健康情報: 2011

2011年12月17日土曜日

黄連解毒湯(おうれんげどくとう) の 効能・効果 と 副作用

漢方診療の實際』 大塚敬節 矢数道明 清水藤太郎共著 南山堂刊
 本方は陽實證の藥方で皆消炎の劑を以て成り立ち、充血を去り,精神の不安を除く効がある。諸熱性病の經過中に用いて、日數を經たる殘餘餘熱を解する。患者は炎症充血による精神不安・煩悶を訴え、尿が赤く、或は諸出血を來し脈は沈んで力があり、心下部が痞えて抵抗がある。
 方中の黄連・黄芩は炎症・充血を去り、心下の痞え不安を治し、梔子・黄柏は消炎に利尿を兼ね、黄連・黄芩に協力する。
 以上の目標に從つて此方は、諸熱性病・喀血・吐血・衂血・下血・腦充血・腦溢血・精神病・血尿・皮膚瘙痒症等に応用される。


『漢方精撰百八方』
94.〔黄連解毒湯〕(おうれんげどくとう)
〔出典〕外台秘要
〔処方〕黄連2.0 黄芩3.0 梔子、黄柏 各2.0
〔目標〕体格はがっしりとして体質が頑丈な人、もしくは体格、体質中ぐらい人がのぼせ気味で、顔色が紅く、脈の緊張がよく、腹部は表面は柔軟であっても底に力があり、次のような症状があるものである。
(1)気分がいらいらし、気持ちが不安で、よく眠れず、胃部がつかえ、腹診すると心下が濡(表面は軟らかく、底の方に抵抗がある)のもの。
(2)上腹部が痛み、心下部一体が膨満して固く張り、押すと圧痛がある。
(3)頭痛、耳鳴、血圧亢進などがある。
(4)吐血、鼻出血、下血、潜出血などの出血があるもの。
 以上のほか、むなぐるしく、手足があつくるしく、或いは黄疸があるなどの点がみられる。
〔かんどころ〕黄連解毒湯の証は、三黄瀉心湯証によく似ているが、その違いは、便秘の傾向のないこととなっている。しかし、時には便秘することもあり、大黄入り黄解丸というのが作られているくらいである。両者の違いは、むしろ、この何ともいいようのない”むなぐるしさ”にある。
 そのほか、顔色の赤みがかっていてのぼせぎみというところも、かんどころである。
〔応用〕諸種の出血(喀血、吐血、衂血、子宮出血、下血、痔出血、脳出血等)、高血圧、不眠症、神経症、精神病、血の道、胃炎、胃潰瘍、胃酸過多症、宿酔、黄疸皮膚病、酒査鼻、肝斑、等
〔治験〕3,4年前、18才ぐらいの少女が母親につれられて来た。
 お腹が痛くて、3日ほど食物を何も食べていないという。また、はじめの夜、少し血を吐いたともいう。体格は中ぐらいで、顔色は余り悪くない。腹診すると、心下部一体がやや膨満しているが、余り固くないので、よほど注意しないと上腹部が緊張していることがわからない。脈も余り特徴がない。
 血を吐くような胃潰瘍があるとはとても思えないので、よく聞いてみると、友人と夜遊びして、洋酒を相当量のんだ翌日から悪くなったと、白状した。黄連解毒湯を与えたところ、2日ほどで痛みが止まり、1週間ほどですっかり治った。病気は急性胃炎であったろう。
山田光胤


漢方薬の実際知識』 東丈夫・村上光太郎著 東洋経済新報社 刊
10 瀉心湯類(しゃしんとうるい)
 瀉心湯類は、黄連(おうれん)、黄芩(おうごん)を主薬とし、心下痞硬(前出、腹診の項参照)および心下痞硬によって起こる各種の疾患を目標に用いられる。

4 黄連解毒湯(おうれんげどくとう)  (外台秘要)
 〔黄芩(おうごん)三、梔子(しし)二、黄連(おうれん)、黄柏(おうばく)各一・五〕
  全身の実熱によって起こる炎症と充血を伴う症状を治す。したがって、胃部が痞え、炎症と充血によって顔面赤く、上衝し、不安焦燥にかられ、心 悸亢進、出血の傾向がある。気分がおちつかずイライラし、のぼせ、不眠などの精神症状などを目標とする。三黄瀉心湯證で、便秘の傾向が弱い。



『《資料》よりよい漢方治療のために 増補改訂版 重要漢方処方解説口訣集』 中日漢方研究会
6.黄連解毒湯(おうれんげどくとう) 外台秘要方

黄連1.5 黄柏1.5 黄芩3.0 梔子2.0

現代漢方治療の指針〉 薬学の友社
 のぼせて胃部がつかえるもの。あるいは軟便で便秘したり,目が充血するもの。
 本方は充血を去り,精神不安を除くから,喀血,吐血には止血と同時に神経症状も消散させる。また本方に配合されている黄連,黄柏は結核菌の化学療法による耐性菌にも有効であるから,本方と小柴胡湯を併用すれば食欲増進作用もあって,肺結核で療養中の者にしばしば著効が得られる。平素あまり強健でない人で2,3日便通がなく,しかも排便すれば軟便であるような場合に適するが,硬便で便秘するものには三黄瀉心湯のほうがよい。本方でも下痢するものには半夏瀉心湯が無難である。本方が高血圧に適応するものには目標欄記載の症状で特に項(うなじ)がこるものによいが,血圧降下作用は一過性であるから,高血圧症の根本治療には柴胡剤と合方すべきである。


漢方処方解説シリーズ〉 今西伊一郎先生
 本方は消炎,止血,鎮静作用が顕著なところから単方または他薬と合方して繁用されている。また本方に配合されているオウレン,オウバクの有効成分ベルベリンは,結核菌の化学療法による耐性菌にも有効であるところから,本方と柴胡剤の合方が補助療法として重宝されている。
(1) 諸出血 本方が適応する出血は比較的に量が多く出血の割に,著しい貧血を認めないもの。
(2) 高血圧,脳充血,脳溢血 目標欄記載の症状があるが,全般的に緩和なものに応用され,特に後頭部から首筋にかけてこりやすく,目が充血するものによい。
(3) 神経症 頭痛,不眠,肩こり,のぼせなどの神経症状を目安に,平素あまり強健でないものに応用する。
(4) ヒフ疾患 本方の消炎,解毒,止痒作用はヒフ疾患に必需的な存在になっている。すなわち小柴胡湯,十味敗毒湯,桂枝茯苓丸,四物湯などと合方して患部や全身瘙痒を訴えるもに投与すると,偉効を奏する。
(5) 二日酔 本方は五苓散とともに二日酔の不快症状を比較的速やかに消失せしめる。特に頭痛を伴うものによいが,五苓散と合方して用いるのもよい。
(6) 打撲症 打撲症および打撲の後遺症に,本方と等量の小麦粉を混和し,卵白か水でねり,患部に貼用する。古くてひどい打撲はチアノーゼが再現して後に治癒する。
(7) 便秘症 間歇的に便秘するが軟便で,下剤をのむと下痢や腹痛を起こすものによい。ひどい便秘で硬便には三黄瀉心湯を応用する。

 注意事項 出血多量で貧血したり,貧血症の諸出血には本方を用いず,芎帰膠艾湯を考える。三黄瀉心湯との鑑別は赤ら顔の卒中体質で硬便や宿便の便秘で本方症状があれば三黄瀉心湯が適応する。


漢方処方応用の実際〉 山田 光胤先生
 体格はがっしりとして体質が頑丈な人,もしくは体句,体質が中ぐらいの人が,のぼせ,上逆感などの上衝の傾向があって瀉心湯(三黄瀉心湯)の証に準じ,しかも便秘の傾向がなく,さらに心煩,心中懊憹,煩熱,あるいは黄疸などがある場合である。


漢方治療の実際〉 大塚 敬節先生
 この方は発病後,日数を経て余熱が内にこもり,舌は乾燥し,時には黒苔を生じ,胸苦しく,口が渇き,悪心,不眠などのあるものに用いる。このさい体の表面にくわっくわっとした浮び出た熱はなく,深く沈んで小さくても力がある。腹にも底力がある。悪風や悪寒のある場合にはこの処方は用いない。


漢方診療の実際〉 大塚,矢数,清水 三先生
 本方は陽実証の薬方で皆消炎の剤を以て成り立ち,充血を去り,精神の不安を除く効がある。諸熱性病の経過中に用いて,日数を経たる残余余熱を解する。患者は炎症充血による精神不安,煩悶を訴え,尿が赤く,或は諸出血を来し脈は沈んで力があり、心下部が痞えて抵抗がある。方中の黄連,黄芩は炎症,充血を去り,心下の痞え不安を治し,梔子,黄柏は消炎に利尿を兼ね.黄連,黄芩に協力する。以上の目標に従って此方は諸熱性病,喀血,吐血,衂血,下血,脳充血,脳溢血,精神病,血尿,皮膚瘙痒症等に応用される。


漢方処方解説〉 矢数 道明先生
 三焦(上中下の三焦)の実熱によって起こる,炎症と充血をともなった諸症を治するのが目標である。小柴胡湯類の半外半裏の熱でもない一種特異の遷延熱を解するものである。実証で腹残力があり,脈も十分力があって,熱はあるが沈の傾向を帯びたものである。一般雑病のうち炎症と充血のため顔色赤き上衝し,不安焦躁,心悸亢進の気味があり,出血の傾向を有するものを参考として用いる。本方を不眠症として用いるときは,頭がさえてなかなか眠れない。気分が落ちつかず,つまらないことが気にかかる,いらいらする,のぼせる,というようなことを目標にする。高血圧症や更年期障害のときの不眠にこの症がある。


勿誤方函口訣〉 浅田 宗伯先生
 此方は胸中熱邪を清解するの聖剤也。一名倉公の火剤とす。其目的は梔子豉湯の証にして熱勢劇しき者に用ゆ。苦味に堪えかぬる者は泡剤にして与ふべし。大熱有て下利洞泄する者或痧病等の熱毒深く洞下する者を治す又狗猫鼠などの毒を解す又喜笑不止者を治す。是亦心中懊憹のなす所なれば也,又可氏は此方の弊を痛く論すれども実は其妙用を知らぬ者なり又酒毒を解するに妙なり。外台の文を熟読すべし。又外台に黄柏去り大黄を加えて大黄湯と名ずく。吉益東洞は其方を用し由証に依て加減すべし。


漢方と漢薬〉 第4巻 第10号 矢数 道明先生
(前略) 黄連解毒湯は肘後方の傷寒時気温病門に出で,黄連3両,黄柏,黄芩各2両,梔子14枚の4味で,主治は熱極,心下煩悶,狂言鬼を見,起走せんと欲す,煩嘔眠るを得ざるを治す。といふのである。
 此の方は三焦之火を瀉すと云ふて,火を消す薬である,即ち消炎,解熱,清涼の能があり,三黄瀉心湯の類似方に属する。而もその消炎作用が,血中の遊火,残熱余熱を司るものであり,発散によるものではなく,柴胡の和解によるものでもなく,大黄芒硝の瀉下によるものでもなく,石膏の主治する処でもないといふ熱をよくこの方によって治し得らるるといはれてゐる。茲に黄芩は上焦の火を瀉し,梔子は五臓の遊火を瀉すとて,三焦の火を悉く消してくれるといふのである。
 さて外台秘要巻1傷寒門に崔氏が方として本方の記載がある。それによると前軍督護劉車なる者が時疫を得て3日,已に汗して解した。因て酒を飲んだところ復劇しくなり煩悶乾嘔口燥に苦しむ,呻吟錯語臥すを得ず,そこで余此の黄連解毒湯を作らんことを思ひ,方,黄連3両,黄芩,黄柏各2両,梔子14枚,擘右四味切て水6升を以て似て2升を取り,1服を服せしめた処,目明かとなり。両服して粥を進むると。此に於て漸く差えた。余以て凡そ大熱盛んにして煩嘔呻吟錯語眠るを得ざるもの皆佳しと,語り伝へて諸人之を用ひて亦効があった。此れは直ちに熱毒を解し,酷熱を除くので,必ずしも酒を飲んで劇しき者のみでない。云々とあるが面白い記載である。目標としては私は和田東郭翁の口訣に如くはないと思ふてゐる。即ち之を利用すると,
(1)黄連解毒湯は半表半裏の熱にも非ず,又石膏,知母,麦門,粳米の類にて清涼潤燥する肉中の熱にも非ず,又大黄芒硝にて効を取る裏実の熱にもあらざるを云也,解毒湯の的症は日数を経ること久しく,俗に残熱余熱など云ふ位の熱にて,肌表はさのみ熱にてもなく底がつよくしぶくとき熱候を標的とすべし。これを名けてふるびたる熱とは云也。故に日数深からずクワックワッと勢つよき熱には用ゆべからず。且つ老少に限らず肌膚枯燥してかさかさとしたる手当りのものを標的とし,舌候は黒苔にして乾燥甚しきもの標的とすべし,黄苔白苔のものには宜しからず。云々。
(2)然れども此の症実火の症にして虚火の症にあらず,故に満腔上み心下に攣縮し,任脈水分に動悸なく,其の脈沈細,或は軟弱なれども底にしかと力あるものなり。此の脈腹と舌候及熱候とを以て標的とすべし。
とあって、即ち脈は沈細にして底に力あり、腹は心下に攣縮あり,動悸なく,舌は黒苔乾燥(必ずしも黒苔を要せざるものと思ふ),その證としては日数を経てふるびたる残余余熱により煩渇乾嘔眠るを得ず不安,等を目標とするものである。
 又蕉窓方意解に,結毒沉涸して諸薬効あらざるもの奇良軽粉の類を施せども効なきものに用ゆとあるが,先師森道伯先生は本方を以て胎毒による虚弱体質改造薬及諸種の病毒駆逐の根本とした。即ち柴胡清肝散竜胆瀉肝湯,荊芥連翹湯等の基本は四物湯と黄連解毒湯の合方即ち温清飲である。(後略)










【一般用漢方製剤承認基準】
黄連解毒湯
〔成分・分量〕
黄連1.5-2、黄芩3、黄柏1.5-3、山梔子2-3
〔用法・用量〕
(1)散:1回1.5-2g 1日3回
(2)湯
〔効能・効果〕
体力中等度以上で、のぼせぎみで顔色赤く、いらいらして落ち着かない傾向のあるものの次の諸症:
鼻出血、不眠症、神経症、胃炎、二日酔、血の道症注)、めまい、動悸、更年期障害、湿疹・皮膚炎、皮膚のかゆみ、口内炎
《備考》
注)血の道症とは、月経、妊娠、出産、産後、更年期など女性のホルモンの変動に伴って現れる精神不安やいらだちなどの精神神経症状および身体症状のことである。
【注)表記については、効能・効果欄に記載するのではなく、〈効能・効果に関連する注意〉として記載する。】


【添付文書等に記載すべき事項】
(守らないと現在の症状が悪化したり、副作用が起こりやすくなる)
次の人は服用しないこと
生後3ヵ月未満の乳児。
〔生後3ヵ月未満の用法がある製剤に記載すること。〕
相談すること
1.次の人は服用前に医師、薬剤師又は登録販売者に相談すること
(1)医師の治療を受けている人。
(2)妊婦又は妊娠していると思われる人。
(3)体の虚弱な人(体力の衰えている人、体の弱い人)。
2.服用後、次の症状があらわれた場合は副作用の可能性があるので、直ちに服用を中止し、この文書を持って医師、薬剤師又は登録販売者に相談すること
まれに下記の重篤な症状が起こることがある。その場合は直ちに医師の診療を受けること。
症状の名称 症状
間質性肺炎 階段を上ったり、少し無理をしたりすると息切れがする・息苦しくなる、空せき、発熱等がみられ、これらが急にあらわれたり、持続したりする。
肝機能障害 発熱、かゆみ、発疹、黄疸(皮膚や白目が黄色くなる)、褐色尿、全身のだるさ、食欲不振等があらわれる。
3.1ヵ月位(鼻出血、二日酔に服用する場合には5~6回)服用しても症状がよくならない場合は服用を中止し、この文書を持って医師、薬剤師又は登録販売者に相談すること
〔効能又は効果に関連する注意として、効能又は効果の項目に続けて以下を記載すること。〕
血の道症とは、月経、妊娠、出産、産後、更年期など女性のホルモンの変動に伴って現れる精神不安やいらだちなどの精神神経症状および身体症状のことである。
〔用法及び用量に関連する注意として、用法及び用量の項目に続けて以下を記載すること。〕
(1)小児に服用させる場合には、保護者の指導監督のもとに服用させること。
〔小児の用法及び用量がある場合に記載すること。〕
(2)〔小児の用法がある場合、剤形により、次に該当する場合には、そのいずれかを記載すること。〕
1)3歳以上の幼児に服用させる場合には、薬剤がのどにつかえることのないよう、よく注意すること。
〔5歳未満の幼児の用法がある錠剤・丸剤の場合に記載すること。〕
2)幼児に服用させる場合には、薬剤がのどにつかえることのないよう、よく注意すること。
〔3歳未満の用法及び用量を有する丸剤の場合に記載すること。〕
3)1歳未満の乳児には、医師の診療を受けさせることを優先し、やむを得ない場合にのみ服用させること。
〔カプセル剤及び錠剤・丸剤以外の製剤の場合に記載すること。なお、生後3ヵ月未満の用法がある製剤の場合、「生後3ヵ月未満の乳児」をしてはいけないことに記載し、用法及び用量欄には記載しないこと。〕
保管及び取扱い上の注意
(1)直射日光の当たらない(湿気の.ない)涼しい所に(密栓して)保管すること。
〔( )内は必要とする場合に記載すること。〕
(2)小児の手の届かない所に保管すること。
(3)他の容器に入れ替えないこと。(誤用の原因になったり品質が変わる。)
〔容器等の個々に至適表示がなされていて、誤用のおそれのない場合には記載しなくてもよい。〕
【外部の容器又は外部の被包に記載すべき事項】
注意
1.次の人は服用しないこと
生後3ヵ月未満の乳児。
〔生後3ヵ月未満の用法がある製剤に記載すること。〕
2.次の人は服用前に医師、薬剤師又は登録販売者に相談すること
(1)医師の治療を受けている人。
(2)妊婦又は妊娠していると思われる人。
(3)体の虚弱な人(体力の衰えている人、体の弱い人)。
2´.服用が適さない場合があるので、服用前に医師、薬剤師又は登録販売者に相談すること
〔2.の項目の記載に際し、十分な記載スペースがない場合には2´.を記載すること。〕
3.服用に際しては、説明文書をよく読むこと
4.直射日光の当たらない(湿気の少ない)涼しい所に(密栓して)保管すること
〔( )内は必要とする場合に記載すること。〕
〔効能又は効果に関連する注意として、効能又は効果の項目に続けて以下を記載すること。〕
血の道症とは、月経、妊娠、出産、産後、更年期など女性のホルモンの変動に伴って現れる精神不安やいらだちなどの精神神経症状および身体症状のことである。

2011年12月14日水曜日

半夏瀉心湯(はんげしゃしんとう) の 効能・効果 と 副作用

漢方診療の實際』 大塚敬節 矢数道明 清水藤太郎共著 南山堂刊
半夏瀉心湯(はんげしゃしんとう)
 半夏五・ 黄芩 乾姜 人参 甘草 大棗各二・五 黄連一・
 本方の目標は心下部痞塞感・悪心・嘔吐・食欲不振等で、他覚的には心下部に抵抗を増し、屡々胃内停水・腹中雷鳴・下痢を伴い、舌には白苔を生ずる。
 半夏は胃内停水を去り、嘔吐を止め、黄連・黄芩と共に胃腸の炎症を去る。黄連・黄芩は苦味剤で、消炎健胃の効があり、人参と乾姜は胃腸の血行をよくして機能の回復を促す。甘草・大棗は諸薬を調和してその協同作用を強化するものである。
  本方と黄連湯とは類似しているがその相違は、黄連湯では腹痛が目標の一つになっている。また腹部に圧痛がある。本方では腹痛及び腹部圧痛を伴うこともある が、黄連湯の恒常的なるに似ず、また程度も軽い。舌苔は黄連湯に著明であり、本方では欠くことが多い。本方の応用は胃カタル・腸カタルである。
 加減方としては生姜瀉心湯と甘草瀉心湯とがある。
【生姜瀉心湯】(しょうきょうしゃしんとう)
 半夏瀉心湯から乾姜一・を減じ生姜二・を加える。
  本方は半夏瀉心湯の處方中、乾姜の量を減じて生姜を加えたものである。応用目標は半夏瀉心湯の證で、噫気・食臭を発し、腹中雷鳴・下痢は胃腸内で発酵が盛 んな為であってこれは生姜の治する所である。応用は胃腸カタル・発酵性下痢・過酸症・胃拡張等である。
【甘草瀉心湯】(かんぞうしゃしんとう)
 半夏瀉心湯に甘草一・を加える。
 本方は半夏瀉心湯の處方中、甘草の量を増したものであって、半夏瀉心湯の證で腹中が雷鳴して不消化下痢を起し、或は下痢せずに心煩して気分不穏を覚える者を治する。甘草を増量したのは、甘草は急迫症状を緩和する効があって心煩・気分不穏を除くからである。
 本方の応用としては胃腸カタル、産後の口内糜爛を伴う下痢、神経衰弱・不眠症等である。


『漢方精撰百八方』
106.〔半夏瀉心湯〕(はんげしゃしんとう)
〔出典〕傷寒論、金匱要略
〔附方〕生姜瀉心湯、甘草瀉心湯
〔処方〕半夏4.0 黄芩、人参、甘草、大棗 各3.0 乾姜2.0 黄連1.0
〔目標〕食物が心下部(みぞおち)につかえ、食欲不振、吐きけ、嘔吐などがある。  
 腹が鳴って下痢する。  
 心下部がつかえて肩が凝る。  
 胃の異和感、存在感があって精神不安が起こる。このとき、舌に白苔を生じ、脈、腹部の緊張は中くらいで、腹証としては心下部が固く張り圧痛がある。ときに心下部に振水音をみとめる。  
 本方の適応症は、体格、体質が中等度のものである。  

 甘草瀉心湯(かんぞうしゃしんとう)は、半夏瀉心湯を用いたいような症状で、しかも腹鳴、下痢のひどい場合に用いる。  

 半夏瀉心湯や甘草瀉心湯を用いる下痢は、裏急後重がなくて渋り腹でなく、一度下痢すれば一応気持ちがよくなるような場合で、水瀉性下痢から軟便程度まで、ひどさはいろいろである。

 生姜瀉心湯(しょうきょうしゃしんとう)は、半夏瀉心湯を用いたいような場合で、しかも嘈囃(むねやけ)がひどいときに用いる。

〔かんどころ〕体質中ぐらいの人。食べ物が胃部につかえ、みぞおちが張って、胃の存在感がある。舌に白苔がある。

〔応用〕急、慢性胃腸カタル、不眠症、神経症

〔治験〕34才の男子、旧知の青年が、このごろおかしいから診てくれと、その妻に連れられてきた。
 約1ヶ月前から、食欲がなくなり、便秘をさかんに訴えた。近所の医師にかかったが、よくならず、次第に痩せて、その上神経過敏になり、夜眠らなくなった。2週間ばかり前からつまらぬことを気にして、わけのわからないことを言うようになった。そのため勤めも休んでいるという。患者は、中肉中背。筋肉の緊張も大体良好、顔色悪く、憂鬱な顔つきで、余り口もきかない。舌に白苔があり、脈は緊張がよく、腹部をみると心下痞鞕がみとめられ、みぞおちに抵抗があって、圧迫すると痛みを訴える。半夏瀉心湯を用いたところ、10日ほどで食欲が出て、元気になった。神経症状も勿論なくなった。

 甘草瀉心湯:半夏瀉心湯に甘草1.0を加える。

 生姜瀉心湯:半夏瀉心湯から乾姜1.0を減じ、生姜2.0を加える。
山田光胤




漢方薬の実際知識』 東丈夫・村上光太郎著 東洋経済新報社 刊
10 瀉心湯類(しゃしんとうるい)
 瀉心湯類は、黄連(おうれん)、黄芩(おうごん)を主薬とし、心下痞硬(前出、腹診の項参照)および心下痞硬によって起こる各種の疾患を目標に用いられる。

 6 半夏瀉心湯(はんげしゃしんとう)  (傷寒論、金匱要略)
 〔半夏(はんげ)五、黄芩(おうごん)、乾姜(かんきょう)、人参(にんじん)、甘草(かんぞう)、大棗(たいそう)各二・五、黄連(おうれん)一〕
  本方は、少陽病で瘀熱(おねつ、身体に不愉快な熱気を覚える)と瘀水が心下に痞え、その動揺によって嘔吐、腹中雷鳴、下痢などを程するものに 用いられる。したがって、悪心、嘔吐、心下部の痞え(自覚症状)、食欲不振、胃内停水、腹中雷鳴、上腹痛、軟便、下痢(裏急後重)、精神不安、神経過敏な どを目標とする。
 本方の心下痞をつかさどる黄連のかわりに胸脇苦満をつかさどる柴胡に、冷えをつかさどる乾姜のかわりに生姜に変えたものが小柴胡湯(前出、柴胡剤の項参照)である。
 〔応用〕
 つぎに示したような疾患に、半夏瀉心湯證を呈するものが多い。
 一 胃カタル、腸カタル、胃アトニー症、胃下垂症、胃潰瘍、十二指腸潰瘍その他の胃腸系疾患。
 一 月経閉止、悪阻その他の婦人科系疾患。
 一 そのほか、不眠症、神経症、口内炎、食道狭窄、宿酔)など。


《資料》よりよい漢方治療のために 増補改訂版 重要漢方処方解説口訣集』 中日漢方研究会
64.半夏瀉心湯(はんげしゃしんとう) 傷寒論
 半夏5.0 黄芩2.5 乾姜2.5 人参2.5 甘草2.5 大棗2.5 黄連1.0 

(傷寒論)
「傷寒五六日,嘔而発熱者,柴胡証具,而以他薬下之,柴胡証仍在者,復与柴胡湯,此雖巳下之,不為逆,必蒸々而振,却発熱汗出而解,若心下満而硬痛者,此為結胸也,大陥胸湯主之」但満而不痛者,此為痞,「柴胡不中与之」宜半夏瀉心湯(太陽下)

現代漢方治療の指針〉 薬学の友社

 胃部がつかえ,悪心や嘔吐があり,食欲不振で胃部に水分停滞感があり,腹鳴を伴なって下痢するもの。あるいは,軟便や粘液便を排出するもの。
 本方は下腹部で腹鳴がある冷え症の胃腸機能を高め,消化を助け,栄養の吸収をよくし,便通を整え血色をよくするので,漢方処方中胃腸薬と形r最も多く用いられる。安中散も冷え症に用いられる力置、安中散適応症状には水分停滞あるいは腹鳴はない。本方はあまり腹痛のひどくない慢性の下痢に奏効し,急性の水瀉性下痢あるいは発熱悪寒を伴なう下痢には無効で,この場合は五苓散,または葛根湯が適する。腹痛の激しい下痢には柴胡桂枝湯平胃散小建中湯大建中湯などを考慮すべきである。また虚弱者で下痢と便秘が交互にくるものにもよいが,同じ症状で充実体質には大柴胡湯が適応する。本方はまた黄連解毒湯でも強すぎる虚弱者の便秘によい。真武湯半夏厚朴湯茯苓飲との鑑別はそれぞれの処方の項を参照のこと。本方を服用後なお疲労倦怠感,食欲不振がとれない場合には小柴胡湯あるいは補中益気湯に転方すべきである。


漢方処方解説シリーズ〉 今西伊一郎先生
 本方は平素から若干の冷えを自覚したり,胃腸機能が悪い傾のものの,応用の目標欄記載の症候複合がある消化器疾患に用いられている。したがって腸内水分の再吸収や,利尿ホルモンのバランスがlくずれているもので,胃内や腸管に水分停滞が多く,それがために腸内腐敗現象や,消化管内水分停滞による腹鳴あるものが,本方応用のポイントになる。また本方が対象になる下痢は,比較的に排便量が少なく下痢便や軟便でありながら,間歇的に便秘して下剤を投与すると,その作用が激しく現われる下剤禁忌症であることが,他適応症と異なる。
 類似症状の鑑別
 安中散,冷えを自覚する消化器疾患に応用するが水分停滞感や腹鳴,または下痢軟便は認めない。
 五苓散,激しい水瀉性の下痢便で,口渇や微熱あるいは頭痛,頭重などを伴う点で区別する。
 平胃散,水分の停滞が主として胃に局限し,それがため消化不良,胃拡張をきたして下痢(水容便)し,下痢しても倦怠感や衰弱する傾向がなく,かえって爽快感をもたらすことが,平胃散適応の特徴といえる。
 半夏厚朴湯,悪心,嘔吐,胃腸機能が悪い点で類似するが,半夏厚朴湯が適応するものには,腹鳴や下痢がなく,精神不安が著しい点を考慮すればよい。


漢方処方応用の実際〉 山田 光胤先生
○体質,体力が中ぐらいの人で,食物が心下部(みぞおち)に痞え,食欲不振,嘔きけ,嘔吐,時に軽い上腹痛がある。腹が鳴って下痢する。心下部が痞えて肩がこる。みぞおちに異和感があり,胃の存在を感じ,精神不安,神経過敏を呈す。舌に白苔を生じ,脈,腹部の緊張は中ぐらいで,腹部は心下痞硬(心下部が硬く張って圧痛がある)時に心下部振水音を呈する。
○着眼点は心下痞硬である。心下は胸骨剣状突起より下で,臍より上の部分である。本方の心下痞硬は,その部分に軽い抵抗をふれるものである。
○心下痞硬がはっきりしないとき,細野史郎氏は胸骨剣状突起の直下を押してみて,圧痛があれば心下痞硬であるといっている。
○先哲医話(福井楓亭)に「脾労(胃弱)の証,心下痞し,腹中雷鳴し,痛まず下痢し,痢後心下が不快で,反って痞張するものは半夏瀉心湯がよい」とある。しかし半夏瀉心湯証の下痢は水瀉性下痢から軟便程度まで程度はいろいろあるが,裏急後重がなく,一度下痢すれば一応さっぱりする。
○山田業精の聞見録に「脳漏(蓄膿症などの鼻漏)に半夏瀉心湯がよいものがある。これは心下痞硬を目標にする。また半夏瀉心湯は張満(腹膜炎などで腹が張る病気)及び月経不順にもよいことがある」と書いてある。
○袖珍方には本方が車酔,船酔によいとある。


漢方診療の実際〉 大塚,矢数,清水 三先生
 本方の目標は心下部痞塞感,悪心,嘔吐,食欲不振等で,他覚的には心下部に抵抗を増し,屡々胃内停水,腹中雷鳴,下痢を伴い,舌には白苔を生ずる。半夏は胃内停水を去り,嘔吐を止め,黄連,黄芩と共に胃腸の炎症を去る。黄連,黄芩は苦味剤で,消炎,健胃の効があり,人参と乾姜は胃腸の血行をよくして機能の回復を促す。甘草,大棗は諸薬を調和してその協同作用を強化するものである。
本方と黄連湯とは類似しているがその相違は黄連湯では腹痛が目標の一つになっている。また腹部に圧痛がある。本方では腹痛及び腹部圧痛を伴うこともある が黄連湯の恒常的なるに似ず,また程度も軽い,舌苔は黄連湯に著明であり,本方では欠くことが多い。本方の応用は胃カタル,腸カタルである。


漢方処方解説〉 矢数 道明先生
 心下部の痞塞感が第一で,悪心,嘔吐,食欲不振を訴え,他覚的には心下部に抵抗を認め,しばしば胃内停水腹中雷鳴,下痢を伴い,舌白苔を生ずることが多い。


漢方入門講座〉 竜野 一雄先生
(構成)  乾姜の代りに生姜,黄連の代りに柴胡にすると小柴胡湯になる。言換えると本方は小柴胡湯に構成が近いからその適応症も稍それに近いのである。近いのは作用する部位が心下で,症状が嘔なのである。小柴胡湯は胸脇苦満,脇下満だし,本方は心下痞である。
 運用 1. 心下部が痞え,嘔又は腸鳴する。
 心下部とは胸元がつかえるという自覚症状で,他覚的に之を証明することは出来ない。心下部を触診すると多少の緊張を認めることはあるが,強く押しては深部に抵抗を証し得ない。嘔と腹鳴は相伴うこともあり,一方だけのこともある。要するに心下に痞えた気が上に動いて嘔になり,腹で動いて腸鳴すると思えばよい。「嘔して腸鳴し心下痞するもの」(金匱要略嘔吐)はこのことであり,小柴胡湯と似た所は「傷寒五六日,嘔して発熱するものは柴胡の証具る。而るに他薬を以て之を下し,柴胡の証仍を在るものは復た柴胡湯を与ふ。これに巳に之を下すと雖も逆となさず。必ず蒸々として振ひ,却て発熱汗出でて解す。若し心下満して硬痛する者は此を結胸となす。大陥胸湯之を主る。ただ満して痛まざるものは此を痞となす。柴胡之を与ふるに中らざるなり。半夏瀉心湯之を主る。」(傷寒論太陽病下篇)
 長文だがその要点は大陥胸湯,小柴胡湯,半夏瀉心湯の鑑別であって,痛むものは結胸で大陥胸湯,満だけで痛まぬのは気の痞えだから半夏瀉心湯,苦満又は痞硬するは痞に似てはいるが,実鬱だから小柴胡湯だというのである。同じく満しても気だけで充塞するものがないのを痞と云い,充塞があるのを痞硬とする。心下痞と嘔とを目標にして半夏瀉心湯は胃カタル,胃腸カタル,胃酸過多症,胃拡張,胃下垂,胃潰瘍,十二指張潰瘍,悪阻,蛔虫,薬剤副作用による悪心嘔吐,神経性嘔吐等の胃症状には頻用する。胸元は痞える位だから食欲は無論減退しており,舌は薄い白苔を被っていることがある。脉は普通であまり傾りはない。



勿誤方函口訣〉 浅田 宗伯先生
 此方は飲邪併結して心下痞硬する者を目的とす。故に支飲或は澼飲の痞硬には効なし。飲邪併結より来る嘔吐にも,噦逆にも,下痢にも皆運用して特効あり。千金翼に附子を加ふるものは,即ち附子瀉心湯の意にて,飲邪を温散させる老手段なり。又虚労或は脾労等心下痞して下痢する者,此方に生姜を加えてよし,即ち生姜瀉心湯なり。


【一般用漢方製剤承認基準】
半夏瀉心湯
〔成分・分量〕
半夏4-6、黄芩2.5-3、乾姜2-3、人参2.5-3、甘草2.5-3、大棗2.5-3、黄連1
〔用法・用量〕

〔効能・効果〕
体力中等度で、みぞおちがつかえた感じがあり、ときに悪心、嘔吐があり食欲不振で腹が鳴って軟便又は下痢の傾向のあるものの次の諸症:
急・慢性胃腸炎、下痢・軟便、消化不良、胃下垂、神経性胃炎、胃弱、二日酔、げっぷ、胸やけ、口内炎、神経症


2011年11月16日水曜日

芍薬甘草湯(しゃくやくかんぞうとう) の 効能・効果 と 副作用

漢方診療の實際』 大塚敬節 矢数道明 清水藤太郎共著 南山堂刊
芍薬甘草湯(しゃくやくかんぞうとう)
 本方は急迫性の筋肉の攣急を目標に、頓服として用いる方剤で、四肢の筋肉ばかりでなく、腹直筋その他の筋肉の攣急にも用いられる。
 本方は芍薬と甘草の二味からなり、筋肉の急迫性攣急を治する効がある。
 本方は以上の目標に従って、四肢の筋痛、腎石・胆石等からくる急迫性腹痛などに用いられる。また排尿痛の激しいものにも用いることがある。多くは頓服として一時の急を凌ぐために便利な方剤である。


『漢方精撰百八方』
70.〔芍薬甘草湯〕(しゃくやくかんぞうとう)
〔出典〕傷寒論

〔処方〕芍薬、甘草各3.0

〔目標〕自覚的 身体諸処が劇しく痛み、腰脚がひきつり痛む。 他覚的 脈 やや軟に近いが、ときには緊。 舌 苔なく、多くは湿潤。 腹 腹力はやや軟で、両腹直筋がつよく緊張して、あたかも二本の棒を、臍をはさんで平行にたてたような感を呈する。

〔かんどころ〕脚はひきつり、腹筋すじばり、あちこち痛んでがまんが出来ない。

〔応用〕 1.諸種の疼痛の激甚な場合
2.小児の腹痛又は夜啼症
3.諸種の神経痛で、腹直筋の緊張のつよいもの
4.胆石、腎石等で疼痛の激しい場合
5.泌尿器、生殖器疾患で下付苦痛の激しい場合

〔治験〕本方は諸種の疼痛を、頓挫的に緩解させるはたらきがつよい。随意筋、不随意筋の別なく、その痙攣による疼痛をゆるめる作用は、予想以上のものがある。その痛みが激甚ならば激甚なるほど、本方は即座に奏効する。  本方に膠飴を加味して、より効を増すことがあり、また手足に寒冷を覚えたり、悪寒の加わったりする場合には、附子を加えて芍薬甘草附子湯として与えて、一層効果的である場合がある。  二十三才の男子。猛烈な腰の痛みで、家中を転げ廻っているから、至急往診してほしいとの訴え。行ってみると、なるほど、泣き叫ばんばかりの様相で輾転反側している。両腹直筋はピンと緊張して、二本の竹の棒を立てたようである。あらかじめ用意していった本方を煎じ与えて五分、嘘のように痛みはおさまり、静かになった。あと一週間分を服して完治した。  三才の女児。疳がつよくて、何事にも反抗し、かつ夜は突然にとび起きて啼きわめく。
本方を与えること二週間で正常状態に復した。
藤平 健


漢方薬の実際知識』 東丈夫・村上光太郎著 東洋経済新報社 刊
芍薬甘草湯(しゃくやくかんぞうとう) (傷寒論)
 〔芍薬(しゃくやく)、甘草(かんぞう)各三〕
 本方は、急迫性の激しい筋肉の痙攣と疼痛に頓服薬として用いられる。本方證の疼痛は、表裏・内外・上中下を問わず局所の痛みを訴えるものである。
 〔応用〕
 つぎに示すような疾患に、芍薬甘草湯證を呈するものが多い。
 一 坐骨神経痛、腰痛、五十肩、リウマチその他の神経および運動器系疾患。
 一 胃痙攣、腸疝痛、腸閉塞、胆石痛、胆嚢炎、膵臓炎その他の消化器系疾患。
 一 腎臓結石、排尿痛その他の泌尿器系疾患。



《資料》よりよい漢方治療のために 増補改訂版 重要漢方処方解説口訣集』 中日漢方研究会
34.芍薬甘草湯 傷寒論
芍薬4.0~8.0 甘草4.0~8.0

(傷寒論)
傷寒脉浮,自汗出,小便数,心煩,微悪寒,脚攣急,「反与桂枝湯,欲攻其表,此誤也」(中略)若厥愈,足温者,更芍薬甘草湯与之,其脚即伸(後略) (太陽病)

現代漢方治療の指針〉 薬学の友社
 四肢筋肉や腹直筋その他筋の急迫性の痛みに,頓服的にあるいは他処方と合方し用いる。
 漢方でいう筋の拘攣,拘急,攣急などを対象に鎮痙鎮痛剤として繁用されているもので,平滑筋(内蔵筋)や横紋筋(骨句筋)の異常緊張に伴う急迫性の痛みを緩和させる。したがって単に鎮痛作用だけでなく,筋または筋群の痛みを発作性収縮に著効がある。なお筋の異常緊張により痛みを伴う場合,葛根湯柴胡桂枝湯桂枝加芍薬湯小建中湯桂枝加朮附湯など多くの処方に本方を構成する芍薬甘草湯が配合されている。胆嚢炎,胆石症などで胸脇部痛や胃痙攣痛があって,柴胡桂枝湯で痛みがとれないとき本方を加える。大柴胡湯が適応する肝臓疾患や胃腸病で,痛みを愁訴するものに,本方を合方する。平胃散が対象になる胃炎,胃拡張などで心窩部の直腹筋が時々拘攣して,痛みを訴えるものに頓用する。神経痛,関節炎,筋肉リウマチなどで麻杏薏甘湯だけで,痛みが好転しない場合本方を加味する。猪苓湯適応証の膀胱炎,尿道炎,腎臓結石,尿道結石などに猪苓湯単味で痛みがとれないとき,本方を頓用せしめる。パーキンソン氏病で脳血管動脈硬化が認められ,桂枝加朮附湯が対象になる症状と,筋硬直と運動障害を目安に本方を投与すると,奇効を奏す識ことがある。また半夏厚朴湯に本方を合方して応用することもある。急性胃腸カタルや腹部内蔵の発作性痛みに,本方を頓服的に用いると速効効果がある。海水浴や水浴中に起こりやすい下肢の痙攣に本方を服用させると著効がある。

漢方処方応用の実際〉 山田 光胤先生
 急激におこった筋肉の拘攣による症状(痛み)に頓服として用いる。拘攣か骨格筋におきれば,四肢,手足の攣急性疼痛となり,消化管の滑平筋におきれば,胃腸の痙攣性激痛となる。腹証は,両側の腹直筋が攣急していることが多いがこれのないこともある。


漢方診療の実際〉 大塚,矢数,清水 三先生
 本方は急迫性の筋肉の攣急を目標に,頓服として用いる方剤で,四肢の筋肉ばかりでなく,腹直筋その他の筋肉の攣急にも用いられる。本方は芍薬と甘草の二味からなり,筋肉の急迫性攣急を治する効がある。本方は以上の目標に従って,四肢の筋痛,腎石・胆石等からくる急迫性腹痛などに用いられる。また排尿痛の激しいものにも用いることがある。多くは頓服として一時の急を凌ぐために便利な方剤である。

漢方処方解説〉 矢数 道明先生
 本方は急迫性の激しい筋肉の攣急と疼痛が主目標で,多くは腹直筋の攣急を現わす。本方は表裏ともに作用し,四肢腹部腰背の筋攣急ばかりでなく,胃痙攣や胆石症,腎石疝痛等裏の急迫性疼痛にもよく奏効し,その疼痛は筋肉局所のみの症状であることが多い。局所の筋肉が堅く,強く収縮し,痙攣を起こしているものによいので,多くの場合,腹直筋の攣急をともなっている。しかし腹壁の弛緩しているものでも腹底のどこかにひっぱりのあるものに用いてよいことがある。

日本東洋医学会誌〉第3回第1号 細野 先生等
 身体の筋肉の攣急は,ただに躯幹や四肢の筋肉の如き表在性のものに止まらず,体内に深在する滑平筋臓器,殊に胃腸,気管,胆嚢,輸胆管,輸尿管等々の滑平筋性管状臓器における攣急さえも広く応用して卓効があると考えられる。筋肉の痙攣であれば,骨骸筋,或は滑平筋の如何をとわず,中枢性と末梢性とを問わず,よく鎮静的作用を現わすものである。

※滑平筋? 平滑筋の誤植?

朱子集験方
 「去杖湯(本方の別名)脚弱力なく,行歩艱難なるを治す。」

医学心悟
 芍薬甘草湯,腹痛を止むこと神の如く。

勿誤方函口訣〉 浅田 宗伯先生
 此の方は脚攣急を治するが主なれども,諸家腹痛及び脚気両足,或は膝頭痛んで屈伸すべからざる者,其他諸急痛に運用す。又釣藤,羚羊を加えて驚癇の勁急(激しい痙攣のこと)を治す。又松心(松のひでといって油脂成分の多いところ)を加へて,淋痛甚しく,昼夜号泣する者を治す。又梅毒諸薬を服して羸劣骨節,なお痛み,攻下すべからざる者,松心を加えて効あり,或は虎脛骨を加ふるも佳なりと云う。

漢方入門講座〉 竜野 一雄先生
 運用 1. 筋肉痙攣
 古方家的に言えば芍薬,筋の拘攣を緩め,甘草,急迫を治す。故に筋つり痛むものに用いると言う所だが,些か蛇虫を加えたい。
 芍薬甘草湯はひとり筋拘攣を治すのみならず下肢運動麻痺にも用いるから筋拘攣では割切れない。芍薬甘草湯の証は傷寒論太陽病上篇に出ている。
 「傷寒脉浮,自汗出で小便数,心煩,微悪寒,脚攣急するに,反って桂枝銀を与へ其表を攻んと欲するはこれ誤なり。之を得れば便ち厥し,咽中乾き煩躁吐逆せんとするものは甘草乾姜湯を作りて之を与え,以て其の陽を復す。若し厥癒え足温かなるものは更に芍薬甘草湯を作り之を与ふれば其脚即ち伸ぶ。」(中略)
 筋肉には血が多く含まれており,筋も血も陰に属する脚も亦上肢に対しては陰である。特に脚といった所に意味があり,伸びたまま縮まないのは陽だし,曲ったまま伸びないのは陰で,陰が勝っている状態である。陰の部の腹が痛む時はこごみ,背が痛いときは身を反して背に力を入れることを考えれば類推できよう。芍薬の気味は苦平になっている。苦は血に行き,芍薬は陰血を益す。血虚を治し筋の攣縮を緩め弛緩を補力する所以である。甘草の気味は甘平,甘は緩め補う。急迫を緩和し,弛緩を補力する所以である。芍薬の血,甘草の気相俟って血虚による脚筋拘攣を治し,陰気を補ってここにはじめて陰陽の調和を図ることができる。芍薬甘草湯は臨床上腹痛などにも用いる。すると表裏の関連をどう説明すべきかが問題になってくるが,漢方的には芍薬は脾血を益す。苦は火,脾は土,火土を生ずるの相生を以て説明するのは,この場合些か機械的でしっくりしない。脾は四肢を主り,脾虚せば四肢伸びずして攣縮くるに至る。表裏の相互関係である。芍薬甘草湯は臨床的には次のようなことに応用される。
 1.熱病発汗過多により脚攣急するもの,条文の通りである。

 2.下肢痙攣,その原因が脚気であろうと,捻挫,筋肉リウマチ,関節炎などであろうと,末梢神経性,中枢神経性,症候性等を問わずに急劇に起ったものに有効である。慢性でも劇甚なものには対症療法として用いるべきである。その際他に例えば発熱悪風の如き何等かの特徴のある症状を伴っていれば別の処方を選ぶべきで,芍薬甘草湯は専ら局所症状だけのものと思えばほぼ誤りはない。私の乏しい経験では上肢に起ったものはなく,皆下肢ばかりだったが,上肢でも勿論有効であろう。(中略)

 3.局所的な筋肉のトーヌス低下,主に下肢の無力症で,脚弱と称し歩行困難のもの,矢張り局所所見があるだけのものに使う。若し他に所見があれば越婢加朮湯,八味丸,桂枝加附子湯などである。

 4.気管支喘息で呼吸困難のため筋肉に力を篭めているもの,敢て喘息ばかりに限らず咳の劇しいもの,痛みのはげしいもの,小便が出ないでいきんでいるものなどに芍薬甘草湯を使うと一時の急を救うことが出来るから意を以って応用の機会をひろげてみるようにする。私は嘗て肺結核で劇しく咳込み如何ともし難きものに,咳をするとき四肢背筋にあらん限りの力を籠めているのに目を付け本方を用いた所,咳も緩解した経験を持っている。甘草は急迫を治すとて古人も嘔逆,淋病で痛み,小便が出ないもの,脱肛,痔発作などに使っているが,甘草には副腎皮質ホルモン促進的の薬理作用があるから,汎適応症候群の見方から見ると正に急迫症状を呈する抗ショック期に甘草が有効であることが考えられる。

 運用2. 腹痛
 芍薬甘草湯は表のみならず裏にも働き,痙攣,疼痛を緩和する。就中腹痛で代表的なのは胃痙攣や胆石痛などの急劇な疼痛であって,原因不明の一過性腹痛や重大な器質性変化なき胃痙攣などは本方が治ってしまうことが多い。その他一定の器質性変化がある病気でも鎮痛剤として対症療法的に用いて効果を期待することが出来る。例えば蛔虫,小児の原習不明の腹痛,急性虫垂炎,胃潰瘍などに使った例がある。但し内臓の穿孔,腸閉塞症,膵臓壊死などはたとえ本方で一時の急を救ったにせよ原病に対する適切な療法を怠っては取返しがつかぬことになる。芍薬甘草湯を使うべきは腹痛は腹筋が強く収縮していて,疼痛も劇しい。鈍痛,慢性の腹痛,腹壁弛緩せるもの,他に著明の症状を伴っているものなどには効かない。(後略)


※蛇虫……蛇足の誤植か?



一般用漢方製剤
芍薬甘草湯
〔成分・分量〕
芍薬3-8、甘草3-8
〔用法・用量〕

〔効能・効果〕
体力に関わらず使用でき、筋肉の急激なけいれんを伴う痛みのあるものの次の諸症:
こむらがえり、筋肉のけいれん、腹痛、腰痛

してはいけないこと
(守らないと現在の症状が悪化したり、副作用が起こりやすくなる)
1.次の人は服用しないこと
(1)生後3ヵ月未満の乳児。
〔生後3ヵ月未満の用法がある製剤に記載すること。〕
(2)次の診断を受けた人
心臓病
2.症状があるときのみの服用にとどめ、連用しないこと
相談すること
1.次の人は服用前に医師、薬剤師又は登録販売者に相談すること
(1)医師の治療を受けている人。
(2)妊婦又は妊娠していると思われる人。
(3)高齢者。
〔1日最大配合量が甘草として1g以上(エキス剤については原生薬に換算して1g以上)含有する製剤に記載すること。〕
(4)次の症状のある人。
むくみ
〔1日最大配合量が甘草として1g以上(エキス剤については原生薬に換算して1g以
上)含有する製剤に記載すること。〕
(5)次の診断を受けた人。
高血圧、腎臓病
〔1日最大配合量が甘草として1g以上(エキス剤については原生薬に換算して1g以
上)含有する製剤に記載すること。〕
2.服用後、次の症状があらわれた場合は直ちに服用を中止し、この文書を持って医師、薬剤
師又は登録販売者に相談すること
まれに下記の重篤な症状が起こることがある。その場合は直ちに医師の診療を受けること。


症状の名称 症状 間質性肺炎
階段を上ったり、少し無理をしたりすると息切れがする・息苦しくなる、空せき、発熱等がみられ、これらが急にあらわれたり、持続したりする。
偽アルドステロン症、ミオパチー1)
手足のだるさ、しびれ、つっぱり感やこわばりに加えて、脱力感、筋肉痛があらわれ、徐々に強くなる。
うっ血性心不全、
心室頻拍
全身のだるさ、動悸、息切れ、胸部の不快感、胸が痛む、めまい、失神等があらわれる。
肝機能障害
発熱、かゆみ、発疹、黄疸(皮膚や白目が黄色くなる)、褐色尿、全身のだるさ、食欲不振等があらわれる。

〔1)は、1日最大配合量が甘草として1g以上(エキス剤については原生薬に換算して1g以上)含有する製剤に記載すること。〕
3.5~6回服用しても症状がよくならない場合は服用を中止し、この文書を持って医師、薬
剤師又は登録販売者に相談すること
〔用法及び用量に関連する注意として、用法及び用量の項目に続けて以下を記載すること。〕
(1)小児に服用させる場合には、保護者の指導監督のもとに服用させること。
〔小児の用法及び用量がある場合に記載すること。〕
(2)〔小児の用法がある場合、剤形により、次に該当する場合には、そのいずれかを記載すること。〕
1)3歳以上の幼児に服用させる場合には、薬剤がのどにつかえることのないよう、よく注意すること。
〔5歳未満の幼児の用法がある錠剤・丸剤の場合に記載すること。〕
2)幼児に服用させる場合には、薬剤がのどにつかえることのないよう、よく注意すること。
〔3歳未満の用法及び用量を有する丸剤の場合に記載すること。〕
3)1歳未満の乳児には、医師の診療を受けさせることを優先し、やむを得ない場合にのみ服用させること。
〔カプセル剤及び錠剤・丸剤以外の製剤の場合に記載すること。なお、生後3ヵ月未満の用法がある製剤の場合、「生後3ヵ月未満の乳児」をしてはいけないことに記載し、用法及び用量欄には記載しないこと。〕
保管及び取扱い上の注意
(1)直射日光の当たらない(湿気の少ない)涼しい所に(密栓して)保管すること。
〔( )内は必要とする場合に記載すること。〕
(2)小児の手の届かない所に保管すること。
(3)他の容器に入れ替えないこと。(誤用の原因になったり品質が変わる。)
〔容器等の個々に至適表示がなされていて、誤用のおそれのない場合には記載しなくてもよい。〕
【外部の容器又は外部の被包に記載すべき事項】
注意
1.次の人は服用しないこと
(1)生後3ヵ月未満の乳児。
〔生後3ヵ月未満の用法がある製剤に記載すること。〕
(2)次の診断を受けた人
心臓病
2.次の人は服用前に医師、薬剤師又は登録販売者に相談すること
(1)医師の治療を受けている人。
(2)妊婦又は妊娠していると思われる人。
(3)高齢者。
〔1日最大配合量が甘草として1g以上(エキス剤については原生薬に換算して1g以上)含有する製剤に記載すること。〕
(4)次の症状のある人。
むくみ
〔1日最大配合量が甘草として1g以上(エキス剤については原生薬に換算して1g以上)含有する製剤に記載すること。〕
(5)次の診断を受けた人。
高血圧、腎臓病
〔1日最大配合量が甘草として1g以上(エキス剤については原生薬に換算して1g以
321
上)含有する製剤に記載すること。〕
2´.服用が適さない場合があるので、服用前に医師、薬剤師又は登録販売者に相談すること
〔2.の項目の記載に際し、十分な記載スペースがない場合には2´.を記載すること。〕
3.服用に際しては、説明文書をよく読むこと
4.直射日光の当たらない(湿気の少ない)涼しい所に(密栓して)保管すること
〔( )内は必要とする場合に記載すること。〕



医療用漢方製剤
【禁忌(次の患者には投与しないこと)】
 1.アルドステロン症の患者
 2.ミオパシーのある患者
 3. 低カリウム血症のある患者
 [1~3:これらの疾患及び症状が悪化するおそれがある。]

【使用上の注意】
1.慎重投与(次の患者には慎重に投与すること)
高齢者(「5.高齢者への投与」の項参照)
2.重要な基本的注意
(1)本剤の使用にあたっては、患者の証(体質・症状)を考慮して投
与すること。なお、経過を十分に観察し、症状・所見の改善
が認められない場合には、継続投与を避けること。
(2)本剤にはカンゾウが含まれているので、血清カリウム値や血圧
  値等に十分留意し、異常が認められた場合には投与を中止する
  こと。
(3)他の漢方製剤等を併用する場合は、含有生薬の重複に注意する
  こと。
3.相互作用
  併用注意(併用に注意すること)





4.副作用
 本剤は使用成績調査等の副作用発現頻度が明確となる調査を実
 施していないため、発現頻度は不明である。
(1)重大な副作用
1)間質性肺炎:咳嗽、呼吸困難、発熱、肺音の異常等があら
われた場合には、本剤の投与を中止し、速やかに胸部X線、
胸部CT等の検査を実施するとともに副腎皮質ホルモン剤の
投与等の適切な処置を行うこと。
2)偽アルドステロン症:低カリウム血症、血圧上昇、ナトリ
 ウム・体液の貯留、浮腫、体重増加等の偽アルドステロン
 症があらわれることがあるので、観察(血清カリウム値の測
 定等)を十分に行い、異常が認められた場合には投与を中止
 し、カリウム剤の投与等の適切な処置を行うこと。
3)うっ血性心不全、心室細動、心室頻拍(Torsades de
 Pointes を含む):うっ血性心不全、心室細動、心室頻拍
 (Torsades de Pointes を含む)があらわれることがあるの
 で、観察(血清カリウム値の測定等)を十分に行い、動悸、
 息切れ、倦怠感、めまい、失神等の異常が認められた場合
 には投与を中止し、適切な処置を行うこと。
4)ミオパシー:低カリウム血症の結果として、ミオパシー、
 横紋筋融解症があらわれることがあるので、脱力感、筋力
 低下、筋肉痛、四肢痙攣・麻痺、CK(CPK)上昇、血中及び尿
 中のミオグロビン上昇が認められた場合には投与を中止し、
 カリウム剤の投与等の適切な処置を行うこと。
5)肝機能障害、黄疸:AST(GOT)、ALT(GPT)、Al-P、γ-GTP
 の上昇等を伴う肝機能障害、黄疸があらわれることがある
 ので、観察を十分に行い、異常が認められた場合には投与
 を中止し、適切な処置を行うこと。

5.高齢者への投与 
 一般に高齢者では生理機能が低下しているので減量するなど注
 意すること。
6.妊婦、産婦、授乳婦等への投与
 妊娠中の投与に関する安全性は確立していないので、妊婦又は
 妊娠している可能性のある婦人には、治療上の有益性が危険性
 を上回ると判断される場合にのみ投与すること。
7.小児等への投与
 小児等に対する安全性は確立していない。[使用経験が少ない]






・夜啼き(生後百日くらい、夜半に泣き出す)
・芍甘湯(しゃっかんとう)と略称されることもある。

2011年11月7日月曜日

四逆散(しぎゃくさん) の 効能・効果 と 副作用

漢方診療の實際』 大塚敬節 矢数道明 清水藤太郎共著 南山堂刊
四逆散(しぎゃくさん)
本方は大柴胡湯よりも虚し、小柴胡湯より実し、二方の中間に位する方剤である。腹證上では胸脇苦満があり、腹直筋が季肋下で拘急している。また柴胡の證で手足の厥冷するものを治し、或は所謂癇の亢ぶるものを治する。
本方は柴胡・芍薬・枳実・甘草からなり、大柴胡湯の黄芩・半夏・大黄・生姜・大棗の代りに甘草を加えたものであるから、嘔吐や便秘の症状はなく、急迫性の心下痛は却って強いことがある。
本方の応用は大柴胡湯及び小柴胡湯に準ずるが、胆嚢炎・胆石症・胃炎・胃潰瘍・鼻カタルなどに用いられる機会がある。


『漢方精撰百八方』
43.〔方名〕四逆散(しぎゃくさん)
〔出典〕傷寒論

〔処方〕甘草2.0 枳実2.5 柴胡5.0 芍薬4.0

〔目標〕証には、四肢厥冷し、咳嗽、動悸、小便不利、腹痛し、或いは泄利下重する者、とある。
即ち、四肢厥冷し、胸腹部が微満し、腹痛、下痢の傾向があり、また咳嗽、心悸亢進、小便不利、不定愁訴等のあるものに適用する。
更に別の表現をすれば胸脇苦満、腹直筋の攀急があり、大柴胡湯小柴胡湯との中間に位する薬方である。

〔かんどころ〕大柴胡湯の腹証に似ていて、やや虚しているもので、腹直筋の攀急が著明なものである。柴胡加竜骨牡蛎湯証に似た神経症状があることもある。

〔応用〕
(1)熱候がないか、又は熱候が著しくなくて下痢し、微痛があり、胸脇苦満あり、手足に冷感があるもの、脈沈緊。

(2)胆嚢炎、胆石症で、目標の症状をあらわすもの。

(3)副鼻腔炎。胸脇苦満、腹直筋の攀急あるもの。
伊藤清夫


漢方薬の実際知識』 東丈夫・村上光太郎著 東洋経済新報社 刊
1 柴胡剤
柴胡剤は、胸脇苦満を呈するものに使われる。胸脇苦満は実証では強く現 われ嘔気を伴うこともあるが、虚証では弱くほとんど苦満の状を訴えない 場合がある。柴胡剤は、甘草に対する作用が強く、解毒さようがあり、体質改善薬として繁用される。したがって、服用期間は比較的長くなる傾向がある。柴胡 剤は、応用範囲が広く、肝炎、肝硬変、胆嚢炎、胆石症、黄疸、肝機能障害、肋膜炎、膵臓炎、肺結核、リンパ腺炎、神経疾患など広く一般に使用される。ま た、しばしば他の薬方と合方され、他の薬方の作用を助ける。
柴胡剤の中で、柴胡加竜骨牡蛎湯柴胡桂枝乾姜湯は、気の動揺が強い。小柴胡湯加味逍遥散は、潔癖症の傾向があり、多少神経質気味の傾向が ある。特に加味逍遥散はその傾向が強い。柴胡桂枝湯は、痛みのあるときに用いられる。十味敗毒湯荊防敗毒散は、化膿性疾患を伴うときに用いられる。

3 四逆散(しぎゃくさん) (傷寒論)
〔柴胡(さいこ)五、芍薬(しゃくやく)四、枳実(きじつ)二、甘草(かんぞう)一・五〕
大柴胡湯證と小柴胡湯の中間の證を現わすものに用いられる。胸脇苦満は著明で、腹直筋が季肋下で拘急している。しかし、大柴胡湯ほど実してい ないため、嘔吐、便秘の症状はないか、あっても軽い。便秘のかわりに腹痛、泄痢下重(せつりげじゅう、冷えによって起こる下痢で、あとがさっぱりしない) する場合もある。大柴胡湯よりも芍薬の量が多いので、心下部の痛みをとる作用が強い。本方は、四肢の冷え、精神不安、咳嗽、心悸亢進、動悸、腹痛、腹満、 裏直筋の緊張、尿利減少などを目標とする。
〔応用〕
柴胡剤であるために、大柴胡湯のところで示したような疾患に、四逆散證を呈するものが多い。


『漢方処方 応用の実際』 山田 光胤 南山堂刊
109.四逆散(傷寒論)
柴胡5.0,枳実2.0,芍薬4.0,甘草2.0

〔目標〕  体格肉づき中ぐらいの人で,腹証に心下痞硬 および 胸脇苦満と腹直筋の攣急があり,腹直筋は季肋下で甚だしく緊張し,腹に2本の棒を立てたようにふれる場合である.
一般症状では 咳嗽,腹痛,動悸や軽い精神不安,尿利減少 などを訴えるものが多い.

〔説明〕  本方は,大柴胡湯と小柴胡湯の中間の体質,体力の場合に用いられる.
諸薬のうち,芍薬の目標は腹直筋の攣急(腹皮攣急)である.しかし 腹皮攣急は小建中湯にも,柴胡桂枝湯の証にもある.これらの区別は微妙であるが,簡単にいえば,四逆散の方が柴胡桂枝湯証より,腹部全体の緊張もよいし,腹直筋も硬く張っている.
また 小建中湯証では,腹部全体が軟弱で,腹直筋のみが拘攣し緊張しているほか,胸脇苦満はみられない。

〔参考〕  1) 本方を鼻疾患に用いることがある.その場合は辛夷,川芎,細辛 などを加えるとよい.
2) 餐英館療治雑話には本方証に 怒りやすい という症状をあげている.
3) 梧竹楼は,脾胃の虚寒による吃逆(しゃっくり)によいといっている.脾胃の虚寒というのは,胃腸の衰弱寒冷の意味である.
4) また 和田東郭は,疫(熱性下痢症)で譫語,煩躁し吃逆を発するものによいといっている.

〔応用〕  大・小柴胡湯に準ずるほか,胃炎,十二指腸炎,胃・十二指腸潰瘍,胆嚢炎,胆石症,神経症,鼻炎,蓄膿症 など.

〔鑑別〕  柴胡桂枝湯の項 参照

〔症例 1〕  蓄膿症 22~23歳の青年,2年ほど前から鼻がわるく,最近2~3ヵ月食べ物のにおいがわからなくなったという.
中肉中背で,体力中等とみられた.はじめ葛根湯加辛夷・川芎を1週間与えたが,全然変化がみられなかった.
そこで,腹直筋の攣急と季肋下にわずかながら抵抗をみとめたので,四逆散加辛夷,川芎に転方した.これをのむと,1週間後に鼻閉が少しよいといってきた.そこで同湯をつづけて服用させたところ,2ヵ月ほどあったある日,喜んでやってきた.「昨日,昼食にラーメンをたべたら,そのにおいがよくわかった」というのである.その後1ヵ月ばかり服薬してやめた.

〔症例 2〕  不食症 36歳,男子,初診34・9・15,主訴は食意喪失.
現病歴  数年来食欲が全くなく,空腹を少しも感じないで腹がすくことがない.朝は食事を殆んどとらない.各種の強肝剤やビタミン剤 などをのんだが効果がなく,数人の医師はどこもわるくないという.
性格は 単純,淡白,物にこだわらず,物事を気にしない.神経症になるような性格ではない.
現症  訴えは淡々とし,主訴以外に何らの訴えもなく,こちらからたずねる自覚症状はすべてないという.神経症とは考えられない.
身体的には,器質的異常は何らみとめられない.ただ 尿ウロビリノーゲン(以下尿ウと略称)が中等度陽性をみとめられる.
体格,肉づき中等,色はやや黒く,登山家で,過去に病気をしたことはないという.舌は白きて湿り,脈は沈小,腹証は右季肋下に軽度の抵抗と圧痛があり,両側の腹直筋が攣急している(右がやや強度).腰背部志室と臂部に圧痛がある.
治療・経過  四逆散加茯苓生姜を,胸脇苦満と腹皮攣急を目標に投与した.茯苓,生姜は,舌と脈から陰証の傾向があると判断したので加味した.
1週後 少し食欲が出て,具合のよいのがわかるという.
2週後 続いて食欲があったが,出張旅行で服薬できなかったら,また食事が全然とれなくなったという.
3週後 再び食事がすすむようになったと.
4週後 順調で食欲は正常.しかし 飲酒すると頭痛するという.
5週後 かぜを引き,悪寒,鼻汁が出るというので,陰証とみて 桂姜棗草黄辛附湯 を4日投与し治癒した.
2ヵ月後 食事量は正常という.右季肋下の圧痛消失,尿ウ正常となる.
3ヵ月後 尿ウ正常,右季肋下の抵抗軽減す.


『臨床応用漢方處方解説 増補改訂版』 矢数道明著 創元社刊
55 四逆散(しぎゃくさん) 〔傷寒論〕
柴胡五・〇  芍薬四・〇  枳実二・〇  甘草一・五
右は煎薬とする場合の一日量である。粉末として用いる場合はおのおと等分、末として混和し,一日量六・〇を三回に分けて、重湯にまぜてのむとよい。

〔応用〕 胸脇苦満があって、大柴胡湯証と小柴胡湯証との中間ぐらいの病状のものに用いる。
本方は主として胆嚢炎・胆石症・胃炎・胃酸過多症・胃潰瘍・肋膜炎等に用いられ、また肺結核・急性慢性気管支炎・喘息・心悸亢進・急性慢性大腸炎・直腸炎・直腸潰瘍・結核性腹膜炎の肥厚または硬結・肩こり・ヒステリー・神経質・癲癇・癇症・神経過敏症・鼻炎・上顎洞炎などに応用される。

〔目標〕 大柴胡湯より虚証で,小柴胡湯よりは少し実証,二方の中間に位する病証というのが目標である。腹証は胸脇苦満があり,腹直筋が季肋下で拘急している。柴胡の証で手足の厥冷するもの,あるいはいわゆる癇のたかぶる神経過敏症のものに用いられる。大柴胡湯よりも熱状が少なく,胸脇苦満・心下痞硬の程度が軽く、筋直筋は硬く緊張して臍傍にまで及んでいる。

〔方解〕 大柴胡湯の黄芩・半夏・大黄・生姜・大棗のかわりに甘草を加えたもので,大体は大柴胡湯に近い。肝部の実は同じであるが,脾胃がやや虚していると解釈される。
柴胡は胸脇に気血が凝滞し、血熱を生じ、水の流通を妨げられているのを治すものである。枳実は気を開き凝結を破り,水の流通をよくする。芍薬は血液の凝滞をめぐらし、四肢の筋肉の攣縮を緩める。甘草は胃の虚を補い、心下や四肢筋肉の緊張を緩め、急迫症状を緩和させる。
胸脇部と心下に気が凝滞し、緊張症状を起こして、四肢に気がめぐらぬ状態を治す能がある。
すなわち肝の病・胃の病・筋緊張の病・神経症状の諸疾患に適用される。

〔主治〕
傷寒論(少陰病篇)に、「少陰病四逆シ、其ノ人或ハ咳シ、或ハ悸シ、或ハ小便利セズ、或ハ腹中痛ミ、或ハ泄利下重スル者ハ四逆散之ヲ主ル」とある。
蕉窓方意解には、「大柴胡湯ノ変方ニテ、其ノ腹形専ラ心下及ビ両肋下ニツヨク聚リ、其ノ凝リ胸中ニモ及ブ位ノコトニテ、竝に両脇バラモ強く拘急ス。サレド熱実スルコト少キユエ、大黄・黄芩ヲ用ヒズ、唯心下、両肋下ヲ緩メ和ラグルコトヲ主トスル薬ナリ。本論ハ症ヲ説クコト今少シ詳ナラズ、且ツ文章モ亦正文トモ見エズ。(中略)
余多年此ノ薬ヲ疫症及ビ雑病ニ用イテ種々ノ異症ヲ治スルコト勝テ計フベカラズ。稀代ノ霊方ナリ。常ニ用イテ其ノ効ノ凡ナラザルヲ知ルベシ」とあり、
餐英館療治雑話には、「心下常ニ痞シ、両脇下火吹筒ヲ立テタル如ク張ツテ凝リ、左脇最モ甚シク、心下凝リツヨキ故ニ胸中マデモ痞満ヲ覚エ、何トナク胸中不快、モノ事怒リツヨク、或ハ肩背ハリ、或ハ背中七~九ノ辺リハリ、此等ハ皆肝鬱ノ候ナリ。此方ヲ用ユベシ、当今肝鬱ノ証多キ故、此ノ方ノ応ズル証極メテ多シ。
和田家ニテハ雑病人、百人治療スレバ五~六十人ハ此方ニ加減シテ用ユト門人ノ話ナリ。水分ノ動キツヨキ証ハ山薬・生地黄ヲ加エテ効アリト云ウ。余近来此方ヲ用テ毎ニ効ヲ取レリ、又疝気ニ此方ノ応ズル証多シ」とあり。
勿誤方函口訣には、「此ノ方ハ大柴胡ノ変方ニシテ少陰ノ熱厥ヲ治スルノミナラズ、傷寒ニ癇ヲ兼ルコト甚シク、譫語煩躁シ、噦逆ヲ発スル等ノ証ニ特験アリ。其ノ腹形専ラ心下及ビ両脇下ニ強ク聚リ、其ノ凝リ胸中ニモ及ブ位ニテ、拘急ハツヨケレドモ、熱実ハ少キ故、大黄、黄芩ヲ用ヒズ。唯心下両肋ヲ緩メテ和グルコトヲ主トスル也。東郭氏多年此ノ方ヲ疫症及ビ雑病ニ用テ種々ノ異証ヲ治スルコト勝テ計フベカラズト云フ。仲師(張仲景のこと)ノ忠臣ト謂フベシ」とある。
漢方(一巻三号、龍野一雄氏)「腹診の本をみると、両側の直腹筋が、棒を並べたように緊張していることを示し、二本棒などと称している。たしかに腹直筋の緊張だが、緊張の仕方に特徴があって、腹壁はやや陥凹しているように感じられ、腹直筋は細くすじ張って感じられる。そして白線の部が深く落ち込んでいるように触れる。腹直筋の緊張する範囲は上腹部に限ることが多いが、ときには臍辺、または臍下に及ぶことがある」といっている。

〔鑑別〕
○大柴胡湯92 ○小柴胡湯69 各項参照
皇漢医学には、「本方ノ腹証ハ大柴胡湯ニ酷似スレドモ、異ル所ハ彼ハ大黄ヲ含ムニヨリ、其ノ腹部ハ一般ニ実状ニシテ内部充実ノ触覚アリ。按ズレバ抵抗ヲ覚ユレドモ、本方ニハ大黄アラザレバ虚状ノ観アリ。内部空虚ニシテ按ズルニ抵抗ナシ。悪心嘔吐ナク、熱勢劇ナラズ、舌苔モ稀ナリ、腹筋ノ攣急急迫ハ甚シ」とあるが本方との鑑別である。

〔参考〕
龍野一雄氏、四逆散の展開(漢方と漢薬 一一巻七号)。 松本一男氏、四逆散に就て(漢方の臨床 二六巻五号)。
細野史郎氏等、四逆散の臨床医学的観察、第十五回日本東洋医学会総会発表(未掲載)

〔治例〕
(一)神経症
久留島伊予守年十四、気宇閉塞(気鬱、ノイローゼ)、顔色青惨、身体羸痩す。医以て労瘵(肺結核)とす。余之を診するに任脈拘急し、胸中動悸あり、左脇下かより鳩尾にかけて妨悶す。余以為く癖疾の為す所と、四逆散加別甲・茯苓を与ふ。数日にして妨悶去り拘急解し、気宇(気分)大に開く。四肢力なく物に対して倦怠す、因て千金茯苓湯を与え数旬にして全治す。 (浅田宗伯翁、橘窓書影)

(二)蓄膿症(上顎洞炎)
徳見某なる者、鼻淵(蓄膿症)を患うこと三年、諸医肺虚に因るとして百治すれども寸効を得ず。その人両鼻より濁涕を流すこと夥しく、四逆散に呉茱萸・牡蛎を加えて与ふ。京を発して東武に赴く途中日に三貼づつ服したるに、品川へ着く前日より、屋の夥しくたらたらとたれたる鼻水さつぱりと止みたり。此症古来より肺部の病とて辛夷白芷の類を多く用ひたり。是れは尽く肝火の上み肺部へつきつめたる処より、上下の気隔塞して成ることなり。  (和田東郭翁、蕉窓雑話)


『明解 漢方処方』 西岡 一夫著 浪速社刊
四逆散(傷寒論)
処方内容 柴胡 芍薬 枳実各二・〇 甘草一・〇(七・〇)

必須目標 ①左右直腹筋の著しい攣急 ②心下痞硬 ③四肢冷

確認目標 ①動悸 ②下痢 ③腹痛 ④咳嗽 ⑤脈は沈緊が多い。

初級メモ ①和田東郭お得意の処方で、薬味の中に芍薬甘草湯を含む故に直腹筋の攣急は当然想像されるところであるが、実際は更に甚しく、所謂四逆散の二本棒といわれる程、著明な腹証であり、また柴胡、枳実を含む故、大柴胡湯に似て胸脇苦満(季肋下抵抗圧痛)、心下痞鞕(胃部の痞え)を認める。
②浅田流では呉茱萸二・〇、茯苓五・〇を加え“四逆加呉茯”と称し、胃酸過多症、胃潰瘍に繁用している。(時には牡蛎三・〇も加味する)

中級メモ ①本方の四肢厥冷は白虎湯類と同じく熱厥であって、陰証の厥冷とは脉証腹証を異にする。
②和田東郭は原典の条文について「症を説くこと今少し詳ならず、且つ文章もまた正文とも見えず、恐らくは後人の作にてもあらんか」と疑っており、南涯もまた後人の作として削っている。
③本方は抑肝散の原方として有名で、婦人にはむしろその方が繁用される。

適応症 胃酸過多症。胃潰瘍。胆のう炎。副鼻腔炎(蓄膿症)。遺精。






【副作用】
①使用成績調査色e副作用発現頻度が明確となる調査を実施していないため、発現頻度は不明である。

②重大な副作用
(a)偽アルドステロン症:低カリウム血症、血圧上昇、ナトリウム・体液の貯留、浮腫、体重増加等の偽アルドステロン症があらわれることがあるので、観察(血清カリウム値の測定等)を十分に行い、異常が認められた場合には投与を中止し、カリウム剤の投与等の適切な処置を行う
(b)ミオパシー:低カリウム血症の結果としてミオパシーがあらわれることがあるので、観察を十分に行い、脱力感、四肢痙攣・麻痺等の異常が認められた場合には投与を中止し、カリウム剤の投与等の適切な処置を行う

【高齢者への投与】
一般に高齢者では生理機能が低下しているので減量するなど注意する


一般用漢方製剤
115.四逆散
【添付文書等に記載すべき事項】
してはいけないこと
(守らないと現在の症状が悪化したり、副作用が起こりやすくなる)
次の人は服用しないこと
生後3ヵ月未満の乳児。
〔生後3ヵ月未満の用法がある製剤に記載すること。〕
相談すること
1.次の人は服用前に医師、薬剤師又は登録販売者に相談すること
(1)医師の治療を受けている人。
(2)妊婦又は妊娠していると思われる人。
(3)体の虚弱な人(体力の衰えている人、体の弱い人)。
(4)高齢者。
〔1日最大配合量が甘草として1g以上(エキス剤については原生薬に換算して1g以上)含有する製剤に記載すること。〕
(5)次の症状のある人。
むくみ
〔1日最大配合量が甘草として1g以上(エキス剤については原生薬に換算して1g以
上)含有する製剤に記載すること。〕
(6)次の診断を受けた人。
高血圧、心臓病、腎臓病
〔1日最大配合量が甘草として1g以上(エキス剤については原生薬に換算して1g以
上)含有する製剤に記載すること。〕
2.服用後次の症状があらわれた場合は、直ちに服用を中止し、この文書を持って医師、薬剤師 又は登録販売者に相談すること
まれに下記の重篤な症状が起こることがある。その場合は直ちに医師の診療を受けること。
症状の名称
症 状
偽アルドステロン症、ミオパチー
手足のだるさ、しびれ、つっぱり感やこわばりに加えて、脱力感、筋肉痛があらわれ、徐々に強くなる。
〔1日最大配合量が甘草として1g以上(エキス剤については原生薬に換算して1g以上)含有する製剤に記載すること。〕
3.1ヵ月位(胃炎、胃痛、腹痛に服用する場合には1週間位)服用しても症状がよくならな
い場合は服用を中止し、この文書を持って医師、薬剤師又は登録販売者に相談すること
4.長期連用する場合には、医師、薬剤師又は登録販売者に相談すること
〔1日最大配合量が甘草として1g以上(エキス剤については原生薬に換算して1g以上)含有する製剤に記載すること。〕
〔用法及び用量に関連する注意として、用法及び用量の項目に続けて以下を記載すること。〕
294
(1)小児に服用させる場合には、保護者の指導監督のもとに服用させること。
〔小児の用法及び用量がある場合に記載すること。〕
(2)〔小児の用法がある場合、剤形により、次に該当する場合には、そのいずれかを記載すること。〕
1)3歳以上の幼児に服用させる場合には、薬剤がのどにつかえることのないよう、よく注意すること。
〔5歳未満の幼児の用法がある錠剤・丸剤の場合に記載すること。〕
2)幼児に服用させる場合には、薬剤がのどにつかえることのないよう、よく注意すること。
〔3歳未満の用法及び用量を有する丸剤の場合に記載すること。〕
3)1歳未満の乳児には、医師の診療を受けさせることを優先し、やむを得ない場合にのみ服用させること。
〔カプセル剤及び錠剤・丸剤以外の製剤の場合に記載すること。なお、生後3ヵ月未満の用法がある製剤の場合、「生後3ヵ月未満の乳児」をしてはいけないことに記載し、用法及び用量欄には記載しないこと。〕
保管及び取扱い上の注意
(1)直射日光の当たらない(湿気の少ない)涼しい所に(密栓して)保管すること。
〔( )内は必要とする場合に記載すること。〕
(2)小児の手の届かない所に保管すること。
(3)他の容器に入れ替えないこと。(誤用の原因になったり品質が変わる。)
〔容器等の個々に至適表示がなされていて、誤用のおそれのない場合には記載しなくてもよい。〕

2011年10月15日土曜日

安中散(あんちゅうさん) の 効能・効果 と 副作用

漢方診療の實際』 大塚敬節 矢数道明 清水藤太郎共著 南山堂刊
安中散(あんちゅうさん)
 本方は血気刺痛を治する方剤で、 やや虚状を帯び、慢性に経過した痙攣性疼痛によく奏効する。アトニー型が多く、心下部・腹部はそれほど緊張せず、一般に冷え症・貧血性で、やや衰弱の傾向 があり、腹壁は菲薄で、臍傍に動悸を触れる。食後或は空腹時に心下部に軽痛或は鈍痛を発し、嘈囃を訴えるものが多く、時に酸水を吐し、夕刻不消化物を吐く ものもある。また下腹から腰に牽引痛を発する場合もある。心下痞硬して、腹筋が緊張するものは柴胡桂枝湯加牡蠣、小茴香の證であって、この證が遷延して、 虚状を呈したものが即ち安中散の證である。更に虚羸して腹部軟弱となり症状の激しいのは丁香茯苓湯の證である。
 慢性に来る心下部の持続性の軽痛 或は鈍痛は、胃潰瘍・十二指腸潰瘍・胃酸過多症・胃下垂症・慢性胃炎・幽門狭窄・胃の腫瘍・胃動脈硬化症・貧血・悪阻・ヒステリー・神経症(神経性胃 炎)・ニコチン中毒等に起因するとされているが、此方はこれ等の諸疾患で右に述べた目標に従って応用される。古人が血気刺痛と指示したのは、これ等の疾患 に神経症を多分に加味し胃の欝血を兼ねたことを意味するものと解される。
 方中の桂枝は、血脈を通じ、欝血を順らし、腹痛を治する。延胡索は経を 通じ心腹疼痛を静めるもので、神経性の疼痛を軽減させる。牡蠣は脇疼を去り、老痰を治すといわれ、酸を中和する能がある。縮砂は気滞を順らし痛みを止め る。小茴香は温剤で胃を温めて、胃寒による疼痛を去る。良姜は気を下し、中を温むといわれ、胃を温めて気を順らし、神経性疼痛を鎮める作用がある。


漢方薬の実際知識』 東丈夫・村上光太郎著 東洋経済新報社 刊
7 裏証(りしょう)Ⅰ
 虚弱な体質者で、消化機能が衰え、心下部の痞えを訴えるも の、また消化機能の衰退によって起こる各種の疾患に用いられる。建中湯類、裏証Ⅰ、 裏証Ⅱは、いずれも裏虚の場合に用いられるが、建中湯類は、特に中焦が虚したもの、裏証Ⅰは、特に消化機能が衰えたもの、裏証Ⅱは、新陳代謝機能が衰えた ものに用いられる。
 裏証Ⅰの中で、柴胡桂枝湯加牡蠣茴香(さいこけいしとうかぼれいういきょう)・安中散(あんちゅうさん)は気の動揺があり、神経質の傾向を呈する。半夏白朮天麻湯(はんげびゃくじゅつてんまとう)呉茱萸湯(ごしゅゆとう)は、水の上逆による頭痛、嘔吐に用いる。
 
 各薬方の証明

2 安中散(あんちゅうさん)  (和剤局方)
 〔桂枝(けいし)四、延胡索(えんごさく)、牡蠣(ぼれい)各三、茴香(ういきょう)、甘草(かんぞう)、縮砂(しゅくしゃ)各二、良姜(りょうきょう)一〕
  冷え症で、表証はなく、胃部の虚寒と気うつ、血滞のあるものに用いられる。したがって、平素健康な人が、暴飲、暴食したために起こる胸やけや 胃痛には効果がない。本方證は、体質的に虚証であり、神経過敏となり、動悸、胃内停水、胃痛、心下痛、胸やけ、腹満、食欲不振、悪心、嘔吐、冷え症などを 目標とする。本方證の痛みは、慢性に経過した痙攣性疼痛または下腹部より腰背におよぶ牽引性疼痛である。また消化が悪く、いつまでも食物が胃に停滞するこ とも目標となることがある。平素から胃腸の悪い人が、急に胸やけがしたり、胃が張ったりするものに頓服して速効がある。
 〔応用〕
 つぎに示すような疾患に、安中散證を呈するものが多い。
 一 神経性胃炎、胃酸過多症、胃下垂症、胃潰瘍、十二指腸潰瘍その他の胃腸系疾患。
 一 月経痛、悪阻その他の婦人科系疾患。
 


《資料》よりよい漢方治療のために 増補改訂版 重要漢方処方解説口訣集』 中日漢方研究会
1.安中散(あんちゅうさん) 和剤局方
桂枝4.0 延胡索3.0 牡蛎3.0 茴香1.5 縮砂1.0 甘草1.0 良姜0.5

(和剤局方)
 遠年,日近,脾疼反胃,口酸水ヲ吐シ,寒邪ノ気内ニ留シ,停積シテ消セズ,脹満,腹脇ヲ攻刺シ,悪心嘔逆,面黄肌痩,四肢倦怠スルヲ治ス。


現代漢方治療の指針〉 薬学の友社
 冷え症,神経質で胃痛や胸やけのあるもの。本方は主に神経過敏に起因する胸やけやこれに伴う胃痛,悪心などの症状に繁用されるが,通常虚弱体質英人に応用し,筋骨質で平素強健な人に多い暴飲暴食によると思われる疾患にはあまり効果はなく,このような場合は大柴胡湯などを考慮すべきである。胃潰瘍,十二指腸潰瘍の対症療法としては有効であるが,根本的治療を志すときは小柴胡湯などと併用した方がよい。平胃散とは類似の薬効であるが,本方は虚弱体質の胃酸過多に,他はあまり虚弱でないものの消化不良を伴う胃腸疾患の適する。


漢方処方解説シリーズ〉 今西伊一郎先生
 本方は主として神経過敏や,頭脳酷使などに起因する胃部の軽痛,鈍痛,胸ヤケなどを対象に応用されており,一般的にやや虚弱な者や甘味品を好むものに多い。本方症状を訴えるほとんどが,食生活について注意しているにもかかわらず,前記胃腸症状を自覚することが多い。潰瘍や胃ガンなどを心配したり,その他日常生活のなかで受ける大小さまざまの精神的ショックに伴う胃痛,胸ヤケ,胃部の圧重感に応用されている。


漢方処方応用の実際〉 山田 光胤先生
○体力が低下している体質虚弱な人が,胃が痛んだり,胃酸を吐いたり,胸ヤケがある時に用いる。食物の消化はわるく,いつまでも胃に停滞し,胸や上腹部が張り,悪心,嘔吐,四肢倦怠などがおこり,体重が減少するものである。多くの場合患者は痩せ型で,腹部は軟弱,心下部に振水音をみとめる。
○餐英館療治雑話にも「この処方は元来胃に寒があって胸腹脹満,心下刺痛などの症状のあるものを治す。・・・・・・小腹(下腹)が痛むときにも効果があり,疝に留飲をかねる証を治す。疝積や反胃嘔吐などに用いるのに一つの心得がある。腹は虚軟で脈また虚して力がなく,脾胃に寒があるか,痛みが長くつづいて脾虚の徴候があるものに用い,少しでも熱候があったら用いてはならない」とある。
○本方は腹痛,呑酸,嘈囃などを目標にすると胃酸過多の傾向があるときに用いることが多い。しかし,こういう症状は胃酸減少のときにもおこる。そのときは胃酸の多寡には関係なく本方を用いてよい。


漢方診療の実際〉 大塚,矢数,清水 三先生
 本方は血気刺痛を治する方剤で, やや虚状を帯び,慢性に経過した痙攣性疼痛によく奏効する。アトニー型が多く,心下部,腹部はそれほど緊張せず,一般に冷え症,貧血性で,やや衰弱の傾向 があり,腹壁は菲薄で,臍傍に動悸を触れる。食後或は空腹時に心下部に軽痛或は鈍痛を発し,嘈囃を訴えるものが多く,時に酸水を吐し,夕刻不消化物を吐く ものもある。また下腹から腰に牽引痛を発する場合もある。心下痞硬して,腹筋が緊張するものは柴胡桂枝湯加牡蠣,小茴香の証であって,この証が遷延して, 虚状を呈したものが即ち安中散の証である。更に虚羸して腹部軟弱となり症状の激しいのは丁香茯苓湯の証である。
 慢性にくる心下部の持続性の軽痛或は鈍痛は,胃潰瘍,十二指腸潰瘍,胃酸過多症,胃下垂症,慢性胃炎,幽門狭窄,胃の腫瘍,胃動脈硬化症,貧血,悪阻,ヒステリー,神経症(神経性胃炎),ニコチン中毒等に起因するとされているが,此方はこれ等の諸疾患で右に述べた目標に従って応用される。古人が血気刺痛と指示したのは,これ等の疾患 に神経症を多分に加味し,胃の鬱血を兼ねたことを意味するものと解される。方中の桂枝は血脈を通じ,鬱血を順らし,腹痛を治する。延胡索は経を 通じ心腹疼痛を静めるもので,神経性の疼痛を軽減させる。牡蠣は脇疼を去り老痰を治すといわれ酸を中和する能がある。縮砂は気滞を順らし痛みを止め る。小茴香は温剤で胃を温めて,胃寒による疼痛を去る。良姜は気を下し,中を温むといわれ,胃を温めて気を順らし,神経性疼痛を鎮める作用があり。


漢方百話〉 矢数 道明先生
 (証) 安中散は脾胃の虚であるから,慢性に経過した胃の虚弱が第一に挙げられ,弛緩性体質のものに多い。寒を兼ねているので多くは胃内停水を認める。気鬱と血滞が第二の条件で,そのため胃あるいは腹中に血行の障害、腫脹の部位が発生し,多くの場合に酸過剰を伴い,疼痛が起きる。この気鬱血滞により,その場所あるいは附近に動悸を認めることとなる。脈は浮洪で無力,あるいは沈細で遅の場合もあるがすべて虚脈である。ただし発作時に弦を帯びることがある。腹証は虚して軟弱弛緩無力のものが多い。時に筋緊張や抵抗あるものもあるが,軽度である。舌苔は無いか,あるいは薄い白苔で潤っている。嘔吐の症は無いか,或は軽度の場合によく頑固に繰り返される食後あるいは空腹時の心下部疼痛を主訴とする。便通は普通,あるいは便秘のものもある。栄養衰え,貧血性で全身倦怠を訴える。(中略)

総括
1.望診 やせ型,顔面蒼白(酒客は赤いことあり)貧血性
2.聞診 言説力なく,応答不活発
3.問診 心下部疼痛(空腹時,食後,不定)心下部痞満嘈囃(時に酸欠乏),食欲不振,軽嘔吐,あるいは嘔なく,または下腹部疼痛腰背に及ぶ,冷え症(腹満,軽度)
4.切診 皮膚筋肉弛緩,削痩,脈虚軟,腹軟弱(時に軽い緊張)腹中動悸(臍傍)胃内停水
5.病名 胃潰瘍,十二指腸潰瘍,胃拡張症,胃酸過多症,胃アトニー,慢性胃炎,溜飲症,神経性胃痛,ヒステリー
 漢名,脾疼,反胃,癖嚢,心腹痛,疝気,瘕聚


漢方処方解説〉 矢数 道明先生
 脾胃(おもに胃のこと)の虚寒とと気鬱血滞による胃痛・腹痛というのが主目標で,次の様な諸徴候を参考とする。痩せ型で皮膚筋肉の弛緩傾向,脈は虚・軟,腹も軟弱(時にやや緊張していることもある。)で動悸(とくに臍傍),胃内停水などを認めることもある。その他,心下痛,心下痞満,腹満(軽度),下腹部より腰背に及ぶ牽引性疼痛,過酸(または低酸)症,食欲不振,嘔吐(軽度)などである。


勿誤方函口訣〉 浅田 宗伯先生
 「此方世上には癖嚢(胃拡張)の主薬とすれども,吐水甚しき者には効なし。痛み甚しき者を主とする。反胃(胃拡張,胃癌の類)に用ゆるにも腹痛を目的とすべし。又婦人血気刺痛には癖嚢より反って効あり。」


【副作用】
①使用成績調査等の副作用発現頻度が明確となる調査をしていないため,発現頻度は不明である。

②重大な副作用
a.偽アルドステロン症:低カリウム血症,血圧上昇,ナトリウム・体液の貯留,浮腫,体重増加等の偽アルドステロン症が現れることがあるので,観察(血清カリウム値の測定等)を十分に行い,異常が認められた場合には中止し,カリウム剤の投与等の適切な処置を行う
b.ミオパシー:低カリウム低症の結果としてミオパシーが現れることがあるので,観察を十分に行い,脱力感,四肢けいれん・麻痺等の異常が認められた場合には中止し,カリウム剤の投与等の適切な処置を行う。

③その他の副作用
過敏症(頻度不明) 発疹,発赤,瘙痒等
このような症状が現れた場合には中止する。

【高齢者への投与】
一般に高齢者では生理機能が低下しているので減量するなど注意する。

【妊婦・産婦・授乳婦等への投与】
妊娠中の投与に関する安全性は確立していないので,娠婦又は妊娠している可能性のある婦人には,治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与する。

【小児等への投与】
小児等に対する安全性は確立していない[使用経験が少ない]

 
  商 品 名 製造販売元
発売元又は販売元
一日 製剤量
(g)
添加物 剤形 効能又は 効果 用法及び用量 桂皮(ケイヒ) 桂枝(ケイシ) 延胡索(エンゴサク) 牡蛎(ボレイ) 茴香(ウイキョウ) 縮砂(シュクシャ) 甘草(カンゾウ) 良姜(リョウキョウ)
1 オースギ安中散料エキスG 大杉製薬 3.0 乳糖水和物、トウモロコシデン プン、ステアリン酸マグネシウ ム 顆粒 やせ型で腹部筋肉が弛緩する傾向にあり、胃痛または腹痛があって、ときに胸やけ、げっ ぷ、食欲不振、はきけなどを伴う次の諸症:
神経性胃炎、慢性胃炎、胃アトニー
食前又は食間
2~3回
4.0 3.0 3.0 1.5 1.0 1.0 0.5
2 オースギ安中散料エキスT錠 高砂薬業
大杉製薬
2.79 (9錠) 結晶セルロース、メタケイ酸ア ルミン酸マグネシウム、カルメ ロースカルシウム、ステアリン 酸マグネシウム、ヒプロメロー ス、酸化チタン、黄色5号アルミ ニウムレーキ、青色1号アルミニ ウムレーキ、赤色3号アルミニウ ムレーキ フィルム コーティ ング錠 やせ型で腹部筋肉が弛緩する傾向にあり、胃痛または腹痛があって、ときに胸やけ、げっ ぷ、食欲不振、はきけなどを伴う次の諸症:
神経性胃炎、慢性胃炎、胃アトニー
食前又は食間
2~3回
4.0 3.0 3.0 1.5 1.0 1.0 1.0
3 クラシエ安中散料エキス細粒 クラシエ製薬
クラシエ薬品
6.0 日局ステアリン酸マグネシウ ム、日局結晶セルロース、日局 乳糖水和物、含水二酸化ケイ素 細粒 やせ型で腹部筋肉が弛緩する傾向にあり、胃痛または腹痛があって、ときに胸やけ、げっ ぷ、食欲不振、はきけなどを伴う次の諸症:
神経性胃炎、慢性胃炎、胃アトニー
食前又は食間
2~3回
4.0 3.0 3.0 1.5 1.0 1.0 0.5
4 コタロー安中散エキスカプセル 小太郎漢方製薬 2.04 (6カプセル) カルメロースカルシウム、軽質 無水ケイ酸、結晶セルロース、 合成ケイ酸アルミニウム、ステ アリン酸マグネシウム、トウモ ロコシデンプン、ヒドロキシプ ロピルスターチ、メタケイ酸ア ルミン酸マグネシウム、カプセ ル本体に青色1号、黄色5号、赤 色3号、酸化チタン、ゼラチン、 ラウリル硫酸ナトリウム カプセル やせ型で腹部筋肉が弛緩する傾向にあり、胃痛または腹痛があって、ときに胸やけ、げっ ぷ、食欲不振、はきけなどを伴う次の諸症:
神経性胃炎、慢性胃炎、胃アトニー
食前又は食間
2~3回
4.0 3.0 3.0 1.5 1.0 1.0 0.5
5 コタロー安中散エキス細粒 小太郎漢方製薬 6.0 ステアリン酸マグネシウム、ト ウモロコシデンプン、乳糖水和 物、プルラン、メタケイ酸アル ミン酸マグネシウム 細粒 冷え症、神経質で、胃痛や胸やけのあるもの。
胃腸病、胃炎、胃酸過多症、胃潰瘍による胃痛。
食前又は食間
2~3回
4.0 3.0 3.0 1.5 1.0 1.0 0.5
6 JPS安中散料エキス顆粒〔調剤用〕 ジェ-ピ-エス製薬 7.5 ステアリン酸Mg、ショ糖脂肪酸 エステル、乳糖水和物 顆粒 やせ型で腹部筋肉が弛緩する傾向にあり、胃痛または腹痛があって、ときに胸やけ、げっ ぷ、食欲不振、はきけなどを伴う次の諸症:
神経性胃炎、慢性胃炎、胃アトニー
食前又は食間
2~3回
4.0 3.0 3.0 1.5 1.0 1.0 0.5
7 ツムラ安中散エキス顆粒(医療用) ツムラ 7.5 日局ステアリン酸マグネシウ ム、日局乳糖水和物 顆粒 やせ型で腹部筋肉が弛緩する傾向にあり、胃痛または腹痛があって、ときに胸やけ、げっ ぷ、食欲不振、はきけなどを伴う次の諸症:
神経性胃炎、慢性胃炎、胃アトニー
食前又は食間
2~3回
4.0 3.0 3.0 1.5 1.0 1.0 0.5
8 テイコク安中散エキス顆粒
帝國漢方製薬 日医工
7.5 乳糖水和物、結晶セルロース、 ステアリン酸マグネシウム 顆粒 やせ型で腹部筋肉が弛緩する傾向にあり、胃痛または腹痛があって、ときに胸やけ、げっ ぷ、食欲不振、はきけなどを伴う次の諸症:
神経性胃炎、慢性胃炎、胃アトニー
食前
3回
5.0 4.0 4.0 2.0 1.5 1.5 0.7
9 〔東洋〕安中散料エキス細粒 東洋薬行 6.0 トウモロコシデンプン 細粒 やせ型で腹部筋肉が弛緩する傾向にあり、胃痛または腹痛があって、ときに胸やけ、げっ ぷ、食欲不振、はきけなどを伴う次の諸症:
神経性胃炎、慢性胃炎、胃アトニー
空腹時
3回
3.0 3.0 3.0 2.0 2.0 2.0 1.0
10 本草 安中散料エキス顆粒-M 本草製薬 7.5 乳糖水和物、メタケイ酸アルミ ン酸マグネシウム、ステアリン 酸マグネシウム 顆粒 やせ型で腹部筋肉が弛緩する傾向にあり、胃痛または腹痛があって、ときに胸やけ、げっ ぷ、食欲不振、はきけなどを伴う次の諸症:
神経性胃炎、慢性胃炎、胃アトニー
食前又は食間
3回
4.0 3.0 3.0 1.5 1.0 1.0 0.5

2011年9月27日火曜日

防風通聖散(ぼうふうつうしょうさん) の 効能・効果 と 副作用 ダイエット効果

漢方診療の實際』 大塚敬節 矢数道明 清水藤太郎共著 南山堂刊
防風通聖散(ぼうふうつうしょうさん)
 当帰 芍薬 川芎 梔子 連翹 薄荷 生姜 荊芥 防風 麻黄各一・二 大黄 芒硝各一・五 桔梗 黄芩 石膏 甘草各二・ 滑石三・ 
  本方は、肥満症で実證の中風体質者に最も屡々用いられ、高血圧・動脈硬化症を招来する原因としての腸性自家中毒物(食毒)・腎性自家中毒物(水毒)及び先 天的後天的梅毒、或は淋毒等種々の毒物を大小便及び汗より排泄し或はこれを解毒させる。脈は力があって充実し、腹は臍を中心として膨満し、所謂重役型の太 鼓腹を呈するものに用いてよい。特に心下部の緊張しているものは大柴胡湯加石膏の行くところである。如何に血圧が高くとも、痩せ型で顔色の蒼白なもの、腹筋拘攣し、また甚しく弛緩しているものには用いてはならない。また本方を服用して著しく食欲が衰え、また不快な下痢を起すものもまた禁忌である。
 本方の大黄・芒硝・甘草は調胃承気湯で、胃腸内の食毒を駆逐する。防風・麻黄は皮膚を開達して病邪を発散し、桔梗・山梔子・連翹は解毒消炎の能がある。荊芥・薄荷葉は、頭部の熱を清解し、白朮は滑石と共に水毒を腎膀胱より排泄する。
 黄芩・石膏は消炎鎮静的に作用し、当帰・芍薬・川芎は血行を調整する。
 本方は以上のような目標に従って、高血圧・脳溢血・動脈硬化症・肥満症・脂肪心・慢性腎臓炎・糖尿病・丹毒・頭瘡・眼病・蓄膿症・酒皶鼻・皮膚病・喘息・胃酸過多症・脚気・梅毒・淋疾・痔疾等に広く応用される。



『漢方精撰百八方』
89.〔防風通聖散〕(ぼうふうつうしょうさん)
〔出典〕宣明論

〔処方〕当帰、芍薬、川芎、梔子、連翹、薄荷、乾生姜、荊芥、防風、麻黄 各1.2 大黄、芒硝 各2.0 白朮、桔梗、黄芩,甘草 各2.0 石膏3.0 滑石5.0

〔目標〕この方は宣明論の中風門に「中風、一切の風熱、大便閉結し、小便赤渋、顔面に瘡を生じ、眼目赤痛し、或いは熱は風を生じ、舌強ばがり、口噤し、或いは鼻に紫赤の風刺��(やまいだれに軫)を生じ、(酒査鼻のこと) 而して肺風(喘息様)となり、或いは癘風(れいふう、癩病様)となり、或いは腸風(痔疾患)あって痔漏となり、或いは陽鬱して諸熱となり、譫妄狂する等の症を治す」とある。
 本方は肥満卒中体質者に用いられることが多く、体内に食毒、水毒、梅毒、風毒など、一切の自家中毒物が鬱滞しているものを、皮膚、泌尿器、消化器を通じて排泄し解毒する作用がある。
 本方は臍を中心として病毒が充満し、俗にいう太鼓腹で、重役型の体質者に多く、便秘がちで、脈腹共に充実して力あるものに用いる。中にはそれほど腹満者でなくとも、本方の適応するものがある。
 本方を服用して、食欲が衰えたり、不快な便通で腹痛がひどいようなときは、他の処方を考えるべきである。

〔かんどころ〕臍を中心に腹部充実し、三焦皆実するというもの。

〔応用〕肥満体質者、常習性便秘、高血圧、中風予防、脳溢血、慢性腎炎、頭瘡、丹毒、禿髪症、発狂、酒査鼻、痔疾、梅毒、皮膚病、蓄膿症、喘息、糖尿病、癰疽等

〔治験〕頑固な頭痛
 76才の老婆。この人は50年来頑固な頭痛に悩まされてきた。あらゆる頭痛止めの売薬を飲んだが治らない。約8年前から血圧が高くなり、時々200位に達する。1ヶ月前から左の顔面神経が麻痺状となり、言語障害も起こり、便秘して7日に1回位しかない。  この患者はそれほどひどい肥満者ではなかったが、腹証に本方の証が潜在していると診られたので、二陳湯を加えて与えた。
 服薬後快く便通があり、3日目になると、50年来のあの頑固な頭痛がきれいにとれ、忘れ物をしたようで、頭痛止めの売薬の必要が全くなくなった。頭痛ばかりでなく血圧も2ヶ月後には140-70となり、すべての状態がよくなった。否定型的本方証である。
                                  矢数道明

漢方薬の実際知識』 東丈夫・村上光太郎著 東洋経済新報社 刊
12 解毒剤
 
 解毒剤は、自家中毒がうつ満して起こる各種の疾患に用いられる。また、やせ薬としても繁用される。
 各薬方の説明
 
 1 防風通聖散(ぼうふうつうしょうさん)  (宣明論)
  〔当帰(とうき)、芍薬(しゃくやく)、川芎(せんきゅう)、梔子(しし)、連翹(れんぎょう)、薄荷(はっか)、生姜(しょうきょう)、荊 芥(けいがい)、防風(ぼうふう)、麻黄(まおう)各一・二、大黄(だいおう)、芒硝(ぼうしょう)各一・五、桔梗(ききょう)、黄芩(おうごん)、石膏 (せっこう)、甘草(かんぞう)各二、滑石(かっせき)三〕
 本方は、三焦・表裏・内外すべてに病邪が充満しているものを、 表を発汗し、裏を下し、半表半裏を和して排除するものである。したがって、脂肪 ぶとりの体質で、充血、眼底出血、発疹、発斑、化膿、腹部の膨満、便秘などを目標とする。実証の中風体質者を目標にすることも多い。本方をやせ薬として使 用する場合は、一日に二回ぐらいの便通がある程度に増量することが必要である。一日一回の便通がある程度では、身体の調子がよくなり、かえってふとること がある。
 〔応用〕
 つぎに示すような疾患に、防風通聖散證を呈するものが多い。
 一 高血圧症、中風、脳溢血、動脈硬化症その他の循環器系疾患。
 一 慢性腎炎、尿毒症その他の泌尿器系疾患。
 一 円形脱毛症その他の皮膚疾患。
 一 蓄膿症、中耳炎その他の耳鼻科症疾患。
 一 そのほか、気管支喘息、胃酸過多症、眼病、脚気、肥胖症、丹毒、よう、化膿性腫物、糖尿病など。



《資料》よりよい漢方治療のために 増補改訂版 重要漢方処方解説口訣集』 中日漢方研究会
70.防風通聖散(ぼうふうつうしょうさん) 宣明論
当帰1.2 芍薬1.2 川芎1.2 梔子1.2 連翹1.2 薄荷1.2 生姜1.2 荊芥1.2 防風1.2 麻黄1.2 大黄1.5 芒硝1.5 桔梗2.0 黄芩2.0 石膏2.0 甘草2.0 滑石3.0 白朮2.0


現代漢方治療の指針〉 薬学の友社
 脂肪ぶとりの体質で便秘し尿量減少するもの。本方は所謂重役タイプの見られる肥満症の体質改善薬で,下腹部における脂肪過多を伴なった適応症欄記載の各症状に応用されるが,色白で水ぶとりの体質には不適で,この場合は防已黄耆湯が適する。またみぞおち周辺部が硬く張り便秘がひどい肥満体には本方より大柴胡湯がよく、大柴胡湯でも効果が少ないとか婦人で月経閉止を伴なう時は更に桃核承気湯を併用するとよい。本方はやせて顔色が蒼白な人には投与してはならない。本方を服用後食欲が減退したり,あるいは腹痛や不快感を伴なう下痢を起した場合は柴胡桂枝湯あるいは平胃散五苓散合方で治療し,他の適当な処方例えば大柴胡湯などに転方すべきである。


漢方処方解説シリーズ〉 今西伊一郎先生
 本方は皮下の脂肪沈着が著しい肥満症で,とくに脂肪沈着が下腹部に集中し,エブスタインの脂肪沈着分類による滑稽期,同情期に該当するもので大鼓腹,二重あごなどのいわゆる重役タイプの肥満症を目安に,適応症欄記載の疾患に広範に利用されている。

 肥満症 本方は皮下に沈着した過剰の脂肪を徐々に取除き,体内の老廃物を排出させる作用があるので,漢方のヤセ薬として貴重な存在となっている。筆者もこの種の肥満症に投薬し,服薬6ヵ月~8ヵ月ほどでスタイルがよくなったうえに,体調もすごく好調になったと喜ばれた例を,何例かもっている。

 神経痛 本方は更年期や初老期に多い腕神経痛,肩関節周囲炎に応用されるが,その応用の目安は血色のよい肥満体質である。

 応用時の鑑別 大柴胡湯は本方とよく似ているが,外見上筋骨質,筋肉質でしかも,身長,体重,胸囲のバランスが割合いによくとれており,胃部が硬くつかえて左右季肋部から,側胸部にかけて圧迫感がある点で,本方との区別ができる。
 防已黄耆湯 次項のとおり本方と比較して,肥満している点で類似するが,肥満の素因が異なり,防已黄耆湯は軟らかい水太りの体質で筋肉もブヨブヨしており,その愁訴も血圧や心臓症状 あるいは,ヒフ疾患などがなく,神経痛,関節痛,過多発汗などに限定されるので本方との鑑別ができる。


漢方処方応用の実際〉 山田 光胤先生
○実証で体力が充実し,腹部が膨満して力のある,いわゆる太鼓腹で重役型の体質の人に多く,便秘がちのものに用いる。脈に力があり,腹部は臍を中心に充実しているが,中にはあまり腹満していないものもある。
○肥満卒中体質者に用い現れることが多く,食毒,水毒その他の一切の自家中毒物が停滞して,種々な病変を呈するものを,発汗,利尿,便通などによって諸毒を排泄し解毒する作用がある。


漢方治療の実際〉 大塚 敬節先生
○本方には下剤が入っていて瀉下の作用があり,いわゆるのぼせをひきさげる効がある。この方を用いる口訣,“頭痛がつよくて,耳鳴があり,首すじがこり,めまいがして,手足が冷え,大便が秘結し頭部にフルンケルなどが次々とできるものに用いる。これを用いると一時蕁麻疹様のものができることがあるが,これは一時の現象にすぎないから,ひきつづきのんでよい。このような患者に手足が冷えて頭痛がするからとて,半夏白朮天麻湯などを用いると,却って肩こりも,頭痛も,耳鳴もひどくなる。」とある。
○有持桂里「この方は鼻痔(鼻茸),鼻淵,酒査鼻等に皆効がある。儒門事親では,鼻の塞子症に此方を用いて汗を取る法をのべている。是もたしかに高按であるけれども自分はこの方を広く用い,鼻齆,鼻淵,酒査鼻の三症にみな通じる方で冗雑ではあるがよく効くし,この方はすべて毒が上部にあるものに用いて思いの外よくきくものである。


漢方診療の実際〉 大塚,矢数,清水 三先生
  本方は肥満症で実証の中風体質者に最も屢々用いられ,高血圧,動脈硬化症を招来する原因としての腸性自家中毒物(食毒),腎性自家中毒物(水毒)及び先天的,後天的梅毒,或は淋毒等種々の毒物を大小便及び汗より排泄し或はこれを解毒させる。脈に力があって充実し,腹は臍を中心として膨満し,所謂重役型の太鼓腹を呈するものに用いてよい。特に心下部の緊張しているものは大柴胡湯加石膏の行くところである。如何に血圧が高くても痩せ型で顔色の蒼白なもの,腹筋拘攣し,また甚しく弛緩しているものには用いてはならない。また本方を服用して著しく食欲が衰え,また不快な下痢を起すものもまた禁忌である。
 本方の大黄,芒硝,甘草は調胃承気湯で,胃腸内の食毒を駆逐する。防風,麻黄は皮膚を開達して病邪を発散し,桔梗,山梔子,連翹は解毒,消炎の能がある。荊芥,薄荷葉は頭部の熱を清解し,白朮は滑石と共に水毒を腎膀胱より排泄する。黄芩,石膏は消炎鎮静的に作用し,当帰,芍薬,川芎は血行を調整する。
 本方は以上のような目標に従って,高血圧,脳溢血,動脈硬化症,肥満症,脂肪心,慢性腎臓炎,糖尿病,丹毒,頭瘡,眼病,蓄膿症,酒皶鼻,皮膚病,喘息,胃酸過多症,脚気,梅毒,淋疾,痔疾等に広く応用される。


漢方処方解説〉 矢数 道明先生 
 本方は肥満性卒中体質者に用いられることが多く,体内に食毒,水毒,梅毒,風毒など一切の自家中毒が鬱滞しているものを,皮膚,泌尿器,消化器を通じて排泄し,解毒する作用がある。本方は臍を中心として病毒が充満し,俗にいう太鼓腹,重役腹といわれる腹証を呈し,便秘がちで,脈腹ともに充実して力があるものである。ただしそれほど肥満者てなくても,本方の適応するものがある。慢性の皮膚病などによく見られ,本方を服用しているうちにその正証が現われてくることがある。


宣明論〉 劉 完 素 先生
 中風,一切の風熱,大便閉結し,小便赤渋,顔面に瘡を生じ,眼目赤痛し,或は熱は風を生じ,舌強ばり,口噤し,或は鼻に紫赤の風棘癮𤺋を生じ(酒査鼻の発疹),しかして肺風(気管支喘息疾患)となり,或は厲風(癩病及類似症)となり,あるいは腸風(痔疾患)あって痔漏となり,或は陽鬱して諸熱となり,譫妄驚狂する等の症を治す。

※齆:鼻詰まり、鼻詰まりで言葉がはっきりしない
𤺋:やまいだれ+軫




(効能・効果)
【ツムラ・他】
腹部に皮下脂肪が多く、便秘がちなものの次の諸症。

  • 高血圧の随伴症状(どうき、肩こり、のぼせ)、肥満症、むくみ、便秘。

【コタロー】
脂肪ぶとりの体質で便秘し、尿量減少するもの。

  • 常習便秘、胃酸過多症、腎臓病、心臓衰弱、動脈硬化、高血圧、脳いっ血これらに伴う肩こり。

【三和】
脂肪ぶとりの体質で便秘したりあるいは胸やけ、肩こり、尿量減少などが伴うものの次の諸症。

  • 肥満症、高血圧症、常習便秘、痔疾、慢性腎炎、湿疹。

【一般用漢方製剤承認基準】
体力充実して、腹部に皮下脂肪が多く、便秘がちなものの次の諸症:

  • 高血圧や肥満に伴う動悸・肩こり・のぼせ・むくみ・便秘、蓄膿症(副鼻腔炎)、湿疹・皮膚炎、ふきでもの(にきび)、肥満症

【重い副作用】
  • 偽アルドステロン症..だるい、血圧上昇、むくみ、体重増加、手足のしびれ・痛み、筋肉のぴくつき・ふるえ、力が入らない、低カリウム血症。
  • 間質性肺炎..から咳、息苦しさ、少し動くと息切れ、発熱。
  • 肝臓の重い症状..だるい、食欲不振、吐き気、発熱、発疹、かゆみ、皮膚や白目が黄色くなる、尿が褐色。

【その他】
  • 胃の不快感、食欲不振、吐き気、吐く、腹痛、軟便、下痢
  • 動悸、不眠、発汗過多、尿が出にくい、イライラ感
  • 発疹、発赤、かゆみ



2011年9月20日火曜日

小青竜湯(しょうせいりゅうとう) の 効能・効果 と 副作用

漢方診療の實際 大塚敬節 矢数道明 清水藤太郎共著 南山堂刊
小青竜湯(しょうせいりゅうとう)
 本方は表に邪があり心下 に水毒のあるものに用いる。従って感冒によって持病的に起る喘息性の咳嗽に用いてよく奏効する。その目標は喘鳴・息切れを伴う咳嗽で、泡沫水様の痰を喀出 する。熱はあっても無くてもよい。心下部はしばしば抵抗を増す。腹部は比較的軟らかい。尿量は減少する者が多い。
 本方はまた急性の浮腫に用いら れる。心下部痞塞感・喘咳を伴う場合は殊に適当である。従って本方の応用は喘息性気管支炎・気管支喘息・百日咳・肺炎・湿性胸膜炎・ネフローゼ・急性腎 炎・関節炎・結膜炎等である。即ち水分の停滞を来すような一種の素地があって、それが感冒などによって誘発されて或は喘咳となり、或は浮腫となり、或は胸 膜炎・肺炎・関節炎等となる者を治するのである。
 薬能についていえば、桂枝・麻黄・細辛・乾姜は血行を盛んにし、欝血を去るから、喘咳・浮腫を治する。芍薬は水毒の停滞を動かし、半夏はそれを小便に利する。五味子は咳嗽を治する。
 本方の症で病状が激しく、煩躁を現わす場合には石膏を加えて用いる。


『漢方精撰百八方』
40.〔方名〕小青竜湯(しょうせいりゅうとう)
〔出典〕傷寒論、金匱要略

〔処方〕麻黄、芍薬、乾姜、甘草、桂枝、細辛各2.5 五味子3.0 半夏5.0

〔目標〕証には、咳、喘、上衝し、頭痛、発熱、悪風し、或いは乾嘔する者を治すとある。
 水毒があり、眩暈、尿利減少、胃内停水浮腫等の水毒症状を有する者が、外邪により即発されて、咳、喘を発し、上衝、頭痛、悪風、嘔気等の症状を表すものを目標とする。
脈は浮数、細数で緊ではない。時には下痢し、裏急後重を伴う者もある。 〔かんどころ〕水毒症状をもっていたものが咳、喘を発した場合に適用される。咳が主で、喘は従であり、痰も鼻汁も水溶性で量が多いのが特徴である。ぜいぜいいう喘鳴がある、うすい痰が多い、水洟がよく出るといった症状がある。水毒症状は、胃内停水(胃部振水音)、軽度浮腫、尿利減少、眩暈等にあらわれている。

〔応用〕
(1)感冒、気管支炎等で、熱候があり、咳、喘があり、尿不利、乾嘔、眩暈等があり、脈が数なるもの。 (2)気管支喘息。湿性の喘息に効あり。即ち喘鳴があり、ぜいぜい言い、痰は比較的うすく量が多い。心下部振水音等の水毒症状を見出だす。咳喘強く、逆上が甚だしく、脈に力のあるものは石膏5.0~7.0を加味すると効果がある。
(3)百日咳、肺炎、これも喘鳴があるものに効がある。咳逆するものには石膏を加える。
(4)ネフローゼ、腎炎。
(5)アレルギー性鼻炎。鼻がつまり、水洟が出やすい、それにほかの水毒症状が伴っているアレルギー性と称せられる鼻炎によい。
(6)浮腫性の関節炎  本方は苓甘姜味辛夏仁湯去加方である。麻黄があり、小青竜湯という名があるため、強い薬方のような感があるが、大青竜湯と違いその作用は強くない。水毒症状があって、咳、喘があるものに広く用いられる。気管支喘息の場合は熱候がなくてもよい。同じく喘息によく用いられる麻杏甘石湯との違いは、本方は水毒症状が著明で、渇も少なく、発汗傾向もない。麻杏甘石は、発汗があり、渇があり、喘鳴も本方のように湿性でなく、分泌量が少ないように思う。
伊藤清夫


漢方薬の実際知識』 東丈夫・村上光太郎著 東洋経済新報社 刊
5 麻黄剤(まおうざい)
 麻黄を主剤としたもので、水の変調をただすものである。したがって、麻黄剤は、瘀水(おすい)による症状(前出、気血水の項参照)を呈する人に使われる。なお麻黄剤は、食欲不振などの胃腸障害を訴えるものには用いないほうがよい。
  麻黄剤の中で、麻黄湯葛根湯は、水の変調が表に限定される。これらに白朮(びゃくじゅつ)を加えたものは、表の瘀水がやや慢性化して、表よ り裏位におよぼうとする状態である。麻杏甘石湯(まきょうかんせきとう)・麻杏薏甘湯(まきょうよくかんとう)は、瘀水がさらに裏位におよび、筋肉に作用 する。大青竜湯(だいせいりゅうとう)・小青竜湯(しょうせいりゅうとう)・越婢湯(えっぴとう)は、瘀水が裏位の関節にまでおよんでいる。
6 小青竜湯(しょうせいりゅうとう)  (傷寒論、金匱要略)
 〔麻黄(まおう)、芍薬(しゃくやく)、乾姜(かんきょう)、甘草(かんぞう)、桂枝(けいし)、細辛(さいしん)、五味子(ごみし)各三、半夏(はんげ)六〕
  表に邪、心下や胸中に水毒があり、この瘀水が上方または表に動揺することによって起こる種々の疾患に用いられ、発汗によって表邪を解するもの である。呼吸促拍、呼吸困難、咳嗽、喘鳴、鼻水、喀痰(痰はうすく、量が多い)、乾嘔、浮腫(上半身が多い)、尿利減少などを目標とする。苓甘姜味辛夏仁湯(りょうかんきょうみしんげにんとう)(後出、駆水剤の項参照)は、本方の裏の薬方に相当する。
 〔応用〕
 つぎに示すような疾患に、小青竜湯證を呈するものが多い。
 一 感冒、気管支炎、気管支喘息、百日咳、肺炎、肺気腫その他の呼吸器系疾患。
 一 ネフローゼその他の泌尿器系疾患。
 一 結膜炎、涙嚢炎その他の眼科疾患。
 一 鼻炎、蓄膿症その他の鼻疾患。
 一 そのほか、肋間神経痛、胃酸過多症、関節炎、湿疹など。



《資料》よりよい漢方治療のために 増補改訂版 重要漢方処方解説口訣集』 中日漢方研究会
39.小青竜湯(しょうせいりゅうとう) 傷寒論

麻黄3.0 芍薬3.0 乾姜3.0 甘草3.0 桂枝3.0 細辛3.0 五味子3.0 半夏6.0

(傷寒論)
○傷寒表不解,心下有水気,乾嘔発熱而欬或渇,或利,或噎,或小便不利,少腹満,或喘者本方主之(太陽中)
○傷寒心下有水気,欬而微喘,発熱不渇「服湯巳渇者,此寒去欲解也」本方主之(太陽中)

(金匱要略)
○病溢飲者,当発其汗,本方主之(痰飲)
○夫心下有留飲,其人背寒冷,如手大(宜本方)(痰飲)
○欬逆倚息,不得臥,本方主之(痰飲)
○婦人吐涎沫,医反下之,心下即痞,当先治其吐涎沫,本方主之(婦人雑病)


現代漢方治療の指針〉 薬学の友社

 急性発熱症状後尿量減少し,胸内苦悶,胃部に水分停滞感があり,喘鳴を伴なう泡のような稀薄な喀痰の多い咳嗽があるもの。あるいは鼻汁の多い鼻炎や流涙の多い眼病の如く分泌液過多のもの。慢性期には熱の有無には関係なく応用できる。本方は急性発熱症状後の亜急性症状に応用される場合が多く,通常自然発汗(盗汗)がある場合には用いてはならないが,強い咳の発作時に発汗するような場合,短期間用いてようことがある。本方適応症は通常口渇の訴えは少なく従って口渇の著しい咳嗽,気管支喘息には本方より麻杏甘石湯を,また下からこみ上げてくるような劇しい咳で喀痰は少量でねばく喀出困難な場合は、麦門冬湯がよい。腎炎,ネフローゼ,関節炎,眼科疾患に応用する場合,越婢加朮湯五苓散も用いるが,その鑑別は越婢加朮湯の項を参照すること。本方を服用後,食欲不振,頭痛,不眠など訴える場合は小柴胡湯あるいは柴胡桂枝湯で治療すればよい。また浮腫を生じた場合は五苓散に転方すること。なお本方は衰弱の甚だしい患者には投与してはならない。虚弱体質に長期にわたって服用させる必要のある場合には小柴胡湯と合方することが望ましい。


漢方処方応用の実際〉 山田 光胤先生
○平素から心下に停水のある人が,感冒やそのほかの熱病にかかって,その刺激で咳嗽,喘鳴,乾嘔を発するものである。このときあるいは口渇があり,あるいは尿利が減少し,ときには下痢を伴うことがある。またこのときは熱のあることもないこともある。
○呼吸促進(息切れ)や呼吸困難に苦しみ,甚だしいときは横になってねられず,坐ったまま物によりかかってあえぎ苦しむ。このさい,あるいは咳が出たり,水のような薄い痰が多量に出たり,涎沫を吐いたりする。
○急性の浮腫を上半身に生じて,食欲不振,悪心,嘔吐などの胃腸障害のないもの。
○小青竜湯の腹証は一定のものがなく,心下部に振水音のあるものもないものもある。また心下部が少し膨満して,しかも軟らかいものがある。これは小児に多い。
○浮腫と咳嗽の強いものには,小青竜湯に石膏を加えて用いるとよい。越婢湯よりも効果があるという。(餐英館療治雑話)


漢方診療の実際〉 大塚,矢数,清水 三先生
 本方は表に邪があり,心下 に水毒のあるものに用いる。従って感冒によって持病的に起る喘息性の咳嗽に用いてよく奏効する。その目標は喘鳴,息切れを伴う咳嗽で,泡沫水様の痰を喀出する。熱はあっても無くてもよい。心下部は屢々抵抗を増す。腹部は比較的軟い。尿量は減少する者が多い。本方はまた急性の浮腫に用いら れる。心下部痞塞感,喘咳を伴う場合は殊に適当である。従って本方の応用は喘息性気管支炎,気管支喘息,百日咳,肺炎,湿性胸膜炎,ネフローゼ,急性腎炎,関節炎,結膜炎等である。即ち水分の停滞を来すような一種の素地があって,それが感冒などによって誘発されて或は喘咳となり,或は浮腫となり,或は胸膜炎,肺炎,関節炎等となる者を治するのである。薬能についていえば,桂枝,麻黄,細辛,乾姜は血行を盛んにし,鬱血を去るから,喘咳,浮腫を治する。芍薬は水毒の停滞を動かし,半夏はそれを小便に利する。五味子は咳嗽を治する。本方の症で病状が激しく,煩躁を現わす場合には石膏を加えて用いる。


漢方入門講座〉 竜野 一雄先生
 構成 桂枝湯を基本としたもので,桂草類志衣黄があるから表証があり,乾姜や細辛の温薬があるから上又は中部に寒があり,五味子,半夏があるから水と気の上衝がある。麻黄,細辛,乾姜,半遊は心下或は胸中に停水がある。従って,小青竜湯の証というものは裏水(心下又は胸中)があってそれが上衝して表に及ぶが,若くは表熱によって水気上衝を起すかである。
 白用 1. 発熱症状があって喘咳を伴うもの。
 太陽病中篇に「傷寒,表解せず,心下に水気有り,乾嘔発熱し,而して欬し,或は渇し,或は利し,或は噎し,或は小便不利少腹満し,或は喘するもの。」というのを分析すると,表解せず,だから発熱悪寒,或は悪風頭痛脉浮数などがある。この表熱によって裏気の上衝を起し,素質的に在る心下の水気を上衝させ,或は表に浮泛させる。乾嘔は気の上衝により,欬喘は水と気の上衝により,渇は心下に水が停滞して口咽への分布が不順であるのと熱によって乾くのとを兼ねており,利は心下の水が下って下利になったと解釈され,小便不利,少腹満は水が心下に偏在して小便になって出て行きにくいのと,且つ小便は気が下るにつれて出るものだから,その気が下らずに反って上衝している今の場合にはなお更小便は減って来る。小便が不利するから下腹部が膨満感を起すようになる。この条文は小青竜湯使用の第一眼目でもあり,実際にこの条文に従って応用して行くことが一番多い。なおこの条文の要点を挙げたのが「傷寒,心下に心水有り,欬して微喘,発熱し,渇せず。湯を服し巳りて渇する者はこれ寒去りて解せんと欲するなり。」(太陽病中篇)で,小青竜湯証には裏に寒があるが細辛乾姜のような温薬で温めてその寒を除くと寒は去り熱を帯びて来て熱のために渇を生ずるようになる。寒去り解せんと欲すとはそれを云ったものだ。以上の適応症状の内で表熱症状と,喘咳に使うことが最も多い。咳はしめった咳で,ぜいぜい,ぜこぜこ,ひゅうひゅうの如き喘鳴を伴うのが普通で,決して空咳のことはない。また事実気管支喘息のような呼吸困難,喘鳴,咳嗽のあるときにも使う。痰は唾のように薄くて量が多い傾向がある。非常に濃い痰や或は膿性の痰には本方は向かない。発熱症状と喘咳のあるものとして急性気管支炎,急性肺炎,感冒兼気管支喘息,百日咳,湿性肋膜炎,肺結核(滅多に使わないが)などに応用する。(中略)

 運用 2. 熱や発熱症状がなくても水気上衝に使う。喘咳その他が表熱によるものではなく,自発性に水気上衝を起したと解釈される場合で,「欬逆倚息,臥すことを得ざるもの」(金匱要略痰飲)もその一つである。倚息は寄かかって坐る意味だから普通に横臥が出来ず呼吸が苦しいので坐っていることである。気管支喘息,肺気腫などに応用される。「婦人涎沫を吐す。医反って之を下し,心下即ち痞す。先ずその涎沫を吐すを治すべし」(金匱要略婦人雑病)も水気上衝の例だが,この条の意味は涎沫は唾又は胃液が口き出て来るもので胃が冷え水が停滞しているときに起る容態と考えられる。胃が冷えているのは温め補力すべきなのに反対に下すと胃は益々虚冷に陥り,そのために心下部が気痞を起し痞える感じを現わす。この時は先ず小青竜湯の乾姜で胃冷を温め,水気上衝の涎沫を治しておき,涎沫が止み胃冷が回復した所で瀉心湯で心下の痞えを治すのが順序であるとの意である。婦人でなくとも唾の多い人,よだれ,酸い胃液が口に出るものなどに本文を使い得るのであって之を応用して唾液分泌過多症,蛔虫による唾液過多,胃酸過多症による生唾の多いものなどを小青竜湯で治すことが出来る。(中略)
 水気上衝が口からでなく眼から出ると解釈されるのは小青竜湯を流涙に使う場合である。即ち急性慢性の結膜炎,涙嚢炎,虹彩炎,その他の炎症性訓患で,充血と流涙の多いときに本方を用いる。充血を気上衝と見るのだから,鬱とうしい感じが強い場合であって疼痛を伴うことが多く,自覚症が少いときは本方は向かない。涙は水が上に昇って来たと見るべきだから涙の少いもの,眼やにが多いものなどにも矢張り向かない。鑑別を要するのは葛根湯:肩が張り涙は少く或は全然無くてただ充血だけする。苓桂朮甘湯:充血流涙は共通するが,苓桂朮甘湯は虚証で顔色貧血性,眩しい感じが強く,動悸を訴えるものが多い。従って腺病質性フリクテン性結膜炎などに使う。
桃核承気湯:充血,鬱血が主で,便秘し,足が冷えてのぼせる。流涙は殆どない。
瀉心湯:充血が主で便秘し,のぼせるが足は冷えず鬱血症状もない。流涙は殆どない。

 運用 3. 水気が体表に溢れ,浮腫,疼重,分泌などを生したときに使う。心下の水気が上に昇らずに体表にあふれて行く場合で,金匱要略痰飲病に「病,溢飲の者は当にその汗を発すべし。」というのがそれである。溢飲とは同書に「飲水流行四肢に帰し,当に汗出づべくして汗出でず身体疼重す。これを溢飲といふ。」と定義しているのを参照する。これにより腎臓炎,ネフローゼその他の浮腫に小青竜湯を使うが,発熱有無には関しない。但し脉が浮弱であることを要する。発熱があれば脉は浮弱数になり無熱なら浮弱だけである。
類方の鑑別 大青竜湯:病勢が強くて煩躁し脉も浮緊である。
越婢加朮湯:脉沈
苓甘姜味辛夏仁湯:表熱症状はなく脉沈
五苓散:発熱,浮腫は共通するが五苓散では煩渇,尿利減少がある。本方にそれがあっても極く軽い。

 運用 4. その他心下に水気有りを留飲として留飲症状に使うことがあるそれは金匱要略痰飲病に「それ心下に留飲有れば其人背寒冷すること手大の如し」背中で手掌大の部分に冷感を訴えるのが目標になる。胃病ばかりでなく各種の病にも之は応用出来る。背中が冷えるというものに附子湯も白虎加人参湯もあるが,それらは範囲が広く,且つ部位が不定だが,小青竜湯では概して第6~第10胸椎の高さの間で限局性にそれを感じる。
 「留飲の者は脇下痛み,缺盆に引き,咳嗽するときは則ち轍ち已む。」季肋部,季肋下部,側胸部等が痛み,それがぼんのくぼに放散し,欬をすると痛みが止まるというのだが,一書には已むを転じ甚しとなっている。そういう場合も有り得ると思う。浅田宗伯先生の方函口訣に「胸痛頭疼悪寒汗出るに発汗剤を与ること禁法なれども欬して汗ある症に矢張り小青竜湯にておし通す症あり。(中略)一老医の伝に此場合の汗は必臭気甚しを一徴とすべし。」というのもこの場合の応用と見てよいであろう。肋間神経痛,肋膜炎,その他胸痛,胸下痛があり,咳を伴う疾患に応用することがある。


勿誤方函口訣〉 浅田 宗伯先生
 此の方は表解せずして,心下水気ありて咳喘する者を治す。又溢飲の咳嗽にも用ゆ。其人咳嗽喘急寒暑に至れば必ず発し,痰沫を吐て臥すること能はず,喉中しはめくなどは心下に水飲あればなり。此方に宜し。若し上気煩躁あれば石膏を加ふべし。



漢方の臨床〉 第8巻 第11号・第12号
          第9巻 第1号・第6号

小青竜湯について     竜野 一雄先生

 1.処方の構成
 麻黄(節を去る),芍薬,細辛,乾薑,甘草(炙),桂枝(皮を去る) 各3両(3.0),五味子半升(3.0),半夏(傷寒論は洗ふ,金匱要略は湯洗) 半升(5.0)
 右八味水一斗(400)を以て先づ麻黄を煮て二升(80)を減じ,上沫を去り諸薬を内れ,煮て三升(120)を取り,滓を去り,一升(40)を温服す。
 一両は1.3グラムに相当するが実際には面倒をはぶいて1.0ぐらむに換算して使って充分に効果がある。水一升は20c.c.だが,実際的には少なすぎるので倍量の40c.c.使うことにした。一升20c.c.の枡を作って計算すると五味子一升は6.0になるので半升を3.0とした。浅田流その他では2,3粒しか用いないが,それは味のわるさを考慮したからであろうが,薬効上からは味のわるさをいとわず多量に用いるべきである。半夏半升は10.0に該当するから,半升を5.0とした。
 麻黄の節を去るのは節間はエフェドリンを多く含み,節の部分はエフェドリンに対して拮抗作用があるから,エフェドリンの作用を滅殺せぬために節を去るとも解釈できるが,果してエフェドリンだけが麻黄の主作用であるかどうかはまだ断言できない。麻黄だけ先に煮て上沫を去るのは,本草書には煩を起さぬためだと説明されているが,水に溶けやすく,軽くて上に浮ぶ,何らかの副作用を呈する微量成分があるためかも知れない。しかしその成分や作用についてはまだ全然追及されていない。中国薬物の加工や煮法にはしばしば料理の仕方と共通した方法があるので,麻黄の場合もごく単純に考えると湯がいてアクを除くに類している。しかし実際には必ずしも目に見えるほどの上沫があるとは限らない。或は麻黄の新旧により,新しいものは沫が出るが旧いのになると沫は出ないとの説もある。
 甘草を炙るのは,成分的には皮の部分の有害成分を加熱分解して無害にするためのようだが,同時に甘味を増すためでもある。
 桂枝の皮を去るのは,表皮を除去して桂皮油を多く含んだコルク層の部分を露出して浸出を容易にするためであろう。
 半夏を洗うとか湯洗するとかの意味はよくわからないが,水に溶けやすい何かの刺戟成分を除去するためであろう。
 小青竜湯の内容をみると,桂枝湯麻黄湯の合方に加減したような構成になっているが,麻黄が最初に主薬として挙げられ,あたかも麻黄湯の系統であるかのごとき印象を受け,便宜上でも習慣的にも例えば喜多村直寛先生の傷寒雑病類方などのように麻黄湯の類方として分類されているが,実は桂枝湯の系列に入るべきものであろう。それにしてもなぜ桂枝をずっと後の方に挙げたかという点については私には全くわからない。
 
  



【参考】
※餐英館療治雑話(さんえいかんりょうじざつわ):目黒道琢著。
傷寒論、金匱要略の処方、また、唐宋以下本朝経験方および丸散処方、諸病の区別、口訣、経験、諸薬の試功を載せ、今日でも運用価値の高いもの。古方、後世方いずれに偏することなく採用しており、きわめて臨床的で現代漢方にも大きく貢献している。


※浮泛(ふはん) (名)スル 〔「浮」「泛」ともに浮かぶ意〕うわついていること。

※倚息(いそく):ものに寄りかかって息をする。呼吸困難。


(効能・効果)
【ツムラ・他】
  • 次の疾患における水様の痰、水様鼻汁、鼻閉、くしゃみ、喘鳴、咳嗽、流涙//気管支喘息、鼻炎、アレルギー性鼻炎、アレルギー性結膜炎、感冒
  • 気管支炎

【コタロー】
  • 次の疾患における水様の痰、水様鼻汁、鼻閉、くしゃみ、喘鳴、咳嗽、流涙//気管支喘息、鼻炎、アレルギー性鼻炎、アレルギー性結膜炎、感冒
  • 発熱症状後、尿量減少し、胸内苦悶、胃部に水分停滞感があり、喘鳴を伴う喀痰の多い咳嗽があるもの、あるいは鼻汁の多い鼻炎や、流涙の多い眼病の如く、分泌液過多のもの//気管支炎

【三和】
  • 次の疾患における水様の痰、水様鼻汁、鼻閉、くしゃみ、喘鳴、咳嗽、流涙//気管支喘息、鼻炎、アレルギー性鼻炎、アレルギー性結膜炎、感冒
  • 咳とともに稀薄の喀痰がでて、呼吸困難、喘鳴あるいは水鼻などを伴うものの次の諸症//気管支炎
【一般用漢方製剤承認基準】
〔効能・効果〕
体力中等度又はやや虚弱で、うすい水様のたんを伴うせきや鼻水が出るものの次の諸症:
気管支炎、気管支ぜんそく、鼻炎、アレルギー性鼻炎、むくみ、感冒、花粉症



【重い副作用】
  • 偽アルドステロン症..だるい、血圧上昇、むくみ、体重増加、手足のしびれ・痛み、筋肉のぴくつき・ふるえ、力が入らない、低カリウム血症。
  • 間質性肺炎..から咳、息苦しさ、少し動くと息切れ、発熱。
  • 肝臓の重い症状..だるい、食欲不振、吐き気、発熱、発疹、かゆみ、皮膚や白目が黄色くなる、尿が褐色。

【その他】
  • 胃の不快感、食欲不振、吐き気、吐く、腹痛、下痢
  • 動悸、不眠、発汗過多、尿が出にくい、イライラ感
  • 発疹、発赤、かゆみ


参考
小児の投与目安量
未熟児 新生児 3ヶ月 6ヶ月 1歳  3歳 7歳半 12歳 成人
1/10    1/8   1/5   1/5   1/4  1/3  1/2   2/3   1

2011年9月17日土曜日

十全大補湯(じゅうぜんだいほとう) の 効能・効果 と 副作用

漢方診療の實際』 大塚敬節 矢数道明 清水藤太郎共著 南山堂刊
十全大補湯(じゅうぜんだいほとう)
本方は慢性諸病の全身 衰弱時の虚證に用いるもので、貧血・食欲不振・皮膚枯燥・羸痩等を目標とする。脈も腹も共に軟弱で、皮膚は艶なく、甚しいのは悪液質を呈してくる。病勢が 激しく活動性のもの、熱の高いものなどには用いられない。また本方服用後に食欲減退・下痢・発熱などを来すものには禁忌とすべきである。
本方中、人参・白朮・茯苓・甘草は健胃の力が強く、食欲を進め、消化吸収を盛んにする。当帰・芍薬・川芎・熟地黄は、補血・強心の能があって、貧血・皮膚枯燥を治し血行をよくする。黄耆・桂枝はこれらすべての作用を一層強化するものである。
本方は以上の目標を以て、諸種の大病後または慢性病等で疲労・衰弱している場合、諸貧血病、産後及び手術後の衰弱、痢疾後、瘧疾後・癰疽・痔瘻・カリエス・瘰癧・白血病・夢精・諸出血・脱肛に用い、また久病後の視力減退等に広く応用される。


『漢方精撰百八方』
27.〔方名〕十全大補湯(じゅうぜんたいほとう)
〔出典〕和剤局方(北宋・陳師文等奉勅撰)

〔処方〕熟地黄3.5 茯苓3.5 当帰3.5 朮3.5 川芎3.0 芍薬3.0 桂枝3.0 人参2.5 黄耆2.5 甘草1.0

〔目標〕全身衰弱、貧血、食欲不振、削痩、皮膚はツヤなく乾燥、脈、腹ともに軟弱。
〔かんどころ〕大病後または産後、外科手術後の衰弱を回復するのによいが、病勢が著しく活動性のもの、高熱、結核のシェープには用いられないし、服薬後かえって下痢、食欲不振、発熱などがあらわれるものには禁忌である。

〔応用〕本方は血虚を補う四物湯と、気虚を補う四君子湯の合方である八珍湯の効をさらに強化するため、桂枝と黄耆を加え十薬が全くして大いに虚を補すとい方意である。補中益気湯よりも一段と虚し、衰弱と貧血が強い。気血が虚したため麻痺を発した老人病や、大病後の衰弱で視力が減退するもの、下痢が長く続いて栄養失調となり体力のないもの、衰弱による夢精、産後の肥立ち悪く帯下の続くもの、フルンケル、カルブンケル、カリエス、痔瘻などで排膿止まず肉芽不良のもの、脱肛、子宮脱など虚弱に起因するものに応用する。外科手術後の回復促進に用いる機会が最も多く、白血病、悪性腫瘍、悪性貧血にも用いて一時の効をとることがある。肺結核にも用いるが、適応はそれほど多くない。

〔治験〕七十三才の男性、上顎癌が進行し転移もあり右顔面が岩のようになって崩れている。衰弱はなはだしく悪液質を発し、外科的手術も放射能治療も行いない。輸血は毎日しているがヘモグロビン値は6.0より上がらない。予後不良で一ヶ月とはもたないから帰宅してそのまま死を待つよりほかない。家人もすべてはあきらめているが、最後に漢方薬をのませてみたいという強い希望に心動かされ、延命効果しかないことを十分承知させた上で、本方の人参を韓国産の片製を配して投与した。一週間後には元気が出てよく話をするようになりヘモグロビン値は6.5になった。輸血は毎日続行しそれまで6.0以上になったことがないのに、一週間で上昇したことは本方の効としか考えられない。結局三十六日目で死亡したが、割合に体力が回復しいく分の延命効果を認めることが出来た。 石原 明



漢方薬の実際知識』 東丈夫・村上光太郎著 東洋経済新報社 刊
十全大補湯(じゅうぜんだいほとう) (和剤局方)
〔人参(にんじん)、黄耆(おうぎ)、白朮(びゃくじゅつ)、茯苓(ぶくりょう)、当帰(とうき)、芍薬(しゃくやく)、熟地黄(じゅくじおう)、川芎(せんきゅう)、桂枝(けいし)各三、甘草(かんぞう)一〕
本方は、八物湯に表虚のため、黄耆、桂枝を加えたものであり、連珠飲に黄耆、人参を加えたものとしても考えることができる。したがって、四物 湯の瘀血、苓桂朮甘湯の水毒、四君子湯の裏虚、黄耆・桂枝の表虚などを含んでいることになる。本方は、気・血・表・裏・内・外すべてが虚しており、疲労を 訴えるもので、発熱、口渇、咽喉痛、食欲不振、めまい、貧血、精神安定、皮膚乾燥、遺精、諸出血などを目標とする。
〔応用〕
つぎに示すような疾患に、十全大補湯證を呈するものが多い。
一 肺結核、骨結核(カリエス)、ルイレキ、痔瘻、脱肛、白血病、神経衰弱、諸出血、皮膚病など。




《資料》よりよい漢方治療のために 増補改訂版 重要漢方処方解説口訣集』 中日漢方研究会
35.十全大補湯(じゅうぜんだいほとう) 和剤局方
人参25 黄耆2.5 朮3.5 当帰3.5 茯苓3.5 熟地黄3.5 川芎3.0 芍薬3.0 桂枝3.0 甘草1.0


現代漢方治療の指針〉 薬学の友社
貧血して皮ふおよび可視粘膜が蒼白か,栄養不良でやせており,食欲がなく衰弱しているもの。
本方は四物湯と人参湯に似たものを合方したような処方で,慢性に経過する諸種疾患の衰弱時に用いられ,消耗した体力を賦活し体力を増強せしめる。病中病後の衰弱時に普遍的な症候として,本方が適応するものが少なくない。具体的には容貌,栄養ともに悪く,食欲不振とともにやせて体力が低下し,皮ふにはつやがなく,気力も乏しく非常に疲労倦怠感ざ著しいと言う状態のものが目安となる。本方が対象になるような衰弱時は通常消耗熱あるいは神経症状などを伴いやすいが,本方適応症状に似て前者の消耗熱を随伴するものは,人参養栄湯が適する。人参養栄湯は本方症状と熱症状のほかに発咳があるので区別できる。また衰弱と熱の観点から,柴胡桂枝干姜湯が類似するが,柴胡桂枝干姜湯にはさらに神経症状(不眠,動悸)と消化器症状(消化不良性下痢,口渇)などが著明な点で,明確に区別できる。したがって前者の二処方は病勢が活動的であることがポイントであり,本方は病勢がやや落ちついた状態で体力増強が急務であるものを対象にすればよい。本方を投与後,次第に好転して治癒機転にあるもの。すなわち回復期には補中益気湯の応用を考慮すればよい。以上の諸点から本方は病勢が激しく,著明な熱症状,下痢,神経症状などがある場合は用いられないので衰弱と熱,咳には人参養栄湯を,衰弱と熱,消化器症状を伴うものには柴胡桂枝干姜湯を,回復期には補中益気湯を,衰弱して特殊な症状の少ないものには本方を考え,視診,問削などを総合判独して応用すれば良い。


漢方処方応用の実際〉 山田 光胤先生
○慢性病,大病後,虚弱者,老人,幼児などで体力,気力ともに衰えたものに用いる。したがって疲労しやすい,皮膚枯燥,貧血,盗汗,大便軟,小便がしぶり,あるいは頻数になり,遺精,発熱,微熱,口乾,咽喉痛,舌あれ頭や頸の痛み,めまい,精神不安など種々の症状を呈し,食欲が減少するもの。これを梧竹楼は「種々な原因によって過労衰弱を来した一切の者や老人,虚弱者がいろいろな雑症があって,これぞといってとらえどころのない病人に用いる。すべての癰疽の排膿のあとは,大抵本方に附子を加えて用いるとよい」といっている。
○勿誤薬室方函口訣には「局方の主治では,八物湯は気血の虚を治し,薛立斎の主治によれば,黄耆は人参に協力して自汗盗汗を止め,表の気を固くする。桂枝は人参,黄耆に協力して遺精,大便軟,尿不利あるいは尿頻数を治す」といっている。
○方意解:和田東郭は本方の症状として血便,血尿,下腹痛,脱肛,陰茎痒痛などをあげている。
○踈註要験:①産後の衰弱,貧血,②結核などで衰弱したもの。③虚弱な人が房事過度で衰弱したもの。④腹痛が種々な薬を用いても治らないとき,こういうとき黄耆建中湯で鎮痛の効を得たことがあること,⑤内症により発疹を生じたもの,こういうことは発汗過多,過労のあとでおきるものである。⑥数年にも及ぶ下痢症。


漢方診療の実際〉 大塚,矢数,清水 三先生
本方は慢性諸病の全身衰弱時の虚証に用いるもので,貧血・食欲不振・皮膚枯燥・羸痩等を目標とする。脈も腹も共に軟弱で,皮膚は艶なく,甚しいのは悪液質を呈してくる。病勢が激しく活動性のもの,熱の高いものなどには用いられない。又本方服用後に食欲減退・下痢・発熱などを来すものには禁忌とすべきである。本方中,人参,白朮,茯苓,甘草は健胃の力が強く,食欲を進め,消化吸収を盛んにする。当帰,芍薬,川芎,熟地黄は,補血,強心の能があって,貧血,皮膚枯燥を治し血行をよくする。黄耆,桂枝はこれらすべての作用を一層強化するものである。
本方は以上の目標を以て,諸種の大病後または慢性病等で疲労,衰弱している場合,諸貧血病,産後及び手術後の衰弱,痢疾後,瘧疾後,癰疽,痔瘻,カリエス,瘰癧,白血病,夢精,諸出血,脱肛に用い,また久病後の視力減退等に広く応用される。


漢方処方解説〉 矢数 道明先生
この方は気血,陰陽,表裏,内外,みな虚したものを大いに補うという意味で十全大補湯と名づけた。諸病の後で,全身の衰弱がひどく,貧血し,心臓も疲れ,胃腸の力も衰え,痩せて脈も腹も軟弱,温かい手をもって腹を按ずることを好み,熱状のないものを目標とする。


勿誤方函口訣〉 浅田 宗伯先生
此方,局方の主治によれば,気血虚すと云ふが,八物湯の目的には,寒と云うが黄耆,肉桂の目的なり。又下元気衰と云ふも肉桂の目的なり。又黄耆を用ふるは人参に力を併せて自汗盗汗を止め,表気を固むるの意なり。肉桂を用ゆると,九味の薬を引導して夫々の病む処に達するの意なり。何れも此意を合点して諸病に運用すべし。

医方口訣集〉 長沢 道寿先生
凡そ人元気素より弱く,或ひは起居宜しきを失するに因り,或ひは飲食労倦に因り,或ひは用心大過に因り,遺精白濁,自汗盗汗,或ひは内熱,哺熱,潮熱,発熱,或ひは口乾きを渇を作も,咽痛み舌裂けて,或ひは胸乳膨張し,脇筋痛みをなし,或ひは頭頸時に痛み,眩暈目花あり,或ひは心神寧らず,或ひは寤めて寝られず,或ひは小便赤く渋り,茎中痛みをなし,或ひは便溺余滴あって,臍腹陰冷し,或ひは形容充たず,肢体寒を畏れ,或ひは鼻息急迫等の諸症を治するの聖薬なり。


蕉窓方意解〉 和田 東郭先生
すなわち八珍湯に黄耆,肉桂を加うるものなり,気血ともに虚し,発熱悪寒,自汗,肢体倦怠,あるいは頭痛,めまい,口乾の渇を作して治す。また久病虚損,口乾き食少なく咳し,しかして下痢,驚悸発熱,あるいは寒熱往来して盗汗,自汗,哺熱,内熱,潰精白濁,あるいは二便に血をみる。小腹痛みて作し,小便短乾,あるいは大便滑泄,肛門下墜,小便を再々もよおし陰茎が痛むなどの症を治す。


和剤局方〉 陳 師 文 先生
男子婦人諸虚不足,五労七傷,飲食進まず,久病虚損,時に潮熱を発し,気骨脊を攻め,拘急疼痛,夜夢遺精,面色痿黄,脚膝力無く,一切病後気旧の如からず,憂愁思傷,気血を傷動し,喘欬中満脾腎の気弱く,五心煩悶するを治す。並びに哲之を治す。此の薬性,温にして熱せず,平補にして効有り,気を養ひ,神を育し,脾を醒まし渇を止め,正を順らし邪を辟く,脾胃を温煖して其効具さに述ぶべからず。


名医方考〉 呉 崑 先生
肉極は肌肉消痩し,皮膚枯槁す,此方之を主る。肉極陰火に由りに久灼する者治し難し,宜しく別に六味地黄丸を主らしむべし。若し飲食労倦,脾を傷るに由りて肉極を致す者は宜しく大いに気血を補うを以て之を充つべし。


漢陰臆乗〉 百々 漢陰先生
諸虚百損,一切老人虚人の色々の難症ありて此れぞというて執まえてせめる処もなしと云ふ病人に用いる也。


十全大補湯(じゆうぜんだいほとう)(和剤局方、諸虚門、諸書 補益門)
【処方】
人参、白朮、茯苓、当帰、川芎、熟地黄、芍薬、桂枝、黄耆、大棗、生姜、甘草。


本方は、四物湯と四君子湯との合方である八珍湯に、さらに黄耆、肉桂を加味したものである。十薬全うして大いに能く虚を補う、故に十全大補湯と名付けられた。また、気血陰陽、表裏内外共に補わないものはなく、十全の効があるからとも云われる。


【主治】
●和剤局方(龔廷賢)
「男子婦人諸虚不足、五労七傷、飲食進まず、久病虚損、時に潮熱を発し、気骨脊を攻め、拘急疼痛、夜夢遺精、面色痿黄、脚膝力無く、一切病後気旧の如からず、憂愁思傷、気血を傷動し、喘咳中満脾腎の気弱く、五心煩悶するを治す。並びに皆之を治す。此薬性温にして熱せず、平補にして効有り、気を養ひ神を育し、脾を醒まし渇を止め、正を順らし邪を辟く、脾胃を温暖して其効具さに述ぶべからず」と述べている。


●万病回春(龔廷賢)
「気血倶に虚し、発熱悪寒、自汗盗汗、肢体倦怠、或は頭痛眩暈、口乾渇を作すを治す。又久病虚損、遺精白濁、肛門下墜、大便滑泄、小便数、陰茎疼痛等の症を治す」とある。


●名医方考(呉昆)、虚損門
「肉極は肌肉消痩し、皮膚枯槁す、此方之を主る。肉極陰火に由りて久灼する者治し難し、宜しく別に六味地黄丸を主らしむべし。若し飲食労倦、脾を傷るに由りて肉極を致す者は、宜しく大いに気血を補ふを以って之を充っべし」とある。

即ち、本方は諸病の末期、或いは全身の衰弱ひどく、貧血し、心臓が衰弱し、消化器の機能の衰えたのを鼓賦振興する場合に用いる。応用範囲の非常に広いものである。末期の消耗熱の場合の外、熱のある者には使えない。脈は洪で無力、或いは微細、緩遅で、腹状は軟弱で、さすつてもら痛がり、皮膚は枯燥しているものである。


【目標】
●勿語方函口訣(浅田宗伯)
「此方局方の主治によれば、気血虚すと云ふが八物の日的にて、寒と云ふが黄耆、肉桂の目的なり。又下元気衰と云ふも肉桂の目的なり。又薛己の主治によれば黄耆を用いるは人参に力を併せて自汗盗汗を止め、表気を固むるの意なり。肉桂を用ゆるは人参黄耆に力をかりて遺精白濁、或は大便滑泄、小便短少、或は頻数なるを治す。又九味の薬を引導して夫々の病処に達するの意なり。何れも此意を合点して諸病に運用すべし」とある。


●当荘庵家方口訣(北尾春甫)
「気血両虚の虚冷したるに用いる剤なり。虚甚しければ則ち附子を加ふ。脈法進んで無力、中弦緊按じて鼓せず、或は大にして無力、或は微細緩遅、心下空虚按を好み、或は熱手心を以って温むれば則ち快を覚ゆるを目当にするなり。此症寒を畏れ、足冷眼晴うっかりとして、どこやら少し熱もあれども実熱ならず、十全大補湯は仮熱を去る剤なり。

虚人々の腹痛あると云ふによきことあり。四君子湯、補中益気湯、六君子湯と用ゆる中に、どこやら血燥潤わせたきと思ふ様なるときに用ゆ。峻の熱すっきりと去りて保養によし。産前臨産の気弱きに用ひてよし。臨産交骨開かずも虚なり。十全大補湯、産後交骨閉ぢざるも虚大神とあり、必要の剤なり。交骨は陰門の上の骨なり。つがいめ有りて、子宮向へば骨開きて生るなり。生れて後又閉じるなり。

産後血暈、くらきくと云ひて脈弱きに用いることあり。脱血の時に黒炒乾姜を加えて用ゆるなり。血多く下るときは肉桂は去りてよきと云ふことなり。然れども血下り尽き、手足冷え、東垣の語の如く陰火も共に亡ぶるときは、血につれて陽脱せる故亡陽の症になるは肉桂、附子を加えて用いるなり。産後戦慄に人参三分入れ、独参湯、参附湯と兼用するなり、総じて脱血して戦慄に用いるなり。碗を手に持つことならぬ様に振るう者なり。甚しければ則ち剛痙柔痙とある症に成りて速かに死するなり。産前産後に必要なる剤なり。

癰疸潰後必要の剤なり。黄耆、肉桂は表を固くいやす意なり。内より托裏するなり。内托散も用ゆ、癰疸潰後内托散は定まりたる剤なり、然れども虚多くば内托散は無用の薬味もある故に、一偏に補はぬなり。痘漸次収厭せんとするとき弱みあれば用ゆるなり。

痘のかわくに潤ひて掛る剤なり。水膿の間は大形方用ひず。(註:大体方は用いないの意)何の道にも気血両虚して痘乾くによきなり。久瘧には附子を加えて必用なり。傷寒汗出で止まず、亡陽と云ふて汗につれて元陽脱し死するあり、故に汗出で已まざる時は此方主薬なり。熟附子を加ふ。脱肛収まりかね、或は産後子腸出で収まらざるにも用ゆ。補中益気湯に肉桂を加えて用ゆるなり」とある。


●漢陰臆乗(百々漢陰)
「諸虚百損、一切老人虚人の色々の難症ありて、此れぞと云ふて執まへて攻める処もなしと云ふ病人に用いるなり」とある。


●医方口訣集(長沢道寿)
「凡そ人元気素より弱く、或は起居宜しきを失するに因り、或は飲食労倦に因り、或は用心大過に因り、遺精白濁、自汗盗汗、或は内熱、哺熱、潮熱、発熱、或は口乾きて渇を作し、咽痛み舌裂けて、或は胸乳膨脹し、脇筋痛みをなし、或は頭頸時に痛み、眩暈目花あり、或は心神寧らず、或は醒めて寝られず、或は小便赤く渋り、茎中痛みをなし、或は便溺余滴あって、膀腹陰冷し、或は形容充たず、肢体寒を畏れ、或は鼻息急促等の諸症を治するの聖薬なり。

愚按ずるに俗医前症を見るときは、或は腎虚と云ふて、四物湯知母黄柏を用ひ、或は痰火と云ふて二陳湯、導痰黄連を用ひ、或は肝熱と云ふて小柴胡、竜胆、山梔子を用ひ、或は風虚と日ふて天麻、半夏、姜蚕の類を用ひ、或は淋病と曰ふて沢瀉、猪苓、木通の類を用ひ、或は寒積と曰ひ、或は熱脹と曰ひ、或は欝気と曰ひ、姜附湯、三和散、流気飲等の類を用ゆ、皆救はざることを致す。」と述べている。


●医方口訣集(長沢道寿)
「一切虚証に然りて苦寒薬を服し、壊病百出の時、六君子湯、補中益気湯の類を投じて応ぜず。此湯を用ひ姜附の類を加ふ。冬月厳寒老人虚人淡煎して日一に二服して養生の助けと為す」とある。
これらの諸説は本方運用上の参考となろう。


【治験】
●和漢医林誌(杏雨社)
「一男子年廿七、傷寒を患ひ、洋医三名の治を受け、熱漸く退き稍々快を覚え、又能く食するも羸痩日一日より甚だし、加えて両足痿軟厥冷肉脱して恰も鶴脛の如し、更に痛養を知らず。是に於て前医も百方治術を施すと難も寸効なく、治を辞す。

精神痴の如く毫も物に記臆なく、譬えば晩餐の時朝食の物を問ふに其何たるを覚えざるが如し。予往きて診するに脈沈微衰弱太甚し、果して難治の症と診認し、固辞すれども許さず、頻りに薬剤を請ふを以って、止むを得ず十全大補湯五貼を与へ一昼夜に服す可しと命じて去る。

次日奴を走らせ告げて曰く、妙剤を服してより足冷少しく止まりたり、願ばくは投剤を乞ふと、因って又前方を与ふること五日にして屈伸大いに順を得、杖に椅りて一歩を送り、且つ精神も自ら清く、言語漸く朗かなり。爾後益々前剤を連服せしむるに五十日にして復常せり」とある。


●甲斐小山喜俊
「遠藤吉門女年二十三、幼より病なし。五年前某月、右部項腋の間に結核一二を発し、遂日左部に、波及し其の形大小累々として連珠の如く、之を按ずるに更に痛痒を覚えず、起居動作も亦平常ならず、病勢緩慢なるを以って敢て意とななさず、殆ど一周年間。某歳夏天寒熱往来、結核暫時に横潰し、汚水を滲漏す、是に於て始めて医療を乞ひ、荏再歳月を経て効駿なし。本年三月初旬予を延く、診するに脈軟弱にして血液栄せず、面色惨憺形容枯幅恰も骨に皮するに斉し。

而して神心恍惚食機振はず、予熟ら意らく、是標桿猛烈の剤に過ぐ、畢竟解凝攻撃は凡庸普通の手段にして早く峻補滋養の剤を撰用し、劇易緩急の処置なくんば鬼籍に上る果して近きにあらんと、則ち十全大補湯加えて燕面草、貝母、遠志兼ぬるに伯州散を服さしめ、患所に燕面膏を塗擦すること二週間にして大いに回生の色を顕はし、累々たる結核逐次に消散し、随って汚水も亦収まる。尚ほ又前剤を連進する三閲月にして積年の痼疾全癒し幸に鬼籍を免るるを得たり。」と述べている。

龍野一雄氏はヘルニア手術後の糞痩愈えず、濃汁の出ること三月に及ぶものを本方一月程で全治させたという。


●羽前、佐藤元悦
「安部半治郎妻年三十八、客歳十月出産後悪露を得続いて帯疾となり、医之を療し荏薄日を延いて愈えず。予往きて診するに顔色屡黄脈沈微舌上黄胎呼吸息迫、少く往来寒熱、腹中拘攣小腹小塊あり、時時急痛飲食不進、両便不利す。予帯下の多少を問ふに昼夜六七行其量六七勺、乃至一合三四勺、其色或は黒く或は桃花色にして少しく臭気ありと。予以為らく、胃?膀胱及び子宮の衰弱により熱分の虚を来たせし者なりと、即ち十全大補湯を与へ之を服さしむること六月初旬より八月中旬まで凡そ七十余日にして全治す」と述べている。


【薬能】
●名医方考(呉 昆)
「肉極者、肌肉消痩し、皮膚枯槁す。若し飲食労倦脾を傷るに由って肉極を致す者は、宜しく大いに気血を補ふて以って之を充つ。経に曰く、気は之を胸くことを主り、血は之を濡ほすことを主る。故に人参、白朮、黄耆、茯苓、甘草、甘温の品を用いて以って気を補ふ。気盛なるときは則ち能く肌肉を充実す。当帰、川芎、芍薬、地黄、肉桂、味厚の品を用いて以って血を補ふ、血生ずるときは則ち能く其の枯を潤沢す」とある。


●方意弁義(岡本一抱)
「十全大補湯は八物湯に黄耆、肉桂を加ふ。八物湯は四物湯に四君子湯を合するより、気血両虚を補ふこと両輪の如し、四物湯を用ゆる血虚の症一等重くなるときは気血両虚となる。又虚すること一等甚しきときは大補湯を用ゆる場に至る。大補湯は四君子湯と四物湯とを合して黄耆、肉桂を加えるものなり。黄耆を加ふるは補へる気を引きしめて泄さず、肉桂は四君子湯、四物湯の補を強くせんがためなり。喩へば甑に蓋をなして蒸したるが如し、黄耆は蓋の如し、肉桂は釜下の火の如し、是を以って其気を能く生じて気を中にみたしむるものなり」とある。


【禁忌】
●医学正伝(虞 傳)
「肥白の人、及び気虚して汗多きもの之を服して効あり。若し蒼黒の人、腎気有余にして甚だ虚せざるもの、これ服すれば必ず満悶して安からず。嘔吐と中満と、及び酒を嗜むの人、多く服すれば必ず膈を斂めて行らずして嘔満増劇す。骨蒸多汗及び気弱の人、久しく服するときは真気走散して陰愈々虚すること甚し。痰火盛なる者は恐らく膈に泥んで行らざらんことを、久咳、労咳、喀血、火肺分に在るもの、これを服せば必ず咳を加えて喘を増して寧らず。壮年火の旺ずるもの服することを忌む。壮年咳嗽、頭痛、鼻衄、吐血等の諸症最もこれを忌むべし」とある。


【応用】
・肺結核:熱状は著しくなく、咳嗽、湿痰もなく、発汗のひどくないものに用いる。皮膚枯燥したものを目的とし て用う。肺結核には本方の症は至って少い。
・痢疾 :慢性下痢後、栄養衰え、元気の回復しないもの。
・瘧疾 :長年治らなくて虚羸したもの。
・癰疸 :潰えて後排膿の止まらないもの。
・瘰癧 :潰えて後虚羸、稀膿の止まないもの。
・カリエス:腸癰等、痩孔長く癒えないもの。
・産後諸症:本方の症が多い、血振いという類。
・夢精  :虚のひどいもの。
・麻痺  :気血虚して麻痺を発するもの。…
・久病後 :視力減退健忘のもの。
・帯下  :長血、子宮癌、諸悪性腫瘍。
・脱肛  :痔漏、子宮脱出等。





(効能・効果)
【ツムラ・他】
病後の体力低下、疲労倦怠、食欲不振、ねあせ、手足の冷え、貧血。

【コタロー】
皮膚および粘膜が蒼白で、つやがなく、やせて貧血し、食欲不振や衰弱がはなはだしいもの。消耗性疾患、あるいは手術による衰弱、産後衰弱、全身衰弱時の次の諸症。

  • 低血圧症、貧血症、神経衰弱、疲労けん怠、胃腸虚弱、胃下垂。

【三和】
貧血して皮膚および可視粘膜が蒼白で、栄養不良、痩せていて食欲がなく衰弱しているものの次の諸症。

  • 衰弱(産後、手術後、大病後)などの貧血症、低血圧症、白血病、痔瘻、カリエス、消耗性疾患による衰弱、出血、脱肛。

【一般用漢方製剤承認基準】
〔効能・効果〕
体力虚弱なものの次の諸症:
病後・術後の体力低下、疲労倦怠、食欲不振、ねあせ、手足の冷え、貧血


【重い副作用】
  • 偽アルドステロン症..だるい、血圧上昇、むくみ、体重増加、手足のしびれ・痛み、筋肉のぴくつき・ふるえ、力が入らない、低カリウム血症。
  • 肝臓の重い症状..だるい、食欲不振、吐き気、発熱、発疹、かゆみ、皮膚や白目が黄色くなる、尿が褐色。

【その他】
  • 胃の不快感、食欲不振、吐き気、吐く、下痢
  • 発疹、発赤、かゆみ

2011年9月9日金曜日

茵蔯蒿湯(いんちんこうとう) の 効能・効果 と 副作用

漢方診療の實際』 大塚敬節 矢数道明 清水藤太郎共著 南山堂刊
茵蔯蒿湯(いんちんこうとう)
 本方は主としてカタル性黄疸の初期で実證のものに用いられる方剤であるが、必ずしも黄疸がなくてもよい。裏に瘀熱のあるのを目標とする。
 目標としては、腹部殊に上腹部が微満し、心下より胸中にかけて如何にも不愉快で、胸が塞ったような感じがあり、口渇・大小便不利・頭汗・発黄等を認める。脈は多くは沈実で、舌には黄苔のあることがある。
  本方を構成する茵蔯蒿には、消炎・利尿の外に黄疸を治する特能があり、梔子にもまた消炎・利尿の外に黄疸を治する効があり、大黄には緩下消炎の効がある。 故に黄疸でも肝硬変症や肝臓癌等から現われるものには無効である。本方はカタル性黄疸のみならず、脚気・腎臓炎・蕁麻疹・口内炎等その他如何なる疾病で も、上述の如き目標を確認する時はこれを用いてよい。



『漢方精撰百八方』
49.〔方名〕茵蔯蒿湯(いんちんこうとう) 〔出典〕傷寒論。金匱要略。 〔処方〕茵蔯5.0 梔子3.0 大黄1.0 〔目標〕
1.熱があって便秘し、頸から頭の方にだけ汗が出て、のどが乾いてのむのに、小便の出が少ないもの。こんな場合には、二、三日たって黄疸になるおそれがあるが、黄疸の有無にかかわらず、この方を用いる。
2.熱が出て、かぜかと思っているうちに、からだが黄色になった。気をつけてみると、小便の出が少なく、腹がはって、大便の色が灰色で、少ししか出ない。
3.さむけがしたり、熱が出たりして、食欲がない。たべるとめまいがし、胸の気持ちがわるく、吐きそうになる。そのうちにからだが黄色になった。

〔かんどころ〕腹がはる。殊に上腹部がいっぱいつまった感じで、たべたものが落ちつかず、吐きそうである。便秘と尿の不利と口渇をたづねてみて、これがそろえば、この方の適応症と考えてよい。殊に尿の着色がひどくて、濃厚で、からだをかゆがれば、この方を用いてよい。腹証上、心下のつかえがあり、肝の肥大を証明することがあるが、肝の肥大がなくても用いる。

〔応用〕肝炎。じんましん。ネフローゼ。腎炎。

〔附記方名〕急性肝炎の場合には、茵蔯蒿湯だけで奏効することが多いが、慢性肝炎、肝硬変症には、小柴胡湯合茵蔯蒿湯、大柴胡湯合茵蔯蒿湯を用いた方がよいと思われるものがある。

〔治験例〕じんましん。十七才の男子、一ヶ月ほど前から、じんましんが出て治らない。食欲はあるが、胸がつまった感じでさっぱりしないという。大便は毎日あるが、今までより量が少なく硬く、快通しない。  腹診上、胸脇苦満は軽微、心下やや満。この患者の、胸のつまった感じは、梔子の入った方剤を用いる目標の「胸中塞がる」の状に相当するものである。  そこで胸のつまるという症状と便秘を目標に、茵蔯蒿湯を用いたところ、七日分で全治したが、あと七日分追加投与した。じんましんの消失とともに、胸のつまる感じも亦よくなったこと勿論である。                                   
大塚敬節


漢方薬の実際知識』 東丈夫・村上光太郎著 東洋経済新報社 刊
茵蔯蒿湯(いんちんこうとう)  (傷寒論、金匱要略)
 〔茵蔯蒿(いんちんこう)四、山梔子(さんしし)三、大黄(だいおう)一〕
  本方は、陽明病に属し、裏の実熱による各種疾患に用いられる。したがって、裏にうつ熱と瘀水があって煩悶し、上腹部が微満し、心下部の苦悶や 不快を訴え、胸がふさがったように感じ、頭汗(身体には汗がない)、頭眩(ずげん、頭がくらむ)、口渇、発黄、食欲不振、便秘、小便不利または小便不利ま たは減少などを目標とする。
 〔応用〕
 つぎに示すような疾患に、茵蔯蒿湯證を呈するものが多い。
 一 カタル性黄疸、流行性肝炎、血清肝炎その他の肝臓疾患。
 一 血の道、子宮出血その他の婦人科系疾患。
 一 じん麻疹、薬疹、皮膚瘙痒症その他の皮膚疾患。
 一 腎炎、ネフローゼその他の泌尿器系疾患。
 一 そのほか、口内炎、舌瘡、歯齦炎、ノイローゼ、自律神経失調症、脚気など。


《資料》よりよい漢方治療のために 増補改訂版 重要漢方処方解説口訣集』 中日漢方研究会
2.茵蔯蒿湯(いんちんこうとう) 傷寒論
茵蔯蒿4.0 梔子3.0 大黄1.0

(傷寒論)
陽明病,発熱汗出者,此為熱越,不能発黄也。但頭汗出,身無汗,剤頸而還,小便不利,渇引水漿者,此為瘀熱在裏,身必発黄,本方主之。(陽明)
傷寒七八日,身黄如橘子色,小便不利,腹微満者,本方主之。(陽明)
穀疸之為病,寒熱不食,食即頭眩,心胸不安,久々発黄,為穀疸,本方主之。(黄疸)


現代漢方治療の指針〉 薬学の友社
 咽喉がかわき胸苦しく便秘するもの。黄疸を併発したものには特に好適。
 本方は発黄を治す聖薬ともいわれる。また右症状の伴なった肝臓障害による蕁麻疹に繁用される。肝炎,腎炎に応用する場合は通常五苓散と合方して用いるが,更に便秘がひどく,みぞおちが硬く張っているときは大柴胡湯と併用すればよい。本方は肝硬変,肝臓癌による黄疸には無効である。軟便で便秘がひどくない人や特に虚弱な人には不適で,このような人の黄疸には小柴胡湯黄連解毒湯合方を,蕁麻疹には小柴胡湯桂枝茯苓丸合方などを考慮すべきである。


漢方処方解説シリーズ〉 今西伊一郎先生
 (1)カタル性黄疸 微熱や悪寒がして頭部に発汗があり咽喉の乾きを訴える初期症状を,対象にする。亜急性や慢性に経過するもので,微熱や悪寒はないが口渇や胸部圧迫感がひどく,若干黄疸症状が残っているものには本方と五苓散を合方するとよい。
 (2)口内炎,肝機能障害にもとずく口内炎に前記症状を目安に応用する。特に本方が適応するものは,便秘して口腔粘膜や舌部の炎症がひどく,潰瘍を生じ口臭や熱感を認める急性症状が多い。この症状に似て胃痛,胃部停滞感を訴えるものは黄連湯を考える。
 (3)ジンマ疹,食毒や薬疹に応用されるが,いず罪も前記症状を対象にする。
 (4)腎炎,ネフローゼ,胸部がふさがったような自覚や苦悶感,口渇,尿量の減少,便秘,微熱,悪寒なとの症候複合を目標に,ほとんど五苓散と合方して応用される。
 (5)注意事項 本方は虚弱者や衰弱しているものには用いない。これらには小柴胡湯五苓散黄連解毒湯梔子柏皮湯などを考慮するとよい。


漢方処方応用の実際〉 山田 光胤先生
 黄疸に用いる処方であるが,黄疸がなくても用いられる。その目標は,上腹部がなんとなく張って苦しく,心下部より胸部にかけて塞がるような何ともいえぬ不快な苦しさがあり,食物がとれず,大便が秘結し,尿利が減少する。この時黄疸があれば,少し排泄される大便は白色で石鹸のようになり,小便は量が少なく色が濃い黄褐色や黄赤色になる。また口渇,頭汗のあることもあり,胸がむかむかして嘔きけを生じ,食物をとると頭痛がしたり,めまいがしたりして嘔吐がおこり,食物が通らないものである。こ英さいの腹証は,しばしば肝臓が肥大し,心下から右季肋下にかけて板のような固い抵抗を生じ,これを「古家方則」には「心下堅大」とある。脈は多くは沈実あるいは遅で,舌には黄苔のあることも少なくない。茵蔯蒿湯は,一般に黄疸の処方と考えられているが,むしろこれは上腹部ないし腹部の炎症を去り,利尿をはかり,ついで黄疸を治す薬方である。また黄疸には胆道閉塞性の黄疸,肝細胞性の黄疸(肝細胞の機能障害による胆汁分泌障害),溶血性黄疸の別があるが,茵蔯蒿湯が最もよく効くのは肝細胞性の黄疸である。したがって肝臓癌や肝硬変などで胆道が圧迫されたための胆道閉塞性黄疸には効果がない。そこで最もよく思いられるものは,流行性肝炎(従来カタル性黄疸といったもの)急性肝炎である。そこでこの処方の効果は肝臓の解毒機能および胆汁の分泌を亢め,体内の熱をとると考えられる。茵陳は,胆汁分泌促進の効果があり且つ尿利を増加させる。梔子は消炎の効果があって胸中の痞えを去り,肝臓の機能を亢めて利尿利用をあらわす。大黄は大便を通じ炎症を去る。以上のような三味の薬物の協力作用が本方の薬効であることは勿論である。(中略)茵蔯蒿湯の適応症は体力のある漢方で実証という体質の場合である。ただ体力のある人から中ぐらいの人まで用いることが出来る。しかし元来体質が虚弱な人や,病気が長びいて衰弱したようなものには用いられない。


漢方診療の実際〉 大塚,矢数,清水 三先生
 本方は主としてカタル性黄疸の初期で実証のものに用いられる方剤であるが,必ずしも黄疸がなくてもよい。裏に瘀熱のあるのを目標とする。目標としては腹部殊に上腹部が微満し,心下より胸中にかけて如何にも不愉快で,胸が塞ったような感じがあり,口渇,大小便不利,頭汗,発黄等を認める。脈は多くは沈実で,舌には黄苔のあることがある。本方を構成する茵蔯蒿には,消炎,利尿の外に黄疸を治する特能があり,大黄には緩下消炎の効がある。 故に黄疸でも肝硬変症や肝臓癌等から現われるものには無効である。本方はカタル性黄疸のみならず,脚気,腎臓炎,蕁麻疹,口内炎等その他如何なる疾病で も上述の如き目標を確認する時はこれを用いてよい。


漢方処方解説〉 矢数 道明先生
 陽明病に属する裏(胃腸)の実熱を解する薬方で,カタル性黄疸の初期に用いることが多い。しかし黄疸がなくても裏の瘀熱(内にこもった古い熱)すなわち胃腸に熱が留滞沸鬱して,その熱が心胸に迫るというときに用いられる。裏に鬱熱があって煩悶し,あるいは黄疸を発するのが主目標で,次のような諸徴候を参考とする。腹部ことに上腹部が微満し,心下部より胸部,心臓部にかけて苦悶や不快を訴え,胸がふさがったように感じ,口渇,便秘,腹満,小便不利,頭汗,頭眩,発黄などがある。黄疸がなくとも裏に鬱熱があれば用いてよい。脈は多くは緊であるがときには例外もある。


漢方入門講座〉 竜野 一雄先生
運用 1. 黄疸
 茵蔯蒿湯は黄疸の薬だ位は少し漢方をやった人なら知っている筈である。浅田宗伯先生は「此方発黄を治する聖剤なり。世医は黄疸初発に茵蔯五苓散を用ゆれども非なり。先此方を用て下を取て後茵蔯五苓散を与うべし」(勿誤薬室方函口訣)と黄疸に用いる要領を説いている。茵蔯蒿湯の原典には「傷寒七八日,身黄なること梔子の色の如し。小便利せず,腹微満するものは茵蔯蒿湯之を主る」(傷寒論陽明病)という。身黄だけでは黄疸薬と同じことだから,本方の特徴が小便不利と腹微満とにあることを示している。黄疸は漢方薬に見ると傷寒のものと雑病のものとに大別され,雑病は原因や病状によって又細かく分類される。その中で茵蔯蒿湯の証は湿熱である。「師の曰く,病黄疸,発熱煩喘,胸満口燥する者は病発する時にて其汗を劫かし,両熱を得る所なり。然れども黄家の得る所は湿より之を得,一身尽く発熱,面黄肚熱す。熱裏に在り,当に之を下すべし」(金匱要略黄疸)がそれを語っている。熱と湿とが原因で,面黄肚熱といい,下剤の適応証だというから正に茵蔯蒿湯の証になる。熱は瘀熱に属するものだし,湿は胃に在る。脾は湿を悪むとの考えがあるが脾気を受けて作用を営む胃に湿水が在るときに熱を蒙ると,胃気と水と熱とが一緒になって黄疸を起して来るというのが漢方的な病理である。湿水が停っているから小便の量が少い。之が小便不利である。熱のために大便が燥き燥くと熱を持って来る。之が苦寒大黄をもって下さねばならぬ理由になる。
 「陽明病,発熱汗出づるものはこれを熱越すとなす。黄を発すること能はざるなり。ただ頭汗出で身に汗なく,頭をかぎりて還る。小便利せず,渇して水漿を引くものはこれ瘀熱裏に在りとなす。身必ず黄を発す。茵蔯蒿湯之を主る。」(傷寒論陽明病)はその病理を述べたもので汗が出ぬから黄疸になる。それは停った水が停ったままで熱にむされているからだ。所が頭だけに汗が出て身の方に出ないのはどうしたことだろう。(中略)頭から上の汗は熱気が腹から胸に滞り体表へは行かずに頭の方だけに行く。それにつれて水気が頭に上り汗になる。水漿を引くという位だから渇は相明強い。(中略)雑病に於ける茵蔯蒿湯は穀疸に使うことになっている。穀疸とは胃に既に湿が有る所へ穀(食餌)を摂り,食餌は熱エネルギーを供給するからここに胃熱を生じ,湿と熱とが結合して,湿熱性の黄疸を起すものをいう。「穀疸の病たる寒熱して食せず,食すれば則ち頭眩し,心胸安からず,久々にして黄を発し,穀疸となる。茵蔯蒿湯之を主る。」(金匱要略黄疸)この意味は「穀疸の病とは寒と熱とが部分的に内臓に加わったために胃腸の働きが悪くなり食べられず,強いて食べると穀熱英気が上に昇って来て頭ではめまいを起し,胸では心胸が穏やかならざる感じがし,そういう状態が結き,黄疸を起して来たものだ」ということである。(後略)

運用 2. 瘀熱
 非常に漠然としているが瘀熱ということをよく考えて運用すると案外な場合にも使えるもので,黄疸の有無には関しない。例えば蕁麻疹 発疹の赤味が鮮紅でなく,ややどす黒い感じがし,痒く,桃核承気湯とは色と便秘と脉緊の所は似ているが上衝足冷は著しからず,小便多くは赤きものに使う。
 口内炎,舌瘡,歯齦腫痛,眼目痛などで発赤,疼痛,時に出血のあるものに使う。山梔子の応用を考え,それに茵蔯蒿湯の瘀熱を併せ考えれば応用の理由が判るのである。子宮出血も山梔子を考え,瘀熱性出血と見て使うことがある。小便不利を浮腫の利尿に転じ,瘀熱性の浮腫に使うことができる。

運用 3. 神経症
 婦人寒熱,即ち寒くなったり,熱くなったりして食進まず,めまい,心胸安からざるもの。便秘し,眼が何となくどんよりと赤く黄色味がかって濁っているものに後世方の加味逍遙散などを使う場合と比較するがよい。自律神経不安声効,卵巣機能不全,ヒステリー,などと称せられるものに使う。


漢方の臨床〉 第1巻第2号
漢方医学薬方解説 奥田 謙三先生

(前略)
 本方証
 陽明病,頭に汗出て身に汗なく,小便不利にして渇し瘀熱裏に在りて黄を発す。(傷寒論,陽明病篇)
 傷寒,身黄みて橘子色の如く,小便利せず,腹微満す。(同上)

 略解
 此方は,準陽裏実に属し,熱邪と水邪とが裏に滞って発散せず,津液を燻蒸して上に逆すると見做すべく,其為に或は頭部のみ汗出で,或は頭眩し,或は口渇し,各腹の微満するに因て心胸部の苦悶を感じ,食欲は減退或は反って亢進し,黄疸を発し,或は種々なる出血傾向を現はし,尿不利若くは赤渋し,糞便硬く或は秘結し,脈は概ね沈にして稍や力ある等の証に用ふれば,能く尿を利し便を通じて其効を奏する。

 応用例
 (1)ワイル氏病で,熱があって既に黄疸を発し,皮膚及び粘膜に出血を認め,眼結膜は充血し,舌は乾燥して少しく黄苔を現はし,脾腫を触れ,腹微満して稍や力があり,尿は赤渋で蛋白があり,便通は秘結し,食慾なく,脈に力があって稍や沈なる者。
 (2)カタル性黄疸で,食思欠乏,噯気,悪心,口渇,頭痛,眩暈などがあり,黄色は鮮明で皮膚の瘙痒甚しく,肝臓稍や腫大して心下部少し膨満し,尿は濃黄色にして少量,糞便は臭気強く,色灰陶土様の観を呈し,脈沈遅にして力ある者。
 (3)腎盂炎で,弛張性の熱と之に伴ふ苦痛とがあり,腰痛甚しく,其痛は時々上腿に放散し,下腹部は膨満して稍や緊張を認め,尿意頻数と尿量減少とがあり,尿は溷濁濃度で蛋白があり,大便は秘し,脈は緊数で少しく浮の傾きを呈する者。
 (4)急性腎炎で,食慾不振,頭痛,嘔気,口渇,心動悸,血圧亢進などがあり,身体怠惰で疲労し易く,舌面乾燥し,心下部は少しく膨満し,顔面及び手足に浮腫があり,尿量減少して蛋白の量多く,下痢し易いが快通せず,脈沈細にして力ある者。
 (5)蕁麻疹で,全身に出没し瘙痒甚しく,掻けば煩熱に堪へ難く,上逆,頭痛,頭汗があり,口内の粘膜は紅潮し,舌面は乾燥して口渇があり,下腹部は微満し,尿量少なく,便秘の傾向で脈沈にして稍や力ある者。
 此他尚ほ溶血黄疸,胆管炎,胆嚢炎,急性黄色肝萎縮,発作性血色素尿,膀胱カタル,歯齦炎等にも亦本方証のものがある。以上は此方の大略である。


明解漢方処方 (1966年)』 西岡 一夫著 ナニワ社刊
茵蔯蒿湯(いんちんこうとう) (傷寒論、金匱)

 処方内容 茵蔯蒿六、〇 山梔子 大黄各二、〇 (一〇、〇)
 以上の割合で混合し一日六、〇を食前に分服する。
  必須目標 ①黄疸(茵蔯蒿湯に比べて軽度) ②口渇甚しい ③尿量減少 ④便秘せず ⑤頭汗なし


 必須目標 ①尿量減少 ②黄疸 ③腹部微満 ④便秘 ⑤緊脉 




 確認目標 ①頭汗 ②口渇 ③舌乾燥 ④皮膚瘙痒感 ⑤食慾不振 ⑥目眩(特に食後に甚しい) ⑦嘔吐感 ⑧浮腫 ⑨微熱

 初級メモ ①もし胃部や肋骨弓下部に圧痛感のあるときは大柴胡湯加茵蔯六、〇。もし便秘せず口渇と尿量減少の甚しいときは茵蔯五苓散を用いる。黄疸治療には先ずこの三方から選用すればよい。殊に本方の適応者が多い。
 ②黄疸の種類、原因などの解説には、薬局の漢方「黄疸」を参考にして頂きたい。(漢方の臨床9、9、52)

 中級メモ ①漢方で陽(熱)証の黄疸の原因は“裏に湿熱あり”の一言で説明されている。即ち湿熱とは裏位に熱邪があり、同時にその熱の発散を妨げている水の停滞が共存している状態を意味しており、裏熱×水滞=表位に発散しない熱(瘀熱という)=黄疸の発生。という算数式が成立する。故にこの式を分解して考えると、すぐ判るように裏熱があっても水滞のない時は黄疸は起こらない。
白虎湯などの場合)し、また水滞があっても裏熱が存在しなければ発黄は起こらない(苓桂朮甘湯などの場合)
 ②本方ばかりでなく漢方は水毒を重要視する。水毒は水の停滞によって起こる。患者に水滞があるかどうか、浮腫など外観ですぐそれと判明する場合は容易であるが、そんなことはむしろ例外で大部分の水滞は潜在性である。その潜在性の水滞の有無を診るコツは人体の三つの水分排泄路、即ち汗、尿、大便(漢方では呼気による水分排泄は余り重要視しない)の状態が、どうなっているかによって推察する。本方を例にとると、尿量は減少し、大便は便秘しており、汗は出ない(頭汗は検に水滞あるの好目標となる。頭汗は体表の汗と違い水滞を少しでも少なくするため、自衛反応として出している汗である)とすると三排泄路、すべて排泄不充分であり、当然水滞あることが想像される。そしてそれを確認するのが脉証の緊脉である。即ち緊脉は水分停滞の脉であり、もし表位に水滞あるときは浮緊(麻黄湯など)となり、裏位に水滞あるときは沈緊(苓桂朮甘湯など)となる。本方も必須目標には緊脉とだけあるが、これは裏の水滞ゆえ当然沈緊となる(実際にも沈緊が多い)筈である。が、ときには浮緊のこともあるので、ただ共通した緊脉とだけ記載してある。なお、その上、腹部の微満、目眩、浮腫などあればいよいよ水滞あるに確定されるのである。
 ③その上、舌苔が乾燥しておれば、裏熱のある証拠であり、口渇があれば、更に確定する。漢方の処方決定には以上のように患者の訴える症によって漢方病理を推測し、その病理がある上は、こうした症も出てくる筈だと検に問診し、処方を確定するのが理想的な決定方法である。
 ④頭汗は本方証の有力な目標で黄疸患者で頭汗あれば、その一症だけで本方を用いて良いほどであるが、残念なことにそれが先述のように水滞による自衛排泄で必現の症でないため必須目標には入れがたい。
 ⑤食毒には蕁麻疹に本方を使って卓効のあることかある。これを軽度の急性黄疸と想えば薬理が理解し易い。
 ⑥吉益南涯「裏病。瘀熱して水、腹にある者を治す。その症に曰く、小便不利、腹微満、これ水滞腹に在るの症。曰く頭眩、発黄、頭汗出、渇して水漿を引く、これ瘀熱の症なり。瘀熱は発熱せず、潮熱せず、身に熱なし」(方庸)

 適応証 単純性黄疸。血性肝炎。流行性肝炎。蕁麻疹。口内炎。脚気。

 文献 「茵蔯蒿湯と蕁麻疹」堀均(漢方と漢薬8、1,64)
 


(効能・効果)
【ツムラ】
尿量減少、やゝ便秘がちで比較的体力のあるものの次の諸症。

  • 黄疸、肝硬変症、ネフローゼ、じんましん、口内炎。

【コタロー】
咽喉がかわき、胸苦しく、便秘するもの、あるいは肝臓部に圧痛があって黄疸を発するもの。

  • ジンマ疹、口内炎、胆のう炎。

【一般用漢方製剤承認基準】
体力中等度以上で、口渇があり、尿量少なく、便秘するものの次の諸症:
じんましん、口内炎、湿疹・皮膚炎、皮膚のかゆみ

【重い副作用】
  • 肝臓の重い症状..だるい、食欲不振、吐き気、発熱、発疹、かゆみ、皮膚や白目が黄色くなる、尿が褐色。

【その他】
  • 胃の不快感、食欲不振、吐き気、吐く
  • 腹痛、下痢
商品名 製造販売元
発売元又は販売元
一日 製剤量
(g)
添加物 剤形 効能又は 効果 用法及び用量 茵蔯蒿(インチンコウ) 山梔子(サンシシ) 大黄(ダイオウ)
1 オースギ茵蔯蒿湯エキスG 大杉製薬 3.0 乳糖水和物、トウモロコシデンプン、ステアリン酸 マグネシウム 顆粒 口渇があり、尿量少なく、便秘するものの次の諸症: じんましん、口内炎 食前又は食間
2~3回
4.0 3.0 1.0
2 クラシエ茵蔯蒿湯エキス細粒
クラシエ製薬 クラシエ薬品
6.0 日局ステアリン酸マグネシウム、日局結晶セルロー ス、日局乳糖水和物、含水二酸化ケイ素 細粒 口渇があり、尿量少なく、便秘するものの次の諸症: じんましん、口内炎 食前又は食間
2~3回
4.0 3.0 1.0
3 コタロー茵蔯蒿湯エキスカプセル 小太郎漢方製薬 2.16 (6カプセル) カルメロースカルシウム、軽質無水ケイ酸、結晶セ ルロース、合成ケイ酸アルミニウム、ステアリン酸 マグネシウム、トウモロコシデンプン、ヒドロキシ プロピルスターチ、メタケイ酸アルミン酸マグネシ ウム、カプセル本体に青色1号、黄色5号、酸化チタ ン、ゼラチン、ラウリル硫酸ナトリウム カプセル 咽喉がかわき、胸苦しく、便秘するもの、あるいは肝臓部に圧 痛があって黄疸を発するもの。
ジンマ疹、口内炎、胆嚢炎。
食前又は食間
2~3回
4.0 3.0 1.0
4 コタロー茵蔯蒿湯エキス細粒 小太郎漢方製薬 6.0 ステアリン酸マグネシウム、トウモロコシデンプ ン、乳糖水和物、プルラン、メタケイ酸アルミン酸 マグネシウム 細粒 口渇があり、尿量少なく、便秘するものの次の諸症: じんましん、口内炎 食前又は食間
2~3回
4.0 3.0 1.0
5 ツムラ茵蔯蒿湯エキス顆粒(医療用) ツムラ 7.5 日局ステアリン酸マグネシウム、日局乳糖水和物 顆粒 尿量減少、やゝ便秘がちで比較的体力のあるものの次の諸症: 黄疸、肝硬変症、ネフローゼ、じんましん、口内炎 食前又は食間
2~3回
4.0 3.0 1.0
6 テイコク茵蔯蒿湯エキス顆粒
帝國漢方製薬 日医工
7.5 乳糖水和物、結晶セルロース、ステアリン酸マグネ シウム 顆粒 口渇があり、尿量少なく、便秘するものの次の諸症: じんましん、口内炎 食前
3回
6.0 2.0 2.0