健康情報: 小柴胡湯(しょうさいことう)の効能・効果と副作用

2011年4月8日金曜日

小柴胡湯(しょうさいことう)の効能・効果と副作用

漢方診療の實際 大塚敬節 矢数道明 清水藤太郎共著 南山堂刊
小柴胡湯(しょうさいことう)
本方は少陽病の代表的治剤で、その目標は次の如くである。先ず熱の状態は弛脹熱、或は間歇熱、或は日晡潮熱で、多くは発熱に先だって悪寒を伴う。次に胸脇 部に充塞圧迫感を覚え、所謂胸脇苦満を現わす。即ち他覚的には心下部から左右肋骨弓に沿って抵抗を増す。その他口苦・咽喉乾燥・舌苔・食欲不振・心煩・悪 心・嘔吐等を来す。以上の諸症状社が現われた場合を本方の適応症とする。
本方はまた或る種の体質を目標として用いられる。即ち小柴胡湯の適する体質なるものである。それは大体に於て筋骨質で結核に罹り易い傾向のある者である。脈は力があり、腹部も相当に緊張し、胸脇苦満を伴い、上腹角は一般に狭い。もし脈が微弱で、腹部が菲薄で全く無力性であれば、本方は適応しない。小柴胡湯はその適する体質者に対しては殆んど万病薬的に用いられる。それは本方によってその体質者の自然治癒の良能が最も高度に発揮されるものと考えられるからである。
従っr本方の応用範囲は極めて広い。例えば感冒・咽喉炎・耳下腺炎・諸種の急性熱性病・肺炎・気管支炎・胸膜炎・肺結核・リンパ腺結核・胃腸カタル・腹膜炎等である。
處方中の柴胡と黄芩は特に胸脇部に働き、消炎・解熱・疎通の効がある。半夏と生姜は悪心・嘔吐を止め、食欲を進めて柴胡・黄芩に協力する。人参は甘草・大棗と共に胃の機能を亢め、胸脇部の充塞感を緩解する。
本方の禁忌症としては前述のように脈腹共に軟弱無力性の者である。本方の適当しない場合は服薬後、全身倦怠し不快感・体温上昇・食欲不振等を来す。


『漢方精撰百八方』
11.[方名] 小柴胡湯(しょうさいことう)

[出典] 傷寒論

[処方] 柴胡4.0 半夏5.0 黄?3.0 人参3.0 大棗4.0 甘草2.0 生姜

[目標] 本方は少陽病の代表的薬方であつて、太陽病(カゼ症候群)の急性期が経過して病気が内臓に局所化する時期にあたるものである。腹証としての特徴は胸脇苦満といって肋骨弓下に指圧を加えると苦痛を訴え、自覚的には上腹部につまった感じのする場合、また口が苦いと訴えるもの、熱はあってもなくてもいいが、あれば高熱や弛張熱でなく、むしろ自覚的に熱感がふけさめするもの、更に一般に発作的症状を発するものに適する。

[かんどころ] まず胸脇苦満の腹証があれば本方の適応である。ただその場合全身症状として食慾がないとか、体がてきぱきしないなどの少陽病の症状に注意することである。

[応用] 感冒の急性期を過ぎても熱の下らないものにやると軽熱徴熱がとれる。
肺結核や肋膜炎で微熱の続くのに本方をやると熱がとれるばかりでなく食欲が出て来て起きられるようになる。
喘息の持病のある人に本方をやると体質が改善されて喘息が起きなくなる。殊に小児喘息には本方証のものが多く、そんな場合にはエフェドリンなどを使わずに本方を続けるとなおってしまう。
小児のアデノイドや扁桃腺炎などはまず本方でなおる。近頃は扁桃にビールスに対する抗体産成機能があることがわかり、小児マヒなども扁桃摘出をした子がかかりやすいといわれ出した。世の中には不要なものは何一つないのに人体にだけは扁桃や虫垂やなどの不要器官があると考えていたこの間までの医学的思想そのものが幼稚だったのである。扁桃にかぎらずむやみに手術云々という今日の医学もそろそろ反省期に入っているのではないだろうか。
流行性腎炎というのがある。カゼと全く同じ症状で経過し、数日で下熱すると、その頃に血尿がはじまるもので、はじめて腎炎に気付く、そのような腎炎は少陽病に属するものなので、それに本方をやるとさんざん医者を手こずらせた血尿が翌日または二、三日で止まつた例が数例あり、数年後の今日に至るまで感謝されている。
  心臓の先天性奇形、ファロー氏四徴候で手術を指示されたものが本方をやって元気になり手術を中止した例もある。其の他、心悸亢進、顔面神経麻痺、三叉神経痛、高血庄症、低血圧症、月経困難症、無月経、胃下垂、視力減弱、蕁麻疹等々応用範囲に極まりない。
相見三郎著



漢方薬の実際知識 東丈夫・村上光太郎著 東洋経済新報社 刊
1 柴胡剤
柴胡剤は、胸脇苦満を呈するものに使われる。胸脇苦満は実証では強く現 われ嘔気を伴うこともあるが、虚証では弱くほとんど苦満の状を訴えない 場合がある。柴胡剤は、甘草に対する作用が強く、解毒さようがあり、体質改善薬として繁用される。したがって、服用期間は比較的長くなる傾向がある。柴胡 剤は、応用範囲が広く、肝炎、肝硬変、胆嚢炎、胆石症、黄疸、肝機能障害、肋膜炎、膵臓炎、肺結核、リンパ腺炎、神経疾患など広く一般に使用される。ま た、しばしば他の薬方と合方され、他の薬方の作用を助ける。
柴胡剤の中で、柴胡加竜骨牡蛎湯柴胡桂枝乾姜湯は、気の動揺が強い。小柴胡湯加味逍遥散は、潔癖症の傾向があり、多少神経質気味の傾向が ある。特に加味逍遥散はその傾向が強い。柴胡桂枝湯は、痛みのあるときに用いられる。十味敗毒湯荊防敗毒散は、化膿性疾患を伴うときに用いられる。
各薬方の説明(数字はおとな一日分のグラム数、七~十二歳はおとなの二分の一量、四~六歳は三分の一量、三歳以下は四分の一量が適当である。)  

4 小柴胡湯(しょうさいことう) (傷寒論、金匱要略)
〔柴胡(さいこ)七、半夏(はんげ)五、生姜(しょうきょう)四、黄芩(おうごん)、大棗(たいそう)、人参(にんじん)各三、甘草(かんぞう)二〕
柴胡剤の中で、もっとも繁用される薬方で応用範囲も広い。柴胡剤の薬方中、本方は中間に位置し、ているように、体質的にもそれほど強い実証で はない。したがって、胸脇苦満もそれほど激しくなくい。本方は、少陽病を代表する薬方であって、発熱、悪寒、胸脇苦満、胸部苦悶感、心悸亢進、食欲不振、 悪心、嘔吐、口渇、口苦、頸項強痛、四肢煩熱などを目標とすることがある。
本方は、しばしば他の薬方と合方される。たとえ ば、黄連解毒湯(おうれんげどくとう)との合方を柴胡解毒湯、小陥胸湯(しょうかんきょうと う)との合方を柴陥湯(さいかんとう)五苓散(ごれいさん)との合方を柴苓湯(さいれいとう)として用いる。そのほか、四物湯(しもつとう)当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)、桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)香蘇散(こうそさん)小建中湯(しょうけんちゅ うとう)、苓桂朮甘湯(りょうけいじゅつかんとう)茵蔯蒿湯(いんちんこうとう)茵蔯五苓散(いんちんごれいさん)猪苓湯(ちょれいとう)など、多 くの薬方と合方される。
〔応用〕
柴胡剤であるために、大柴胡湯のところで示したような疾患に、小柴胡湯證を呈するものが多い。
その他
一 乳腺炎、産褥熱、血の道、子宮付属器炎その他の婦人科系疾患。
一 そのほか、しもやけ、睾丸炎、副睾丸炎、腺病質など。




《資料》よりよい漢方治療のために 増補改訂版 重要漢方処方解説口訣集 中日漢方研究会
38.小柴胡湯 傷寒論

柴胡7.0 半夏5.0 生姜4.0(乾1.0) 黄芩3.0 大棗3.0 人参3.0 甘草2.0


(傷寒論)
○傷寒五六日中風,往来寒熱,胸脇苦満,嘿々不欲飲食心煩喜嘔,或胸中煩而不嘔,或渇,或腹中痛,或脇下痞硬,或心下悸,小便不利,或不渇、身有微熱,或欬者,本方主之(太陽中)

○血弱気尽,腠理開,邪気因入,与正気相搏,結於脇下正邪分争,往来寒熱,休作有時,嘿々不欲飲食,蔵府相連,其痛心下,邪高痛下,故便嘔也,本方主之(太陽中)

○傷寒四五日,身熱悪風,頸項強,脇下満,手足温而渇者,本方主之(太陽中)

○嘔而発熱者,本方主之(厥陰)


(金匱要略)
○産婦鬱冒,其脉微弱,嘔不能食,大便反堅,但頭汗出所以然者,血虚而厥,厥而必冒,冒家欲解,必大汗出以血虚下厥,孤陽上出,故頭汗出,所以産婦喜汗出者亡陰血虚,陽気独盛,故当汗出,陰陽乃復,大便堅,嘔不能食,本方主之(産後)

○婦人中風七八日,続得寒熱,発作有時,経水適断者,此為熱入血室,其血必結,故使如瘧状発作有時,本方主之(婦人雑病)

○傷寒差以後,更発熱,小柴胡湯主之(差後)

現代漢方治療の指針〉 薬学の友社
胸や脇腹が重苦しく,微熱があったり,熱感と悪寒が交互にあったりして,食欲不振で口にがく,時に舌はには白苔があり,悪心,嘔吐,咳嗽を伴なうなどの症状があるもの。
本方は大柴胡湯と共に漢方処方中の代表的処方であり本方の適する体質,即ちあまり虚弱ではないが,結核にかかり易い傾向があるものに万能薬的に用いられる。本方と大柴胡湯との鑑別は大柴胡湯適応症はみぞおち週辺部が硬く張っており,便秘がひどく且つ排泄された便は硬いが,本方適応症はみぞおちよりむしろ胸や脇腹がつかえたり,あるいは重苦しく感ずるものである。本方が適する体質では,2,3日便秘することがあっても,排泄された便は軟いのが普通で,このような便秘は本方を服用することによって快便を得ることができる。本方は疲労を回復し,食欲を増進させる作用が強いので,肺結核に化学療法剤と併用することが多い。また自律神経不安定症で栄養不良に対してもビタミン剤その他の栄養剤と併用すれば体力増強作用が著しい。また肝臓疾患や膵炎による食欲不振には劇的な効果がある。慢性の気管支喘息で他の治療法が全然効果がない時,本方と半夏厚朴湯あるいは小青竜湯と合方して著効を得ることがある。本方と半夏厚朴湯との合方は感冒がこじれた場合によく用いられる。本方を化膿性疾患に応用する時は通常桔梗・石膏を加える。本方を服用してもなお倦怠感が加わり,更に食欲不振となれば柴胡桂枝干姜湯に転方すべきである。また便秘して不快感を増す場合は黄連解毒湯あるいは大柴胡湯を投与するとよい。衰弱がひどく盗汗や動悸が著しい症状には本方より柴胡桂枝干姜湯小建中湯補中益気湯などが適し,頭痛や劇しい胃痛,腹痛あるいは関節痛などを伴なった食欲不振には柴胡桂枝湯の方がよい。衰弱とともに微熱と食欲不振が続き,咳嗽がとれない場合には人参養栄湯が適する。


漢方処方解説シリーズ〉 今西伊一郎先生
①呼吸器病,微熱があって頭痛,頭重,疲労倦怠感を自覚するもの。また熱感や微熱がとれず,あるいは熱と悪寒が交互に出没したり,咳嗽を伴うもの。
②胃腸,肝臓病,胸や脇腹に圧迫感を自覚し,悪心や嘔吐,腹痛などを伴い舌に白苔があって,胃部が重苦しく食欲が減退するもの。
③体質改善 アレルギー体質,腺病体質で疲れやすく,抵抗力が乏しく,病気の回復がながびくもの。

本方は応用の目標欄3項目のうち,いずれかに該当すれば応用できる。すなわち大して虚弱ではないが,カゼをひきやすい,結核にかかりやすい,発熱しやすい(微熱)熱型は間歇熱である,消化機能が悪く食欲が減退する。こんな傾向あるものに万病薬的に繁用され,顕著な効果を発揮している。
類証鑑別,前項記載の傾向があって,熱症状あるいは悪心,嘔吐,胸痛や腹痛の激しいものには柴胡桂枝湯が適し,精神不安や胸腹の動悸を自覚して便秘を伴うものには柴胡加竜骨牡蛎湯がよい。また体格栄養ともに良好な壮実体質で,本方症状に似て胃部のつかえがひどく,便秘するものには大柴胡湯を考慮すればよい。

本方の特徴
喘息,腎臓病,湿疹などにかかりやすく再発しやすいアレルギー体質の改善や腺病体質,滲出性体質の改善に不可欠の処方である。従って 本方は 当帰芍薬散四物湯小建中湯半夏厚朴湯苓桂朮甘湯麻杏甘石湯小青竜湯五苓散桂枝茯苓丸などと合方して用いることが非常に多い。最近体質病がとり上げられつつある折,漢方にはこの種の優秀な処方が,古来より重宝されていることはまことに注目に値するものと言えよう。


漢方診療30年〉 大塚 敬節先生
小柴胡湯を急性熱病に用いる場合には,口がねばるとか,口が苦いとか,舌に白い苔がつくという症状が現われ,食欲もなくなり,みぞおちから脇ばらにかけて重いような,つまったような感じがあるものを目標とする。この場合,脈は弦細になったり,沈弦になったりする。弦という脈は弓のつるをはりきって,そのつるに指をふれるような感じの脈である。熱は往来寒熱といって,悪寒のあとで熱がのぼり,熱が下るとまた悪寒がくる場合もあれば,悪寒を伴わない熱のつづくこともある。この場合に季肋下部に抵抗圧痛必ずしも訴えるとは限らない。胸脇苦満という症状は,自覚的にみずおちから季肋下にかけてつまったような重いような感じを訴えるだけでもよい。必ずしもこの部に他覚的の抵抗と圧痛を証明すなくてもよい。

○小柴胡等は乳幼児に用いる機会がきわめて多い。

○小柴胡湯は風邪,インフルエンザ,肋膜炎,肺結核,肝炎,胃炎などによく用いられるが,中耳炎,耳下腺炎,鼻炎,蓄膿症,淋巴腺炎,るいれき,急性腎炎,蕁麻疹などに広く用いられ,またこれに半夏厚朴湯を合して気管支喘息に用いる。


漢方処方応用の実際〉 山田 光胤先生
○熱が出て5,6日たってから往来寒熱,胸脇苦満がおこり,舌に白苔を生じて口が苦く,食欲不振,悪心,嘔吐のあるもので,このとき,咳のでることがあり,あるいは口渇,腹痛,心悸亢進,尿利減少,身熱,頸や項のこりなどがおこり,あるいは便秘,あるいは軟便などになることがある。

○熱病にかかって,10日以上たち,胸満や腹痛があって,脈が浮細で,臥嗜する(臥ねばかりいる)もの。

○産褥熱や炎症性疾患にかかって,四肢が煩熱して頭痛がおきるもの。

○腹が急に痛んで,小建中湯が効かず,脈は軽く按じて渋,強く按じて弦のもの。

○黄疸で熱が出てさむけがし,胸脇苦満があり,食事がとれず,頸や項がこり,小便の出が悪く,脈が浮弱遅のもの。

古人の口訣
①「古家方則」
イ 産後下血止まず,諸薬効なきものによい。
ロ 桃核承気湯が効かないで血淋止まず,口苦く,めまいのするものによい。
ハ 耳のうしろの結核のするもの(リンパ腺の腫脹)によいなどとある。

②「知新堂方選」 胸脇苦満,寒熱往来,目痛,鼻乾,不眠のものによい。

③「袖珍方」 急激につんぼになり,頭鬱冒するものに小柴胡湯合香蘇散が百発百中。

④熱病で,赤く鼻下や口の周りに吹き出ものがあるのは本方がよい。(村井大年口訣)


漢方治療の実際〉 大塚 敬節先生
○諸種の化膿性疾患に用いる。その目標は胸脇苦満,発熱,口苦,食不振などにある。徐霊胎は古今医統の中で,“小柴胡湯はるいれき,乳癰(乳腺炎)便毒(横痃)下疳,および肝経分の一切の瘡瘍,発熱,潮熱し,或いは飲食思うこと少きを治す。”といっている。肝経というのは経絡の一ツで,この肝経は足の厥陰肝経で,長浜善夫氏の東洋医学概説では,その走行を次のように説明している。「肝経の分かれが足の母指の爪の根もとにきて,ここから起り,足の内面中央を上って陰部に入り,下腹部を通り,肝に帰属して胆をまとい,胸部に散布して,気管,喉頭のうしろを通って眼球に達し,頭項に出る。眼球から分れたものは頬,唇をめぐる。もう一つの分れは肝より上って肺に入る。そしてさらに下って胃のあたりまで達する。

○医方口訣に「下疳瘡,または便毒,嚢癰(陰嚢の腫れる病)等の類,凡そ前陰にある病には小柴胡湯を用いる」といい老医口訣には「小柴胡湯は瀉肝湯の気持で,下疳瘡の類に用いる。下疳瘡などで,頭痛,発熱し,自汗などのある時には,猶更らのこと,この方に龍胆,延胡索などを加えて用いる。


漢方診療の実際〉 大塚,矢数,清水 三先生
本方は少陽病の代表的治剤で,その目標は次の如くである。先ず熱の状態は弛脹熱,或は間歇熱,或は日晡潮熱で多くは発熱に先だって悪寒を伴う。次に胸脇部に充塞圧迫感を覚え,所謂胸脇苦満を現わす。即ち他覚的には心下部から左右肋骨弓に沿って抵抗を増す。その他口苦・咽喉乾燥・舌苔・食欲不振・心煩・悪心・嘔吐等を来す。以上の諸症状社が現われた場合を本方の適応症とする。
本方はまた或る種の体質を目標として用いられる。即ち小柴胡湯の適する体質なるものである。それは大体に於て筋骨質で結核に罹り易い傾向のある者である。脈は力があり,腹部も相当に緊張し,胸脇苦満を伴い,上腹角は一般に狭い。もし脈が微弱で,腹部が菲薄で全く無力性であれば,本方は適応しない。小柴胡湯はその適する体質者に対しては殆んど万病薬的に用いられる。それは本方によってその体質者の自然治癒の良能が最も高度に発揮されるものと考えられるからである。
従っr本方の応用範囲は極めて広い。例えば感冒・咽喉炎・耳下腺炎・諸種の急性熱性病・肺炎・気管支炎・胸膜炎・肺結核・リンパ腺結核・胃腸カタル・腹膜炎等である。
處方中の柴胡と黄芩は特に胸脇部に働き,消炎・解熱・疎通の効がある。半夏と生姜は悪心・嘔吐を止め,食欲を進めて柴胡・黄芩に協力する。人参は甘草・大棗と共に胃の機能を亢め,胸脇部の充塞感を緩解する。
本方の禁忌症としては前述のように脈腹共に軟弱無力性の者である。本方の適当しない場合は服薬後,全身倦怠し不快感・体温上昇・食欲不振等を来す。



漢方入門講座〉 竜野 一雄先生
構成:組合せの中で最も重要なのは柴胡と黄芩で,柴胡は肝機能を調節するらしく,黄芩は血熱を去る,半夏,人参は之に次ぎ,胸脇心下の水を行らし且つ半夏は肺を補い人参は脾胃を補う。甘草,生姜,大棗もそれぞれの薬能を以て働くと共に諸薬の作用を補助する。小柴胡湯は大体胸脇から心下部にかけての充塞を緩解させる作用があり,それは肝機能の障害を調節すると思われる。従って肝機能障害により発する発熱症状,神経症状等にも有効であると推定される。その内胸脇から心下にかけての充塞感,胸痛,心痛,心下痛,腹痛などがあり,呼吸器症状としては咳痰,消化器症状としては心煩,神経質,怒りっぽい,肝積,潔癖などの傾向を持つ,これによって小柴胡湯の応用範囲は急性伝染性熱病,結核,細菌感染,胸部疾患,消化器疾患,婦人科的疾患,腺病質,神経質等であることが知られよう。

運用 1. 傷寒論太陽病中篇の左の条文は小柴胡湯を代表する適応証である。
「傷寒五六日,中風,往来寒熱,胸脇苦満,黙々として飲食を欲せず,心煩喜嘔す。或は胸中煩して嘔せず,或は渇し,或は脇下痞硬し,或は心下悸し,小便利せず,或は渇せず,身に微熱あり,或は欬す。」
傷寒は中風など急性病でその熱が悪寒と交互に起り,胸脇部の充塞感として苦満を覚える。胸がつまっているから食欲が進まない。心臓部が何だかもやもやする。心煩は心臓の煩わしい感じと精神的に煩う状態即ち神経質になるのと2つの意味を持っている。胸元がつまっていればそれを出そうとする自然機能から嘔気が起る。喜はこのんでとか,しばしばとかの意味である。以上を基本的症状として場合によって若干症状の出入があるからそれは「或は」以下の症状で示している。嘔すれば胸中の鬱塞は上に抜けるから心煩の程度ですむが,嘔しなければ鬱塞はそのままだから心煩より広い胸中煩が起る筈だ。臨床的には之を胸中苦悶感,胸痛などにとってよい。熱により渇が起るが,その熱が表に洩れて微熱となれば胸中の鬱熱はそれだけ発散減退されるから渇しなくなる。或は渇し,あるいは渇せず身に微熱ありとはこの様な関係にある。これらの症状は病理的には必然性を以て組み合されているのだから,手当り次第に胸中煩と嘔を組合せたり,渇と微産とを組合せたりして治療するのは正しくない。微熱は表証だから之は小柴胡湯の位置である胸から心下にかけての病巣から表に波及したものと考うべきで,若し腹部に波及すれば腹中痛みや脇下痞硬や心下悸して小便利せずなどが起る。嘔だの,咳だの,心下悸だのは皆気の動揺で,心下悸して気が承らぬから小便が不利するのだ。
「傷寒五六日,嘔して発熱するものは,柴胡の証見る(後略)」(傷寒論太陽病下篇)
「嘔して発熱するもの」(同書厥陰病)も嘔を発熱も主症とする場合である。臨床的に小柴胡湯は往来寒熱ばかりでなく微熱に使うことが頗る多く,嘔にも咳にも腹中痛にも日常的に応用している。渇や心下悸に使用した例は割合に少い。それは渇や心下悸が主証でなく,客証であるためで,若し主証なら他の処方を使うことが多いからである。ただ渇や心下悸,小便不利があっても小柴胡湯で宜い位は覚えておけばよいであろう。微熱の場合で,「傷寒五六日,頭汗出で微しく悪寒し,手足冷え,心下満し,口食することを欲せず,大便硬,脉細のものは此は陽微結と為す。必ず表有り。復た裏有るなり,脉沈も亦裏に在り,汗出づるを陽微となす。仮令純陰結なら復た外証有ること得ず,悉く入りて裏に在り,此を半ば裏に在り,半ば外に在りとなすなり。脉沈緊と雖も少陰病と為すことを得ず然る所以は陰は汗有ることを得ず,今頭汗出ず,故に少陰に非ざることを知るなり。小柴胡湯を与ふべし。設し了々たらざるものは屎を得て解す」(傷寒論太陽病下篇)というのがある。大変長文で複雑しているが要するに頭汗出でから脉細までの症状があるのは病が半外半裏にあって少陽病で少陰病に似ているが、少陰病には頭汗があり得ない点で区別されるとの意である。半外半裏を初学者は半表半裏だといっているが,それは誤りで原文通りの半外半裏が正しい。心下満とか食を欲せずとか小柴胡湯の指示症状であることは肯ける。頭汗は柴胡桂枝干姜湯にもあっても微悪寒,手足冷,口不欲食脉細などがよく似ているが,柴胡桂枝干姜湯なら心下満でなく,胸脇満微結だし,大便硬でなくむしろ軟便のことが多い。しかし似ているから小柴胡湯之を主ると云わずに与うべしとなっていて,若し小柴胡湯でうまく行かなければ柴胡桂枝干姜湯を用うべきだったのだから,それに直すがよいとの意を含めている。発熱では「傷寒差以後,更に発熱するのは小柴胡湯之を主る。」(傷寒論差後労復病)もその例だが,前に引いた嘔して発熱なども同様である。これによってみれば小柴胡湯は発熱,微熱,往来寒熱,潮熱等のいずれの場合にも使われることがわかる。腹痛に関しては上の外にも記載がある。
「血弱気尽,腠理開く,邪気因って入り正気と相搏ち脇下に結び,正邪分争す。往来寒熱休作時あり,黙々として飲食を欲せず,蔵府相連りその痛み必ず下る。邪高く痛下し,故に嘔せしむるなり」(傷寒論太陽病中篇)一書には蔵府相違いその病必ず下る。脇膈中痛むといっている。この条の詳解は傷寒論講義に譲るとして,要点は血弱気尽になっている体表の弱味につけ込んで邪気が体内に入り,体の正気と争い,往来寒熱を起す。その邪気が脇下に集結するから食欲もなくなり腹痛が起り嘔くようになるとの意である。
「傷寒,陽脉濇,陰脉弦なるはまさに腹中急痛すべし。先づ小建中湯を与へて差えざるものは小柴胡湯之を主る。」詳解は傷寒論講義に譲るとして陽脉は血管の緊張でそれが濇即ち渋っているのは気滞があるとし,その気滞が虚によるものなら小建中湯だし,体の一部に充塞していて気が表に惕ないとすれば小柴胡湯に当る。その区別は必ずしも容易でない。陰脉は血流でそれが弦なのは虚か痛みかのためだから,虚とすれば小建中湯だし,弦なら痛みのため故小建中湯でも該当する脉になる。よって脉では両者の鑑別は困難なことになる。腹中急痛は両者とも治する所だから,虚として小建中湯を用いるべきか,実として小柴胡湯を用いるべきかの判定がむずかしいので,そういう場合は先補後瀉の法により,先ず小建中湯を使ってみる。それで治らねば次に小柴胡湯を使うがよい。この順序を逆にして先に瀉すと虚の場合は益虚して収拾すべからざるに陥ることがあるのでこのような順序を立てたものである。
小柴胡湯を腹痛に使うのは胃痛,腸疝痛などで,どちらかといえば病名が付けられないような腹痛に使うことが多く,胆石症とか胃痙攣とかその他病名のはっきりする場合には他の処方を使うのが普通である。この場合鑑別すべきは小陥胸湯,四逆散などで,両者に共に心下部や腹直筋の緊張が小柴胡湯よりも強く,脉も小陥胸湯は浮滑,四逆散は沈及は沈弦である。小柴胡湯だと腹痛と同時に嘔吐もあり得るが,腹痛嘔吐は柴胡桂枝湯黄連湯にもあって,時に鑑別の難かしいことがある。小柴胡湯の条文によれば腹痛,嘔吐は血弱気尽の時だから当然脉も弱い筈である。小柴胡湯の脉が弱くなる例は後述するように脉細とか産婦鬱冒の脉微弱とかもあるのだから強い脉でなくても差支えないことがわかる。之に対して柴胡桂枝湯黄連湯は微弱ではない。脇下痞硬は文字通り読めば脇下は側胸下部或は季肋下を指し,そこで自覚的に痞え,他覚的に硬くなっているとの意だが,臨床的には肋骨弓に沿う部分を広く指してそこに痞塞感と緊張が認められる。最初に引用した傷寒論の条文のほかに「もと太陽病解せず,転じて,少陽に入るものは脇下硬満し,乾嘔して食すること能はず,往来寒熱す,なほ未だ吐下せず,脉沈緊のものは小柴胡湯を与ふ。」(傷寒論少陽病)
「太陽病十日以去,脉浮細にして臥を嗜む者は外已に解するなり。もし胸満脇痛するものは小柴胡湯之を主る。」(同少陰病)があるが,大体前と同様の文意である。そして小柴胡湯の脉はこのようにただ一つでなく,場合場合に応じて症状と釣り合った脉を呈するものだということを銘記されたい。脇下痞硬の時鑑別を要するのは他の柴胡剤,陥胸湯,木防巳湯,瀉心湯類だが,それぞれ他の症状によって判定すべきで,脇下痞硬と云えばはっきりしているようなものの、実際は心下痞硬か脇下堅満かどう表現すべきかに迷うことが多い。だから他の症状によって之は半夏瀉心湯証である。故にこの胸下部の緊張は心下痞硬と表現すべきだとい乗ようにむしろ表現は後からされて行くことが多い。臨床的に脇下痞硬を起こすのは呼吸器病もあれば,胃,肝,腸などの消化器病もあり,その他脇下の局所的病気でない場合にも脇下に症状が現われることがあって,その時に使うこともある。以上の所見を呈する場合は感冒,流感,マラリヤ,気管支炎,肺炎,肺結核,肋膜炎,肺門リンパ腺腫脹,膿胸,肋骨カリエス,腸チフス,麻疹,腎盂炎,マラリヤ,小児の原因不明の発熱,アンギーナ,リンパ腺炎,乳腺炎,丹毒,癰疽,胆のう炎,肋間神経痛,腺病質など非常に広い範囲に及んでいる。次に熱が胸脇の少陽部位から腹の陽明部位に及んだときでもなお小柴胡湯の適応証になることがある。但しこの場合でも胸脇には症状があるので小柴胡湯を用いる手懸りにもなり,根拠にもなる。「傷寒13日解せず,胸脇満して嘔し,日晡所潮熱を発し已りて微利す。これもと柴胡の証,之を下して以て利することを得ず,今反って利する者は知る医丸薬をもって之心を下したるを,これをその治に非ざるなり。潮熱は実なり。先ず宜しく小柴胡湯を服して以て外を解すべし。」(傷寒論太陽病中篇) 胸脇満,嘔,日晡所潮熱微利の中,小柴胡湯の証としては胸脇満と嘔が目標になる。日晡所潮熱は日暮時に全身的に自他覚的に熱を発する義でこれと下痢とは陽明病の症状で,陽明病は胃腸内の熱実状態である。小柴胡湯は胃腸外の熱だから,内外に熱を持った今の場合は先ず小柴胡湯で外の熱を去り,内の熱は第二段として改めて治療を講ずるがよいと指示されているのだ。「陽明病,潮熱を発し,大便溏,小便自可,胸脇満去らざるものは,小柴胡湯を与ふ。」(同書陽明病)
「陽明病,脇下硬満,大便せずして嘔し,舌上白苔のものは小柴胡湯を与ふべし。上焦通ずることを得,津液下ることを得,胃気和するに因り,身濈然として汗出でて解す。」(同上)もほぼ同様の場合で,いずれも小柴胡湯を与ふとなっていて主るとはなっていない。これは大切なことで,主るは絶対指示,与ふは投薬して経過を観察せよとの意味を含んでいるから,先ず小柴胡湯を飲ませ,それでどれだけの症状が残るかによって次に改めて方剤を考えるがよいとの意味を与の内に含んでいると見るべきである。潮熱を発するのは腹部疾患が多いから,消化不良,宿便と発熱を兼ねるとき,腸チフス,パラチフスなどが直接的な応用範囲になるが、その他の急性伝染性熱病,細菌感染,例えば流感,肺炎,丹毒,猩紅熱,癰疽などでも潮熱を発することがあり,その際,小柴胡湯を用いる場合が起って来る。

運用 2. 側頸部の緊張や疼痛を目標にする
小柴胡湯は側胸部に容態があるときに使うことは脇の説明でも述べておいたが,それを上方に延長したと見ると側頸部になるであろう。耳やこめかみの部分も亦これに含まれて,そこに症状が現われるとき小柴胡湯を使うことがある。「傷寒,4,5日,身熱悪寒,頸項強り,脇下満,手足温にして渇するもの」(傷寒論太陽病中)身熱悪風手足温は体表の症状だから熱は表にあると考えられ,頸項即ち側頸部と脇下は少陽病に属する部位だからこの条文では胸部の熱が表に及んだものと解される。
「陽明の中風,脉弦浮大にして短気し,腹すべて満,脇下及び心痛み,久しく之を按ずるも気通ぜず,鼻乾き汗することを得ず,臥を嗜み,一身及び面目悉く黄,小便難,潮熱あり,時々噦す。耳の前後腫れ,之を刺せばふしく愈ゆ。病十日に過ぎて脉続きて浮なるもの」(傷寒論陽明病)少陽病の症状が同時に併存するもので,その内耳の前後腫れが側頭部に該当することになる。なお少陽病が耳に関係することは「少陽の中風,両耳聞く所なく,目赤く,胸中満して吐する者は吐下すべからず。吐下すれば則ち悸して驚す。」(傷寒論少陽病)「尺寸倶に弦の者は少陽病を受くるなり。当に三・四日に発すべし。その脉,脇を循り耳に絡ふ。故に胸満痛みて耳聾す。」(傷寒論傷寒例)を参考になる。ここに経絡の考えによって脇や耳が指摘されているが,経絡については他日述べる機会を得たい。臨床的には小柴胡湯を熱性の耳疾患,即ち中耳炎,発熱に伴う耳鳴,耳聾,欧氏管腫脹,頸部リンパ腺炎,るいれき,耳下腺炎,乳嘴突起炎,扁桃腺炎などにしばしば使う所以である。その他胸鎖嘴突起に附着する筋群の緊張,腫脹,疼痛にも用いられる。小柴胡湯の適応症にはリンパ腺の腫脹や炎症,腺熱,肝臓機能に関する発熱などが割合に多いようである。また条文中の黄により,各種の急性黄疸(カタル性黄疸)(流行性黄疸,胆のう炎)などで胸脇苦満,脇下硬満,嘔のあるものに使う。「諸黄,腹痛して嘔するもの」(金匱要略黄疸)も参考すべきである。

運用 3.
婦人生殖器疾患に使うことがある。それは経絡の考えでは肝の経絡は生殖器にも循りその疾患に関係するというのであるが,症候的には矢張り,小柴胡湯の前記運用1.の症状があるときに限って使うべきである。
「婦人中風,7,8日,続いて寒熱を得,発作時あり,経水たまたま断つものはこれ熱血室に入るとなすなり。その血必ず結す。故に瘧状の如く発作時あらしむ。」(傷寒論,太陽病下)
この病理は月経中に発熱し,生殖器に熱が入り,月経が止ったというのだが主な目標は瘧状の如く往来寒熱するその熱状で運用1.に該当するのである。「問ふて曰く,新産の婦人に三病あり。一は痙病,二は鬱冒,三は大便難なり,何の謂ひぞや,師の曰く,新産血虚し,多く汗出でしばしば風にあたる。故に痙を病ましむ。亡血し,復た汗し寒多し。故に鬱冒せしむ。津液を亡ひ胃燥く。故に大便難し,産敵の鬱冒はその脉弱,嘔して食すること能はず,大便反って堅く,ただ頭汗出づ。然る所以のものは血虚して厥し,厥して必ず冒す。胃家解せんと欲するときは必ず大いに汗出で陰陽乃ち復すべし。大便堅く嘔して食すること能はざるものは小柴胡湯之を主る。」(金匱要略産後)産後に起りやすい破傷風,貧血,疲労,便秘を挙げて,その病理を述べたもので病理は漢方的でやや難解だが,出血と発血とにより,貧血し体内の水分が減少するのに加えて感染すると破傷風になり,体の下部が脱力して熱気が頭の方に昇るために足が冷え頭に汗が出てぼうっとなる。しかも熱気の上衝につれて嘔吐しそのために食事がとれなくなる。体の水分減少のために大便は堅く出にくくなるというのがその大要である。この場合も嘔して食すること能はずが運用1.で述べた所に一致する。大便が出にくくなり嘔くのに小柴胡湯を使うのは前に引用した陽明病。脇下硬満云々の条と一致する。右のうち痙病以外は小柴胡湯の治す所だが,臨床的には産褥熱や腎盂炎で弛張熱を発するもの,或は大便堅く嘔するもの。炎症性の婦人病,例えば急性附属器炎にも小柴胡湯を使う機会がある。男子では急性の睾丸炎副睾丸炎などに使うことがあり,鼠けい部は陰部と同じに扱うからそけいリンパ腺炎,下疳,陰部頑癬,陰部瘙痒症,にも使うことがある。また婦人の乳房は生殖器に関係するし,且つ熱の出方が弛張熱のことがあるので急性化膿性乳腺炎にも使う。これらの場合に類証鑑別を要するのは陰部生殖器の化膿性炎症で,実証では大黄牡丹皮湯桂枝茯苓丸があり,それらは下腹部に抵抗圧痛があって嘔や胸脇の訴えはない。鼠けいリンパ腺炎で桂子附子湯,土瓜根散なども使うが矢張り,小柴胡湯特有の何等かの症状が有るか無いかで区別する。
「婦人草褥に在り,自ら風を得て発し,四肢苦煩熱,頭痛するものは小柴胡湯を与ふ。頭痛まずただ煩するものは三物黄芩湯之を主る。」(金匱要略産後病)も産褥熱又は産褥中の熱病だが,この苦煩熱は血熱によるもので,産褥中でなくても,男子でも起り得る状態である。苦煩熱とは耐えがたい程ほてることで之を応用して脚気,熱病の際に手足がほてりだるいもの,霜焼け,皮膚病などでほてって苦しむものに小柴胡湯を使うことが出来る。三物黄芩湯とは頭痛の有無によって区別されているが実際には頭痛の有無に拘らず,小柴胡湯は他覚的には熱感が軽いか無いかの時が多い。

運用 4.癇が亢ぶるものに使う。
神経質,肝積持ち,怒りっぽい,潔癖,推理能力や理科方面の才能があるものなどは肝機能と関係すると考えられているので小柴胡湯の一つの目標になる。



漢方処方解説〉 矢数 道明先生
本方の証は,表の邪はすでに解消し,病が少陽の部位,すなわち半表(外)半裏に進み,いわゆる胸脇苦満の症状を現わしたときに,これを目標として用いる。少陽の部位は,横膈膜を中心に,気管支,肋膜,腹膜,肝胆,胃などにあたり,胸脇苦満というのは,季肋部の中心に,肋骨弓の上下の部分,および脇肋の皮膚,筋肉,皮下組織等に炎症と緊張異状をきたし,胸内が一杯につまったような苦満感を訴え,肋骨弓下部を圧迫すれば,抵抗と圧痛を証明するものである。この現象はこれらの場所に内熱によって腫脹硬結が起こり,胸壁にむけるリンパ腺にも腫脹と硬結を生じたことによるものである。その他脈は沈弦で,食欲不振,口苦,舌白苔,嘔吐,往来寒熱,心下悸,頸項こわばり,耳聾等を目標とする。また肝胆の経絡に従い,頸項部より陰部疾患にまで及んでいる。体質的に用いるときは,必ずしも往来寒熱や嘔吐なくともよいのである。胸脇苦満の証がそれほど顕著でなくても用いてよいことがある。


勿誤方函口訣〉 浅田宗伯生
此の方は往来寒熱,胸脇苦満,黙々として飲食を欲せず,嘔吐或は耳聾が目的となり。凡そ此れ等の証あれば胃実の候ありとも柴胡を与ふべし。老医の説に,脇下と手足の心と両所に汗なきものは胃実の証ありとも柴胡を用ゆべしとは此の意なり。総べて此の方のゆく処は両肋の痞硬拘急を目的とす。所謂胸脇苦満するなり,又胸腹痛み拘急するに小建中湯を与えて愈えざるに此の方を用ゆ。今の人,多く積気ありて風邪に感じ,熱裏に閉じて発せざれば必ず心腹痛あり。此れ時積なりとて,其の針薬を施して治せざる者,此の方にて,速やかに愈ゆ。仲景の言欺くべからず。また小児食停に外邪相兼ね,或は瘧の如きも,此の方にて解す。また久しく大便せざる者,此の方にて程能く大便を通じ,病解する者なり。上焦和し津液通づるの義なり。後世,三禁湯と名づくる者は,蓋し汗吐下を禁ずる処へ用ゆるが故なり。また此の方に五味子,乾姜を加へて風邪胸脇に迫り,舌上微白胎ありて,両脇に引きて咳嗽する者に用ゆ。治験は『本草衍義』の序例に見ゆ。また葛根,草果,天花粉を加へて,寒熱瘧の如く咳嗽甚だしき者に用ゆ。東郭の経験なり。其の他,呉仁斎小柴胡湯加減法の如きは,各方の下に弁ず。故に贅せず。



蕉窓方意解〉 和田 東郭先生
太陽風寒の表症去ってのち,その熱が間断往来するを少陽病という。この時に至れば必ず両脇心下に集まること覚えて心思かならず了々たらず,これによって黙々として言うこともいやになり,食餌なども思わざるようになるなり。すでにこの如くになるは別のせいにもあらず両脇肝胆の部,攣縮することに始まりて延て心下までも痞鞕するゆえ,胃口を閉塞して胃口に飲を畜わう。その飲,胸中に迫るゆえに心煩喜嘔の症あり,飲にて胃口を塞くゆへ飲食を思わず,気分も閉じて黙々たるなり。これによって柴胡を主薬にして両脇をゆるめ,黄芩は心下をすかし,半夏,生姜は胃口および胸中の飲をさばき,大棗,甘草,人参にて心下を和らぐ,これひと通りの方意なり。案ずるに人参を用いるは,これまで数日の間,発汗あるいは誤治どもを致し,かつ連日不食するによって自然と胃の気に欠けたるところできて,心下のめぐり悪しくなる病症ゆえ,黄芩,半夏,生姜の類ばかりにて,胃口心下をおしめぐらすことにてゆるみがたし,これによって人参の微温にて胃気を助けてやわらかに心下をゆるむるなり。甘草,大棗は柴胡,黄芩、半夏,生姜のするどきところをむっくりとせんがためにて,また人参の組み合せともに胃気を助け,ますます柔らかに心下をゆるむの意なり。総じて古人の方を解するや,または新たに立方をするにも,第一の心得はもし「作和羹汝惟塩梅」の意を汲んで致すべきことなり。すでに小柴胡湯中にても人参,甘草,大棗の方より見れば人参、甘草、大棗も塩梅なり,とかく甘味と苦味を錯綜し,あるいは辛味と酸味を調和するに妙処あるべし。また徃々苦味ばかりで甘味は甘味のみ組み合わせた方もあれどもそれは別に趣意のあることなれば各方の下にて弁ずべきしこと贅せず。


漢方の臨床〉 竜野 一雄先生
小柴胡湯
(1)構成
小柴胡湯は処方を構成する薬物の構成の仕方からいっても割合に単純なものだが,その応用は実に広く,使いやすく,且つ頻繁日常的なものである。そして近年食物,医療等の影響を受けて肝臓機能障害を起すものがふえるにつれて益々本方の必要に迫られて来た。
小柴胡湯の方名の小とは言うまでもなく大柴胡湯の大に対してつけられたもので,他の小建中湯大建中湯小青竜湯大青竜湯などの例からおしても,最初から大小をつけられていたものではなく,はじめは小柴胡湯を単に柴胡湯といっており,後に大柴胡湯が採用されるに及んで小柴胡湯と名付けられたもののように想像される。両者の関係は
大柴胡湯 胃実 心下急 脈実
小柴胡湯 胃虚 胸脇苦満 脈弦細
体格的にも大柴胡湯の人はがっちりした筋肉質で,小柴胡湯の方はほっそりとした神経応のことが多い。
柴胡が主薬であることは,処方の一番はじめの置いてあるので直ぐにわかる。気味は苦平だから肝の府すなわち胆に入り,肝の陽気を補って,肝の陰気が盛んになって病的状態に陥ったのを治すことが理解される。
黄芩は気味苦平で,足の少陽胆経の陽気を補うが,手の少陽は三焦経であって,三焦にはいろいろな意味と用途があるが,代表的なのは三焦の熱,すなわち素問5にいう少火であって,恐らく肉眼で判別しがたいような組織,器官の毛細管であろう。そこの充血に対して黄芩が血管収縮的に作用して充血によって起る煩熱などの症状を取去るのであろう。
半夏は気味辛温で肺に入り、気に作用する。用量が比較的に多いときは気の上逆に作用する。咳,嘔などはその例である。
人参,甘草,大棗はみな味甘で脾に作用するが,甘平の甘草は胸の陽気を補い,急迫を緩める作用を兼ねており,甘平の大棗も胸の陽気を補っている。人参は甘微寒で脾の陰気を補っており,多分胃の分泌に関係しているだろう。生姜は気味辛温で,肺の陽気と胃気がふさがった感じをひらく作用がある。
傷寒明理論巻4は素問の熱淫於内を引用して処方の構成を説明しようとしているか台,どうも牽強の感を免れない。

(2) 方意
小柴胡湯の適応証は肝熱脾虚である。強いて肝の虚実を云おうとしたことがあったが,それは誤りで,肝の変化としては熱すなわち充血に違いない。だから尿中のウロビリノーゲンや血液のBSP反応等は直接の関係はなくことによるとバイオプシーで肝組織の充血が証明されるかも知れないという期待をいだくのである。
その理由は黄芩が入っていることと,適応症状には熱症状だけで,寒症状がないこと,慢性肝炎,肝硬変症や肝臓癌などで肝臓肥大がありながら小柴胡湯の適応証は殆ど見られず,急性肝炎や胆嚢炎などの急性炎症性,充血のメカニズムを取る場合に本方の適応証が見られることなどである。柴胡剤というと直ちに胸脇苦満が考えられるが,胸脇苦満は胸満,脇苦の意だと思う。肋骨弓下の縁の筋緊張がそれで,Defence musculaire 筋性防禦というのは些か疑問があるが,内臓(肝)腹壁(腹直筋)連関に外ならない。私は仮りにHypochondrialphenomenと称している。これは比較的急に起った充血による肝臓の腫脹で,肝臓の実質の増殖や慢性の肥大で起って来ない。
肝臓からは自律神経の求心線維を経て,脊髄の前根から第6-10肋間神経が出るが,肝臓の部位によっては上方では胸廓に当っていて,下方の腹直筋の緊張は起さない所がある。大小柴胡湯の適応証でありながら胸脇苦満がはっきりしないことがあるのはそのためである。また四逆散では胃虚による心下痞と一緒になって,いわゆる二本棒といわれるような著明な腹直筋攣急を起してくる。胸脇苦満の左右は肝臓の左葉右葉に関係しているのであって,漢方でいうように肝と肺との関係ではあるまい。
肝熱は少陽病である。それによって起る症状は口苦,咽乾,目眩(傷寒論少陽病382条)少陽の中風,両耳聞く所なく,目赤く,胸中満して煩し(383条)少陽に転入するものは脇下硬満,乾嘔して食すること能はず,往来寒熱(同385条)尺寸ともに弦のものは少陽病を受く。まさに3,4日は発すべし。その脉脇をめぐり,耳に絡ふを以ての故に胸脇痛みて而して耳聾す」(傷寒例82条)などで小柴胡湯の適移証と応用の範囲が明かにされる。
もって適応症状をはっきりとさせようとするなら傷寒論太陽病中206条中の
「傷寒五六日中風,往来寒熱,胸脇苦満,黙々として飲食を欲せず,心煩喜嘔し,或は胸中煩して嘔せず,或は渇し,或は腹中痛み,或は脇下痞硬し,或は心下悸,小便不利し,或は渇せず,身は微熱あり,あるいは欬するものは小柴胡湯これを主る」
に従うがよい。
この条文で血熱のために渇くなら半夏を去り人参と括蔞根を加える。
血虚性の腹痛なら黄芩を去り,血虚を補う芍薬を加える。
腎虚による心下痞を伴うなら大棗を去り,気味鹹平のそれを加える。
腎虚による心下痞を伴うなら大棗を去り,気味鹹平の牡蛎を加える。
心下悸,小便不利が脾の陽虚で起ったものなら黄芩を去り茯苓を加えて尿の生成を補ってやる。
渇せず、外に表証の微熱があるもので,表虚によってそれが起るなら人参を去り,桂枝を加えて温覆する。
肺寒性の強い欬が出れば痰は薄く,寸脉が必ず沈弱で足も冷えるはずだから,人参,大棗,生姜を去り,五味子と乾姜を加えて肺気を温める。
小柴胡湯の適応証を概観してみると次のようになる。この番号は応用の項の番号と一致する。
1,少陽病,いま傷寒論を引用した所である。
2,呼吸器疾患 経絡の少陽経,厥陰経が胸を通ること,前記の傷寒論の条文に胸中と関係があること,小柴胡湯の処方中に肺の気に作用する半夏があり,適応症状に欬があることなどが参考になる。
3,急性炎症性の肝機能障害を主にする肝臓胆嚢疾患
4,胃腸疾患 5行では相克の木土の関係にある。
5,体の側面の炎症や緊張 肝胆は少陽の部位で,体の側面が少陽の部位に当る。
6,腎臓疾患 5行の相生でいうと水木に当るが,現代医学的に考えても肝臓機能障害があると腎臓の変化も治りにくいと考えられる。肝腎障害症(臨床の進歩5松尾厳)のような考え方もある。
7,女性生殖器疾患 肝経は陰を絡うに基く。
8,男性生殖器疾患 右に同じ。
9,皮膚疾患 肝臓の代謝障害が関係する。
10,眩,嘔 ともに小柴胡湯の適応症状の中にある。
11,神経質 肝と精神症状との関連に基く。
12,知覚神経障害 肝障害の症状に基く。
13,心臓疾患 肝と心とは5行でいうと木火の相生関係にある。小柴胡湯の適応症状の心煩,心下悸,胸満なども参考になる。
14,眼疾患 眼は肝に属するとの考えに基く。
15,筋疾患 筋肉の攣急は肝に関係する。
16,高血圧 精神作用と自律神経失調に関係があるとき。
17,振顫 筋肉の痙攣と見なす。
18,吐血 肝は血を蔵すに基く。

(2) 適応症状
1,視診
小柴胡湯の適応症になる人は概して細おもてで,決して卵型の顔はしておらず,また脂ぎったり赤ら顔でもない。
眼裂は割合に細いが,柴胡桂枝乾姜湯ほど切れ長とか鋭いとか,眼尻が吊上がっているようなケンのある顔ではない。
こめかみや額や鼻根部の明堂あたりに青筋すなわち静脉の怒張があるものが多く,子供や婦人では眼球結膜が青味がかっていることがよくある。またこめかみに斜の,割合に太い持上ったすじが出ていることがある。
手掌紅斑はよくある。
耳の中輪が飛出していたり、足の拇趾が上に反逆っているものは非常に多い。
下口唇が乾燥したり皮がむけたりすることは柴胡桂枝乾姜湯の適応症には多いが,小柴胡湯ではあまりない。

2.脉診
寸脉沈弱又は濇,尺脉細又は弦細のことが一番多い。
しかし脉は一つの処方には一つの定った脉しか現われないというわけでは決してない。症状或は状態に応じて,それと釣合うような脉が現われるものである。だから脉で大体の状態はわかり,症状で具体的な処方の適応証がわかってくる。或は症状で具体的な処方の適応証がわかってくる。或は症状で若干の処方が浮んできて,脉で決定的にその中から適当な処方を選出することができるのである。
一つの脉がさまざまな違って処方にも現われることがある。例えば小柴胡湯と小建中湯などはよい例で,それを区別してゆくのが症状である。
だから脉と症状は対応するものとして考えないといけないのであって,脉だけみれば症状はどうでもいいというのでもなければ,症状だけわかれば脉はどうでもいいというわけでもないのだ。実際には症状から若干の処方が浮んで来て,その中のどれかをきめるのが脉になるのである。
小柴胡湯の脉は前記のように小濇尺弦のほかに沈緊(少陽病385条太陽病下270条) 浮(陽明病352条)などがある。浮と沈とではまるで反対だ。だから脉は出たらめで当てにならぬという訳では決してなく,浮なら浮,沈なら沈になる理由があるからである。それによって症状なり脉なりの病理の判断ができるからである。もし脉と症状とが対応せず,矛盾しているとすれば虚労や瘀血も傷寒の重症のときで,それはそれとしての意味があるのである。

3,舌診
小柴胡湯の舌は傷寒の時は薄い白苔のことが多いが,雑病のときは決っていない。殊に小児では苔がないことが多い。
白苔があるから小柴胡湯の適応症で,白苔がないから小柴胡湯の適応証ではないとしてしまってはいけない。
医療手引草続編「満舌白滑,尖反って鮮紅,少陽経なり。この湯に加減す。
白胎中紅舌,少陽経の症なり。こ英湯に加減す。
舌尖白く,その症寒熱耳聾口苦く脇痛には此湯に宜し。舌根白く,尖黄なるはこの湯に宜し」
これを見てもの小柴胡湯の舌は舌尖と舌根とが一様でなく対照的な変化を現わしていることが注意される。

4,腹証
小柴胡湯の腹証には確かに胸脇苦満を呈することが多い。胸脇苦満の程度はまちまちだが,大柴胡湯のように心下急というほど劇しくはなし,四逆散のように腹直筋が二本棒といわれるくらいにブリブリと盛上ったように緊張しているのでもなし,柴胡桂枝湯のように心下支結といわれて薄く浮び上ってい識ようにピンとしたのでもない。反対に殆ど緊張がわからず,僅かに張る感じぐらいのこともある。それは肝臓の緊張が肝臓全体に一様に起るのではなくて,部分的に上部で起れば胸廓に包まれた部分だけで,腹直筋の緊張としては現れないからである。これに反して下部で起れば内臓・腹壁連関は下方で肋間神経を通じて脇下の辺に著明に起るはずである。
傷寒論,金匱要略を通じて小柴胡湯の条文は20条あるが,そのうちで胸脇苦満,或は脇下満といっているのは僅かに8条だけで,他の12条は何とも云っていない。他覚的に腹壁緊張が認められず,ただ自覚的に胸脇満,胸満脇痛脇下満,脇下満痛,脇下硬満,脇下痛,脇下痞硬などが起ることもある。肋骨弓下の腹筋緊張が必ず何時も強いならこんなみちまちな表現をするわけはない。
左右もまた問題にしてよいと思うが,左脇下は肝で,右脇下は肺だから,小柴胡湯の場合は左の胸脇苦満のときに使うべきだとの和田東郭の説には従いかねる。小柴胡湯の場合は左,或は右,あるいは両側に緊張が起るもので,左右に拘泥する必要はない。
次に胃部振水音や腹動は原則的には起り得ない。だが例えば胃部の叩打の仕方で僅かに振水音があるとか,僅かに腹動を触れるなどはあり得るし,それは無視成て差支えない。
古人の説にも耳をかたむけてみよう。
聖剤発蘊「胸状平にて広く肋骨のはづれ少し張上りて両脚をさげたる如く拘攣の様に指頭に応じ鳩尾の処痞鞕してそれより下は中通りさくが立て軟かに小腹はほっそりとしてすなほに有るべし。但し変態して兼方を挟む時は臍傍或は小腹凝結するものあり。偖柴胡の毒は背中より肩へ上り胸脇へ下り満して脇下へ足をさげたる者なり。故に背7-9の辺はる者多し。畢竟胸脇苦満の余波が脇下へ及ぼしたる者と心得べし。此状を名けて両挺と云。又変態して脇肋のはり少き者は胸膈へ張りをもつ者也。小児疳気虫気など云てぢれれつよきに此証あり。但し小児は腹部総て濡弱なる者故両挺の状見はさず胸の状ばかりにて此方を使用す識ことあり。大人にても肝気つよくぢれる者柴胡剤の腹状多し。又方証相対し久服する間に風と身体振慄発熱(汗出る等のことあり。病家驚て急を告ることあ識者なり。是れ柴胡の瞑眩にて佳兆なり」

5,背証
小柴胡湯の場合は隔兪,肝兪,胆兪辺に反応が見ることが非常に多い。反応とは触診上では最長筋の峯の辺り,太陽膀胱経の右の兪のところが緊張し,多くの場合に圧痛があり,稀には反って気持がいいということもある。反応は右側に出ることが多いが稀には左側にも出る。両側に現れることは少い。
立光式経候探知器で検索すると一層頻度が高く認められる。
右の肩こり,肩井,肩中,肩外あたりに緊張と圧痛が認められることが多い。
鮎川静氏の経験によると
「背部上方に於て右に相当突出部(図略)を見ることが多い。私は之を柴胡剤の一つの目標としている。大小程度の差はあるがこの場合,腹診上胸脇苦満は必発の徴候である(漢方と漢薬8-1)
とのことである。
(※隔兪は、膈兪の誤植?)


6,経絡症状
相見三郎氏「近頃私は胸脇苦満の他に肝経に添った部位に異変がありはしないかと調べることにしている。そうすると小柴胡湯の証の患者には,はたして色々な肝経の異常が認められる。頭部の症状としては頭痛があったり眼がかすむと訴えたり,或は咽喉に何かつかえて,いらつく感じに悩まされたりしている。胸部の症状としては胸痛や,肋間神経痛や,狭心症,心臓神経症を疑う訴えがある。又腹部では種々の胃症状や廻盲部又はS字状部の圧痛がある場合が多く,この場合は瘀血の症と間違い易い(中略)脚にくると脚気の症状を訴えるものが多い。然しその場合腱反射は普通にあるので脚気と鑑別することは困難ではない」(漢方の臨床2ノ9)
これも参考になるの所見で方意や応用例の所を見て頂きたい。

7,問診
問診を後まわしにしたのは重要で,且つ記載事項が多いからである。
1.発熱症状 条文を見ると往来寒熱,瘧状,身熱悪風,発熱,身微熱,潮熱などがある。必ず熱を伴うという意味ではなく,雑病ならむしろ熱を伴わないのが普通だが,もし傷寒で熱を伴うならこのような熱の出方をすると考えるべきである。その内で一番普通なのは往来寒熱と発熱である。しかし少くとも寒はなく,手足温とか手足煩熱とかはあっても手足冷はなく,乾姜,附子などの温める薬物も入っていない。足が冷えたり腹が冷えたりしたら小柴胡湯の適応証ではなく,もし冷えがあって起った症状なら方後の去人参大棗生姜五味子乾姜のように加減する必要がある。

2.食欲不振 食欲は変りないということはあるが,食欲不振とか腹がすいて仕方がないなどということはない。食欲不振は普通胃の工合が悪いと思われているが,実は肝臓も関係しているのだ。白朮附子湯の食味を知らずや,梔子豉湯の飢えて食すること能わずや,当帰建中湯の不能食飲,大建中湯の不能飲食などとは違って,胸がつかえて食べたくないとの意である。

3.心煩,心痛,胸中煩 心煩には2つの意味があって,心臓部が煩わしい,圧迫感とか苦しいとか心痛とかがそれで,もう1つは精神的な煩わしさである。
大体小柴胡湯適応証の患者は神経質で,神経がこまかく,鋭く,何かあると怒関係した傾向を示す。
よく気がつき,勘がよく,呑込みが速い。ハイという返事が早く脾虚のようにハーイと間がのびたり,煮え切らない返事をしたりすることはない。気が多く,注意力が集中するが忽ち他のものに気が移ってしまう。観念逃走ideenfluectigである。従って好き嫌も多い。
怒りっぽい,気が短い,癪にさわる,それを裏返すと自我意識が過剰で,我が強いために自己の意志を押通そうとするが,どっこいそうは行かず壁にぶつかってしまう。自分を侵害されたように思って怒りっぽくなるしいわば一種の自己防衛である。
このほかに小柴胡湯の適応証の人は理窟っぽく,潔癖で,整理癖などもある。
思うように行かないのはせっかちだからで,じれる,不眠で夢が多いなどのこともある。昼間は陽気が眼に入って物が見えるが,夜になると肝に入って眠れるようになる。しかし陽気が強すぎると依然として眼に残って眠れない。確かに脳の充血性の不眠には柴胡黄芩の薬が有効である。
小柴胡湯の適応証の人でのんびりしている人は決してなく,子供だとじっとしていないで机の上の物をいじったり,そわそわして落つきがない。

4.咳 多くは劇しい欬込みでなく,痰の切れが悪い。どの場合も相当に粘稠で,決して唾のように薄い痰ではない。欬込みがあるなら去人参大棗生姜加五味子乾姜がよい。

5.嘔 小柴胡湯の適応症状をみると喜嘔とか嘔とか乾嘔とかいうだけで,1つも吐とは云っていない。嘔はゲーツという音声で,気であり,肺疾原因をなしており,半夏が主る所である。もしゲーゲー吐いてしまうなら原因は胃にあって,五苓散などの半夏の入っていない処方を使う場合になろう。噦も嘔と同じく気逆によって起る症状で,私も小柴胡湯で治した経験がある。

6.渇 あまり重要な適応症状ではないが,熱と,その上津液が廻らぬため(陽明病351条)に起る症状であろう。八味丸五苓散などの煩渇とは違うが、渇があっても小柴胡湯を使うことができる位に消極的に考えておいた方がよい。

7.頭汗 柴胡桂枝乾姜湯,大陥胸湯,防已黄耆湯梔子豉湯茵蔯蒿湯などにも頭汗があるから注意する。頭汗があるから小柴胡湯の適応でないと判断してはいけない。頭汗はかなり特殊な症状だが,それがあっても小柴胡湯を使ってよい位の気持で使うようにする。

8.鼻乾 肺熱のために起る症状と思われるが,注意していないので気がつかないことが多い。
耳聾や耳痛を伴うこともあり,目の充血を伴うこともあるが,どの場合にでもというほどの一般性はない。

9.産婦鬱冒 産婦でなくても血弱気尽,或は亡陰血虚,陽気独盛の状態なら男子でもよい。太陽病下270条や太陽病中219条ではこの条とまるで反対の陽虚陰盛の状態なのにどちらの場合にも小柴胡湯を使うのだからむずかしい。要するに身体の真中がつかえて陽気と陰気の交流が妨げられ,陽気が上につまったり,陰気が下につまったりしているのが小柴胡湯の適応証である。

10.腹痛 陰虚して起る腹痛で腹痛には浅い部分すなわち腹壁の腹痛と,深い部分すなわち内臓痛の腹中痛と,急にはげしく起る腹中急痛とがあるが,小柴胡湯はこの3つの場合のどれにも使われている。腹痛の部位は多くは上腹部であって,肝,胆,胃,膵等の疾患に使う1つの目標になっている。

11.黄 面目黄,身黄,黄,一身及面目悉黄などと記載されているが,黄疸の場合に他の症状が小柴胡湯の適応証に一致するなら小柴胡湯の適応証になるのであって,黄疸だから小柴胡湯だというわけにはいかない。
大柴胡湯茵蔯蒿湯は胃熱だが,小柴胡湯や小建中湯は脾虚による黄である。

12.頸項強 主として胸鎖乳嘴筋の緊張だが,これは身体の側面で胆経の走行部位であり,項背強と区別するために特に指摘したものと思われる。項背は太陽膀胱経の走行部位になる。

13.耳の前後腫 多くは自覚痛や圧痛を訴える。風池,懸り,客主人などの胆経の部分に圧痛を伴うことがある。耳は外耳,中耳,耳の外辺までが主である。

14.大便 不大便や堅や溏などがあってきまってはいない。不大便でも溏でも小柴胡湯は使えると思っておけばよい。

15.小便 自可,不利,難など各種の場合があるから大便と同様,こういうときにも使えると考えておけばよいのだ。

以上の諸条件を本にして綜合して適応証かどうかを判断するのだが,その中でも脉,視診,腹証,精神症状などは殆どすべての場合に共通する一般症状であり,それと咳とか食欲不振とか腹痛とかの特殊症状を組合せてきめてゆくのである。
「柴胡の証あり。ただ一証をあらはせばすなはち足なり。必ずしも悉く具はらず」(太陽中220条)
は実に巧みに小柴胡湯の証をとらえているが,この一証とは胸脇苦満の類,或は脉のうちのどれだが,小柴胡湯の胸脇苦満,大柴胡湯の心下急,柴胡桂枝乾姜湯の心下支結と多少異っていても,このグループには他の処方にはない特徴で,脉や熱や精神症状にもそういう特徴はあるが,胸脇苦満の類の腹証には及ばずである。
但し前にも述べたように胸脇苦満がはっきりしない場合がある。もしそれが出ていれば問題はないが,出ていなければ熱とか脉とかでつかまえなければならぬ。定ったものであれば胸脇苦満の証をあらはせばすなわち足なりというべきだが,はっきりしないしつまり不定のことがあるので胸脇苦満と云わずにただ一証といったのであろう。
聚方大義 「按此主治柴胡ノ症ノ大法ヲ示ス也往来実熱スルハ正邪相争ヒ正気勝ハ発熱シ邪気勝ハ悪寒スル也邪気胸脇ニ入者ハ苦満ス柴胡ノ症ノ第一目的ニスル也黙々は静也陽邪陰ニ近ク故ウトウトトシテ静ナルヲコノム也内経ニ陽入テ陽則静也ト云此也病人ノ邪気表ニ在ハ能食ス邪裏ニ入レハ食スル事ヲ得ス此症ニ食ヲハ欲セサレハ表裏ノ間ニ邪気有ヲ可知也煩スルハ邪気心ニ通ルカ故也邪熱胸脇ニ満テ湧上ル様ニナル故ニ嘔シヤスシ渇スルハ血液ヲ乾ス故也血液乾枯スレハ筋脈モ滞リ服中痛衝脈直上シテ上胸中ニ至リ宗気トナリテ四方ニ布敷ス可キニ水欠心下ニ容シテ通路ヲササユル故心下悸動シテ欬シテ水気上ニ逆スト云此皆表裏シ症ヲ示ス也故ニ此陽ヲ用テ柴胡胸脇ノ邪熱ヲ解也人参諸薬ヲ和シテ煩躁逆満ヲ治ス黄芩気ヲ降シテ諸熱解ス半夏逆ヲ降シテ上焦ノ爵悶ヲ開キ飲ヲ遂ヒ嘔逆ヲ止ム此症ハ専ラ胸脇ニ邪気ノ犯スヲ云故桂枝麻黄ヲ用ルノ所ニ非ス風邪気皮膚肌腠ノ分ヲ離シテ胸脇ニ入レハ此湯ヲ用ヒテ半表半裏ヲ和解スル也故ニ麻黄湯桂枝湯に次テ用方甚多シ此ニ後世ニテモ内外症ヲ云ス寒熱往来シテ発熱スル者何ノ病ニ因ス広ク此方ヲ用テ効有也凡右方半夏人参ト并用ルハ心下ノ支結ヲ去ルノ妙剤也半瀉柴胡桂枝生姜瀉心前胡建中奔気湯千金七気湯等皆此例也又婦人ノ傷寒中風熱入血室ト云テ経水行リ悪ク或ハ産前後ノ難症往来寒熱ノ邪気胸脇ニ通レバ此湯ヲ用ル也熱入血室ノ症ハ薬ヲ用ヒストモ経行レハ自然ニ治スル者ナルトモ薬ヲ用レハ此湯ヲ主トシテ傷寒全生集ノ加減ニ従テ桔梗枳殻ヲ加可用也又小児ノ疳積テ寒熱往来シテ気分了々ニ用テ又風ヲ引テ耳ノキコエヌ用ル也凡両肋ヨリ服一面ニヒツハツテ少寒熱ヲ兼ルニ用ユ引脹テ濡ニ緩ルハ小建中湯ニ彷彿タリ又虚ノ初ニモ此湯ヲ用テ佳也邪気陥入シテハ少シク白胎生ス咳スルニ五味子乾姜ヲ加エ能効アリ凡此湯ノ目的ハ脈弦ニシテ両肋ノヒツハリ強ヲ候ヒ得テ用ユル也此即邪気胸脇ヲ犯スノ兆也此ヲ以後世小柴胡湯ヲ少陽経ノ薬ト心得ルハ甚非也凡此方後ノ加減ハ後人ノ作也加減セス用ル為ニ主治ニ或法字ヲ加テ諸症皆主之ト云也故ニ多ハ加減ヲ不用シテ可也其内欬者加五味子乾姜凡欬者酸辛ノ味ヲ好故此加減は能効アリ真武湯ニ五味子細辛乾姜ノ加減モ用意ノ事也」

正体類要「小柴胡湯は一切撲傷等の証,肝胆経の火盛に因て痛をなし血を出し,自汗,寒熱往来,日哺発熱,或は潮熱身熱,咳嗽発熱,脇下痛をなし両肱痞満するを治す」

本草権度「玉茎挺長するは亦湿熱なり。小柴胡湯の黄連を加ふ」
小柴胡湯には飲食を欲せずとて飲の字を先に挙げているから水に関係した症状があり得ることは考えられるけれど,別の立場から考えると,玉茎は筋と同じに見て,肝の支配する所であり,それは宗筋に連なるもので傷寒論の平脉法71条の細註に下は玉茎を滎す。故に宗筋之を緊縮すというのがそれを示している。つまり玉茎が長くのびたのは肝の熱と関係があるから小柴胡湯で肝熱を去ればよいという意味だろう。

医療手引上編「傷寒胃実の証,脇下と手足心と両処に汗なきものは未だ結定せず。やはりこの湯を用ゆべし」
小柴胡湯は胃実ではなく胃虚であろう。胃実なら大柴胡湯であるべきだから著者の加藤謙斎の誤解と思うが,理くつはともかく,経験的にはこの条も参考にするに足りる。

○応用例
柯氏「小柴胡湯は脾家虚熱,四時瘧疾の聖薬となす」
直指方「傷暑,大熱を発し頭痛,自汗,咽疼,煩躁,腹中熱緩く諸薬効あらざるものに最もよい」
同書「咽乾喉塞,亡血家,淋家,衂家,瘡家,動気は並びに汗すべからず。皆この湯を用ゆ」
傷寒諸論「傷寒盗汗の責は半表半裏にあり。胆に熱ありとなす。専ら小柴胡湯を用ゆ」
易簡方「柴胡湯は小児温熱をことごとく能く治療す」
成蹟録「一男子年三十,傷寒を患ふ。四肢逆冷攣急して悪寒す。その脉沈にして微。己に斃れんとす。諸医参附の剤を投ずるに効ふること二三剤にして応じ,その脉復す。続て服せしむること二十余剤にして全く癒ゆ」
古方便覧「表熱散じて後に気むつかしく不食しつかえるによし」
小児直訣「その母怒によって咳嗽脇痛す。その子も亦然り。母小柴胡湯を服す。その子も亦癒ゆ」
成蹟録「一婦人発黄し心中煩乱して口燥き胸脇苦満して食することあたわず。数日の後両目盲して物を見ることを得ず。余すなわち此湯及び芎黄散作り与ふるに目遂に明を復し,一月余にして諸証全く癒ゆ」
医療手引草別録上「痢疾,用る目あては鼻の中が黒くなるに用ゆべし。」
老医口訣「久しく大便せざる者,小柴胡湯を用いて程よく大便を通じ病解することあり」
成蹟録「一男子耳聾を患い脇下硬く時々短気上衝し,発すれば則ち昏冒して言うこと能わず。両脚攣急,転倒すること能わず。毎月一二発す。先生これを診し,小柴胡湯を投じ,兼るに硫黄丸を以てし,而癒ゆ」
建殊録「京故木屋衛魚店,吉兵衛の男年十四才,通身浮腫,心胸煩満,小便不利し脚殊に濡弱なり。衆医効なし。先生これを診するに胸脇苦満,心下痞硬,四肢微熱す。小柴胡湯を作ってこれを飲ましむ三服を尽して小便快利し腫脹随て減ず。未だ十服に満たずして全く癒ゆ」
成蹟録「水腫に胸脇苦満し小便利せざるものあり。三黄丸,平水丸を兼用すべし」
百疢一貫「経水天季止まざる者には黄連解毒湯或いは小柴胡湯,温経湯類,症に従いて用いるなり。これらの方にて片手に黄芩を用いるなり」成蹟録「婦人産後寒熱ありて狂の如くなるに此方の証あり」
済陰綱目「小柴胡湯は婦人風邪帯下五色のものを治す」
医方口訣集「下疳瘡又は便毒,嚢癰等の類凡そ前陰に在るの疾はみなこれを用う」
建殊録「一賈人,面色紫潤,掌中の肉脱し四肢痒痛す。衆医おもえらく癩疾と。方を処するもみな効なし。先生これを診するに胸肋妨脹,心下痞硬す。小柴胡湯及び梅肉丸を作ってまじえ進むること数十日,掌肉もとに復し紫潤始て退く」
成蹟録「一男子年四十余,初め手背に毒腫を発し,愈て後一日忽然として悪寒発熱し,一身面目浮腫し,小便通ぜず。余診するに心下痞硬し胸脇妨脹す。すなわち此方及び平水丸をまじえ進めて小便快利して全く愈ゆ」
成蹟録「小児驚風或はものにおそれて夜寝ざるによし」
成蹟録「疳証にて下痢発熱し脇腹満するに紫円を兼用してよし」


〈漢方と漢薬〉 第5巻 第11号第12号
小柴胡湯の合方 木村 長久先生

小柴胡湯は単方として用ひられ,又2,3の薬物を加味して用いられ,或は他の薬方と合方にして用いられる。今浅田家方函に収載されている小柴胡湯の合方を列挙してみよう。

1,柴胡桂枝湯
小柴胡湯と桂枝湯の合方である。傷寒論に出ている。比較的穏やかな薬方で,応用範囲が広く,余が日常頻用する方剤の一つである。此方に対する口訣は,
此方は世医風薬の套方とすれども左にあらず。結胸の類症にして心下支結を目的とする薬なり。但表症の余残ある故に桂枝を用るなり。金匱には寒疝腹痛に用いてあり。即ち今所謂疝気ぶるひの者なり。及腸癰生ぜんとして腹部一面に拘急し肋下へ強く牽しめ,其熱状傷寒に似て非なる者此方に宜し。又此方に大黄を加えて婦人心下支結して経閉する者に用ゆ。奥道逸法眼の経験なり。
柴胡桂枝湯は感冒薬として用ひて具合がよい。感冒の初起悪寒発熱,脈浮緊は葛根湯麻黄湯を用ひるが,5,6日経った感冒は傷寒論にも云うふ通り少陽部位に入るものが多い。しかも脈に浮の気味が残り,悪寒がある。こんな症はどうも葛根湯や,麻黄湯ではピッタリしない。仮りに之に葛根湯麻黄湯を用ひても病状は軽くなるが,サッパリ抜け切らない。初起適当な時機に用ひるような目覚しい効は得られない。斯様な症には柴胡桂枝湯が具合よく応ずるのである。太陽と少陽の合病の感冒で,熱勢劇しく煩躁する者には柴葛解肌湯(浅田家方)が特効を奏する。柴胡桂枝湯を風薬としても葛根湯とは異る場合に用ひるのであって,感冒一切といふわけにはいかない。そこで口訣に「風薬の套方とすれども左にあらず」と云はれたのである。次に「結胸の類症にして心下支結を目的とする薬なり」と云はれているのは難解である。結胸と云い,心下支結と云うのが臨床的に把握できなければこの一句は分らない。心下支結は自覚的症絡であるか,他覚的症候であるか,又は自他覚的症候であるか。柴胡桂枝銀の適当する場合に,他覚的には特に抵抗を感じないが塞えることを訴えるのは屡々である。それが心下支結に当るのであろうか。何れの心下痞,又は心下痞鞕の類であろうが,それとどうちがうのか。結局よく分らない。表症の余残ある故に桂枝を用るなり」は分ると思う。結胸も心下支結も要するに少陽證であるから,逃げるやうではあるが,感冒で太陽少陽合病の場合に用る薬方であると云うことになる。
さて柴胡桂枝湯を感冒薬とのみ考えは甚だ狭いことになる。其他種々の病症に用いられるのである。金匱要略には寒疝腹痛に用いてある如く,諸腹痛の治方として重要なものである。余も腹膜炎,胆石症,胆嚢炎,胃痙攣,溜飲症の腹痛,胃腸カタル等に頻繁に用いているがよく効を奏する。口訣には「腸癰生ぜんとして腹部一面に拘急し肋下へ強く牽しめ,其熱状傷寒に似て非なる者此方に宜し」とあつて,蟲様突起炎の初起,腹部一面にデファンスがあり,疼痛する場合に用いることがある。又婦人の経閉にも用ゆとあるが,さもあるべしと肯かれる。かくの如く此方は諸種の疾患に用ひられるが,同一方を用うる以上何かそこに共通した点があるべきである。それはやはり腹證に在ると思う。柴胡桂枝湯の腹證は小柴胡湯の腹證と,桂枝湯の腹證が合併した場合である。故に直腹筋の拘攣を触れるのを規則とする。然し腹筋の拘攣を触れなくても,腹部一般に抵抗があり,充実感ある場合であれば用いて差支えない。之に反して腹壁菲薄で無力性の場合には此方は適当しない。
柴胡桂枝湯に大黄を加えて,便秘症で腹部膨満感を訴える者に用いてよく効を奏する。又小児の食餌中毒を起し易い者に同方を用いて成績のよかったこともある。本方に就いて嘗て本誌(第1巻第8号)に書いたことがあるので,この辺にして次に移る。

2.柴胡四物湯
その名の如く小柴胡湯と四物との合方で,三元湯とも云う。口訣に曰く,
此方は小柴胡湯の症にして血虚を帯る者に宜し。保命集には虚労寒熱を主とすれども広く活用すべし。此方小柴胡加地黄湯に比すれば血燥を兼る者に験あり。
この方は経験が尠いので著効を得たことはないが,良方であると思う。「小柴胡湯の症にして血虚を帯る者」と云えば一言にして本方の適応症を表現している。余は産褥熱に二例経験があり,一例には効果を認めたが,一例は不明であった。産褥熱,産後の肺結核に用ふべき場合があろうし,男子にも発熱性疾患にて慢性となったものに本方の適する場合があり得ると思う。小柴胡湯の名方たるは固よりであるが,四物湯もそれに劣らぬ妙方であるから,両者の合方を求めるこの柴胡四物湯も必ずその独壇場があるに違いない。

3.柴苓湯
小柴胡湯と五苓散の合方である。口訣に曰く,
此方は小柴胡湯の症にして煩渇下痢する者を治す。暑疫には別して効あり。
急性胃腸カタルにて,発熱,煩渇,下痢する者に用ひて効がある。斯様な症は夏期に多い。感冒から胃腸カタルを起した場合にもよい。

4.柴胡解毒湯
小柴胡湯に黄連解毒湯の合方である。口訣に曰く,
此方は傷寒のみならず,凡て胸中に蘊熱ありて咽喉に瘡腫糜爛を生じ,或は目赤頭瘡,或は諸瘡内攻壮熱煩悶する者を治す。古人の言通り 諸瘡瘍は肝胆経をねらふて柴胡を用るが定石なり。其内熱毒甚しき者は黄連解毒を合すべし。黄連能く湿熱を解すればなり。
これも名方と思うが経験がないのでよく分らない。口訣によれば先づ傷寒に用ふることが分る。少陽病の熱は小柴胡湯の主治する所である。然し少陽熱が小柴胡湯でみな治ってしまふなら話は簡単であるが,実際はそんなわけにはゆかぬ。少陽熱も古びてくると小柴胡だけでは応じないのである。そこで小柴胡湯に四物湯の滋潤を藉りるとか,黄連解毒湯の清熱を仮りるとか云うことになる。然しどんな少陽病が柴胡四物湯によろしく,どんな少陽病が柴胡解毒湯によろしいかは臨床的に把握したものでなければ云へないことである。余は嘗て15歳の少年の肋膜炎(?)で高熱の続いた場合に柴胡剤を用いて効がなく,四物湯黄連解毒湯の合方で急速に解熱した例を経験している。そんなことから柴胡解毒湯の適する少陽熱があ識に相違ないと考へている。
此方は其他に胸中に蘊熱ありて咽喉に瘡腫糜爛を生ずる者を治すとあるが,どんな病症を指すか見当がつかない。「或は目赤頭瘡,或は諸瘡内攻壮熱煩悶する者」は気をつければ遭遇しそうな例である。諸瘡瘍にて湿熱甚しき者に用ふとなれば,諸湿疹,癤癰,淋巴腺炎等に用ふべき場合がありさうに思われる。此方に就いて多数経験を持つ人には何でもないことであっても,経験を持たぬ者には洵に哀れ揣摩臆測をなすに過ぎない。実に経験は尊いものであり,無限の強味である。博聞強記も欲する所であり,経験豊富も望む所である。両者併合すれば申分ないが,何れかといえば後者を採りたい。

5.柴陥湯
これは小柴胡湯に小陥胸湯の合方である。此方には縁があって,先父が肋膜炎に対して特効薬的に用いた関係上,そのまま承け継いで肋膜炎,肺炎,気管支炎,肺結核に濫用している。これは本朝経験のものであるから,本邦人の案になる薬方である。小柴胡湯の證に小陥胸湯の證を合併した場合に用ひると云へばそれまでであるが,臨床的にはなかなか分らない。経験上肋膜炎には屢々著効を奏するから,肋膜炎には傷寒論の結胸證に当るものだと考へるだけのものである。本方に対する浅田先生の口訣は難解である。

此方は医方口訣第8条に云通り,誤下の後邪気虚に乗じて心下に聚り,其邪の心下に聚るにつけて胸中の熱邪がいよいよ心下の水と併合する者を治す。此症一等重きが大陥胸湯なれども,此方にて大抵防げるなり。又馬脾風の初起に竹筎を加へ用ゆ。其他痰咳の胸痛に運用すべし。

この口訣では本方の適する病症は把へ難い。従って本方を使ってみようと云う気が起きない。然し幸に自分は家の流儀で多数経験の例があるが,兔に角気管枝炎,肋膜炎,肺結核には捨つべからざる薬方と考えている。口訣に「其他痰咳の胸痛に運用すべし」とあるが,気管枝炎で咳嗽,喀痰を伴い,咳嗽時に胸部にひびいて疼痛を訴え,痰の切れが悪く,喀出時に咽喉が痛む様に感ずる場合には本方がよく奏効する。之に竹筎を加え、或は更に麥門冬を加えて用ひている。肋膜炎に対しては大多数に於て成績がよかった。即ち服薬を開始すると2,3日で気分がよくなり,食慾が出る。熱も目立って下って来ると云うのが多い。肋膜炎は安静にしてゐれば治る病気であるから,本方がどの程度に有効かを判定することは困難であるが,少くとも患者の報告から,病状の観察から有効を考えざるを得ない。然し柴陥湯は肋膜炎には著効を認めずと云ふ説もある。この両説があることに就いては種々討議すべき点があるが,あまり傍道に入るので省略する。又他の薬方にて肋膜炎に好成績を挙げている人もあることを知らなくてはならぬ。
肋膜炎のすべてが柴陥湯で治ると考えたら間違いである。中には柴陥湯の服用によって反って病勢の悪化する者もある。大多数に於ては良結果が得られるから,まづ此方を投与して1,2週間の経過を観察し,不適当な場合としては肺結核が相当に進行していて肋膜炎の症状を現してゐるもの。之は熱が消耗性であり,脈細数,腹力脱失の候がある。即ち聴診,打診上では肋膜炎の徴候を現してゐても他の一般状態は既に肺結核末期に近い状態にあるものである。 もう一つは無力性体質の場合。 之は脈沈弱,腹部菲薄無力性で,すべて刺戟に対して反応が鈍い。之には柴胡剤は適当しない様である。
肺結核の発熱,咳嗽に対しても柴陥湯は屢々有効と思われる。要するに小柴胡湯の適当する体質,病状の範囲に於て用ひれば奏効を期待することができる。口訣には馬脾風(ヂフテリア)の初起に用ふとあるが,経験がない。
最近になって柴陥湯を溜飲症の嘈囃甚しい者に用いている。溜飲症に柴胡桂枝湯を用いることは既に述べたが,小陥胸湯に枳実,山梔子を加へたものは,加味小陥胸湯と名づけて嘈囃の劇しい者に効がある。この二つの考へから柴陥湯に枳実,山梔子を加へて溜飲症の嘈囃に用ひることになったのである。まだ経験は少いが成績が良いやうである。

6.柴蘇飲
これは小柴胡湯と香蘇散の合方である。香蘇散は風邪に対する軽い発散剤として用いられる。故に此方は小柴胡湯に軽い発散の意味を加えたもので,感冒後大勢は解したが,僅かの所がサッパリしないという場合に用いてよろしい。殊に感冒後の頭重,耳聾によい,又微熱咳嗽にもよい。口訣には
此方は小柴胡の證にして鬱滞を兼る者に用ゆ。耳聾を治するも,少陽の余邪欝滞して解せざるが故なり。其他邪気表裏の間に鬱滞する者に活用すべし。
とある。風邪後の耳聾とは欧氏管の腫脹狭窄によるもので,耳の塞った感じ,物音が遠くに聞える,軽い耳鳴等を訴へる場合を指す。すべての難聴症に本方が奏効するという意味ではない。

7.柴胡三白湯
小柴胡湯に白朮,茯苓,芍薬を加えたもので,浅田家の家方になってゐる。
口訣に曰く,
此方は参胡三白湯の症しして熱勢一等甚き者を治す。又暑痢嘔渇,腹痛不止者を治す。
小柴胡湯に白朮,茯苓,芍薬であるから下痢,嘔渇,腹痛に適当であろうことは推察に難くない。参胡三白湯とは三白湯(白朮,茯苓,芍薬)に柴胡,人参であって,傷寒,発熱,脉虚数,或は下利する者に用いる。大体虚證であって,補中益気湯真武湯よりは手前で少陽の位にある者である。参胡三白湯で実證の場合がこの柴胡三白湯になる。

8.人参飲子
これは小柴胡湯に麥門,竹葉を加えたものである。口訣に曰く。
此方は小柴胡湯の一等熱甚しく,煩渇嘔吐止まざる者を治す。咳嗽には杏仁を加え,潮熱するには鼈甲を加う。往年麻疹後の勞熱に用いて特効あり。其他諸病に活用すべし。
小柴胡湯の熱が数日を経るも解せず,煩渇嘔吐する者によろしい。高熱が数日続くとどうしても津液乏少の傾きになる故に煩渇の症も現れるわけである。その治療としては柴胡,黄芩の如き苦味清熱剤ばかりでは面白くなく,滋潤剤が一枚加ると俄然妙効を奏するのである。此方に於て麥門冬にその重要性を発見するのである。竹葉も亦淡味清熱剤として相当な働きを演ずるものであろう。それから方名が人参飲子となってゐるから,人参が主要視されてゐるものと考えられる。人参な胃気を扶けて,亡津液を治する。此場合は御種人参を用ふべきものであろう。感冒熱,麻疹,カタル性肺炎の熱の永引くものに本方の適する場合が間々ある。更に「咳嗽には杏仁を加え,潮熱には鼈甲を加えて」用ひる。今までの経験では嘔吐は必ずしも重要な症候ではなかった。

9.加味小柴胡湯
此方は暑疫,協熱痢を治するものとなってゐる。其方は小柴胡湯に竹筎,麥門,黄連,滑石,茯苓を加えたものである。口訣に曰く,
此方は一老医の伝にて,夏秋間の傷寒協熱痢に経験を取りし方なれども,余は毎に滑石を去りて,人参飲子の邪勢一等重く,煩熱心悶する者を治す。又竹筎温胆湯の症にして往来寒熱する者を治す。
この口訣によると,浅田宗伯先生は人参飲子の病勢一等重く煩熱心悶する場合に加味小柴胡湯去滑石を用ひられたのである。実際に於ても,人参飲子を用いて熱が下らぬ場合に,更に黄連,茯苓を加へて与えると,熱が下ることがある。然し余は多く,少陽熱があって下利する場合に用ひている。肺結核に下利を伴う者で,体力の消衰甚しからざる場合には本方にて好調に転することがある。
竹葉と竹筎とは性用略々同じきものであるが,其差異は古方薬議に説く所によって推察し得る。即ち同書竹筎の項に曰く,
竹葉,竹皮は皆甘寒,其性一致す。故に後世有用して差別なきに似たり。蓋し竹葉は性軽微,其気升るべく降るべし。故に石膏,附子と相配して虚熱を清し,逆気を降すなり。惟だ竹皮は則ち性緩潤,中を安んじ,胃を清くす故に橘皮竹筎湯,竹皮大丸等之を用いて以て虚煩嘔噦を治す。
黄連は苦味清熱剤であり,同時に健胃整腸的にも働く。茯苓の効は水道を利するに在るので,或は浮腫を去り,下痢を止め,胃内停水を導き,渇を治し,動悸を鎮める等の効がある。熱病の永引きたる場合には自ら津液の不循流を生ずるので,それを整へる為に茯苓が治方に配伍されるものと思ふ。滑石には小便を利し,渇を止め,煩熱心躁を除き,熱を解すといった様な効があるとして加味されたものであろう。然し石剤であるので,多少胃腸を害する傾きがある。原方に従って加用するも,或は此品を去って用ふも,場合によっては適宜に行へばよい。(後略)




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