平胃散(へいいさん)
蒼朮四・ 厚朴 陳皮各三・ 生姜 大棗各二・ 甘草一・
本方は宿食を消化し、胃内停水を去るものであ識。自覚症として食欲不振・腹部膨満・心下痞硬・食後に腹鳴して下痢を訴える。脈も腹も未だ甚しくは衰えぬものに用いる。貧血を来し、腹筋が極度に弛緩した虚證のものには用いてはならない。
本方は蒼朮を以て胃内停水を去り、陳皮・厚朴を以て胃の機能を助け、食滞を順らす。甘草は諸薬を調和し、健胃の働きがある。
本方は右の目標を以て急性慢性胃カタル・胃アトニー・胃拡張などに応用される。また平胃散に芒硝を加えて産後に胎盤の残留せるものに用いることがある。
不換金正気散(ふかんきんしょうきさん)
蒼朮四・ 厚朴 陳皮 大棗 生姜各三・ 半夏六・ 甘草一・五 藿香一・
平胃散に藿香・半夏を加えたもので、平胃散の症に更に外感を兼ねたものに用いる。即ち感冒・急性胃腸カタル等に本方の證がある。
胃苓湯(いれいとう)
蒼朮 厚朴 陳皮 猪苓 沢瀉 白朮 茯苓各二・五 桂枝二・ 大棗 乾姜各一・五 甘草一・
平胃散と五苓湯の合方で、急性腸カタルによく用いられる。下痢・口渇・微熱界を目標とする。またネフローゼに用いて効がある。
『漢方薬の実際知識』 東丈夫・村上光太郎著 東洋経済新報社 刊
7 裏証(りしょう)Ⅰ
虚弱な体質者で、消化機能が衰え、心下部の痞えを
訴えるもの、また消化機能の衰退によって起こる各種の疾患に用いられる。建中湯類、裏証Ⅰ、
裏証Ⅱは、いずれも裏虚の場合に用いられるが、建中湯類は、特に中焦が虚したもの、裏証Ⅰは、特に消化機能が衰えたもの、裏証Ⅱは、新陳代謝機能が衰えた
ものに用いられる。
裏証Ⅰの中で、柴胡桂枝湯加牡蠣茴香(さいこけいしとうかぼれいういきょう)・安中散(あんちゅうさん)は気の動揺があり、神経質の傾向を呈する。半夏白朮天麻湯(はんげびゃくじゅつてんまとう)・呉茱萸湯(ごしゅゆとう)は、水の上逆による頭痛、嘔吐に用いる。
7 平胃散(へいいさん) (和剤局方)
〈漢方処方応用の実際〉 山田 光胤先生7 平胃散(へいいさん) (和剤局方)
〔蒼朮(そうじゅつ)四、厚朴(こうぼく)、陳皮(ちんぴ)各三、生姜(しょうきょう)、大棗(たいそう)各二、甘草(かんぞう)一〕
本
方は、消化障害があり、胃に食毒と瘀水が停滞しているために起こる各種の疾患に用いられる。悪心、嘔吐、心下部不快感、心下部痞満、消化障
害、食欲不振、胃痛、下痢(本方證は下痢すればさっぱりする)などを目標とする。本方は、衰弱が強い人、貧血のいちじるしい人には用いてはならない。
〔応用〕
つぎに示すような疾患に、平胃散證を呈するものが多い。
一 胃酸過多症、胃腸カタルその他の胃腸系疾患。
一 そのほか、気管支喘息など。
『《資料》よりよい漢方治療のために 増補改訂版 重要漢方処方解説口訣集』 中日漢方研究会
68.平胃散(へいいさん) 和剤局方
蒼朮4.0 厚朴3.0 陳皮3.0 大棗2.0 乾姜1.0 甘草1.0
(和剤局方)
脾胃和させず,飲食を思わず,心腹脇肋脹満刺痛,口苦くして味ひ無く,胸満短気,嘔噦悪心,噫気呑酸,面色萎黄,肌体痩弱,怠惰嗜臥,体重く節痛するを治す。常に多く自利し,或ひは霍乱を発し及び五噎(気噎,憂噎,食噎,労噎,思噎)八痞,膈気翻胃,竝びに宜しく之を服すすべし。常に服すれば,気を調え,胃を暖め,宿食を化し,痰飲を消し,風寒冷温,四時非節の気を辟く。
〈現代漢方治療の指針〉 薬学の友社
あまり衰弱しないものの消化不良を伴う胃痛,腹痛,下痢,食欲不振あるいは食後腹鳴があり,下痢すれば却ってさっぱりするもの。
本方は消化不良を伴なう胃腸疾患に広範に応用されるが,結核患者のパスなどの連用による胃腸障害にも卓効がある。安中散との鑑別は安中散の項参照のこと。腹痛を伴なった水瀉性下痢には五苓散を合方する。また本方と大柴胡湯あるいは小柴胡湯との考方は口内炎,胃炎に著効を示し,特に胃炎に起因する胸痛,背痛,咳嗽,頭痛などには一度試みるべきである。本方を服用後浮腫あるいは嘔吐を来す場合は五苓散で治療し,胃痛または更に食欲が減退するような場合は安中散,柴胡桂枝湯,小建中湯,半夏瀉心湯,補中益気湯などに転方すべきである。本方は衰弱あるいは貧血の著しい人には投与してはならない。
〈漢方処方解説シリーズ〉 今西伊一郎先生
胃部の膨満感があって,消化不良を伴う胃痛,腹痛,食欲減退あるいは食後に腹鳴があって,下痢しやすいもの。
本方は前記目標欄記載のとおり,消化不良を伴う胃腸疾患に広範に利用されているが,前項茯苓飲と同様に胃内の停滞水分が多く,これが誘因となって胃部膨満感,食欲不振,腹鳴,下痢などの胃腸症状を発現し,しかも下痢な伴う倦怠感や,衰弱の傾向を認めないものを対象に応用する。すなわち本方が適応する下痢はは,消化管に水分が多く幽門の開放を促進して起こりやすい消化不良性,単純性下痢で糞便中に消化不良物を証明したり,あるいは水分の多い多量の便を腹鳴とともに排出して,あとはサッパリすると言ったものである。また食餌性の下痢にもよく奏効するが,いずれにしても胃内停水と胃部膨満感が目安で,苦味剤や抗生物質などを投与しても,その効果の少ないものに本方の対象者が多いが,胃腸薬の1つにしても水分の胃腸循環や泌尿器の機能にまで,手をさしのべている漢方処方の真の広さと合理性の一端が,この辺でも十分うかがえる。店頭において本方の適応者を確認する場合,視診上は一見元気なもので,本方症状を訴えるとき,その前駆症状としてほとんどが尿量が一時的に減少しているので問診の際この点を忘れないことが大切である。
類証の鑑別
五苓散料 胃内停水があって下痢をする点で本方と類似するが,五苓散適応症は著しい口渇,悪心,嘔吐あるいは熱症状や発汗を伴うので本方との区別ができる。
半親瀉心湯 胃部のつかえ,食欲減退,腹鳴,下痢の点で本方に似ているが,半夏瀉心湯は消化器疾患でカタル症状が多く,しかも慢性に経過するもので,便も軟便や粘液性であることが多い。
茯苓飲は胃部の他覚的,自敗的症状は本方に比べてその抵抗や膨隆が著しい。
『《資料》よりよい漢方治療のために 増補改訂版 重要漢方処方解説口訣集』 中日漢方研究会
68.平胃散(へいいさん) 和剤局方
蒼朮4.0 厚朴3.0 陳皮3.0 大棗2.0 乾姜1.0 甘草1.0
(和剤局方)
脾胃和させず,飲食を思わず,心腹脇肋脹満刺痛,口苦くして味ひ無く,胸満短気,嘔噦悪心,噫気呑酸,面色萎黄,肌体痩弱,怠惰嗜臥,体重く節痛するを治す。常に多く自利し,或ひは霍乱を発し及び五噎(気噎,憂噎,食噎,労噎,思噎)八痞,膈気翻胃,竝びに宜しく之を服すすべし。常に服すれば,気を調え,胃を暖め,宿食を化し,痰飲を消し,風寒冷温,四時非節の気を辟く。
〈現代漢方治療の指針〉 薬学の友社
あまり衰弱しないものの消化不良を伴う胃痛,腹痛,下痢,食欲不振あるいは食後腹鳴があり,下痢すれば却ってさっぱりするもの。
本方は消化不良を伴なう胃腸疾患に広範に応用されるが,結核患者のパスなどの連用による胃腸障害にも卓効がある。安中散との鑑別は安中散の項参照のこと。腹痛を伴なった水瀉性下痢には五苓散を合方する。また本方と大柴胡湯あるいは小柴胡湯との考方は口内炎,胃炎に著効を示し,特に胃炎に起因する胸痛,背痛,咳嗽,頭痛などには一度試みるべきである。本方を服用後浮腫あるいは嘔吐を来す場合は五苓散で治療し,胃痛または更に食欲が減退するような場合は安中散,柴胡桂枝湯,小建中湯,半夏瀉心湯,補中益気湯などに転方すべきである。本方は衰弱あるいは貧血の著しい人には投与してはならない。
〈漢方処方解説シリーズ〉 今西伊一郎先生
胃部の膨満感があって,消化不良を伴う胃痛,腹痛,食欲減退あるいは食後に腹鳴があって,下痢しやすいもの。
本方は前記目標欄記載のとおり,消化不良を伴う胃腸疾患に広範に利用されているが,前項茯苓飲と同様に胃内の停滞水分が多く,これが誘因となって胃部膨満感,食欲不振,腹鳴,下痢などの胃腸症状を発現し,しかも下痢な伴う倦怠感や,衰弱の傾向を認めないものを対象に応用する。すなわち本方が適応する下痢はは,消化管に水分が多く幽門の開放を促進して起こりやすい消化不良性,単純性下痢で糞便中に消化不良物を証明したり,あるいは水分の多い多量の便を腹鳴とともに排出して,あとはサッパリすると言ったものである。また食餌性の下痢にもよく奏効するが,いずれにしても胃内停水と胃部膨満感が目安で,苦味剤や抗生物質などを投与しても,その効果の少ないものに本方の対象者が多いが,胃腸薬の1つにしても水分の胃腸循環や泌尿器の機能にまで,手をさしのべている漢方処方の真の広さと合理性の一端が,この辺でも十分うかがえる。店頭において本方の適応者を確認する場合,視診上は一見元気なもので,本方症状を訴えるとき,その前駆症状としてほとんどが尿量が一時的に減少しているので問診の際この点を忘れないことが大切である。
類証の鑑別
五苓散料 胃内停水があって下痢をする点で本方と類似するが,五苓散適応症は著しい口渇,悪心,嘔吐あるいは熱症状や発汗を伴うので本方との区別ができる。
半親瀉心湯 胃部のつかえ,食欲減退,腹鳴,下痢の点で本方に似ているが,半夏瀉心湯は消化器疾患でカタル症状が多く,しかも慢性に経過するもので,便も軟便や粘液性であることが多い。
茯苓飲は胃部の他覚的,自敗的症状は本方に比べてその抵抗や膨隆が著しい。
胃の消化がわるく,宿食,停水が停滞して心下が痞えて膨満感があり,食後腹鳴がおこって,時に下痢するものである。余り虚証ではなく,脈,腹ともそれほど軟弱でない。
〈漢方処方解説〉 矢数 道明先生
胃内に食毒と水毒が停滞しているのを平らかにするという意味で平胃散という。消化障害があって,心下につかえて痞満感を訴え、食後腹鳴を起こし,脈腹ともにそれほど虚弱でないものが目標である。
〈勿誤方函口訣〉 浅田 宗伯先生
此方は後世家は称美すれども顕効なし,食傷後の調理に用いてよし。凡て食消化せず,心下に滞り,又食後腹鳴り,下痢するときは却て快き症に用ゆ。胞衣を下すには芒硝を加え,小児虫症腹痛啼哭するを治するには硫黄加ふるが如きは理外の理,不可測の妙を寓するものなり。
〈老医口訣〉 浅田宗伯先生,三浦宗春先生
はかの行かざる病人の何とも見付け難き者,色々に治さんと思う薬を用ひたる者の後などには,かまさず平胃散を用い,軽快するものなり。
〈牛山方考〉 香月 牛山先生
此方は脾胃和せず,飲食進まざる者,常に服して胃を暖め,食を消し,痰を化するの妙剤なり。
【副作用】
重大な副作用と初期症
1) 偽アルドステロン症: 低カリウム血症、血圧上昇、ナトリウム・体液の貯留、浮腫、体重増加等の偽アルドステロン症があらわれることがあるので、観察(血清カリウム値の測定等) を十分に行い、異常が認められた場合には投与を中止し、カリウム剤の投与等の適切な処置を行う。
2) ミオパシー: 低カリウム血症の結果としてミオパシーがあらわれることがあるので、観察を十分に行い、脱力感、四肢痙攣・麻痺等の異常が認められた場合には投与を中止し、カリウム剤の投与等の適切な処置を行う。
理由
厚生省薬務局長より通知された昭和53年2月13日付薬発第158号「グリチルリチン酸等を含 有する医薬品の取り扱いについて」に基づく。
処置方法
原 則的には投与中止により改善するが、血清カリウム値のほか血中アルドステロン・レニ ン活性等の検査を行い、偽アルドステロン症と判定された場合は、症状の種類や程度により適切な治療を行う。低カリウム血症に対しては、カリウム剤の補給等 により電解質 バランスの適正化を行う。