健康情報: 1月 2014

2014年1月29日水曜日

苓姜朮甘湯(りょうきょうじゅつかんとう)の効能・効果と副作用

漢方診療の實際 大塚敬節 矢数道明 清水藤太郎共著 南山堂刊

苓姜朮甘湯(りょうきょうじゅつかんとう)
茯苓六・ 乾姜 白朮各三・ 甘草二・
本方は水中に坐するが如き腰冷感・身体倦重感を目標にして用いられる。小便は稀薄で量が多い。脈は沈んで弱い。この病症も一種の水分不循・血行不調による ものであるから、茯苓と朮が主となっている。乾姜は温薬で血行を盛んにし寒冷を去り、茯苓の薬効を助けるものである。今本方と苓桂朮甘湯とを比較するに、 その差異は乾姜と桂枝の出入にある。同じく水分不循・血行不調を治するのであるが、その病症を異にしている。桂枝の配伍は眩暈を治し、心悸亢進を治する。 乾姜の配伍は専ら寒冷を去るのである。ここに於て薬物配伍の妙用を知らねばならない。
本方の応用は腰痛・腰冷・坐骨神経痛・帯下・遺尿・小児夜尿症である。



漢方薬の実際知識 東丈夫・村上光太郎著 東洋経済新報社 刊
11 駆水剤(くすいざい)
駆水剤は、水の偏在による各種の症状(前出、気血水の項参照)に用いられる。駆水剤には、表の瘀水を去る麻黄剤、消化機能の衰退によって起こ る胃内停水を去る裏証Ⅰ、新陳代謝が衰えたために起こった水の偏在を治す裏証Ⅱなどもあるが、ここでは瘀水の位置が、半表半裏または裏に近いところにある ものについてのべる。

7 苓姜朮甘湯(りょうきょうじゅつかんとう)  (金匱要略)
〔茯苓(ぶくりょう)六、乾姜(かんきょう)、白朮(びゃくじゅつ)各三、甘草(かんぞう)二〕
本方は、苓桂朮甘湯の桂枝のかわりに乾姜を加えたものである。本方には、気の上衝がないため、水毒は下半身に集まるが、苓桂朮甘湯の水毒は上 半身に集まる。また、温補作用は苓桂朮甘湯よりも強いが、利尿作用では劣っている。したがって、本方は腰以下に寒冷と水を訴えるもので、腰部の冷重感(水 中に坐しているような感じ)、冷痛、倦怠感、尿利異常などを目標とする。また、本方は人参湯(前出、裏証Ⅱの項参照)の人参を去り、茯苓を加えた薬方とし ても考えられ、停水は激しいものである。
〔応用〕
つぎに示すような疾患に、苓桂朮甘湯證を呈するものが多い。
一 夜尿症、遺尿症その他の泌尿器系疾患。
一 湿疹その他の皮膚疾患。
一 そのほか、坐骨神経痛、腰痛、脚痿弱症、帯下など。


《資料》よりよい漢方治療のために 増補改訂版 重要漢方処方解説口訣集中日漢方研究会
82.苓姜朮甘湯(りょうきょうじゅつかんとう) 傷寒論 金匱要略
  茯苓6.0 乾姜3.0 白朮3.0 甘草2.0

(金匱要略)
○腎著之病,其人身体重腰中冷,如坐水中,形如水状,反不渇,小便自利,飲食如故,病属下焦,身労汗昔,衣裏冷湿,久々得之,腰以下冷痛,腰重如帯五千銭,本方主之(五蔵風寒)


現代漢方治療の指針〉 薬学の友社
 腰部から下肢にかけて,ひどい冷感を自覚し,腰冷痛,身体倦怠感を伴い,排尿回数,量ともに多いもの。
 下腹部,腰部,下肢などの冷感が著しくあたかも水中に座っているような,腰冷感と腰冷痛を自覚する前記疾患に用いられる。すなわち腎臓機能が悪く水分代謝障害と,これに伴う血行障害があって,苓甘姜味辛夏仁湯に似た感はあるが,同方の水毒症状は下身半にあって,身体冷重感や倦怠感,腰痛と利尿障害を主訴とする点で異なる。したがって本方を応用する疾患は坐骨神経痛や冷え症の腰痛が最も多いが,下身半の著明な冷感という病証が類似するものに桂枝加朮附湯八味丸当帰芍薬散五積散などがある。

桂枝加朮附湯> 四肢の著しい冷感とマヒ感が対象になる。これは本方が水分代謝障害が主であるに対し,桂枝加朮附湯は内分秘障害と水分代謝障害の傾向があるもので,冷え,マヒ,痛みを四肢に自覚するので本方と区別ができる。
八味丸> 身体冷感,腰痛,利尿障害,倦怠感などで類似するが,八味丸は副腎の機能,血管運動神経,知覚神経などの異常や高血圧症状など,本方証よりも広範囲にわたる症状が現われるので,その鑑別ができる。
当帰芍薬散> 腰部や下肢の冷感,倦重感,利尿障害の点で本方証に似ているが,本方は排尿回数,量ともに多いのに対し当帰芍薬
は排尿回数,量ともに少なく排尿回数が多く,浮腫が現われるときな全身的に軽度に現われる。
五積散>  冷え症で疲れやすく,腰痛,坐骨神経痛で類似するが,さらに消化器症状が伴うか,あるいはその傾向があるので,本方との区別ができる。


漢方処方応用の実際〉 山田 光胤先生
○腰と腰より下部がひどく冷え,冷感を自覚するものに用いる。「水中に坐するが如く」「腰以下冷痛し,腰重きこと五千銭を帯ぶるが如し」と表現され,腰,脚が冷痛し,腰が重く感じ,尿利が近くて尿量が多く,飲食が変わらない。脈は沈で遅,細,微,腹部は軟弱のものが多い。
○金匱要略にはこういう病気は腎著病といっている.要するに水毒があって,そのために身体下部(下焦)が厥冷するものである。また「身労して汗が出て着衣をぬらし,長くほっておいたために起る」とある。
○類聚方広義には本方に杏仁を加えたものを腎著湯といい,妊婦の浮腫,尿利増加,腰冷痛,喘咳するものを治すとある。
○また老人が尿を失禁し,腰脚重く冷痛するものによい。子供が14,15歳になっても遺尿,夜尿の止まないものに,本方に反鼻を加え,症によっては附子を加えて用いるとよいとある。



漢方診療の実際〉 大塚,矢数,清水 三先生
 本方は水中に坐するが如き腰冷感,身体倦重感を目標にして用いられる。小便は稀薄で量が多い。脈は沈んで弱い。この病症も一種の水分不循,血行不調によるものであるから,茯苓と朮が主となっている。乾姜は温薬で血行を盛んにし寒冷を去り,茯苓の薬効を助けるものである。今本方と苓桂朮甘湯とを比較するにはその差異は乾姜と桂枝の出入にある。同じく水分不循,血行不調を治するのであるが,その病症を異にしている。桂枝の配伍は眩暈を治し,心悸亢進を治する。 乾姜の配伍は専ら寒冷を去るのである。ここに於て薬物配伍の妙用を知らねばならない。本方の応用は腰痛,腰冷,坐骨神経痛,帯下,遺尿,小児夜尿症である。

漢方入門講座〉 竜野 一雄先生
 運用,腰脚の冷重感,或は冷痛
 「腎著の病はその人身体重く,腰中冷ゆること水中に坐するが如く,形水状の如くにして反って渇せず,小便自利,飲食もとの如し。病下焦に属す。身労し汗出で衣裏冷湿,久々之を得れば腰以下冷痛し,腰重きこと五千銭を帯るが如し」(金匱要略五臓風寒病)腎著とは冷湿が腎に著いたとの意で,腎は腰髄と関係するから腰以下又は下腹部の冷感を主とし,腎は水分代謝と関係するから身重と冷湿が起るのである。しかし停水でないから渇も小便不利もない。腰がただ冷えるばかりでなく重い感じがするか,或は 冷痛するという点が 本方の特徴で,ただ痛むとか,ただ重感麻痺だけでは他の処方も之を治することがある。こういう冷えた状態では全身的にも冷え性なことは言うまでもなく脉も沈み弱い。腰痛,坐骨神経痛,夜尿症,帯下などで腰脚の冷えを訴えるものに使う。体表に在っては衣裏冷湿を応用して湿疹,潰瘍,瘻孔などで分泌物が薄く量が多く,肉芽不良貧血性のもの,腰脚が冷えれば確実である。腰脚の冷えを主とするものに当帰四逆加呉茱萸生姜湯,八味丸,当帰芍薬散桃核承気湯などがあるが,此等は他に個有の症状があるのと重いという感じはあまり訴えないので区別される。腰痛も右の外,大黄附子湯(脉緊弦)防已黄耆湯(脉浮)などがあるが区別は右の要領と同じにする。体表の皮膚病,潰瘍,冷汗等で区別すべきは附子湯,真武湯,桂枝加附子湯,桂枝加黄耆湯などがあるが,腰冷を伴うのは本方の特徴である。


漢方処方解説〉 矢数 道明先生
 腰部又は腰以下に冷感を訴え,「水中に坐せるがごとく,また五千金を帯ぶるがごとし」という表現のとおりである。また冷えばかりでなく,五千金を帯ぶるごとく重く感じる。あるいは冷痛する。脈は沈んで細く微で,舌苔や口渇はなく,一般に腹壁は軟かいことが多い。小便不利や頻尿がある。また冷湿,陰下湿とあるように,湿疹のときには薄い分泌物をともなうものである。

勿誤方函口訣〉 浅田 宗伯先生
 此方は一名腎著病と云て下部腰間の水気に用て効あり。婦人久年腰冷帯下等ある者紅花を加えて与れば更に佳也。



2014年1月28日火曜日

芎帰調血飲第一加減(きゅうきちょうけついんだいいちかげん) の 効能・効果 と 副作用

漢方一貫堂医学 矢数 格著 医道の日本社刊
p.128
第二章 後世方
一、芎帰調血飲第一加減
〔診 法〕 芎帰調血飲の腹証は、やわらかな腹証で腹内に瘀血の存在はほとんど認められない。しかし、産後悪露の排出不十分で瘀血溜滞を来すと、この芎帰調血飲 第一加減となるので、腹診上、七図に示したようにやや著明な瘀血の存在を認めることができるようになるのである。すなわち、腹内が一般にブワブワとして瘀 血膨満で、それていて腹筋の拘攣をふれないのを特徴とす識。下腹部において特に瘀血を認める。もし、瘀血過多のときはすなわち活血散瘀湯証となり、腹筋の 拘攣を認めるときは通導散またはその加減法となるのである。

〔解説〕
 芎帰調血飲
 当帰、川芎、熟地、白朮、茯苓、陳皮、烏薬、香附子、牡丹皮各二・五、乾姜、益母草、甘草、大棗各一・〇
以上十四味一日量。

 芎帰調血飲第一加減
 前方去熟地黄加芍薬、乾地黄、桃仁、紅花、肉桂、牛膝、枳殻、木香、玄胡索各一・五(童便、姜汁入るるも可)

 「万病回春」の産後門、芎帰調血飲の註に、
 「産後諸病、気血虚損、脾胃怯弱、悪露行らず、去血過多、飲食節を失し、怒気相冲し、以て発熱、悪寒、自汗、口乾、心煩、喘急、心腹疼痛、脇肋脹満、頭暈、眼花、耳鳴、口噤不語、昏憒等の症を致すものを治す。」
 芎帰調血飲は産後の婦人に与えて気を順らし、血を補い、脾胃を益し、軽き悪露を去る処方である。そして瘀血を多く持つているときは、註に、
 「悪露尽きずして、胸腹飽満、疼痛、或は腹中に塊あり、悪寒、発熱し、悪血有るものは、桃仁、紅花、肉桂、牛膝、枳殻、木香、延胡索を加うとなるのである。これ一貫堂の芎帰調血飲第一加減である」

  産後の諸病で七図に示すような腹証を呈するものは、みなこの方を与えて効果を得る。ふつう、軽い血脚気とか、産後の軽い腹膜炎、産後の血の道と言われるも のを初めとして、婦人瘀血に因る胃腸病、子宮内膜炎、肺結核等にも用いられる。また瘀血による頭痛、耳鳴、眩暈、動悸あるいは眼病にこの方で治しうるもの もある。




『漢方一貫堂の世界 -日本後世派の潮流』 松本克彦著 自然社刊
 芎帰調血飲第一加減
 前にも述べたように『万病回春』には、この方の後に三十の加減方が附されているが、その三番目 に、「産後悪露尽きず、瘀血は上衝し昏迷して醒めず、腹満硬痛するものは、当に悪血を去るべし、依って本方に桃仁、紅花、肉桂、牛膝、枳殻、木香、延胡 索に童便、姜汁を少し許り加え、熟地黄を去る」という加減方があり、これを一貫堂では、芎帰調血飲第一加減と称しているが、普通童便と姜汁は使用していな い。
 加味されている薬味の主な効能は、以下の如くである。
 桃仁・・・・・・・・・破血袪瘀、潤腸滑腸
 紅花・・・・・・・・・活血袪瘀、通経
 牛膝・・・・・・・・・活血袪瘀、強筋壮骨、引血下行
 延胡索・・・・・・・活血、利気、止痛
 木香・・・・・・・・・行気止痛
 枳殻・・・・・・・・・消積除脹、破気瀉痰
  桃仁・紅花は活血袪瘀の代表的なもので、これに牛膝を加えたのは、引血下行の意味をもたせたと思われる。延胡索は香附子や烏薬とともに肝腎に関連のある利 気止病矢で、一方木香、枳殻の方は脾胃への作用が主で、苓姜朮甘湯との組み合せで止痛以外に消積(食滞を除く)利湿の役割りを果していると考えられる。
 全体を今一度通覧してみると、
 四物湯去芍薬・熟地黄  活血
 牡丹皮・益母草・桃仁   化瘀
 紅花・牛膝          化瘀
 香附子・烏薬・延胡索   利気(肝腎)
 木香・枳殻          利気(脾胃)
 苓姜朮甘湯          利水
となり、血薬から気薬、利水薬に至る、きれいな配列で、この中に主な調経止痛薬はほとんど含まれている。例えば賀川玄悦の『産論』に見られる折衝飲も、四物湯にこの加減を行ったものとみなすこともできよう。
  重要なことは、一般に袪瘀剤には下剤が含まれていることが多く、一貫堂の常用処方でも通導散を初め、活血散瘀湯、柴胡疎肝湯等すべて大黄、芒硝が入ってい るのに対し、同じ活血化瘀剤でも、本方はあくまで産後の体虚を考えて組まれているため、強い瀉薬を嫌い、あくまで補剤の性格を残していることである。
  瘀血とは結局のところは全身的ないし局所的な循環障害といわれているが、女性の生理不順から出産等に関連する骨盤腔内の鬱血や慢性炎症、及びこれらに伴な うさまざまな身体的・精神的失調だけでなく、その他各種の慢性炎症から循環障害まで、いわゆる活血化瘀剤の適応は広く多種の方剤がある。しかし、その中で 補の性格をもつものは案外少なく、この意味からも本方は極めて利用価値が高いといえよう。


『衆方規矩解説(63)』 日本東洋医学会参事 山下廉平
芎帰調血湯
 芎帰調血飲(キュウキチョウケツイン)は、方名に示すごとく、血を調える方剤であります。
原典といわれる万病回春では芎帰補湯(キュウキホケツトウ)という名になっており、『衆方規矩』では芎帰調血湯(キュウキチョウケツトウ)となっています。
『衆方規矩』には「芎帰調血湯。産後の諸疾を治す。宜しく加減してこれを用ゆべし。 沂(当帰(トウキ))、芎(川芎(センキュウ))、汋(芍薬(シャクヤク))、(地黄(ジオウ))、伽(白朮(ビャクジュツ))、苓(茯苓(ブクリョウ)、陳(陳皮(チンピ))、莎(香附子)、甘(甘草(カンゾウ))。右、姜(乾姜(カンキョウ))、棗(大棗(タイソウ))を入れ、水煎して温服す」とあります。
 本方から芍薬を除き、烏薬(ウヤク)、牡丹皮(ボタンピ)、益母草(ヤクモソウ)を加えたものが、『万病回春』の芎帰補血湯、すなわち芎帰調血飲であります。『万病回春』の産後門、芎帰調血飲の註に、「産後諸病、気血虚損、脾胃祛弱、悪露行らず、去血過多、飲食節を失し、怒気相冲し、以て発熱悪寒、自汗、口乾、心煩、喘急、心腹疼痛、脇肋脹満、頭暈、眼花、耳鳴、口噤して語らず、昏憒などの症を致すものを治す」とあり、方後に三〇に及ぶ加減方が付されております。そしてこれらの加減方は、そのまま『古今方彙』に引き継がれ、あらゆる産後の病状に対し得るようになっております。念のために申し上げますと、『衆方規矩』には一七の加減方が記されております。
 また『牛山活套』産後門を見ますと、「産後には芎帰調血飲を用ゆべし。古芎帰湯(コキュウキトウ)(当帰、川芎の二味からなり、仏手散(ブッシュサン)とも言う)に陳皮、人参を加え、紅花(コウカ)を少し加えて一日の後、芎帰調血飲を用ゆべし。産後の諸病は、気血を補うを以て本とす。その中に保産湯(ホサントウ)は禀賦虚弱の婦人に宜し、調血飲(チョウケツイン)は実体の婦人に宜し」とあります。
 芎帰調血飲は一貫堂経験方の一つで、森道伯先生は産後の常用処方として、気血調理のため必ずこの方を服用させたと伝えられております。矢数道明先生も、産婦にはほとんど習慣的に十数日間服用させたといっておられます。
 薬能を申し上げますと、駆瘀血剤の牡丹皮、益母草、川芎、当帰と補血剤の熟地黄、当帰、そして気剤、健胃剤としての白朮、茯苓、陳皮、烏薬、香附子、乾姜、大棗、炙甘草(シャカンゾウ)から構成されております。駆瘀血剤と温剤とを組み合わせているところに意味があるのでありまして、当帰、川芎、烏薬、乾姜、白朮、大棗といったもので温めるのであります。
 牡丹皮、益母草、当帰、川芎は、血行を促進してうっ血を除き、悪露を排出させる働きをし、熟地黄、当帰には補血強壮作用があり、栄養をよくし、滋潤の効果果高める作用があります。白朮、茯苓は胃内の停水を去り、消化吸収の機能を強めて健胃作用を示し、さらに香附子、陳皮、烏薬は、気をめぐらすことにより胃腸の働きを促進して、これを補助するわけであります。
 白朮、茯苓、益母草には利尿作用があり、浮腫を去り、軟便を治します。また香附子、烏薬には鎮痛作用もあり、大棗、甘草は諸薬の調和に働くのであります。
 芎帰調血飲の腹証は真綿のように軟らかであり、腹内には瘀血の存在はほとんど認められないのであります。しかし、産後悪露の排出が不十分で、瘀血が留滞をきたしたり、日数を経過して下腹部に抵抗圧痛が認められたり、下肢血栓症の疑いのあるものには、第一加減といって、熟地黄を去って芍薬、乾地黄(カンジオウ)、桃仁(トウニン)、紅花、桂枝(ケイシ)、牛膝(ゴシツ)、枳殻(キコク)、木香(モッコウ)、延胡索(えんごさく)を加えて、瘀血を駆除するのであります。
 『万病回春』には、方後加減方の三番目に、「産後悪露尽きず、瘀血は上衝し、昏迷して醒めず、腹満硬痛するのは、まさに悪血を去るべし。よって本方に桃仁、紅花、肉桂(ニッケイ)、牛膝、枳殻、木香、延胡索に童便(ドウベン)、姜汁(キョウジュウ)を少しばかり加え、熟地黄を去る」という加減方があり、これを一貫堂では芎帰調血飲第一加減と称しております。しかし通常、童便と姜汁とは使用しておりません。
 芎帰調血飲第一加減は、芎帰調血飲の瘀血を除き、気のめぐりをよくし、気滞、気逆を治し円:痛みを鎮めて、裏を温め、寒を除くという作用を一段と強化したものであります。本方は産後の気力、体力低下を考慮して、処方が構成されているため、強い瀉剤を避けて、あくまで補剤の性格を残しているのであります。一般的に瘀血を除く方剤には下剤が含まれていることが多く、一貫堂の常用処方でも通導散(つうどうさん)をはじめ、活血散瘀湯(カッケツサンオトウ)、柴胡疎肝湯(サイコソカントウ)などには、すべて大黄(ダイオウ)、芒硝(ボウショウ)などが入っているのであります。
 同じ瘀血を改善することを目標とする薬方でありながら、本方には瀉剤が入っていないというのが大きな特徴であります。それゆえ、体力の低下した瘀血状態にはよく奏効をしますが、熱感、ほてり、のぼせなどの熱症を呈するものには用いないのであります。熱証のものに用いますと、顔や身体が熱く、ほてり、のぼせなどを強く訴えることがあるからであります。
 芎帰調血飲第一加減の場合の腹診上の所見には、やや著明な瘀血の存在を認めることができるようになります。すなわち腹内がブワブワとして瘀血膨満を呈します。しかしそれでいて腹筋の拘攣を触れないのを特徴としております。そして下腹部において、特に瘀血を認めるのであります。もし瘀血過多の時は、すなわち活血散瘀湯証となり、腹筋の拘攣を認める時は、通導散またはその加減方の適応となるのであります。
 以上述べたごとく、芎帰調血飲は『万病回春』の諸病門にかかげられた処方で、産後一切の気血を調理するものであります。貧血を補い、悪露、瘀血を去り、気をめぐらし脾胃を益し、産後の肥立ちをよくするのに適しております。産後出血の止まった後に、本方を用いますと、数日して必ず再び出血を起こすといってもよいほど順血の能があります。
 芎帰調血飲およびその第一加減の運用に当たっては、必ずしも産後の諸症状に用いるばかりでなく、相当の年月を過ぎたさまざまな疾患に対しても、幅広く応用することができるのであります。すなわち産後の調理、産褥熱の軽症、産後の血脚気、乳汁不足、月経不順、産後悪露不足、血の道症、ヒステリー、産後の頭痛、めまい、耳鳴り、食思不振などに応用されるのであります。
 芎帰調血飲に似たものと成ては当帰芍薬散(トウキシャクヤクサン)がありますが、これは妊娠中に用いる薬でありまして、芎帰調血飲は産後の使用を目的としております。薬味の内容からしますと、冷え症や生理痛、あるいは駆瘀血といった点では、芎帰調血飲の方が当帰芍薬散よりやや効果が強いといえるのであり、特に芎帰調血飲第一加減は妊娠中の使用は禁忌であります。補気に対する補中益気湯(ホチュウエッキトウ)のごとく、さらまざまな血の道症に対して、調血、補血の代表的な方剤と形新使用されるのであります。

2014年1月23日木曜日

芎帰調血飲(きゅうきちょうけついん) の 効能・効果 と 副作用

臨床応用 漢方處方解説 矢数道明著 創元社刊
p.120 産後調理・産後神経症・血の道症・血脚気・ヒステリー
30 芎帰調血飲(きゅうきちょうけついん) 〔万病回春〕
 当帰・川芎・熟地・白朮・茯苓・陳皮・烏薬・香附子・牡丹 各二・五
 益母・甘草・大棗・乾姜 各一・〇

応用〕 産後一切の気血を調理するというもので、貧血を補い、悪露悪血を去り,脾胃消化器系の働きをよくし,産後血の道症に起こる自律神経失調の諸神経症状に用いてよいものである。
 すなわち産後の調理、産褥熱の軽症、産後の頭痛、めまい、耳鳴り、動悸、のぼせ等、自律神経失調症状、産後の血の道症、乳汁分泌不足、血脚気、月経不順などに応用される。


目標〕 本方は一貫堂の経験方の一つで、恩師森道伯翁は、産後の常用処方として、気血調理のため必ずこの方を服用させた。産後の悪露を下し、元気を恢復し、乳汁の分泌を促し、産後の神経症、血脚気などの予防に効果があるので、腹部は出産後のこととて真綿(まわた)のごとく軟らかである。日数を経過したものは下腹部に抵抗圧痛が認められることがある。もし下腹部の抵抗圧痛が甚だしく、下肢血栓症の疑いあるものには、第一加減と称し、熟地を去って、芍薬、乾地黄、桃仁、紅花、桂枝、牛膝、枳殻、木香、延胡索、各一・五を加えて、瘀血を駆除する。


主治〕 万病回春(産後門)に、「産後一切の諸病、気血虚損、脾胃怯弱、或は悪露(おろ)行(めぐ)らず、或は血を去ること過多し、或は飲食節を失し、或は怒気相冲し、以て発熱悪寒、自汗口乾き、心煩喘急、心腹疼痛、脇肋脹満、頭暈、眼花、耳鳴、口噤(つぐ)んで語らず、昏憒(こんかい)等の症を治す。」とある。
 牛山活套(産後門)に「産後には芎帰調血飲を用ゆべし。古芎皈湯(当帰、川芎、一名仏手散という)に陳皮、人参を加え、紅花を少し加えて一日の後、芎帰調血飲を用ゆべし。産後の諸病は気血を補うを以て本とす。その中に保産湯は禀賦虚弱の婦人に宜し、調血飲は実体の婦人に宜し」とある。

鑑別
 ○当帰芍薬散 107 (血症血の道症、神経症状・陰虚証、腹痛、臍傍拘攣、水毒)
 ○桂枝茯苓丸 37 (血症血の道症、神経症状・瘀血実証、臍傍臍下抵抗圧痛)
 ○加味逍遙散 23 (血症血の道症、神経症状・少陽病の虚証、胸脇苦満少しくあり、灼熱感、多怒、不眠、性急)
 ○抑肝散加陳皮半夏 145 (血症神経症、肝症、多怒、不眠、腹部動悸)

治例
 私は従来もしばしば本方を用いたことがあり、産婦にはほとんど習慣的に十数日間服用させていた。最近になっても私は本方を、産後相当の年月を経過し、しかも特定の腹証を呈し、かつ特有の血の道症状を呈している者で、諸治療に抵抗している難症に用いて、予想外の効果を収めることがあるのを知るに至った。
 従来先人の治験録の中に、本方について論及したものはほとんどないようである。

 (一) 手指のシビレ感を訴える。
 星〇千〇子、四五歳の主婦である。初診は昭和三七年八月二日であった。
 三年前の七月から、両手の中指、薬指、小指の三本がシビレてきた。同時に後頭部と両方の足の裏にもシビレ感が起こった。内科医の診断は脚気ということであったが、原因不明というところが多かった。
 そのうち両方の脚の筋肉が軟弱無力となり、崩れるように坐ってしまうことがたびたびあるようになった。
病院や診療所を転々としていたが、N大病院の内科で精密検査をしたが、やはり原因らしいものは見つからないから更年期障害の一症であろうということで、ホルモン注射などを受けたが治らなかった。そこでT大学内科に転じたところ、全く病気はないから神経科へ行くようにいわれ神経科の治療も受けたがだめであった。
婦人科では卵巣嚢腫があるかも知れないということであったし、アレルギー性体質のようだともいわれたが、どうしてもシビレ感はとれなかったというのである。お産は昭和一九年と二一年と二回、二度目のお産で腎盂炎を病み、その後で不整出血が続き、子宮癌の疑いをかけられたこともあった。
 体格も栄養も普通である。顔色はやや貧血性で、眼のまわりや頬に肝斑(シミ)が目立っている。本人もこのシミを非常に気にしている。脈は沈んで弱く、血圧は一三〇~七〇である。腹証としては両腹直筋が少し筋ばっているが、全体としては軟かい方で、虚証である。膝蓋腱反射は異常に亢進し、足搐搦(ちくでき)がある。どうも脊髄に異常がありそうにも思える。
 私は本証を血脚気の変症とみて、腹部の軟弱の状が四物湯を用いたいので芎帰調血飲を与えた。本方一〇日分をのんだが、シビレ感も脚無力感も大して変わらないというので、九味檳榔湯加呉茯に転方したが、これも効きそうにないという。そこで痿証方にしてみたら、のむと気持が悪くのめないし、どうも最初の薬がなんとなく効くように思うというので、再び芎帰調血飲にした。このころの訴えを聞くと、立っていると何か強い力で肩を押し下げられるように感じ、また腰に重い物を吊り下げられたように覚え、脚がヘナヘナに力が抜けて坐ってしまうということであった。
 再度の調血飲をのんでから、食欲がとてもよくなった。たちまち二キロも体重が増加した。これに勢いを得て続けてのんだところ、二ヵ月間であの不快なシビレ感は全く消失し、顔色はとてもよくなり、気になっていた頬のシミがほとんどとれてしまった。最近では全身に活気が充実し、脚の力も普通に戻って駈け足ができるようになったという。一二月まで五ヵ月服薬を続けて全治廃薬した。結局のところ本症は気血虚損、脾胃怯弱によるシビレと脚弱であったと思われるものである。

(著者治験、漢方の臨床 一〇巻二八号)
 (二) ヒステリー発作か
 川○美○ 四三歳の主婦で、初診は昭和三七年九月二八日である。この患者は知人の薬店で処方を出してもらい、長い間服薬を続けていたが、どうしても治らないので薬店からの紹介で来院した。
 患者がこの薬をのんでいましたといって持ってきたのをみると甘麦大棗湯であった。患者の訴えをきくと、二八歳のとき頭を強く打ったことがある。三二歳のとき産後に心配事があって煩え苦しみ、全身痙攣を起こしヒステリーの発作といわれたこどある。四〇歳の三年前から時々意識不明に陥り、癲癇(てんかん)といわれたこともあった。
 この二年間は毎週一回ぐらい倒れるようになった。その発作の前に両方の頸動脈のところが波打ってきて、のぼせがひどくなり、すると倒れるというのである。しかし、以前のように意識不明にはならず、四~五時間ぐらいグッタリしていると次第に平常に戻って痙攣は起こさない。軽いときは頭が痛くてフラッとして、一分間ぐらいボンヤリする程度でよくなることもある。腰から背に上り、首筋へ張ってくると頭がボンヤリしてくるという。
 体格は中等度、栄養も普通である。口唇や眼の囲りが紫色である。脈も普通で舌苔もない。血圧は一二〇~六〇である。月経は順調であるが少ない。腹は全体に軟かで、右の臍下に少し抵抗があるが、それほど充実していない。
 この患者はいろいろの治療を試みたが治らない。現代医学の治療をあきらめて漢方薬も一年近くのんだがやはり見るべき変化がないという。つかみどころのない病証である。
 結局、産後の気血の不調和として芎帰調血飲を与えてみた。一〇日分をのんでみるととても気分がよいという。そして、よく眠れるようになったというので同一処方を続けてみた。一ヵ月後に家庭内でショックがあったが、こんどは腹も立てず、発作も起こさずに済んだ。以前はこのようなショックで怒ると必ず倒れたものであるという。
 この患者の家は高輪の高台に在って、買物には、この坂道を登り山を越えなければならない。いままでは息が切れて登れなかったが、近ごろは平気で坂を登れるようになった。たいへん順調で歯科治療を受け、抜歯したがなんともなく済んだ。いままでは歯科の治療台に上ると脳貧血を起こし倒れるのが常であったという。
 五〇日分のんで、ほとんど訴えがなくなり、発作が止んでしまった。本証は「気血虚損、怒気相冲し、心煩喘急、頭暈、昏憒、口噤(つぐ)んで語らず」に該当しているものであろう。
(著者治験、漢方の臨床 一〇巻八号)

 (三) 貧血による眩暈
 王〇光〇 二七歳婦人。初診は昭和三七年一一月一三日である。
 女学校時代から貧血気味で、しばしば脳貧血を起こすくせがあった。
 こんどの半訴は一ヵ月前に脳貧血を起こして以来、毎日のようにフラッとして倒れそうになる。眩暈がとまらないのである。後頭部が凝り、気分が悪く、食欲が全くなく、ときどき痔出血を起こす。血圧は一一〇~八〇であった。二年前に出産があり、事情があって離婚したという。
 痩せ型で顔色は蒼白である。脈は弱く、腹も軟弱である。腹証が悪露のある特有の軟かい状態である。
 芎帰調血飲を与えたところ、三〇日間で食欲が出て、めまいはとれ、顔色がよくなり、一般状態が好転した。なるほど本方に「気血虚損、脾胃怯弱、頭暈」とあるのは嘘ではないと思われた。 

(著者治験、漢方の臨床 一〇巻八号)

 (四) 産後腰痛
 亀〇喜〇 二五歳主婦。初診は昭和三七年一二月二二日である。
 患者は昨年の二月初めて出産をした。お産の後でやむをえず身心の無理を続けていたところ、ひどい腰痛が起こった。坐骨神経痛といわれて加療を受けたが治らない。
 その後、神経過敏となり、頭痛がひどく、眼を開いていられなくなるほどで、ときどい嘔気がある。今年二月に二度目のお産をした。そのためお腹が弛緩して子宮下垂となり、一一月に手術を受けた。しかし頑固な腰痛はかえって増悪し、いても立ってもいられなくなり、腰が抜けるようにだるくなる。黄色い帯下がある。食欲が全くなく、脈も弱く、腹も軟弱でブワブワしている。しかも便秘がちである。
 芎帰調血飲を与えたところ、一〇日後には元気が出て食欲が進み、食事が待ち遠しいほどで、腰痛がきれいにとれてしまった。腰を前に屈げても苦痛がなく、仕事ができるようになり、三〇日間服用して廃薬した。

(著者治験、漢方の臨床 一〇巻八号)

 (考察)
  芎帰調血飲は万病回春の産後諸病門に掲げられた処方で、産後一切の気血を調理するものである。貧血を補い、悪露瘀血を去り、気を順(めぐ)らし、脾胃を益し、産後の肥立ちをよくするに適している。産後出血の止んだに本方を用いると、数日にしてかならず再び出血を起こすといってもよい順血の能がある。
 本方の腹証は、出産後のあの特有の軟弱なのが目標であるが、かならずしも産後ばかりでなく、相当の年月を過ぎたものでも、前述の証を具(そな)えたものには応用してさしつかえないものである。
 すなわち本方は、産後の調理、産褥熱の軽症、産後血脚気、乳汁不足、月経不順、産後悪露不足、血の道症、ヒステリー、産後の頭痛、めまい、食思不振等に応用される。




『漢方後世要方解説』 矢数道明著 医道の日本社刊
 p.61
理血の剤
方名及び主治

六九 芎帰調血飲(キュウキチョウケツイン) 万病回春 産後門
○産後一切諸病、気血虚損、脾胃怯弱、或は悪露行らず、或は血を去ること過多し。或は飲食節を失し、或は怒気相沖し、以て発熱悪寒、自汗、口乾き、心煩喘急、心腹疼痛、脇肋脹満、頭暈、眼花、耳鳴、口噤て語らず、昏憒等の症を治す。


処方及び薬能
当帰、川芎、熟地 白朮 茯苓 陳皮 烏薬 香附 牡丹各二・五 乾姜 益母 甘草 大棗各一 生姜〇・五
 当帰、川芎、熟地=補血、潤血の作用あり。 茯苓、白朮、陳皮、甘草=脾胃を養う。
 烏薬、香附子=気血を順らし。
 牡丹、益母=血熱を涼す。

解説及び応用
○此方は八珍湯方中より芍薬と人参を去り、牡丹、益母の駆瘀血剤、香附、烏薬、乾姜の順気健胃剤を配合せるもので、産後一切の気血を調理するによい。八珍湯、大補湯ほどの虚状のないものに広く用いられる。
即ち貧血を補い、悪露悪血を去り、脾胃を益し、産後の補症に応用される。

○応用
①産後の調理、
②産褥熱の病症、
③産後頭痛、耳鳴、動悸、眩暈、上衝等を訴えるもの、
④血の道、
⑤乳汁不足、
⑥血脚気、
⑦月経不順。




『漢方一貫堂の世界 -日本後世派の潮流』 松本克彦著 自然社刊

p.22
血について

芎帰調血飲及び第一加減

 血の概念

 北京である外国人から「日本人と中国人は同じ漢字を使っているので、相互理解が非常にし易い。」と羨ましがられたが、その反面、なまじ同じ文字を使っているために微妙に意味が食い違い、かえって誤解を生む場合も多く、 例えば勉強という言葉にしても、中国ではあくまでも勉めを強いることで、日本とは少しニュアンスが違うようである。
 漢方でいう「血」という言葉にしても、我々はすぐ血液のことと思い込みがちであり、また最近の中医学教科書でも、血或いは営血は、ほぼ血液に近い概念として整理しつつあるように思われる。しかしこの血という古い言葉は、元来それ程はっきりと医学的に定義されてできたものではなく、人体の生飲活動のもとは気と血だという認識から、気をその機能的な側面とすれば、それに対するいわば物質的な基盤を表わす言葉として、体液及びそれに含まれる諸成分をひっくるめた大ざっぱな概念であったと思われる。即ち『傷寒論』中にも「大いに汗を発し、また数(しばしば)大いにこれを下せば、その人亡血す。」とあり、この場合体液即ちいわゆる陰液はすべて血という言葉で一括されている。
 そしてこの陰液は時代と共に、次第に血液とそれ以外の体液即ち津(しん)液とに分けられるようになり、全体的な陰液は腎、そのうち血は肝と心、津液は脾と肺というように、それぞれ関連する臓腑を定められ、陰虚と血虚、或いは補陰と補血等についての症候や治療法も区別されるようになったのであろう。しかし現代医学においてさえ、体液と血液とを厳密に分けることは困難で、さらに治療に当って、もともと多数の化学成分を含む生薬をさらに数多く組合せて用いる漢方では、補陰の薬、補血の薬といっても、あまり厳密に区別しようとすれば、かえって誤りを犯すことにもなろう。
 というのは、この血という概念には、単なる血液とは違って、さまざまな生理機能が背負わされているからである。即ち「血が虚すれば胞脈(子宮及び衝任の脈)は栄養が行き渉らず、月経は不調となって崩漏下血等が起り、また血の運行は遅く滞りがちとなるため、月経時に腹痛が起る」などと説明されているが、女性の生理、妊娠、出産等に深い関連があるとされている。したがって女性特有の諸疾患は、多くは血が原因していると考えられ、「血の道症候群」とか「瘀血症候群」とかいう言葉にもみられるように、すべて血の病として治療されているのである。
 一方また、循環系或は血液についての諸疾患も、当然ながら血とは切り離すことはできず、また「肝血が不足すれば肝陽は上亢する」等といわれ、血の不足は自律神経系の失調にも関係が深いようで、さらに各種の内分泌系疾患、自己免疫疾患でも血が関与していると考えられ、血薬によって治療されていることは多い。
 これらの症候或いは疾患は、現代医学において、個々には血液中ないしは体液中に含まれる諸成分と関連付けて、或る程度理解することができるかも知れない。が同時に、これらすべてに共通し一つ包含してしまうこの素朴な血という概念に、正しく対応し得る医学的概念或いは用語は、現在見当らないようである。我々は漢方を使用するに当って、部分の集合は必ずしも全体とはならないということをも、併せて考えてみる必要があろう。

 方名と方意

 芎帰調血飲(きゅうきちょうけついん)は、名の如くこのような血を調える方剤として『古今方彙』の産後門の筆頭にあげられているが、原典といわれる『万病回春』では、芎帰補血という名になってい識。しかしここでは、これまで我が国で通用してきた芎帰調血飲という名称を踏襲す識ことにする。
 さて『万病回春』ではこの方の主治について、「産後一切の諸病、気血虚損、脾胃怯弱、或は悪露行らず、或は血去ること過多、或いは飲食節を失し、或は怒気相衝(つ)き、もって発熱悪寒を致し、自汗口乾、心煩喘急、心腹疼痛、脇肋脹満、頭暈(ずうん)眼花、耳鳴、口噤(とじ)て語らず、昏憒(こんかい)等の症を治す」とあり、方後に三十に及ぶ加減方が附されている。そしてこれらの加減方は、そのまま『古今方彙』にも引き継がれ、あらゆる産後の病に対応し得るようになっているのである。
 このような症状がすべてそろった人に出合うことはめったにないが、我々の研究所の所員の家族等でも産後、体の調子が悪いといえば顔も見ずにこの方を出し、大抵の場合は調子がよくなったと喜ばれている。
 しかし中島先生が、「この方は産後とは書いてあるが男に使うことも多く、原方とその三十の加減方が理解できれば、血の病につ感ての大方は分る」といわれるように、我々はこの方を一般的には、補気に対する補中益気湯のごとく、さまざまな血の病症に対して調血・補血の代表方として使用しているのである。

 処方構成

 当帰・川芎・白朮・白茯苓・熟地黄・陳皮・烏薬・香附子・乾姜・益母草・甘草
 右一剤を挫して、生姜(きょう)一片、棗一枚と水煎して温服す。
 この構成について、矢数道明先生は、八珍湯から芍薬と人参を去り、他の五味を加えたものとして解説しておられ、産後の気血調理の方剤として、この解釈は当を得たものと思われるが、ここでは少し趣をかえて、四物湯去芍薬と苓姜朮甘湯との合方に、他の薬味を加えたものとして考えてみたい。

 四物湯(和剤局方)
 補血の代表的な基本方としてよく知られているが、もとは分心気飲と同じく『和剤局方』の「婦人の諸疾を治す」という篇に収録されており、
「営衛を調養し、気血を滋養す。衝任虚損すれば、月水調はず、臍腹㽲(きゅう)痛して崩中漏下し、血瘕は塊硬にて、発歇(間歇的に)疼痛す。妊娠宿冷し、将に理宜しきを失すれば、胎動して安からず、血下りて止まず。及び産後の虚に乗じて風寒内に搏てば、悪露は下らず結して瘕聚(かじゅ)(腹中のしこり)を生じ、時に寒熱を作すを治す」
とあり、まとめると婦人の生理不順、妊娠及び産後とすべてに渉る基本方剤である。
 またこの構成について、最近の中医方剤学書によると、
「方中の熟地黄は滋陰養血、当帰は補血和血で、この二薬が補血を主として主薬となり、白芍は柔肝養血、川芎は行気活血で補助薬である。しかし一方血薬としての綜合的な作用から見ると、熟地黄、白芍は血中の血薬即ち陰薬で当帰、川芎は血中の気薬即ち陽薬であり、このような二対の組み合せにより、補して滞らせず、営衛を調和させるので、本方は補血、養血、活血行気の効果を併せもつといえる」
と説明され、主薬と補助薬にそれぞれ陰薬と陽薬を巧みに組み合せたものであるが、本方ではこれからわざと芍薬を除いている。
 芍薬は漢方的には養血斂陰、柔肝止痛、平肝陽で、また陰を斂(おさ)める。陰を育(はぐ)む等といわれているが、細野史郎先生を中心として、現代薬理学的にもよく研究されている。そして濃度の違いにもよるといわれるが、例えば腸管運動等に対して興奮と抑制という相反するようで、このことから収斂作用をもつといわれている。
 以前中島先生に、最も漢方薬らしい漢方薬といえば何でしょうかと伺ったところ、言下に「芍薬でしょう」と答えられたが、一般に西洋医薬品が一方向性の作用しか持たないのに対し、このような両面のはたらきをもつ芍薬を、最も漢方的な薬物として挙げられたのではないかと思われる。
 しかし本来、産後の薬である調血飲では、この芍薬を除いて活血、袪瘀、行気の目的を強めているのであろう。

 苓姜朮甘湯(金匱要略)
 『金匱要略』の「五臓の風寒、積聚(しゃくじゅ)の病の脈証ならびに治」の篇に、
「腎著の病は、その人身体重く、腰中冷え、水中に坐するが如し。形水状の如くにして、反って渇せず、小便自利し、飲食故の如きは、病下焦に属す。身労して汗出で、衣裏冷湿すること久々にしてこれを得。腰以下冷痛して、重きこと五千銭を帯ぶるが如きは、甘姜苓朮湯これを主る」とあり、この次に篇は変るが苓桂朮甘湯がくる。この苓桂朮甘湯の方は、水毒、或は水気の上衝に対する方剤として現在よく用いられているが、ただ一味の違いにより苓姜朮甘湯の方はやや影が薄いようである。この両者の違いについて、湯本求真先生が『皇漢医学』に分りやすく書いておられるので紹介しよう。
苓姜朮甘湯には乾姜なくして桂枝があるが故に、その証は必ず上衝目眩の症あり。これ水毒の上衝によるものなれば、この毒は主として上半身に集まり、前症のほか胃内停水を現わすも、本方(苓姜朮甘湯)には桂枝なくして乾姜あるをもって、水毒は上衝せずして下降し、主として下半身に集中にす。故にその症には上衝目眩の症あることなく、胃内停水はまったく存するも僅微なり。しかのみならず乾姜は附子と併称される大熱薬にして、且つ水毒駆逐の作用あるものなれば、その証には必ず寒冷或は厥冷と水毒の陰見するを認む。これ師が身体重く・・・・・・と説ける所以なり。」
 苓桂朮甘湯四物湯との合方は、連珠飲として有名であるが、これを苓桂朮甘湯の上に対し四物湯の下という組み合せと考えれば、芎帰調血飲は下と下という組み合せにる。
 この血と水の二方の組み合せを基礎にして、烏薬と香附子という理気薬と、牡丹皮と益母草という化瘀薬を加えたのが本方の構成である。
 中草薬学書によれば、烏薬の薬効は順気止痛、散寒温腎で、香附子の方は疏肝理気、調経止痛とあり、これらと木香との違いについて、
 「香附子、木香、烏薬には、いずれも行気止痛の作用があるが、木香は行気寛中しよく腸胃の気滞を調え、一般に脘腹脹満、瀉痢、腹痛に用いられ、香附子は疏肝解鬱で調経止痛に特色があり、脇痛や痛経に用いられ、烏薬はよく下焦の気を行らし、肝腎の気滞を調えるので、疝気、痛経、腎虚尿頻、小便作脹に用いられることが多い」
と解説されてお責、結局木香が消化管への作用が主なのに対し、香附子、烏薬は肝や腎に関連する季肋部の体壁反射や、子宮、膀胱の平滑筋に選択的に作用するようである。
 牡丹皮と益母草という二つの袪瘀薬についても偶々取り上げ現れたものではなく、牡丹皮は「血熱を清すると共によく活血散瘀し、瘀滞を散じて気血を流通させ疼痛を除く」とあるが、同じ牡丹科として芍薬と共通性もあり、四物湯から除いた芍薬の代りに斂陰の作用を補うべく選択され、また益母草にも活血調経、袪瘀生新という主作用の他に、利尿作用があるといわれるので、これまた苓姜朮甘湯の利水の作用を助ける目的で選ばれたのではないかと思われる。
 全体の構成を整理してみると、
  四物湯去芍薬・・・・・・・・・・養血活血
  牡丹皮・益母草・・・・・・・・・活血化瘀
  烏薬・香附子・・・・・・・・・・・行気止痛
  苓姜朮甘湯・・・・・・・・・・・・温腎利水
となり、すべての構成はあくまで中下焦に重点を置いて温化、利水、養血、行気、止痛を計っている。

 芎帰調血飲第一加減
 前にも述べたように『万病回春』には、この方の後に三十の加減方が附されているが、その三番目に、「産後悪露尽きず、瘀血は上衝し昏迷して醒めず、腹満硬痛するものは、当に悪血を去るべし。依って本方に桃仁、紅花、肉桂、牛膝、枳殻、木香、延胡索に童便、姜汁を少し許り加え、熟地黄を去る」という加減方があり、これを一貫堂では、芎帰調血飲第一加減と称しているが、普通童便と姜汁は使用していない。
 加味されている薬味の主効は、以下の如くである。
 桃仁・・・・・・・・・破血袪瘀、潤腸滑腸
 紅花・・・・・・・・・活血袪瘀、通経
 牛膝・・・・・・・・・活血袪瘀、強筋壮骨、引血下行
 延胡索・・・・・・・活血、利気、止痛
 木香・・・・・・・・・行気止痛
 枳殻・・・・・・・・・消積除脹、破気瀉痰
 桃仁・紅花は活血袪瘀の代表的なもので、これに牛膝を加えたのは、引血下行の意味をもたせたと思われる。延胡索は香附子や烏薬とともに肝腎に関連のある利気止病矢で、一方木香、枳殻の方は脾胃への作用が主で、苓姜朮甘湯との組み合せで止痛以外に消積(食滞を除く)利湿の役割りを果していると考えられる。
 全体を今一度通覧してみると、
 四物湯去芍薬・熟地黄  活血
 牡丹皮・益母草・桃仁   化瘀
 紅花・牛膝          化瘀
 香附子・烏薬・延胡索   利気(肝腎)
 木香・枳殻          利気(脾胃)
 苓姜朮甘湯          利水
となり、血薬から気薬、利水薬に至る、きれいな配列で、この中に主な調経止痛薬はほとんど含まれている。例えば賀川玄悦の『産論』に見られる折衝飲も、四物湯にこの加減を行ったものとみなすこともできよう。
 重要なことは、一般に袪瘀剤には下剤が含まれていることが多く、一貫堂の常用処方でも通導散を初め、活血散瘀湯、柴胡疎肝湯等すべて大黄、芒硝が入っているのに対し、同じ活血化瘀剤でも、本方はあくまで産後の体虚を考えて組まれているため、強い瀉薬を嫌い、あくまで補剤の性格を残していることである。
 瘀血とは結局のところは全身的ないし局所的な循環障害といわれているが、女性の生理不順から出産等に関連する骨盤腔内の鬱血や慢性炎症、及びこれらに伴なうさまざまな身体的・精神的失調だけでなく、その他各種の慢性炎症から循環障害まで、いわゆる活血化瘀剤の適応は広く多種の方剤がある。しかし、その中で補の性格をもつものは案外少なく、この意味からも本方は極めて利用価値が高いといえよう。

 臨床での運用
 このように芎帰調血飲及びその第一加減は、単に産後の諸症状だけでなく、さまざまな疾患に幅広く用いられるが、これに似たものとして当帰芍薬散が挙げられよう。
 当帰 川芎 芍薬 白朮 茯苓 沢瀉 この両者は補血・活血と利水というほぼ同じ方意を持ち、私も講習会等で芎帰調血飲がなければ当帰芍薬散でもいいでしょうと答えることにしている。
 しかし当帰芍薬散は、あくまで「婦人妊娠の病」(金匱要略)に対する処方で、芎帰調血飲と違って母胎にはかかせない芍薬があり、白朮、茯苓、沢瀉を重ねて妊娠中の利水を強めている一方、妊娠中の嘔気を考えて熟地黄はなく、流産のおそれのある化瘀薬も当然ながら含まれず、産後を目的とした芎帰調血飲とは明らかな違いがある。
 即ち当帰芍薬散は、母胎保護を旨とし、全体しては緩和であるのに対し、芎帰調血飲、さらにその第一加減となるに従い、積極的に活血行血しようとする姿勢の違いがある。
 勿論どちらにも各々その特長があり、優劣の問題ではないが、内容から考えれば、例えば冷え症や生理痛、或は化瘀といった面では調血飲の方がやや効果は強いといえるが、反面強すぎる場合もあろうし、特に第一加減は妊娠中には禁忌となる。このような違いはあるにせよ、婦人諸疾患についての一般的な適応症は、これまで当帰芍薬散についてすでに充分知られており、これに準じてよいと思われるので、特に本方に特長的と思われる使用法をいくつか述べる。

 慢性膀胱炎
 漢方の適応症として膀胱炎はよく取り上げられ、炎症症状のあるものに対しては、猪苓湯五淋散竜胆瀉肝湯など有名な処方が多いが、我々の研究所を訪れる患者は、殆んどは急性列を過ぎており、「泌尿器科で検査してもらっても異常がないといわれるが、排尿後どうもすっきりしない」とか「下腹部に何か異和感が残る」或は「冷え症で毎年夏にクーラーに当ると再発するので予防したい」等という訴えが多い。
 これらに対しては、苓姜朮甘湯四物湯という方意から考えても本方が適応となり、事実大抵の場合一~二週間の服用で症状が改善される。しかし急性炎症に対して間違って使用しないよう注意が肝腎である。

 膝関節症
 四十代、五十代の婦人で、膝の内側が痛み、階段の昇降等の不自由さを訴える人は多く、潜延して変形を来たす場合もよくあるが、案外よい治療法は少ないようで、よく針灸を希望して来院される。このような症状は、勿論針灸の適応となるが、初期のうちなら芎帰調血飲の第一加減を一ヵ月程度服用するだけで軽快することも多い。この場合本方のもつ温腎利湿、活血化瘀から、さらに牛膝のもつ引血下行と、強筋壮骨の薬効まで綜合的に作用していると考えられるが、関節水腫に対する防已黄耆湯と共に覚えておくと便利である。

 慢性虫垂炎
 医学的にこのような病名が妥当かどうかは別として、回盲部に痛みを生じ、病院で検査しても手術する程の炎症所見はなく、しばらくすると治まるが、また環境の変化等で同じことをくり返すといった人ははまま見られる。このような症状に対しても、芎帰調血飲ないしはその第一加減がよく適応する。一般に慢性の腹痛は冷えか瘀血によることが多く、この両者に効果的な本方は、慢性の下腹部痛に対して広く応用される。しかしこれも誤って急性の虫垂炎等に投与しないよう注意しなければならない。

 合方について
 我々な更年期障害を初めとするさまざまな婦人の神経症に、調血飲と分心気飲を合方することがよくあり、上の頭痛やめまいと下の生理不順に対する上下の組み合せと感ってい識が、どちらか一方だけ用いるよりも効果的なことが多い。
 そしてまたこの同じ組み合せを心臓神経症から狭心症等種々の機能的心疾患に対しても用い、ニトログリセリンを殆んど不要とする程度にまで改善することも多いが、これについては気と血の組み合せだと考えている。即ち連珠飲からの発展である。
 中島先生は「基本方はワードでこれを組み合せてセンテンスにもって行くのだ」といわれるが、このようにいくつかの薬方をあたかも薬物であるかのように合方する方法は、一貫堂独自のもので、一味一味を大切にする中国、厳密な成方の規定を守る古方派両者とも理解しにくい面はあると思われる。しかし随証治療をたてまえとする漢方の特長を残し、一方エキス剤の普及を目指す今日の我が国東洋医学の現状を考えると、最も現実的な解決策が、ここにあるような気がする。そしてさらに「急性病は薬味が少なく一材量の多い大剤を、慢性病には薬味数が多く一味一味の材量の少ない小剤を」という原則もあり、複雑な病態が今後漢方慢性病が治療の主流となるであろうことを考え併せたとき、成方エキス剤を用いての匙加減という方法も、今後積極的に検討する必要があると思われる。
 ただしこの場合、一味一味の薬効から、基本方の構成に至るまで充分な漢方的理解が必要なことはいうまでもないことである。


和漢薬方意辞典 中村謙介著 緑書房
芎帰調血飲(きゅうちょうけついん) [万病回春]

【方意】 血虚瘀血による産後・貧血・悪露等のあるもの。時に熱証・燥証、血証・上焦の熱証による精神症状、脾胃の虚証を伴う。
《太陰病.虚証》
【自他覚症状の病態分類】

血虚・瘀血 熱証・燥証 血証・上焦の熱証による精神症状 脾胃の虚証
主証 ◎産後
◎貧血
◎悪露






客証  月経閉止
 腹痛
 腰痛
 麻痺 脱力
 ほてり
 自苗
 口乾
 心煩
 頭痛 目眩
 耳鳴
 心悸亢進
 胸満
 胃腸虚弱
 疲労倦怠


【脈候】

【舌候】 

【腹候】 

【病位・虚実】 本方は四君子湯合四物湯の八珍湯の去加方である。四君子湯の主たる構成病態の脾胃の虚証も、四物湯の血虚も太陰病に相当する。またこの脾胃の虚証も血虚も、本方を虚証で用いることを示している。

【構成生薬】 当帰2.0 川芎2.0 熟地黄2.0 白朮2.0 茯苓2.0 陳皮2.0 烏薬2.0 香附子2.0 牡丹皮2.0 益母草1.5 大棗1.5 乾姜1.0 甘草1.0 

【方解】 当帰・川芎・熟地黄は血虚を治し、牡丹皮・益母草は共な微寒で熱性の瘀血に作用して悪露を下し、瘀血による精神症状を去る。香附子・烏薬・陳皮には気を行らして精神症状に作用すると同時に、瘀血・水毒も疎通する。白朮・茯苓は脾胃の虚証を補う。茯苓には鎮静・強心作用もある。陳皮・大棗・乾姜・甘草は他薬の脾胃に及ぼす作用を穏やかにする。本方は四君子湯合四物湯の八珍湯より芍薬・人参を去って、他薬を加えている。つまり人参を用いるぼと虚証ではないが、血虚を補い、産後の悪露瘀血を去り、消化機能を亢進させて、血の道症の精神神経症状を治す。更には産後に限らず一切の気血水の停滞に効果が期待できる。

【方意の幅および応用】
 A 血虚瘀血:産後・貧血・悪露を目標にする。
   産後の調理、軽症の産褥熱、産後頭痛、耳鳴、動悸、血の道症、食欲不振

【症例】 産後の腰臀部痛
 28歳の初産の婦人。産後3日目から腰が痛んで寝返りもできなくなった。左の大腿部から臀部が非常に腫れて、膝にかけて痛みが激しくて10日間も泣きあかしたというのです。入院していたが思わしくなく退院して来たということでした。以来鍼をしたり、注射をしたりで10日ほどして半分寝返り位は動けるようになったというところへ往診したのです。診ると左の臍傍に塊のような瘀血があり、ちょって触れてもひどく痛むのです。それで本来ならば桃核承気湯で下したいところですが、産後とことではあり、皮膚枯燥があるものですから、地糖剤の方が良いと思い芎帰調血飲に紅花を加えて与えたところ、甥青右現f下りものがあって、それ以来軽くなり、10日目には便所へ行かれるようになりました。初めこれは桃核承気湯にしようか桂枝茯苓丸にしようか四物湯にしようかと迷いました。
矢数道明 『漢方の臨床』11・7・13


 手足のしびれ感
 45歳の主婦。3年前の7月から、両手の中指、薬指、小指の3本がしびれてきた。同時に後頭部と両方の足の裏にもしびれ感が起こった。そのうち両方の筋肉が軟弱無力となり、崩れるように坐ってしまうようになった。N大病院で精密検査を受けたが原因不明。更年期障害であろうと治療を受けたが治らなかった。そこでT大内科に転じたが、これも無効。
 体格も栄養も普通である。顔色はやや貧血性で眼のまわりや頬に肝斑(シミ)が目立っている。脈は沈んで弱く、血圧は130/70である。腹証としては両腹直筋が少し筋ばっているが、全体としては軟らかく虚証である。膝蓋腱反射は異常に亢進し、足に搐搦がある。脊髄に異常がありそうにも思える。
 私は本証を血脚気の変証とみて芎帰調血飲を与えたが大して変わらないというので、四味檳榔湯加呉茱萸・茯苓、次に痿証方に転じたが、結局最初の薬が良さそうだというので再び芎帰調血飲にした。再度の調血飲を飲んでから食欲が良くなり2kgも体重が増加した。服薬2ヵ月で不快なしびれ感は全く消失し、顔色は良くなり、気になっていた頬のシミがほとんど取れた。脚の力も普通に戻って馳け足ができるようになり5ヵ月間服薬を続けて全治廃薬した。結局のところ本症は気血虚損、脾胃袪弱によるしびれと脚弱であったと思われた。
矢数道明 『漢方治療百話』第二集295

血の道症と腎炎
 37歳の婦人。昨年2月のこと、生後6ヵ月になる小児を腸重積で失いすっかり落胆していた。その頃外出して突然めまいと烈しい心悸亢進が起こった。その後顔がむくんで尿中の蛋白が強陽性となり、脳貧血を起こしてしばしば倒れそうになる。全身倦怠感がひどく、布団の上げ下げにも動悸がする。家族が付き添ってやっと来院した。栄養は良い方で、顔色は少し赤味をおび、のぼせを覚える。脈は弦数である。血圧は145/85あった。心音は不純、尿蛋白(+)であった。
 私はこれに産後の気血不調を調えるという意味から芎帰調血飲を与えた。すると2ヵ月後には家事一切の仕事をしても疲れないようになった。その後嘔気を訴えてきたので半夏瀉心湯にした。そして日赤産院で診断を受けると妊娠3ヵ月であった。しかも妊娠したのに尿蛋白陰性になっていた。血圧は125/70でつわりが非常に軽く、当帰芍薬散を服用しながら元気で予定日を待っている。
矢数道明 『漢方治療百話』第一集101


副作用
1) 重大な副作用
①偽アルドステロン症: 低カリウム血症、血圧上昇、ナトリウム・体液の貯留、浮腫、体重増加等の偽アルドステロン症があらわれることがあるので、観察(血清カリウム値の測定など)を十分に行い,  異常が認められた場合には投与を中止し、カリウム剤の投与等の適切 な処置を行うこと。
②ミオパシー: 低カリウム血症の結果としてミオパシーがあらわれることがあるので、観察を十分に行い、脱力感、四肢痙攣・麻痺等の異常が認められた場合には投与を中止し、カリウム剤の投与等の適切な処置を行うこと。

2) その他の副作用
消化器:食欲不振,胃部不快感,悪心,嘔吐,下痢等

   

2014年1月14日火曜日

六味丸(ろくみがん) の 効能・効果 と 副作用

漢方薬の実際知識 東丈夫・村上光太郎著 東洋経済新報社 刊

13 下焦の疾患
下焦が虚したり、実したりするために起こる疾患に用いられる。ここでは、下焦が虚したために起こる各種疾患に用いられる八味丸(はちみがん)、下焦が実したために起こるものに用いられる竜胆瀉肝湯(りゅうたんしゃかんとう)についてのべる。

(2)六味丸(ろくみがん)
八味丸から桂枝と附子を去ったもの〕
 八味丸證に似ているが、小児や妊婦などで陰証と決めにくい場合に用いられる。


和漢薬方意辞典 中村謙介著 緑書房
六味丸(ろくみがん) [小児方訣]

【方意】 腎の虚証による精力減退・多尿・腰痛・陰痿・疲労倦怠等と、熱証燥証による顔面紅潮・心煩・不眠・口渇・発熱等のあるもの。
《太陰病または少陽病.虚実中間から虚証》

【自他覚症状の病態分類】

腎の虚証 熱証・燥証

主証 ◎精力減退
◎多尿 遺尿
◎腰痛 下肢痛
◎陰痿 遺精
◎顔面紅潮
◎心煩 不眠
◎口渇 口燥





客証   疲労
  弱視 目眩
  耳鳴
  るいそう
  発熱
  手足煩熱
  ほてり
  自汗 盗汗




【脈候】 沈細数。

【舌候】 紅舌、褐色苔を認める。

【腹候】

【病位・虚実】 腎の虚証は太陰病に相当するが、熱証・燥証は陽証であり、本方は少陽病位でも用いる。
 虚実中間から虚証である。

【構成生薬】 地黄8.0 山茱萸4.0 山薬4.0 牡丹皮3.0 沢瀉3.0 茯苓3.0

【方解】 本方は丸味丸より桂枝・附子の大熱薬を去ったものであるために、寒証の傾向が少なく、検に熱証を帯びる。

【方意の幅および応用】
 A 腎の虚証熱証燥証:精力減退・多尿・腰痛・顔面紅潮等を目標にする。
   精力減退、遺精、腰痛、糖尿病、慢性腎炎、夜尿症、るいそう

【参考】*腿の方は『金匱』八味丸の桂枝・附子を去ったものであるから、八味丸よりは軽症である。腎虚のため疲労感があり、特に精力弱く、陰痿・遺精・腰痛等を訴え、多尿・耳鳴・弱視・口渇等を伴うものに用いる。脾虚・気虚著しくして食欲不振・下痢の向向のあるものは禁忌である。
『漢方後世要方解説』

【症例】 視力低下
 眼がほとんどみえなくなった患者さん。この病人は帝大に行っていましたが、初めは視神経萎縮といわれ、次には硝子体に何か混濁があるといわれたらしいですが、症状としては他には別に何もいうところはないのです。診断はハッキリしません。私も処方するに捉えどころがないんです。しかし或は腎臓による視神経障碍だろうと思って、大体目がかんすて新聞など読めないという版うな者には六味丸或いは八味丸をこれまでよくやっていましたので、六味丸加減(本方去沢瀉加生地黄・五味子・当帰)を与えましたら、その患者は眼がみえて来たというんです。それからどうも性生活がうまくいかないような事をいうんです。そこで私は今の薬はその点が目標だといったのですが、患者は漢方ほ薬は恐ろしいものだといってしきりに感心していました。
 それから面白いことに、その患者が田舎へ帰った時、腎臓の悪い人があって西洋医者の治療で浮腫がとれず困っていたのを、自分の持っていた薬を素人考えで飲ませたら、むくみも取れて良くなったと大気焔をあげていました。
矢数道明 『漢方と漢薬』 7・12・18

萎縮腎による高血圧症
 患者は69歳の婦人。かつて尿毒症様の発作を起こしたとき紫円で救ったことがある。患者は防風通聖散の条件を備えており、萎縮腎に因る高血圧である。
 尿の出が悪く、肩が凝り、脚がつると訴える。これに防風通聖散に六味丸を兼用した。夜寝ると咽喉がカラカラに乾く。これは萎縮腎の特徴であるが、その場合には六味丸が効くので兼用したのである。以後引き続き2年間服薬を続けているが非常に調子良く回復し、血圧は200mmHgから150mmHgに下り、1日も休まずに済んでいる。
矢数有道 『漢方と漢薬』 7・12・18


肺結核症
 18歳、女性。3ヵ月程前より、肺結核と診断され、人工気胸とその他の治療を受けたが一向に良くならず、るいそうが日に加わり、咳嗽、倦怠、発熱等の主訴で来院した。月経も3ヵ月以来ない。寝汗が時にある。食欲と消化はまだ良い。咽喉が乾きやすく凉性飲食を好む。便通は普通1回あるが時には軟便をみる。咳嗽が激しく痰も多い。午後の熱発に際してよく悪寒を感じる。非常に痩せていて栄養が悪いが、顔色は興奮したように両頬が幾分紅潮している。脈は弦数で120位ある。胸部所見は左側の肺尖部より鎖骨下部まで少し悪い。心音は強く亢進している。腹部には著変がないが心下部に軽度の悪痛を有す。
 陰虚火動の証であるが、脈が頻数であるのと栄養が悪いのがどうも心配だが、まず補陰潤肺させるつもりで六味湯を加減して(熟地黄8.0 山薬・白芍薬各6.0 麦門冬・白茯苓・牡丹皮・沙参各4.0、桔梗・陳皮各2.1 五味子・甘草各2.0。以上1包、1日2包)与えた。
 1週間後に来院、咳嗽は大分軽くなり、気分が大変良いという。便通が少し軟らかい。その後症状に依り本方に黄柏、山茱萸、白扁豆、乾地黄等を加減して約1ヵ月間続服させたら、熱も咳嗽も、脈状も好転し、栄養が段々良くなった。
大山景弘 『漢方と漢薬』 10・10・40


『漢方後世要方解説』 矢数道明著 医道の日本社刊
 p.27
補養の剤

方名及び主治

一 六味地黄丸(ロクミジオウガン) 銭仲陽 補陰剤
○肝腎不足、真陰虧損(きそん)し、精血枯渇し、憔悴羸弱(ショウスイルイジャク)し、腰痛足酸(イタミ)、自汗盗汗し、汗水泛(ウカ)んで痰となり、発熱咳嗽し、頭重目眩、耳鳴耳聾、遺精便血、消渇淋瀝(リンレキ)、失血失音、舌燥喉痛し、虚火牙痛足跟(コン)痛をなし、下部瘡瘍等の症を治す。

処方及び薬能
熟地黄、山茱萸、山薬各四
茯苓 丹皮、沢瀉各三

 蜜丸空心時塩湯にて服す。冬は酒にて服用す。
 熟地=陰を滋し、腎を補い、血を生じ、精を生ず。君薬。
 山茱=肝を温め、精を濇らす。
 牡丹=君相の伏火(心火、肝火、命門火)を瀉し、血を涼しうす。
 山薬=脾を補し、腎を固うす。
 茯苓=脾火の湿熱を滲し。
 沢瀉=膀胱の水邪を瀉し、耳目を聡明にす。
解説及び応用
○此方は金匱八味丸の桂枝、附子を去ったものであるから、八味丸よりは軽症である。腎虚のため疲労感があり、特に精力弱く、陰萎、遺精、腰痛等を訴え、多尿、耳鳴、弱視、口渇等を伴なうものに用いる。脾虚、気虚著しくて食欲不振、下痢の傾向あるものは禁忌である。



応用
① 性的衰弱で陰萎、遺精、耳鳴を訴え根気なきもの ② 初老以後の者で腰痛、眼精疲労、視力減退するもの ③ 糖尿病にて虚状を呈し、陰萎、多尿、口渇するもの ④ 慢性腎炎、萎縮腎にて疲労、多尿のもの ⑤ 夜尿症にこの方の効あるものがある。 ⑥筋骨萎弱のもの。




『漢方一貫堂の世界 -日本後世派の潮流』 松本克彦著 自然社刊
p.295
 六味丸をめぐって
 ここでは腎を中心にした図を紹介したが、以前坂口弘先生は脾を中心にしたシェーマを考えておられ、これが中医学と(日本の)後世派との主な相違点であるような感じを受けている。
この腎を基本とする考え方は中国でも比較的新しく、『素問』でも脾土が中央という言葉は見掛けるが、腎を中心とするとは述べられていないようで、金元医学の大家李杲(東垣)が著した『脾胃論』においても、あくまで脾を中心に考えられているようである。先天を主にするか後天を主にするかという議論にもなろうが、臨床の上でも、多くの疾患のベースには気虚・脾虚があるようで、治療上脾を中心にするということもやはり大きな意味がある。結局は五臓間の相関性を重視する医学であるから、五行をぐるりと回せばどれを基本にしてもよいのかも知れない。中島紀一先生が八味丸や六味丸を使われたのを見たことがないため、以前そのことをお伺いしたところ、「竜胆瀉肝湯(清肝袪湿)は六味丸(補腎陰)と同じですから、両方使う必要はありません」とのことであった。まったく薬味と方意の違うこの両者の共通性についてその考えつづけているが、事実、臨床の上で六味丸を使感たいような患者に竜胆瀉肝湯を使ってよい結果を得ることも多く、結局腎陰を補うのも(六味丸)、肝陽を瀉すのも(竜胆瀉肝湯)、結果として同じことで、更に竜胆瀉肝湯には下焦に対する処置(木通-膀胱、車前子-腎)もしてあると解釈している。つまりは本当の意味で漢方の生理病理が分れば、それ程新しい薬方を使わずとも、またどこから治療していってよいのかも知れず、理論にしてもあまり枝葉に入りすぎると、かえって机上の空論に陥る危険性もあろう。

 臓腑の陰陽
 しかしながら腎を中心にして、さらには各臓腑をすべて陰陽に分けて考えるという方法は、最近の中国では次第に統一されてきているようなので、ここで彼等の考えている腎、さらに陰陽というものについて今少しのべてみたい。
 即ち前節では主に気血の関係から大きく陰陽を左右に分けたが、今回さらに軸を九〇度回転させ、前後から見て各臓腑を陽の側面と陰の側面に分け、そのベースとして腎陰と腎陽を考えるのである。(図6参照)。

 即ち各臓腑をさらにそれぞれの機能的な側面(陽)と物質的な側面(陰)とに分ければ、各々のもつ生理的、病理的な意味づけ、および対する薬剤も一層はっきりとし、理論的にも臨床的にもより整備された形になるであろう。
 このような個々の臓腑の陰陽、引いては腎の陰陽の考え方は決して一朝一夕にできたものではない。そもそもの源は、傷寒・金匱の薬方の中にも求められようが、中医学の教科書によれば、「この発想の起源は唐の王冰に始まり、確立されたのは明の張介賓においてである」と書かれている。したがって金元医学を主とする日本の後世派の処方集にも六味丸等の名前は散見されるが、理論的には充分消化されていないのは当然といえよう。この明代における陰陽に対する考え方の新たな展開は、この時代に現れた温病学の理論とも切り離せないように思われる。すなわち『傷寒論』に述べられている傷寒の経過は、あくまで寒という陰邪に陽を侵害されて引き起こされたものであるため、最終的には回陽という治法に帰するのに対し、温病は温熱という陽邪に起因するので、どうしても陰(体液)を消耗しやすく、一貫して補陰という手法が大きなウェートを占めることになり、ここに補陽と補陰の二大補法の原則が確立されたといえよう。

 補陰と補陽
 さて補陰・補陽について述べる前に、今一度気・血、寒・熱と陰陽の関係をまとめ見たい。
 前に説明した図は平面であったため、津液と血が左右に分かれ、少し意味のとりにくい点もあったようだが、気の津液および血は相互に関連、一部は重復し合い、立体的にはこの図(図7参照)のようになるかと思われる。私の個人的な見解では、この重復は気と津液の間が一番大きく、以下津液と血、血と気の順になるのではないかと考えている。

 以前坂口先生が「気血に寒熱をからませたのが面白かった」といわれたが、実はこの関係は、山本巌先生が「気虚に寒が加わったものが陽虚だ」といっておられたのにヒントを得たもので、この図を北京の中医に見せたところ、「これ程単純ではないが、原則的には宜しい」とのことであった。
 すなわち陰陽を考える上では、前に述べた気・血および津液以外に寒と熱とが非常に重要で、陽を補うには補気剤に熱性の薬味を加えることが多く、前に述べた十全大補湯の黄耆(益気)、桂枝(温陽)の組み合わせなどもその例であろう。またこれとは逆に、補陰には滋潤剤と寒性をまった薬物の組み合せ、例えば白虎加人参湯に知母(滋養・清熱)と石膏(清熱・瀉火)等が用いられているのもこのことを物語っている。一方一つの薬物は多種の薬効をもち、目的によっては陰陽相反する場合もしばしばあり、例えば人参は補気(補陽)の作用と同時に生津(補陰)の作用があるため、補気に重点を置くには茯苓を加えて利水をする。また補剤ではないが、三黄といわれる黄連、黄芩、黄柏等には寒(陰)の作用とともに燥(陽)の作用があり、この燥性は陰(血液・津液)を傷害するため、当帰、地黄等の滋潤剤を加えてこの作用を緩和させる。このように、目的によって各薬味の欠点を補い、長所をのばそうという処方上の組み合せはよく見られる。

 六味丸の構成
 六味丸は正しくは六味地黄丸(『小児薬証直抉』:宋)といい、宋代に作られた処方である。後漢に工夫された八味丸(『金匱要略』:後漢)から桂枝と附子とを取り除いただけのものであるが、この間、数百年の年月が流れており、やはり唐代に腎陰の概念が出されてから独立した処方とする必然性が生じたように思われる。
 この処方は、肝、腎、脾三組の補瀉を組み合わせた名方といわれるが、構成する薬味の主な薬効と帰経は表1のとおりである。

 各薬味の上に書いたのが薬効、下が帰経で、主とするものに丸印を付けた。上の段はいずれも補剤で各臓の陰を補い、下段は各々に対する瀉と考えられる。また( )内は薬性であるが、全体的にみると寒熱相半ばし、いわゆる平と考えられ、この処方がいかにすべてに渉ってよくバランスが考えられているかが分る。このようにこの処方は広く三臓の陰を補う処方ではあるが、同時に各薬味はすべて腎とも関連をもち、さらに主薬の熟地黄の量は山薬、山茱萸の倍で、やはり基本的には補腎を目的にしたものといえよう。この処方を見ていると、広く他臓と関連を持つ腎という概念が分ってくるような気もするが、同時に臨床的にあらゆる慢性消耗性疾患に対する基本方として、「久服して安全だ」といわれる意味も理解される。ただバランスがとれすぎて焦点がぼやけるせいか、やや効果が緩慢にすぎ、このため実際応用する際には各種の加減方が工夫されている。また方剤学の本には原方を用いる場合でも、「例えば水腫に対しては茯苓・沢瀉の比率を増すとか、その時の状況によって加減するのがよい」と述べられており、またあくまで方意が大切なので、「個々の薬味自身は地黄は何首烏に替え、あるいは山茱萸を牛膝や女貞子に替える等、適宜置き替えてもよい」とのことである。
 また余談になるが、熟地黄や山薬等粘膩の薬物は痰湿の多い患者には胸に痞えることが多く、対策としては陳皮や砂仁を加えることもあるが、また丸にする方が湯液としてより飲みやすいともいわれている。

 金匱腎気丸(附桂八味丸)と知柏地黄丸(知柏八味丸)
 いわゆる八味丸は『金匱要略』には崔氏八味丸・八味腎気丸(円)および腎気丸(円)という名称で、それぞれ中風歴節風、血痺虚労病と婦人雑病の章に記載されているが、最近の中国では金匱腎気丸という名で呼ばれていることが多い。また現在中国では桂枝と肉桂とは区別され、桂枝の代りに肉桂を用いたものは附桂八味丸と呼ばれるようである。しかし漢代にはこの区別はなく、現在日本ではすべて肉桂が用いられている。ご参考までに中草薬学書による両者の薬効の違いをあげておいて(表2参照)。

 いずれにしても桂・附の組み合わせは温熱剤の代表的なもので、この組み合わせを寒熱の上で平である六味丸に加えて温性(陽性)を付加したものである。
 さて六味丸は前にも述べたように、もともとは腎陰の補剤といわれ、用いられている薬味もすべて補陰の剤から成っている訳で、これに温性を加えただけの八味丸が腎陽の補剤といわれるのは、少し合点がいかない気もする。前に伊藤良先生が「八味丸はあくまで腎気を補うもので、腎陽を補うとはいえないのではないか」と言っておられたが、このことを指しておられたように思われる。方剤学の本には、腎陰と腎陽とは密接な関係があり、もともとは一つのものである。即ちよく陽を補おうとすればまず陰を補わねばならない。」という風に書かれているが、一口に機能とか物質とかいっても、物質を離れた機能はあり得ず、また生体のすべての物質は何等かの意味で機能に関係しているわけで、陰陽の関係も単純には割り切れないようである。しかし、以上から考えると正確には陰陽双補の剤といった方がより適切なのかもしれない。
 さて金匱腎気丸に対してとりあげたいものに知柏地黄丸(『医宗金鑑』:明)、別名を知柏八味丸というのがあり、比較しながら考えてみたいと思う。知柏地黄丸は六味丸が独立した処方となってからさらに数百年たち、明の時代になって滋陰清熱の概念が確立されてから工夫されたものであるが、内容は表3のような構成である。
 知母・黄柏はともに代表的な寒剤で一方は潤性、一方は燥性をもち、またともに腎に入るといったことからもよく用いられる組み合わせで、いろいろな処方の中に見うけられる。この二つの寒剤の組み合わせで、いわゆる命門の火(腎陽)を抑え、六味丸の補陰効果と合わせて陰虚陽亢に対そうとするもので、ある意味では金匱腎気とはまったく正反対の意図をもっている。私はこれをベーチェット病の安定期に入ったものや、糖尿病で熱症が顕著なものによく用いているが、その際は熟地黄(補血、補腎) (微温)を生地黄(滋陰清熱) (寒)即ち乾地黄に変えている。
 中島先生は知母の使用には非常に慎重で、おそらくリュウマチ患者に桂芍知母湯を使われたのだと思うが、「水腫を助長し病状を悪化させたことがある」と何回も注意を受けた。代表的な寒剤で且つ生津作用をもつのであるから、こういうケースも当然考えられ、八味丸と知柏地黄丸がいづれも広く用いられている今日、漢方の薬理に対する知識と正しい使い方は早く普及させる必要があろう。

 その他の加減法
 この他にも六味丸を基とした処方は明清以後多く工夫されているが、そのうちもっとも代表的なものだけをいくつかとり上げてみたいと思う。(表3参照)

 (1) 杞菊地黄丸(『医級』:清)
 枸杞子、菊花はいずれも明目の作用があり、 眼病、眼精疲労等にもよく用いられる。しかしこの二味が処方にとりいれられているより重要な意味合いは、枸杞子の下焦すなわち体の下部に対する補に対し、菊花は頭目、即ち体の上部に対する清熱で、いわゆる陰虚による虚火上炎・上実下虚の病証に対して考案されたものと思われる。この処方は中国で現在各種の疾患に広く用いられているが、例えば高血圧による頭痛等にも、速効性は期待できないが、久服しているとよい場合が多い。

 (2) 麦味地黄丸(『医級』:清)
 六味丸に五味子を加えたものを七味都気丸といってよく端息に用いるが、これにさらに麦門冬を加えたもので八仙長寿丸とも呼ばれている。この麦門冬、五味子という組み合わせは生脈散(『内外傷弁惑論』:金):人参、麦門夏、五味子から出たものと思われるが、ご覧のように麦門冬、五味子はいずれも上焦(心・肺)に対する滋潤作用があり、六味丸の巾を上に広げたものと思われる。なおここで五味子のもつ収斂作用というのは、例えば汗や咳を収めて下痢を止める等の効果をいうが、一種の保護緩衝作用ではないかと思われる。
 ご参考までにこの両者の組み合わせを用いた処方をいくつか上げると、清暑益気湯(『弁惑論』:金)、清肺湯(『万病回春』咳嗽門:明)、清熱補気湯および清熱補血湯(証治準縄:明)等で、いずれも清熱と滋陰を兼ねた処方である。
 したがって麦味地黄丸は都気丸とともに永くつづいた乾性の咳等に用いられるが、その他知柏地黄丸を用いる程の熱症はないが、上焦の津液欠乏が強く、口が乾く、舌が紅い、舌苔が少い等、老人による見られるような症状があれば咳はなくても使用できる。私も糖尿病等にもよく加減して用いているが、この際も熱症があれば熟地黄を乾地黄に変え、あるいは両者半々にする等工夫している。

 (3) 帰芍地黄丸(『中国医学大辞典』:民国)
 この処方は前の二つ程有名なものではないが、当帰、白芍に六味丸の熟地黄を合わせれば四物湯から川芎を除いたものとなり、四物湯と六味丸との合方に近いとも考えられる。六味丸に養肝補血の作用を加えたものであるから肝腎陰虚証に広く適用され、例えば慢性肝炎の軟解期待等で、検査成績は大むね正常だがなお陰虚の症状があるといった場合とか、応用範囲の広い方剤なので紹介しておく。
 以上いくつかの処方をとり上げたが、前に述べたよ乗に六味丸は方意さえつかめば加減は適当に行えばよいとされており、また成方として他にも柴芍地黄丸、参麦地黄丸、あるいは八味丸を基にした済生腎気丸等いくつもある。

 左帰飲(丸)と右帰飲(丸)(『景岳全書』 :明)
 最後に明代の名医張介賓(景岳)が、この六味丸・八味丸を基礎に、各々の効果を強めるため、どのように加減しているかを、彼の右帰飲(丸))、左帰飲(丸)をとり上げて一連の表にしてみた。

 補腎陰
 左帰飲<補>熟地、山薬、山茱萸
     <瀉>-、茯苓、-
     <加味>甘草


 左帰丸<補>熟地、山薬、山茱萸
     <瀉>-、-、-
     <加味>菟絲子(陽)、鹿角膠(陽)、亀板膠(陰)、枸杞子(陰)、牛膝(陰)


  補腎陽
 右帰飲<補>熟地、山薬、山茱萸、肉桂、附子      <瀉>-、-、-
     <加味>杜仲(陽)、枸杞子(陰)

 右帰丸<補>熟地、山薬、肉桂、附子
     <瀉>-、-、-
     <加味>鹿角膠(陽)、菟絲子(陽)、途中(陽)、枸杞子(陰)

 すなわち六味丸・八味丸から瀉の部分を去り、これにそれぞれ補陰および補陽の薬味を加えている。各薬味の後の(陰) (陽)はそれぞれ補陰、補陽を表わすが、陰陽双補のものは主とする方をとった。そしてここにみられるように、腎陽の補にも決成て補陽剤だけに偏らず、補陰剤を適当に混ぜて、あるバランスを保つよう工夫しており、これが中国における陰陽の考え方だと思われる。
 なお飲即ち煎剤より丸剤の方が薬味が多く、より復雑になっているが、このことについて中国では一般に急性病には吸収の早い煎剤を、慢性病には丸剤や膏剤をいわれる練り薬を用いる傾向があり、そして一方、急性病には、大剤といって薬味の種類が少なく、一味一味の量の多いものを用い、慢性病には小剤といって、薬味の種類が多く、一味一味の量の少いものを用いるとされ、これらのことから一般に丸薬には多種の薬味が含まれていることが多いようである。左帰・右帰の飲と丸二組の各々の適用を考える際には、こういった面からの検討も必要なように思われる。


※『小児薬証直抉』? 『小児薬証直訣』の誤りか?



『■重連処方解説(84)』
六味丸(ロクミガン)・牛車腎気丸(ゴシャジンキガン)
日本東洋医学会評議員 三谷和合
■六味丸・出典・構成生薬
 六味丸(ろくみがん)は,地黄(ジオウ),山茱萸(サンシュユ),山薬(サンヤク),牡丹皮(ボタンピ),沢瀉(タクシャ),茯苓(ブクリョウ)の6味からできている処方です。
 漢方で使用する薬方のほとんどが,いくつかの生薬の組み合わせによるものです。したがって,こうした薬方の成立過程を考えた時,まず単味生薬の薬効の知識があったはずです。続いて2味の薬効,薬剤の知識があり,さらに3味,4味と加味された薬効の知識があって,漢方が生まれてきたと考えられております。
 多種類の使用物質が配合された場合,その効果がそれぞれ単独に用いる場合より増強される事実に対して,ヴィルギの法則(1926)という薬理学上の通則が提唱されています。作用点も作用機構も同じ2種類以上の薬物を混ぜて用いた場合は,その効果は相加されるに過ぎませんが,作用点または作用機構が異なる薬物を混ぜて用いた場合には,その効果は相乗されることがあります。これは薬物の協力作用と呼ばれています。逆に薬物を配合することによって,拮抗作用の現われることもあります。漢方ではこういう薬物の相互作用について,すでに『神農本草経(しんのうほんぞうけい)』序録に7通りに分類しております。つまり単味の作用を単行,助け合うことを相須,協力的な場合を相使,拮抗しあう場合は相反といった組み合わせです。
 さて六味丸に桂枝(ケイシ)と附子(ブシ)を加味したものが八味丸(ハチミガン)です。 薬方の成分過程から考えますと,八味丸は『金匱要略』(後漢末)にすでに記載されているのですが,六味丸は宋代銭仲陽(せんちゅうよう)の『小児薬証直訣(しょうにやすしょうじきけつ)』に初めて記載されています。したがって,六味丸は八味丸より桂枝,附子を抜いた薬方であると説明されています。なお八味丸では乾地黄(カンジオウ)が使用されていますか,六味丸では熟地黄(ジュクジオウ)が用いられています。
 文献上の記載は今述べましたように,八味丸の方が古いのですが,八味丸の薬効が理解される以前すでに六味丸の薬効がわかっていたであろうと考えるのが妥当でしょう。
 八味丸と六味丸の薬効の違いは,明代の名医張介賓(ちょうかいひん)によれば「仲景(ちゅうけい)の八味丸火を益すの剤なり。銭氏の六味丸,すなわち水を盛んにするの剤なり」 と述べています。別の表現をしますと,八味丸は陽虚の薬であり,六味丸は陰虚の薬ということになり,老人には八味丸,小児には六味丸というわけです。銭氏の六味丸を与える証は次のようです。「それ人の命は腎を以て主となし,六味丸は水を盛んにして火を抑制するの剤なり。もし腎が虚して発熱し,口渇を訴え,小便淋瀝して閉し,痰が咽喉につまり,咳嗽吐血し,頭重眩暈し,耳鳴,耳聾,弱視,咽燥痛み,口舌瘡し,歯堅固ならず,腰脚痿弱,五臓虚損し,自汗,盗汗,便血,諸血およそ肝経不足の証,もっともこれを用うべし,けだし水よく木を生ずる故なり。これ水泛(うか)んで痰となるの生薬,血虚発熱の神剤であり,また肝腎の生血不足して虚熱,床に立つことあたわざるを治す」とあります。

■薬能薬理
 さて六味丸の君薬は地黄です。地黄は『神経本草経』上品に収載されています。 その修治の方法によって,生地黄(ショウジオウ),乾地黄,熟地黄に分類されております。日本薬局方では,乾地黄,熟地黄の2つは,外観は異なりますが,成分的にはマンニットとして大差がないため,両者を地黄としてまとめて規定しています。生地黄は保存に耐えませんので,薬用には使用されておりません。中国では修治によって薬効は異なるとされています。つまり乾地黄は清熱,涼血に,熟地黄は補血,滋陰に適しているとして,虚寒証には熟地黄,熱証には乾地黄を用いています。この見解によれば,六味丸は乾地黄を用いて,八味丸には熟地黄を用いた方がよいということになります。
 地黄は消化吸収を抑制しますので,胃腸機能が弱い人,食欲不振,下痢傾向の人には与えられないといわれていますが,これにこだわることはないでしょう。補血,強壮,解熱,止血剤として貧血症,虚弱者に用います。古くは経験的に熟地黄は虚端を治す良薬であると述べられています。
 臣薬として山茱萸と山薬があります。山茱萸は『神経本草経』に蜀酸棗(ショクサンソウ)の名で掲載されています。滋養,収斂など肝腎の補液作用があります。また酸味を帯びているため,とくに肝に働くとされています。地黄,山薬と協同して頻尿,夜間尿,眩暈,耳鳴,腰,膝の鈍痛などに効果があるとされています。山茱萸は補益力が十分ありますが,薬性はおだやかで,しかも抗菌作用も持っています。さらに血流を促進させるたもの解表効果もあります。
 山薬は『神経本草経』上品に,薯蕷(ショヨ)の名で記載されています。 滋養,止瀉,去痰作用があり,一般的な補益の薬物として脾胃の虚証に用いられます。つまり虚労を補い,消化を助け,気分を増し,筋肉を強めます。
 以上の3つの生薬が,滋陰の効能があり,六味丸の君臣の剤としての三補の薬物です。これに清熱涼血作用の牡丹皮,清熱利水作用の沢瀉,利水剤の茯苓の3者が佐使剤として六味丸を構成しています。
 牡丹皮は『神経本草経』中品に記載されています。方剤書では『傷寒論』より以前に現わされたと考えられる『武威医簡』(後漢前期)にも牡丹皮が配剤された薬方があります。しかし『傷寒論』には桂枝茯苓丸(ケイシブクリョウガン)大黄牡丹皮湯(ダイオウボタンピトウ)温経湯(ウンケイトウ)八味丸,鼈甲煎丸(ベッコウセンガン)の5つの処方のみに配合されています。吉益東洞(よしますとうどう)は『薬徴(やくちょう)』で牡丹皮が君薬になっている方剤がないため,「主治は不明である」と述べています。当帰(トウキ)や川芎(センキュウ)についても主治を省略しています。桃仁(トウニン)に至ってはいっさい記述されていません。
 こうした駆瘀血薬は,現在の漢方診療で多用されているにもかかわらず, 実証の瘀血には牡丹皮,桃仁,虚証の瘀血には当帰,川芎としか分類されていません。最近の薬理実験によって,漢代以降の本草書に記載されている薬能が徐々に解明されて、立証されつつあります。こうした面から逆に瘀血の病理も推測されています。牡丹と芍薬はともにボタン科ボタン属の多年性植物で,前者は根皮を,後者は根を薬用にしています。牡丹皮の主成分はpaeonol,芍薬の主成分はpaeoniflorinであり,互いにそれらを共有しています。したがって,薬効も比較的似ています。消炎作用は牡丹皮が優れ,抗痙攣による鎮痛作用は芍薬が優れていることが推測できます。
 薬能から見ますと,芍薬は補血と鎮痛が主体になり,牡丹皮は消炎,涼血が主体になります。この牡丹皮の涼血しながら,血行を促進する効能は,桂枝と併用することによって一層高まります。この働きは八味丸とか桂枝茯苓丸に応用されています。牡丹皮の清熱,涼血,活血して瘀血を去る働きにより,午後に高くなる発熱に用います。
 沢瀉は『神経本草経』中品に記載されています。李時珍(りじちん)はこの薬効を「水を去ることを瀉といい,沢水が瀉(そそ)ぐがごとし」と述べていますように,利水作用です。沢瀉と同様に利水作用を有するものに茯苓とか猪苓(チョレイ)があります。茯苓との比較では,利水作用は共通ですが,茯苓には健脾,強壮,鎮静作用があるのに対し,沢瀉には内の熱をさます作用があります。したがって沢瀉は熱状を有する陽証の場合によいわけです。つまり清熱、利水作用といえます。古人は沢瀉が消渇(糖尿病でしょうか)に効果があると述べています。最近の動物実験でも,沢瀉に血糖降下作用のあることが明らかにされています。しかし臨床上,沢瀉を糖尿病の主薬としては使用しておりません。
 茯苓は『神経本草経』上品に記載されています。『史記(しき)』には伏霊とあり,松の神霊の気が伏結したものという意味です。利水,滋養,鎮静作用がありますが,ジギタリスに似た強心作用もあります。

■古典・現代における用い方
 古代の中国人にとって体の理解は,近代西洋医学における解剖学的臓器とはまったく異質の考え方です。生体を漠然と陰と陽といった立場で観察しています。陰は水,陽は火ともいえます。生体の中で水と火が平行してバランスを保っている状態が健康です。水に対して相対的に火が多過ぎる病態が陰虚であり,六味丸証になります。体の中に火が燃えあがるために熱を感じます。特に腰から熱い感じが起こってきます。腎から生じた水が少なくて,火が燃えあがっている病態ですから,陰虚火動ともいっています。これとは逆に,火に対して相対的に水が多過ぎますと,腰から下が冷えやすくなる陽虚証であり,八味丸の適応です。
 古代の中国人にとって腎は水を主り,五臓六腑の生を受けて,これを臓すると考えています。つまり腎は生体の水分を主宰するということで,現代医学の腎(niere)の働きに似たものを考えています。さらに腎は,それ自身の活動に必要は精気を有するだけでなく,五臓六腑からそれぞれの精気を受けて,合わせてこれを蔵するというわけです。
 つまり、西洋医学的に考えてみますと,代謝の中心である肝(liver)の働きを腎で行っていたと誤解していたのではないかと考えさせられます。生体の中で相対的に火が水より多いとか,少ないといった考え方は,近代西洋医学的な立場ではほとんど説明できません。
 しかし実際の臨床では,こうした立場で病人を見ておりますと,それなりに納得てきる場合が少なくありません。たとえば,ちょっと疲労して休養が必要だと感じている時に,どうしても働かなければいけないということで無理をしますと,腰から足が熱く感じてきます。過労した時には,足蹠から下肢,腰が熱くなるわけです。これが陰虚火動の徴候と見ています。休養すればよいのでしょうが,さらに無理を重ねますと,出血しやすくなります。
 こういう病態に六味丸がよく効きます。こういう病態を病名的に考えてみますと,肺結核の初期症状によく似ているように思います。何となく体がだるくと,ほてってくる,いわゆる休の熱感です。また頭がボーッとして,思考力が減退し,腰から膝にかけてだるくて仕方がない,のどが乾いて寝汗が出やすいなどといった徴候です。結核の治療では,洋の東西を問わず,古くは難儀したわけですが,ごく初期に十分な栄養とともに六味丸を与えれば多分よかったのではないかと考えています。
 六味丸は,6味の薬物の配合作用により,陰虚火動,つまり慢性消耗性疾患,慢性炎症に見られる発熱,口渇,小便頻数,浮腫,盗汗,眩暈などを目標に与えられらます。銭仲陽が六味丸を用いた目標は,小児の泉門閉鎖遅延,足の発育の悪い歩行遅延,歯の生えるのが遅い,あるいは言語の遅れなど腎虚証です。婦人に多く見られる慢性の腎盂腎炎,腰痛にも有効です。腎盂腎炎の場合,抗生剤がまず用いられていますが,慢性化して抗生剤を使いにくい時に,清熱,消炎作用のある六味丸を使用します。高熱の時には知母(チモ)と黄柏(オウバク)を加えた知柏六味丸(チハクロクミガン)はよく効く薬です。




【副作用】
1) 重大な副作用と初期症状
  特になし


2) その他の副作用
消化器: 食欲不振、胃部不快感、悪心、嘔吐、下痢

[理由]
本剤には地黄(ジオウ)が含まれているため、食欲不振、胃部不快感、悪心、嘔吐、下痢等の消化 器症状があらわれるおそれがある。
また、本剤によると思われる消化器症状が文献・ 学会で報告されている。

[処置方法]
原則的には投与中止にて改善するが、病態に応じて適切な処置を行うこ



2014年1月9日木曜日

竜胆瀉肝湯(りゅうたんしゃかんとう)(一貫堂方(いっかんどうほう))の効能・効果と副作用

『漢方一貫堂の世界 -日本後世派の潮流』 松本克彦著 自然社刊
 竜胆瀉肝湯
 さて最後はいよいよ竜胆瀉肝湯で、中島先生が解毒剤三方のうち、殆どこの方だけを使っておられることは前に述べた通りである。
 この竜胆瀉肝湯という方名は、他の二方に比して昔から有名であったらしく、『古今方彙』にも、便血、下疳、淋証、疔瘡、帯下と各門で取り上げられ、『衆方規矩』にもその名が見えている。また海の向うの現代中国でも、袪湿熱の代表方として大抵の方剤学書にその名が載っており、『実用中医学』では汎用方として星印まで付いている。しかしその出典、内容については少しずつ違いがあり、今回整理を試みた。
 即ちまず古い方から取り上げると、『古今方彙』の便毒門に、
 『本方竜胆瀉肝湯
 肝胆経に薀熱するもの、
 柴胡梢、沢瀉、車前子、木通、生地、当帰、竜胆。
 水煎」
という七味からなるものがあり、出典は李東垣の『蘭室秘蔵』となっている。
 中草薬学書には、「春柴胡、軟柴胡、南柴胡、細柴胡は生で用い茎葉を使用する」と書かれているので、柴胡梢はよいとして、何よりも補中益気湯の李東垣がこんな方をとややそぐわない気がし、間違いではないかと考えたがこの書がなく、確かめようもない。ただ『万病回春』にも次のような文がある。
 「李司馬(東垣のことか)茎中痛みをなし、小便淋の如く、口乾き痰を唾(つばき)するは、これ色を思い精降りて火敗る。補中益気湯六味地黄丸を用いて癒やす。
 男子茎中痛み、白津を出して小便閉ずる時癢(痒)をなす。小柴胡湯を用い、山梔子、沢瀉、炒黄連、木通、竜胆草、茯苓を加え、また六味丸を兼ねて痊(い)やす。」
 この内どこまでが李東垣についての文かは分からないが、これから見ても、甘温除熱の李東垣もまんざら無縁のものとは思われず、この方の源もまた、遠く金元の李朱学派に端を発するようである。
 『衆方規矩』の外科門に、
 「下疳、便毒を治す。兼ねて淋病を治し、前陰臭臊なるを治す」
として挙げられているのもこの李東垣の処方である。
 しかし『古今方彙』の多くの門に出ているのは別の処方で、その原典として柴胡清肝散と同じく、「薛氏十六種」を挙げており、これもそのうちの『外科枢要』からかと思われる。しかし、この書もなく、一部に龔廷賢の『済生全書』を挙げている個所もあるため、ここでは『済生全書』の条文を掲げておこう。即ちその便毒門に、
 「竜胆瀉肝湯
 肝経の湿熱にて、両柪(股または胯のことか)腫痛し、或は腹中疼痛し、或は小便渋滞するを治す。兼ねて玉茎瘡を生じ、或は便毒、懸癰、嚢癰にて腫痛潰爛し、睾丸に懸け掛るを治す。
 竜胆草、沢瀉各一銭。車前子、木通、当帰、生地黄、山梔子、黄芩、甘草各五分。
 右水煎し空心に温服す」
とあり、この便毒については本文中に、
 「夫れ便毒は、小腹の下、両腿合縫の間に生じ、その毒初め寒熱を発し、交も腿の間に腫起疼痛をなす。これなり」
ということで、当時各種のいわゆる性病に当てられたのであろうが、前方から柴胡梢が除かれ、代わって山梔子、黄芩、甘草が加えられ、合計九味からなる。
 また現代中医学書に出ている『医宗金鑑』の竜胆瀉肝湯というのでは、この柴胡が再び復帰して、合計一〇味になっているようである。
 しかし、日本で竜胆瀉肝湯といえば、以上の条文通り、膀胱炎や睾丸炎、帯下、あるいは下半身の湿疹等にのみ用いられるのに対し、中国での応用範囲はかなり広い。
 『中医方剤学』(南京中医学院)によれば、
 「本方の証は肝火に兼ねて湿熱を挟むことによって生じる。即ち肝火が上逆すれば、脇痛み、口苦く、心中は煩熱し、目赤腫痛、耳聾耳腫が起る。また湿熱が下注すれば、淋濁尿血を生じ、陰腫陰痒し、嚢癰や便毒等の証が現れる。
 この方は肝火を瀉し、湿熱を利する功があり、その為上逆した諸証はすべてこれを治しうる訳で、肝火を降し、湿熱を清(さま)せば、諸証は自ら癒える。
 また本方の肝火を瀉す力は非常に強く、およそ肝経実火の証で津液がまだ傷れていない者は、すべてこの方で苦寒折熱してよいが、苦寒はまたよく胃を損うため、病に適中した時点ですぐ止める方がよく、過剤を用いてはならない。」
としており、実際の中国では、下焦つまり下半身の疾患だけでなく、咽頭部(五官科学)や鼻部(実用中医学)の疾患、さらには各種の皮膚疾患などにも広く利用されている。最近、大阪大学の眼科でベーチェット病の権威である三村康男先生が、本病によくこの方剤エキスを出しておられるが、これで見るとまさしく正解で、中島先生も以前からこの疾患に防風通聖散と合方して用いておられる。防風通聖散荊芥連翹湯さらに洗肝明目散との類似性を考えれば、この二方の合方の意味はよくご理解いただけるであろうが、この場合、上焦眼部の症状が強ければ通聖散の比重を増し、下焦である陰部潰瘍が主な場合は竜胆瀉肝湯にウエートとを置くといった匙加減もよい。また防風通聖散には大黄、芒硝といった瀉下薬があるため、下痢しやすいものでは、これを荊芥連翹湯洗肝明目散に代えるといった配慮も必要だろう。いずれもエキス剤であるため是非試行をお勧めする。速効あるいは大きな効果は望めないにしても、久服させていると確かによいようで、私は全身症状には漢方薬がよく、ブドウ膜炎にはコルヒチンの方が効果が鋭いと考え、この両者を併用していることが多い。
 なお中島先生あるいは我々が使用している竜胆瀉肝湯は、一貫堂の加減方で、市販のエキスは薛立斎の原方であるため、両者に若干の違いはあるが、実はこの薛己の方に防風通聖散あるいは荊芥連翹湯を加えると、黄連、黄柏を除いて一貫堂加減の薬味はそろい、ほぼ一致するのである。どうしても完全に一致させたい場合は、これにさらに黄連解毒湯でも加えればよいであろう。
 さてこの一貫堂加減であるが、薛己の原方に、まず川芎、芍薬、黄連、黄柏を加えて温清飲を完成させ、連翹と薄荷葉の辛涼を加え前二方にそろえている。ただしこれに柴胡清肝散ではわざわざ去った防風を再び付け加えているがこれは防風には発表の作用とともに、肝、脾、膀胱に入って止血、止瀉の効能があるといわれ、下焦に重点を置く本方で主に後者の薬効を取って便血や崩漏に対する備えを強めたと思われる。
 即ち全構成は、
  黄連解毒湯・・・・・・・・・・清熱解毒
  四物湯・・・・・・・・・・・・・・柔肝養血
  薄荷、連翹、竜胆・・・・・清熱瀉火
  沢瀉、木通、車前子・・・泄熱利水
  防風・・・・・・・・・・・・・・・・・止瀉止血
  甘草・・・・・・・・・・・・・・・・・諸薬調和
で、中島先生の湿熱を「下に利す」といわれた意味は一目瞭然である。
 ところで以前中島先生が、「竜胆瀉肝湯は六味丸ですから」といわれたことを紹介したことがあり、これについて京都の江部先生ご兄弟が名言だとすっかり感心しておられた。つまりこの方は沢瀉、車前子、木通さらに防風といった腎、膀胱に入る薬味をそろえ、肝胆に入る竜胆、連翹を組ませて、全体として肝腎の熱を清す形となっている。したがって六味丸の適応症、肝腎陰虚による虚火上炎の証と清熱という点では共通するところがあるのである。
 そしてさらに中島先生が三方の清熱剤の中で最終的にはこの方だけに限定しておられるのは、下焦の熱を清せば、全体の熱も下るという確信からではないかと思われ、この点北京の名中医楊甲三先生が、「下を手当てすれば、上は自(おのず)から治る」といって、六味丸加減ばかりを使っておられたのと相通じることころがある。期せずして日中両国の名医が到達されたこの境地には、実は長い歴史的背景があるのである。以下ややむずかしくなるが、これを追ってみよう。
 先日『註解傷寒論』の読書会でちょうどこのような節にぶつかった。
 「(本文)若(も)し脈浮にして発熱し、渇して飲水を欲し、小便利せざる者は、猪苓湯之を主る。
  (註解)これ下した後は、客熱下焦に客するものなり、邪気は表より裏に入り、下焦に客し、三焦はともに熱を帯びるなり。脈浮にして発熱するは、上焦の熱なり。渇して飲水を欲するは中焦の熱なり。小便利せざるは邪下焦に客し、津液下に通ずることを得ざるなり。猪苓湯を与えて小便を利し、もって下焦の熱を瀉すなり」
 註解者の成無己(一〇五六-一一六七・正確には不明)は、北宋、晋、金代の人といわれている。
 次いで以前紹介したが、金元時代の李東垣(一一八〇-一二五一)の『脾胃論』からもう一度一部を再録してみる。
 「火は元気の賊(敵)なり。……元気不足すれば心火独(ひと)り盛ん。心火は陰火なり。下焦に起り、その系は心に系る。心令(役目)を主らざれば相火これに代る。相火は下焦を包絡する火にして元気の賊なり。火と元気をこれ両(ともな)わず。一勝てば一は負く」
 さらにこの後を受けて李朱医学のもう一人、元代の朱丹渓(一二八一-一三五八)の主説を『中国医学史略』から引用する。出典は主に彼の『格致余論』によっている。
 「人身の火に二つあり、一は君火なり、一は相火なり。君火は心火なり。相火は肝腎にあり。膀胱、三焦、心包、胆にもまた相火あり。
 相火は動を主る。天にこの火あらざれば、物を生ずること能わず、人にこの火あらざれば、生あること能わず、故に相火の動節に中(あた)れば(適当である)これ生生して息(やす)まざるの運用なり。
 五性物に感ずれば心火動じ易く、心火動ずれば相火また動ず。相火妄動(走り回る)すれば陰精自ら走る。陰虚すれば則ち病(や)む、陰絶えれば則ち死す……。」
 つまり中島先生は相火の妄動を抑えることを主とされ、楊先生は陰精を補うことに意を用いておられるが、目指すところは一つである。ただし竜胆瀉肝湯の原方は、中医学書の注意書きにもあ改aたように、あくまで津液がまだ敗れていない実火に対する処方であるため、一貫堂では芍薬、川芎を加えて四物湯の形を整え、この欠点をやや補っているのである。
 即ち一貫堂の解毒三方は、それぞれ清熱解表、清熱袪痰、清熱利湿という実火を対象とした激しい清熱剤を選びながらも、一方で四物湯を加えて久服に耐えられるよう工夫し、いわば攻中の補といった形にしていることが共通した特長である。そしてまたこの解毒三方に見られる上から下へ、表から裏へという配列は、前に述べた分心気飲から養胃湯、そして分消湯という一連の理気利水剤の配列とまったく同じパターンを取っていることに、すでにお気付きの方もあるであろう。
 


『漢方一貫堂医学』出版 石原 明
 竜膽瀉肝湯も一貫堂で使用するものは『万病回春』の原方とは、その処方が多少異なり、やはり四物解毒湯が基本になっています。したがって原方の竜膽瀉肝湯よりは運用範囲が広く、上記の症状を治すばかりでなく、そのような体質をも改善する効があるのです。   竜膽瀉肝湯証の者はやはり解毒証体質でありますから皮膚の浅黒いものが多く、また比較的実証タイプのものに用いるのです。以上の五万が瘀血証体質、臓毒証体質、解毒証体質の三大証に対する一貫堂医学の主力ですが、これらのものは、それぞれ単独に用いるばかりでなく、通導散防風通聖散の合方、また竜膽瀉肝湯と通導散の合方というように、しばしば合方して用いる場合も少なくありません。



明解漢方処方 西岡 一夫著 ナニワ社刊
p.126
竜胆瀉肝湯(りゅうたんしゃかんとう) (一貫堂家方)

 処方内容 当帰 芍薬 川芎 地黄 黄連 黄柏 黄芩 山梔子 連翹 薄荷 木通 防風 車前子 甘草各一・五 竜胆 沢瀉各二・〇(二五・〇)
 
 必須目標 ①壮健体質(皮膚浅黒く、胃腸丈夫で脉証も腹証も緊張している) ②泌尿器疾患 ③精神不安 ④右腹直筋拘攣

 確認目標 ①手掌足心が湿潤 ②帯下または膿尿 ③鼠蹊淋巴腺腫張 ④下半身、ことに足に乾性皮膚病がある。

 初級メモ ①本方は森道伯氏が温清飲を基礎に創作された一連の解毒処方の一つで、泌尿器系に働く竜胆、車前子を加え、主として泌尿器の炎症、化膿に用いられる。
 ②経絡説によれば下部の湿熱は肝経に属しており、故に本方のような解毒、清熱剤が適することになる。
 ③もし陰実体質で類似の証なら八味丸、陰虚体質なら清心蓮子飲を考える。

 適応証 急性尿道炎。淋疾。膣炎。膀胱炎。

 文献 「柴胡清肝散」の項参照
     「漢方一貫堂医学」矢数格(医道の日本社) 柴胡清肝散、竜胆瀉肝湯、防風通聖散など一貫堂家方について詳細に解説されている。





医療用漢方製剤
コタロー竜胆瀉肝湯エキス細粒
 
効能 ・ 効果 :
比較的体力 のあるものの次の諸症 : 尿道炎、膀胱 カタル、膣炎 、陰部湿疹、こしけ、陰部痒痛 、子宮内膜炎 。




漢方一貫堂医学 矢数 格著 医道の日本社刊
p.41
 龍胆瀉肝湯証
 竜胆瀉肝湯証は、同じく解毒証体質でも結核性疾患とは比較的比関係である。たまには壮年期の肺尖カタル、腎臓結核、睾丸結核、結核性痔漏、女性の病症腹膜炎等に応用されることもあるが、概して婦人病や泌尿生殖器病、花柳病などに運用される。しかも処方構成の上から言つて、下焦、すなわち臍部より下の疾病によく用いられる。
 竜胆瀉肝湯は元来下疳(げかん)(梅毒潰瘍)の処方であるが、これを四物黄連解毒剤加減と変方したものがわれわれの用いるところのものである。泌尿生殖器病は肝臓の解毒作用を必須とし、腹診上著明な肝経の緊張ないし肝臓腫大を認めるものである。そして、ただ泌尿生殖器に限らず、肝経の緊張を来す疾患で、つぎに述べる竜胆瀉肝湯証の固有証ともいうべきものを呈するものに竜胆瀉肝湯を応用するのである。
 望診 竜胆瀉肝湯証の者はやはり解毒証体むであるから同様に皮膚の色は浅黒い。であるから、青年期以後の男女で、皮膚の色の浅黒い者は多少にかかわらず竜胆瀉肝湯証を持つているものと認めてさしつかえない。
 脈診 竜胆瀉肝湯証の脈は緊脈である。また淋疾を病む者はポカリポカリとした中湿の脈と同様の脈状を呈するものもある。一貫堂では同様湿脈と呼んでいるが、中には緊脈と湿脈とをかねた性状を帯びる者もある。
 腹診 竜胆瀉肝湯証の腹証は肝経の顕著な緊張を認める。図に示すように、臍下、臍傍より両脇下にかけて著明な抵抗を触れる。すなわち、病毒が肝経を伝つて肝臓に伝搬され、肝臓において解毒作用が行なわれている証拠である。  龍胆瀉肝湯証のかかり易い病気  竜胆瀉肝湯証のかかりやすい病気を挙げれば、結核性疾患-肺尖カタル、腎膀胱結核、睾丸結核、結核性痔漏、軽症肋膜炎、腹膜炎等のあるもの、痔核、痔漏、眼病、胃病、淋疾、膀胱炎、睾丸炎、梅毒、女性泌尿生殖器炎性疾患のほとんど全部といつたところであろう。

 p.63
 (三)龍胆瀉肝湯  竜胆瀉肝湯は解毒証体質の下焦の病気に主として用いられ、したがつて、小児期にはそのような病気は稀れであるから、竜胆瀉肝湯は青年期以後に応用されることが多いのである。
  竜胆瀉肝湯の処方は、当帰、川芎、芍薬、地黄、黄連、黄芩、黄柏、梔子、連翹、甘草、薄荷葉、竜胆、沢瀉、木通、車前子、防風、各一・五以上十六味、各等量一日量である。
  すなわち、四物黄連解毒湯から柴胡を去つて、薄荷葉、竜胆、沢瀉、木通、車前子、防風を加えたものであるから、荊芥連翹湯より荊芥、桔梗、白芷、枳殻の治風剤を去り、竜胆、沢瀉、車前子、木通の竜肝利水剤を加えたことになるのである。処方中、
 竜胆は「大苦大寒、沈陰下行す。肝胆を益して火を瀉す。兼ねて膀胱腎経に入り、下焦の湿気を除く。」とあり、
 沢瀉は「甘淡鹹。膀胱に入りて小便を利し、腎経の火の邪を瀉す。」
 清渇、嘔吐、瀉利、淋瀝、尿血、洩精、痰飲、陰汗、腫脹、水痞、疝痛、脚気、湿熱の病を治す。」とあり、
 車前子は「甘寒、肺肝の風熱を清し、膀胱湿熱を滲し、小便を利して気走らず、湿痺、癃閉、暑湿、瀉利、目赤、障翳を治す(能く肝熱を除す)」とある。
 また、「万病回春」の便毒の項に竜胆瀉肝湯について、
 「肝経の湿熱、或は嚢癰、便毒、下疳、懸癰、腫痛焮作(やくがごとくおこり)、小便渋滞、或婦人陰癃痒痛、或男子陽挺腫脹、或は膿水出ずるを治す。
 車前子、木通、地黄、帰尾、山梔子、黄芩、甘草各二・〇、沢瀉、竜胆草、各三・〇、以上九味一日量」とある。

 湿熱とは花柳病性の熱毒のことで、この毒は肝臓に伝搬されて解毒作用が行なわれるので肝経湿熱と言うのである。また嚢癰とは、淋毒性副睾丸炎のことで、便毒とは現代の横痃のこと、下疳はやはり現代の下疳のことである。また懸癰とは一つは懸壅垂の瘡を意味するが、この場合は会陰部の癰を指すのである。
 すなわち、竜胆瀉肝湯は、副睾丸炎、横痃、下疳、淋疾、会陰の癰、婦人外陰部の炎症等に用いられたのである。
 「外科正宗」の竜胆瀉肝湯は、同方にさらに黄連、連翹、大黄を加えている。
 以上二処方の合方より大黄を去り、川芎、芍薬を加えて、四物湯とし、黄柏を加えて黄連解毒湯とかえ、さらに防風薄荷葉を添えたものが我々言う竜胆瀉肝湯である。「牛山方考」の竜胆瀉肝湯と比べれば、それは全くの瀉肝導水剤であつて、方中黄連解毒剤は全く除外されているのである。
 柴胡、沢瀉、車前子、木通、地黄、当帰、竜胆草青:
 この方処では治淋剤としては効があるかもしれないが、そのほかの応用範囲が狭ことと、薬理の上で不備をまぬがれないと思う。
 そこで、我々の用いる竜胆瀉肝湯の特色を述べると、それはまず第一に四物黄連解毒湯を基本とすることで、したがつて、この方が単に花柳病治剤に止まらず、その他いろいろな病気に応用され、また長期の連用に堪え得られるので、解毒証体質の主宰薬剤たりうることは一つにはこの点にあるのである。
 経験によれば、解毒証体質者は淋病に罹患し易い傾向がある。
 この病理は、この体質者が持つている体毒(すなわち解毒)のためだと解せられ、一貫堂では、竜胆瀉肝湯方に黄連解毒剤を加味することになるので、また、四物湯とする理由は、竜胆瀉肝湯が、比較的強い肝臓攻撃剤であるから、肝血を和して、この鋭鋒を矯めんがためにほかならないのである。

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 第三類 竜胆瀉肝湯
 内科 
 肺結核
 肺尖カタルの時期に、壮年期の者で竜胆瀉肝湯証を呈するものがある。この程度の肺結核は治し易い。

 心臓病
 心臓病に肝臓肥大を伴うことは必発の症候であるが、漢方医学的病理からするならば、これは木生火の関係であって、肝臓は心臓の母であるから、子供の病気は母親に影響することもちろんである。このような肝臓欝血は肝経に緊張を来すので、竜胆瀉肝湯加減を用いるときは心臓病の症状を軽快させることができるのである。
 解毒証体質の胃腸病の中に、肝臓を主とし胃を従とすべきものがある。すなわち竜胆瀉肝湯証を呈する胃腸病は、直接に脾胃に向かつて処方することは当をえないので、本方によつて肝を理して治すものがある。

 瘧疾中、腎盂炎はこの竜胆瀉肝湯の治す処である。

 婦人の腹膜炎と診断されるもので、たんに肝経の緊張にすぎないもの、すなわち竜胆瀉肝湯証を呈するものもまた本方の治すところである。

 痔核、痔漏は解毒証体質の者に来やすく、本方と防風通聖散との合方が用いあれることがある。

 解毒証体質者の眼病、特に結核性角膜炎が多いが、これに用いる洗肝明目湯はこの竜胆瀉肝湯加蒺藜子、菊花、荊芥、石膏、決明子、木賊、羗活、蔓荊子、桔梗、大黄である。

 婦人科
 婦人科における竜胆瀉肝湯の応用は極めて広いが、単独で用いられる場合は少なく、ふつう通導散または防風通聖散と合方されることが多い。

 崩漏
 四物黄連解毒湯(温清飲)で治す子宮出血に本方加桃仁、牡丹皮、紅花を用い、また通導散を合方して止血を図ることがある。

 帯下
 帯下を来す病気に通導散と合方して本方を用いることの多いことは、すでに通導散の項で述べた通りである。特に淋毒性帯下には本方が必要である。また、婦人生殖器の炎症性疾患には、そのほとんど全部に本方を用いると言つてもよいほどである。しかし、その際に、いろいろな兼用が必要であることは言うまでもない。

 外科
 嚢癰
 特に淋毒性副睾丸炎には不可欠の処方である。同時に精系炎を治すことはもちろんで、本方加山帰来、薏苡仁、大黄を用いる。

 淋疾
 淋毒性尿道炎あるいは淋毒性膀胱炎には、本方加山帰来、薏苡仁、大黄を用う。

 その他、生殖器官の炎症には病名の如何にかかわらず本方を用いてみるもよい。

 梅毒には、下疳、横痃、楊梅瘡、第三期以後も、防風通聖散とともに補助療法として山帰来、薏苡仁、大黄を加えて用いる。



副作用
1) 重大な副作用 と初期症状
間質性肺炎 : 咳嗽 、呼吸困難 、発熱 、肺音の異常初期症状等があらわれた場合には、本剤 の 投与を中止 し 、 速やかに胸部 X 線、胸部 CT等の検査を実施するとともに副腎皮質ホルモン剤の投与等の適切な処置を行うこと。


偽アルドステロン症:低カリウム血症、血圧上昇、ナトリウム・体液の貯留、浮腫、体重増加等の偽 アルドステロン症があらわれることがあるので、観察(血清カリウム値の測定等)を十分に行 い、異常 が認められた場合には投与を中止し、カリウム剤の投与等の適切な処置を行うこと。

ミオパシー:低カリウム血症の結果としてミオパシーがあらわれることがあるので、観察を十分に行い、脱力感、四肢痙攣・麻痺等の異常が認められた場合には投与を中止し、カリウム剤 の投与等の適切な処置を行うこと。

肝機能障害、黄疸:AST(GOT)、ALT(GPT)、Al - P、γ − GTP等の著 しい上昇 を伴う肝機能障害、黄疸があらわれることがあるので、観察を十分に行い、異常が認められた場合には投与を中止し、適切な処置を行うこと。

2)  その他の副作用
 消化器:食欲不振、胃部不快感、悪心、嘔吐、下痢等

2014年1月4日土曜日

竜胆瀉肝湯(りゅうたんしゃかんとう) の 効能・効果 と 副作用

漢方診療の實際 大塚敬節 矢数道明 清水藤太郎共著 南山堂刊
竜胆瀉肝湯(りゅうたんしゃかんとう)
車前子 黄芩 沢瀉各三・ 木通 地黄 当帰各五・ 梔子 甘草 竜胆各一・五
本方は膀胱及び尿道に於ける炎症に用いるもので実證に属し、急性或は亜急性の淋毒性尿道炎、バルトリン腺炎、或は膀胱カタル等で、小便渋痛・帯下・膿尿・陰部腫痛・鼠径腺の腫脹するものに用いる。一般的に体力未だ衰えず、脈も腹も相当力のあるものである。
車前子・木通・沢瀉は利尿作用があって、尿道膀胱の炎症を去る。当帰・地黄は血行を盛んにし、且つ渋痛を緩和し、竜胆・山梔子・黄芩は消炎及び解毒の効がある。
以上の目標に従て此方は急性或は亜急性淋疾・尿道炎・膀胱カタル・帯下・陰部痒痛・バルトリン腺炎・子宮内膜炎・下疳・横痃・睾丸炎・陰部湿疹等に応用される。


『漢方精撰百八方』
92.龍胆瀉肝湯(りゅうたんしゃかんとう)
〔出典〕薛氏十六種
〔処方〕当帰、地黄、木通 各5.0 黄芩、沢瀉、車前子 各3.0 竜胆、梔子、甘草 各1.5

〔目標〕この方は薛氏十六種下疳門に「肝経の湿熱、或いは嚢癰(淋毒性副睾丸炎)便毒(横痃・鼠径淋巴腺腫)下疳(梅毒潰瘍)懸癰(会陰部の癰)腹痛くが如く作り、小便渋滞、或いは婦人陰?(バルトリン腺や大陰唇)痒痛、男子陽挺(陰茎のこと)腫脹、或いは膿汁を出すを治す」とある。 本方は下疳門で、(陰部の性病による潰瘍)に掲載されているが、下焦(下腹部、陰部)の諸炎症性疾患で、充血、腫脹、疼痛を伴うものに用いる。急性または亜急性の炎症があり、実証の者によい。肝経の湿熱というのは、性病に罹ると腹部の両腹直筋の外側、すなわち肝経に沿うて、特有の緊張や過敏帯があらわれる。この肝経の経路に沿って現れた炎症や腫脹のことを肝経の湿熱と呼んだものである。

〔かんどころ〕肝経に属する臓器の炎症として膀胱、尿道、睾丸、陰部の実熱証によい。

〔応用〕急性または亜急性の尿道炎・膀胱炎・パルトリン腺炎・帯下・陰部痒痛・子宮内膜炎・膣炎・下疳・横痃・睾丸炎・陰部湿疹・トリコモナス等に応用される。

〔附記〕森道伯翁は本方を四物湯黄連解毒湯と合方して、一貫堂家方龍胆瀉肝湯を作り、慢性化した肝経の湿熱に用いた。
当帰、芍薬、川芎、地黄、黄連、黄芩、黄柏、山梔子、連翹、薄荷、木通、防風、車前子、甘草 各1.5 竜胆、沢瀉 各2.0

〔治験〕
トリコモナス
19才の婦人、昨年来帯下があり、陰部が痒いという。婦人科の医師はトリコモナスという診断をつけた。顔色は白く、体格はがっちりしている。龍胆瀉肝湯を与え、帯下に臭気が強いというので、山帰来と金銀花を加えた。これを服用すること1ヶ月で帯下は減じ、臭気もなくなり、5ヶ月間の服用で全治した。(大塚敬節氏)
  肝硬変症
  45才の男子、田舎の役場に勤務して、酒豪であった。肝硬変となり、腹水がたまり、腹は太鼓のようで、諸病院を遍歴していた。この人の体質が解毒症体質であったので、一貫堂の龍胆瀉肝湯を用いたところ、腹水はきれいにとれ、1年間服薬してすっかり健康体となり、15年以上も再発せず勤務を続けることができた。(矢数格)
矢数道明



漢方薬の実際知識 東丈夫・村上光太郎著 東洋経済新報社 刊
13 下焦の疾患
下焦が虚したり、実したりするために起こる疾患に用いられる。ここでは、下焦が虚したために起こる各種疾患に用いられる八味丸(はちみがん)、下焦が実したために起こるものに用いられる竜胆瀉肝湯(りゅうたんしゃかんとう)についてのべる。

2 竜胆瀉肝湯(りゅうたんしゃかんとう) (薜氏)
〔当帰(とうき)、地黄(じおう)、木通(もくつう)各五、黄芩(おうごん)、沢瀉(たくしゃ)、車前子(しゃぜんし)各三、竜胆(りゅうたん)、山梔子(さんしし)、甘草(かんぞう)各一・五〕
本方は、下焦、特に膀胱、尿道、子宮などが実したために起こる急性または亜急性の炎症に用いられる。したがって、充血、腫張、疼痛、排尿痛、尿淋瀝(小便が少量ずつ頻繁に出ること)、頻尿、帯下などを目標とする。
〔応用〕
つぎに示すような疾患に、竜胆瀉肝湯證を呈するものが多い。
一 尿道炎、膀胱炎、睾丸炎その他の泌尿器系疾患。
一 帯下、子宮内膜炎、膣炎その他の婦人科系疾患。
一 そのほか、そけいリンパ腺炎、陰部湿疹など。

《資料》よりよい漢方治療のために 増補改訂版 重要漢方処方解説口訣集中日漢方研究会
80.竜胆瀉肝湯(りゅうたんしゃかんとう) 万病回春
  当帰5.0 地黄5.0 木通5.0 黄芩8.0 沢瀉3.0 車前子3.0 竜胆1.5 梔子1.5 甘草1.5


現代漢方治療の指針〉 薬学の友社
膀胱や尿道,子宮などに炎症があって排尿時に痛みや困難があるもの。
本方は膀胱や尿元部位の炎症を目安に, 淋毒性や雑菌によるもの,あるいは化学療法剤で菌は消失したが,排尿痛,頻尿,排尿困難,膿尿,排尿前後の不快感などの自覚症状あるものに応用されている。本方が適応するものは肝機能に若干の障害があり手足の湿潤やヒフが浅黒い傾向があって,体力も比較的に旺盛なものに適することが多い。また本方は10歳以下の女子が淋毒患者の手指や手ぬぐいに接触したり,浴場の流し場などで感染し,外陰や膣粘膜が軟弱なためにおかされ,患部の充血や排尿痛,残尿感,「こしけ」などあるものによく用いられる。また女児や成人の別なく,用便時やその他で雑菌による前記症状あるものにもよい。以上のことから本方は陰門,バルトリン腺,尿道,膣や子宮などが発赤,腫張する急性や亜急性のもので尿意頻繁,排尿時の尿道痛,腰部や下腹部の圧迫感,女子にあっては帯下などを目標に応用すればよい。外陰瘙痒症に本方で奇効を得ることがあるが蟯虫やその他の寄生虫によるものでなく,帯下や不潔によるもの,または神経性の瘙痒で患部に変化のないものに用いられる。本方はまた桂枝茯苓丸や当帰芍薬散で効果のない場合の「こしけ」に用いしばしば効果がある。
猪苓湯> 膀胱や尿道など,陰部およびその周辺の炎症で排尿痛,残尿痛,頻尿の点で本方証と似ているが,猪苓湯が適するものは炎症がさらにひどく,着色尿または血尿と口渇が伴うので,本方証と異なる。
桂枝茯苓丸,桃核承気湯> 下腹部臓器の炎症と利尿障害が本方と類似するが,これら両者の処方には本方には認められない頭痛,精神不安などの神経症状を伴うので本方とは,若干その症候群が異なる。

漢方処方応用の実際〉 山田 光胤先生
○下腹部臓器,陰部の熱感,充血,疼痛,腫張のある実証のものに用いる。排尿痛,尿淋瀝,頻尿,帯下などを伴うこともある。患者は体力が中等度以上に充実し,冷え症ではなく脈にも腹にも力があるものである。
○勿誤薬室方函口訣「此方は肝経の湿熱というのが目的なれども湿熱の治療に三等あり,湿熱上行して頭痛甚だしく,或は目赤く耳鳴るものは小柴胡湯に竜胆,胡黄連を加えるとよい。もし湿熱表に薫蒸して諸蒼(できもの)を生ずるものは九味柴胡湯がよい。もし下部に流注して下疳,毒淋,陰触瘡を生ずる者は、此方の主なり。」



漢方治療の実際〉 大塚 敬節先生
○排尿痛,尿の淋瀝,頻尿等のあるものに用いるが,脈にも腹にも力があつて充実しているものに用い,体力が衰えたもの,冷え症のもの,貧血しているものなどには用いない。この方を瀉肝とよんだのは肝経の湿熱を治するからで矢数道明氏に随えば肝経湿熱とは梅毒,淋疾に見られる肝臓解毒作用障害の状態をいい,腹部肝経に沿うて緊張圧痛等を証明し,皮膚浅黒く,手足の裏,湿潤するものが多いという。私は淋疾からきた膀胱炎,尿道炎,子宮内膜炎などにしばしばこの方を用いる。



漢方診療の実際〉 大塚,矢数,清水 三先生
本方は膀胱及び尿道に於ける炎症に用いるもので実證に属し,急性或は亜急性の淋毒性尿道炎,バルトリン腺炎,或は膀胱カタル等で,小便渋痛,帯下,膿尿,陰部腫痛,鼠径腺の腫脹するものに用いる。一般的に体力未だ衰えず、脈も腹も相当力のあるものである。車前子,木通.沢瀉は利尿作用があって,尿道膀胱の炎症を去る。当帰,地黄は血行を盛んにし,且つ渋痛を緩和し、竜胆,山梔子,黄芩は消炎及び解毒の効がある。以上の目標に従って此方は急性或は亜急性淋疾,尿道炎,膀胱カタル,帯下,陰部痒痛・バルトリン腺炎,子宮内膜炎,下疳,横痃,睾丸炎,陰部湿疹等に応用される。

漢方処方解説〉 矢数 道明先生
下焦(下腹部,陰部の臓器)の諸炎症で,充血,腫張,疼痛をともなっているものに用いる。急性または亜急性の炎症があ改aても実略のものに用いるものである。脈も腹も緊張があって充実している。いわゆる肝経の湿熱というものは,腹部の両腹直筋が外側に沿って特有の緊張と過敏帯が認められ,そこに充血や実証の状態が現われる。
薛氏十六種(下疳門)
肝経の湿熱,或は嚢癰,便毒,下疳,懸癰,腹痛焮くが如く作り,小便渋滞,或は女人陰癃(バルトリン腺と大陰唇)痒痛,男子陽挺(亀頭)腫張,或は膿水を出すを治す。



和漢薬方意辞典 中村謙介著 緑書房
竜胆瀉肝湯(りゅうたんしゃかんとう) [薛氏]

【方意】 下焦の熱証下焦の湿証による排尿渋難・排尿痛・残尿感・充血・発赤等と、上焦の熱証上焦の熱証による精神症状としての皮膚浅黒色・掌蹠自汗・肩背強急・多怒等のあるもの。
《少陽病.実証》

【自他覚症状の病態分類】

下焦の熱証
下焦の湿証
上焦の熱証・上焦の熱証による精神症状 瘀血 水毒
主証 ◎排尿渋難 ◎皮膚浅黒色




客証 ○排尿痛 残尿感
混濁尿 頻尿
血尿
○下焦の充血
発赤 腫脹
化膿傾向
疼痛 陰部瘙痒感
分泌液 帯下
○便秘
○掌蹠自汗
○肩背強急
○口渇
○頭痛 眼痛
○結膜充血 ○目眩
○耳鳴 耳痛 難聴
発赤 腫脹
○多怒 感情不安定
不眠
筋緊張亢進
月経異常
月経痛
腹水
陰嚢水腫
尿不利


【脈候】 実・緊数・弦滑数。

【舌候】 紅舌。乾燥した白苔・白黄苔・黄苔。

【腹候】 腹力中等度以上。下腹部の両腹直筋の外側(肝経)にそって、圧迫に対する抵抗と緊張過敏がある。時に胸脇苦満がみられる。

【病位・虚実】 熱証が中心的病態であり陽証である。表の寒証も裏の実証もなく少陽病に相当する。脈力、腹力あり実証である。

【構成生薬】 木通5.0 乾地黄5.0 当帰5.0 車前子3.0 黄芩3.0 沢瀉3.0 梔子1.5 甘草1.5 竜胆1.5

【方解】 木通・沢瀉・車前子は寒性の利水薬で、熱証・水毒に対応し炎症性の尿不利等を治す。竜胆は苦味健胃作用の他、消炎・解熱作用があり、前記の寒性の利水薬との組合せは、作用部位を下焦へと向かわせ、下焦の熱証・下焦の湿証による排尿渋難・排尿痛・残尿感等を治す。乾地黄も寒性の利水薬と組んで、下焦の熱証・下焦の湿証の血尿・化膿・瘙痒感・分泌液等を治す。黄芩・梔子は上焦の熱証に対応し、竜胆の消炎・解熱作用もこれに協力して、頭痛・眼痛・結膜充血・耳痛、更に上焦の熱証より派生する精神症状を治す。当帰は瘀血による月経異常・月経痛を治し、地黄もこれに協力する。甘草はこれらの生薬の作用を補い増強する。


【方意の幅および応用】
 A 下焦の熱証下焦の湿証:排尿渋難・排尿痛・残尿感・充血・発赤・化膿傾向等を目標にする場合。
   尿路感染症、尿路結石、尿路不定愁訴、バルトリン腺炎、淋病による膀胱炎、帯下、
   膣トリコモナス症、陰部瘙痒症、膣炎、子宮内膜炎、陰部湿疹、陰部潰瘍、下疳、
   鼠径リンパ腺炎、睾丸炎、前立腺炎、勃起不全、急性骨盤腹膜炎、痔
 B1上焦の熱証上焦の熱証による精神症状:皮膚浅黒色・掌蹠自汗等を目標にする場合。
   肝炎、肝硬変、胆嚢炎
  2上焦の熱証上焦の熱証による精神症状:発赤・腫脹等を目標にする場合。
   結膜炎、中耳炎、鼻前庭・外耳道のフルンケル、帯状疱疹
上焦の熱証上焦の熱証による精神症状:多怒・感情不安定等を目標にする場合。
   ノイローゼ、高血圧症に伴う精神症状、自律神経失調症
 B 瘀血:月経異常・月経痛を目標にする場合。
   不妊症

【参考】*肝経湿熱(梅毒等の性器疾患)、玉茎、瘡を患い、或は便毒(よこね)、下疳、懸癰(会陰部の癰、コンジロームなど)の腫痛、小便赤く渋滞し、陰嚢の腫痛す識を治す。『薛氏』
* 此の方は肝経湿熱と云うが目的なれども、湿熱の治療に三等あり。湿熱上行して頭痛甚だしく、或は目赤耳鳴者は小柴胡湯加竜胆胡黄連に宜し。若し湿熱表に薫蒸して諸蒼を生ずるものは九味柴胡湯に宜し。若し下部に流注して下疳、毒淋、陰触瘡を生ずる者は此の方の主なり。又主治に据(よ)りて嚢癰、便毒、懸癰又び婦人陰癃痒痛に用う。皆熱に属する者に宜し。臭気者は奇良を加うべし。『勿誤薬室方函口訣』
* 本方意や猪苓湯証のように尿不利を伴う熱証を湿熱という。温病中の一つとされる。症状は発熱・頭痛・身重痛・腹満・食欲不振・尿不利で黄赤色、舌は黄膩苔、脈濡数等を示す。
* 肝経は目・耳をめぐり頭部へ連なるために、これらの部位の疾患は肝と関係があると考えられている。肝経の亢進は筋腱の緊張過度となるといわれ、本方意にもその傾向がある。本方は肝の湿熱を除去する作用があり、肝硬変症に応用される。
* 一貫堂の竜胆瀉肝湯は本方に芍薬・川芎・黄連・黄柏・連翹・薄荷・防風を加味したもので、慢性になったものに用いる。この竜胆瀉肝湯で舌癌の治験例がある。

【症例】 帯下
 31歳の婦人。体格栄養共に普通で一見すれば標準の健康体というべき印象を受ける。脈腹共に申し分ない緊張度である。しいていえば左の臍傍に少し圧痛がある。
 主訴は8ヵ月前から月経が早めにあるようになった。婦人科では子宮にただれがあり内膜炎で、黄色の帯下がひどく、痒みもある。初めに八味帯下方を与えてみたが、10日間服用しても少しも変わりがないという。そこで竜胆瀉肝湯にしたとこ犯、20日間で帯下がすっかり止ま改aた。
 八味帯下方と竜胆瀉肝湯との鑑別は判然としないが、八味帯下方は慢性で腹部が軟らかで、貧血気味のものによう効くように思われ、竜胆瀉肝湯はより炎症充血があって、陽実証の傾向あるものに良いと思われる。
矢数道明 『漢方の臨床』13・11・36

 痛風
 知人の内科医が困っていた。左第一中趾関節の急性発作で、第2回目の発作の時に治療の相談を受けた。これまでは疼痛の緩解のまるまでコルヒチンの内服を続けていた。私は竜胆瀉肝湯と桂枝茯苓丸料を併用した。
 肝経湿熱、下部に流注して、下疳毒淋陰蝕瘡を生ずるものはこの方が良い。また瘀血より来る黴瘕を去るため桂枝茯苓丸料を併用した。疼痛発作は次第に薄れた。その後、小学校のPTA会誌に、痛風が漢方で治ったと手記を発表し、その本を私にみせてくれた。
大村明 『漢方の臨床』 14・10・47
※奇良
山帰来(さんきらい)、土茯苓(どぶくりょう)、Smilax glabra、
地茯苓、奇糧、岐良、山牛、飯塊、山歸來(山帰来)、過山龍、地粟、山豬糞、山奇糧 



副作用
1) 重大な副作用と初期症状
1) 間質性肺炎 :咳嗽、呼吸困難、発熱、肺音の異常等があらわれた場合には、本剤の投与を中止し、速やかに胸部X線、胸部CT等の検査を実施するとともに副腎皮質ホルモ ン剤の投与等の適切な処置を行うこと。
[理由]
平成25年1月8日付薬食安発0108第1号「使用上の注意」 の改訂について に基づく改訂
本剤によると思われる間質性肺炎の企業報告の集積により、厚生労働省内で検討された結果。

[処置方法]
直ちに投与を中止し、胸部X線撮影・CT・血液ガス圧測定等により精検し、ステロイド剤 投与等の適切な処置を行う。

2) 偽アルドステロン症 :低カリウム血症、血圧上昇、ナトリウム・体液の貯留、浮腫、体重増加等の偽アルドステロン症があらわれることがあるので、観察(血清カリウム値の測定等)を十分に行い、異常が認められた場合には投与を中止し、カリウム剤の投与等の適切な処置を行う。

3) ミオパシー :低カリウム血症の結果としてミオパシーがあらわれることがあるので観察を十分に行い、脱力感、四肢痙攣・麻痺等の異常が認められた場合には投与を中止し、カリウム剤の投与等の適切な処置を行う。

[理由]
厚生省薬務局長より通知された昭和53年2月13日付薬発第158号 「グリチルリチン酸等を含有す る医薬品の取り扱いについて」 及び医薬安全局安全対策課長よ り通知された平成9年12月12日 付医薬安第51号 「医薬品の使用上の注意事項の変更について」 に基づく。


[処置方法]
原則的には投与中止により改善するが、血清カリウム値のほか血中アルドステロン・レニン活性等の検査を行い、偽アルドス テロン症と判定された場合は、症状の種類や程度によ り適切な治療を行う。 低カリウム血症に対しては、カリウム剤の補給等により電解質バランスの適正化を行う。



4) 肝機能障害、黄疸 :AST(GOT)、ALT(GPT)、Al‑P、γ‑GTPの著しい上昇等を伴う肝機能障害、黄疸があらわれることがあるので、観察を十分に行い、異常が認められた場合には投与を中止し、適切な処置を行なう。

 [理由]
 平成22年10月26日付薬食安発1026第1号「使用上 の注意」の改訂について に基づく改訂
本剤によると思われる肝機能障害、黄疸の企業報告の集積により、厚生労働省内で検討された結果。

[処置方法]
 原則的には投与中止により改善するが、病態に応じて適切な処置を行う。

 2)その他の副作用

消化器:口渇、食欲不振、胃部不快感、悪心、嘔吐、下痢等
[理由]
本剤には地黄(ジオウ)・当帰(トウキ)・山梔子(サンシシ)が含まれているため、食欲不振、 胃部不快感、悪心、嘔吐、下痢等の消化器症状があらわれるおそれがあるため。

[処置方法]

原則的には投与中止により改善するが、必要に応じて適切な処置を行うこと。



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