健康情報: 大建中湯(だいけんちゅうとう) の 効能・効果 と 副作用

2011年9月4日日曜日

大建中湯(だいけんちゅうとう) の 効能・効果 と 副作用

漢方診療の實際』 大塚敬節 矢数道明 清水藤太郎共著 南山堂刊
大建中湯(だいけんちゅうとう)
 本方は、虚寒を目標として 用いる。即ち腹部一体が軟弱無力にして弛緩し、水とガスが停滞し易く、腸の蠕動を外部から望見することことが出来、蠕動亢進の発作時に、腹痛の堪え難いも のを目標とする。また発作時に嘔吐のあることがあり、腹中に寒冷を訴えるものがある。脈は多く遅弱にして、手足は冷え易い。
 本方は蜀椒・乾姜・ 人参・膠飴の四味からなり、蜀椒・乾姜は温性刺激薬で、弛緩した組織に活力を賦与して、これを緊縮させる効があり、人参は胃腸の消化吸収を促し膠飴は急迫 症状を緩和する効がある滋養剤である。従って以上の薬物の協力によって、蠕動運動を鎮め、腹痛を緩解するものである。
 本方は腸管蠕動不穏症・腸狭窄・腸弛緩症・蛔虫による腹痛等に用いられる。ただし直腸癌で腸狭窄を起したものには、一時的の効果はあっても全治は期待出来ない。本方は用量が多過ぎると、時に乾咳・浮腫等の副作用を起すことがある。



『漢方精撰百八方』
73.〔大建中湯〕(だいけんちゅうとう)

〔出典〕金匱要略

〔処方〕山椒2.0 乾姜5.0 人参3.0 右を法の如く煎じ、滓を去り、膠飴20を入れ、再び火にのせ5分間煮沸、之を温服する。

〔目標〕
(自覚的) 腸の動くのを自覚し、腹中が冷え痛み、だるくて、非常に疲れやすく、食欲なく、ときに嘔吐し、或いは便秘する。手足が冷えやすい。

(他覚的) 脈:軟弱、虚にして数、沈遅、細小等。 
舌:湿潤するのを原則とするが、私の経験では、大多数が乾燥した厚い白苔である場合が多い。 
腹:軟弱無力で船底状に陥凹する場合が多いが、ときには虚満を呈することもある。腸の蠕動亢進が甚だしい場合には、腹壁があちらがもちあがり、こちらがへこむという状態を望見することが出来る。本方の条文の中の「皮起り、出で現われ、頭足ありて上下し…」というのは、これを指したものであろう。

〔かんどころ〕腸がうごいて、腹力よわく、腹痛、嘔吐し、疲れがひどい。

〔応用〕
1.胃アトニー又は胃下垂症の重症で、食思欠損し、食すれば腹痛、嘔吐し、羸痩甚だしく、疲労、倦怠その極みに達するもの。
2.劇烈なる腹痛又は蛔虫による腹痛。
3.腸疝痛
4.胃潰瘍
5.腸管蠕動不穏症

〔治験〕本方証は、小建中湯証はどには多いものではないが、かなりに遭遇することのある証である。ことに胃アトニー、胃下垂症等で、諸治を受けて効なく、次第に痩せ衰えて、死の恐怖におびえているような者に、劇的な効果をあげた例を、かなり数多く経験している。
 26才の人妻。結婚前はむしろ太っていた方だったが、数年前から食欲が衰え、次第に痩せて、骨と皮ばかりのようになってしまった。子供がほしいが、生まれない。あちこちを歴訪して、胃アトニー、子宮発育不全等の診断名のもとに、諸種の治療を受けているが、ますます具合が悪くなっていく。脈は沈細。舌は厚い乾燥した白苔。腹は陥凹して、軟弱無力。
 本方を与えること9ヶ月。血色は見違えるほどよくなり。太って、ついに待望の妊娠をすることが出来た。
藤平 健


漢方薬の実際知識』 東丈夫・村上光太郎著 東洋経済新報社 刊
6 建中湯類(けんちゅうとうるい)
 建中湯類は、桂枝湯からの変方として考えることもできるが、桂枝湯は、おもに表虚を、建中湯類は、おもに裏虚にをつかさどるので項を改めた。
 建中湯類は、体全体が虚しているが、特に中焦(腹部)が虚し、疲労を訴えるものである。腹直筋の拘攣や蠕動亢進などを認めるが、腹部をおさえると底力のないものに用いられる。また、虚弱体質者の体質改善薬としても繁用される。
5 大建中湯(だいけんちゅうとう)  (金匱要略)
 〔乾姜(かんきょう)五、人参(にんじん)三、蜀椒(しょくしょう)二、膠飴二〇〕
  小建中湯よりさらに虚しており、裏の虚寒証に用いられる。したがって、腹部全体が軟弱無力となり、水と気が停滞しやすく、腸の蠕動を外部から 望むことのできるもので、蠕動亢進の際には腹痛のたえがたいものに用いられる。本方證の痛む場所は一定せず、上下左右と動くが、つねにヘソのまわりにある のが目標となる。
 また、発作的に水毒が上衝して嘔吐を伴ったり、腹部が冷えてガスがたまり膨満(腹鳴となることもある)して痛むこともある。手足厥冷(けつれい)、腹部の寒冷および疼痛、蠕動不安、下痢または兎糞便などを目標とする。
 〔応用〕
 つぎに示すような疾患に、大建中湯證を呈するものが多い。
 一 胃拡張症、胃下垂症、胃アトニー症、急性虫垂炎、腸狭窄、腸捻転、腸疝痛、腹膜炎、腸内ガスによる腫痛その他の消他器系疾患。
 一 そのほか、腎臓結石、尿道炎、胆石症、乳汁不足、流産癖、気管支喘息など。
 
 6 中建中湯(ちゅうけんちゅうとう)
 〔大建中湯と小建中湯の合方〕
 大建中湯證と小建中湯證の両方をかねている場合に用いられる。



《資料》よりよい漢方治療のために 増補改訂版 重要漢方処方解説口訣集』 中日漢方研究会
48.大建中湯(だいけんちゅうとう) 金匱要略
蜀椒2.0 乾姜4.0 人参3.0
 上法の如く煎じ 滓を去り,膠飴20.0を入れ再び火に上せ煮沸五分間にて止め之を温服す。

(金匱要略)
○心胸中大寒痛,嘔不能飲食,腹中寒上衝,皮起出見,有頭足,上下痛而不可触近,本方主之(寒疝)

現代漢方治療の指針〉 薬学の友社
 内臓が下垂して腹中に冷感を覚え,嘔吐,腹部膨満感があり,腸の蠕動亢進と共に腹痛の甚だしいもの。
 本方は腹中が強く冷えて腸管の蠕動が外部から見えるような症状に用いられ,この場合腹痛は下からこみ上げてくるような症状を訴えるものである。本方が適応する下痢は弛緩性であり,逆に便秘の場合は腹圧が減退して兔の糞のようなコロコロした便を排泄する。本方と小建中湯,真武湯との鑑別は夫々の処方の項を参照のこと。半夏瀉心湯適応症には 胃部のつかえ,水分停滞感があり,腹鳴があっても腸の蠕動亢進を自覚することはないのに対し,本方適応症は腹中冷感と腸の蠕動不安を訴えるものである。本方を服用後,から咳を増したり,浮腫を生ずる場合は用量を減ずるか,あるいは半夏厚朴湯,五苓散,真武湯などに転方すべきである。なお本方は直腸癌に対しては一時的に症状を軽減させることがあっても結果的には無効である。

漢方処方解説シリーズ〉 今西伊一郎先生
 腹壁が弛緩して望診上腹部にシワがあり,腹管の蠕動が外部から見えるようなものでしかも膨満感があって腹中冷感を自覚し,腹痛,便秘,下痢,悪心,嘔吐などを訴えるもの。
 本方が適する体格は一般的に虚弱で,胃のあたりがくぼみ下腹部がやや突出ているタイプの者に多く,外見上あたかも胃下垂型に見受けられるものが目安となる。内科的には心臓下垂,胃下垂などの傾向があって下腹部に冷感を自覚し,このとき腹痛やガスの充満あるいは蠕動亢進,蠕動不安を伴うことが本方の特徴といえる。本方は以上の複合症候があるものの,便秘症や下痢あるいは腹痛に繁用されるが,本方が適する便秘は兎糞様で割合いかたく,しかも細い便を排出する。下痢は弛緩性の下痢で出渋る傾向があって,腹痛を訴える。以上の様な症状から腸狭窄や腹部内の癒着痛などに奇効のあることが多いが,癒着そのものには無効である。
 類似症状との鑑別:腹部が冷えて痛み,便秘や下痢する点は、小建中湯,真武湯,半夏瀉心湯などに似ているが,
 小建中湯は腹直筋が異常に緊張した場合の腹痛で,時に手足がほてり排尿量,排尿回数とも多い傾向がある。
 真武湯は身体の冷感がきわめて著しく,四肢の末端や腰部に冷感を自覚し,尿利が減退して下痢することが多く倦怠感が著しい。
 半夏瀉心湯は胃部のつかえと腹鳴が著明で,便秘と下痢が交互にあって,下痢しても消化不良性の軟便である。半夏瀉心湯は主として消化器疾患に応用し,脂肪性の食品摂取後や気温や室温が低下すると,すぐ腹鳴がして下痢するというものに応用すればよい。
 投薬時の注意 本方を服用後,まれにカラ咳をしたり,浮腫を生ずることがあるが,この場合は用量を減量するか,または半夏厚朴湯,真武湯,小建中湯などに転方すればよい。


漢方処方応用の実際〉 山田 光胤先生
 体力の衰えた虚弱な人が,腹壁が薄く,軟弱無力で,腸内にガスがたまり,腸の蠕動不安がおこり,これを外部から望見出来,腹が痛んで嘔吐をしたり,飲食物をとることができないものである。(嘔吐はないこともある)脈は,沈,遅,弦,弱または浮大弱,また腹部冷えてガスがたまり,膨満して痛み,時に嘔吐することもある。老医口訣に「厥冷に腹痛を兼ねたものや,又腹中に厥冷のあるもの又蟲積(回虫症)で厥冷を主とするもの。その外諸積急痛(結石などの痛み)の厥冷を治するに大建中湯の用いて治すること。神妙の功あることは誰も知らないが,実に桂附にまさりて厥冷を回復すること至極の秘事なり。」とあって,冷えに基因する諸症に本方を用いてよいことがある。
○古方漫筆「大建中湯は,寒気に侵され,水中に入りなどして陥嚢より小腹(下腹)腰背に引きって痛み,屈伸しがたい者によい」とある。

漢方治療の実際〉 大塚 敬節先生
 金匱要略の寒疝のところで「心胸中,大寒痛し,嘔して飲食する能はず,腹中の寒,上衝し,皮起り出で現はれ,頭足あって上下し,痛んで触れ,近づくべからざるは大建中湯之を主る。」とある。「皮起り出で現われ,頭足あって上下し」とは腸の蠕動が亢進し,腹壁を透してその蠕動を望見することが可能でその状はちょうど,動物の頭や足のようにみえ,それが上に行ったり,下に行ったりしているというのである。また「腹中の寒,上衝し」とは腹が冷えて,それが上につきあげてくるのをいったもので,大建中湯では腹痛が下から上につきあげてくるのである。そこで腸の逆蠕動がみられるのである。(中略)腹痛はいつでも強いとは限らず軽い時もあるが,発作性に消長があり,はげしく胸に攻めあげてくる時は嘔吐を起すこともある。


漢方診療の実際〉 大塚,矢数,清水 三先生
 本方は裏の虚寒を目標として 用いる。即ち腹部一体が軟弱無力にして弛緩し,水とガスが停滞し易く,腸の蠕動を外部から望見することことができ,蠕動亢進の発作時に腹痛の堪え難いも のを目標とする。また発作時に嘔吐のあることがあり,腹中に寒冷を訴えるものがある。脈は多く遅弱にして,手足は冷え易い。
 本方は蜀椒,乾姜, 人参,膠飴,の四味からなり,蜀椒,乾姜は一種の温性刺激薬で,弛緩した組織に活力を賦与して,これを緊縮させる効があり,人参は胃腸の消化吸収を促し,膠飴は急迫症状を緩和する効がある滋養剤である。従って以上の薬物の協力によって,蠕動運動を鎮め,腹痛を緩解するものである。本方は腸管蠕動不穏症,腸狭窄,腸弛緩症,蛔虫による腹痛等に用いられる。ただし直腸癌で腸狭窄を起したものは一時的の効果はあっても全治は期待出来ない。本方は用量が多過ぎると,時に乾咳,浮腫等の副作用を起すことがある。


日本東洋医学会誌〉 第8巻 第1号 藤平 健 先生
 舌苔はないこともあり,厚い舌苔のある場合があり,舌苔も乾燥した場合としからざる場合とがある。腹状はあるいは膨満していることがあり,あるいは舟底状をなす場合がある。大便も秘結のものと,下痢するものがあり,まちまちであるが,自覚的には易疲労,腹部の無力感,他覚的には腹力軟弱な点が共通で,本方の主要投剤目標の一つである腸の蠕動亢進は精密に問診すれば必発である。


漢方処方解説〉 矢数 道明先生
 裏の虚状というのが主目標である。すなわち腹部は全体として軟弱無力で弛緩し,甚だしい場合は挙を腹皮上に置くと陥没し,挙を除いてもしばらくは陥凹したままになっているというほどである。腸内に水とガスが停滞しやすく,腸の蠕動を外部から望見することができる。これがすなわち主治に腹皮動いて頭足あるがごとしと形容されたもので,蠕動亢進の発作時に激しい腹痛を訴えるものである。しかし寒と水毒の上衝があれば,必ずしも蠕動亢進が認められなくともよい。また発作時に心下に衝き上げて嘔吐することもある。腹中に寒冷を訴え,手足が冷え,脈は多く遅弱である。時には腹部がガスで張って大柴胡湯証と誤るほどのこともある。


漢方入門講座〉 竜野 一雄先生
 建中の名は中焦の虚を補い建直すとの意で,大は小に対して有力なことを示す。内容的には人参,水飴の補あり,乾姜,蜀椒の温ありだから,この処方の適応症は虚寒の甚しい状態である筈だ。
 運用 1. 腸の蠕動不安劇しく或は腹痛或は腹痛嘔吐
 金匱要略寒疝に「心胸中大寒し,痛み嘔して飲食すること能はず,腹中の寒上衝し,皮起り出であらはれ,頭足有りて上下し,痛みて触れ近ずくべからず。」とある。この訓み方にはいろいろあるが一先ず右のように訓んでおく。この意味は寒気のために陽の蠕動不安を起し,腸管がもくもく動いてここが持上ったかと思うとそれが消えて別の所が持上って来るというが皮起りから上下しまでの症状である。その際に劇痛や嘔吐を訴えるとの記載だが痛みが起らぬ場合でも使うことが出来る。無熱のときは脈は沈弱のことが多く,熱発を伴うときは浮弱にもなるが,押すと底力のない脈である。腹壁は極めて軟かいことと,膨満し全体的に相当緊張の強いことがある。
 いずれにしても心腹虚寒の状態と蠕動不安とが本方の着眼点になる。臨床的には腸疝痛,回虫による腹痛,或は腹痛,嘔吐の劇しいもの,急性慢性虫垂炎,殊に限局性腹膜炎やドウグラス氏窩膿瘍を併発したもの,腸閉塞症,慢性腸狭窄,腎臓結石,腹石痛等の疼痛劇しきものに頻用する。結核性腹膜炎で硬結又は腹水があって腹満するものに使うことがあるが,これは通常疼痛を伴わず,腹満と蠕動不安とを目標にする。(後略)

 運用 2. 腹壁が綿のように軟い
 大体虚寒証の腹壁は軟かいのが普通だが,大建中湯の場合はそれが顕著で,綿のように軟かく押すと手がずぶっと後腹壁まで達してしまうようなことがある。病名如何に拘らずこの腹証を狙って本方を用いることがある。なおこの際に腸管の蠕動不安を目撃し得たり,触診し得たり,触診して認めたり,或は少くとも,腸係締が触れたりすれば,大建中湯たることは一層確実である。腸の蠕動不安が直接には視触診で認め難いときでもグル音は必ずあるからそれを目標にすべき場合も頗る多い。腸の蠕動不安や腹鳴で鑑別すべきものは半夏瀉心湯,旋覆花代赭石湯,附子粳米湯などでは大体胃部に症状が限局するか或は同部症状が主であることと,これらの脈は大建中湯の脈ほど虚して弱いことはないので区別される。腸管を触れることは桂枝加芍薬湯,人参湯,真武湯四逆湯でもあるが,腹壁がそれほど軟弱無力でないとかグル音がないとか区別できる。


漢方の臨床〉 第2巻 第3号
大建中湯について 大塚 敬節先生

 寒疝と太陰病と脾の虚寒病
 大建中湯は金匱要略の腹満寒疝宿宿食病編にあって,所謂寒疝の治療に缺くことのできない重要な薬方である。
 寒疝とはどんな病気であろう。自覚的には腹痛があり,その腹痛は発作的であり,痛む部位が上下左右に動くが,臍の周囲を疼痛がめぐる傾向があり,瓦斯が充満して腹部が膨満したり,急に縮小したりする。また腹中に雷鳴があり,或は嘔吐し,或は便秘し,或は下痢する。腹満があっても,腹部は一般に軟弱で,疼痛の部位を按壓しても,疼痛の増すことはない。腹中には寒冷感があり,手足は冷え,悪寒を訴えることがある。脉は弦緊を示し,或は緊を帯びる。
 治療は温めることを原則とする。
 大建中湯の「中」は,小建中湯の「中」と同じく,脾胃を指している。漢方では「脾は中に位置し,胃の機能をたすけるものである」と言っているから,現代の脾臓には該当しない。一説に,漢方の脾は,いまの膵臓だと云う人もある。或はそうかも知れない。
 建中は,脾胃の機能の損傷を建立するという意味で,大建中湯は「中焦の虚寒」を治する方剤で,金匱要略の分類では,寒疝の治剤であるが,傷寒論の分類では,太陰病の治剤である。
 傷寒論の太陰病の症状は,寒疝のそれに近似して,腹部の膨満,嘔吐,下痢,腹痛があって,これに下剤を与えると,腹部は逆に膨満してくる。これは太陰病の腹満が実証でなくて,虚証であるからである。また太陰病では,下痢していても,口渇がないのを原則とする。これは裏に寒があるからである。太陰病の治療は寒疝と同じく,これを温めるのを原則とする。また太陰病の下痢は,脾の虚によって起るものであるから,脾が実すれば,下痢が自然に止むのである。傷寒論では,このことを「傷寒,脉浮にして緩,手足自ら温の者は,繫りて太陰に在り,当に身黄を発すべし,若し,小便自利の者は,黄を発する能はず,七八日に至って,暴煩,下痢,日に十余行と雖も,必ず自ら止む,脾家実し,腐穢,当に去るべきを以っての故なり」と論じている。経絡思想からみても,足の太陰は脾経であって,千金要方によれば,邪が脾胃にあって,陽気が衰えて,陰気が盛んであれば「中」が寒えて,腸が鳴り,腹痛し,脾気が弱ければ下痢するといい,脾の虚冷の条に,右手の関上の脉が重按して虚の者は,足の太陰経が病むのであって,下痢,腹満,気の上逆,嘔吐,黄疸を起し,心煩して安臥することができず,腸が鳴るとある。以上を通覧するに,金匱要略の寒疝も,傷寒論の太陰病も,千金方の脾の虚寒病も,実は同じ病気であって,その分類の相違によって,ちがった名称がつけられたにすぎないのである。

 大建中湯の適応症
 (腹証)大建中湯は,その特異な腹証によって,診断は比較的容易であるが,いつでも金匱要略の指示のような定型的な腹證を現わすとはきまらない。腸の蠕動不安は,大建中湯證に屢々みられるが,蠕動が腹壁を透して望見できるような場合でも,大建中湯を禁忌とすることがある。桂枝加芍薬湯,小建中湯,人蔘湯,旋覆花代赭石湯,半夏厚朴湯,真武湯,当帰四逆湯などの場合にも,蠕動不安がみられることがある。だから,蠕動不安があるという一事で,大建中湯證ときめてはならない。これとは逆に,皮下脂肪の多い人では,蠕動を望見できないことがあり,また腸管にガスが充満している時は,先部の緊満感だけを訴えて,蠕動を触知することができないこともある。14年程前に,わたくしは,腎臓結石による疝痛発作の時,竜野一雄先生に大建中湯證と診断せられて,これをのんだが,その時は腹部は緊満してして,大柴胡湯でも用いたいような腹證であった。ところが,大建中湯をのんで暫く経つと,腹部が軽くなり疼痛が拭うようによくなり,結石が2つ出てきた。腎臓結石の疝痛発作には,大建中湯の證が可成りみられる。この時は,腹筋は緊張して,腸の蠕動は望見できないことが多い。
 大建中湯證の腹は,軟弱感力で,臍部に拳をあてると,そのまま拳が腹壁に埋れたように沈み,脊柱に手がとどくのではないかと思われるほどのものがあるが,これとは反対に,前述のように,腹筋の緊張の甚しいものがあり,ともに大建中湯の腹證として現われることがある。
 次に大切なことは,腹部に「寒」があるということである。この寒は,患者が自覚的に訴えることもあるが,このようなことは比較的まれである。医師が腹診にさいして,悪寒を覚えることもあるが,これも必発の症状ではない。しかし一体に,腹を冷やすとか,足を冷やすとかすると,疼痛が増劇し,腹部を温めると,疼痛が緩解する。
 (腹痛)金匱要略の指示の通り,定型的の證では,腹痛があり,この腹痛には消長があり,疼痛の部位が移動する傾向がある。疼痛の部位は,壓によって痛みの増すことはないが,盲腸周囲炎で,大建中湯證を呈したような場合には,患部に壓痛があることは勿論である。しかし大建中湯證で,腹痛の全くないものもある。わたしが漢方で開業して,2,3年経った頃であった。30歳あまりの一婦人が来院した。肥満した血色のすぐれない方で,長年の間,気分が滅入るようで,耳が鳴るという訴えである。いろいろと手当をしたが,よくならないので,診てくれという。脉はどんなであったか忘れたが,腹部は膨満しているが,軟弱無力で,とても冷い。腹痛はなかった。わたしは,この患者に大建中湯を与えたが,これが大変によく効いて,すっかり元気になり,家族一同が漢方の大のファンになってしまった。それからは,何の病気になっても,この患者には,大建中湯が効いあ。難波抱節の類聚方集成には,運用の部に,傷寒緒論を引用して「太陽病,重ねて復,汗を発し,陽虚して耳聾し手をくんで自ら冒う者は,慎んで,小柴胡を誤用すること勿れ。大建中湯に宜し」とある。
 (嘔吐,便秘,下痢)腹痛がはげしくて,嘔吐を催すことはあるが腹痛を伴わないで,嘔吐のくることは珍らしい。
 大建中湯證では,下痢を伴うことは少く,むしろ大便が快通しない場合がある。軟便であるに拘らず,一度に気持よく出ない。また兔の糞のようなコロコロしたものが出ることもある。屢々便秘するが,大黄剤を用いると,反って腹痛,裏急後重が起って,下剤を禁忌するものが多い。次のような例がある。
 「温知医談」第21号に,岡田昌春は,次のような治験を発表している。
 「曽て,番町に旗下の士,某妻二十四五,平素,心下へ衝逆して痛み甚しきの宿疾あり。一日,例の如く衝逆甚しく,殊に嘔逆して薬食ともに納まらず,処方は千金堅中湯に加呉茱萸を用ゆ。いよいよ嘔逆して劇痛しのぶべからず。大便結鞕,腹裏拘急甚し。因て辛温に宜しきか,苦寒に宜しきか,其方を考ふるに,老針医,傍にありて,何とも発言せざりしが,甚失敬至極なりといへども,大建中湯を一服用いられてはいかがと云ふ。愚考ふるに,針医の言,いかにも親切にして,私なければ,直に薬籠を取りよせ調剤して薬汁も漸々に納り,劇痛,頓に止み偉効を得たり」 
 ここにあげた様な大建中湯證のあることも忘れてはならない。

(手足厥冷) 大建中湯證の患者は,一般に冷え症で,殊に腹痛発作などの場合には,厥冷が甚しくなる。
 老医口訣に「厥冷に腹痛を兼ねたるか,腹痛に厥冷を兼ねたるか,又蟲積の厥冷を首として其外諸積,急痛の厥冷を治するに大建中湯を用ひて治すること神妙の功あることはたれも知らぬぞ」

(脉) は遅弱の場合もあり,弦緊のものもあり,浮大のものもあって一定しないが,底に力のない脉である。

(舌) 舌苔がなくても湿濡している。但し,時には白い薄い苔のつくことがある。

(体温) 体温の如何に拘る必要はないが,体温が上昇しても,裏に寒のあることを認めれば,用いてよい。盲腸周囲炎やドーグラス氏窩膿瘍に,大建中湯を呈するものがあり,体温38度以上あるものに,大建中湯を用い,膿瘍が腸に自潰して全治した例を報告している。

 以上の適応症によって,大建中湯は,腸蠕動不穏症,腸疝痛,腸捻転,腸管狭窄,蛔蟲,腎臓結石,蟲垂炎,腹膜炎,胃腸アトニー症,胃下垂症,膵臓炎などに用いられる。(後略)



類聚方広義〉 尾台 榕堂先生
 小建中湯は裏急拘攣痛を治し,此方は寒飲升降,心腹劇痛して嘔するを治す。故に疝癖(腹部の硬結や仮性腫瘤)腹中痛む者を治す。又疣虫を挟むを治す。


勿誤方函口訣〉 浅田 宗伯先生
 此方小建中湯と方意大に異なれども,膠飴一味あるを以て建中の意明了なり。寒気の腹痛を治するは此の方に如くはなし。蓋し大腹痛にして胸にかかり,嘔あるか,腹中塊の如く凝結するかが目的なり。故に諸積痛み甚しくして,下から上へむくむくと持ち上る如き者に用いて妙効あり。解急蜀椒湯は此の方の一等重き者なり。









※『老医口訣』 浅田宗伯著
※古方漫筆 原南洋(原信成)著 天保三年

※腹満寒疝宿宿食病編は、宿が一つ多い。腹満寒疝宿食病脈証并治第十
※缺:欠の異体字
※瓦斯:ガス
※壓:圧の異体字
※繫:繋(つなぐ、つながる)の異体字
※人蔘湯=人参湯
※難波抱節: 寛政3 (1791)年 ~ 安政6 (1859)年 。漢蘭折衷医。
備前の名医 難波抱節
※漸々に (ぜんぜんに):次第に。
※ドーグラス氏窩(ダグラス氏窩)子宮と直腸で挟まれる腹腔の一番下の場所。
※ダグラス窩膿瘍 :骨盤腹膜炎の一種です。菌力の強い細菌におかされると、子宮と直腸の間にあるダグラス窩と呼ばれているくぼみにうみがたまり、膿瘍をつくる病気です。発熱が続き、下腹痛が強く、下腹部がふくれることもあります。直腸を刺激して、しじゅう便意をもようすのも特徴です。







(効能・効果)
【ツムラ】 腹が冷えて痛み、腹部膨満感のあるもの。
【コタロー】
腹壁胃腸弛緩し、腹中に冷感を覚え、嘔吐、腹部膨満感があり、腸の蠕動亢進と共に、腹痛の甚だしいもの。
  • 胃下垂、胃アトニー、弛緩性下痢、弛緩性便秘、慢性腹膜炎、腹痛。

肝機能障害,黄疸:AST(GOT),ALT(GPT),Al-P,γ-GTPの上昇等を伴う肝機能障害,黄疸があらわれることがあるので,観察を十分に行い,異常が認められた場合には投与を中止し,適切な処置を行うこと。

[副作用]の「重大な副作用」追記
「間質性肺炎:
咳嗽、呼吸困難、発熱、肺音の異常等があらわれた場合には、本剤の投与を
中止し、速やかに胸部X線、胸部CT 等の検査を実施するとともに副腎皮質
ホルモン剤の投与等の適切な処置を行うこと。」
コタロー大建中湯エキス細粒 (小太郎)
ツムラ大建中湯エキス顆粒(医療用) (ツムラ)
薬食安通知より
【2012年 1月10日(火)】


【一般用漢方製剤承認基準】
〔効能・効果〕
体力虚弱で、腹が冷えて痛むものの次の諸症:
下腹部痛、腹部膨満感


【重い副作用】
  • 肝臓の重い症状..だるい、食欲不振、吐き気、発熱、発疹、かゆみ、皮膚や白目が黄色くなる、尿が褐色。
  •  肝機能障害、黄疸:AST(GOT)、ALT(GPT)、Al - P、γ- GTP
     の上昇等を伴う肝機能障害、黄疸があらわれることがあるので、
      観察を十分に行い、異常が認められた場合には投与を中止し、
      適切な処置を行うこと。

【その他の副作用】
  • 胃の不快感、食欲不振、吐き気、腹痛、下痢、悪心、嘔吐、下痢等
  • 発疹、発赤、かゆみ、じんましん


(高齢者への投与) 
 一般に高齢者では生理機能が低下しているので減量するなど注意すること。

(妊婦、産婦、授乳婦等への投与)
 妊娠中の投与に関する安全性は確立していないので、妊婦又は妊娠している可能性のある婦人には、治療上の有益性が危険性 を上回ると判断される場合にのみ投与すること。

(小児等への投与)
 小児等に対する安全性は確立していない。

参考
小児の投与目安量
未熟児 新生児 3ヶ月 6ヶ月 1歳  3歳 7歳半 12歳 成人
1/10    1/8   1/5   1/5   1/4  1/3  1/2   2/3   1

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