透析患者の便秘の原因 としては、まず、水分制限があげられます。更に、K(カリウム)・P(リン)の制限のため、食物繊維の摂取量が減少しやすく、この水分制限と食物繊維不足から硬便(こうべん:かたい便)になりやすく、便秘しやすくなります。また、食事制限と透析による除去のためビタミンB類も欠乏しやすく、そのため腸管蠕動運動(ちょうかんぜんどううんどう)が低下しやすいと考えられます。更に、運動不足や筋肉の疲弊(ひへい)により、腸管平滑筋(ちょうかんへいかつきん)の脆弱化(ぜいじゃくか)をきたしやすいと考え現れます。これら3つの点から、透析患者は、便秘を起こし易いと考えられます。
慢性機能性便秘は、弛緩性、痙攣性共に漢方治療の適応です。
特に通常の便秘薬で腹痛、下痢をきたす例に試みるとよいと考えられます。
漢方治療では証(体質・症状)にあった処方選択が重要となります。
(便秘に良く使われる漢方薬)
1.大承気湯(だいじょうきとう)
2.調胃承気湯(ちょういじょうきとう)
3.大黄甘草湯(だいおうかんぞうとう)
4.麻子仁丸(ましにんがん)
5.潤腸湯(じゅんちょうとう)
6.桂枝加芍薬大黄湯(けいしかしゃくやくだいおうとう)
(腹部膨満感・腹痛に良く用いられる漢方薬)
1.桂枝加芍薬湯(けいしかしゃくやくとう)
2.桂枝加芍薬大黄湯(けいしかしゃくやくだいおうとう)
3.大建中湯(だいけんちゅうとう)
大承気湯、調胃承気湯、大黄甘草湯、麻子仁丸、潤腸湯、桂枝加芍薬大黄湯は、大黄を含んでいますので、合わない場合には、下痢や腹痛を起こす場合があります。
麻子仁丸や潤腸湯は、兎糞便(とふんべん)と呼ばれるウサギのフンのようにコロコロとした便に良く使われます。麻子仁丸と潤腸湯は類似した薬方(漢方処方)ですが、潤腸湯の方が、麻子仁丸より更に便を潤す力が強いと言われています。すなわち、麻子仁丸に似て、さらに体液の欠乏がはなはだしく、皮膚に湿りがないものに潤腸湯を用います。 両薬方とも老人性の便秘に良く使われます。
大建中湯は、冷えにより腹痛が増す場合に用いられます。
開腹術後の通過障害や過敏性腸症候群に伴う腹痛、腹部膨満感に用いられます。
薬味は、人参(にんじん)、山椒(さんしょう)、乾姜(かんきょう)、(膠飴(こうい))と、たいした(?)ものは入っていないのですが、腸管の蠕動(ぜんどう)が外部から見えるような症状に良く効きます。腸の蠕動運動を整えることから、開腹手術後の腸閉塞(イレウス)の予防効果を期待して用いられるようになったようです。
桂枝加芍薬大黄湯は、桂枝加芍薬湯に大黄を加えたもので、傷寒論では桂枝加大黄湯(けいしかだいおうとう)となっています。ただ、この桂枝加大黄湯ですと、桂枝湯に大黄を加えたものと思われかねませんので、一般的には桂枝加芍薬大黄湯と呼ばれています。
この桂枝加芍薬大黄湯は、桂枝加芍薬湯証で裏急後重の下痢、桂枝加芍薬湯では通じない頑固な便秘に用います。
桂枝加芍薬湯や桂枝加芍薬大黄湯は、過敏性腸症候群に伴う腹痛、しぶりばらにも良く用いられます。
なお、桂枝加芍薬湯に膠飴(こうい)を加えると小建中湯(しょうけんちゅうとう)になります。