42.辛夷清肺湯(しんいせいはいとう) 外科正宗
辛夷2.0 枇杷葉2.0 知母3.0 百合3.0 黄芩3.0 山梔3.0 麦門冬5.0 石膏5.0 升麻0.5~1.0
〈現代漢方治療の指針〉 薬学の友社
局部に熱感や炎症症状があって,痛みや鼻閉を伴うもの。
本方はいわゆる「ちくのう症」の内服薬として知られているもので,葛根湯,葛根湯加辛夷川芎,伯州散などについで応用されている。本方応用の目安は,副鼻腔炎や鼻茸などに関係する次の諸疾患を,対象にすると使いやすい。
<鼻茸> 慢性鼻炎や副鼻腔炎などの分泌物に刺激されて続発する,鼻粘膜性炎症性のもので,鼻閉や臭覚障害を訴えるもの。
<副鼻腔ムコツレ> 慢性副鼻腔炎の経過中に,排膿孔が持続的に閉塞し,洞腔に粘液性の隆起物があるもの。
<後鼻孔鼻茸> 後鼻腔に下垂し鼻閉塞を訴えるもの。
<膿胸> 胸腔に膿が貯溜し,熱状,胸痛などがあって呼気に臭気を伴うもの。
〈外科正宗〉 陳 実 功先生
肺熱,鼻内瘜肉,初め榴子(ざくろの実)の如く,日後漸く大きく,孔竅を塞ぎ,気宜通ぜざるものを治す。
〈勿誤方函口訣〉 浅田 宗伯先生
此方は脳漏鼻淵鼻中瘜肉或鼻不聞香臭等の症凡て熱毒に属する者に用て効あり。脳漏鼻淵は大抵葛根湯加川芎大黄或は頭風神方に化毒丸を兼用して治すれども熱毒あり。疼痛甚しき者は此方に非れば治すること能はず。
※副鼻腔ムコツレ:副鼻腔粘液嚢胞(ふくびくうねんえきのうほう)
※瘜肉(こくみ): ポリープ。贅肉で瘤や疣の類。
※鼻内瘜肉:(ポリープ)鼻茸。
『一般用漢方処方の手引き』 厚生省薬務局 監修 薬業時報社 刊
〔成分及び分量〕 辛夷2~3,知母3.0,百合3.0,黄芩3.0,山梔子1.5~3,麦門冬5~6,石膏5~6,升麻1~1.5,枇杷葉1~3
〔用法及び用量〕 湯
〔用法及び用量〕 湯
〔効能又は効果〕 鼻づまり,慢性鼻炎,蓄膿症
参考文献名 |
生薬名
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辛夷
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知母
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百合
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黄芩
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山梔子
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麦門冬
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石膏
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升麻
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枇杷葉
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処方分量集 | 2.0 | 3.0 | 3.0 | 3.0 | 3.0 | 5.0 | 5.0 | 0.5~1 | 2.0 | |
診療の実際 | 2.0 | 3.0 | 3.0 | 3.0 | 3.0 | 5.0 | 5.0 | 1.0 | 2.0 | |
診療医典 | 2.0 | 3.0 | 3.0 | 3.0 | 3.0 | 5.0 | 5.0 | 1.0 | 2.0 | |
処方解説 | 注1 | 2.0 | 3.0 | 3.0 | 3.0 | 3.0 | 5.0 | 5.0 | 1.0 | 2.0 |
漢方処方集 | 注2 | 3.0 | 3.0 | 3.0 | 3.0 | 1.5 | 6.0 | 6.0 | 1.5 | 1.0 |
漢方あれこれ | 注3 | 2.0 | 3.0 | 3.0 | 3.0 | 3.0 | 5.0 | 5.0 | 1.0 | 3.0 |
応用の実際 |
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明解処方 |
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注1 肺熱,鼻内瘜肉,初めざくろの実の如く,日後漸く大きく,孔竅を塞ぎ,気宣通せざるものを治す。鼻閉塞,鼻茸,肥厚性鼻炎,上顎洞化膿症などに応用される。他の処方で効かないとき試みるとよい。
注2 濃い鼻汁が出る熱性の蓄膿症,肥厚性鼻炎。
注3 濃がたくさんたまって,口をあけただけで膿がみえるというような症状。
参考 浅田宗伯の勿誤薬室方函によると「肺熱,鼻内瘜肉,初めは榴子の如く,日後漸く大きく,孔竅を閉塞し,気の室通せざるを治す。」
勿誤薬室方函口訣によると
「此方は脳漏鼻淵,鼻中瘜肉,或は鼻香臭を聞かざる等の症,すべて熱毒に属する者に用いて効あり。脳漏鼻淵は大抵葛根湯加川芎大黄,或は頭風神方に化毒丸を兼用して治すれども,熱毒あり疼痛甚しき者は,此方にあらざれば治すること能はず。」
『改訂版 漢方薬の選び方・使い方―健康保険が使える』 木下繁太郎著 土屋書店刊
辛夷清肺湯(しんいせいはいとう)
症状
濃い鼻汁が出る熱性の蓄膿症や慢性鼻炎に用いられるもので、濃厚や鼻汁が出て、鼻が詰まり、熱を持って頭痛がするような場合に用います。
①濃い鼻汁。
②鼻閉。
③頭痛。
腹脈舌 不定
適応
鼻閉、蓄膿症、慢性鼻炎、肥厚性鼻炎、鼻茸(はなたけ)、上顎洞化脳症。
【処方】 辛夷、枇杷葉、各2.0g。 知母、百合、黄芩、山梔子、 各3.0g。
麦門冬、石膏 各5.0g。 升麻1.0g。
葛根湯加川芎辛夷(36頁)も同様に蓄膿に用いますが、これは割合に初期で軽く、頭痛、肩こりを伴うものに用い、本方はこじれて治りにくいものに用います。
健 ク・小・サ・タ・ツ(外科正宗)(げかせいしゅう)
※上顎洞化脳症は、上顎洞化膿症の誤植と思われる。
『臨床応用 漢方処方解説』 矢数 道明著 創元社刊
56 辛夷清肺湯(しんいせいはいとう) 〔外科正宗〕
新感・枇杷葉各二・〇 知母・百合・黄芩・梔子 各三・〇 麦門・石膏 各五・〇 升麻一・〇
「肺熱、鼻内瘜肉、初め榴子(ざくろの実)の如く、日後漸く大きく、孔竅(こうきょう)を塞(ふさ)ぎ、気宣通(せんつう)せざるものを治す。」
鼻閉塞・鼻茸・肥厚性鼻炎・上顎洞化膿症などに応用される。他の処方で効かないとき試みるとよい。
『和漢薬方意辞典』 中村謙介著 緑書房
辛夷清肺湯(しんいせいはいとう) 〔外科正宗〕
【方意】 上焦の熱証・上焦の湿証による濃厚な鼻汁・鼻閉等のあるもの。 《少陽病.実証》
【自他覚症状の病態分類】
上焦の熱証 上焦の湿証 |
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主証 | ◎濃厚な鼻汁 ◎鼻閉 |
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客証 | ○後鼻漏 ○顔面頭部の熱感 ○鼻根部の疼痛 鼻ポリープ 嗅覚脱失 口渇 |
【脈候】 弦やや緊。
【舌候】 乾燥した白苔。
【腹候】 腹力中等度。
【病位・虚寒】本方意の病態は上焦の熱証と、慢性化膿傾向の湿証である。表証も裏証もなく少陽病に相当する。脈力および腹力があり、局所も内圧の上昇傾向があって実証である。
【構成生薬】 麦門冬5.0 石膏5.0 知母3.0 百合3.0 黄芩3.0 梔子3.0 辛夷2.0 枇杷葉2.0 升麻1.0
【方解】 辛夷は温性で慢性化膿傾向の湿証に対応し、鼻閉を通じ、濃厚な鼻汁・頭痛を治す。黄芩・梔子・石膏・知母は解熱・消炎・清熱作用を持ち、熱証による熱感・炎症・口渇を去る。升麻も清熱・解毒作用を持つ他に鎮痛作用もあり石膏・知母に協力する。百合・麦門冬・枇杷葉には滋潤作用があり咳嗽・喀痰を治すが、本方では農厚な鼻汁を稀薄化し排泄を促す。
【方意の幅および応用】
A 上焦の熱証・上焦英湿証:濃厚な鼻汁・鼻閉等を目標にする。
急慢性鼻炎、副鼻腔炎、鼻ポリープ、嗅覚脱失、アレルギー性鼻炎
【参考】*肺熱、鼻内の息肉(はなたけ)、初めは榴子の如く、日後漸く大となり、孔竅を閉塞し、気宜通せざるを治す。『外科正宗』
*此の方は脳漏鼻淵(副鼻腔炎など膿汁を排出する鼻疾患)、鼻中息肉、或は鼻不聞香臭等の症、凡て熱毒に属する者に用いて効あり。脳漏鼻淵は大抵葛根湯加川芎大黄、或は頭風神方に化毒丸を兼用して治すれども、熱毒あり疼痛甚だしき者は此の方に非ざれば治すこと能わず。『勿誤薬室方函口訣』
*慢性副鼻腔炎には葛根湯加辛夷川芎大黄が第一選択である。これで及ばず、熱証強く疼痛の止まない者には本方が考えられる。本方単方では無効のものに小柴胡湯を合方すると良いことがある(松田邦夫)。
【症例】アレルギー性鼻炎(通年性)
患者は40歳男性。
4年前から年間を通じて水鼻が出る。医療を受けても無効だった。
体格中等度、カゼを引きやすい。鼻閉、鼻水、匂いを感じない、凝り(腰)、便通(1日1行、有形便)、食欲良好、嗜好(タバコ1日20本)。
舌は紅色を呈して中央部は乾、周辺部は潤。脈は沈でやや弱。腹部は左右とも胸脇苦満と腹皮拘急を認める。
初め小青竜湯を投与し無効だったので、辛夷清肺湯に変方して約180日間服用するうちに軽快した。
緒方玄芳『漢方治療症例選集』2・223
本方無効の慢性副鼻腔炎および痔瘻例
患者は35歳の男性。
某病院で蓄膿症で治療を受けているが、根治手術を勧められている。
体格大柄、不安な気持ちがする、顔色は無い、汗かき(全身)、便通(1日1行、有形便、気持ち良く出る)、食欲良好、嗜好(野菜、肉)。
舌は白色苔で覆われていて潤。脈は沈でやや弱。腹部は全般に膨隆して硬く触れ、左右に高度の胸脇苦満を認める。
葛根湯加辛夷川芎桔梗黄芩を投与した。約60日服用したが良くならないので、荊芥連翹湯に変方した。飲みにくいというので、辛夷清肺湯に変方して約4ヵ月服用したがあまり効果はなかった。
その後痔瘻になったといって来院した。そこで、『外科正宗』に托裏消毒散に変方した。以来、一貫して同方を服用し続け、4年後には「蓄膿症は良くなったので、手術はやらなくて良い」と耳鼻声の主治医にいわれたと報告してくれた。その後も同方を飲んでいると体調が良いからと、3年半ほど飲んで廃薬した。その間痔瘻も治っていた。
緒方玄芳『漢方治療症例選集』2・232
『漢方診療ハンドブック』 桑木崇秀著 創道社刊
辛夷清肺湯(しんいせいはいとう) <出典>外科正宗(明時代)
<方剤構成>
辛夷 枇杷葉 麦門冬 知母 百合 升麻 石膏 黄芩 梔子
<方剤構成の意味>
鼻を開く作用があると言われる辛夷を主薬として,これに枇杷葉以下多くの発散薬(黄芩・梔子のほかはすべて発散性)を配合した方剤で,鼻づまりを治すには格好の方剤と言えそうである。
ただ方剤中には寒性薬の代表ともいうべき石膏が入っており,他の構成生薬も辛夷を除いてすべて寒性または平性であるから,明らかに熱証用の方剤であり,寒証者には用い難い。
<適応>
慢性副鼻腔炎・肥厚性鼻炎。ことに鼻茸にようようである。ただし,明らかに寒証の者には適さない。
【一般用漢方製剤承認基準】
辛夷清肺湯
〔成分・分量〕
辛夷2-3、知母3、百合3、黄芩3、山梔子1.5-3、麦門冬5-6、石膏5-6、升麻1-1.5、枇杷葉1-3
〔用法・用量〕
湯
〔効能・効果〕
体力中等度以上で、濃い鼻汁が出て、ときに熱感を伴うものの次の諸症:
鼻づまり、慢性鼻炎、蓄膿症(副鼻腔炎)
【添付文書等に記載すべき事項】
してはいけないこと
(守らないと現在の症状が悪化したり、副作用が起こりやすくなる)
次の人は服用しないこと
生後3ヵ月未満の乳児。
〔生後3ヵ月未満の用法がある製剤に記載すること。〕
相談すること
1.次の人は服用前に医師、薬剤師又は登録販売者に相談すること
(1)医師の治療を受けている人。
(2)妊婦又は妊娠していると思われる人。
(3)体の虚弱な人(体力の衰えている人、体の弱い人)。
(4)胃腸虚弱で冷え症の人。
2.服用後、次の症状があらわれた場合は副作用の可能性があるので、直ちに服用を中止し、この文書を持って医師、薬剤師又は登録販売者に相談すること
関係部位 | 症状 |
消化器 | 食欲不振、胃部不快感 |
まれに下記の重篤な症状が起こることがある。その場合は直ちに医師の診療を受けること。
症状の名称 | 症 状 |
間質性肺炎 | 階段を上ったり、少し無理をしたりすると息切れがする・息苦しくなる、空せき、発熱等がみられ、これらが急にあらわれたり、持続したりする。 |
肝機能障害 | 発熱、かゆみ、発疹、黄疸(皮膚や白目が黄色くなる)、褐色尿、全身のだるさ、食欲不振等があらわれる。 |
3.1ヵ月位服用しても症状がよくならない場合は服用を中止し、この文書を持って医師、薬
剤師又は登録販売者に相談すること
〔用法及び用量に関連する注意として、用法及び用量の項目に続けて以下を記載すること。〕
(1)小児に服用させる場合には、保護者の指導監督のもとに服用させること。
〔小児の用法及び用量がある場合に記載すること。〕
(2)〔小児の用法がある場合、剤形により、次に該当する場合には、そのいずれかを記載す
ること。〕
1)3歳以上の幼児に服用させる場合には、薬剤がのどにつかえることのないよう、よく注
意すること。
〔5歳未満の幼児の用法がある錠剤・丸剤の場合に記載すること。〕
2)幼児に服用させる場合には、薬剤がのどにつかえることのないよう、よく注意すること。
〔5歳未満の用法及び用量を有する丸剤の場合に記載すること。〕
3)1歳未満の乳児には、医師の診療を受けさせることを優先し、やむを得ない場合にのみ
服用させること。
〔カプセル剤及び錠剤・丸剤以外の製剤の場合に記載すること。なお、生後3ヵ月未満の用法がある製剤の場合、「生後3ヵ月未満の乳児」をしてはいけないことに記載し、用法及び用量欄には記載しないこと。〕
保管及び取扱い上の注意
(1)直射日光の当たらない(湿気の少ない)涼しい所に(密栓して)保管すること。
〔( )内は必要とする場合に記載すること。〕
(2)小児の手の届かない所に保管すること。
(3)他の容器に入れ替えないこと。(誤用の原因になったり品質が変わる。)
〔容器等の個々に至適表示がなされていて、誤用のおそれのない場合には記載しなくて
もよい。〕
【外部の容器又は外部の被包に記載すべき事項】
注意
1.次の人は服用しないこと
生後3ヵ月未満の乳児。
〔生後3ヵ月未満の用法がある製剤に記載すること。〕
2.次の人は服用前に医師、薬剤師又は登録販売者に相談すること
(1)医師の治療を受けている人。
(2)妊婦又は妊娠していると思われる人。
(3)体の虚弱な人(体力の衰えている人、体の弱い人)。
(4)胃腸虚弱で冷え症の人。
2´.服用が適さない場合があるので、服用前に医師、薬剤師又は登録販売者に相談すること
〔2.の項目の記載に際し、十分な記載スペースがない場合には2´.を記載すること。〕
3.服用に際しては、説明文書をよく読むこと
4.直射日光の当たらない(湿気の少ない)涼しい所に(密栓して)保管すること
〔( )内は必要とする場合に記載すること。〕