小柴胡湯と五苓散との合方を、柴苓湯と名づけ、小柴胡湯の證で口渇・尿利減少の者に用いる。
『漢方薬の実際知識』 東丈夫・村上光太郎著 東洋経済新報社 刊
(2) 柴苓湯(さいれいとう)
本方は、五苓散證に小柴胡湯(前出、柴胡剤の項参照)をかねたものに用いられる。本方と同様な目的で、他の柴胡剤も五苓散と合方される。
『明解漢方処方』 西岡 一夫著 ナニワ社刊
p.85
小柴胡湯(傷寒論,金匱)
(中略)
p.86
類方 柴苓湯
本方と五苓散の合方で、小柴胡湯証で下痢を伴うとき、即ち発熱、嘔気、口渇、下痢のあるときで、夏季の食中毒に多い症である。
『和漢薬方意辞典』 中村謙介著 緑書房
柴苓湯(さいれいとう) [得効方]
【方意】 小柴胡湯証の胸脇の熱証による胸脇苦満・口苦・口粘等と、五苓散の水証による煩渇・尿不利・下痢傾向等のあるもの。
《少陽病.虚実中間からやや実証》
【自他覚症状の病態分類】
胸脇の熱証 | 水証 | |||
主証 | ◎胸脇苦満 | ◎煩渇 ◎尿不利 ◎下痢傾向 | ||
客証 | ○口苦 ○口粘 ○心下痞硬(水) ○食欲不振(水) ○悪心 嘔吐(水) 発熱 往来寒熱 | 浮腫 | |
【脈候】 弦やや浮・浮にして力あり。
【舌候】 乾燥して白苔。
【腹候】 腹力中等度。胸脇苦満がある。多くは心下痞硬し、時に上腹部に振水音および腹直筋の緊張を伴う。
【病位・虚実】 小柴胡湯証も五苓散証も共に少陽病位である。脈力、腹力より虚実中間からやや実証で用いることが分かる。
【構成生薬】 柴胡8.0 沢瀉7.5 半夏6.0 猪苓4.5 白朮4.5 茯苓4.5 黄芩3.0 大棗3.0 人参3.0 桂枝3.0 甘草3.0 生姜1.0
【腹候】 腹力中等度。胸脇苦満がある。多くは心下痞硬し、時に上腹部に振水音および腹直筋の緊張を伴う。
【病位・虚実】 小柴胡湯証も五苓散証も共に少陽病位である。脈力、腹力より虚実中間からやや実証で用いることが分かる。
【構成生薬】 柴胡8.0 沢瀉7.5 半夏6.0 猪苓4.5 白朮4.5 茯苓4.5 黄芩3.0 大棗3.0 人参3.0 桂枝3.0 甘草3.0 生姜1.0
【方解】 本方は小柴胡湯と五苓散の構成生薬をそのまま合わせたもので、それぞれの作用が共存して感る。
【方意の幅および応用】
A 胸脇の熱証+水証:胸脇苦満・煩渇・尿不利を目標にする。
急慢性胃腸炎、熱射病、水瀉性下痢等の急性胃腸炎、慢性肝炎、肝硬変
急慢性腎炎、ネフローゼ症候群、妊娠中毒症、浮腫、クインケ浮腫
滲出性中耳炎、関節リウマチ加療中の蛋白尿
【参考】 *傷風、傷暑、瘧を治す。『得効方』
*此の方は小柴胡湯の症にして、煩渇下利する者を治す。暑疫(夏の流行病、カゼや下痢)には別して効あり。
『勿誤薬室方函口訣』
*本方・四逆散・解労散などを慢性肝炎に用いる場合、硬い肝腫では別甲・檳榔子を加えるのが良い。 【症例】 出題と解答 脳腫瘍
患者は9歳の婦人。5歳のとき猛烈な頭痛を訴え、吐いたので名古屋の大学でみてもらったら脳腫瘍ということで手術を受けた。しかし、その後半年の間は同様の頭痛と吐き気を催していた。学校へはかろうじて通学していた。
昨年の11月より、眼瞼が下垂し、眼球が動かなくなり、耳も遠くなり、両手が細かに震え始めた。そこでまた名古屋の大学へつれて行くと、再発といわれ、4ヵ月間入院してコバルト療法を受けたが震えは増悪。東京で治療しようと上京した。都内の2ヵ所の大病院では、いずれも脳腫瘍と診断され、ダメであっても手術を要するといわれたという。
体は小さく、皮膚は全身蒼白で水ぶくれの状態。脈をみて驚いたことには、弓弦のように力があり、頻数で、こわいような脈。書物に出ている死脈の中の弾石の脈と思われるような脈状を呈している。腹は全体が膨満し、心下の反応過敏で右の季肋下部が特に敏感。わずかな圧を加えただけでも、顔をしかめて痛いという。舌は白苔あり、口渇を訴える。頻尿で20分に1回、量は多くない。診察を終えると、「ありがとう」といたいけにも礼をいう英で、気持ちはしっかりしている。
そこである古方の合方を用いました。また、兼用としてある粉薬を用いました。1ヵ月分を飲み終わって再び患者が来ました。今度は親に抱かれずに診察室へ一人で入って来ました。腹をみると前と違って圧しても痛くなく、食欲も出て来て、一般状態がかなり良くなって来ているのです。
聞くと20日分を飲み終わったころから、自ら進んで床をはなれて本を読むようになり、小便は2時間に1回ぐらい、眼球も動くようになって来たというのです。次の1ヵ月分の薬を与えました。すると患者がどうしても行きたいと学校へ行き始めたというのです。3回目の来院のときは、第2回目のときにまだ残っていた手の震えも治っており、以上合計2ヵ月間の服薬でかなり好転して来たことが認められました。これは今後どうなるか目下大いに期待を持ち、祈る気持ちでいます。以上に対して用いる処方はどのようにお考えでしょうか。
〔解答〕小柴胡湯合五苓湯(2名)、小柴胡湯合桂苓丸(2名)、苓桂朮甘湯(2名)、呉茱萸湯合柴胡桂枝湯(1名)、柴胡加竜骨牡蠣湯合五苓散(1名)、小柴胡湯合芍薬甘草湯(1名)。
〔出血者解答〕私の用いた処方は小柴胡湯と五苓散の合方でした。それは、腹証の上から、まず小柴胡湯を考え、頭痛を目標に五苓散を用いました。それと尿量は少ないが頻繁にあるというこ選か現、水毒体質と考えて小柴胡湯と五苓散の合方を用いたわけであります。兼用の粉薬ですが、私は脳腫瘍には山豆根を以前に何回か用いたことがありますので、今回も三豆根を1日1gを2回に分けて午前と午後に飲むようにしました。
矢数道明『漢方の臨床』11・11・22
『臨床応用 漢方處方解説』 矢数道明著 創元社刊
p.294
(2) 小柴胡湯 合 五苓湯(柴苓湯)
小柴胡湯の証と五苓散の証と合併したもので、煩渇・下痢・暑中の疫病に多く用いられる。腎盂炎・腎炎・ネフローゼ・マラリアおよびその類似症などにも柴苓湯として用いることがある。
p.561
実腫のときには柴苓湯・分消湯・五苓湯・木防已湯等を用いるが、
『健保適用エキス剤による 漢方診療ハンドブック 第3版』
桑木 崇秀 創元社刊
柴苓湯(さいれいとう) <出典>得効方
<方剤構成>
柴胡 黄芩 半夏 生姜 大棗 人参 甘草
沢瀉 茯苓 猪苓 白朮 桂枝
<方剤構成の意味>
小柴胡湯と五苓散の合方で,重複するものがないので,二つの方剤がそのまま加えられた形になっている。
小柴胡湯の証(胸脇苦満があって,軽度の虚証と見られる場合)で五苓散の証(この場合は主として尿量減少と水分停滞傾向を目標とする。口渇もあるのを原則とするが,必須条件ではない。頭痛・嘔吐・下痢を伴うこともある)を兼ねる場合に用うべき方剤と言えよう。
<適応>
①腎炎・ネフローゼ,②肝炎で腹水を伴うもの,③急性腸炎(下痢)または胃炎(嘔吐)。潰瘍性大腸炎にもしばしば効を奏する。
ただし,小柴胡湯の証であることを前提とする。
その他,小柴胡湯を用いたい場合で,尿量減少やむくみがあれば,広く用いてよい。
『健康保険が使える 漢方薬 処方と使い方』
木下繁太朗 新星出版社刊
柴苓湯(さいれいとう)
健 ツ、カ
得効方(とくほうこう)
どんな人につかうか
吐き気や食欲不振があって、のどが渇き、浮腫(ふしゅ)などがあって、尿量の少ないものに用い、腎炎、肝硬変、下痢などに応用します。
目標となる症状
症 ①嘔気(おうき)。②食欲不振。③微熱。④口渇(こうかつ)。⑤口が苦(にが)い。⑥尿量の減少。⑦浮腫(ふしゅ)。⑧悪心(おしん)、嘔吐(おうと)。⑨下痢、腹痛。⑩頭痛。⑪めまい。⑫蛋白尿。
腹 季肋部(きろくぶ)に抵抗圧痛があり(胸脇苦満(きょうきょうくまん))、胃部をたたくとピチャピチャと水の音がし(胃内停水(いないていすい))、上腹部に軽い皮膚の盛り上がり(心下満(しんげまん))がある。
脈 弦(げん)を張ったような、なめらかな脈。
舌 白い薄い湿(しめ)った舌苔(ぜったい)。
どんな病気に効くか(適応症) 吐き気、食欲不振、のどの渇き、排尿が少ない人の、水瀉性下痢、急性胃腸炎、暑気あたり、むくみ。 急性腎炎、ネフローゼ、血管運動神経性浮腫、クインケ浮腫(ふしゅ)、感冒、肝硬変、滲出性(しんしゅつせい)中耳炎、起立性調節障害、アレルギー性鼻炎、IgA腎症、ジュリング氏疱疹(ほうしん)状皮膚炎。
この薬の処方
柴胡7.0g 沢瀉(たくしゃ)、半夏(はんげ)各5.0g。黄芩(おうごん)、朮(じゅつ)、大棗(たいそう)、猪苓(ちょれい)、人参(にんじん)、茯苓(ぶくりょう)各3.0g。甘草(かんぞう)、桂皮(けいひ)各2.0g。生姜(しょうきょう)1.0g。(小柴胡湯(しょうさいことう)と五苓散(ごれいさん)の合方)
この薬の使い方
①前記処方(一日分)を煎じてのむ。
②ツムラ柴苓湯(さいれいとう)エキス顆粒、成人一日7.5gを2~3回に分け、食前又は食間に服用する。
③カネボウ(一日8.1g)前記に準じて服用する。
使い方のポイント
①小柴胡湯(しょうさいことう)(125頁)と五苓散(ごれいさん)(87頁)を合方したもので、小柴胡湯(しょうさいことう)が適応する症状があって、口渇と尿量の減少、浮腫(ふしゅ)、嘔吐(おうと)(水様の吐物、水逆(すいぎゃく))。下痢(水様性)。頭痛などの症状が加わった場合に広く応用されます。
②ネフローゼ症候群やリウマチなどの膠原病(こうげんびょう)に、副腎皮質ホルモン(ステロイド)剤を使わなければならない場合に、柴苓湯(さいれいとう)を併用すると、ステロイド剤の効力を増強して、減量することが出来ます。又ステロイド剤の副作用防止にも役立っています。
③柴苓湯(さいれいとう)には利尿作用がありますが、現代医学の利尿剤(チアジト、アセタゾラミド、フロセミド、プレドニソロン、デスラノシド、ジギタリス葉末)と比較しても、これらの利尿剤に劣らぬ利尿作用があり、尿量の増加が認められます。
現代医学の利尿剤では、血液中のカリウムの喪失がありますが、柴苓湯(さいれいとう)ではカリウムの喪失が少なく、腎臓に対する作用の仕方は、腎血流量を増加させることが考えられます。
④漢方のエキス剤が普及してから、色色な病気に柴苓湯(さいれいとう)が応用されるようになりましたが、現代医学で治りにくい、アレルギー性鼻炎、滲出性中耳炎、IgA腎症(腎臓の系球体にIgA抗体が沈着しておこる病気で、蛋白尿や血尿で発見されることが多い、そんなに悪性の病気ではない)、起立性調節障害、ジューリング氏疱疹状皮膚炎などが良くなったという症例が報告されています。
処方の解説
柴苓湯(さいれいとう)は小柴胡湯(しょうさいことう)と五苓散(ごれいさん)を合方したもので、それぞれの作用の複合と考えてよいものです。
小柴胡湯を形成しているDL分のうち柴胡(さいこ)、半夏(はんげ)、生姜(しょうきょう)は、情緒的に抑鬱(よくうつ)状態におちいり、自律神経の緊張が加わった状態(肝気鬱血)を治す疎肝解鬱(そかんげうつ)の効果があって、嘔気や咳(せき)をとめる効果があります。
五苓散(ごれいさん)も構成する生薬のうちの、朮、茯苓、猪苓、沢瀉はいずれも、水分代謝をよくする効果があり、同時に、胃腸を丈夫にし、気を補い(補気健脾ほきけんぴ))、気持と安定させる(安神)効果があります。小柴胡湯(しょうさいことう)の一部である人参(にんじん)、大棗(たいそう)、甘草(かんぞう)にも同様の補気健脾胃、安神(あんしん)の効果があり、分泌を促進する効果もあります。
小柴胡湯の黄芩(おうごん)は、充血を緩解(かんかい)し、興奮を鎮静させる瀉火(しゃか)作用があり、五苓散(ごれいさん)の桂枝(けいし)は、気をめぐらし、身体を温める効果があります。
※プレドニソロン? → プレドニゾロン
※IgA腎症(腎臓の系球体? → IgA腎症(腎臓の糸球体
『重要処方解説(98)』
柴苓湯(サイレイトウ) 日本東洋医学会評議員 藤井 美樹
■出典・構成生薬・薬能薬理
柴苓湯(サイレイトウ)の出典は,中国,元時代の人,危亦林(きえきりん)の撰した『世医得效方(せいとくこうほう』巻2(1337年)です。
これは2つの処方の合方です。つまり小柴胡湯(ショウサイコトウ)と五苓散(ゴレイサン),あるいは五苓散料(ゴレイサンリョウ)(湯(トウ))の合方です。処方の内容は,柴胡(サイコ),半夏(ハンゲ),生姜(ショウキョウ),黄芩(オウゴン),大棗(タイソウ),人参(ニンジン),甘草(カンゾウ)(以上が小柴胡湯),沢瀉(タクシャ),猪苓(チョレイ),茯苓(ブクリョウ),白朮(ビャクジュツ),桂皮(ケイヒ)(以上が五苓散)の12味になります。
柴胡はサイコの根で,薬能は胸脇苦満(季肋下部の重苦しい感じ,および同部の抵抗,圧痛)を主治し,往来寒熱(発熱したり悪寒がしたり交互にくる),腹中痛,脇下痞硬をも治すとされています。薬理学的には,サイコサポニンなどを含み,中枢抑制,抗炎症,解熱,利尿,抗潰瘍作用などが知られています。
半夏はサトイモ科のカラスビシャクの周皮を除いた塊茎で,薬能として痰飲,嘔吐を主治し,心痛,逆満,咽中痛,咳,悸,腹中雷鳴をも治すとされています。成分としてはhomogenistic acidなどが含まれ、鎮吐,鎮静,去痰などを目標に悪心,嘔吐などに用います。
生姜はショウガの根茎で,嘔を主治するとされます。辛味成分はジンゲロール,ショウガオールを含み,鎮嘔,鎮咳,食欲増始に用います。
黄芩はコガネバナの周皮を除いた根で,薬能は心下痞(みぞちのつかえ)を主治し,胸脇満、嘔吐,下利をも治すとされています。成分としてオウゴニン,バイカリン,オロキシリンなどを含み,消炎性解熱薬として嘔吐,腹痛,下痢などに用います。
大棗はナツメの果実で,緩和,強壮,利尿薬で,筋肉の急迫症状,牽引痛,知覚過敏を緩解し,咳嗽,煩躁,身体疼痛,腹痛などをも治すとされます。成分としては糖質,粘液質,リンゴ酸塩,酒石酸塩などが含まれています。そして水エキスには中枢抑制作用があり,エタノールエキスには抗アレルギー作用があることがわかりました。
人参はオタネニンジンの根で,薬能は心下痞堅,痞硬,支結を主治するとされ,また不食(食欲不振),嘔吐,喜唾(しばしばつばをはく),心痛(胸のあたりの痛み),腹痛,煩悸などで,薬理作用として水エキスには血糖下降,RNA合成促進作用があり,含水エタノールエキスにはコリン性増強,血圧下降,血糖下降,副腎皮質機能増強作用があり,ジンセノサイドRb群には中枢抑制作用があり,Rg群には中枢興奮作用があることがわかりました。
甘草はマメ科の多年草カンゾウの根であり,薬能は急迫を主治し,故に裏急,急痛,攣急を治すとされています。成分としては,甘味成分のサポニンであるグリチルリチンを含み,その他,糖分,苦味質などを含んでいます。水エキスには鎮咳,抗消化性潰瘍,抗高脂血症,平滑筋弛緩作用などがあり,グリチルリチンには電解質ホルモン様作用,糖質ホルモン様作用,抗炎症作用,抗アレルギー作用などがあることが知られています。急迫症状の緩和,解毒,痙攣性筋肉痛,腹痛,咳嗽などに用います。
沢瀉はサジオモダカの塊茎で,薬能は小便不利(尿が快通しない)して冒眩(めまい)するのを主治し,渇をも治すとされています。成分はトリテルペノイド,その他澱粉,蛋白質などであり,利尿作用,抗脂肪肝,抗高脂血症,肝障害予防作用などが知られています。
猪苓はチョレイマイタケの菌核で,薬能は渇して小便不利するのを主治するとされています。成分は多糖類,ステロイドなどがあり,水エキスに利尿作用があり,利尿,消炎,水腫に用いられています。
茯苓はマツホドの菌核で,薬能は悸および肉瞤筋惕(にくじゅんきんてき)(筋肉の間代性痙攣でピクピク動くこと)を主治し,かたわら小便不利,頭眩,煩躁を治すとされています。成分はトリテルペノイド,エルゴステロールなど,その水エキスには胃潰瘍予防,血糖降下作用が知られています。利尿,健胃,整腸の作用を応用します。
白朮はオケラの根茎で,『薬徴』には朮として,「水を利するを主るなり。故に能く小便の自利,不利を治す。身煩疼,痰飲,失精,眩冒,下利,喜唾を旁治す」とあります。白朮は成分としてアトラクチロンなどを含んでいて,水エキスには利尿,抗炎症,血糖下降,抗疲労作用などが知られています。健胃,整腸,利尿に応用します。
桂皮は桂樹などの樹皮で,薬能は衝逆を主治し,奔豚(ほんとん),頭痛,発熱,悪風,汗出でて身痛するをも治すとされています。桂皮の成分はケイアルデヒドには解熱,末梢血管拡張,胆汁分泌促進作用などが知られています。健胃,解熱を目標にして,発熱,頭痛,心悸亢進,四肢痛,胃腸障害に用います。
以上,柴苓湯を構成する12の生薬の薬能および薬理(成分)をのべました。
■古典における用い方
次に柴苓湯の原典における指示をみますと,「小柴胡湯と五苓散を合和し,柴苓湯と名づく。傷風,傷暑,瘧を治するに大効あり。毎服,薑(キョウ)三片,麦門冬(バクモンドウ)二十粒心を去り,地骨皮(ジコッピ)少許を煎じ温服す」とあります。傷風は,風の邪に傷られて発症する感冒様疾患で,傷暑は夏期に暑さに傷られておこる疾患であり,瘧はマラリア様疾患であると考えられます。あとで述べる『勿誤薬室方函口訣(ふつごやくしつほうかんくけつ)』にみられるように,一般には,薑,麦門冬,地骨皮を去って用いられてきています。柴苓湯に関する先哲の論議の二,三をみてみましょう。
『方彙口訣(ほういくけつ)』瘧疾門の柴苓湯の条に,「此の方は小柴五苓の合方にして今時善く用ゆ効(ききめ)も大分に在るぞ。瘧の熱多く,口の渇き強く,頭痛して,小便の通じ悪きに妙なり」とあります。
『牛山活套(ぎゅうざんかっとう)』瘧疾門に「瘧疾初額の程は熱甚だしく,傷寒などのようなる者なり。夏の時,初秋の頃に是の如く煩う時は,多くは瘧に変ずると知るべし。(略)柴苓湯の類を大料にして用いて大いに汗を解すべし」。
『梧竹楼方函口訣(ごちくろうほうかんくけつ)』瘧類・柴苓湯の条に,「雑病,下痢,熱強く,赤子の糞の如きを下すに用ゆ。(略)痢にはあらず,泄瀉(せっしゃ)の類なり,夏月に此れ等の症多し」。
『医療衆方規矩大成(いりょうしゅうほうきくたいせい)』中湿門・五苓散の条に「傷寒三四日熱さしひきありて自利する者は,本方(五苓散)に小柴胡湯を合して姜棗を入れ柴苓湯と名く,一切の発熱して寒を憎むものには邪気,半は表,半は裡にあり,此の湯に宜し」。「瘧,寒熱ありて病の表裡陰陽にあること分ちがたきにもまた宜し」。「五苓散は湿瀉を治し,下部の湿(しつ)を退く。柴苓湯は瘧の寒熱を治す」。
『勿誤薬室方函口訣』柴苓湯の項此の方は小柴胡湯の症にして、煩渇、下利する者を治す。暑疫には別して効あり」。煩渇はたえがたい渇で,暑疫は夏の流行病です。
次に薬方としての柴苓湯をみますと柴胡は黄芩の助けを得て胸脇部に働き,消炎,解熱の作用があり,胸脇部のうっ滞をよく通ずる効があり,半夏と生姜は悪心,嘔吐を止め,食欲を増進させ,柴胡,黄芩に協力します。人参,甘草,大棗は共同して胃の機能をたかめ,胸脇部の充塞感を緩解します。沢瀉,茯苓,白朮はひとしく胃腸内の停水を去り,尿量を増加させて,浮腫を去り,桂枝は表熱を去り,気の上衝を治し,他薬の利尿作用を助けると,解説されています。
■現代における用い方
さて,現代における柴苓湯を使用目標は,体力が中等度か,やや実している者で,小柴胡湯証と五苓散証が同時にあるものに用います。小柴胡湯の目標は,胸脇苦満,往来寒熱,口が苦い,食欲不振などであり,五苓散の目標は,口渇,尿量減少,浮腫,瀉痢などであります。
柴苓湯は,小柴胡湯の証があって,さらにのどが渇いて小水の出が悪く,水瀉性の下痢をする人に向くという処方であります。そして原典にありましたように,風にやぶられたり,暑さにやぶられたり,おこり(瘧)のように熱と寒さが交互に来るという状態,つまり熱が出ているわけですが,そういうものを治すというわけです。
もともとは夏の発熱,下痢に用いられた処方でしたが,肝臓疾患,腎臓疾患に用いられ,近年は耳鼻科領域,整形外科領域にも広く使用されてきています。応用としてネフローゼ症候群,慢性腎炎, 慢性肝炎,肝硬変,急性・慢性胃炎,暑気あたり,滲出性中耳炎,常習性頭痛などのほか,ステロイド剤と併用して,その減量や副作用の軽減などに役立つことが注目されております。
夏に消化器の働きが弱っていて,熱もあり,胃腸炎を起こし,水瀉性のサッと下る下痢があるこという場合が柴苓湯の適応になります。 柴苓湯を使いますと,熱が下がって下痢もおさまってきます。水瀉性の下痢ですから,体から水分が出て行って,劇しく渇するのですが,この薬を飲みますと渇が次第に癒されます。
子供の場合に扁桃炎,のどの炎症から慢性腎炎になってなかなか治らないという場合があります。もちろん体の弱い子供は別ですが,中等度の体力があって今述べた症状当向現s慢性腎炎の場合に柴苓湯を使いますと,のどの炎症を起こすようなかぜをひくことが次 第に少なくなりますし,むくみも取れてきます。蛋白尿が減りにくいので,プレドニゾロンを併用している場合は,その量を減らすことができるようになります。このようによくかぜをひく慢性腎炎,ネフローゼに使います。
肝硬変で顔面の赤茶けたり,皮膚の特有の赤い斑点が出たり,また腹水が溜まってきて静脈が浮いてくるものに,柴苓湯を長期間使っておりますと,それらがだんだん取れてきます。肝硬変は非常にむずかしい病気ですが,試みる価値があると思います。
そのほか腎盂炎に使う場合があります。現代医学的に抗生物質を使ったり点滴を行って一応はおさまりますが,また体調によってたとえば体が疲れたり,睡眠不足をしたりすると,時に高熱を出し,腰背部が痛むといった症状が出てくることがあります。その場合,小柴胡湯が向いている体の場合には,柴苓湯を使うと腎盂炎が軽くすむようになりますし,そのうち腎盂炎を起こしにくくなってきます。普段蛋白が出ていたような人が出なくなるということもあります。
現在はマラリアは少なくなりましたが,戦後復員された方の中に外地でかかったマラリマの発作を起こす例に,小柴胡湯だけでよい場合もありましたが,症例によっては柴苓湯を使いました。もちろん現代医学の抗マラリア薬と併用すると,非常によい場合がありました。
鑑別としては,小柴胡湯(本方証に五苓散証のあるもの),五苓散(本方証に小柴胡湯証のあるもの),半夏瀉心湯〔心下痞(硬),腹鳴,下痢(しぶりばら)を目標とする〕,八味地黄丸(小便不利,軽い口渇,小腹不仁,身体下部の浮腫のあるもの),真武湯〔やせて生気が乏しい,手足冷え,下痢(水瀉性),めまい感,尿利減少〕などがあげられます。
柴苓湯との鑑別を考えた場合に,これは小柴胡湯と五苓散の合方ですから,基本的にはまず小柴胡湯の証があって,五苓散を使う証があるということを考えれば,柴苓湯は使えるのではないかと思います。繰り返し申しあげますが,小柴胡湯は,体力,体格中等の人で,胸脇苦満があり,往来寒熱(熱が出たり悪寒があったりすること)があって,かぜをひきやすい,場合によっては扁桃炎を起こすという患者に用います。
五苓散の古典的な証は,のどが渇いて小水の出が悪い場合です。口渇はあまり劇しくない場合でも使えますが,むくみのあることが利水剤が多く入っている五苓散の目標になります。浮腫は現代医学的にいろいろ調べても原因がわからない場合が多くありますが,五苓散を使ってみると,むくみがとれることがあります。扁桃炎をよく起こす,かぜをひくと熱を出しやすいというものには,五苓散単独よりも小柴胡湯と合方して柴苓湯として使うという方法をとります。
■症例提示
症例を申しあげます。昭和5年生まれ,某会社役員,以前から肝臓が悪く,治療を受けていましたが,仕事が忙しくゆっくり療養ができないし,なかなかよくなりません。そのうち腹が張るという自覚症状が出てきました。診察によって腹部膨満,静脈怒張し,臨床的には明らかに肝硬変の状態で,検査所見もそれを裏づける結果でした。定年までの数年間を何とか元気でいたいとの希望で,漢方治療を求めて2年前に来院しました。顔は赤ら顔,体格中等度,脈は特記すべきものはなく,腹部は膨満し,肝臓が腫れ,腹水が溜まっております。腹壁には静脈が浮いております。足の脛の部分を圧しますと,少しむくみがあります。
胸脇苦満が右に認められるので,迷うことなく柴苓湯を使いました。そうしますと,むくみが徐々にひくとともに全身的に元気になってきて,仕事が前よりできるようになったということで本人は希望を持って,治りきらなくてもこれより悪くならないようにと,現在なお服薬中ですが,顔の色艶もよくなり,自覚的に腹部が張らなくなり,他覚的にも腹部が少しずつ小さくなってきております。小康を得て,この状態から悪くならないように初診の時に本人が希望したごとく,定年まで何とか元気に過ごせるようになるのではないかと思っております。
もう1例は昭和3年生まれの男性,会社員です。この人も慢性肝炎の歴史が古く,勤務しながら現代医学の治療を受けておりましたが,元気が出ないし,時におなかの調子が悪くなるので,漢方治療を求めて来院しました。赤ら顔で元気そうにみえますが,肝臓は腫れており,各処に紅斑がみられます。持続した臨床データをみますと,肝硬変の疑いのある検査結果が出ております。この人にも柴苓湯を出しました。
現在ひき続き服薬中ですが,顔のいやな赤味は大分取れてきましたし,全身的に元気になってきまして,以前は会社から帰るとすぐに横になって安静にしていたそうですが,最近では体力がうちえきて,帰宅してからも自分の好きなことができるようになったとのことです。
第3例は,大正10年生まれの女性,茶道の先生です。第子もたくさんおられて忙しく,無理をするとかぜのような症状が出て,熱が出てのどが痛くなります。腎盂炎の持病があり,おなか,特に腰背部が痛くなり,茶会などのあとは寝込んでしまうのですが,持病で仕方がないと思っていたそうです。ある人の紹介で漢方治療を求めて来院しました。
この人も小柴胡湯証がありまして,時々,同時に腎盂腎炎起こすということがわかりましたので,小柴胡湯のほかに五苓湯(五苓散料)を合方して,柴苓湯として使いました。服薬しているうちに,無理をすると時々は熱が出て寝込むことはありましたが,約3年間服薬したころには腎盂炎という病気を忘れるくらい元気になり,以前より張り切ってお弟子さんの指導ができるようになって感謝されております。今は続けて服薬はしておりませんが,体を無理したような時に来院して,柴苓湯を服用す識という状態です。このような持病と思われていた病気が治るばかりでなく,元気になり,以前よりもいろいろなことができるようになるということは,漢方治療の特色ではないかと思います。
次の例は小学1年生の男児,発熱のあと慢性腎炎になったということで,一時は入院もしました。ネフローゼ型の腎炎で,蛋白がかなり出ており,どうしてもプレドニンを使わなければならない例ですが,長く服用することに対して,心配をして漢方治療を求めて来院しました。
時々熱を出し,のどを腫らすということで,まず小柴胡湯が考えられます。さらに蛋白がたくさん出ており,かぜをひくとむくみっぽくなるということで柴苓湯 にしました。柴苓湯を使い出しましてからは,かぜをひくことが少なくなり,プレドニンの量がわずかずつ減量できるようになりました。以前はプレドニンを少し減らすと蛋白が陽性に出ましたが,柴苓湯を併用するようになってからは,少しずつ減らしても蛋白が陽性にはならずにすむということです。来院当初は顔色がすぐれず,いかにもステロイド服用患者らしい独得な顔貌でしたが,柴苓湯を服用しているうちに少しずつひきしまってきて,何となくたくましくなってきたことが感じとられます。まだプレドニンから離脱できませんが,柴苓湯だけで治療が続けられることを望みながら現在服薬中です。
柴苓湯は応用範囲が広いので,最近の治験例も各科から報告されています。東北大学の池田勝久先生らは,難治性の滲出性中耳炎患者18例にツムラ柴苓湯を投与し,有効率72.4%で副作用もなく,ツムラ柴苓湯は滲出性中耳炎の薬物療法として臨床的に有用であると認めています。
藤田学園保健衛生大学の矢崎雄彦先生らは,小児ネフローゼ症候群患者の副腎皮質ステロイド剤からの離脱,減量あるいは同剤の副作用の軽減に柴苓湯が有効であることを報告しており,日赤医療センターの石井策史先生らの報告では,成人の慢性病炎患者の蛋白尿減少,ステロイド副作用の軽減に有効であると思われるということです。
また中勢総合病院の大萱稔先生,京都市身障者リハビリテーションセンター附属病院の田中大也先生らは,柴苓湯が慢性関節リウマチに有効であることを認めて報告しています。
また東京医科歯科大学の渡辺建介先生らは,副鼻腔炎術後の頬部腫脹に柴苓湯が有効であることを報告しています。
※心下痞(みぞちのつかえ)? → 心下痞(みぞおちのつかえ)の誤りか
※水瀉性のサッと下る下痢があるこという場合が柴苓湯の適応になります?
→ 水瀉性のサッと下る下痢があるという場合が柴苓湯の適応になります
副作用
1) 重大な副作用と初期症状
1) 間質性肺炎 :発熱、咳嗽、呼吸困難、肺音の異常(捻髪音)等があらわれた場合には、本剤の投与を中止し、速やかに胸部X線等の検査を実施するとともに副腎皮質ホルモ ン剤の投与等の適切な処置を行うこと。また、発熱、咳嗽、呼吸困難等があらわれた場合には、本剤の服用を中止し、ただちに連絡するよう患者に対し注意を行うこと。
[理由]
厚生省医薬安全局安全対策課長より通知された平成9年12月12日付医薬安第51号「医薬品の使用上の注意事項の変更について」に基づく。
[処置方法]
直ちに投与を中止し、胸部X線撮影・CT・血液ガス圧測定等により精検し、ステロイド剤 投与等の適切な処置を行う。
2) 偽アルドステロン症 :低カリウム血症、血圧上昇、ナトリウム・体液の貯留、浮腫、体重増加等の偽アルドステロン症があらわれることがあるので、観察(血清カリウム値の測定等)を十分に行い、異常が認められた場合には投与を中止し、カリウム剤の投与等の適切な処置を行う。
3) ミオパシー :低カリウム血症の結果としてミオパシーがあらわれることがあるので観察を十分に行い、脱力感、四肢痙攣・麻痺等の異常が認められた場合には投与を中止し、カリウム剤の投与等の適切な処置を行うこと
[理由]〔2)3)共〕
厚生省薬務局長よ り通知された昭和53年2月13日付薬発第158号 「グリチルリチン酸等を含有す る医薬品の取り扱いについて」 及び医薬安全局安全対策課長よ り通知された平成9年12月12日 付医薬安第51号 「医薬品の使用上の注意事項の変更について」 に基づく。
[処置方法]
原則的には投与中止により改善するが、血清カリウム値のほか血中アルドステロン・レニン活性等の検査を行い、偽アルドステロン症と判定された場合は、症状の 種類や程度によ り適切な治療を行う。 低カリウム血症に対しては、カリウム剤の補給等により電解質バランスの適正化を行う。
4) 劇症肝炎、肝機能障害、黄疸: 劇症肝炎、AST(GOT)、ALT(GPT)、Al‑P、γ‑GTP 等の著しい上昇を伴う肝機能障害、黄疸があらわれることがあるので、観察を十分に行い、異常が認められた場合には投与を中止し、適切な処置を行う
[理由]
本剤によると思われる劇症肝炎、AST(GOT)、ALT(GPT)、Al‑P、γ‑GTP等の著し い上昇を伴う肝機能障害、黄疸が報告されている(企業報告)ため。
(平成24年1月10日付薬食安発0110第1号「使用上の注意」の改訂について に基づ く改訂)
[処置方法]
原則的には投与中止により改善するが、病態に応じて適切な処置を行う。
2) その他の副作用
過敏症:発疹、発赤、瘙痒、蕁麻疹等
このような症状があらわれた場合には投与を中止すること。
[理由]
本剤にはニンジン(人参)、ケイヒ(桂皮)が含まれているため、発疹、 発赤、瘙痒、蕁麻疹等の過敏症状があらわれるおそれがある 。また、本剤によると思われる過敏症状が文献・学会で報告されている 。
[処置方法]
原則的には投与中止にて改善するが、必要に応じて抗ヒスタミン剤・ステロイド剤投与等の適切な処置を行うこと。
消化器:口渇、食欲不振、胃部不快感、悪心、嘔吐、腹部膨満感、腹痛、下痢、便秘等
[理由]
本剤によると思われる消化器症状が文献・学会で報告されているため。
[処置方法]
原則的には投与中止により改善するが、必要に応じて適切な処置を行う。
泌尿器:頻尿、排尿痛、血尿、残尿感、膀胱炎等
このような症状があらわれることがあるので、観察を十分に行い、異常が認められた場合には投与を中止し、適切な処置を行うこと。
[理由]
厚生省薬務局安全課長より通知された平成5年9月27日付薬安第87号「医薬品の使用上の注 意事項の変更について」に基づく。
[処置方法]
直ちに投与を中止し、適切な処置を行う。
その他:全身倦怠感
[理由]
本剤によると思われる全身倦怠感が文献・学会で報告されているため。
[処置方法]
原則的には投与中止により改善するが、必要に応じて適切な処置を行う。