茵蔯蒿湯(いんちんこうとう)
本方は主としてカタル性黄疸の初期で実證のものに用いられる方剤であるが、必ずしも黄疸がなくてもよい。裏に瘀熱のあるのを目標とする。
目標としては、腹部殊に上腹部が微満し、心下より胸中にかけて如何にも不愉快で、胸が塞ったような感じがあり、口渇・大小便不利・頭汗・発黄等を認める。脈は多くは沈実で、舌には黄苔のあることがある。
本方を構成する茵蔯蒿には、消炎・利尿の外に黄疸を治する特能があり、梔子にもまた消炎・利尿の外に黄疸を治する効があり、大黄には緩下消炎の効がある。 故に黄疸でも肝硬変症や肝臓癌等から現われるものには無効である。本方はカタル性黄疸のみならず、脚気・腎臓炎・蕁麻疹・口内炎等その他如何なる疾病で も、上述の如き目標を確認する時はこれを用いてよい。
『漢方精撰百八方』
49.〔方名〕茵蔯蒿湯(いんちんこうとう) 〔出典〕傷寒論。金匱要略。 〔処方〕茵蔯5.0 梔子3.0 大黄1.0 〔目標〕
1.熱があって便秘し、頸から頭の方にだけ汗が出て、のどが乾いてのむのに、小便の出が少ないもの。こんな場合には、二、三日たって黄疸になるおそれがあるが、黄疸の有無にかかわらず、この方を用いる。
2.熱が出て、かぜかと思っているうちに、からだが黄色になった。気をつけてみると、小便の出が少なく、腹がはって、大便の色が灰色で、少ししか出ない。
3.さむけがしたり、熱が出たりして、食欲がない。たべるとめまいがし、胸の気持ちがわるく、吐きそうになる。そのうちにからだが黄色になった。
〔かんどころ〕腹がはる。殊に上腹部がいっぱいつまった感じで、たべたものが落ちつかず、吐きそうである。便秘と尿の不利と口渇をたづねてみて、これがそろえば、この方の適応症と考えてよい。殊に尿の着色がひどくて、濃厚で、からだをかゆがれば、この方を用いてよい。腹証上、心下のつかえがあり、肝の肥大を証明することがあるが、肝の肥大がなくても用いる。
〔応用〕肝炎。じんましん。ネフローゼ。腎炎。
〔附記方名〕急性肝炎の場合には、茵蔯蒿湯だけで奏効することが多いが、慢性肝炎、肝硬変症には、小柴胡湯合茵蔯蒿湯、大柴胡湯合茵蔯蒿湯を用いた方がよいと思われるものがある。
〔治験例〕じんましん。十七才の男子、一ヶ月ほど前から、じんましんが出て治らない。食欲はあるが、胸がつまった感じでさっぱりしないという。大便は毎日あるが、今までより量が少なく硬く、快通しない。 腹診上、胸脇苦満は軽微、心下やや満。この患者の、胸のつまった感じは、梔子の入った方剤を用いる目標の「胸中塞がる」の状に相当するものである。 そこで胸のつまるという症状と便秘を目標に、茵蔯蒿湯を用いたところ、七日分で全治したが、あと七日分追加投与した。じんましんの消失とともに、胸のつまる感じも亦よくなったこと勿論である。
大塚敬節
『漢方薬の実際知識』 東丈夫・村上光太郎著 東洋経済新報社 刊
茵蔯蒿湯(いんちんこうとう) (傷寒論、金匱要略)
〔茵蔯蒿(いんちんこう)四、山梔子(さんしし)三、大黄(だいおう)一〕
本方は、陽明病に属し、裏の実熱による各種疾患に用いられる。したがって、裏にうつ熱と瘀水があって煩悶し、上腹部が微満し、心下部の苦悶や 不快を訴え、胸がふさがったように感じ、頭汗(身体には汗がない)、頭眩(ずげん、頭がくらむ)、口渇、発黄、食欲不振、便秘、小便不利または小便不利ま たは減少などを目標とする。
〔応用〕
つぎに示すような疾患に、茵蔯蒿湯證を呈するものが多い。
一 カタル性黄疸、流行性肝炎、血清肝炎その他の肝臓疾患。
一 血の道、子宮出血その他の婦人科系疾患。
一 じん麻疹、薬疹、皮膚瘙痒症その他の皮膚疾患。
一 腎炎、ネフローゼその他の泌尿器系疾患。
一 そのほか、口内炎、舌瘡、歯齦炎、ノイローゼ、自律神経失調症、脚気など。
『《資料》よりよい漢方治療のために 増補改訂版 重要漢方処方解説口訣集』 中日漢方研究会
2.茵蔯蒿湯(いんちんこうとう) 傷寒論
茵蔯蒿4.0 梔子3.0 大黄1.0
(傷寒論)
○陽明病,発熱汗出者,此為熱越,不能発黄也。但頭汗出,身無汗,剤頸而還,小便不利,渇引水漿者,此為瘀熱在裏,身必発黄,本方主之。(陽明)
○傷寒七八日,身黄如橘子色,小便不利,腹微満者,本方主之。(陽明)
○穀疸之為病,寒熱不食,食即頭眩,心胸不安,久々発黄,為穀疸,本方主之。(黄疸)
〈現代漢方治療の指針〉 薬学の友社
咽喉がかわき胸苦しく便秘するもの。黄疸を併発したものには特に好適。
本方は発黄を治す聖薬ともいわれる。また右症状の伴なった肝臓障害による蕁麻疹に繁用される。肝炎,腎炎に応用する場合は通常五苓散と合方して用いるが,更に便秘がひどく,みぞおちが硬く張っているときは大柴胡湯と併用すればよい。本方は肝硬変,肝臓癌による黄疸には無効である。軟便で便秘がひどくない人や特に虚弱な人には不適で,このような人の黄疸には小柴胡湯,黄連解毒湯合方を,蕁麻疹には小柴胡湯,桂枝茯苓丸合方などを考慮すべきである。
〈漢方処方解説シリーズ〉 今西伊一郎先生
(1)カタル性黄疸 微熱や悪寒がして頭部に発汗があり咽喉の乾きを訴える初期症状を,対象にする。亜急性や慢性に経過するもので,微熱や悪寒はないが口渇や胸部圧迫感がひどく,若干黄疸症状が残っているものには本方と五苓散を合方するとよい。
(2)口内炎,肝機能障害にもとずく口内炎に前記症状を目安に応用する。特に本方が適応するものは,便秘して口腔粘膜や舌部の炎症がひどく,潰瘍を生じ口臭や熱感を認める急性症状が多い。この症状に似て胃痛,胃部停滞感を訴えるものは黄連湯を考える。
(3)ジンマ疹,食毒や薬疹に応用されるが,いず罪も前記症状を対象にする。
(4)腎炎,ネフローゼ,胸部がふさがったような自覚や苦悶感,口渇,尿量の減少,便秘,微熱,悪寒なとの症候複合を目標に,ほとんど五苓散と合方して応用される。
(5)注意事項 本方は虚弱者や衰弱しているものには用いない。これらには小柴胡湯合五苓散,黄連解毒湯,梔子柏皮湯などを考慮するとよい。
〈漢方処方応用の実際〉 山田 光胤先生
黄疸に用いる処方であるが,黄疸がなくても用いられる。その目標は,上腹部がなんとなく張って苦しく,心下部より胸部にかけて塞がるような何ともいえぬ不快な苦しさがあり,食物がとれず,大便が秘結し,尿利が減少する。この時黄疸があれば,少し排泄される大便は白色で石鹸のようになり,小便は量が少なく色が濃い黄褐色や黄赤色になる。また口渇,頭汗のあることもあり,胸がむかむかして嘔きけを生じ,食物をとると頭痛がしたり,めまいがしたりして嘔吐がおこり,食物が通らないものである。こ英さいの腹証は,しばしば肝臓が肥大し,心下から右季肋下にかけて板のような固い抵抗を生じ,これを「古家方則」には「心下堅大」とある。脈は多くは沈実あるいは遅で,舌には黄苔のあることも少なくない。茵蔯蒿湯は,一般に黄疸の処方と考えられているが,むしろこれは上腹部ないし腹部の炎症を去り,利尿をはかり,ついで黄疸を治す薬方である。また黄疸には胆道閉塞性の黄疸,肝細胞性の黄疸(肝細胞の機能障害による胆汁分泌障害),溶血性黄疸の別があるが,茵蔯蒿湯が最もよく効くのは肝細胞性の黄疸である。したがって肝臓癌や肝硬変などで胆道が圧迫されたための胆道閉塞性黄疸には効果がない。そこで最もよく思いられるものは,流行性肝炎(従来カタル性黄疸といったもの)急性肝炎である。そこでこの処方の効果は肝臓の解毒機能および胆汁の分泌を亢め,体内の熱をとると考えられる。茵陳は,胆汁分泌促進の効果があり且つ尿利を増加させる。梔子は消炎の効果があって胸中の痞えを去り,肝臓の機能を亢めて利尿利用をあらわす。大黄は大便を通じ炎症を去る。以上のような三味の薬物の協力作用が本方の薬効であることは勿論である。(中略)茵蔯蒿湯の適応症は体力のある漢方で実証という体質の場合である。ただ体力のある人から中ぐらいの人まで用いることが出来る。しかし元来体質が虚弱な人や,病気が長びいて衰弱したようなものには用いられない。
〈漢方診療の実際〉 大塚,矢数,清水 三先生
本方は主としてカタル性黄疸の初期で実証のものに用いられる方剤であるが,必ずしも黄疸がなくてもよい。裏に瘀熱のあるのを目標とする。目標としては腹部殊に上腹部が微満し,心下より胸中にかけて如何にも不愉快で,胸が塞ったような感じがあり,口渇,大小便不利,頭汗,発黄等を認める。脈は多くは沈実で,舌には黄苔のあることがある。本方を構成する茵蔯蒿には,消炎,利尿の外に黄疸を治する特能があり,大黄には緩下消炎の効がある。 故に黄疸でも肝硬変症や肝臓癌等から現われるものには無効である。本方はカタル性黄疸のみならず,脚気,腎臓炎,蕁麻疹,口内炎等その他如何なる疾病で も上述の如き目標を確認する時はこれを用いてよい。
〈漢方処方解説〉 矢数 道明先生
陽明病に属する裏(胃腸)の実熱を解する薬方で,カタル性黄疸の初期に用いることが多い。しかし黄疸がなくても裏の瘀熱(内にこもった古い熱)すなわち胃腸に熱が留滞沸鬱して,その熱が心胸に迫るというときに用いられる。裏に鬱熱があって煩悶し,あるいは黄疸を発するのが主目標で,次のような諸徴候を参考とする。腹部ことに上腹部が微満し,心下部より胸部,心臓部にかけて苦悶や不快を訴え,胸がふさがったように感じ,口渇,便秘,腹満,小便不利,頭汗,頭眩,発黄などがある。黄疸がなくとも裏に鬱熱があれば用いてよい。脈は多くは緊であるがときには例外もある。
〈漢方入門講座〉 竜野 一雄先生
運用 1. 黄疸
茵蔯蒿湯は黄疸の薬だ位は少し漢方をやった人なら知っている筈である。浅田宗伯先生は「此方発黄を治する聖剤なり。世医は黄疸初発に茵蔯五苓散を用ゆれども非なり。先此方を用て下を取て後茵蔯五苓散を与うべし」(勿誤薬室方函口訣)と黄疸に用いる要領を説いている。茵蔯蒿湯の原典には「傷寒七八日,身黄なること梔子の色の如し。小便利せず,腹微満するものは茵蔯蒿湯之を主る」(傷寒論陽明病)という。身黄だけでは黄疸薬と同じことだから,本方の特徴が小便不利と腹微満とにあることを示している。黄疸は漢方薬に見ると傷寒のものと雑病のものとに大別され,雑病は原因や病状によって又細かく分類される。その中で茵蔯蒿湯の証は湿熱である。「師の曰く,病黄疸,発熱煩喘,胸満口燥する者は病発する時にて其汗を劫かし,両熱を得る所なり。然れども黄家の得る所は湿より之を得,一身尽く発熱,面黄肚熱す。熱裏に在り,当に之を下すべし」(金匱要略黄疸)がそれを語っている。熱と湿とが原因で,面黄肚熱といい,下剤の適応証だというから正に茵蔯蒿湯の証になる。熱は瘀熱に属するものだし,湿は胃に在る。脾は湿を悪むとの考えがあるが脾気を受けて作用を営む胃に湿水が在るときに熱を蒙ると,胃気と水と熱とが一緒になって黄疸を起して来るというのが漢方的な病理である。湿水が停っているから小便の量が少い。之が小便不利である。熱のために大便が燥き燥くと熱を持って来る。之が苦寒大黄をもって下さねばならぬ理由になる。
「陽明病,発熱汗出づるものはこれを熱越すとなす。黄を発すること能はざるなり。ただ頭汗出で身に汗なく,頭をかぎりて還る。小便利せず,渇して水漿を引くものはこれ瘀熱裏に在りとなす。身必ず黄を発す。茵蔯蒿湯之を主る。」(傷寒論陽明病)はその病理を述べたもので汗が出ぬから黄疸になる。それは停った水が停ったままで熱にむされているからだ。所が頭だけに汗が出て身の方に出ないのはどうしたことだろう。(中略)頭から上の汗は熱気が腹から胸に滞り体表へは行かずに頭の方だけに行く。それにつれて水気が頭に上り汗になる。水漿を引くという位だから渇は相明強い。(中略)雑病に於ける茵蔯蒿湯は穀疸に使うことになっている。穀疸とは胃に既に湿が有る所へ穀(食餌)を摂り,食餌は熱エネルギーを供給するからここに胃熱を生じ,湿と熱とが結合して,湿熱性の黄疸を起すものをいう。「穀疸の病たる寒熱して食せず,食すれば則ち頭眩し,心胸安からず,久々にして黄を発し,穀疸となる。茵蔯蒿湯之を主る。」(金匱要略黄疸)この意味は「穀疸の病とは寒と熱とが部分的に内臓に加わったために胃腸の働きが悪くなり食べられず,強いて食べると穀熱英気が上に昇って来て頭ではめまいを起し,胸では心胸が穏やかならざる感じがし,そういう状態が結き,黄疸を起して来たものだ」ということである。(後略)
運用 2. 瘀熱
非常に漠然としているが瘀熱ということをよく考えて運用すると案外な場合にも使えるもので,黄疸の有無には関しない。例えば蕁麻疹 発疹の赤味が鮮紅でなく,ややどす黒い感じがし,痒く,桃核承気湯とは色と便秘と脉緊の所は似ているが上衝足冷は著しからず,小便多くは赤きものに使う。
口内炎,舌瘡,歯齦腫痛,眼目痛などで発赤,疼痛,時に出血のあるものに使う。山梔子の応用を考え,それに茵蔯蒿湯の瘀熱を併せ考えれば応用の理由が判るのである。子宮出血も山梔子を考え,瘀熱性出血と見て使うことがある。小便不利を浮腫の利尿に転じ,瘀熱性の浮腫に使うことができる。
運用 3. 神経症
婦人寒熱,即ち寒くなったり,熱くなったりして食進まず,めまい,心胸安からざるもの。便秘し,眼が何となくどんよりと赤く黄色味がかって濁っているものに後世方の加味逍遙散などを使う場合と比較するがよい。自律神経不安声効,卵巣機能不全,ヒステリー,などと称せられるものに使う。
〈漢方の臨床〉 第1巻第2号
漢方医学薬方解説 奥田 謙三先生
(前略)
本方証
陽明病,頭に汗出て身に汗なく,小便不利にして渇し瘀熱裏に在りて黄を発す。(傷寒論,陽明病篇)
傷寒,身黄みて橘子色の如く,小便利せず,腹微満す。(同上)
略解
此方は,準陽裏実に属し,熱邪と水邪とが裏に滞って発散せず,津液を燻蒸して上に逆すると見做すべく,其為に或は頭部のみ汗出で,或は頭眩し,或は口渇し,各腹の微満するに因て心胸部の苦悶を感じ,食欲は減退或は反って亢進し,黄疸を発し,或は種々なる出血傾向を現はし,尿不利若くは赤渋し,糞便硬く或は秘結し,脈は概ね沈にして稍や力ある等の証に用ふれば,能く尿を利し便を通じて其効を奏する。
応用例
(1)ワイル氏病で,熱があって既に黄疸を発し,皮膚及び粘膜に出血を認め,眼結膜は充血し,舌は乾燥して少しく黄苔を現はし,脾腫を触れ,腹微満して稍や力があり,尿は赤渋で蛋白があり,便通は秘結し,食慾なく,脈に力があって稍や沈なる者。
(2)カタル性黄疸で,食思欠乏,噯気,悪心,口渇,頭痛,眩暈などがあり,黄色は鮮明で皮膚の瘙痒甚しく,肝臓稍や腫大して心下部少し膨満し,尿は濃黄色にして少量,糞便は臭気強く,色灰陶土様の観を呈し,脈沈遅にして力ある者。
(3)腎盂炎で,弛張性の熱と之に伴ふ苦痛とがあり,腰痛甚しく,其痛は時々上腿に放散し,下腹部は膨満して稍や緊張を認め,尿意頻数と尿量減少とがあり,尿は溷濁濃度で蛋白があり,大便は秘し,脈は緊数で少しく浮の傾きを呈する者。
(4)急性腎炎で,食慾不振,頭痛,嘔気,口渇,心動悸,血圧亢進などがあり,身体怠惰で疲労し易く,舌面乾燥し,心下部は少しく膨満し,顔面及び手足に浮腫があり,尿量減少して蛋白の量多く,下痢し易いが快通せず,脈沈細にして力ある者。
(5)蕁麻疹で,全身に出没し瘙痒甚しく,掻けば煩熱に堪へ難く,上逆,頭痛,頭汗があり,口内の粘膜は紅潮し,舌面は乾燥して口渇があり,下腹部は微満し,尿量少なく,便秘の傾向で脈沈にして稍や力ある者。
此他尚ほ溶血黄疸,胆管炎,胆嚢炎,急性黄色肝萎縮,発作性血色素尿,膀胱カタル,歯齦炎等にも亦本方証のものがある。以上は此方の大略である。
『明解漢方処方 (1966年)』 西岡 一夫著 ナニワ社刊
茵蔯蒿湯(いんちんこうとう) (傷寒論、金匱)
処方内容 茵蔯蒿六、〇 山梔子 大黄各二、〇 (一〇、〇)
以上の割合で混合し一日六、〇を食前に分服する。
必須目標 ①黄疸(茵蔯蒿湯に比べて軽度) ②口渇甚しい ③尿量減少 ④便秘せず ⑤頭汗なし
必須目標 ①尿量減少 ②黄疸 ③腹部微満 ④便秘 ⑤緊脉
確認目標 ①頭汗 ②口渇 ③舌乾燥 ④皮膚瘙痒感 ⑤食慾不振 ⑥目眩(特に食後に甚しい) ⑦嘔吐感 ⑧浮腫 ⑨微熱
初級メモ ①もし胃部や肋骨弓下部に圧痛感のあるときは大柴胡湯加茵蔯六、〇。もし便秘せず口渇と尿量減少の甚しいときは茵蔯五苓散を用いる。黄疸治療には先ずこの三方から選用すればよい。殊に本方の適応者が多い。
②黄疸の種類、原因などの解説には、薬局の漢方「黄疸」を参考にして頂きたい。(漢方の臨床9、9、52)
中級メモ ①漢方で陽(熱)証の黄疸の原因は“裏に湿熱あり”の一言で説明されている。即ち湿熱とは裏位に熱邪があり、同時にその熱の発散を妨げている水の停滞が共存している状態を意味しており、裏熱×水滞=表位に発散しない熱(瘀熱という)=黄疸の発生。という算数式が成立する。故にこの式を分解して考えると、すぐ判るように裏熱があっても水滞のない時は黄疸は起こらない。
(白虎湯などの場合)し、また水滞があっても裏熱が存在しなければ発黄は起こらない(苓桂朮甘湯などの場合)
②本方ばかりでなく漢方は水毒を重要視する。水毒は水の停滞によって起こる。患者に水滞があるかどうか、浮腫など外観ですぐそれと判明する場合は容易であるが、そんなことはむしろ例外で大部分の水滞は潜在性である。その潜在性の水滞の有無を診るコツは人体の三つの水分排泄路、即ち汗、尿、大便(漢方では呼気による水分排泄は余り重要視しない)の状態が、どうなっているかによって推察する。本方を例にとると、尿量は減少し、大便は便秘しており、汗は出ない(頭汗は検に水滞あるの好目標となる。頭汗は体表の汗と違い水滞を少しでも少なくするため、自衛反応として出している汗である)とすると三排泄路、すべて排泄不充分であり、当然水滞あることが想像される。そしてそれを確認するのが脉証の緊脉である。即ち緊脉は水分停滞の脉であり、もし表位に水滞あるときは浮緊(麻黄湯など)となり、裏位に水滞あるときは沈緊(苓桂朮甘湯など)となる。本方も必須目標には緊脉とだけあるが、これは裏の水滞ゆえ当然沈緊となる(実際にも沈緊が多い)筈である。が、ときには浮緊のこともあるので、ただ共通した緊脉とだけ記載してある。なお、その上、腹部の微満、目眩、浮腫などあればいよいよ水滞あるに確定されるのである。
③その上、舌苔が乾燥しておれば、裏熱のある証拠であり、口渇があれば、更に確定する。漢方の処方決定には以上のように患者の訴える症によって漢方病理を推測し、その病理がある上は、こうした症も出てくる筈だと検に問診し、処方を確定するのが理想的な決定方法である。
④頭汗は本方証の有力な目標で黄疸患者で頭汗あれば、その一症だけで本方を用いて良いほどであるが、残念なことにそれが先述のように水滞による自衛排泄で必現の症でないため必須目標には入れがたい。
⑤食毒には蕁麻疹に本方を使って卓効のあることかある。これを軽度の急性黄疸と想えば薬理が理解し易い。
⑥吉益南涯「裏病。瘀熱して水、腹にある者を治す。その症に曰く、小便不利、腹微満、これ水滞腹に在るの症。曰く頭眩、発黄、頭汗出、渇して水漿を引く、これ瘀熱の症なり。瘀熱は発熱せず、潮熱せず、身に熱なし」(方庸)
適応証 単純性黄疸。血性肝炎。流行性肝炎。蕁麻疹。口内炎。脚気。
文献 「茵蔯蒿湯と蕁麻疹」堀均(漢方と漢薬8、1,64)
(効能・効果)
- 【ツムラ】
- 尿量減少、やゝ便秘がちで比較的体力のあるものの次の諸症。
- 黄疸、肝硬変症、ネフローゼ、じんましん、口内炎。
- 【コタロー】
- 咽喉がかわき、胸苦しく、便秘するもの、あるいは肝臓部に圧痛があって黄疸を発するもの。
- ジンマ疹、口内炎、胆のう炎。
- 【一般用漢方製剤承認基準】
- 体力中等度以上で、口渇があり、尿量少なく、便秘するものの次の諸症:
じんましん、口内炎、湿疹・皮膚炎、皮膚のかゆみ
【重い副作用】
- 肝臓の重い症状..だるい、食欲不振、吐き気、発熱、発疹、かゆみ、皮膚や白目が黄色くなる、尿が褐色。
【その他】
- 胃の不快感、食欲不振、吐き気、吐く
- 腹痛、下痢
商品名 製造販売元 発売元又は販売元 |
一日 製剤量 (g) |
添加物 | 剤形 | 効能又は 効果 | 用法及び用量 | 茵蔯蒿(インチンコウ) | 山梔子(サンシシ) | 大黄(ダイオウ) | |
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1 | オースギ茵蔯蒿湯エキスG 大杉製薬 | 3.0 | 乳糖水和物、トウモロコシデンプン、ステアリン酸 マグネシウム | 顆粒 | 口渇があり、尿量少なく、便秘するものの次の諸症: じんましん、口内炎 | 食前又は食間 2~3回 |
4.0 | 3.0 | 1.0 |
2 | クラシエ茵蔯蒿湯エキス細粒 クラシエ製薬 クラシエ薬品 |
6.0 | 日局ステアリン酸マグネシウム、日局結晶セルロー ス、日局乳糖水和物、含水二酸化ケイ素 | 細粒 | 口渇があり、尿量少なく、便秘するものの次の諸症: じんましん、口内炎 | 食前又は食間 2~3回 |
4.0 | 3.0 | 1.0 |
3 | コタロー茵蔯蒿湯エキスカプセル 小太郎漢方製薬 | 2.16 (6カプセル) | カルメロースカルシウム、軽質無水ケイ酸、結晶セ ルロース、合成ケイ酸アルミニウム、ステアリン酸 マグネシウム、トウモロコシデンプン、ヒドロキシ プロピルスターチ、メタケイ酸アルミン酸マグネシ ウム、カプセル本体に青色1号、黄色5号、酸化チタ ン、ゼラチン、ラウリル硫酸ナトリウム | カプセル | 咽喉がかわき、胸苦しく、便秘するもの、あるいは肝臓部に圧 痛があって黄疸を発するもの。 ジンマ疹、口内炎、胆嚢炎。 |
食前又は食間 2~3回 |
4.0 | 3.0 | 1.0 |
4 | コタロー茵蔯蒿湯エキス細粒 小太郎漢方製薬 | 6.0 | ステアリン酸マグネシウム、トウモロコシデンプ ン、乳糖水和物、プルラン、メタケイ酸アルミン酸 マグネシウム | 細粒 | 口渇があり、尿量少なく、便秘するものの次の諸症: じんましん、口内炎 | 食前又は食間 2~3回 |
4.0 | 3.0 | 1.0 |
5 | ツムラ茵蔯蒿湯エキス顆粒(医療用) ツムラ | 7.5 | 日局ステアリン酸マグネシウム、日局乳糖水和物 | 顆粒 | 尿量減少、やゝ便秘がちで比較的体力のあるものの次の諸症: 黄疸、肝硬変症、ネフローゼ、じんましん、口内炎 | 食前又は食間 2~3回 |
4.0 | 3.0 | 1.0 |
6 | テイコク茵蔯蒿湯エキス顆粒 帝國漢方製薬 日医工 |
7.5 | 乳糖水和物、結晶セルロース、ステアリン酸マグネ シウム | 顆粒 | 口渇があり、尿量少なく、便秘するものの次の諸症: じんましん、口内炎 | 食前 3回 |
6.0 | 2.0 | 2.0 |