健康情報: 大承気湯(だいじょうきとう) の 効能・効果 と副作用

2012年11月24日土曜日

大承気湯(だいじょうきとう) の 効能・効果 と副作用

漢方診療の實際 大塚敬節 矢数道明 清水藤太郎共著 南山堂
大承気湯(だいじょうきとう)
本方は陽明病の代 表的方剤で、腹部が膨満して充実し潮熱・便秘・譫語等の症状があり、脈は沈実で力のあるものに用いる。ただし発熱・譫語等の症状がなく、腹部の充満・便秘 のみを訴えるものにも使用する。舌には乾燥した黒苔があって、口渇を訴えることもあり、また舌には苔のないこともあるが乾燥している。此方は厚朴・枳実・ 大黄・芒硝の四味からなり、厚朴・枳実は腹満を治し、大黄・芒硝は消炎・瀉下の効がある。故に腹部膨満の者でも、脈弱の者、脈細にして頻数の者には禁忌で ある。例えば腹水・腹膜炎等によって、腹満を来したものに用いてはならない。急性肺炎・腸チフス等の経過中に、頓服的に此方を用いることがある。また肥満 性体質の者・高血圧症・精神病・破傷風・脚気衝心・食傷等に使用する。大承気湯中の芒硝を去って小承気湯と名付け大承気湯證のようで、症状がやや軽微なも のに用いる。



漢方薬の実際知識 東丈夫・村上光太郎著 東洋経済新報社 刊
9 承気湯類(じょうきとうるい)
腹部に気のうっ滞があるため、腹満、腹痛、便秘などを呈するものの気をめぐらすものである(承気とは順気の意味)。
承気湯類は下剤であり、実証体質者の毒を急激に体外に排出するものである。
各薬方の説明

1 大承気湯(だいじょうきとう)  (傷寒論、金匱要略)
〔厚朴(こうぼく)五、枳実(きじつ)、芒硝(ぼうしょう)各三、大黄(だいおう)二〕
本 方は、陽明病の代表的薬方で、腹部が膨満充実してかたく、便秘するものに用いられる(便秘を伴わない水毒や気による腹満には用いられな い)。したがって、発熱(潮熱)、悪心、口渇、腹満、腹痛、便秘(下痢のときは裏急後重のはなはだしいもの)、譫語(重症は精神錯乱状態となる)などを目 標とする。
〔応用〕
つぎに示すような疾患に、大承気湯證を呈するものが多い。
一 腸チフス、赤痢、疫痢、麻疹その他の急性熱性伝染病。
一 流感、気管支喘息、肺炎その他の呼吸器系疾患。
一 腸カタル、急性消化不良症、常習便秘その他の胃腸系疾患。
一 精神病、神経痛その他の精神、神経系疾患。
一 月経閉止、産褥熱その他の婦人科系疾患。
一 そのほか、肥胖症、高血圧症、破傷風、眼疾患、痔核、尿閉、食中毒など。


『康平傷寒論解説(37)』 大塚恭男
■大承気湯
 「大いに下して後,六、七日大便せず、煩解せず、腹満痛する者は、これ燥屎あるなり。大承気湯(ダイジョウキトウ)に宜し」。傍註として「然る所以の者は、もと宿食あるが故なり」とあります。
 「強い下剤をかけてから六日も七日も大便が出ないで、うっとうしい感じがとれず、おなかは張って痛むものは、乾いた大便が腸の中にたまっているのである。これには大承気湯がよい」ということです。『康平傷寒論』と傍註文は、康平本の解釈では原典の文章ではないとなっております。「こういうことが起こったのは、食べ物がいつまでも滞っているからである」というのがその傍註であります。
 大承気湯はすでに出てきましたが、処方をもう一度述べますと、これは陽明病の代表的な処方で、大黄(ダイオウ)、枳実(キジツ)、厚朴(コウボク)、芒硝(ボウショウ)の四味から成っております。大黄は漢方の代表的な瀉下剤です。しかしこれは非常に幅の広い薬で、消炎、止瀉などの薬効も知られており、大承気湯の名のごとく気をめぐらす、向精神作用のようなものも大黄にあるのではないかといわれております。芒硝は硫酸ナトリウムで瀉下活性のあるものです。枳実と厚朴は、よく下剤に配合されますが、大承気湯、小承気湯(しょうじょうきとう)ともに枳実、厚朴が配合されております。麻子仁丸にも枳実、厚朴が配合されており、瀉下作性と一緒になって何らかのよい効果をもたらすものであろうと思います。
 漢方の考えでは、これは気剤の一つといわれており、大黄も広い意味では気剤の中に入ると思いますが、向精神作用があり、うつ状態などに効果があるといわれる薬物でもあります。もちろんほかにもいろいろな薬効がありますが、承気湯(ジョウキトウ)という名にふさわしく、気剤が三つも入っております。現在はこの条文にぴったりの症例にぶつかって大承気湯を用いることはあまりないと思いますが、「大いに下して後」ではなく、何日も大便が通じない状態で、精神的にわずらわしい状態が解けないというのを拡大解釈して、慢性便秘があって精神がすぐれず、おなかが張って時には痛むという状態に、大承気湯を使ってもよいのではないかと思います。こういう状態を見かけるのは、老人性のうつ状態で便秘を伴うものがあり、これに当てはめてもよいと思います。
 次は「病人、小便不利、大便乍ち鞕く、乍ち易し。時に微熱あり、喘冒して臥す能わざる者は、燥屎あればなり。大承気湯に宜し」とあります。
「病人が小便の出が悪く、大便は、ある時は硬く、ある時は軟らかく、最近の過敏性腸症候群の感じで、何となく熱っぽい感じで、喘鳴や呼吸困難があったり、立ちくらみなどがして横になることができないのは燥屎があるからで、大承気湯を使ったらよろしい」ということです。
 漢方の古典には「眠る能わず」と「臥する能わず」という表現があります。「眠る能わず」は不眠症、「臥する能わず」の方は眠れないのではなく横になれない結果として睡眠が妨害されることです。「臥する能わず」は、小青竜湯(ショウセイリュウトウ)、八味丸(ハチミガン)にもこの表現がありますが、小青竜湯では大承気湯と同じように呼吸困難で、臥することができないのです。八味丸の場合は、『金匱要略』にあって、今式にいうと、前立腺肥大症の急性増悪をきたしたような場合で、横になることができないというものであります。
 大承気湯は、元来は便の硬い場合に使うわけで、瀉下活性を利用することが多いのですが、この場合のように「乍ち硬く、乍ち易し」という場合でも使い得るのかもしれません。『傷寒論』は急性感染症のことを書いたテキストですが、感染症の経過中にこういうことが起こったということが起こったということであると、承気湯の出場も当然考えられますが、現在では急性の感染症を漢方で扱うことが少なくなりましたので、感染症以外で大便が体質的に軟らかい場合には、大承気湯の出番は少ないと思います。ですからこの条文を現在適応とするならば、大便の硬い方、便秘で、他の条文、すなわち小便不利であったり、大便が硬かったり、そして喘鳴、眩冒があって、睡眠がさまたげられたりする場合に、大承気湯の出番があるといえると思います。


《資料》よりよい漢方治療のために 増補改訂版 重要漢方処方解説口訣集 中日漢方研究会
50.大承気湯(だいじょうきとう) 傷寒論
 大黄2.0 枳実3.0 芒硝3漆t 厚朴5.0

(傷寒論)
陽明病,脉遅,雖汗出,不悪寒者,其身必重,短気腹満而喘,有潮熱者,此外欲解,可攻裏也,手足濈然汗出者,此大便己硬也,本方主之(後略)(陽明)
傷寒若吐若下後不解,不大便五六日,上至十余日,日晡所発潮熱,不悪寒,独語如見鬼状。若劇者,発則不識人,循衣摸床,惕而不安,微喘直視,脉弦者生,濇者死。微者,但発熱譫語者,本方主之,若一服利,則止後服

(金匱要略)
病解能食,七八日更発熱者,此為胃実,本方主之(産後)

現代漢方治療の指針〉 薬学の友社
 腹部の力があり,かたくつかえて便秘するもの,あるいは肥満体質で便秘するもの。
 元来,急性の熱発時熱が高くガン固な便秘で,腹部が緊満し「うわごと」その他の脳症を発現する壮実な体質者に用いられてきた処方である。こんな症状は通常,食中毒や急性熱性疾患の初期によく見受けられ,比較的熱が高いか,あるいは著しい熱感があって患者はもだえ苦しみ,ひどいものは脳症をおこし,解熱剤やかん腸薬を用いても好転しないものに,本方がよく適応するが最近は常習便秘や急性便秘に熱に関係なく応用されている。
 ガン固な便秘と熱感,腹部のつかえ神経症状などで三黄瀉心湯と類似する。三黄瀉心湯は著しい末梢血管の充血を認め,胃部がかたくつかえて便秘するが,本方は下腹部が膨満して便秘するものによい。また桃核承気湯は下腹部所見と便秘があるが,この方は主として左下腹部に抵抗物や圧痛があ改aて便秘し,膨満というものでなく,そのうえ,下半身の冷感やのぼせの症状を伴うので,本方との区別ができる。胃部のつかえや便秘で大柴胡湯とその訴えが似ているが大柴胡湯は心窩部のつかえと便秘が目安でそのほかに胸脇部の圧迫感を伴う。本方は肥満壮実体質の急性熱性病の経過中に,発熱,腹満,譫語などの症状あるものに頓服的に用いるが,熱症状や脳症がなく腹部充満と便秘のみを訴えるものにも応用する。ただし心臓衰弱や弱脈の傾向のあるもの,あるいは腹膜炎や腹水などによるものには用いない。本方症状に似て発熱,譫語,口渇あるものに白虎加人参湯が適応し,腹満,便秘を伴うものに本方を考慮すればよいが,いずれにしても虚弱者や衰弱者には禁忌の処方である。


漢方処方応用の実際〉 山田 光胤先生
 腹が硬く張ってひどく膨満し,あるいは腹が痛み,便秘する。このとき腹部ばかりでなく全身が苦しく,身体が重く,息切れや喘鳴す識ことがある。熱があるときは潮熱となってさむけがなく,全身がくまなく熱くなって,じっとりと汗ばむものである。また軽症では目がかすむ程度だか,重症では意識が混濁してうわごとをいったり,甚だしければ幻覚を生じ,錯乱状態にもなる。大便は硬くて通じにくい。ところが熱がでて悪寒し,裏急後重が強くて度々便意を催すような下痢をすることもある。のどの渇き,舌は乾燥して黄白苔や稀に黒苔を生ずる。脈が沈で力があり,あるいは遅,あるいは滑である。
○和田東郭 蕉窓雑話「承気湯の腹候は,心下くつろぎて,臍上より臍下へ向けて,しっかりと力ありて張るものなり。」といっている。


漢方診療の実際〉 大塚,矢数,清水 三先生
 本方は陽明病の代表的方剤で,腹部が膨満して充実し潮熱,便秘,譫語等の症状があり,脈は沈実で力のあるものに用いる。ただし発熱,譫語等の症状がなく,腹部の充満,便秘 のみを訴えるものにも使用する。舌には乾燥した黒苔があって,口渇を訴えることもあり,また舌には苔のないこともあるが乾燥している。此方は厚朴,枳実, 大黄,芒硝の四味からなり,厚朴,枳実は腹満を治し,大黄,芒硝は消炎,瀉下の効がある。故に腹部膨満の者でも,脈弱の者,脈細にして頻数の者には禁忌で ある。例えば腹水,腹膜炎等によって,腹満を来したものに用いてはならない。急性肺炎,腸チフス等の経過中に,頓服的に此方を用いることがある。また肥満性体質の者,高血圧症,精神病,破傷風,脚気衝心,食傷等に使用する。大承気湯中の芒硝を去って小承気湯と名付け大承気湯証のようで,症状がやや軽微なも のに用いる。 


漢方処方解説〉 矢数 道明先生
 腹部が充実し,膨満して堅く,脈にも力があって,便秘するものを目標とする。大体が臍を中心として膨満するものである。(防風通聖散は慢性体質的であって,本証は急性実熱証である。)熱があって,悪寒も悪風もなく,便意を催して通じなく,裏急後重が強く、口渇甚だしく,舌は乾燥してときどき黒苔を生じ,また悪心を訴え,あるいは譫語(うわごと)をいったりするときに,早く本方で熱を下すのである。熱が高いのに脈が沈遅で力があり,汗が出ても悪寒がなく,腹部膨満充実して便秘して大便硬く,手足からも汗がじとじとと出るのが目標である。また熱が高くてうわごとをいい,意識がもうろうとして不安の状を呈し,数日間便秘し,熱は潮熱状となって悪寒のないものにも用いる。この潮熱というのは,あたかも潮が満つるごとくで,海岸のすみずみまで波でぬれるよう残熱とともに全身に汗が出るのをいうので,この潮熱が大承気湯を用いる目標となる。腹満があっても脈微弱,頻数のもの,腹水と鼓張(ガスの停滞による)には用いられない。


漢方入門講座〉 竜野 一雄先生
 承気とは順気即ち気をめぐらす意である。枳実,厚朴は気が痞えているのを押開くというような目的の時に使う薬であるし,大黄は苦寒で陰気即ち腹の気をめぐらし,胃腸内の滞りを去り,熱を瀉す。芒硝は寒剤で熱を瀉すのが第一,停水を排除し,乾きを潤すのが第二,瀉下作用は第三のものである。本方は裏の熱実を瀉し,気を順らす処方で,普通あまり使われないが,どうしても使わねばならぬ緊急肝要な場合があり,且つ世間に思っているよりは普通の場合でも使う機会があるものだ。
 運用 1.潮熱
 潮熱とは胃熱が本で内外が熱がみながる状態を示す。熱感強く脉大になる。大承気湯は胃の実熱を主る処方で,潮熱ばかりでなく,それを起す胃実熱の症状又は潮熱に伴う症状が併存する。便秘,腹満,汗,讝語などが之である。潮熱を主として此等の症状のどれかを伴えば本方の指示になる。
 「陽明病,潮熱,大便微しく鞕きものは大承気湯を与うべし。鞕からざるものは之を与うべからず」(傷寒論陽明病)
 陽明病は胃の実熱の病型である。この場合は大便微硬を伴う。与うべしで主るではないから他の承気剤も模様をよって選用してよい。且つ与えて反応のh観察する必要がある。
 「病人煩熱し汗出づれば則ち解す。又瘧状の如く日晡所発熱する者は陽明に属す。脉実の者は宜しく之を下すべし(中略)之を下すに大承気湯を与う(後略)」(同上)
日晡所は夕方のことで陽明の病の熱であることを示す。潮熱と同じに取扱ってよい。流感などで高熱を発し,前記症状を呈するものに使う機会が相当にある。脉の実,大,口唇が赤くなっている。腹満などを参考にする。

 運用 2.腹満,便秘,燥屎,宿食
 胃に物が詰って張って燥いている状態で,そのために熱を生じて来る。「陽明病,脉遅,汗出づると雖も悪寒せざるものは其身必ず重く,短気腹満して喘す。潮熱有るものは,これ外解せんと欲す。裏を攻むべし。手足澉然として汗出づるものはこれ大便已に鞕し。大承気湯之を主る。」(傷寒論陽明病)腹満,大便硬の外に身重,短気,喘,潮熱などが伴っている。身重は筋肉にも熱を帯びていることを示し全身的な潮熱の部分現象である(後略)

 運用 3.下痢
 便が詰って出なければ便秘する。溢れて出れば下利を起す。大承気湯の下痢はそういう趣きのある場合である。
 「下利,脉遅にして滑のものは内実なり,利末だ止まんと欲せざれば之を下すべし。大承気福zに宜し」(傷寒論可不篇)
 腸に詰っている(内実)から循環する気はそこで痞えて末梢部へめぐりが遅くなる。脉遅は之を示す。然し内実から熱を帯びて来るので滑の脉が現われる。(後略)

 運用 4. 喘又は心中懊悩

 運用 5. 讝語(センゴ)脳症
 「二陽の併病,太陽の証罷ただ熱を発し,手足漐々として汗出で,大便難にして讝語するものは之を下せば則ち愈ゆ。大承気湯に宣し」(傷寒論陽明病)高熱のために脳症を起したものである。二陽の併病とは太陽病と陽明病で,太陽病は表の熱,陽明病は胃の熱故に表に属する頭に熱が上がってうわこどを言う。(後略)

 運用 6. 裏に熱がこもり,症状が反って軽微のもの
 「傷寒6,7日,日中了々たらず,清和せず,表裏の証なく,大便難,身微熱のものはこれ実となすなり。急に之を下せ。大承気湯に宣し。」(傷寒論陽明病)
 目がぼんやりして霞んだり,膜がかかったり,晴が物を視つめることが出来なかったりする。之を患者が訴えなければ気付かない。大便難や身微熱も大して気がつくほどのことではない。しかも表裏の証なくで,一寸摑えにくい。軽症と誤り勝ちな症状だが,実は脳症を起す一歩手前の容易ならざる状態である。故に急に之を下せと警告している。(後略)

 
勿誤方函口訣〉 浅田 宗伯先生
 此方は胃実を治するが主剤なれども,承気は即ち順気の意にて,気の凝結甚しき者に活用することなり。当帰を加えて発狂を治し,乳香を加えて痔痛を治し,人参を加えて胃気を鼓舞し,又四逆湯を合して温下するが如き,妙用変化窮りなしとす。他の本論及び呉又氏に拠りて運用すべし。




副作用
 1) 重大な副作用と初期症状
   特になし
 2) その他の副作用
   消化器:食欲不振、腹痛、下痢等
   [理由]  本剤には大黄(ダイオウ)・無水芒硝(ボウショウ)が含まれているため、食欲不振、腹痛、 下痢等の消化器症状があらわれるおそれがあるため。 
  [処置方法]  原則的には投与中止により改善するが、病態に応じて適切な処置を行う。