健康情報: 分心気飲(ぶんしんきいん)とは 効能 と 副作用

2009年4月11日土曜日

分心気飲(ぶんしんきいん)とは 効能 と 副作用

分心気飲(ぶんしんきいん)は、和剤局方に収載されている漢方薬方で、
「気の鬱するの、心遣いするの、退屈するの、肝積起こすの、思案するのといって、
心は一処に凝るものぞ、その凝り聚るのを、さらりと捌きをつけて、
引き分けてしまうのが、此の方なり」と記載されています。
『和剤局方』(わざいきょくほう)とは、大観年間(1107年 - 1110年)に国家機関の関与のもと中国にて発行された医薬品の処方集の名称です。又、日本では、その後の増補版である1151年発行の『太平恵民和剤局方』(たいへいけいみんわざいきょくほう)を指す場合もあります。これは、享保17年(1732年)当時の“和剤局方”である『太平恵民和剤局方』をもとに、江戸幕府が今大路親顕らに校刻させたものを官本として刊行したためであると言われています。

分心気飲(ぶんしんきいん)について調べてみました。

『和漢薬方意辞典』 中村 謙介著 緑書房刊
分心気飲(ぶんしんきいん) 出典 和剤局方(わざいきょくほう)
【方意】
上焦の気滞による抑鬱気分(よくうつきぶん)・心胸痞悶(しんきょうひもん)・希死念慮と脾胃の水毒による心下痞硬・食欲不振・悪心・嘔吐等のあるもの。《太陰病.虚証》

【自他覚症状の病態分類】

上焦の気滞 脾胃の水毒

主証 ◎抑鬱気分
◎心胸痞悶
◎希死念慮
◎心下痞硬
◎食欲不振
◎悪心
◎嘔吐


客証  自責感
 胸肋虚脹
 頭冒 目眩
 四肢倦怠
 便秘
 噯気 呑酸
 上腹部振水音
 浮腫


【脈候】(空白)
【舌候】(空白)
【腹候】心下痞硬(しんかひこう)があり、上腹部に振水音を認める。
【病位・虚実】上焦は少陽の部位であるが、気滞は沈滞傾向を示し陰証であり、脾胃の毒も陰証で太陰病に相明する。虚証である。
【構成生薬】桂枝1.5 芍薬1.5 木通1.5 半夏1.5 甘草1.5 大棗1.5 燈心草1.5 桑白皮2.0 青皮2.0 陳皮2.0 大腹皮2.0 羗活2.0 茯苓2.0 蘇葉2.0 生姜1.0
【方解】本方は気滞が原因となって脾胃の水毒を発生した病態に用いる。青皮・陳皮・葉は気滞に対応し、桂枝・羗活は気をめぐらせてこれを助ける。木通・燈心草・茯苓・夏・桑白皮は水毒を去る。大腹皮は健胃・利水作用、芍薬は血をめぐらせて鎮痛する。棗・生姜は本方を穏やかにし、甘草は諸薬を調和する。
【方意の幅および応用】
A.上焦の気滞+脾胃の水毒:抑鬱気分・心胸痞悶・心下痞硬・食欲不振等を目標にする  鬱病、神経症、不食症、自律神経失調症、浮腫、妊娠咳嗽、乳房痛、腹膜炎

【参考】*此の方は心胸間の鬱気を分け開く方剤の意を以って分心気飲と名づけられた即ち胸膈に気鬱結すれば水も亦従って停滞する。これを分解して水道より順下せしめるがある。胃虚の傾向があり、心下痞硬し、心下胃中に水を蓄え、上って胸中に波及し、症を発するものによい。

【症例】妊娠咳嗽2例
 「本郷真砂町栗原彌四郎妻、行年40余、妊娠7ヵ月、悪寒胸滿、短気咳嗽、大便秘結小便不利、渇して冷水を引く。其脈沈緊、食に味なく、四肢倦怠、気宇舒暢せず。而し咳嗽日に甚だしく、小便利せず一身腫を発す。即ち小青竜加石膏を与うるに効なし。因分心気飲を投ずるに大に効あり、5日を出でずして其症全く癒ゆ。此婦分娩後、乳房腫して痛む。十全流気飲を与え効なし。乃ち更に分心気飲を投ずるに腫痛霍然として去る。 本郷1局目鍛冶職金田伊三郎妻、年41、妊娠7ヵ月咳嗽を患い、夜に至れば殊に甚し。大便堅くして時々下血す。小便頻数、頭肩背膂倶に疼痛、右膝亦痛む。口苦く食になく、舌微苔。表に熱なく両脚酸疼而重く、脈沈緊数。其咳たる乾咳に属す。臥せば即喘鳴、余以て外邪痰飲を兼ねたるの症と治し小青竜加石膏を始めとし、諸方を用ゆるにだに効なきのみならず、其咳益甚だしく、胸満して痛み、其声嗄す。因て之を友人に談るに友人以て不治となす。是に於て一夜熟考し、乃ち分心気飲3貼を与うるに其夜咳嗽分を減ず、翌日に至り止む、隨て諸症去る。而して胎気安静ならず、故に紫蘇和気飲にじ、服すること4日にして休薬す。」 山田業精『温知医談』38号

気鬱3例
 「1婦離男憂悲日あり、頃日食せず、或は食するときは必ずこれを吐し、体倦み微熱す他医補気養血の剤を投じて反て増劇す。予に治を求む。分心気飲に香附子山梔子を加え18、9貼にて癒ゆること、十に七、八なり。後調理して全く癒ゆ。」
 「1男子20計り、謹読の士なり。去秋以来通夜寝られず、五心煩熱し、頭鬱冒し盗して飲食進まず、或は洒々として悪寒し咳嗽す。上症當春2月に及んで癒えず。一医謂く之れ陰虚火動なり、治するに清離滋坎湯を用ゆること十余日にして反て増劇す。予に治求む、分心気飲を用ゆること数貼にして大効を得たり、上件の諸症は気鬱なり」
 「気鬱に外邪を挟んで、咳嗽発熱などあって、労瘵の如く病むことあり。一男子189なり。去春より、微咳吐痰し、或は汗あり、胸膈痞悶し、時に疼痛し、口舌乾き、不して夜安眠することなし。他療効なし。予に治を求む。これを診するに沈清なり。分心飲を用て奇効を得たり。此は俗子滋陰降火湯の症と見る也。大に誤り也。」『和漢纂言方』
気鬱による精神錯乱 「攝州一婦、平素姑に得られず、鬱を懐くこと日久し。仲春親とし、数々失礼有り、姑に教訓せらる。其夜安臥すること能わず、次日に至て口に無倫のを出し、目、親疏を弁ずること能わず。蓋し鬱を抱いて失心風を兼たる症也。法当さにづ其虚を補うべし。直指方分心気飲を用い、三十貼にして其症始めて平復。帰脾湯を用い半夏陳皮を加えて安し」『医方口訣集』


【参考】
※舒暢:心をのびのびさせる
※気宇:物事に対する心のもち方。気がまえ。
※念慮: あれこれと思いめぐらすこと。また、その思い。思慮。
※希死念慮:死にたいと願うことです。
ただし、自殺願望とは、違うのは、客観的に理解できない理由で死にたいと願うことです幻聴があって死ねと言われているからとか、ただ死にたいとか。死という言葉が、頭にかんで離れないとか。精神の障害があって正常な判断ができない場合に、死にたいと願ときにこの言葉を使います。
※【霍然】カクゼン:{霍焉(カクエン)}
①ぱっと消えうせるさま。ぱっと飛びたつさま。
②はやいさま。にわかに。
※背膂(ハイリョ):背骨
※酸疼:(体が)だるくて痛い((からだが)だるくていたい)
※臥す(ふす):うつぶせになる。また、転じて、ふせて寝る。
※嗄:かれる(かる)。声がかれる。かすれる。「嗄声(サセイ)(しわがれ声)」
※頃日(けいじつ):このごろ。近ごろ。頃来(ケイライ)。頃者(ケイシャ)。〔副詞的にも使う
※倦む(うむ):
1.{動詞}つかれる(つかる)。ぐったりする。《同義語》⇒渇(ケン)。《類義語》疲「疲倦(ヒケン)」
2.{動詞}うむ。ぐったりしてだれる。ものうくなる。《同義語》惓。《類義語》怠。
※五心煩熱
・五心が火照る症状である。五心とは手のひらが二つで二心、足の裏が二つで二心、あ一つの心は顔である。手のひらは「たなごころ」といい、掌と書く。掌は「手の心」の味がある。
・全身の煩わしい熱のことです。
・両側の手のひら・足の裏および胸中に熱感があること。
主として陰虚火旺あるいは病後の余熱未清でみられ、治法は滋陰退熱・清熱養陰・清肝脾など。実火内欝で生じることもあり、治法は散火解欝。
※労瘵(ろうさい):肺結核

※和漢纂言方(わかんさんげんほう)?
『和漢纂言要方』は、下津春抱一著  正徳2年序刊

※清離滋坎湯
《万病回春》《古今方彙》
「生地黄・熟地黄・天門冬・当帰・山薬・白芍薬(酒)・白茯苓・山茱萸・白朮・黄柏(炒)・知母・沢瀉・牡丹皮・甘草(炙)・生姜、大棗」水煎。
※攝州(摂州):摂津国(せっつのくに)のこと。領域は現在の、大阪府の大阪市(鶴見区生野区、平野区、東住吉区各区の一部を除く)と堺市(堺区と北区の一部)、北摂地域(槻市と豊能町の一部を除く)、兵庫県の阪神地域と神戸市の須磨区以東(東灘区、灘区中央区、兵庫区、長田区、淡河町を除く北区、名谷団地および総合運動公園を除く須磨区)※懐く(なつく)
※倫:み{名詞}すじみち。きちんと整った順序。「倫序」「言中倫=言倫に中たる」〔語・微子〕
※親疏(しんそ)⇒親疎
したしいことと、うといこと。また、したしい人と、間がらの遠い人。
※医方口訣集
土佐道寿 編集
http://archive.wul.waseda.ac.jp/kosho/ya09/ya09_00536/ya09_00536_0002/ya09_00536_0002.pdfp10


『漢方医学大辞典』 2 薬方篇 p.87
分心気飲(ぶんしんきいん)
「大平恵民和剤局方」巻三の方。
①木香・炒桑白皮・炮大腹子・炒桔梗・麦門冬(芯を除く)・草果仁・炙大腹皮・厚朴(粗皮を除き、生姜の汁で製する)・白朮・人参各0.5両、丁香皮・炙甘草各1両、炒香附・紫蘇葉・陳皮(白みを除く)・藿香各1.5両。粗末にして、毎回2銭に生姜3切れ、大棗1個、燈心10茎を加えて水で煎服。気滞胸満、心胸痞悶、脇肋虚脹、噎塞不通、噫気呑酸、嘔逆悪心、頭目昏迷、四肢倦怠、面色萎黄、口苦舌乾、飲食減少、日漸消痩、あるいは大便虚秘等症、及び病後に胸膈虚痞、不思飲食の症を治す。
②木通・赤芍薬・赤茯苓・肉桂(粗皮を除く)・半夏(湯で洗う)・炒桑白皮・大腹皮・陳皮(はらわたを除く)・青皮(白みを除く)・炙甘草・羌活各1両、蘇葉4両。粗末にして、毎回3銭に生姜3切れ、大棗2個、燈心5茎を加えて水で煎服。治証は上に同じ。

『漢方一貫堂の世界 -日本後世派の潮流』 松本克彦著 自然社刊
理気について
分心気飲
理気剤とは
 研究所に時々遊びに来られる小児科の先生が、「我々には気剤というと何かトランキライザーのような気がして、半夏厚朴湯もなかなか喘息の治療とはよく結びつかない」と言っておられたが、確かに気というのは難しい概念である。「気の概念のない西洋医学はつまらない」と言った中医師があるとのことで、漢方でいう気、或いは中国人が言う気とは、我々が日常使う「気が滅入る」、「気が進まない」等より、やや広いしかもある実体をもった何かを指しているようだが、さて説明しようとするとなかなか表現できない。
 どうしたらよいかと考えあぐね、ふと浅井貞庵の『方彙口訣』を開いてみたところ、昔の人は誠にうまく説明しているので、以下これを借りて読者の御理解を得たいと思う。
 「この気という字が甚だのみこみ難きことなれば、これをとくと悟らねばならぬ。一体が人間の一身というものは、血・気の属とありて、血と気の二つよりほかはなきぞ。・・・・・・・・病のできるもこの二つ、生きておるのもこの二つなり。」
 昔の人にもやはり気という言葉は分りにくかったとみえるが、生命体の基本として、気という概念は血とともに不可欠なもののようである。そして、「七情の気にくるい過不及ができると、その通う路にむらができる。」として疾患はまず精神的な気の乱れがその出発点であるとしている。そしてこれは、心身医学という言葉通り、さまざまな身体機能と直結しているのである。
 「気というものが種々ありて、内経にいう頭気、胸気、腹気、脛気あり。呼吸すると気息の気あり、うんと腹努うとすると、腹へ脹る気あり、足を踏みこたえ腰へ努うとすると腰足の気あり、気を下へ努うとすると放屁になる気あり、小便中に止めようとすれば小便を止める気あり、胃気の逆して噫びになる気あり、面部へ逆上すれば面の赤くなる気あり。」即ちこのような広範な身体活動は、すべて気の働きとされるのである。それならどんな病気でもすべて気のせいにして、気剤を与えればよいかのように思えるが、そうでもないようである。
 「もし如何様な病にても、気の関らぬ病はなきといえども、余り手広く無辺としては、病の曲輸に境が立たざるぞ。左様な訳ではなきぞ、気と名指すべき一筋のことあれば、それは分心気飲の類、七八方の条にて会得すべきぞ。それ故只今にても気剤という薬ありて、順気、降気、調気、理気、下気、補気、利気の手段工夫することなり。」
 ということになる。
 しかし大きく分けて気剤は補気剤と理気剤との二つに分けられように思われ、人参・黄耆を主とする補気、益気の方剤の代表を医王湯即ち補中益気湯とするならば、我々は理気剤の代表としてここにあげた分心気飲を常用しているのである。
 さて補気、補血というと、これはら直にち補剤、補法に結びつくが、理気、理血の方は気実血実である気滞や瘀血に用いられるにしても、直ちに瀉法といった強い感じは与えない。もともと理という文字には筋道をつけて整えるといった意味合いがあるようで、これば破気、破血となるとやや強い意味合いが含まれてくる。


方名と方意
 まずこの分心気飲という名前について『方彙口訣』では、
「気の鬱するの、心遺いするの、退屈するの、肝積起すの、思案するのといいて、心は一処へ凝るものぞ。その凝り聚るのを、さらりと捌きをつけて挽き分けてしまうのがこの方なり」と説明し、さらに、
「気が一処に凝り滞れば、また一処には気の至らぬ届かぬ処ができる。一方に凝り聚れば一方は脱けて去る処ができる。・・・・・・その凝るところが、その人、その質によりて、或は頭面、或は胸腹、或は手或は足というように、その処へ鬱し潴る。潴るとはやむらになる。この胸の痞え、脇の脹り、頭目の昏み、眩いする、みな上焦へ凝り聚りたるぞ。すると四肢倦怠となる。上へ逆すると手足は脱けてくる・・・・・・」
とその主治を解説している。
 この処方は『局方』、正確には宋の勅撰方剤集である『太平恵民和剤局方』に集録されているが、実はこの書の巻の三「一切の気を治する」の篇には同名の処方が二つあり、一つは「宝慶新増方」中に、今一つは「新添諸局経験秘方」中にある。我々が現在一般に用いているのは、後の方の処方であるが、「治証前の分心気飲と同じ」となっているのて、薬味構成は違っていても、ほぼ同じ方意をもっていると考えてよいであろう。
 即ち、
「男子、婦人、一切の気和せざるを治す。多くは憂愁思慮、怒気傷神、或は食に臨んで憂戚し(憂い、悩む)、或はこと意に随はざるに因り、鬱抑の気、留滞して散ぜざらしめ、胸膈の間に停まり、流暢する能はず、心胸痞悶して、脇肋虚脹し、噎塞して通ぜず、噫気、呑酸、嘔噦悪心、頭目昏眩、四肢倦怠し、面色は萎黄にて、口苦舌乾して、飲食は減少し、日漸みて羸痩を致す、或は大腸虚秘し、或は病の後に因り、胸膈虚痞し、飲食を思わざる、併せて皆これを治す」とある。

処方構成
 「木通・赤芍薬・赤茯苓・肉桂・半夏・桑白皮・大腹皮・陳皮・青皮・甘草炙・羗活各一両 紫蘇一両、右粗末と為し、毎三銭を服す、水一盞に生姜三片、棗二ヶ灯心五茎と同煎し、七分に至り、滓を去りて温服す、時候に拘らず常に服すれば、滞気を消化し、陰陽は升降し、三焦調順して脾は和し、食を進む」
となっているが、現在一般に生姜・大棗・灯心草を加えて処方する場合が多いようなので、まとめて構成を考えてみたい。
 しかし、薬味数が多く、一つずつにすると却って複雑になるため、薬味の量は別に措いて、このつい肉桂・赤芍薬・甘草・生姜・大棗を桂枝湯として、また、茯苓・半夏・陳皮を二陳湯としてまとめ、この両者の合方に気剤、利水剤を加えたものと考えると分りやすくなる。
 さて桂枝湯は『傷寒論』の最初に出てくる方剤で、
「桂枝三両、芍薬三両、甘草炙る二両、生姜片に切る三両、大棗十二枚(個)擘く」
となっており、現代中医学の解説によると、
「桂枝は発汗解肌、白芍は斂陰和営で、一方は散じ、一方は収め、表を解し、同時に裏を和して営衛を調和させる。この二薬を基本に、生姜は桂枝を助けて表邪を辛散し、大棗は桂枝と芍薬を助けて営血を和すので、効果は一層強められる。甘草は諸薬の調和薬で、全体として発汗解肌、営衛調和の方剤である。」
とされ、二組の表裏補瀉の剤の組み合せよりなる見事なシンメトリッシュな構成で、あらゆる方剤の基本といわれるのも当然であろう。
 桂枝・生姜・・・・・・・・・発汗解肌(表)
 芍薬・大棗・・・・・・・・・斂陰和衛(裏)
 甘草・・・・・・・・・・・・・・・諸薬調和

また二陳湯は『和剤局方』に収載されており、内容は、
「半夏・橘紅(陳皮)各五両、茯苓三両、炙甘草二両五銭」
と単純な処方で、半夏と橘紅は陳い方がよいとのことでこう名付けられたとのことであるが、
「半夏は燥湿化痰、降逆止嘔、陳皮は理気化痰、燥湿健脾、茯苓は健脾滲湿、甘草は和中健脾。」
 で、全体として燥湿化痰についての基本方剤とされている。
 次に桑白皮と大腹皮について考えてみると、桑白皮は帰経は肺で効能は瀉肺平喘、行水消腫、大腹皮は帰経は脾・胃・大小腸で行気寛中、利水消腫となっており、いずれも行気、消腫利水薬ではあっても、作用点について上下の違いがある。またこの両者に方剤中の赤茯苓(茯苓皮)・生姜(皮)・陳皮を合わせると、『中蔵経』にある利水消腫の五皮飲(散)となり、これらの三方の方意が本剤成立の基礎となっていると思われる。
 これにさらに袪風湿解表の羗活と、行気寛中解表の蘇葉という二つの解表薬を配しているが、前者は太陽経即ち背側、後者は太陰経で腹側の違いがある。勿論この時代に帰経の考えはまだはっきりとは完成されてはいなかったであろうが、これらの処方構成をみると、或る程度の経別、蔵腑別の薬効の違いは考えられていたような気がする。
 一方、木通と灯心草であるが、この両者は細管のあるものはよく水を通じるという訳か、降火利水、清熱利水というよく似た効能をもち、これまでのような対象的な組み合せはみられない。その為か、以前中島先生に「灯心草はやはりお使いですか」とお伺いしたところ、「いや抜いています」とのお返事で、特に抜くと方意が変わるという程のものでもないようである。
 さて残るは青皮であるが、青皮は柑橘類の未熟な果実、陳皮はその感熟果皮で古くなったものがよいとされ、前者の性は猛々しく、疏肝破気、消積化滞の効があり、後者の性は緩やかで健脾行気、燥湿化痰の作用があるとされている。この違いはシネフリンの含有量でほぼ説明できるそうであるが、ミカンの青い果実と熟した実との薬効の差は、わざわざシネフリンをもち出すまでもなく、素朴に考えてもなにか違いがあるように思われる。しかし現在日本の市場でこの両者さらには同じく甘橘類の果皮である橘皮や枳実・枳殻も含めて、どれだけ区別されているかは疑問である。
 それはさておき陳皮・青皮を組み合わせた処方は他にもあり、求楽紙応e、肝脾不和、脇肋疼痛、胃脘脹痛等の場合は、青皮・陳皮の両薬を合わせて配合するのがよいとなっており、この場合もこの考えが当てはまるように思われる。
 このように分解し今一度全体の処方構成を考えてみると、結局は桂枝湯を中心に、表は羗活・蘇葉を加えて発散作用を強め、裏は二陳湯に、大腹皮・桑白皮・青皮を加えて行気利水に重点をおき、最後に木通或は灯心草で小便に出そうとするのがこの処方である。
 桂枝湯――営衛調和・発汗解肌 羗活・蘇
 羗活・蘇葉――燥湿化痰・理気和中
 桑白皮・大腹皮・青皮――行気寛中利水
 木通・灯心草――清熱利水
 この処方を、中島先生は「防風通聖散の虚証に対するものとして使つ言ている」と言われているが、発表攻裏の方といわれる防風通聖散が、主に大便に下そうとするのに対し、本方はやや緩和な薬味を用いて、小便に利そうとする違いがあるようである。

臨床での運用
 さて、前述のように細かく説明してくると、何となく分かったような気になるが、いざ患者に向いあった時、何をどう使ったらよいか分らなくなるのが漢方の常である。このことについても、また中島先生がうまく説明しておられる。
 「あまり訴えが多くて、何が何だか証が分らないような時には、まず迷わずこの心分気飲を出すと宜しい。そのうちだ喜だんと訴えが固まってきて、証が立てられるようになる。」そして「インテリにはこの方がよく合うようで、永い間この方ばかり飲んでいる医者がいる。」とのことで、私も患者に会うのがいやになったという医師に、この方を用いてみて良効を得たことがあり、あっさりとして飲みやすく、いわゆる不定愁訴症候群とか、軽度の神経症に対して欠かすことのできない方剤である。
 先日我々の研究所に見学に来られた医故会の先生方から、分心気飲というのをよく使っているようだが、健保にあるものでは何を使ったらよいかと尋ねられ、苦しまぎれに苓桂朮甘湯半夏厚朴湯を合わせたようなものですと答えたところ、数日後にあれから早速二つを合方して使ってみたが、非常に評判がよく便利にしていますと言われ、赤面したことがある。
 私は両者の合方を使ったことはあまりないが、水逆、気逆に対する両方に、さらに痰飲・水腫を除く五苓散を加えれば、本方の方意にやや近づくかもしれない。
 また、最近、茯苓飲合半夏厚朴湯というエキス剤が出されたが、作用点はやや下ながらも本方と同系統の方意をもつものといえよう。
 以前、左右の眼が一ヵ月位の周期で、交互にいびつに見える程突出し、一応鞏膜炎と言われているが数年間ステロイド剤が離せないという患者さんが来られ、いろいろ清熱剤を使ってみたがさっぱり反応がなく、ふと「喘咳、気逆して、目脱せんと欲す」という言葉を思い出し、分心気飲を使ってみたところ、ステロイド剤が大幅に減って、喜ばれたことがある。
 これ程でなくても、朝起きると瞼が腫れる、顔がむくむ、手が握りにくいといった症状をもつ患者はよく見られ、これに軽いアレルギー性鼻炎や喘息の気があり、あれこれと訴えが多いとなると、まず本方の適応となるが、時には面疱その他頭面部の炎症に、清熱剤と組合せて用いて効果的な場合もある。
 但しこの方は単にこれら上焦の諸症状のみに対するものでなく、中・下焦に対しても満遍なく薬が配合されていることが特長で、腹部膨満感から軽い便秘症まで改善されることがあり、前にあげた局方の条文にもあるように、常に服すれば滞気は除かれ三焦は調和し、食が進むようになるのである。

その他の理気剤
 最近の中国の方剤書には比較的理気剤の種類は少なく、却って日本の古医書に種々の理気剤があげられているように思われる。
 この原因について理気剤は、一般に燥湿・利水の性質を具えているため、乾燥地帯が多く、燥性を警戒する中国と、気候が湿潤で湿症のの多い日本との風土の違いによるものか、或いは民族性・社会性の違いか、それとも日本の漢方に滋陰の考え方が充分入りきっていないせいなのかはよく分らない。
  しかし、これまで我々が使ってみてよいと思われる代表的な理気の方剤を、分心気飲と比較のもとにいくつか紹介したい。

 三和散(和剤局方)
 沈香・蘇葉・大腹皮・木香・檳榔・木瓜・川芎・生姜・甘草
 同じく『和剤局方』にあげられ、「五臓調わず、三焦和せず、心腹痞悶し、胸肋慎脹し・・・・・・・・腸胃燥渋し、大便秘難するを治す」となっており、分心気飲に比して利水薬が少ない代りに、中下焦に対する気薬と補薬が加えられている。そのため腹部症状が主な場合、例えば消化器系が弱く、下痢と便秘をくり返すとか、体が弱くて便秘でも下剤はあまり使用したくないような場合によく用いている。

 九味檳榔湯(浅田方函)
 檳榔・厚朴・桂枝・橘皮・生姜・大黄・木香・甘草・蘇葉
 『浅田方函』に「脚気腫満、短気及び心腹痞積して気血凝滞する者を治す」とあり、破気の作用のある檳榔を主薬として、一連の気剤に大黄を加えた構成である。これについては、すでに坂口弘先生を中心に甲状腺機能亢進症等の症例報告も多く発表されているが、分心気飲に比して、破気降気の作用はやや強いように思われ、また大黄によってかなり頑固な便秘にも対処し得る便利さがあるが、利水剤がないため、坂口先生も使用に当ってはよく茯苓等を加味しておられるようである。

 木香順気散(医薬統旨)
 木香・香附子・枳殻・檳榔・青皮・陳皮・厚朴・蒼朮・砂仁・甘草
 主治は「気滞し腹痛み且つ脹り矢気を得れば則ち減ず、或は噯噫嘔逆」となっており、最近中国の方剤学の本によく見られる。これとまぎらわしい名前に、羅天益の木香順気湯というのもあり、また木香調気散という処方もあるようである。
 この方から檳榔を除き、四苓湯を加えると『万病回春』の分消湯となるが、水腫・腹水まで至らず、ただ腹部がよく腫るという訴えは、慢性肝炎等でもよく見られ、この方剤が効果的なことがある。分消湯については、また改めて紹介したい。

 五磨飲(医方集解)
 木香・烏薬・檳榔・沈香・枳実
 『医方集解』に厳氏の四磨湯から人参を去り、枳実、木香を加え白酒にて磨し服す、五磨飲子と名づく、暴怒して卒死するを治す」となっている。これにさらに大黄を加えたものが『証治準縄』の六磨湯で、「怒れば気は上り上逆した気は胸膈を壅塞し、甚しければ清竅(五官)はこれがため閉塞す」と説明がある。我々の研究所では白酒による磨沸まではせず、粉末にしておいて時々屯服として用いているが、一時的に血圧が一八〇位に上り、針でどうしてもおさまらなかった患者が、この方を服した後一〇分位で一四〇迄下り気分も落着いて喜んで帰宅したことがある。しかし粉末にしてあまり長期間置くと一般に理気薬は蒸散しやすいため、効果は減るかも知れない。

 以上理気剤について、思いつくまま述べてきたが:気という概念はきわめて多彩でつかみにくい代りに、うまく使えば非常に広い利用価値がある。さまざまな疾患に応用することができるが:心身医学が問題になっている今日、向精神薬や時に針炙との併用を含めて、まだまだ今後研許が必要だと思われる。しかし最後に使用に当っての注意を、やはり『方彙口訣』から借りておこう。
 「陰血、津液、腎精の不足という症は、この気門では療治できぬぞ、それ故虚労の症にて六味丸で陰を補はねばならぬという時に、この方の中を用いると愈よ火が盛んになり燥いて死するようになる、さすればこの門の薬方は幅広く使うことなれども、虚労がちの精血不足の症には用いられざるぞ、このことはよくよく心得置くべきことぞ。」



※方彙口訣(ほういくけつ):浅井貞庵(あさいていあん)著 江戸時代
※中蔵経:華佗著となっているが、仮託とされる。
※甘橘類?:柑橘類の誤植と思われる。
※鞏膜炎(きょうまくえん、強膜炎): 強膜の炎症。強膜前面に充血・疼痛(とうつう)・膨隆などを起こす。結核・リューマチ・膠原(こうげん)病などが原因。
※鞏膜(強膜):眼球の外壁の後方大部分を形成し、前方で角膜につながる白色の丈夫な膜。膠原(こうげん)繊維と弾性繊維に富む。
※『済生方』:厳氏済生方 厳用和著 宝祐元年(一二五三)
  別に、『厳氏済生続方』もある。 咸淳三年(一二六七)
※羅天益(1220~1290年),字謙甫,元代醫家。
東垣は晩年になって、その道を後世に伝える弟子を友人の周徳父に相談したところ、羅天益を紹介された。そして天益は貧苦にもかまわず、東垣に就いて喜び3年学んだ。
東垣の著作は没後、羅天益の尽力で刊行されていった。
『内外傷弁惑論』(1247)、『脾胃論』(1249)、『医学発明」 (1249頃)、『蘭室秘蔵』(1251)、また天益が編纂した『東垣試効方』(1266)、引用文のみ残る『傷寒会要』(1238)、『用薬法象』 (1251前)。
 ※針炙?:針灸の誤りと思われる。

※四磨湯(しまとう)
  人参、檳榔、沈香、烏薬
  行気降逆、寛胸散結
  七情諸傷、肝気鬱結。胸膈煩悶、上気喘急、心下痞満、食欲不振

※六磨湯(ろくまとう)
  沈香、木香、檳榔子、烏薬、枳実、大黄、当帰、生地黄
  腹痛、腹部膨満、便秘、便が硬い、残便感がある、浯気、時に便秘と下痢の交代。舌質は淡紅、あるいはやや紫色、舌苔は薄黄、脈は弦。
  (四逆散半夏厚朴湯で代用?)


『病名漢方治療の実際-山本巌の漢方医学と構造主義』 坂東正造著 メディカルユーコン刊
◆分心気飲加減「中島紀一経験方」
 <組成> 桂枝、羗活、独活、紫蘇葉、藿香、厚朴、香附子、枳実、陳皮、大腹皮、檳榔子、茯苓、灯心草、木通、半夏、前胡、桑白皮、生姜、芍薬、当帰、大棗、甘草
<構造>
①紫蘇葉、香附子、藿香……抗うつ作用。
②檳榔子、枳実、厚朴、芍薬、甘草……平滑筋の運動機能の異常を調整しジスキネジーを治す。 ③半夏、前胡、桑白皮、厚朴、陳皮、茯苓、桔梗……鎮咳去痰作用。心因性咳嗽を治す。
④大腹皮、檳榔子、茯苓、灯心草、木通……利水作用。浮腫を治す。
⑤桂枝、芍薬、生姜、大棗、甘草、厚朴、陳皮……鎮痙鎮痛作用。
 本方は、基本に広範な理気薬を配合し、更に病態の変化に対応する加減法を加えて用いれば、気剤の総司として用いることができる。つまり、香蘇散(正気天香湯)、半夏厚朴湯、平胃散(不換金正気散および藿香正気散)、三和散五積散、六欝湯、桂枝加芍薬湯、四逆散などの方意を含んでいる。そのため、次のような疾患に応用される。
a)上部消化管機能異常症候群 食道痙攣、噴門痙攣、食道低緊張、空気嚥下症、高緊張胃、逆流性食道炎、幽門および前庭部の痙攣、十二指腸からの逆流現象、幽門脱、胃アトニー等。
b)胆嚢、胆道の機能異常……胆道ジスキネジー。
c)過敏性腸症候群。
d)呼吸困難……心因性咳嗽。
e)下部尿路の機能異常……尿管ジスキネジー。
f)子宮の痙攣。
本方は、一般に気うつ、不安、緊張感、怒り、精神的葛藤などによって起こる心因性の機能障害の改善に用いられる。

※中島紀一(中島随象):一貫堂 矢数格氏の弟子。神戸かんぽう会名誉会長 神戸・長田
昭和60年6月9日没(享年87歳) 医師中島紀一氏の第子としては、山本巌氏や松本克彦氏がいる。


【一般用漢方製剤承認基準】
なし
【参考】
潤勝散(じゅんしょうさん) 株式会社建林松鶴堂
薬味:人参 半夏 生姜 桂皮 柴胡 甘草 黄芩 茯苓 桑白皮 大棗 木香 良姜 紫蘇子
小柴胡湯合分心気飲去芍薬 木通 灯心草 青皮 陳皮 大腹皮 羗活 加 木香 良姜
(紫蘇葉と紫蘇子の違いもある)

又は、
小柴胡湯合良枳湯去枳実加木香桑白皮紫蘇子

効能・効果
胆石、胆のう炎の疼痛、胃腸痛、消化不良、食欲増進、腫気※)、肝臓病
※)「腫気(しゅき)」とは、はれもののことを示します。

使用上の注意

 相談すること 
1.次の人は服用前に医師、薬剤師又は登録販売者に相談すること
 (1)医師の治療を受けている人。
 (2)妊婦又は妊娠していると思われる人。
 (3)今までに薬などにより発疹・発赤、かゆみ等を起こしたことがある人。

2.服用後、次の症状があらわれた場合は副作用の可能性があるので、直ちに服用を中止し、この文書を持って医師、薬剤師又は登録販売者に相談すること

関係部位症状
皮膚発疹・発赤、かゆみ


3.1ヵ月位服用しても症状がよくならない場合は服用を中止し、この文書を持って医師、薬剤師又は登録販売者に相談すること


保管及び取扱い上の注意
(1)直射日光の当たらない湿気の少ない涼しい所に保管してください。
(2)小児の手の届かない所に保管してください。
(3)他の容器に入れ替えないでください。(誤用の原因になったり品質が変わることがあります。)
(4)1包を分割した残りを使用する場合には、袋の口を折り返して保管し、2日以内に使用してください。
(5)使用期限を過ぎた製品は服用しないでください。使用期限は外箱に記載しています。