健康情報: 釣藤散(ちょうとうさん) の 効能・効果 と 副作用

2013年10月8日火曜日

釣藤散(ちょうとうさん) の 効能・効果 と 副作用

漢方薬の実際知識 東丈夫・村上光太郎著 東洋経済新報社 刊
2 順気剤
順気剤は、各種の気の症状を呈する人に使われる。順気剤には、気の動揺している場合に用いられる動的なものと、気のうっ滞している場合に用い られる静的なものとがある。静的なものは、体の一部に痞えや塞がりを感じるもので、この傾向が強くなるとノイローゼとなったり、自殺を考えたりする。動的 なものは、ヒステリーや神経衰弱症を訴えるが、この傾向が強くなると狂暴性をおびてくる。順気剤は単独で用いられる場合もあるが、半夏厚朴湯(はんげこう ぼくとう)などのように他の薬方と併用されるのもある。
順気剤の中で、半夏厚朴湯梔子豉湯(しししとう)香蘇散(こうそさん)は気のうっ滞に用いられ、柴胡加竜骨牡蠣湯柴胡桂枝乾姜湯桂枝加竜骨牡蠣湯(けいしかりゅうこつぼれいとう)は気の動揺が強いものに用いられ、釣藤散(ちょうとうさん)・甘麦大棗麦(かんばくたいそうとう)は気の動 揺と気のうっ滞をかねそなえたもので、麦門冬湯(ばくもんどうとう)は気の上逆による咳嗽を、小柴胡湯加味逍遙散は、柴胡剤の項でのべたように潔癖症を 呈するものに用いられる。なおこのほか、駆瘀血剤の実証のもの、承気湯類(じょうきとうるい)などにも、精神不安を訴えるものがある。 
4 釣藤散(ちょうとうさん)  (本事方)
〔釣藤(ちょうとう)、橘皮(きっぴ)、半夏(はんげ)、麦門冬(ばくもんどう)、茯苓(ぶくりょう)各三、人参(にんじん)、菊花(きくか)、防風(ぼうふう)各二、石膏(せっこう)五、甘草(かんぞう)、生姜(しょうきょう)各一〕
本方は、虚証の薬方であり、気の動揺と気のうっ滞をかねるもので、気の上衝が強く、その気が肩および頭部に集まり、興奮または沈うつを呈する ものである。したがって、神経症状を呈し、頭痛、めまい、耳鳴り、項背拘急などを目標とする。また、眼覚めに頭が痛むが、起きていると痛みを忘れることを 目標とすることもある。
〔応用〕
つぎに示すような疾患に、釣藤散證を呈するものが多い。
一動脈硬化症、高血圧症、脳動脈硬化症その他の循環器系疾患。
一慢性腎炎園他の泌尿器系疾患。
一神経症、更年期障害、メニエル病その他の神経に異常をきたす疾患。



『漢方医学』 大塚敬節著 創元社刊
p.21
〔2〕釣藤散(ちょうとうさん)
 釣藤(ちょうとう)を主薬とする薬方に釣藤散がある。この方は『本事方』という書物に出ていて、「肝厥(かんけつ)の頭痛を治す」とある。浅田宗伯の『勿誤薬室方函口訣』には「此の方は俗にいわゆる癇症(かんしょう)の人、気逆甚だしく,頭痛眩暈(げんうん)し,或は肩背強急、眼目赤く、心気鬱塞する者を治す」とあり、私は『症候による漢方治療の実際弟で、この方の応用目標を次のように述べている。
 「この薬方を用いる目標に早朝時の頭痛があるが、早朝の頭痛でなくとも、のぼせる、肩がこる、めまいがする、耳が鳴る、眼が充血する、または眼がかゆかったり、眼がくしゃくしゃしたりする、つまらぬことに腹が立つ、取り越し苦労をして気分が鬱陶しい、からだが宙に浮いたようで足が軽く、ふらつく、などの症状があって、頭痛するものに用いる。腹部は軟弱で、あまり強く緊張していないことが多い。老人に多くみられるが、若い人でも皮膚が枯燥して光沢の少ないという点を応用上の参考とする。」
 次に最近の例を挙げてみよう。
 患者は明治四十一年生まれの主婦で、体格は中肉、中背で、血色はあまりよくない。それまでには大した病気にかかったことはなかったが、昭和四十四年五月中旬に、突然、悪心(おしん)を伴う頭痛におそわれた。それと相前後して、右眼の視力がなくなった。
 そこで有名な眼科病院にかかり、動眼神経麻痺と診断されて治療したが軽快せず、公立の某病院にもかかったが治らないので、さらに某医科大学の付属病院にかかり、脳動脈瘤の疑いで入院して、いろいろしらべてもらったが、はっきりした診断がつかないまま退院した。十月になって、また別の病院に入院したが、依然として頭痛と耳鳴は治らない。しかし視力は少しずつ回復してきた。
 初診は十二月十二日で、脈は沈小、腹部は軟弱、無力で、どこにも抵抗を触れない。臍部の動悸もない。
 主訴は、頭痛と右の耳鳴で、肩こりがあり、右の肩甲関節周囲炎がある。視力はかなりに回眼している。血圧は一四六-一〇四。大便一日一行。
 以上の所見から脳動脈の硬化があるだろうと考えられるが、とにかく釣藤散をあたえる。
 十二月二十八日。再診。
 服薬二~三日で、半年以上毎日悩まされた頭痛が消失、耳鳴も大半はなくなり、血圧一三二-九六。
 こんなことなら、病院をわたり歩かないで、もっと早く漢方にかかればよかったと、患者は述懐した。
 病名がはっきりしないと治療方針のきまらない現代西洋医学と、病名がわからなくても「証」の診断がつけば治療可能な漢方医学との違いが、はっきりしている好例である。
 私の今までの経験では、脳動脈硬化からくる頭痛には、この釣藤散がよく効く。脳動脈硬化からの頭痛は、早朝眼がさめると痛み、起き上がって動感ていると楽になる。このような患者には釣藤散の応ずるものが多い。脳動脈の硬化からくる不眠にもこの方は効くので、別に睡眠薬を必要としない。


明解漢方処方 (1966年) 西岡 一夫著 ナニワ社刊
p.144
45.釣藤散(ちょーとうさん)(本事方)
 釣藤 橘皮 半夏 麦門冬 茯苓各三・〇 人参 防風 菊花各二・〇 甘草 生姜各一・〇 石膏五・〇(二八・〇)
  老人の動脉硬化に起因する常習頭痛に用いられる。俗にいう癇症神経質の人で,のぼせ症のため後頭部から天項にかけて頭痛し目眩,肩こり充血眼などを起すものを目標にする。動脉硬化による頭痛。更年期障害。





 『改訂 一般用漢方処方の手引き』 監修 財因法人日本公定書協会 織集 日本漢方生薬製剤協会
釣藤散(ちょうとうさん)

成分・分量
 釣藤鈎3,橘皮3(陳皮も可),半夏3,麦門冬3,茯苓罠人参2~3,防風2~3,菊花2~3,甘草1,生姜1,石膏5~7

用法・用量
 湯

 効能・効果
 体力中等度で,慢性に経過する頭痛,めまい,肩こりなどがあるものの次の諸症:慢性頭痛,神経症,高血圧の傾向のあるもの

原典 普済本事方

出典

解説
 本方は虚証の気の上衝の激しいものに用い識薬方飛たり,用いる症状は気分が重く,頭痛のするもの,朝方目覚え時に頭痛のするもので,気の上衝からくる肩こり,耳鳴り,眩暈,頭痛,眼球結膜の充血などの神経症状を訴えるものに用いる。中年以降に適用の機会が多い。
 方函類聚残「癇症の人気逆甚しく頭暈し或は肩背強急目赤く心気鬱塞者を治す」とある。



参考文献
生薬名 釣藤鈎 橘皮 半夏 麦門冬 茯苓 人参 防風 菊花 甘草 乾生姜 石膏 陳皮
処方分量集 3 3 3 3 3 2 2 2 1 1 5 -
診療医典 注1 3 3 3 3 3 2 2 2 1 1 5 -
症候別治療 3 3 3 3 3 2 2 2 1 1 5 -
処方解説 注2 3 3 3 3 3 2 2 2 1 1 5~7 -
後世要方解説 3 3 3 3 3 2 2 2 1 1 5 -
応用の実際 注3 3 3 3 3 3 2 2 2 1 1 5 -
明解処方 3 3 3 3 3 2 2 2 1 1 5 -
訂改処方集 3 - 3 3 3 3 3 3 1 1 3 3
漢方入門 3 - 3 3 3 3 3 3 1 1 3 3
診療の実際 3 3 3 3 3 2 2 2 1 1 5 -




  注1   中年以降の神経症で,やや虚状を帯び,頭痛,眩暈,肩こり,肩背拘急などを主訴とするものに用いる。いわゆる癇症という神経質のもので,上衝がひどく,常に訴えが絶えず,朝方あるいは午前中に頭痛す識というものを,目標として用いることが多い。

  注2  むかしいわゆる癇症といった神経質のもので,気の上衝がひどく,頭痛,眩暈,肩背拘急,眼球結膜が充血し,星光効となって常に鬱陶しいものに用いる。朝方頭痛するということを目標にすることもあるが,必ずしも決定的なものではない。

  注3  老人の頑固な頭痛で,めまいを伴うものによい。梧竹楼方函口訣には,「肝厥の頭痛,頭暈(めまい)を治す。その症,左のこめかみから眼尻にかけて痛むものによくきく」とのべている。崇蘭館試験方口訣によると,「肝厥頭暈というのは,上衝(上につきあげる症状)があ改aて怒り易いものである。したがって抑肝散の証に似ていて,頭痛,頭暈するものに方本を用いるとよい」と記している。