健康情報: 1月 2015

2015年1月26日月曜日

立効散(りっこうさん) の 効能・効果 と 副作用

臨床応用 漢方處方解説 矢数道明著 創元社刊
p.689 歯痛・抜歯後の疼痛
107 立効散(りっこうさん) 〔衆方規矩〕
 細辛・升麻・防風 各二・〇 甘草一・五 竜胆一・〇

 「牙歯痛んで忍び難く、微(すこ)しく寒飲を悪み、大いに熱飲を悪む、脈三部陰盛んに陽虚す。」
 また「此の方東垣が方にして、牙歯疼痛を治するの神なるものなり」 「痛むところに含んで、痛立ちどころに止む」とある。
 大塚敬節氏「症候による漢方治療の実際」含痛の項、一六二頁に記載がある。
 歯痛、抜歯後の疼痛甚だしく、一般鎮痛剤も効果なきときに用いて即効がある。一口ずつ口中にしばらく含んでから呑み下すがよい。
 〔参考〕 「略治準縄」疝気門に同名異方がある。
  山査子・青皮・小茴香・枳実・朮・香附子 各三・〇 呉茱萸・山梔子・川棟子 各二・〇
 「疝、食積に因って痛みを作(な)すを治す」というものである。歯痛に対し、誤ってこの方を用いたが即効があったと感う報告がある。

症状でわかる 漢方療法 大塚敬節著 主婦の友社刊
p.236
立効散(りっこうさん)
処方 細辛、升麻、防風各2g。 甘草1.5g、竜胆1g。
 以上をせんじて口中に含み、少しずつゆっくりと飲み込む。
目標 口腔内、顔面の疼痛。
応用 歯痛。三叉神経痛。

p.83
▼<耐えがたいような歯痛>・・立効散(りっこうさん)
 お茶を口に入れても疼痛がはげしくなり、どの歯が痛むかわからないほど痛む場合、一口ずつ口にしばらく含んでいて飲むようにする。むし歯の痛むのにもよい。



和漢薬方意辞典 中村謙介著 緑書房
立効散(りっこうさん) [衆方規矩]

【方意】 急迫痙攣による激しい含痛・顔面痛のあるもの。
《少陽病.虚実中間》
【自他覚症状の病態分類】

急迫・痙攣


主証 ◎激しい歯痛
◎顔面痛






客証



 


【脈候】 

【舌候】 

【腹候】

【病位・虚実】 疼痛は寒証・虚証を伴わなければ少陽病相当である。本方は温湯よりも冷水の方が飲みやすいものに用いるとされているが、この点からもやや陽証と思われる。虚実中間で広く用いて良い。

【構成生薬】 細辛2.0 升麻2.0 防風2.0 甘草1.5 竜胆1.0

【方解】 細辛は鎮痛麻痺作用があり、甘草・竜胆も鎮痛作用がある。防風の鎮痛作用はこれに協力し、升麻は消炎作用と共に諸薬の作用を身体の上部に導く。

[注]立効散は上記の『衆方規矩』の五味のものと、別に九味のものとがある。九味の方は『古今方彙』の疝気の門に載せられているが、正しくは『証治準縄』にある。九味の立効散の方意および構成生薬は以下の通りである。
[方意]疝、食積によって痛を作すを治す。
[構成生薬]山査子3.0 青皮3.0 小茴香3.0 枳実3.0 朮3.0 香附子3.0 呉茱萸2.0
        梔子2.0 川棟子2.0
 右頁の第3例は、これを歯痛に用いて著効があったとの報告である。

【方意の幅および応用】
 A 急迫痙攣:歯痛・顔面痛を目標にする。
   歯根膜炎、三叉神経痛



【参考】 *牙歯痛んで忍び難く、微し寒飲を悪み、大いに寒飲を悪み、脈三部陰盛んに陽虚す。これ五臓内に盛んに、六腑陽道の脈微小にして、小便滑数なるを治す。しば らく痛む処に含めば痛、立ち処に止む。もし多く熱飲を悪むものには更に竜胆3.0を加う。もし更に風を悪みて痛をなすものには草豆蔲・黄連を加えて竜胆を去る。案ずるにこの方、東垣が方にして、牙歯疼痛を治するの神なるものなり。『衆方規矩』

*陳旧性の激痛に良い。湯で飲むと痛が増し、水ならいくぶん飲みやすいものに有効である。

【症例】 歯科治薬後の歯痛
 24歳の婦人。歯科医で歯を治療を受けたところ、その夜、疼痛のため眠れず、市販の鎮痛剤を次々と飲んだが止まらない。夜の明けるのを待って、また歯科医院の治療を受けたが、帰宅後ますます痛むという。痛むのは左の下の臼歯であるが、どれが痛むのか、自分では見当がつかない。お茶を口に入れても疼痛が激しくなる。そこで立効散を与え、これをひと口ずつしばらく含んでいて飲むように指示した。驚いたことに、30分もたたずに、疼痛が軽快し、眠気を催したので、少し眠って眼がさめると、ほとんど疼痛を忘れるほどに良くなっていたという。『衆方規矩』には「此の方東垣が方にして牙歯疼痛を治するの神なるものなり」とある。
大塚敬節 『症候による漢方治療の実際』 162
三叉神経痛
 患者は78歳の婦人。2年前に軽い脳出血の後遺症で治療を受けにきた。頭痛、左半身の軽い麻痺があり、左の手から足にかけて震えがあった。この時は大柴胡湯加釣藤を用いて軽快したので休薬していた。
 今度の病気は、右の第二枝と第三枝の三叉神経痛である。高血圧があるので降圧剤を用い、便秘するのでアロエを食べているという。立効散を投与した。
 三叉神経痛に立効散をなぜ用いたかというに、右の下顎骨のあたりを中心に歯も、顎のあたりまで一体に痛むので用いたのである。2週間を飲み終わらないうちに疼痛は消えて、その速効に驚いた。
大塚敬節 『漢方の珠玉』 440

抜歯後の歯痛
 当院の内科外来詰の看護婦がみえないので、尋ねてみると歯痛で休養室に休んでいますという。昼休みに本院の歯科で抜歯してもらったが、麻酔が切れてから痛み出したので薬局でセデスをもらって2回続けて服んだが治らないといって頬を押さえている。タオルで冷やしても効かない。患部は腫脹も熱感もない。呻吟するほどでもないが、訴えとしては痛くてたまらないという。
 脈は浮大弱。淡紅舌、腹部は軟弱で抵抗はない。もっともこの婦人は最近初産を経験し、産休あけ後1ヵ月位である。外来は繁忙なので肉体的に疲労があり、また乳児をかかえての勤務であるから、精神的にも疲れていることは考えられる。日頃からよく気がつく看護婦だが、どちらかというと静かに考えるという型の人である。産後の気血虚損の傾向と陰証傾向は推定しうる。
 九味の立効散1回分を早速煎じて服用させた。これは早かった。服用させて5分後には「癒りました」といって晴れやかな顔をして内科外来で働きはじめた。気がねして出て来たのではないかと思って「本当に良いのかネ」ときくと、「はい、本当にスッとしました。有難うございました」といって、挙措常の如く立ち働いているところをみると、本当に治ったらしい。そこで「帰宅したら念のためもう1回分飲んでおきなさい」と指示したが、服用せず、あれっきり痛まなかったということである。
『伊藤良 『漢方の臨床』 15・11・12合併・28


『健保適用エキス剤による 漢方診療ハンドブック 第3版』
桑木 崇秀 創元社刊

立効散(りっこうさん) <出典> 衆方規矩 (金時代)

方剤構成
  細辛 升麻 防風 竜胆 甘草

方剤構成の意味
 細辛・升麻・防風はいずれも発散性で,細辛・防風には鎮痛作用があり,ことに細辛には麻酔作用もある。升麻は咽頭の腫痛にもよいとされている。竜胆には発散性はないが,解熱・消炎作用がある。したがって,本方剤は主として口腔内の消炎・鎮痛に適した方剤と見ることができる。

適応
 歯痛,歯齦痛,口腔内の腫脹疼痛。熱寒を考慮しないで用いられる。
 湯にとかして,しばらく口に含んでから飲む込むようにするとよい。


『健康保険が使える 漢方薬 処方と使い方』
木下繁太朗 新星出版社刊

立効散(りつこうさん)
衆方規矩(しゆうほうきく)
 ツ

どんな人につかうか
 歯の痛み、歯ぐきの痛み(歯齦(しぎん)痛)、口腔の中のはれ痛み(腫脹、疼痛)に広く使えます。一口ずつ口に含んでゆっくりのみます。

目標となる症状
 ①歯痛、歯齦痛(しぎんつう)。②口腔内の腫脹、疼痛。

   一定せず。

どんな病気に効くか(適応症) 
 抜歯後の疼痛歯痛。歯齦痛(しぎんつう)、歯齦炎、口内炎、舌炎(ぜつえん)。


この薬の処方
 細辛(さいしん)、升麻(しようま)、防風(ぼうふう)各2.0g。甘草(かんぞう)1.5g。竜胆(りゆうたん)1.0g。


使い方のポイント・処方の解説
「歯痛、抜歯後の疼痛甚だしく、一般鎮痛剤も効果なきときに用いて即効がある。一口ずつ口中にしばらく含んでから呑み下すが良い」(大塚敬節)。
衆方規矩(しゆうほうきく)に「牙歯(がし)痛んで忍び難く、微しく寒飲を悪み、大いに熱飲を悪む」「此の方東垣(とうたん)(李東垣)が方にして、牙歯疼痛を治するの神なるものなり」「痛むところに含んで、痛立ちどころに止む」とあります。
細辛(さいしん)には解熱(げねつ)、鎮痛作用があり咳(せき)を止めます。升麻(しようま)は発汗解熱(げねつ)、解毒(げどく)剤で、鎮痛、鎮痙(ちんけい)、鎮静、抗炎症作用があります。防風(ぼうふう)も発汗、解熱、解毒剤で抗炎症作用があり、竜胆(りゆうたん)は消炎性苦味健胃剤で、膀胱(ぼうこう)の熱をとるのによく用いられますが、抗アレルギー作用があります。甘草(かんぞう)は悟痛攣急(れんきゆう)をとるなどいろいろの急迫症状を治し、甘味があり、諸薬を調和してまとめます。
歯痛には本方のほかに、葛根湯かつこんとう)(48頁)、調胃承気湯ちよういじようきとう)(157頁)、桃核承気湯とうかくじようきとう)(163頁)、黄連解毒湯おうれんげどくとう)(41頁)を使用します。
■重要処方解説(95)
人参養栄湯ニンジンヨウエイトウ)・立効散(リッコウサン)
日本東洋医学会評議員 内炭 精一

 ■立効散・出典・構成生薬・用い方
 次に立効散に移ります。これも『医療衆方規矩(いりょうしゅうほうきく)』所載の処方です。ただ立効散は『衆方規矩』牙歯門に記載されている薬方ですが、本方の同名異方が若干存在することは,すでに『漢方の臨床』誌に記されておりますので省略します。
 『衆方規矩』に出ている条文は次の通りです。『牙歯痛んで忍びがたく、微し寒飲を悪み、大いに熱飲を悪み、脈三部陰盛んに陽虚す。これ五臓内に盛んに六腑陽道の脈微小にして,小便滑数なるを治す。細辛(サイシン)三分,甘草五分,升麻(ショウマ)七分,防風(ボウフウ)一分,竜胆(リュウタン)三分,以上煎じ服用す。しばらく痛むところに含んで,痛み立ちどころに止む。もし多く熱飲を悪むには,更に竜胆一匁を加う。これ法に定まりなし。寒熱の多少に随い,時に臨んで加減す(必ずこうせよというわけではありません)。もし更に風を悪んで痛みをなす(風に当たると更に痛むもの)には,草豆蔲(ソウズク),黄連(オウレン)を加えて,竜胆を去るのがよい。考えると,この処方は,東垣(とうえん)(大昔の漢方医)の組み立てた薬であって,牙歯疼痛を治する神方といもいうべき薬方である」とあります。神方というのは,神様の処方という意味でしょう。
 まず語句の解説から始めます。寒飲とは寒冷な飲みもの,熱飲は逆に熱い飲みもの。三部は寸,関,尺の三部であります。陰はここでは陰脈のこと。「脈遅は臓に属し,陰と遅,寒とす」。次に陽ですが,「諸陽の脈はみな熱とし,諸陰の脈はみな寒とす。臓腑の病い,これによって分かつ。脈語に曰く,諸陽の脈は腑とし,諸陰の脈は臓とす。陰中に陽あり。陽中に陰あり。小便滑数」。小便滑数は,小便の排泄が滑からかで頻回あることです。

■症例提示
 立効散の条文は難解と考えられます。しかし実用には大変効果的な処方と考えられますので,経験者の治験を引用して,本方の理解の助けとしたいと思います。大塚敬節著『症候による漢方治療の実際』の歯痛の処方,立効散の条に次の一文があるので引用させていただきます。
 『衆方規矩』の牙歯門にある処方で,牙歯痛んで忍びがたく,少し寒飲を悪み大いに熱飲を悪むという語を目的に用いる。
 24歳の婦人,歯科医で歯を治療してもらったところ,その夜疼痛のために寝られず,市販の鎮痛剤を次々に呑んだが,どうしても痛みがとまらない。そこで夜の明けるのを待って,また歯科医の治療をうかてが,帰宅後はますます痛むという。痛むのは左の下の凹歯(現代的にいえば臼歯と考えられる)であるが,どれが痛むのか,自分では見当がつかないといい,お茶を口に入れても疼痛が激しくなるという。そこで立効散を与え,これを一口ずつしばらく口に含んで呑むように指示した。ところが驚いたことに,30分もたたないのに疼痛が軽快し,ねむけを催したので少し眠って眼を覚ますと,ほとんど疼痛を忘れるほどによくなっていたといいます。
 『衆方規矩』には「この方,東垣が方にして牙歯疼痛を治するの神なるものなり」とあります。まことに神効があったということです。
 次に『漢方の臨床』第15巻第11号に「立効散による歯痛の治験」という演題で伊藤良氏の発表がありますので,これを引用させていただきます。
 患者が歯痛で内科の外来を訪れる機会はあまり多くはないのであるが,最近引き続き2人の歯痛患者を治療する機会を得て,2人とも立効散が著効を奏したので報告する。
 第1例,患者は小学生時代に広島で原爆被爆の経験を有し,今なおそのために体の具合が悪く,しかも薬物過敏症のために洋薬は使用困難である。そのため当院で昭和41年10月頃から漢方治療を受けている33歳の洋裁を業とする婦人である。16歳頃から常に体の甚だしい冷えを自覚し,現代医学的には貧血症,多発性慢性関節リウマチ,神経因性膀胱,胃下垂症などを合わせ持ち,寒冷をにくみ,夏でもちょっと風に当たると,露出部に寒冷蕁麻疹を生ずる。右下腹部回盲部より下心に放散する腹痛もある。
 当帰芍薬散トウキシャクヤクサン),芎帰調血飲加人参黄耆(キュウキチョウケツインカニンジンオウギ),桂枝加附子湯(ケイシカブシトウ),附子理中湯ブシリチュウトウ),十全大補湯人参養栄湯などをそれぞれ証に応じて服用しながら,少しずつよくなっている。寒冷蕁麻疹や胃下垂症,貧血症はまったく治ってしまった。 その後,当帰四逆加呉茱萸生姜湯トウキシギャクカゴシュユショウキョウトウ)が具合がよいといって,本年5月から続服している。現在では膀胱症状もなく,リウマチは少し痛むだけで,日常生活には差し支えがないようになっている。しかし寒さにはまだ極度に弱く,夏でも冷房した部屋に半日もいると悪寒がして,そのあと2~3日は寝込む。そのため勤務先も永続できず,転々としているという大変気の毒な人です。
 この婦人が,昭和43年9月19日,もう体調がよいので大丈夫であろうと,かねて気になっていたむし歯を歯科医に抜いてもらったところ,痛みが止まらないからどうにかしてほしいと訴えて来院した。肩が凝り,前頭部が痛み,耳鳴りがするという。見ると痛みのために顔をしかめてはいるが,別に患部に腫れも熱感もない。強い苦訴にもかかわらず,望診上は静かである。脈は沈,遅,弱で,舌は淡紅舌で,薄い白苔があり,湿っている。腹部は平坦よりやや陥凹気味で軟弱,右下腹部回盲部に圧痛はあるが,defianceはない。歯痛の治療をした経験はないので,大塚氏の『症候による漢方治療の実際』を読みながら考えることににした。
 この患者はすでに述べたように甚だしい寒証であり,体は痩せている。初診の時など,ナチスのアウシュヴィッツの惨状を思い浮かべたくらいである。であるから前述の症状に照らすまでもなく,葛根湯カッコントウ)や涼膈散(リョウカクサン),三黄瀉心湯サンオウシャシントウ),桂枝五物湯(ケイシゴモツトウ)の証ではないことは明らかであり,もちろん甘露飲(カンロイン)の効くような陽証でもない。当帰四逆加呉茱萸生姜湯は現在使用中であるので,除外しなければなるまい。残るは小建中湯ショウケンチュウトウ)かと思ったが,関上の中に,上焦にやや熱情を醸したものという着想と,やはり呉茱萸が必要だと考えたので,立効散を与えることにした。
 同書の治験に「歯科の治療を受けてから」という部分に惹かれるものがあったし,即効性がありそうに思えたことも,判断する要素となった。実に漠然とした診断で恥ずかしい次第であるが,われわれの臨床上の決め手は案外何でもないものであることも多い。同書によれば『衆方規矩』の牙歯門にある処方で「 牙歯痛んで忍びがたく,少し寒飲を悪み,大いに熱飲を悪む」というのを目標に用いるとあり,また「この方,東垣が方にして牙歯疼痛を治するの神なるものなり」と紹介してある。本方2日分と,歯痛が治ったら当帰四逆加呉茱萸生姜湯を飲むようにと,同方2週間分を投与した。そのまま忙しさにとりまぎれて忘れていたが,昭和43年11月4日再び来診したので,カルテを見ると,引き続き当帰四逆加呉茱萸生姜湯を服用している。診察を終わって歯はどうでしたかと聞くと,当方の苦労などは何のその,「ああ,あの歯痛は2日分の薬を1回飲んだら10分くらいで治ったので,残りは置いてあります」と答えた。
 次は第2例,偶然にも第1例の患者が来診した昭和43年11月4日の午後のことである。当院の内科外来詰めの看護婦T氏(24歳)が見えないので,聞いてみる。歯痛で休養室に休んでいますという。昼休みに本院の歯科で抜歯して貰ったが,麻酔が切れてから痛み出したので,薬局でセデス錠を貰って2回続けて飲んだが治らないといって,頬を押さえている。タオルで冷やしても効かない。第1例と同じように患部は腫脹も熱感もない。呻吟するほどでもないが,訴えとしては痛くてたまらないという。脈は浮,大,弱である。淡紅舌,腹部は軟弱で,抵抗はない。
 この婦人は最近初産を経験し,産休明け後1ヵ月くらいである。外来は繁忙で1日250~300人の患者が来るので,肉体的に疲労があり,また乳児を抱えての勤務であるから,精神的にも疲れていることが考えられる。日頃からよく気がつく看護婦であるが,どちらかというと静かに考えるという型の人である。産後の気血虚損の傾向と,陰証傾向は推定し得る。午前中の患者ほど虚してはいないが,一部共通のものと考えて,立効散1回分を早速煎じて服用させた。
 これは早かった。服用させて5分後には「治りました」といって,晴れやかな顔をして内科外来で働き始めた。気兼ねして出てきたのではないかと思って「本当によいのか」と聞くと,「はい,本当にスッとしました。ありがとうございました」といって,挙措常の如く立ち働いているところを見ると,本当に治ったらしい。そこで帰宅したら,念のためもう1回分飲んでおきなさい」と指示したが,翌日「その必要がないと思って飲まなかったが,あれっきり痛まなかった」ということである。以上わずか2例であったが, 非常に速やかによくなった。
 この2例に共通な点は,1)ともに虚状を帯び,訴え方,局所症状,望診上すべて静的であり,陰証である。しかも人参を使用するほどには虚していない。2)大塚先生の例もそうであるが,2例とも歯科診療を受けたあとの痛みである。そこで常日ごろ陰虚証の傾向の人が,一定の刺激を牙歯,歯齦部に受けて,局所に炎症(虚火)を生じた状態を治するに神効があると考えてよいと思われる。
 これより類推するに,このような体質傾向の人に対しては,歯だけでなく眼や鼻,耳などに起因する痛みの中のあるものや,それから反射的に起こり得る三叉神経第2枝の前頭部痛,頸項筋痛や,凝りにも応用できるのではないかと考えている。諸家のご追試とご批判をいただければ幸いである。小生が使用した立効散は,前述書より,山査子(サンザシ),青皮(ショウヒ),小茴香(ショウウイキョウ),枳実(きじつ),香附子各3.0,呉茱萸,梔子,川棟子(センレンシ)各2.0である。最後に立効散および本方投与のヒントを,著書を以て教授された大塚先生に感謝し移す。
 さらに次のような追記がされています。「立効散による歯痛治験を読んで 追記す(矢数記)。伊藤良博士の立効散による歯痛治験は,素晴らしく正に劇的で,これが9味よりなる後世方であることは,後世方の妙効また私議すべからずという言葉が生まれてくるほどであります。私はいまだこの方の経験がなかったので,大塚先生の著書を出して読み返してみたのですが,その処方のところを見ると,初版の時に記録したこの処方は誤りで,あとで正誤表で訂正され,再版では伊藤博士の用いたものでなく,『衆方規矩』に記録されているわずか5味の,細辛,升麻,防風各2.0,甘草1.5,竜胆1.0のものとなっています。そこで大塚先生にこの点についてお聞きしてみましたら,初版の時の立効散,すなわち本例で用いられた処方は,同じ立効散ではあるが『証治準縄(しょうちじゅんじょう)』仙気門の立効散で,「疝,食積によって痛みをなすを治す」というものであるとのことでした。大塚先生の用いられたものは『衆方規矩』の牙歯門にある5味のものだそうです。しかしこの2つの処方は,いずれも抜歯後の疼痛に対して卓効のあったことは興味あることで,追試された方は五味立効散,あるいは九味立効散として,その効果の有無をぜひ報告していただきたいと思います」。


『古典に生きるエキス漢方方剤学』 小山 誠次著 メディカルユーコン刊
p.1139 
立効散

出典 『蘭室秘蔵』


主効 鎮痛、清熱解毒、筋緊張緩解。牙歯の疼痛の薬。

組成 細辛2 甘草1.5 升麻2 防風2 竜胆1

解説
【細辛】…外感病風寒型の悪寒症状に投与する他、多量の鼻汁・水様痰を生じ、咳嗽が止まらないときに温陽して鎮咳し、分泌を止める。また頭痛・関節痛などの鎮痛作用もあり、単独外用で齲歯や口内炎に対して局所麻酔作用を発揮する。『薬性提要』には、「風邪を散らし、水気を行らし、少陰の頭痛を治す」とある。
【升麻】…麻疹などの初期で、未だ発疹が出切らない内に処方して発疹を透発させる他、風熱による疼痛他の諸症状に対して発散的に清熱解毒する。特に顔面、口腔~咽喉部の症状によく応じる。『薬性提要』には、風邪を表散し、火鬱を升発し、毒を解す」とある。
【防風】…緩和な袪風薬で、また袪湿作用もある。寒熱何れの外感病にも適し、片頭痛にも蕁麻疹や湿疹・皮膚炎群などの止痒にも用いる他、筋緊張性状態に対して鎮痙作用も発揮する。
【竜胆】…代表的な清熱薬で、古来、厥陰肝経の実熱によく処方され、強い消炎解毒作用がある。また少量を用いu苦味健胃薬ともなる。一方、小児の熱性痙攣に対しては凝痙作用を発揮する。『薬性提要』には、「肝胆の火を瀉し、下焦の湿熱を除く」とある。
【甘草】…諸薬の調和と薬性の緩和の目的で一般的に処方されるが、本方では細辛・升麻・竜胆の味を甘草の甘味で調和しつつ、またそれらの胃に対する刺激性を緩和する効果も期待される。
 本方は直接的には細辛の口腔内粘膜に対する局所麻酔作用によって疼痛を緩解させる。また多くはこのような場合炎症を伴い、酷くなれば顔面、頸~肩部にまで炎症が及び、腫脹を来たすことがある。そのため、升麻・竜胆で清熱解毒に働き、また疼痛から来る筋緊張を防風・竜胆によって緩解する。 
 総じて、主として口腔内の疼痛性疾患に対し、鎮痛すると共に疼痛の原因を清熱解毒する。

適応
 ❶本方の方名は立ち所に効くとの意であり、方名そのものは一般的に効用を表示したものであるため、以前よりよく用いられ、同名異方も頗る多い。
 ❷本方の出典は、『蘭室秘蔵』巻之三・口歯咽喉門に、「立効散 牙歯痛みて忍ぶべからずして頭脳・項背に及び、微し寒飲を悪み、大いに熱飲を悪むを治す。其の脉、上中下の三部、陽虚して陰盛んなり。是れ五臓、内に盛んにして六腑、陽道の脉微小にて小便滑数なり」とあって、細辛二分・炙甘草三分・升麻七分・防風一銭・草竜胆四分を㕮咀して煎じ、「……匙を以って抄(すく)いて口中に在(お)いて痛む処を燥して少時を待てば則ち止む」とあり、これは今日でも本方を服用するときの注意事項としてよく周知されている。
 条文の最後の小便滑数は、牙歯痛による顔面の炎症性腫脹はあっても、腎機能は問題ないということを意味しているのであろう。
 ❸一方、加産法として、「○如し多く熱飲を悪まば、更に草竜胆一銭を加う。此の法定まらず。寒熱の多少に随いて時に臨みて加減す。及び「○若し更に悪風して痛みを作さば、草豆蔲・黄連已上各五分を加う。草竜胆を加うること勿れ」ともある。
 ❹『東俗試効方』巻第六・牙歯門には、「立効散、牙歯疼みて任うべからず、痛み、頭脳・項背に及び、微しく寒飲を悪み、大いに熱飲を悪み、其の脉、上中下の三部、陽虚して陰盛んなり。是れ五臓、内に盛んにして六腑、陽道の脉微小にて小便滑数なり」とあって、防風・升麻・炙甘草・細辛葉・草竜胆を㕮咀して煎じ、後は『蘭室秘蔵』と同様である。
 ❺『医学正伝』巻之五・歯病四十五には、立効散が原典条文と略同で記載され、同一薬味及び加減法を踏襲している。僅かに原典条文の陽虚陰盛が、ここでは陰盛陽虚と倒置している位である。
 ❻『扶寿精方』牙歯門には、「立効散 一切の牙疼、連なりて頭脳・項背に及び、皆任えざるを治す」とあって、原典の五味と加減法が記載された後、「凡て痛むには、或いは温嗽して吐き去り、或いは噙(ふく)みて少頃に嚥下す。二次には即ち愈ゆ」とあり、「天台の蔡霞先生伝」と記されるが、委細不明である。
 ❼『仁斎直指附刺方論』巻二十一・歯・歯病証治・附諸方にも本方は収載され、条文は「立効散 牙歯疼き忍びべからず、痛み、頭脳・項背に及び、微しく寒飲を悪み、大いに熱飲を悪むを治す」とある。此方の条文の方が理解し易い。尚、加減法は『蘭室秘蔵』と同じ内容で記載されている。
 ❽さて、『蘭室秘蔵』の羅天益の序は至元十三年(1276)であり、『仁斎直指附遺方論』の原序は景定五年(1264)であるが、前者の序年は李東垣没後25年も経過している。また、本方は『蘭室秘蔵』と同時代の『仁斎直指附遺方論』に収載されていても、朱崇正が『蘭室秘蔵』を参照して引用したことが明白である。
 ❾また、『蘭室秘蔵』巻之三・口歯咽喉門・口歯論には、牙歯の疼痛には熱飲でのみ発現するもの、寒飲でのみ、寒熱何れでも、熱に多く寒に少なく、あるいは逆に寒に多く熱に少ないもの……等々、多くの痛み方があり、「痛み既に一ならず、豈に一薬にして之を尽くすべけんや」とあって、一薬として本方が収載されているに過ぎない。従って、牙歯痛=本方ではない。
 ❿『外台秘要方』第二十二巻耳鼻牙歯唇口舌咽喉病・牙歯疼痛虫倶療方には、「広済、牙歯疼痛を療し、風虫倶に差ゆる方」とあって、独活・防風・芎藭・細辛・当帰・沉香・雞舌香・零陵香・黄芩・升麻・甘草を局所療法とする処方が収載される。防風・細辛・升麻・甘草の四味を含む牙歯の処方は、『太平聖恵方』にも、また『聖済総録』には多数の処方が収載されている。更には『太平恵民和剤局方』にも同様に収載されている。
 ⑪例えば、『太平聖恵方』巻第三十四・治歯風疼痛諸方に、「歯風にて疼痛するを治するに極めて効ある方」として、川升麻・防風・細辛・芎藭・当帰・白芷・地骨皮・独活・木香・甘草を散と為して、煎じて熱い内に口に含み、冷たくなれば吐き捨てる用法や、『聖済総録』巻第一百二十口歯門・風疳には、「風疳にて痒痛し、齗に侵蝕して爛るるを治する升麻細辛散方」とあって、升麻・細辛・藁本・防風・芎藭・凝水石・甘草を散とする局所療法がある。『和済局方』巻之七・咽喉・口歯には、「玉池散 風蛀にて牙疼・腫痒・動揺し、牙齦潰爛し、宣露した出血・口気等の疾を治す」とあって、当帰・甘草・川芎・防風・白芷・槐花・藁本・地骨皮・細辛・升麻を末と為し、牙に揩るか煎じて口を漱ぎ、冷えれば吐き出す。
 一方、竜胆を配合した処方は見掛けない。 僅かに先の❿の『外台秘要方』同巻・口瘡方に、「広済、口瘡を療する煎方」とあって、竜胆・黄連・升麻・槐白皮・大青・苦竹葉・白蜜と外用療法が指示される位である。更に、これらの書には、細辛か蜀椒を配した処方が多いのが特徴と言えよう。言うまでもなく、局所麻酔効果を意図したものである。
 ⑫『備急千金要方』巻第六下七竅病下・歯病第六には、「歯齗の間より津液・血出でて止まざるを治する方」の又方として、細辛・甘草二味を醋煎して口に含む療法が記載される。従って、立効散に於いても口に含む療法は有用なのである。
 ⑬竜胆については、『外台秘要方』巻第二十五・卒下血方に、「集験、卒かに下血して止まざるを療する方」との条文の許に、草竜胆一握を煎服する用法が記載されている。元々は『集験方』に記載されていたものであろう。
 ⑭『口歯類要』歯痛三には、「歯は腎の標、口は脾の竅。諸経、多く口に会する者有るは歯牙是れ也。徐用誠先生云う、歯、寒熱を悪む等の症は、手足の陽明経に本づく。其の動揺・脱落するは足の少陰経に本づく。其の虫疳・齦腫・出血・痛穢は皆湿熱・胃火・或いは諸経錯雑の邪と外因と与に患を為す」とあって、治法としては能く清胃散(黄連・生地黄・升麻・牡丹皮・当帰)が指示されている。尚・最初の文は『蘭室秘蔵』からの引載である。
 また、清胃散は『蘭室秘蔵』の立効散記載の二方後に登載されていて、薬味は同一である。
 ⑮尚、『蘭室秘蔵』巻之四・婦人門には、本方の同名異方も収載されている。「立効散 婦人血崩止まざるを治す」とあって、当帰・蓮花心・白綿子・紅花・茅花が指示され、「白紙に裹み定め、泥にて固め、炭火にて灰を焼きて性を存す」方法にて調理するとある。この処方も恐らく立ち所に奏効したのであろう。尚、この調理方法を焼灰存性という。
 ⑯実は『蘭室秘蔵』巻之二・眼耳鼻門には、「広大重明湯 両目の臉(まぶた)赤く爛れ、熱腫・疼痛して并びに 稍赤く、及び眼臉痒痛し、之を抓けば破るるに至り、眼弦に瘡を生じ、目に眵涙(シルイ)多く、隠渋して開き難きを治す」とあって、竜胆草・防風・生甘草・細辛が指示される。言うまでもなく、この処方は立効散去升麻である。
 また、方後には、「煎じて少半椀に至り、濾して柤を去る。清(す)んで熱を帯ぶるを用いて洗い、重湯を以って坐(お)いて熱せしむ。日に用ゆること五~七次。但し、洗い畢わり眼を合する一時に、努肉泛長及び痒みを去るに亦験あり」とあって、対炎症性の眼科用薬として洗眼しうることを記載している。
 ⑰『衆方規矩』巻之下・牙歯門には、「立効散 牙歯痛んで忍びがたく、微し寒飲を悪み、大いに熱飲を悪み、脉三部、陰盛んに陽虚す。是れ五臓、内に盛んに六腑陽道の脉微小にして小便滑数なるを治す」とあって、本方が指示される。更に原典の加減法も記載され、最後に「按ずるに此の方、東垣が方にして牙歯疼痛を治するの神なるものなり」とも記されている。歳、『衆方規矩』では新附として後世追加された処方である故、『啓迪集』巻之五・牙歯門には立効散、更には抑々竜胆も記載されていない。
 ⑯伊藤良先生は『漢方の臨牀』第15巻第11・12合併号・主要疾患難症個室漢方治療特集で、立効散による歯痛の治験を発表されているが、先生処方の立効散は山査子・青皮・小茴香・枳実・朮・香附子・呉茱萸・梔子・川楝子の九味立効散である。
 これについて、矢数道明先生は同誌上で、「立効散による歯痛治験を読んで追記」と題し、「伊藤良博士の『立効散による歯痛治験』は、すばらしく、まさに劇的で、これが九味より成る後世方であることは、『後世方の妙効、また思議すべからず」という言語が生まれてくるほどである。私はまだこの方の経験がなかったので、大塚先生の著書(『症候による漢方治療の実際』)を出して読み返してみたのであるが、その処方のところをみると、初版のとき記録したこの処方は誤りで、あとで正誤表で訂正され、再版では伊藤先生の用いたものではなく、衆方規矩に記載されている僅か五味(細辛・升麻・防風各2.0・甘草1.5・竜胆1.0)のものとなっている。そこで大塚先生にこの点についてお聞きしてみたら、初版のときの立効散即ち本稿で用いられた処方は、同じ立効散ではあるが、証治準縄疝気門の立効散で『治疝因食積作痛』というものであるとのことであった。大塚先生の用いらてたものは衆方規矩の牙歯門にある五味のものだそうである。しかしこの二つの処方がいずれも抜歯後の疼痛に対して卓効のあったことは興味あることで、追試された方は五味立効散或いは九味立効散としてその効果の有無をぜひご報告して頂きたい」と評価されている。
 ⑲尚、九味の立効散は直接には『古今方彙』疝気に、「立効散、疝、食積に因り痛みを作すを治す。山楂・青皮・茴香・枳実・蒼朮・香附・茱萸・梔子・川楝子、姜水煎服す」と収載されることより引用されたものである。更には、『証治準縄』巻三十二・類方・大小腑門・疝に、「立効散 疝、食積に因り痛みを作すを治す」とあって、山査・青皮・小茴香・枳実・蒼朮・香附・呉茱萸・山梔・川楝肉と指示されて姜水煎服するべく登載されていることに拠る。従って、九味の立効散は元々は牙歯痛そのものの処方ではない。 
 ⑳伊藤先生はまた、『漢方の臨床』第16巻第3号・同名異方で、前回報告患者の再度の歯痛と肩こりに対して、”九味”立効散を投与して速効したが、約1ヶ月後にまたも同様症状で受診したので、今度は”五味”立効散を投与したところ無効で、”九味”立効散にて同様に速効したとのことであった。そこで、先生は「……思いあたったのは、……禹蝕歯(虫蝕歯)の痛みではなく、抜歯後の痛みか、歯そのものではなく歯齦の腫脹を主徴とする歯齦炎の病像を呈したものばかりであった」とあり、両処方の適応の差を論じられている。
 ㉑岡野勝憲先生は『漢方の臨床』第19巻第9号・歯痛と立効散で、「立効散に興味を持ったのは神戸の伊藤先生の記事からである。その後機会を求ては使用して見た。……本人は十才だが、今日(日曜日)の夕方から歯が痛くなったというが、相憎く日曜日のため歯科が診療してくれないということである。口を見ると左の小臼歯に大きい穴がある。本人はよほど痛むらしく大粒の涙をこぼしている。仕方がないので鎮痛剤のサリドンを0.7瓦くらい服用させたが止まらない。……ふと立効散を使って見ようと思いついた。五味の方は苦味があるので、九味の方を成人一日量だけ急いで煎じた。出来上がったが、私が与えては暗示があったといわれてもと、妻の手から服用させてみた。一口を暫く口に含ませて置いて呑み下させた。五分もすると本人が帰ると云い出した。見ると涙もなくにくにことしている。残りの薬は念の為持ち帰らせた。こんなに著効のあったのは初めてであるし、又これで終わりかも知れない。其の後に私の妻が金属冠のある歯が痛んで浮いた様になった時は、九味の方を服用させたが効果がなく、五味の方を服用させて鎮痛させた事がある。……小生は都合で青皮は除いて枳実を増量して用いた」との報告で、結局のところ五味の立効散と九味の立効散の適応の差は目下不明とのことである。
 ㉒山本巌先生は『東医雑録』(1)・口腔疾患の漢方 その1で、立効散の方意について「立効散は、牙歯に炎症があり、寒飲、熱飲による痛みを治す方剤である。鎮痛に局所作用のある細辛を用い、痛むところにしばらく含んでいることが大切である。炎症を抑えるため竜胆を主薬として用いている。竜胆は寒性が強く、消炎作用が強力である。なお熱飲を多く悪む者は炎症が強いためで、竜胆の分量を多くするのである。分量の加減は、そのときの炎症の強さで加減すべきである。升麻は竜胆を助け、消炎の力を強くし、化膿を抑える。防風には鎮痛解熱作用があり、頭痛、発熱、放散痛に用いられる。大体以上のような意味で組まれた方剤である」と述べられている。
 ㉓著者はアフタ性口内炎などの口腔粘膜表面の痛みに対しては、本方よりも細辛末をそのまま口に含ませる。キシロカインゼリーを含ませるよりよく奏効する。但し、これは標治療法である。



※蛀:シュ(漢音), ス(呉音)
《意味》 
1.{名詞}樹木を食う虫。きくいむし。 
2.「歯(シュシ)」とは、むしば。

揩:ぬぐう

※稍:やや
きれいにふきとる。表面をきちんとならす。

※裹:つつむ 



副作用
(1) 副作用の概要
本剤は使用成績調査等の副作用発現頻度が明確となる調査を実施していないため、
発現頻 度は不明である。

1) 重大な副作用と初期症状
(1) 偽アルドステロン症: 低カリウム血症、血圧上昇、ナトリウム・体液の貯留、浮腫、 体重増加等の偽アルドステロン症があらわれることがあるので、観察(血清カリウム 値の測定等)を十分に行い、異常が認められた場合には投与を中止し、カリウム剤の 投与等の適切な処置を行う。 

(2) ミオパチー: 低カリウム血症の結果としてミオパチーがあらわれることがあるので、 観察を十分に行い、脱力感、四肢痙攣・麻痺等の異常が認められた場合には投与を中 止し、カリウム剤の投与等の適切な処置を行う。


 [理由]
 厚生省薬務局長より通知された昭和53年2月13日付薬発第158号「グリチルリチン酸等を含有する医薬品の取り扱いについて」に基づく。

[処置方法] 
原則的には投与中止により改善するが、血清カリウム値のほか血中アルドステロン・レニ ン活性等の検査を行い、偽アルドステロン症と判定された場合は、症状の種類や程度によ り適切な治療を行う。
低カリウム血症に対しては、カリウム剤の補給等により電解質バランスの適正化を行う。
2) その他の副作用 
特になし 



2015年1月20日火曜日

桔梗石膏(ききょうせっこう) の 効能・効果 と 副作用

『健康保険が使える 漢方薬 処方と使い方』
木下繁太朗 新星出版社刊


桔梗石膏(ききょうせっこう)
金匱要略(きんきようりやく)
 コ

どんな人につかうか
  本剤は単独で使うことは少なく、咳(せき)や化膿を伴う場合に、他の漢方薬に配合して用います。解熱、消炎作用の他、鎮咳(ちんがい)、袪痰(きよたん)、排膿作用があります。

目標となる症状
 ①熱症状がある。②化膿の傾向がある(炎症)。③欬嗽(がいそう)、咽(のど)が痛む。

   一定せず。


どんな病気に効くか(適応症) 
 欬嗽あるいは化膿するもの。喀痰(かくたん)、咽喉痛、嗄声(かせい)、気管支炎、化膿症。

この薬の処方
 桔梗(ききょう)(キキョウの根)4.0g。石膏(せつこう)(天然の含水硫酸カルシウム)10.0g。

この薬の使い方 
前記処方を一日分として煎じてのむ。
コタロー桔梗石膏(ききようせつこう)エキス細粒(さいりゆう)、成人一日6.0gを2~3回に分け、食他の漢方薬に配合して用いることが多い。

使い方のポイント 
 解熱、消炎、鎮痛、排膿、袪痰(きよたん)の目的で扁桃、咽頭、気道その他の炎症性疾患に対する補助剤として、他の漢方薬に配合して用います。
 色々な配合の一例をあげると、
葛根湯加桔梗石膏(かつこんとうかききょうせつこう)葛根湯かつこんとう)(48頁)の効くような感冒で、咽頭の痛みがある場合、扁桃炎(へんとうえん)、結膜炎、蓄膿症(副鼻腔炎)、乳腺炎、湿疹で炎症が強く、化膿傾向の強い場合。
小柴胡湯加桔梗石膏しようさいことうかききようせつこう)(127頁)のどがはれて痛む場合、扁桃炎、扁桃周囲炎(へんとうしゆういえん)。
麦門冬湯加桔梗石膏(ばくもんどうとうかききようせつこう)麦門冬湯(ばくもんどうとう)(179頁)が使える気管支炎などで、痰がねばって激しく咳(せき)こんだり、のどが痛んだりする場合。
十味敗毒湯加桔梗石膏(じゆうみはいどくとうかききようせつこう)十味敗毒湯じゆうみはいどくとう)(120頁)が効く湿疹や、にきびなどで熱をもち化膿してきたようなもの。
抗生物質に併用しても良い。

処方の解説
 桔梗(ききよう)には消炎、鎮咳(ちんがい)、咽痛(いんつう)に効き袪痰(きよたん)、排膿作用があり、石膏(せつこう)は桃炎、解熱、鎮痛作用があり、発熱、口渇(こうかつ)、煩躁(はんそう)を改善します。



誌上漢方講座 症状と治療
 生薬の配剤から見た漢方処方解説(3) 村上光太郎
 4.桔梗について
  桔梗を民間薬として使用する場合は排膿、鎮痛、袪痰、解熱、強壮剤として咽喉痛、扁桃炎、気管支炎、肋膜炎、化膿症等に広く用いられている。しかし漢方で は桔梗の薬効が他の生薬と組み合わせて用いることによって変化することを重視している。すなわち、桔梗の作用は患部に膿や分泌物が多いものを治すが、この 桔梗を芍薬と共に用いれば患部が赤く腫れ、疼痛のあるものを治すようになる。
これを間違えて、桔梗を発赤、腫脹、疼痛のある人に用いたり、桔梗と芍薬を合わせて膿や分泌物の多い人に用いたりすれば、治すどころかかえって悪化する。
そ れでは患部に膿がたまって分泌物が出ている所もあるし、発赤、腫脹、疼痛のある部分もあって、どちらを使ったらよいかわからないような時にはどうしたらよ いであろうか。このような時には桔梗に芍薬と薏苡仁を組み合わせて用いるか、桔梗に荊芥、連翹(荊芥あるいは連翹だけでもよい)を組み合わせて用いるよう にすればよいのである。
 これを実際の薬方にあてて見ると更に明瞭となる。すなわち排膿湯(桔梗、甘草、生姜、大棗)では桔梗に芍薬が組み合わされていないため、患部は緊張がなく、膿や分泌物が多く出ている場合に用いる薬方である。しかし排膿散(桔 梗、芍薬、枳実、卵黄)では桔梗は芍薬と組み合わされているため、患部は赤く腫れ、疼痛のある場合に用いるようにかっている。ところで、この薬方に組み込 まれている枳実のように、気うつを治す生薬(例、厚朴、蘇葉)を加えれば他の生薬の薬効を強くする作用がある。従って本方では桔梗と芍薬の組み合わせによ る腫脹、疼痛を治す作用は更に強くなっている。
 葛根湯の加減方は多くあるが、その中で桔梗の入った加減方を見ると、炎症によって患部に熱 感のあるものに用いる葛根湯加桔梗石膏という薬方がある。この基本の薬方である葛根湯をわすれ、桔梗と石膏のみを見つめ、桔梗は温であるが、石膏は寒であ るから逆の作用となり、組み合わせるのはおかしいと考えてはならない。なるほど桔梗と石膏は相反する作用をもったものであっても、桔梗と葛根湯の中に含ま れている芍薬とを組み合わせたものと、石膏とは同じ作用となり、相加作用を目的に用いられている薬方であることがわかる。従って同じ加減方は桂枝湯にも適用され、桂枝湯加桔梗石膏として用いられるが、同じ表証に用いる薬方でも、麻黄湯に適用しようと思えば、麻黄湯加桔梗石膏ではなく、麻黄湯加芍薬桔梗石膏 として考えなければならないことは今更言うに及ばないことであろう。
また患部に化膿があり膿汁も多く、また発赤、腫脹もある人に葛根湯を用いる場合は葛根湯加桔梗薏苡仁として与えなければならないことも理解できよう。桔梗と荊芥(連翹)の組み合わせの例には十味敗毒湯(柴胡、桜皮、桔梗、生姜、川芎、茯苓、独活、防風、甘草、荊芥)がある。本方は発赤、腫脹もあるが化膿もあり、分泌物が出ている人に用いる薬方である。

※村上光太郎先生は、排膿散及湯の効能は、基本的には、排濃散の効果、すなわち、桔梗と芍薬の組み合わせの効能になるとおっしゃっています。
『漢方薬の実際知識』の初版(昭和47年12月25日)には、排膿散及湯が記載されていましたが、増補版(昭和56年8月25日)からは、排膿散及湯は削除されました。
同様に、小柴胡湯に桔梗と石膏を加えた小柴胡湯加桔梗石膏についても、小柴胡湯(柴胡、半夏、生姜、黄芩、大棗、人参、甘草)には芍薬が含まれていないので、組み合わせとしてはおかしいとのことです。


『古典に生きるエキス漢方方剤学』 小山 誠次著 メディカルユーコン刊
p.145
桔梗石膏

出典 『一本堂医事説約』


主効 清熱消炎、気道。気道炎症を清熱消炎する薬。

組成 桔梗3 石膏10

解説
 桔梗湯(140頁)の生甘草を石膏に代えて消炎効果を強めた処方である。
 【桔梗】…咽喉頭痛や膿性喀痰を呈する気道炎症に対して、鎮咳・袪痰・排膿・鎮痛すると共に消炎的に作用する。
 【石膏】…代表的な清熱瀉火薬で、感染などの発熱性炎症に対して消炎解熱すると共に、口渇・煩躁・譫語などの実熱証症状に対して、口渇を癒し、除煩して鎮静する。『薬性提要』には、「熱を清して火を降し、津を生じて渇を止む」とある。
 総じて、気道炎症そのものを消炎、解熱、鎮痛、鎮咳、袪痰、止渇、除煩する薬であ音¥

適応
 桔梗湯の適応症よりも強い炎症状態。

論考
 ❶甘草湯(127頁)、桔梗湯、桔梗石膏は相互に適応症が類似するか、あるいは炎症程度の異なる状態かの何れかであることが多い面もある。それ故、炎症程度の強弱と薬効の弱強とを比べると、
 甘草湯桔梗湯⇒桔梗石膏の順で、弱⇒強となる。
 ❷本方の出典を考察するとき、『傷寒論』及び『金匱要略』の桔梗湯は欠かすことができないが、両書には桔梗と石膏を同時に配合した処方は掲載されていない。
 ❸一方、『肘後百一方』巻之二・治時気病起諸復労方第十四には、「大病差えて後、虚汗多く、及び復中汁を流す方」として、甘草・石膏が指示されている。
 また、龐安時撰『傷寒総病論』巻五・傷寒異気に感じて温病、壊候并びに瘧と成る証には、「湿温にて汗多く、妄言・煩渇するには石膏甘草散」とあって、石膏・甘草の二味が指示されている。
 更には、『黄帝素問宣明論方』巻之九・痰飲門にも、「石膏散 熱嗽、喘甚だしき者を治す」とあって、石膏・甘草(炙)の二味が指示されているので、ここで甘草の代りに桔梗が配合され、一層気道炎症用に改変されたと考えてもいい。
 ❹尚、『医学入門』巻之二・治熱門・桔梗には、「……石膏・葱白と同じく用ゆれば、能く気を至陰の下に升らす。……」とあり、『本草綱目』第十二巻上・草之一山草類上・桔梗には、「之才曰く、……硝石・石膏を得て傷寒を療す。……」ともある。即ち、『雷公薬対』に於いて既に桔梗・消石・石膏の処方があったことを示している。
 しかし乍ら、これらの桔梗と石膏とを含む加味薬が今日の桔梗石膏に直結するとは考え難い。
 ❺陳復正輯訂『幼幼集成』巻之六・万氏痘麻・麻疹・麻疹・麻疹証治歌には、「甘桔湯 麻疹にて胃火、肺金を炎やし、欬嗽、面に浮き出て応に出でんとして出でざるを治す」とあって、生甘草・芽桔梗・熟石膏・浄知母・牛蒡子を生薄荷葉にて引と為し、煎服する用法も記載されている。この処方も同様に今日の桔梗石膏に直結するとは考え難い。
 ❻さて、香川修庵著『一本堂医事説約』小児科・口瘡重舌に、「小児夜啼き、乳を飲まんと欲す。若し口唇、乳上に到れば即ち啼きて而して乳せざる者は、急に灯を取りて口を照せ。若し瘡無くば舌上必ず腫るる也。重舌は舌下腫突し、其の状、又一舌を加うるが如し。故に之を重舌と謂う。真に両舌あるに非ざる也」とあって、「一方 石膏・桔梗・甘草」の処方が記載されている。
 即ち元々は一つの処方として、敢えて命名すれば石膏桔梗湯とでも称すべき処方として用いられたのが最初である。尚、重舌は蝦蟇腫(ガマシュ)のことである。
 ❼『一本堂薬選』上編・桔梗には、「 試効 咽喉腫痛、脇胸痛、胸膈滞気、赤目腫痛、口舌瘡を生じて喉痺するを療し、膿を排す。…… 弁正 張元素が曰く、桔梗は舟楫の剤為り。諸薬、此の一味有れば下り沈むこと能わざる也。此の言、一たび出で、後の医流、専信遵用し、奉じて奇説と為し、動もすれば輒ち口に藉(か)る。桔梗は専ら眼目・咽喉・胸膈間の疾を主るときは理無きに非ずと雖も、亦過論に非ずと謂うべからざる也。学者、宜しく従違する所を知りて可とすべき也」とある。
 また同編・石膏には、「 試効 傷風寒・時疫・時疫の大熱、口乾・大渇して飲を引き、舌に黄白胎有り、皮膚熱して火燥するが如く、夏時の熱病・熱瘧・潮熱・狂証・胃熱・口層・牙疼・咽痛・上気・目痛・耳鳴・頭疼を療す。…… 弁正 石膏、元より硬軟の二種有り。……○石膏、汗を発するの説、蓋し名医別録に於いて、解肌発汗の語有りて、傷寒論に大青竜、越婢の諸相承りて然るのみ。石膏の一品、果たして能く汗を発するや否乎。未だ親しく試効せず。姑く後日を俟つ。」とあるが、『一本堂薬選』には桔梗と石膏を併用する意義は特に追求されていない。
 ❽しかし乍ら、石膏桔梗湯の応用を展開したのは和田東郭であった。『蕉窓方意解』巻之下・駆風解毒湯には、「……按ずるに此の方、原(もと)痄腮(ササイ)腫痛を治するが為に設く。余、本方に於いて石膏大・桔梗中を加え、纏候風(テンコウフウ)熱気甚だしく咽喉腫痛、水薬涓滴も下らず、言語すること能わず、死に垂(なんな)んとするものを治す。甚だ妙。……」とあって、ここでの記載によれば和田東郭は自らの工夫によって駆風解毒湯合石膏桔梗湯にてそれまでにない効果を認めたのである。
 尚、駆風解毒湯は『万病回春』巻之五・咽喉に、「痄腮は腫痛風熱也」とあって、「駆風解毒散 痄腮腫痛を治す」との条文の許で、防風・荊芥・羗活・連翹・牛蒡子・甘草と指示される。
 それ故、本来は駆風解毒湯に桔梗石膏を加味したのではなく、石膏桔梗湯を合方したのであるが、駆風解毒湯には既に甘草が配合されているので、結果的に桔梗石膏を加味した形となった。しかも、加味薬の順としては今日の如く桔梗石膏ではなく、石膏大・桔梗中なので、石膏桔梗であった。 
 従って、今日葛根湯(89頁)や小柴胡湯(558頁)に桔梗石膏を加味する用法も、本来は石膏桔梗湯との合方なのであるが、合方法則により甘草が敢えて指示されないだけである。
 ❾『療治経験筆記』巻之七・香川先生解毒剤には、「唯、癬瘡には石膏桔梗を加う」とあるが、その記載の六行後には、「喉糜爛 土茯苓・桔梗・川芎・大黄・石膏・通草・甘草 煎服」とあって、この処方は大解毒剤去忍冬加桔梗石膏である。即ち、ここでも喉の病変に桔梗石膏を加味する用法が記述されていることになる。
 ❿『叢桂亭医事小言』巻之四下・鼻口喉には、「纏喉風は喉痺に似て異なり。纏喉風は四面共に腫れの名なり。尚足飲を冷服すべし。桔梗を加うることもあり。又、駆風解毒湯に石膏桔梗を加え冷服す」とある。これは東郭の言を引用したものであろう。
 ⑪『瘍科方筌』乳疾には、『葛根湯加桔石 乳腫痛を治す。本方中、石膏桔梗を加う」とあるが、ここでは二味の順としては、桔梗石膏とも石膏桔梗とも記載されている。
 ⑫さて、今までは桔梗石膏が元々『一本堂医事説約』に於いて、石膏桔梗湯とでも称するべき処方であったこと、東郭が他剤と合方処方した嚆矢であるが、甘草は合方法則により敢えて記載されていないこと、当初は石膏桔梗の順で記載されたが、後世になって桔梗石膏の順が一般的となったこと等々を論考して来た。
 しかし、合方する方剤に甘草が配合されていないのに、石膏桔梗として加味される例も出現するようになった。
 即ち、『古方括要』巻之下・外科・囊癰には、先ず囊癰の説明として、「夫れ陰囊は兌肺の主宰なり。故に陰冷ゆるを以って常とす。然るに其の人、肺熱が陰曩に移るときは、其の霊液を薫蒸して而して痛み、且改膿をなす者、察せざるべからざる也」とあって後、「当帰芍薬散加石膏桔梗 囊腫れ、疼痛し、軽症にして小便赤渋する者に宜し」とある。このような例に当帰芍薬散(867頁)を配当するのは、流石に古矢知白であると言えよう。尚、兌は易の八卦の一つであり、秋や西方の意である。
 ⑬『類聚方広義』(上)・葛根湯には、 「○咽喉腫痛し、時毒にて痄腮、疫眼に焮熱腫痛し、項背強急して発熱悪寒し、脉浮数なる者を治するには、桔梗・大黄・石膏を択び加う。或いは応鐘散、再造散、瀉心湯黄連解毒湯等を兼用す」とあって、大黄を挟んではいるものの桔梗石膏の順である。
 ⑭『勿誤薬室方函口訣』巻之上・駆風解毒湯には、「此の方、原(もと)時毒の痄腮腫痛を治す。然れども此の症、大抵は葛根湯加桔石にて宜し。若し硬腫久しく散ぜざる者は、此の方に桔石を加えて用ゆべし。東郭子は纏喉風、熱気甚だしく咽喉腫痛、水薬涓滴も下らず、言語すること能わざる者に此の加味の方を水煎し、冷水に浸し、極冷ならしめ、之を嚥ましめて奇効を得ると云う。余は咽喉腫塞、熱甚だしき者、毎に此の方を極冷にして含ましめ、口中にて温まる程にして嗽せしめて屢々効を奏せり。……」とあって、駆風解毒湯加桔梗石膏は東郭の創意であると表明している。
 ⑮村瀬豆洲著『幼幼家則』我之巻・口舌・ 鵞口瘡・重舌・木舌・走馬牙疳・弄舌・齲歯・咽痹には、「○走馬牙疳は牙(きば)・歯齦爛れ、或いは血を出だし、歯黒く、忽ち腐敗して悉く脱落す。甚だしきに至っては頷(おとがい)に穴を生じ、死に至るものあり。邦俗歯くさと云い、又走馬の如く速やかなるを以って早は頭瘡愈て后、頓に発するもの多し。注意すべし。烏犀角を傅くべし。真珠も亦効あり。服薬は黄連解毒加桔石或いは大黄を用ゆべし」、「○喉痹は風熱なり。麻痹の意にあらず。中蔵経に痹者閉也とあり。焦氏筆乗に喉閉と云い、又緩なるは乳鵞風と云い、纏候風は腫気、喉を纏うて暴症なり。甚しきに至っては一・二日に死す。且つ一家四隣にも伝染す。所謂咽喉の疫なり。初発、項背強ばり、熱勢あらば葛根加桔石を用ゆ。膿あらば駆風解毒湯加桔梗石膏 熱毒、心脾に在るを治す」、「葛根加石膏桔梗湯 仲景 喉痹、纏喉風、風熱に属する者を治す」、「甘桔加石膏湯 仲景 喉痹腫痛を治す」等々と記載される。特に甘桔加石膏湯は原典の『一本堂医事説約』の「一方 石膏・桔梗・甘草」と同一である。
 ⑯また、『皇漢医学』第壹巻・葛根湯に関する先輩の段説治験には、「此の説雑駁なれども、上顎竇蓄膿症に葛根湯を用ゆるは卓見なり。原氏は加辛夷と称するも、余は加桔梗石膏或いは加桔梗薏苡仁を以って優れりとなす」とある。原氏とは原南陽のことである。
 ⑰『漢方診療医典』急性扁桃炎(アンギナ)には、葛根湯小柴胡湯大柴胡湯(717頁)、駆風解毒湯には、何れも桔梗石膏を加味する用法が指示されている。
 ⑱本方は上述したように、独立した処方というよりも加味方として用いられることの方がずっと多い。エキス製剤ではその他に、黄連解毒湯(74頁)、葛根湯加川芎辛夷(97頁)、荊芥連翹湯(185頁)、小青竜湯(576頁)、升麻葛根湯(600)頁、清上防風湯(651頁)、大柴胡湯去大黄(727頁)、治頭瘡一方(761頁)、排膿散及湯(924頁)、麦門冬湯(932頁)、麻杏甘石湯(1064頁)、五虎湯(309頁)などが挙げられる。中でも小柴胡湯加桔梗石膏(570頁)はエキス製剤として薬価収載されている。
⑲以前は薬価未収載であっても、某漢方薬製メーカーが石膏エキス散単味を販売していたので、著者は小柴胡湯加石膏、小青竜湯加石膏、麦門冬湯加石膏を処方したいときに、よく利用していた。しかし、現在では既に販売中止となっているので、本方を加味せざるを得ないか、あるいは煎じ薬で対応することにしている。

※輒ち:すなわち



【副作用】
N 324 コタロー 桔梗石膏 エキス 細粒

(1) 副作用 の概要
本剤は使用成績調査等の副作用発現頻度が明確となる調 査を実施 していないため 、
 発現頻度は不明 である。

1 ) 重大な副作用と初期症状
添付文書に記載 なし。

2 ) その他の副作用
頻度不明 
消化器:食欲不振、胃部不快感、軟便、下痢等


 

 

2015年1月5日月曜日

小柴胡湯加桔梗石膏(しょうさいことうかききょうせっこう) の 効能・効果 と 副作用

明解漢方処方 西岡 一夫著 ナニワ社刊
p.85
小柴胡湯(しょうさいことう) (傷寒論,金匱)

処方内容 柴胡七・〇 半夏五・〇 黄芩 大棗 人参各三・〇 甘草 生姜二・〇(二五・〇)


(中略)
初級メモ
②桔梗三・〇 石膏一〇・〇を加えて炎症性疾患、例えば扁桃腺炎、中耳炎、耳下腺炎、乳房炎、るいれきなどに用いる。



『図説 東洋医学 <湯液編Ⅰ 薬方解説> 』 
山田光胤/橋本竹二郎著 
株式会社 学習研究社刊

小柴胡湯加桔梗石膏(しょうさいことうかききょうせっこう)

  やや虚  
   中間  
  やや実  
   実   

●保 出典 本朝経験

目標 体力中等度以上の人。咽喉、鼻,耳などの亜急性,慢性の炎症性諸疾患。季肋部に苦満感を訴え,肋骨弓下部に抵抗・圧痛(胸脇苦満(きょうきょうくまん))を認める。微熱があることが多い。食欲不振,悪心(おしん),嘔吐(おうと),口中の不快感,舌の白苔などのほか,口渇(こうかつ)を伴うことがある。

応用 咽頭炎,扁桃(へんとう)炎,扁桃周囲炎,喉頭炎,耳下腺炎,顎下腺炎,頸部リンパ節炎,中耳炎,外耳炎,鼻炎,副鼻腔炎。
(その他:感冒,流感,気管支炎,甲状腺炎)

説明 小柴胡湯に桔梗と石膏を加えた処方である。桔梗は,咽喉部の消炎,鎮痛および袪痰(きょたん),鎮咳(ちんがい)の作用があり,石膏は消炎の効がある。

小柴胡湯)柴胡(さいこ)6.0g 生姜(しょうきょう)4.0g 甘草(かんぞう)2.0g 半夏(はんげ)5.0g 黄芩(おうごん)3.0g 人参(にんじん)3.0g 大棗(たいそう)3.0g
石膏(せっこう)10.0g 桔梗(ききょう)3.0g


『健保適用エキス剤による 漢方診療ハンドブック 第3版』
桑木 崇秀 創元社刊
p.237
<註>

小柴胡湯加桔梗石膏(しょうさいことうかききょうせっこう)
 小柴胡湯に袪痰・排膿薬である桔梗と,解熱・消炎薬である石膏を加えたもの。小柴胡湯の適応があ改aて,のどが腫れて痛む場合,ことに熱がある場合に用いる。
 小柴胡湯は熱証用の方剤であるが,それにさらに石膏という強い寒性薬が加わっているから,寒証の者には用いることはできない。


『健康保険が使える 漢方薬 処方と使い方』
木下繁太朗 新星出版社刊


小柴胡湯加桔梗石膏(しょうさいことうかききょうせっこう)
本朝経験方(ほんちょうけいけんほう)
 ツ

どんな人につかうか
 小柴胡湯(しようさいことう)に桔梗(ききよう)、石膏(せつこう)を加味したもので、口が苦(にが)い、季肋部(きろくぶ)に苦満(くまん)がある。食欲不振、悪心(おしん)、嘔吐(おうと)、舌に白い舌苔(ぜつたい)がつくなどの症状があって,咽喉、鼻、耳、気管支などに痰や膿を伴う炎症症状が加わったものに用います。

目標となる症状
 ①口苦(こうく)、食欲不振、悪心(おしん)、嘔吐(おうと)、白苔(はくたい)、往来寒熱(おうらいかんねつ)、胸脇苦満などの小柴胡湯(125頁)の症状がある。②上気道、耳鼻、咽喉、気管などの炎症、皮膚、粘膜の炎症が強く、痰や膿を伴う。

 胸脇苦満。

 弦脈(げんみゃく)、細く沈んだ脈

 舌質紅、白苔。


どんな病気に効くか(適応症) 
 咽喉がはれて痛む次の諸症、扁桃炎扁桃周囲炎。耳下腺炎、中耳炎、頚部(けいぶ)リンパ腺炎、蓄膿症、急性化膿性甲状腺炎、風邪で膿痰のでる場合(耳鼻科、咽喉科、呼吸器の疾患に広く応用できる。


この薬の処方
 柴胡(さいこ)7.0g。半夏(はんげ)5.0g。黄芩(おうごん)、大棗(たいそう)、人参(にんじん)各3.0g。、甘草(かんぞう)2.0g。生姜(しようきよう)1.0g 桔梗(ききよう)3.0g。石膏(せつこう)10.0g。

この薬の使い方 
前記処方を一日分として煎じてのむ。
ツムラ小柴胡湯加桔梗石膏(しようさいことうかききようせつこう)エキス顆粒(かりゆう)、成人一日7.5gを2~3回に分けて食前又は食間にのむ。

使い方のポイント 
実用的には小柴胡湯のエキス剤と、桔梗石膏(ききようせつこう)のエキス剤を既用しても良い。
咽喉頭部の痛み、腫張(しゆちよう)、発赤が強く激しい時には、桔梗湯(57頁)を用いる。


処方の解説
 小柴胡湯しょうさいことう)(125頁)に桔梗石膏(56頁)を加えたもの。桔梗(ききよう)は主に膿が混じた喀痰や化膿性の腫(は)れものを治し、咽喉の痛みを治します。鎮痛、鎮静、解熱、鎮咳、去痰(きょたん)作用があり、血糖をさげ、末梢血管を拡張し、抗潰瘍(こうかいよう)作用がある。石膏(せつこう)は天然の含水硫酸(がんすいりゆうさん)カルシウム(CaSO4・2H2O)で、激しい口渇(こうかつ)、うわごと、全身の熱感で苦しみもだえるものを治し、利尿、止渇(しかつ)作用があります。


和漢薬方意辞典 中村謙介著 緑書房
小柴胡湯加桔梗石膏(しょうさいことうかききょうせっこう) [本朝経験]

【方意】 小柴胡湯証の胸脇の熱証による胸脇苦満・心下痞硬・口苦・口渇等と、咽喉の熱証による咽喉化膿・疼痛等のあるもの。

《少陽病.虚実中間からやや実証》

【自他覚症状の病態分類】

胸脇の熱証 咽喉の熱証




主証 ◎胸脇苦満
◎心下痞鞕

◎口苦 ◎口渇

◎咽喉化膿



客証 ○往来寒熱
 側頚部の緊張・
     疼痛・熱感
 微熱 心煩


 疼痛
 発赤
 腫脹




【脈候】 

【舌候】 乾燥した白苔・微黄苔。

【腹候】 腹力中等度。胸脇苦満および心下痞硬があり、時に腹直筋の緊張がみられる。

【病位・虚実】 小柴胡湯の胸脇の熱証が中心的病態であるため少陽病、脈力および腹力より虚実中間からやや実証である。

【構成生薬】 柴胡8.0 半夏6.0 黄芩3.0 大棗3.0 人参3.0 甘草2.0 生姜1.0 桔梗3.0 石膏10.0

【方解】石膏は寒薬であり熱証を冷まして、止渇紙:解熱・消炎・鎮痛作用を持つ。温性の桔梗は排膿・消炎・鎮痛作用を有し、石膏を助けて化膿傾向を帯びた熱証に対応する。


【方意の幅および応用】
 A 胸脇の熱証咽喉の熱証:胸脇苦満・咽喉化膿等を目標にする。
   咽頭炎、扁桃炎、扁桃周囲炎、耳下腺炎、頚部リンパ腺炎、慢性副鼻腔炎、
   アトピー性皮膚炎、急性上気道炎で膿痰の出るもの

【参考】 *小柴胡湯加石膏湯、脳疽(項部の癰疸)、鬂疽、焮熱赤腫する者を治す。若し大便硬く、焮痛甚だしき者は、大柴胡湯之を主る。
『雑病翼方』
*小柴胡湯加桔梗石膏湯、麻疹発して後、胸脇苦満、嘔吐、煩渇し、飲食進まざるを主とす。
 世医又、石膏を恐れる者あり。顧氏曰く、石膏は辛味、色白く、表に達し、淡にして、竅を利す。煆用(火を通し結晶水を除くこと)すれば即ち純なり。痧症(発疹性の疾患)の要は清涼解毒、用いて以って君と為すと、是なり。
『マシン心得続録』
*頭瘟(頭部の丹毒)、小柴胡加桔梗石膏。
『方読便覧』
*耳聾、小柴胡加桔石、毒を解し、核を散ず。
『方聞便覧』
*聤耳(中耳炎)初起、柴胡加石膏湯。
『方読便覧』
*桔梗湯は局所の炎症のみで全身症状を欠くものに用いる。本方は局所のみならず全身の小柴胡湯証を呈している。


【症例】 急性中赤炎
 4歳、男児、体重14kg、以前にも中耳炎をやったことがあり、その時痛い思いをしたから漢方薬をくれという。3日前からカゼを引き近くの医院で薬をもらっているがあまり良くならず咳込みが甚しい。小児喘息といわれている。今日の昼頃から耳が痛みはじめ、歯ぐきまで痛くなってきた。熱は39.4℃であり、顔色は平素は悪いが今は真紅であり手足も熱い。食欲は少ないが、今日は更に低下している。口臭も強い。
 小柴胡湯エキス(内田)0.5g、桔梗石膏(剤盛堂)0.4gを1回分とし、この日に2回服用したところ、翌朝は熱は37.3℃となり、耳痛や歯痛はなくなり、同方を続服して2日目には平熱となった。
大村光明 『漢方の臨床』 23・5・34

カゼと中耳炎とを繰り返す幼児
 6歳の男児。生来カゼをよく引き、その都度、中耳炎を繰り返す。
 中等度の体格、顔色は良い、汗っかき、便通1日1行、食欲ふつう、嗜好食品(生野菜、果物、肉、魚)。舌は淡白色を呈し、腹部は中等度の硬さを呈している。
 小柴胡湯加桔梗石膏を投与し経過を観察した。約1ヵ月服用し終わったころにはカゼを引かなくなり、以来約1年間服用し続けているが、その間1回も中耳炎を起こしていない。
緒方玄芳 『漢方の臨床』 25・10・15


【類方】頓嗽湯〔新妻方〕
    〔方意〕上焦の熱証による激しい難治な咳嗽のあるもの。  《少陽病.虚実中間》
    〔構成生薬〕柴胡5.0 石膏5.0 桔梗2.5 黄芩2.5 桑白皮2.5 梔子1.0 甘草1.0
    〔方解〕柴胡は胸脇の熱証を去る。桔梗は痰を除き、咳を治す。桑白皮を消炎・利尿・鎮咳作用がある。黄芩・梔子は上焦の熱証を去り、石膏は大寒薬で強力な消炎作用がある。甘草は諸薬を調和し、急迫を治す。以上より本方を上焦の熱証による激しい咳嗽に用いる。
    〔参考〕*胃腸の虚弱な小児の慢性咳嗽に用いる。大人の場合には蘇子降気湯・喘四君子湯を用いることが多い。
    〔応用〕 百日咳、犬吠様の痙攣性咳嗽、慢性気管支炎


『古典に生きるエキス漢方方剤学』 小山 誠次著 メディカルユーコン刊
p.570
小柴胡湯加桔梗石膏

出典 『傷寒論』、『金匱要略』、『一本堂医事説約』、華岡青洲経験方


主効 和解少陽、消炎、気道・上部消化管。
    扁桃・咽喉頭部と上部消化管の清熱剤。

組成 柴胡7 黄芩3 人参3 半夏5 甘草2 生姜1 大棗3 桔梗3 石膏10

    小柴胡湯  柴胡 黄芩 人参 甘草 生姜 大棗
    桔梗石膏  桔梗 石膏


解説
 本方は小柴胡湯(558頁)に桔梗石膏(145頁)を加味したものであるが、小柴胡湯加石膏に桔梗湯(140頁)あるいは排膿湯を合方成たものとも、柴胡桔梗湯に石膏散を合方したものとも、また小柴胡加石膏に柴胡桔梗湯を合方ちたものとも解される。
 しかし乍ら、桔梗石膏の論考❽で述べたように、本方は元々小柴胡湯合石膏桔梗湯とでも称すべき、小柴胡湯に石膏・桔梗・甘草という一方を合方した処方である。
 【小柴胡湯】…少陽病傷寒または中風の代表薬で、消炎・解熱・止嘔・健胃・鎮咳・袪痰・鎮静・肝庇護などの多方面に亘る効能を発揮する薬である。
 【桔梗石膏】…気道炎症そのものを消炎・解熱・鎮痛・鎮咳・袪痰して、止渇・除煩する薬である。
 それ故、本方は小柴胡湯の加味方として少陽病傷寒または中風にあって、気道炎症を消炎解熱し、鎮痛・鎮咳・袪痰して口渇を軽減する薬である。尚、一般感冒薬や抗生剤等によって急性胃粘膜糜爛を来たしたとき、小柴胡湯に石膏を加味することにより、呼吸器系のみならず、消化器系にも消炎効果を齎す。このとき多くは舌が厚~薄白苔を呈している。
 総じて気道炎症が盛んなとき、消炎解熱し、一方で鎮咳・袪痰すると共に炎症による疼痛を軽減し、口渇を鎮めると共に、上部消化管の急性炎症も抑制して食欲を回復する薬である。

適応
 感冒、インフルエンザ、口峡炎、扁桃炎、扁桃周囲炎、耳下腺炎、頸部リンパ節炎、蓄膿症、舌炎、口内炎、歯齦炎、急性胃炎など。

論考
 ❶従来、小柴胡湯加桔梗石膏は本朝経験方であって出典は不詳であるとされて来た。桔梗石膏ですら、『蕉窓方意解』巻之下・駆風解毒湯に、「余、本方に於いて石膏大・桔梗中を加え、纏喉風甚だしく咽喉腫痛、水薬涓滴も下らず、言語すること能わず、死に垂んとするものを治す。甚だ妙。……」の用法や『療治経験筆記』巻之下・香川先生解毒剤に、「唯、癬瘡には桔梗石膏を加う」用法や喉の糜爛に大解毒剤去忍冬加桔梗石膏を処方する用法がある位しか追及されなかった。しかし乍ら、著者は桔梗石膏の出典が『一本堂医事説約』であると既に指摘している。
 ❷本方に関する所では、先ず『衆方規矩』巻之上・傷寒門・小柴胡湯に、「傷寒四・五日して寒熱往来あり。胸みち、脇痛み、心(むね)いきれ、嘔吐、頭いたみ、耳きこえず、大便結するを治す。これ、邪気の半表半裏にあるなり」とあって、加減法には「心の中あき満つるには枳殻・桔梗を加う」とある。
 一方、『重訂古今方彙』傷寒・小柴胡湯には、 「傷寒三・四日、脈息弦急にして数、病、少陽経に伝わる也。其の症、頭疼・発熱・脇痛・耳聾・嘔吐・口苦・寒熱往来、此れ、半表半裏にて和解するに宜し」とあって、加減法として「○心中飽満するには桔梗・枳殻を加う。……○渇するには知母・石膏」とある位である。
 ❸『古方節義』巻之中・小柴胡湯には、小柴胡湯の論考⑲の後段に、「又、傷寒・時疫の類、熱凉(さ)めず、咽渇口燥、汗有り、脉長洪にして数なるもの、必ず石膏を加えて用ゆべし。或いは白虎湯を合して柴白湯と云う。然れども只石膏一味を加えて用ゆれば穏にして用い易し。石膏を用ゆる症は発散しても、解熱の剤を用いても、自若として其の熱凉めず、咽渇き、口燥き、舌黄白胎にして大便難く、其の脉洪実にして数、其の上に汗のある症には的方と思うべし。若し熱甚だしく無汗にして脉細緊にしてドカドカと至って急なる者には用い難し。此の証、初め発散が足らぬか、又は下した地、大いに疲れたる人にあるもの也。能く能く察して誤るべからず。尤も石膏は小剤にしては効なしと云う」と記載され、ここに気道炎症が加われば、正に本方の適応である。
 ❹しかし乍ら、本方の出典という面からみれば、桔梗石膏の出典は『一本堂医事説約』と言明したので、必然的に本方の処方例はそれ以後になるはずである。
 浅田宗伯著『先哲医話』巻上・和田東郭には、和田東郭が咽喉腫塞の者に駆風解毒湯加桔梗石膏を冷服させたという治験記載の後、小字双行にて「抽軒曰く、此の証、小柴胡加桔梗石膏亦奇中す。青洲翁曾て之を用う」とあって、既に前著で指摘した。
 即ち、華岡青洲が初めて小柴胡湯加桔梗石膏を処方したとの言明である。実際、『瘍科方筌』には、小柴胡湯加石膏や葛根湯加桔梗石膏が登載されているので、この記載の信頼性は非常に高く、採用しうると考える。
 ❺『橘窓書影』巻之二には、「余、此の病(麻疹)を療するその始め、鋭意に発散・清熱を主とす。葛根加升麻牛蒡子、或いは葛根湯加桔梗石膏にて治する者、若干人。邪気、表裏の間に散漫し、嘔・渇・煩悶・咽痛にて治する者、若干人。……若し熱毒熾盛・疹色赤黯(せきあん)して徧身熱く脇れ、喘脹気急、欬嗽して嘔・渇し、大小便秘濇する者、大柴胡湯加桔梗石膏にて下すべし。……」とあって、麻疹に於ける小柴胡湯加桔梗石膏の適応時期を示している。尚、本記事は浅田宗伯著『橘黄年譜抄』に既述されている。同書は元々『橘黄年譜』三巻からの抄本である。
 ❻『方彙続貂』感冒 附 傷風 瘟疫 発斑 頭瘟 頭風には、「小柴胡湯加桔石湯 春林軒 時毒頭風を治す。 小柴胡方内に桔梗・石膏を加う」とあり、先の『先哲医話』に云う咽喉腫塞の適応から離れて、疫毒による頭風に適応すると記載されている。
 ❼本方の出典としてではないが、『皇漢医学』第弐巻・小柴胡湯に関する師論註釈の中で本方は触れられていて、「小柴胡湯加桔梗石膏湯方 小柴胡石膏湯、小柴胡加桔梗湯を合方す。煎法用法同前。(主治)小柴胡加石膏湯、小柴胡湯加桔梗湯の二証相合する者を治す」とある。尚、煎法用法同前とは小柴胡湯と煎法及び用法が同じと感うことを意味する。ここでは本方名は小柴胡加桔梗石膏湯として、単に小柴胡湯加桔梗石膏という表現より一つの処方としての独立性の意味合いが強い。但し、本方が小柴胡湯加石膏湯と小柴胡加桔梗湯との合方との見解なので、湯本求真は華岡青洲のこの創意工夫を知らなかったことになる。抑々、求真は桔梗石膏としての加味方や『一本堂医事説約』の「一方 石膏・桔梗・甘草』を知らなかったのであろう。
 ❽石原明先生は『漢方大医典』乳腺炎で、「前方(葛根湯または葛根湯加石膏)で熱が下ったら小柴胡湯に桔梗3・石膏5を加えて用いる。軽いものならこれで治る」と記載される。
 また長浜善夫先生は同書・副鼻腔炎(蓄膿症)で、「中肉の人、やや虚弱者などには、この処方(小柴胡湯)が向く、やはり桔梗3.0・石膏5.0などを加味してもよい」とあり、急性扁桃炎では、「発病後二、三日経って熱がなおり、咽頭痛も続いて、食欲もなく、嘔き気を伴うような場合は、この方(小柴胡湯)に桔梗2.0石膏3.0を加えて用いるとよい」とある。
 一方、同じく長浜先生は同書・中耳炎で、「発病後数日たって、なお熱があるような時期に(小柴胡湯を)用いるとよい。また一般に再発を繰り返すような慢性化したものに用いてよく効くことがある。膿の出るものには桔梗2.0を加える」とあり、咽喉炎には、「二、三日経って治らぬものに(小柴胡湯を)試みるとよい。局所的熱感があれば石膏3.0を加える」とも、扁桃肥大とアデノイドには、「アデノイドを伴うもの、頸部のリンパ腺も腫れているようなものにはこの方(小柴胡湯)がよい。石膏2.0を加えて用いる」ともあって、ここでは『皇漢医学』に云う小柴胡湯加桔梗、小柴胡湯加石膏の例が示されている。
 ❾矢数道当先生は『漢方の臨牀』第15巻第10号・温知堂経験録(38)・腺病性体質が小柴胡湯加桔梗石膏でで、「十三才の男子、……。栄養状態も悪く、顔色は蒼白であった。この児は生来の虚弱者で、幼児期には外耳炎で困ったことがあり、腸が弱く、すぐ下利し易い。また風邪をひき易く、かぜをひくと扁桃腺がはれて熱を出す。毎年春秋の気候の変り目には必ず高熱を出しては休養している。一ころ腎炎も起こしたこともあり、鼻がつまり、扁桃腺がはれている。腹証にも胸脇苦満の状が認められた。依て小柴胡湯加桔梗石膏を与え、一年位はのむ必要のある旨を告げておいた。ところが服薬後まもなく風邪をひかなくなり、季節の変り目にも熱を出さず、食慾が進み、肥ってきて、発育がとみによくなり、一年後には全く見違えるように健康児となり、……」という症例を報告されている。
 ❿『漢方診療医典』甲状腺腺腫(附 甲状腺炎)には、「甲状腺炎は比較的まれな病気であるが、急性甲状腺炎で、甲状腺が赤く腫れて痛み、熱のあるものに本方(小柴胡湯加桔梗石膏)を用いて2、3日で全治したことがある」とあり、麻疹には、「発疹後には、一般に小柴胡湯を用い、順調なものはこれで治る。また微熱が続き、肺結核の続発が考えられるような場合にも、この方を用いる。頸部リンパ腺腫脹、気管支炎、中耳炎などが併発した場合は、小柴胡湯加桔梗石膏として用いる。小柴胡湯で効のない場合は柴胡清肝散で奏効することがある」と解説される。更には流行性耳下腺炎では、「2、3日たって、耳下腺が腫れて発熱し、舌に白苔ができ、食欲があまりないものに用いる」とあって、急性・慢性中耳炎では小柴胡湯で、「発病後数日を経過して、悪寒、発熱があり、口苦く、舌に白苔があり、耳痛、難聴、膿汁の出るものに用いる。熱が強くて煩悶・口渇を訴えるものには桔梗3.0g・石膏5.0gを加える」とあり、急性乳様突起炎では、「2、3日経過して、舌白苔、祝王、悪寒、胸脇苦満、食欲不振などのあるものに用いる」と夫々の本方の用法が記載されてい音¥
 その他、副鼻腔炎(上顎洞炎)、急性扁桃炎(アンギナ)、腺様増殖症(扁桃肥大症)(アデノイド)には孰れも小柴胡湯を用いて、加桔梗石膏の用例が呈示されている。
 ⑪緒方玄芳先生は『漢方の臨牀』第25巻第10号・漢方診療おぼえ書(41) で、かぜと中耳炎とを繰返す幼児に小柴胡湯加桔梗石膏と題した6才男子の症例を報告されている。「中等度の体格、顔色は良い、汗っかき、……舌は淡白色を呈し、腹部は中等度の硬さを呈している。……約1ヵ年間服用を続けているが、その間一回も中耳炎を起こしていない」とのことである。
 ⑫ 山本巌先生は、『東医雑録』(3)・小柴胡湯を語るで、本方の適応例として、「化膿性炎症 胃が弱く、食欲がなくなる、口が苦いなどがあれば、小柴胡湯加桔梗石膏を用いる。慢性扁桃炎、蓄膿症、慢性中耳炎などの、抗生物質があまり効果のない場合にも、小柴胡湯加桔梗石膏、……を用いる。抗生物質よりはるかによく効く」や、「化膿性炎症には 桔梗・石膏・薏苡仁・連翹・金銀花などを加える。いずれも化膿性炎症に有効で、石膏は濃厚な膿のとき、薏苡仁は薄い膿の量が多いとき、桔梗は排膿、袪痰の作用があるため配合する」と説明されている。
 ⑬著者は本方エキス製剤を常用していない。勿論、小柴胡湯と桔梗石膏のエキス製剤は常用している。必要に応じて自由は配合分量で処方した方が使い易いからである。尚、桔梗石膏の他薬の加味方としての処方例は、桔梗石膏の論考⑱で述べた通りである。


※齎す:もたらす
※舌黄白胎 → 舌黄白苔の間違い?
※『漢方の臨床』:『漢方の臨床』
※孰れも:いずれも


副作用
重大な副作用と初期症状
1) 偽アルドステロン症: 低カリウム血症、血圧上昇、ナトリウム・体液の貯留、浮腫、体重増加等の偽アルドステロン症があらわれることがあるので、観察(血清カリウム値の測定等) を十分に行い、異常が認められた場合には投与を中止し、カリウム剤の投与等の適切な処置を行う。

2) ミオパチー: 低カリウム血症の結果としてミオパチーがあらわれることがあるので、観察を十分に行い、脱力感、四肢痙攣・麻痺等の異常が認められた場合には投与を中止し、カリウム剤の投与等の適切な処置を行う。

[理由]
 厚生省薬務局長より通知された昭和53年2月13日付薬発第158号「グリチルリチン酸等を含 有する医薬品の取り扱いについて」に基づく。

 [処置方法]  原則的には投与中止により改善するが、血清カリウム値のほか血中アルドステロン・レニ ン活性等の検査を行い、偽アルドステロン症と判定された場合は、症状の種類や程度により適切な治療を行う。
低カリウム血症に対しては、カリウム剤の補給等 により電解質 バランスの適正化を行う。

3) 肝機能障害、黄疸: AST(GOT) 、ALT(GPT) 、Al-P、γ-GTPの上昇等を伴う肝機能障害、黄疸があらわれることがあるので、観察を十分に行い、異常が認められた場合には投与を中止し、適切な処置を行う。

 [理由] 本剤によると思われる肝機能障害、黄疸の企業報告が集積されたため。
(平成14年7月10日付事務連絡「医薬 品の使用上の注意の改訂について」に基づく改訂)

[処置方法] 原則的には投与中止により改善するが、病態に応じて適切な処置を行う。


その他の副作用

頻度不明
 過敏症注1 発疹、蕁麻疹等
消化器 食欲不振、胃部不快感、軟便、下痢等
注1)このような症状があらわれた場合には投与を中止すること。

過敏症
[理由] 本剤には人参(ニンジン)が含まれているため、発疹、蕁麻疹等の過敏症状があらわれるおそれがある。


[処置方法] 原則的には投与中止にて改善するが、必要に応じて抗ヒスタミン剤・ステロイド剤投与等 の適切な処置を行うこと。

消化器
[理由] 本剤には石膏(セッコウ)が含まれているため、食欲不振、胃部不快感、軟便、下痢等の消化器症 状があらわれるおそれがある。また、本剤によると思われる消化器症状が文献・学会で報告されている。

[処置方法] 原則的には投与中止により改善するが、病態に応じて適切な処置を行う。