健康情報: 黄芩湯(おうごんとう) の 効能・効果 と 副作用

2014年5月17日土曜日

黄芩湯(おうごんとう) の 効能・効果 と 副作用

臨床応用 漢方處方解説 矢数道明著 創元社刊
p.52 急性腸炎・消化不良症

12 黄芩湯(おうごんとう) 〔傷寒論〕
半夏八・〇 生姜五・〇(乾生姜一・五) 茯苓五・〇

本方は日中二回、夜間一回服用するように指示されている。常法のごとくのんでもよい。

応用〕 邪熱が少陽の位にあって、内に迫って下痢し、なおその病勢が太陽にも及び、太陽と少陽の合病による下痢に用いるものであるj
 本方は主として急性腸炎・大腸炎・消化不良症・また感冒で発熱下痢があり、粘液便あるいは血便を下して、裏急後重を訴えるも英に用いる。
 またときには急性虫垂炎・子宮附属器炎等で腹痛血熱あるもの、または代償性月経による吐血・衂血するものなどにも応用される。

目標〕 下痢して、心下痞え、腹中拘急するもので、腹直筋の攣急があり、発熱・頭痛・嘔吐・乾嘔・渇等を目標にして用いる。
 泥状便、粘液便のことが多く、臍部の腹痛をともなう。
方解〕 黄芩が主薬で、黄芩はよく裏熱を清解するといわれ、胃の熱をさますものである。黄芩の味はよく下心の痞えを開き、腸胃の熱をさまして下痢を治す。芍薬は黄芩と組んで裏急・腹中痛・下痢を治し、さらに甘草と大棗は腹中の拘攣や腹痛を治する助けとなる。
主治
 傷寒論(太陽病下篇)に、「太陽ト少陽ノ合病、自下利スル者ニハ、黄芩湯ヲ与フ。若シ嘔スルモノハ、黄芩加半夏湯之ヲ主ル」とあり、
 勿誤薬室方函口訣には、「此方ハ少陽部位下利ノ神方ナリ、後世ノ芍薬湯ナドハ同日ノ論ニアラズ。但シ同ジク下利ニテモ、柴胡ハ往来寒熱ヲ主トシ、此方ハ腹痛ヲ主トス。故ニ此ノ症ニ嘔気アレバ、柴胡ヲ用イズシテ黄芩加半夏生姜ヲ用ユルナリ」とある。
鑑別
葛根湯20 (下痢・項角強、腹痛なし)
大承気湯 93 (下痢・実熱、陽明病)
人参湯111 (下痢・虚寒)

 古方薬嚢には、「発熱下利して腹痛するもの、或は頭痛し、或はさむけ、或はのどかわくものあり、或は腹甚だしくしぶりて、下利の回数かぞえがたきもの、或は反って外に熱少く、しんに熱ありて下利し、のどかわくもの、或は便に血のまじるもの」とあり、
 「また本方の証は往々葛根湯の証と誤りやすき場合あり、則ち発熱悪寒ありて下利し、汗なきものこれなり。葛根湯の場合は、腹痛は少く軽く、本方の証はは腹痛あ識もの多く、或はいたみ劇し。或は心腹の工合をみて区別することあり。即ち本方の証には心下痞え、その内部の症必ずあり、葛根の証には項背痛、腰痛等の表症必ず多し、即ち葛根は表が主にて裏は従なり、本方は裏が主にて表は旁なり」とある。

治例〕 (一) 下痢
 二八歳の婦人。急に発熱して悪寒があり、頭痛し、下痢して腹が痛み、渇があって水を欲する。下腹は多少張るがごとくで、下痢はますますその回数を増してきた。そこで桂枝加芍薬湯を与えたが治らない。下痢はますます甚だしく、裏急後重に苦しむという。これに黄芩湯を与たところ、たちまちにして治った。
(荒木性次氏 古方薬嚢)
(二) 急性大腸炎
 六七歳の老婦人。数日前カツオの刺身を食べ、翌日嘔気と下痢が数回あった。腹痛を覚え、裏急後重があり粘血便を下すようになったという。
 脈はやや沈遅、舌に白苔あり、心下部痞え、左下腹部に索状を触れ圧痛がある。現在熱はない。下痢は今日は三回くらいで粘血を混じ、疲労を訴えている。黄芩湯を与えたが、翌日より気分よくなり、三日間服用して諸症全く治癒した。なお四日分服用したところ、かえって便秘となり、三黄錠をのんで通じをつけた。
(著者治験)



和漢薬方意辞典 中村謙介著 緑書房
黄芩湯(おうごんとう) [傷寒論]

【方意】 心下の熱証による心下痞・下痢・裏急後重・腹痛・発熱等のあるもの。時に表の寒証表の寒証血証を伴う。
《少陽病.実証》


【自他覚症状の病態分類】

心下の熱証 表の寒証・表の実証 血証
主証 ◎心下痞
◎下痢
◎裏急後重
◎腹痛
◎発熱









客証 ○悪心、嘔吐
 口苦 咽乾 目眩
 口臭 口渇
 心煩 煩熱
 胸脇苦満
 食欲不振
 局所の発赤 充血
 瘙痒感
 頭痛
 身疼痛
 悪寒
 無汗
 出血




【脈候】 浮やや緊・浮やや弱・弦。一般に緊張は良い。

【舌候】 やや乾燥し、時に微白苔。

【腹候】 腹力中等度。心下痞がほぼ必発であり、時に心下痞硬、拡脇苦満がある。腹筋の緊張がみられ、腹診にてしばしば抵抗圧痛がある。

【病位・虚実】 心下の熱証は少陽病位であることを示す。表証は太陽病であるため、本方意は太陽病と少陽病とが存在しているようにみえるが、後述の通り構成生薬には表証を解するものは含まれておらず、本方で心下の熱証を解すれば表証も氷解する。これを少陽を本位とした太陽病と少陽病の合病という。脈力および腹力あり、心下の熱証が充実して実証である。

【構成生薬】 黄芩5.0 大棗5.0 芍薬3.0 甘草3.0

【方解】 黄芩は心下鬱熱を主り、黄芩・甘草の組合せは強力に心下の熱証に対応して、心下痞・下痢・裏急後重・口苦・口臭・食欲不振等を治す。更に芍薬・甘草の組合せと共に腹痛を治す。大棗の緩和・鎮痛作用もこれに協力する。本方意の中心的病態である心下の熱証は、表に影響して悪寒・頭痛の表証を誘発することがある。これは疑似表証ともいうべきもので、表証に対応する生薬を含まない本方一方で消失するものである。上焦の熱証は三黄瀉心湯梔子豉湯茵蔯蒿湯のように血証を伴うことがある。本方意の出血もこれに類するもので,心下の熱証を去れば解消するものである。

【方意の幅および応用】
A1心下の熱証:心下痞・裏急後重・腹痛・発熱等を目標にする場合。
  急性腸炎、消化不良、食中毒、子宮附属器炎、急性虫垂炎
 2心下の熱証:局所の発赤・充血・瘙痒感・心下痞・口臭等を目標にする場合。
B 表の寒証表の実証:頭痛・身疼痛・悪寒・無汗を目標にする場合。
  下痢を伴う感冒
血証:出血を目標にする場合
  代償性月経

【参考】 *太陽と少陽との合病にして、自下利す。『傷寒論』
*下痢して心下痞し、腹中拘急する者を治す。『方極附言』
* 此の方は少陽部位、下利の神方なり。後世の芍薬湯などと同日の論に非ず。但し同じ下利にても、柴胡は往来寒熱を主とす。此の方は腹痛を主とし。故に此の方の症に嘔気あれば柴胡を用いずして、黄芩加半夏生姜湯を用うるなり。
『勿誤薬室方函口訣』
*本方はよく太陽・少陽の合病に用いるといわれているが、表証を伴わない少陽の心下の熱証のみで用いることができる。
*下痢して往来寒熱するなら柴胡剤、下痢して心下痞・腹痛なら黄芩湯。本方の下痢は泥状便・粘液便であることが多い。

【症例】 小児の消化不良
 4歳女児。平素は丈夫な幼児である。何ら誘因なしに機嫌が悪く、鼻汁を出していたので普通のカゼのように思い、いつもの如く身柱にお灸をして葛根湯エキスを飲させた。翌日嘔吐が1回あり、軟便に1日3~4回、腹痛があったのであろう機嫌が悪かったが、大したこはなさそうに思えたので桂枝加芍薬湯を飲ませた。食欲は全然なく、指をくわえて泣くこ選が多く、熱もなさそうなのに次第に元気がなくなってきた。
 1日4回程度の下痢ではあったが、便のにおいがどうも異常のように思われ、疫痢のような重篤な容態に似てきた。そこで改めて『傷寒論』を漁るように読んだ。そして、この証は黄芩湯ではないかと思えたので早速服ませたところ、腹痛も楽になったのかすぐに熟睡し始めた。こ英1回の服薬によってすべては頓挫的に治った。その夜目覚めたときにミルクを飲ませたら、おいしそうに飲んで満足して眠った。翌朝より普通の子供のようにヨチヨチ元気に歩き始めた。この症例が私が黄芩湯証を知るようになった最初の患者である。正に神効とでもいうべきか。
小川新『漢方の臨床』15・3・3




『康平傷寒論解説(30)』  日本東洋医学会会長 室賀 昭三 先生
白虎加人参湯 黄芩湯 黄芩加半夏生姜湯 黄連湯

黄芩湯
次は、「太陽と少陽との合病、自下利の者は、黄芩湯(オウゴントウ)を与う。若し嘔する者は、黄芩加半夏生姜湯(オウゴンカハンゲショウキョウトウ)これを主る」とあります。
  太陽と少陽との合病の場合とは、太陽病と少陽病とを同時に発病した場合でありまして、頭項強痛、悪寒等の太陽病の症状と、口が苦いとか喉が乾く、めまいがするなどの少陽病の徴候 のうちの一、二を両方一度に兼ね表わしている場合をいいます。そしてこの合病の結果、自然に下痢を起こすのであります。太陽と陽明の場合でも自然に下痢を起こす場合がありますが、この場合には、太陽病の治剤である葛根湯(カッコントウ)を使うわけですが、太陽と少陽の合病の下痢には少陽病の治剤である黄芩湯を用いなさい。つまり少陽病は汗・吐・下を禁ずるから、少陽の熱を解する黄芩湯を使いなさい。もし下痢に吐き気が加わった時には、非常に咳をとめる作用の強 い黄芩加半夏生姜湯を使いなさい、といっているわけであります。
 これは『漢方の臨床』第15巻3号に小川新先生が非常に詳しく述べておられますが、一言でいえば、胃腸腸型の風邪で下痢をする場合に黄芩湯を使いなさいといっているのであります。
 黄芩湯は、「黄芩(オウゴン)三両。芍薬(シャクヤク)二両。甘草二両、炙る。大棗十二枚、擘く。右四味、水一斗を以て、煮て三升を取り、滓を去り、一升を温服す」。註に「日に再、夜一服」とあり、日中二回飲 んで夜一回飲みなさい、と飲み方を指示しているわけであります。
 黄芩加半夏生姜湯は、「黄芩三両。芍薬二両。甘草二両、炙る、大棗十二枚、擘く」。これに、半夏(ハンゲ)洗ったものを半升と、生姜(ショウキョウ)の切ったもの一両半を加えているわけであります。「右六味、 水一斗を以て、煮て三升を取り、滓を去り、一升を温服す」。註に「日に再、夜一服」というこ とで、昼間二回飲んで夜一回飲みなさいといっているわけであります。



『勿誤薬室方函口訣(9)』 日本東洋医学会評議員 坂口 弘
-延年半夏湯・黄耆湯・黄耆建中湯・黄耆茯苓湯・黄芩湯-

黄芩湯

 次は黄芩湯(オウゴントウ)です。 これは『傷寒論』の処方であり、黄芩(オウゴン)、甘草(カンゾウ)、芍薬(シャクヤク)、大棗(タイソウ)の四味より成ります。「此の方は少陽部位下利の神方なり。後世の芍薬湯などと同日の論に非ず。但し同じ下利にても柴胡(サイコ)は往来寒熱を主とす。此の方は腹痛を主とす。故に此の方の症に嘔気あれば柴胡を用いずして後方を用いる也」とあります。
 今までの黄耆茯苓湯(オウギブクリョウトウ)、黄耆湯(オウギトウ)などは、いわゆる後世方といわれているもので、十四味とか十味とか、たくさんの薬味でできておりますが、黄耆建中湯は七味、黄芩湯(オウゴントウ)はさらに少なく四味の薬味から成っております。
非常に簡潔で、しかも効果がはっきり出てきます。古方にはそういう性格があるわけです。
 『傷寒論』太陽病下篇に「太陽と少陽の合病、自下利する者は黄芩湯(オウゴントウ)を与う。若し嘔する者は黄芩加半夏湯(オウゴンカハンゲトウ)之を主る」と出ております。口訣体試f少陽部位の下痢の神方とありますが、本当によく効く処方であります。後世方に下痢に用いる芍薬湯という名方がありますが、効果は「同日の論に非ず」と書いてあります。柴胡は往来寒熱を主としていますが、この方は腹痛を主とするものであると書かれてありまして、少陽の部位、発熱があって下痢する時、急性の腸炎、大腸炎、あるいは感冒で発熱、下痢、腹痛があって粘液便、または血便があり、裏急後重を訴えるような場合には大変効果をはっきり出すものであります。
 今日の医療ではよい薬剤があるので、本方を応用する機会は少ないと思われます。




三和黄芩湯エキス細粒(SANWA Ogonto Extract Fine Granules)
三和生薬株式会社

[組成]
本品1日量 (7.5 g ) 中、下記 の黄芩湯水製エキス 4.0 gを含有する。
 日局 オウゴン(黄芩) 4.0 g
 日局 カンゾウ(甘草) 3.0 g
 日局 タイソウ(大棗) 4.0 g
 日局 シャクヤク(芍薬) 3.0 g

[効能又は効果]
 腸カタル、消化不良、嘔吐、下痢

{用法及び用量]
 通常、成人 1 日 7.5 gを 3 回に分割し、食前または食間に経口投与する。 なお、年齢、症状により適宜増減する。


【禁 忌】(次の患者には投与しないこと)
(1) アルドステロン症の患者
(2) ミオパシーのある患者
(3) 低カリウム血症のある患者
[(1) ~ (3) :これらの疾患及び症状が悪化するおそれがある。 ]
(理由)
昭和 53 年 2 月 13 日付厚生省薬務局長通知 薬発第 158 号「グリチルリチン酸等を含有する医薬 品の取扱いについて」に基づく。
(1日量として原生薬換算 2.5g 以上の甘草を含有する製剤)


副作用
1) 重大な副作用と初期症状
1) 偽アルドステロン症: 低カリウム血症、血圧上昇、ナトリウム・体液の貯留、浮腫、体重増加等の偽アルドステロン症があらわれることがあるので、観察(血清カリウム値の測定等) を十分に行い、異常が認められた場合には投与を中止し、カリウム剤の投与等の適切な処置を行う。
2) ミオパシー: 低カリウム血症の結果としてミオパシーがあらわれることがあるので、観察を十分に行い、脱力感、四肢痙攣・麻痺等の異常が認められた場合には投与を中止し、カリウム剤の投与等の適切な処置を行う。
[理由]
 厚生省薬務局長より通知された昭和53年2月13日付薬発第158号「グリチルリチン酸等を含 有する医薬品の取り扱いについて」に基づく。
 [処置方法]  原則的には投与中止により改善するが、血清カリウム値のほか血中アルドステロン・レニン活性等の検査を行い、偽アルドステロン症と判定された場合は、症状の種類や程度により適切な治療を行う。低カリウム血症に対しては、カリウム剤の補給等 により電解質 バランスの適正化を行う。