健康情報: 六君子湯(りっくんしとう) の 効能・効果 と 副作用

2012年3月31日土曜日

六君子湯(りっくんしとう) の 効能・効果 と 副作用

漢方診療の實際』 大塚敬節 矢数道明 清水藤太郎共著 南山堂刊

六君子湯(りっくんしとう)
人参 白朮 茯苓 半夏各四・ 陳皮 生姜 大棗各二・ 甘草一・
 本方は四君子湯と二陳湯との合方で、胃腸虚弱にして四君子湯よりは胃内停水の多いものに用いる。心下部痞え・食欲不振・疲労し易く、貧血を呈し脈も腹も共に軟弱で、日常手足の冷え易い虚證のものを目標とする。
本方中の人参・白朮・茯苓・甘草は即ち四君子湯で、胃腸の機能を亢め、消化吸収をよくする。陳皮は人参と共に食欲を進め、半夏は白朮・茯苓と共に胃腸内の停水を去る。
以上の目的に従い本方は慢性胃腸カタル・胃弱症・病後の食欲不振・嘔吐・慢性腹膜炎・悪阻・小児虚弱者の感冒・神経衰弱・胃癌・胃潰瘍(止血後)等に応用される。

香砂六君子湯】(こうしゃりっくんしとう)
人参 朮 茯苓 半夏各三・ 陳皮 香附子各二・ 大棗 生姜各一・五 甘草 縮砂 藿香各一・
本方に香附子・砂仁・藿香を加えたもので、六君子湯の證で、特に心下痞塞を訴え、気鬱し、食欲不振・宿食を兼ね識ものに用いる。一般的にこの加減方が多く用いられる。

【柴芍六君子湯】(さいしゃくりっくんしとう)
六君子湯に柴胡 芍薬各三・を加える。
本方に柴胡・芍薬を加えたもので、六君子湯の症で、腹直筋の拘攣・或は腹痛のあるものに用いられる。


『漢方精撰百八方』
108.〔六君子湯〕(りっくんしとう)
〔出典〕薛立斉十六種

〔附方〕香砂六君子湯、柴芍六君子湯

〔処方〕人参、朮、茯苓、半夏 各3.0 陳皮、生姜、大棗 各2.0 甘草1.5

〔目標〕体質虚弱で、皮膚や筋肉の緊張が悪く、多くは痩せ型で貧血性の、いわゆる弛緩性体質の人。食欲がなく、体重が減り、食物が心下部につかえ、少し食べても胃が張り、吐きけや嘔吐が起こり、胃部の膨満感があり、大便が軟らかい。脈は弱く、腹部は軟弱で心下部や臍の附近に振水音をみとめる。

香砂六君子湯(こうしゃりっくんしとう):六君子湯を用いるような場合で、腹が痛んだり、気分が重く、憂鬱で精神不安があり、頭重、倦怠などがあり、疲れ易いものに用いる。

柴芍六君子湯(さいしゃくりっくんしとう):六君子湯を用いたいようなときで、胸脇苦満があり、神経質になっているものに用いる。

〔かんどころ〕虚弱体質ではあるが、余り痩せ衰えてはいない。食べ物を少しとると腹が張って食べられなくなる。腹部に心下部振水音がある。

〔応用〕胃アトニー症、胃下垂症、慢性胃腸カタル、神経症

〔治験〕11才の男児、わたしの甥である。  この子は、もともと身長は高いが、やせて顔色の青白い少年で、いつも家にこもって、本を読んだり、模型をいたずらしたりするばかりで、ほかの子供のように、戸外をとび歩いて遊ぶということがなかった。
食欲がなく、少し食事をとると、げぶげぶと吐きそうになるといって、母親がこばしに来た。  腹部を診ると、子供なのに、心下部の振水音が著明である。そこで、六君子湯を投与することにした。これが、昭和39年の5月初である。  それ以来、一日も欠かさず薬を飲ませた。すると、7月末、学校が夏休みになったので、久しぶりに遊びに来た甥を見て、わたしはすっかり驚いてしまった。からだは、がっちりして、顔は丸々と肥り、しかも赤々とした顔色になり、別人のように元気な子供になっていたからである。
  母親は欲が出て、もっともっと丈夫にするといい、その年の末まで薬を飲ませた。
山田光胤

漢方薬の実際知識』 東丈夫・村上光太郎著 東洋経済新報社 刊
 7 裏証(りしょう)Ⅰ
虚弱な体質者で、消化機能が衰え、心下部の痞えを訴えるも の、また消化機能の衰退によって起こる各種の疾患に用いられる。建中湯類、裏証Ⅰ、 裏証Ⅱは、いずれも裏虚の場合に用いられるが、建中湯類は、特に中焦が虚したもの、裏証Ⅰは、特に消化機能が衰えたもの、裏証Ⅱは、新陳代謝機能が衰えた ものに用いられる。
裏証Ⅰの中で、柴胡桂枝湯加牡蠣茴香(さいこけいしとうかぼれいういきょう)・安中散(あんちゅうさん)は気の動揺があり、神経質の傾向を呈する。半夏白朮天麻湯(はんげびゃくじゅつてんまとう)呉茱萸湯(ごしゅゆとう)は、水の上逆による頭痛、嘔吐に用いる。
4 六君子湯(りっくんしとう)  (万病回春)
〔人参(にんじん)、白朮(びゃくじゅつ)、茯苓(茯苓)、半夏(はんげ)各四、陳皮(ちんぴ)、生姜(しょうきょう)、大棗(たいそう)各二、甘草(かんぞう)一〕
本方は、四君子湯に半夏、陳皮を加えたもので、四君子湯證よりもさらに胃内停水が強く、心下痞と四肢の厥冷を訴えるものに用いられる。また、 本方は消化機能をととのえる作用が強いため、虚証で貧血、疲労感、食欲不振、胃内停水、心下痞満、四肢の冷え、軟便または下痢便などを目標とする。ときと して浮腫、嘔吐、尿利減少を訴えることがある。また食後右側を下にして横になっていたがる傾向のあることもある。
〔応用〕
つぎに示すような疾患に、六君子湯證を呈するものが多い。
一 慢性胃カタル、胃下垂症、胃アトニー症、胃拡張症、胃潰瘍、胃癌、十二指腸潰瘍、慢性腹膜炎、腸カタルその他の消化器系疾患。
一 神経衰弱、神経症その他の神経系疾患。
一 そのほか、感冒、悪阻、心臓弁膜症など。
六君子湯の加減方
〔六君子湯に香附子(こうぶし)、縮砂(しゅくしゃ)、藿香(かっこう)各二を加えたもの〕
六君子湯證で、気うつし、心下部の痞塞感が強く、食物が停滞するため、食欲不振、腹満、腹痛を訴えるものを目標とする。
(2) 柴芍六君子湯(さいしゃくりっくんしとう)  (本朝経験)
〔六君子湯に柴胡(さいこ)四、芍薬(しゃくやく)三を加えたもの〕
六君子湯證で、腹直筋の拘攣や胸脇苦満の状を呈するもの、あるいは腹痛を伴うものに用いられる。本方は、いちおう柴胡剤であるが、駆水剤(特に胃内停水を去る)である六君子湯の作用が主体であることからここにかかげた。
〔応用〕
六君子湯のところで示したような疾患に、柴芍六君子湯證を呈するものが多い。
その他
一 肝炎、膵臓炎その他の肝臓、膵臓、胆嚢の疾患。


《資料》よりよい漢方治療のために 増補改訂版 重要漢方処方解説口訣集』 中日漢方研究会
79.六君子湯(りっくんしとう) 和剤局方
人参4.0 白朮4.0 茯苓4.0 半夏4.0 陳皮2.0 大棗2.0 甘草1.0 乾生姜0.5
現代漢方治療の指針〉 薬学の友社
貧血,冷え症で胃部に圧重感があり,軟便気味で疲れやしいもの。
平素から胃腸が虚弱で,しかも貧血気味で手足が冷えやすく,疲れやすくて胃部がたえず重苦しく,食欲が振わない胃腸無力症のものを対象に用いられる。したがって急性症状よりむしろ慢性に経過する前記消化器疾患に適し,人参湯,茯苓飲 などと同様に胃内停水が著明で,胃部振水音を証明し尿量減少の傾向があって水分の胃腸循環がよくないものに,連用させるとよい。本方を慢性胃腸カタルや胃腸無力症に用うる場合,貧血冷え症で軟便,泥状便が長びいたり,疲れやすくて食後すぐ,右を下側にして横になりたくなる傾向があるものによい。また乳児や小児の吐き下しに一般的に五苓散が適するが,吐物や便が消化不良であったり,胃腸機能が悪いものには五苓散よりも本方がよく奏効する。神経質な者や職業的に神経を酷使して,胃腸にストレスを与え,胃下垂,胃アトニー,胃神経症の傾向あるものに本方が適し,特に昼夜の別なく神経を酷使し,胃腸症状を訴えるドライバーに好評を得ている。手術を要しない胃潰瘍で,出血や潜血反応を認めないものに本方で奇効を得ることが少なくない。

漢方処方応用の実際〉 山田 光胤先生
○体質が虚弱で,皮膚や筋肉の緊張が悪く,多く痩せ型の貧血性でいわゆる弛緩体質(無力性体質)の人が心下部(胃部)が痞え,食欲不振,痩削(体重減少)などを訴えるもの。
○疎註要験① 諸病の後で食が進まず,顔色悪く,痩せて皮膚が黄ばみ痰飲(水毒)の気みがあって,時として弱いしゃっくりをくり返したりからえずきするもの,ことに食事しようとすると,からえずきするものによい。四君子湯景の症に似て,更に消化力を打け,水毒を除く力が強いから,小児によく用いられる。
② 浮腫があって,手足がたるく,呼吸促迫し,疲れやすく,大便が下痢気味のものに,先ずこの方を用いるとよいとある。
○愚按口訣① 諸病誤治誤薬のとき,先ず消化機能を調えるため,本方を用いるとよい。
② 消化機能の衰えた人が急激に風寒に侵されたとき,補中益気湯などを用いず,本方を用いた方がよい。
③ 成人,小児をとわず,虚して(体力が低下していて)嘔吐,下痢するときは本方を先ず用いるとよい。


漢方診療の実際〉 大塚,矢数,清水 三先生
 本方は四君子湯と二陳湯との合方で,胃腸虚弱にして四君子湯よりは胃内停水の多いものに用いる。 心下部痞え,食欲不振,疲労し易く,貧血を呈し脈も腹も共に軟弱で,日常手足の冷え易い虚証のものを目標とする。本方中の人参,白朮,茯苓,甘草は即ち四君子湯で,胃腸の機能を亢め,消化吸収をよくする。陳皮は人参と共に食欲を進め,半夏は白朮,茯苓と共に胃腸内の停水を去る。以上の目的に従い本方は慢性胃腸カタル,胃弱症,病後の食欲不振,嘔吐,慢性腹膜炎,悪阻,小児虚弱者の感冒,神経衰弱,胃癌,胃潰瘍(止血後)等に応用される。


漢方処方解説〉 矢数 道明先生
 胃腸の弱い者で,胃内停水があり,脈腹ともに軟弱で,心下部痞塞感があり,食欲衰え,疲労しやすく,貧血して,日常手足冷えやすく,全体に虚証のものを目標とする。
 万病回春(補益門)
 脾胃虚弱,飲食少しく思ひ,或は久しく瘧痢を患ひ,若くは内熱を覚え,或は食飲化し難く,酸を作し,虚火に属するを治す。須らく炮姜を加えて其効甚だ速かなり。


勿誤方函口訣〉 浅田 宗伯先生
 此方は理中湯の変方にして中気を扶け,胃を開くの効あり,故に老人脾胃虚弱にして痰あり。飲食を思わず,或は大病後脾胃虚し,食味なき者に用ゆ。陳皮,半夏,胸中胃口の停飲を推し開くこと一層力ありて,四君子湯に比すれば,最も活用あり,千金方半夏湯の類数方あれども此方の平穏なるに如かず。

漢陰臆乗〉 百々 漢陰先生
 畢竟脾胃虚弱水湿を帯びるものを治す。予の治験とて別に単方を用ゆること少し。大病の死極まりたるものなど,真武,四逆の類を用いてなる程症はいかにも的当なれども,病人の元気至って虚し,附子の薬力に堪えず,薬煩するもの世にままにあるものなり。其時には此湯を与ふれば元気も引たてて,薬煩もせず,至ってらくなるものなり。

万病回春〉 龔 廷賢 先生
 脾胃虚弱,飲食少しく思ひ,或は久しく瘧痢を患ひ,若しくわ内熱を覚え,或は飲食化難く酸を作し,虚火に属するを治す。須らく炮姜を加えて其効甚だ速也。

医方口訣集〉 長沢 道寿先生
 気虚して痰有る者,脾胃衰弱して湿有る者之を主る。

牛山方考〉 香月 牛山先生
 脾胃虚弱にして痰飲を挟む者をなす。

経験筆記〉 津田 玄仙先生
 六君子湯は皆知っての如く甚だつかい道の多き方也。六君子湯は四君子湯と二陳湯の合方にて,元気虚弱にして痰ある症に用ひては正方の方也と知るべし。
○面色萎黄,脈微弱,手足のだるきは是脾胃の虚也。咳嗽痰涎は痰なり,故に六君子湯を用いたり。


※若しくわ内熱を覚え,→若しくは内熱を覚え,