95 大防風湯(だいぼうふうとう) 〔和剤局方〕
当帰・芍薬・熟地黄・黄耆・防風・杜仲・白朮・川芎各三・〇 人参・羗活・牛膝・甘草・大棗各一・五 乾生姜一・〇 附子〇・五~一・〇
〔応用〕
慢性に経過して虚状を帯び、貧血気味となった下肢の運動麻痺と疼痛に用いる。
すなわち本方は主として慢性関節リウマチ・脊髄炎・半身不随・脚気・産後の痿躄(下肢運動麻痺)等に応用される。
〔目標〕
慢性に経過して体力衰え、貧血性となり、熱状なく、下肢の運動障害を起こし、栄養も障害されて削痩して食欲衰え、または下痢する傾向のあるものには桂枝加芍薬知母等を試みるがよい。
〔方解〕
補血強壮を主として四物湯に人参・白朮・黄耆を配し、血行をよくし、肌肉を強め、冷えを去る。防風・羗活は諸風を袪り、骨関節の麻痺強直を治し、牛膝・杜仲は腰脚の筋骨を強壮にし、疼痛を緩解する。
〔主治〕
和剤局方(諸風門)に、「風ヲ袪リ、気ヲ順ラシ、血脈ヲ治シ、筋肉ヲ壮ニシ、寒湿ヲ除キ、冷気ヲ逐フ。又痢ヲ患フノ後、脚痛ミ痿弱ニシテ行履スルコト能ハズ、名ヅケテ痢風ト曰フ。或ハ両脚膝腫レテ大イニ痛ミ、髁脛枯腊シテタダ皮骨ヲ存シ、拘攣跧臥シテ屈伸スルコト能ハズ、名ヅケテ鶴膝風ト曰フ。之ヲ服シテ気血流暢シテ肌肉漸ク生ジ、自然ニ行履故ノ如シ」とある。
勿誤方函口訣には、「此ノ方百一選方ニハ鶴膝風ノ主剤トシ、局方ニハ麻痺痿軟の套剤(常用方剤のこと)トスレドモ、其目的ハ脛枯腊トカ風湿挾虚トカ云フ気血衰弱ノ候が無ケレバ効ナシ、若シ実スルモノニ与フレバ却テ害アリ」とあり、
梧竹楼方函口訣(百々漢陰)には、「大防風湯は鶴膝風(関節リウマチで膝関節が腫れ、下肢は鶴の脚のように細くなったもの)の主方である。しかし初期に用いてはいけない。発病初期で熱性症状のあるときは麻黄左経湯(羗活・防風・麻黄・桂枝・朮・乾姜・細辛・防已・甘草)を用いて、発汗させるがよい。この方は熱が去って、腫脹、疼痛だけが残って、筋肉が痩せ細り、歩行困難となり、年を経て治らないものによい。つまり気血の両虚を補う手段を兼ねたものである。その他一切の脚・膝の痛み、或は拘攣などがあって、夜分にだるく痛み、日に日に痩せ細り、寒冷に逢うと痛みがひどくなり、すべての容体が気血の両方が虚しているということを目標として用いるがよい」とある。(漢方治療の実際より引用)。大塚敬節氏、大防風湯三例(「活」一九巻一一号)
〔鑑別〕
○桂枝芍薬知母湯常32(膝腫痛・この方は軽く気血の虚が少ない)
〔治例〕
(一) 脚気下肢痿弱
一男子、脚気を患い両脚が痿弱し、後には手も足も細って、ついに痿躄(下肢麻痺)となってしまった。これに大防風湯を与えたところ、数日で起きて歩けるようになった。
脚気で虚里の動悸(心尖搏動)が奔馬の如くいめるものは、大抵急変するものである。
(浅田宗伯翁、橘窓書影巻一)
(二) 関節リウマチ
いま私の治療している女人の患者で、三年あまり大防風湯をのみつづけているリウマチの患者がいる。初診のことは歩くのも骨が折れたが、このごろは家庭内の起居動作はできるようになった。
この方は桂枝芍薬知母等よりもさらに一段と衰弱が加わり、気血両虚というところが目あてである。桂枝芍薬知母湯に四物等を合方して用いたいというようなところに用いる。(大塚敬節氏、漢方治療の実際)
医療用漢方
製品名 | 規格 | 単位 | 薬価 | 製造会社 | 販売会社 |
---|---|---|---|---|---|
三和大防風湯エキス細粒 | 1g | G | 16.2 | 三和生薬 | 大杉製薬 |
ツムラ大防風湯エキス顆粒(医療用) | 1g | G | 13.5 | ツムラ | ツムラ |
本品1 日量(9g)中、下記の大防風湯水製エキス6.5gを含有する。
日局 ト ウ キ 3.0g
日局 ニンジン 1.5g
日局 シャクヤク 3.0g
日局 キョウカツ 1.5g
日局 ジ オ ウ 3.0g
日局 ゴ シ ツ 1.5g
日局 オ ウ ギ 3.0g
日局 カンゾウ 1.5g
日局 ハマボウフウ 3.0g
日局 ショウキョウ 0.5g
日局 トチュウ 3.0g
日局 タイソウ 1.5g
日局 ビャクジュツ 3.0g
日局 加工ブシ 0.5g
日局 センキュウ 2.0g
効能又は効果
関節がはれて痛み、麻痺、強直して屈伸しがたいものの次の諸症
下肢の慢性関節リウマチ、慢性関節炎、痛風
慎重投与内容とその理由
慎重投与(次の患者には慎重に投与すること)
(1)体力の充実している患者 [副作用があらわれやすくなり、その症状が増強されるおそれが
ある。]
(2)暑がりで、のぼせが強く、赤ら顔の患者 [心悸亢進、のぼせ、舌のしびれ、悪心等があら
われるおそれがある。]
(3)著しく胃腸の虚弱な患者 [食欲不振、胃部不快感、悪心、嘔吐、下痢等があらわれるおそれ
がある。]
(4)食欲不振、悪心、嘔吐のある患者 [これらの症状が悪化するおそれがある。]
重要な基本的注意とその理由及び処置方法
(1)本剤の使用にあたっては、患者の証(体質・症状)を考慮して投与すること。
なお、経過を十分に観察し、症状・所見の改善が認められない場合には、継続投与を避ける
こと。
(2)本剤にはカンゾウが含まれているので、血清カリウム値や血圧値等に十分留意し、異常が認め
られた場合には投与を中止すること。
(3)他の漢方製剤等を併用する場合は、含有生薬の重複に注意すること。
ブシを含む製剤との併用には、特に注意すること。
7.相互作用
(1) 併用禁忌とその理由
特になし
(2) 併用注意とその理由
併用注意(併用に注意すること)
1) 重大な副作用と初期症状
1)偽アルドステロン症:低カリウム血症、血圧上昇、ナトリウム・体液の貯留、浮腫、体重増加
等の偽アルドステロン症があらわれることがあるので、観察(血清カリウム値の測定等)を十分
に行い、異常が認められた場合には投与を中止し、カリウム剤の投与等の適切な処置を行うこと。
2)ミオパシー:低カリウム血症の結果としてミオパシーがあらわれることがあるので、観察を十
分に行い、脱力感、四肢痙攣・麻痺等の異常が認められた場合には投与を中止し、カリウム剤の
投与等の適切な処置を行うこと。