『明解漢方処方』 西岡一夫著 浪速社刊
半夏散及湯(傷寒論)
処方内容 半夏 桂枝 甘草各三・〇(九・〇)
以上三味を末とし、一回一・〇~一・五宛一日三回服する。もし半夏あって、服用を嫌う者は煎液として用いる。
必須目標 ①声枯れ ②寒冷刺戟によるもの ③発熱なし。
確認目標 ①平常胃腸の弱い体質
初級メモ ①本方の名称が散及湯となっているが排膿散及湯のような二方合方の意味でなく、散でも湯でもどちらを服しても良いとのことである。まず散与え、それをのみ得ない者には湯を与えるのが原典に示された服用方法である。しかし実際問題として半夏末はのめたものではない。
中級メモ 「咽痛とは左、右どちらかの一個所痛み、咽中痛とは咽中皆痛む」との説は、医宗金鑑に出ており、浅田宗伯もこれに従っているが、どうも余りに“中”の文字にこだわった解釈のようで、南涯、山田正珍らは咽痛と咽中痛は原因の異りを指すのであらうという。南涯は咽痛は血証、咽中痛は痰飲証なりとしている。即ち咽中痛の本方は痰飲体質(半夏を必要とする)の人が寒冷刺戟によって声枯れを起した場合に用いる。
適応証 冷房病の声枯れ。寒風による声枯れ。
『康平傷寒論解説(44)』 室賀昭三
■半夏散及湯
次に移ります。「少陰病、咽中痛、半夏散及湯これを主る。」
半夏、洗う。桂枝、皮を去る。甘草、炙る。右三味、等分、各々別に擣き篩い已わって、合わせてこれを治めて、白飲にて和し、方寸匕を服す。日に三服す。若し散服する能わざる者は、水一升を以て煮て七沸し、散両方寸匕を内れ、更に煮ること三沸、火より下し、少し冷さしめ、少持:これを嚥む」。
解釈しますと、「少陰病でのどが痛むものは半夏散または半夏湯の主治である」。咽中痛と咽痛とは違うのだという説もあります。ある先生は、咽中痛というのはのどが全面的に痛むのであって、咽痛はのどの一部が痛むのだとおっしゃっておられますが、現在では咽中痛も咽痛も差はないであろうといわれています。
『傷寒論演習』 藤平健講師 中村謙介編 緑書房刊
三二三 少陰病。咽中痛。半夏散及湯主之。
少陰病、咽中痛むは、半夏散及び湯之を主る
藤平 少陰病に似て咽の中が深く痛む場合には半夏散、及び湯がよい。咽中痛があるが、潰瘍や瘡傷のないものに適応があります。
少陰病 此の章は、前章を承けて、其の苦酒湯証よりは、緩易なるも、甘草湯及び桔梗湯よりは急激なる者を挙げ、以て半夏散及湯の主治を論じ、而して以上の少陰病の類証にして、咽喉の補証を挟める者の論を茲に一たび結ぶ也。
咽中痛 「咽中痛む」は、之を「咽痛」に比ぶれば急激にして、又「咽中傷れて瘡を生ず」に比ぶれば緩易なり。是、畢竟、少陰病の類証にして、邪熱、痰飲、上逆の証を挟み、之が為に咽中腫れ塞がりて痛を発し、飲食、咽に下り難き証也。之を半夏散及湯の主治と為す。故に、
半夏散及湯主之 と言ふ也。
此の章に拠れば、半夏散及湯は、邪熱、及び痰飲の上逆を去り、咽中の腫痛を治するの能有りと謂ふ可き也。
補 病勢沈滞の外観を呈し、邪気及び痰飲を本として咽中痛み、膿血及び瘡傷に与からざる者、是を本方証と為すなり。
○以上の三章は一節也。少陰病の類証にして、咽喉疼痛の証を挟める者を挙げ、各々其の緩急劇易を論じたる也。
半夏散及湯方 半夏 桂枝 甘草以上各等分
已上三味。各擣篩已。合治之。白飲和。服方寸匕。日三服。若不能散服者。以水一升。煎七沸。内散両方寸匕。更煎三沸。下火。令小冷。少少嚥之。
藤平 半夏の末をそのまま飲んでしまったら、ノドが腫れふさがってしまってたいへんでしょうね。「少少嚥之」というのは、少しずつうがいでもするように飲んでいくことを意味します。
「白飲和」とは温いおもゆに混ぜて飲むのでしようが、それでものどが腫れ苦しんで、飲みにくいものと思います。そのために「若不能散服者」とあるのだと思います。
会員A 半夏は温薬、桂枝は熱薬ですが、この薬方は局所に炎症があっても使えるのでしょうか。
藤平 私はこの半夏散及湯を使ったことがないのですが、疼痛を主にして用いれば、ある程度炎症があっても使えるだろうと思います。病位は少陽病でしょう。脈はまァ弦というところ。舌は乾湿中間の白苔が中等度、腹力は中等度前後でしょう。