桂枝加芍薬湯
本方は桂枝湯の證で腹筋が拘攣して腹痛し、腹満いがある者を治する。本方に大黄を加えた桂枝加芍薬大黄湯は桂枝加芍薬湯の證で便秘する者に用いる。また結腸炎で左腹下部に索状硬結を触れ圧痛があり、腹痛・裏急後重する者によく奏効する。
『漢方薬の実際知識』 東丈夫・村上光太郎著 東洋経済新報社 刊
4 表証
表裏・内外・上中下の項でのべたように、表の部位に表われる症状を表証という。表証では
発熱、悪寒、発汗、無汗、頭痛、身疼痛、項背強痛など
の症状を呈する。実証では自然には汗が出ないが、虚証では自然に汗が出ている。したがって、実証には葛根湯(かっこんとう)・麻黄湯(まおうとう)などの
発汗剤を、虚証には桂枝湯(けいしとう)などの止汗剤・解肌剤を用いて、表の変調をととのえる。
5 桂枝加芍薬湯(けいしかしゃくやくとう) (傷寒論)
〔桂枝湯の芍薬の量を六としたもの〕
本
方は、桂枝湯の表虚を治す作用が、芍薬の増量によって裏虚を治す作用へと変化している薬方である。本方に膠飴(こうい)を加えたものは、小建中湯(しょうけんちゅうとう)(後出、建中湯類の項参照)であり、裏虚を治す作用が強い。したがって、本方は虚証体質者に用いられるもので、腹満や腹痛
を呈し、腹壁はやわらかく腹直筋の強痛を伴うものが多いが、ただ単に痛むだけのこともある。下痢も泥状便、粘液便で水様性のものはなく、排便後もなんとな
くさっぱりしない。
〔応用〕
つぎに示すような疾患に、桂枝加芍薬湯證を呈するものが多い。
一 下痢、内臓下垂の人の便秘、腸カタル、腹膜炎、虫垂炎、移動性盲腸炎その他。
桂枝加芍薬湯の加減方
(1) 桂枝加芍薬大黄湯(けいしかしゃくやくだいおうとう)
〔桂枝加芍薬湯に大黄一を加えたもの〕
桂枝加芍薬湯證で、便秘するもの、または裏急後重の激しい下痢に用いられる。
『臨床応用 漢方處方解説』 矢数道明著 創元社刊
p.140
(1) 桂枝加芍薬湯(芍薬を加える)
この方はさらに腹筋が拘攣して腹痛があり、腹満感のあるものに用いる。
(2) 桂枝加芍薬大黄湯(右に大黄を加える)
前症で便秘するもの、また結腸炎で、左腹下部に索状と硬結を触れ、圧痛がある。
『和漢薬方意辞典』 中村謙介著 緑書房
桂枝加芍薬大黄湯(けいしかしゃくやくだいおうとう) [傷寒論]
【方意】 桂枝加芍薬湯証の脾胃の気滞・脾胃の虚証による腹満・腹痛等に,裏の実証による便秘・腹部の抵抗等のあるもの。時に裏の熱証を伴う。
《太陰病.実証》
【自他覚症状の病態分類】
脾胃の気滞 脾胃の虚証 |
裏の実証 | 裏の熱証 | ||
主証 | ◎腹満 | ◎便秘 | ||
客証 | ○強い腹痛 下痢 |
○腹部の抵抗 | 裏急後重 |
【脈候】 脈力中等度からやや弱・浮緩・浮やや力あり等。発熱性疾患では浮数・浮数やや弱・緩滑。
【舌候】 乾湿中間で微白苔。
【腹候】 腹力中等度からやや軟。腹部の膨満があり、しばしば腹直筋の緊張がみられる。多くは腹診により左下腹部に抵抗・緊張を触れ、自発痛・圧痛が著明である。
【病位・虚実】 桂枝加芍薬湯と同じく太陰病であるが、熱証がある場合には、やや陽証を帯びる。脈力も腹力も強実ではないが、便秘し腹候残実の症状がみられ実証である。
【構成生薬】 桂枝4.5 大棗4.5 芍薬9.0 甘草3.0 生姜1.0 大黄a.q.(0.5)
【方解】 本方は桂枝加芍薬湯に大黄を加えて六味で構成される。大黄は裏熱・裏実を瀉し、抗菌作用により裏急後重を緩め、便秘・腹満を治す。大黄が加味されたため桂枝加芍薬湯証より実証となり、腹満は軟らかな虚満ではない。また陰証にはみられない裏の熱証を伴うことがある。
【方意の幅および応用】
A 脾胃の気滞・脾胃の虚証+・脾胃の虚証:腹満・腹痛・便秘等を目標にする。
急慢性大腸炎、虫垂炎、過敏性腸症候群、腸疝痛で腹満感のあるもの、便秘
【参考】 *本と太陽病、医反って之を下し、因って腹満し、時に痛む者は太陰に属す、桂枝加芍薬湯之を主る。大いに実して痛む者、桂枝加大黄湯之を主る。
『傷寒論』
*桂枝加芍薬湯証にして、腹中大実痛する(大便実し痛む)者を治す。
『類聚方』
*此の方は温下の祖剤なり。温下の義『金匱要略』に出で、寒実の者は是非此の策なければならぬなり。此の方腹満時に痛むのみならず、痢病(感染性大腸炎)の熱邪薄く、裏急後重す識者に効あり。一病人痢疾、左の横骨の上に当って処を定めて、経(さしわ)たし二寸程の処、痛み堪え難く、始終手にして按じおりしを、有持桂里、痢毒な責として、此の方にて快兪せりと言う。又、厚朴七物湯は此の方の一等重き者と知るべし。
『勿誤薬室方函口訣』
『勿誤薬室方函口訣』
*本方意の下痢は桂枝加芍薬湯証に比して泥状便は少なく、粘液便、時には裏急後重となる。
それだけ炎症が強く陽証を帯びる。
*桂枝加芍薬湯証で便秘・腹満が強く本方意と思えるものが、寒冷傾向を示し、疼痛が強い場合、あるいは遷延して難治な場合には桂枝加芍薬附子大黄湯とする。胆石症・胆嚢炎・尿路結石・卵巣炎・子宮内膜症・エンドメトリオージス・嵌頓ヘルニア・関節リウマチ等に応用されている。
それだけ炎症が強く陽証を帯びる。
*桂枝加芍薬湯証で便秘・腹満が強く本方意と思えるものが、寒冷傾向を示し、疼痛が強い場合、あるいは遷延して難治な場合には桂枝加芍薬附子大黄湯とする。胆石症・胆嚢炎・尿路結石・卵巣炎・子宮内膜症・エンドメトリオージス・嵌頓ヘルニア・関節リウマチ等に応用されている。
【症例】 手術後腸管癒着の処置
緑内障にて失明した42歳の未婚の婦人である。腸管癒着の診断にて、入院手術をしたが、下腹部の疼痛が治せず、再手術を勧められている。
主訴は腹部の膨満感と、下腹部の疼痛と、それに便秘である。顔色は良く、脈は沈弱。食事は普通に摂っている。月経は順調。腹部は一般に膨満している。小腹部には手術の瘢痕があり、抜糸した部分には、まだ炎症が残っているから退院後幾日も経ていない。手術部の両側には、豌豆大の硬結があり、圧痛がある。
恐らく腸管癒着が現在しているものと認められた。主訴である腹部膨満も疼痛も便秘もこの腸管の癒着から来ている症状である。この腸管癒着とおぼしき硬結をいかにして治すべきや。すべて手術後の治療の回復や疲労には、十全大補湯や帰耆建中湯の類が効果があるし、またこのような硬結には内托散などが使用さるべき薬方であるが、これ等の薬方では、必ずしもこの疼痛は治すべきものではない。この硬結疼痛には、芍薬或いは甘草等の鎮痙鎮静の薬が、どうしても必要と考えられる。それには芍薬甘草湯が挙げられるのであるが、このような症状は見受けられない。更に腹痛と便秘とが主訴の1症である。そこで私は自覚症の腹痛、腹満、便秘と、他覚的な硬結圧痛を目標に桂枝加芍薬大黄湯加乾姜を投薬することにした。大黄は1gとした。もし本方にて効無きか、或いは却って悪化するようであれば、更に再考すべく試に同方を2日分投与したのである。
2日分服薬して気分は良いというので、更に5日分、また5日分と服用したところ、だんだん疼痛も軽快し、大便も1日必ず1回あり、腹痛も好転し、食事も美味になった。2ヵ月後には硬結も軟化して縮小し、更に半月で全く融解して全快したのである。
高橋道史 『漢方の臨床』 10・3・19
『健保適用エキス剤による 漢方診療ハンドブック 第3版』
桑木 崇秀 創元社刊
桂枝加芍薬大黄湯(けいしかしゃくやくだいおうとう) <出典> 傷寒論 (漢時代)
<方剤構成>
桂枝 芍薬 生姜 大棗 甘草 大黄
<方剤構成の意味>
桂枝加芍薬湯に大黄(漢方における代表的瀉下剤)を加えたもの。したがって桂枝加芍薬湯を用いるような場合,すなわち顔色のあまりよくなち体質虚弱者(寒虚証者)で,便秘する場合に,好適な方剤と言うことができる。
<適応>
顔色のあまりよくない体質虚弱者の便秘に用いる。腹力が弱く,腹糸膨満感や腹痛があって便秘する場合。腹直筋が緊張していることが多いが,なくてもよい。
『健康保険が使える 漢方薬 処方と使い方』
木下繁太朗 新星出版社刊
桂枝加芍薬大黄湯(けいしかしゃくやくだいおう)
健 ツ
傷寒論(しょうかんろん)
どんな人につかうか
やや体力が低下した人で、腹部が膨満(ぼうまん)(自分では感じない)、便秘気味で腹が痛み、しぶり腹といった人に用います。
腹壁は割合に力があり、腹痛は持続的(桂枝加芍薬湯(けいしかしゃくやくとう)の証(しょう)で便秘がちの人に用いる)。
木下繁太朗 新星出版社刊
桂枝加芍薬大黄湯(けいしかしゃくやくだいおう)
健 ツ
傷寒論(しょうかんろん)
どんな人につかうか
やや体力が低下した人で、腹部が膨満(ぼうまん)(自分では感じない)、便秘気味で腹が痛み、しぶり腹といった人に用います。
腹壁は割合に力があり、腹痛は持続的(桂枝加芍薬湯(けいしかしゃくやくとう)の証(しょう)で便秘がちの人に用いる)。
目標となる症状
症 ①腹の張る感じはないが、みると腹部膨満(ふくぶぼうまん)があり、押すと抵抗がある(実腹満(じつふくまん))。②腹痛(持続的)。③便秘(時に下痢)。④しぶり腹(裏急後重(りきゅうこうじゅう))。⑤便意があっても気持よく出ない。⑥頭痛、発熱、肩こり、かるい寒気(さむけ)。
腹 腹部膨満があり、腹壁はやや硬く、抵抗があり、腹直筋(特に右側)にひきつれがある(実腹満)。
脈 浮数弱。
舌 不定。
どんな病気に効くか(適応症)
比較的体力の低下した人で、腹部膨満(ぼうまん)し、腸内の停滞感、あるいは腹痛などを伴うものの、急性腸炎、大腸カタル、常習便秘、宿便、しぶり腹。痔核、胃下垂(いかすい)の人が冷えて腹痛し便秘する場合、慢性腸炎、急性慢性虫垂炎(ちゅうすいえん)、開腹手術後に便の快通しないもの、下剤服用後の腹痛。
この薬の処方
芍薬(しやくやく)6.0g、桂枝(けいし)、大棗(たいそう)各4.0g。甘草(かんぞう)、大黄(だいおう)2.0g。生姜(しようきよう)1.0g。(桂枝加芍薬湯(けいしかしやくやくとう)<67頁>に大黄(だいおう)を加えたもの)
この薬の使い方
①前記処方を一日分として煎(せん)じてのむ。
②ツムラ桂枝加芍薬大黄湯(けいしかしやくやくだいおうとう)エキス顆粒(かりゆう)、成人一日7.5gを2~3回に分服し、食前又は食間にのむ。
使い方のポイント
割合に体力の低下した人で、しぶり腹で、下痢又は便秘し腹痛のある人に用います。
処方の解説
桂枝加芍薬湯(けいしかしやくやくとう)に大黄(だいおう)を加えたもので、大黄(だいおう)は消炎性の下剤として働きます。
『新版 漢方医学』 財団法人 日本漢方医学研究所
p.240
桂枝加芍薬湯(けいしかしゃくやくとう) 桂枝加(芍薬)大黄湯(けいしかしゃくやくだいおうとう)
桂枝4.0、芍薬6.0、大棗4.0、生姜(乾1.0)4.0、甘草2.0、(大黄1.0)
1.原典の指示
[原典] 『傷寒論』太陰病偏
[本文]
本(もと)太陽病、医反って之を下(くだ)し、爾(これ)に因って腹満して時に痛む者は、桂枝加芍薬湯之を主る。大実痛の者は、桂枝加大黄湯之を主る。
2.臨床上の使用目標
(1)下痢または便秘
(2)腹部膨満
(3)腹痛
(4)外痔核
下痢は裏急後重(りきゅうこうじゅう)を伴うことが多い。裏急後重の強い例には桂枝加大黄湯を用いる。下痢便秘が交互に出現したり、下剤を使用すると腹痛するのみで大便が快通しない例などに良い。脈は浮緩(かん)の例が多い。腹証では腹力弱く腹直筋の攣急(れんきゅう)の例が多い。
3.応用
(1)急性症:急性腸炎、感冒性下痢
(2)慢性症:過敏性腸症候群、慢性下痢、常慌便秘、腸管癒着症
(3)加減法 桂枝加芍薬湯合大建中湯(中建中湯)
4.古典
(1)多紀元簡『傷寒論輯義』巻五
「[柯(か)](略)仲景、表証未だ解せず、陽邪已に太陰に陥入(かんにゅう)するに由りて故に芍薬を倍す。以って脾を益し中を調へ、腹満之時に痛むを除く。此れ陰を用ひて陽わ和する法なり。若(も)し表邪未(いま)だ水解せずして陽邪陽明に陥入すれば即ち大黄を加へ以って胃を潤し結を通じて而して大実之痛を除く。此れ表裏雙解なり。」(集成42巻、p.376)
(2)有持桂里(ありもちけいり)『校正方輿輗』巻之十一、痢
「此れ(桂枝加芍薬湯-筆者注)は其の人宿に癥瘕個癖(こへき)あるが痢病につれて固有の毒を拽起し、由(より)て腹満する者に用うる剤なり。例令(たとえ)ば宿食にて腹痛し而(しか)して吐瀉已(おわ)って後、尚(なお)腹痛止(や)まざ識者これ固有の毒の所為なり。蓋(けだ)し此れ桂枝加芍薬湯は痢毒は、さのみつよからず、只(ただ)痛み甚だしく或は痢毒既に解して痛み已(や)まざる者ものの類、皆固有の毒のこりしに由るなり。此の方之を主る。固有の毒ある人はその腹拘攣(こうれん)、或は塊などあるものなり、又毒劇く止(や)まざる者は桂枝加芍薬大黄湯のゆく所なり。この加芍薬と加芍薬大黄の二方の場にして形気俱(とも)に憊(つか)れたる者は建中湯に宜し。」(集成87巻、p.47)
(3)『校正方輿輗』巻之十一、痢
「此の方(桂枝加大黄湯-筆者注)痢疾初起(しょき)表証もあり、腹痛して裏急後重も甚だしからざ識者に之を用う。この表証は葛根湯などよりは軽き場なり。又痢の初起、桂枝湯などの場にて腹痛少しく強き者に此の方を用いることあり。亦(また)痢中の調理に用い其痛の劇しき時は先ず痛みを和(やわ)らげ制せんが為に之を用う識なり。此の痛は建中湯の緩むる所にあらず。夫(そ)れ建中の主治は腸胃中積滞(しゃくたい)既に盡て只拘攣し痛む、是れなり。下利(げり)も既に減じ後重(こうじゅう)もなくいわゆる腸滑(ちょうかつ)と云うになりてある時なり。」(集成87巻、p.48)
(4)『校正方輿輗』巻之十三、腹痛
「此れ(桂枝加芍薬大黄湯-筆者注)桂枝加芍薬の証にして、内に実する所あるを治するの方なり。痢病の初起腹痛太甚なる者など、此の方を用うれば手に随うて癒ゆ、又疝(せん)癥の腹痛、或は外邪宿を兼て痛む者、或は蒼疹発せんと欲し腹痛する者、皆用いて効あり(略)」(集成87巻、p.229)
(5)浅田宗伯『勿誤薬室方函口訣』
「此の方(桂枝加芍薬大黄湯-筆者注)は温下(おんげ)の祖剤なり。温下の義、金匱に出で、寒実の者は是非(ぜひ)此(こ)の策なければならぬなり。此の方、腹満時痛のみならず、痢病の熱邪薄く裏急後重する者に効あり。 (略) 又、厚朴七物湯(こうぼくしちもつとう)は此の方の一等重き者と知るべし。」
5.症例
(1)鼓腸腹張り症に桂枝加芍薬湯
「64歳の婦人、痩せ型で貧血症である。約4ヶ月前より、下腹が張って苦しく、時々痛みを訴えていたが、いままで大した病気はしなかった。脈は弦で力があり、舌には少し白苔があり、便通は1回、時々ガスが出る。血圧は160~100であった。腹証は右臍下部廻盲部に抵抗があり、膨満している。圧迫すると疼痛を訴える。左下腹部も張改aている。そこでこれを疝気の病、桂枝加芍薬湯の証として与えてみると、食欲が出て、服薬していると毎日がとても気持ちよいといって3ヶ月間続けて廃薬した。
虚証の患者で、廻盲部や下腹部の腹筋が緊張し、時々拘攣して腹痛を訴え、冷えると腹満感を起こすという場合に、この桂枝加芍薬湯がよく効くようである。」(抄)(『漢方治療百話第三集』 矢数道明著 p.62 医道の日本社)
6.鑑別
(1)小建中湯:桂枝加芍薬湯証より虚証で、急迫症状が強い。
(2)人参湯:裏寒(りかん)が強く、小便自利し、下痢は裏急後重(りきゅうこうじゅう)は伴わない。腹証では軟弱無力あるいはベニア板様を呈する。脈は沈弱(ちんじゃく)または沈遅のものが多い。
(3)真武湯:小便不利、浮腫などがあり、目眩(めまい)、心悸亢進など水毒上衝を伴う。下痢は裏急後重を伴わない。
(4)葛根湯:太陽陽明合病(ごうびょう)の下痢。裏急後重を伴う。脈は浮緊数。
(5)半夏瀉心湯:少陽の下痢。心下痞硬、腹中雷鳴を目標とす。下痢の甚だしい場合、精神神経症状の強い場合は甘草瀉心湯とする。
(6)大建中湯:裏虚寒の状が強く、腹痛も一つの目標である。
(7)大承気湯:実満であり脈腹共に充実している。
(8)厚朴七物湯:桂枝加芍薬大黄湯の一等重き者。
(佐藤)
一般用漢方製剤承認基準
桂枝加芍薬大黄湯
〔成分・分量〕 桂皮3-4、芍薬4-6、大棗3-4、生姜1-1.5(ヒネショウガを使用する場合3-4)、甘草 2、大黄1-2
〔用法・用量〕 湯
〔効能・効果〕 体力中等度以下で、腹部膨満感、腹痛があり、便秘するものの次の諸症: 便秘、しぶり腹
注) 《備考》 注)しぶり腹とは、残便感があり、くり返し腹痛を伴う便意を催すもののことであ る。 【注)表記については、効能・効果欄に記載するのではなく、〈効能・効果に関連す る注意〉として記載する。】
副作用
2) ミオパチー: 低カリウム血症の結果としてミオパチーがあらわれることがあるので、観察を十分に行い、脱力感、四肢痙攣・麻痺等の異常が認められた場合には投与を中止し、カリウム剤の投与等の適切な処置を行うこと。
[理由]
厚生省薬務局長より通知された昭和53年2月13日付薬発第158号「グリチルリチン酸等を含 有する医薬品の取り扱いについて」に基づく。
[処置方法]
原則的には投与中止により改善するが、血清カリウム値のほか血中アルドステロン・レニ ン活性等の検査を行い、偽アルドステロン症と判定された場合は、症状の種類や程度によ り適切な治療を行うこと。低カリウム血症に対しては、カリウム剤の補給等により電解質バランスの適正化を行う。
2) その他の副作
過敏症:発疹、発赤、瘙痒等
このような症状があらわれた場合には投与を中止すること。
[理由]
本剤には桂皮(ケイヒ)が含まれているため、発疹、発赤、瘙痒等の過敏症状があらわれるおそれがあるため。
[処置方法]
原則的には投与中止により改善するが、必要に応じて抗ヒスタミン剤・ステロイド剤投与等の適切な処置を行うこと。
消化器:食欲不振、腹痛、下痢等
[理由] 本剤には大黄(ダイオウ)が含まれているため、食欲不振、腹痛、 下痢等の消化器症状があ
らわれるおそれがあるため。
[処置方法] 原則的には投与中止により改善するが、病態に応じて適切な処置を行う。
『新版 漢方医学』 財団法人 日本漢方医学研究所
p.240
桂枝加芍薬湯(けいしかしゃくやくとう) 桂枝加(芍薬)大黄湯(けいしかしゃくやくだいおうとう)
桂枝4.0、芍薬6.0、大棗4.0、生姜(乾1.0)4.0、甘草2.0、(大黄1.0)
1.原典の指示
[原典] 『傷寒論』太陰病偏
[本文]
本(もと)太陽病、医反って之を下(くだ)し、爾(これ)に因って腹満して時に痛む者は、桂枝加芍薬湯之を主る。大実痛の者は、桂枝加大黄湯之を主る。
2.臨床上の使用目標
(1)下痢または便秘
(2)腹部膨満
(3)腹痛
(4)外痔核
下痢は裏急後重(りきゅうこうじゅう)を伴うことが多い。裏急後重の強い例には桂枝加大黄湯を用いる。下痢便秘が交互に出現したり、下剤を使用すると腹痛するのみで大便が快通しない例などに良い。脈は浮緩(かん)の例が多い。腹証では腹力弱く腹直筋の攣急(れんきゅう)の例が多い。
3.応用
(1)急性症:急性腸炎、感冒性下痢
(2)慢性症:過敏性腸症候群、慢性下痢、常慌便秘、腸管癒着症
(3)加減法 桂枝加芍薬湯合大建中湯(中建中湯)
4.古典
(1)多紀元簡『傷寒論輯義』巻五
「[柯(か)](略)仲景、表証未だ解せず、陽邪已に太陰に陥入(かんにゅう)するに由りて故に芍薬を倍す。以って脾を益し中を調へ、腹満之時に痛むを除く。此れ陰を用ひて陽わ和する法なり。若(も)し表邪未(いま)だ水解せずして陽邪陽明に陥入すれば即ち大黄を加へ以って胃を潤し結を通じて而して大実之痛を除く。此れ表裏雙解なり。」(集成42巻、p.376)
(2)有持桂里(ありもちけいり)『校正方輿輗』巻之十一、痢
「此れ(桂枝加芍薬湯-筆者注)は其の人宿に癥瘕個癖(こへき)あるが痢病につれて固有の毒を拽起し、由(より)て腹満する者に用うる剤なり。例令(たとえ)ば宿食にて腹痛し而(しか)して吐瀉已(おわ)って後、尚(なお)腹痛止(や)まざ識者これ固有の毒の所為なり。蓋(けだ)し此れ桂枝加芍薬湯は痢毒は、さのみつよからず、只(ただ)痛み甚だしく或は痢毒既に解して痛み已(や)まざる者ものの類、皆固有の毒のこりしに由るなり。此の方之を主る。固有の毒ある人はその腹拘攣(こうれん)、或は塊などあるものなり、又毒劇く止(や)まざる者は桂枝加芍薬大黄湯のゆく所なり。この加芍薬と加芍薬大黄の二方の場にして形気俱(とも)に憊(つか)れたる者は建中湯に宜し。」(集成87巻、p.47)
(3)『校正方輿輗』巻之十一、痢
「此の方(桂枝加大黄湯-筆者注)痢疾初起(しょき)表証もあり、腹痛して裏急後重も甚だしからざ識者に之を用う。この表証は葛根湯などよりは軽き場なり。又痢の初起、桂枝湯などの場にて腹痛少しく強き者に此の方を用いることあり。亦(また)痢中の調理に用い其痛の劇しき時は先ず痛みを和(やわ)らげ制せんが為に之を用う識なり。此の痛は建中湯の緩むる所にあらず。夫(そ)れ建中の主治は腸胃中積滞(しゃくたい)既に盡て只拘攣し痛む、是れなり。下利(げり)も既に減じ後重(こうじゅう)もなくいわゆる腸滑(ちょうかつ)と云うになりてある時なり。」(集成87巻、p.48)
(4)『校正方輿輗』巻之十三、腹痛
「此れ(桂枝加芍薬大黄湯-筆者注)桂枝加芍薬の証にして、内に実する所あるを治するの方なり。痢病の初起腹痛太甚なる者など、此の方を用うれば手に随うて癒ゆ、又疝(せん)癥の腹痛、或は外邪宿を兼て痛む者、或は蒼疹発せんと欲し腹痛する者、皆用いて効あり(略)」(集成87巻、p.229)
(5)浅田宗伯『勿誤薬室方函口訣』
「此の方(桂枝加芍薬大黄湯-筆者注)は温下(おんげ)の祖剤なり。温下の義、金匱に出で、寒実の者は是非(ぜひ)此(こ)の策なければならぬなり。此の方、腹満時痛のみならず、痢病の熱邪薄く裏急後重する者に効あり。 (略) 又、厚朴七物湯(こうぼくしちもつとう)は此の方の一等重き者と知るべし。」
5.症例
(1)鼓腸腹張り症に桂枝加芍薬湯
「64歳の婦人、痩せ型で貧血症である。約4ヶ月前より、下腹が張って苦しく、時々痛みを訴えていたが、いままで大した病気はしなかった。脈は弦で力があり、舌には少し白苔があり、便通は1回、時々ガスが出る。血圧は160~100であった。腹証は右臍下部廻盲部に抵抗があり、膨満している。圧迫すると疼痛を訴える。左下腹部も張改aている。そこでこれを疝気の病、桂枝加芍薬湯の証として与えてみると、食欲が出て、服薬していると毎日がとても気持ちよいといって3ヶ月間続けて廃薬した。
虚証の患者で、廻盲部や下腹部の腹筋が緊張し、時々拘攣して腹痛を訴え、冷えると腹満感を起こすという場合に、この桂枝加芍薬湯がよく効くようである。」(抄)(『漢方治療百話第三集』 矢数道明著 p.62 医道の日本社)
6.鑑別
(1)小建中湯:桂枝加芍薬湯証より虚証で、急迫症状が強い。
(2)人参湯:裏寒(りかん)が強く、小便自利し、下痢は裏急後重(りきゅうこうじゅう)は伴わない。腹証では軟弱無力あるいはベニア板様を呈する。脈は沈弱(ちんじゃく)または沈遅のものが多い。
(3)真武湯:小便不利、浮腫などがあり、目眩(めまい)、心悸亢進など水毒上衝を伴う。下痢は裏急後重を伴わない。
(4)葛根湯:太陽陽明合病(ごうびょう)の下痢。裏急後重を伴う。脈は浮緊数。
(5)半夏瀉心湯:少陽の下痢。心下痞硬、腹中雷鳴を目標とす。下痢の甚だしい場合、精神神経症状の強い場合は甘草瀉心湯とする。
(6)大建中湯:裏虚寒の状が強く、腹痛も一つの目標である。
(7)大承気湯:実満であり脈腹共に充実している。
(8)厚朴七物湯:桂枝加芍薬大黄湯の一等重き者。
(佐藤)
一般用漢方製剤承認基準
桂枝加芍薬大黄湯
〔成分・分量〕 桂皮3-4、芍薬4-6、大棗3-4、生姜1-1.5(ヒネショウガを使用する場合3-4)、甘草 2、大黄1-2
〔用法・用量〕 湯
〔効能・効果〕 体力中等度以下で、腹部膨満感、腹痛があり、便秘するものの次の諸症: 便秘、しぶり腹
注) 《備考》 注)しぶり腹とは、残便感があり、くり返し腹痛を伴う便意を催すもののことであ る。 【注)表記については、効能・効果欄に記載するのではなく、〈効能・効果に関連す る注意〉として記載する。】
副作用
1)重大な副作用と初期症
1) 偽アルドステロン症: 低カリウム血症、血圧上昇、ナトリウム・体液の貯留、浮腫、体重増加等の偽アルドステロン症があらわれることがあるので、観察(血清カリウム値の測定等) を十分に行い、異常が認められた場合には投与を中止し、カリウム剤の投与等の適切な処置を行うこと。 2) ミオパチー: 低カリウム血症の結果としてミオパチーがあらわれることがあるので、観察を十分に行い、脱力感、四肢痙攣・麻痺等の異常が認められた場合には投与を中止し、カリウム剤の投与等の適切な処置を行うこと。
[理由]
厚生省薬務局長より通知された昭和53年2月13日付薬発第158号「グリチルリチン酸等を含 有する医薬品の取り扱いについて」に基づく。
[処置方法]
原則的には投与中止により改善するが、血清カリウム値のほか血中アルドステロン・レニ ン活性等の検査を行い、偽アルドステロン症と判定された場合は、症状の種類や程度によ り適切な治療を行うこと。低カリウム血症に対しては、カリウム剤の補給等により電解質バランスの適正化を行う。
2) その他の副作
過敏症:発疹、発赤、瘙痒等
このような症状があらわれた場合には投与を中止すること。
[理由]
本剤には桂皮(ケイヒ)が含まれているため、発疹、発赤、瘙痒等の過敏症状があらわれるおそれがあるため。
[処置方法]
原則的には投与中止により改善するが、必要に応じて抗ヒスタミン剤・ステロイド剤投与等の適切な処置を行うこと。
消化器:食欲不振、腹痛、下痢等
[理由] 本剤には大黄(ダイオウ)が含まれているため、食欲不振、腹痛、 下痢等の消化器症状があ
らわれるおそれがあるため。
[処置方法] 原則的には投与中止により改善するが、病態に応じて適切な処置を行う。