『《資料》よりよい漢方治療のために 増補改訂版 重要漢方処方解説口訣集』 中日漢方研究会
57.人参養栄湯(にんじんようえいとう) 和剤局方
地黄4.0 当帰4.0 朮4.0 茯苓4.0 桂枝2.5 芍薬2.0 遠志2.0 陳皮2.0 黄耆1.5 人参3.0 甘草1.0 五味子1.0
〈現代漢方治療の指針〉 薬学の友社
やせて血色悪く,微熱,悪寒,咳嗽がとれずに倦怠感が著しく,食欲不振で精神不安,不眠,盗汗 などもあり,便秘気味のもの。
本方は黄耆建中湯の変方と見なされる処方で,病後で衰弱した場合によく用いられ,特に肺結核に応用されることが多い。即ち小柴胡湯や補中益気湯を用いても微熱,悪寒,咳嗽がとれず,更に食欲が減退するものに奏効する。また頑固な咳嗽が続き,衰弱のため麻黄剤は使えないが麦門冬湯,半夏厚朴湯,柴胡剤などでも効果がない場合本方を試みるとよい。本方適応症状には便秘の傾傾が認められるが,排泄される便は軟いのが普通である。従って衰弱したものや虚弱な老人の便秘にも応用される。本方と柴胡桂枝干姜湯との鑑別は,柴胡桂枝干姜湯適応症は神経症状が更に強く,胸内苦悶,胸部あるいは腹部に動悸を訴え,下痢の傾向があるから区別出来る。
従って本方服用後頭痛,のぼせを訴えるときは柴胡桂枝干姜湯を,胃痛,腹痛を訴えるときは小建中湯を考慮すべきである。
〈漢方処方解説シリーズ〉 今西伊一郎先生
本方は呼吸器疾患と消化器疾患が併発し,熱症状と胃腸症状ならびに神経症状などを伴う点で,あたかも柴胡桂枝湯の適応症状に似ているが,まったく異質なもので本方が適応するものは,応用の目標らんに記載のごとく,病勢が進んで体力が消耗し,それがために消耗熱や咳嗽,神経症状などを発現するものが対象になる。とくに本方投与の投象は病巣が進展する結核症に多く,内的再感染の傾向やシューブの疑いがあるなどのもので発熱しているが,一般解熱剤の投与に一考を要し,しかも激しい咳嗽と粘稠な痰を喀出し,消化障害があって食思が振るわず,ネアセ,精神不安など重篤な複合症候あるものによく適応する。
類似症状の鑑別 本方は以上のとおり病勢が発揚性で消耗熱,咳,タン,胃腸症状を目安にする。
柴胡桂枝干姜湯 臨床的にはまったく本方と似ているが,さらに衰弱が著しく内臓機能も全般的に悪く,消化不良性の下痢便,口渇,不眠,胸部の動悸や腹部の動悸が亢進して,本方以上に神経症状が著明な者によい。
十全大補湯 本方症状に似ているが病勢がややおちついて,熱,咳,喀痰などが緩和となり衰弱の徴候が主となるものを目安に用いる。
補中益湯気 病勢が停止し回復の傾向あるものの体力を増強し,自然治癒能力を高度に発揮させる薬方で,衰弱,貧血,疲労倦怠,無気力,食欲不振などを対象に応用する。
〈後世要方解説〉 矢数 道明先生
○和剤局方「積労虚損,四肢沈滞,骨肉酸疼,吸々として少気,行動喘啜,小腹拘急,腰背強痛,心虚驚悸,咽乾唇燥,飲食味ひ無く陽陰衰弱,悲憂惨戚,多臥少起,久しき者は積年,急なる者は百日,漸く痩削に至る。五臓気竭き,振復すべきこと難きを治す。又肺と大腸と倶に虚し,咳嗽下利,嘔吐,痰涎を治す。」
○医方口訣集「気血虚して心室衰ふる者之を主る」
即ち本方は補病困憊の極で,元気衰え,貧血を来し,津液枯涸して皮膚栄養が衰え,悪液質を呈し,五体の活気が悉く衰えたものを賦活しようとするものである。主治に咳嗽下利とあるが,咳嗽下痢のある場合は注意を要する。
〈当荘庵家方口解〉 矢数 道明先生
十全大補湯の症に似て,どこやら少し熱あるによし。心虚したる云ふ目的に用ひる也。心虚痰鬱の症にも用ひて効あることあり,虚人によし。
〈経記筆記〉 津田 玄仙先生
人参養栄湯を諸病に用ゆる目的は,第1毛髪随全,第2顔色無沢,第3忽々喜忘,第4只痰不食,第5心悸不眠,第6周身枯痰,第7爪枯筋涸 以上を人参養栄湯の七症と云ふなり。
〈勿誤方函口訣〉 浅田 宗伯先生
此方は気血両虚を主とすれども十補湯に比すれば遠志,橘皮,五味子ありて脾肺を維持するの力を優なり。三因には肺与大腸倶虚を目的にて下利喘乏に用てあり,万病とも此意味のある処に用ゆべし又傷寒壊病に先輩炙甘草湯と此方を使ひ分てあり熟考すべし 又虚労熱有て咳し下痢する者に用ゆ。
【一般用医薬品承認基準】
人参養栄湯
〔成分・分量〕
人参3、当帰4、芍薬2-4、地黄4、白朮4(蒼朮も可)、茯苓4、桂皮2-2.5、黄耆1.5-2.5、陳皮(橘皮も可)2-2.5、遠志1-2、五味子1-1.5、甘草1-1.5
〔用法・用量〕
湯
〔効能・効果〕
体力虚弱なものの次の諸症:
病後・術後などの体力低下、疲労倦怠、食欲不振、ねあせ、手足の冷え、貧血
【添付文書等に記載すべき事項】
してはいけないこと
(守らないと現在の症状が悪化したり、副作用が起こりやすくなる)
次の人は服用しないこと
生後3ヵ月未満の乳児。
〔生後3ヵ月未満の用法がある製剤に記載すること。〕
相談すること
1.次の人は服用前に医師、薬剤師又は登録販売者に相談すること
(1)医師の治療を受けている人。
(2)妊婦又は妊娠していると思われる人。
(3)胃腸が弱く下痢しやすい人。
(4)高齢者。
〔1日最大配合量が甘草として1g以上(エキス剤については原生薬に換算して1g以
上)含有する製剤に記載すること。〕
(5)今までに薬などにより発疹・発赤、かゆみ等を起こしたことがある人
(6)次の症状のある人。
むくみ
〔1日最大配合量が甘草として1g以上(エキス剤については原生薬に換算して1g以
上)含有する製剤に記載すること。〕
(7)次の診断を受けた人。
高血圧、心臓病、腎臓病
〔1日最大配合量が甘草として1g以上(エキス剤については原生薬に換算して1g以
上)含有する製剤に記載すること。〕
2.服用後、次の症状があらわれた場合は副作用の可能性があるので、直ちに服用を中止し、この文書を持って医師、薬剤師又は登録販売者に相談すること
関係部位
症 状
皮 膚
発疹・発赤、かゆみ
消化器
胃部不快感
まれに下記の重篤な症状が起こることがある。その場合は直ちに医師の診療を受けること。
症状の名称
症 状
偽アルドステロン症、ミオパチー1)
手足のだるさ、しびれ、つっぱり感やこわばりに加えて、脱力感、筋肉痛があらわれ、徐々に強くなる。
肝機能障害
発熱、かゆみ、発疹、黄疸(皮膚や白目が黄色くなる)、褐色尿、全身のだるさ、食欲不振等があらわれる。
〔1)は、1日最大配合量が甘草として1g以上(エキス剤については原生薬に換算して1g以上)含有する製剤に記載すること。〕
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3.1ヵ月位服用しても症状がよくならない場合は服用を中止し、この文書を持って医師、薬
剤師又は登録販売者に相談すること
4.長期連用する場合には、医師、薬剤師又は登録販売者に相談すること
〔1日最大配合量が甘草として1g以上(エキス剤については原生薬に換算して1g以上)含有する製剤に記載すること。〕
〔用法及び用量に関連する注意として、用法及び用量の項目に続けて以下を記載すること。〕
(1)小児に服用させる場合には、保護者の指導監督のもとに服用させること。
〔小児の用法及び用量がある場合に記載すること。〕
(2)〔小児の用法がある場合、剤形により、次に該当する場合には、そのいずれかを記載す
ること。〕
1)3歳以上の幼児に服用させる場合には、薬剤がのどにつかえることのないよう、よく
注意すること。
〔5歳未満の幼児の用法がある錠剤・丸剤の場合に記載すること。〕
2)幼児に服用させる場合には、薬剤がのどにつかえることのないよう、よく注意すること。
〔3歳未満の用法及び用量を有する丸剤の場合に記載すること。〕
3)1歳未満の乳児には、医師の診療を受けさせることを優先し、やむを得ない場合にのみ
服用させること。
〔カプセル剤及び錠剤・丸剤以外の製剤の場合に記載すること。なお、生後3ヵ月未満の用法がある製剤の場合、「生後3ヵ月未満の乳児」をしてはいけないことに記載し、用法及び用量欄には記載しないこと。〕
〔成分及び分量に関連する注意として,成分及び分量の項目に続けて以下を記載すること.〕
本剤の服用により,糖尿病の検査値に影響を及ぼすことがある.
〔1日最大配合量がオンジとして1g以上(エキス剤については原生薬に換算して1g以
上)含有する製剤に記載すること.〕
保管及び取扱い上の注意
(1)直射日光の当たらない(湿気の少ない)涼しい所に(密栓して)保管すること。
〔( )内は必要とする場合に記載すること。〕
(2)小児の手の届かない所に保管すること。
(3)他の容器に入れ替えないこと。(誤用の原因になったり品質が変わる。)
〔容器等の個々に至適表示がなされていて、誤用のおそれのない場合には記載しなくても
よい。〕
【外部の容器又は外部の被包に記載すべき事項】
注意
1.次の人は服用しないこと
生後3ヵ月未満の乳児
〔生後3ヵ月未満の用法がある製剤に記載すること。〕
2.次の人は服用前に医師、薬剤師又は登録販売者に相談すること
(1)医師の治療を受けている人。
(2)妊婦又は妊娠していると思われる人。
(3)胃腸が弱く下痢しやすい人。
(4)高齢者。
〔1日最大配合量が甘草として1g以上(エキス剤については原生薬に換算して1g
以上)含有する製剤に記載すること。〕
(5)今までに薬などにより発疹・発赤、かゆみ等を起こしたことがある人
(6)次の症状のある人。
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むくみ
〔1日最大配合量が甘草として1g以上(エキス剤については原生薬に換算して1g
以上)含有する製剤に記載すること。〕
(7)次の診断を受けた人。
高血圧、心臓病、腎臓病
〔1日最大配合量が甘草として1g以上(エキス剤については原生薬に換算して1g以上)含有する製剤に記載すること。〕
2´.服用が適さない場合があるので、服用前に医師、薬剤師又は登録販売者に相談すること
〔2.の項目の記載に際し、十分な記載スペースがない場合には2´.を記載すること。〕
3.服用に際しては、説明文書をよく読むこと
4.直射日光の当たらない(湿気の少ない)涼しい所に(密栓して)保管すること
〔( )内は必要とする場合に記載すること。〕