竜胆瀉肝湯(りゅうたんしゃかんとう)
車前子 黄芩 沢瀉各三・ 木通 地黄 当帰各五・ 梔子 甘草 竜胆各一・五
本方は膀胱及び尿道に於ける炎症に用いるもので実證に属し、急性或は亜急性の淋毒性尿道炎、バルトリン腺炎、或は膀胱カタル等で、小便渋痛・帯下・膿尿・陰部腫痛・鼠径腺の腫脹するものに用いる。一般的に体力未だ衰えず、脈も腹も相当力のあるものである。
車前子・木通・沢瀉は利尿作用があって、尿道膀胱の炎症を去る。当帰・地黄は血行を盛んにし、且つ渋痛を緩和し、竜胆・山梔子・黄芩は消炎及び解毒の効がある。
以上の目標に従て此方は急性或は亜急性淋疾・尿道炎・膀胱カタル・帯下・陰部痒痛・バルトリン腺炎・子宮内膜炎・下疳・横痃・睾丸炎・陰部湿疹等に応用される。
『漢方精撰百八方』
92.龍胆瀉肝湯(りゅうたんしゃかんとう)
〔出典〕薛氏十六種
〔処方〕当帰、地黄、木通 各5.0 黄芩、沢瀉、車前子 各3.0 竜胆、梔子、甘草 各1.5
〔目標〕この方は薛氏十六種下疳門に「肝経の湿熱、或いは嚢癰(淋毒性副睾丸炎)便毒(横痃・鼠径淋巴腺腫)下疳(梅毒潰瘍)懸癰(会陰部の癰)腹痛くが如く作り、小便渋滞、或いは婦人陰?(バルトリン腺や大陰唇)痒痛、男子陽挺(陰茎のこと)腫脹、或いは膿汁を出すを治す」とある。 本方は下疳門で、(陰部の性病による潰瘍)に掲載されているが、下焦(下腹部、陰部)の諸炎症性疾患で、充血、腫脹、疼痛を伴うものに用いる。急性または亜急性の炎症があり、実証の者によい。肝経の湿熱というのは、性病に罹ると腹部の両腹直筋の外側、すなわち肝経に沿うて、特有の緊張や過敏帯があらわれる。この肝経の経路に沿って現れた炎症や腫脹のことを肝経の湿熱と呼んだものである。
〔かんどころ〕肝経に属する臓器の炎症として膀胱、尿道、睾丸、陰部の実熱証によい。
〔応用〕急性または亜急性の尿道炎・膀胱炎・パルトリン腺炎・帯下・陰部痒痛・子宮内膜炎・膣炎・下疳・横痃・睾丸炎・陰部湿疹・トリコモナス等に応用される。
〔附記〕森道伯翁は本方を四物湯黄連解毒湯と合方して、一貫堂家方龍胆瀉肝湯を作り、慢性化した肝経の湿熱に用いた。
当帰、芍薬、川芎、地黄、黄連、黄芩、黄柏、山梔子、連翹、薄荷、木通、防風、車前子、甘草 各1.5 竜胆、沢瀉 各2.0
〔治験〕
トリコモナス
19才の婦人、昨年来帯下があり、陰部が痒いという。婦人科の医師はトリコモナスという診断をつけた。顔色は白く、体格はがっちりしている。龍胆瀉肝湯を与え、帯下に臭気が強いというので、山帰来と金銀花を加えた。これを服用すること1ヶ月で帯下は減じ、臭気もなくなり、5ヶ月間の服用で全治した。(大塚敬節氏)
肝硬変症
45才の男子、田舎の役場に勤務して、酒豪であった。肝硬変となり、腹水がたまり、腹は太鼓のようで、諸病院を遍歴していた。この人の体質が解毒症体質であったので、一貫堂の龍胆瀉肝湯を用いたところ、腹水はきれいにとれ、1年間服薬してすっかり健康体となり、15年以上も再発せず勤務を続けることができた。(矢数格)
矢数道明
『漢方薬の実際知識』 東丈夫・村上光太郎著 東洋経済新報社 刊
13 下焦の疾患
下焦が虚したり、実したりするために起こる疾患に用いられる。ここでは、下焦が虚したために起こる各種疾患に用いられる八味丸(はちみがん)、下焦が実したために起こるものに用いられる竜胆瀉肝湯(りゅうたんしゃかんとう)についてのべる。
2 竜胆瀉肝湯(りゅうたんしゃかんとう) (薜氏)
〈漢方処方応用の実際〉 山田 光胤先生
○下腹部臓器,陰部の熱感,充血,疼痛,腫張のある実証のものに用いる。排尿痛,尿淋瀝,頻尿,帯下などを伴うこともある。患者は体力が中等度以上に充実し,冷え症ではなく脈にも腹にも力があるものである。
○勿誤薬室方函口訣「此方は肝経の湿熱というのが目的なれども湿熱の治療に三等あり,湿熱上行して頭痛甚だしく,或は目赤く耳鳴るものは小柴胡湯に竜胆,胡黄連を加えるとよい。もし湿熱表に薫蒸して諸蒼(できもの)を生ずるものは九味柴胡湯がよい。もし下部に流注して下疳,毒淋,陰触瘡を生ずる者は、此方の主なり。」
〈漢方治療の実際〉 大塚 敬節先生
○排尿痛,尿の淋瀝,頻尿等のあるものに用いるが,脈にも腹にも力があつて充実しているものに用い,体力が衰えたもの,冷え症のもの,貧血しているものなどには用いない。この方を瀉肝とよんだのは肝経の湿熱を治するからで矢数道明氏に随えば肝経湿熱とは梅毒,淋疾に見られる肝臓解毒作用障害の状態をいい,腹部肝経に沿うて緊張圧痛等を証明し,皮膚浅黒く,手足の裏,湿潤するものが多いという。私は淋疾からきた膀胱炎,尿道炎,子宮内膜炎などにしばしばこの方を用いる。
〈漢方診療の実際〉 大塚,矢数,清水 三先生
本方は膀胱及び尿道に於ける炎症に用いるもので実證に属し,急性或は亜急性の淋毒性尿道炎,バルトリン腺炎,或は膀胱カタル等で,小便渋痛,帯下,膿尿,陰部腫痛,鼠径腺の腫脹するものに用いる。一般的に体力未だ衰えず、脈も腹も相当力のあるものである。車前子,木通.沢瀉は利尿作用があって,尿道膀胱の炎症を去る。当帰,地黄は血行を盛んにし,且つ渋痛を緩和し、竜胆,山梔子,黄芩は消炎及び解毒の効がある。以上の目標に従って此方は急性或は亜急性淋疾,尿道炎,膀胱カタル,帯下,陰部痒痛・バルトリン腺炎,子宮内膜炎,下疳,横痃,睾丸炎,陰部湿疹等に応用される。
〈漢方処方解説〉 矢数 道明先生
下焦(下腹部,陰部の臓器)の諸炎症で,充血,腫張,疼痛をともなっているものに用いる。急性または亜急性の炎症があ改aても実略のものに用いるものである。脈も腹も緊張があって充実している。いわゆる肝経の湿熱というものは,腹部の両腹直筋が外側に沿って特有の緊張と過敏帯が認められ,そこに充血や実証の状態が現われる。
薛氏十六種(下疳門)
肝経の湿熱,或は嚢癰,便毒,下疳,懸癰,腹痛焮くが如く作り,小便渋滞,或は女人陰癃(バルトリン腺と大陰唇)痒痛,男子陽挺(亀頭)腫張,或は膿水を出すを治す。
『和漢薬方意辞典』 中村謙介著 緑書房
竜胆瀉肝湯(りゅうたんしゃかんとう) [薛氏]
【方意】 下焦の熱証・下焦の湿証による排尿渋難・排尿痛・残尿感・充血・発赤等と、上焦の熱証・上焦の熱証による精神症状としての皮膚浅黒色・掌蹠自汗・肩背強急・多怒等のあるもの。
《少陽病.実証》
【自他覚症状の病態分類】
【脈候】 実・緊数・弦滑数。
【舌候】 紅舌。乾燥した白苔・白黄苔・黄苔。
【腹候】 腹力中等度以上。下腹部の両腹直筋の外側(肝経)にそって、圧迫に対する抵抗と緊張過敏がある。時に胸脇苦満がみられる。
【病位・虚実】 熱証が中心的病態であり陽証である。表の寒証も裏の実証もなく少陽病に相当する。脈力、腹力あり実証である。
【構成生薬】 木通5.0 乾地黄5.0 当帰5.0 車前子3.0 黄芩3.0 沢瀉3.0 梔子1.5 甘草1.5 竜胆1.5
【方解】 木通・沢瀉・車前子は寒性の利水薬で、熱証・水毒に対応し炎症性の尿不利等を治す。竜胆は苦味健胃作用の他、消炎・解熱作用があり、前記の寒性の利水薬との組合せは、作用部位を下焦へと向かわせ、下焦の熱証・下焦の湿証による排尿渋難・排尿痛・残尿感等を治す。乾地黄も寒性の利水薬と組んで、下焦の熱証・下焦の湿証の血尿・化膿・瘙痒感・分泌液等を治す。黄芩・梔子は上焦の熱証に対応し、竜胆の消炎・解熱作用もこれに協力して、頭痛・眼痛・結膜充血・耳痛、更に上焦の熱証より派生する精神症状を治す。当帰は瘀血による月経異常・月経痛を治し、地黄もこれに協力する。甘草はこれらの生薬の作用を補い増強する。
【方意の幅および応用】
A 下焦の熱証・下焦の湿証:排尿渋難・排尿痛・残尿感・充血・発赤・化膿傾向等を目標にする場合。
尿路感染症、尿路結石、尿路不定愁訴、バルトリン腺炎、淋病による膀胱炎、帯下、
膣トリコモナス症、陰部瘙痒症、膣炎、子宮内膜炎、陰部湿疹、陰部潰瘍、下疳、
鼠径リンパ腺炎、睾丸炎、前立腺炎、勃起不全、急性骨盤腹膜炎、痔
2 竜胆瀉肝湯(りゅうたんしゃかんとう) (薜氏)
〔当帰(とうき)、地黄(じおう)、木通(もくつう)各五、黄芩(おうごん)、沢瀉(たくしゃ)、車前子(しゃぜんし)各三、竜胆(りゅうたん)、山梔子(さんしし)、甘草(かんぞう)各一・五〕
本方は、下焦、特に膀胱、尿道、子宮などが実したために起こる急性または亜急性の炎症に用いられる。したがって、充血、腫張、疼痛、排尿痛、尿淋瀝(小便が少量ずつ頻繁に出ること)、頻尿、帯下などを目標とする。
〔応用〕
つぎに示すような疾患に、竜胆瀉肝湯證を呈するものが多い。
一 尿道炎、膀胱炎、睾丸炎その他の泌尿器系疾患。
一 帯下、子宮内膜炎、膣炎その他の婦人科系疾患。
一 そのほか、そけいリンパ腺炎、陰部湿疹など。
『《資料》よりよい漢方治療のために 増補改訂版 重要漢方処方解説口訣集』 中日漢方研究会
80.竜胆瀉肝湯(りゅうたんしゃかんとう) 万病回春
当帰5.0 地黄5.0 木通5.0 黄芩8.0 沢瀉3.0 車前子3.0 竜胆1.5 梔子1.5 甘草1.5
〈現代漢方治療の指針〉 薬学の友社
膀胱や尿道,子宮などに炎症があって排尿時に痛みや困難があるもの。
本方は膀胱や尿元部位の炎症を目安に, 淋毒性や雑菌によるもの,あるいは化学療法剤で菌は消失したが,排尿痛,頻尿,排尿困難,膿尿,排尿前後の不快感などの自覚症状あるものに応用されている。本方が適応するものは肝機能に若干の障害があり手足の湿潤やヒフが浅黒い傾向があって,体力も比較的に旺盛なものに適することが多い。また本方は10歳以下の女子が淋毒患者の手指や手ぬぐいに接触したり,浴場の流し場などで感染し,外陰や膣粘膜が軟弱なためにおかされ,患部の充血や排尿痛,残尿感,「こしけ」などあるものによく用いられる。また女児や成人の別なく,用便時やその他で雑菌による前記症状あるものにもよい。以上のことから本方は陰門,バルトリン腺,尿道,膣や子宮などが発赤,腫張する急性や亜急性のもので尿意頻繁,排尿時の尿道痛,腰部や下腹部の圧迫感,女子にあっては帯下などを目標に応用すればよい。外陰瘙痒症に本方で奇効を得ることがあるが蟯虫やその他の寄生虫によるものでなく,帯下や不潔によるもの,または神経性の瘙痒で患部に変化のないものに用いられる。本方はまた桂枝茯苓丸や当帰芍薬散で効果のない場合の「こしけ」に用いしばしば効果がある。
<猪苓湯> 膀胱や尿道など,陰部およびその周辺の炎症で排尿痛,残尿痛,頻尿の点で本方証と似ているが,猪苓湯が適するものは炎症がさらにひどく,着色尿または血尿と口渇が伴うので,本方証と異なる。
<桂枝茯苓丸,桃核承気湯> 下腹部臓器の炎症と利尿障害が本方と類似するが,これら両者の処方には本方には認められない頭痛,精神不安などの神経症状を伴うので本方とは,若干その症候群が異なる。
『《資料》よりよい漢方治療のために 増補改訂版 重要漢方処方解説口訣集』 中日漢方研究会
80.竜胆瀉肝湯(りゅうたんしゃかんとう) 万病回春
当帰5.0 地黄5.0 木通5.0 黄芩8.0 沢瀉3.0 車前子3.0 竜胆1.5 梔子1.5 甘草1.5
〈現代漢方治療の指針〉 薬学の友社
膀胱や尿道,子宮などに炎症があって排尿時に痛みや困難があるもの。
本方は膀胱や尿元部位の炎症を目安に, 淋毒性や雑菌によるもの,あるいは化学療法剤で菌は消失したが,排尿痛,頻尿,排尿困難,膿尿,排尿前後の不快感などの自覚症状あるものに応用されている。本方が適応するものは肝機能に若干の障害があり手足の湿潤やヒフが浅黒い傾向があって,体力も比較的に旺盛なものに適することが多い。また本方は10歳以下の女子が淋毒患者の手指や手ぬぐいに接触したり,浴場の流し場などで感染し,外陰や膣粘膜が軟弱なためにおかされ,患部の充血や排尿痛,残尿感,「こしけ」などあるものによく用いられる。また女児や成人の別なく,用便時やその他で雑菌による前記症状あるものにもよい。以上のことから本方は陰門,バルトリン腺,尿道,膣や子宮などが発赤,腫張する急性や亜急性のもので尿意頻繁,排尿時の尿道痛,腰部や下腹部の圧迫感,女子にあっては帯下などを目標に応用すればよい。外陰瘙痒症に本方で奇効を得ることがあるが蟯虫やその他の寄生虫によるものでなく,帯下や不潔によるもの,または神経性の瘙痒で患部に変化のないものに用いられる。本方はまた桂枝茯苓丸や当帰芍薬散で効果のない場合の「こしけ」に用いしばしば効果がある。
<猪苓湯> 膀胱や尿道など,陰部およびその周辺の炎症で排尿痛,残尿痛,頻尿の点で本方証と似ているが,猪苓湯が適するものは炎症がさらにひどく,着色尿または血尿と口渇が伴うので,本方証と異なる。
<桂枝茯苓丸,桃核承気湯> 下腹部臓器の炎症と利尿障害が本方と類似するが,これら両者の処方には本方には認められない頭痛,精神不安などの神経症状を伴うので本方とは,若干その症候群が異なる。
〈漢方処方応用の実際〉 山田 光胤先生
○下腹部臓器,陰部の熱感,充血,疼痛,腫張のある実証のものに用いる。排尿痛,尿淋瀝,頻尿,帯下などを伴うこともある。患者は体力が中等度以上に充実し,冷え症ではなく脈にも腹にも力があるものである。
○勿誤薬室方函口訣「此方は肝経の湿熱というのが目的なれども湿熱の治療に三等あり,湿熱上行して頭痛甚だしく,或は目赤く耳鳴るものは小柴胡湯に竜胆,胡黄連を加えるとよい。もし湿熱表に薫蒸して諸蒼(できもの)を生ずるものは九味柴胡湯がよい。もし下部に流注して下疳,毒淋,陰触瘡を生ずる者は、此方の主なり。」
〈漢方治療の実際〉 大塚 敬節先生
○排尿痛,尿の淋瀝,頻尿等のあるものに用いるが,脈にも腹にも力があつて充実しているものに用い,体力が衰えたもの,冷え症のもの,貧血しているものなどには用いない。この方を瀉肝とよんだのは肝経の湿熱を治するからで矢数道明氏に随えば肝経湿熱とは梅毒,淋疾に見られる肝臓解毒作用障害の状態をいい,腹部肝経に沿うて緊張圧痛等を証明し,皮膚浅黒く,手足の裏,湿潤するものが多いという。私は淋疾からきた膀胱炎,尿道炎,子宮内膜炎などにしばしばこの方を用いる。
〈漢方診療の実際〉 大塚,矢数,清水 三先生
本方は膀胱及び尿道に於ける炎症に用いるもので実證に属し,急性或は亜急性の淋毒性尿道炎,バルトリン腺炎,或は膀胱カタル等で,小便渋痛,帯下,膿尿,陰部腫痛,鼠径腺の腫脹するものに用いる。一般的に体力未だ衰えず、脈も腹も相当力のあるものである。車前子,木通.沢瀉は利尿作用があって,尿道膀胱の炎症を去る。当帰,地黄は血行を盛んにし,且つ渋痛を緩和し、竜胆,山梔子,黄芩は消炎及び解毒の効がある。以上の目標に従って此方は急性或は亜急性淋疾,尿道炎,膀胱カタル,帯下,陰部痒痛・バルトリン腺炎,子宮内膜炎,下疳,横痃,睾丸炎,陰部湿疹等に応用される。
〈漢方処方解説〉 矢数 道明先生
下焦(下腹部,陰部の臓器)の諸炎症で,充血,腫張,疼痛をともなっているものに用いる。急性または亜急性の炎症があ改aても実略のものに用いるものである。脈も腹も緊張があって充実している。いわゆる肝経の湿熱というものは,腹部の両腹直筋が外側に沿って特有の緊張と過敏帯が認められ,そこに充血や実証の状態が現われる。
薛氏十六種(下疳門)
肝経の湿熱,或は嚢癰,便毒,下疳,懸癰,腹痛焮くが如く作り,小便渋滞,或は女人陰癃(バルトリン腺と大陰唇)痒痛,男子陽挺(亀頭)腫張,或は膿水を出すを治す。
『和漢薬方意辞典』 中村謙介著 緑書房
竜胆瀉肝湯(りゅうたんしゃかんとう) [薛氏]
【方意】 下焦の熱証・下焦の湿証による排尿渋難・排尿痛・残尿感・充血・発赤等と、上焦の熱証・上焦の熱証による精神症状としての皮膚浅黒色・掌蹠自汗・肩背強急・多怒等のあるもの。
《少陽病.実証》
【自他覚症状の病態分類】
下焦の熱証 下焦の湿証 | 上焦の熱証・上焦の熱証による精神症状 | 瘀血 | 水毒 | |
主証 | ◎排尿渋難 | ◎皮膚浅黒色 | ||
客証 | ○排尿痛 残尿感 混濁尿 頻尿 血尿 ○下焦の充血 発赤 腫脹 化膿傾向 疼痛 陰部瘙痒感 分泌液 帯下 ○便秘 | ○掌蹠自汗 ○肩背強急 ○口渇 ○頭痛 眼痛 ○結膜充血 ○目眩 ○耳鳴 耳痛 難聴 発赤 腫脹 ○多怒 感情不安定 不眠 筋緊張亢進 | 月経異常 月経痛 | 腹水 陰嚢水腫 尿不利 |
【脈候】 実・緊数・弦滑数。
【舌候】 紅舌。乾燥した白苔・白黄苔・黄苔。
【腹候】 腹力中等度以上。下腹部の両腹直筋の外側(肝経)にそって、圧迫に対する抵抗と緊張過敏がある。時に胸脇苦満がみられる。
【病位・虚実】 熱証が中心的病態であり陽証である。表の寒証も裏の実証もなく少陽病に相当する。脈力、腹力あり実証である。
【構成生薬】 木通5.0 乾地黄5.0 当帰5.0 車前子3.0 黄芩3.0 沢瀉3.0 梔子1.5 甘草1.5 竜胆1.5
【方解】 木通・沢瀉・車前子は寒性の利水薬で、熱証・水毒に対応し炎症性の尿不利等を治す。竜胆は苦味健胃作用の他、消炎・解熱作用があり、前記の寒性の利水薬との組合せは、作用部位を下焦へと向かわせ、下焦の熱証・下焦の湿証による排尿渋難・排尿痛・残尿感等を治す。乾地黄も寒性の利水薬と組んで、下焦の熱証・下焦の湿証の血尿・化膿・瘙痒感・分泌液等を治す。黄芩・梔子は上焦の熱証に対応し、竜胆の消炎・解熱作用もこれに協力して、頭痛・眼痛・結膜充血・耳痛、更に上焦の熱証より派生する精神症状を治す。当帰は瘀血による月経異常・月経痛を治し、地黄もこれに協力する。甘草はこれらの生薬の作用を補い増強する。
【方意の幅および応用】
A 下焦の熱証・下焦の湿証:排尿渋難・排尿痛・残尿感・充血・発赤・化膿傾向等を目標にする場合。
尿路感染症、尿路結石、尿路不定愁訴、バルトリン腺炎、淋病による膀胱炎、帯下、
膣トリコモナス症、陰部瘙痒症、膣炎、子宮内膜炎、陰部湿疹、陰部潰瘍、下疳、
鼠径リンパ腺炎、睾丸炎、前立腺炎、勃起不全、急性骨盤腹膜炎、痔
B1上焦の熱証・上焦の熱証による精神症状:皮膚浅黒色・掌蹠自汗等を目標にする場合。
肝炎、肝硬変、胆嚢炎
肝炎、肝硬変、胆嚢炎
2上焦の熱証・上焦の熱証による精神症状:発赤・腫脹等を目標にする場合。
結膜炎、中耳炎、鼻前庭・外耳道のフルンケル、帯状疱疹
3上焦の熱証・上焦の熱証による精神症状:多怒・感情不安定等を目標にする場合。
ノイローゼ、高血圧症に伴う精神症状、自律神経失調症
B 瘀血:月経異常・月経痛を目標にする場合。
不妊症
【参考】*肝経湿熱(梅毒等の性器疾患)、玉茎、瘡を患い、或は便毒(よこね)、下疳、懸癰(会陰部の癰、コンジロームなど)の腫痛、小便赤く渋滞し、陰嚢の腫痛す識を治す。『薛氏』
* 此の方は肝経湿熱と云うが目的なれども、湿熱の治療に三等あり。湿熱上行して頭痛甚だしく、或は目赤耳鳴者は小柴胡湯加竜胆胡黄連に宜し。若し湿熱表に薫蒸して諸蒼を生ずるものは九味柴胡湯に宜し。若し下部に流注して下疳、毒淋、陰触瘡を生ずる者は此の方の主なり。又主治に据(よ)りて嚢癰、便毒、懸癰又び婦人陰癃痒痛に用う。皆熱に属する者に宜し。臭気者は奇良を加うべし。『勿誤薬室方函口訣』
* 本方意や猪苓湯証のように尿不利を伴う熱証を湿熱という。温病中の一つとされる。症状は発熱・頭痛・身重痛・腹満・食欲不振・尿不利で黄赤色、舌は黄膩苔、脈濡数等を示す。
* 肝経は目・耳をめぐり頭部へ連なるために、これらの部位の疾患は肝と関係があると考えられている。肝経の亢進は筋腱の緊張過度となるといわれ、本方意にもその傾向がある。本方は肝の湿熱を除去する作用があり、肝硬変症に応用される。
* 一貫堂の竜胆瀉肝湯は本方に芍薬・川芎・黄連・黄柏・連翹・薄荷・防風を加味したもので、慢性になったものに用いる。この竜胆瀉肝湯で舌癌の治験例がある。
【症例】 帯下
31歳の婦人。体格栄養共に普通で一見すれば標準の健康体というべき印象を受ける。脈腹共に申し分ない緊張度である。しいていえば左の臍傍に少し圧痛がある。
主訴は8ヵ月前から月経が早めにあるようになった。婦人科では子宮にただれがあり内膜炎で、黄色の帯下がひどく、痒みもある。初めに八味帯下方を与えてみたが、10日間服用しても少しも変わりがないという。そこで竜胆瀉肝湯にしたとこ犯、20日間で帯下がすっかり止ま改aた。
八味帯下方と竜胆瀉肝湯との鑑別は判然としないが、八味帯下方は慢性で腹部が軟らかで、貧血気味のものによう効くように思われ、竜胆瀉肝湯はより炎症充血があって、陽実証の傾向あるものに良いと思われる。
矢数道明 『漢方の臨床』13・11・36
痛風
知人の内科医が困っていた。左第一中趾関節の急性発作で、第2回目の発作の時に治療の相談を受けた。これまでは疼痛の緩解のまるまでコルヒチンの内服を続けていた。私は竜胆瀉肝湯と桂枝茯苓丸料を併用した。
肝経湿熱、下部に流注して、下疳毒淋陰蝕瘡を生ずるものはこの方が良い。また瘀血より来る黴瘕を去るため桂枝茯苓丸料を併用した。疼痛発作は次第に薄れた。その後、小学校のPTA会誌に、痛風が漢方で治ったと手記を発表し、その本を私にみせてくれた。
大村明 『漢方の臨床』 14・10・47
* 一貫堂の竜胆瀉肝湯は本方に芍薬・川芎・黄連・黄柏・連翹・薄荷・防風を加味したもので、慢性になったものに用いる。この竜胆瀉肝湯で舌癌の治験例がある。
【症例】 帯下
31歳の婦人。体格栄養共に普通で一見すれば標準の健康体というべき印象を受ける。脈腹共に申し分ない緊張度である。しいていえば左の臍傍に少し圧痛がある。
主訴は8ヵ月前から月経が早めにあるようになった。婦人科では子宮にただれがあり内膜炎で、黄色の帯下がひどく、痒みもある。初めに八味帯下方を与えてみたが、10日間服用しても少しも変わりがないという。そこで竜胆瀉肝湯にしたとこ犯、20日間で帯下がすっかり止ま改aた。
八味帯下方と竜胆瀉肝湯との鑑別は判然としないが、八味帯下方は慢性で腹部が軟らかで、貧血気味のものによう効くように思われ、竜胆瀉肝湯はより炎症充血があって、陽実証の傾向あるものに良いと思われる。
矢数道明 『漢方の臨床』13・11・36
痛風
知人の内科医が困っていた。左第一中趾関節の急性発作で、第2回目の発作の時に治療の相談を受けた。これまでは疼痛の緩解のまるまでコルヒチンの内服を続けていた。私は竜胆瀉肝湯と桂枝茯苓丸料を併用した。
肝経湿熱、下部に流注して、下疳毒淋陰蝕瘡を生ずるものはこの方が良い。また瘀血より来る黴瘕を去るため桂枝茯苓丸料を併用した。疼痛発作は次第に薄れた。その後、小学校のPTA会誌に、痛風が漢方で治ったと手記を発表し、その本を私にみせてくれた。
大村明 『漢方の臨床』 14・10・47
※奇良
山帰来(さんきらい)、土茯苓(どぶくりょう)、Smilax glabra、
地茯苓、奇糧、岐良、山牛、飯塊、山歸來(山帰来)、過山龍、地粟、山豬糞、山奇糧
副作用
1) 重大な副作用と初期症状
1) 間質性肺炎 :咳嗽、呼吸困難、発熱、肺音の異常等があらわれた場合には、本剤の投与を中止し、速やかに胸部X線、胸部CT等の検査を実施するとともに副腎皮質ホルモ ン剤の投与等の適切な処置を行うこと。
[理由]
平成25年1月8日付薬食安発0108第1号「使用上の注意」 の改訂について に基づく改訂
本剤によると思われる間質性肺炎の企業報告の集積により、厚生労働省内で検討された結果。
[処置方法]
直ちに投与を中止し、胸部X線撮影・CT・血液ガス圧測定等により精検し、ステロイド剤 投与等の適切な処置を行う。
2) 偽アルドステロン症 :低カリウム血症、血圧上昇、ナトリウム・体液の貯留、浮腫、体重増加等の偽アルドステロン症があらわれることがあるので、観察(血清カリウム値の測定等)を十分に行い、異常が認められた場合には投与を中止し、カリウム剤の投与等の適切な処置を行う。
3) ミオパシー :低カリウム血症の結果としてミオパシーがあらわれることがあるので観察を十分に行い、脱力感、四肢痙攣・麻痺等の異常が認められた場合には投与を中止し、カリウム剤の投与等の適切な処置を行う。
[理由]
厚生省薬務局長より通知された昭和53年2月13日付薬発第158号 「グリチルリチン酸等を含有す る医薬品の取り扱いについて」 及び医薬安全局安全対策課長よ り通知された平成9年12月12日 付医薬安第51号 「医薬品の使用上の注意事項の変更について」 に基づく。
[処置方法]
原則的には投与中止により改善するが、血清カリウム値のほか血中アルドステロン・レニン活性等の検査を行い、偽アルドス テロン症と判定された場合は、症状の種類や程度によ り適切な治療を行う。 低カリウム血症に対しては、カリウム剤の補給等により電解質バランスの適正化を行う。
4) 肝機能障害、黄疸 :AST(GOT)、ALT(GPT)、Al‑P、γ‑GTPの著しい上昇等を伴う肝機能障害、黄疸があらわれることがあるので、観察を十分に行い、異常が認められた場合には投与を中止し、適切な処置を行なう。
[理由]
平成22年10月26日付薬食安発1026第1号「使用上 の注意」の改訂について に基づく改訂
本剤によると思われる肝機能障害、黄疸の企業報告の集積により、厚生労働省内で検討された結果。
[処置方法]
原則的には投与中止により改善するが、病態に応じて適切な処置を行う。
2)その他の副作用
消化器:口渇、食欲不振、胃部不快感、悪心、嘔吐、下痢等
[理由]
本剤には地黄(ジオウ)・当帰(トウキ)・山梔子(サンシシ)が含まれているため、食欲不振、 胃部不快感、悪心、嘔吐、下痢等の消化器症状があらわれるおそれがあるため。
[処置方法]
原則的には投与中止により改善するが、必要に応じて適切な処置を行うこと。