三和散(さんわさん)は、余り聞き慣れない漢方薬方です。
癌性腹膜炎による腹水に使用される漢方薬方を調べる際に出てきて、
どのようなものか良く知りまれんでしたので、調べてみました。
便秘や腹水に応用されるようです。
ただ、もとは香蘇散(こうそさん)を基本とするとありますように、基本的な作用は、順気剤(じゅんきざい)と思われますので、それが下剤や駆水剤(くすいざい)的に使われる点に、漢方の奥深さを感じました。
『漢方処方応用の実際』南山堂刊
三和散(さんわさん) 和剤局方
沈香、蘇葉、大腹皮、羗活各2.0、甘草、木香、陳皮、檳榔、木瓜、生姜各1.5、朮、川芎各3.0
〔目標〕
心下や腹部が痞(つか)えて苦しく、胸部や側腹部が張って苦しく、あるいは 手足が少し腫(は)れたり、頭部や顔面がやや浮腫(ふしゅ)を呈し、大便が秘結し、尿が出にくくなり、飲食の進まないもの、あるいは脚気(かっけ)で胸が苦しく呼吸促迫(こきゅうそくはく)して大小便の通じないもの などに用いる。
百々漢陰(どどかんいん)は、本方を用いるコツをこういっている。「本方の目当は、飲食すると中脘(ちゅうかん;みぞおち)に棚(たな)をかけたように痞(つか)えて下がらないように思うものに用いるとよい。また、大便が秘結しても、大黄を用いると腹が痛むだけで、思うように下がらないものによい。」
また疏註要験には、本方の目標はからだの内のどこかの筋(すじ)が引っぱって痛み、あるいは屈伸できないものに先ず用いるとよい と書いてある。
〔説明〕
本方は梧竹楼(ごちくろう)は疝(せん)の主剤で三焦(さんしょう)の不和を治すといい、東郭は七情(しちじょう)の気鬱(きうつ)による気滞(きたい)症状を治すといい、疏註要験には風気虚の三秘を和すといっているように、現代医学の知識では理解しにくいものである。
そこで、本方を実際に応用するには、前記のような症状を呈し、原因もわからず、一般の下剤、利尿剤、鎮痛剤に類する処方が、効果のないものに用いるとよい。
〔参考〕
疝とは、陰嚢水腫(いんのうすいしゅ)やヘルニアに対する俗語であったばかりでなく、疏註要験にはづきのように説明してある。
筋が攣急(れんきゅう)して腹の中が心持悪く、脈は弦急(げんきゅう)で、外、風寒にあたられ、内、湿熱うっ滞し、厥陰(けっちん)の経(けい)強くひきつり、痛み、腰背部をしめつけられるようだというようなものは、みな疝であると。
〔応用〕
便秘、尿利減少、浮腫 などのほか、足のこむらがえり、腓腸筋(ひちょうきん;腓腹筋(ひふくきん))の攣縮(れんしゅく)、頚筋(けいきん)のひきつり、喘息の一種 などに応用される。
『漢方後世要方解説』 矢数道明著 医道の日本社刊
p.52
三和散(さんわさん) 和剤局方 諸気門
[主治]
○五臓調わず、三焦和せず、心腹痞悶、胸肋慎脹、風気壅滞、肢体煩疼、頭面虚浮、手足微腫、腸胃煩渋、大便秘難を治す。年高く気弱しと雖も、並に之を服すべし。又背痛脇痛飲食を妨ぐることあり、及び脚気上攻し、胸腹満悶大便通ぜざるを治す。
○此方は五臓調わず、三焦和せず、心腹痞満し、脚気胸を攻め、大便不通の症を治す(牛山方考)
[処方及び薬能]
沈香 蘇葉 大腹皮、羗活各二 白朮 川芎各三 木香 陳皮 檳榔 木瓜各一・五 生姜 甘草各一(東郭は加茯苓となす)
※本書『漢方後世要方解説』の処方欄には、羗活(きょうかつ)が書かれていませんでしたが、
次の薬味の説明で書かれていたので、抜け落ちたものと考え書き加えてあります。
沈香、木香、陳皮、紫蘇、大腹皮、檳榔=皆気を順らし、滞を開き欝を破る。
川芎=血滞を散じ脇痛を和らぐ。
羗活=風湿を逐うて痛みを除く。
木瓜=筋脈を利し、脚気転筋を治す。
白朮、甘草=脾気を助け、心腹を和らぐ。
○此方は気鬱し、血滞り、増激して筋攣急、疼痛を発するものを治する。気血留滞する時は筋脈通利せず、上中下の三焦和せざるに至る。即ちこの方は鬱滞を解して三焦を相和せしむるを以て三和散と謂う。又血秘、気秘、風秘の三秘を和するを以って三和と名づけるという。その候は腹部に気血鬱滞して心下痞硬し、腹皮攣急、腹脹り、腰疼み、背疼み、顔面手足腫れ、大便秘、小便不利し、又脚気腓腸筋の攣急に良い。
○応用
①所謂疝気(腸疝痛)
②脚気
③便秘
④小便閉
⑤リウマチ
⑥筋痙攣
⑦腹膜炎の一症
⑧腰痛
⑨陰嚢攣痛
⑩ヘルニア
p.102
三和散(サンワサン)(或ハ三脘湯(サンカントウ)) (和剤局方 諸気門)
〔処方〕沈香 紫蘇葉 大腹皮 羗活各二・○ 木香 陳皮 檳榔子 木瓜各一・五 生姜一・○ 白朮 川芎各三・○ 甘草一・○ (或は 加 茯苓三・○)
※本書『漢方後世要方解説』の処方欄には、羗活(きょうかつ)が書かれていませんでしたが、
次の薬味の説明で書かれていたので、抜け落ちたものと考え書き加えてあります。
本方は、香蘇散の変方であって、即ちその原方より香附子を去り、沈香、羗活、大腹皮、木香、白朮、檳榔子、木瓜、川芎を加えたものである。気血鬱滞するとには筋脈利せず、三焦和せず、一度びこの湯を用うれば則ち、鬱滞を除いて三焦和すものである。これ即ち三和の名のある所以である。また血秘、気秘、風秘の三つの者皆和すという、故に三和の名がある。
〔主治〕 三和散の主治として和剤局方に、
「五臓調ハズ、心腹痞悶、脇肋瞋脹(シンチヤウ)(フクルゝノ意)、風気壅滞、肢体煩疼、頭面虚浮、手足微腫、腸胃燥渋、大便秘難ヲ治す。年高ク、気弱シト雖モ、竝ビニ之ヲ服ス可シ。又背痛脇痛、飲食ヲ妨グルコトアリ。及ビ脚気上攻シ、胸腹満悶、大便通ゼザルヲ治ス」とあり、
また、牛山方考には、
「此ノ方ハ五臓調ハズ、三焦和セズ、心腹痞満シ、脚気胸ヲ攻メ、大便不通ノ症ヲ治スル妙剤ナリ」と、この説はよく本方の主治を約言していると思われれる。
〔目標〕 勿語薬室方函口訣 三脘湯条に、
「此ノ方ハ気ノ壅滞ヲ疎利スルガ主意ニテ、畢竟腹気ノ壅滞スルヨリ、色々ノ症ヲ生ジ、或ハ大便秘結、小便不利、或ハ腹ハリ、或ハ腰疼ミ、或ハ背痛ミ、手足イタミ、或ハ面腫手足腫レ、或ハ腹中痞塊
※【壅滞】ヨウタイ
わく内にとどこおる。渋滞。
『漢方一貫堂の世界 -日本後世派の潮流』 松本克彦著 自然社刊
p.18
三和散(さんわさん)(和剤局方)
沈香・蘇葉・大腹皮・木香・陳皮・檳榔・木瓜・白朮・川芎・生姜・甘草
同じく『和剤局方』にあげられ、「五臓調わず、三焦和せず、心腹痞悶し、胸肋慎脹し……腸胃燥渋し、大便秘難するを治す」となっており、分心気飲に比して利水薬が少ない代りに、中下焦に対する気薬と補薬が加えられている。 そのため腹部症状が主な場合、例えば消化器系が弱く、下痢と便秘をくり返すとか、体が弱くて便秘でも下剤はあまり使用したくないような場合によく用いている。