健康情報: 茯苓飲(ぶくりょういん) の 効能・効果 と 副作用

2013年10月6日日曜日

茯苓飲(ぶくりょういん) の 効能・効果 と 副作用

漢方診療の實際』 大塚敬節 矢数道明 清水藤太郎共著 南山堂刊
茯苓飲(ぶくりょういん)
茯苓五・ 朮四・ 人参 生姜 陳皮各三・ 枳実一・五 
本方は胃内停水を去る効があるので、溜飲症・胃アトニー症・胃下垂症・胃拡張等に応用される。その目標は胃部停滞感・呑酸・嘈囃・胃内停水で、腹壁は一般に軟いが心下部には抵抗を触れることが多い。また屡々食欲不振・悪心・胃部疼痛・腹部動悸の亢進・小便減少等の症状を伴う。便通は下痢し易いこともあり、 便秘勝ちのこともあって一定しない。
處方中の茯苓と朮は主として胃内停水を去る。人参と橘皮は胃の機能を亢め、枳実は一種の苦味健胃剤で三者相協力して宿食を消化し、食欲を進め、胃部停胞感を去る。生姜は諸薬を調和し、その薬効を助けるものである。
本方は前記病症の他に胃性神経衰弱症・胃癌・小児の胃腸障害に応用される。溜飲症で呑酸・嘈囃、空腹時胃痛を訴えるものには本方に呉茱萸・牡蠣を加えて用いる。また胃内停水が著明で悪心・嘔吐の傾きある者には半夏を加えて用いる。


『漢方精撰百八方』
46.〔方名〕茯苓飲(ぶくりょういん)

〔出典〕金匱要略

〔処方〕茯苓5.0 人参3.0 白朮4.0 枳実2.0 橘皮3.0 生姜3.5

〔目標〕証には、心下痞鞕して悸し、小便利せず、胸満して自ずから宿水を吐し、胸痞、食すすまざるもの、とある。
  則ち心下部に停滞、膨満感が強く、胃中にたまった水を吐き、尿利が減少し、心悸が亢進するものに適用される。
  更に胃症状をあげれば、呑酸、嘈囃があり、食欲不振、悪心、胃痛等がある。便通は、秘結したり、下痢したりして定まらず、腹部は軟であるが、心下部にやや抵抗を感じるものに適用される。

〔かんどころ〕心下部に停滞感があり、膨満感が強く、吐きやすい。それに、胸焼け、嘔気、食欲不振等の胃症状があるもの。

〔応用〕水毒症状が胃症状に強くあらわれ、胃下垂、胃アトニーの傾向で、宿水を吐したり、胃内停水、心下痞硬等がある胃疾患に用いられる。
(1)慢性の胃炎等で、目標の如き症状のあるもの、例えば、吐き易い、胃部停滞、膨満感があるものに適用される。
(2)胃下垂、胃アトニー胃拡張等で、目標の如き症状のあるもの。
(3)胃神経症
(4)脚気で前記の胃症状があるもの。証により呉茱萸湯を合方する。
(5)胆石症、目標の如き症状あるもの。証により、茵蔯、或いは半夏を加える。
(6)小児の乳食消化せず吐くもの、百日咳等で咳き込む事の強いもの等に、半夏を加えて用いる。

〔治験〕三十五才男子。筋ばっていてやや痩せ型。胃の具合悪く、時々痛み、少し多く食べるとすぐつかえる。吐き易く、吐くと楽になるという。仕事が出来ず、神経的になり、ぶらぶらしている。脈沈、下腹部はやや軟弱であるが、心下部はややかたい。食事に注意し、茯苓飲を投与。三週間で痛みが消失、全身状態もよくなり、更に服薬を続けて、元気恢復、新しい仕事をはじめた。
伊藤清夫





《資料》よりよい漢方治療のために 増補改訂版 重要漢方処方解説口訣集』 中日漢方研究会
67.茯苓飲(ぶくりょういん) 金匱要略
 茯苓5.0 朮4.0 人参3.0 生姜3.0(乾1.0) 陳皮3.0 枳実1.5

(金匱要略)
○心胸中有停痰宿水,自吐出後,心胸間虚,気満不能食,消痰気令能食,治之(痰飲)

現代漢方治療の指針〉 薬学の友社
 胃部がつかえて膨満感があり,胃液の分泌が過多で悪心や食欲不振があって尿量減少するもの。
 本方は通常貧血冷え症の胃拡張に繁用される。本方適応症状は半夏瀉心湯適応症状に極めて類似するが,後者より胃部乃至みぞおち周辺部のつかえが著しく,且つ腹部に動悸を自覚するすることがあり,水分停滞感があっても下腹部における腹鳴はない。なお本方適応症も下痢することもあり,あるいは便秘することもあって一定しない。半夏厚朴湯との鑑別は半夏厚朴湯の項を参照すること。本方を服用後なお食欲不振がとれない場合はは小柴胡湯あるいは補中益気湯を投与すればよい。また悪心嘔吐がひどくなり,あるいは浮腫を生ずる場合は半夏瀉心湯五苓散で治療する。


漢方処方解説シリーズ〉 今西伊一郎先生
 本方は通常,貧血冷え症を傾向のあるもので,胃内に水分が停滞し,分泌液が過多で胃部膨満感があり消化不良や呑酸(どんさん)嘈囃(そうそう,胸やけ,ゲップ)を訴える者の胃内停水を去り胃腸機能を調整する。他覚的には上腹部(心窩部)腹直筋や胃部に堅い抵抗があって,胃部に比べて下腹部は軟弱なものが多く,そのほとんどが胃部振水音を証明する。以上要するに本方がl適応する具体的な症状は,胃部膨満感,圧迫感,噯気,悪心,胃部鈍痛,食欲不振と他覚的には胃部の膨隆,胃部拍水音,胃内排出力の減退などがあげられる。したがって本方は前記諸症状から考えて,胃の緊張力や蠕動運動が多少減退した第一度胃排出不全症,あるいは第二度排出不全症と言われる胃アトニーの傾向のあるもの。胃液の分泌が過多で,呑酸,胃部鈍痛,食欲不振なども訴える肥厚性胃炎,瘢痕や軽度のMagen Krebsなどで幽門部狭窄をきたしているもの,などを対象にすればよい。また胃の不快症状をきたしやすい胃神経症や,胃下垂に繁用されているが,店頭における本方の応用は,深刻な交通事情で激増したドライバーの胃下垂,胃性ノイローゼ,経済面や販売競争に精神,神経をすり減らし,胃腸にストレスを与え,胃腸のぐあいがよくないと訴える経営者層などに,推奨販売されると実質的な健胃薬として,非常に喜ばれる処方である。(後略)


※Magenkrebs(cancer of the stomach,gastric cancer,stomach cancer,胃癌)


漢方処方応用の実際〉 山田 光胤先生
○胃内に水分が停滞しているため,心下部が痞えて膨満感があり,自然に水が上がって来てこれを口から吐き,あるいはいったん食べた食物を牛のように反芻する。このとき,尿利の減少や心悸亢進のある場合がある。また呑酸,嘈囃,食欲不振,悪心,胃痛などのこともあり,尿利減少や手足の軽い浮腫のおこることもある。体質は虚弱であるが,体力の低下はそれ程甚だしくなく,腹部は軟弱であるが心下部にやや抵抗をみとめ,振水音が殆んど必発する。
○浅田宗伯「此方は後世方のいわゆる留飲(胃内停水)の主薬なり。人参湯の証にして胸中(胃中)痰飲ある者によろし。原南陽は此方に呉茱萸,牡蛎を加えて澼飲(吐水症)の主薬とす。」
○本方は人参湯,四君子湯と違う点は甘草がなくて代りに枳実,陳皮があることである。枳実は痰飲を去る効があり、陳皮は気を下して,心下の痞えを去る効をたかめる。この枳実があるということで本方が人参湯などより実証であることがわかる。



漢方診療の実際〉 大塚,矢数,清水 三先生
 本方は胃内停水を去る効があるので,溜飲症,胃アトニー症,胃下垂症,胃拡張等に応用される。その目標は胃部停滞感,呑酸,嘈囃,胃内停水で腹壁は一般に軟いが心下部には抵抗を触れることが多い。また屢々食欲不振,悪心,胃部疼痛,腹部動悸の亢進,小便減少の症状を伴う。便通は下痢し易いこともあり,便秘勝ちのこともあって一定しない。処方中の茯苓と朮は主として胃内停水を去る。人参と橘皮は胃の機能を亢め,枳実は一種の苦味健胃剤で三者相協力して宿食を消化し,食欲を進め,胃部停滞感を去る。生姜は諸薬を調和し,その薬効を助けるものである。本方は前記病症の他に胃性神経衰弱症,胃癌,小児の胃腸障害に応用される。溜飲症で呑酸,嘈囃,空腹時胃痛を訴えるものには本方に呉茱萸,牡蛎を加えて用いる。また胃内停水が著明で,悪心,嘔吐の傾きある者には半夏を加えて用いる。



漢方処方解説〉 矢数 道明先生
 元来脾胃虚弱で,やや虚証を帯び貧血性で,胃部停滞感があり,あるいは呑酸,嘈囃を訴え,胃内停水が必ず認められる。腹壁は一般に軟かいが,心下部には少しく抵抗を触れることが多い。吐水の後が何となくさっぱりしない。しばしば食欲不振,悪心,胃部疼痛,腹部動悸の亢進,尿利減少等の症状をともなうものである。舌苔はほとんどなく,足が冷えがちで,便通は一定しない。


漢方入門講座〉 竜野 一雄先生
 構成 人参,白朮,甘草,乾姜の人参湯と橘皮枳実生姜湯とを合方したような処方で両者の指示が多分に混合された所がある。乾姜の代りに茯苓になっているから,胃寒よりは胃水が主になり,且つ橘皮枳実生姜湯の気満が主になっている。

 運用 胃部膨満感,胃液分泌過多

 漢方的に云えば胃に気が滞るので自覚的に膨満感又は他覚的に膨満があり,停飲があるために胃液が口に溢れたり、吐いたり,或は胃部拍水音を認めたりする。之を「心胸中に停痰宿水あり。自ら水を吐出して後心胸間虚し気満して食すること能はざるを治す。痰気を消し能く食せしむ」(金匱要略痰飲)と表現している。虚証だから脉弱く沈み,貧血冷え性の人が多く,腹壁特に胃部は軟い。膨満していることもあれば,していないこともある。反対に緊張していることもあるが強く押すと底に力がない。沈氏は註して「脾虚して,胃と与に津液を行らすこと能はず。水蓄へて飲となり胸膈の間に貯へ,満ちて上溢す。故に自ら水を吐出して後邪去るも正虚す。虚気上逆し,満ちて食すること能はざるなり。参朮大いに脾気を健かにし,新飲をして聚めざらしめ,姜橘枳実は以て胃家未尽の飲を駆り,日に痰気を消し,能く食せしむる所以のみ」と(中略)
 尾台榕堂先生曰く「胃反呑酸嘈囃等,心下痞硬,小便不利し或は心胸痛むものを治す。又毎朝悪心し,苦酸水或は痰或は痰沫を吐すものを治す。老人常に痰飲を苦しみ,心下痞満,飲食消せず下痢し易きものを治す。又小児乳食化せず吐下止まざるもの,並びに百日咳,心下痞満し咳逆甚しき者を治す。倶に半夏を加えて殊効あり。」(類聚方広義)これで応用の範囲が広的なることが知れる。極く普通に使うのは胃のアトニー状態と胃液の分泌過多が伴なった場合でその結果として起る神経性の病気にも使う。例えば胃アトニー,胃下垂,胃拡張,胃ノイローゼ,胃腸性神経衰弱,肺結核初期,蛔虫で胃水が上ってくるもの,食道憩室,その他むねやけを起す胃酸過多症,留飲症,吃逆を起す病気,老人の咳痰,小児消化不良,百日咳など前記の口訣を見れば応用範囲が判るだろう。