【一般用漢方製剤承認基準】
栝楼薤白白酒湯(かろうがいはくはくしゅとう)
〔成分・分量〕 栝楼実2-5(栝楼仁も可)、薤白4-9.6、白酒140-700(日本酒も可)
〔用法・用量〕 湯
〔効能・効果〕 背部にひびく胸部・みぞおちの痛み、胸部の圧迫感
《備考》
注)体力に関わらず、使用できる。
【注)表記については、効能・効果欄に記載するのではなく、〈効能・効果に関連する注意〉として記載する。】
『症状でわかる漢方療法』 大塚敬節著 主婦の友社刊
栝呂薤白白酒湯(かろうがいはくはくしゅとう)
処方 栝呂実2g、薤白4gを白酒400mlに入れ、150mlに煮つめ、一日分とし、三回に分服する。白酒代用として上等の清酒を用いるものと、酢を用いるものとあり、酢の場合は400mlの水の中に酢40mlを入れる。
目標 せきと痰が出て、胸と背が痛み、呼吸促迫するもの。
応用 心臓性ぜんそく。狭心症。
『漢方医学 Ⅱ 症候別解説篇』 財団法人日本漢方医学研究所刊
藤井美樹
胸痛
はじめに
胸痛は胸腔内臓器及び胸壁の疾患に起因するものが大部分であるが,腹腔内臓疾患その他によっても胸痛を訴えるので診断には慎重を期する必要がある。
漢方の金匱要略という古典に「胸痺心痛短気病の脈証と治」という篇があり,ここで今日いう「胸痛」の治療が述べられている。ここで胸痺というのは,胸の痛みが背までぬけて胸がふさがったようで呼吸促迫(短気),呼吸困難などを伴う病気である。
胸痺の中には,心臓や大血管などの病変によっておこる胸痛も含まれていたと考えられる。心痛というのは胸の疼痛といったものを指し,心臓部の疼痛ばかりをいうものではないようである。胸痛を起す疾患群には,狭心症,心筋梗塞,心嚢炎,梅毒性大動脈炎,胸部大動脈瘤,剥離性大動脈瘤,胸膜炎,自然気胸,胸膜腫瘍,肺梗塞,肺炎,肺癌,肋骨々折,肋間神経痛,腹腔内臓器病などがある。以下,胸痛に用い現れる漢方処方をあげる。
梔子豉湯(しししとう) 略
小陥胸湯(しょうかんきようとう) 略
括楼薤白白酒湯(かろうがいはくはくしゅとう)(金匱要略)
<処方>括楼実2.0 薤白6.0
以上を白酒400ccに入れ150ccに煎じ1日量を3回に服す。
本方の白酒には,諸説があり,食酢を用いるもの,濁酒(白酒)を用いるもの,上等清酒を用いるもの等がある。類聚方広議では,食酢を用いている。酢をきらうものには清酒を用いるとよい。
括楼実はキカラスウリの種子で,括楼実は気味苦寒で胸脇の異常に働き気血を順らせ痰を去り痛みを止める作用がある。
薤白はラッキョウの乾燥品であり,漬物用のラッキョウで代用してもよい。
気味は辛温故に括楼実とともに胸中の寒血を温め陽気をめぐらす。
金匱要略には,「胸痺の病,喘息欬唾,胸背痛み,短気す。寸口の脈沈にして遅,関上小緊数なるは括薤白白酒湯之を主る」とある。つまり,喘息で,せきと痰が出て,胸と背が痛んで,呼吸するものに用いる。
心臓性喘息や狭心症に応用できることが考えられる。胸痺は胸がつまったように痛む病,心臓部に異常感覚ある病の総称である。
括楼薤白半夏湯(かろうがいはくはんげとう) 略
括楼薤白桂枝湯(かろうがいはくけいしとう) 略
人参湯(にんじんとう) 略
烏頭赤石脂丸(うずしゃくせきしがん) 略
桂枝生姜枳実湯(けいししょうきょうきじつとう)略
清湿化痰湯(せいしつけたんとう) 略
括呂枳実湯(かろきじつとう) 略
当帰湯(とうきとう)(略)
枳縮二陳湯(きしゅくにちんとう)略
柴胡桂枝乾姜湯(さいこけいしかんきょうとう) 略
柴胡疎肝散(さいこそかんさん) 略
『臨床応用 漢方處方解説』 矢数道明著 創元社刊
21 瓜呂薤白半夏湯(かろうがいはくはんげとう) 〔金匱要略〕
瓜呂実三・〇 薤白四・五 半夏六・〇
本方に加える白酒は、諸説があり、食酢を用いるもの、濁酒(白酒)を用いるもの、上等清酒を用いるもの等がある。ここでは類聚方広義の説に従い、食酢を用いる。酢をきらうものは清酒を用いればよい。
右三味に食酢または清酒四〇cc、水四〇〇ccを加えて、煮て二〇〇ccとし、三回に分服する。あるいは煎じ上がる少し前に酢または清酒を一〇ccぐらい入れてのんでもよい。
〔応用〕金匱に胸痺の病というのは、狭心症様症候を呈する病態をさしている。
本方は最もしばしば、狭心症・心臓不全・心臓神経症・心臓調節異常・心臓性喘息・心臓弁膜症・心筋梗塞症・肋間神経痛等に用いられ、また肋膜炎・胆石症・縦膈膜腫瘍等にも応用される。
〔目標〕心臓部または胸骨部、心下部に痛みを訴え、背部に放散痛があり、喘息、咳嗽、喀痰、呼吸困難、胸内苦悶等があり、または嘔吐するものを目標とする。脈沈細、または強緊、ときに結滞する。
腹証は心下痞硬するものが多い。
〔方解〕 瓜呂仁は胸膈の鬱熱を去って、心と肺を潤し、痰飲を去り、胸痺(胸がつまったように痛む病、心臓部に異常感覚ある病の総称)を主治するものである。薤白は中を温め結を散じ気の滞りをめぐら成、心胸の痛み・喘息・痰唾を治するという。白酒は血行を促し、他の薬の効果を助長させるものである。
〔加減〕瓜呂薤白白酒湯は、本方中より半夏を去ったもので、ほとんど同様の疾患に用いられる。瓜呂薤白桂枝湯は、本方より白酒を去り、枳実・厚朴・桂枝を加えたものである。
〔主治〕
金匱要略(胸痺心痛短気門)に、「胸痺臥スコトヲ得ズ、心痛背ニ徹スルモノハ、瓜呂薤白半夏湯之ヲ主ル」とある。
漢方治療の実際には、「古人が真心痛といったのは、狭心症およびこれに類する病気で、瓜呂薤白白酒湯がよく効く。この痛みは、剣状突起あたりの真中で起こり、それが背に徹するもので、その痛みの様子は、口に言いがたく、どことなく凄惨にして危篤に見えるものである。真心痛の激しいものは、朝に起こって夕をまたずして死ぬものであるが、椿庭はこのような病人を一〇人ほど診たが、どれも瓜呂薤白半湯湯を多量にのんで治したという。
その中に一人だけは、この方で効なく、附子理中湯で著効を得、他の一人はいろいろ用いたが効なく頓死したという。
このような患者は、触診をきらい、脈は沈伏(わかりにくいほど沈む)、顔色がひどく悪く、煩燥するだけではなく、陰々と痛み、横臥できないのが特徴である。白酒は酢でよい。まず水二五〇ccを一八〇ccに煎じ、煎じ上がる少し前に猪口に一杯ぐらいの酢を入れてからのむ。のみにくい薬だが、病気の激しいときはのみにくいとは感じない」とある。
〔鑑別〕
○大柴胡湯92(心胸塞・実証、胸脇苦満)
○大陥胸湯67(心胸痛・激症・胸満、心下石硬、肩背強急)
○梔子豉湯(心煩・虚証、心中懊憹、不眠)
〔治例〕
(一)狭心症
五〇歳の男子。結核で今まで五月になるとしばしば喀血を繰り返した既往歴があった。先年むりな生活が続いた後に大喀血を起こし、同時に心臓部から背部に徹して激しい疼痛を覚え、一睡もできないほどの苦しみであった。内科医の注射も効果なく、主治医はあと二~三日の余命であるといっていたという。このときは家兄が往診して瘀血心を衝く証として通導散をもつ言て下し、奇跡的に助かった。
その後一ヵ年して、二回目の喀血と疼痛とを発した。前年の例にならって通導散を与えたが、今度は効かない。針の治療をうけたが神経質で、治療をうけるとすぐ喀血するというので中止した。そのときは苦労して六物黄連解毒湯などを与えて、ようやく快方に向かった。今度は三度目の喀血と心臓部および背痛である。私は瓜呂薤白白酒湯を与え、かつ酢で心臓部を湿布させた。すると今度は短時日で治った。この患者は喀血しても脈は細数とはならず、弦で洪大であった。胸部の所見も大して認められなかった。(著者治験、漢方百話)
(二) 急性気管支炎
三四歳の婦人。悪寒発熱、咳嗽、三九度の熱で、転々反側して苦しみ、口中乾燥し、汗なく、大青竜湯で発汗し、翌日は三七度まで下降したが、今度は咳嗽しきりで、咽喉にゼイゼイ痰がからんで鳴り、咳嗽のとき、錐で刺されるような胸痛を覚えるという。
左側乳房上部にあたって疼痛が激しいので、小陥胸湯や、小青竜湯・桔梗白散まで用いたが効かない。発病後五日目に、胸痺・喘息・咳嗽・胸背痛・短気に該当しているので、瓜呂薤白半夏湯として与えたところ、服薬後胸中爽快をを覚え、三日間の服用で体部所見も一切解消して全治した。(著者治験、漢方百話)
(三) 喘息性気管支炎? 肺炎?
四五歳の婦人。風邪をひいてむりをし、気管支炎を起こし高熱四〇度。呼吸困難、両肺野に笛声音を聞き、心下部硬く、按すと飛び上がるほどの痛みを訴える。初め大青竜湯、次に小青竜湯加杏仁・石膏、麻杏甘石湯等を与えて効なく、五日間苦悶を続け、絶えまのない咳で、じっとしておれず、起きたり、寝たり、よりかかったりしている。また左胸に刺すような痛みを起こし、背に通るという。
「胸痺の病、喘息欬唾、胸背痛み、短気」に相当するので、瓜呂薤白半夏湯を与えたところ、一日分服用して諸症状軽快し、二日後にはほとんど平熱となり、喘咳も胸痛も去り、胸部所見も消失して全治した。 (矢数有道、漢方と漢薬、八巻三号)