四君子湯(しくんしとう)
本方は胃腸機能の甚し く衰えた虚證のものに用いる。食欲不振・嘔吐・腹鳴下痢し、脈は洪大にして無力、或は細小にして頻数、腹力は一体に乏しく、心下に力がない。痿白の兆が あって、言語力がなく、四肢倦怠するものを目標とする。本方中の人参は諸臓器の機能を盛んにし、朮は茯苓と共に胃内の停内を去り、かつ胃の機能を助け、甘 草は諸薬を調和し、また胃の活動を盛んにする。
以上の目標に従って胃腸虚弱症・慢性腹膜炎・嘔吐・下痢・食欲不振・諸出血・遺尿・半身不随等に応用される。また種々の加減方として広く使用される。
『漢方精撰百八方』
101.〔四君子湯〕(しくんしとう) 〔出典〕和剤局方
〔処方〕人参、朮、茯苓 各4.0 甘草、生姜 各2.0 大棗3.0
〔目標〕胃腸の消化機能がひどく衰え、その結果いろいろな症状を呈するものである。
食欲がなく、少しものを食べるとすぐ胃が張って苦しくなり、顔色が蒼く、痩せて体重が少しも増えず、手足がだるく、疲れ易く、精気に乏しく、言語に力がない。
また、ときには悪心、嘔吐、下痢、腹鳴などがあり、脈は小さく、あるいは細くて弱いか、大きくて力がない。腹部は、軟弱無力で心下部に振水音をみとめるか、あるいは、腹筋が少なく、腹壁が薄くて力がない。
〔かんどころ〕痩せて顔色が悪く、胃腸の消化機能が衰えているもの。腹部の緊張が弱く、振水音がある。食後、手足がだるく、ねむくなる。
〔応用〕胃腸虚弱症、胃潰瘍、慢性胃炎、萎縮性胃炎、胃アトニー症、胃下垂症、痔核、脱肛など
〔治験〕現在59才の婦人、昭和35年秋から1年半、父が治療したが、余り神経質で手に負えず、神経科をやった私にまかされた。 既往に、肺結核、腎盂炎、チフス、猩紅熱などにかかったことがあり、昭和30年頃月経が閉止した。その頃からひどく痩せ、胸がつまったり、悪寒したりのぼせたりし、灸をしたら肩が凝り、夜眠れず、時々胃が張り、口がにがく、舌が白く、からだがだるいという。 既に、父が用いた処方は、補中益気湯、桂枝湯の加味方種々、安中散などであった。しかし、処方を変えるたびに、かえって訴えが増えてどうにもならないという。 私の初診は37年5月末で、その時の訴えは、疲れ易く、夜眠れない。疲れると下痢をし、腹が張る。気持ちの悪い汗が出るともいう。 患者は痩せて、骨と皮のような婦人。しかも、わずかについている筋肉が、軟弱で緊張が弱い。脈は浮細遅、顔色はわるく、眼結膜も蒼白で、貧血状である。腹部はぺしゃんこに凹み、両側の腹直筋だけがつっぱてちて、臍の上に動悸が亢進し、みぞおちに振水音がはっきりと聞こえる。私は、この患者に、四君子湯加附子(1.0)を与えた。はじめは心配したが、「こんどの薬はなんともありません」といわれて安心し、ずっとその処方を用い、次第に元気になって、食事もおいしいというようになった。
山田光胤
『漢方薬の実際知識』 東丈夫・村上光太郎著 東洋経済新報社 刊
7 裏証(りしょう)Ⅰ
虚弱な体質者で、消化機能が衰え、心下部の痞えを訴えるも
の、また消化機能の衰退によって起こる各種の疾患に用いられる。建中湯類、裏証Ⅰ、
裏証Ⅱは、いずれも裏虚の場合に用いられるが、建中湯類は、特に中焦が虚したもの、裏証Ⅰは、特に消化機能が衰えたもの、裏証Ⅱは、新陳代謝機能が衰えた
ものに用いられる。
裏証Ⅰの中で、柴胡桂枝湯加牡蠣茴香(さいこけいしとうかぼれいういきょう)・安中散(あんちゅうさん)は気の動揺があり、神経質の傾向を呈する。半夏白朮天麻湯(はんげびゃくじゅつてんまとう)・呉茱萸湯(ごしゅゆとう)は、水の上逆による頭痛、嘔吐に用いる。
3 四君子湯(しくんしとう) (和剤局方)
〔用法及び用量〕 湯3 四君子湯(しくんしとう) (和剤局方)
〔人参(にんじん)、朮(じゅつ)、茯苓(ぶくりょう)各四、甘草(かんぞう)一・五〕
本
方は、一般には、大棗(たいそう)、生姜(しょうきょう)各一・五を加えて用いられているもので、胃部の虚弱(胃腸の消化機能の低下)と貧
血に用いられる。したがって、悪心、嘔吐、顔面蒼白(貧血)、食欲不振、胃内停水、腹鳴、下痢、四肢倦怠感などを目標とする。また、本方證には、下部出血
を伴うことがある。本方は、いちおう陽証体質に属する薬方であるが、本方の茯苓を乾姜にかえれば、陰証の人参湯(後出、裏証Ⅱの項参照)となるもので、
もっとも陰証に近い薬方である。
〔応用〕
つぎに示すような疾患に、四君子湯證を呈するものが多い。
一 胃腸虚弱、胃下垂症、胃アトニー症、胃カタルその他の胃腸系疾患。
一 遺尿、夜尿症その他の泌尿器系疾患。
一 そのほか、半身不髄、痔疾、脱肛、虚証の出血など。
『一般用漢方処方の手引き』 厚生省薬務局 監修 薬業事報社
〔成分及び分量〕 人参4.0, 朮4.0, 茯苓4.0, 甘草1~2, 生姜3~4, 大棗1~2『一般用漢方処方の手引き』 厚生省薬務局 監修 薬業事報社
〔効能又は効果〕 やせて顔色が悪くて,食欲がなく,つかれやすいものの次の諸症:胃腸虚弱,慢性胃炎,胃のもたれ,嘔吐,下痢
〔効能又は効果〕 和剤局方
古方の人参湯の類似方,人参湯より乾姜を去り茯苓を加えた処方である。一般的には生姜,大棗を加えて用いることが多い。胃腸虚弱で貧血の傾向があって元気の衰えたものに用いる基本の処方である。ただし胃腸虚弱の傾向があっても,顔色が赤かったり,また本方を服用して上衝の気味のあるものは服薬を中止する方がよい。
生薬名 参考文献名 |
人参 | 朮 | 白朮 | 茯苓 | 甘草 | 生姜 | 乾生姜 | 大棗 |
処方分量集 | 4 | 4 | - | 4 | 1 | 1 | - | 1 |
診療の実際 | 4 | 4 | - | 4 | 1.5 | 1.5 | - | 1.5 |
診療医典 注1 | 4 | 4 | - | 4 | 1.5 | 1.5 | - | 1.5 |
症候別治療 | 4 | - | 4 | 4 | 1.5 | 1.5 | - | 1.5 |
処方解説 注2 | 4 | 4 | - | 4 | 1.5 | - | 0.5~1 | 1 |
後世要方解説 注3 | 4 | - | 4 | 4 | 1 | 1 | - | 1 |
漢方百話 | 4 | - | 4 | 4 | 1 | - | - | - |
応用の実際 | 4 | 4 | - | 4 | 1.5 | 1.5 | - | 1.5 |
明解処方 | 4 | 4 | - | 4 | 1.5 | 1.5 | - | 1.5 |
漢方処方集 | 3 | - | 3 | 4 | 1.5 | 1.5 | - | 1.5 |
漢方医学 | 4 | - | 4 | 4 | 1.5 | 1.5 | - | 1.5 |
精撰百八方 注4 | 4 | 4 | - | 4 | 2 | 2 | ||
成人病の漢方療法 | 4 | 4 | - | 4 | 2 | 2 | - | 2 |
注1 胃腸示腸機能のはなはだしく衰えた虚証のものに用いる。食欲不振,嘔吐,腹鳴下痢し,脈は洪大にして無力,あるいは細小にして頻数,腹力は一体に乏しく,心下に力がない。顔色痿白の兆があって,言語に力がなく,四肢倦怠するものを目標とする。
注2 元気の衰えたもの,胃腸の虚弱と貧血を目標とし,種々の疾患に用いる。脈は軟弱,腹証も弛緩性,アトニー性で軟弱である。胃内停水を認め,食欲不振,全体に元気の衰えたものを目標とする。古人は貧血気味で顔色蒼白,言語に力がなく,手足倦怠で,脈に力がないという五つの症があれば,四君子湯の目標がそろっているとした。
注3 本方は諸病,極度の全身衰弱をきたした場合,とくに胃腸虚弱によって食欲が全く衰え,あるいは嘔吐して食が入らず脈・腹ともに虚弱のものに用いるのである。気虚とは元気の虚弱の意であり,また胃気の衰弱無力を意味するものである。
注4 痩せて顔色がわるく,胃腸の消化機能が衰えているもの。腹部の緊張が弱く,振水音がある。食後,手足がたるく,ねむくなる。
【一般用漢方製剤承認基準】
参苓白朮散
〔成分・分量〕
人参1.5-3、山薬1.2-4、白朮1.5-4、茯苓1.5-4、薏苡仁0.8-8、扁豆1-4、蓮肉0.8-4、桔梗0.8-2.5、縮砂0.8-2、甘草0.8-2
〔用法・用量〕
(1)散:1回1.5-2g 1日3回
(2)湯
〔効能・効果〕
体力虚弱で、胃腸が弱く、痩せて顔色が悪く、食欲がなく下痢が続く傾向があるものの次の諸症:
食欲不振、慢性下痢、病後の体力低下、疲労倦怠、消化不良、慢性胃腸炎
【添付文書等に記載すべき事項】
してはいけないこと
(守らないと現在の症状が悪化したり、副作用が起こりやすくなる)
1.次の人は服用しないこと
生後3ヵ月未満の乳児。
〔生後3ヵ月未満の用法がある製剤に記載すること。〕
相談すること
1.次の人は服用前に医師、薬剤師又は登録販売者に相談すること
(1)医師の治療を受けている人。
(2)妊婦又は妊娠していると思われる人。
(3)高齢者。
〔1日最大配合量が甘草として1g以上(エキス剤については原生薬に換算して1g以上)含有する製剤に記載すること。〕
(4)次の症状のある人。
むくみ
〔1日最大配合量が甘草として1g以上(エキス剤については原生薬に換算して1g以上)含有する製剤に記載すること。〕
(5)次の診断を受けた人。
高血圧、心臓病、腎臓病
〔1日最大配合量が甘草として1g以上(エキス剤については原生薬に換算して1g以上)含有する製剤に記載すること。〕
2.服用後、次の症状があらわれた場合は副作用の可能性があるので、直ちに服用を中止し、この文書を持って医師、薬剤師又は登録販売者に相談すること
関係部位 | 症状 |
皮膚 | 発疹・発赤、かゆみ |
まれに下記の重篤な症状が起こることがある。その場合は直ちに医師の診療を受けること。
症状の名称 | 症状 |
偽アルドステロン症、 ミオパチー | 手足のだるさ、しびれ、つっぱり感やこわばりに加えて、脱力感、筋肉痛があらわれ、徐々に強くなる。 |
〔1日最大配合量が甘草として1g以上(エキス剤については原生薬に換算して1g以上)含有する製剤に記載すること。〕
3.1ヵ月位服用しても症状がよくならない場合は服用を中止し、この文書を持って医師、薬
剤師又は登録販売者に相談すること
4.長期連用する場合には、医師、薬剤師又は登録販売者に相談すること
〔1日最大配合量が甘草として1g以上(エキス剤については原生薬に換算して1g以上)含有する製剤に記載すること。〕
〔用法及び用量に関連する注意として、用法及び用量の項目に続けて以下を記載すること。〕
(1)小児に服用させる場合には、保護者の指導監督のもとに服用させること。
〔小児の用法及び用量がある場合に記載すること。〕
(2)〔小児の用法がある場合、剤形により、次に該当する場合には、そのいずれかを記載す
ること。〕
1)3歳以上の幼児に服用させる場合には、薬剤がのどにつかえることのないよう、よく
注意すること。
〔5歳未満の幼児の用法がある錠剤・丸剤の場合に記載すること。〕
2)幼児に服用させる場合には、薬剤がのどにつかえることのないよう、よく注意すること。
〔3歳未満の用法及び用量を有する丸剤の場合に記載すること。〕
3)1歳未満の乳児には、医師の診療を受けさせることを優先し、やむを得ない場合にの
み服用させること。
〔カプセル剤及び錠剤・丸剤以外の製剤の場合に記載すること。なお、生後3ヵ月未満の用法がある製剤の場合、「生後3ヵ月未満の乳児」を してはいけないこと に記載し、用法及び用量欄には記載しないこと。〕
保管及び取扱い上の注意
(1) 直射日光の当たらない(湿気の少ない)涼しい所に(密栓して)保管すること。
〔( )内は必要とする場合に記載すること。〕
(2)小児の手の届かない所に保管すること。
(3)他の容器に入れ替えないこと。(誤用の原因になったり品質が変わる。)
〔容器等の個々に至適表示がなされていて、誤用のおそれのない場合には記載しなくてもよい。〕
【外部の容器又は外部の被包に記載すべき事項】
注意
1.次の人は服用しないこと
生後3ヵ月未満の乳児。
〔生後3ヵ月未満の用法がある製剤に記載すること。〕
2.次の人は服用前に医師、薬剤師又は登録販売者に相談すること
(1)医師の治療を受けている人。
(2)妊婦又は妊娠していると思われる人。
(3)高齢者。
〔1日最大配合量が甘草として1g以上(エキス剤については原生薬に換算して1g
以上)含有する製剤に記載すること。〕
(4)次の症状のある人。
むくみ
〔1日最大配合量が甘草として1g以上(エキス剤については原生薬に換算して1g以上)含有する製剤に記載すること。〕
(5)次の診断を受けた人。
高血圧、心臓病、腎臓病
〔1日最大配合量が甘草として1g以上(エキス剤については原生薬に換算して1g以上)含有する製剤に記載すること。〕
2´.服用が適さない場合があるので、服用前に医師、薬剤師又は登録販売者に相談すること
〔2.の項目の記載に際し、十分な記載スペースがない場合には2´.を記載すること。〕
3.服用に際しては、説明文書をよく読むこと
4.直射日光の当たらない(湿気の少ない)涼しい所に(密栓して)保管すること
〔( )内は必要とする場合に記載すること。〕
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