木下繁太朗 新星出版社刊
桂枝茯苓丸加薏苡仁(けいしぶくりょうがんかよくいにん)
健 建、ツ
金匱要略
どんな人につかうか
体力中程度以上の人で冷(ひ)えのぼせ、赤ら顔のことが多く,下腹部に抵抗圧痛を訴えるなどの瘀血(おけつ)(ふる血)の症状があり、肌あれ、しみ、そばかす、にきび、いぼなどの皮膚症状を伴ったり、頭痛、肩こり、めまい、のぼせ、足の冷え、月経の異常を伴う場合に用います。
(桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)に薏苡仁(よくいにん)=はとむぎを加えたもの207頁参照)
目標となる症状
症 桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)(74頁)に同じ。その他に①肌あれ。②にきび。③しみ。④そばかす。⑤手足のあれ。⑥いぼ(疣贅(ゆうぜい))。
腹 脈 舌 桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)に同じ。
どんな病気に効くか(適応症)
比袋的体力があり、ときに下腹部痛、肩こり、頭重、めまい、のぼせて足冷(ひ)えなどを訴えるものの、月経不順、血の道症、にきび、しみ、足手のあれ(その他桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)(74頁)参照)。
この薬の処方
薏苡仁(よくいにん)10.0g 桂皮(けいひ)、芍薬(しゃくやく)、桃仁(とうにん)、茯苓(ぶくりょう)、牡丹皮(ぼたんぴ)各4.0g。
この薬の使い方
①前記処方を一日分として煎じてのむ。
②ツムラ桂枝茯苓丸加薏苡仁(けいしぶくりょうがんかよくいにん)エキス顆粒(かりゅう)、成人1日7.5gを2~3回に分け、食前又は食間に服用する。
使い方のポイント
①桂枝茯苓丸に薏苡仁(よくいにん)(はとむぎ)を加えたもの。前述の皮膚症状のある時によく用い、美肌剤としても受用されています。
②薏苡仁(よくいにん)には消炎、排膿の効果があり、それを目標に使うこともあります。
③妊娠がはっきりしたときは、使ってはいけません。妊娠には使用禁忌です。
『健保適用エキス剤による 漢方診療ハンドブック 第3版』
桑木 崇秀 創元社刊
<註>
桂枝茯苓丸料加薏苡仁(ケイシブクリョウガンリョウカヨクイニン)
桂枝茯苓丸を使うべき状態で,皮膚の荒れやニキビ・シミ・ソバカスのある場合に用いられる。最も普通には,月経不順のある比較的虚証の人の同様の症状に対して用いる。
『皮膚科漢方10処方Part2解説①』
大阪市立大学大学院医学研究科皮膚病態学教授 石井 正光
桂枝茯苓丸加薏苡仁
国際名 keishibukuryogankayokuinin
◉コンプライアンスに優れる
この方剤は先はどの桂枝茯苓丸に薏苡仁を合わせたものであり,効能・効果に記載のある通り,桂枝茯苓丸の投与目標に加えて,にきび・しみ・手足のあれなどが記載されています。
桂枝茯苓丸加薏苡仁(けいしぶくりょうがんかよくいにん)
◆構成生薬
ヨクイニン(薏苡仁),ケイヒ(桂皮),シャクヤク(芍薬),桃仁(トウニン),ブクリョウ(茯苓),ボタンピ(牡丹皮)
◆投与方法
7.5g/日を経口投与(通常食前または食間分3)
◆効能または効果(保険適応病名)
比較的体力があり,ときに下腹部痛,肩こり,頭痛,めまい,のぼせて足冷えなどを訴えるものの次の諸症:月経不順,血の道症,にきび,しみ,手足のあれ
◆皮膚科実地臨床における応用例
・桂枝茯苓丸が適応とたる諸疾患
・皮膚のかさつきや乾燥が目立つ場合
・脂漏性角化症
・疣贅
・肝斑や老人性色素斑なとのしみ
桂枝茯苓丸と薏苡仁製剤をそれぞれエキス剤として1日量投与するのは,保険診療上やや困難なうえ,内服量が多くなるので患者さんが全部飲んでくれない可能性もあります。その点で1日量7.5g中に10.0gというかならの量の薏苡仁から抽出されたエキスが配合されたこの方剤はとても使いやすく,コンプライアンスに優れた薬剤と思われます。
◉桂枝茯苓丸と薏苡仁の相乗効果
桂枝茯苓丸の証に加えて薏苡仁の証を考えればよいのですが,古来薏苡仁は上薬に分類されており,証にこだわらずに処方できるものとされています。桂枝茯苓丸に薏苡仁の作用が加わり相乗効果があると考えられますが,適応は桂枝茯苓丸の使用目標と同じでよいと考えられます。
薏苡仁には,水を巡らせ,抗炎症・抗ウイルス・抗角化効果があります。
また一方,瘀血状態からは皮膚の角化亢進が起こると考えられています(前出,山本談)。皮膚がかさつく・乾燥するなどの角化を伴う疾患群には使ってみる価値があると考えます。
◉大量内服には注意
これも,桂枝茯苓丸とほぼ同じですが,薏苡仁が腸管水分の吸収を促し,やや便秘傾向を訴える場合があります。また,薏苡仁の油脂成分があるため大量に内服すると尋常性痤瘡の一過性の悪化がみられることもあります。
『重要処方解説(94)』 日本東洋医学会評議員 青山廉平 先生
温経湯・桂枝茯苓丸加薏苡仁
次に桂枝茯苓丸加薏苡仁(ケイシブクリョウガンカヨクイニン)について簡単に申し上げます。
現在,一般用医薬品として210の漢方処方が承認されております。桂枝茯苓丸加薏苡仁もその中の1つであります。一般用医薬品は,広く一般消費者に使用されるものであり,これらの210の漢方処方はわが国で広く用いられている漢方の成書による基本処方,加減方,合方剤であります。
本方は,桂枝茯苓丸(ケイシブクリョウガン)に薏苡仁(ヨクイニン)を加えたものであります。桂枝茯苓丸についてはいうまでもありますが,駆瘀血剤としてもっとも汎用される処方の1つであります。虚実中等の人に,瘀血の腹証である下腹部の抵抗,圧痛,その他の瘀血の症状を目標として,月経不順,月経困難症,不妊症,子宮筋腫,骨盤内臓器の炎症,尿管結石,蕁麻疹などに広く用いられております。桂枝茯苓丸加薏苡仁の応用は,桂枝茯苓丸を用いる場合と同様でありますが,筋の緊張の強いもの,腫瘍などを目標として薏苡仁を加えるのであります。
薏苡仁はハトムギの種であり,『神農本草経(しんのうほんぞうけい)』には上品として解蟸(カイレイ)という名で収載されております。『薬徴(やくちょう)』には「主治は浮腫なり」とあり,『重校薬徴(じゅうこうやくちょう)』にはこれを補足して「癰膿を主治し,浮腫,身疼を兼治す」となっております。また『古方薬議(こほうやくぎ)』には「痺閉を開き,瘀血を排す」とあります。『新古方薬嚢』では「薏苡仁,味甘,微寒,急を緩め,熱を消し、和をいたすの効あり。故に胸痛,肺癰,風湿,腸癰などに用いらる。また疣をとるの効あり」と述べられております。利水,利尿,鎮痛,鎮痙,排膿作用があり,浮腫,リウマチ,神経痛などの疼痛,下痢,化膿症などに用いられているのであります。
桂枝茯苓丸加薏苡仁は,瘀血が原因で起こる皮膚の荒れ,にきび,肝斑,進行性手掌角皮症,うおのめ鞏皮症,子宮筋腫,乳腺症などに応用されております。
大塚敬節先生の症例を申し上げます。昭和18年生まれの女子学生。顔に粉瘤がたくさんあって,それが時々化膿する。大便は1日1行,月経順調,腹診するに左下腹部に瘀血の腹証としての抵抗,圧痛のある部位を証明する。桂枝茯苓丸加薏苡仁を投与,2週長の服用で瘀血の腹証が消失,4週間で粉瘤の大半が消え,2ヵ月後にはほぼ全治したと報告されております。
※粉瘤(アテローム、アテローマ)
皮膚の下に袋状の構造物(嚢腫)ができ、本来皮膚から剥げ落ちるはずの垢(角質)と皮膚の脂(皮脂)が、剥げ落ちずに袋の中にたまってしまってできた腫瘍の総称。
【一般用漢方製剤承認基準】
75 桂枝茯苓丸料加薏苡仁
〔成分・分量〕 桂皮3-4、茯苓4、牡丹皮3-4、桃仁4、芍薬4、薏苡仁10-20
〔用法・用量〕 湯
〔効能・効果〕 比較的体力があり、ときに下腹部痛、肩こり、頭重、めまい、のぼせて足冷えなど を訴えるものの次の諸症: にきび、しみ、手足のあれ(手足の湿疹・皮膚炎)、月経不順、血の道症 注)
《備考》 注)血の道症とは、月経、妊娠、出産、産後、更年期など女性のホルモンの変動に伴って現れる精神不安やいらだちなどの精神神経症状および身体症状のことである。
【注)表記については、効能・効果欄に記載するのではなく、〈効能・効果に関連する注意〉として記載する。】
副作用
1)
重大な副作用と初期症特になし
2) その他の副作
過敏症:発赤、発疹、掻痒等
このような症状があらわれた場合には投与を中止すること。
[理由]
本剤にはケイヒ(桂皮)が含まれているため、発疹、発赤、掻痒等の過敏症状があらわれるおそれがある。
[処置方法]
原則的には投与中止により改善するが、必要に応じて抗ヒスタミン剤・ステロイド剤投与等の適切な処置を行うこと。
消化器:食欲不振、胃部不快感、下痢等
[理由]
本剤には薏苡仁(ヨクイニン)が含まれているため、胃部不快感、下痢等の消化器症状があらわれる おそれがある。
また、昭和58年4月22日付第21次再評価結果「ヨ クイニンエキス」を参考とした。
[処置方法] 原則的には投与中止にて改善するが、病態に応じて適切な処置を行う。