に「妊娠、心驚き、煩悶して眠らず。温胆湯に人参、麦門冬、柴胡を加えて安し」とあり
ます。妊娠中は精神安定剤や睡眠誘導剤は催奇形性の問題があって使いにくいものですから、この加味方を試みる機会もあるかと思います。ここに出ておりませ
んが、浅田宗伯の『方函口訣』には加味方として麦門冬、人参の加味と、黄連、酸棗仁の加味の方法が出ております。黄連、酸棗仁の加味方ですと『回春』の温
胆湯に近づきます。この加味方がよく使われておりまして、大塚敬節先生や矢数道明先生などの治験報告もこの加味方が多いようです。<br />
また、亀井南冥は石膏を加えて<a href="http://kenko-hiro.blogspot.jp/2013/10/blog-post_8.html">釣藤散(チョウトウサン)</a>に近い使い方をしていたようですが、石膏を加えると『回春』にある高枕無憂散(コウチンムユウサン)に近い方意になるのではないかと思います。<br />
『三因方』の温胆湯と加味温胆湯の治験報告はたくさんありますが、このテキストに症例が一つ出ておりますので読んでみます。「一人主君と口論を為して戸を
閉じること一年余り、心熱煩満し、痰火心を攻め、腹張り、嘔逆し、夜寝ること能わず。他医皆言う。陰虚火動なりと。而れども治応ぜず。予謂えらく、気欝、
痰を生じて然りと、加味温胆湯に黄連を加えて安し」というものです。この症例は、気欝から水毒を生じて不眠となったというものに、煩満があるので黄連を加
えたものと思われます。<br />
温胆湯の治験報告に不眠というのが多いのは当然ですが、大塚敬節先生の治験に少し変わったものがありますのでご紹
介いたします。「四八歳の婦人で、半年前に腹石の手術を行ない、その後ひどく冷えるようになり、頻尿のため不眠となった。また三叉神経痛があり、以前から
眼瞼の痙攣も伴う」という症状で、便秘がちの人です。この患者に温胆湯加酸棗仁、蘇葉、大黄を二週間投与したところ、不眠も神経痛もなくなったというもの
です。<br />
腹証などの所見が記載されていないのが残念ですが、興味深い症例と思います。なお、ここでの温胆湯は『三因方』の温胆湯であろうと思います。<br />
<br />
<br />
<br />
<span style="font-size: large;"><b>『漢方処方・方意集』</b></span> 仁池米敦著 たにぐち書店刊<br />
p.56<ruby><rb>加味温胆湯</rb><rp>(</rp><rt>かみうんたんとう</rt><rp>)</rp></ruby><br />
[<b>薬局製剤</b>]
半夏5 茯苓4 陳皮3 酸棗仁2 玄参2 遠志2 人参2 地黄2 大棗2 枳実2 生姜2 甘草2 以上の切断又は粉砕した生薬をとり、1包として製する。<br />
<br />
«医療衆方規矩大成» 半夏5 茯苓4 陳皮3 <ruby><rb>竹筎</rb><rp>(</rp><rt>ちくじょ</rt><rp>)</rp></ruby>3 <ruby><rb>酸棗仁</rb><rp>(</rp><rt>さんそうにん</rt><rp>)</rp></ruby>2 <ruby><rb>玄参</rb><rp>(</rp><rt>げんじん</rt><rp>)</rp></ruby> <ruby><rb>遠志</rb><rp>(</rp><rt>おんじ</rt><rp>)</rp></ruby>2 人参2 地黄2 大棗2 枳実2 甘草2 乾生姜1<br />
<br />
<br />
【方意】血と気を補って湿邪と虚熱を除き、心小腸と肝胆を調えて、血と水の行りを良くし痰を去り上逆した気を降ろし精神を安定し、<ruby><rb>虚煩</rb><rp>(</rp><rt>きょはん</rt><rp>)</rp></ruby>や<ruby><rb>睡臥</rb><rp>(</rp><rt>すいが</rt><rp>)</rp></ruby>を得ない者などに用いる方。<br />
【適応】 <ruby><rb>虚煩</rb><rp>(</rp><rt>きょはん</rt><rp>)</rp></ruby>(煩わさしさと微かな熱症状)や<ruby><rb>睡臥</rb><rp>(</rp><rt>すいが</rt><rp>)</rp></ruby>(横になって眠ること)を得ない者・不眠・心胆が<ruby><rb>虚怯</rb><rp>(</rp><rt>きょきょう</rt><rp>)</rp></ruby>(虚労して驚き易い症状)する者・事に触れて驚きやすい者・多痰・短気(息切れ)し<ruby><rb>悸乏</rb><rp>(</rp><rt>きぼう</rt><rp>)</rp></ruby>する者・動悸など。<br />
[原文訳]«医療衆方規矩大成・不寐門» ○病みて後に<ruby><rb>虚煩</rb><rp>(</rp><rt>きょはん</rt><rp>)</rp></ruby>して、<ruby><rb>睡臥</rb><rp>(</rp><rt>すいが</rt><rp>)</rp></ruby>することを得ず、及び心膽<br />
が<ruby><rb>虚怯</rb><rp>(</rp><rt>きょきょう</rt><rp>)</rp></ruby>し、事に触れて驚き易く、短氣し<ruby><rb>悸乏</rb><rp>(</rp><rt>きぼう</rt><rp>)</rp></ruby>するを治す。<br />
<br />
<br />
«万病回春» 半夏4 茯苓4 <ruby><rb>酸棗仁</rb><rp>(</rp><rt>さんそうにん</rt><rp>)</rp></ruby>4 人参3 麦門冬3 枳実3 <ruby><rb>竹筎</rb><rp>(</rp><rt>ちくじょ</rt><rp>)</rp></ruby>3 山梔子2 当帰2 地黄2 黄連2 甘草2 <ruby><rb>辰砂</rb><rp>(</rp><rt>しんしゃ</rt><rp>)</rp></ruby>1 乾生姜1<br />
<br />
<br />
【方意】血と津液を補って湿邪と虚熱を除き、心小腸と肝胆を調えて、血と水の行りを良くし痰を去り上逆した気を降ろし精神を安定し、<ruby><rb>驚惕</rb><rp>(</rp><rt>きょうてき</rt><rp>)</rp></ruby>や不眠などに用いる方。<br />
<br />
【適応】 多痰・不眠・<ruby><rb>驚惕</rb><rp>(</rp><rt>きょうてき</rt><rp>)</rp></ruby>(驚いて心悸が亢進する病)・<ruby><rb>虚煩</rb><rp>(</rp><rt>きょはん</rt><rp>)</rp></ruby>など。<br />
[原文訳]«万病回春・驚悸» <br />
○痰火し、<ruby><rb>驚惕</rb><rp>(</rp><rt>きょうてき</rt><rp>)</rp></ruby>し不眠するを治す。(<ruby><rb>驚悸</rb><rp>(</rp><rt>きょうき</rt><rp>)</rp></ruby>は痰火し<ruby><rb>而</rb><rp>(</rp><rt>て</rt><rp>)</rp></ruby>氣虚を兼ねる者に屬す、痰火を清し<ruby><rb>以</rb><rp>(</rp><rt>よ</rt><rp>)</rp></ruby>って虚を補えば宜し。)<br />
<br />
<br />
<br />
«万病回春» 半夏6 大棗3 <ruby><rb>竹筎</rb><rp>(</rp><rt>ちくじょ</rt><rp>)</rp></ruby>3 枳実3 陳皮3 茯苓3 <ruby><rb>酸棗仁</rb><rp>(</rp><rt>さんそうにん</rt><rp>)</rp></ruby>2 <ruby><rb>遠志</rb><rp>(</rp><rt>おんじ</rt><rp>)</rp></ruby>2 五味子2 人参2 地黄2 甘草2 乾生姜1<br />
<br />
<br />
【方意】血と津液を補って湿邪と虚熱を除き、肝胆と心小腸を調えて、血と気の行りを良くし痰を去り上逆した気を降ろし精神を安定し、病後の<ruby><rb>虚煩</rb><rp>(</rp><rt>きょはん</rt><rp>)</rp></ruby>や不眠などに用いる方。<br />
【適応】 病後に<ruby><rb>虚煩</rb><rp>(</rp><rt>きょはん</rt><rp>)</rp></ruby>(煩わしさと微かな熱症状)し<ruby><rb>臥</rb><rp>(</rp><rt>ふ</rt><rp>)</rp></ruby>する(横になって寝ること)を得ない者・心胸が<ruby><rb>煩</rb><rp>(</rp><rt>はん</rt><rp>)</rp></ruby>(煩わしく<br />
不安感がある症状)し<ruby><rb>寧</rb><rp>(</rp><rt>やすら</rt><rp>)</rp></ruby>かでない者・不眠・<ruby><rb>虚怯</rb><rp>(</rp><rt>きょきょう</rt><rp>)</rp></ruby>(虚労して驚き易い症状)して事に触れ驚き易い者・短気(息切れ)し心悸(動悸が起こって不安になる症状)する者など。<br />
<br />
[原文訳]«万病回春・虚煩» <br />
○病後の<ruby><rb>虚煩</rb><rp>(</rp><rt>きょはん</rt><rp>)</rp></ruby>、<ruby><rb>臥</rb><rp>(</rp><rt>ふ</rt><rp>)</rp></ruby>するを得ず、及び心膽が<ruby><rb>虚怯</rb><rp>(</rp><rt>きょきょう</rt><rp>)</rp></ruby>し、事に觸れ驚き易く、短氣し心悸するを治す。(<ruby><rb>虚煩</rb><rp>(</rp><rt>きょはん</rt><rp>)</rp></ruby>と<ruby><rb>者</rb><rp>(</rp><rt>は</rt><rp>)</rp></ruby>、心胸が<ruby><rb>煩</rb><rp>(</rp><rt>はん</rt><rp>)</rp></ruby>し<ruby><rb>擾</rb><rp>(</rp><rt>うれ</rt><rp>)</rp></ruby>い<ruby><rb>而</rb><rp>(</rp><rt>て</rt><rp>)</rp></ruby><ruby><rb>寧</rb><rp>(</rp><rt>やす</rt><rp>)</rp></ruby>らかならざる<ruby><rb>也</rb><rp>(</rp><rt>なり</rt><rp>)</rp></ruby>。)<br />
<br />
<br />
<br />
痰火し、<ruby><rb>驚惕</rb><rp>(</rp><rt>きょうてき</rt><rp>)</rp></ruby>し不眠するを治す。(<ruby><rb>驚悸</rb><rp>(</rp><rt>きょうき</rt><rp>)</rp></ruby>は痰火し<ruby><rb>而</rb><rp>(</rp><rt>て</rt><rp>)</rp></ruby>氣虚を兼ねる者に屬す、痰火を清し<ruby><rb>以</rb><rp>(</rp><rt>よ</rt><rp>)</rp></ruby>って虚を補えば宜し。)<br />
<br />
<br />
<br />
<b>【添付文書等に記載すべき事項】</b><br />
<span style="border: medium solid;"> してはいけないこと </span><br />
(守らないと現在の症状が悪化したり、副作用が起こりやすくなる)<br />
<b>1.次の人は服用しないこと</b><br />
生後3ヵ月未満の乳児。<br />
〔生後3ヵ月未満の用法がある製剤に記載すること。〕<br />
<br />
<br />
<span style="border: medium solid;"> 相談すること </span> <br />
<b> 1.次の人は服用前に医師、薬剤師又は登録販売者に相談すること</b><br />
(1)医師の治療を受けている人。<br />
(2)妊婦又は妊娠していると思われる人。<br />
(3)胃腸が弱く下痢しやすい人。<br />
<br />
(4)高齢者。<br />
〔1日最大配合量が甘草として1g以上(エキス剤については原生薬に換算して1g以上)含有する製剤に記載すること。〕<br />
(5)今までに薬などにより発疹・発赤、かゆみ等を起こしたことがある人<br />
(6)次の診断を受けた人。<br />
高血圧、心臓病、腎臓病<br />
〔1日最大配合量が甘草として1g以上(エキス剤については原生薬に換算して1g以上)含有する製剤に記載すること。〕<br />
<br /> (7)次の診断を受けた人。<br />
高血圧、心臓病<span style="font-size: xx-small;"></span>、腎臓病<span style="font-size: xx-small;"></span><br />
〔1日最大配合量が甘草として1g以上(エキス剤については原生薬に換算して1g以上)含有する製剤に記載すること。〕<br />
<br />
<br />
<br />
<b>2.服用後、次の症状があらわれた場合は副作用の可能性があるので、直ちに服用を中止し、この文書を持って医師、薬剤師又は登録販売者に相談すること</b><br />
<br />
<table border="1" cellpadding="1" cellspacing="1" style="width: 358px;">
<tbody>
<tr>
<td valign="top" width="101">関係部位</td>
<td valign="top" width="252">症状</td></tr>
<tr>
<td valign="top" width="101">皮膚</td>
<td valign="top" width="252">発疹・発赤、かゆみ</td></tr>
<tr>
<td valign="top" width="101">消化器</td>
<td valign="top" width="252">食欲不振、胃部不快感</td></tr>
</tbody></table>
<br />
<br />
まれに下記の重篤な症状が起こることがある。その場合は直ちに医師の診療を受けること。<br />
<br />
<table border="1" cellpadding="1" cellspacing="1" style="width: 568px;">
<tbody>
<tr>
<td valign="top" width="148">症状の名称</td>
<td valign="top" width="415">症状</td></tr>
<tr>
<td valign="top" width="148">偽アルドステロン症、<br />
ミオパチー</td>
<td valign="top" width="415">手足のだるさ、しびれ、つっぱり感やこわばりに加えて、脱力感、筋肉痛があらわれ、徐々に強くなる。</td></tr>
</tbody></table>
〔1日最大配合量が甘草として1g以上(エキス剤については原生薬に換算して1g以上)<br />
含有する製剤に記載すること。〕<br />
<br />
<br />
<b>3.1ヵ月位服用しても症状がよくならない場合は服用を中止し、この文書を持って医師、薬 剤師又は登録販売者に相談すること</b><br />
<br />
<b>4.長期連用する場合には、医師、薬剤師又は登録販売者に相談すること</b><br />
〔1日最大配合量が甘草として1g以上(エキス剤については原生薬に換算して1g以上)含有する製剤に記載すること。〕<br />
<br />
<br />
〔用法及び用量に関連する注意として、用法及び用量の項目に続けて以下を記載すること。〕<br />
<br />
(1)小児に服用させる場合には、保護者の指導監督のもとに服用させること。<br />
〔小児の用法及び用量がある場合に記載すること。〕<br />
(2)〔小児の用法がある場合、剤形により、次に該当する場合には、そのいずれかを記載す<br />
ること。〕<br />
1)3歳以上の幼児に服用させる場合には、薬剤がのどにつかえることのないよう、よく注<br />
意すること。<br />
〔5歳未満の幼児の用法がある錠剤・丸剤の場合に記載すること。〕<br />
2)幼児に服用させる場合には、薬剤がのどにつかえることのないよう、よく注意すること。<br />
〔3歳未満の用法及び用量を有する丸剤の場合に記載すること。〕<br />
3)1歳未満の乳児には、医師の診療を受けさせることを優先し、やむを得ない場合にのみ<br />
服用させること。<br />
〔カプセル剤及び錠剤・丸剤以外の製剤の場合に記載すること。なお、生後3ヵ月未満の用法がある製剤の場合、「生後3ヵ月未満の乳児」を<span style="border: medium solid;"> してはいけないこと </span>に記載し、用法及び用量欄には記載しないこと。〕<br />
<br />
成分及び分量に関連する注意として、成分及び分量の項目に続けて以下を記載すること。〕<br />
<b>本剤の服用により、糖尿病の検査値に影響を及ぼすことがある。</b><br />
〔1日最大配合量が遠志(オンジ)として1 g 以上 ( エキス剤については原生薬に換算して1 g 以上 ) 含有する製剤に記載すること<br />
<br />
<br />
<br />
保管及び取扱い上の注意<br />
(1)直射日光の当たらない(湿気の少ない)涼しい所に(密栓して)保管すること。<br />
〔( )内は必要とする場合に記載すること。〕<br />
<br />
(2)小児の手の届かない所に保管すること。<br />
<br />
(3)他の容器に入れ替えないこと。(誤用の原因になったり品質が変わる。)<br />
〔容器等の個々に至適表示がなされていて、誤用のおそれのない場合には記載しなくてもよい。〕<br />
<br />
<br />
<br />
【外部の容器又は外部の被包に記載すべき事項】<br />
<br />
注意<br />
1.次の人は服用しないこと<br />
生後3ヵ月未満の乳児。<br />
〔生後3ヵ月未満の用法がある製剤に記載すること。〕<br />
<br />
2次の人は服用前に医師、薬剤師又は登録販売者に相談すること<br />
(1)医師の治療を受けている人。<br />
(2)妊婦又は妊娠していると思われる人。<br />
(3)胃腸が弱く下痢しやすい人。<br />
(4)高齢者。<br />
〔1日最大配合量が甘草として1g以上(エキス剤については原生薬に換算して1g以上)含有する製剤に記載すること。〕<br />
(5)今までに薬などにより発疹・発赤、かゆみ等を起こしたことがある人 <br />
(6)次の症状のある人。<br />
むくみ<br />
〔1日最大配合量が甘草として1g以上(エキス剤については原生薬に換算して1g以上)含有する製剤に記載すること。〕<br />
(7)次の診断を受けた人。<br />
高血圧、心臓病、腎臓病<br />
〔1日最大配合量が甘草として1g以上(エキス剤については原生薬に換算して1g以上)含有する製剤に記載すること。〕<br />
<br /><br />
2´.服用が適さない場合があるので、服用前に医師、薬剤師又は登録販売者に相談すること<br />
〔3.の項目の記載に際し、十分な記載スペースがない場合には3´.を記載すること。〕<br />
3.服用に際しては、説明文書をよく読むこと<br />
4.直射日光の当たらない(湿気の少ない)涼しい所に(密栓して)保管すること<br />
〔( )内は必要とする場合に記載すること。〕<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
Unknownnoreply@blogger.com0tag:blogger.com,1999:blog-6827912320235733185.post-13318721279999004822015-07-14T22:30:00.000+09:002015-09-22T21:29:13.134+09:00葛根紅花湯(かっこんこうかとう) の 効能・効果 と 副作用<span style="font-size: large;">『<b>臨床応用 漢方處方解説</b>』</span> 矢数道明著 創元社刊<br />
p.646 酒皶鼻・赤鼻<br />
<br />
13 <span style="font-size: large;"><b>葛根紅花湯</b><span style="font-size: small;">(かっこんこうかとう)</span></span> 〔方輿輗〕<br />
葛根・芍薬・地黄 各三・〇 黄連・梔子・紅花 各一・五 大黄・甘草 各一・〇<br />
<br />
「<ruby><rb>酒査鼻</rb><rp>(</rp><rt>しゅさび</rt><rp>)</rp></ruby>の劇症を療す。」<br />
強度のものには本方を服用し、かつ四物硫黄散を外用するという。中等または軽度のものは本方を連用するがよい。また刺絡により悪血をとる。<a href="http://kenko-hiro.blogspot.jp/2011/12/blog-post_17.html">黄連解毒湯</a>を長服するもよい。<br />
酒査鼻(あかはな)専門の薬方である。<br />
<br />
<br />
<br />
<span style="font-size: large;"><b>『症状でわかる 漢方療法』</b></span> 大塚敬節著 主婦の友社刊<br />
p.179<br />
<span style="font-size: large;"><b><ruby><rb>葛根紅花湯</rb><rp>(</rp><rt>かっこんこうかとう</rt><rp>)</rp></ruby></b></span><br />
<ruby><rp>(</rp><rt><br /></rt></ruby><br />
<br />
<br />
処方 葛根、芍薬、地黄各3g、黄連、梔子、紅花各1.5g 大黄、甘草各1g。<br />
以上を粉末とし、一回に飲む。<br />
<br />
目標 顔面に赤斑のあるもの。<br />
応用 <ruby><rb>酒皶鼻</rb><rp>(</rp><rt>しゅさび</rt><rp>)</rp></ruby>(赤鼻)。<ruby><rb>肝斑</rb><rp>(</rp><rt>かんぱん</rt><rp>)</rp></ruby>(しみ)<br />
<br />
<br />
<span style="font-size: large;"><b>『漢方治療の方証吟味』</b></span> 細野史郎著 創元社刊<br />
p.657<br />
<br />
<ruby><rb>酒皶</rb><rp>(</rp><rt>しゅさ</rt><rp>)</rp></ruby>(その一)<br />
-葛根紅花湯・<a href="http://kenko-hiro.blogspot.jp/2011/12/blog-post_17.html">黄連解毒湯</a>-<br />
<br />
〔患者〕 五十六歳の一杯飲み屋のおかみで、体重は五二kg、やや太りぎみの人。<br />
顔の両頬に約二年ほど前から細い血管が浮いて出てくるようになり、鼻の上も赤くなった。「あまりみっともないので一日も早く治してほしい」との希望である。<br />
大便は秘結傾向で二日に一回程度。月経は四十六歳で閉経し、血圧は普通。お酒はたくさんではないが毎日商売柄チビチビ飲んでいる。<br />
<br />
選方と経過<br />
<br />
十月五日。以上の所見から<a href="http://kenko-hiro.blogspot.com/2011/05/blog-post.html">桂枝茯苓丸</a>(粒剤、四・五g)合黄解散(粒剤、三・〇g)を一日量(三分服)として三〇日分を渡す。<br />
十二月十日。薬を渡してから二ヵ月目になるが、両頬の血管の赤味が少しましになっている。薬は一日二回しか飲んでいなかったと言う。便通はやはり二日に一回程度とのこと。<br />
そこで前方を二〇日と、<a href="http://kenko-hiro.blogspot.jp/2012/06/blog-post_27.html">桃核承気湯</a>を(一・五gを一包みとして)三〇日分渡し、これを就床前に必ず飲むように言いきかせ、便通が一日一回になるように加減しながら飲みつづけるよう教えておいた。<br />
✶<br />
A その後、この患者はまだ来局しませんので、その結果は判りかねますが、こんな容態に、このような薬方でよいものでしょうか。また、このほかにも赤鼻の治し方をお教え下さい。<br />
<br />
方証吟味<br />
<br />
S 少しいいのですか。頬や顔全体の赤いのは酒に関係のあることがずいぶん多いですね。それも、あまりたくさん飲まなくても、少しずつでも酒気にひたる機会の多い人では、頬や鼻の先が赤くなるもののようですね。<br />
A 五~六年前に一度みえたとき、これと同じような処方を渡し、それがよく効いたそうです。このときも前のを調べてみたのですが、はっきりしませんでした。しかし大分これに近かったと思いますので、ちょっと自信をもって渡しました。”赤鼻”のことについては、本を調べても、あまり見あたりません。<br />
S 黄解散でも効きますが、「待ってました!」というようにはなかなか効きませんよ。また時に、<a href="http://kenko-hiro.blogspot.com/2011/05/blog-post.html">桂枝茯苓丸</a>をもっていくとよく効くことがあります。葛根紅花湯という薬もよく効きますよ。これは浅田の『方函』にはない薬方ですが、『校正方輿輗』にはあります。しかし詳しいことは『稿本方輿輗』(有持桂里)を見るとよくわかります。<br />
これによりますと、酒皶では、軽症から重症までを三度に分けられるが、一度のものは最も軽症で、飲みぐすりだけで治るもの、二度のものは中間で、内服薬だけでは治りにくいもの、三度のものは難治で、特別なすりこみ薬を患部にすりこんで、鼻の赤いツブツブを摺り潰すようにして治療する、非常に難治の症である、と言っております。<br />
しかし、われわれの所へはそんな重症なものは現われません。この人の言うように、頬が赤くなるくらいで、みっともなくて仕方がないという程度のものの方が多いのです。この病は男女ともにありますが、軽症のものでは、われわれの手で治す方法もあり、一つはAさんの方法、他は葛根紅花湯またはこれに併せてもっていくのです。少なくとも酒皶に似たようなものならよく治るように思います。細血管の怒張によるものであれば割合に効きやすいようです。<br />
それが瘀血に関係があって、酒皶様の症状の起こっている人には<a href="http://kenko-hiro.blogspot.com/2011/05/blog-post.html">桂枝茯苓丸</a>やその類方が効きます。あるいは<a href="http://kenko-hiro.blogspot.jp/2012/06/blog-post_27.html">桃核承気湯</a>証があって、上にのぼせて頬の赤くなっているのに<a href="http://kenko-hiro.blogspot.jp/2012/06/blog-post_27.html">桃核承気湯</a>がよく効きます。<a href="http://kenko-hiro.blogspot.jp/2012/06/blog-post_27.html">桃核承気湯</a>証があつて、上にのぼせて頬の赤くなっているのに<a href="http://kenko-hiro.blogspot.jp/2012/06/blog-post_27.html">桃核承気湯</a>がよく効きます。<a href="http://kenko-hiro.blogspot.jp/2012/06/blog-post_27.html">桃核承気湯</a>証のときは骨盤腔内や大腸、直腸、S字状結腸の周辺部に血行異常があって、欝血現象などが起こっているとき、ここが刺激源となって仙骨迷走神経を通して上方、頭、顔面に反応が現われる場合には、第一には<a href="http://kenko-hiro.blogspot.jp/2012/06/blog-post_27.html">桃核承気湯</a>、次に<a href="http://kenko-hiro.blogspot.com/2011/05/blog-post.html">桂枝茯苓丸</a>またはその類方が効くはずです。<br />
酒皶様アクネのときは、アクネの療法を加え、また<a href="http://kenko-hiro.blogspot.com/2011/04/blog-post.html">小柴胡湯</a>に<a href="http://kenko-hiro.blogspot.com/2011/05/blog-post_31.html">当帰芍薬散</a>、あるいは、より体力のある人では<a href="http://kenko-hiro.blogspot.com/2010/11/blog-post.html">大柴胡湯</a>にこれらの駆瘀血剤、そしてその上に葛根、紅花を加えると非常によく応じるように思います。<br />
瘀血で、のぼせが特に強く目につくときには<a href="http://kenko-hiro.blogspot.jp/2012/06/blog-post_27.html">桃核承気湯</a>の方がよく効くので、これを<a href="http://kenko-hiro.blogspot.com/2011/04/blog-post.html">小柴胡湯</a>に合わせるとか、あるいは逍遙散、<a href="http://kenko-hiro.blogspot.com/2011/05/blog-post.html">加味逍遙散</a>に合方してゆくなどすることもあります。しかし、これでもどうしても赤味が取れないときは、葛根紅花湯をこの上に加味して赤味を取ります。単なるアレルギー性の日光性皮膚炎で顔の赤味だけが取れないときは、葛根紅花湯を主にして後、他の処方、たとえば体質があまり弱くなければ<a href="http://kenko-hiro.blogspot.jp/2013/01/blog-post_16.html">温清飲</a>とか他の湿疹を治す処方を加えることによって赤味が取れ、きれいになって喜ばれることも少なくありませんよ。<br />
これらがだいたい酒皶やこれによく似た病症を治す方法だと心得ておればよいのです。<br />
A どのくらい続けたらいいですか。<br />
S その人を診ないで、そんなことは言えませんし、一週間もやってみずに、どれくらいで効くのだろうとも言いにくいのですが、まあ、そんなことを考えるよりは、まず長くかかるものだと考えて、病人が信じてついてきてくれるだけの態度をとってほしいです。たとえば感冒のようなわかりきった病症なら、一週間とか言えもしますが、このような慢性的な病症となっては的確に言えないのもあたりまえでしょう。そんな心配をしているよりは、すべからく自信たっぷりの態度で接することです。それには一にも勉強、二にも勉強です。<br />
B 粒剤の単味の葛根や紅花では〇・三gでいいでしょうか。<br />
S 〇・三gではちょっと少なくはないでしょうかなあ。もっと多く加えてやった方がよいと思いますよ。たとえばその倍量ぐらい。葛根や紅花を加えるのも、<a href="http://kenko-hiro.blogspot.jp/2011/12/blog-post_17.html">黄連解毒湯</a>だけでは赤味が減らないからのことで、<a href="http://kenko-hiro.blogspot.jp/2013/01/blog-post_16.html">温清飲</a>は<a href="http://kenko-hiro.blogspot.jp/2013/10/blog-post_30.html">四物湯</a>に<a href="http://kenko-hiro.blogspot.jp/2011/12/blog-post_17.html">黄連解毒湯</a>の合方ですから、ただの<a href="http://kenko-hiro.blogspot.jp/2011/12/blog-post_17.html">黄連解毒湯</a>のみでなく、<a href="http://kenko-hiro.blogspot.jp/2013/10/blog-post_30.html">四物湯</a>のような虚証にいく駆瘀血剤が加わっているわけですね。これは、<a href="http://kenko-hiro.blogspot.jp/2011/12/blog-post_17.html">黄連解毒湯</a>に<a href="http://kenko-hiro.blogspot.com/2011/05/blog-post.html">桂枝茯苓丸</a>を加えるとか、また<a href="http://kenko-hiro.blogspot.jp/2012/06/blog-post_27.html">桃核承気湯</a>を加えるのと同じような理屈ですから、<a href="http://kenko-hiro.blogspot.jp/2013/01/blog-post_16.html">温清飲</a>だけでもよく効くときがあるかもしれません。それに更に葛根紅花湯の合方にすると、もっと効くだろうとも思えますね。それが確実に根治させるかどうかはまた別としましてね。<br />
葛根は首から上の方に薬を効かせるようにするし、紅花は駆瘀血剤で、血管が怒張するのを軽減すると考えることはできないものですかなあ。『和語本草』には、紅花は多量に用いると瘀血をとるが、少量だと血を活かす作用があると言っています。要するに紅花は血をめぐらす要剤だと言うのです。<br />
A 男の人で鼻の真中が真赤になっている人がありますね。それも同じでしょうか。<br />
S おそらく同じでしょうね。<br />
B それから私の経験では、<a href="http://kenko-hiro.blogspot.jp/2013/01/blog-post_16.html">温清飲</a>が非常によく効いた例がありました。<br />
C 頬や顔の赤い人は、冬は絶対にマスクを<ruby><rb>嵌</rb><rp>(</rp><rt>は</rt><rp>)</rp></ruby>めるべきですね。<br />
S そして酒皶には酒は飲まないようにですかね。<br />
A 若い人でもワサビとか生姜をたくさん食べると赤鼻になるおそれはありませんか。<br />
S それだけ生姜を食べようと思ったら、よっぽどたくさん食べねばならないでしょうね。<br />
B 私の経験では、薬を飲んでいると良いのですが、根治することはないように思うのです。<br />
S そんなことも考えられなくはありません。酒皶の人は、根治するまでしっかり薬を飲み続けてくれないものですからね。根気が要りますから、少し良くなると飲まないのです。酒皶様のアクネなら割合によく治るものですね。そのときは<a href="http://kenko-hiro.blogspot.jp/2012/06/blog-post_27.html">桃核承気湯</a>あるいは当散鬚散を葛根紅花湯に合方する方が一層効果的のようです。特に女の人で酒皶様アクネの人では、それがよく効きますね。<br />
A 赤い血管がシュシュと細絡のように出ている人に。<br />
S こんなとき瀉血するといいのですがね。<a href="http://kenko-hiro.blogspot.jp/2011/12/blog-post_17.html">黄連解毒湯</a>に葛根紅花湯がやはりいいように思いますよ。<br />
C 悪化するのを抑制することはできますが、なかなか治り切るものではありません。細菌感染は防げますが根治した例は私には一度もありません。<br />
S あなたはやってみたことがあるのですか。<br />
C 一人二人はありますが、新薬も使います。<br />
S ここの話では新薬は勉強になりませんね。<br />
C スルファミンとかエリスロマイシンで悪化するのを止めておいて、それから漢方に変えるのです。続けていると悪化しません。<br />
S どのくらい続けるのですか。<br />
C 三ヵ月ぐらいです。<br />
S 私のところでは治りますよ、三年も四年も続けますから。<br />
C 赤いのが……、<br />
S とれます。効くとみたら長く飲ませることですよ。<br />
かつて、こんなことがありました。それは十二指腸潰瘍の疑いのある人でした。潰瘍だと思ってレントゲンで見ますと、そうではなくて、十二指腸壁に中等大の<ruby><rb>憩室</rb><rp>(</rp><rt>けいしつ</rt><rp>)</rp></ruby>が一つあったのです。それが平常は何ともないのですが過食になったときなどには食物の<ruby><rb>残滓</rb><rp>(</rp><rt>ざんし</rt><rp>)</rp></ruby>がその部分に入り込み、腐って炎症を引き起こし、刺激になって十二指腸潰瘍のときと同じように、お<ruby><rb>腹</rb><rp>(</rp><rt>なか</rt><rp>)</rp></ruby>が減ったときに軽く痛んできます。その人の鼻頭は酒皶のように真赤になっていました。しかし不思義なことに、<a href="http://kenko-hiro.blogspot.jp/2012/04/blog-post_08.html">柴胡桂枝湯</a>とか延年半夏湯を与えているうちに、いつとはなく如上の痛みもなくなり、数ヵ月のうち例の赤鼻も全く消え失せていました。<br />
それにしても、同じく赤鼻と言っても、ニキビ型のものと、ただの赤くなったのとでは、その治し方が違うようです。ですから、酒皶を治すのも、ただ赤鼻だけに心をとらわれて証を見つけ出そうなど考えずに、もっと身体全体に充分注意し、たとえば診察のできる人なら腹をしっかり診て、 何の反応が出ているかよく調べるとか、その病人でも問診をもっと詳しくして、その根本治療となるような手段を考えた上での治療でなくてはならないと思います。そして全体的な体質改善法の上に、局所治療剤として、たとえば葛根紅花湯を加味してみるようにしますと、期待に添うた漢方とすることができると思います。それには、病人の顔つきもさることながら、心の動きぐあい、食物の好み、大小便の様子、月経時の様子など、必ずしも腹診したり脈をとらなくても青:充分理解できるだけの域に達することが大切でしょう。<br />
<br />
<br />
<span style="font-size: large;"><b>『漢方処方・方意集』</b></span> 仁池米敦著 たにぐち書店刊<br />
p.53<br />
<ruby><rb>葛根紅花湯</rb><rp>(</rp><rt>かっこうこうかとう</rt><rp>)</rp></ruby><br />
[<b>薬局製剤</b>]
葛根3 地黄3 芍薬3 山梔子1.5 黄連1.5 紅花1.5 甘草1 大黄1 以上の切断又は粉砕した生薬をとり、1包として製する。<br />
<br />
«<ruby><rb>方輿輗</rb><rp>(</rp><rt>ほうよげい</rt><rp>)</rp></ruby>»葛根3 地黄3 芍薬3 山梔子1.5 黄連1.5 紅花1.5 甘草1 大黄(加減する)1 <br />
<br />
【方意】血と津液を補って瘀血と湿邪と熱を除き、肝胆と肺大腸を調えて、血の行りを良くし上逆した気を降ろし大便を出し、<ruby><rb>酒皶鼻</rb><rp>(</rp><rt>しゅさび</rt><rp>)</rp></ruby>(赤鼻などの病)や<ruby><rb>面皰</rb><rp>(</rp><rt>めんほう</rt><rp>)</rp></ruby>(ニキビなどの病)などに用いる方。<br />
<br />
[原文訳]«方輿輗» ○<ruby><rb>酒皶鼻</rb><rp>(</rp><rt>しゅさび</rt><rp>)</rp></ruby>の者を療する方なり。<br />
<br />
<br />
<br />
<span style="font-size: large;"><b>『薬局製剤 漢方212方の使い方』<span style="font-size: small;"> 第4版</span></b></span><br />
埴岡 博・滝野 行亮 共著<br />
薬業時報社 刊<br />
<br />
<br />
<span style="font-size: large;"><b><u>K19. <ruby>葛根紅花湯<rt>かっこんこうかとう</rt></ruby></u></b></span> <br />
<br />
<b>出典</b><br />
原出典は不明。天保年長の名医有持桂里の著した校正方輿輗にくわしく紹介されている。<br />
<br />
<b>構成</b> 主薬は葛根と紅花である。葛根の薬効は,肌の熱を発散し,酒毒を解することにある。紅花は血の滞りを散ずる。また浄血作用もあって,芍薬と共に血行を良くする。<br />
地黄は血熱をさまして陰をうるおし陽を退けるとされ、血糖降下作用や緩下、利尿作用も報告されている。<br />
大黄,黄連,山梔子は共に消炎,利尿,鎮静作用があり,鬱血炎症の除去に働いている。<br />
これらの相互作用によって限局性うっ血の酒査鼻(あかはな)などに効果を発揮するようである。<br />
<br />
<br />
<b>目標</b><br />
酒査鼻といえば本方,というほど有名であるが,そのわりには一般には使われていない。<br />
酒査鼻とは,頭部,顔面の充血,血管運動神経異常などの原因で鼻頭部,頬部,顎などに限局的な毛細血管拡張のため発赤が起り,組織の増殖と腫脹を伴うのをいうが,慢性的な経過をとるから,長期服用の必要がある。細野史郎先生によれば3~4年の服用が必要であるという。<br />
大塚先生は本方中の大黄をとり去り,黄芩,薏苡仁を加えたもので進行性指掌角皮症を治療した例を報告していられるので,他の限局的な血行障害による皮膚疾患にも本方が応用できるのではないかと思われる。<br />
<br />
<b>応用</b><br />
1.酒査鼻。<br />
2.酒査性痤瘡,日光皮膚炎。<br />
<br />
<b>留意点</b><br />
◎紅花は多量に用いると瘀血をとり,少量だと血を活かすという。(岡本一抱子・和語本草綱目) 本方の分量では活血である。瘀血があれば増量するとか、<a href="http://kenko-hiro.blogspot.jp/2012/06/blog-post_27.html">桃核承気湯</a>など他の血証剤を併用するとよい。<br />
◎紅花は虫害をうけ易い。また色のわるいものは増量して用いる。<br />
◎酒査花に限らず,ステロイドアクネにも効く。この場合,当帰鬚散や<a href="http://kenko-hiro.blogspot.jp/2012/06/blog-post_27.html">桃核承気湯</a>を併用する。<br />
<br />
<br />
<b>文献</b><br />
1.有持桂里・稿本方輿輗。大塚敬節氏所有本を燎原が影印したもの<br />
2.有持桂里・校正方輿輗:T文政12)<br />
3.細野史郎ら・方証吟味(昭53) P.65<br />
<br />
<br />
<b>K19 葛根紅花湯</b><br />
〔<b>成分・分量</b>〕<br />
葛根 3.0<br />
地黄 3.0<br />
芍薬 3.0<br />
黄連 1.5<br />
山梔子 1.5<br />
紅花 1.5<br />
甘草 1.0<br />
大黄 1.0<br />
以上8味 15.5<br />
カット。500→250煎<br />
〔<b>効能・効果</b>〕<br />
あかはな,しみ<br />
〔<b>ひとこと</b>〕<br />
●酒査鼻(あかはな)に。<br />
<br />
<br />
<br />
<span style="font-size: large;">『改訂 一般用漢方処方の手引き』</span> <br />
監修 財団法人 日本公定書協会<br />
編集 日本漢方生薬製剤協会 <br />
<br />
<span style="font-size: large;">葛根紅花湯</span><br />
(かっこんこうかとう) <br />
<br />
<b>成分・分量</b><br />
葛根3,芍薬3,地黄3,黄連1.5 山梔子1.5 紅花1.5 大黄1,甘草1<br />
<br />
<b>用法・用量</b><br />
<div style="text-align: left;">
湯</div>
<br />
<b>効能・効果</b><br />
体力中等度以上で,便秘傾向のものの次の諸症:あかはな(酒さ),しみ<br />
<br />
<b>原典</b> 校正方輿輗<br />
<b>出典 </b><br />
<br />
<b>解説</b><br />
あかはなという特殊用途の専門薬であり,長期連用しなければならない。<br />
<br />
<style>
table {
border-collapse: collapse;
}
th {
border: solid 1px #666666;
color: #000000;
background-color: #FFFFFF;
}
td {
border: solid 1px #666666;
color: #000000;
background-color: #ffffff;
}
thead th {
background-color: #FFFFFF;
}
</style>
<br />
<table>
<thead>
<tr>
<th> 生薬名<br />
参考文献名
</th>
<th>葛根
</th>
<th>芍薬
</th>
<th>地黄
</th>
<th>黄連
</th>
<th>山梔子
</th>
<th>紅花
</th>
<th>大黄
</th>
<th>甘草
</th>
</tr>
</thead>
<tbody>
<tr>
<th style="text-align: left;">方輿輗 注1
</th>
<td>1銭
</td>
<td>1銭
</td>
<td>1銭<span style="font-size: xx-small;">*</span>
</td>
<td>1銭
</td>
<td>1銭
</td>
<td>1銭
</td>
<td>1銭
</td>
<td>3分
</td>
</tr>
<tr>
<th style="text-align: left;">診療医典 注2
</th>
<td>3
</td>
<td>3
</td>
<td>3
</td>
<td>1.5
</td>
<td>1.5
</td>
<td>1.5
</td>
<td>1
</td>
<td>1
</td>
</tr>
<tr>
<th style="text-align: left;">症候別治療
</th>
<td>3
</td>
<td>3
</td>
<td>3
</td>
<td>1.5
</td>
<td>1.5
</td>
<td>1.5
</td>
<td>1
</td>
<td>1
</td>
</tr>
<tr>
<th style="text-align: left;">処方解説 注3
</th>
<td>3
</td>
<td>3
</td>
<td>3
</td>
<td>1.5
</td>
<td>1.5
</td>
<td>1.5
</td>
<td>1
</td>
<td>1
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
*生地黄<br />
<br />
注1 療酒皶鼻劇症。右八味,以水四合,煮取二合,渣再以四合,煮取一合半,日二剤,服湯数日,覚患所痛痒,則将四物硫黄散,擦鼻上,當大熱発,此毒欲尽也,熱既発之後外擦則須止,内服不須止也,若病軽者,小剤減水,不用外擦薬。<br />
<br />
注2 酒皶:頭部,顔面の充血,血管神経異常などよって発生したものには,一般に本方が用いられる。<br />
しかし短時日で全治するわけにはゆかないから,永く続ける必要がある。<br />
注3 「酒皶鼻の劇証を療す」強度のものには本方を服用し,かつ四物硫黄散を外用するという。中等または軽度のものは本方を連用するがよい。また刺絡により悪血をとる。<a href="http://kenko-hiro.blogspot.jp/2011/12/blog-post_17.html">黄連解毒湯</a>を長服するもよい。酒皶鼻(あかはな)専門の薬方である。<br />
<br />
<br />
<b><span style="font-size: large;">『210処方漢方薬物治療学 薬理的アプローチ』</span></b> 原田 正敏著 廣川書店刊<br />
p.110<br />
20.葛根紅花湯(かっこんこうかとう)<br />
[処方] 甘草 1, 芍薬 3, 黄連 1.5, 葛根 3, 紅花 1.5, 山梔子 1.5, 地黄 3, 大黄 1.<br />
[適応症] あかはな,しみ.<br />
[薬効群] 皮膚疾患用薬.<br />
【解説】 本邦の有持桂里(1758~1835)口述の稿本<rb>方輿輗</rb><rp>(</rp><rt>ほうよげい</rt>に「あかはなのひどい症状を治す」とある.<a href="http://kenko-hiro.blogspot.jp/2015/06/blog-post_29.html">葛根黄連黄芩湯</a>と<a href="http://kenko-hiro.blogspot.jp/2011/12/blog-post_17.html">黄連解毒湯</a>両者のほとんどを含む. <br />
<br />
<br />
<br />
<span style="font-size: large;"><b>『日本東洋医学雑誌』</b> Vol. 60 (2009) No. 1 P 93-97 </span><br />
<b><span style="font-size: large;">難治性の顔面の皮疹に葛根紅花湯が著効した3症例</span></b><br />
大塚 静英<span style="font-size: xx-small;">1)</span>, 及川 哲郎<span style="font-size: xx-small;">1)</span>, 望月 良子<span style="font-size: xx-small;">1)</span>, 早崎 知幸<span style="font-size: xx-small;">1)</span>, 小曽戸 洋<span style="font-size: xx-small;">1)</span>, 伊藤 剛<span style="font-size: xx-small;">1)</span>, 村主 明彦<span style="font-size: xx-small;">1)</span>, 花輪 壽彦<span style="font-size: xx-small;">1) 2)</span><br />
1) 北里大学東洋医学総合研究所 2) 北里大学大学院医療系研究科<br />
<br />
<br />
<b>要旨</b><br />
難治性の顔面の皮疹に葛根紅花湯が著効した3症例を経験したので報告する。症例1は39歳男性。20歳頃より鼻に限局して丘疹が出現し,以後,塩酸ミノサ
イクリンの内服にて寛解,増悪を繰り返し,いわゆる酒さ鼻となったため,2007年5月に当研究所を受診した。葛根紅花湯(大黄0.3g)を服用したとこ
ろ,3週間後,鼻全体の発赤が軽減し,丘疹も減少,額・頬部の発赤も消失した。症例2は,56歳女性。鼻,口周囲を中心としたそう痒感を伴う皮疹にて
2006年10月に当研究所を受診した。ステロイド外用剤にて軽減するものの中止すると増悪を繰り返していたことより,酒さ様皮膚炎と診断した。葛根紅花
湯(甘草0.8g,去大黄)を服用し,ステロイド外用剤は同時に中止したところ,3週間後,全体的に紅斑は鼻と口周囲のみとなり,8週間後には症状はほぼ
消失した。症例3は,26歳女性。鼻口唇部の紅斑,アトピー性皮膚炎にて当研究所を受診した。<a href="http://kenko-hiro.blogspot.jp/2011/12/blog-post_17.html">黄連解毒湯</a>にて全体的には症状が軽減するも,鼻口唇部の紅斑
は不変であったため,葛根紅花湯(大黄1g)に転方したところ,2カ月後,鼻口唇部の紅斑は消失し,6カ月後には鼻口唇部の色素沈着がわずかに残るのみと
なった。葛根紅花湯は,従来,いわゆる酒さ鼻に用いられてきたが,鼻だけでなく,顔面・鼻周囲の皮疹にも応用が可能であると考えられた。
<br />
キーワード: 葛根紅花湯, 酒さ鼻, 酒さ様皮膚炎, アトピー性皮膚炎<br />
<br />
<b>諸言</b><br />
葛根紅花湯は有持桂里が『稿本方輿輗』に記し,従来,いわゆる酒皶鼻に用いられてきた処方であるが,その治験例は数少ない。緒方の報告した「ニキビに<a href="http://kenko-hiro.blogspot.com/2011/05/blog-post_31.html">当帰芍薬散</a>加方,次で(残った顔面の赤味に)葛根紅花湯」,「洗顔後,鼻尖部が赤くなると訴える婦人に葛根紅花湯」,「酒皶に葛根紅花湯」の3例の症例報告のみである。<br />
今回,我々は,葛根紅花湯が,いわゆる酒皶鼻,酒皶様皮膚炎,アトピー性皮膚炎なとの皮疹に著効した3例を経験したので報告する。<br />
<br />
<b>症例1</b>:39歳,男性。<br />
主訴:鼻の丘疹と発赤腫脹。<br />
現病歴:20歳頃より鼻に吹き出物が出来たため,15年来断続的に塩酸ミノサイクリンを服用していた。最近では,月に2度程度,増悪時のみ塩酸ミノサイクリンを差用し,5日程度で丘疹は消退していた。漢方薬局にて煎じ薬(詳細不明)を半年服用するも改善しないため,2007年5月に当研究所を受診した。<br />
飲酒歴:なし。<br />
身体所見:身長175cm,体重61kg,血圧120/70mmHg。<br />
皮膚所見:鼻に限局した丘疹を多数認め,追全体が赤発,腫脹していた。瘙痒感はなかった。額・頬部に発赤を認めた。<br />
漢方所見:舌は乾湿中間,淡紅,薄い白苔を認め,脈は弦,腹診では,腹力は中等度で,両側の胸脇苦満,心下痞鞕,腹直筋攣急,小腹不仁,臍下に正中芯,両側臍傍部の圧痛,軽度の回盲・S状部の圧痛を認めた。<br />
経過:初診時,臨床所見からいわゆる酒皶鼻と診断し,葛根紅花湯(大黄0..3g)を処方した。先服3週間後には,鼻全体の赤発が軽減,丘疹も減少し,額・頬部の発赤は消失した。<br />
<br />
<b>症例2</b>:56歳,女性。<br />
主訴:鼻,口周囲を中心として瘙痒感を伴う皮疹。<br />
現病歴:2005年10月,顔面に散在性の紅斑と丘疹が出現し,近医にて湿疹と口唇ヘルペスと診断された。アシクロビル,ステロイド外用剤(詳細不明)の処方を受けたが,口唇ヘルペスが軽快した後も湿疹は完治には至らなかった。湿疹が悪化するたびにステロイド外用剤を使用し,さらにセレスタミン(マレイン酸クロルフェニラミンとベタメタゾンの合剤)の内服も併用したが,湿疹は一時的に軽減するものの,ステロイド外用剤を中止するとすぐに増悪を繰り返していた。他院で某社の<a href="http://kenko-hiro.blogspot.jp/2012/01/blog-post.html">十味敗毒湯</a>エキス,<a href="http://kenko-hiro.blogspot.com/2011/09/blog-post_17.html">十全大補湯</a>エキスを服用するも改善しないため,2006年10月に当研究所を受診した。<br />
飲酒歴:なし。<br />
身体所見:身長153cm,体重56kg,血圧148/100mmHg<br />
<br />
皮膚所見:鼻,口周囲を中心とした瘙痒感を伴う紅斑・丘疹が散在している。鼻頭部に点状の毛細血管拡張を伴う談紅色斑と,小豆大の紅斑を認めた。気温の上昇時や発汗時に瘙痒感が増強するとのことであった。<br />
漢方所見:舌は,湿,薄い白苔を認め,脈は沈,腹診では,腹力は中等度,両側の胸脇苦満,軽度の心下痞鞕,腹直筋攣急,臍傍・回盲・S状部の圧痛を認めた。<br />
経過:初診時,経過よりステロイド外用剤の長期使用に伴う酒皶様皮膚炎と診断し,葛根紅花湯(甘草0.8g,去大黄)を処方した。ステロイド外用剤は漢方服用開始と同時に中止した。3週間後,丘疹は消失し,紅斑は鼻と口周囲のみとなり,8週間後には,紅斑もほぼ消失した。<br />
<br />
<b>症例3</b>:26歳,女性<br />
主訴:鼻口唇部の紅斑。<br />
現病歴:小児期より軽度のアトピー性皮膚炎があり,成人後も少し紅斑が出現する程度であった。2006年5月より,鼻の下,首,背中に強い瘙痒感を伴う紅斑が出現,皮膚科を受診し,塩酸オロパタジンの内服,ステロイド外用剤(詳細不明)を使用し軽減したが十分な改善がみられず,2006年6月に当研究所を受診した。<br />
飲酒歴:ビール1本を週3回。<br />
身体所見:身体171cm,体重70kg,血圧110/60mmHg。<br />
皮膚所見:全身の皮膚は乾燥し,鼻の下,首,背中に強い瘙痒感を伴う紅斑,特に鼻口唇部に浸潤性紅斑を認めた。<br />
漢方所見:舌は乾湿中間,淡紅色で無苔であり,脈は沈,腹診では,腹力は中等度,両側に軽度の胸脇苦満,腹直筋攣急を認めた。<br />
経過:初診時,<a href="http://kenko-hiro.blogspot.jp/2011/12/blog-post_17.html">黄連解毒湯</a>を処方した。2ヵ月後,背中の強い瘙痒感を伴う紅斑は改善し,4ヵ月後,全体的に症状は軽減した。便秘のため4ヵ月以降大黄1gを追加した。しかし,6ヵ月経過後も鼻口唇部の浸潤性紅斑は改善せず,ステロイド外用剤を中止すると増悪するため,葛根紅花湯(大黄1g)に転方した。転方2ヵ月後,鼻口唇部の浸潤性紅斑は消失し,色素沈着のみとなり,瘙痒感も消失した。変方6ヵ月後には鼻口唇部の色素沈着がわずかに残るのみとなった。<br />
<br />
<b>考察</b><br />
葛根紅花湯の原典は,有持桂里(1758-1835)が記した『稿本方輿輗』(第12・鼻)で,「葛根紅花湯は酒査鼻のはげしき者にて重きものは腫れあがる者なり。<a href="http://kenko-hiro.blogspot.jp/2011/12/blog-post_17.html">黄連解毒湯</a>は腫れるに及ばずして軽きものなり。葛根紅花湯は鼻疣が出来て癩の如くに鼻がなる者なり。それには,黄連解毒はちと届き兼ぬるなり。酒査鼻は自ら痛きことはなきものなり。痒みはあるものなり。」とある。その構成生薬は,大黄,黄連,山梔子,葛根,芍薬,生地黄,紅花,甘草で,北里大学東洋医学総合研究所では,葛根・芍薬・地黄各3g,黄連・山梔子・紅花各1.5g,甘草1g,大黄(適量)を用いており,治酒査鼻方に葛根を加えたものである。<br />
治酒査鼻方は,『勿誤薬室方函口訣』に,「此の方は<a href="http://kenko-hiro.blogspot.jp/2012/11/blog-post_13.html">三黄瀉心湯</a>に加味したる者にて,総じて面部の病に効あり。酒査鼻に限るべからず。若し瘡膿ある者,<a href="http://kenko-hiro.blogspot.jp/2013/06/blog-post_22.html">大弓黄湯</a>(<a href="http://kenko-hiro.blogspot.jp/2013/06/blog-post_22.html">治頭瘡一方</a>)に宜し。<a href="http://kenko-hiro.blogspot.jp/2013/06/blog-post_29.html">清上防風湯</a>は二湯より病勢緩なる処に用ゆ。」とある。治酒査鼻方の構成生薬の薬効は,大黄,黄連,山梔子は清熱作用,芍薬,地黄は<a href="http://kenko-hiro.blogspot.jp/2013/10/blog-post_30.html">四物湯</a>加減で血の道を滑らかにし,紅花には強い駆瘀血作用がある。葛根紅花湯は治酒査鼻方に葛根が加わるため,前述の薬効を顔面に引き上げる方意を持つものと考えられる。<br />
葛根については,岡本一抱(1655-1716)の記した『和語本草綱目』に,「葛根は胃熱を解きて渇を止む。酒毒を消す。肌熱を解て汗を発し,痘瘡,斑疹出難きを発し,陽明の頭痛を治する聖薬なり。」とある。つまり,葛根は,鼻症状の原因となる胃熱を去り,津液を増やして口渇を軽減し,酒毒を消し,皮膚の熱を去って,汗を出し,痘瘡,斑疹を皮膚から出し尽くす作用がある。葛根紅花湯は,治酒査鼻方の清熱および駆瘀血作用に加え,葛根が鼻の症状 をきたす胃熱を清する薬能をもつために,いわゆる酒齄鼻に有効な処方とされるものと考えられる。<br />
今回提示した3例のうち,1例目はいわゆる酒齄鼻と考えられる。諸方の報告によると,十分な効果が得られるまで4ヵ月から1年程度の服用が必要であったが,本例では3週間後に明らかな皮疹の改善が認められた。後述の2例も,8週間後には著明な皮疹の改善が得られており,葛根紅花湯の効果は比較的速やかに現れると考えられる。2例目は酒齄様皮膚炎だが,炎症所見が強く,消炎作用をもつ生薬を多く含む本方が,特に有効であったと考えられる。通常みられるステロイド外用剤の中断によるリバウンドもみられず,速やかな軽快をみた。3例目はアトピー性皮膚炎であり酒齄ではないが,鼻口唇部に炎症を繰り返して形成された紅斑があり,その酒齄にも似た,厚みを持った所見を参考に本方を撰択したところ著効を呈した。本例の罹患部位は瘀血を伴うと考えられ,駆瘀血作用のある葛根紅花湯が有用なのではないかと推察される。<br />
葛根紅花湯は,従来,「酒査鼻専門の薬方である」とされ,実際そのように選用されてきたと思われるが,より広く顔面の難治性湿疹などに応用が可能であると考え,若干の文献的考察を加えて報告した。<br />
<br />
<b>結語</b><br />
鼻・口周囲を中心とした顔面の皮疹に対して,その部位や局所的な炎症所見,瘀血所見を参考に葛根紅花湯を処方し,著効を得た3症例を経験した。葛根紅花湯は,従来,いわゆる酒齄鼻に対して用いられてきたが,鼻だけでなく,顔面・鼻周囲の皮疹にも応用が可能な処方であると考えられた。今後症例を集積し,より詳細な葛根紅花湯の使用目標について検討してゆきたい。<br />
<br />
附記 顔写真の掲載に関しては,患者から書面による承諾を得ている。<br />
本稿は第58回日本東洋医学会総会(広島・2007年)において報告した。<br />
本稿で投与した,葛根紅花湯の構成と生薬集散地は以下の通りである。<br />
葛根紅花湯:葛根(3.0g,四川省),芍薬(3.0g,奈良県),地黄(3.0g,河南省),黄連(1.5g,岐阜県),山梔子(1.5g,江西省),紅花(1.5g,四川省),炙甘草(1.0g,内蒙古),大黄(適宜,四川省)<br />
<br />
文献<br />
1) 有持桂里:「稿本」方輿輗,江戸時代期写,巻15,鼻,28丁裏,燎原書房影印(1973)<br />
2) 矢数道明:臨床応用漢方処方解説,増補改訂版,646,創元社(1981)<br />
3) 緒方玄芳:ニキビに<a href="http://kenko-hiro.blogspot.com/2011/05/blog-post_31.html">当帰芍薬散</a>加方,次で葛根紅花湯,漢方診療おぼえ書(48),漢方の臨床,<b>27</b>,482-483 (1980)<br />
4) 緒方玄芳:鼻が赤くなると訴える婦人,漢方診療おぼえ書(78),漢方の臨床,<b>30</b>,91-92 (1983)<br />
5) 緒方玄芳:酒齄に葛根紅花湯,漢方診療おぼえ書(136),漢方の臨床,298-299 (1983)<br />
6) 花輪壽彦監修:北里研究所東洋医学総合研究所漢方処方集,52,医聖社(2003)<br />
7) 浅田宗伯:勿誤薬室方函口訣,近世漢方医学書集96影印,67,名著出版 (1982)<br />
8) 岡本一抱:和語本草綱目(1),近世漢方医学書集成7影印,491-492,名著出版 (1979)<br />
<br />
<br />
<span style="font-size: large;"><b>『日本東洋医学雑誌』</b> Vol. 60 (2009) No. 1 P 93-97 </span><br />
<b><span style="font-size: large;">漢方治療が奏効した酒皶 の10症例</span></b><br />
桜井 みち代<span style="font-size: xx-small;">a)</span>, 本間 行彦<span style="font-size: xx-small;">b) </span><br />
a 桜井医院,静岡,〒439‐0006 菊川市堀之内201<br />
b 北大前クリニック,北海道,〒001‐0014 札幌市北区北十四条西2丁目5<br />
<br />
<span style="font-size: large;"><b>Ten Cases of Rosacea Successfully Treated
with Kampo Formulas</b></span><br />
Michiyo SAKURAI<span style="font-size: xx-small;">a</span> Yukihiko HONMA<span style="font-size: xx-small;">b</span><br />
a Sakurai Clinic, 201 Horinouchi, Kikugawa, Shizuoka 439-0006, Japan<br />
b Hokudaimae Clinic, 5 Nishi 2 chome, Kita 14 jo, Kitaku, Sapporo 001-0014, Japan<br />
<br />
要旨<br />
難治性の中高年の女性にみられた第1,2度の酒皶の10症例に,漢方治療を行い,著効を得たので,報告する。患者の年齢は,46歳から81歳までで,平均
年齢は60.6歳,発病から受診までの期間は1カ月前から5,6年前までで,平均期間は約2.2年であった。奏効した方剤は,<a href="http://kenko-hiro.blogspot.com/2010/11/blog-post.html">大柴胡湯</a>と<a href="http://kenko-hiro.blogspot.jp/2011/12/blog-post_17.html">黄連解毒湯</a>の併用
が7例,葛根紅花湯が3例であった。後者のうち,1例は葛根紅花湯のみ,1例は始め葛根紅花湯で治療し,のち<a href="http://kenko-hiro.blogspot.jp/2013/11/blog-post_11.html">白虎加人参湯</a>と<a href="http://kenko-hiro.blogspot.com/2011/05/blog-post.html">加味逍遙散</a>の併用に転方した。
残りの1例は<a href="http://kenko-hiro.blogspot.com/2011/05/blog-post.html">桂枝茯苓丸</a>と<a href="http://kenko-hiro.blogspot.jp/2011/12/blog-post_17.html">黄連解毒湯</a>で開始,のち葛根紅花湯に転方した。本病に<a href="http://kenko-hiro.blogspot.com/2010/11/blog-post.html">大柴胡湯</a>と<a href="http://kenko-hiro.blogspot.jp/2011/12/blog-post_17.html">黄連解毒湯</a>の併用,または葛根紅花湯が治療の第一選択として試み
る価値がある。
<br />
キーワード: 酒皶,<a href="http://kenko-hiro.blogspot.com/2010/11/blog-post.html">大柴胡湯</a>,<a href="http://kenko-hiro.blogspot.jp/2011/12/blog-post_17.html">黄連解毒湯</a>,葛根紅花湯<br />
<br />
<b>緒言</b><br />
酒皶 は中高年の顔面にびまん性発赤と血管拡張をきたす慢性炎症性疾患であり,原因は不明で,難治性である。重症度によって3段階に分類される。第 1度は鼻尖,頬,眉間,オトガイ部に一過性の紅斑が生じ,次第に持続性となり,毛細血管拡張と脂漏を伴うようになる。瘙痒,ほてり感,易刺激性などの自覚症状がある。第2度は上記症状に,毛孔一致性の丘疹,膿疱が加わり,脂漏が強まり,病変が顔面全体に広がる。第3度は丘疹が密集融合して腫瘤状となる。とくに鼻が赤紫色となり,ミカンの皮のような凸凹不整となる。第1,2度は中年以降の女性に好発するが,第3度は男性に多い<span style="font-size: xx-small;">1 )</span> 。今回,中高年の女性にみられた第1,2度の酒皶1 0例に対し,漢方治療を行い,著効を得たので報告する。<br />
<br />
<b>症例1</b> :50歳,女性。<br />
初診:2005年2月。 現病歴:3,4年前から顔面発赤し,複数の皮膚科で治療を受けたが改善しないため,来院した。<br />
既往歴,家族歴に特記すべきことなし。<br />
現症:154cm,54kg。飲酒歴はない。肩こりがひどい。口渇著明。<br />
皮膚所見:両側頬全体が潮紅し,額,顎部,鼻梁部まで紅斑を認めた。紅斑上に細かい丘疹や一部膿疱が多数みられ,熱感と瘙痒がある。<br />
漢方医学的所見:脈候は虚実中間。舌候は乾燥し,やや濃い赤色,薄い白苔を認めた。舌下静脈の怒張や歯圧痕はない。腹候では,腹力はやや充実しており,両下腹部に圧痛を認めたが,胸脇苦満はない。<br />
経過:初診時,顔面の紅斑,熱感と痤瘡様の丘疹が多数みられること,および腹診で下腹部圧痛が あることから,<a href="http://kenko-hiro.blogspot.jp/2011/12/blog-post_17.html">黄連解毒湯</a>+<a href="http://kenko-hiro.blogspot.jp/2014/06/blog-post.html">桂枝茯苓丸加薏苡仁</a>を処方したが,無効であった。さらに膿疱を目標として,<a href="http://kenko-hiro.blogspot.jp/2012/01/blog-post.html">十味敗毒湯</a>を併用したり,<a href="http://kenko-hiro.blogspot.jp/2011/12/blog-post_17.html">黄連解毒湯</a>を同じく清熱剤の<a href="http://kenko-hiro.blogspot.jp/2015/01/blog-post_20.html">桔梗石膏</a>や<a href="http://kenko-hiro.blogspot.jp/2013/09/blog-post.html">排膿散及湯</a>に転方するもまったく効果がみられなかった。7カ月後,著明な肩こりと顔面の痒みより,<a href="http://kenko-hiro.blogspot.com/2010/11/blog-post.html">大柴胡湯</a>7. 5 g +<a href="http://kenko-hiro.blogspot.jp/2011/12/blog-post_17.html">黄連解毒湯</a>7.5gに転方したところ,著明に改善した。13カ月後,ほぼ顔面の紅斑は消失したため,廃薬した。<br />
<br />
<b>症例2</b>:46歳,女性。<br />
初診:2005年6月。<br />
現病歴:5,6年前から顔面に紅斑が出現した。2ヵ所の皮膚科で治療を受けたが改善しないため受診した。<br />
既往歴:19歳のとき虫垂炎から腹膜炎をおこしたことがある。子宮筋腫あり。<br />
家族歴:特になし。<br />
現症:160cm,57kg。お酒はたまにたしなむ程度。疲れやすい。イライラする。月経時頭痛あり。下痢しやすい。足が冷える。やや寒がり。肩こり。腰痛あり。夕方に下肢に浮腫が出現する。血圧100/60mmHg。<br />
皮膚所見:眼周囲と鼻の下以外の,ほぼ顔面全体に紅色の紅斑を認めた。触るとざらざらした触感がある。熱感と軽度の瘙痒感を伴う。<br />
漢方医学的所見:脈候は虚実中間。舌候は紅でやや熱証。軽度の瘀斑を認める。腹候では腹力やや充実しており,胸脇苦満あり。両腹直筋緊張。<br />
経過:初診時に,<a href="http://kenko-hiro.blogspot.jp/2014/06/blog-post.html">桂枝茯苓丸加薏苡仁</a>5g+<a href="http://kenko-hiro.blogspot.jp/2013/06/blog-post_29.html">清上防風湯</a>5g+<a href="http://kenko-hiro.blogspot.jp/2013/11/blog-post_11.html">白虎加人参湯</a>6gを処方した。これ仲;少し楽になったというが,顔面紅斑には変化がない。1ヵ月後,扁桃に膿を認めたため,<a href="http://kenko-hiro.blogspot.jp/2011/12/blog-post_17.html">黄連解毒湯</a>7.5g+<a href="http://kenko-hiro.blogspot.jp/2015/01/blog-post.html">小柴胡湯加桔梗石膏</a>7.5gに転方したところ,やや顔面の紅斑が減少した。しかし腹満とガスがよく出ると訴えたため,腹証を考慮し,4ヵ月後に<a href="http://kenko-hiro.blogspot.com/2010/11/blog-post.html">大柴胡湯</a>7.5g+<a href="http://kenko-hiro.blogspot.jp/2011/12/blog-post_17.html">黄連解毒湯</a>7.5gに転方した。以後次第に紅斑は消退し,14ヵ月後終診。<br />
<br />
<b>症例3</b>:54歳,女性。<br />
初診:2005年5月。<br />
現病歴:5年前より顔面に潮紅が出現し,4年間某皮膚科でステロイドやケトコナゾール・クリームにより加療されていたが無効であったため,受診した。<br />
既往歴:40歳から頭痛あり。<br />
現症:160cm,55kg,1年前に閉経。便通はよい。飲酒歴はない。イライラして怒りっぽい。口内炎ができやすい。暑がり。<br />
皮膚所見:両頬と額に紅斑と,その上に細かい丘疹を多数認める。顔面にのぼせ感と軽い痒み,および軽度の浮腫を認める。<br />
漢方医学的所見:脈候は虚実中間。舌候は湿,薄白黄苔,歯圧痕あり。腹候では,腹力がやや充実している。胸脇苦満はない。<br />
経過:初診時,瘙痒を伴い熱感があることより<a href="http://kenko-hiro.blogspot.jp/2014/05/blog-post_18.html">三物黄芩湯</a>を,また顔面の浮腫より<a href="http://kenko-hiro.blogspot.jp/2012/12/blog-post.html">猪苓湯</a>を,あるいは軽い清熱剤として<a href="http://kenko-hiro.blogspot.jp/2013/12/blog-post_22.html">滋陰降火湯</a>を,顔ののぼせから<a href="http://kenko-hiro.blogspot.jp/2014/06/blog-post.html">桂枝茯苓丸加薏苡仁</a>を,強い清熱剤として<a href="http://kenko-hiro.blogspot.jp/2011/12/blog-post_17.html">黄連解毒湯</a>や<a href="http://kenko-hiro.blogspot.jp/2015/01/blog-post_20.html">桔梗石膏</a>などを使用してみたが,いずれも無効であった。4ヵ月後,イライラして怒りっぽく,顔面潮紅より肝火上炎を考え,<a href="http://kenko-hiro.blogspot.com/2010/11/blog-post.html">大柴胡湯</a>(7.5g)に転方し,これに口内炎ができやすく,顔面紅斑と熱感より<a href="http://kenko-hiro.blogspot.jp/2011/12/blog-post_17.html">黄連解毒湯</a>(7.5g)を併用したところ,漸次顔面紅斑は消退した。10ヵ月後,終診。<br />
<br />
<b>症例4</b>:58歳,女性<br />
初診:2008年2月。<br />
既往歴:50歳,子宮筋腫のため子宮を全摘,高脂血症。56歳,誘因なく,顔面紅斑をきたし,<a href="http://kenko-hiro.blogspot.com/2011/05/blog-post.html">桂枝茯苓丸</a>+<a href="http://kenko-hiro.blogspot.jp/2013/06/blog-post_8.html">越婢加朮湯</a>により,2ヵ月で治癒したことがある。<br />
現病歴:4ヵ月前より顔面に紅斑が出現した。近医でステロイド軟膏を処方されたが,無効であったため受診した。<br />
現症:150cm,48kg。自汗あり。暑がり。便通はよい。口渇や肩こりはない。イライラしやすい。血圧126/84mmHg。<br />
皮膚所見:両頬,額,顎全体に紅斑を認める。触るとざらざらした触感があるが,丘疹は目立たない。ほてり感と痒みがある。<br />
漢方医学的所見:脈候はやや弱い。舌候は薄白苔。歯圧痕はなし。腹候では腹力やや充実~中等度。胸脇苦満あり。<br />
経過:初診時,過去に有効だった<a href="http://kenko-hiro.blogspot.com/2011/05/blog-post.html">桂枝茯苓丸</a>7.5g+<a href="http://kenko-hiro.blogspot.jp/2013/06/blog-post_8.html">越婢加朮湯</a>7.5gを処方したが,今回はまったく効果はみられなかった。3週間後,イライラ感と胸脇苦満,顔面紅潮を目安に,<a href="http://kenko-hiro.blogspot.com/2010/11/blog-post.html">大柴胡湯</a>7.5g+<a href="http://kenko-hiro.blogspot.jp/2011/12/blog-post_17.html">黄連解毒湯</a>7.5gに転方したところ,5週間後に紅斑は消失した。<br />
<br />
<b>症例5</b>:48歳,女性<br />
初診:2009年1月<br />
現病歴:4ヵ月前から顔面の紅斑が出現し,次第に頬全体,額,顎に拡大した。瘙痒感と顔面の熱感を伴うため受診した。<br />
既往歴:高脂血症。<br />
現症:161cm,52kg,便通は2,3日に1回。月経は最近不順になってきた。頭痛あり。朝に顔が,夕には足がむくむ。肩こり,腰痛あり。足が冷える。自汗はない。寝汗は少しかく。手掌は汗ばんでいる。寒がり。上熱下寒あり。<br />
漢方医学的所見:脈候は沈弦。舌候は乾燥,紫青色,舌体はやや厚い。舌下静脈怒張あり。腹候では,腹力やや充実しており,上腹部がかたく張っている。胸脇苦満あり。末梢血,肝機能,血清脂質の検査では異常なし。抗核抗体陰性。<br />
経過:初診時,肩こり,胸脇苦満を目安に<a href="http://kenko-hiro.blogspot.com/2010/11/blog-post.html">大柴胡湯</a>7.5gを,それに顔面紅斑と熱感,瘙痒より<a href="http://kenko-hiro.blogspot.jp/2011/12/blog-post_17.html">黄連解毒湯</a>7.5gを併用した。以後次第に紅斑が消退し,3ヵ月後には殆ど紅斑は消失した。4ヵ月後終診。<br />
<br />
<br />
<b>症例6</b>:73歳,女性。<br />
初診:2009年1月。<br />
現病歴:5,6年前より顔面紅潮が出現するようになり,某病院で<a href="http://kenko-hiro.blogspot.com/2011/05/blog-post.html">加味逍遙散</a>を約1年間内服したが無効であった。1年前より増悪し,常時顔面紅潮を認め,顔面に熱感を自覚し,頭皮まで発赤が拡大するようになった。人前に出るのがつらいとの訴えで来院した。<br />
既往歴:5年前帯状疱疹。<br />
現症:154cm,55kg。飲酒歴はない。便通は2,3日に1回,食欲亢進,めまいはたまにある。顔ののぼせ感が強い。肩こりあり,咽がつまった感じがある。自汗。体は熱く感じる。足は冷たい。抗肌抗体陰性。血圧150/84mmHg。<br />
漢方医学的所見:舌候では薄黄苔を認める。舌質は紫赤色。脈候は弦。腹候では,腹力充実し,膨満し,胸脇苦満を認める。<br />
経過:初診時,腹力良く胸脇苦満より<a href="http://kenko-hiro.blogspot.com/2010/11/blog-post.html">大柴胡湯</a>7.5gを,それに紅斑,のぼせ,熱感より<a href="http://kenko-hiro.blogspot.jp/2011/12/blog-post_17.html">黄連解毒湯</a>7.5gを併用した。1ヵ月後,紅斑は軽減し,便秘も解消した。3ヵ月後,著明改善し,顔の正中部が少し赤いのみとなる。5ヵ月後,日中は殆ど紅斑は目立たないが,入浴後に増悪するため,口渇を目標に<a href="http://kenko-hiro.blogspot.jp/2013/11/blog-post_11.html">白虎加人参湯</a>12錠に転方した。入浴後も殆ど紅斑は目立たなくなり,同4錠を14日分処方して終診とした。<br />
<br />
<b>症例7</b>:58歳,女性<br />
初診:2008年12月。<br />
現病歴:2008年8月に顔面に小紅斑。小丘疹が出現した。某皮膚科でステロイドの外用,内服で治療うけるも無効。瘙痒感は認めなかったが,逆に皮疹は拡大したため受診した。なお、この間に化粧品の変更はなく,日光皮膚炎の既往もない。<br />
既往歴:1999年子宮筋腫のため,子宮摘出術を受けている。<br />
家族歴:父が肺癌で65歳時死亡。<br />
現症:152cm,57kg,飲酒歴はない。便通はよい。夜間尿2回。温かい所に行くと顔がのぼせる。肩こりあり。乗り物酔いする。暑がり。自汗。イライラ感はない。末梢血,血液生化学的検査は正常。抗核抗体陰性。<br />
漢方医学的所見:脈候は虚実中間。舌候では薄い白膩苔を認め,胖大し,舌質は灰色暗赤色。腹証では,腹力やや充実しており,胸脇苦満はない。<br />
皮膚所見:両頬鮮紅色で,細かい丘疹が多い。顔面に軽度の浮腫を認める。<br />
経過:初診時,葛根紅花湯(葛根3g,芍薬3g,地黄3g,黄連1.5g,山梔子1.5g,紅花1.5g,大黄0.5g,甘草1g)を処方した。2週間後,紅斑が軽減し,皮膚表面の細かい丘疹が殆ど消失した。1ヵ月後,煎じ薬作用の手間のためエキス剤を希望し,<a href="http://kenko-hiro.blogspot.jp/2014/06/blog-post.html">桂枝茯苓丸加薏苡仁</a>7.5g+<a href="http://kenko-hiro.blogspot.jp/2011/12/blog-post_17.html">黄連解毒湯</a>7.5gに変更した。しかし,紅斑が増悪し、さらに瘙痒感とイライラ感が出現した。舌に黄膩苔を認め,顔面紅潮・イライラ感・胸脇苦満を目標に<a href="http://kenko-hiro.blogspot.com/2010/11/blog-post.html">大柴胡湯</a>7.5gを店方し,瘙痒・紅斑・のぼせを目標に<a href="http://kenko-hiro.blogspot.jp/2011/12/blog-post_17.html">黄連解毒湯</a>7.5gを併用したところ,赤味が著明に減少した。以後同じ処方を継続し,7ヵ月後には紅斑はほぼ消失した。ほてりや瘙痒も消失し,よく眠れるようになった。炎症後の色素沈着があり,少し顎がざらざらしているため,<a href="http://kenko-hiro.blogspot.jp/2014/06/blog-post.html">桂枝茯苓丸加薏苡仁</a>5g+<a href="http://kenko-hiro.blogspot.jp/2013/01/blog-post_16.html">温清飲</a>5gに転方した。9ヵ月後,炎症後の色素沈着も軽快し,治癒に至った。<br />
<br />
<br />
<b>症例8</b>:80歳,女性。<br />
初診:2009年3月。<br />
現病歴:半年前から両頬に発赤が出現。瘙痒はないが熱感があるため,受診した。<br />
既往歴:高脂血症。骨粗鬆症。膝関節痛。耳鳴り。鼻炎。<br />
現症:背のまがった小柄な女性。飲酒歴はない。便秘で,酸化マグネシウム(マグラックス4錠)を服用している。夜間尿2回。寝付きが悪く入眠に約1時間かかる。疲れやすい。セミの泣き声のような耳鳴りと肩こりがある。咳が出やすい。足が冷える。手足にしもやけを認める。寒がり。血圧155/90mmHg。<br />
漢方医学的所見:脈候は浮実弦。舌候は乾燥,白苔,舌質は絳,舌体はやや痩せている。舌下静脈の怒張あり。腹候では,腹力中等度,胸脇苦満と小腹不仁を認める。<br />
経過:健診時,酒皶鼻専門の薬方といわれる葛根紅花湯(葛根3g,芍薬3g,地黄3g,黄連1.5g,山梔子1.5g,紅花1.5g,大黄1g,甘草1g)を処方した。2週間後,顔面の赤味が半減した。また寝付きがよくなり,夜間尿も消失した。便通も改善し,下剤の服用量が半減した。1ヵ月半後,紅斑はほぼ消失し,2ヵ月後に終診。<br />
<br />
<b>症例9</b>:81歳。<br />
初診:2009年11月。<br />
現病歴:1年前から顔面に紅斑が出現し,近医で治療(プロトピック軟膏外用)を受けているが無効。<br />
既往歴:25歳,虫垂炎。52歳,腸閉塞。腰痛あり。<br />
現症:135cm,48kg。飲酒歴はない。便通一日1回。夜間尿2回。足が冷えるので,靴下をはいて寝ている。毎朝少し痰が出る。末梢血及び血液生化学的検査正常。体温36.8度。血圧134/72mmHg。<br />
皮膚所見:両頬全体と眼瞼に紅斑がみられる。痒くはない。<br />
漢方医学的所見:舌候は乾燥,薄白苔,正常赤色。脈候は虚実中間。腹候では腹力やや軟弱,小腹不仁を認める。<br />
経過:初診時,<a href="http://kenko-hiro.blogspot.jp/2015/06/blog-post_29.html">葛根黄連黄芩湯</a>(葛根6g,黄連3g,黄芩3g,甘草2g)を処方。1週間後,炎症症状がやや消退して,鮮やかな赤色が少し褪色した。まだ熱感がある。煎じ薬の手間を考え,<a href="http://kenko-hiro.blogspot.com/2011/05/blog-post.html">桂枝茯苓丸</a>5g+<a href="http://kenko-hiro.blogspot.jp/2011/12/blog-post_17.html">黄連解毒湯</a>5gに変更した。1ヵ月後,紅斑は半減した。「肌がつるつるしてきて,手も皮がむけなくなった」,という。2ヵ月半後には紅斑は7割方減退していたが,腰が冷えて眠れない,と訴え,血圧も172/80mmHgに上昇した。腰痛と手足湿疹もあるため,八味地黄丸5g+<a href="http://kenko-hiro.blogspot.com/2011/05/blog-post.html">桂枝茯苓丸</a>5gに変更したところ,その2週間後の再診時に悪化していた。そのため,始めの<a href="http://kenko-hiro.blogspot.jp/2015/06/blog-post_29.html">葛根黄連黄芩湯</a>も考えたが,酒皶鼻に有効とされる葛根紅花湯(大黄0.5g)を試みることにした。これにより,漸次紅斑が薄くなり,6ヵ月後,完治した。<br />
<br />
<b>症例10</b>:68歳,女性。<br />
初診:2009年2月。<br />
現病歴:1ヵ月前より顔面に紅斑が出現し,一部落屑を伴う。痒みはないが,ヒリヒリした刺激感とほてり感がある。<br />
既往歴:高血圧,ドライアイ。<br />
現症:154cm,54kg。飲酒歴無し。足にしもやけができやすい。便通は2,3日に1回。夜間尿1,2回。眼のまわりにくまがある。朝顔がむくむ。足は冷えないが,暑がり。自汗。口角炎を認める。末梢血および血液生化学的検査正常。<br />
皮膚所見:頬,額,顎,鼻に広く左右対称性に紅斑がみられる。<br />
漢方医学的所見:舌候は乾湿半ば,薄白苔,舌質は濃い赤色,舌下静脈怒張,脈候は虚実中間。腹候では,腹力中等度,胸脇苦満と小腹不仁を認める。臍上悸を触れる。<br />
経過:初診時,便秘と胸脇苦満,および顔面の熱感と紅斑より,<a href="http://kenko-hiro.blogspot.com/2010/11/blog-post.html">大柴胡湯</a>5g+<a href="http://kenko-hiro.blogspot.jp/2011/12/blog-post_17.html">黄連解毒湯</a>5gを処方。しかし,紅斑に変化がないため,1ヵ月後,<a href="http://kenko-hiro.blogspot.com/2010/11/blog-post.html">大柴胡湯</a>7.5g+<a href="http://kenko-hiro.blogspot.jp/2011/12/blog-post_17.html">黄連解毒湯</a>7.5gに増量したが無効。2ヵ月後に葛根紅花湯(大黄1g)に転方した。これにより紅斑は7割方減少した。しかし,4ヵ月後,誘因なく急に悪化して丘疹,落屑がみられ,浮腫の状態と考えられたため,<a href="http://kenko-hiro.blogspot.jp/2014/05/blog-post_18.html">三物黄芩湯</a>5g+<a href="http://kenko-hiro.blogspot.jp/2013/06/blog-post_8.html">越婢加朮湯</a>5g+<a href="http://kenko-hiro.blogspot.com/2011/05/blog-post.html">加味逍遙散</a>5gに変更し,3週間で急性症状は消失し,顔面紅斑は3週間前の状態に戻った。その後,夏になり,よく汗をかき,暑がりで口渇があること,および舌証より瘀血が考えられるため,<a href="http://kenko-hiro.blogspot.jp/2013/11/blog-post_11.html">白虎加人参湯</a>6g+<a href="http://kenko-hiro.blogspot.com/2011/05/blog-post.html">加味逍遙散</a>5gに転方した。これにより,すみやかに紅斑は消退し,6ヵ月後完治した。<br />
<br />
表1<br />
<style>
table {
border-collapse: collapse;
}
th {
border: solid 1px #666666;
color: #000000;
background-color: #FFFFFF;
}
td {
border: solid 1px #666666;
color: #000000;
background-color: #ffffff;
}
thead th {
background-color: #FAFAFA;
}
</style>
<br />
<table>
<thead>
<tr>
<th>症例
</th>
<th>年齢
</th>
<th>発症から受診まで
</th>
<th>肩こり<br />
イライラ
</th>
<th>胸脇苦満
</th>
<th>腹力
</th>
<th>有効と考えられた方剤
</th>
<th>治薬期間
</th>
</tr>
</thead>
<tbody>
<tr>
<th>1
</th>
<td>50
</td>
<td>3,4年
</td>
<td>+
</td>
<td>-
</td>
<td>やや充実
</td>
<td><a href="http://kenko-hiro.blogspot.com/2010/11/blog-post.html">大柴胡湯</a>+<a href="http://kenko-hiro.blogspot.jp/2011/12/blog-post_17.html">黄連解毒湯</a>
</td>
<td>13ヵ月
</td>
</tr>
<tr>
<th>2
</th>
<td>46
</td>
<td>5,6年
</td>
<td>+
</td>
<td>+
</td>
<td>やや充実
</td>
<td><a href="http://kenko-hiro.blogspot.com/2010/11/blog-post.html">大柴胡湯</a>+<a href="http://kenko-hiro.blogspot.jp/2011/12/blog-post_17.html">黄連解毒湯</a>
</td>
<td>14ヵ月
</td>
</tr>
<tr>
<th>3
</th>
<td>54
</td>
<td>5年
</td>
<td>+
</td>
<td>-
</td>
<td>やや充実
</td>
<td><a href="http://kenko-hiro.blogspot.com/2010/11/blog-post.html">大柴胡湯</a>+<a href="http://kenko-hiro.blogspot.jp/2011/12/blog-post_17.html">黄連解毒湯</a>
</td>
<td>10ヵ月
</td>
</tr>
<tr>
<th>4
</th>
<td>58
</td>
<td>4ヵ月
</td>
<td>+
</td>
<td>+
</td>
<td>やや充実<br />
~中等度
</td>
<td><a href="http://kenko-hiro.blogspot.com/2010/11/blog-post.html">大柴胡湯</a>+<a href="http://kenko-hiro.blogspot.jp/2011/12/blog-post_17.html">黄連解毒湯</a>
</td>
<td>5週間
</td>
</tr>
<tr>
<th>5
</th>
<td>48
</td>
<td>4ヵ月
</td>
<td>+
</td>
<td>+
</td>
<td>やや充実
</td>
<td><a href="http://kenko-hiro.blogspot.com/2010/11/blog-post.html">大柴胡湯</a>+<a href="http://kenko-hiro.blogspot.jp/2011/12/blog-post_17.html">黄連解毒湯</a>
</td>
<td>4ヵ月
</td>
</tr>
<tr>
<th>6
</th>
<td>73
</td>
<td>5,6年
</td>
<td>+
</td>
<td>+
</td>
<td>充実
</td>
<td><a href="http://kenko-hiro.blogspot.com/2010/11/blog-post.html">大柴胡湯</a>+<a href="http://kenko-hiro.blogspot.jp/2011/12/blog-post_17.html">黄連解毒湯</a>
</td>
<td>6ヵ月
</td>
</tr>
<tr>
<th>7
</th>
<td>58
</td>
<td>4ヵ月
</td>
<td>+
</td>
<td>-
</td>
<td>やや充実
</td>
<td><a href="http://kenko-hiro.blogspot.com/2010/11/blog-post.html">大柴胡湯</a>+<a href="http://kenko-hiro.blogspot.jp/2011/12/blog-post_17.html">黄連解毒湯</a>
</td>
<td>9ヵ月
</td>
</tr>
<tr>
<th>8
</th>
<td>80
</td>
<td>6ヵ月
</td>
<td>+
</td>
<td>+
</td>
<td>中等度
</td>
<td>葛根紅花湯
</td>
<td>2ヵ月
</td>
</tr>
<tr>
<th>9
</th>
<td>81
</td>
<td>1年
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>やや軟弱
</td>
<td><a href="http://kenko-hiro.blogspot.com/2011/05/blog-post.html">桂枝茯苓丸</a>+<a href="http://kenko-hiro.blogspot.jp/2011/12/blog-post_17.html">黄連解毒湯</a><br />
→ 葛根紅花湯
</td>
<td>6ヵ月
</td>
</tr>
<tr>
<th>10
</th>
<td>68
</td>
<td>1ヵ月
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>中等度
</td>
<td>葛根紅花湯 → <br />
<a href="http://kenko-hiro.blogspot.jp/2013/11/blog-post_11.html">白虎加人参湯</a>+<a href="http://kenko-hiro.blogspot.com/2011/05/blog-post.html">加味逍遙散</a>
</td>
<td>6ヵ月
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
<br />
<br />
<br />
<br />
<b>考察</b><br />
10例のまとめを<b>表1</b>に示す。<a href="http://kenko-hiro.blogspot.com/2010/11/blog-post.html">大柴胡湯</a>+<a href="http://kenko-hiro.blogspot.jp/2011/12/blog-post_17.html">黄連解毒湯</a>が奏効した症例は7症例,葛根紅花湯が奏効した
症例が1例,<a href="http://kenko-hiro.blogspot.com/2011/05/blog-post.html">桂枝茯苓丸</a>+<a href="http://kenko-hiro.blogspot.jp/2011/12/blog-post_17.html">黄連解毒湯</a>から始め,後,葛根紅花湯に転方して改善した症例が1例,葛根紅花湯で治療開始し,かなり改善していたが,その後
悪化したため,<a href="http://kenko-hiro.blogspot.jp/2013/11/blog-post_11.html">白虎加人参湯</a>+<a href="http://kenko-hiro.blogspot.com/2011/05/blog-post.html">加味逍遙散</a>に変更し
た症例が1例であった。
漢方医学的に頭頸部は陽が盛んな所とされて,熱を帯びやすい。各種の熱は上昇して顔面に集まり,皮膚表面の血絡を赤く目立たせる。そのため,駆瘀血剤や清熱剤が必要となる。<a href="http://kenko-hiro.blogspot.com/2011/05/blog-post.html">桂枝茯苓丸</a>や<a href="http://kenko-hiro.blogspot.com/2011/05/blog-post.html">加味逍遙散</a>のような駆瘀血剤や,<a href="http://kenko-hiro.blogspot.jp/2011/12/blog-post_17.html">黄連解毒湯</a>や<a href="http://kenko-hiro.blogspot.jp/2013/11/blog-post_11.html">白虎加人参湯</a>などの清熱剤が奏効したのはこのためと考えられる。<a href="http://kenko-hiro.blogspot.com/2010/11/blog-post.html">大柴胡湯</a>+<a href="http://kenko-hiro.blogspot.jp/2011/12/blog-post_17.html">黄連解毒湯</a>が奏効した7症例において,全例腹力は充実していた。また胸脇苦満を示したのは4例にすぎなかったが,肩こりやイライラ感は全例に認められた。この7例は生来のイライラしやすい性質がストレスなどによって鬱結し,長期化するうちに鬱熱を生じ,化火して酒皶を生じた肝火上炎型と考えられる。顔面は三陽経の支配領域であり,太陽経,陽明経,少陽経が関与している。<a href="http://kenko-hiro.blogspot.com/2010/11/blog-post.html">大柴胡湯</a>は『傷寒論』の第136条に「傷寒十余日,熱結して
裏にあり,復た往来寒熱する者は<a href="http://kenko-hiro.blogspot.com/2010/11/blog-post.html">大柴胡湯</a>を与う」
とあり,少陽病に陽明腑証が併存した少陽と陽明の
併病に用いられる<span style="font-size: xx-small;">2)</span>
。<a href="http://kenko-hiro.blogspot.com/2010/11/blog-post.html">大柴胡湯</a>の少陽経,陽明経の
通利をよくする作用により,酒皶に奏効したものと考えられる。<br />
<a href="http://kenko-hiro.blogspot.jp/2011/12/blog-post_17.html">黄連解毒湯</a>は『外台秘要』を原典とし,その構成生薬は黄連,黄芩,黄柏,山梔子である。黄連が中焦の火を,黄芩が上焦の火を,黄柏が下焦の火を瀉
し,山梔子は三焦の火を通瀉し,あわせて,本方は上中下の三焦に火毒熱盛が充斥した場合の常用薬である<span style="font-size: xx-small;">3)</span>
。高熱,煩燥,皮膚化膿症,不眠,鼻出血などのほか,アトピー性皮膚炎の著明な紅斑と瘙痒のあるときに頻用される。牧野は酒皶の肝火上炎型で体力があり,イライラしやすく,血圧も高い者に<a href="http://kenko-hiro.blogspot.com/2010/11/blog-post.html">大柴胡湯</a>合<a href="http://kenko-hiro.blogspot.jp/2011/12/blog-post_17.html">黄連解毒湯</a>加紅花が良いと述べている<span style="font-size: xx-small;">4)</span>。<br />
葛根紅花湯は有持桂里の記した『稿本方輿輗』が原典で<span style="font-size: xx-small;">5)</span>,従来,「酒皶鼻専門の薬方」とされてきた。
その構成生薬のうち,大黄,黄連,山梔子は清熱し,
芍薬,地黄,紅花は駆瘀血し,葛根は胃熱を去り,
斑疹を皮膚から出し尽くす作用がある。最近,酒皶以外にも難治性の顔面皮疹に著効した報告がある<span style="font-size: xx-small;">6)</span>
。
この処方が奏効した3症例は,<a href="http://kenko-hiro.blogspot.com/2010/11/blog-post.html">大柴胡湯</a>+<a href="http://kenko-hiro.blogspot.jp/2011/12/blog-post_17.html">黄連解毒湯</a>が奏効した7症例に比べると,腹力は弱かった。 <br />
酒皶によく似た病変に酒皶様皮膚炎がある。接触性皮膚炎や日光皮膚炎,アトピー性皮膚炎,脂漏性皮膚炎などの基礎疾患があり,ステロイドを外用し続けたためにおこる医原性の疾患である。その経過は各基礎疾患により異なるので,ここでは酒皶様皮膚炎は含まず,酒皶のみに限定して報告した。<br />
酒皶様皮膚炎に対する漢方薬の効果はしばしば報
告されているが<span style="font-size: xx-small;">4)6)7)</span>,酒皶に対する報告は少ない。
松田邦夫は35歳の女性に<a href="http://kenko-hiro.blogspot.jp/2015/06/blog-post_29.html">葛根黄連黄芩湯</a>で3カ月で治癒した例を<span style="font-size: xx-small;">8)</span>,また大塚静英らは39歳の男性の酒皶鼻が葛根紅花湯で治癒した例をそれぞれ報告して
いる<span style="font-size: xx-small;">6)</span>。また前田学は71歳の男性に消風散で,49歳の男性に<a href="http://kenko-hiro.blogspot.com/2011/05/blog-post.html">桂枝茯苓丸</a>で著効した例を報告している<span style="font-size: xx-small;">9)</span>。<br />
酒皶の治療について,成書では葛根紅花湯を第一にあげ,ついで<a href="http://kenko-hiro.blogspot.jp/2011/12/blog-post_17.html">黄連解毒湯</a>や<a href="http://kenko-hiro.blogspot.jp/2015/06/blog-post_29.html">葛根黄連黄芩湯</a>,<a href="http://kenko-hiro.blogspot.com/2011/09/blog-post_27.html">防風通聖散</a>を推奨している<span style="font-size: xx-small;">10)</span>
。坂東は葛根紅花湯を第一にあげ,エキス剤では第1度の酒皶には<a href="http://kenko-hiro.blogspot.jp/2013/01/blog-post_16.html">温清飲</a>合<a href="http://kenko-hiro.blogspot.com/2011/05/blog-post.html">桂枝茯苓丸</a>加大黄を,第2~3度には<a href="http://kenko-hiro.blogspot.jp/2012/03/blog-post_9459.html">荊芥連翹湯</a>合<a href="http://kenko-hiro.blogspot.com/2011/09/blog-post_27.html">防風通聖散</a>合<a href="http://kenko-hiro.blogspot.jp/2014/02/blog-post_8.html">通導散</a>,または<a href="http://kenko-hiro.blogspot.jp/2012/03/blog-post_9459.html">荊芥連翹湯</a>合<a href="http://kenko-hiro.blogspot.com/2011/09/blog-post_27.html">防風通聖散</a>合<a href="http://kenko-hiro.blogspot.com/2011/05/blog-post.html">桂枝茯苓丸</a>を推奨している<span style="font-size: xx-small;">11)</span>。酒皶では真皮毛細血管の拡張と周囲に円形細胞が浸潤し,鼻や頬にはうっ血や充血がみられ,瘀血と考えられる。このため<a href="http://kenko-hiro.blogspot.com/2011/05/blog-post.html">桂枝茯苓丸</a>や<a href="http://kenko-hiro.blogspot.jp/2013/01/blog-post_16.html">温清飲</a>で血行障害と炎症を改善し,
紅花を加えて瘀血を除く目的と考えられる。また<a href="http://kenko-hiro.blogspot.com/2011/09/blog-post_27.html">防風通聖散</a>は,酒皶の患者にはしばしば臓毒体質のも
のがみられるためであろう。牧野<span style="font-size: xx-small;">4)</span>
はアルコールの飲み過ぎなどによる湿熱証の酒皶には<a href="http://kenko-hiro.blogspot.jp/2011/12/blog-post_17.html">黄連解毒湯</a>加紅花や,<a href="http://kenko-hiro.blogspot.jp/2011/12/blog-post_17.html">黄連解毒湯</a>合<a href="http://kenko-hiro.blogspot.jp/2013/06/blog-post_22.html">治頭瘡一方</a>を推奨している。
今回ここに報告した症例はいずれもアルコール摂取やタバコの吸い過ぎ,油っこい食事の多用などはな
く,臓毒証体質は否定的であった。<br />
<br />
<b>結語</b><br />
中年女性にみられた第1,2度の酒皶に漢方治療
を行い,著効を得た10症例を経験した。効果のあった主な方剤は<a href="http://kenko-hiro.blogspot.com/2010/11/blog-post.html">大柴胡湯</a>+<a href="http://kenko-hiro.blogspot.jp/2011/12/blog-post_17.html">黄連解毒湯</a>が7例,葛根紅花湯が1例,<a href="http://kenko-hiro.blogspot.com/2011/05/blog-post.html">桂枝茯苓丸</a>+<a href="http://kenko-hiro.blogspot.jp/2011/12/blog-post_17.html">黄連解毒湯</a>および葛根紅花湯が1例,葛根紅花湯および<a href="http://kenko-hiro.blogspot.jp/2013/11/blog-post_11.html">白虎加人参湯</a>+<a href="http://kenko-hiro.blogspot.com/2011/05/blog-post.html">加味逍遙散</a>が1例であった。第1度または第2度の酒皶の治療には,実証には<a href="http://kenko-hiro.blogspot.com/2010/11/blog-post.html">大柴胡湯</a>+<a href="http://kenko-hiro.blogspot.jp/2011/12/blog-post_17.html">黄連解毒湯</a>,虚実中間証または虚証には葛根紅花湯を第一選択肢として試みる価値があると考える。<br />
<br />
附記:本稿で使用した漢方エキス剤は,症例1,
2,3にはコタロー<a href="http://kenko-hiro.blogspot.jp/2015/01/blog-post_20.html">桔梗石膏</a>を,症例6にはクラシエ
<a href="http://kenko-hiro.blogspot.jp/2013/11/blog-post_11.html">白虎加人参湯</a>を,その他はツムラ社製のエキス剤を使用した。<br />
また,葛根紅花湯,および<a href="http://kenko-hiro.blogspot.jp/2015/06/blog-post_29.html">葛根黄連黄芩湯</a>の生薬集散地は以下の通りである。<br />
葛根:四川省,芍薬:四川省,地黄:山西省,黄連:四川省,山梔子:安徽省,紅花:新疆,大黄:青海省,
甘草:内蒙古,黄芩:河北省。 <br />
<br />
<br />
<b>文献</b><br />
1)清水宏:あたらしい皮膚科学,317~318,中山書店,
東京,2005<br />
2)高山宏世:傷寒論を読もう,155,東洋学術出版社,
千葉,2008<br />
3)神戸中医学研究会:中医臨床のための方剤学,139~
140,医歯薬出版,東京,2005<br />
4)牧野健司:皮膚疾患の漢方治療,66~70,新樹社書林,
東京,1995<br />
5)有持桂里:「稿本」方輿",江戸後期写,巻15,鼻,28
丁裏,燎原書房影印(1973)<br />
6)大塚静英,及川哲郎,望月良子,早崎知幸,小曾戸洋,
伊東剛,村主明彦,花輪壽彦:難治性の顔面の皮疹に 葛根紅花湯が著効した3症例,日東医誌 60,1,93‐
97,2009<br />
7)中西孝文:酒皶のびまん性紅斑に対する<a href="http://kenko-hiro.blogspot.jp/2012/01/blog-post.html">十味敗毒湯</a>の
効果およびアトピー性皮膚炎と酒$の合併について,
「皮膚科における漢方治療の現況8」67‐88,皮膚科
東洋医学研究会 総合医学社,東京,1997<br />
8)松田邦夫:酒皶に葛根黄連黄芩湯,「症例による漢方
治療の実際」382,創元社,1997<br />
9)前田学:酒皶(Ⅰ度)「皮膚疾患と瘀血,―レーダー
グラフを用いた検討―」41‐43,緑書房,東京,1995<br />
10)大塚敬節・矢数道明・清水藤太郎:漢方診療医典,306
~307,南山堂,東京,1994<br />
11)坂東正造「山本巌の漢方医学と構造主義:病名漢方治
療の実際」384~385,メディカルユーコン,京都,2002<br />
<br />
<br />
<br />
<b>【添付文書等に記載すべき事項】</b><br />
<span style="border: medium solid;"> してはいけないこと </span><br />
(守らないと現在の症状が悪化したり、副作用が起こりやすくなる)<br />
<b>1.次の人は服用しないこと</b><br />
生後3ヵ月未満の乳児。<br />
〔生後3ヵ月未満の用法がある製剤に記載すること。〕<br />
<br />
<b>2.授乳中の人は本剤を服用しないか、本剤を服用する場合は授乳を避けること</b><br />
<br />
<br />
<br />
<span style="border: medium solid;"> 相談すること </span> <br />
<b> 1.次の人は服用前に医師、薬剤師又は登録販売者に相談すること</b><br />
(1)医師の治療を受けている人。<br />
(2)妊婦又は妊娠していると思われる人。<br />
(3)体の虚弱な人(体力の衰えている人、体の弱い人)。<br />
<br />
(4)胃腸が弱く下痢しやすい人。<br />
<br />
(5)高齢者。<br />
〔1日最大配合量が甘草として1g以上(エキス剤については原生薬に換算して1g以上)含有する製剤に記載すること。〕<br />
(6)次の症状のある人。<br />
むくみ<br />
〔1日最大配合量が甘草として1g以上(エキス剤については原生薬に換算して1g以上)含有する製剤に記載すること。〕<br />
(7)次の診断を受けた人。<br />
高血圧、心臓病、腎臓病<br />
〔1日最大配合量が甘草として1g以上(エキス剤については原生薬に換算して1g以上)含有する製剤に記載すること。〕<br />
(8)次の医薬品を服用している人。<br />
瀉下薬 ( 下剤 )<br />
<br />
<b>2.服用後、次の症状があらわれた場合は副作用の可能性があるので、直ちに服用を中止し、この文書を持って医師、薬剤師又は登録販売者に相談すること</b><br />
<br />
<table border="1" cellpadding="1" cellspacing="1" style="width: 358px;">
<tbody>
<tr>
<td valign="top" width="101">関係部位</td>
<td valign="top" width="252">症状</td></tr>
<tr>
<td valign="top" width="101">消化器</td>
<td valign="top" width="252">食欲不振、胃部不快感、はげし い腹痛を伴う下痢、腹痛</td></tr>
</tbody></table>
<br />
<br />
<br />
まれに下記の重篤な症状が起こることがある。その場合は直ちに医師の診療を受けること。<br />
<br />
<table border="1" cellpadding="1" cellspacing="1" style="width: 568px;">
<tbody>
<tr>
<td valign="top" width="148">症状の名称</td>
<td valign="top" width="415">症状</td></tr>
<tr>
<td valign="top" width="148">偽アルドステロン症、<br />
ミオパチー</td>
<td valign="top" width="415">手足のだるさ、しびれ、つっぱり感やこわばりに加えて、脱力感、筋肉痛があらわれ、徐々に強くなる。</td></tr>
</tbody></table>
〔1日最大配合量が甘草として1g以上(エキス剤については原生薬に換算して1g以上)<br />
含有する製剤に記載すること。〕<br />
<br />
<br />
<b>3.服用後、次の症状があらわれることがあるので、このような症状の持続又は増強が見られた場合には、服用を中止し、医師、薬剤師又は登録販売者に相談すること</b><br />
軟便、下痢<br />
<br />
<b>4.1ヵ月位服用しても症状がよくならない場合は服用を中止し、この文書を持って医師、薬 剤師又は登録販売者に相談すること</b><br />
<br />
<b>5.長期連用する場合には、医師、薬剤師又は登録販売者に相談すること</b><br />
〔1日最大配合量が甘草として1g以上(エキス剤については原生薬に換算して1g以上)含有する製剤に記載すること。〕<br />
<br />
<br /> 〔用法及び用量に関連する注意として、用法及び用量の項目に続けて以下を記載すること。〕<br />
<br />
(1)小児に服用させる場合には、保護者の指導監督のもとに服用させること。<br />
〔小児の用法及び用量がある場合に記載すること。〕<br />
(2)〔小児の用法がある場合、剤形により、次に該当する場合には、そのいずれかを記載す<br />
ること。〕<br />
1)3歳以上の幼児に服用させる場合には、薬剤がのどにつかえることのないよう、よく注<br />
意すること。<br />
〔5歳未満の幼児の用法がある錠剤・丸剤の場合に記載すること。〕<br />
2)幼児に服用させる場合には、薬剤がのどにつかえることのないよう、よく注意すること。<br />
〔3歳未満の用法及び用量を有する丸剤の場合に記載すること。〕<br />
3)1歳未満の乳児には、医師の診療を受けさせることを優先し、やむを得ない場合にのみ<br />
服用させること。<br />
〔カプセル剤及び錠剤・丸剤以外の製剤の場合に記載すること。なお、生後3ヵ月未満の用法がある製剤の場合、「生後3ヵ月未満の乳児」を<span style="border: medium solid;"> してはいけないこと </span>に記載し、用法及び用量欄には記載しないこと。〕<br />
<br />
<br />
保管及び取扱い上の注意<br />
(1)直射日光の当たらない(湿気の少ない)涼しい所に(密栓して)保管すること。<br />
〔( )内は必要とする場合に記載すること。〕<br />
<br />
(2)小児の手の届かない所に保管すること。<br />
<br />
(3)他の容器に入れ替えないこと。(誤用の原因になったり品質が変わる。)<br />
〔容器等の個々に至適表示がなされていて、誤用のおそれのない場合には記載しなくてもよい。〕<br />
<br />
<br />
<br />
【外部の容器又は外部の被包に記載すべき事項】<br />
<br />
<br />
注意<br />
1.次の人は服用しないこと<br />
生後3ヵ月未満の乳児。<br />
〔生後3ヵ月未満の用法がある製剤に記載すること。〕<br />
<br />
2.授乳中の人は本剤を服用しないか、本剤を服用する場合は授乳を避けること<br />
<br />
<br />
3.次の人は服用前に医師、薬剤師又は登録販売者に相談すること<br />
(1)医師の治療を受けている人。<br />
(2)妊婦又は妊娠していると思われる人。<br />
(3)体の虚弱な人(体力の衰えている人、体の弱い人)。<br />
<br />
(4)胃腸が弱く下痢しやすい人。<br />
(5)高齢者。 〔1日最大配合量が甘草として1g以上(エキス剤については原生薬に換算して1g以上)含有する製剤に記載すること。〕<br />
(6)次の症状のある人。<br />
むくみ<br />
〔1日最大配合量が甘草として1g以上(エキス剤については原生薬に換算して1g以上)含有する製剤に記載すること。〕<br />
(7)次の診断を受けた人。<br />
高血圧、心臓病、腎臓病<br />
〔1日最大配合量が甘草として1g以上(エキス剤については原生薬に換算して1g以上)含有する製剤に記載すること。〕<br />
(8)次の医薬品を服用している人。<br />
瀉下薬 ( 下剤 )<br />
<br />
<br />
3´.服用が適さない場合があるので、服用前に医師、薬剤師又は登録販売者に相談すること<br />
〔3.の項目の記載に際し、十分な記載スペースがない場合には3´.を記載すること。〕<br />
4.服用に際しては、説明文書をよく読むこと<br />
5.直射日光の当たらない(湿気の少ない)涼しい所に(密栓して)保管すること<br />
〔( )内は必要とする場合に記載すること。〕<br />
<br /><br />
<br />
<br />Unknownnoreply@blogger.com0tag:blogger.com,1999:blog-6827912320235733185.post-49929101783958583242015-06-29T22:34:00.000+09:002015-07-13T15:51:50.823+09:00葛根黄連黄芩湯(かっこんおうれんおうごんとう) の 効能・効果 と 副作用<span style="font-size: large;">『<b>臨床応用 漢方處方解説</b>』</span> 矢数道明著 創元社刊<br />
p.75 赤痢・疫痢・急性腸炎・肩こり・高血圧症<br />
19 <span style="font-size: large;"><b>葛根黄連黄芩湯</b></span>(かっこんおうれんおうごんとう) 〔傷寒論〕<br />
葛根六・〇 黄連・黄芩 各三・〇 甘草二・〇<br />
<br />
原本には葛根を先に煮ることになっている。普通は一緒に煮て用いる。<br />
<br />
<div>
〔<b>応用</b>〕 裏の熱が甚だしく、表熱もあり、表裏の鬱熱によって心下が痞えて下痢し、喘して汗が出、心中悸等の症あるものに用いる。<br />
本方は主として下痢(赤痢)・疫痢の初期・急性腸炎・喘息・肩こり等に用いられ、また眼病(結膜炎・涙嚢炎・トラコーマ)・歯痛・口内炎・二日酔・火傷後の発熱・灸後の発熱・丹毒・麻疹内攻・高血圧症・中風・不安神経症等に応用される。</div>
<div>
<br />
〔<b>目標</b>〕 裏熱が主で、表熱がこれに加わり、心下に痞え、下痢して喘し、汗が出て津液は燥き、あるいは項背こわばり、心悸を訴え、脈促(大小不定にくる脈で結滞とは異なる)であるのが、おもな目標である。<br />
<br />
〔<b>方解</b>〕 構成は簡単であり、葛根が主薬である。葛根には滋潤の働きがあり、血液が水分を失って凝固し、項背筋の拘攣するものを滋潤してゆるめる作用がある。心下の痞硬もやわらげる能があるといわれる。黄連は裏の熱が上に迫るのを治し、黄芩は心胸中の熱をさますものである。甘草は諸薬を調和させる。<br />
〔附記〕 東大薬学部の和漢薬成分の研究(薬学雑誌 七九巻八六二)によれば、日本産および中国より輸入の葛根より、daizein,daizin および二種の未知 isoflavone かと思われるものを分離し、マウス腸管について鎮痙作用を試験してみると、daizein が葛根のもっているパパベリン様鎮痙作用を代表していることがわかった。すなわち葛根中の微量成分の中に、筋の痙攣を緩解する作用のあるものが含まれていたことが証明された。葛根が項背こわばるものを治すといわれた意味が了解されたわけである。<br />
<br />
〔<b>主治</b>〕</div>
傷寒論(太陽病中篇)に、「太陽病桂枝ノ証、医反ツテ之ヲ下シ、利遂ニ止マズ、脈促ノモノハ表未ダ解セザルナリ。喘シテ汗出ズルモノハ葛根黄連黄芩湯之ヲ主ル」とある。<br />
類聚広義には、「平日項背強急、心胸痞塞、神思<ruby><rb>悒鬱</rb><rp>(</rp><rt>ユウウツ</rt><rp>)</rp></ruby>憂鬱<ruby><rb>舒暢</rb><rp>(</rp><rt>ジョチョウ</rt><rp>)</rp></ruby>セザルモノヲ治ス。或ハ大黄ヲ加フ」「項背強急、心下痞塞、胸中<ruby><rb>寃</rb><rp>(</rp><rt>エン</rt><rp>)</rp></ruby>熱シテ眼目、牙歯疼痛、或ハ口舌腫痛腐爛スル者ニ大黄ヲ加フレバ其効速ナリ」とあり、<br />
勿誤方函口訣には、「此方ハ表邪陥下ノ下利ニ効アリ。尾州ノ医師ハ小児早手(疫痢)ノ下利ニ用テ屢効アリト云フ。余モ小児ノ下利ニ多ク経験セリ。此方ノ喘ハ熱勢ノ内壅スル処ニシテ主証ニアラズ。古人酒客(酒ノミ)ノ表証ニ用フルハ活用ナリ。紅花・石膏ヲ加エテ口瘡ヲ治スルモ同ジ」とあり、<br />
腹証奇覧には、「コレハ誤治ニヨリテ熱内攻シテ下利スルモノユヘ、内攻ノ熱ヲ瀉スレバ下利モ喘モ自ラ治スルナリ。故ニ黄連ノ胸中ノ熱ヲ解スルモノヲ用ユルナリ、(中略)要スルニ項背強バリ、胸中煩悸シテ熱ノアルモノヲ得バ、其下利及喘シテ汗出ノ証ノ有無ヲ問ハズシテ此方ヲ用ユベシ。因テ転ジテ酒客ノ病、火証、熱病、湯火傷、小児丹毒等ニ此方ノ証アルコトヲ考フベシ」とある。<br />
<br />
〔<b>鑑別</b>〕 <br />
○葛根湯<a href="http://kenko-hiro.blogspot.com/2011/09/blog-post_20.html"></a> 20 (<b><u>発熱</u></b>・表熱)<br />
○麻杏甘石湯 139 (<b><u>喘</u></b>・汗出で喘)<br />
○麻黄湯 136 (<b><u>喘</u></b>、<b><u>発熱</u></b>・喘而胸満、無汗而喘)<br />
○甘草瀉心湯 119 (<b><u>下痢</u></b>・腹鳴下痢)<br />
○桂枝人参湯 35 (<b><u>下痢</u></b>・裏寒表熱)<br />
<br />
〔<b>参考</b>〕<br />
館野健氏は動脈硬化症患者に対し、心下痞・心悸・腹動・多汗・項背の凝り・左半身の知覚麻痺・左心室肥大・じっとしているのがきらいな活動家と感うのを目標として、葛根黄連黄芩湯を用い、きわめて効果的であったと、第十七回日本東洋医学会関東部会(一九六〇)で発表した。<br />
<br />
<br />
<br />
〔<b>治例</b>〕<br />
(一) 疫痢様下痢<br />
四歳の男児。突然四〇度の発熱を起こし、意識混濁し、臭気ある粘液を下した。腹部は軟弱で、左下腹部に索状を触れ、圧痛がある。脈頻数で強かったり弱かったりする。いわゆる促脈を呈している。葛根黄連黄芩湯を与えると、熱は次第に下降し、下痢も減少し、三日目に平熱となった。四日目には口渇を訴え、水が口に入るとたちまち吐き出し、煩燥と小便不利があったので、五苓散にしたところ、嘔吐はただちにやみ全治した。<br />
(著者治験) <br />
<br />
(二) 高血圧症<br />
六〇歳の婦人。高血圧症で六年前左眼様出血、左半身の知覚鈍麻がある。最近感冒後、食欲なく、冷汗が出て、軟便となり、心下痞硬、右臍傍に瘀血の圧痛点があった。葛根黄連黄芩湯一週間で、諸症状が好転し、二週間後、血圧もほぼ正常(一三〇~九〇)となった。<br />
(館野健氏、日東洋医学会誌 一一巻四号)<br />
<br />
<br />
(三) 高血圧症<br />
三四歳の男子。本態性高血圧の患者。心動悸・不眠・小便不利等の症は、柴胡加竜骨牡蛎湯で好転したが、左肩こり・左背痛があり、汗をかきやすく、診療室でも額に汗を流し、常に汗をぬぐっている。涼しい日でも同じである。のぼせ気味で、赤い顔をしている。葛根黄連黄芩湯に三黄丸を兼用したところ、一七〇~一〇〇であった血圧が一三〇~七〇に落ちついた。この人は酒豪で、左半身に知覚麻痺があった。<br />
(館野健氏、日東洋医学会誌 一一巻四号) <br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<span style="font-size: large;">『<b>和漢薬方意辞典</b>』</span> 中村謙介著 緑書房 <br />
<b><span style="font-size: large;"><ruby>葛根黄連黄芩湯<rt>かっこんおうれおうごんとう</rt></ruby> </span></b> [傷寒論] <br />
<br />
<b>【方意】</b> <span style="background-color: #999999;">上焦の熱</span><span style="background-color: #999999;">証</span>による胸中煩悸・心悸亢進・息切れ・心下痞・自汗等と、<span style="background-color: #999999;">脾胃の熱証</span>よる下痢・悪心・嘔吐と、<span style="background-color: #999999;">表の熱証</span>による項背強・促脈等のあるもの。時に<span style="background-color: #999999;">上焦の熱</span><span style="background-color: #999999;">証による精神症状</span>を伴う。 <br />
《少陽病と太陽病の併病.実証》<br />
<br />
<b>【自他覚症状の病態分類】</b> <br />
<table border="1" cellpadding="1" cellspacing="1" style="width: 544px;"><tbody>
<tr> <td valign="top" width="19"><br /></td> <td valign="top" width="141">上焦の熱証<br />
<br /></td> <td valign="top" width="126">脾胃の熱証</td> <td valign="top" width="125">表の熱証</td> <td valign="top" width="125">上焦の熱証による精神症状</td> </tr>
<tr> <td valign="top" width="19">主証 </td> <td valign="top" width="141">◎心中煩悸<br />
◎心悸亢進 <br />
<br />
<br />
<br /></td><td valign="top" width="126">◎下痢<br />
<br /></td><td valign="top" width="125">○項背強<br />
<br />
<br /></td> <td valign="top" width="125"><br /></td> </tr>
<tr> <td valign="top" width="19">客証 </td> <td valign="top" width="141">○息切れ<br />
○心下痞<br />
○自汗<br />
顔面紅潮<br />
ほてり<br />
口渇<br />
口内潰瘍<br />
<br /></td><td valign="top" width="126">○悪心 嘔吐</td><td valign="top" width="125">○促脈<br />
頭痛<br />
悪寒<br />
発熱</td><td valign="top" width="125"> 不安<br />
不眠<br />
熱性痙攣</td></tr>
</tbody></table>
<br />
<br />
<b>【脈候】 </b>促・浮数・弦にしてやや浮。<br />
<br />
<b>【舌候】 </b>乾燥して軽度の白苔。<br />
<br />
<div>
<b>【腹候】 </b>腹力中等度。心下痞または痞硬がある。腹直筋の軽度の緊張、時に腹満を伴う。<br />
<br />
<b>【病位・虚実】</b> 裏熱・裏実の陽明病ではなく、上焦を主として脾胃までの熱証が中心的な病態であって少陽病である。更に表の熱証が存在し、少陽病と太陽病との併病となる。脈力、腹力共に充実しており実証。<br />
<br />
<div>
<b>【構成生薬】</b> 葛根8.0 黄連3.0 黄芩3.0 甘草2.0</div>
<b>【方解】</b>
黄連・黄芩の組合せは三黄瀉心湯・黄連解毒湯でみるように、上焦の熱証およびこれより派生する精神症状を散じる。本方意にも同様に上焦の熱証による胸中煩悶感・心悸亢進・心下痞と、上焦の熱証による精神症状を伴う傾向がある。本方の黄連・黄芩・甘草の組合せは、三つの瀉心湯(半夏瀉心湯・生姜瀉心湯・甘草瀉心湯)の場合と同様に、脾胃の熱証による下痢を治す。葛根は寒熱両証に有効だが、黄連・黄芩と組合せられて、本方では上焦の炎症性・充血性の病態に対応し、表の熱証の項背強・頭痛・悪寒・発熱を治す。<br />
<br />
<b>【方意の幅および応用】</b><br />
A <span style="background-color: #999999;">上焦の熱証</span><span style="background-color: #999999;"></span>:胸中煩悸・心悸亢進・息切れ・心下痞・ほてり等を目標にする場合。<br />
インフルエンザ、気管支喘息、二日酔、火傷、口内炎、舌炎、充血性眼疾患、酒渣鼻<br />
B <span style="background-color: #999999;">脾胃の熱証</span>:下痢・悪心・嘔吐を目標にする場合。<br />
胃腸型感冒、赤痢等急性胃腸炎、各種の発熱性下痢<br />
C <span style="background-color: #999999;">表の熱証</span>:項背強・頭痛等を目標にする場合。<br />
肩凝り、高血圧症、脳血管障害発作後<br />
D <span style="background-color: #999999;">上焦の熱</span><span style="background-color: #999999;">証による精神症状</span>:不安・不眠を目標にする場合。<b> </b><br />
<br />
<br />
<b>【参考】</b> *桂枝湯の証、反って之を下し、利遂に優まず、脈促、喘して汗出づる者は葛根黄連黄芩湯之を主る。『傷寒論』<br />
*項背強急し、心中悸して痞し、下利する者を治す。『方極附言』<br />
*此の方は表邪陥下の下利に効あり。尾州の医師は小児早手の下利に用いて屡効ありと言う。余も小児の下利に多く経験せり。此の方の喘は熱勢の内壅する処にして主証にあらず。古人酒客の表証に用ゆるは活用なり。紅花・石膏を加えて口瘡を治するも同じ。『勿誤薬室方函口訣』<br />
*促脈とは脈の立ち上がりが急で、やや不整、あたかも拍動が迫るような状を覚えるものとされ、表証がいまだ解していない徴候であるとする。また一説では脈頻数で、強かったり弱かったりするものとある。この脈候を目標に本方を用いて著効をおさめている。<br />
*小児の急性食中毒で疫痢状となり、下痢・高熱・痙攣など脳症状を起こしかけ、脈の乱れがちのものに用いる。</div>
<br />
【症例】 急性腸炎<br />
3歳、女児。東京人であるが、当地へ来る数日前大腸カタルを患い、いまだ落治せざるに避暑に来たのである。そして転地早々、名所小湊に遊び、汽車中アイスクリームを食べさせられ、また中食の時は不消化なイカを食べたり、氷水を飲んだり、大分乱暴なやり方をしたのである。その夜帰宅すると発熱し、夜中下痢4回、翌朝になって粘液に血液を混じたる下痢7回。腹痛時々。元気がすっかりなくなった。<br />
体格栄養普通なる女児。脈浮にして1分間120至。舌苔薄く白色を呈す。口渇あれども嘔気なし。心下軟。腹部一般に膨満し下腹部中央に特に抵抗があり、圧すれば痛むものの如くである。体温38.9℃。<br />
まず葛根黄連黄芩湯を処す。発病の翌日午後から投薬したのであるが、その日の夜中下痢7回、翌日4回あって体温は平温となった。ただし腹痛多少あり食欲もいまだ起こらない。重湯を少量与う。<br />
黄芩湯に転ず。この日下痢少量なれど4回あり。その翌日更に普通便一回となり、食欲起こり粥1椀を食するに至った。通計5日。<br />
(附記)本方は葛根湯より更に1歩進んだものに与うべきであると考える。しかし場合により、いずれを処すべきか大いに迷うことがある。<br />
和田正系 『漢方と漢薬』 3・9・38<br />
<br />
<span style="font-size: large;">『<a href="http://kenko-hiro.blogspot.com/2009/01/blog-post_26.html"><b>明解漢方処方</b></a>』</span> 西岡 一夫著 ナニワ社刊 <br />
p.135<br />
⑩葛根黄連黄芩湯(かっこんおうれんおうごんとう) (傷寒論)<br />
<b> </b>葛根六・〇 黄連 黄芩各三・〇 甘草二・〇 (一四・〇)<br />
<br />
所謂、表邪陥下の下痢(太陽病に誤って下剤を与えたため、下痢がなかなか止らない状態)に用いるのが原典に示された本方の目標であるが、応用として小児の疫痢に使用される。なおこの下痢の場合は太陽、陽明合病の葛根湯症と 同じように、葛根特有の項背強(首筋の<ruby><rb>こり</rb><rp>(</rp><rt>○○</rt><rp>)</rp></ruby>)がなくてもよい。疫痢。熱性下痢。<br />
<br />
<br />
<span style="font-size: large;"><b>『漢方処方・方意集』</b></span> 仁池米敦著 たにぐち書店刊<br />
p.51<br />
<ruby>葛根黄連黄芩湯<rt>かっこんおうれんおうごんとう</rt></ruby><br />
[<b>薬局製剤</b>]
葛根6 黄連3 黄芩3 甘草2 以上の切断又は粉砕した生薬をとり、1包として製する。<br />
<br />
«傷寒論»葛根6 黄連3 黄芩3 甘草2<br />
<br />
【方意】気を補って湿邪と熱を除き、脾胃と肝胆を調えて、気と水の行りを良くし上逆した気を降ろし下痢を止め、<ruby><rb>早手</rb><rp>(</rp><rt>はやて</rt><rp>)</rp></ruby>や嘔吐などに用いる。<br />
【適応】止まらない下痢・小児の<ruby><rb>早手</rb><rp>(</rp><rt>はやて</rt><rp>)</rp></ruby>(小児の疫痢)・<ruby><rb>喘</rb><rp>(</rp><rt>ぜん</rt><rp>)</rp></ruby>(呼吸が急促な症状)して汗が出る者・胃腸の病・結腸炎・二日酔い・嘔吐など。<br />
<br />
[適応]紅花と石膏を加えて<ruby><rb>口瘡</rb><rp>(</rp><rt>こうそう</rt><rp>)</rp></ruby>(口内炎などの病)に用いる。<br />
<br />
[原文訳]«傷寒論・弁太陽病脈証併治中»<br />
○太陽病で、桂枝湯證に醫が反って<ruby>之<rt>これ</rt></ruby>を下し、利すること遂に<ruby><rb>止</rb><rp>(</rp><rt>や</rt><rp>)</rp></ruby>まず、脉が促なれ<ruby><rb>者</rb><rp>(</rp><rt>ば</rt><rp>)</rp></ruby>、表は未だ解せざる<ruby><rb>也</rb><rp>(</rp><rt>なり</rt><rp>)</rp></ruby>。喘し<ruby><rb>而</rb><rp>(</rp><rt>て</rt><rp>)</rp></ruby>汗が出れ<ruby><rb>者</rb><rp>(</rp><rt>ば</rt><rp>)</rp></ruby>、葛根黄連黄芩湯が之を主る。<br />
«勿誤薬室方函口訣»<br />
○此の方は、表邪の陥下の下痢に効ある。尾州の醫師は、小兒の<ruby><rb>早手</rb><rp>(</rp><rt>はやて</rt><rp>)</rp></ruby>の下利に用いて<ruby><rb>屡</rb><rp>(</rp><rt>しばしば</rt><rp>)</rp></ruby>効ありと云う。余も小兒の下痢に多く經驗せり。此の方の喘は熱勢の<ruby><rb>内壅</rb><rp>(</rp><rt>ないよう</rt><rp>)</rp></ruby>する處にして主証にあらず。古人は、酒客の表証に用いるは、活用なり。紅花・石膏を加えて口瘡を治するも同じ。<br />
<br />
<br />
<br />
<span style="font-size: large;">『改訂 一般用漢方処方の手引き』</span> <br />
監修 財団法人 日本公定書協会<br />
編集 日本漢方生薬製剤協会 <br />
<br />
<span style="font-size: large;">葛根黄連黄芩湯</span><br />
(かっこんおうれんおうごんとう)) <br />
<br />
<b>成分・分量</b><br />
葛根5~6,黄連3,黄芩3,甘草2<br />
<br />
<b>用法・用量</b><br />
湯<br />
<br />
<b>効能・効果</b><br />
体力中等度のものの次の諸症:下痢,急性胃腸炎,口内炎,舌炎,肩こり,不眠<br />
<br />
<b>原典</b> 傷寒論<br />
<b>出典 </b><br />
<b>解説</b><br />
熱があって下痢し,首すじや肩がこり,みぞおちがつかえ,発汗,喘鳴するような場合に用いる。<br />
瀉心湯の加方である。熱性症候があり,虚して,胸ぐるしく,のぼせ,いらいらして眠ることができなく,各種出血,皮膚の瘙痒,下痢の症状があり,瀉心湯で下しがたいものに用いる。<br />
<br />
<style>
table {
border-collapse: collapse;
}
th {
border: solid 1px #666666;
color: #000000;
background-color: #FCFCFC;
}
td {
border: solid 1px #666666;
color: #000000;
background-color: #ffffff;
}
thead th {
background-color: #FDFAFA;
}
</style>
<br />
<table>
<thead>
<tr>
<th> 生薬名<br />
参考文献名
</th>
<th style="text-align: center;">葛根
</th>
<th style="text-align: center;">黄連
</th>
<th style="text-align: center;">黄芩
</th>
<th style="text-align: center;">甘草
</th>
</tr>
</thead>
<tbody>
<tr>
<th style="text-align: left;">傷寒論 太陽病中篇 注1
</th>
<td style="text-align: center;">半斤
</td>
<td style="text-align: center;">3両
</td>
<td style="text-align: center;">2両
</td>
<td style="text-align: center;">2両
</td>
</tr>
<tr>
<th style="text-align: left;">診療医典 注2
</th>
<td style="text-align: center;">6
</td>
<td style="text-align: center;">3
</td>
<td style="text-align: center;">3
</td>
<td style="text-align: center;">2
</td>
</tr>
<tr>
<th style="text-align: left;">症候別治療 注3
</th>
<td style="text-align: center;">6
</td>
<td style="text-align: center;">3
</td>
<td style="text-align: center;">3
</td>
<td style="text-align: center;">2
</td>
</tr>
<tr>
<th style="text-align: left;">応用の実際 注4
</th>
<td style="text-align: center;">5
</td>
<td style="text-align: center;">3
</td>
<td style="text-align: center;">3
</td>
<td style="text-align: center;">2
</td>
</tr>
<tr>
<th style="text-align: left;">処方解説 注5
</th>
<td style="text-align: center;">6
</td>
<td style="text-align: center;">3
</td>
<td style="text-align: center;">3
</td>
<td style="text-align: center;">2
</td>
</tr>
<tr>
<th style="text-align: left;">漢方あれこれ 注6
</th>
<td style="text-align: center;">6
</td>
<td style="text-align: center;">3
</td>
<td style="text-align: center;">3
</td>
<td style="text-align: center;">2
</td>
</tr>
</tbody>
</table>
<br />
<div>
<span style="border: solid;"> 注1 </span>
太陽病:桂枝証,医反下之,利遂不止,脈促者,表未解也,喘而汗出者主之。右四味,以水八升,先煮葛根,減三升,内諸薬,煮取二升,去滓分温再服。<br />
<span style="border: solid;"> 注2 </span> 本方は三黄瀉心湯中の大黄の代わりに葛根と甘草を入れた方であるから、三黄瀉心湯証に似ていて表熱証があり、森実の候のないものに用いる。そこで「傷寒論」に「太陽病の桂枝湯証を誤って医者が下したために、下痢が止まず、脈が促であるものは,表証がまだ残っている。このような患者で,喘鳴があって汗が出るものは葛根黄連黄芩湯の主治である」という条文によって,急性胃腸炎,疫痢,胃腸型の流感などに用いるばかりでなく,肩こり,高血圧症,口内炎,舌炎,不眠などにも用いる。</div>
<span style="border: solid;"> 注3 </span> 二日酔で,嘔吐するものには,五苓散や順気和中湯がよくきくが,嘔吐,下痢があり,また心下部の痛むものには,この方のよくきく場合がある。疫痢で高熱が出て,下痢とともに痙攣を発する場合に用いる。<br />
<span style="border: solid;"> 注4 </span> 熱のある下痢の初期に用いる。このとき,項背がこわばり,心下が痞える。勿誤薬室方函口訣には,小児の下痢によく用いられるとある。また汗が出て,喘鳴を発することもある。<br />
<span style="border: solid;"> 注5 </span> 原本には葛根を先に煮ることになっている。普通は一諸に煮て用いている。裏の熱がはなはだしく,表熱もあり,表裏の鬱熱によって心下が痞えて下痢し,喘して汗が出,心中悸等の症のあるものに用いる。<br />
<span style="border: solid;"> 注6 </span> はしか:高熱を出し,咳をして下痢気味のときは葛根黄連黄芩湯を用いる。<br />
<br />
<br />
<span style="font-size: large;">『<b>-考え方から臨床の応用まで- 漢方処方の手引き</b> 』</span> <br />
小田 博久著 浪速社刊<br />
p.140<br />
<ruby><rb><span style="font-size: large;"><b>葛根黄連黄芩湯</b></span></rb><rp>(</rp><rt>かつこんおうれんおうごんとう</rt><rp>)</rp></ruby> (傷寒論)<br />
葛根:六、黄連・黄芩:三、甘草:二。<br />
<br />
(<b>主証</b>)<br />
脈促。下痢、喘して汗出る。太陽と陽明の合病。<br />
<br />
(<b>客証</b>)<br />
項背強がなくとも可。なかなか止まらぬ下痢(熱があり長期症状が変化しない)。<br />
<br />
(<b>考察</b>)<br />
表裏の欝熱。<br />
熱が出て下痢。腹満→桂枝加芍薬湯。腹中雷鳴→瀉心湯類。<br />
傷寒論(太陽病中篇)<br />
「太陽病桂枝の証、医反って之を下し<ruby><rb>利逐に止まず</rb><rp>(</rp><rt>○○○○○○</rt><rp>)</rp></ruby>、脈促のものは表未だ解せざるなり。<ruby><rb>喘して汗出ずる者</rb><rp>(</rp><rt>○○○○○○○○</rt><rp>)</rp></ruby>は葛根黄連黄芩湯之を主る。」<br />
<br />
<br />
<span style="font-size: large;"><b>『臨床傷寒論』</b></span> 細野史郎・講話 現代出版プランニング刊<br />
p.58<br />
第二十一条<br />
<br />
太陽病、桂枝証、医反下之、利遂不止、喘而汗出者、葛根黄連黄芩甘草湯主之。<br />
<br />
〔<b>訳</b>〕太陽病、<ruby><rb>桂枝</rb><rp>(</rp><rt>けいし</rt><rp>)</rp></ruby>の<ruby><rb>証</rb><rp>(</rp><rt>しょう</rt><rp>)</rp></ruby>、<ruby><rb>医</rb><rp>(</rp><rt>い</rt><rp>)</rp></ruby><ruby><rb>反</rb><rp>(</rp><rt>かえ</rt><rp>)</rp></ruby>って之を下し、<ruby><rb>利</rb><rp>(</rp><rt>り</rt><rp>)</rp></ruby><ruby><rb>遂</rb><rp>(</rp><rt>つい</rt><rp>)</rp></ruby>に<ruby><rb>止</rb><rp>(</rp><rt>や</rt><rp>)</rp></ruby>まず、<ruby><rb>喘</rb><rp>(</rp><rt>ぜん</rt><rp>)</rp></ruby>して<ruby><rb>汗</rb><rp>(</rp><rt>あせ</rt><rp>)</rp></ruby><ruby><rb>出</rb><rp>(</rp><rt>い</rt><rp>)</rp></ruby>ずる者、<ruby><rb>葛根黄連黄芩甘草湯</rb><rp>(</rp><rt>かっこんおうれんおうごんかんぞうとう</rt><rp>)</rp></ruby>之を主る。<br />
<br />
〔<b>講話</b>〕
葛根黄連黄芩(甘草)湯で私が一番最初、よく効くなと思ったことがあるのです。それはハシカです。ハシカが内攻しまして、下痢を起こし、肺炎を起こしているような状態で熱もあった、そんな状態の子供(家内の弟の子供で四歳か、五歳の頃)に私はこの処方を使ってみたのです。一服飲ましたら、すごく効きました。熱はシューと下がりますし、下痢も止まり、ゼイゼイいっていた肺炎の症状も治まりました。それで感心しました。本当に漢方というものはよく効くなあと思いました。内攻したハシカによく使う薬方に二仙湯という処方があります。二仙湯というのは、芍薬と黄芩の二味です。しかし分量を書いていないので、適当な分量を同分量づつ入れて、青くなってチアノーゼを起こしている子供に飲ませたら、もうこれはだめだろうと思って飲ませたのですが、飲んて暫くして、すっと血色がよくなってきた。よくなるはずですね、江田先生の研究報告によると、黄芩には抗アレルギー作用、アナフィラキシー反応に対して、顕著な防御作用がある。その作用は、黄芩の主成分のバイカリンだということです。それで、二仙湯が効く理由がわかりました。なるほど、ああいうように、もうだめになっているものでもね。黄芩が入っているということは大切だなと思いました。この葛根黄連黄芩(甘草)湯も黄芩が入っていますから、効いてもよいですよね。それに、先ほどもいいましたように、葛根には喘を止める性質があるし、黄連は細菌を殺す力はものすごくあるし、だから、効いて当りまえです。姪を助けて非常に喜ばれ、それから後、二仙湯でハシカ内攻のもう小児科で見放された子供を救えて、なるほど効くものだなと、私は感心させられました。<br />
薬というものは、用いようですね、やはり体験をしっかり踏まえていないといけないですね。また、薬理的な研究がすすんで、二仙湯のもとになる、このようなことがわかれば非常に面白いですね。<br />
また私はこれを喘息に使うのです。葛根黄連黄芩(甘草)湯を始めて使ったのは、ものすごくよく肩の凝る人で、その頃は、私の頭はまだ麻黄から離れていないので、喘息の時は、麻黄、麻黄の入っていないものな効かないと思っていた時ですから、それで葛根湯を土台にして、それに黄連、黄芩と加えたのです。そうすると葛根黄連黄芩(甘草)湯でしょう、そうしてやったらその人はすっとよくなって、他の処方を与えるとためなようになる。それから後、葛根黄連黄芩(甘草)湯が喘息に効くということを見つけたわけです。そのようにして、次から次、自分のやった土台を広げて、広応範囲を考えていったわけです。皆さんもよく勉強して、広げていって下さい。今、私がこんないろいろの話ができるのは『傷寒論』があるからです。『傷寒論』が土台になって、今の私の経験談ができてきたのですよ。<br />
<br />
<br />
<span style="font-size: large;"><b>『臨床応用 傷寒論解説』</b></span> 大塚敬節著 創元社刊<br />
p.200<br />
<b>第二十一</b>章<br /><br />太陽病、桂枝證、醫反下之、利遂不止、喘而汗出者、葛根黃連黃芩甘草湯主之。<br /><br />〔<b>校勘</b>〕宋本、成本では「不止」の下に「脈促者、表未解也」の七字がある。康平本は「表未解也」を「表不解也」に作り、この七字を傍註とする。今、康平本によって、この七字を原文より削って、註文とする。「葛根黃連黃芩甘草湯」を康平本は「葛根黃連黃芩湯」に作り、宋本、成本は「葛根黃芩黃連湯」に作る。今、厚朴生姜半夏甘草人參湯、乾姜黃芩黃連人參湯の例にならって、甘草を加える。<br /><br />〔<b>譯</b>〕<br />太陽病、桂枝の證、醫反って之を下し、利遂に止まず、喘して汗出ずる者は、葛根黃連黃芩甘草湯之を主る。<br /><br /><span style="font-size: x-small;">〔<b>註</b>〕<br />(154) 利遂不止-利は下痢である。遂には、或る一つのことがあって、それが原因で次のことが起こるのを言い、「因って」の意である。</span><br /><br />〔<b>解</b>〕<br />
太陽病中の桂枝湯の証は下してはならない。これを誤って医者が下し、そのために、ひきつづいて下痢が止まらなくなった。しかも、その上に、喘して汗出ずという症状もある。<br />
喘して汗出ずという症状は、喘が主であって、そのために汗が出るのであって、汗出でて喘の麻黄杏仁甘草石膏湯証と区別しなければならない。<br />
さて、この証は、表証を誤まって下し、邪の一部が裏に入って、下痢が止まらなくなったもので、この下痢は第十九章の太陽と陽明の合病の下痢に似ている。しかし前の合病では、表実のために、裏虚に似た下痢を起こしているのであって、表邪を散ずれば、下痢は自然に止むのであるが、この章の下痢は表証を誤下して、一部の邪が裏に入って、下痢を起こしたのであるから、表裏を倶に治する必要がある。そこで、脈促の者は、表未だ解せざるなりという註を入れたのである。促脈については、桂枝去芍薬湯の章で述べたので、参照してほしい。表未だ解せずという場合は、すでに、邪の一部が裏に入ったのに、まだ表証が残っている時に用いる法語である。<br />
<br />
〔<b>臨床の目</b>〕<br />
(43) 私は葛根黄連黄芩甘草湯を患者に何回か用いたことがある。またこの方を下痢も、喘もない場合に用いることがある。その場合は、三黄瀉心湯の大黄の代りに、葛根と甘草を入れたものとして方意を考える。そこで、婦人の血の道症、不眠症、高血圧症などに、この方を用いることがある。<br />
<br />
<b> 葛根黃連黃芩甘草湯方</b><br />葛根<span style="font-size: x-small;">半斤</span> 甘草<span style="font-size: x-small;">二兩炙</span> 黃芩<span style="font-size: x-small;">三兩</span> 黃連<span style="font-size: x-small;">三兩</span><br /> 右四味、以水八升、先煮葛根、減二升、内諸藥、煮取二升、去滓、分溫再服。<br /><br />〔<b>校勘</b>〕 諸本みな、方名中に「甘草」の二字がない。今、これを加える。黃芩の「三兩」を、成本は「二兩」に作る。「味」の下に、玉函には「㕮咀」の字がある。<br /><br />〔<b>譯</b>〕<br />葛根黃連黃芩甘草湯の方<br />葛根<span style="font-size: xx-small;">(半斤)</span> 甘草<span style="font-size: x-small;">(二兩、炙る)</span> 黃芩<span style="font-size: x-small;">(三兩)</span> 黃連<span style="font-size: x-small;">(三兩)</span><br />
<br />
右四味、水八升を以って、先ぶ葛根を煮て、二升を減じ、諸薬を内れ、煮て二升を取り、滓を去り、分溫再服す。 <br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<span style="font-size: large;"><b>『康平傷寒論読解』</b></span> 山田光胤著 たにぐち書店刊 <br />
p.99 <br />
(34)三四条、第二十一章、十五字<br />
太陽病、桂枝の証、医反って之を下し、利遂に止まず(傍・脈促なる者は表解せざるなり)、喘して汗出ずる者は、葛根黄連黄芩湯之を主る。<br />
葛根黄連黄芩湯方<br />
葛根半升、甘草二両炙る、黄芩三両、黄連三両<br />
右四味、水八升を以て、先に葛根を煮て二升を減じ、諸薬を内れて煮て二升を取り、滓を去り、分ち温めて再服す。<br />
<br />
<b>【解】</b><br />
太陽病の中で桂枝湯の証は、(葛根湯証も同様で)発汗によって病邪を解散させるべきものである。それを医者が誤って下剤を用いた為、遂に下痢が止まらなくなった。それは誤下によって邪の一部が裏に入って下痢を起したのである。そういう場合一般には陰証になったり、脉は沈微になり易いがこの場合は、傍註で云うように脉が促なのは邪が表に残っていることを示しているのである。<br />
傷寒論では「表未だ解せず」という表現は、邪が既に裏に及んだが、表も未だ解決せずの意味である。一方又熱邪が裏に及んだ為、気が逆して喘が起し、汗が出た。このような時は、表と裏を同時に治する葛根黄連黄芩湯で、表邪を散じ裏熱を除くことができるので此の方が主治するのである。<br />
即ち、葛根で表を治し、黄連黄芩で裏を治して、下痢も喘も止めるのである。前条の合病では、表邪を解散すれば下痢自然に止むものであり、本条では、表裏を倶に治す必要がある場合をのべているのである。<br />
(注・喘は息切れのこと。本方は太陽と少陽の合病)<br />
<br />
<br />
<span style="font-size: large;"><b>『傷寒論演習』</b></span> 講師 藤平健 編者 中村謙介 緑書房刊<br />
p.116<br />
<br />
<div style="border: 1px solid #000; padding: 10px;">
<b><span style="font-size: small;">三四 太陽病。桂枝証。医反下憲。利遂不止。脈促者。表未解也。喘而汗出者。葛根黄連黄芩湯主之。</span></b><br />
<br />
<span style="font-size: small;">太陽病、桂枝の証、医反つて之を下し、利遂に止まず、脈促なる者は、表未だ解せざる也。喘して汗づる者は、葛根黄連黄芩湯之を主る。</span><br />
<span style="font-size: small;"> </span></div>
<br />
<b>藤平</b> 太陽病で桂枝湯の証だと断わっているのですから、これを下すということはもってのほかですが、医者が誤ってこれを下してしまった。そのため下痢が止らなくなった。<br />
この場合には陰証、例えば桂枝人参湯証に陥ってしまうこともありますが、ここでは陽証の葛根黄連黄芩湯証になったわけです。<br />
ここに「医」とありますが、医の字が加わった場合には誤治になちがいありませんが、相応の下すべき症状があって下したのだと及川達さんは説明しています。つまりいたしかたない理由があった場合です。<br />
しかし「医」がなく「反下之」とある場合は、これは医者が誤って、全く下してはならないものを下してしまったという場合です。『傷寒論』の厳密さがここにもあらわれています。<br />
促脈というのは脈拍数の多い数脈の一種だという説がありますが、また促はうながすと読みますから、せっつかれるような感じをもつ脈だともいわれます。そしてこの促脈は太陽病を下してはならないのに下し、なおかつ未だ表証が残っている場合の脈だと考えられています。第二二条の桂枝去芍薬湯のところでも触れました。つまりここでも表証が解さずに残っています。<br />
「喘」は呼吸困難のことです。これに咳を伴えば喘咳、ゼロゼロいえば喘鳴、胸が張って苦しければ喘満となります。「喘而汗出者」の而の字に注意して、喘つまり呼吸困難のために汗が出ると読みます。一種の苦汗ですね。<br />
このような状態を葛根黄連黄芩湯はつかさどるというのです。<br />
<br />
<br />
<div style="border: 1px solid #000; padding: 10px;">
<span style="font-size: small;"><b>太陽病桂枝証</b> 此の章は、第二二章の「太陽病。下之後云々」の句を承けて、且又前々章の「必自下利」に対し、其の誤下に因りて逆変を致せる者を挙げ、以て葛根黄連黄芩湯の主治を論ずるなり。</span><br />
<span style="font-size: small;"> 桂枝の証とは桂枝湯証の略なり。凡そ単純なる桂枝湯証にして、他の証を挟まざる者は、下す可からずるを法則と為す。故に先づ太陽病と言ひ、又重ねて桂枝の証と言ふなり。</span><br />
<span style="font-size: small;">医反下之 単純なる桂枝の証なるに拘らず、肌を解せずして之を下す。故に先づ医と言ひ、反つて言ひて、深く其の誤を咎む。</span><br />
<br />
<span style="font-size: small;"> </span></div>
<br />
<b>藤平</b> 先ほどちょっと触れましたが「医反」と、単に「反」の区別を『傷寒論古訓伝』の及川達さんはきちんと言及しています。この点に関して第一四条の解説の中でお話しました。<br />
及川達さんのことあたりの解釈や、合病及び併病の解釈はたいへんにすばらしいものだと思います。いろいろな所で卓見を述べています。<br />
<br />
このような状態を葛根黄連黄芩湯はつかさどるというのです。<br />
<br />
<br />
<div style="border: 1px solid #000; padding: 10px;">
<span style="font-size: small;"><b>利遂不止</b> 既に之を誤り下す。故に利続いて止まざるなり。</span><br />
<span style="font-size: small;"><span style="font-size: small;"><b>脈促者</b> 促とは短促の義。初の浮脈、茲に至つて逐次短促するを言ふ。此れ太陽病下後に於て、尚表証去らざるの候なり。</span></span><br />
<span style="font-size: small;"><span style="font-size: small;"><b>表未解也</b> 故に表未だ解せざる也と言ふ。然れども既に表証を誤り下す。因て表邪直に裏に奔りて、</span></span><span style="font-size: small;"><span style="font-size: small;"><span style="font-size: small;"><span style="font-size: small;">裏も亦病まざるを得ず。既に之を </span></span></span></span><span style="font-size: small;"><span style="font-size: small;"><span style="font-size: small;"><span style="font-size: small;"><span style="font-size: small;"><span style="font-size: small;"><b>喘而汗出者促者</b> 是其の応徴なり。喘而汗出と、汗出而喘とは少しく其の意義を異にす。喘而汗出は、喘するに因て汗出づる也。汗出而喘は、自汗出づるが為に喘するなり。而しての字の上を正証となし、其の下を兼証となす。今、喘して汗出づるは欝熱、胸に迫るの為す所となす。</span></span> 此の証、表証未だ解せず。又裏には既に欝熱有り。是表裏を同時に双解せざれば其の病癒えず。之を葛根黄連黄芩湯の主治と為す。故に </span></span></span></span><span style="font-size: small;"><span style="font-size: small;"><span style="font-size: small;"><span style="font-size: small;"><span style="font-size: small;"><span style="font-size: small;"><b>葛根黄連黄芩湯主之 </b>と言ふなり 此の章に拠れば、本方は、表裏の欝熱を清解し、兼ねて下痢及び喘を治するの能有りと言ふ可きなり。 </span></span></span></span></span></span><span style="font-size: small;"><span style="font-size: small;"><span style="font-size: small;"><span style="font-size: small;"><span style="font-size: small;"><span style="font-size: small;"><span style="font-size: small;"><span style="font-size: small;"><span style="font-size: small;"><span style="font-size: small;"><span style="font-size: small;"><span style="font-size: small;"><b>葛根黄連黄芩湯方 </b>葛根<span style="font-size: xx-small;">半斤</span> 甘草<span style="font-size: xx-small;">二両</span> 黄芩<span style="font-size: xx-small;">二両</span> 黄連<span style="font-size: xx-small;">三両</span></span></span></span></span></span></span></span></span></span></span></span></span><br />
<span style="font-size: small;"><span style="font-size: small;"><span style="font-size: small;"><span style="font-size: small;"><span style="font-size: small;"><span style="font-size: small;"><span style="font-size: small;"><span style="font-size: small;"><span style="font-size: small;"><span style="font-size: small;"><span style="font-size: small;"><span style="font-size: small;"> 右四味。以水八升。先煮葛根。減二升。内諸薬。煮取二升。去滓。分温再服。</span></span></span></span></span></span></span></span></span></span></span></span><br />
<span style="font-size: small;"><span style="font-size: small;"><span style="font-size: small;"><span style="font-size: small;"><span style="font-size: small;"><span style="font-size: small;"> </span></span> </span></span> </span> </span><span style="font-size: small;"> </span></div>
<br />
<b>藤平 </b>ここに表裏と二、三度使われていますが、表は太陽病の表証ですし、裏は半表半裏を意味しています。いわば方本は表的半表半裏証ということになります。<br />
<br />
<br />
<br />
<div style="border: 1px solid #000; padding: 10px;">
<span style="font-size: x-small;"><b>追記</b> 此の章、誤下を設けて病の変化を明かにせんと欲するなり。今桂枝の証にして誤つて之を下す。故に其の所在を転じて、半ばは表位に止まり、半ばは心胸に止まりて、表裏解せず。脈促は表位に止まるの候、喘して汗出づるは心胸に止まるの徴なり。</span><br />
<span style="font-size: small;"><span style="font-size: small;"><span style="font-size: small;"><span style="font-size: small;"><span style="font-size: small;"><span style="font-size: small;"> </span></span> </span></span> </span> </span><span style="font-size: small;"> </span></div>
<br />
<b>藤平 </b>ないも葛根黄連黄芩湯証は誤下に現われるとかぎったものではないのですが、ここでは誤下のために本方証になったという場合を仮りに設定しているのです。このような方式で条文を書き起こしているところが『傷寒論』の中にはあちこち見られます。<br />
<br />
<div style="border: 1px solid #000; padding: 10px;">
<span style="font-size: small;"> 表証之を下し、利止まざる、之を甘草瀉心湯証となせば、表未だ解せざるは其の証に非ず。又利止まず、表裏解せざる、之を桂枝人参湯なせば、協熱に非ざるは其の証に非ず。又桂枝加厚朴杏仁湯証に似たりと雖も此の証は下利に因て津燥き痞熱加はるのなす所、即ち其の証に非ず。是に於て、本方証なること知るべし。</span><br />
<span style="font-size: small;"><span style="font-size: small;"><span style="font-size: small;"><span style="font-size: small;"> 此の証、其の表を攻めんと欲すれば、既に在る裏証を奈何せん。又其の裏を救はんと欲すれば、未だ解せざる表証を奈何せん。是に於て、同時に其の表裏を制し清むるなり。是即ち双解の法なり。此の証、合病に似て合病に非ず。 </span></span></span></span><span style="font-size: small;"><span style="font-size: small;"><span style="font-size: small;"><span style="font-size: small;"><span style="font-size: small;"><span style="font-size: small;"><span style="font-size: small;"><span style="font-size: small;"><span style="font-size: small;"><span style="font-size: small;"><span style="font-size: small;"><span style="font-size: small;"><span style="font-size: xx-small;"></span></span></span></span></span></span></span></span></span></span></span></span></span><span style="font-size: small;"><span style="font-size: small;"><span style="font-size: small;"><span style="font-size: small;"><span style="font-size: small;"><span style="font-size: small;"><span style="font-size: small;"><span style="font-size: small;"><span style="font-size: small;"><span style="font-size: small;"><span style="font-size: small;"><span style="font-size: small;"> ○以上の四章は一節なり。初章に於ては先づ葛根湯の主治と本分とを明かにし、次章に於ては其の活用を論じ、又次章に於ては其の加味方に及び、終章に於ては葛根湯証に似て非なる者を論じ、以て一たび葛根湯類を結べるなり。</span></span></span></span></span></span></span></span></span></span></span></span><br />
<span style="font-size: small;"><span style="font-size: small;"><span style="font-size: small;"><span style="font-size: small;"><span style="font-size: small;"><span style="font-size: small;"> </span></span> </span></span> </span> </span><span style="font-size: small;"> </span></div>
<br />
<b>藤平</b> 私はこの葛根黄連黄芩湯証は併病で、ちょうど桂枝人参湯と陰陽相対するものだと思います。太陽病証を下したために陰証に陥ちこんでしまったというのが桂枝人参湯証ですし、下したために半表半裏にまで行ってしまったのがこの葛根黄連黄芩湯証です。<br />
桂枝人参湯証はまさに桂枝湯証と人参湯証とが完全に現われているものです。つまり桂枝湯証の頭痛、悪寒、発熱、自汗があって、しかも人参湯証の足が冷えて下痢が激しい等ももられるものです。子供等が夏に寝冷えしてカゼと下痢とがいっしょに発現することがありますが、これが桂枝人参湯証です。これに本方を一服飲ませればたちまちよくなります。<br />
一方、頭痛、悪寒、発熱があり項もこる。そして下痢もするが、陰証ではないという場合に葛根黄連黄芩湯を投じるとよいわけです。<br />
ですから桂枝人参湯は本来は桂枝湯と人参湯の合方が考えられるのです。併病の場合には合方で治す場合、先表後裏の場合、先急後緩の場合の三つがあります。桂枝人参湯は併病であってその合方で治す場合のものです。<br />
ところで『傷寒論』『金匱連略』を読みますと、合方の場合に両方の構成生薬をそっくりそのまま合わせる場合もありますが、そうでない場合もあります。<br />
例えば柴胡桂枝湯は小柴胡湯証と桂枝湯証との併病です。そして両方の構成生薬をそれぞれ二分の一ずつ取って合方し、重複薬は少ない方の二分の一を加えています。また、太陽病という同病位に於ける併病であるところの桂枝麻黄各半湯は、桂枝湯と麻黄湯の三分の一ずつ取り、重複薬も同じく三分の一ずつを合わせています。<br />
しかし桂枝人参湯は先ほども述べましたように症状では完全な桂枝湯証と人参湯証との併存ですが、構成生薬をみますと人参湯の中の甘草の量を少し増量して、これに桂枝を加えたものです。ですから桂枝湯の他の構成生薬は入っていないのです。それであるのに、これを飲ませるとすべての症状がきれいに消失します。<br />
『傷寒論』の作者は併病の場合に合方することがあるのですが、何かの理由によって、二つの薬方の構成生薬をそのまま合わせることをせず、いくつかの構成生薬を取り去って合方することがあるのです。そして新しい薬方を創設するわけです。桂枝人参湯がこれに該当しますし、麻黄附子細辛湯もそうです。<br />
麻黄附子細辛湯は、今はもう伝わらなくなってしまった少陰病の或る薬方、それには附子と細辛とが含まれているのですが、その薬方証と太陽病の麻黄の含まれた或る薬方証の併存で、それぞれから構成生薬を抜き出してこの薬方を創設したのだと思います。<br />
これらと同様に本条の葛根黄連黄芩湯は葛根湯と黄芩湯との合方だと思います。つまり葛根湯の頭痛、悪寒、発熱、項強があり、黄芩湯の陽証の下痢があるのです。二薬方証の併存でして併病です。しかし構成生薬をみてみますと、二薬方をそっくり合わせたものではなく、葛根湯の構成生薬中の或るものは捨て去り、また黄芩湯の或るものを捨てて合方し、一つの新しい薬方を創設したわけです。<br />
こういうことを『傷寒論』の作者は所々でやっているのですが、どうして単純に二薬方を合方せずに、構成生薬の一部を捨てたり抜き出したりして合方するのか、その理由はまだわかりません。ボクもなんとか知りたいと思っています。諸先生が何とかこの疑問を解決してください。何か大きなものがここにはあると思います。『傷寒論』の中には未解決のことがたくさんありますが、これなどは、その中の大きなものの一つだと思います。<br />
これは併病の範囲で考えてまずまちがいないと思いますが、併病はこれから研究し仲いかなければならない分野だと思います。中国のほうが今かなり考えつつあるようですから、うっかりすると逆輸入現象が起きるかもしれませんね。<br />
さて、何かこの条文でご質問はありませんか。<br />
<b>会員B</b> 下痢というとすぐ裏証だと思いがちなのですが、この下痢は半表半裏なのですね。<br />
<b>藤平</b> 半表半裏の下痢はいくらでもあります。これはその中の黄芩湯証の下痢です。<br />
<b>会員A</b> 本条は「太陽病。桂枝証。医反下之」となっていて、「太陽病。医反下之」となっていません。あえて「桂枝証」を加えてある理由は何でしょうか。<br />
<b>藤平</b> 太陽病証の中でも最も下すという治療方法からほど遠いということを意味していると思われます。<br />
<b>会員A</b> 次に「医反下之」の「医」てすが、先ほどの及川達先生の説ですといくぶんかは下すべき症状があって下したのだということですので、及川先生もこの条文を併病とみていたと考えてよいのでしょうか。<br />
<b>藤平</b> 「太陽病。反下之」とある場合には下すべき症状もないのに誤治をしてしまったという意味ですし、「太陽病。下之。」の場合には太陽病証のあるうえに腹満、便秘、苦しい等の陽明病証があるために、やむを得ず先急後緩で下したという意味です。<br />
本条の場合の「医反下之」も及川達さんは下すべき症状があったと言っているのですから、併病以外には考えられないと思います。<br />
<b>会員A</b> ではさらに、桂枝人参湯は協熱であると奥田先生は言っておられますが、この協とは何でしょうか。<br />
<b>藤平</b> これは表熱つまり表証の熱をさしはさむと昔から説明されています。表証の熱ですから虚熱ではなく実熱ですが、表熱をさしはさむと言っても何を意味しているのか非常にわかりにくいですね。結局表証と陰証の併病と考えればよいと思います。<br />
<b>会員A</b> 最後の質問ですが、本条の病態が合病ではなく併病であるという理由ですが、それは症状からみると二薬方証の併存であるし、構成生薬からみると合病の治療原則の単一の薬方ではなく、元の薬方のままではないが二薬方の合方であるから併病であると感うのでしょうか。<br />
<b>藤平</b> その通りです。<br />
ところでこの葛根黄連黄芩湯にからんでの話ですが、外国の或る人が吉益東洞さん等あの時代の人はきちんと経験を踏まえて発言しているから感心するが、日本の今の時代の人は経験もしていないことをあたかも経験したように勝手なことを述べていて誤っていると発言したことがありました。これに対して小倉さんとボクとが大論争をいどんだことがあります。<br />
その人の言では、この条文に示されているような状態に葛根黄連黄芩湯を使ったら患者を殺してしまうと言うのです。これは四逆湯でなければ救命できない。台湾の人も、中国の人も皆そう言っている。現代の日本の人だけが勝手なことを言っていると主張するのです。<br />
そこでボクが反論したのです。「あなたご自身で経験したことがあるのか」と尋ねたところ、経験はないと言う。「ボクは自分自身でも経験したし、患者さんでも度々経験して条文の通りに使って誤りない。ここに四逆湯等を使ってはかえって患者を殺してしまう」と言ったのです。<br />
私は自分自身の食中毒を葛根黄連黄芩湯で救われたことがあるし、この条文通りに使ってよく効く大事な薬方です。<br />
<br />
<br />
<span style="font-size: large;"><b>『漢方原典 傷寒論の基本と研究』</b></span> 大川清著 明文書房刊<br />
p.119<br />
<div style="border: 1px solid #000; padding: 10px;">
<span style="font-size: large;">三四 太陽病、桂枝證、醫反下之、利遂不止、脈促者、表未解也。喘而汗出者、葛根黃連</span><span style="font-size: large;"><span style="font-size: large;">黃</span>芩湯主之。</span><span style="font-size: small;"> </span></div>
<br />
<br />
<span style="border: 1px solid #000000;">読</span> 太陽病、桂枝の証、医反って之を下し、利遂に止まず、脈促なるもの者は、表未だ解せざる也。喘して汗出づる者は、葛根黄連黄芩湯之を主る。<br />
<br />
<br />
<span style="border: 1px solid #000000;">訳</span>
太陽病、桂枝(湯)証(であり、本来下してはいけないのに)、医者がかえって之を下し、下痢がついに<ruby><rb>止</rb><rp>(</rp><rt>や</rt><rp>)</rp></ruby>まなくなったが、脈は促であるものは、表証が未だ解していないのである。汗を出しながら喘する者は、葛根黄連黄芩湯が之を主る。<br />
<br />
<span style="border: 1px solid #000000;">解説</span> この章は第二二条の[太陽病、下之後、脈促]の句を承けて、桂枝湯証を誤って下し、下痢が止まなくなった場合の治法を論じる。<br />
<br />
<div>
<span style="border: 1px solid #000000;">語意</span> [脈促] 数脈。</div>
<div>
[喘而汗出] 出を出しながら喘鳴を発する。第六三条[発汗後、不可更行桂枝湯、汗出而喘、無大熱者、可與麻黄甘草杏仁石膏湯主之。]との鑑別は自ずから明らかである。<br />
<br /></div>
<span style="border: 1px solid #000000;">註釈</span> 瀉下の後に限らず、初発から葛根黄連黄芩湯証を示す者がある。<br />
太陽病下篇第一七〇条[太陽病、外証未除、而數下之、遂協熱而利、心下痞鞕、表裏不解者、桂枝人参湯主之。]桂枝人参湯も外証が未だ除かないうちに下した者であるが、桂枝人参湯は基本的には人参湯証で上衝するものである。湯は<br />
<rp>)</rp><br />
◎<ruby><rb><b>葛根黄連黄芩湯大靑龍湯</b></rb><rp>(</rp><rt><b>葛根黄連黄芩湯</b></rt><rp>)</rp></ruby>方 葛根<span style="font-size: xx-small;">半斤</span> 甘草<span style="font-size: xx-small;">三兩 炙</span> 黃芩<span style="font-size: xx-small;">三兩</span> 黃連<span style="font-size: xx-small;">三兩</span> 右四味、以水八升、先煮葛根、減二升、内諸薬、煮取二升、去滓、分温再服。<br />
<br />
<span style="border: 1px solid #000000;">補記</span> 『小刻傷寒論』では黄芩二両であるが、『類聚方広義』の頭註に【玉函、千金、宋板共作黄芩三兩今従之】とある。このような注釈も以下の条文では省略する。<br />
<br />
<br />
<span style="border: 1px solid #000000;">補記</span> 『傷寒論』は前後の条文との関連で証の推移が記述されている。葛根黄連黄芩湯は桂枝湯証を誤下した後に限らず、証に合わせて用いることができる。項背が<ruby><rb>強</rb><rp>(</rp><rt>こわ</rt><rp>)</rp></ruby>ばり、頻回の下痢を主徴とし、発熱して発汗し、喘鳴を伴う場合に用いる。『類聚方広義』に【治項背強急、心下痞、心悸而下利者】とあ音¥<br />
<br />
それぞれの薬方の証を知るには『類聚方広義』を参考にするとよい。<br />
<br />
<br />
<span style="font-size: large;"><b>【添付文書等に記載すべき事項】</b></span><br />
<br />
<span style="border: medium solid;"> してはいけないこと </span><br />
(守らないと現在の症状が悪化したり、副作用が起こりやすくなる)<br />
<br />
<b>1.次の人は服用しないこと</b><br />
生後3ヵ月未満の乳児。<br />
〔生後3ヵ月未満の用法がある製剤に記載すること。〕<br />
<br />
<span style="border: medium solid;"> 相談すること </span><br />
<b>1.次の人は服用前に医師、薬剤師又は登録販売者に相談すること</b><br />
(1)医師の治療を受けている人。<br />
(2)妊婦又は妊娠していると思われる人。<br />
(3)高齢者。<br />
〔1日最大配合量が甘草として1g以上(エキス剤については原生薬に換算して1g以 上)含有する製剤に記載すること。〕<br />
(4)次の症状のある人。<br />
むくみ<br />
〔1日最大配合量が甘草として1g以上(エキス剤については原生薬に換算して1g以 上)含有する製剤に記載すること。〕<br />
(5)次の診断を受けた人。<br />
高血圧<span style="font-size: xx-small;">)</span>、心臓病、腎臓病<br />
〔1日最大配合量が甘草として1g以上(エキス剤については原生薬に換算して1g以 上)含有する製剤に記載すること。〕<br />
<br />
<br />
<b>2.服用後、次の症状があらわれた場合は副作用の可能性があるので、直ちに服用を中止し、この文書を持って医師、薬剤師又は登録販売者に相談すること</b><br />
<br />
<br />
<table border="1" cellpadding="1" cellspacing="1" style="width: 568px;">
<tbody>
<tr>
<td valign="top" width="148">症状の名称</td>
<td valign="top" width="415">症状</td></tr>
<tr>
<td valign="top" width="148">偽アルドステロン症、<br />
ミオパチー</td>
<td valign="top" width="415">手足のだるさ、しびれ、つっぱり感やこわばりに加えて、脱力感、筋肉痛があらわれ、徐々に強くなる。</td></tr>
</tbody></table>
〔1日最大配合量が甘草として1g以上(エキス剤については原生薬に換算して1g以上)<br />
含有する製剤に記載すること。〕<br />
<br />
<br />
<b>3.1週間位(</b><b>急性胃腸炎に服用する場合には5~6回)服用しても症状がよくならない場合は服用を中止し、この文書を持って医師、薬剤師又は登録販売者に相談すること</b><br />
<br />
<b>4.長期連用する場合には、医師、薬剤師又は登録販売者に相談すること</b><br />
〔1日最大配合量が甘草として1g以上(エキス剤については原生薬に換算して1g以上)含有する製剤に記載すること。〕<br />
<br />
<br />
<br />
〔用法及び用量に関連する注意として、用法及び用量の項目に続けて以下を記載すること。〕<br />
<br />
(1)小児に服用させる場合には、保護者の指導監督のもとに服用させること。<br />
〔小児の用法及び用量がある場合に記載すること。〕<br />
<br />
(2)〔小児の用法がある場合、剤形により、次に該当する場合には、そのいずれかを記載す<br />
ること。〕<br />
<br />
1)3歳以上の幼児に服用させる場合には、薬剤がのどにつかえることのないよう、よく<br />
注意すること。<br />
〔5歳未満の幼児の用法がある錠剤・丸剤の場合に記載すること。〕<br />
<br />
2)幼児に服用させる場合には、薬剤がのどにつかえることのないよう、よく注意すること。<br />
〔3歳未満の用法及び用量を有する丸剤の場合に記載すること。〕<br />
<br />
3)1歳未満の乳児には、医師の診療を受けさせることを優先し、やむを得ない場合にのみ<br />
服用させること。<br />
〔カプセル剤及び錠剤・丸剤以外の製剤の場合に記載すること。なお、生後3ヵ月未満の用法がある製剤の場合、「生後3ヵ月未満の乳児」を<span style="border: medium solid;"> してはいけないこと </span>に記載し、用法及び用量欄には記載しないこと。〕<br />
<br />
<br />
保管及び取扱い上の注意<br />
(1)直射日光の当たらない(湿気の少ない)涼しい所に(密栓して)保管すること。<br />
〔( )内は必要とする場合に記載すること。〕<br />
(2)小児の手の届かない所に保管すること。<br />
(3)他の容器に入れ替えないこと。(誤用の原因になったり品質が変わる。)<br />
〔容器等の個々に至適表示がなされていて、誤用のおそれのない場合には記載しなくてもよい。〕<br />
<br />
<br />
【外部の容器又は外部の被包に記載すべき事項】<br />
注意<br />
1.次の人は服用しないこと<br />
生後3ヵ月未満の乳児。<br />
〔生後3ヵ月未満の用法がある製剤に記載すること。〕<br />
2.次の人は服用前に医師、薬剤師又は登録販売者に相談すること<br />
(1)医師の治療を受けている人。<br />
(2)妊婦又は妊娠していると思われる人。<br />
(3)高齢者。<br />
〔1日最大配合量が甘草として1g以上 ( エキス剤については原生薬に換算して1 g以上 ) 含有する製剤に記載すること。〕<br />
(4)次の症状のある人。<br />
むくみ<br />
〔1日最大配合量が甘草として1g以上 ( エキス剤については原生薬に換算して1 g以上 ) 含有する製剤に記載すること。〕<br />
(5)次の診断を受けた人。<br />
高血圧、心臓病<span style="font-size: xx-small;">)</span>、腎臓病<br />
〔1日最大配合量が甘草として1g以上 ( エキス剤については原生薬に換算して1 g以上 ) 含有する製剤に記載すること。〕<br />
<br />
2´.服用が適さない場合があるので、服用前に医師、薬剤師又は登録販売者に相談すること<br />
〔2.の項目の記載に際し、十分な記載スペースがない場合には2´.を記載すること。〕<br />
3.服用に際しては、説明文書をよく読むこと<br />
4.直射日光の当たらない(湿気の少ない)涼しい所に(密栓して)保管すること<br />
〔( )内は必要とする場合に記載すること。〕<br />
<br />Unknownnoreply@blogger.com0tag:blogger.com,1999:blog-6827912320235733185.post-34647562754592124682015-06-27T22:14:00.001+09:002015-07-13T06:26:56.995+09:00化食養脾湯(かしょくようひとう) の 効能・効果 と 副作用<span style="font-size: large;"><b>『漢方処方・方意集』</b></span> 仁池米敦著 たにぐち書店刊<br />
p.48<br />
<span style="font-size: large;"><ruby>化食養脾湯<rt>かしょくようひとう</rt></ruby></span><br />
[<b>薬局製剤</b>] 人参4 白朮4 茯苓4 半夏4 大棗2 陳皮2 神麹2 麦芽2 山楂子2 縮砂1.5 甘草1 生姜1 以上の切断又は粉砕した生薬をとり、1包として製する。<br />
«内科秘録»人参4 白朮4 茯苓4 半夏4 大棗2 陳皮 <ruby><rb>神麹</rb><rp>(</rp><rt>しんきく</rt><rp>)</rp></ruby>2 麦芽2 <ruby><rb>山楂子</rb><rp>(</rp><rt>さんざし</rt><rp>)</rp></ruby>2 <ruby><rb>縮砂</rb><rp>(</rp><rt>しゅくしゃ</rt><rp>)</rp></ruby>1.5 甘草1 乾生姜1 <br />
【方意】気を温め補って湿邪を除き、脾胃と肺大腸を調えて、気と水の行りを良くし上逆した気を降ろし消化を打け、<ruby><rb>脾疼</rb><rp>(</rp><rt>ひとう</rt><rp>)</rp></ruby>(胃痛のこと)や<ruby><rb>羸痩</rb><rp>(</rp><rt>るいそう</rt><rp>)</rp></ruby>(痩せ細ること)などに用いる方。<br />
[原文訳]«内科秘録・脾疼» ○<ruby><rb>脾疼</rb><rp>(</rp><rt>ひとう</rt><rp>)</rp></ruby>するを治す。<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<span style="font-size: large;"><b>『薬局製剤 漢方212方の使い方』<span style="font-size: small;"> 第4版</span></b></span><br />
埴岡 博・滝野 行亮 共著<br />
薬業時報社 刊<br />
<br />
<br />
<span style="font-size: large;"><b><u>K16. <ruby>化食養脾湯<rt>かしょくようひとう</rt></ruby></u></b></span> <br />
<br />
<b>出典</b><br />
<ruby><rb>証治大還</rb><rp>(</rp><rt>しょうちたいかん</rt><rp>)</rp></ruby>(清・陳治)に出ているそうだが,まだ見ていない。この本の抄録が江戸時代,松岡<ruby><rb>恕庵</rb><rp>(</rp><rt>じょあん</rt><rp>)</rp></ruby>によって『証治大還摘抄』として残されている。武田薬品工業の<ruby><rb>杏雨書屋</rb><rp>(</rp><rt>きょううしょおく</rt><rp>)</rp></ruby>に収蔵されている。<br />
また内科秘録(江戸・<ruby><rb>本間棗軒</rb><rp>(</rp><rt>ほんまそうけん</rt><rp>)</rp></ruby>)に引用されているので,記載しておく。<br />
「治法第一ノ妙薬トイフハ加味六君子湯ナリ。即チ<a href="http://kenko-hiro.blogspot.jp/2012/03/blog-post_31.html">六君子湯</a>ヘ神麹,麦芽ノ二味ヲ加ヘタル方ナリ。飲食ノ養生サヘ届クトキハ,病ノ新旧,緩急ヲ論ゼズ,此ノ一方ニテ治セズトイフコトナシ。証治大還ノ化食養脾湯モ前回ニ類シテ奇験アリ。然レドモ病ノ変ニ応ジ,又手段ノ異ナルコトアリ。腹中切痛シテ反復転倒,日夜眠ルコトノナラヌ者ハ<ruby><rb>阿芙蓉</rb><rp>(</rp><rt>あふよう</rt><rp>)</rp></ruby>液ヲ與ヘ,<a href="http://kenko-hiro.blogspot.jp/2012/04/blog-post_15.html">小建中湯</a>,千金当帰湯,<ruby><rb>解急蜀椒</rb><rp>(</rp><rt>かいきゅうしょくしょう</rt><rp>)</rp></ruby>湯ヲ撰用スベシ。心腹急脹,雷鳴撮痛等ノ証ヘハ,<a href="http://kenko-hiro.blogspot.jp/2012/09/blog-post_20.html"><ruby><rb>烏苓通気</rb><rp>(</rp><rt>うりょうつうき</rt><rp>)</rp></ruby>湯</a>加附子,若シクハ<a href="http://kenko-hiro.blogspot.jp/2009/03/blog-post_07.html">三和散</a>ニ宜シ。嘔吐甚ダシキモノハ<a href="http://kenko-hiro.blogspot.jp/2011/10/blog-post.html">安中散</a>,<a href="http://kenko-hiro.blogspot.com/2011/07/blog-post.html">五苓散</a>加赤石脂,<a href="http://kenko-hiro.blogspot.jp/2014/05/blog-post.html">小半夏加茯苓湯</a>等ヲ撰用スベシ。蛔虫ヲ兼タルモノヘハ,「セメンシイナ」ヲ用ユ。久シク便秘スルモノヘハ調胃承気湯,若シクハ草兵丸,若クハ「アロイ」ヲ與ヘテ<ruby><rb>蜜煎導</rb><rp>(</rp><rt>ミツセンドウ</rt><rp>)</rp></ruby>ヲ挿スベシ。密煎導ハ一挿ニテ通ゼザルハ二度モ三度モ挿スベシ。通ジテ後モ亦挿シテ,燥屎ヲ去リ尽クスヲ佳シトス。<br />
治脾疼<br />
<a href="http://kenko-hiro.blogspot.jp/2012/03/blog-post_31.html">六君子湯</a>加砂仁,神麹,麦芽,山査』 (本間棗軒・内科秘録巻7・脾疼)<br />
<br />
<br />
<b>構成</b> <br />
浅田流では<a href="http://kenko-hiro.blogspot.jp/2012/03/blog-post_31.html">六君子湯</a>に硬結を徐々に溶解するとして麦芽を加え,さらに食欲増進の目的に神麹を加えて加味六君子湯という。これにさらに胃酸の減少に対して山査子を加えると本方になる。<br />
<br />
<b>目標</b><br />
<a href="http://kenko-hiro.blogspot.jp/2012/03/blog-post_31.html">六君子湯</a>の消化力を増強したもの。心下部にしこりを感じ,みぞおちがつかえ,疲れやすく,貧血性で手足が冷えやすいものを目標とする。<br />
<br />
<b>応用</b><br />
(1) 胃炎,胃アトニー,胃下垂,消化不良,食欲不振,胃痛,嘔吐<br />
(2) 高橋道史先生の著書に胃癌の治験が二例ある。<br />
<br />
<b>留意点</b><br />
◎細野史郎先生によれば神麹・麦芽は粉末にして煎じあがってから加えるという。浅田流の常法ではその斟酌はない。<br />
<br />
<b>文献</b><br />
1.松岡恕庵・証治大還摘抄・杏雨書屋蔵<br />
2.柴田良治・黙堂柴田良治処方集p.50<br />
3.高橋道史・浅田流漢方診療の実際p.222<br />
<br />
<span style="font-size: large;">『改訂 一般用漢方処方の手引き』</span> <br />
監修 財団法人 日本公定書協会<br />
編集 日本漢方生薬製剤協会 <br />
<br />
<span style="font-size: large;">化食養脾湯</span><br />
(かしょくようひとう) <br />
<br />
<b>成分・分量</b><br />
人参4,白朮4,半夏4,陳皮4,大棗2,神麹2,麦芽2,山査子2,縮砂1.5,生姜1,甘草1<br />
<br />
<b>用法・用量</b><br />
湯<br />
<br />
<b>効能・効果</b><br />
体力中等度以下で,胃腸が弱く,食欲がなく,みぞおちがつかえ,疲れやすいものの次の諸効:胃炎,胃腸虚弱,胃下垂,消化不良,食欲不振,胃痛<br />
<br />
<b>原典</b> 証治大還<br />
<b>出典 </b><br />
<br />
<b>解説</b><br />
<a href="http://kenko-hiro.blogspot.jp/2012/03/blog-post_31.html">六君子湯</a>に縮砂,神麹,麦芽,山査子を加えた処方である。無力性体質のものの食欲不振に用いる。<br />
<br />
<br />
<style>
table {
border-collapse: collapse;
}
th {
border: solid 1px #666666;
color: #000000;
background-color: #FDFCFC;
}
td {
border: solid 1px #666666;
color: #000000;
background-color: #ffffff;
}
thead th {
background-color: #FCFCFC;
}
</style>
<br />
<table>
<thead>
<tr>
<th> 生薬名<br />
参考文献名
</th>
<th>人参
</th>
<th>白朮
</th>
<th>茯苓
</th>
<th>半夏
</th>
<th>陳皮
</th>
<th>大棗
</th>
<th>神麹
</th>
<th>麦芽
</th>
<th>山査子
</th>
<th>縮砂
</th>
<th>乾生姜
</th>
<th>生姜
</th>
<th>甘草
</th>
<th>用法・用量
</th>
</tr>
</thead>
<tbody>
<tr>
<th>処方分量集
</th>
<td>4
</td>
<td>4
</td>
<td>4
</td>
<td>4
</td>
<td>2
</td>
<td>2
</td>
<td>2
</td>
<td>2
</td>
<td>2
</td>
<td>1.5
</td>
<td>1
</td>
<td>-
</td>
<td>1
</td>
<td>*
</td>
</tr>
<tr>
<th>診療の実際 注1
</th>
<td>4
</td>
<td>4
</td>
<td>4
</td>
<td>4
</td>
<td>2
</td>
<td>2
</td>
<td>2
</td>
<td>2
</td>
<td>2
</td>
<td>1.5
</td>
<td>-
</td>
<td>2
</td>
<td>1
</td>
<td>*
</td>
</tr>
<tr>
<th>診療医典 注2
</th>
<td>4
</td>
<td>4
</td>
<td>4
</td>
<td>4
</td>
<td>2
</td>
<td>2
</td>
<td>2
</td>
<td>2
</td>
<td>2
</td>
<td>1.5
</td>
<td>-
</td>
<td>2
</td>
<td>1
</td>
<td>*
</td>
</tr>
<tr>
<th>症候別治療
</th>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td></td>
</tr>
<tr>
<th>後世要方解説
</th>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
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<td>-
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<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td></td>
</tr>
<tr>
<th>漢方百話
</th>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
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<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td></td>
</tr>
<tr>
<th>応用の実際
</th>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
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<td>-
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<td>-
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<td>-
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<td>-
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<td></td>
</tr>
<tr>
<th>明解処方
</th>
<td>-
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<td>-
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<td>-
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<td>-
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<td>-
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<td>-
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<td>-
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<td>-
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<td>-
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<td>-
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<td>-
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<td>-
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<td>-
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<td></td>
</tr>
<tr>
<th>改訂処方集
</th>
<td>-
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<td>-
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<td>-
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<td>-
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<td>-
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<td>-
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<td>-
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<td>-
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<td>-
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<td>-
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<td>-
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<td>-
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<td>-
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<td></td>
</tr>
<tr>
<th>漢方入門講座
</th>
<td>-
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<td>-
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<td>-
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<td>-
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<td>-
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<td>-
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<td>-
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<td>-
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<td>-
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<td>-
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<td>-
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<td>-
</td>
<td>-
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<td></td>
</tr>
<tr>
<th>漢方医学
</th>
<td>-
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<td>-
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<td>-
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<td>-
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<td>-
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<td>-
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<td>-
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<td>-
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<td>-
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<td>-
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<td>-
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<td>-
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<td>-
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<td></td>
</tr>
<tr>
<th>精撰百八方
</th>
<td>-
</td>
<td>-
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<td>-
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<td>-
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<td>-
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<td>-
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<td>-
</td>
<td>-
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<td>-
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<td>-
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<td>-
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<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td></td>
</tr>
<tr>
<th>古方要方解説
</th>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td></td>
</tr>
<tr>
<th>成人病の漢方療法
</th>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td></td>
</tr>
</tbody>
</table>
<br />
<br />
*参考文献すべて,<a href="http://kenko-hiro.blogspot.jp/2012/03/blog-post_31.html">六君子湯</a>に縮砂1.5,神麹,麦芽,山査子各2を加う,と記載あり。<br />
<br />
注1 胃アトニー症(胃筋衰弱症):<a href="http://kenko-hiro.blogspot.jp/2013/10/blog-post_5.html">平胃散</a>の証に似て一層病状が進み,顔貌は血色に乏しく,脈は軟弱となり,腹壁は菲薄で弛緩し,食後には倦怠,眠気を催し,また頭重,眩暈を訴えるものに用いる。<br />
胃下垂症:無力性體質で,腹壁が弛緩し,皮膚軟弱蒼白のもので,胃部壓重感,食欲不振,頭痛,眩暈,四肢倦怠感等を訴える場合に用いる。<br />
胃拡張症:全身の栄養が衰え貧血し,皮膚は菲薄となって弛緩し,四肢は冷えやすく,脈傳軟弱となり,胃部停滞,食欲不振のものに用いる。<br />
<br />
<br />
注2 胃腸張:全身の栄養が衰え貧血し,皮膚が菲薄となって弛緩し,四肢は冷えやすく,脈は微弱となり,心下痞,食欲不振のものに用いる。<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<span style="font-size: large;"><b>【添付文書等に記載すべき事項】</b></span><br />
<br />
<span style="border: medium solid;"> してはいけないこと </span><br />
(守らないと現在の症状が悪化したり、副作用が起こりやすくなる)<br />
<br />
<b>1.次の人は服用しないこと</b><br />
生後3ヵ月未満の乳児。<br />
〔生後3ヵ月未満の用法がある製剤に記載すること。〕<br />
<br />
<span style="border: medium solid;"> 相談すること </span><br />
<b>1.次の人は服用前に医師、薬剤師又は登録販売者に相談すること</b><br />
(1)医師の治療を受けている人。<br />
(2)妊婦又は妊娠していると思われる人。<br />
(3)高齢者。<br />
〔1日最大配合量が甘草として1g以上(エキス剤については原生薬に換算して1g以 上)含有する製剤に記載すること。〕<br />
(4)今までに薬などにより発疹・発赤、かゆみ等を起こしたことがある人。<br />
(5)次の症状のある人。<br />
むくみ<br />
〔1日最大配合量が甘草として1g以上(エキス剤については原生薬に換算して1g以 上)含有する製剤に記載すること。〕<br />
(6)次の診断を受けた人。<br />
高血圧<span style="font-size: xx-small;">)</span>、心臓病、腎臓病<span style="font-size: xx-small;"></span><br />
〔1日最大配合量が甘草として1g以上(エキス剤については原生薬に換算して1g以 上)含有する製剤に記載すること。〕<br />
<br />
<br />
<b>2.服用後、次の症状があらわれた場合は副作用の可能性があるので、直ちに服用を中止し、この文書を持って医師、薬剤師又は登録販売者に相談すること</b><br />
<br />
<br />
<table border="1" cellpadding="1" cellspacing="1" style="width: 568px;">
<tbody>
<tr>
<td valign="top" width="148">症状の名称</td>
<td valign="top" width="415">症状</td></tr>
<tr>
<td valign="top" width="148">偽アルドステロン症、<br />
ミオパチー</td>
<td valign="top" width="415">手足のだるさ、しびれ、つっぱり感やこわばりに加えて、脱力感、筋肉痛があらわれ、徐々に強くなる。</td></tr>
</tbody></table>
〔1日最大配合量が甘草として1g以上(エキス剤については原生薬に換算して1g以上)<br />
含有する製剤に記載すること。〕<br />
<br />
<br />
<b>3.1ヵ月位服用しても症状がよくならない場合は服用を中止し、この文書を持って医師、薬剤師又は登録販売者に相談すること</b><br />
<br />
<b>4.長期連用する場合には、医師、薬剤師又は登録販売者に相談すること</b><br />
〔1日最大配合量が甘草として1g以上(エキス剤については原生薬に換算して1g以上)含有する製剤に記載すること。〕<br />
<br />
<br />
<br />
〔用法及び用量に関連する注意として、用法及び用量の項目に続けて以下を記載すること。〕<br />
<br />
(1)小児に服用させる場合には、保護者の指導監督のもとに服用させること。<br />
〔小児の用法及び用量がある場合に記載すること。〕<br />
<br />
(2)〔小児の用法がある場合、剤形により、次に該当する場合には、そのいずれかを記載す<br />
ること。〕<br />
<br />
1)3歳以上の幼児に服用させる場合には、薬剤がのどにつかえることのないよう、よく<br />
注意すること。<br />
〔5歳未満の幼児の用法がある錠剤・丸剤の場合に記載すること。〕<br />
<br />
2)幼児に服用させる場合には、薬剤がのどにつかえることのないよう、よく注意すること。<br />
〔3歳未満の用法及び用量を有する丸剤の場合に記載すること。〕<br />
<br />
3)1歳未満の乳児には、医師の診療を受けさせることを優先し、やむを得ない場合にのみ<br />
服用させること。<br />
〔カプセル剤及び錠剤・丸剤以外の製剤の場合に記載すること。なお、生後3ヵ月未満の用法がある製剤の場合、「生後3ヵ月未満の乳児」を<span style="border: medium solid;"> してはいけないこと </span>に記載し、用法及び用量欄には記載しないこと。〕<br />
<br />
<br />
保管及び取扱い上の注意<br />
(1)直射日光の当たらない(湿気の少ない)涼しい所に(密栓して)保管すること。<br />
〔( )内は必要とする場合に記載すること。〕<br />
(2)小児の手の届かない所に保管すること。<br />
(3)他の容器に入れ替えないこと。(誤用の原因になったり品質が変わる。)<br />
〔容器等の個々に至適表示がなされていて、誤用のおそれのない場合には記載しなくてもよい。〕<br />
<br />
<br />
【外部の容器又は外部の被包に記載すべき事項】<br />
注意<br />
1.次の人は服用しないこと<br />
生後3ヵ月未満の乳児。<br />
〔生後3ヵ月未満の用法がある製剤に記載すること。〕<br />
2.次の人は服用前に医師、薬剤師又は登録販売者に相談すること<br />
(1)医師の治療を受けている人。<br />
(2)妊婦又は妊娠していると思われる人。<br />
(3)高齢者。<br />
〔1日最大配合量が甘草として1g以上 ( エキス剤については原生薬に換算して1 g以上 ) 含有する製剤に記載すること。〕<br />
(4)次の症状のある人。<br />
むくみ<span style="font-size: xx-small;"></span><br />
〔1日最大配合量が甘草として1g以上 ( エキス剤については原生薬に換算して1 g以上 ) 含有する製剤に記載すること。〕<br />
(5)次の診断を受けた人。<br />
高血圧<span style="font-size: xx-small;"></span>、心臓病<span style="font-size: xx-small;">)</span>、腎臓病<span style="font-size: xx-small;"></span><br />
〔1日最大配合量が甘草として1g以上 ( エキス剤については原生薬に換算して1 g以上 ) 含有する製剤に記載すること。〕<br />
<br />
2´.服用が適さない場合があるので、服用前に医師、薬剤師又は登録販売者に相談すること<br />
〔2.の項目の記載に際し、十分な記載スペースがない場合には2´.を記載すること。〕<br />
3.服用に際しては、説明文書をよく読むこと<br />
4.直射日光の当たらない(湿気の少ない)涼しい所に(密栓して)保管すること<br />
〔( )内は必要とする場合に記載すること。〕<br />
<br />
<br />
<br />
<br />Unknownnoreply@blogger.com0tag:blogger.com,1999:blog-6827912320235733185.post-50844683550090633152015-06-16T22:06:00.002+09:002016-04-12T20:20:38.885+09:00黄連阿膠湯(おうれんあきょうとう) の 効能・効果 と 副作用<span style="font-size: large;">『<b>臨床応用 漢方處方解説</b>』</span> 矢数道明著 創元社刊 <br />
p.58 諸熱性病・諸神経症・諸出血・皮膚瘙痒症(虚熱証)<br />
<span style="font-size: large;">14.黄連阿膠湯</span>(おうれんあぎょうとう) 〔傷寒論〕<br />
黄連三・〇 黄芩二・〇 芍薬二・五 阿膠三・〇 卵黄一個<br />
<br />
<br />
阿膠・卵黄以径e三味を水六〇〇ccに入れ、三〇〇ccに煎じ、滓を去り、阿膠を入れて再び火にのせて溶かし、少し冷えてから卵黄一個を入れてかきまぜ、三回に分服する。<br />
<br />
〔<b>応用</b>〕 少陰病の位にあるもので虚証に属し、内熱があって、体液枯燥し、熱は心胸に迫り、心胸中煩えて(胸苦しい)眠れず、臥することを得ずというものに用いる。<br />
主として虚候を帯びた熱性疾患、すなわち肺炎・チフス・麻疹・猩紅熱・丹毒・脳出血・脳膜炎などで、煩躁・不眠・<ruby><rb>譫妄</rb><rp>(</rp><rt>せんもう</rt><rp>)</rp></ruby>などあるもの、神経性疾患として、ヒステリー・ノイローゼ・高血圧症・精神分裂症・狂躁等のあるものに用いる。<br />
また鼻血・吐血・咯血・眼出血・痔出血・血尿等で心煩(胸苦しい)をともなっているもの、大腸炎・赤痢・直腸潰瘍等で下痢心煩・便に膿血を下すもの等に応用され、さらに小便淋瀝して、小便が熱く感じるもの、皮膚瘙痒症・乾癬・皮膚炎等で夜も眠れぬほど猛烈に痒く、患部は赤く、乾燥気味のもの等に転用される。<br />
<div>
</div>
<div>
<br />
〔<b>目標</b>〕 血煩により心中煩して眠ることを得ず、不眠・煩躁・顔面紅潮・興奮・心悸亢進・頭重・のぼせ・胸苦しく熱感等を訴え、虚候を帯びて瀉心湯で下しがたいものを目標とする。<br />
傷寒論釈は少陰病篇にあるが、少陰病に似たもので、実際には瀉心湯の虚したものである。<br />
<br />
〔<b>方解</b>〕 少陰病の瀉心湯と呼ばれているが、大黄黄連瀉心湯の虚したものである。黄連・黄芩は瀉心湯の基礎になるもので、そのうち大黄はなく、その反対の芍薬と卵黄を加え、血燥を潤す阿膠がある。血熱で、体力は虚証を呈している。<br />
後世方の中で寿世保元の麻疹門に、二仙湯という処方がある。これは黄芩と芍薬の二味から成り、虚証の児が麻疹で、発疹後、急に発疹が消失し、いわゆる麻疹内攻を起こし、肺炎様症状または脳症状を発して今にも死にそうな重篤症状を呈したとき、これを救うものである。</div>
芍薬は悪血を散じ、臓腑の気をめぐらし、また邪気による血液の渋帯をめぐらすものである。内攻によって邪気胸内に鬱滞し、肺炎様症状を起こしたものを治すものであろう。<br />
黄芩はよく裏熱を清解し、滞気を破るという。黄連はよく熱を去る。渋帯した邪熱が心胸間、中焦下焦に結滞して煩をなし、痞をなし、下痢するものなどを治するものである。<br />
卵黄は気血を和して煩熱を除くというものである。阿膠もほとんどこれと同じで、ともに血燥を潤し肌膚をなめらかにする。<br />
これらの諸薬の協力によって、体液を滋潤し、心胸中の熱をさまし、心中の煩を除くものである。<br />
<br />
<br />
〔<b>主治</b>〕<br />
<div>
傷寒論(少陰病篇)に、「少陰病、之ヲ得テ二三日以上、心中煩シテ臥スコトヲ得ザルハ、黄連阿膠湯之ヲ主ル」とある。<br />
勿誤方函口訣には、「此方ハ柯韻伯ノ所謂少陰ノ瀉心湯ニテ、病陰分ニ陥ツテ上熱猶ホ去ラズ、心煩或ハ虚躁スルモノヲ治ス。故ニ吐血、咳血、心煩シテ眠ラズ、五心熱シテ漸漸肉脱スル者、凡ソ諸病日久シテ熱気血分ニ浸潤シテ諸症ヲナス者、毒痢腹痛膿血止マズ、口舌乾ク者等ヲ治シテ験アリ。又少陰ノ下利、膿血ニ用ルコトモアリ、併シ桃花湯トハ上下ノ弁別アリ、マタ疳瀉止マザル者ト痘瘡煩渇シテ寝ザル者ニ活用シテ特効アリ」とあり、<br />
古方薬囊には、「心に熱こもりて眠れざる者、この眠れざる様子は、ウツウツとして眠っているような醒めているようなという案梅で眠られぬものなり。熱性の下利があって夜中煩して時々めざめてうるさき者もある」といっている。<br />
漢方治療の実際には、「この方は黄連解毒湯や三黄瀉心湯を用いたいような患者で、やや疲労しているものに用いる。阿膠・芍薬・卵黄の入っている点が、三黄瀉心湯や黄連解毒湯と違う。<br />
この方を用いる目標は、発疹が主として顔面に見られ、隆起があまり目立たないほど低く、指頭でなでるとざらざらしていて、少し赤味を帯びて乾燥し、かゆみは少なく、糠のような落屑があり、風にあたったり、日光にあたるとわるくなるものである」と述べている。<br />
<br />
〔<b>鑑別</b>〕 ○桃核承気湯 102 (<ruby><rb>血煩</rb><rp>(</rp><rt>○○</rt><rp>)</rp></ruby>・実証、脈緊、鬱血)<br />
○柴胡加竜骨牡蛎湯 44 (<ruby><rb>心煩</rb><rp>(</rp><rt>○○</rt><rp>)</rp></ruby>・胸脇苦満、腹動)<br />
○瀉心湯 48 (<ruby><rb>心煩</rb><rp>(</rp><rt>○○</rt><rp>)</rp></ruby>・実証)<br />
○苓桂味甘湯 149 (<ruby><rb>心煩</rb><rp>(</rp><rt>○○</rt><rp>)</rp></ruby>・興奮は少ない)<br />
<br />
<br />
〔<b>治例</b>〕<br />
(一) 婦人の顔にできる皮膚病で、これのよく効くものがある。三〇年ほど前、私の妻が頑固な皮膚病に悩まされた。その発疹は円味を帯びて、両方の頬を中心に広がり、痒みがあり、やや赤味を帯びて乾燥し、小さい落屑が見られた。強い風にあたったり、日光にあたると、赤味がましてかゆみがひどくなる。私はこれに大柴胡湯加石膏・大黄牡丹皮湯加薏苡仁・桂枝茯苓丸・黄連解毒丸などを与え、一〇〇日あまり治療したが少しもよくならず、むしろ増悪の傾向があった。そこで熟慮の後、皮膚の乾燥を阿膠と芍薬で潤し、熱と赤味を黄連と黄芩でとったらと考え、黄連阿膠湯を与えた。一服で赤みがうすらぎ、一週間後にはかゆみもなくなり、一ヵ月ほどで全治した。<br />
発疹が主として顔に見られ、隆起があまり目立たないほど低く、指頭でなでると、ざらざらしている。少し赤味を帯びて乾燥し、かゆみは少ない。小さい糠のような落屑があり、風にあたったり、日光にあたるとわるくなるという目標で、その後何人かの婦人の皮膚病を治した。<br />
(大塚敬節氏、漢方診療三十年)<br />
<br />
(二) 肺結核兼感冒<br />
二二歳の婦人。肺結核で加療中、微熱があり、自覚症は何もない。虚労の血熱として炙甘草湯を用いていた。太陽にあたると顔がのぼせて仕方がないので、雨戸を閉ざしている。下口唇が赤く、不眠で声が少しかれている。甘草瀉心湯に変えてみたが同じである。かぜをひいて三七度六分となった。甘草瀉心湯より虚しているので、虚証の血熱として黄連阿膠湯にしたところ、今度が最もよく効いて体温が下降した。 <br />
(龍野一雄氏、漢方の臨床 二巻二号)<br />
<br />
(三) 脳症<br />
小栗豊後守、年三十余、外感を得て邪気激しく、脈数急で、舌上黒胎を被り、讝語煩乱して飲食は口に入らず、夜に至ると煩躁して狂のごとくであった。多紀永春は升陽散火湯を与えたが、熱はますます加わり、柴田文庵は三黄湯加芒硝を与え、下利二回あったが、後疲れて狂躁がひどくなった。<br />
そこで余はこれを少陰膈熱の証として、黄連阿膠湯を与えた。法のごとくにして与えること一昼夜にして始めて安眠でき、翌日は精神爽然として、よく人を弁じ、食欲が出た。升陽散火湯去人参加生地黄で調理し、全く旧に復した。 <br />
(浅田宗伯翁、橘窓書影巻二)<br />
<br />
<br />
<span style="font-size: large;">『<b>和漢薬方意辞典</b>』</span> 中村謙介著 緑書房 <br />
<b><span style="font-size: large;"><ruby><rb>黄連阿膠湯</rb><rp>(</rp><rt>おうれんあきょうとう</rt><rp>)</rp></ruby> </span></b> [傷寒論] <br />
<br />
<b>【方意】</b> <span style="background-color: #999999;">上焦の熱</span>・<span style="background-color: #999999;">燥証</span>による心煩・心下痞・心下痞硬・皮膚枯燥・口臭等と、<span style="background-color: #999999;">上焦の熱証</span>・<span style="background-color: #999999;">燥証による精神症状</span>としての不眠等のあるもの時に<span style="background-color: #999999;">血証</span>を伴う。 <br />
《少陽病.虚証》<br />
<br />
<b>【自他覚症状の病態分類】</b> <br />
<table border="1" cellpadding="1" cellspacing="1" style="width: 544px;"><tbody>
<tr> <td valign="top" width="19"><br /></td> <td valign="top" width="141">上焦の熱証・燥証<br />
<br /></td> <td valign="top" width="126">上焦の熱証・燥証による精神症状</td> <td valign="top" width="125">血証</td> <td valign="top" width="125">虚証</td> </tr>
<tr> <td valign="top" width="19">主証 </td> <td valign="top" width="141">◎心煩<br />
<br />
<br />
<br /></td><td valign="top" width="126">◎不眠<br />
<br /></td><td valign="top" width="125"><br />
<br />
<br /></td> <td valign="top" width="125"><br /></td> </tr>
<tr> <td valign="top" width="19">客証 </td> <td valign="top" width="141">○心下痞<br />
○心下痞硬<br />
○皮膚枯燥<br />
○瘙痒感<br />
○口臭 口内炎<br />
○顔面紅潮<br />
口唇乾燥<br />
発熱 熱感<br />
口渇 煩熱<br />
膿血便 腹痛<br />
発赤</td><td valign="top" width="126"> 心悸亢進 頭重<br />
煩躁 狂躁<br />
興奮逆上<br />
讝語 <br />
<br /></td><td valign="top" width="125"> 出血(吐血・咯血・下血・血尿)</td><td valign="top" width="125"> 疲労倦怠<br />
四肢脱力感<br />
るいそう</td></tr>
</tbody></table>
<br />
<br />
<b>【脈候】 </b>やや軟・やや弱・微浮・沈微・沈小・細数。発熱性疾患では数急。<br />
<br />
<b>【舌候】 </b>熱のある場合には紅舌。乾燥、時に湿潤。微白苔より微黄苔。<br />
<div>
<br /></div>
<div>
<b>【腹候】 </b>やや軟、多くは心下痞・心下痞硬がある。<br />
<br />
<b>【病位・虚実】</b> 上焦の熱証・燥証が主であり陽証である。表証も裏の実証もなく少陽病に相当する。自覚的にも、また脈力も腹力も共に低下しており虚証である。<br />
<br />
<div>
<b>【構成生薬】</b> 黄連4.0 阿膠3.0 芍薬2.0 黄芩2.0 卵黄1個<br />
黄連・芍薬・黄芩の三味の型のごとく煎じ、滓を去った後に阿膠を入れ、再び火にかけ、阿膠が溶解し尽くしてから火より降ろし、少し冷えたところに卵黄を入れ、よくかきまぜて服用する。<br />
<br /></div>
<b>【方解】</b> 本方は黄連解毒湯から黄柏・梔子を去り、芍薬・阿膠・卵黄を加えたものである。黄柏・梔子が抜けたために、上焦の熱証に対する効力は低下しそうだが、黄連が倍増となりこれを補っている。黄連・黄芩の組合せは上焦の熱証を治し、更にこれにより引き起こされる精神症状および血証に有効である。阿膠の滋潤・滋養・止血作用は、皮膚枯燥・口唇乾燥等の燥証、および虚証、更に血証に有効である。また芍薬は滋潤作用があり阿膠を助けると共に、裏の攣急に対応し腹痛・下痢を治す。卵黄の滋養・強壮作用は虚証に対応する。<br />
<br />
<b>【方意の幅および応用】</b> A1<span style="background-color: #999999;">上焦の熱証</span>・<span style="background-color: #999999;">燥証</span>:発熱・心煩・心下痞・心下痞硬・口臭等を目標にする場合。<br />
急性上気道炎、気管支炎、麻疹、肺炎、髄膜炎、出血を伴う腸炎、膀胱炎、尿道炎<br />
2<span style="background-color: #999999;">上焦の熱証</span>・<span style="background-color: #999999;">燥証</span>:皮膚枯燥・瘙痒・発赤・心煩・心下痞等を目標にする場合。<br />
皮膚瘙痒症、乾癬、化膿性皮膚疾患</div>
<div>
</div>
<div>
B <span style="background-color: #999999;"><span style="background-color: #999999;">上焦の熱証</span>・<span style="background-color: #999999;">燥証による精神症状</span></span>:不眠・心悸亢進等を目標にする場合。</div>
<div>
ヒステリー、ノイローゼ、躁病、統合失調症、高血圧症、脳血管障害</div>
<div>
<div>
C <span style="background-color: #999999;"><span style="background-color: #999999;">血証</span><span style="background-color: #999999;"></span></span>:出血傾向を目標にする場合。</div>
<div>
鼻出血、眼底出血、吐血、咯血、痔出血、子宮出血、血尿</div>
<br />
<b>【参考】</b> *心中煩して、臥するを得ざる者、黄連阿膠湯之を主る。 『傷寒論』<br />
*陽病、発熱し、心中煩して、安臥することを得ず。或いは腹痛し、或いは便結する者は黄連阿膠湯之を主る。 『医聖方格』</div>
<div>
*此の方は柯韻伯の所謂少陰の瀉心湯にて、病陰分に陥って、上熱猶去らず、心煩或いは虚躁するものを治す。故に吐血、咳血、心煩して眠らず、五心熱して漸々肉脱する者、凡そ諸病日久しく、熱気血分に浸淫して諸症をなす者、毒痢、腹痛、膿血止まず、口舌乾く者等を治して験あり。又少陰の下利膿血に用ゆることもあり。併し桃花湯とは上下の弁別あり。また疳瀉(疳症の下痢)止まざる者と、痘瘡煩渇寝ざる者に活用して特効あり。</div>
<div>
『勿誤薬室方函口訣』</div>
<div>
*本方は三黄瀉心湯ならびに黄連解毒湯の虚証に用いる。</div>
<div>
*中年女性の顔面の発疹。隆起は少なく、やや赤みを帯び、乾燥して落屑があり、軽度の瘙痒感を伴う。日光や風に当たると悪化するものに良い(大塚敬節)</div>
<div>
*温清飲の虚証である(松田邦夫) </div>
<div>
</div>
<div>
</div>
<div>
<br />
【症例】 サバズシ後の発疹<br />
36歳、主婦。この患者には喘息の持病がある。<br />
1ヵ月前サバズシを食べてから、顔がウリシに負けたときのように真赤になり、皮膚が硬くなり浮腫が出現した。漢方薬店で漢方薬(薬名は不明)を調剤してもらったが、この漢方薬で胃の調子が悪くなり、むかつくようになったという。そこで皮膚科でカルシウム剤の注射を受け、内服薬をもらった。しかし顔面ばかりでなく前膊も赤くなった。そこで私のところに来院した。<br />
足に冷たい感じがして来たと思うと、やがて顔面や前膊が痒くなってくるという。血行の異常が起こるらしい。分泌物は患部をかくと少し出る程度で自然にはない。腹部は脂肪が多くて腹直筋は分からない。脈は沈で弱い。そこで私は温清飲(10日分)を与えたが、再来時に発赤も痒みも減らないばかりか、首の周りも痒くなったという。酒を飲んだような顔をしている。発赤は皮膚表面からは隆起していない。分泌物はないが乾燥とはいえない。<br />
黄連阿膠湯の使用例では皮膚が乾燥しているとなっているが、私はあえて使ってみることにした。またこの2、3日来、右頚部リンパ腺が腫れて来たというので十味敗毒湯を併用することにした。こうして十味敗毒湯と黄連阿膠湯各20日分の併用で全治させることができた。 <br />
岸本亮一 『漢方の臨床』14・10・27<br />
<br />
<br />
<span style="font-size: large;"><b>『漢方処方・方意集』</b></span> 仁池米敦著 たにぐち書店刊<br />
p.32<br />
<ruby>黄連阿膠湯<rt>おうれんあきょうとう</rt></ruby><br />
[<b>薬局製剤</b>] 黄連4 阿膠3 黄芩3 芍薬2 阿膠を除く以上の切断又は粉砕した生薬をとり、1包として製し、これに阿膠3gを添付する。1包に水約240ccを加えて、80cc位まで煎じつめ、煎じカスを除き、阿膠を加えて溶かし、少し冷えてから卵黄1個を入れてかき混ぜて服用する。<br />
<br />
«傷寒論»黄連4 阿膠3 黄芩2 芍薬2 鶏子黄1個 黄連・芍薬・黄芩を煎じて濾して後に、阿膠を入れて溶かし、少し冷えてから<ruby><rb>鶏子黄</rb><rp>(</rp><rt>けいしおう</rt><rp>)</rp></ruby>を加えてよくかき混ぜて服用する。<br />
【方意】血と津液を補って虚熱を除き、肝胆と心小腸を調えて、血と水の行りを良くし血を止め精神を安定し、不眠や出血などに用いる方。</div>
<div>
【適応】少陰病になり二三日以上し心中が<ruby><rb>煩</rb><rp>(</rp><rt>はん</rt><rp>)</rp></ruby>(煩わしく不安感がある症状)する者・或いは<ruby><rb>虚躁</rb><rp>(</rp><rt>きょそう</rt><rp>)</rp></ruby>(虚して不安感などがある症状)する者・吐血し<ruby><rb>咳血</rb><rp>(</rp><rt>がいけつ</rt><rp>)</rp></ruby>(咯血や血痰が出る症状)し<ruby><rb>心煩</rb><rp>(</rp><rt>しんぱん</rt><rp>)</rp></ruby>して眠らない者・五心が熱して<ruby><rb>肉脱</rb><rp>(</rp><rt>にくだつ</rt><rp>)</rp></ruby>(肌肉が痩せ衰えて脱する様な症状)が<ruby><rb>止</rb><rp>(</rp><rt>や</rt><rp>)</rp></ruby>まず口舌が乾く者・少陰の下痢・<ruby><rb>膿血</rb><rp>(</rp><rt>のうけつ</rt><rp>)</rp></ruby>・<ruby><rb>疳瀉</rb><rp>(</rp><rt>かんしゃ</rt><rp>)</rp></ruby>(疳疾による下痢)が止まない者・<ruby><rb>痘瘡</rb><rp>(</rp><rt>とうそう</rt><rp>)</rp></ruby>(天然痘のこと)し<ruby><rb>煩渇</rb><rp>(</rp><rt>はんかつ</rt><rp>)</rp></ruby>(煩わしく口渇する症状)し不眠する者など。</div>
<div>
[原文訳]«傷寒論・弁少陰病脈証併治» ○少陰病、<ruby><rb>之</rb><rp>(</rp><rt>これ</rt><rp>)</rp></ruby>を得て二三日以上し、心中が<ruby><rb>煩</rb><rp>(</rp><rt>はん</rt><rp>)</rp></ruby>して、眠ることを得ざれば、黄連阿膠湯が<ruby><rb>之</rb><rp>(</rp><rt>これ</rt><rp>)</rp></ruby>を主る。<br />
«勿誤薬室方函口訣» ○此の方は柯韻伯の<ruby><rb>所謂</rb><rp>(</rp><rt>いわゆる</rt><rp>)</rp></ruby>少陰の瀉心湯にて、病が陰分に<ruby><rb>陥</rb><rp>(</rp><rt>おちい</rt><rp>)</rp></ruby>って上熱が<ruby><rb>猶</rb><rp>(</rp><rt>なお</rt><rp>)</rp></ruby>去らず、<ruby><rb>心煩</rb><rp>(</rp><rt>しんぱん</rt><rp>)</rp></ruby>或いは<ruby><rb>虚躁</rb><rp>(</rp><rt>きょそう</rt><rp>)</rp></ruby>するものを治す。故に吐血・咳血し、<ruby><rb>心煩</rb><rp>(</rp><rt>はんぱん</rt><rp>)</rp></ruby>して眠らず、五心が熱して<ruby><rb>漸漸</rb><rp>(</rp><rt>ぜんぜん</rt><rp>)</rp></ruby>と<ruby><rb>
肉脱</rb><rp>(</rp><rt>にくだつ</rt><rp>)</rp></ruby>する者、<ruby><rb>凡</rb><rp>(</rp><rt>すべ</rt><rp>)</rp></ruby>て諸病の日久しく、熱氣血分に浸淫して諸症をなす者、毒痢・腹痛・<ruby><rb>膿血</rb><rp>(</rp><rt>のうけつ</rt><rp>)</rp></ruby><ruby><rb>止</rb><rp>(</rp><rt>や</rt><rp>)</rp></ruby>まず、口舌乾く者等を治して験あり。<ruby><rb>又</rb><rp>(</rp><rt>また</rt><rp>)</rp></ruby>、少陰の下利や膿血に用いることもあり。<ruby><rb>併</rb><rp>(</rp><rt>しか</rt><rp>)</rp></ruby>し桃花湯とは、上下の辨別あり。<ruby><rb>又</rb><rp>(</rp><rt>また</rt><rp>)</rp></ruby>、<ruby><rb>疳瀉</rb><rp>(</rp><rt>かんしゃ</rt><rp>)</rp></ruby><ruby><rb>止</rb><rp>(</rp><rt>や</rt><rp>)</rp></ruby>まざる者と、<ruby><rb>痘瘡</rb><rp>(</rp><rt>とうそう</rt><rp>)</rp></ruby>・<ruby><rb>煩渇</rb><rp>(</rp><rt>はんかつ</rt><rp>)</rp></ruby>・寐ざる者に活用して特効あり。<br />
<br />
<br />
<span style="font-size: large;"><b>『薬局製剤 漢方212方の使い方』<span style="font-size: small;"> 第4版</span></b></span><br />
埴岡 博・滝野 行亮 共著<br />
薬業時報社 刊<br />
<br />
<br />
<span style="font-size: large;"><b><u>K12. <ruby>黄連阿膠湯<rt>おうれんあきょうとう</rt></ruby></u></b></span> <br />
<br />
<b>出典</b><br />
傷寒論のou陰病篇には『少陰病になって2,3日以上経ったとき、興奮,のぼせ,逆上,狂躁,不眠,煩躁,心悸亢進などの心中煩の症状を起して,じっと横になっていることができなくなったときは黄連阿膠湯を服用すべきである』とある。<br />
原方では黄連,黄芩,芍薬,阿膠の他に卵黄半個が入っている。<br />
<br />
<b>構成</b> <br />
心中煩を血熱とみて黄芩,黄連,血熱に伴う血燥に阿膠を配剤している。卵黄は阿膠と同じく血燥を去るためのものであるが,通常は使われていない。<br />
<br />
<b>目標</b><br />
大黄・黄連・黄芩で構成されている三黄瀉心湯と似ているところから,少陰病の瀉心湯といわれている。<br />
少陰病は「たた<ruby><rb>寐</rb><rp>(</rp><rt>いね</rt><rp>)</rp></ruby>んと欲す』というのが本筋なのに,本方は少陰病でありながら心中煩して臥すことができない状態である。それほど心煩は根が深く,のぼせ感だけではなく顔面紅潮,興奮性や狂燥性,心悸亢進を表わす。甚だしい例では脳症の場合もある。しかも虚候を帯びていてすべての症状が実証ではないのが瀉心湯と区別されるところである。<br />
また,咯血,吐血,衂血,痔出血,眼出血などに瀉心湯が使われるごとく,心中煩と虚状を目標に本方は使われる。<br />
ことに,慢性疾患への応用と成て,瀉心湯や黄連解毒湯が皮膚疾患に使用されるが,黄連阿膠湯も同様に使用する。陰陽の違いがあるので,痒みを心煩と考えて黄連解毒湯を使って効かぬ場合に陰陽のとり違えとして本方を使うか,あるいはイライラとカユイのを陽性,ウズウズとカユイのを陰性と区別して使うとよい。<br />
<br />
<b>応用</b><br />
(1) 肺炎,チフス,麻疹,溶連菌症,丹毒,脳出血,脳炎等で高熱,煩躁,不眠,譫妄,胸中熱感等を訴え,虚候を帯びて瀉心湯で下し難いもの。<br />
(2) ヒステリー,ノイローゼ,高血圧症,精神分裂症等で不眠,煩躁,興奮,動悸,頭重,のぼせ,耳鳴,肩こり,胸苦熱感等を訴え,虚候を帯びて瀉心湯で下し難いもの。</div>
<div>
(3) 衂血,吐血,咯血,眼出血,血尿等で心煩を伴い下し難いもの。</div>
<div>
(4) 大腸炎,赤痢,直腸潰瘍等で下痢し心煩または便に膿血が混じるもの。</div>
<div>
(5) 小便淋瀝し小便熱湯のごとくあつく感じるもの。</div>
<div>
(6) 皮膚瘙痒症,乾癬,皮膚炎,ヴィダール苔癬等で猛烈にかゆく患部が赤く乾燥気味のもの。 </div>
<div>
</div>
<div>
</div>
<div>
<br />
<b>留意点</b><br />
◎皮膚病への応用では,発疹が小さいこと,隆起があまりないこと,赤味を帯びていること,乾燥していることが必要である。<br />
◎泌尿科疾患への応用では,猪苓湯を合方すると一段と効果を増す。</div>
<div>
◎風土病にフィラリア虫症があるが,猪苓湯合方が特効あることを恩師長倉音蔵先生がよく語っていられた。珍しい病気だが覚えて置いて損はない。</div>
<div>
<br />
<b>文献</b><br />
1.龍野一雄・漢方入門講座 (昭31) P.1069<br />
2.龍野一雄・新撰類聚方浅 (昭33) p.173<br />
3.大塚敬節・漢方診療30年 (昭34) P.369<br />
<br />
<br />
<span style="font-size: large;"><b>『臨床応用 傷寒論解説』</b></span> 大塚敬節著 創元社刊<br />
p.419<br />
第百三十九章<br />
<br />
少陰病、得之二三日以上、心中煩不得臥、黄連阿膠湯主之。<br />
<br />
〔<b>校勘</b>〕<br />
康平本には「臥」の下に「者」の字がある。<br />
<br />
〔<b>譯</b>〕<br />
少陰i病、之(これ)を得(え)て、二三日以上、4心中煩(はん)して臥(ふ)すを得(え)ず、黄連阿膠湯(おうれんあきょうとう)之(これ)を主(つかさど)る。<br />
<br />
〔<b>解</b>〕<br />
この章は、前々章と章前のあとをうけて、少陰病にかかって、二三日以上たって、裏証を現わしたものの証治を論じている。<br />
さて、少陰病にかかって、まだ裏証のない時期には、麻黄附子細辛湯や麻黄附子甘草湯で少し発汗せしめるべきであるが、その治を誤ると、二三日以上たって、邪気が裏に入って、熱を生じ、そのため血液が枯燥して、胸苦しくて、安臥できなくなる。これは「吐せんと欲して吐せず、心煩」の変証であり、梔子豉湯証の虚煩眠るを得ずの証に似ている。<br />
太陽病の場合は、邪が裏に入るのは、多くは、五六日以上たってからであるが、少陰病は、二三日で、すでに裏に邪が入って、血液枯燥の状を呈するのである。これは黄連阿膠湯の主治である。</div>
<div>
〔<b>臨床の眼</b>〕 (142) 黄連阿膠湯を用いるには、これを構成している薬物の薬効を考えてて、いろいろと応用できる。<br />
これを不眠症に用いたり、下痢に用いたり、皮膚病に用いたりするのも、瀉心湯の代りに、芍薬、卵黄、阿膠が入っている点から、瀉心湯または黄連解毒湯の虚証として考える。この二つの薬物には滋潤の効があり、卵黄、阿膠には強壮の効もあるから、これらの点を考慮して用いるとよい。柯琴は、この方を少陰の瀉心湯たといった。<br />
<br />
黄連阿膠湯方<br />
黄連四両 黄芩二両 芍薬二両 鷄子黄二枚、阿膠三両一云三挺<br />
右五味、以水六升、先煮三物、取二升、去滓、内膠烊盡、小冷、内鷄子黄、撹令相得、温服七合。日三服。<br />
<br />
<br />
〔<b>校勘</b>〕<br />
成本、玉函は黄芩「二両」を「一両」に作り、「水六升」を「五升」に作る。<br />
<br />
<br />
〔<b>譯</b>〕<br />
黄連阿膠湯の方<br />
黄連(四両) 黄芩(二両) 芍薬(二枚) 鷄子畜(二枚) 阿膠(三両、一に云う三挺)<br />
右五味、水六升を以って、先ず三物を煮て、二升を取り、滓を去り、膠を内れて、烊盡し、少しく冷えて、鷄子黄の内れ、撹ぜて相得せしめ、七合を温服す。日に三服す。</div>
<div>
〔<b>註</b>〕</div>
<div>
(300) 三挺-「一に云う三挺」とあるのは、阿膠は牛またはロバの皮から取ったニカワであるから、一挺、二挺とかぞえたものであろう。だから「或る本には三挺となっている」の意。<br />
(301) 烊盡-とかしつくすこと<br />
(302) ニワトリの卵黄のことで、これはあまり熱いうちに入れると凝固するから、少し冷えてから入れる。<br />
<br />
<br />
<br />
<span style="font-size: large;"><b>『臨床傷寒論』</b></span> 細野史郎・講話 現代出版プランニング刊<br />
p.380<br />
第百四十六条<br />
<br />
少陰病、得之二三日以上、心中煩不得臥、黄連阿膠湯主之。<br />
<br />
〔<b>訳</b>〕少陰病、之を得て、二三日以上、心中<ruby><rb>煩</rb><rp>(</rp><rt>はん</rt><rp>)</rp></ruby>して<ruby><rb>臥</rb><rp>(</rp><rt>ふ</rt><rp>)</rp></ruby>すを得えず、<ruby><rb>黄連阿膠湯</rb><rp>(</rp><rt>おうれんあきょうとう</rt><rp>)</rp></ruby>之を主る。</div>
</div>
<br />
<div>
〔<b>講話</b>〕少陰病は「但欲寝」というだけで、ゆるゆるしたものだったら、甘草麻黄湯に附子を加えた麻黄附子甘草湯でよいわけですけれど、それに少陰病になって二、三日にもなると、胸苦しくて、寝るはずなのに、鬱々として寝ることもできない。そういう状態の時には、黄連阿膠湯を持っていくとよいということです。</div>
<div>
ここには、少陰病の眠り薬のことが書いてあるのです。</div>
<div>
黄連阿膠湯は、常の病気としては、首のあたりに湿疹ができて、痒くて痒くて、うずうずしてどうにもならない。よくあるでしょう、更年期のものかと思いますが、大塚先生の奥さんもできましたし、私の家内もできました。二人とも、首のところに沢山出ました。出方は発赤はしないで、少しそのあたりが腫れたようになってうずうずカユイのです。それに黄連阿膠湯を与えると割合によく効きます。</div>
<div>
眠れない時にも飲ませますけれど、煎薬でなくても、今では洋薬が沢山ありますからね、それを飲むと眠れますから、煎じたりする漢方薬の出番はないのです。<br />
<br />
<span style="font-size: large;"><b>『康平傷寒論読解』</b></span> 山田光胤著 たにぐち書店刊 <br />
p.292 <br />
(306)三〇六条、第百三十九章、十五字<br />
少陰病之を得て二三日以上、心中煩し、<ruby><rb>臥</rb><rp>(</rp><rt>ふ</rt><rp>)</rp></ruby>すこと得ざる者は、黄連阿膠湯之を主る。</div>
<div>
<b>【解】</b>少陰病にかかったとき、裏証が出ないうちに麻黄細辛附子湯や麻黄甘草附子湯で少し発汗させればよかったのを、治療を誤って二三日以上たったので邪気が裏に入って熱を生じ、そのため血液が枯燥して胸苦しくなり、安臥できない裏証を現すに至った。これは黄連阿膠湯の主治である。<br />
大塚先生注・太陽病は邪が裏に入るのは大抵五、六日以上たった時であるが、少陰病は二三日で邪が裏に入り、血液枯燥の状を呈するものである。<br />
黄連阿膠湯方<br />
黄連四両、黄芩二両、芍薬二両、鷄子黄二枚、阿膠一に云う三両三挺<br />
右五味、水六升を以て、先に三物を煮て二升を取り滓を去り、膠を入れて烊盡し、少しく冷えて鷄子黄を内れ、<ruby><rb>攪</rb><rp>(</rp><rt>ま</rt><rp>)</rp></ruby>ぜて相得せしめ、七合を温服す、日に三服す。<br />
<br />
<br />
<br />
<span style="font-size: large;"><b>『傷寒論演習』</b></span> 講師 藤平健 編者 中村謙介 緑書房刊<br />
p.587<br />
<br />
<div style="border: 1px solid #000; padding: 10px;">
<span style="font-size: small;">三一三 少陰病。得之二三日以上。心中煩。不得臥。黄連阿膠湯主之。</span><span style="font-size: small;"> 少陰病、之を得て二三日以上、心中煩して臥すことを得ざるは、黄連阿膠湯之を主る。 </span></div>
<br />
<b>藤平</b> 少陰病でこれを得て二三日以上というのですから少し日がたち、やや緩和なのですね。「心中煩」は心煩よりも胸の中の奥深くまで煩悶し、そのため安静臥床をとることができないほどの不快感がある場合には黄連阿膠湯がつかさどるというので。<br />
これも併病であろうと思います。奥田先生も「少陰病の気血虚する者にして内熱を挟み」といわれています。麻黄附子細辛湯、麻黄附子甘草湯では「表熱を挟む」とありました。<br />
挟むとあるときには併病でしょうね。陰証には元来内熱はないはずですから、これが存在しているということは併病でしょう。そのために陽証に使われる黄連が組合わされているのでしょうね。少陰の瀉心湯といわれるのはこのためです。<br />
先生のご解釈を、<br />
<br />
<br />
<div style="border: 1px solid #000; padding: 10px;">
<span style="font-size: small;"><b>少陰病</b> 此の章は、前章を承けて、少陰病の気血虚する者にして内熱を挟み、液分之が為に枯燥し、邪熱心胸に逆して心煩し、臥寝するを得ざるの一証を挙げ、以て黄連阿膠湯の主治を論ずるなり。</span><br />
<span style="font-size: small;"> </span></div>
<br />
<b>藤平</b> 「液分」とは体液です。ここにも「邪熱心胸に逆して心煩し」と熱があるとされています。</div>
<div>
<br />
<br />
<div style="border: 1px solid #000; padding: 10px;">
<span style="font-size: small;"><b>得之二三日以上</b> 此れ前章の「之を得て二三日」の句を承く。「以上」とは、猶ほ以後の如し、即ち二三日の後、始めて此の証を現はすの謂なり。</span><br />
<span style="font-size: small;"> 此の句、既に微しく汗を発すの時期に非ざるを示す。</span><br />
<span style="font-size: small;">三一三 少陰病。得之二三日以上。心中煩。不得臥。黄連阿膠湯主之。</span><span style="font-size: small;"> </span></div>
<br />
<b>藤平</b> 前掲の麻黄附子細辛湯、麻黄附子甘草湯の「微発汗」の時期を過ぎているということです。</div>
<div>
<br />
<br />
<div style="border: 1px solid #000; padding: 10px;">
<span style="font-size: small;"><b>心中煩 不得臥</b> 「但だ寝んと欲す」は、少陰病の正証也。然るに今臥すことを得ず。又更に自利等の証を現はさざるるるは、是、内に欝熱を挟み、津液及び血分之が為に枯燥し、邪熱逆して心胸に窒がり、心中煩悶懊憹するの致す所也。故に、「心中煩して、臥すことを得ず」と言ふなり。</span><br />
<br />
<span style="font-size: small;"><b>黄連阿膠湯主之</b> 之を黄連阿膠湯の主治と為す。故に黄連阿膠湯之を主ると言ふ也。</span><br />
<span style="font-size: small;"> 此の章に拠れば、黄連阿膠湯は、津液を滋潤し、血行を調和し、心中の煩熱を解するの能有りと謂ふ可き也。</span><br />
<br />
<span style="font-size: small;"><b>補</b> 此の方、主として上焦に邪熱を挟みて、陽勢に似たる者を清め潤ほすなり。</span>柯琴曰く、此れ少陰の瀉心湯なりと。<br />
<br />
○右の一章は一節也。少陰の位に於て発病し、内熱を挟める一証を挙げて、其の治を明かにしたる也。<br />
<br />
黄連阿膠湯方 黄連四両 黄芩一両 芍薬二両 鶏子黄二枚 阿膠三両<br />
五味。以水五升。先煮三物。取二升。去滓。内膠。<ruby><rb>烊盡</rb><rp>(</rp><rt>ようじん</rt><rp>)</rp></ruby>。小冷。内鷄子黄。<ruby><rb>攪令</rb><rp>(</rp><rt>かきみだして</rt><rp>)</rp></ruby>相得。温服七合。日三服。 </div>
<br />
<b>藤平</b> 黄連と黄芩が入っているのでいかにも瀉心湯に近いですね。鶏子黄二枚とは卵の黄味二個ということです。これは冷やしてから入れないと固まってしまっていけません。この薬方は陰証に傾いている人の高血圧症等で心煩が強いものに用いますと、胸の中もスッキリして血圧も下ってくることが時にあります。何例か経験していますが、あまり頻用しません。著効を得た記憶はありません。まずまずの成績でした。<br />
これは併病とすると黄連と黄芩の二黄の瀉心湯と陰証の何かの薬方との合方になっていると思います。<br />
それではご質問はありませんか。<br />
<br />
<b>会員A</b> この黄連阿膠湯の条文が「少陰病」ではじまっている点は、以前からたいへん不可解に感じていたところなのです。<br />
この薬方証を調べてみますと、冷えるとか、疲れるとか、寝んと欲す等という少陰病を疑わせる症状は記載されていません。構成生薬も黄連と黄芩は寒、芍薬は微寒、鶏子黄と阿膠は平でして、温める作用は全くありません。<br />
それでいながらどうして少陰病と書き出しているのでしょうか。<br />
<br />
<b>藤平</b> そうですね。「少陰病」は前条を承けているとありますから、「得之二三日」の間に麻黄附子細辛湯なり麻黄附子甘草湯なりの証があったと思われます。その時これらの薬方を正しく服用せしまれば治癒してしまうのですが、そうしなかったか、何か不十分なところがあって、さらに病気が進行し、体液が欠亡し、陽証の邪熱が胸の中に生じ心煩が起きたのですね。<br />
発病時とは証が変化し、病位も変わったのでしょう。<br />
<br />
<b>会員A</b> 時間の経過の中で少陰病ではなくなったのだと読むことに私も賛成なのです。そうしますと、柯琴先生の少陰の瀉心湯というのは誤りだと思うのです。やはり少陽の瀉心湯の虚証と考えるべきだと思いますが、どうでしょうか。<br />
<br />
<b>藤平</b> しかし、ここまで進行するまでの間に、少陰を通っているのですから、柯琴さんのいうこともわからなくはありません。<br />
この構成生薬でどうして少陰なのかと、私も考えてみたことがあるのですが、まアそんなふいに考えないと解釈ができませんね。<br />
臨床では瀉心湯証に似ているが、附子瀉心湯のような、ああいう陰証ではないいと思って、本方を使うとよい場合がありますので、やはり必要な薬方なのですね。<br />
<br />
<b>会員A</b> この心中煩の熱は虚熱ではなく、実熱なのですね。<br />
<br />
<b>藤平</b> そのようです。<br />
<br />
<br />
<span style="font-size: large;"><b>『ステップアップ傷寒論-康治本の読解と応用-』</b></span> 村木 毅著 源草社刊<br />
第五十二条<br />
少陰病、心中煩して、眠ることを得ざる者は、黄連阿膠湯、主之。<br />
<b>「少陰病、心中煩、不得眠者、黄連阿膠湯主之」</b><br />
<i><span style="font-size: large;">STEP-A</span></i><br />
<b>少陰病に患り裏証が出現しないうちに、少し発汗させれば良いのを(麻黄附子細辛湯や麻黄附子甘草湯を用いて)、誤治することにやって(注:陽病との取り違い)、邪気が裏証に入り熱を生じて血が枯燥して心胸が苦しくなり、安臥できない場合には黄連阿膠湯が主治する。</b><br />
<br />
<i><span style="font-size: large;"><b>STEP-B</b></span></i><br />
宋本や康平本には、少陰病の文言に続いて、「得之二三日以上」とあるのは少陰病になってから二三日以上を経過して、これらの症状が出現するのを意味している。<br />
「心中煩・不得眠」とは、但だ寐んと欲す、が少陰病の正証であるとすれば、ここでは、それらが寝られなくって自利もないのは内部に鬱熱があって、津液や血分が枯燥し、邪熱が逆上して心胸に閉塞するからで、心中煩悶して苦しくなるので心中煩して臥して寝ることができなくなる。<b>「脈微細」</b>とは、脈が微・弱で細・小で、脈の勢いが無いのを言い、これは内外ともに虚・寒を現している。</div>
<div>
STEP-C 心中煩とは、胸中煩と同じで胸中が熱っぽくて苦しい状態を言い、これは外熱に因るのである。<br />
不得眠とは、外熱のために寝ることができないで、少陰病は気力が衰えていて、急性の心臓衰弱に似た症状を呈する。煩して眠れないよりも、臥すことができない状態のほうが重症で、これは一種の急性循環障害とも考えられる。(«研究»)。また、黄連阿膠湯は少陰温病に用いる。黄連+黄芩は瀉心(胸の熱を治す)、黄連、黄芩、芍薬は鎮静と不眠、阿膠は補血と止血、特に出血性の陰虚証に効果がある(«要略»)。</div>
<div>
<br />
STP-D<br />
«弁正»<br />
少陰病に患って二三日の始めには、脈は微・細で、反って発熱して、未だ、この条文の様な症状には到らないであうが、熱が表にあって徹し切れなければ、次第に裏位に逼るのは当然である。</div>
<div>
こうなると心中煩して臥すことが出来なくなるのは裏熱に因るので、また、下利や膿血も裏熱に因るから黄連阿膠湯が宜しい。『千金要方』にも下利・膿血を治する方剤を載せているが、ここに記述されている方剤と大差はない。唯、梔子・黄柏を黄芩・芍薬に代えて鶏子黄がないのか相違するのを参考にして欲しい。(現在用いている黄連阿膠湯は、黄連・黄芩・芍薬・阿膠)<br />
<br />
«集成»<br />
「少陰i病、得之二三日以上」の十字は『肘後方』に従って「大病差後」の四字に改作し、「臥」の字の下に当に「蓋梔子豉湯証之軽者」を補うと良い。</div>
<div>
大病が癒えても、その後に余熱があって煩するのは、病後の血液の回復が充分ではないので、徒に下熱だけをすべきではない。そこで芍薬・鶏子黄、阿膠の三薬で血液を回復させて、黄連・黄芩で胸中の熱煩を治するのである(下略)。 </div>
<div>
</div>
<div>
«輯義»</div>
<div>
成無已の説を挙げて曰く、風は陽を傷め、寒は陰を傷める。少陰病を患って寒を得て二三日してから、寒さが極まって熱と変じる場合には、熱は内に波及して煩し、心中煩して臥すことが出来なくなるから黄連阿膠湯を与えて陰を援けて熱を放散する(下略)。<br />
<br />
«識»<br />
<b>但寐んと欲す</b>のが少陰病の正証であるから、それが反って「五六日に至り自利して復、煩して臥寝を得ず」と言うのは少陰病の正証を承けて、その軽症を論じた英である。即ち、心中煩成て未だ煩躁には到らず自利もない状態なので、これは虚煩して眠ることが出来ないのと同じ状態であるから、梔子豉湯証に似ているように思えるが、ここでは邪熱の壅塞(滞る)ではなくて「少陰病で吐こうとしても吐けずに心煩する者」の変証であるから、その邪熱を清潤すれば(黄連阿膠湯で)治癒する(下略)。 <br />
<br />
«脈証式»<br />
少陰病に罹患して二三日。既に麻黄附子細辛湯や麻黄附子甘草湯を与えて、陰邪は挽回した後でも、邪気が心胸に翻って、精虚が俄かに回復に向かうのだが(原因不明)、邪勢が心裏を通徹して心中煩を出現することもある。心中煩は精虚に因って起こり、徐々に身を傾けて之を堪えて、中々に臥すことが出来なくなる場合には、この証を参考にして方剤もこれれに随うのが良い。陰陽が互いに偏らず虚実の間にあって、心煩や胸中煩して実に偏る者は小柴胡湯であり、心中悸や煩の状態が虚に偏る者には小建中湯である。これらは混同しやすいから参考すべきである。</div>
<div>
<br />
●黄連阿膠湯の構成<br />
<b>黄連四六両、黄芩二両、芍薬二両、鶏子黄(卵黄)二枚、阿膠三両。右の五味、水六升を以て、先ず三物を煮て、二升を取り、滓を去り、膠を内れ、<ruby><rb>烊</rb><rp>(</rp><rt>とか</rt><rp>)</rp></ruby>尽して、小しく冷れば、鶏子黄を内れ、攪して相得令め、七合を温服し、日に三服す。</b><br />
「黄連四両、黄芩二両、芍薬二両、鶏子黄二枚、阿膠三両。右五味、以水六升、先煮三物、取二升、去滓、内膠、烊尽、小冷、内鶏子黄、攪令相得、温服七合、日三々服」</div>
<div>
令相得とは、均一にする意味、三物とは三味の薬剤を言う。また、少陽病(陽)の煩には、梔子豉湯であり、少陰病(陰)の煩には黄連阿膠湯であり(何れも温病と関係ありと言う)、また少陰の瀉心湯(黄連、黄芩、大黄の大黄に代えて芍薬+阿膠)と言われることもある。</div>
<div>
</div>
<div>
阿膠</div>
<div>
«薬徴»</div>
<div>
記載なし。</div>
<div>
</div>
<div>
«古方»</div>
<div>
(前略){釈性}<b>味甘平。内崩下血、腰腹痛、四肢酸疼、虚労、羸叟、咳嗽を去り、血を和し、陰を滋し、風を除き、燥を潤し、痰を化し、小便を利し、</b>大腸を謂ふ。{議に曰く}阿膠は味甘平。能く血液を滋潤し、地黄と同じく血分の要薬と為す。故に仲師阿膠を用ふる。地黄に伍せざれば則ち麦門に配す。皆滋潤を以て宗と為すなり(下略)。<br />
<br />
«新古方»<br />
ボクは則ち、<b>牛肉のすじを買い来り自製したる物を用ふ。</b>所謂、不快のにかわ臭なきの理。尤も当今精製せられた品は工業用品と雖も不快のにかわ臭無き品多し。ゼラチンに至りては此点理想的に近し。但其の効陸上の物と等しきや否や、支那には以上の外鹿膠、虎骨膠あり価極めて貴し。用途は則ち阿膠と異り主として養生用に供せらる。<br />
<br />
«実践»<br />
止血潤肺作用を有する優れた補血薬、熟地黄に比べより膩性であり、潤肺・止血作用を有する。1) 補血作用:優れた補血作用とともに、良好な収斂止血作用を有する。①心肝などの血虚証に使用される。めまい、動悸、顔色不良、不眠、羸叟、月経後期、過少月経、閉経、さらに煩躁などに使用される。②血、咯血、崩漏、過多月経、血尿、などの一切の出血症に使用される。陰虚火旺や虚寒証など各種の病態に使用可能だが、特に陰血虚の出血に適する。③養血止血安胎作用もあり、妊娠の下血、胎動不安などに使用される。2) 滋陰潤燥:肝・腎・肺の陰を補い乾燥を潤す(潤燥)。①熱病の陰液消耗や肝腎陰虚の煩躁不眠、動悸、四肢のほてり、倦怠感などに使用される。②陰虚内風による痙攣に使用される。③肺陰虚や肺燥による乾咳、粘性少量痰、鼻腔乾燥などに使用される。3) 他:潤腸通便作用があり、腸燥便秘に使用される。<br />
<br />
«知識»<br />
阿膠は動物性製剤で、その成分朝fゼラチンとコラーゲンで、共に膠質タンパクである。これらタンパク質の組成の特徴はグリシン、プロリン、オキシプロリンが多いのが他のタンパク質とは異なる。阿膠の薬理作用はゼラチンの作用と同じであり止血作用として認められている。コラーゲンは一般の結合織を構成する生体産生産物で、炎症過程で著しく増加し生物防御反応に寄与しているその反応の一つに止血作用がある。止血機構は内因性の血液凝固系血漿タンパク質の機能が主軸で、血小板の凝集や、外因性の組織因子系からの刺激が加わって進行する。ともかく炎症などで生体コラーゲンが増量したり血管壁が損傷されてコラーゲンが侵食すると血小板が結合して凝集反応を起こす仕組みとなっている。<br />
<br />
«生薬»<br />
血液凝固抑制作用、抗腫瘍作用。血液凝固抑制作用、抗痙攣作用。<br />
<br />
鶏子卵<br />
«薬徴»<br />
記載なし。<br />
<br />
«古方»<br />
(前略){釈性}<b>味甘微寒。目熱赤痛を発し、心下の伏熱を除き、煩満咳逆を止め、大煩熱を破る</b><br />
{議に曰く}鶏子に黄白の分あり。黄は則ち其味甘厚、能く気血を和し、煩熱を除く。白は則ち其味淡薄。肌膚を生じ声音を亮にす。是を以て黄連阿膠湯、百合鶏子湯、排膿散並びに黄を用ふ。その和血除熱を取るなり。古人曰く、阿膠と効を同じうすと(下略)。<br />
<br />
«新古方»<br />
鶏子黄は本経には鶏子よく火瘡、癇痙の趣を除くことを主るとあり、則ち熱を鎮め煩を去るの効あるやうなり。古方にては本品は黄連阿膠湯、排膿散、百合鶏子湯方等の中に配伍せらる。<br />
鶏子白は卵白気味甘微寒無毒、主治は目熱赤痛、心下の伏熱を除き煩満、欬逆、小児の下泄をとどめ婦人産難に胞衣の出でざるは並びに生にて之を呑む。<br />
ボク曰く、<b>タンパクは皮膚や膜の刺激を緩和し外より保護するの効あるものとす。</b>古方にて殻と共に(但し殻中に附着残留せるものをさす)半夏苦酒湯に用ひられ口中のただれを治するに供す。<br />
昔時は初の磁などの場合によく用ひられたり、その療法は則ち焼酎を以て傷を洗滌し蛋白を塗り白木綿にて包帯せしめたりと謂う。又接合剤として工業的にも使用せらる。<br />
<br />
«実践»<br />
鶏子黄としては記載はないが、鶏黄皮(鶏内金)としての記載がある。その大略を述べる。<br />
<b>優れた消食作用を有して各種の食積証に使用される。また渋精止遺・化石通淋歴試作用も有す。</b>1) 消食健脾:優れた消化作用があり、かつ脾胃機能改善作用を有する。肉、脂肪、澱粉、母乳など広範囲な食積、消化不良に使用される。2) 精止遺:精液や尿を保持して漏らさない。尿失禁、頻尿、遺精などに使用される。3) 化石通淋:結石溶解作用と利尿作用があり、尿路結石、胆石などに使用される。4) 他:活血散結作用もあるとされ、癥瘕、閉経などに使用される。<br />
<br />
«知識»<br />
記載なし。<br />
<br />
«生薬»<br />
記載なし。<br />
<br />
●黄連阿膠湯の方意<br />
«類聚»※( )は原典の「 」内の文言。<br />
・心下悸動して煩し、眠るを得ざる者を治す。「少陰病、之を得て二三日以上」、心中煩して臥するを得ざるは(本方にて治す)。<br />
{頭注}<br />
*肘后方(葛洪『肘后備急方』)の時気病起労復篇に、大病の差後、虚煩して眠るを得ず、眼中疼痛し、懊憹するものに用いる。(中略)久痢の腹中略、下略熱痛症に類するも症<ruby><rb>情</rb><rp>(</rp><rt>まま</rt><rp>)</rp></ruby>同じからず。久痢腹中熱痛みし、心中煩して眠ることを得ず。或は便に膿血の者を治す。<br />
*痘瘡内陥して、熱気熾盛にして、咽燥ぎ口燥き、心悸煩燥し、清血の者を治す。<br />
*諸失血症にして、胸悸し、身熱あり、腹痛して微利し、舌乾き唇燥ぎ、煩悶して寝ること能わず、身体困惑し、面に血色なく、或は面、熱し紅潮する者を治す。<br />
<br />
«勿誤»<br />
<b>此の方は柯韻伯の所謂少陰の瀉心湯にて病陰分に陥て上熱猶去らず心煩或は虚燥するものを治す。</b>故に吐血咳血心煩して眠らず五心熱して漸漸肉脱する者凡て諸病日久しく熱気血分に浸淫して諸症をなす者毒痢腹痛膿血止まず口舌乾く者等を治して験あり。又少陰の下利膿血に用うることもあり。併し桃花湯とは上熱弁別あり。又疳瀉不止茂者と痘瘡煩渇味寝者に活用して特効あり。<br />
<br />
«方意»<br />
<b>上焦の熱証、燥証による心煩、心下略痞、心下略痞硬、皮膚枯燥、口臭等、上焦の熱証、燥証による精神状態。としての不眠を伴う。時に血証。少陽病。虚証。</b><br />
上焦の熱証、燥証が主であり陽証である。表証も裏も実証もなく少陽病に相当する。自覚的にも、腹・脈力は低下している。脈診ではやや軟・やや弱・微浮、沈微、沈小、細数。<br />
腹診はやや軟、多くは心下痞、心下略痞硬がある。<br />
<br />
«指針»<br />
{目標}血煩により心煩して眠ることを得ず、不眠、煩燥、顔面紅潮、興奮、心悸亢進、頭重、のぼせ、胸苦しくと熱感等を訴え、虚候を帯びて瀉心湯で下しがたいものを目標とする。<br />
傷寒論には少陰病篇にあるが、少陰病に似たもので、実際には瀉心湯の虚したものである。<br />
{応用}肺炎、チフス、麻疹、猩紅熱、丹毒、脳出血、狂燥症などで高熱、煩燥、不眠、讝妄、胸中熱、ヒステリー、ノイローゼ、高血圧、統合失調症、狂燥症などで不眠、煩燥、興奮、動悸、頭重のぼせ、耳鳴り、肩凝り、胸苦、熱感などを訴え、虚候を帯びて瀉心湯で下しがたいもの。<br />
鼻血、吐血、咯血、眼出血、血尿、子宮出血、膀胱炎、尿道炎などで、心煩を伴い下し難感もの。<br />
大腸炎、赤痢、直張潰瘍などで下痢し心煩または便に膿血がまじるもの。小便淋瀝し、小便熱湯の如く熱く感じるもの。皮膚掻痒症、乾癬、皮膚炎などで夜も眠れぬほど猛烈に痒く、患部が赤く乾燥気味のものなど。<br />
{鑑別}柴胡加牡蠣湯:心煩、胸脇苦満、腹動。瀉心湯:心煩、実証。苓桂朮甘湯:心煩、興奮は少ない。<br />
<br />
■私見<br />
<br />
少陰病に罹り麻黄附子細辛湯や麻黄附子甘草湯を用いた後でも、脈が微・細で発熱しているのは、病勢が更に裏位に迫りつつある。従って心中煩して臥すことができないようになる。そこで黄連阿膠湯を用いて熱邪を清潤するのである。少陰病の提綱は、但欲寝、であるが、ここでは、臥すことができない、とあり、これは少陰病の正証による本当の少陰病よりは軽症と見て良い。また、少陰病の出血には一応、黄連阿膠湯は試してみる価値がある。<br />
<br />
■診療の実際<br />
<br />
この生薬構成を考えると、瀉心湯の大黄に代えた芍薬、鶏子黄、阿膠の三剤には何れも滋潤作用があり、更に鶏子黄、阿膠には強壮作用もあるから、そのため、柯琴は少陰病の瀉心湯(黄連、黄芩)と言っている。血液の枯燥に用いると言うが、実際には不眠症、皮膚疾患(特に湿疹で痒みの著しい時など)、下剤として用いることが多い。高血圧での心煩にも効果がある。<br />
更には、各種の出血に用いている。自験例でも高齢者(89歳、女性)の下血。老衰の割には道気のある患者さんで消化管出血があり、一時はDICも疑った。年齢から見て精密検査をしないで、漢方診察のみとした。虚証であり、脈は、軽く沈で微・弱。腹診では軽度の心下痞があり、エキス黄連阿膠湯部7.5g(食後)と小建中湯5.0g(食前)を一週間与薬することで下血は止った。本来は熱証・燥証の発熱・心煩などに用いられるが血証にも効果がある。<br />
老婦で頑固な皮膚病に罹り赤味と小落屑があり、大柴胡湯加石膏、大黄牡丹皮湯薏苡仁湯、桂枝茯苓丸、黄連解毒湯で治癒せず、皮膚の乾燥によるものとして、皮膚の乾燥は阿膠、赤味と熱は黄連、黄芩と考えて黄連阿膠湯を用いて完治した。(大塚«三十年»<br />
黄連阿膠湯は一般には少陰病気の不眠や首の周りの湿疹で痒みの強い者に効果がある。(細野史郎«臨床»<br />
※『ステップアップ傷寒論-康治本の読解と応用-』には誤字が多いが、そのままとした。<br />
<br />
<br />
<span style="font-size: large;">『改訂 一般用漢方処方の手引き』</span> <br />
監修 財団法人 日本公定書協会<br />
編集 日本漢方生薬製剤協会 <br />
<br />
<span style="font-size: large;">黄連阿膠湯</span><br />
(おうれんあきょうとう)) <br />
<br />
<b>成分・分量</b><br />
黄連3~4,芍薬2~2.5,黄芩1~2,阿膠3,卵黄1個<br />
<br />
<b>用法・用量</b><br />
湯<br />
<br />
<b>効能・効果</b><br />
体力中等度以下で,冷各やすくのぼせ気味で胸苦しく不眠の傾向のあるものの次の諸症:鼻血,不眠症,かさかさした湿疹・皮膚炎,皮膚のかゆみ<br />
<br />
<b>原典</b> 傷寒論<br />
<b>出典 </b><br />
<b>解説</b><br />
瀉心湯の加方である。熱性症候があり,虚して,胸ぐるしく,のぼせ,いらいらして眠ることができなく,各種出血,皮膚の瘙痒,下痢の症状があり,瀉心湯で下しがたいものに用いる。<br />
方函類聚 に「吐血咳血心煩ニシテ眠ラス五心熱シテ漸々肉脱スル者ヲ治ス又少陰ノ下利膿血,疳瀉下止,痘瘡煩瀉不寝ニ活用シテ特効アリ」とある。<br />
<style>
table {
border-collapse: collapse;
}
th {
border: solid 1px #666666;
color: #000000;
background-color: #FFFFFF;
}
td {
border: solid 1px #666666;
color: #000000;
background-color: #ffffff;
}
thead th {
background-color: #FFFFFF;
}
</style>
<br />
<table>
<thead>
<tr>
<th> 生薬名<br />
参考文献名
</th>
<th>黄連
</th>
<th>芍薬
</th>
<th>黄芩
</th>
<th>阿膠
</th>
<th>卵黄
</th>
<th>用法・用量
</th>
</tr>
</thead>
<tbody>
<tr>
<th>処方分量集
</th>
<td>3
</td>
<td>2.5
</td>
<td>2
</td>
<td>3
</td>
<td>1個
</td>
<td></td>
</tr>
<tr>
<th>診療の実際
</th>
<td>3
</td>
<td>2.5
</td>
<td>2
</td>
<td>3
</td>
<td>1個
</td>
<td></td>
</tr>
<tr>
<th>診療医典 注1
</th>
<td>3
</td>
<td>2.5
</td>
<td>2
</td>
<td>3
</td>
<td>1個
</td>
<td></td>
</tr>
<tr>
<th>症候別治療
</th>
<td>4
</td>
<td>2
</td>
<td>1
</td>
<td>3
</td>
<td>1個
</td>
<td></td>
</tr>
<tr>
<th>処方解説 注2
</th>
<td>3
</td>
<td>2.5
</td>
<td>2
</td>
<td>3
</td>
<td>1個
</td>
<td>*1
</td>
</tr>
<tr>
<th>応用の実際 注3
</th>
<td>4
</td>
<td>2
</td>
<td>2
</td>
<td>3
</td>
<td>1個
</td>
<td></td>
</tr>
<tr>
<th>明解処方
</th>
<td>3
</td>
<td>2.5
</td>
<td>2
</td>
<td>3
</td>
<td>1個
</td>
<td></td>
</tr>
<tr>
<th>改訂処方集
</th>
<td>4
</td>
<td>2
</td>
<td>2
</td>
<td>3
</td>
<td>1個
</td>
<td>*2
</td>
</tr>
<tr>
<th>漢方入門講座
</th>
<td>4
</td>
<td>2
</td>
<td>2
</td>
<td>3
</td>
<td>1/3個
</td>
<td></td>
</tr>
<tr>
<th>傷寒論入門
</th>
<td>4
</td>
<td>2
</td>
<td>2
</td>
<td>3
</td>
<td>2個
</td>
<td></td>
</tr>
</tbody>
</table>
<br />
*1 阿膠,卵黄以外の三味を水600mLに入れ,300mLに煎じ,滓を去り,阿膠を入れて再び火にのせて溶かし,少し冷えてから卵黄1個を入れてききまぜ,3回に分服する。<br />
*2 水240を以って黄連,黄芩,芍薬を似て80に煮つめ滓を去り,阿膠を加えて溶かし,少し冷まして卵黄を加えてかきまぜる。3回に分服。 <br />
<br />
<br /></div>
<div>
</div>
<div>
<span style="border: solid;"> 注1 </span> 老人または病後の患者の不眠,諸種の出血,下痢(粘血便を下すもの),皮膚疾患に用いられる。皮膚病に用いる目標は,発疹が主として顔面にみられ,隆起があまり目立たないほど低く,指頭でなでるとざらざらしていて,少し赤味を帯びて乾燥し,痒みは少なく,糠のような落屑があり,風にあたったり,日光にあたるとわるくなる傾向がある。<br />
<span style="border: solid;"> 注2 </span> 血煩により心中煩して眠ることを得ず,不眠,煩燥,顔面紅潮,興奮,心悸亢進,頭重,のぼせ,胸苦しく熱感等を訴え,虚候を帯びて瀉心湯で下しがたいものを目標とする。</div>
<div>
勿誤薬室方函口訣には,「此方ハ柯韻伯ノ所謂少陰ノ瀉心湯ニテ、病陰分ニ陥ツテ上熱猶ホ去ラズ,心煩或ハ虚躁スルモノヲ治ス。故ニ吐血,咳血,心煩シテ眠ラズ,五心熱シテ漸々肉脱スル者,凡ソ諸病日久シテ,熱気血分ニ浸潤シテ諸症ヲナス者,毒痢腹痛膿血止マズ、口舌渇ク者等ヲ治シテ験アリ。又少陰ノ下利、膿血ニ用ルコトモアリ,併シ桃花湯トハ上下ノ弁別アリ,又疳瀉止マザル者ト,痘瘡煩渇シテ寝ザル者ニ活用シテ特効アリ」とある。<br />
<span style="border: solid;"> 注3 </span> 心悸亢進があり,胸ぐるしく,眠れないものが目標である。こういう場合には,つぎのようないろいろな症状が起こるときに用いられる。①吐血や咯血がある。②膿血便を下痢す。③頭部,顔面の疔(化膿性腫物)がひどく痛む。④尿が赤くにごり,あるいは淋瀝して尿利減少する。<br />
<br />
<br />
<br />
<span style="font-size: large;"><b>【添付文書等に記載すべき事項】</b></span><br />
<br />
<span style="border: medium solid;"> してはいけないこと </span><br />
(守らないと現在の症状が悪化したり、副作用が起こりやすくなる)<br />
<br />
<b>1.次の人は服用しないこと</b><br />
(1)生後3ヵ月未満の乳児。<br />
〔生後3ヵ月未満の用法がある製剤に記載すること。〕<br />
(2)本剤又は鶏卵によるアレルギー症状を起こしたことがある人。<br />
〔卵黄を含有する製剤に記載すること。〕<br />
<br />
<br />
<br />
<span style="border: medium solid;"> 相談すること </span> <br />
<b> 1.次の人は服用前に医師、薬剤師又は登録販売者に相談すること</b><br />
(1)医師の治療を受けている人。<br />
(2)妊婦又は妊娠していると思われる人。<br />
<br />
<b>2.服用後、次の症状があらわれた場合は副作用の可能性があるので、直ちに服用を中止し、この文書を持って医師、薬剤師又は登録販売者に相談すること</b><br />
<br />
<table border="1" cellpadding="1" cellspacing="1" style="width: 358px;">
<tbody>
<tr>
<td valign="top" width="101">関係部位</td>
<td valign="top" width="252">症状</td></tr>
<tr>
<td valign="top" width="101">消化器</td>
<td valign="top" width="252">食欲不振、胃部不快感</td></tr>
</tbody></table>
<br />
<br />
<b>3.服用後、次の症状があらわれることがあるので、このような症状の持続又は増強が見られた場合には、服用を中止し、この文書を持って医師、薬剤師又は登録販売者に相談すること</b><br />
下痢<br />
<br />
<b>4.1ヵ月位(鼻血に服用する場合には5~6回)服用しても症状がよくならない場合は服用 を中止し、この文書を持って医師、薬剤師又は登録販売者に相談すること</b><br />
<br />
〔用法及び用量に関連する注意として、用法及び用量の項目に続けて以下を記載すること。〕<br />
(1) 小児に服用させる場合には、保護者の指導監督のもとに服用させること。<br />
〔小児の用法及び用量がある場合に記載すること。〕<br />
(2)〔小児の用法がある場合、剤形により、次に該当する場合には、そのいずれかを記載すること。〕<br />
1)3歳以上の幼児に服用させる場合には、薬剤がのどにつかえることのないよう、よく注意すること。<br />
〔5歳未満の幼児の用法がある錠剤・丸剤の場合に記載すること。〕<br />
2)幼児に服用させる場合には、薬剤がのどにつかえることのないよう、よく注意すること。<br />
〔3歳未満の用法及び用量を有する丸剤の場合に記載すること。〕<br />
3)1歳未満の乳児には、医師の診療を受けさせることを優先し、やむを得ない場合にのみ<br />
服用させること。<br />
〔カプセル剤及び錠剤・丸剤以外の製剤の場合に記載すること。なお、生後3ヵ月未満の用法がある製剤の場合、「生後3ヵ月未満の乳児」を<span style="border: medium solid;"> してはいけないこと </span>に記載し、用法及び用量欄には記載しないこと。〕<br />
<br />
<br />
保管及び取扱い上の注意<br />
(1)直射日光の当たらない(湿気の少ない)涼しい所に(密栓して)保管すること。<br />
〔( )内は必要とする場合に記載すること。〕<br />
(2)小児の手の届かない所に保管すること。<br />
(3)他の容器に入れ替えないこと。(誤用の原因になったり品質が変わる。)<br />
〔容器等の個々に至適表示がなされていて、誤用のおそれのない場合には記載しなくてもよい。〕<br />
<br />
【外部の容器又は外部の被包に記載すべき事項】<br />
注意<br />
1.次の人は服用しないこと<br />
(1)生後3ヵ月未満の乳児。<br />
〔生後3ヵ月未満の用法がある製剤に記載すること。〕<br />
(2)本剤又は鶏卵によるアレルギー症状を起こしたことがある人。<br />
〔卵黄を含有する製剤に記載すること。 <br />
2.次の人は服用前に医師、薬剤師又は登録販売者に相談すること<br />
(1)医師の治療を受けている人。<br />
(2)妊婦又は妊娠していると思われる人。<br />
2´.服用が適さない場合があるので、服用前に医師、薬剤師又は登録販売者に相談すること 〔2.の項目の記載に際し、十分な記載スペースがない場合には2´.を記載すること。〕<br />
4.服用に際しては、説明文書をよく読むこと<br />
5.直射日光の当たらない(湿気の少ない)涼しい所に(密栓して)保管すること<br />
〔( )内は必要とする場合に記載すること。<br />
<br /></div>
Unknownnoreply@blogger.com0tag:blogger.com,1999:blog-6827912320235733185.post-78767174029298504282015-06-09T22:19:00.000+09:002016-04-12T20:21:13.648+09:00応鐘散(おうしょうさん)(芎黄散(きゅうおうさん)) の 効能・効果 と 副作用<span style="font-size: large;"><b>『症状でわかる 漢方療法』</b></span> 大塚敬節著 主婦の友社刊<br />
p.177<br />
<span style="font-size: large;"><b><ruby><rb>応鐘散</rb><rp>(</rp><rt>おうしょうさん</rt><rp>)</rp></ruby></b></span><br />
<ruby><rb>芎黄散</rb><rp>(</rp><rt>きゅうおうさん</rt><rp>)</rp></ruby>ともいう。<br />
<br />
処方 大黄1g、川芎2g。<br />
以上を粉末とし、一回に飲む。<br />
<br />
目標 主として頭部、顔面におけるはれもの、皮膚炎。便秘の傾向に注目すること。<br />
<br />
応用 頭部の湿疹。中耳炎。<ruby><rb>麦粒腫</rb><rp>(</rp><rt>ばくりゅうしゅ</rt><rp>)</rp></ruby>(ものもらい)。副鼻腔炎(蓄膿症)。多くは<ruby><rb>葛根湯</rb><rp>(</rp><rt>かつこんとう</rt><rp>)</rp></ruby>、<ruby><rb>大柴胡湯</rb><rp>(</rp><rt>だいさいことう</rt><rp>)</rp></ruby>、小柴胡湯などの兼用として用いられる。<br />
<br />
<br />
<br />
華岡青洲.春林軒丸散方, 応鐘散.集成30巻, 1980, p.155-156 <br />
諸般の<ruby><rb>上逆せ</rb><rp>(</rp><rt>のぼせ</rt><rp>)</rp></ruby>が甚だしく、 便秘し、 あ るいは頭痛耳鳴があり、 あるいは頭が痒く、あるいは白いフケが多く、あるいは瘡を生じ、あるいは頭がく らみ、あるいは肩がこわばり、あるいは口内に炎症があって歯が痛むものを治す。もし打撲して瘀血があれば酒を加えて服用する。<br />
<br />
<span style="font-size: large;"><b>『薬局製剤 漢方212方の使い方』<span style="font-size: small;"> 第4版</span></b></span><br />
埴岡 博・滝野 行亮 共著<br />
薬業時報社 刊<br />
<br />
<br />
<span style="font-size: large;"><b><u>K11. <ruby><rb>応鐘散料</rb><rp>(</rp><rt>おうしょうさんりょう</rt><rp>)</rp></ruby></u></b></span> <br />
<br />
<b>出典</b><br />
応鐘散とは聞きなれない名だが芎黄散の別名である。<br />
古方中興の祖といわれる吉益東洞は万病一毒説を唱え,古方の薬方を運用するにあたって,さかんに大黄剤,水銀剤などの攻撃薬を散剤または丸剤に製して兼用した。有名な東洞十二管丸散がこれである。<br />
十二管というのは<ruby><rb>淮南子</rb><rp>(</rp><rt>えなんじ</rt><rp>)</rp></ruby>の天文訓にある言葉で四時十二律二十四節の十二律を指す。<br />
<ruby><rb>太簇</rb><rp>(</rp><rt>たいそう</rt><rp>)</rp></ruby>、<ruby><rb>夾鐘</rb><rp>(</rp><rt>きょうしょう</rt><rp>)</rp></ruby>,<ruby><rb>姑洗</rb><rp>(</rp><rt>こせん</rt><rp>)</rp></ruby>,<ruby><rb>仲呂</rb><rp>(</rp><rt>ちゅうりょ</rt><rp>)</rp></ruby>,<ruby><rb>蕤賓</rb><rp>(</rp><rt>すいひん</rt><rp>)</rp></ruby>,<ruby><rb>林鐘</rb><rp>(</rp><rt>りんしょう</rt><rp>)</rp></ruby>,<ruby><rb>夷則</rb><rp>(</rp><rt>いそく</rt><rp>)</rp></ruby>,<ruby><rb>南呂</rb><rp>(</rp><rt>なんりょ</rt><rp>)</rp></ruby>,<ruby><rb>無射</rb><rp>(</rp><rt>ぶえき</rt><rp>)</rp></ruby>,<ruby><rb>応鐘</rb><rp>(</rp><rt>おうしょう</rt><rp>)</rp></ruby>,<ruby><rb>黄鐘</rb><rp>(</rp><rt>こうしょう</rt><rp>)</rp></ruby>,<ruby><rb>大呂</rb><rp>(</rp><rt>たいりょ</rt><rp>)</rp></ruby>とそれぞれ今まであった丸散処方を改造して名づけている。<br />
<br />
<b>構成</b> <br />
応鐘散は川芎と大黄の二味で構成されていて本来は等量混合物を散として1回1~2gを頓用する。湯(煎薬)としては大黄1g川芎2gを1日量としている。<br />
<br />
<b>目標</b><br />
単方飛用いられることは稀でほとんど大柴胡湯や葛根湯と合方するか,兼用する。<br />
中でも葛根湯と一緒に使うことが最も多く,葛根湯の証である頭痛,肩こりがあれば病名にかかわらず使われる。<br />
眼科疾患,例えば麦粒腫,眼瞼縁炎,涙囊炎,結膜炎,トラホーム,結膜フリクテン,虹彩炎等の初期に炎症,充血があればよく使用する。<br />
また頭部や顔面などの炎症に桂枝の入っている処方を用いる場合,桂枝は一時的に上部の炎症を増加することがあるので,芎黄散を兼用することが多い。<br />
<br />
<b>応用</b><br />
(1) 眼疾患の充血,炎症。<br />
(2) 頭部湿疹,脂漏性湿疹。<br />
(3) 副鼻腔炎,歯痛,肩のこりなどで便秘がちの人。<br />
<br />
<b>留意点</b><br />
◎本方は単方で使用することはほとんどなく,他の処方と合方するが,処方中に組み込むことなく各々の薬方として組み合わせて販売しなければならない。<br />
◎例えば葛根湯と合方したい場合,あくまでも葛根湯は葛根湯として製剤し,応鐘散は応鐘散として製剤し,別包装として販売しなければならない。この場合の煎じる水の分量はやや多い目(600cc位)にする程度で別包のまま同時に煎じればよう。<br />
◎瀉下作用を望む場合は、用法に規定している半量にまで煎じつめるのでなく,ごくあっさりと煎じるべきで,約2割程度の煎じつめ方(500mlを400mlに)でよい。なぜかというと,大黄の成分であるセンノサイドの分解を防ぐためである。<br />
◎川芎が多いと個人差があるが嘔き気を訴えることがある。これもあっさり煎じることによって防げるが,あるいは川芎を減量すべきでもある。<br />
<br />
<b>文献</b><br />
1.大塚敬節ら・漢方診療医典 (昭44) P.214~229<br />
2.浅田宗伯・勿誤薬室方函口訣 (明11) 下巻36丁ウ <br />
3.湯本求真・皇漢医学 (昭2) 3巻P.497~499<br />
<br />
<br />
<span style="font-size: large;"><b><u>K11-①. <ruby>応鐘散<rt>おうしょうさん</rt></ruby></u></b></span> <br />
<br />
<b>出典</b><br />
楊氏家蔵方に「芎黄円」がある。『治風熱壅盛,頭昏,目赤,大便艱難』とある。<br />
<b>構成</b> <br />
大黄・川芎の2味等量が本来である。川芎が日本と中国とでは原植物が異るので,川芎の多量はやや不安が残る。今後を注目したい。<br />
<br />
<b>目標</b><br />
大黄は加熱しないときは瀉下作用が強力である。煎じ薬である11番の方は瀉下作用はすくなく,代りに消炎作用が強い。<br />
その使いわけが必要で,11-①の末は便秘薬として便秘をすると頭が痛いという人に最適である。<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<span style="font-size: large;">『改訂 一般用漢方処方の手引き』</span> <br />
監修 財団法人 日本公定書協会<br />
編集 日本漢方生薬製剤協会 <br />
<br />
<span style="font-size: large;">応鐘散(芎黄散)</span><br />
(おうしょうさん(きゅうおうさん)) <br />
<br />
<b>成分・分量</b><br />
大黄1,川芎2<br />
<br />
<b>用法・用量</b><br />
(1)散:1回に頓用する<br />
(2)湯:上記量を1日量<br />
<br />
<br />
<b>効能・効果</b><br />
体力中等度以上のものの次の諸症:便秘,便秘に伴うのぼせ・肩こり<br />
<br />
<b>原典</b> 東洞先生家熟方<br />
<b>出典 </b><br />
<br />
<b>解説</b><br />
顔面や頭部の疾患に兼用される処方である。<br />
<br />
<style>
table {
border-collapse: collapse;
}
th {
border: solid 1px #666666;
color: #000000;
background-color: #FDFDFD;
}
td {
border: solid 1px #666666;
color: #000000;
background-color: #ffffff;
}
thead th {
background-color: #FDFCFC;
}
</style>
<br />
<table>
<thead>
<tr>
<th> 生薬名<br />
参考文献名
</th>
<th>大黄
</th>
<th>川芎
</th>
<th>用法・用量
</th>
</tr>
</thead>
<tbody>
<tr>
<th>処方分量集
</th>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td></td>
</tr>
<tr>
<th>診療の実際
</th>
<td>1
</td>
<td>2
</td>
<td></td>
</tr>
<tr>
<th>診療医典 注1
</th>
<td>1
</td>
<td>2
</td>
<td>以上を粉末として1回に服す
</td>
</tr>
<tr>
<th>症候別治療
</th>
<td>1
</td>
<td>2
</td>
<td></td>
</tr>
<tr>
<th>処方解説
</th>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td></td>
</tr>
<tr>
<th>後世要方解説
</th>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td></td>
</tr>
<tr>
<th>漢方百話
</th>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td></td>
</tr>
<tr>
<th>応用の実際
</th>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td></td>
</tr>
<tr>
<th>明解処方
</th>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td></td>
</tr>
<tr>
<th>改訂処方集
</th>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td></td>
</tr>
<tr>
<th>漢方医学
</th>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td></td>
</tr>
<tr>
<th>精撰百八方
</th>
<td>1
</td>
<td>2
</td>
<td></td>
</tr>
<tr>
<th>古方要方解説
</th>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td></td>
</tr>
<tr>
<th>成人病の漢方療法
</th>
<td>-
</td>
<td>-
</td>
<td></td>
</tr>
</tbody>
</table>
<br />
<br />
<br />
注1 麦粒腫:便秘の傾向あるときは川芎・大黄を加えるか、芎黄散(応鐘散)を兼用する。本病に限らず、すへての眼疾患には芎黄散がよく兼用される。顔面や頭部の上方部にある病毒を下すために必要なのである。ことに桂枝を加味した処方の場合は川芎・大黄を加味するか,あるいは芎黄散を兼用する。<br />
急性・慢性涙囊炎,急性・慢性結膜炎,トラコーマ,結膜フリクテン,白内障,以上葛根湯と加方で用いられる。<br />
<br />
参考:晩成堂散方解 南涯吉益先生口述,蠃斎吉益先生口述,木場宏和訳 漢方の臨牀特集号第14巻<br />
東洞先生「大便難く,心身痞し,これを按じて濡にして煩悸する者を治す。また曰く,諸証治し難くして上衝,不大便の者を治すと」<br />
南涯先生「これ血毒ありて上逆する者を治す。その証,頭痛,耳鳴,或は頭痒,或は白屑多く,或は瘡を生じ,或は頭眩,目瞑,或は肩背強り,或は口熱,歯痛,或は血積,不大便の類,諸般上逆の毒なり,もし打撲して瘀血ある者は蕎麦を加えて酒にて服す」。<br />
蠃斎先生「家方は蕎麦粉少しばかり加う。血滞をもって目的となす。凡そ血気逆して上に迫って疼痛,諸腫物に血毒結滞し,或は心下痞す。世にいうところの積気の者および打撲にはみなこの散を用う。その活用広遠なり。凡そ血滞の証をもって(活用の)準治となすべし」。<br />
<br />
<br />
<span style="font-size: large;"><b>『勿誤薬室方函口訣解説(21)』</b></span> 日本東洋医学会理事 矢数 圭堂<br />
芎黄円料 芎帰湯 芎帰膠艾湯 杏人(仁)五味子湯 杏酪湯 強神湯<br />
<br />
芎黄円料<br />
<br />
本日は、<ruby><rb>芎黄円料</rb><rp>(</rp><rt>キュウオウエンリョウ</rt><rp>)</rp></ruby>からお話しいたします。芎黄円料は『楊氏家蔵方』に載っている処方です。楊氏とは宋の時代の楊倓のことで、『楊氏家蔵方』はその著書であります。風熱が盛んになって、頭がくらみ、目が赤くなり、大便が出にくいというものを治す処方であり、<ruby><rb>川芎</rb><rp>(</rp><rt>センキュウ</rt><rp>)</rp></ruby>、<ruby><rb>大黄</rb><rp>(</rp><rt>ダイオウ</rt><rp>)</rp></ruby>の二味から成っております。「あるいは<ruby><rb>葛根湯</rb><rp>(</rp><rt>カッコントウ</rt><rp>)</rp></ruby>を合す、あるいは<ruby><rb>苓桂朮甘湯</rb><rp>(</rp><rt>リョウケイジュツカントウ</rt><rp>)</rp></ruby>に合す」とありますが、この処方は、葛根湯、あるいは苓桂朮甘湯と合方して使うことが多いということであります。<br />
この方は、『楊氏家蔵方』に書いてある主治を目標に使えばよろしいのですが、それに風熱が盛んになって、肩から背にかけてこわばる場合には葛根湯を合して使い、心下支飲があって頭昏目赤するものは苓桂朮甘湯を合して使えばさらに効果があるといっております。心下支飲とは胸部または心下部に水毒が停滞しているために、咳とか呼吸困難を起こすことです。これは水毒の体質があって、心下部に停滞しており、そういうもので頭がくらみ、めまいのような状態があるとか、目が赤くなるようなものは、苓桂朮甘湯と合方して使うとさらに効果があるということであります。<br />
次に、「頭瘡耳鳴等に兼用すべし」とありますが、頭瘡(頭部の湿疹)、あるいは耳鳴がある場合には、ほかの処方と兼用して芎黄円料を使うとよろしいということであります。<br />
大黄は瀉下作用があり、消炎作用があり、実証の便秘に使います。川芎は補血作用、強壮作用、駆瘀血作用があります。したがって、便秘があり、瘀血があって、いろいろな症状が出てくるものに芎黄円料を使うわけで、葛根湯や、苓桂朮甘湯と合方して使うとよろしいということであります。<br />
<br />
<br />
宋の 『<ruby><rb>楊氏家蔵方</rb><rp>(</rp><rt>ようしかぞうほう</rt><rp>)</rp></ruby> 』 (<ruby><rb>楊倓</rb><rp>(</rp><rt>ようたん</rt><rp>)</rp></ruby> ・撰, 1178年刊 )<br />
<br />
「<ruby><rb>風熱</rb><rp>(</rp><rt>ふうねつ</rt><rp>)</rp></ruby><ruby><rb>壅盛</rb><rp>(</rp><rt>ようせい</rt><rp>)</rp></ruby>し,<ruby><rb>頭</rb><rp>(</rp><rt>かしら</rt><rp>)</rp></ruby><ruby><rb>昏</rb><rp>(</rp><rt>くら</rt><rp>)</rp></ruby>み,目赤く,大便<ruby><rb>艱難</rb><rp>(</rp><rt>かんなん</rt><rp>)</rp></ruby>なるを治す」<br />
<br />
<br />
<span style="font-size: large;"><b>『校正方輿輗 丸散方別輯』</b></span> 有持桂里<br />
芎黄散は広く応用できる. そのうち,もっとも効果があるのは,頭痛, 赤眼痛,あ るいは打撲,あるいは頭頸部顔面の毒,上部の結毒に用いる.瘰癧(頚部リ ンパ節炎)などにも用いる。<br />
<br />
<span style="font-size: large;"><b>『春林軒丸散方』</b></span> 華岡青洲 <br />
諸般の<ruby><rb>上逆</rb><rp>(</rp><rt>のぼせ</rt><rp>)</rp></ruby>が甚だしく,便秘し,あるいは頭痛耳鳴があり,あるいは頭が痒く,あるいは白いフケが多く,あるいは瘡を生じ,あるいは頭がくらみ,あるいは肩がこわばり,あるいは口内に炎症があって歯が痛むものを治す。もし打撲して瘀血があれば酒を加えて服用する。<br />
<br />
<span style="font-size: large;"><b>『勿誤薬室方函口訣』</b></span> 浅田宗伯<br />
芎黄円は楊氏家蔵方の主治に従うのがよい.ただし,風熱壅盛して肩背強急する者は葛根根湯に合 し,心下支飲があっ て頭昏目赤する者は苓桂朮甘湯に合方すると特別に効果がある.また頭瘡, 耳鳴などのあるときに兼用として用いる。 <br />
<br />
<br />
<br />
<span style="font-size: large;"><b>『漢方処方・方意集』</b></span> 仁池米敦著 たにぐち書店刊<br />
p.31<br />
<ruby><rb>応鐘散</rb><rp>(</rp><rt>おうしょうさん</rt><rp>)</rp></ruby> <ruby><rb>応鐘散料</rb><rp>(</rp><rt>おうしょうさんりょう</rt><rp>)</rp></ruby>(三一頁)・<ruby><rb>芎黄円料</rb><rp>(</rp><rt>きゅうおうえんりょう</rt><rp>)</rp></ruby>・<ruby><rb>芎黄散</rb><rp>(</rp><rt>きゅうおうさん</rt><rp>)</rp></ruby>(八九頁)と同じ。<br />
[<b>薬局製剤</b>] 川芎2 大黄1 以上の生薬をそれぞれ末とし、散剤の製法により製し、1包とする。<br />
«楊氏家蔵方»川芎2 大黄1 細末にし一回1~3gを湯にて頓服する。<br />
【方意】瘀血と風邪と湿邪と熱を除き、肝胆と腸胃を調えて、血と水の行りを良くし大便を出し上逆した気を降ろし、<ruby><rb>頭昏</rb><rp>(</rp><rt>ずこん</rt><rp>)</rp></ruby>や耳鳴などに用いる方。<br />
【適応】風熱が<ruby><rb>壅盛</rb><rp>(</rp><rt>ようせい</rt><rp>)</rp></ruby>(風熱が盛んなため経絡を塞いだ状態)して<ruby><rb>頭昏</rb><rp>(</rp><rt>ずこん</rt><rp>)</rp></ruby>(頭がぼんやりする症状)し<ruby><rb>目赤</rb><rp>(</rp><rt>もくせき</rt><rp>)</rp></ruby>(白睛が赤くなる症状)し大便することが難しい者・風熱が<ruby><rb>壅盛</rb><rp>(</rp><rt>ようせい</rt><rp>)</rp></ruby>して頭瘡や耳鳴する者・ノボセ・便秘など。<br />
[合方] ①風熱が<ruby><rb>壅盛</rb><rp>(</rp><rt>ようせい</rt><rp>)</rp></ruby>して肩背が強急する者は、葛根湯を合する。<br />
②心下に<ruby><rb>支飲</rb><rp>(</rp><rt>しいん</rt><rp>)</rp></ruby>(胸膈に水がある病)があり<ruby><rb>頭昏</rb><rp>(</rp><rt>ずこん</rt><rp>)</rp></ruby>(頭がぼんやりする症状)し<ruby><rb>目赤</rb><rp>(</rp><rt>もくせき</rt><rp>)</rp></ruby>(白睛が赤くなる症状)する者は、苓桂朮甘湯を合する。<br />
[原文訳]«楊氏家蔵方・積熱方»<br />
○風熱が<ruby><rb>壅盛</rb><rp>(</rp><rt>ようせい</rt><rp>)</rp></ruby>して、<ruby><rb>頭昏</rb><rp>(</rp><rt>ずこん</rt><rp>)</rp></ruby>し<ruby><rb>目赤</rb><rp>(</rp><rt>もくせき</rt><rp>)</rp></ruby>し、大便することが<ruby><rb>艱</rb><rp>(</rp><rt>とて</rt><rp>)</rp></ruby>も<ruby><rb>難</rb><rp>(</rp><rt>むずか</rt><rp>)</rp></ruby>しきを治す。<br />
«勿誤薬室方函口訣»<br />
○此の方は、楊氏家蔵方の主治を至的とす。但だ風熱が<ruby><rb>壅盛</rb><rp>(</rp><rt>ようせい</rt><rp>)</rp></ruby>して肩背が強急する者は葛根湯を合し、心下に<ruby><rb>支飲</rb><rp>(</rp><rt>しいん</rt><rp>)</rp></ruby>あり<ruby><rb>頭昏</rb><rp>(</rp><rt>ずこん</rt><rp>)</rp></ruby>・<ruby><rb>目赤</rb><rp>(</rp><rt>もくせき</rt><rp>)</rp></ruby>する者は、苓桂朮甘湯に合すれば別して効あり。又、頭瘡や耳鳴り等に兼用すべし。<br />
<br />
<br />
<ruby>応鐘散料<rt>おうしょうさんりょう</rt></ruby> <ruby>応鐘散<rt>おうしょうさん</rt></ruby>(三一頁)・<ruby>芎黄円料<rt>きゅうおうえん</rt></ruby>・<ruby>芎黄散<rt>きゅうおうさん</rt></ruby>(八九頁)と同じ。<br />
[<b>薬局製剤</b>] 川芎2 大黄1 以上の切断又は破砕した生薬を取り、1包として製する。<br />
«楊氏家蔵方»川芎2 大黄(加減する)1 煎じて服用する。<br />
<br />
<br />
p.89<br />
<ruby><rb>芎黄円料</rb><rp>(</rp><rt>きゅうおうえんりょう</rt><rp>)</rp></ruby> <ruby>応鐘散<rt>おうしょうさん</rt></ruby>(三一頁)・<ruby>応鐘散料<rt>おうしょうさんりょう</rt></ruby>(三一頁)・<ruby>芎黄散<rt>きゅうおうさん</rt></ruby>(八九頁)と同じ。<br />
«楊氏家蔵方»川芎2 大黄(加減する)2<br />
<br />
<ruby><rb>芎黄散</rb><rp>(</rp><rt>きゅうおうさん</rt><rp>)</rp></ruby> <ruby>応鐘散<rt>おうしょうさん</rt></ruby>(三一頁)・<ruby>応鐘散料<rt>おうしょうさんりょう</rt></ruby>(三一頁)・<ruby>芎黄円料<rt>きゅうおうえんりょう</rt></ruby>(八九頁)と同じ。<br />
«吉益東洞»川芎2 大黄1 細末にし一回1~3gを頓服する。<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<span style="font-size: large;"><b>【添付文書等に記載すべき事項】</b></span><br />
<br />
<span style="border: medium solid;"> してはいけないこと </span><br />
(守らないと現在の症状が悪化したり、副作用が起こりやすくなる)<br />
<br />
<b>1.次の人は服用しないこと</b><br />
生後3ヵ月未満の乳児。<br />
〔生後3ヵ月未満の用法がある製剤に記載すること。〕<br />
<br />
<br />
<b>2.本剤を服用している間は、次の医薬品を服用しないこと</b><br />
他の瀉下薬(下剤)<br />
<br />
<br />
<b>3.授乳中の人は本剤を服用しないか、本剤を服用する場合は授乳を避けること</b><br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<span style="border: medium solid;"> 相談すること </span> <br />
<b> 1.次の人は服用前に医師、薬剤師又は登録販売者に相談すること</b><br />
(1)医師の治療を受けている人。<br />
(2)妊婦又は妊娠していると思われる人。<br />
(3)体の虚弱な人(体力の衰えている人、体の弱い人)。<br />
(4)胃腸が弱く下痢しやすい人。<br />
<br />
<b>2.服用後、次の症状があらわれた場合は副作用の可能性があるので、直ちに服用を中止し、この文書を持って医師、薬剤師又は登録販売者に相談すること</b><br />
<br />
<table border="1" cellpadding="1" cellspacing="1" style="width: 358px;">
<tbody>
<tr>
<td valign="top" width="101">関係部位</td>
<td valign="top" width="252">症状</td></tr>
<tr>
<td valign="top" width="101">消化器</td>
<td valign="top" width="252">吐き気 ・嘔吐、食欲不振、胃部不快 感、はげしい腹痛を伴う下痢、腹痛</td></tr>
</tbody></table>
<br />
<br />
<br />
<b>3.服用後、次の症状があらわれることがあるので、このような症状の持続又は増強が見られた場合には、服用を中止し、この文書を持って医師、薬剤師又は登録販売者に相談すること</b><br />
下痢<br />
<br />
<b>4.1週間位(便秘に頓服用として用いる場合には5~6回)服用しても症状がよくならない 場合は服用を中止し、この文書を持って医師、薬剤師又は登録販売者に相談すること</b><br />
<br />
〔用法及び用量に関連する注意として、用法及び用量の項目に続けて以下を記載すること。〕<br />
(1) 小児に服用させる場合には、保護者の指導監督のもとに服用させること。<br />
〔小児の用法及び用量がある場合に記載すること。〕<br />
(2)〔小児の用法がある場合、剤形により、次に該当する場合には、そのいずれかを記載すること。〕<br />
1)3歳以上の幼児に服用させる場合には、薬剤がのどにつかえることのないよう、よく注<br />
意すること。<br />
〔5歳未満の幼児の用法がある錠剤・丸剤の場合に記載すること。〕<br />
2)幼児に服用させる場合には、薬剤がのどにつかえることのないよう、よく注意すること。<br />
〔3歳未満の用法及び用量を有する丸剤の場合に記載すること。〕<br />
3)1歳未満の乳児には、医師の診療を受けさせることを優先し、やむを得ない場合にのみ<br />
服用させること。<br />
〔カプセル剤及び錠剤・丸剤以外の製剤の場合に記載すること。なお、生後3ヵ月未満の用法がある製剤の場合、「生後3ヵ月未満の乳児」を<span style="border: medium solid;"> してはいけないこと </span>に記載し、用法及び用量欄には記載しないこと。〕<br />
<br />
<br />
保管及び取扱い上の注意<br />
(1)直射日光の当たらない(湿気の少ない)涼しい所に(密栓して)保管すること。<br />
〔( )内は必要とする場合に記載すること。〕<br />
(2)小児の手の届かない所に保管すること。<br />
(3)他の容器に入れ替えないこと。(誤用の原因になったり品質が変わる。)<br />
〔容器等の個々に至適表示がなされていて、誤用のおそれのない場合には記載しなくてもよい。〕<br />
<br />
【外部の容器又は外部の被包に記載すべき事項】<br />
注意<br />
1.次の人は服用しないこと<br />
生後3ヵ月未満の乳児。<br />
〔生後3ヵ月未満の用法がある製剤に記載すること。〕<br />
2.授乳中の人は本剤を服用しないか、本剤を服用する場合は授乳を避けること<br />
3.次の人は服用前に医師、薬剤師又は登録販売者に相談すること<br />
(1)医師の治療を受けている人。<br />
(2)妊婦又は妊娠していると思われる人。<br />
(3)体の虚弱な人(体力の衰えている人、体の弱い人)。<br />
(4)胃腸が弱く下痢しやすい人。<br />
(5)のぼせが強く赤ら顔で体力の充実している人。<br />
3´.服用が適さない場合があるので、服用前に医師、薬剤師又は登録販売者に相談すること<br />
〔3.の項目の記載に際し、十分な記載スペースがない場合には3´.を記載すること。〕<br />
4.服用に際しては、説明文書をよく読むこと<br />
5.直射日光の当たらない(湿気の少ない)涼しい所に(密栓して)保管すること<br />
〔( )内は必要とする場合に記載すること。<br />
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