健康情報: 小建中湯(しょうけんちゅうとう) の 効能・効果 と 副作用

2012年4月15日日曜日

小建中湯(しょうけんちゅうとう) の 効能・効果 と 副作用

漢方診療の實際 大塚敬節 矢数道明 清水藤太郎共著 南山堂刊
小建中湯(しょうけんちゅうとう)
一般に本方は太陰病また は脾虚の證に用いられる。即ち患者は身体虚弱で、疲労し易く、腹壁が薄く腹直筋は腹表に浮んで、拘攣している場合が多い。弦の場合もあり、芤の場合もあ る。症状としては、屡々腹痛・心悸亢進・盗汗・衂血・夢精・手足の煩熱・四肢の倦怠疼痛感・口内乾燥等を訴え、小便は頻数で量も多い。ただし急性熱性病の 経過中に此方を用うべき場合があり、その際には以上の腹證に拘泥せずに用いてよい。本方は桂枝・生姜・大棗・芍薬・甘草・膠飴の六味から成り、桂枝湯の 芍薬を増量して、膠飴を加えたもので、一種の磁養強壮剤である。膠飴・大棗は磁養強壮の効があるだけでなく、甘草と伍して急迫症状を緩和し、更にこれに芍 薬を配する時は、筋の拘攣を治する効がある。また桂枝は甘草と伍して、気の上逆を下し、心悸亢進を鎮める。以上に更に生姜を配すると薬を胃に受入れ易くさ せかつ吸収を促す効がある。小建中湯は嘔吐のある場合及び急性炎症症状の激しい場合には用いてはならない。小健中湯は応用範囲が広く、殊に小児に用いる場 合が多い。所謂虚弱児童・夜尿症・夜啼症・慢性腹膜炎の軽症、小児の風邪・麻疹・肺炎等の経過中に、急に腹痛を訴える場合等に用いられる。また慢性腹膜炎 の軽症、肺結核で経過の緩慢な場合、カリエス・関節炎・神経衰弱症等に応用する。時にフリクテン性結膜炎・乳児のヘルニア・動脈硬化症で眼底出血の徴ある 者に用いて効を得たことがある。黄耆健中湯は此方に黄耆を加えた方剤で小建中湯證に似て更に一段と虚弱の状が甚しい場合に用い、或は盗汗が止まず、或は腹 痛の甚しい場合、或は痔瘻・癰疽・慢性淋疾・慢性中耳炎・流注膿瘍・慢性潰瘍湯に応用することがある。
当帰建中湯は、小建中湯に当帰を加えた方 剤で、婦人の下腹痛・子宮出血・月経痛及び産後衰弱して下腹から腰背に引いて疼痛のある場合に用いられる。また男女を問わず、神経痛・腰痛・慢性腹膜炎等 にも応用する。当帰は増血・滋養・強壮・鎮痛の効がある。本方は小建中湯の膠飴を去って、当帰を加えたものであるが、衰弱の甚しい場合には、膠飴を加えて 用いる。
黄耆建中湯当帰建中湯とを合して帰耆建中湯と名づけて、運用することがある。


漢方精撰百八方
10. [方名] 小建中湯(しょうけんちゅうとう)
[出典] 傷寒論

[処方] 桂枝4.0 芍薬6.0 大棗4.0 甘草2.0 膠飴20.0 生姜

[目標] カゼなどの急性外因性疾患で、脈は軽くおさえると渋滞し、強くおさえると弦で弾力性の張りがない脈で、腹中急痛する者に本方が適する。弦は少陽の脈であるから本方の奏効しない場合には小柴胡湯を投与する。また動悸があって熱のある場合に本方が適する。
  気力ががなく、腹痛があり、動悸して鼻血を出したり、夢精したり、四肢が痛む,手足がほてる、口が乾く等の者に本方が適する。また小便が頻数で皮膚につやがない、また妊婦の腹痛の場合にも用いられる。

[かんどころ] 右の証の表現は複雑なようであるが、本方は一般に直腹筋拘急の腹証のあるものに応用すれば間違いない。

[応用] 小建中湯とは建中つまり胃腸を丈夫にする薬金で、胃腸の弱い人にはすべて応用される。殊に子供などで、とりとめて胃腸病でもないのに腹のしくしく痛むもの、便意を催してトイレに行くが通じがないまま出て来るとまた行きたくなるというようなのには本方をやればてきめんに効く。そのような子供は虚証の体質で疲れやすい。大人でも時々腹痛を訴えたりして癌ノイローゼになっているようなのに本方をやると簡単になおってしまう。

老婦人などで頻尿で外出も出来ないようなのに本方をやるとなおる場合が多い。
冷え性で夜も寝つけないという者に本方をやるとポカポカして良く眠れるようになる。
胃下垂は近頃は手術で胃を切除することをすすめられる場合が多いが、そんな場合本方をやるだけでなおってしまうものが多い。常習性下痢も本方でなおる。
胃潰瘍、十二指腸潰瘍で病院で胃切除を指示された者でも大低は本方をやるだけでその必要もなく治ってしまう。

  小児喘息は虚弱体質の子どもに多いものであるが、本方の腹証のある小児喘息ならば、本方をやるだけで治る場合が多いもので、麻黄の入った処方はむしろ用いない方がよい。
  カゼをひきやすい体質の人には平素から本方を運用しているとカゼをひかないようになる。
  黄耆建中湯で肋骨カリエスを手術せずに全治せしめた二例を経験している。
相見三郎著



漢方薬の実際知識 東丈夫・村上光太郎著 東洋経済新報社 刊
6 建中湯類(けんちゅうとうるい)
建中湯類は、桂枝湯からの変方として考えることもできるが、桂枝湯は、おもに表虚を、建中湯類は、おもに裏虚にをつかさどるので項を改めた。
建中湯類は、体全体が虚しているが、特に中焦(腹部)が虚し、疲労を訴えるものである。腹直筋の拘攣や蠕動亢進などを認めるが、腹部をおさえると底力のないものに用いられる。また、虚弱体質者の体質改善薬としても繁用される。
各薬方の説明
1 小建中湯(しょうけんちゅうとう)  (傷寒論、金匱要略)
〔桂枝(けいし)、生姜(しょうきょう)、大棗(たいそう)各四、芍薬(しゃくやく)六、甘草(かんぞう)二、膠飴(こうい)二〇〕
本方は、桂枝加芍薬湯(前出、表証の項参照)に膠飴を加えたもので、太陰病に用いられる。したがって、虚証体質者の貧血性の疲れや腹部の虚し たもの、すなわち、消化器系が虚しているものに用いられ、疲労性の諸症状を治す。本方證の腹部は、腹壁がうすき感じられ、表面に腹直筋が浮かんでひきつれ ているようにみえるものが多いが、軟弱なものもある。煩熱、心悸亢進(動悸、呼吸促迫)、のぼせ、めまい、盗汗、衂血、咽乾、腹痛、四肢の倦怠感、黄疸、 遺精、小便過多(回数、量ともに多い)、下痢(消化不良便)などを目標とする。ただし、本方は、悪心、嘔吐のある場合および急性炎症症状のはげしいものに は用いてはならない。
〔応用〕
つぎに示すような疾患に、小建中湯證を呈するものが多い。
一 夜尿症、頻尿、腎硬化症、腎臓結石、前立腺肥大症その他の泌尿器系疾患。
一 胃酸過多症、胃酸欠乏症、胃下垂症、胃アトニー症、胃潰瘍、胃癌、肋膜炎その他の消化器系疾患。
一 心臓弁膜症、動脈硬化症、高血圧症、低血圧症その他の循環器系疾患。
一 気管支喘息、肺結核、肺気腫その他の呼吸器系疾患。
一 神経衰弱、ノイローゼその他の精神、神経系疾患。
一 関節炎その他の運動器系疾患。
一 黄疸、急性肝炎、肝硬変、胆石症その他の肝臓、胆嚢の疾患。
一 フリクテン性結膜炎、眼瞼炎、眼底出血、眼科疾患。
一 鼻炎、衂血その他の鼻疾患。
一 そのほか、ヘルニヤ、痔、脱肛、直腸潰瘍、紫斑病、ルイレキ、アデノイド、カリエス、脊椎不全症、腺病質、脚気、遺精、疫痢、脱毛症など。 


《資料》よりよい漢方治療のために 増補改訂版 重要漢方処方解説口訣集 中日漢方研究会 
 37.小建中湯(しょうけんちゅうとう) 傷寒論
桂枝4.0 生姜4.0(乾1.0) 大棗6.0 芍薬6.0 甘草2.0
右方の如く煎じ滓を去り膠飴20.0を加え火に上せ煮沸すること五分間にて止め,之を温服す。
(金匱要略)
○夫男子平人脉大為労,極虚亦為労(宜本方) (虚労)
○男子平人,脉虚弱細微者,喜盗汗也(宜本方) (虚労)
○男子面色薄者,主渇及亡血,卒喘悸脉浮者,裏虚也(宜本方) (虚労)
○男子脉虚沈弦,無寒熱,短気裏急,小便不利,面色白時目瞑,兼衂,少腹満,此為労使之然(宜本方)(虚労)
○労之為病,其脈浮大,手足煩,春夏劇,秋冬瘥,陰寒精自出,皆為労得之(宜本方) (虚労)
○脈沈小遅名脱気,其人疾行則喘喝,手足逆寒,腹満甚則溏泄,食不消化也(宜本方) (虚労)
○虚労,裏急,悸,腹中痛,夢失精,四肢痠疼,手足煩熱,咽乾口燥本方主之

(傷寒論)
○傷寒,陽脉濇陰脉弦,法当腹中急痛,先与小建中湯,不差者,小柴胡湯主之(太湯中)




現代漢方治療の指針〉 薬学の友社
虚弱体質で疲労し易く,のぼせ,腹痛や動悸があり,冷え症で手足がほてり,排尿回数,尿量共に多いもの,本方は桂枝加芍薬湯に飴を加えたもので,腹直筋が異常に緊張した場合の腹痛に著効を示す。本方は小児を対象とする場合が多く,特に虚弱児の体質改善としてよく用いられ,扁桃肥大でしばしば再発するものによい。虚弱者の夜尿症には適するが,強健な小児には無効である。(越婢加朮湯の項参照)。虚弱体質の人や老人,涯牛の便秘で大黄剤で腹痛あるいは下痢の甚だしい場合には本方を試みるべきである。本方と大建中湯とは用途が類似するが,大建中湯適応症は腹中強く冷感を覚え,且つ腸の蠕動亢進を自覚し,腹痛,腹部膨満感,嘔吐を伴なうような症状に適するのに対し,本方の適応症状は前記症状より緩和で,また悪心,嘔吐が劇しい場合は本方は禁忌である。小柴胡湯との鑑別は小柴胡湯適応症に胸や脇腹に重苦しさがあるのに対し,本方適応症は腹痛や腹部の動悸などを訴え,前者に比べて更に虚弱な体質の人に適する。本方は高熱を伴なった急性症状には無効である。

 〈漢方処方解説シリーズ〉 今西伊一郎先生
本方は貧血,冷え症の虚弱な体質であるにかかわらず,のぼせや手足の熱感があるもの。あるいは神経質で胃腸が虚弱なものの,体質改善薬として,また前記疾患の治療に,しばしば繁用されている。
①体質改善 神経質で貧血冷え症,腺病質,胃腸無力症などの虚弱体質で,食物の好ききらいがあったり,栄養が身につかず病気にかかりやすい虚弱な体質に本方を連用させ識とすぐれた効果を発揮する。
②虚弱者の便秘 本方は自律神経系の失調を調整する作用があり,前記記載の虚弱な体質者や老人,乳幼児など大黄剤では腹痛や下痢がはなはだしいものに,よく適応する。
③小児夜尿症 神経質で虚弱な小児の夜尿症に用いられる。排尿回数,尿量ともに多いもので,夜中起こして排尿させた後に,また失禁すると訴えるものを目安に応用することが多い。
④ヘルニア 前述の神経質で虚弱なもののヘルニアに応用して,しばしば奇効を奏するが,その多くは,そけいヘルニアでかんとんヘルニアには無効である。
症状と処方鑑別 第①項の虚弱体質の改善には,本方と小柴胡湯が繁用される。本方は神経質で貧血冷え症の体質で,消化器系が弱く,小柴胡湯は呼吸器と消化器系が共い弱い点が目安となる。第③項の頻尿,夜尿症に貧血冷え症,排尿回数が多い点では当帰芍薬散と類似する。しかし,本方は胃競dのぼせて頭痛を訴え,冷え症ではあるが,時には四肢の熱感を自覚することが特徴的であり,当帰芍薬散は受尿回数は多いが,排尿量が少なく従って尿失禁の地図も,割合に小さいことなどを参考として確認するとよい。


漢方処方応用の実際〉 山田 光胤先生
○腹が急に激しく痛み,脈が渋,弦のもの,この痛みはひきすれるような痛みが多い。
○体力のない虚弱な人が,熱病にかかった初期,二~三日目ごろ,心悸亢進して身体が苦しいもの。
○身体が虚弱で疲れやすく,腹壁の筋肉が薄く腹直筋のみが拘攣し,あるいは腹が痛み,あるいは動悸がし,鼻出血があり,あるいは夢精,手足がだるい,手足が煩熱し,咽喉や口が乾燥し,尿の量や回数が増えるなどの症状を呈するもの。
○建中湯はその名の通り,中(体内)の機能を”うちたてる”のである。愚按口訣に「脾胃虚して(消化力が低下して兄:寒に中り,栄衛和せず(血行や代謝がうまくゆかず)腹中痛み,脈虚細なるもの傷寒,雑病ともこれを用う。」とあり,また「理中湯は脾胃の虚寒を治し,建中湯は栄衛の不和を調のう。故に霍乱吐瀉には理中湯,裏急,悸,衂,腹中痛み,失精,四肢痠痛,手足煩熱し咽乾,口燥等の証には建中湯なり。」と記してある。
○煩熱はホテリで,自覚的に熱感があり,且つ他覚的にも熱く触知されるもの。手足があつ苦しく蒲団の外へ出したがり,好んで冷たいものに触れたがる。
○方読弁解「脈数ならずして弦,腹痛拘急し,甘きを好むものによく応ず,この方桂枝芍薬を以て腹中を和し,脾胃を養い,急を緩む,膠飴,虚冷を補い,腹中に入って腹力を生じ,はりをつける効あり。」といっている。
○古家方則①小建中湯加当帰は久しく下血して顔色唇舌が紅沢を失い,あるいは眉梁骨より天庭に至って頭痛し,あるいは蝉が鳴くような耳鳴りのするものを治す。
②小建中湯 頭痛,鼻梁骨に係るもの,これ正陽徴少の痛みなり,此方によろし。
③小建中湯 大便通ぜず,腹状常の如く,あるいは一ヵ月あるいは三ヵ月あるいは一年に及ぶものによろし。
④積年の痔出血で口唇蒼白にして虚に至るもの,方中加当帰最もよきなり。
⑤舌上破れ,飲食すること能わず,患うること久しく諸薬験なきによろし。
⑥虚証にして多忘するもの(健忘症)。但し老人は治せず。

<針術秘要>
①年久しく四肢の関節痛みて腫れ,屈伸すること能わざるものを治す。方内に附子を加うべし。
②虚労および諸咳,白沫を吐し,盗汗出るものを治す。

<諸書の記載>
①産婦,手足煩熱,咽喉口燥,腹中拘攣のものは本方がよい。(処方筌蹄)
②下痢,赤白(血性・粘液便)急性慢性をとわずただ腹中大いに痛むものを治して神効あり。

<証治準縄>
③黄疸で,もし小便自利,腹中急痛などあれば男女に拘わらず本方を用いてよい。
④小建中湯,黄耆建中湯は陰虚の感冒や房事過多の上にかぜを引き,また,元来腎虚の上にかぜを引き,全身に熱感あって足が冷えるものに用いる。


漢方診療30年〉 大塚 敬節先生
○小建中湯は桂枝湯の芍薬の量を増して,これに膠飴を加えたものである。膠飴は米を蒸して麦芽で糖化して作ったあめである。
○建中は中を建立する意だと古人は言っている。中は中焦を指しているから,ここでは消化機能をさしている。
○小建中湯は桂枝湯や桂枝加芍薬湯に類似しているから,これらの用法を知っていることは,この薬方を応用するに役立つ。しかし小建中湯には,またそれ自身の証がある。
○小建中湯は体質の弱い人,殊に小児に多く用いられるが,平素丈夫な人でも,無理を重ねたりして,疲れているときには,小建中湯の証をあらわすことがある。だからやせているとか,血色が
わるいとかいうような,外観だけで証をきめてはならない。
○小建中湯証では,腹直筋が二本の棒の様に,臍の両側で,突っぱっている場合もあるが,大建中湯の腹証に似ていて,腹一体が軟弱無力で,腹の蠕動運動を腹壁を通じて望見できる場合もある。
○幼児が風邪,麻疹,肺炎などにかかったとき,とつぜん腹痛を訴えることがあり,この場合に小建中湯を用いてよいか,小柴胡湯を用いてよいか,きめかねることがある。このような時にはまず小建中湯を用いてみるとよい。
○結核性腹膜炎の軽症で,腹水がない場合に,小建中湯の証が多い。便秘しているときに,これで便通のつくことがある。
○虚弱児童で衂血のよく出栽ものに小建中湯の証がある。紫斑病の衂血をこれで止めたこともある。
○冷え症で小便が近くて量が多く,疲れやすいものにもよい。
○小建中湯の証と桂枝加竜骨牡蛎湯の証とがよく似ていることがある。ともに遺精したり,手足がだるかったり,口がはしゃいだりする場合に用いる。


漢方診療の実際〉 大塚,矢数,清水 三先生
一般に本方は太陰病または脾虚の証に用いられる。即ち患者は身体虚弱で疲労し易く,腹壁が薄く腹直筋は腹表に浮んで拘攣している場合が多い。脈は弦の場合もあり,芤の場合もある。症状としては,屡々腹痛,心悸亢進,盗汗,衂血,夢精,手足の煩熱,四肢の倦怠疼痛感,口内乾燥等を訴え,小便は頻数で量も多い。ただし急性熱性病の経過中に此方を用うべき場合があり,その際には以上の腹証に拘泥せずに用いてよい。本方は桂枝,生姜,大棗,芍薬,甘草,膠飴の六味から成り,桂枝湯の芍薬を増量して,膠飴を加えたもので,一種の磁養強壮剤である。膠飴,大棗は磁養強壮の効があるだけでなく,甘草と伍して急迫症状を緩和し,更にこれに芍薬を配する時は,筋の拘攣を治する効がある。また桂枝は甘草と伍して,気の上逆を下し,心悸亢進を鎮める。以上に更に生姜を配すると薬を胃に受入れ易くさせかつ吸収を促す効がある。小建中湯は嘔吐のある場合及び急性炎症症状の激しい場合には用いてはならない。小健中湯は応用範囲が広く,殊に小児に用いる場合が多い。所謂虚弱児童,夜尿症,夜啼症,慢性腹膜炎の軽症,小児の風邪,麻疹,肺炎等の経過中に,急に腹痛を訴える場合等に用いられる。また慢性腹膜炎の軽症,肺結核で経過の緩慢な場合,カリエス,関節炎,神経衰弱症等に応用する。時にフリクテン性結膜炎,乳児のヘルニア,動脈硬化症で眼底出血の徴ある者に用いて効を得たことがある。黄耆建中湯は此方に黄耆を加えた方剤で,小建中湯証に似て更に一段と虚弱の状が甚しい場合に用い,或は盗汗が止まず,或は腹痛の甚しい場合,或は痔瘻,癰疽,慢性淋疾,慢性中耳炎,流注膿瘍,慢性潰瘍湯に応用することがある。当帰建中湯は,小建中湯に当帰を加えた方剤で,婦人の下腹痛,子宮出血,月経痛及び産後衰弱して下腹から腰背に引いて疼痛のある場合に用いられる。また男女を問わず,神経痛,腰痛,慢性腹膜炎等にも応用する。当帰は増血,滋養,強壮,鎮痛の効がある。本方は小建中湯の膠飴を去って,当帰を加えたものであるが,衰弱の甚しい場合には,膠飴を加えて用いる。黄耆建中湯当帰建中湯とを合して帰耆建中湯と名づけて,運用することがある。


漢方処方解説〉 矢数 道明先生
虚証の体質で,いわゆる太陰病に属し,脾胃(消化器系)の虚弱なものに多く,痛や急迫症状をともなうものである。小児に用いることが多い。(中略)本方を用いる目標の第一は全身の疲労状態,精力の虚乏である。脈は大であるか,又は沈微細のこともあり,腹痛のあるときは弦又は芤の場合もある。腹証としては腹直筋が表面に浮んで拘攣していることが多い。または軟弱のこともある。そしてしばしば腹痛,心悸亢進,衂血,盗汗,手足の煩熱,四肢倦怠,夢精,口内乾燥,小便頻数等がある。


漢方入門講座〉 竜野 一雄先生
(構成)桂枝加芍薬湯より甘草が多く,水飴が入っているので裏虚の程度はずっと顕著になり,全身的な虚労状態を呈する。

運用 1. 全身の疲労状態
之を虚労というが,疲労状態に於て発生した諸症,疲労性疾患などをその中に含めている。疲労状態に対して使う処方は小建中湯以外にもかなり多いが,小建中湯の目標になるのは次の如き場合である。「それ男子平人,脉大なるを労となす。極虚も亦労となす。」(金匱要略虚労)は脉でこれを知る方法を要記したもので,大の脉は熱によって起るべきはずなのに熱のない平人がその脉を呈するのは矛盾であって,之は労のためだというのである。極虚の脉とは沈微細小等を指す。「男子面色薄き者は渇及び亡血を主る。卒に喘悸し,脉浮の者は裏虚なり。」(同上)
  色艶ノ悪い者は渇や貧血があり,急に息切れがしたり,動気がしたりする。それは虚労だが,そのうち,脉浮の者は虚労だというのである。小建中湯の適応症にはこれらの症状を呈するものが頗る多い。喘息にも使うことが出来る。「男子脉虚沈弦。寒熱無く,短気裏急,小便不利,面色白く時に目瞑し,衂を兼ね,少腹満のものはこれ労の然らしむるなり。」(同上)息がせまり,腹のすじがつれ,めまい,鼻血,下腹部膨満などは小建中湯証にしばしば見る症状だ。目瞑を転用してフリクテン性結膜炎,眼底出血に本方を使う。
「労の病たる其脉浮大,手足煩,春夏に劇しく秋冬は瘥ゆ。陰こごえ,精自ら出で,酸削して行くこと能わず」(同上)夏まけ,脚気と称せられる症候群は手足がほてりだるく足の力が弱る。また陰部が冷たくなり遺精する。この二ツの症候群は別々に現われることも同時に相伴うこともある。遺精の方は,小建中湯でも治すがむしろ別の処方を使うことが多い。精自出は夜尿症に転用する。
「男子平人,脉虚弱細微の者はしばしば盗汗す。」(同上)黄耆を入れなくとも,小建中湯を盗汗に使うことがある。
「脉沈小遅を脱気と名づく,其人疾行すれば則ち喘喝し,手足逆寒,腹満甚しきときは則ち溏泄す。食消化せざるなり。」(同上前)半は前述した所と重複する。 後半は恰も桂枝加芍薬湯に似て,一層虚しているからである。
「人,年五六十其病脉大の者は痺背を俠みて行る。若しくは腸鳴。馬刀俠癭の者は皆労して之を得となす。」(同上)痺とは痛みと知覚麻痺を含んでいる。それが背の両側に起るの意で,実際小建中湯を背痛に使うことがあ識。馬刀とは腋下腺腫張,俠癭は頸腺腫張で,年令から見ると悪性腫瘍だろうが,之を結核性,白血病等の場合に応用しても宜い。実際にるいれきや,バンチ氏病に小建中湯を用いた例を私は持っている。
以上の諸条は凡て小建中湯の適応証になるが,しかし他の処方(例えば当帰建中湯黄耆建中湯桂枝加竜骨牡蛎湯八味丸等)の適応証をもその中に含んでいるから,個々の場合に具体的にどの処方が適応するかは選んで行かねばならぬ。なお以上の諸条を要約して,特に小建中湯証になるものを挙げると,「虚労,裏急,悸,衂,腹中痛み,夢に失精し,四肢痠疼,手足煩熱,咽乾口燥するものは小建中湯之を主る。」(同上)となる。裏急は腹部がつれるとの意で,つれるのが腹筋であっても腸管であってもいいのだから,古方家は之を直腹筋が緊張するものと解してそれを小建中湯の大切な腹証にしているが,実際には腹直筋だけとは限らない。また反対に腹壁が軟弱なこともある。腸管にとれば腹中で何かつれる感じとしてもよく,そのつれるのが腸管の蠕動が急に昂るために起ったもの或は部分的な痙攣であってもいいわけだ。悸は自覚的な搏動亢進感で他覚的に認められるのは動と表現している。ただ悸といっても心悸とかの部位を指定していないから,何処の悸であっても宜いことになる。腹中痛みの中は桂枝加芍薬湯の腹痛に対して病む所が深いことを表現したと思われるが,また別に解釈すると腹の中央とも取れ,側腹部や下腹部ではなく,大体臍を中心とし,或は直腹筋辺ということになる。臨床的にもそういう場合が多い。また腹中と訓むと腹全体と取れ,臨床的にも部位を定めず,腹のあちこちが痛いのに小建中湯の適応証になるものがある。手足煩熱はほてって苦になるの意,咽乾は他覚的に水分が欠乏している状態,口燥は自覚的にかわいてはしゃぐ感を云う。なおこの条を普衍して千金方には「男女積冷気滞,或は大病後常に復せざるに因って四肢苦重,骨肉痠疼を苦しみ吸々として少気し,行動すれば喘乏し,胸満気急,腰背強痛,心中虚悸,咽乾唇燥,面体白色,或は飲食に味無く,脇肋腹張す。五臓の気竭くときは則ち常に復すべきこと難し,(後略)」としてある。これによって上の文を補足すべきであろう。前述の各症状は虚労の脉を呈し,虚労の症状を現わす場合はその症状が多種多様であろうとも小建中湯証になり得るものである。虚労の状態を呈して小建中湯の適応症になるのは過労やスポーツ後の疲労,神経衰弱(胃腸性,生殖老性)夏まけ,脚気,などで全身倦怠疲労感,息切れ,動悸,手足がほてり,だるいもの。神経性心悸亢進症,腺病質,扁桃腺肥大症,アデノイド,肺門リンパ腺炎,るいれき等で微熱を出したり,或は全身の疲労感を主とするもの,肺尖カタル肺浸潤の軽症で疲労,倦怠,微熱,盗汗,肩凝り,軽咳するもの,脊椎カリエスで微熱,背腰痛のある初期,結核性腹膜炎で腹満硬結があり,全身的及び脉虚状著明のもの,鼻血,脱毛症などで他に所見なく虚労性のものなどに頻用する。虚労で類証鑑別を要するのは,
当帰建中湯 症状は主に下腹部腰背部の疼痛として現われ,また子宮出血,痔出血,婦人科疾患等下部の循環障害に多く用いる。
八味丸は下腹部に限局し,小建中湯は上腹部又は腹全体に亘る。口渇,小便自利は共通するが,八味丸の方が遥かに顕著である。
桂枝加竜骨牡蛎湯 下腹部に所見が多く腹緊張も小建中湯は上腹部,桂枝加竜骨牡蛎湯は下腹部に見られる。
桂枝加竜骨牡蛎湯には腹動がある。
小柴胡湯 実に属し胸脇にかかり,小建中湯は虚に属し,腹部を主とする。
人族湯は胃腸のアトニー状態のみならず,停水や冷える症状が著明である。
真武湯は小建中湯より虚状顕著で且つ停水症状を伴う。

運用 2. 虚証の腹痛に使う。
前に引いた条文にも腹痛はあったが更に之を補うと「婦人腹中痛むもの」(金匱要略婦人雑病)婦人とは限らず女性的体質と解すれば一般にも通用される。「傷寒,陽脈濇,陰脉弦なるは法当に腹中急痛すべし,先づ小建中湯を与へ,差えざるものは小柴胡湯を与へて之を主る。」(傷寒論太陽病中篇)は小柴胡湯の所で既に述べた通りで,虚証の腹中痛に用いる。臨床的には胃アトニー,胃下垂,胃酸過多症,胃潰瘍,胃癌等で全身的疲労性を主にして食欲不振或は反対に食欲亢進し過ぎるもの,胃痛を兼ねるものに使う。胆石痛で虚証のもの,即ち殺弱く,心下部軟弱,時には腹直筋だけが著明に緊張しているが,押すと底力のないものに使う。また原因不明の腹痛や小児の腹痛などで顔d啼出するもの。夜啼症にも宜い。

運用 3. 虚証の黄疸
「男子の黄,小便自利するは当に虚労の小建中湯を与ふべし。」(金匱要略黄疸)この場合の黄疸は脾虚によって起ったものである。他に著明な状態や症状がなく,脉弱,小便自利する虚労性の各種黄疸に使う。茵蔯蒿湯の黄疸は実証だし,茵陳五苓散の黄疸は小便不利である。

運用 4. 虚証の消化不良
前に引いた「脉沈小遅なるを脱気と名づく。」云々の条に「腹満甚しきときは則ち溏泄す。食消化さぜるなり。」によって消化不良に本方を使う機会がある。なお,傷寒論太陽病に「傷寒脉浮にして緩,手足自ら温き者は繫りて太陰に在り(中略)七八日至り,暴煩下痢日に十余行すと雖も必ず自ら止む。脾家実し,腐穢当に去るべきを以ての故なり。」とあり脾虚によって消化不良性の腐穢が下るとしている。それ故普通の下痢ではなく特に消化不良便の出るような場合,殊に腹満を伴う場合に使う。例えば消化不良,醗酵性下痢,疫痢などが適応証になる。消化不良便に対しては四逆湯の完穀下痢というものがあって鑑別を要する。腹満は共通することがあるが,四逆湯は手足が冷え,



※痠痛(さんつう):だるい痛み又は、重だるい  痠は「だるい」の意味
※動気? 動悸の誤植か?
※(同上前)半? (同上)前半の誤植か?
※普衍? 敷衍のことか?