健康情報: 猪苓湯合四物湯(ちょれいとうごうしもつとう) の 効能・効果 と 副作用

2014年6月2日月曜日

猪苓湯合四物湯(ちょれいとうごうしもつとう) の 効能・効果 と 副作用

『健康保険が使える 漢方薬 処方と使い方』
木下繁太朗 新星出版社刊

猪苓湯合四物湯(ちょれいとうごうしもつとう)
健 ツ
本朝経験方

どんな人につかうか
 猪苓湯(ちょれいとう)(160頁)に四物湯(しもつとう)(113頁)を合方したもので、猪苓湯(ちょれいとう)が効く病気で、ややこじれて長びいたものに用います。

目標となる症状
症 ①体力中等度。②頻尿、残尿感、排尿痛。③混濁尿、血尿、膿尿。④口渇。⑤胸苦しい(心煩)、不安感。⑥顔色が悪い。⑦冷え症。⑧胃腸虚弱の傾向がない。⑨慢性化した泌尿器疾患、あるいは反復しておこる泌尿器疾患。
腹 脈 舌 猪苓湯(ちょれいとう)にほぼ同じ。
どんな病気に効くか(適応症)
 皮膚が枯燥し、色つやの悪い体質で胃腸障害のない人の、排尿困難排尿痛残尿感頻尿(その他猪苓湯(ちょれいとう)の項を参照を参照)。

この薬の処方
 猪苓(ちょれい)、沢瀉(たくしゃ)、茯苓(ぶくりょう)、滑石(かっせき)、阿膠(あきょう)(以上猪苓湯(ちょれいとう))、地黄(じおう)、芍薬(しゃくやく)、川芎(せんきゅう)、当帰(とうき)(以上四物湯(しもつとう))、各3.0g

この薬の使い方
①前記処方(一日分)を煎じてのむ。但し阿膠(あきょう)は後から滓(かす)をとって加える。
②ツムラ猪苓湯合四物湯(ちょれいとうごうしもつとう)エキス顆粒、成人一日7.5gを2~3回に分け、食前又は食間に服用する。

使い方のポイント
①昔は腎結核、膀胱結核によく用いたものですが、最近は治りにくい尿道炎や膀胱炎に用います。
②水分を負荷(ふか)したラットで、猪苓湯(ちょれいとう)は通常量では明らかに利尿作用を示すが、大量(二~四倍量)では利尿作用が現われない。有効量域が存在する。
③成長期のラットでチアジド、アセタゾラミド、フロセミド、プレドニゾロン、デスラノシド、ジギタリス葉末などの現代利尿剤の効果と、猪苓湯(ちょれいとう)の利尿効果を比較すると、殆(ほとん)ど差がなかった。又猪苓湯(ちょれいとう)が、腎におけるナトリウムの能動輸送を抑制し、カリウム喪失に対する生体防御作用を示した。又、腎血流量増加が推定されている。猪苓湯(ちょれいとう)には蓚酸カルシウム結石形成を抑制し、又、腎機能の改善、慢性腎不全での電解質(Mg,K,Ca)の代謝を改善する効果がある。


『健保適用エキス剤による 漢方診療ハンドブック 第3版』
桑木 崇秀 創元社刊
<註>
猪苓湯合四物湯(ちょれいとうごうしもつとう)
 猪苓湯を使うべき状態で慢性化し,顔色も悪く,皮膚もカサカサしているような場合に,四物湯を合方して用いてよい場合がある。
 芍薬が入るので排尿痛にもよく,排尿困難,残尿感,排尿痛,頻尿,血尿などを目標として用いられる。ただし,地黄が入っているので,胃腸弱者には不向きである。



『漢方医学』Vol.34 No.3 (2010年7月発行)
東京女子医科大学東洋医学研究所 稲木一元

漢方重要処方マニュアル
基礎と実践の手引き


猪苓湯合四物湯 ちょれいとうごうしもつとう
構成生薬/沢瀉,猪苓,茯苓,滑石,阿膠,当帰,芍薬,川芎,地黄

処方の特徴
1.猪苓湯合四物湯とは
 猪苓湯合四物湯は,元来は血尿に用いる漢方薬であるが,現在は慢性再発性尿路感染症などに応用されることが多い.比較的長期にわたり尿路の愁訴が続く例に有用である。

2.臨床上の使用目標と応用
 尿路感染症で症状が遷延する例,感染を反復する例に用いる.尿路結石で肉眼的血尿が続く例によい場合がある.顕微鏡的血尿以外に特別の所見のない例にも試みてよい.効果発現までに数週以上を要する例が多い.足先の冷えがポイントとなる.虚弱者では胃腸障害に注意が必要である.

論説
1.原典は本朝経験方
 猪苓湯は『傷寒論』『金匱要略』を出典とする.『金匱要略』消渇小便利淋病篇に「脈浮,発熱し,渇して水を飲まんと欲し,小便利せざれば,猪苓湯之を主る」とあり,“淋病”すなわち現在の尿路感染症に用いている.四物湯は『和剤局方』婦人諸病門を出典とし,月経障害,妊娠中の不正出血,産後不調などに用いるとされる.この2処方の合方は中国医者に前例がなく,わが国で経験的に始まったものと思われるが,誰が最初に用いたのかは明らかでなく,本朝経験方とされる.しかし最初の用例と断定できないにしても,早い記載例は見出されている.

2.江戸期から明治初期の記載について
 本間棗軒(1804-1872)は『瘍科秘録』(1837年自序)で,「血淋(血尿で排尿痛を伴うもの)は,黄連阿膠湯竜胆瀉肝湯猪苓湯などから撰用する.血尿の出ることが多いときには,犀角地黄湯,八味地黄丸,四物湯猪苓湯合方を用いる」という.棗軒は『内科秘録』(1864年初版)では,白濁(尿が白く濁ること)の治療法として,「原因は異なるけれども尿血(血尿),遺精,久淋(慢性尿路感染症),消渇(糖尿病)などの治療法から選用する.長年の自分の経験では八味地黄丸で治った者が多い。しばしざ血尿となる者には猪苓湯四物湯の合方を与える.頻尿で腹力のない者は補中益気湯である.諸治療が無効なときは清心蓮子飲などを試用するとよい」(抜粋)という.また「尿血(血尿)は猪苓湯四物の合方でいったん治っても完治する者は少ない.鮮血が多く出て止まらないときは芎帰膠艾湯がよい.下腹部が軟らかくて冷え(小腹虚冷),頻尿で“血の偏虚する者”は八味地黄湯,“気の偏虚”する者は補中益気湯がよい.血尿は排尿痛がないのを常とするけれども,稀に陰茎の中が渋り痛み,頻尿で淋のようになる者がある.これには竜胆瀉肝湯などを撰用する」という.
 幕末の浅田宗伯は『方読便覧』で「猪苓湯四物湯合方は血淋を治す」とのみ述べている.

3.近年の諸説
 真柳によれば,大塚敬節・矢数道明・木村長久・清水藤太郎共著『漢方診療の実際』1941年版の腎臓結核に対する処方の筆頭に猪苓湯があり,「もし血尿著しいものには四物湯を合方する」と記されているという.筆者が直接確認しえた同書1954年改訂版では,腎結核の筆頭に四物湯合猪苓湯を挙げ,「膀胱障害を起こして尿意頻数,排尿時疼痛を主訴とするものに用いる.腎臓摘出後になお膀胱障害の残存しているものにも良く効く」と適応を拡げた記載がある.
 大塚敬節自身は,「私がこの処方を腎,膀胱結核に用いるようになったのは,亡友,小出寿氏の経験にヒントを得てからである」と述べている.真柳は「現代に本方の応用を蘇らせたのは,やはり大塚敬節先生の貢献が大きかったと言うべきだろう」という.

鑑別
猪苓湯(チョレイトウ)
 膀胱炎で要鑑別.急性列に用いる.猪苓湯合四物湯は慢性再発例.
芎帰膠艾湯(キュウキキョウガイトウ)
 血尿で要鑑別.血尿初期で出血の多い例に用いる.猪苓湯合四物湯は遷延している例に.いずれの場合でも原疾患検索が必須なのは言うまでもない.
清心蓮子飲(セイシンレンシイン)
 慢性再発性膀胱炎で要鑑別.清心蓮子飲は胃腸虚弱者.猪苓湯合四物湯は胃腸虚弱ではない者に用いる.
八味地黄丸(ハチミジオウガン)
 慢性再発性膀胱炎で要鑑別.八味地黄丸は,中高年で腰痛や下肢痛をともなう例によい.猪苓湯合四物湯は方向炎症状のみで年齢を問わない.
竜胆瀉肝湯(リュウタンシャカントウ)
 膀胱炎で要鑑別.排尿痛,残尿感の強い例に用いる.猪苓湯合四物湯では症状は軽度.

 


『重要処方解説(96)』 北里研究所付属東洋医学総合研究所所長 大塚恭男
清心蓮子飲・猪苓湯合四物湯

猪苓湯合四物湯・出典・構成生薬
 本日のもう1つの主題である四物湯猪苓湯の話をいたします。四物湯はいろいろは疾患に使いますが,またいろいろな名処方の中の一部分を構成している因子であるということでも特徴のある処方であります。四物湯は非常に簡単で,当帰(トウキ),芍薬(シャクヤク),川芎(センキュウ),地黄(ジオウ)という4味の処方であります。
 『和剤局方』の婦人諸病門に出てきまして,条文は「営衛(気血と訳してもよいと思うが,体を中から守る機転と,環境から受ける障害に対して抵抗する機転)を調益し,気血を滋養し,衝任虚損(婦人の性器に関係するといわれる衝脈とか任脈が衰えた場合)、月水不調(月経不順)、臍腹䉘痛(おなかと臍のあたりが痛む),崩中漏下(月経異常),血瘕塊硬(婦人の性周期に関連する症状),疼痛を発歇し,妊娠宿冷,将理宜を失し,胎動して安からず,血下りて止まず,及び産後虚に乗じ,風寒内に博ち,悪露下らず,結して瘕聚を生じ,少腹(下腹部)堅痛,時に寒熱をなすを治す」とあります。ここに書いてあるのは,いずれも産婦人科領域のいろいろな症状,ないし疾患に関して述べているものでありまして,産婦人科領域の基本方であるといえると思います。
 ところが,最初にちょっと申しましたように,これは例えば十全大補湯とか,あるいは温清飲ウンセイイン)といった,よく使われるいろいろな処方の中の構成因子になっているわけで,最近では私は婦人病で使う用途のほか,何か免硝がらみの,現代非常に問題になっているような疾患に使う処方の中の,1因子として大事なものてはないかと考えております。
 一方の猪苓湯は非常に古い処方で,『傷寒論』,『金匱要略』に出てきますが,猪苓(チョレイ),茯苓,滑石(カッセキ),沢瀉(タクシャ),阿膠(アキョウ)から構成されております。
 『傷寒論』には「陽明病,脈浮にして緊,咽乾き,口苦く,腹満して喘し,発熱汗出で,悪寒せず。反って悪熱し,身重く,もし汗を発すればすなわち躁し,心憒憒として反って讝語す。もし脈浮発熱,渇して水を飲まんと欲し,小便不利する者は,猪苓湯これを主る」とあります。咽が乾いて水が飲みたい,しかも小便が出ないという者は猪苓湯が行くということであります。
 さらに少陰病篇には「少陰病,下痢六,七日,咳して咽渇し,心煩眠るを得ざる者(何か胸苦しくなって眠ることができない者)は,猪苓湯これを主る」とあります。

■古典・現代における用い方
 四物湯について,浅田宗伯先生の『勿誤薬室方函口訣』にはちょっと面白いことが書いてあります。「この方は『局方』の主治にて薬品を勘考するに,血道を滑らかにするの手段なり。それ故,血虚はもちろん、瘀血血塊の類,臍腹に滞積して種々の害を為す者に用ゆれば,たとえば戸障子の開闔(開閉)にきしむもの(うまく開かないもの)に,上下の溝へ油をぬるごとく,活血して通利を付くるなり」とあります。これは非常にうまい表現で,物事がうまく運ばない場合にうまく運ばせてやるということで,必ずしも産婦人科領域ばかりでなく,一般の疾患に対応する四物湯の役割として,非常によく言い得ていると思います。そのものに大変効くわけではないのですが,ほかのものを使ってそれを滑らかに進行させる,戸障子がきしむのを素直に動くようにさせてやるというのは,,非常に名言だと思います。
 そして「一概に血虚を補うとなすは非なり。東郭(和田東郭(わだとうかく))の説に,任脈動悸を発し、水分の穴にあたりて動築最も激しき者は,肝虚の症に疑なし。肝虚すれば腎もともに虚し,男女に限らず必ずこの処の動悸劇しくなる者なり。これすなわち地黄を用うる標的となす」とあります。
 四物湯はですから婦人病,あるいは必ずしも産婦人科に限らず,泌尿器領域にも非常によく使われるが,さらにいえば免疫からみの,いろいろなむずかしい現代的な病気に対応すると思われる十全大補湯,あるいは猪苓湯などの構成因子として非常に大きな役割を果たしているということがいえるのではないかと思います。
 猪苓湯については『勿誤薬室方函口訣』に,「この方は下焦の畜熱,利尿の専剤とす。もし上焦に邪あり、或は表熱すれば、五苓散ゴレイサン)の証とす。およそ利尿の品は津液の泌別を主とす。故に二方ともによく下利を治す(五苓散との比較)。ただ,その位異なるのみ。この方下焦を主とする故に,淋疾或は尿血を治す」とあります。下焦の方が主なる作用点である,ですから淋疾とか,尿血(血尿)を治すということです。「その他,水腫実に属する者(実証に属する水腫),および下部水気有って,呼吸常のごとくなる者に用いてよく功を奏す」とあります。
 四物湯は婦人科領域,泌尿器科領域によいのでありますが,猪苓湯も下焦ということで,これは産婦人科領域というよりは泌尿器科領域で,どちらかといえば炎症的な因子を含むような疾患,いわゆる前立腺肥大のようなものではなくて,膀胱炎とか尿道炎といった炎症的なニュアンスのある尿路の障害で,尿が出にくいものに使います。昔は何でも小便が出渋るものを全部淋といったわけでありまして,その中には尿路結石とか様々なものが含まれていたと思いますが,昔にいう淋に非常によく使われたのであります。猪苓湯は尿路の疾患に用いることが多々ありますが,四物湯単独で尿路の疾患に用いることは少ないのであります。
 猪苓湯合四物湯は,どちらかといえば急性の症状に使うことが多いと思います。急性の症状でも同じく尿路に効くものでは,たとえば大黄牡丹皮湯ダイオウボタンピトウ)のようなものとの鑑別が必要になります。大黄牡丹皮湯の行くような場合は,症状が非常に激しく,排尿時の痛みが猛烈に強く,激しい血膿尿が降りるようなものに,実によく奏効することがあります。このような場合には猪苓湯はちょっと向きません。私もたとえば抗生物質などを使ったあとで,なおかつそのような症状が強い場合に,大黄牡丹皮湯で実際に著効を示した例を持っております。
 猪苓湯合四物湯はそのような場合ではなくて,それほど強くないがしぶといといった症状,ちょっとよくなってはまた悪くなる,しかも抗生物質などを用いるとたちまちよくなるが,止めるとまた悪くなる,ただ抗生物質をずっと続けているわけにはいかないという場合で,比較的長期に連用するのには向いております。長期に連用して慢性症状を根治するという意味では,この猪苓湯合四物湯は非常に優れた処方だと思います。

■症例提示
 たくさんの症例が報告されておりますが,私の最近の1例ですが,冷え症の中年の女性で始終膀胱炎が起きまして,そのつど抗生物質を使い,使うとすぐによくなるが,止めるとすぐ悪くなるということでした。その方に猪苓湯合四物湯を比較的長く使ってもらうことにしました。抗生物質ですと長期に使うわけにもいきませんが,猪苓湯合四物湯なら一ヵ月や2ヵ月使っても何ともないので,症状がとれてもなお使っていただくことで,膀胱炎なり尿道炎が出にくいような体質に持っていくのに役立つような気持がいたします。現在はそのようなケースが大変多くて,婦人の慢性の膀胱炎とか,尿道炎には非常に便利な,使いやすい処方の1つであると思っております。
 最近の研究として,尿路不定愁訴に対する治験成績をご紹介します。大阪鉄道病院の堀井明範先生らの報告では,30例(男4例,女26例)に猪苓湯,猪苓湯合四物湯を投与し,総合有効率が猪苓湯76.0%,猪苓湯合四物湯80%であったということです。
 和歌山県立医科大学の大川順正先生は,前立腺肥大症,尿路結石症,下部尿路不定愁訴などの尿路系疾患に,五淋散八味地黄丸当帰芍薬散猪苓湯,猪苓湯合四物湯などをそれぞれ使い分けて,77.7%に下部尿路不定愁訴の改善を認めています。猪苓湯合四物湯の有用性は,プラセボ群と比較検討し,極めて有用8.5%,有用14.3%,やや有用27.7%であり,すぐれた有効率が示されたと報告しています。


※䉘:(病-丙)+(巧-エ)
※あるいは猪苓湯などの構成因子として? 猪苓湯温清飲の間違い?


副作用
1) 重大な副作用と初期症状
  特になし

2) その他の副作用
  消化器:食欲不振、胃部不快感、悪心、嘔吐、下痢等

[理由]  本剤には地黄(ジオウ) ・川芎(センキュウ)・当帰(トウキ)が含まれているため、食欲不振、胃部不快感、悪心、嘔吐、下痢等の消化器症状があらわれるおそれがある。
また、本剤によると思われる消化器症状が文献・学会で報告されているため。

[処置方法]  原則的には投与中止により改善するが、病態に応じて適切な処置を行う。