麻杏甘石湯(まきょうかんせきとう)
麻黄 杏仁各四・ 甘草二・ 石膏一○・
本方は喘咳があって、或は発熱を訴え、或は自汗・口渇等のある者に用いる。今本方を麻黄湯と比較して考えるに、麻黄湯の熱状は悪寒発熱であって、自汗の症は無い。本方の熱状は一般に悪寒を伴わず、また激しい高熱を示すことはない。そして屡々自汗・口渇がある。喘咳は両者に共通の症状であるが、熱の状態を異にする。故に本方は麻黄湯の桂枝の代りに石膏を配伍したのである。石膏は清熱剤で麻黄・杏仁と協力して熱を解し、喘咳自汗を治する。麻黄・杏仁は血行を盛んにして水分の停滞を疎通し、喘咳を治する。甘草は諸薬を調和し、その薬効を助けるものである。
本方は喘咳・気管支炎・百日咳等に応用されるが、特に小児には好適である。小児の感冒薬としても用いられる。
『漢方精撰百八方』
39.〔方名〕麻杏甘石湯(まきょうかんせきとう)
〔出典〕傷寒論
〔処方〕麻黄5.0 杏仁3.0 甘草2.0 石膏10.0
〔目標〕証には、発汗の後、汗出でて喘し、大熱(大表の熱)無きもの、とある。 即ち、喘咳があり、発汗があり、発熱し、口渇、尿量減少、顔面浮腫があり、呼吸困難等の急迫、煩悶の状を伴い、脈、浮数、又は数なるものに適用する。腹力は充実している。
〔かんどころ〕喘咳を主とし、発汗、口渇が伴い、発熱は悪寒を伴わない。即ち、大表に熱なきものである。
〔応用〕
(1)気管支喘息に用いられることが多い。この際は発熱を伴わない。発汗があっても発熱に伴うものではなく、所謂あぶら汗である。 汗なく喘する者にも効果がある。小青竜湯の喘は、喘咳であることが多く、湿性が強く、ぜいぜいするが、麻杏甘石湯は、急迫の状があっても、その喘は、湿性ではないように思われる。小青竜湯は水毒症状が強いが、麻杏甘石湯は、発汗し易く、水毒の停滞は少ない。麻黄湯証の喘息は汗はでない。
(2)感冒後の気管支炎、肺炎、その類症等で喘咳に伴う急迫症状があるものに適用される。
(3)感冒薬、特に小児の感冒に適している。喘息性の気管支炎の乳幼児の喘鳴に適用される。 一般に麻杏甘石湯は喘息の発作時に頓服として用いるが、長期間の服用には適しないことが多い。
〔附記〕麻杏甘石湯は気管支喘息に最も多く用いられる薬方と思われているが、前述のように発作時に頓服として用いられることが主で、筆者の経験によれば小青竜湯の奏効する場合の方が多い。また、大柴胡湯、大柴胡湯合半夏厚朴湯、小柴胡湯合半夏厚朴湯等、麻黄の加味されない薬方で治る場合も多いことを注意すべきである。
伊藤清夫
『漢方薬の実際知識』 東丈夫・村上光太郎著 東洋経済新報社 刊
5 麻黄剤(まおうざい)
麻黄を主剤としたもので、水の変調をただすものである。したがって、麻黄剤は、瘀水(おすい)による症状(前出、気血水の項参照)を呈する人に使われる。なお麻黄剤は、食欲不振などの胃腸障害を訴えるものには用いないほうがよい。
麻黄剤の中で、麻黄湯、葛根湯は、水の変調が表に限定される。これらに白朮(びゃくじゅつ)を加えたものは、表の瘀水がやや慢性化して、表よ
り裏位におよぼうとする状態である。麻杏甘石湯(まきょうかんせきとう)・麻杏薏甘湯(まきょうよくかんとう)は、瘀水がさらに裏位におよび、筋肉に作用
する。大青竜湯(だいせいりゅうとう)・小青竜湯(しょうせいりゅうとう)・越婢湯(えっぴとう)は、瘀水が裏位の関節にまでおよんでいる。
3 麻杏甘石湯(まきょうかんせきとう) (傷寒論)
〔麻黄(まおう)、杏仁(きょうにん)各四、甘草(かんぞう)二、石膏一○〕
本方は、表の水毒はなく裏の水毒が動くもので、多くは水毒が胸部に向かっている。したがって、発熱、自汗、口渇、喘咳、呼吸困難などを目標と
する。しかし、本方の自汗は、裏位の瘀水が熱によって出る汗であるからっ、桂枝湯のようにサラサラした汗ではなく、ジトジトとした油汗である。また、瘀水
が汗として出ず浮腫状を呈することもあるが、発病からの経過があまり長くないものに用いられる。
〔応用〕
つぎに示すような疾患に、麻杏甘石湯證を呈するものが多い。
一 感冒、百日咳、気管支炎、気管支喘息、肺炎、肺壊疽その他の呼吸器系疾患。
一 そのほか、痔の痛むもの、睾丸炎など。
『《資料》よりよい漢方治療のために 増補改訂版 重要漢方処方解説口訣集』 中日漢方研究会
74.麻杏甘石湯(まきょうかんせきとう) 傷寒論
麻黄4.0 杏仁4.0 甘草2.0 石膏10.0
(傷寒論)
○発汗後,不可更行桂枝湯,汗出而喘,無大熱者可与本方(太陽中)
○下後,不可更行桂枝湯,若汗而喘,無大熱者,可与本方(太陽下)
〈現代漢方治療の指針〉 薬学の友社
咳嗽劇しく,発作時に頭部に発汗して喘鳴を伴い,咽喉がかわくもの。
本方は気管支喘息にもっとも覚用され識もので,特に小児喘息には特効があるが,作用が強力であるから通常頓服的に使用し,長期にわたって服用させては ならない。もし長期連用させる 心要がある時は 神秘湯を用いる。発作が劇しく,苦悶を呈する時は本方を少量ずつ断続的に服用させるとよい。本方は虚弱体質,特に虚弱な老人には禁忌であるが,乳児および小児には特別に虚弱でない限り投与してもよい。自律神経異常,内分泌異常などに起因する喘息には本方は無効で,半夏厚朴湯と柴胡剤との合方を考慮すべきである。また口渇が少なく,胃部に水分停滞感があって咳や喀痰の多い喘息には小青竜湯や平胃散が適する。本方を服用後著しく食欲が減退したり,あるいは却って苦悶する場合は直ちに中止し,平胃散,小柴胡湯,柴胡桂枝湯などで,また口渇を増したり,あるいは浮腫を生ずる場合は五苓散で治療すればよい。
〈漢方処方応用の実際〉 山田 光胤先生
○喘咳(喘鳴を伴う咳嗽)が強く,口渇(のどかわき)があり,あるいは自然に発汗し,熱を訴えるもの。高熱が出ることも,悪寒することもない。
○気管支喘息には本方に半夏厚朴湯を合方して用いると一層効果があることが多い。
○本方に桑白皮3.0を加えた五虎湯が咳,喘咳,息切れによいことがある。(細野史郎氏経験方)
〈漢方治療の実際〉 大塚 敬節先生
この方は気管支喘息,気管支炎などで喘息のあるものに用いられる薬方であるが古矢知白は,これが痔にきくと古家法則の中でのべており,私も知白の説を追試するつもりで,これを用いたところ著効を得た。
〈漢方診療の実際〉 大塚,矢数,清水 三先生
本方は喘咳があって,或は発熱を訴え,或は自汗,口渇等のある者に用いる。今本方を麻黄湯と比較して考えるに麻黄湯の熱状は悪寒発熱であって,自汗の症は無い。本方の熱状は悪寒を伴わず,また激しい高熱を示すことはない。そして屢々自汗,口渇がある。喘咳は両者に共通の症状であるが,熱の状態を異にする。故に本方は麻黄湯の桂枝の代りに石膏を配伍したのである。石膏は清熱剤で麻黄,杏仁と協力して熱を解し,喘咳自汗を治する。甘草は諸薬を調和し,その薬効を助けるものである。本方は喘咳,気管支炎,百日咳等に応用されるが,特に小児に好適である。小児の感冒薬としても用いられる。
〈類聚方広義〉 尾台 榕堂先生
喘咳止マズ面目浮腫,咽乾口渇シ,或ハ胸痛スル者ヲ治ス南呂丸,姑洗丸ヲ兼用ス。
哮喘,胸中火ノ如ク気検涎潮,大息呻吟シ聲鋸ヲ拽クガ如ク鼻清涕ヲ流シ心下●塞,巨里動奔馬ノ如キ者ハ此方ニ宜シ。(後略)
〈勿誤方函口訣〉 浅田 宗伯先生
此の方は麻黄湯の裏面の薬にて,汗出でて喘すと云ふが目的なり。熱肉裏に沉淪して上肺部に薫蒸する者を麻石の力にて解するなり。故に此方と越婢湯は大熱無しと云う字を下してあり。
※南呂丸 乃ち滾痰丸なり、今甘遂を以て沈香に代う
諸痰飲、咳嗽、大便不通なる者を治す
黄芩四両、甘遂、青石各二銭、大黄八銭
右四味、杵きて篩い末となし、梧桐子大の如くし、毎服二〇丸、日に三服、或は三四〇丸に至る。温水にて之を下す。
石を製するの法、青石、硝各等分を土器中にて煆過し金色となるを以て度となす。研飛して晒し乾し用ゆ。
※姑洗円(姑洗丸) 乃ち控涎丹なり
諸痰飲、水毒を治す。
甘遂、大戟、白芥子各等分
右三味杵て篩い末となし、蜜丸梧桐子大の如くし、毎五〇丸、生姜湯を以て之を服す
●は革+卯
※沉淪(ちんりん)
「沈」も「淪」もしずむ意
しずみ落ち入ること。深く沈むこと。
【一般用漢方製剤承認基準】
麻杏甘石湯
〔成分・分量〕
麻黄4、杏仁4、甘草2、石膏10
〔用法・用量〕
湯
〔効能・効果〕
体力中等度以上で、せきが出て、ときにのどが渇くものの次の諸症:
せき、小児ぜんそく、気管支ぜんそく、気管支炎、感冒、痔の痛み
【添付文書等に記載すべき事項】
してはいけないこと
(守らないと現在の症状が悪化したり、副作用が起こりやすくなる)
次の人は服用しないこと
生後3ヵ月未満の乳児。
〔生後3ヵ月未満の用法がある製剤に記載すること。〕
相談すること
1.次の人は服用前に医師、薬剤師又は登録販売者に相談すること
(1)医師の治療を受けている人。
(2)妊婦又は妊娠していると思われる人。
(3)体の虚弱な人(体力の衰えている人、体の弱い人)。
(4)胃腸の弱い人。
(5)発汗傾向の著しい人。
(6)高齢者。
〔マオウ又は、1日最大配合量が甘草として1g以上(エキス剤については原生薬に換算
して1g以上)含有する製剤に記載すること。〕
(7)次の症状のある人。
むくみ1)、排尿困難2)
〔1)は、1日最大配合量が甘草として1g以上(エキス剤については原生薬に換算して1
g以上)含有する製剤に記載すること。2)は、マオウを含有する製剤に記載すること。〕
(8)次の診断を受けた人。
高血圧1)2)、心臓病1)2)、腎臓病1)2)、甲状腺機能障害2)
〔1)は、1日最大配合量が甘草として1g以上(エキス剤については原生薬に換算して1
g以上)含有する製剤に記載すること。2)は、マオウを含有する製剤に記載すること。〕
2. 服用後、次の症状があらわれた場合は副作用の可能性があるので、直ちに服用を中止し、この文書を持って医師、薬剤師又は登録販売者に相談すること
関係部位 | 症状 |
皮膚 | 発疹・発赤、かゆみ |
消化器 | 吐き気、食欲不振、胃部不快感 |
まれに下記の重篤な症状が起こることがある。その場合は直ちに医師の診療を受けること。
症状の名称 | 症状 |
偽アルドステロン症、 ミオパチー |
手足のだるさ、しびれ、つっぱり感やこわばりに加えて、 脱力感、筋肉痛があらわれ、徐々に強くなる。 |
〔1日最大配合量が甘草として1g以上(エキス剤については原生薬に換算して1g以上)
含有する製剤に記載すること。〕
3. 1ヵ月位(感冒に服用する場合には5~6日間)服用しても症状がよくならない場合は服用を中止し、この文書を持って医師、薬剤師又は登録販売者に相談すること
4. 長期連用する場合には、医師、薬剤師又は登録販売者に相談すること
〔1日最大配合量が甘草として1g以上(エキス剤については原生薬に換算して1g以上)
含有する製剤に記載すること。〕
〔用法及び用量に関連する注意として、用法及び用量の項目に続けて以下を記載すること。〕
(1)小児に服用させる場合には、保護者の指導監督のもとに服用させること。
〔小児の用法及び用量がある場合に記載すること。〕
(2)〔小児の用法がある場合、剤形により、次に該当する場合には、そのいずれかを記載す
ること。〕
1)3歳以上の幼児に服用させる場合には、薬剤がのどにつかえることのないよう、よく
注意すること。
〔5歳未満の幼児の用法がある錠剤・丸剤の場合に記載すること。〕
2)幼児に服用させる場合には、薬剤がのどにつかえることのないよう、よく注意すること。
〔3歳未満の用法及び用量を有する丸剤の場合に記載すること。〕
3)1歳未満の乳児には、医師の診療を受けさせることを優先し、やむを得ない場合にのみ
服用させること。
〔カプセル剤及び錠剤・丸剤以外の製剤の場合に記載すること。なお、生後3ヵ月未満の用法がある製剤の場合、「生後3ヵ月未満の乳児」をしてはいけないことに記載し、用法及び用量欄には記載しないこと。〕
保管及び取扱い上の注意
(1)直射日光の当たらない(湿気の少ない)涼しい所に(密栓して)保管すること。
〔( )内は必要とする場合に記載すること。〕
(2)小児の手の届かない所に保管すること。
(3)他の容器に入れ替えないこと。(誤用の原因になったり品質が変わる。)
〔容器等の個々に至適表示がなされていて、誤用のおそれのない場合には記載しなくてもよい。〕
【外部の容器又は外部の被包に記載すべき事項】
注意
1. 次の人は服用しないこと
生後3ヵ月未満の乳児。
〔生後3ヵ月未満の用法がある製剤に記載すること。〕
2. 次の人は服用前に医師、薬剤師又は登録販売者に相談すること
(1)医師の治療を受けている人。
(2)妊婦又は妊娠していると思われる人。
(3)体の虚弱な人(体力の衰えている人、体の弱い人)。
(4)胃腸の弱い人。
(5)発汗傾向の著しい人。
(6)高齢者。
〔マオウ又は、1日最大配合量が甘草として1g以上(エキス剤については原生薬に換算して1g以上)含有する製剤に記載すること。〕
(7)次の症状のある人。
むくみ1)、排尿困難2)
〔1)は、1日最大配合量が甘草として1g以上(エキス剤については原生薬に換算して1g以上)含有する製剤に記載すること。2)は、マオウを含有する製剤に記載すること。〕
(8)次の診断を受けた人。
高血圧1)2)、心臓病1)2)、腎臓病1)2)、甲状腺機能障害2)
〔1)は、1日最大配合量が甘草として1g以上(エキス剤については原生薬に換算して1g以上)含有する製剤に記載すること。2)は、マオウを含有する製剤に記載すること。〕
2´.服用が適さない場合があるので、服用前に医師、薬剤師又は登録販売者に相談すること
〔2.の項目の記載に際し、十分な記載スペースがない場合には2´.を記載すること。〕
3. 服用に際しては、説明文書をよく読むこと
4. 直射日光の当たらない(湿気の少ない)涼しい所に(密栓して)保管すること
〔( )内は必要とする場合に記載すること。〕