一般用漢方製剤承認基準
扶脾生脈散(ふひしょうみゃくさん)
〔成分・分量〕 人参2、当帰4、芍薬3-4、紫苑2、黄耆2、麦門冬6、五味子1.5、甘草1.5
〔用法・用量〕 湯
〔効能・効果〕 体力中等度以下で、出血傾向があり、せき、息切れがあるものの次の諸症:
鼻血、歯肉からの出血、痔出血、気管支炎
『勿誤薬室方函口訣』 浅田 宗伯著
此の方は吐血、欬血不止、虚羸少気、或は盗汗出で、飲食進まざる者を治
す。『医通』云ふ、「内傷、熱傷肺胃、喘嗽、吐血、衂血者、生脈散加黄耆甘草紫苑白芍当帰」とは此の方のことを云ふなり。先輩は此の証に阿膠を加へて経験
すれども、余は白芨を加へて屡しば吐血の危篤を救へり。
『勿誤薬室方函口訣解説(110)』 山崎正寿
扶脾生脈散
次は扶脾生脈散であります。明の季梃が著した『医学入門』が出典であり、血類の喀血篇に出ております。処方名の意味するところは、「脾を助け、脈を生ずる」ということであります。名は体を表わすということがありますが、この処方名は簡略に処方の働きを説明しております。すなわち虚弱な脾胃を強める作用がポイントであります。生脈散(ショウミャクサン)は、人参(ニンジン)、麦門冬(バクモンドウ)、五味子(ゴミシ)の三味より成る薬方であり、テキスト143ページにも出ております。
脾胃の力を強め脈を生ずることが、なぜ出血と結びつくかということですが、これは漢方の基本的な概念として「心は血を主り、肝は血を蔵し、脾は血を統ぶ」という『素問』の考えを基盤においております。出血は脾の統制を失調することであり、それはひとえに脾胃の機能低下によるということであります。
具体的な症例を申しあげますと、ある五十歳前後の生真面目な時計商が、何回も胃潰瘍を再発し、その都度漢方治療で回眼復しておりました。何度となく胃透視でその経過を確認されておりますが、ある時、再び食後の心下部痛を訴えて、初めてかなり大量の吐血を起こしてしまいました。直ちに入院させましたが、顔色は貧血状で、脈の力も弱く、ひどく衰弱状態に至りました。それまで半夏瀉心湯(ハンゲシャシントウ)を中心にして治療を行なっておりましたが、吐血をきっかけに扶脾生脈散加白芨(フヒショウミャクサンカハクキュウ)を投与しました。その結果はきわめて良好であり、出血はもちろん、潰瘍も今までになくよくなり、貧血は改善、顔色はよくなり、吐血後一ヵ月ないし一ヵ月半で胃透視の上でも潰瘍の瘢痕化を見ております。そして無事退院に至りました。扶脾生脈散の効果に驚くとともに、脾を助け生を生ずという意味を具体的に知ることができました。白芨(ハクキュウ)はラン科のシランの地下茎で、収斂止血作用が現代薬理学的にも証明されております。
もう一つ症例をあげます。四十歳後半の気管支拡張症の女性、数年来咳嗽、喀痰と血痰に悩まされ、その都度止血剤の注射をしては血痰を止めるという経過でありました。肉体的にも精神的にも相当まいってしまい、食欲もなく痩せ、顔色蒼白で、風邪はひきやすく、熱を出しては咳、血痰の繰返しであります。抗生物質も投与されておりましたが、すぐに胃腸をこわしとても耐えられません。漢方治療に何とか光明を見出したいという思いで診察に訪れ、初めは六君子湯(リックンシトウ)、帰脾湯(キヒトウ)を、風邪をひけばその対応を続けて、やや小康状態になっておりました。しかし何といっても体力がなく、胃腸の力を鼓舞しながら咳や血痰を治してゆかねばなりません。そこで扶脾生脈散加白芨を投与しました。数ヵ月の服薬のうちに顔色はよくなり、食欲も増し、量的には今までより食べられるようになりました。それとともに血痰の回数、量も減少し、順調な経過をたどるようになりました。現在も治療を継続中であります。
このように扶脾生脈散は脾胃虚弱を背景にした吐血、喀血などの出血に対してきわめて有効な処方であると思います。