鯉(こい Cyprinus carpio )は中央アジア原産で日本でも古くから食用にされてきた淡水魚です。
鯉の寿命は30から40年と言われ、長寿のもので100年以上生きると言われ、体長1m以上にもなります。成長とともにウロコも大きくなり、ウロコにあるシワのような年輪の数でそのコイの年齢を知ることができます。
もともとは中央アジアあるいは黄河水系のいずれかが原産とされますが、環境適応性が高く、また重要な食用魚として養殖、放流が盛んに行われたために現在は世界中に分布しています。日本のコイは大昔に中国から移入された「史前帰化動物」とされたこともありましたが、琵琶湖など各地に野生のコイが分布し、第三紀の地層から化石も発見されていることから、やはり古来日本に自然分布していたとされています。
白身で、味がよく、肉量も多いため、中国、ヨーロッパなどでも古くから広く料理に用いられてきました。石器時代から食されてきた鯉料理は、料理の中でも最高のものとされ、将軍家の御前料理は鯉に限られていたそうです。コラーゲンを多く含む鯉は、平安時代には、美人歌人「小野小町」(おののこまち)も美容食として食べていたという記録が残されています。淡水魚の中でも寿命の長い魚としてよく知られ、現在北半球では寒冷地を除くアジア、ヨーロッパ、北米、東南アジアに、南半球ではオーストラリア、ニュージーランドでも繁殖しています。
中国では「鯉は川を上り龍になる」という言い伝えから、糖酷鯉魚(タンツーリーユ、鯉の丸揚げ甘酢かけ)は縁起の良いものとされています。
わが国では鯉は貴重はタンパク源として、広く一般的に「鯉の洗い」のほか、味噌仕立ての「鯉濃(こいこく)」が食膳に上ってきました。
また、民間薬としても、お乳の出が良くなるとして産後に食べられたり、浮腫(ふしゅ;むくみ)に良いと言われ、小豆と合わせて煮て食べたりされています。
ただし、コイは下処理に気をつける必要があります。それは、通称、苦玉(にがだま)とよばれる胆嚢(たんのう)をつぶすと、全体に強い苦味が回り、食べられなくなるからです。
このように料理に使うには邪魔な胆にも、実は優れた効果があります。
鯉の胆嚢(たんのう)は、鯉胆(りたん)や鯉魚胆(りぎょたん)と呼ばれ、漢方薬として利用されます。
動物胆(獣胆)の一種です。
中国漢方には、五行説という考え方があり、その中に「肝気は目に通ず、肝和すれば、目よく五色を弁ず」という薬理があります。これは、肝臓と目は通じていて、肝臓がよくなれば目もよくなるという意味です。
更に「肝胆相照らす」という言葉がありますように、漢方では、肝臓と胆嚢(たんのん)は表裏の関係にあるとされています。
また、これとは別に、『類型同効論』や『同形生薬』というものがあります。これは、「似たものが似たものを治す」、或いは「類をもって類を補う」という考え方で、体が弱っている部分があれば、その弱っている部分と同じ部分の食べ物を食べると良いというものです。すなわち、肝臓が弱っていればレバーを、骨が弱っていれば骨を、胃が悪ければミノを食べるとそれぞれの機能が回復するというものです。
まるで迷信のようでもありますが、全くのでたらめというわけではありません。
例えば、肝臓病には現代医学でも「肝臓加水分解物」を原料としている薬剤が繁用されています。良く考えてみますと、肝臓を分解したものには肝臓の細胞を作るのに必要な物質が全て含まれているのですから、必要な栄養を効率よく集めるために、肝臓そのものを食べるということは、納得できる話です。
従って、胆を食べることは、胆嚢を強化し、これは肝臓を強化することになり、肝臓が良くなることにより、目も良くなります。
まるで、「風が吹けば桶屋がもうかる」といった落語のような話になりますが、
これは冗談などではなく、実際に鯉魚胆(りぎょたん)は昔から目に効くと言われ、今から2千年前の中国最古の薬物書「神農本草経(しんのうほんぞうきょう)」に「鯉魚胆」(りぎょたん)の名で収載されています。その薬効を翻訳してみると、「目に熱をもった目熱とか、目が赤くなった目赤とか、目が痛む目痛とかいった病や、青盲とよばれて外見には何ともないのに物が見えないといった病を治すことができる。それは目が明らかに見えるようにする作用があるからである。これを久しく服用しているとからだが強くなり、元気が益してくる」と述べられています。その他、心臓、肝臓、胃腸などの障害への効能が記されています。
胆には胆汁酸が含まれていますが、この胆汁酸の共通の作用として、利胆作用・肝臓解毒機能増進・免疫物質生産作用があるといわれています。
胆汁酸は自然の界面活性剤といわれ、特に鯉魚胆汁酸はその働きが強く、摂取すると腸の中で細かな微粒子となって一緒に摂取した脂溶性ビタミンなどの栄養素を拡散します。拡散した栄養素は腸管から吸収しやすくなります。そうして吸収された栄養素は今度は速やかに各組織へ伝達されます。普通ビタミンなどは口からとるだけでは吸収されにくいといわれます。そのために緊急の場合などでは栄養注射に頼るのですが、鯉魚胆を一緒に摂取することによって胆汁酸の働きで、口から摂取するのとは比べものにならないくらいパッとすばやく栄養素がすみずみまでいきわたるのです。
鯉胆(りたん)は、チプリノールというイオウの入った特異なアミノ酸も含有しています。
このチプリノールは目の血行を促進し、炎症を鎮める作用があると言われています。
山菊子という生薬と一緒にとると、眼力低下や視力障害がいっそう回復するそうです。
日本代替医療学会では、糖尿病性網膜症や緑内障に効果があった旨の発表がありました。
更に、強壮剤としても応用されるようです。
このように、優れた効能を持つ鯉魚胆(りぎょたん)ですが、鯉魚胆(りぎょたん)は小さく、1Kgの成魚からわずか60mg位しか取れませんので大変貴重なものです。しかも生薬として用いる時は、鯉魚胆(りぎょたん)に熱を加えてさらに乾燥させるので、その1gも約50mgほどになってしまうという貴重な素材です。
なお、鯉魚胆(りぎょたん)は胆嚢(たんのう)だけでなく、肝臓(かんぞう)も一体になったものです。