31.梔子柏皮湯(ししはくひとう) 傷寒論
梔子3.0 甘草1.0 黄柏2.0
(傷寒論)
○傷寒、身黄発熱,本方主之(陽明)
〈現代漢方治療の指針〉 薬学の友社
肝臓部の緩和な圧迫感,軽微な黄疸症状、あるいは皮ふの瘙痒や炎症充血があるもの。症状が緩和で大黄剤が適しない虚弱者または軽症のものに用いられている。
〈カタル性黄疸〉 茵蔯蒿湯と同様に利胆作用があって肝臓疾患に用いられるが,皮ふ粘膜の発黄が緩和で胸部苦悶感なども著しくないもの。
〈ジンマ疹,皮ふ瘙痒症〉 発赤や腫脹または瘙痒を訴えるが,その他の所見が少ないもの。
〈打撲,捻挫〉 本方エキス散に卵白を加え撹拌したうえ,徐々に水を加え,適度の泥状としたものを布地にのばし,患部に繃帯しかわくごとに更新すると,痛みや腫脹をすみやかに好転させる。
〈結膜炎〉 本方を稀釈した水溶液で温罨法すると,炎症,充血などに奇効を奏することがある。肝炎,黄疸,ジンマ疹などに使うとき茵蔯蒿湯との鑑別は,本方適応症は前記のとおり,全般的に緩和であるのに対し,茵蔯蒿湯は著しい口渇,胸内苦悶,頭汗,発黄が著明で便秘する点で区別できる。黄連解毒湯はのぼせ,充血,出血その他神経症状を伴い本方の証には,これらの点が少ないことで鑑別すればよい。
〈漢方処方応用の実際〉 山田 光胤先生
黄疸があっても腹満や胸脇苦満の腹証がなく,悪心,嘔吐,口渇,尿利減少などのないものに用いる。
〈漢方入門講座〉 竜野 一雄先生
運用 1. 黄疸
「傷寒,身黄発熱するは梔子柏皮湯之を主る。」
(傷寒論陽明病)身熱,発黄,或は瘀熱発黄に使う。麻黄連軺赤小豆湯の如く表証は兼ねず,茵蔯蒿湯の如く裏実して下すべき証なく,大小便普通のものに用いる。多少心熱煩躁の気味がある。
運用 2. 痒み
黄疸でも皮膚が痒くなるが,皮膚炎,じん麻疹,その他の皮膚病でも発赤乾燥熱感のある痒みに使う。梔子豉湯との区別は必ずしも容易でないが黄疸なら本方を使うのが普通の仕方であり,本方は小便が赤いことも参考になる。黄柏が湿熱を去り,香豉が潤す所より見れば梔子柏皮湯はかゆき皮膚面に湿り気あるべく,梔子豉湯は乾燥強きことが察せられるが,今後の経験によってその是非を確めたい。
運用 3. 眼の充血
尾台榕堂先生は,「眼球黄赤熱痛甚しきを洗ふに効あり。又胞瞼糜燮痒痛及び痘瘡落痂以後眼ナホ開かざるものは枯礬少許を加へて之を洗踊。皆妙なり」(類聚方広義)と経験を述べている。この他梔子豉湯の適応症を参照して応用の途を考えたい。
医療用漢方製剤
コタロー梔子柏皮湯エキス細粒
Shishihakuhito
〔有効成分〕
1日量6.0g(分包品:2.0g×3包)中、
日局 サンシシ 3.0g
日局 カンゾウ 1.0g
日局 オウバク 2.0g
上記の混合生薬より抽出した梔子柏皮湯の水製乾燥エキス1.2gを含有する。
〔添加物〕
ステアリン酸マグネシウム、トウモロコシデンプン、乳糖、プルラン、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム。
*保存剤、安定剤、溶媒、溶解補助剤、基剤等は使用していない。
〔効能・効果〕
肝臓部に圧迫感があるもの。黄疸、皮膚痒症、宿酔。
〔用法・用量〕
通常、成人1日6.0gを2~3回に分割し、食前又は食間に経口投与する。
なお、年齢、体重、症状により適宜増減する。
〔使用上の注意〕
(1)重要な基本的注意
1)本剤の使用にあたっては、患者の証(体質・症状)を考慮して投与すること。なお、経過を十分に観察し、症状・所見の改善が認められない場合には、継続投与を避けること。
2)本剤にはカンゾウが含まれているので、血清カリウム値や血圧値等に十分留意し、異常が認められた場合には投与を中止すること。
3)他の漢方製剤等を併用する場合は、含有生薬の重複に注意すること。
(2)相互作用
併用注意(併用に注意すること)
薬剤名等 | 臨床症状・措置方法 | 機序・危険因子 |
①カンゾウ含有製剤 ②グリチルリチン酸及びその塩類を含有する製剤 |
偽アルドステロン症があらわれやすくなる。 また、低カリウム血症の結果として、ミオパシーがあらわれやすくなる。(「重大な副作用」の項参照) |
グリチルリチン酸は尿細管でのカリウム排泄促進作用があるため、血清カリウム値の低下が促進されることが考えられる。 |
(3)副作用
本剤は使用成績調査等の副作用発現頻度が明確となる調査を実施していないため、発現頻度は不明である。
1)重大な副作用
①偽アルドステロン症:低カリウム血症、血圧上昇、ナトリウム・体液の貯留、浮腫、体重増加等の偽アルドステロン症があらわれることがあるので、観察(血清カリウム値の測定等)を十分に行い、異常が認められた場合には投与を中止し、カリウム剤の投与等の適切な処置を行うこと。
②ミオパシー:低カリウム血症の結果としてミオパシーがあらわれることがあるので、観察を十分に行い、脱力感、四肢痙攣・麻痺等の異常が認められた場合には投与を中止し、カリウム剤の投与等の適切な処置を行うこと。
*2)その他の副作用
頻度不明 | |
消化器 | 食欲不振、胃部不快感、下痢等 |
(4)高齢者への投与
一般に高齢者では生理機能が低下しているので減量するなど注意すること。
(5)妊婦、産婦、授乳婦等への投与
妊娠中の投与に関する安全性は確立していないので、妊婦又は妊娠している可能性のある婦人には、治療上の有益性が危険性を上まわると判断される場合にのみ投与すること。
(6)小児等への投与
小児等に対する安全性は確立していない。[使用経験が少
ない。]
〔取扱い上の注意〕
(1)漢方製剤は吸湿しやすいので、湿気を避け、直射日光の当らない涼しい場所に保管してください。
特に、ポリ瓶の場合はキャップを堅く締めて保管してください。
(2)本剤は天然の生薬を原料としていますので、ロットにより色調等に異同がありますが、効能その他に変わりはありません。
【有効成分】
本剤の有効成分は特定できないが、配合生薬のサンシシ由来のゲニポシド、カンゾウ由来のグリチルリチン酸、オウバク由来のベルベリン等が含有されている。
※参考
麻黄連軺赤小豆湯(まおうれんしょうしゃくしょうずとう;まおうれんしょうせきしょうずとう)
傷寒瘀熱裏に在れば、身必ず黄、麻黄連軺赤小豆湯これを主る。
麻黄、連軺、杏仁、赤小豆g、大棗、生梓白皮、生姜、炙甘草