『臨床応用 漢方處方解説』 矢数道明著 創元社刊
75 竹筎温胆湯(ちくじょうんたんとう) (寿世保元・万病回春)
柴胡・茯苓・半夏・麦門冬 各三・〇 陳皮・桔梗・香附子・竹筎 各二・〇
人参・黄連・枳実・甘草・大棗・生姜 各一・〇
「傷寒日数過多にして其の熱退かず、夢寝安からず、心驚、恍惚、煩燥して痰多く、暑らざる者を治す。」
少陽病の変証で、胸膈に鬱熱があって、痰火を生じ、そのため不眠症を発したものを清解させる剤である。諸熱性病で、日数を経て、小柴胡湯の時期を過ぎ、余熱なお胸中に集まり、痰を挟み、心を侵して物に驚き易く、安眠を得ず、咳嗽などがあって、恍惚として時にうわごとの如きを発することがある。痰火のために両頬紅潮することが多く、脈は滑、舌白苔あるも虚状を現わし、竹葉石膏湯よりは少しく実して、柴胡剤の用い難きものによい。
胸中鬱熱による咳嗽・不眠症・驚悸・心悸亢進症・健忘症・酒客痰持ちの朦朧症に応用される。
『漢方後世要方解説』 医道の日本社刊 矢数道明著
p.49和解の剤
方名及び主治 | 四六 竹茹温胆湯(チクジョウンタントウ) 万病回春 傷寒門 ○傷寒日数過多にして其の熱退かず、夢寝安からず、心驚、恍惚、煩燥して丹多く、眠らざるを治す。 |
処方及び薬能 | 柴胡 茯苓 半夏各三 陳皮香附子 竹茹各二 人参 黄連 枳実 甘草 大棗 生姜各一 或は加麦門冬三 半夏、枳実、生姜、陳皮、桔梗=よく痰を袪る。 竹茹=痰火を清解す。 黄連=心熱を涼す。 柴胡=肝胆 の熱を解す。 人参、茯苓、香附子=脾を補い気を順らす。 |
解説及び応用 | ○この方は少陽病の変証で、胸膈に鬱熱があり、痰火を生じそのため不眠症を発したのを清解する剤である。 諸熱病日数を経て小柴胡湯の時期を過ぎ、余熱なお胸中に集まり、痰を挟み、心を侵して物驚き易く、安眠すること能わず、咳嗽、恍惚として時にうわごとの如きを発す。痰火のために両頬紅潮するものが多い。脈は滑、舌白苔あるもそれほど実証でなく、攻撃剤の用い難きものによい。 ○応用 ① 胸中欝熱による咳嗽、② 不眠症、③ 驚悸、④ 酒客痰持の朦朧、健忘、⑤ 心悸亢進症 |
p.149
17 竹茹温胆湯 (チクジヨウンタントウ) (万病回春 傷寒門)
〔処方〕 柴胡三・〇 香附子二・〇 人参一・〇 黄連一・〇 甘草一・〇 桔梗二・〇 陳皮二・〇 半夏三・〇 竹茹二・〇 茯苓三・〇 枳実一・〇 大棗一・〇 生姜一・○ (又加麦門冬二・〇)
本方は二陳湯に柴胡 黄連 香附子の解熱剤、桔梗 竹茹 枳実の袪痰剤を加えたものである。
〔主治〕 竹茹温胆湯の主治として万病回春に、
「傷寒、日数過多ニシテ其熱退カズ、夢寝寧カラズ、心驚、恍惚、煩燥シテ痰多ク、眠ラザル者ヲ治ス」とある。即ち本方は諸熱性病の経過中、余熱消散せず、胸中に熱欝滞し、痰を生じ、そのために驚き易く、心悸亢進、不眠等を発するものに用いるのである。肺炎、気管支炎等に頻発するものである。
また、医学入門に、
「胆虚スルトキハ恐畏シテ猶臥スルコト能ハズ、善ンデ恐レテ敢テセズ、又胆虚スルトキハ眠ラズ。」とある。即ち湿胆湯は胆虚を治すものである。
〔目標〕 勿誤方函口訣に、
「此方ハ竹葉石膏湯ヨリハ稍実シテ、胸膈ニ鬱熱アリ、咳嗽不眠ノ者ニ用ユ。雑病ニテモ婦人胸中鬱熱アリテ咳嗽甚シキ者に效アリ。不眠ノミニ拘ルベカラズ。又千金温胆、三因温胆ノ二方ニ比スレバ、其力緊ニシテ、温胆柴胡二湯ノ合方トモ称スベキ者也。且ツ黄芩ヲ伍セズシテ黄連ヲ伍スル者、龔氏格別ノ趣意ナルコト深ク味フベシ。」とある。
また、蕉窓方意解には、
「此方千金温胆、三因温胆ハ二方トモ余リ単剤ニテ力薄キユヘ、龔雲林深ク考ヘテ立方セラレタルコトナリ。此症大低三因温胆湯ニ髣髴スレドモ、熱気前ノ温胆ヨリツヨキコトヲヨク心得ベシ。然レドモ熱病日数過多、種々ノ薬剤ヲ用ヒテ病症遷延シタルモノユヘ、外邪ノ残熱モアリ、又肝部ヨリノ熱気モ過半スル様子ニテ、第一日数ヲ経タルユヘ、何トナク元気薄ク、攻撃剤ナドハ用ヒ難キ様子ニアルモノ也。此処ヲヨク診シ覚エテ用ユベシ。
又按ズルニ竹葉石膏湯ノ症ニ混同スル様ニ見ユレドモ此ハ熱ノ位、彼ニ比スレバ三分ノ一ニテ煩渇身熱ナド大イニ異同アリ、ヨクヨク此レ異同ノ症ヲ熟診シテ分ツベシ。竹葉石膏湯ハ熱気ジツクリトアツクシテ力ツヨク、身熱ナドト云ウ位ノモノニテ、煩渇喘気モコレニ準ジテ、何分蓄滞ノ熱ヨホド深キコトヲ標的ニスベシ。此標的シカト分ルルトキハ決シテ混同スベキ憂ナシ」と述べている。
また、漢陰臆乗には、
「熱病後、胃実ノ症略々愈エ、余熱痰を挟ミ、兎角スルト物驚キヲシテ安睡スルコト能ハズ、或ハ甚シキトキハ譫語ヲ発スル者、或ハ咳嗽スル者皆痰火ノ所為ナリ。此方ニ宜シ。此症ハ両頬ノ紅ニナル者多シ、矢張痰火ノ所為ト見ユ。又雑症ノ平生酒徒、又ハ痰持ナドノ一時心ロウシ、夜寝ラレズ、驚気咳嗽、脈滑、舌苔白ク、或ハ中央ニ黄ヲ帯ビタル者、皆痰ヨリクルモノアリ、此方ニ宜シ」とある。
また、当荘庵家方口解には、l
「傷寒、汗下ノ後、虚煩不眠譫語スルニ主方ナリ。ヨク寝入ラバ譫語モ止ムナリ。其理ハ傷寒下後実熱大半去リ、気分モ草臥テ実熱ノ中ニ眠ラザルニ、今大半去リタル故寝入ラントスル時、余熱胸中ニ集リテ心ヲオビヤカス、ユヘニ夢寝未ダ安カラズト云フテ、寝グルシク、夢見テ驚キ、醒メテモ夢中ノヤウニテ、寝トボケル顔色有リテ謬語スルナリ」とある。
また経験筆記には、
「此方ノ症ハ初発ヨリハナキ症ナリ。トカク小柴胡以後ニアルモノナリ。故ニ日数過多ノ四字ヲ以テ此方ヲ用ユル目的ノ一ツニスルナリ。夢寝寧カラズト云フハ、兎角痰熱ガ胸ニツヨキニヨツテ寝苦シクなりて時々トンダ声ヲ出シテウナリテ苦シガルナリ。故ニ此トキハ舌苔モヨホドアリ、息ナドモ熱キ息ガ出ルナリ。故ニ夢寝不寧ノ症モ此方ヲ用ユル目的トハナルモノゾ。心驚トハ形ニハ驚ク風情ナケレドモ、心ノ内ニハ物ニ驚キヤスク、ビクビクスル気味ヲ云フナリ。恍惚トハウツカリトシテ顔色ガアホウヲ見ル様ニミエルナリ。此恍惚ノウチニ時々トシテウワゴトヲイフ、是ガ此方ヲ用ユルカンジンノ目的ナリ。煩躁トハ煩ハ胸中熱クルシキヲ云フ。躁ハ身ネタリ起キタリシテモミアセルヲ云フ。此方ノ症ニ何故煩躁アルト云フニ、熱ガ胸中ニ集リテ痰ヲムスユヘ、自然ト胸熱シテモチクルシクナルヨリ煩モ躁モ有ルコトナリ。コレヨリ不眠モ恍惚モ心驚モ夢寝不寧モアルコトナリ。故ニ煩躁ノミワケ不案内ナラバ、此方ニツケソコナイアルコトヲ免レザルト知ルベシ。此方ヲ用ユルナラバ竹茹ヲ倍シテ用ユベシ。竹茹はヨク痰熱ヲ去ルモノナレバナリ。是レ大事ノ口伝ナリ」とある。
これらの諸説は本方運用上の参考となろう。
〔薬能〕 蕉窓方意解に、
「柴胡、香附子ニテ肝部ヲユルメ、鬱熱ヲ去リ、黄連、柴胡、香附子ニ力ヲ合セテ鬱熱を清解シ、又黄連ニテ峻(スルド)ニ心胸中ヲ推シ開クユヘ、桔梗 陳皮 半夏 竹茹 茯苓 枳実ノ働キ愈々宜シクナリ、胸中ノ停飲蓄スルコト能ハズ、サレドモ右十味バナリニテハスルドキユヘ、甘草、人参、大棗ヲ加ヘテ心下ヲホドヨクユルムル趣意ナリ。寿世保元ニ麦門冬アリ、余今コレニ従フ」とある。
〔応用〕
(一) 諸熱性病―経過中熱が去らず、胸中鬱熱、痰があつて不眠、煩躁するもの。
(二) 不眠症―痰が胸に滞り、驚き易く不眠のもの。
(三) 神経性心悸亢進―胸中鬱塞し、痰が出て不眠、驚き易く心悸亢進するもの。
(四) アルコール中毒者の痰持、酒のみで顔色が赫いもの、常に痰多く、不眠の症などあるものに用いる。
『勿誤薬室方函口訣』 浅田宗伯著
竹筎温胆湯
此の方は竹葉石膏湯より稍や実して、胸膈に鬱熱あり、咳嗽不眠の者に用ゆ。雑病にても婦人胸中鬱熱ありて咳嗽甚だしき者に効あり、不眠のみに拘るべからず。また『千金』温胆、『三因』温胆の二方に比すれば、其の力緊にして、温胆、柴胡、二湯の合方とも称すべき者なり。且つ黄芩を伍せずして黄連を伍する者、龔氏格別の趣意あること深く味ふべし。
一般用漢方製剤承認基準
竹茹温胆湯
〔成分・分量〕
柴胡3-6、竹茹3、茯苓3、麦門冬3-4、陳皮2-3、枳実1-3、黄連1-4.5、甘草1、半夏3-5、香附子2-2.5、生姜1、桔梗2-3、人参1-2
〔用法・用量〕
湯
〔効能・効果〕
体力中等度のものの次の諸症:
かぜ、インフルエンザ、肺炎などの回復期に熱が長びいたり、また平熱になっても、気分がさっぱりせず、せきやたんが多くて安眠が出来ないもの
医療用漢方製剤の効能・効果
ツムラ竹筎温胆湯エキス顆粒(医療用)
インフルエンザ、風邪、肺炎などの回復期に熱が長びいたり、また平熱になっても、気分がさっぱりせず、せきや痰が多くて安眠が出来ないもの
[参考]
使用目標:比較的体力の低下した人で、感冒などで発熱が長びき、あるいは解熱後、咳が出て痰が多く、不眠を訴える場合に用いる。
1)精神不安、心悸亢進などを伴う場合
2)季肋下部に軽度の抵抗・圧痛を認める場合(胸脇苦満)
【副作用等】
甘草が含まれているので、
・偽アルトステロン症[低カリウム血症、血圧上昇、ナトリウム・体液の貯留、浮腫、体重増加等]に留意。
・ミオパシー[脱力感、四肢痙攣・麻痺等]に留意。
人参が含まれているので、
・発疹、発赤、瘙痒に留意。
【併用注意】
甘草が含まれているので、他の甘草含有製剤、グリチルリチン酸類を含有する製剤を併用する際には、過剰投与にならないように、注意が必要。
煩燥は、煩躁の誤字?