健康情報: 竜骨湯(りゅうこつとう;龍骨湯) の 効能・効果 と 副作用

2012年11月22日木曜日

竜骨湯(りゅうこつとう;龍骨湯) の 効能・効果 と 副作用

『勿誤薬室方函口訣』 浅田 宗伯
竜骨湯  此の方は失心風を主とす。其の人、健忘、心気鬱々として楽しまず、或は驚搐、不眠、時に独語し、或は痴の如く狂の如き者を治す。此の方にして一等虚する者を帰脾湯とするなり。 

『勿誤薬室方函口訣解説(122)』 勝田正泰
竜骨湯
 竜骨湯(リュウコツトウ)は『外台秘要』(七五三年)に記載されている方剤です。まず『方函』の本文を読み下してみます。「宿驚、失忘、忽忽(こつこつ)喜忘、悲傷楽しまず、陽気起たざるを療す。竜骨(リュウコツ)、茯苓(ブクリョウ)、桂枝(ケイシ)、遠志(オンジ)、麦門(バクモン)、牡蛎(ボレイ)、甘草(カンゾウ)、生姜(ショウキョウ)、右八味」。
 この文章は『外台秘要』巻十五の風驚恐失志喜忘及妄言方六首からの引用ですが、原典の『外台』では「失忘」が「失志」となっています。これでないと話が通じません。テキストだけではなく、名著出版の『近世漢方医学書集成』に集録されている『勿誤薬室方函』でも「失忘」となっています。浅田宗伯が誤記するはずはありませんので、原典出版の際に版本が誤ったものと思われます。
 宿驚とは、平素から驚きやすい精神不安状態のこと、失志とは希望を失うこと、忽々とはがっかりして気落ちする状態のこと、喜忘とはよく物忘れすることです。全体として精神が抑うつ不安状態で元気がない、うつ病のような病状を述べているようです。
 次に『口訣』の部を読んでみます。「此の方は失心風を主とす。其の人健忘心気鬱々として楽しまず、或いは驚搐不眠時に独語し、或いは痴の如く狂の如き者を治す。此の方にして一等虚する者を帰脾湯(キヒトウ)とするなり」。
 失心風とは、中国医学で癲(てん)と呼んでいる精神異常の一種です。抑うつ状態で、無表情で、言語が錯乱し、独りごとをぶつぶつ言い、幻想幻覚があり、時には泣いたり笑ったりする状態です。本方はこの失心風に有効だというわけです。
 健忘心気鬱々として楽しまずとは、物忘れがひどくて、気分がさえないで抑うつ状態のことです。その次の驚搐の搐は、筋肉がひきつることです。テキストではリッシンベンになっていますが、テヘンが正しいので訂正して下さい。驚きやすくて筋肉がひきつり、不安不眠症態で時々ぶつぶつ独りごとをいい、あるいは精神薄弱のような、あるいは狂人のような状態の者を治すというわけです。以上の『口訣』の部も、『外台秘要』の引用文を和訳したものです。
 竜骨湯の組成の八味の生薬をみますと、竜骨、牡蛎、遠志は安神薬、つまり精神安定効果のある生薬です。茯苓にも安神作用がありますし、桂枝湯には経脈を温通させて気の上衝を治める働きがあります。甘草には急迫を治す働きがあります。麦門冬には滋潤して心煩を治める働きがあります。これらが協力して有力な精神安定剤になるのだと思います。 本方を使用した治験例はあまり見当たりませんが、宗伯の治験録である『橘窓書影』の中に、次のような症例が記されていますので、読んでみます。
 「館林候臣、安藤小一右衛門、一日失心して狂走妄語止まず。邸医之を治するも益々甚し。余三黄瀉心湯(サンオウシャシントウ)を与え、朱砂安神丸(シュシャアンシンガン)を兼用す。狂走稍安し。妄語止まず、詈罵(りば)笑哭親戚を辨ぜず。胸動亢り、腹虚濡、小便頻数、脈沈細なり。乃ち外台竜骨湯を与う。服すること月余、精神復し、始めて親戚を辨ず。後健忘を発し、神思黙々終日木偶(でく)人の如く、余反鼻交感丹(ハンピコウカンタン)を湯液として服せしむ。数日を経て全人たるを得たり」。
 以上が宗伯の治験例です。一ヵ月以上服用させてかなり効果を治めているようです。
 『口訣』の部の最後に、竜骨暇証よりはやや虚証の場合には、帰脾湯がよいとあります。帰脾湯は四君子湯(シクンシトウ)に酸棗仁(サンソウニン)、竜眼肉(リュウガンニク)、遠志などの安神薬を加え、さらに補血薬の当帰(トウキ)や、補気薬の黄耆(オウギ)や、理気薬の木香(モッコウ)を加えたもので、気血両方が虚した人の不眠症や精神症状にかなりよいことがあります。

『症状でわかる 漢方療法』 大塚敬節著 主婦の友社刊
p.60
▼<元気がなくなり、何もする気がせず、憂うつになり、すべてが不快で、安眠ができないもの>・・竜骨湯
 うつ病によい。これで気分が明るくなり、仕事もできるようになる。

p.236
竜骨湯(りゅうこつとう)
処方 竜骨3g、茯苓4g、桂枝、遠志、麦門冬、牡蛎各3g、甘草1.5g、生姜2g。
目標 つうつうとして楽しまないもの。
応用 うつ病。




『日東医誌(Kampo Med)』 Vol.58No.3:487―493, 2007.
『竜骨湯が著効したパニック障害の一例』.

有島武志,若杉安希乃,及川哲郎,他:
(前略)
 今回我々が使用した竜骨湯は,竜骨,茯苓,桂枝,遠志,麦門冬,牡蠣,甘草,生姜の八味から構成され、原典は『外台秘要方』巻十五,風驚恐失志喜忘及妄言方六首である。条文には「竜骨湯,宿驚,失志,忽々として喜忘,味傷楽しまず,陽気起こらざるを療す」とある。浅田宗伯の『勿誤薬室方函口訣』には,「此の方は失心風を主とす。其の人健忘,心気鬱々として楽まず,或は驚搐不眠時に独語し,或は痴の如く狂の如き者を治す。」と意訳している。
失心風とは,原典の失志と同義で,中国では癲と呼ばれている精神異常の一種であり,抑うつ状態で,表情に乏しく,言語錯乱し,独りごとをぶつぶつ言い、幻想幻覚があるような状態を言う。以上から竜骨湯の使用目標は「普段から驚き易く精神不安定で,希望を失い,がっかりしてよく物忘れをし,悲観的で哀愁にたえず,性欲がなくなり,時に独語を発したり精神薄弱や狂人のような者」と解釈できる。臨床的には,うつ病や統合失調症様の症状にも応用できると考えられている。また,構成生薬は,安神作用を有する竜骨,牡蠣,遠志,茯苓といった生薬に,急迫を治す甘草,気の上衝を抑める桂枝,心煩を治める麦門冬が配合されていることか,パニック障害の症状にも応用できると考えられた。文献的には,うつ病,もしくはうつ状態に対して竜骨湯,桃核承気湯合竜骨湯が有効であった報告が散見される程度である。鑑別処方として,大塚敬節は竜骨湯より実証のものには柴胡加竜骨牡蠣湯,また浅田宗伯は『勿誤薬室方函口訣』で,一等虚する場合には帰脾湯がよいと記している。
(後略)