乙字湯(おつじとう)は、痔疾(じしつ)に効果がある漢方薬として良く知られています。乙というからには、甲字湯や丙字湯はあるのでしょうか?
答えは………
あります。
『叢桂亭医事小言』(そうけいていいじしょうげん)という江戸時代後期に著された書物の中に、
甲字湯、乙字湯、丙字湯、丁字湯があります。
甲字湯(こうじとう)は、桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)に生姜(しょうきょう)と甘草(かんぞう)を加えた薬方です。
いわゆる210処方に含まれており、一般用薬としても販売されています。
乙字湯(おつじとう)は、現在主として使われるものは、浅田宗伯の創作した薬方で、
当帰(とうき)、 柴胡(さいこ)、黄芩(おうごん)、当帰(とうき)、升麻(しょうま)、大黄(だいおう)、甘草(かんぞう)からなりますが、『叢桂亭医事小言』に記載の乙字湯は、
柴胡(さいこ)、黄芩(おうごん)各七分、升麻(しょうま)、大黄(だいおう)各四分、甘草(かんぞう)三分、大棗(たいそう)四分、生姜(しょうきょう)二分となっていて、
当帰(とうき)が含まれておらず、大棗(たいそう)と生姜(しょうきょう)が含まれています。
当帰には滋潤、鎮痛、駆瘀血作用がありますので、痔核に用いるには、
浅田宗伯の薬方が優れているように思われます。
大塚敬節は、乙字湯より大黄を去り、桃仁(とうにん)、牡丹皮(ぼたんぴ)、魚腥草(ぎょせいそう:どくだみ)を加えて用いると記しています。
丙字湯は、甘草(かんぞう)六分、梔子(しし)四分、沢瀉(たくしゃ)二分、当帰(とうき)、地黄(じおう)、滑石(かっせき)、黄芩(おうごん)各五分
からなり、「諸淋を治する方」となっています。
丁字湯は、牡蛎(ぼれい)一銭六分、茯苓(ぶくりょう)一銭二分、呉茱萸(ごしゅゆ)八分、橘皮(きっぴ)四分、朮(じゅつ)、枳実(きじつ)各六分、甘草(かんぞう)、生姜(しょうきょう)各二分、人参(にんじん)三分からなる薬方です。
十干(じっかん)は、甲乙丙丁戊己庚辛壬癸です。
上記のように甲乙丙丁はありますが、残りの十干の○字湯は、不明です。