癌性腹膜炎(がんせいふくまくえん)とは、癌末期のひとつの兆候で、癌細胞が内臓を覆っている漿膜(しょうまく)を破って腹腔(ふっくう、ふくくう、ふくこう)内に広がり散らばった状態をいい、腹部全体に腹水が溜まり膨れます。
肝臓、胆嚢、膵臓、胃、腸、子宮、卵巣、などの癌末期に多く起こります。
癌性腹膜炎の根本的治療は困難で、利尿剤によって排尿を促すなど対症療法を行います。利尿剤があまり効果がない場合は腹部を針で刺して腹水をとる等します。
入院安静や利尿剤の適宜使用で改善することもありますが、多くの固形癌の腹水は単に抜いただけでは、3~4日で再貯留し、何度も繰り返します。
腹水のコントロールは患者さんのQOL(クオリティー オブ ライフ、生活の質)や寿命に大きく影響する大事な課題です。
腹水を抜いたあとで、ピシバ二ールや抗癌剤などを腹腔内に投与し、腹水が再度たまらないように腹膜癒着療法(ふくまくゆちゃくりょうほう)を試みる病院もあります。
しかし、腹水は血液と同様の栄養を含んでいます。もし腹水を2,000cc抜いたとすれば、栄養価の代表のアルブミンは80gくらい喪失し、栄養失調を引き起こしかねません。
そこで、アルブミンの点滴で補うとか凍結血漿(とうけつけっしょう)で補うと患者さんのQOLは保たれます。
しかしほとんどの病院ではこれらの点滴は保険診療で認められていないために行いません。
癌性腹膜炎で、腹部が太鼓のように膨張する病症を漢方では、鼓腸(こちょう)といいます。「鼓」は「つづみ」です。鼓腸の原因としては、癌性腹膜炎の他、肝硬変、低蛋白血症性腹水、結核性腹膜炎、住血吸虫症などがあります。
癌性腹膜炎による腹水に良く使われる漢方処方(薬方)には、補中益気湯(ほちゅうえっきとう)と五苓散(ごれいさん)の合方(ごうほう、がっぽう)、補中治湿湯(ほちゅうじしつとう、ほちゅうぢしつとう)、補気健中湯(ほきけんちゅとうと)、分消湯(ぶんしょうとう)などがあります。
分消湯の加減方に、分消湯血鼓加減(ぶんしょうとうけっこかげん)、別名 血分消(けつぶんしょう)というものがあります。分消湯から、朮と茯苓を去り、当帰と芍薬と紅花と牡丹皮を加えたもので、血絲縷(けっしろう)、すなわち、肝硬変などで、血管が浮きでている時に用います。わざわざ駆水作用のある朮と茯苓を去る所が、薬方(処方)構成の奥深さを感じます。
分消湯は、平胃散(へいいさん)に四苓湯(しれいとう)(五苓散(ごれいさん)から桂枝(けいし)を除いたもの)に、枳実(きじつ)、香附子(こうぶし)、大腹皮(だいふくひ)、縮砂(しゅくしゃ)、木香(もっこう)、燈心草(とうしんそう)を加えたものです。
分消湯(ぶんしょうとう)
〔出典〕万病回春
〔処方〕蒼朮、白朮、茯苓 各3.0 陳皮、厚朴、香附子、猪苓、沢瀉 各2.0 枳実、大腹皮、砂仁、木香、燈心草、乾生姜 各1.0(腎炎による浮腫には生姜を去るがよい)
〔目標〕この方は気(ガス)と水をめぐらし去る薬を組み合わせたもので、皷脹(こちょう)と腹水、全身浮腫にも用いられる。即ち皷脹や浮腫や腹水があって、心下部が堅く緊張し、小便が黄色で、大便は秘結の傾向がある。浮腫には勢いがあって、圧迫した凹みがすぐに元に戻りやすい。食後お腹が張って苦しく、噫気、呑酸などが起こる。浮腫を圧して陥んで下に戻らないのを虚腫というが、一見虚腫にみえて実腫があるから、脈状その他を参照して鑑別する必要がある。
〔かんどころ〕食事を一杯食べても三杯も四杯も食べたように、腹が苦しくなるという。そして皷脹、腹水、浮腫があり、心下痞硬し、小便が少なく、大便秘結し、腫れに勢いがあって、脈沈実のものに用いる。
〔応用〕滲出性腹膜炎・腎炎・ネフローゼ・腫水・皷脹・肝硬変による腹水などに用いられる。
〔附記〕本方の中の枳実を枳殻に代えたものを実脾飲という。分消湯は皷脹を主とし、実脾飲は腹水を主とする。やや虚して停水が強い。
〔治験〕輸胆管潰瘍兼肝臓肥大
57才の男子、体格は長大、栄養もそれほど衰えていない。顔色は特有で黒褐色、煤を塗ったようである。酒を好み、昨年より黄疸を発し、腹水著明となり、入院して精密検査の結果、前記の病名をつけられた。
1ヶ月半ばかり入院治療をうけたが、これ以上腹水は去らないから退院するがよいといわれて自宅療養をしていた。脈状に大した変わりはなく、舌白苔少し、全身皮膚は恰も魚の薫製のように黄褐色である。腹部膨満して波動著明、腹囲は84糎で、肝二横指触れる。体動事呼吸困難と心動悸を訴える。食欲と便通は普通、尿は7回で合計700位、食事をすると心下部がとても苦しいと訴える。分消湯に小柴胡湯を合方して与えたところ、尿量は増加し、腹水も漸次減少し、皮膚の黄褐色も消退し、服薬2ヶ月で殆ど治癒した。矢数道明
『漢方精撰百八方』p178 より引用
補気健中湯(ほきけんちゅうとう)
〔出典〕済生方
〔処方〕茯苓5.0 白朮4.0 陳皮、蒼朮、人参、沢瀉、麦門冬 各3.0 黄芩、厚朴 各2.0
〔目標〕この方は済生方の皷脹門に「皷脹を治す。元気、脾胃、虚損、宜しく中を補い、湿を行らし、小便を利すべし。切に下すべからず」とある。
実腫のときは柴苓湯・分消湯 ・五苓湯・木防已湯などを用いるが、それらの適応時期を過ぎ、虚証となり、元気衰えたものを目標とする。浮腫は力なく、軟弱で、圧迫による陥没がなかなか元に戻らない。
〔かんどころ〕虚腫に属するが、附子を用いるほどにはならない。胃腸の弱ったものによい。
〔応用〕皷脹・腹水・浮腫の虚証に属するものによい。肝硬変症・慢性腹膜炎・慢性腎炎・ネフローゼ・心臓弁膜症による浮腫などに応用される。
〔附記〕「医林集要」の補中治湿湯(ほちゅうぢしつとう)は、本方より沢瀉を去り、当帰、木通、升麻を加えたものである。虚証の腹水、皷脹を治す。
人参、白朮 各4.0 蒼朮、茯苓、陳皮、麦門冬、当帰、木通 各3.0 黄芩、厚朴 各2.0 升麻0.3
〔治験〕肝硬変症(肝臓癌の疑い)
66才の老人、黄疸と腹水で胃腸病院に入院し、肝硬変症といわれた。腹水はますます増加し、いろいろ検査の結果、肝臓癌の疑いが濃くなった。腹水を4回も穿刺したが、衰弱と腹水は加わるばかりで、意識混濁し、大小便失禁、熱が出て、遂に不治といわれて自宅に引き取った。そして家族は最後の看病をするようにいわれたという。
退院後3日目に往診したが、昏睡の状態でうわごとをいっていた。腹は太鼓のようで、穿刺の跡から腹水が泉のように流れ出して、布団を濡らしている。胸部以下は浮腫がひどくて、褥瘡が大きく、水死人をみるようであった。両便共に失禁していて、体温は38度5分あった。
私も、もはや手の施す術なきことを告げたが、諦めのために薬を乞うというので、補中治湿湯を与えた。すると不思議にも3日目から尿快通し、意識明瞭となり、食欲が出て、1ヶ月後には床の上に座るようになった。そして2ヶ月後には殆ど旧に復し、大体3ヶ月後には業務に就くことができた。以後奇跡的に健康体となり、8年間元気で働いていたが、脳溢血で難の苦痛もなく亡くなったという。
『漢方精撰百八方』p182 より引用
補中治湿湯に関しては、本来は、白朮と蒼朮と両方を入れた方が良いようですが、一般用医薬品としては朮としか書かれていません。
また、補中治湿湯の「効能又は効果」としては、「胃腸が弱くて腹部膨満感があるもの」となっていて、当然ながら腹水の記述はありません。
また、210処方の中に入ってはいるのですが、実際に製造しているメーカーは無いようです。
薬局製剤の194処方には入っていますので、生薬(しょうやく)を扱っている漢方薬局であれば、入手可能です。
分消湯と補気健中湯については、下記サイトもご参照下さい。
http://kenko-hiro.blogspot.com/2008/12/blog-post_08.html
五苓散については、慈温堂遠田医院の雨宮先生が、
三倍量を処方して、尿量が増え腹水は減少した症例が公開されています。
他にも、五苓散を多目に服用することをe-mailにてすすめた所、
腹水が軽減したとの報告も数人の方から受け取っているそうです。
http://www.jiondo.com/06/Ekzemploj/Ascito/jascito.html
(旧)リンク切れ
http://www.jiondo.com/topics_archive/200201.html
村田漢方堂の村田先生は、「扶正去邪(ふせいきょじゃ)」
(体力をつけながら、同時に悪いもの(この場合は腹水)を除去する)という観点から、
五苓散には、補中益気湯を合方することを勧めていらっしゃいます。
http://murata-kanpo.seesaa.net/article/14479534.html
癌性腹膜炎によるものではなく、肝硬変による腹水ですが、
細野史朗先生は、
五苓散加商陸附子(ごれいさん か しょうりく ぶし)が、
妊娠十ヶ月かと思われるくらい大きくなった腹水に効いた例をお話しされています。
商陸(しょうりく)には、利尿作用が、附子(ぶし)には血行促進作用があります。
出典:『漢方処方の方証吟味』
その他、腹水に、
五苓散加茵蔯梔子、柴苓湯加茵蔯梔子 なども効果がある旨を書かれています。
なお、商陸(しょうりく)は、ヤマゴボウ科 Phytolaccaceae のヤマゴボウ Phytolacca esculenta VAN HOUTT、同属の P.acinosa ROXB. などの根を用いますが、
「ヤマゴボウ」と呼ばれるものには、山菜として「山ゴボウ」と称される、キク科のモリアザミ、オニアザミ、オヤマボクチなどのアザミ類やヤマボクチの根がありますので、注意して下さい。
食薬区分では、ヤマゴボウ(Phytolacca esculenta)の根は「医」とされ、
ヤマゴボウ(Cirsium dipsacolepis)の根は「非医」とされています。
癌性腹膜炎による腹水には、民間療法では、小豆(あずき)と鯉(こい)を一緒に煮て飲みます。
尿の出が非常に良いようです。
なお、小豆は、塩と一緒に使う必要があります。
現代医学的な面から考えると、尿を出すのに塩を使うのは逆効果のように思えるのですが、
和方(和法)では、小豆に塩を使うのが本来の使用方法です。
ですので、塩を用いる赤飯は正しい用い方ですが、砂糖を加えた餡(あん)には、
小豆本来の効果は認められないと言えます。
餡にもポリフェノールやサポニン等は含まれていますので、
それなりの健康効果はあるとは思いますが……
赤小豆(アズキ)
赤小豆(せきしょうず)20~30gを塩を入れた水600ccで、半量になるまで煎じ、これを一日量として
数回に分けて煎じ液を飲み、煮た豆を食べる。
アズキに関する注意
a.砂糖は不可
煮たり煎じたりするとき、砂糖を入れると効果がなくなり、
塩を入れると効果が強くなります。
b.実と枝・葉とは反対の作用
枝や葉もアズキという植物には違いありませんが、
逆に尿を止める作用があり、
夜尿症や尿意過多、尿失禁などに用いられます。
必ず豆を使って下さい。
鯉を入手するのが難しい時は、
上記の赤小豆と塩だけでもそれなりの効果はあるそうです。
鯉と一緒に煮る方が効果は更に高くなるとのことです。
鯉と小豆の食べ方をネットで検索しましたが、
味付けはしないもの、酢を使うもの、塩を使うものと
色々とあるようです。
私が聞いているのは、先の小豆と塩の例に、鯉をプラスするだけです。
量もだいたいで、
赤小豆 一つかみ、
塩 一つまみ、
鯉 一匹
くらいで聞いています。
鯉と小豆の煮き方(1)
腹水がたまった時・・・利尿作用・・・
材料
・小豆 300g
・コイ 中くらい
作り方
まず小豆300gを水に2時間つけておき、弱火で1時間煮く。
中くらいのコイを3枚におろして、その身を適当に切って小豆を煮ている中に
入れ、さらに1時間30分煮く。
味付けは何もしないこと、食事の前に、子供茶碗に1杯ずつ
1日3回食べる。1回の分量で3日間ぐらいは食べられる。
鯉と小豆の煮き方(2)
小豆は≪赤小豆≫と言われ利尿や排膿作用があり、浮腫や黄疸に使用されます。
漢方処方でも≪赤小豆鯉魚湯≫という名前で、
赤小豆約100gと鯉500gを酢と水を半量ずつまぜて、一時間ほど煎じて、
まず鯉を食べてからスープを飲みます。産婦の乳汁を促すことができたり、
肝硬変の腹水には効果があるようです。
鯉と小豆の煮き方(3)
ネフローゼ、肝臓ガン、肝硬変の腹水には鯉小豆をお奬めします。
小豆2カップ、鯉のあらい(頭、骨、皮を取り除く)の半身を
塩を入れずに煮た物を1日量として食す。
尿の出を良くする民間薬としてはこの他、山ゴボウ、キササゲ、ビワ、キンジ草、ウワウルシ(代用コケモモ)、ウツボグサ(夏枯草(かごそう))、トウモロコシの毛(南蛮毛(なんばんもう))、ニワトコ(接骨木(せっこつぼく))、アケビ(木通(もくつう)、スイカなどもあります。
癌治療に関しては、下記のサイトもご参照下さい。
http://kenko-hiro.blogspot.com/2008/11/blog-post_28.html