一般用漢方製剤承認基準
薏苡附子敗醤散(よくいぶしはいしょうさん)
〔成分・分量〕 薏苡仁1-16、加工ブシ0.2-2、敗醤0.5-8
〔用法・用量〕 湯
〔効能・効果〕 体力虚弱なものの次の諸症:
熱を伴わない下腹部の痛み、湿疹・皮膚炎、肌あれ、いぼ
『漢方診療の實際』 大塚敬節 矢数道明 清水藤太郎共著 南山堂刊
薏苡附子敗醤散(よくいぶしはいしょうさん)
薏苡仁一○・ 敗醤三・ 附子○・五~一・
本方は虫垂炎に応用される。虫垂炎は大黄牡丹皮湯の適する場合が多いが、腹壁弛緩軟弱・脈弱数・顔面蒼白を帯び、元気疲憊の者には大黄牡丹皮湯は禁忌で本方が適当する。本方が適当すれば疼痛は減じ、尿量は増加し腫瘤の吸収は速やかに、諸症軽快する。
本方の薬品中、薏苡仁は諸膿瘍に用いて膿の吸収・排泄を促す効がある。敗醤も同様に膿瘍の解消に有効である。
附子はすべて元気の沈衰した場合に用いて、元気を盛んにし、諸臓器の沈衰した機能をを発揚させる効がある。故に諸疾患に於て元気の疲憊せる場合には欠くべからざる薬物である。
本方は虫垂炎のみならず、肺膿瘍で元気衰憊の者にも応用してよろしい。また白帯下に用いてよろしい場合もある。
本方は脈弱で熱の激しくない、元気沈衰の場合に用いるべきであって、もし誤ってこれを脈緊にして熱勢が激しく、元気未だ衰えず、苦痛の甚しい場合に用いると却って病勢を一層悪化し、苦痛を更に増加させるから注意しなければならない。
『漢方精撰百八方』
76.薏苡附子敗醤散(よくいぶしはいしょうさん)
〔出典〕金匱要略
〔処方〕薏苡仁16.0 敗醤8.0 附子0.5~1.0
〔目標〕
自覚的 皮膚がかさついて、冬などは粉のように落屑する。或いは皮膚が薄くなってピカピカひかり、油気がない。ときに腹痛がある。
他覚的 脈:沈又は沈数 舌:湿潤して苔なきか又は微白苔 腹:腹力は軟で、時に両腹直筋が緊張する。回盲部に圧痛を認めることが多い。
〔かんどころ〕
皮膚がかさつき、腹皮はすじばり、回盲の部をおしたらいたむ。
〔応用〕
1.虫垂炎で、熱なく、虚証に属するもの。
2.進行性手掌角化症。
3.みずむし。
4.子宮内膜炎等で、白帯下が甚だしく、脈沈のもの。
5.肺膿瘍で元気の衰えているもの。
6.慢性湿疹で、皮膚枯燥の傾向のあるもの。
〔治験〕
53才の婦人。でっぷり太った、色白の大柄な体格。数ヶ月前から右下腹痛があり、慢性虫垂炎だから手術するように、と医師から再三すすめられている。 脈は沈細。舌は乾湿中等度の微白苔。腹は膨満しているが、腹力はなく、軟弱でブヨブヨした感じ。マックバーネの圧点附近に軽度の圧痛がある。
本方を続服することと約2ヶ月。その後再発をみない。
9才の女児。数年前から身体の諸処に湿疹が出来て、諸医を歴訪するが治らない。越婢加朮湯、消風散等を与えて応ぜず。本方を服用するに至って、はじめて根治の域に達するこたが出来た。
藤平 健
『金匱要略解説(54)』 藤平 健
薏苡附子敗醤酸
「腸癰の病たる、その身甲錯し、腹皮急にしてこれを按ぜば、濡(なん)にして腫るる状のごとく、腹に積聚無く、身に熱無く、脈数、これを腹内に癰膿有りとなす。薏苡附子敗醤敗(ヨクイブシハイショウサン)これを主る」。
おなかの中の腫れもので病んでいる時に、その体が甲錯というのは皮膚がざらざらして荒れていることです。そして腹皮急とは、腹直筋が筋ばっていることで、体全体というよりも、おなかの腹直筋の部分が筋ばっているということでしょう。これを探ってみると、軟らかくしかも腫れているようで、腹の中には積聚(腫れもの)はないし、身には熱もないし、脈は数で速くなっている。これはおなかの中に腫瘍ができている証拠であるから、薏苡附子敗醤散の行くところであるということです。
「薏苡附子敗醤散の方。
薏苡仁(十分)、附子(二分)、敗醤(五分)。
右三味、杵きて末となし、方寸匕を取りて、水二升をもって煎じて半ばを減らし、頓服す(小便まさに下るべし)」。
敗醤というのは、昔は郊外に出ると黄色い花をつけて咲いていたオミナエシ(黄花敗醤)や、白い花をつけるオトコエシという花です。今は花屋さんにはありますが、野生のものはほとんど見当たらなくなりました。敗醤というのはこの草の根ですが、醤油を絞る前の状態のもろみのくさったのに似た匂いがするところから、この名前がついています。
かつて私が山でオミナエシを取ってきて床の間に生けておいたところ、数日後、部屋を通ると、その花が傷みかかって変な匂いを出していました。それであらためて敗醤の名の所以を思い出しましたが、なかなか今は簡単に手に入らなくなりました。
この薏苡附子敗醤散は非常に大事な薬方で、陰証の虚証の腸内の腫瘍、すなわちいわゆる盲腸炎(虫様突起炎)に大変よく効きます。しかしそればかりでなく、下肢にできた腫れものなどにも、陰証で虚証の場合にはよく効きます。また手のひらの先からだんだんにささくれてきてひびが入り、割れて痛いという進行性角皮症などにも、陰証で虚証の場合ですとしばしば効くことがあります。このほかいろいろな陰証で虚証の皮膚病、たとえばアトピー性皮膚炎などでも陰証で虚証の場合にはよい場合がありますし、広く使われる薬方です。