『《資料》よりよい漢方治療のために 増補改訂版 重要漢方処方解説口訣集』 中日漢方研究会
26.柴胡加竜骨牡蛎湯湯 傷寒論
(傷寒論)
○傷寒八九日,胸満煩驚,小便不利,讝語,一身尽重,不可転側者,本方主之(太陽中)
〈現代漢方治療の指針〉 薬学の友社
精神不安があって驚きやすく,心悸亢進,胸内苦悶,めまい,のぼせ,不眠などを伴い,あるいは臍部周辺に動悸を自覚し,みぞおちがつかえて便秘し,尿量減少するもの。
本方は動脈硬化,高血圧に起因するノイローゼおよび小児の神経症に繁用されるが,通常あまり衰弱しておらず,比較的体力のある状態において目標欄記載の症状に使用されるものである。衰弱して軟便あるいは下痢気味の虚弱者の神経衰弱には本方は不適で,この場合は柴胡桂枝干姜湯あるいは桂枝加竜骨牡蛎湯を考慮すべきである。また本方は平常強健な人の脱毛症にしばしば奇効を発揮する。青年,中年以降の精力減退もしくはノイローゼには大柴胡湯と共によく用いられるが,この両者の鑑別は本方適応症状は神経症状が著明で胸部または腹部における動悸を自覚するのに比べて,大柴胡湯適応症状は前者よりみぞおち周辺が硬く張って,便秘症状も一層甚だしいものである。本方を服用後下痢の著しい場合は柴胡桂枝湯と合方して,本方の1回の服用量を減すか,あるいは大黄を配合しない他の適明な処方に転方すべきである。
〈漢方処方解説シリーズ〉 今西伊一郎先生
本方は比較的体力あるものの神経症状や,高血圧,動脈硬化および精力減退などに起因するノイローゼに繁用されるが応用のポイントとして精神不安,胸部や腹部の動悸,便秘,以上の三つの症状があればまず応用できる。
(1) 心臓疾患 通常心臓に器質的な変化は認められないが,動悸,心悸亢進,胸部圧迫感,胸内苦悶などを自覚し,著しい不安感あるものによく適応する。この症状に似て虚弱な体質のものには桂枝加竜骨牡蛎湯,衰弱して盗汗,微熱,軟便下痢などを認めるものには柴胡桂枝干姜湯を考慮すればよい。
(2) 高血圧症,動脈硬化症,本方が適するこれらの疾患は,疾患そのものよりそれに伴うノイローゼが目安となり、従って血圧も測定のたびに変動が大きいといった傾向がある。なお胃部のつかえが著しく,ひどい便秘で腹部の動悸を自覚しないものには,大柴胡湯を考慮する。
(3) 精神神経病 比較的体力があるにもかかわらず,わずかな精神ショックを気にし,精神不安,不眠,動悸,便秘を訴えるものによい。これに関連してかかりやすい脱毛症や青年,または中年以降の性的ノイローゼや陰萎に用いられ,奇効を奏している。
(4) バセドウ病,体力あるものの,一見して眼球がとび出ており,心悸亢進や便秘を訴えるものに,本方の適応する例が多い。
(5) 腎臓疾患 浮腫は認められないが尿量減少して便秘し,神経症状が著明で血圧が上昇するものに適するが,頭痛,のぼせがあるものには桃核承気湯も考慮する。
〈漢方診療30年〉 大塚 敬節先生
○柴胡加竜骨牡蛎湯の原方には黄芩のない処方と黄芩のある処方の二方があるが,私は黄芩のあるものを用いている。また原方には鉛丹が配剤されているが私はこれを除いている。また時には甘草を加えたり,大黄を除いたりして用いることもある。癲癇には芍薬,釣藤,黄連などを加えて用いることもある。羚羊角も加えた方が良いが,これの本物が入手困難であり,またたいへん高価なため,この頃は用いない。柴胡加竜骨牡蛎湯の腹証は大柴胡湯と同じように上腹部が膨満し,胸脇苦満もあり,しばしば臍部で動悸が亢進していることがある。便秘の傾向がなければ大黄を去って用いる。
○この方は神経症,血の道症,精力減退,陰萎,心臓肥大症,心臓弁膜症,高血圧症,動脈硬化症,不眠症,神経性心悸亢進,癲癇,バセドウ氏病などに用いられる機会がある。
〈漢方処方応用の実際〉 山田 光胤先生
○傷寒(熱病)では発熱後数日たってなお熱があり,胸脇苦満があって,いわゆる脳症をおこし,意識混濁してうわごとをいったり,全身が重く苦しく,ねがえりもできず,尿利が減少するもの。
○雑病(無熱の慢性病一般)では,熱がなくても小柴胡湯や大柴胡湯の腹証に似て,季肋下や心下が硬く張り,腹診するとその部分に抵抗や圧痛をみとめ,また臍傍の動悸が亢進している。心悸亢進,めまい,頭痛,頭重,感,のぼせ,不眠,易疲労,不安,煩悶,憂うつ感,神経過敏や朦朧感,集中困難,記憶,記銘力減退(もの忘れ),物事に対する興味喪失などの精神経経症状を呈し,便秘や尿利減少の傾向があるもの。
○類聚方には小柴胡湯の証で,胸部や腹部の動悸が亢進しては煩躁驚狂,大便が秘結して尿利が減少するものとある。煩躁は苦しみもだえること,神経症で動悸,めまいの発作(不安発作)を呈して,今にも死にそうに苦しみさわぐのは,一種の煩躁である。驚狂は狂躁状態を呈し,あばれ狂うことで,てんかんの発作や精神病の興奮状態,ヒステリー発作などに相明する。
○柴胡加竜骨牡蛎湯の腹証は腹部の緊張がよい筋肉質のものと,いわゆる蛙腹で膨満しているが軟弱気味のものがある。後者の場合には時に軽度の心下部振水音を呈するものがある。これは用方経権にいう水飲のあるものであろう。
〈漢方治療の実際〉 大塚 敬節先生
○この処方の用いる患者は肥満していて,上腹部が膨満し,胸脇苦満があり,臍部で動悸が亢進し,興奮しやすく,驚きやすく,めまい,動悸,息切れなどを訴える。便秘の傾向がある。
○方輿輗では小柴胡湯,大柴胡湯,柴胡姜桂湯,柴胡加竜骨牡蛎湯をあげて次のようにのべている。「癲狂,驚悸,不寝,好忘の症でも,胸脇にかかる者は右の四方を症に随ってえらんで用いるがよい。この外にこれらを例として,柴胡別甲湯の類,或は後世家ならば逍遙散,抑肝散などの類を広く用いる。後世家は柴胡姜桂湯の処へ逍遙散を用い,大小柴胡湯の処はおおかた抑肝散を用いる。以上の四方の内で,動悸を治する者は柴胡加竜骨牡蛎湯である。柴胡姜桂湯を用いるような動悸で,この方を用いても効のない時は格別に胸満煩驚がなくても柴胡加竜骨牡蛎湯を用いてよく動悸のおさまるものである。また柴胡加竜骨牡蛎湯を用いて効のある程の動悸には必ず多少の胸満,煩驚の症がそろうものである。柴胡姜桂湯と柴胡加竜骨牡蛎湯とはよく似ていて,動悸が主である。胸満煩驚の証は姜桂湯にもあるけれども,姜桂湯の方は虚証で,竜骨牡蛎湯の方は実証である。」
○饗英館療治雑話「この方を癇症やて癲狂に用いてしばしば効を得た。前に云う通り当通の病人は気鬱と肝鬱の病人が10中の7,8である。肝鬱の募ると癇症となる。婦人はわけても肝鬱と癇症が多い。この場合を会得すれば当今の雑病の治療も困難ではない。傷寒論では胸満,煩驚,小便不利の者に用いてある。この数症の中で胸満が主症で,煩驚,小便不利が客証である。ひっきょう胸満するから自然と胸中が煩する。煩するから精神が不安で事にふれて驚くようになる。気が胸に上って結ばれるからそこに鬱積してめぐらない。それで小便の不利がおこる。それ故にこの方を用いる標準は胸満である。もちろん大小便が通じわるく,煩驚があれば正面の証である。さて癇症は色々の証をあらわす病で,夜床につくと,眼に色々のものがみえたり,みだれ気が臍の下からせめ上って呼吸が促迫して脚気衝心のようになり,発作のたびに手足がひきつれ,ひどい時は痙病のように,そりかえる。夜間たまたま眠ると種々の夢を見,種々の症状を現わす。このような場合に胸満,煩驚,小便不利があれば必ずこの方を用いるがよい。
〈漢方診療の実際〉 大塚,矢数,清水 三先生
本方は大柴胡湯或は小柴胡湯の如くにして,心下部に膨満の感があり,腹部特に臍上に動悸を認め,上衝,心悸亢進,不眠,煩悶の状があって驚きやすく,甚しい時は狂乱,痙攣等の症状を呈するものに用いる。多くは便秘,尿利減少の傾向がある。本方中の柴胡,黄芩は特に胸脇部に働き,解熱,疎通,鎮静の効がある。竜骨,牡蛎は鎮静的に作用し,胸腹の動悸を鎮め,心悸亢進,不眠,驚狂等の神経症状を治する。桂枝は上衝を治し,茯苓は尿利をよくし,半夏と共に胃内停水を去る。茯苓はまた竜骨,牡蛎と協力して心悸亢進を治する。大棗,生姜は諸薬を調和して薬効を強化する。大黄は腸管を疎通し,消炎かつ鎮静の効能がある。本方は以上の目標に従って,神経衰弱症,ヒステリー,神経性心悸亢進症,陰萎症,癲癇,動脈硬化症,脳溢血,慢性腎臓炎,心臓弁膜症,バセドウ病,小児夜啼症,老人の慢性関節炎,火傷後の発熱等に用いられる。
〈漢方処方解説〉 矢数 道明先生
体質的には実証の方で,大柴胡湯と小柴胡湯との中間程度ともいうべき,胸脇苦満,心下部の抵抗がある。心下部に膨満の感があり,腹部とくに臍上の動悸を認めることが多く,腹部大動脈の亢進による腹部神経症状がある。すなわち,上衝,心悸亢進,不眠,煩悶等の症状があり,驚きやすく,あるいはいらいらして怒りやすく,気分が変わりやすく,落ちつきを欠き,甚だしいときは狂乱,痙攣の症状を呈する。小便不利,便秘の傾向がある。また一身尽く重く,転側すべからざるとあることにより,動作不活発,体を動かすのが大儀であると訴える疲労感,浮腫や麻痺のあるものに用いられる。脈は緊張強く,跳動する傾向がある。
〈漢方入門講座〉 竜野 一雄先生
運用 1. 煩驚の神経症状を目標にする。
煩驚とは,煩と驚とに分けて考えるとよい。煩はわずらわしいことで,何でも気にする。色々と気を遣う,煩悶するなどの意であって,一つの原因乃至刺戟に対して幾つもの回答反応が出てしかもそれを判定統一することが出来ずにいる状態である。驚はおどろくだが,煩驚とは驚きやすいことで,或は原因乃至刺戟に対して過大な反応を示す状態である。刺戟に対する反応が速くてその間に意志的に刺戟の価値を判別したり心構えを作る余裕がなくて直ちに反応してしまう。それ故官覚的刺戟,例えば物音,光などに対しては特に敏感である。例えば電話のベルにハッとしたり,マッチの火にびっくりしたりするなどである。驚けば動悸する。そういう風に気苦労が多いから夢見ることも多く,不眠にもなる。神経症状が強いから劇しいときは譫妄や脳症や癲癇を起こすこともある。傷寒論太陽病中篇「傷寒8,9日,之を下し,胸満煩驚,小便利せず,譫語,一身尽く重く転側すべからざるもの」はこの状態を述べたものである。8,9日間続けて下したのではなく,8,9日目に下剤の適応証になった時機に下したのだが,素因的に気動性があるので,下したために裏気が動き且つ下虚に陥る。裏気が動く結果気の上衝を起し,胸に迫り,胸満感と煩驚と譫語を呈する。気上衝と下虚とにより小便不利となり,小便に出るべき水分は上衝に伴い表に浮んで身重となり,転側すべからざるに至る。転側すべからずとは自分でも動けないし,人に助けて貰っても動けないとの意である。それは程度が強いことを示すもので,一身尽くに対応するものだ。この条文の意を運用して先ず神経症状に使うことは前述の通りだが,その他ヒステリー,神経衰弱,神経質,神経性心悸亢進症,心臓性喘息,心臓弁膜症,狭心症,バセドウ氏病などで胸部圧迫感と動悸を目標に,眩暈,不眠症,夜啼き,耳鳴等,動脉硬化症や高血圧症で神経症状があるものなどに頻用する。(後略))
運用 2. 身重く転側すべからずの状態に用いる。
その状態は浮腫でも,麻痺でも四肢疼痛でも起り得るから,腎炎,ネフローゼ,萎縮腎,肝硬変症,心臓脚気などで浮腫,心悸亢進,腹動などのあるもの,脳溢血で半身不随を起し,或は浮腫を伴い,或は腹動のあるもの,慢性関節リウマチで腹動や心臓弁膜症を兼ねているものなどにも使う。浮腫に使う処方は多いが腹動があれば本方の決定を誤ることはない。
〈類聚方広義〉 尾台 榕堂先生
○狂病,胸腹動甚しく,驚懼人を避け,兀座(ぼんやりしてすわる)独語し,昼夜眠らず,或は猜疑(そねみうたがう)多く,或いは自から死せんと欲し,床に安からざる者を治す。
○癇症,時々寒熱交作,鬱々として悲愁し,多夢少寝,或は人に接するを悪み,或は暗室に屏居し,殆んど労瘵(肺結核)の如きを治す。狂癇二症,亦当に胸脇苦満,上逆,胸腹動悸等を以て目的と為すべし。癲癇,居常胸満上逆し,胸腹動有り,毎月二,三発に及ぶ者,常に此方を服して懈らざれば,則ち屡々発するの患なし。
〈古方薬嚢〉 荒木 性次先生
胸の中一杯につまりたる気持し,気落ちつかず,驚きやすく,小便の出悪く,うわごとのようなことを云い,からだの中がだるく,重くして身動きもならぬもの。大病中に此症を発するものもあり,また平常の気鬱が亢じて此症を生ずる者もある。便通は大概秘し勝なり。
〈蕉窓方意解〉 和田 東郭先生
これまた大柴胡湯方中において,竜骨四両牡蛎五両を加えたるものなり。すなわち,大柴胡湯の症にして,胃口より胸中に多く飲を蓄えて,その飲の激動するを鎮むる薬なり。故に本論にも胸満煩驚,小便不利とあり,胃口より胸中には飲を蓄えて胃中には燥屎実熱を蓄うるの症なり。
『大塚敬節著作集』 第七巻 薬方・薬物篇
柴胡加竜骨牡蠣湯方について
柴胡加竜骨牡蠣湯方は『傷寒論』中にあって,最も異論の多い方剤である。目下私の手許にある書物について調べてみても、次のような異説がある。即ち、『宋版傷寒論』にあっては、次の十二味からなっているが、成本では黄芩がなくて十一味である。
柴胡加竜骨牡蠣湯方
柴胡四両 竜骨 黄芩 生姜切 鉛丹 人参 桂枝去皮 茯苓各一両半 半夏二合洗 大黄二両 牡蠣一両半熬 大棗六枚孽
我が国の先哲は左に表示するように、宋版に従うもの、成本に従うもの、或いは小柴胡湯加竜骨牡蠣とするもの、大柴胡湯加竜骨牡蠣とするもの等があって、浅学な私のようなものは、そのいずれに従うべきか、惑わざるを得ないのである。
宋版(十二味にして、黄芩のある方)に従うもの
橘南谿(『傷寒論分註』)
謹みて按ずるに成本に黄芩あり、他本に無きは恐くは脱するならん、今十棗湯の例によって之を考ふるに、方後に右十一味の下に大黄あるを曰ふ、則ち上の所謂十一味中に黄芩あるを知るなり。(筆者按ずるに、成本に黄芩ありというは、恐らくは宋版に黄芩ありの誤りならん)
丹波元簡(『傷寒論輯義』)
難波抱節(『類聚方集成』)
木村博昭(『傷寒論釈義』)
奥田謙蔵(『皇漢医学要方解説』)
成本(十一味、黄芩のない方)に従うもの
香川修庵(『小刻傷寒論』)
吉益東洞(『類聚方』)
内島保定(『古方節義』)
中西惟忠(『傷寒論辨正』)
雉間子炳(『類聚方集覧』)
宇津木昆台(『風寒熱病方経編』)
浅田宗伯(『薬場方函』)
宋版十二味の方に、更に甘草を加えて十三味とすべしと論ずるもの
尾台榕堂(『類聚方広義』)
柳田子和(『傷寒論釈解』)
此本、小柴胡湯、しかも方中甘草なし、然れども方名に甘草を去るを曰はず、方後に云ふ、本云ふ柴胡湯、今竜骨等を加ふと玉函に云ふ、本方は柴胡湯内に竜骨牡蠣黄丹桂枝茯苓大黄を加ふるなり、今分って半剤を作ると、而も亦甘草を去るを言はず、是を観れば、則ち甘草なき者は、蓋し歴年の久しき、必ず之を脱するならん、十二味に作るは、後人甘草なきに従ひ、之を改むるなり。
湯本求真(『皇漢医学』)
小柴胡湯に竜骨牡蠣を加うべしとするもの
山田正珍(『傷寒論集成』)
按ずるに方名に柴胡加竜骨牡蠣湯と曰う。則ち小柴胡湯方中に於て二物を加ふべきなり。しからずんば加字義を失す。今此方に鉛丹桂枝茯苓大黄の四味ある者は、仲景氏の本色に非ざるなり。方後に先づ諸薬を煮て後、大黄を入れ、又び切ること碁子の如くすの文、煎法中に在る者、論中に再見することなし。倍々其真方ならざるを知るなり。外台に此方を千金翼より引きて、傷寒論より引かず。亦以て証すべし。劉棟云ふ、大柴胡湯方中に二品を加ふるなりと、非なり。説、前の柴胡加防止用湯の条に見ゆ。
及川東谷(『傷寒論古訓伝』)
旧本、伝来の方は、蓋し禁方の古に非ず、故に小柴胡湯方に於て、更に竜骨牡蠣各三両を加え、以って家伝となす。詳に方意握機伝に見ゆ。
川越大亮(『傷寒脈証式』)
按ずるに此方、態度備はらざるなり。蓋し後人之を他書より偸竊して、之を此に充つるものか。本条、顕に柴胡加竜骨牡蠣湯と曰ふ。則ち方の隊伍する所、既に方名に即して弁ずるに足る。豈、他の按を容るるを俟んや。柴胡は乃ち小柴胡湯なり。竜骨牡蠣は今其斤両を脱す。然りと雖も之を救逆湯に徴すれば、則ち当に竜骨四両牡蠣五両なるべし、而して其煎法及び服法の如きは則ち当に小柴胡湯の法に従ふべきのみ。
※「骨竜牡蠣は今其斤両を脱す。」の骨竜は竜骨の誤植と思われるため、訂正した。
原元麟(『傷寒論精義』)
此方名づけて柴胡加竜骨牡蠣湯と曰ふ、則ち小柴胡湯中に於て、竜骨牡蠣を加ふ、是れ本論の通例なり。今、此方、竜骨、牡蠣ありと雖も他薬材多種、特に小柴胡湯中に、竜骨牡蠣を加ふるのみに非ず、則ち命名其例に戻る、且つ分量も亦其例に合はず、後人の杜撰贋造たるや疑なし、宜しく旧本、伝来の方は、蓋し禁方の刪去すべし。
大柴胡湯に竜骨牡蠣を加うべしとするもの
白水田良(『傷寒論劉氏伝』)、和田東郭(『蕉窓方意解』)
浅野元甫(『傷寒論国字弁』)
右の方後人に出る者なり。凡本編の方、加を以って称する者は、本方に一二味を加る者なり。諸方の例皆然り。然るに此方大柴胡湯に芍薬枳実を去り、他の六味を加る者にして大柴胡湯と大に異なり。何んぞ柴胡加竜骨牡蠣湯等と云ふことを得んや、是名正しからざる者にして、後人に出ること審なり。今諸方の例に従ひ、且其主症による時は、大柴胡湯に竜骨牡蠣の二味を加る者疑なし。
邨井琴山(『類聚方補遺』)
按ずるに、当に小柴胡湯証にして胸腹動ある者なるべし。此方本、胸満煩驚小便不利譫語一身尽く重く転側すべからざる者を治す。法に依って、方を按じ証を按ずるに則ち此方、茯苓大黄桂枝鉛丹の預るところなし。而るに煩驚の急迫有り、柴胡湯の名あって、然も今甘草なき者は何ぞや。又命じて之を柴胡加竜骨牡蠣湯と謂ふ。茯苓桂枝大黄鉛丹の名なし。又曰ふ本、柴胡湯今竜骨等を加ふと云ふ。然らば愈是れ小柴胡湯方内に竜骨牡蠣を加ふる者なり。
※「又命じて之を胡柴加竜骨牡蠣湯と謂ふ。」の胡柴は柴胡の誤植と思われるため、訂正した。
武藤直記(『方極図説』)
柴胡加竜骨牡蠣湯、小柴胡湯証にして胸腹及臍下動ある者を治す。小柴胡湯方内に於て竜骨牡蠣各三両を加ふ。
右の諸家のうち、難波抱節、中西惟忠、宇津木昆台の如きは、柴胡加竜骨牡蠣湯は柴胡竜骨牡蠣湯と改むべきであると主張する。宋版若しくは成本に従うものが、かくの如き説を立つるに至るは当然のことと思われるが、われわれ臨床家にとっては、加の字の有無いかんよりも、その薬味が問題である。
さて、われわれは右の諸説のうち、いずれに従うべきであろうか。机上の考証だけでは医の学問は落第である。いずれが正しいかは、実地に患者に応用した上でなければ決めることは出来ない。そこで私は或いは宋版に従い、或いは成本に従い、或いは尾台氏説に従い、それぞれ効力を試験することにした。が、ここに一つの問題に逢着した。それは私の技術がいまだ未熟なるが故に、処方分経英案f正しいのにかかわらず、方証石合わざるが故と、効果のないものがあったのではないかということである。かくの如き場合はもちろん相当にあり得ることである。故に私は相当の成果を収め得た患者のみを材料として、次のような表を作った。左の患者は病名は異なるが、いずれも胸満煩驚を主目標としたものである。
長井○セ(四十二歳) 産後五十日目。胸満、動悸、浮腫、咳嗽、時々湯の如きもの子宮より下る。小便をこらえると出にくくなる。全身あちらこちら痛む(患者の訴えをその順序のまま記載した。以下同じ)。脈緊にして数、貧血を証明する。
第一週 成本方去鉛丹(効果顕著)
河西○シ(四十二歳) 慢性腎炎兼動脈硬化症。頭重、脊がこる、めまい、動悸、時々不眠、動悸のする時は余計に胸が張る。小便一日四、五回、量も普通。大便一日一行(ただし残る気味あり)。時々身体が火の如く灼ける。月経は正調、息切れがあり。驚きやすい。血圧最高二六〇。
第一週 成本方去鉛丹(効果顕著)
第二週 以下同方
瓜○と○子(四十四歳) 子宮内膜炎。腹が張って肛門のの方へつる。白帯下が多量に下りる。包下の止まるという漢方の薬を某所で貰って飲むと、余計に下りたので服薬を中止したことがある。小便頻数。大便一日一行。月経は毎月あるが三日位で量は少ない。頭重、腰部寒冷の感あり。右肩こり、右手が痛む。心下部は膨満して抵抗あり、よく問診するに、呑酸嘈囃の症状もあることと判明す。殊に胸部の膨満ある時は他の症状の増悪することも分かった。
第一週 成本方去鉛丹(効果著明)
第二週 宋版去鉛丹加甘草(飲みやすいが、効力は前回のものより劣るという)
第三週 成本方去鉛丹(効果著明)
第四週 成本方去鉛丹(全快せりという)
○○きよ(四十歳) 慢性腎臓炎。小便が出そうで行ってみるとタラタラと出るだけである。腹が張ってくると余計に小便の出方が悪く、腹の張ることの少ない時は、すべての症状の具合がよい。両足の膝関節が痛む。放屁があれば気持がよいが、一杯溜っているようで思うように出ないので苦しい。頭痛、めまい、動悸、息切れ、耳鳴りがあり、大便一日一行。月経正調。診ると左側腹部が板のように硬くて胸脇の部と腸骨窩の部とが殊に膨満している。
第一週 成本方去鉛丹大黄(今までのいかなる薬よりも効ありという)
第二週 宋版方去鉛丹大黄加甘草(飲みやすいけれど、効果は前方より劣る如しという)
第三週 成本方去鉛丹大黄
第四週 成本方去鉛丹大黄
第五週 同方(便秘し、嘔気を訴う)
第六週 成本方去鉛丹(大便一日二行、効果著し)
鈴木○ち(三十四歳) バセドウ氏病。
成本去鉛丹を用う。
大塚○ん子(十三歳) バセドウ氏病。毎日三十七度二、三分の発熱、盗汗、動悸、便秘、不眠、怒りやすくて周囲のものが困る。肩こり強し。小便は少ない。甲状腺肥大を証明する。眼球は光沢があってやや突出す。
第一週 宋版方去鉛丹加甘草(便通があってから肩こりと動悸は減じ、安眠出来るようになった)
第二週 同方(それ以上よくならず)
第三週 同方(それ以上よくならず)
鈴○○直(三十四歳) 神経衰弱症。天気の悪い時は頭が重い。心悸高進があって、疲労しやすい、手足は冷えやすい、耳こり、肩こりがある。夢が多くて定眠出来ず。大便は硬くて、三日に一行。鼻がつまる。胸満を証明す。
第一週 成本方去鉛丹(効果著し)
第二週 同方に甘草を加う(効果著し)
第三週 以下同方、その後二ヵ月にして久しぶりにて妻に懐胎せしめ得たり。
高○○(二十歳) 神経衰弱症。疲労しやすく、安眠が出来ない。動悸があり、時々顔が赤くなる。食欲少なく、身体がだるくて何にもしたくない。
第一週 宋版去鉛丹(効果著明)
第二週 同方(全快)
津久○○七(三十二歳) 神経衰弱症。頭重、不眠、性欲減退、夢精、根気なし。胸満あり。
第一週 宋版去鉛丹(効果著明)
第二週 同方加甘草(続いてよし)
第三週 同方(続いてよし)
高○○り(二十七歳) 神経性心悸高進。胸満と心悸高進。毎日医師にカンフルを注射して貰っている。床にあること十ヵ月、食欲はあるが便秘をする。小便少なし。
第一週 宋版方去鉛丹(注射の必要なし。安眠を得、歩行し得るに至る)
第二週 同方(続いてよし)
岩○正(二十九歳) 神経性心悸高進。動悸、息切れ、めまい、肩こり、口渇なけれど小便多し。朝食はすすまない。胸が張って苦しい。大便は一日一行。医師から心臓弁膜症の初期だと診断されてから、いつ心臓麻痺を起こすかも知れないという不安で、一人で外出するのが恐ろしい。
第一週 宋版加甘草去鉛丹(著効あり、心悸を感ぜず、朝食が食べられるようになる)
第二週 同方加甘草(腹はすいて食欲あり、食べるとおいしいが、吐きそうな気持になる)
第三週 小半夏加茯苓湯(嘔気止んで気持よし)
佐藤○太郎(十八歳) 脚気。胸満、心悸高進、浮腫、便秘、小便の量少なし。指先、足、唇が痺れる。
第一週 宋版去鉛丹(著効あり)
以上十二例はことごとく去鉛丹として用いた。老医の口伝に柴胡加竜骨牡蠣湯の鉛丹は去って用うべしとあったし、浅田宗伯の如きも去鉛丹として用いているので、その例に倣ったのである。元来鉛丹は劇薬であるし、今日の薬理学の教えるところによれば鉛丹の中器を起こす恐れがあるので、僣縦ではあるが去鉛丹とした。次の二例は始め去鉛丹として用い、後に鉛丹を入れて用いた報告である。
佐○○二(二十歳) 心臓弁膜症。心悸高進、息切れ、胸満、食欲普通、大便一日一行。
第一週より第七週まで、成本方去鉛丹として用いた。普通の仕事では支障のないまでに心悸高進、息切れは軽快したが、激しい労働には堪えない。よって、これは鉛丹を入れないためにかくも長くかかるのであろうと考え、第八週目に鉛丹を入れた。その翌日より少し胃部に不快感を覚え、後六日目より嘔吐を訴え、飲食、薬物ことごとく吐き出すに至った。この症状は服薬中止後五日間も続いて、ようやく鎮静した。
雄○○○(四十二歳) 頭眩と耳鳴りが主訴である。臍部に胸満がある。
第一週 成本方去鉛丹(ややよろし)
第二週 同方(非常によろし)
第三週 同方(少しまた元へ返りたる如し)
第四週 同方(よろしけれどさっぱりせず)
第五週 同方に鉛丹を入れる(翌々日より胃部に嘔気を訴え、胃中不和の感あり、日を追うて激しくなる)
※臍部に胸満? 臍部に膨満の誤植か?
右の二例は鉛丹を入れるまでは軽快しつつあったが、鉛丹を入れてから、消化障害のため投薬不良に陥ったのである。『本草綱目』には、「鉛丹は微寒にして毒なしと云い、吐逆、胃反、驚癇、癩疾を治成、熱を除き、気を下す」云々とあり、内島保定なども竜骨牡蠣鉛丹神気を収めて驚を鎮め茯苓心気を助けて能津液を通行す、大黄瘀熱を逐いて譫語を止む、桂枝陽気を行らして身重きを解す、故に種々交り出るの邪つきざるものを治することを知る。又婦人瘀血を兼て動気甚だしくして大便通ぜず、心志安からざる者、此方を用いて数効あり」といい、宇津木昆台も鉛丹は血気を鎮圧するを以て主功とすといい、これらの先哲はみな成本の方に従い鉛丹を去らずして用いて効を収めているから、右の二名の患者が消化障害を起こしたのを直ちに鉛丹のためだと断定する前に、私は更に方と証と相合わざるが故に消化障害を起こしたのではないかということをも考えねばならない。また鉛丹を入れないで用いた十二名の患者の中にも、二名が胃中不和、嘔気を訴えたことがあるが、それは極めて軽度で、鉛丹を入れた場合よりはお話にならない程短期間で、かつ軽微であった。葛根湯、越婢湯等を用いる場合にも、証に適中しない時は、往々消化障害を起こすことがある。しかし鉛丹を入れた時のような激しい症状を起こしたことは一回もない。鉛丹を入れた時の症状はどうしても中毒という感じがしてならないのである。証と方とが合えば鉛丹を入れても中毒を起こすことはないであろう。あたかも附子を用うべき証の患者には、一日量六・〇から一〇・〇の附子を用いても中毒を起こさないが、その証のない患者には、一日量〇・三を用いても激しい中毒を起こすが如くに。しかし鉛丹を入れなくても効果のあつ言た以上の患者には、成本や宋版の柴胡加竜骨牡蠣湯を用いずとも、和田東郭等の唱える如く、大柴胡加竜骨牡蠣湯でよかったのではないかとも考えられる。或いは小柴胡湯加竜骨牡蠣湯でよいのかも知れない。成本方若しくは宋版方から常に鉛丹を去って用うるならば、むしろ、始めより鉛丹のない方を用うるのが至当ではないかとも考えられる。かくて、目下の私は、宋版や成本の柴胡加竜骨牡蠣湯方を否定せんとするのではないが、既に和田東郭や、斎静斎や浅野元甫等が大柴胡加竜骨牡蠣湯を用いた如く、また浅田宗伯が柴胡加竜骨牡蠣湯去鉛丹として用いた如く、また山田正珍、及川東谷、川越大亮、原元麟等が小柴胡加竜骨牡蠣湯として用いた如く、鉛丹のない方を試用せんとするものである。最近私は、大柴胡加竜骨牡蠣湯をもって、蓄膿症患者で神経衰弱症の症状あるものを治すことに成功した。私は未だ小柴胡加竜骨牡蠣湯を用いたことはない。既に宋版方や成本方に甘草を加えることによって、かえってしばしば効力の鈍くなることを患者から聞かされている。私としては、大柴胡加竜骨牡蠣湯方に加担するものである。しかし、小柴胡加竜骨牡蠣を用いた先哲が、大柴胡加竜骨牡蠣湯を用いた人より多いらしいから、将来機会があれば、この方も試用してみたいと考えている。最後に私は、宋版或いは成本の柴胡加竜骨牡蠣湯を去鉛丹とせずに用いられている方々の経験談と教示を待つ次第である。
【関連リンク】
・柴胡加竜骨牡蛎湯 と うつ(鬱)
・柴胡加竜骨牡蛎湯 と うつ(鬱)(その2)
・うつ(鬱)に良く使われる漢方薬
2011年1月13日木曜日
2010年11月26日金曜日
桂枝湯(けいしとう) の 効能 と 副作用
『《資料》よりよい漢方治療のために 増補改訂版 重要漢方処方解説口訣集』 中日漢方研究会
19.桂枝湯 傷寒論
桂枝4.0 芍薬4.0 大棗4.0 生姜4.0(乾1.0) 甘草2.0
(傷寒論) (金匱要略)
○太陽病,発熱汗出,悪風脉緩者,名為中風,(宜本方)(太陽上)
○太陽病,頭痛発熱,汗出悪風,本方主之(太陽上)
○太陽中風,陽浮而陰弱,陽浮者熱自発,陰弱者汗自出,嗇々悪寒,淅々悪風,翕々発熱,鼻鳴乾嘔者,本方主之(太陽上)
○産後風,続之数十日不解,頭微痛悪寒,時々有熱,心下悶,乾嘔汗出,雖久陽旦証続在耳,可与陽旦湯(産後)
○太陽病,外証未解,脉浮弱者,当以汗解,宜本方(太陽中)
○脉浮者,病在表,可発汗,法用本方(太陽中)
○太陽病,外証未解,不可下也,下之為逆,欲解外者,宜本方(太陽中)
〈現代漢方治療の指針〉 薬学の友社
頭痛,発熱(微熱)して悪寒し,自然に発汗するもの。ただし,神経衰弱などの疾患には微熱がなくても応用できる。
目標にしたがい,感冒の初期や軽症の感冒,または虚弱者や老人の感冒で,微熱の初期や軽症の感冒,または虚弱者や老人の感冒で,微熱,さむけ,頭痛がとれず,発汗剤を用いないのに自然に汗ばむものに,よく適応する。桂枝湯は「衆方のもと」と言われ,多くの加味,加減方がある。本方と麻黄湯を等量に合方したものを桂枝麻黄各半湯(桂麻各半湯)と称し,ヒフ疾患の治療に貴重なものである。すなわち皮フ炎や皮フ掻痒症,ジンマ疹などで外見的所見は少ないが,掻痒感や神経症状の著しいものに偉効がある。本方を構成する芍薬の量を,増量したものが次の桂枝加芍薬湯で,本方に竜骨,牡蛎を加えたものが,桂枝加竜骨牡蛎湯,また前方の桂枝加芍薬にアメを加えると,小建中湯になり、いずれもわずかな加味加減によって全く異なった疾患の治療に用いられ,それぞれの治療効果があることはまことに興味深い。本方を単独で応用する機会は少ないが,妊婦の微熱や産婦の産褥熱,考人の疲労回復などに用いると卓効を奏する。
〈漢方診療30年〉 大塚 敬節先生
○桂枝湯は「傷寒論」の最初に出ている薬方で,頭痛,悪寒,発熱という症状があって脈が浮弱であるものに用いることになっている。このような症状のあるものを「傷寒論」では表証があるとよんでいる。
○桂枝湯は風邪の初期によく用いられるが,永い間,さむけや微熱がとれず,他に大して異常を発見できないときにも用いてよいことがある。
○麻黄湯や葛根湯を用いて汗が出たが,それでもなお,熱とさむけがとれないとき,桂枝湯を用いてよいことがある。この場合,脈が浮弱であることが一つの目標になる。
○桂枝湯には強壮の作用がある。古人は気血のめぐりをよくして,陰陽を調和する作用があると考えた。
○桂枝湯は体力の充実している人よりも,衰えている人に用いる機会が多い。
○名古屋玄医は,桂枝湯にいろいろの薬を加味して頻繁に用いた。彼は病気は陰陽の不調和によって起るから,これを桂枝湯によって調和すればよいと考えた。
○桂枝麻黄各半湯は桂枝湯と麻黄湯とを一つにした薬方で,麻黄湯で発汗をはかるには,脈が弱すぎるし,それかといって桂枝湯では薬力がたりないということころを目標にして用い識。
○桂枝麻黄各半湯は風邪のこじれたものに用いることがある。
〈漢方処方応用の実際〉 山田 光胤先生
○脈が浮弱で,悪寒して発熱するもの。このとき頭痛したり,のぼせたり,身体が痛んだり,自然に発汗しやすかったりする。
○熱が出たとき,発汗剤をあたえて汗をかいたが,悪寒が去らず,脈は以然として浮弱のもの,また汗が出て一時よくなったが,夕方になるとふたたび熱が高くなり,ひどく悪寒がしてふるえが,ちょうどマラリアのような場合にも用いる。このときも脈は浮弱である。
○下痢したあとで,大便が正常になってから身体が痛むもの。
○以上はたいてい熱病の初期で,このほかはっきりとした原因がわからず,いつまでも悪寒発熱がつづき,脈が浮弱なものによい。
〈漢方処方解説〉 矢数 道明先生
太陽病の冒頭の薬方で,外感に用いる場合は,脈は浮弱で,悪寒,悪風,発熱,頭痛,自汗,身体疼痛というのが目標である。また気の上衝があり,乾嘔,心下悶のあることもある。自汗は服薬前に自然に汗のあるもので,虚弱体質のものに用いられることを示している。気血,栄衛が調和せず,表が虚して熱のあるもの,あるいは気の上衝するものを治すので,舌には変化がない。腹症は特記すべきことはないが,腹壁が薄く緊張することもある。
〈漢方診療の実際〉 大塚、矢数、清水 三先生
本方は血行を盛んにし,身体を温め,諸臓器の機能を亢める効果があるので,広く諸疾患に応用される。応用の第一としては感冒であるが,その場合の目標は悪寒,発熱,頭痛,脈浮弱,自汗が出る等の症候複合である。この浮弱と自汗が出るという症状は,桂枝湯が葛根湯や麻黄湯に比較して,虚弱体質に用いられることを示すものである。即ち表の虚が桂枝湯で表実が葛根湯,麻黄湯の証である。桂枝湯の腹証は必ずしも一定しないが,脈弱に相応したもので,決して強壮充実した腹ではない。本方の主薬は桂枝であるが,桂枝,生姜は一種の興奮剤で血行を盛んにし身体に温感を生じ,悪寒発熱を去り,諸臓器の機能を亢める。芍薬は桂枝の作用を調整するものと考えられる。また甘草と組んで,異常緊張を緩和する効があって能く拘攣を治し,疼痛を緩和する。甘草,大棗,生姜は矯味薬に兼ねるに滋養剤の意味がある。桂枝湯の応用は応冒,神経痛,リウマチ,頭痛,寒冷による腹痛,神経衰弱,虚弱体質,陰萎,遺精等である。
〈漢方入門講座〉 竜野 一雄先生
構成:衛気を整える桂枝と栄気を整える芍薬とを主薬にして表に於ける栄衛の不和によって起る表虚熱,又は気の上衝を治す。この処方を使う機会は少い。
運用 1. 脉浮弱で汗が出ている熱病
感冒その他の急性熱病の初期軽症で,「太陽病,頭痛,発熱,汗出で悪風するもの。」(傷寒論太陽上)を目当にする。脉の浮弱,汗出が特徴で,若し脉緊,汗が出ていなければ麻黄湯という風に脉と汗とが鑑別点になる。そして此以外は症状がないことを必要条系とし,若し例えば首すじや肩が張れば桂枝加葛根湯,関節が痛めば桂枝附子湯,下痢などすれば桂枝人参湯というように処方が変って来る。
運用 2. 気の上衝を治す。
他に何ともないのにただ胸又は頭の方へ何かが衝き上げて来るような感じ,脉を打ってくるような,緊張してくるような感じの時に使うと指定されているが,実際にそういう場合に出遭うことは殆どなく,治験例も報告されていない。むしろ上衝によって起った鼻血や汗っかきに使うことが多い。鼻血の場合は,発熱,頭痛,汗出で悪風など運用1.に挙げた症状があって同時に鼻血を出すとき,全然発熱症状がなく,のぼせる感じ,頭痛,衝き上げて行く感じなどがあって鼻血が出るとき,脈は必ず浮弱,のどちらかである。この場合も矢張り,他に症状があれば別の処方になる。例えば小建中湯は全身的に虚弱であるか,或は虚労の症状がある。麻黄湯は脉緊,桃核承気湯は脉緊で鬱血症状や小腹急結などがある。多汗症に使うのは有熱で頭痛があり,汗が出ている時で,運用1.と同じだが,無熱の時でも他に何の症状もないのに汗っかきというのを狙って使う。汗は目をさましてい識時に出る場合に使うのであって,盗汗にはほとんど使わない。多汗症で類証鑑別を要するのは桂枝加黄耆湯,黄耆建中湯,小建中湯,柴胡桂枝干姜湯,苓姜朮甘湯などである。
運用 3. 下痢した後で身体が痛むもの。
身体が痛むのは運用1.と同じ表証であるが,下痢後という点で一寸桂枝湯が思い出せないことがある。原典には「傷寒,医之を下し,続いて下利を得,清穀止まず。身疼痛するものは急に当に裏を救うべし。後身疼痛,清便自調するものは急に当に表を救うべし。裏を救うは四逆湯に宜しく,表を救うは桂枝湯に宜し。」(傷寒論太陽上)
「吐利止み而して身痛休まざるものは当に消息して其外を解すべし。宜しく桂枝湯にて少しく之を知すべし」(傷寒論霍乱)の様に記載している。この場合に指示が宜しとなっているから必ずしも桂枝湯に限ったことはなく,桂枝加附子湯の類方でも見合せて使うべきことが知られる。以上の外にも特殊な運用法があるが使われた例が殆どない。
〈漢方の臨床〉 第10巻 第1号
桂枝湯の構成 竜野 一雄先生
(内容)研究の目的―旧説の回顧と其の批判―桂枝湯の適応証―構成の分析―傾斜と展開―まとめ
研究の目的
桂枝湯は衆方の祖(類聚方広義頭註)であるといわれているにも拘らず,これを原方のままで臨床に使った例が極めて稀なために桂枝湯の方意なり構造なりに対する研究も殆ど関心が持たれていなかった。それは裏返していえば方意が把握されないから臨床への応用もおろそかにされていたということにもなるし,原方の理解がいい加減だから加減方の理解も浅薄にならざるを得ないことにもなる。
私は各処方がどうして構成されたかとの問題に対して大きな興味を覚えているので,先ず比較構造の簡単な桂枝湯を分析してみて,更にそれを手がかりに各方の構造の分析にも及ぼうとし,すでに若干の成果を得ている。本稿に於ては
桂枝湯の構成には如何なる必然性があるf
甘草大棗生姜を組入れた意義
特に薬物の気味とどんな関係か
処方構成に於ける一般的な原則があるか
などに重点を置いて考察したい。
旧説の回顧とその批判
古人の説が妥当で我々を納得させるのに充分であるならそれを正しとし,それに従うべきだが,果して問題は解決されているであろうか。
註釈書の代表をなす傷寒論輯義を見ると医宗金鑑を引用している。少々煩わしいが和訓すると
「名づけて桂枝湯というは君に桂枝を以てすればなり。桂枝は辛温,辛はよく発散し,温め衛の陽を通ず。芍薬は酸寒,酸によく収斂し寒は陰営に走る。桂枝は芍薬に君たり。これを発汗中に於て汗を斂むるの旨を寓す。芍薬は桂枝に臣たり。これ営を和するの中に於て衛を調ふるの功あり。生姜の辛は桂枝を佐けて以て表を解す。大棗の甘は芍薬を佐けて中を和す。甘草の甘は内を安んじ外を攘ふの能あり。用ひて以て中気を和す。即ち以て表裏を調和し且つ以て諸薬を調和す。桂芍の相須,姜棗の相得を以てし,甘草の調和を藉り,陽表陰裏,気衛血営並び行ぐりて悖らず。これ剛柔相済して以て相和するなり」
さすがに多紀元簡先生が幾許ある註釈書の中から代表的な良説として引用したほどあって,よく整ってはいるが私にはかなり隙きがあって決して万全の説とは思えない。
1,太陽中風云々(拙著原文和訓口語訳傷寒論の太陽上166以下これにならう)の場合の桂枝湯の説明としてはこれでよいが,しかし例えば煩(太陽上139,太陽中173)や気上衝(太陽上129)或は医宗金鑑のこの条の鼻鳴乾嘔(太陽上126)ですら説明するに足りない。すなわち桂枝湯証の各種の場合を凡て含めた全般的な説明にはならない。
2,各薬間の関係や全体への関係はある程度は説明されているが,全体としてのつながりがつかめていない。
3,大棗の甘は芍薬を佐けるといっても,桂枝湯の場合なぜ他の甘薬でなく特に大棗を使う理由はどこにあるのか,すでに甘草の甘があるのにそれだけでは不充分なのか,いや大棗が芍薬を佐けるという説さえも独断である。芍薬を佐けるのはむしろ甘草であるべきことは例えば芍薬甘草湯,芍薬甘草附子湯,四逆散,小建中湯などで立証され,その反対に炙甘草湯などは桂枝湯からわざわざ芍薬を抜いてい識ではないか。生姜にしても甘草にしてもこれと同じようなことが言える。例えば中気を調和し諸薬を調和すというならばなぜ凡ての処方に入っていないのか。要するになぜ大棗や甘草を入れたかの必然性に手が届いておらぬのである。このことはつまる所気味、薬能及び桂枝湯そのものがまだ充分に理解されていないことを示すことに外ならぬ。
4,桂枝を君とし生姜大棗を使とするのはよいが,芍薬甘草を臣佐とする明理論の説はいただきかねる。これは芍薬を臣,甘草を佐とすべきだ。第一,臣は臣,佐は佐であって臣佐を兼ねてよいはずがあろうか。ただ各種註釈書に於いて君臣佐使を明記したのはともかくも明理論だけだから,その点は大いに買うべきである。
問題は一歩前進して成無己先生が論拠とした至真要大論に迫る必要がある。
素問の中には鍼灸,養生,道家その他各種の流れの医学が混在しているが,中でも特異なのは運気説であって,これは明確な篇次をなして,素問の本流とは截然として区別できるものであり,恩師故富士川游先生をはじめ医史学者,素問研究家はひとしく後人の追加編入であることを認めている。江戸古方派は素問そのものを否定してかかっているが,特に運気に至っては現在の中医学研究家の殆ど誰もが顧ることはないであろう。それにも拘らず私が敢えてこれを取組み格闘している所以は運気が中国思想の根幹をなす一つの大きな流れであるのと,臨床的にもかなり大きな意義がくみ取られるからである。
至真要大論は運気各篇の中でも全体のまとめをなしているので殊に重要な篇で,正に大論の名に背かぬもので,薬能に関しては此篇と廿二の蔵気法時論は最も大切な篇である。
しかしながらこれを傷寒金匱の各処方に該当させて検討すると一致するものもあるが一致しない場合もある。桂枝湯などは大部分一致するが最もかんじんな主薬に於て一致しないことは前述の通りである。
よって至要大論は信ずべくして拠るべからざることを知った。一般原理としては認められるが,実際問題として個々の場合につ感て対処しなければならぬのである。だがこの篇は処方の構成,薬能の応用に関しては極めて示唆に富み,これを度外視しては臨床的にも不都合なことが多いので,ただ専らこれに拠りこれに束縛されることなく,反ってこれを媒介にして個々の場合,具体的な例について考えるようにしたら大過はないであろう。
桂枝湯をはじめ麻黄湯,葛根湯などがすべて辛苦甘の薬で構成されているのはなぜだろうかなどということを考える場合にはこの篇の重さを改めて認識するするであろう。
最近著わされた註釈書として杉原徳行先生の漢方医学傷寒論編と森田幸門先生の傷寒論入門の両書には桂枝湯を構成の面から追及していないので素通りすることによう。
桂枝湯と適応証と作用
処方の構成を研究する前提として桂枝湯の適応証を考察することが必要である。
第1類 外表の熱虚或は虚証
脉浮,浮弱,発熱,悪風,悪風寒,頭痛,身疼痛,自汗等はすべて表証であり,熱を伴うときは表の熱虚証であり,無熱のときは表虚証である。
脉浮は病が外表にあることを示すが,病理的には衛生が虚して締りが悪くなったために浮んで来たものと解釈する。
脉陽浮而陰弱はたとえば寸口で脉をとるなら軽く触れると浮,強く押すと弱との意で,陽脉も陰脉も虚していることを示している。もし表熱がなければ陽脈は沈になるはずだ。
発熱は三陰三陽ともに現われるが,脉浮もしくは悪風寒と共にあるときは表証とする。発熱は陰気の不足によって起るもので,これが陰脉虚に対応し,薬物としては芍薬が適応する。
桂枝湯の証は普通は悪風といわれるが、太陽上126の桂枝湯本条に於てすでに濇々悪寒,淅々悪風といっている位だから悪寒もあるはずである。
弁脉法33の「脉浮にして数,浮を風となし数を虚となす。風を熱となし虚を寒となす。風虚相搏つときは則ち酒淅として悪寒す」によると中風でも悪寒が起るものと考えられる。悪寒は陽虚によって起る(弁脈法3,25)
桂枝湯は中風で悪風し,麻黄湯は傷寒で悪寒するとの俗説があるが,麻黄湯も葛根湯も悪風といい,大青竜湯は中風でありがなら悪寒する。
悪寒しているときに風にあたれば余計気持が悪いから当然悪風を伴う。悪風しているときに寒さにあたっても悪寒は起こらない。寒が内に入れば続発的に新たに悪寒を起すことはある。そうしてみると桂枝湯の証の場合も悪風寒するときと悪風だけのことがあると思われる。悪風は表虚によって起る症状で,知覚過敏の場合と知覚鈍麻の場合とがある。
頭痛は上の陽虚,陽虚による邪の陽盛,陽虚による陰盛,気上衝などで起る。桂枝湯証は陽虚を起す原因が足る太陽膀胱経の変動にある。足の太陽膀胱経は頭から項背を通るので頭項痛,腰背強るのだ(傷寒例80,素問31)
身疼痛の身は全身何処でも起る意を含めており,身疼痛は気血表虚の症状である。
自汗,この場合は表の陽虚,衛虚又は衛強によって起る。
以上はみな表虚の症状である。しかし表の中にも陰陽があるが,桂枝湯の証は陽虚ばかりでなく陰虚も共にある。陽虚のために衛気虚し,陰虚のために栄血虚が起っている。陽虚には桂枝,陰虚には芍薬が使われる。
桂枝湯の証には表証ばかりでなく外証というのがある(太陽中158,160,161)
外と表とは同じものではない。内外にはいろいろな取り方があるが,ここでは外は体制で経絡の在る所,内は内臓で蔵府の在る所とする。外に表裏があって,それにもいろいろな取り方があるが,ここでは陽経在る所を表,陰経が在る所を裏とする(素問五王註)外,表を陽とすれば内,裏は陰になる。
表 三陽経
外 経絡
裏 三陰経
内 臓府
従って表というときは三陽経だが外というときは三陰三陽六経を指すことになる。では桂枝湯は太陽病ばかりでなく陽明経にも太陰経にも用いられるのであろうか。その通りで,陽明病331,354,360,太陰病394,厥陰病491に歴然とした用例がある。
普通は陽明病でも太陰病でも脉浮等の表証があれば発表すると説明されているが,その表証とは陽明病や太陰病なのか太陽病なのかを明示した註釈書は殆どない。これは陽明病或は太陰病なのである。その他用例はないが少陽病でも少陰病でもかまわない。すべて病が外に在るかぎりは発表するのである。
傷寒例82によるとこの三(陽)経はみな病を受けて未だ府に入らないものは汗すべきのみという。府に入らないとは病が外の経に在る意味で,太陽病だろうが陽明病だろうが少陽病だろうがみな汗すべきなのだ。しかし病が府に入って来たら陽明病は大黄剤,少陽病は柴胡剤が行くことは言をまたない。
三陰経の方は傷寒例85に三陰はみな病を受けてすでに府に入ってしまった場合は下すべきのみという。そうするとまだ府に入らぬ場合は病が外の経に在るだからやはり発汗すべきである。ただし陰経は裏に在るものでもし陽気が盛んで表熱が陰経に波及したときに限り発汗するのであって,もし陰寒が有余なら附子を以て経を温むべきである。例えば少陰病でも脉が浮なら発汗すべきだが,脉細沈(少陰403)とか脉微(少陰404)のときは発汗してはならない。
「少陰病,脉細沈数,軽為在裏,不可発汗」(少陰403)と,この書き方をよく味ってみると少陰病でも脉細沈数の場合には発汗してはならぬという限定を示していることがわかる。もし少陰病は例外なく発汗してはならぬというなら少陰病不可発汗と記すべきであろう。現に少陰病,之を得て23日,麻黄附子甘草湯にて微しく汗を発す(少陰420)という条文がある位だ。少陰病は附子剤を以て温め微しく汗を発するのが原則で,桂枝湯を使う場合もあり得るがそのケースは稀たという風に考えるべきであろう。
要するに病が外の経に在るかぎりは発汗するが,三陽経の表なら桂枝湯を以てし,三陰経でも表なら桂枝湯を以てするが,病が裏に入ったときは附子剤を以てするというのが原則になる。そういう意味で桂枝湯は病が外に在るときでも特に表に在るものに対して使うと規定することが出来よう。
なお三陰三陽六経の位置は四肢と躯幹に於とでは並び方が違い,四肢に於ては図1のごとく,躯幹に於ては図2のごとく配置されている。
第2類 栄衛の虚を補う
自汗(太陽上126,127,131,太陽中169,170,213,陽明331)は第一類の表熱のときにも出るが,無熱でも党成2又は衛強で出ることもある。
汗は心の液(34難,49難,素問23,霊枢78)というが,それは心臓から汗が出るという意味ではなく,心臓から血液が送り出され,その血液から汗が生成されるという意味である。心は血を生ずというのと関連させて考えればそれがわかる。血液から作られた汗を汗孔(漢方では玄府といい,腠理に在る)から外へ排出する機能を営むのが衛である。衛は腠理の開閉を主り(霊枢47)熱すれば腠理が開き栄衛が通じ汗が大いに泄れる(素問39)のが表熱の場合で,そのほか無熱でも表の陽気が虚すと衛も虚して腠理が開き汗が出る場合があり,また衛生が働きすぎて腠理が開き汗が出る場合もある(前述の条文,桂枝加附子湯証など参照)
このほかに発汗は体温の調節を司っている三焦殊に上焦と肺が関係している(霊枢10,36,81,素問62)
表の陽虚であり陽の衛虚で起る自汗に対しては陽気を補う桂枝が使われる。それと同時に栄血の虚を補うために芍薬も必要である。
煩,発汗して煩が解せぬもの(太陽上139,太陽中173)は表の熱がまだ残存しているからで,その熱は栄衛を虚させるから栄衛を補うことによって煩も自ら去るようになる。やはり桂枝芍薬の主る所である。
妊娠(金匱妊娠390)に使うのも栄虚を補う目的からであろう。婦人は陽脉より陰脉の方が盛んなのが生理的だが(19難)陰脉小弱になっているのは妊娠して栄血が不足しているからで,芍薬を主としてこれを補う意である。
第3類 膀胱の陽虚
桂枝湯は気上衝を治す(太陽上129)気上衝とは腎の陽気が虚して相対的に腎の陰気が盛んになり,衛脈を通って上方に衝撃的に上衝し,腹動や頭痛を起してくるものである。腎の陽気は膀胱に在るから膀胱の陽虚といっても同じことになる。桂枝湯は外に於ては足の太陽膀胱経の変動(前記傷寒例80)の太陽病に使う処方である。病邪が経に随って府の膀胱に入ったときも亦使うことができる。桃核承気湯証の太病病解せず,熱膀胱に結びというのを見ると太陽病の熱が府の膀胱に入ることがわかり,太陽膀胱経と膀胱との関係を知るよすがになるであろう。もし気上衝が著しくなれば奔豚病桂枝加桂湯の証になることは人の知る所である。
第4類 肺気の変動
桂枝湯の本条(太陽上126)に鼻鳴乾嘔雇証がある。鼻鳴は読んで字のごとしで鼻が鳴るのだが,鼻語るで鼻がクスンクスンするのも鼻鳴だし,鼻息が荒いのも鼻鳴にとれる。いずれにしても鼻は上気道で肺への出入口にあり,呼吸器の一部をなし漢方的には肺に属するものである(素問4その他)。
肺は呼吸作用をいとなむが,漢方では肺は気を司ると表現している(32難その他)のは呼吸作用ばかりでなく気に関するすべての機能を肺が統括して感ることを示している。
鼻鳴は肺の変動によって起ったものである。
乾嘔は金匱の産後病407にもあるが,胃から物か出ずにただゲーッと込上げて来る声だから気に属し,従って肺の変動に属する症状である。
故に鼻鳴乾嘔は共に肺の変動に属する症状で,それがどうして桂枝湯の証に入っているのであろうか。
肺は皮毛を主ること(素問4その他)肺と皮膚は共に直接外気に触れ,共に呼吸作用を営ること,発生学的に外胚葉性のものであること,肺も表も共に陽に属することなどを考えると肺と表との関係が深いことがわかり,臨床的にも治療的にはしばしば同価値的取扱われている。性状的に関係の深い器官に於ては一方の変動が他の一方に伝りやすい。桂枝湯の場合も表の変動が肺に伝るが,肺そのものの病変ではないからただ気の変動が起るだけで,それが鼻鳴乾嘔の症状として認められるのである。
桂枝湯は衛の陽虚を補うが,その衛は肺から起っているものであり(霊枢18,難経32)気味からみても辛温で辛は肺に入るから桂枝に肺の陽気を補う作用があることが考えられるのである。生姜も同様である。
桂枝湯証が肺気の変動に与ること一つの傾斜と見られるか,後に述べる葛根湯,小青竜湯,桂枝去芍薬湯など肺の病変に対して桂枝湯が展会されて行く契機をその中に包蔵していることが明かにされるのである。
第5類 胃虚への傾斜
桂枝湯の内に心下悶(金匱産後病407,太陽下286)と不能食(金匱妊娠病390)の証があり,これは言うまでもなく胃虚症状で,それに対しては桂枝湯の中の甘草大棗生姜が作用することは容易にわかるのである。
しかし問題点は表を治す桂枝湯証になぜ胃虚症状が出てくるのかということであり,それを解くことが桂枝湯の中に甘草大棗生姜を組入れた意義の解明に役立つかも知れぬということである。
外邪は腠理から侵入し経に入ると経を一巡する。その順序は定型的には太陽,陽明,少陽,太陰,少陰,厥陰で傷寒論の編次はこの順になっている。六経をめぐり尽すと再び太陽経に戻るか或はそのまま府に入ってしまう。
六経を一巡するのに定型的には6日若くはその倍数の12日を要するので,太陽病頭痛7日以上に至り自ら愈ゆるものはその経をめぐり尽すを以ての故なり(太陽上122)といわれており,太陽の次には陽明に行くから,もし再経をなさんと欲するものは足の陽明に針し,経をして伝えざらしむるときは則ち愈ゆ(同上)というのである。足の陽明は胃経でその府は胃である。「傷寒2,3日,陽明少陽の証足れざるものは伝わらずとなす」(太陽上119)は初伝の場合を指したもので,やはり太陽から陽明に伝ることを述べている。
それゆえ陽明胃に伝ることを予防するには胃気を補い丈夫にしておく必要があり,それでこそ甘草大棗生姜を加えた目的がわかってくるのだ。この外にも甘草大棗生姜を加えた別の意義があるが,それは改めて後に述べる。
桂枝湯構成の分析
桂枝湯の原始形態は桂枝芍薬の二味であったろう。更に遡れば桂枝が邪気をはらう咒術的民間薬であったことは疑いない。桂枝は孔子の時代にすでに知られていた咒術的薬物だった。それに気血を調える意味で芍薬が加えられたのであろう。生姜甘草大棗を加えて桂枝湯の形態をなしたのは恐らくは漢代であろう。
桂枝の気味は辛温,桂枝湯に於ける桂枝の作用は既述の通り表の陽虚,衛虚,腎の陽虚,肺の陽虚を補い,それらによって生ずる各種の表証,気上衝等を治す。その桂枝湯の加減方,類方にあっては更に多くの作用が認められる。
芍薬の気味は苦平で陰虚,栄虚を補い,また血虚によって起る筋急疼痛を治し,桂枝湯の加減方,類方に於ては更に多くの作用が認められる。
桂枝湯に於ては表の陽虚陰虚,衛虚栄虚を補うのが主眼であり,桂枝を主薬とし芍薬を臣薬とすることに何等異論をさしはさむ余地はない。
甘草の気味は甘平,一般に甘味の作用として緩和があるので諸薬の調和,気上衝,身疼痛,乾嘔等急迫症状の緩和作用は諸註釈書に説かれている通りである。
その他甘は血に行くので芍薬を助けて血虚による各種症状を治し,甘味は辛味と共に発散する通性があるから桂枝と共に肺の陽気を補い,甘味は中を補うから,大棗と共に胃虚を補い,この点でも芍薬の作用を助けている。
栄衛は脾胃から発生するのだから脾胃を補うことは栄衛を補うことにもなり,その意味で芍薬甘草大棗の作用は桂枝湯に於いて重要な役目を演じていることを看過してはならない。決して単なる味付けではないのだ。また甘草は胸の陽気を補うが肺から衛,心から栄を生じていることを思えばやはりここでも栄衛の運行を助けていることが知られるのである。
大棗の気味は甘平,緩和,補胃,補血の作用があることは甘草と同じだが,心肺を補い潤す作用がある点が甘草と異る。桂枝湯の加減方,類方に於て大棗が特にその作用を担当する例が多い。例えば桂枝去芍薬湯の胸満,炙甘草湯の肺萎悸,当帰四逆湯の脉欲絶等々がこれである。
生姜は気味旨温,その性能は陽,肺に行き気逆気痞を治し,水湿を燥かし,寒を温める。
よって桂枝湯に於ては桂枝を助けて衛の陽気をめぐらせ,風寒去り,乾嘔の気逆をしずめ,辛は腎の燥きを潤すか台故に太陽経から膀胱に熱が伝り腎の陽虚によって気上衝を起さんとするものに対してよく桂枝を助けてこれを治す作用があるものと考えられる。苓姜朮甘湯や甘草乾姜湯に於ける乾姜がよく腎の陽気を補うことを思えば腎に対する生姜の作用も亦諒解できるであろう。
その上,桂枝湯の味は甘く,酒客嘔家にこれを禁じている位だから,甘味が胃になじみ胃の気痞を起さんことを生姜で予防する意味を兼ねている。
以上の各薬は桂枝湯内に於てそれぞれ各個の持つ全機能を発し,場合によって例えば桂枝なら或るときは主として衛虚を補い,或るときは主として腎の陽虚を補う等それぞれの場合に応じて特殊機能を主として或は兼ねて作用せしめるのであって,決して一つの作用しか呈しないという風に狭く見てはならない。それなればこそ一処方が各種の場合に広く運用され得るのである。古方家は処方の運用を専ら経験によってつかもうとしたが,その経験を裏付け,また運用範囲を予見せしめるためには理論的に分析して処方の本質をつきとてめおいてこそ始めて自由な含みのある境地に立つことが出来よう。
桂枝湯を構成する各薬の気味を案ずるに,辛苦甘,温平の気味より成り,辛を主薬していることが知られる。
辛苦甘温平の処方はひとり桂枝湯のみならず,葛根湯,麻黄湯,小柴胡湯,真武湯,苓姜朮甘湯,苓桂朮甘湯等々傷寒金匱を通じて約40方を数えることができる。その他辛苦甘なれども寒平,寒温,寒温平の処方を挙げれば60方に達する。
然らば味の構成上辛苦甘はどんな意味がありどんな一般性があるのだろうか。
素問(5,74)に気味,辛甘発散を陽となし,酸苦涌泄を陰となすとある。これによって考えるに陽の辛甘が多いので陽虚を補うのを主とし,且つ陰を補って調和を図るというのが主目的になると思われる。葛根湯,麻黄湯,真武湯等みなこの趣意を帯びている。
しかしながら一般的にみると辛苦甘といえども桂枝湯類のごとく桂枝の辛を主薬とする場合と麻黄湯,小柴胡湯のごとく麻黄柴胡の苦を主薬とする場合と,葛根湯,真武湯,苓桂朮甘湯のごとく葛根,茯苓の甘を主薬とする場合とではその間に自ら違いを生ずるものであって,苓桂朮甘湯のごとく桂枝を含みながら桂枝を主薬とせず茯苓の甘を主薬とするが如きは,真武湯のごとく附子を含みながら附子を主薬とせず茯苓の甘を主薬とするが如き,各処方によって方意と構成上から辛苦甘のうちどれかに重要性,主体がかかっているかによって違いが生じてくるのである。辛苦甘より成ることに共通普遍性はありながら,またその中に特殊性個別性を生ずることを見落としてはならない。況んや辛苦甘の構成であっても気の温平と寒平,寒温,寒温平とではそこは又差違を生ずてくることを銘記せねばならぬ。
辛は肺,苦は心,甘は脾に入るから辛苦甘の処方はすべて肺心脾に作用するというと必ずしもそうでない。桂枝湯は前述のごとく肺心脾にも入るが,むしろ肺の気衛,心の栄血,脾の栄衛胃虚等に作用する面の方が主であるし,腎の陽虚にも作用するのである。そうすると辛苦甘をただ肺心脾だけに作用すると考えるのは誤りで,もっと辛苦甘の味そのものが持っている各種の作用を追及しなければいけないことになる。事実は味は五行全部に作用するのであって,例えば苦は心のみならず肺,肝,脾,腎にも作用するのだから事柄は非常に複雑になる。いわば五行中に五行があるのだ(類経図翼1)
このことを胸にたたんでおいてもう一度素問の七四至真要大論を読んでみる。
成無己先生が引用したのは風淫の場合だが「司天の気,風淫の勝つ所,平ぐるに辛涼を以てし,佐くるに苦甘を以てし,甘を以てこれを緩め,酸を以てこれを瀉す」「諸気在泉,風内に淫するときは治するに辛涼を以てし,佐くるに苦を以てし,甘を以てこれを緩め,辛を以てこれを散す」の二条に拠ったことがすでに誤りであった。成無己先生は桂枝湯証は中風だから風が原因と見て考えたのだが,至真要大論の運気に於ける風は厥陰肝を侵すのが本来であって太陽病ではないのである。それは運気の厥陰の病をよく読めば気が付くことである。風の場合,運気では主薬が辛涼になっており,桂枝は辛温だのに成無己先生は辛だけとって涼を削ってしまったのは故意か曲解である。いや辛涼という前に厥陰風の条に拠ったことが大きな誤りであって,これは風陽寒に拠らねばならぬのである。
太陽は腎の陽,寒は腎の陰,つまり寒が強くて腎の陽気を傷った場合である。腎の陽は言うまでもなく膀胱であり,足の太陽膀胱経を侵して太陽病になるのである。
「寒淫の勝つ所,平ぐるに辛熱を以てし,佐くるに甘苦を以てし,鹹を以てこれを瀉す」と,正にそれに拠るべきである。
成無巳先生が引用した風内に淫すればということからしておかしい。なぜなら桂枝湯は外の傷れであって内に淫したものではないからである。この点でも寒淫の勝つ所の方が正しい。殊に風内に淫すればと風淫の勝つ所の二条を引いて桂枝湯という一処方を分割すべきではなく,病が外に在って経を侵せば風淫所勝とし,病が内に入って府を侵せば風淫于内の場合というように区別して扱うべきものであって,両者を混ぜ合して同格もしくは同次元に扱ってはならぬ。この点成無己先生の大きなミスであった。弘法も筆の誤りのたぐいだが,先生がこのような方法論を示して下さったお蔭で私も至真要大論に拠ることを知ったのだから感謝にたえない。
ここで一つの問題があるが,それは寒淫所勝の条は素問新校正及び類経の註によると寒淫于内の条と同じであるべきで寒淫所勝の条は誤りだというのである。寒淫于内の条は「治するに甘熱を以てし,佐くるに苦辛を以てし,鹹を以てこれを写し,辛を以てこれを潤し,苦を以てこれを堅む」である。だがこの説はおかしい。私は至真要大論の文のままで宜いと思うが,その理由を述べるには相明ひろく運気にわたって説明しなければならぬので今は已むを得ず割愛するが,その理由の趣旨は寒淫所候とは事情が違うということに尽きる。
素問及び類経の註は基礎を5行と素問22蔵気法時論においている。例えば寒淫所勝に対しては類経に「辛熱は以て寒を散ずるに足る。苦甘は以て水に勝つべし。鹹を以て之を写するは水の正味はその写に鹹を以てすればなり」とし,風淫于内に対しては「風を木気となす。金はよくこれに勝つ。故に治するに辛涼を以てす。辛に過ぐれば反ってその気を傷ることことを恐る。故に佐くるに苦甘を以てす。苦は辛に勝つ。甘は気を益すなり。木の性は急,故に甘を以てこれを緩む。風邪勝つ。故残辛を以てこれを散ず。蔵気法時論に曰く,肝を急を苦しむ。急に甘を食して以てこれを緩む。肝は散を欲す。急に辛を食して以てこれを散ずとこれこの謂ひなり」と。
類経は素問の註釈書としては非常にに探れた親切な本で教えられる所がすこぶる多いが,賛同しかねる所も少くない。この条の註にしても一応整っているが桂枝湯など実際の処方分析に当っては不都合や矛盾が起る。例えば芍薬の苦は決して水に勝つために在るのではなく,また桂枝の辛が木を傷ることを恐れて予防的に加えたものではないのだ。ただ気味の扱い上について示唆に富んでいるのでこれを土台にしてその上に考えを進めて行けば宜いであろう。
傾斜と展開
桂枝湯が衆方の祖といわれるのは外邪が表に中ったときに使う代表的な処方の一つであり,外邪はそれから内外に転々と流伝してきて千変万化の像を呈するもこれを桂枝湯の立場からみると或は虚実に,或は寒熱に,或は内外に,或は気血水の変化に於て各方面にテーゼ,アンチテーゼの関係をなすものゆえ桂枝湯を以て座標の軸とした意図がわかるのである。
もう一つは桂枝湯には他の方剤に類を見ないほど加減方や類方が多いのであって,それを以てしても桂枝湯の重要性を謳い上げるだけの価値がある。
加減方類方に於ても桂枝湯の土台に乗って作用するものであって,実は桂枝湯そのものの内に各種の加減方に発展すべき契機が内蔵されており,これを傾斜と称することは前に述べた通りである。ここに改めてそれを具体的に例を挙げて述べよう。加減方を知ることは逆に桂枝湯の本質を窺い知ることにもなるのだから。
傾斜と展開は桂枝湯の構造と病理と適応証の三面から考察すべきだが,便宜上これを二つに分けておく。
A 構造上から
加桂 腎の陽虚から気上衝,奔豚に及ぶ。桂枝加桂湯がそれである。
去桂 桂枝湯から桂枝を抜いて考えると脾胃に行く処方になる。それに茯苓,朮を加えて桂枝去桂加茯苓白朮湯ができる。この場合の小便不利は桂枝による排尿障害ではなく尿生成障害だから茯苓を加えたものだ。
加芍 芍薬による脾虚,栄虚が出てくる。桂枝加芍薬湯,桂枝加大黄湯,建中湯類
去芍 芍薬を抜くと辛甘の薬ばかりになり専ら陽の部位に作用して陽虚を補うこととなる。桂枝去芍薬湯の胸満,桂枝去芍薬加附子の胸満微悪寒,桂枝去芍薬加麻黄細辛附子湯の気分,桂枝去芍薬加皂莢湯の肺痿,桂枝去芍薬加蜀漆牡蛎救逆湯,桂枝甘草竜骨牡蛎湯の火邪火逆(これは腎の陽虚からも云える),炙甘草湯の肺痿,悸などはみなこの類である。
加棗 胸に行き心血を補うものが多い。当帰四逆湯,当帰四逆加呉茱萸生姜湯,炙甘草湯
B 病理と適応証の上から
表虚 桂枝加葛根湯,括蔞桂枝湯,桂枝加黄耆湯,桂枝加附子湯,桂枝加芍薬生姜人参湯をはじめ大部分の処方がその意を蔵している。
肺気変動 桂枝加厚朴杏仁湯の喘,桂枝去芍薬湯の胸満,小青竜湯の喘咳等
栄血の虚,脾虚 桂枝加芍薬湯,桂枝加大黄湯など。
栄衛の虚 虚労の小建中湯,黄耆建中湯,当帰建中湯
自汗 桂枝加附子湯の脱汗,桂枝加黄耆湯,黄耆建中湯の盗汗
煩 肌熱によるもので,桂麻各半湯の痒み桂枝加黄耆湯の黄汗,これは黄耆芍薬桂枝苦酒湯,お乗着桂枝五物湯に展開する。
身疼痛 桂枝附子湯,更に白朮附子湯,甘草附子湯,その裏の烏頭桂枝湯,桂芍知母湯など
筋急拘攣 桂枝加葛根湯,括蔞桂枝湯,桂枝加芍薬生姜人参湯,桂枝加芍薬湯,更に芍薬甘草湯
心下悶 胃虚によるもので,桂枝去桂加茯苓白朮湯の心下満微痛,更に真武湯に発展する。
気上衝 腎の陽虚によることは度々述べた通りだが,桂枝加竜骨牡蛎湯,桂枝去芍薬加蜀漆牡蛎竜骨救逆湯,桂枝甘草竜骨牡蛎湯,桂枝加桂湯から進んでは苓桂甘棗湯,苓桂味甘湯等に至る。
まとめ
桂枝湯の構成についてはなお多くの探求すべき問題を残しているであろう。例えば服用法の熱稀粥(これはただ体を温めるばかりでなく,やはり胃を補う意味がある)臨床的にみて処方構成と脈や腹証との関係,発汗,発表,解肌の相互関係(肌中に経,血脉が在る)麻黄湯や葛根湯を服用して発汗せずに利尿して病が解すことがあるが,恐らく桂枝湯も同様であろう。その理由は汗と小便との相対的関係も
勿論だが,桂枝の膀胱に対する排尿促進作用があるからである。
この小稿の要点を表示して結論に代えることにする。
『漢方診療の實際』 大塚敬節・矢数道明・清水藤太郎著 南山堂刊
桂枝湯
本方は血行を盛んにし、身体を温め、諸臓器の機能を 亢める効果があるので、広く諸疾患に応用される。応用の第一としては感冒であるが、その場合の目標は悪寒・発熱・頭痛・脈浮弱・自汗が出る等の症候複合で ある。この脈弱と自汗が出るという症状は桂枝湯が、葛根湯や麻黄湯に比較して虚弱体質に用いられることを示すものである。即ち表の虚が桂枝湯で表実が葛根湯・麻黄湯の證である。桂枝湯の腹證は必ずしも一定しないが、脈弱に相応したもので、決して強壮充実した腹ではない。
本方の主薬は桂枝である が、桂枝・生姜は一種の興奮剤で、血行を盛んにし、身体に温感を生じ、悪感発熱を去り、諸臓器の機能を亢める。芍薬は桂枝の作用を調整するものと考えられ る。また甘草と組んで異常緊張を緩和する効があって能く拘攣を治し、疼痛を緩和する。甘草・大棗・生姜は矯味薬に兼ねるに滋養剤の意味がある。
桂枝湯の応用は感冒・神経痛・リウマチ・頭痛・寒冷による腹痛・神経衰弱・虚弱体質・陰萎・遺精等であるが、なお次の加減方を参照されたい。
『漢方精撰百八方』
52.〔方名〕桂枝湯(けいしとう)
〔出典〕傷寒論、金匱要略
〔処方〕桂枝、芍薬、大棗、生姜各4.0g 甘草2.0g
〔目標〕
1.感冒のような状態で、脈をみると、浮いていて弱く、さむけがして熱もあり、くしゃみが出る。
2.熱が出て頭痛がし、脈は浮いていて弱く、汗が自然ににじみ出て、さむけもある。
3.以上のような病状のものに、間違って下剤を与えてはならない。
4.どこにま以上を発見することができず、ただ時々熱が出て、その時に汗が出るような患者。
5.熱があって頭痛がし、六、七日も便秘していても、小便が澄明で著色していないもの。
6.頭痛、発熱、さむけがあって、脈にも力があり、麻黄湯で発汗せしめたところ、一旦軽快し、また気持ちがわるくなって、脈が浮いて速いもの。
7.熱があって、からだが痛み、さむけのある患者を誤って下剤で下したところ、下痢がやまなくなり、たべたものがそのまま下るようになった。こんな患者には先ず四逆湯を用い、下痢がやんでのちも、からだの痛む時に、桂枝湯を用いる。
8.つわりで、頭痛がし、時に熱が出て、のどは少し乾くが食事がまずいというもの。
9.産のあとで、永い間、少し頭痛がし、さむけもし、時々熱も出て、みずおちが苦しく、吐きそうになり、汗も出るようなもの。
〔かんどころ〕熱のある場合は、脈が浮いていて弱く、さむけがするのを目標とし、その他の雑病では、からだが虚弱で、疲れやすく、脈が浮いて大きく力がないという点に眼をつける。
〔応用〕感冒、神経痛、腹痛、下痢。
〔附記方名〕桂枝去芍薬湯(けいしきょしゃくやくとう)
〔出典〕傷寒論
〔処方〕桂枝、大棗、生姜各4.0g 甘草2.0g
〔目標〕脈促、胸満のもの。
〔かんどころ〕脈が速く、腹から胸に何かが上がってくるようで、胸がいっぱいになった状。
〔応用〕神経症
大塚敬節
『漢方薬の実際知識』 東丈夫・村上光太郎著 東洋経済新報社 刊
【関連情報】
インフルエンザの漢方治療
http://kenko-hiro.blogspot.com/2009/05/blog-post.html
インフルエンザと普通の風邪との違い
http://kenko-hiro.blogspot.com/2009/04/blog-post_30.html
19.桂枝湯 傷寒論
桂枝4.0 芍薬4.0 大棗4.0 生姜4.0(乾1.0) 甘草2.0
(傷寒論) (金匱要略)
○太陽病,発熱汗出,悪風脉緩者,名為中風,(宜本方)(太陽上)
○太陽病,頭痛発熱,汗出悪風,本方主之(太陽上)
○太陽中風,陽浮而陰弱,陽浮者熱自発,陰弱者汗自出,嗇々悪寒,淅々悪風,翕々発熱,鼻鳴乾嘔者,本方主之(太陽上)
○産後風,続之数十日不解,頭微痛悪寒,時々有熱,心下悶,乾嘔汗出,雖久陽旦証続在耳,可与陽旦湯(産後)
○太陽病,外証未解,脉浮弱者,当以汗解,宜本方(太陽中)
○脉浮者,病在表,可発汗,法用本方(太陽中)
○太陽病,外証未解,不可下也,下之為逆,欲解外者,宜本方(太陽中)
〈現代漢方治療の指針〉 薬学の友社
頭痛,発熱(微熱)して悪寒し,自然に発汗するもの。ただし,神経衰弱などの疾患には微熱がなくても応用できる。
目標にしたがい,感冒の初期や軽症の感冒,または虚弱者や老人の感冒で,微熱の初期や軽症の感冒,または虚弱者や老人の感冒で,微熱,さむけ,頭痛がとれず,発汗剤を用いないのに自然に汗ばむものに,よく適応する。桂枝湯は「衆方のもと」と言われ,多くの加味,加減方がある。本方と麻黄湯を等量に合方したものを桂枝麻黄各半湯(桂麻各半湯)と称し,ヒフ疾患の治療に貴重なものである。すなわち皮フ炎や皮フ掻痒症,ジンマ疹などで外見的所見は少ないが,掻痒感や神経症状の著しいものに偉効がある。本方を構成する芍薬の量を,増量したものが次の桂枝加芍薬湯で,本方に竜骨,牡蛎を加えたものが,桂枝加竜骨牡蛎湯,また前方の桂枝加芍薬にアメを加えると,小建中湯になり、いずれもわずかな加味加減によって全く異なった疾患の治療に用いられ,それぞれの治療効果があることはまことに興味深い。本方を単独で応用する機会は少ないが,妊婦の微熱や産婦の産褥熱,考人の疲労回復などに用いると卓効を奏する。
〈漢方診療30年〉 大塚 敬節先生
○桂枝湯は「傷寒論」の最初に出ている薬方で,頭痛,悪寒,発熱という症状があって脈が浮弱であるものに用いることになっている。このような症状のあるものを「傷寒論」では表証があるとよんでいる。
○桂枝湯は風邪の初期によく用いられるが,永い間,さむけや微熱がとれず,他に大して異常を発見できないときにも用いてよいことがある。
○麻黄湯や葛根湯を用いて汗が出たが,それでもなお,熱とさむけがとれないとき,桂枝湯を用いてよいことがある。この場合,脈が浮弱であることが一つの目標になる。
○桂枝湯には強壮の作用がある。古人は気血のめぐりをよくして,陰陽を調和する作用があると考えた。
○桂枝湯は体力の充実している人よりも,衰えている人に用いる機会が多い。
○名古屋玄医は,桂枝湯にいろいろの薬を加味して頻繁に用いた。彼は病気は陰陽の不調和によって起るから,これを桂枝湯によって調和すればよいと考えた。
○桂枝麻黄各半湯は桂枝湯と麻黄湯とを一つにした薬方で,麻黄湯で発汗をはかるには,脈が弱すぎるし,それかといって桂枝湯では薬力がたりないということころを目標にして用い識。
○桂枝麻黄各半湯は風邪のこじれたものに用いることがある。
〈漢方処方応用の実際〉 山田 光胤先生
○脈が浮弱で,悪寒して発熱するもの。このとき頭痛したり,のぼせたり,身体が痛んだり,自然に発汗しやすかったりする。
○熱が出たとき,発汗剤をあたえて汗をかいたが,悪寒が去らず,脈は以然として浮弱のもの,また汗が出て一時よくなったが,夕方になるとふたたび熱が高くなり,ひどく悪寒がしてふるえが,ちょうどマラリアのような場合にも用いる。このときも脈は浮弱である。
○下痢したあとで,大便が正常になってから身体が痛むもの。
○以上はたいてい熱病の初期で,このほかはっきりとした原因がわからず,いつまでも悪寒発熱がつづき,脈が浮弱なものによい。
〈漢方処方解説〉 矢数 道明先生
太陽病の冒頭の薬方で,外感に用いる場合は,脈は浮弱で,悪寒,悪風,発熱,頭痛,自汗,身体疼痛というのが目標である。また気の上衝があり,乾嘔,心下悶のあることもある。自汗は服薬前に自然に汗のあるもので,虚弱体質のものに用いられることを示している。気血,栄衛が調和せず,表が虚して熱のあるもの,あるいは気の上衝するものを治すので,舌には変化がない。腹症は特記すべきことはないが,腹壁が薄く緊張することもある。
〈漢方診療の実際〉 大塚、矢数、清水 三先生
本方は血行を盛んにし,身体を温め,諸臓器の機能を亢める効果があるので,広く諸疾患に応用される。応用の第一としては感冒であるが,その場合の目標は悪寒,発熱,頭痛,脈浮弱,自汗が出る等の症候複合である。この浮弱と自汗が出るという症状は,桂枝湯が葛根湯や麻黄湯に比較して,虚弱体質に用いられることを示すものである。即ち表の虚が桂枝湯で表実が葛根湯,麻黄湯の証である。桂枝湯の腹証は必ずしも一定しないが,脈弱に相応したもので,決して強壮充実した腹ではない。本方の主薬は桂枝であるが,桂枝,生姜は一種の興奮剤で血行を盛んにし身体に温感を生じ,悪寒発熱を去り,諸臓器の機能を亢める。芍薬は桂枝の作用を調整するものと考えられる。また甘草と組んで,異常緊張を緩和する効があって能く拘攣を治し,疼痛を緩和する。甘草,大棗,生姜は矯味薬に兼ねるに滋養剤の意味がある。桂枝湯の応用は応冒,神経痛,リウマチ,頭痛,寒冷による腹痛,神経衰弱,虚弱体質,陰萎,遺精等である。
〈漢方入門講座〉 竜野 一雄先生
構成:衛気を整える桂枝と栄気を整える芍薬とを主薬にして表に於ける栄衛の不和によって起る表虚熱,又は気の上衝を治す。この処方を使う機会は少い。
運用 1. 脉浮弱で汗が出ている熱病
感冒その他の急性熱病の初期軽症で,「太陽病,頭痛,発熱,汗出で悪風するもの。」(傷寒論太陽上)を目当にする。脉の浮弱,汗出が特徴で,若し脉緊,汗が出ていなければ麻黄湯という風に脉と汗とが鑑別点になる。そして此以外は症状がないことを必要条系とし,若し例えば首すじや肩が張れば桂枝加葛根湯,関節が痛めば桂枝附子湯,下痢などすれば桂枝人参湯というように処方が変って来る。
運用 2. 気の上衝を治す。
他に何ともないのにただ胸又は頭の方へ何かが衝き上げて来るような感じ,脉を打ってくるような,緊張してくるような感じの時に使うと指定されているが,実際にそういう場合に出遭うことは殆どなく,治験例も報告されていない。むしろ上衝によって起った鼻血や汗っかきに使うことが多い。鼻血の場合は,発熱,頭痛,汗出で悪風など運用1.に挙げた症状があって同時に鼻血を出すとき,全然発熱症状がなく,のぼせる感じ,頭痛,衝き上げて行く感じなどがあって鼻血が出るとき,脈は必ず浮弱,のどちらかである。この場合も矢張り,他に症状があれば別の処方になる。例えば小建中湯は全身的に虚弱であるか,或は虚労の症状がある。麻黄湯は脉緊,桃核承気湯は脉緊で鬱血症状や小腹急結などがある。多汗症に使うのは有熱で頭痛があり,汗が出ている時で,運用1.と同じだが,無熱の時でも他に何の症状もないのに汗っかきというのを狙って使う。汗は目をさましてい識時に出る場合に使うのであって,盗汗にはほとんど使わない。多汗症で類証鑑別を要するのは桂枝加黄耆湯,黄耆建中湯,小建中湯,柴胡桂枝干姜湯,苓姜朮甘湯などである。
運用 3. 下痢した後で身体が痛むもの。
身体が痛むのは運用1.と同じ表証であるが,下痢後という点で一寸桂枝湯が思い出せないことがある。原典には「傷寒,医之を下し,続いて下利を得,清穀止まず。身疼痛するものは急に当に裏を救うべし。後身疼痛,清便自調するものは急に当に表を救うべし。裏を救うは四逆湯に宜しく,表を救うは桂枝湯に宜し。」(傷寒論太陽上)
「吐利止み而して身痛休まざるものは当に消息して其外を解すべし。宜しく桂枝湯にて少しく之を知すべし」(傷寒論霍乱)の様に記載している。この場合に指示が宜しとなっているから必ずしも桂枝湯に限ったことはなく,桂枝加附子湯の類方でも見合せて使うべきことが知られる。以上の外にも特殊な運用法があるが使われた例が殆どない。
〈漢方の臨床〉 第10巻 第1号
桂枝湯の構成 竜野 一雄先生
(内容)研究の目的―旧説の回顧と其の批判―桂枝湯の適応証―構成の分析―傾斜と展開―まとめ
研究の目的
桂枝湯は衆方の祖(類聚方広義頭註)であるといわれているにも拘らず,これを原方のままで臨床に使った例が極めて稀なために桂枝湯の方意なり構造なりに対する研究も殆ど関心が持たれていなかった。それは裏返していえば方意が把握されないから臨床への応用もおろそかにされていたということにもなるし,原方の理解がいい加減だから加減方の理解も浅薄にならざるを得ないことにもなる。
私は各処方がどうして構成されたかとの問題に対して大きな興味を覚えているので,先ず比較構造の簡単な桂枝湯を分析してみて,更にそれを手がかりに各方の構造の分析にも及ぼうとし,すでに若干の成果を得ている。本稿に於ては
桂枝湯の構成には如何なる必然性があるf
甘草大棗生姜を組入れた意義
特に薬物の気味とどんな関係か
処方構成に於ける一般的な原則があるか
などに重点を置いて考察したい。
旧説の回顧とその批判
古人の説が妥当で我々を納得させるのに充分であるならそれを正しとし,それに従うべきだが,果して問題は解決されているであろうか。
註釈書の代表をなす傷寒論輯義を見ると医宗金鑑を引用している。少々煩わしいが和訓すると
「名づけて桂枝湯というは君に桂枝を以てすればなり。桂枝は辛温,辛はよく発散し,温め衛の陽を通ず。芍薬は酸寒,酸によく収斂し寒は陰営に走る。桂枝は芍薬に君たり。これを発汗中に於て汗を斂むるの旨を寓す。芍薬は桂枝に臣たり。これ営を和するの中に於て衛を調ふるの功あり。生姜の辛は桂枝を佐けて以て表を解す。大棗の甘は芍薬を佐けて中を和す。甘草の甘は内を安んじ外を攘ふの能あり。用ひて以て中気を和す。即ち以て表裏を調和し且つ以て諸薬を調和す。桂芍の相須,姜棗の相得を以てし,甘草の調和を藉り,陽表陰裏,気衛血営並び行ぐりて悖らず。これ剛柔相済して以て相和するなり」
さすがに多紀元簡先生が幾許ある註釈書の中から代表的な良説として引用したほどあって,よく整ってはいるが私にはかなり隙きがあって決して万全の説とは思えない。
1,太陽中風云々(拙著原文和訓口語訳傷寒論の太陽上166以下これにならう)の場合の桂枝湯の説明としてはこれでよいが,しかし例えば煩(太陽上139,太陽中173)や気上衝(太陽上129)或は医宗金鑑のこの条の鼻鳴乾嘔(太陽上126)ですら説明するに足りない。すなわち桂枝湯証の各種の場合を凡て含めた全般的な説明にはならない。
2,各薬間の関係や全体への関係はある程度は説明されているが,全体としてのつながりがつかめていない。
3,大棗の甘は芍薬を佐けるといっても,桂枝湯の場合なぜ他の甘薬でなく特に大棗を使う理由はどこにあるのか,すでに甘草の甘があるのにそれだけでは不充分なのか,いや大棗が芍薬を佐けるという説さえも独断である。芍薬を佐けるのはむしろ甘草であるべきことは例えば芍薬甘草湯,芍薬甘草附子湯,四逆散,小建中湯などで立証され,その反対に炙甘草湯などは桂枝湯からわざわざ芍薬を抜いてい識ではないか。生姜にしても甘草にしてもこれと同じようなことが言える。例えば中気を調和し諸薬を調和すというならばなぜ凡ての処方に入っていないのか。要するになぜ大棗や甘草を入れたかの必然性に手が届いておらぬのである。このことはつまる所気味、薬能及び桂枝湯そのものがまだ充分に理解されていないことを示すことに外ならぬ。
4,桂枝を君とし生姜大棗を使とするのはよいが,芍薬甘草を臣佐とする明理論の説はいただきかねる。これは芍薬を臣,甘草を佐とすべきだ。第一,臣は臣,佐は佐であって臣佐を兼ねてよいはずがあろうか。ただ各種註釈書に於いて君臣佐使を明記したのはともかくも明理論だけだから,その点は大いに買うべきである。
問題は一歩前進して成無己先生が論拠とした至真要大論に迫る必要がある。
素問の中には鍼灸,養生,道家その他各種の流れの医学が混在しているが,中でも特異なのは運気説であって,これは明確な篇次をなして,素問の本流とは截然として区別できるものであり,恩師故富士川游先生をはじめ医史学者,素問研究家はひとしく後人の追加編入であることを認めている。江戸古方派は素問そのものを否定してかかっているが,特に運気に至っては現在の中医学研究家の殆ど誰もが顧ることはないであろう。それにも拘らず私が敢えてこれを取組み格闘している所以は運気が中国思想の根幹をなす一つの大きな流れであるのと,臨床的にもかなり大きな意義がくみ取られるからである。
至真要大論は運気各篇の中でも全体のまとめをなしているので殊に重要な篇で,正に大論の名に背かぬもので,薬能に関しては此篇と廿二の蔵気法時論は最も大切な篇である。
しかしながらこれを傷寒金匱の各処方に該当させて検討すると一致するものもあるが一致しない場合もある。桂枝湯などは大部分一致するが最もかんじんな主薬に於て一致しないことは前述の通りである。
よって至要大論は信ずべくして拠るべからざることを知った。一般原理としては認められるが,実際問題として個々の場合につ感て対処しなければならぬのである。だがこの篇は処方の構成,薬能の応用に関しては極めて示唆に富み,これを度外視しては臨床的にも不都合なことが多いので,ただ専らこれに拠りこれに束縛されることなく,反ってこれを媒介にして個々の場合,具体的な例について考えるようにしたら大過はないであろう。
桂枝湯をはじめ麻黄湯,葛根湯などがすべて辛苦甘の薬で構成されているのはなぜだろうかなどということを考える場合にはこの篇の重さを改めて認識するするであろう。
最近著わされた註釈書として杉原徳行先生の漢方医学傷寒論編と森田幸門先生の傷寒論入門の両書には桂枝湯を構成の面から追及していないので素通りすることによう。
桂枝湯と適応証と作用
処方の構成を研究する前提として桂枝湯の適応証を考察することが必要である。
第1類 外表の熱虚或は虚証
脉浮,浮弱,発熱,悪風,悪風寒,頭痛,身疼痛,自汗等はすべて表証であり,熱を伴うときは表の熱虚証であり,無熱のときは表虚証である。
脉浮は病が外表にあることを示すが,病理的には衛生が虚して締りが悪くなったために浮んで来たものと解釈する。
脉陽浮而陰弱はたとえば寸口で脉をとるなら軽く触れると浮,強く押すと弱との意で,陽脉も陰脉も虚していることを示している。もし表熱がなければ陽脈は沈になるはずだ。
発熱は三陰三陽ともに現われるが,脉浮もしくは悪風寒と共にあるときは表証とする。発熱は陰気の不足によって起るもので,これが陰脉虚に対応し,薬物としては芍薬が適応する。
桂枝湯の証は普通は悪風といわれるが、太陽上126の桂枝湯本条に於てすでに濇々悪寒,淅々悪風といっている位だから悪寒もあるはずである。
弁脉法33の「脉浮にして数,浮を風となし数を虚となす。風を熱となし虚を寒となす。風虚相搏つときは則ち酒淅として悪寒す」によると中風でも悪寒が起るものと考えられる。悪寒は陽虚によって起る(弁脈法3,25)
桂枝湯は中風で悪風し,麻黄湯は傷寒で悪寒するとの俗説があるが,麻黄湯も葛根湯も悪風といい,大青竜湯は中風でありがなら悪寒する。
悪寒しているときに風にあたれば余計気持が悪いから当然悪風を伴う。悪風しているときに寒さにあたっても悪寒は起こらない。寒が内に入れば続発的に新たに悪寒を起すことはある。そうしてみると桂枝湯の証の場合も悪風寒するときと悪風だけのことがあると思われる。悪風は表虚によって起る症状で,知覚過敏の場合と知覚鈍麻の場合とがある。
頭痛は上の陽虚,陽虚による邪の陽盛,陽虚による陰盛,気上衝などで起る。桂枝湯証は陽虚を起す原因が足る太陽膀胱経の変動にある。足の太陽膀胱経は頭から項背を通るので頭項痛,腰背強るのだ(傷寒例80,素問31)
身疼痛の身は全身何処でも起る意を含めており,身疼痛は気血表虚の症状である。
自汗,この場合は表の陽虚,衛虚又は衛強によって起る。
以上はみな表虚の症状である。しかし表の中にも陰陽があるが,桂枝湯の証は陽虚ばかりでなく陰虚も共にある。陽虚のために衛気虚し,陰虚のために栄血虚が起っている。陽虚には桂枝,陰虚には芍薬が使われる。
桂枝湯の証には表証ばかりでなく外証というのがある(太陽中158,160,161)
外と表とは同じものではない。内外にはいろいろな取り方があるが,ここでは外は体制で経絡の在る所,内は内臓で蔵府の在る所とする。外に表裏があって,それにもいろいろな取り方があるが,ここでは陽経在る所を表,陰経が在る所を裏とする(素問五王註)外,表を陽とすれば内,裏は陰になる。
表 三陽経
外 経絡
裏 三陰経
内 臓府
従って表というときは三陽経だが外というときは三陰三陽六経を指すことになる。では桂枝湯は太陽病ばかりでなく陽明経にも太陰経にも用いられるのであろうか。その通りで,陽明病331,354,360,太陰病394,厥陰病491に歴然とした用例がある。
普通は陽明病でも太陰病でも脉浮等の表証があれば発表すると説明されているが,その表証とは陽明病や太陰病なのか太陽病なのかを明示した註釈書は殆どない。これは陽明病或は太陰病なのである。その他用例はないが少陽病でも少陰病でもかまわない。すべて病が外に在るかぎりは発表するのである。
傷寒例82によるとこの三(陽)経はみな病を受けて未だ府に入らないものは汗すべきのみという。府に入らないとは病が外の経に在る意味で,太陽病だろうが陽明病だろうが少陽病だろうがみな汗すべきなのだ。しかし病が府に入って来たら陽明病は大黄剤,少陽病は柴胡剤が行くことは言をまたない。
三陰経の方は傷寒例85に三陰はみな病を受けてすでに府に入ってしまった場合は下すべきのみという。そうするとまだ府に入らぬ場合は病が外の経に在るだからやはり発汗すべきである。ただし陰経は裏に在るものでもし陽気が盛んで表熱が陰経に波及したときに限り発汗するのであって,もし陰寒が有余なら附子を以て経を温むべきである。例えば少陰病でも脉が浮なら発汗すべきだが,脉細沈(少陰403)とか脉微(少陰404)のときは発汗してはならない。
「少陰病,脉細沈数,軽為在裏,不可発汗」(少陰403)と,この書き方をよく味ってみると少陰病でも脉細沈数の場合には発汗してはならぬという限定を示していることがわかる。もし少陰病は例外なく発汗してはならぬというなら少陰病不可発汗と記すべきであろう。現に少陰病,之を得て23日,麻黄附子甘草湯にて微しく汗を発す(少陰420)という条文がある位だ。少陰病は附子剤を以て温め微しく汗を発するのが原則で,桂枝湯を使う場合もあり得るがそのケースは稀たという風に考えるべきであろう。
要するに病が外の経に在るかぎりは発汗するが,三陽経の表なら桂枝湯を以てし,三陰経でも表なら桂枝湯を以てするが,病が裏に入ったときは附子剤を以てするというのが原則になる。そういう意味で桂枝湯は病が外に在るときでも特に表に在るものに対して使うと規定することが出来よう。
なお三陰三陽六経の位置は四肢と躯幹に於とでは並び方が違い,四肢に於ては図1のごとく,躯幹に於ては図2のごとく配置されている。
第2類 栄衛の虚を補う
自汗(太陽上126,127,131,太陽中169,170,213,陽明331)は第一類の表熱のときにも出るが,無熱でも党成2又は衛強で出ることもある。
汗は心の液(34難,49難,素問23,霊枢78)というが,それは心臓から汗が出るという意味ではなく,心臓から血液が送り出され,その血液から汗が生成されるという意味である。心は血を生ずというのと関連させて考えればそれがわかる。血液から作られた汗を汗孔(漢方では玄府といい,腠理に在る)から外へ排出する機能を営むのが衛である。衛は腠理の開閉を主り(霊枢47)熱すれば腠理が開き栄衛が通じ汗が大いに泄れる(素問39)のが表熱の場合で,そのほか無熱でも表の陽気が虚すと衛も虚して腠理が開き汗が出る場合があり,また衛生が働きすぎて腠理が開き汗が出る場合もある(前述の条文,桂枝加附子湯証など参照)
このほかに発汗は体温の調節を司っている三焦殊に上焦と肺が関係している(霊枢10,36,81,素問62)
表の陽虚であり陽の衛虚で起る自汗に対しては陽気を補う桂枝が使われる。それと同時に栄血の虚を補うために芍薬も必要である。
煩,発汗して煩が解せぬもの(太陽上139,太陽中173)は表の熱がまだ残存しているからで,その熱は栄衛を虚させるから栄衛を補うことによって煩も自ら去るようになる。やはり桂枝芍薬の主る所である。
妊娠(金匱妊娠390)に使うのも栄虚を補う目的からであろう。婦人は陽脉より陰脉の方が盛んなのが生理的だが(19難)陰脉小弱になっているのは妊娠して栄血が不足しているからで,芍薬を主としてこれを補う意である。
第3類 膀胱の陽虚
桂枝湯は気上衝を治す(太陽上129)気上衝とは腎の陽気が虚して相対的に腎の陰気が盛んになり,衛脈を通って上方に衝撃的に上衝し,腹動や頭痛を起してくるものである。腎の陽気は膀胱に在るから膀胱の陽虚といっても同じことになる。桂枝湯は外に於ては足の太陽膀胱経の変動(前記傷寒例80)の太陽病に使う処方である。病邪が経に随って府の膀胱に入ったときも亦使うことができる。桃核承気湯証の太病病解せず,熱膀胱に結びというのを見ると太陽病の熱が府の膀胱に入ることがわかり,太陽膀胱経と膀胱との関係を知るよすがになるであろう。もし気上衝が著しくなれば奔豚病桂枝加桂湯の証になることは人の知る所である。
第4類 肺気の変動
桂枝湯の本条(太陽上126)に鼻鳴乾嘔雇証がある。鼻鳴は読んで字のごとしで鼻が鳴るのだが,鼻語るで鼻がクスンクスンするのも鼻鳴だし,鼻息が荒いのも鼻鳴にとれる。いずれにしても鼻は上気道で肺への出入口にあり,呼吸器の一部をなし漢方的には肺に属するものである(素問4その他)。
肺は呼吸作用をいとなむが,漢方では肺は気を司ると表現している(32難その他)のは呼吸作用ばかりでなく気に関するすべての機能を肺が統括して感ることを示している。
鼻鳴は肺の変動によって起ったものである。
乾嘔は金匱の産後病407にもあるが,胃から物か出ずにただゲーッと込上げて来る声だから気に属し,従って肺の変動に属する症状である。
故に鼻鳴乾嘔は共に肺の変動に属する症状で,それがどうして桂枝湯の証に入っているのであろうか。
肺は皮毛を主ること(素問4その他)肺と皮膚は共に直接外気に触れ,共に呼吸作用を営ること,発生学的に外胚葉性のものであること,肺も表も共に陽に属することなどを考えると肺と表との関係が深いことがわかり,臨床的にも治療的にはしばしば同価値的取扱われている。性状的に関係の深い器官に於ては一方の変動が他の一方に伝りやすい。桂枝湯の場合も表の変動が肺に伝るが,肺そのものの病変ではないからただ気の変動が起るだけで,それが鼻鳴乾嘔の症状として認められるのである。
桂枝湯は衛の陽虚を補うが,その衛は肺から起っているものであり(霊枢18,難経32)気味からみても辛温で辛は肺に入るから桂枝に肺の陽気を補う作用があることが考えられるのである。生姜も同様である。
桂枝湯証が肺気の変動に与ること一つの傾斜と見られるか,後に述べる葛根湯,小青竜湯,桂枝去芍薬湯など肺の病変に対して桂枝湯が展会されて行く契機をその中に包蔵していることが明かにされるのである。
第5類 胃虚への傾斜
桂枝湯の内に心下悶(金匱産後病407,太陽下286)と不能食(金匱妊娠病390)の証があり,これは言うまでもなく胃虚症状で,それに対しては桂枝湯の中の甘草大棗生姜が作用することは容易にわかるのである。
しかし問題点は表を治す桂枝湯証になぜ胃虚症状が出てくるのかということであり,それを解くことが桂枝湯の中に甘草大棗生姜を組入れた意義の解明に役立つかも知れぬということである。
外邪は腠理から侵入し経に入ると経を一巡する。その順序は定型的には太陽,陽明,少陽,太陰,少陰,厥陰で傷寒論の編次はこの順になっている。六経をめぐり尽すと再び太陽経に戻るか或はそのまま府に入ってしまう。
六経を一巡するのに定型的には6日若くはその倍数の12日を要するので,太陽病頭痛7日以上に至り自ら愈ゆるものはその経をめぐり尽すを以ての故なり(太陽上122)といわれており,太陽の次には陽明に行くから,もし再経をなさんと欲するものは足の陽明に針し,経をして伝えざらしむるときは則ち愈ゆ(同上)というのである。足の陽明は胃経でその府は胃である。「傷寒2,3日,陽明少陽の証足れざるものは伝わらずとなす」(太陽上119)は初伝の場合を指したもので,やはり太陽から陽明に伝ることを述べている。
それゆえ陽明胃に伝ることを予防するには胃気を補い丈夫にしておく必要があり,それでこそ甘草大棗生姜を加えた目的がわかってくるのだ。この外にも甘草大棗生姜を加えた別の意義があるが,それは改めて後に述べる。
桂枝湯構成の分析
桂枝湯の原始形態は桂枝芍薬の二味であったろう。更に遡れば桂枝が邪気をはらう咒術的民間薬であったことは疑いない。桂枝は孔子の時代にすでに知られていた咒術的薬物だった。それに気血を調える意味で芍薬が加えられたのであろう。生姜甘草大棗を加えて桂枝湯の形態をなしたのは恐らくは漢代であろう。
桂枝の気味は辛温,桂枝湯に於ける桂枝の作用は既述の通り表の陽虚,衛虚,腎の陽虚,肺の陽虚を補い,それらによって生ずる各種の表証,気上衝等を治す。その桂枝湯の加減方,類方にあっては更に多くの作用が認められる。
芍薬の気味は苦平で陰虚,栄虚を補い,また血虚によって起る筋急疼痛を治し,桂枝湯の加減方,類方に於ては更に多くの作用が認められる。
桂枝湯に於ては表の陽虚陰虚,衛虚栄虚を補うのが主眼であり,桂枝を主薬とし芍薬を臣薬とすることに何等異論をさしはさむ余地はない。
甘草の気味は甘平,一般に甘味の作用として緩和があるので諸薬の調和,気上衝,身疼痛,乾嘔等急迫症状の緩和作用は諸註釈書に説かれている通りである。
その他甘は血に行くので芍薬を助けて血虚による各種症状を治し,甘味は辛味と共に発散する通性があるから桂枝と共に肺の陽気を補い,甘味は中を補うから,大棗と共に胃虚を補い,この点でも芍薬の作用を助けている。
栄衛は脾胃から発生するのだから脾胃を補うことは栄衛を補うことにもなり,その意味で芍薬甘草大棗の作用は桂枝湯に於いて重要な役目を演じていることを看過してはならない。決して単なる味付けではないのだ。また甘草は胸の陽気を補うが肺から衛,心から栄を生じていることを思えばやはりここでも栄衛の運行を助けていることが知られるのである。
大棗の気味は甘平,緩和,補胃,補血の作用があることは甘草と同じだが,心肺を補い潤す作用がある点が甘草と異る。桂枝湯の加減方,類方に於て大棗が特にその作用を担当する例が多い。例えば桂枝去芍薬湯の胸満,炙甘草湯の肺萎悸,当帰四逆湯の脉欲絶等々がこれである。
生姜は気味旨温,その性能は陽,肺に行き気逆気痞を治し,水湿を燥かし,寒を温める。
よって桂枝湯に於ては桂枝を助けて衛の陽気をめぐらせ,風寒去り,乾嘔の気逆をしずめ,辛は腎の燥きを潤すか台故に太陽経から膀胱に熱が伝り腎の陽虚によって気上衝を起さんとするものに対してよく桂枝を助けてこれを治す作用があるものと考えられる。苓姜朮甘湯や甘草乾姜湯に於ける乾姜がよく腎の陽気を補うことを思えば腎に対する生姜の作用も亦諒解できるであろう。
その上,桂枝湯の味は甘く,酒客嘔家にこれを禁じている位だから,甘味が胃になじみ胃の気痞を起さんことを生姜で予防する意味を兼ねている。
以上の各薬は桂枝湯内に於てそれぞれ各個の持つ全機能を発し,場合によって例えば桂枝なら或るときは主として衛虚を補い,或るときは主として腎の陽虚を補う等それぞれの場合に応じて特殊機能を主として或は兼ねて作用せしめるのであって,決して一つの作用しか呈しないという風に狭く見てはならない。それなればこそ一処方が各種の場合に広く運用され得るのである。古方家は処方の運用を専ら経験によってつかもうとしたが,その経験を裏付け,また運用範囲を予見せしめるためには理論的に分析して処方の本質をつきとてめおいてこそ始めて自由な含みのある境地に立つことが出来よう。
桂枝湯を構成する各薬の気味を案ずるに,辛苦甘,温平の気味より成り,辛を主薬していることが知られる。
辛苦甘温平の処方はひとり桂枝湯のみならず,葛根湯,麻黄湯,小柴胡湯,真武湯,苓姜朮甘湯,苓桂朮甘湯等々傷寒金匱を通じて約40方を数えることができる。その他辛苦甘なれども寒平,寒温,寒温平の処方を挙げれば60方に達する。
然らば味の構成上辛苦甘はどんな意味がありどんな一般性があるのだろうか。
素問(5,74)に気味,辛甘発散を陽となし,酸苦涌泄を陰となすとある。これによって考えるに陽の辛甘が多いので陽虚を補うのを主とし,且つ陰を補って調和を図るというのが主目的になると思われる。葛根湯,麻黄湯,真武湯等みなこの趣意を帯びている。
しかしながら一般的にみると辛苦甘といえども桂枝湯類のごとく桂枝の辛を主薬とする場合と麻黄湯,小柴胡湯のごとく麻黄柴胡の苦を主薬とする場合と,葛根湯,真武湯,苓桂朮甘湯のごとく葛根,茯苓の甘を主薬とする場合とではその間に自ら違いを生ずるものであって,苓桂朮甘湯のごとく桂枝を含みながら桂枝を主薬とせず茯苓の甘を主薬とするが如きは,真武湯のごとく附子を含みながら附子を主薬とせず茯苓の甘を主薬とするが如き,各処方によって方意と構成上から辛苦甘のうちどれかに重要性,主体がかかっているかによって違いが生じてくるのである。辛苦甘より成ることに共通普遍性はありながら,またその中に特殊性個別性を生ずることを見落としてはならない。況んや辛苦甘の構成であっても気の温平と寒平,寒温,寒温平とではそこは又差違を生ずてくることを銘記せねばならぬ。
辛は肺,苦は心,甘は脾に入るから辛苦甘の処方はすべて肺心脾に作用するというと必ずしもそうでない。桂枝湯は前述のごとく肺心脾にも入るが,むしろ肺の気衛,心の栄血,脾の栄衛胃虚等に作用する面の方が主であるし,腎の陽虚にも作用するのである。そうすると辛苦甘をただ肺心脾だけに作用すると考えるのは誤りで,もっと辛苦甘の味そのものが持っている各種の作用を追及しなければいけないことになる。事実は味は五行全部に作用するのであって,例えば苦は心のみならず肺,肝,脾,腎にも作用するのだから事柄は非常に複雑になる。いわば五行中に五行があるのだ(類経図翼1)
このことを胸にたたんでおいてもう一度素問の七四至真要大論を読んでみる。
成無己先生が引用したのは風淫の場合だが「司天の気,風淫の勝つ所,平ぐるに辛涼を以てし,佐くるに苦甘を以てし,甘を以てこれを緩め,酸を以てこれを瀉す」「諸気在泉,風内に淫するときは治するに辛涼を以てし,佐くるに苦を以てし,甘を以てこれを緩め,辛を以てこれを散す」の二条に拠ったことがすでに誤りであった。成無己先生は桂枝湯証は中風だから風が原因と見て考えたのだが,至真要大論の運気に於ける風は厥陰肝を侵すのが本来であって太陽病ではないのである。それは運気の厥陰の病をよく読めば気が付くことである。風の場合,運気では主薬が辛涼になっており,桂枝は辛温だのに成無己先生は辛だけとって涼を削ってしまったのは故意か曲解である。いや辛涼という前に厥陰風の条に拠ったことが大きな誤りであって,これは風陽寒に拠らねばならぬのである。
太陽は腎の陽,寒は腎の陰,つまり寒が強くて腎の陽気を傷った場合である。腎の陽は言うまでもなく膀胱であり,足の太陽膀胱経を侵して太陽病になるのである。
「寒淫の勝つ所,平ぐるに辛熱を以てし,佐くるに甘苦を以てし,鹹を以てこれを瀉す」と,正にそれに拠るべきである。
成無巳先生が引用した風内に淫すればということからしておかしい。なぜなら桂枝湯は外の傷れであって内に淫したものではないからである。この点でも寒淫の勝つ所の方が正しい。殊に風内に淫すればと風淫の勝つ所の二条を引いて桂枝湯という一処方を分割すべきではなく,病が外に在って経を侵せば風淫所勝とし,病が内に入って府を侵せば風淫于内の場合というように区別して扱うべきものであって,両者を混ぜ合して同格もしくは同次元に扱ってはならぬ。この点成無己先生の大きなミスであった。弘法も筆の誤りのたぐいだが,先生がこのような方法論を示して下さったお蔭で私も至真要大論に拠ることを知ったのだから感謝にたえない。
ここで一つの問題があるが,それは寒淫所勝の条は素問新校正及び類経の註によると寒淫于内の条と同じであるべきで寒淫所勝の条は誤りだというのである。寒淫于内の条は「治するに甘熱を以てし,佐くるに苦辛を以てし,鹹を以てこれを写し,辛を以てこれを潤し,苦を以てこれを堅む」である。だがこの説はおかしい。私は至真要大論の文のままで宜いと思うが,その理由を述べるには相明ひろく運気にわたって説明しなければならぬので今は已むを得ず割愛するが,その理由の趣旨は寒淫所候とは事情が違うということに尽きる。
素問及び類経の註は基礎を5行と素問22蔵気法時論においている。例えば寒淫所勝に対しては類経に「辛熱は以て寒を散ずるに足る。苦甘は以て水に勝つべし。鹹を以て之を写するは水の正味はその写に鹹を以てすればなり」とし,風淫于内に対しては「風を木気となす。金はよくこれに勝つ。故に治するに辛涼を以てす。辛に過ぐれば反ってその気を傷ることことを恐る。故に佐くるに苦甘を以てす。苦は辛に勝つ。甘は気を益すなり。木の性は急,故に甘を以てこれを緩む。風邪勝つ。故残辛を以てこれを散ず。蔵気法時論に曰く,肝を急を苦しむ。急に甘を食して以てこれを緩む。肝は散を欲す。急に辛を食して以てこれを散ずとこれこの謂ひなり」と。
類経は素問の註釈書としては非常にに探れた親切な本で教えられる所がすこぶる多いが,賛同しかねる所も少くない。この条の註にしても一応整っているが桂枝湯など実際の処方分析に当っては不都合や矛盾が起る。例えば芍薬の苦は決して水に勝つために在るのではなく,また桂枝の辛が木を傷ることを恐れて予防的に加えたものではないのだ。ただ気味の扱い上について示唆に富んでいるのでこれを土台にしてその上に考えを進めて行けば宜いであろう。
傾斜と展開
桂枝湯が衆方の祖といわれるのは外邪が表に中ったときに使う代表的な処方の一つであり,外邪はそれから内外に転々と流伝してきて千変万化の像を呈するもこれを桂枝湯の立場からみると或は虚実に,或は寒熱に,或は内外に,或は気血水の変化に於て各方面にテーゼ,アンチテーゼの関係をなすものゆえ桂枝湯を以て座標の軸とした意図がわかるのである。
もう一つは桂枝湯には他の方剤に類を見ないほど加減方や類方が多いのであって,それを以てしても桂枝湯の重要性を謳い上げるだけの価値がある。
加減方類方に於ても桂枝湯の土台に乗って作用するものであって,実は桂枝湯そのものの内に各種の加減方に発展すべき契機が内蔵されており,これを傾斜と称することは前に述べた通りである。ここに改めてそれを具体的に例を挙げて述べよう。加減方を知ることは逆に桂枝湯の本質を窺い知ることにもなるのだから。
傾斜と展開は桂枝湯の構造と病理と適応証の三面から考察すべきだが,便宜上これを二つに分けておく。
A 構造上から
加桂 腎の陽虚から気上衝,奔豚に及ぶ。桂枝加桂湯がそれである。
去桂 桂枝湯から桂枝を抜いて考えると脾胃に行く処方になる。それに茯苓,朮を加えて桂枝去桂加茯苓白朮湯ができる。この場合の小便不利は桂枝による排尿障害ではなく尿生成障害だから茯苓を加えたものだ。
加芍 芍薬による脾虚,栄虚が出てくる。桂枝加芍薬湯,桂枝加大黄湯,建中湯類
去芍 芍薬を抜くと辛甘の薬ばかりになり専ら陽の部位に作用して陽虚を補うこととなる。桂枝去芍薬湯の胸満,桂枝去芍薬加附子の胸満微悪寒,桂枝去芍薬加麻黄細辛附子湯の気分,桂枝去芍薬加皂莢湯の肺痿,桂枝去芍薬加蜀漆牡蛎救逆湯,桂枝甘草竜骨牡蛎湯の火邪火逆(これは腎の陽虚からも云える),炙甘草湯の肺痿,悸などはみなこの類である。
加棗 胸に行き心血を補うものが多い。当帰四逆湯,当帰四逆加呉茱萸生姜湯,炙甘草湯
B 病理と適応証の上から
表虚 桂枝加葛根湯,括蔞桂枝湯,桂枝加黄耆湯,桂枝加附子湯,桂枝加芍薬生姜人参湯をはじめ大部分の処方がその意を蔵している。
肺気変動 桂枝加厚朴杏仁湯の喘,桂枝去芍薬湯の胸満,小青竜湯の喘咳等
栄血の虚,脾虚 桂枝加芍薬湯,桂枝加大黄湯など。
栄衛の虚 虚労の小建中湯,黄耆建中湯,当帰建中湯
自汗 桂枝加附子湯の脱汗,桂枝加黄耆湯,黄耆建中湯の盗汗
煩 肌熱によるもので,桂麻各半湯の痒み桂枝加黄耆湯の黄汗,これは黄耆芍薬桂枝苦酒湯,お乗着桂枝五物湯に展開する。
身疼痛 桂枝附子湯,更に白朮附子湯,甘草附子湯,その裏の烏頭桂枝湯,桂芍知母湯など
筋急拘攣 桂枝加葛根湯,括蔞桂枝湯,桂枝加芍薬生姜人参湯,桂枝加芍薬湯,更に芍薬甘草湯
心下悶 胃虚によるもので,桂枝去桂加茯苓白朮湯の心下満微痛,更に真武湯に発展する。
気上衝 腎の陽虚によることは度々述べた通りだが,桂枝加竜骨牡蛎湯,桂枝去芍薬加蜀漆牡蛎竜骨救逆湯,桂枝甘草竜骨牡蛎湯,桂枝加桂湯から進んでは苓桂甘棗湯,苓桂味甘湯等に至る。
まとめ
桂枝湯の構成についてはなお多くの探求すべき問題を残しているであろう。例えば服用法の熱稀粥(これはただ体を温めるばかりでなく,やはり胃を補う意味がある)臨床的にみて処方構成と脈や腹証との関係,発汗,発表,解肌の相互関係(肌中に経,血脉が在る)麻黄湯や葛根湯を服用して発汗せずに利尿して病が解すことがあるが,恐らく桂枝湯も同様であろう。その理由は汗と小便との相対的関係も
勿論だが,桂枝の膀胱に対する排尿促進作用があるからである。
この小稿の要点を表示して結論に代えることにする。
| 症状 | 病理 | 薬 | 物 | の | 主 | 治 | |
| 桂 | 芍 | 甘 | 棗 | 姜 | 作用 | ||
| 脈浮弱 発熱、悪風寒 頭痛、身疼痛 自汗 | 外表の 陰陽虚 熱 栄衛の虚 | 太陽表の陽気 | 陰血 | 外表の陰陽虚を補う 発表 解肌 | |||
| 自汗 煩 | 栄血虚 衛気虚 | 衛気 | 栄血 | 血 | 心血 | 気 | 栄衛気血の虚を補う |
| 気上衝 | 腎の陽虚 | 膀胱 | 腎の陽虚を補う | ||||
| 鼻鳴 乾嘔 | 肺の陽虚 | 肺 | 肺 | 肺 | 肺心(気血栄衛)の虚を補う | ||
| 心下悶 不能食 | 脾(胃)の 陽虚 | 脾 | 胃 | 胃 | 胃 | 脾の陰虚、胃の陽虚を補う |
『漢方診療の實際』 大塚敬節・矢数道明・清水藤太郎著 南山堂刊
桂枝湯
本方は血行を盛んにし、身体を温め、諸臓器の機能を 亢める効果があるので、広く諸疾患に応用される。応用の第一としては感冒であるが、その場合の目標は悪寒・発熱・頭痛・脈浮弱・自汗が出る等の症候複合で ある。この脈弱と自汗が出るという症状は桂枝湯が、葛根湯や麻黄湯に比較して虚弱体質に用いられることを示すものである。即ち表の虚が桂枝湯で表実が葛根湯・麻黄湯の證である。桂枝湯の腹證は必ずしも一定しないが、脈弱に相応したもので、決して強壮充実した腹ではない。
本方の主薬は桂枝である が、桂枝・生姜は一種の興奮剤で、血行を盛んにし、身体に温感を生じ、悪感発熱を去り、諸臓器の機能を亢める。芍薬は桂枝の作用を調整するものと考えられ る。また甘草と組んで異常緊張を緩和する効があって能く拘攣を治し、疼痛を緩和する。甘草・大棗・生姜は矯味薬に兼ねるに滋養剤の意味がある。
桂枝湯の応用は感冒・神経痛・リウマチ・頭痛・寒冷による腹痛・神経衰弱・虚弱体質・陰萎・遺精等であるが、なお次の加減方を参照されたい。
『漢方精撰百八方』
52.〔方名〕桂枝湯(けいしとう)
〔出典〕傷寒論、金匱要略
〔処方〕桂枝、芍薬、大棗、生姜各4.0g 甘草2.0g
〔目標〕
1.感冒のような状態で、脈をみると、浮いていて弱く、さむけがして熱もあり、くしゃみが出る。
2.熱が出て頭痛がし、脈は浮いていて弱く、汗が自然ににじみ出て、さむけもある。
3.以上のような病状のものに、間違って下剤を与えてはならない。
4.どこにま以上を発見することができず、ただ時々熱が出て、その時に汗が出るような患者。
5.熱があって頭痛がし、六、七日も便秘していても、小便が澄明で著色していないもの。
6.頭痛、発熱、さむけがあって、脈にも力があり、麻黄湯で発汗せしめたところ、一旦軽快し、また気持ちがわるくなって、脈が浮いて速いもの。
7.熱があって、からだが痛み、さむけのある患者を誤って下剤で下したところ、下痢がやまなくなり、たべたものがそのまま下るようになった。こんな患者には先ず四逆湯を用い、下痢がやんでのちも、からだの痛む時に、桂枝湯を用いる。
8.つわりで、頭痛がし、時に熱が出て、のどは少し乾くが食事がまずいというもの。
9.産のあとで、永い間、少し頭痛がし、さむけもし、時々熱も出て、みずおちが苦しく、吐きそうになり、汗も出るようなもの。
〔かんどころ〕熱のある場合は、脈が浮いていて弱く、さむけがするのを目標とし、その他の雑病では、からだが虚弱で、疲れやすく、脈が浮いて大きく力がないという点に眼をつける。
〔応用〕感冒、神経痛、腹痛、下痢。
〔附記方名〕桂枝去芍薬湯(けいしきょしゃくやくとう)
〔出典〕傷寒論
〔処方〕桂枝、大棗、生姜各4.0g 甘草2.0g
〔目標〕脈促、胸満のもの。
〔かんどころ〕脈が速く、腹から胸に何かが上がってくるようで、胸がいっぱいになった状。
〔応用〕神経症
大塚敬節
『漢方薬の実際知識』 東丈夫・村上光太郎著 東洋経済新報社 刊
4 表証
表裏・内外・上中下の項でのべたように、表の部位に表われる症状を表証という。表証では発熱、悪寒、発 汗、無汗、頭痛、身疼痛、項背強痛など の症状を呈する。実証では自然には汗が出ないが、虚証では自然に汗が出ている。したがって、実証には葛根湯(かっこんとう)・麻黄湯(まおうとう)などの 発汗剤を、虚証には桂枝湯(けいしとう)などの止汗剤・解肌剤を用いて、表の変調をととのえる。
各薬方の説明
4 桂枝湯(けいしとう) (傷寒論、金匱要略)
〔桂枝(けいし)、芍薬(しゃくやく)、大棗(たいそう)、生姜(しょうきょう)各四、甘草(かんぞう)二〕
本方は、身体を温め諸臓器の機能を亢進させるもので、太陽病の表熱虚証に用いられる。したがって、悪寒、発熱、自汗、脈浮弱、頭痛、身疼痛な どを目標とする。また、本方證には気の上衝が認められ、気の上衝によって起こる乾嘔(かんおう、からえずき)、心下悶などが認められることがある。そのほ か、他に特別な症状のない疾患に応用されることがある(これは、いわゆる「余白の證」である)。本方は、多くの薬方の基本となり、また、種々の加減方とし て用いられる。
〔応用〕
つぎに示すような疾患に、桂枝湯證を呈するものが多い。
一 感冒、気管支炎その他の呼吸器系疾患。
一 リウマチ、関節炎その他の運動器系疾患。
一 そのほか、神経痛、神経衰弱、陰萎、遺精、腹痛など。
ホルモン剤を使った後や壊病の時にも使う。
桂枝湯の加減方
(1) 桂枝加桂湯(けいしかけいとう) (傷寒論、金匱要略)
〔桂枝湯の桂枝湯を六とする〕
桂枝湯でおさまらないほど強い気の上衝に用いられる。本方は、のぼせ、腹痛、上逆(気が下部より上部に衝き昇り、不快を感ずる状態)などを目標とする。
(2) 桂枝加葛根湯(けいしかかっこんとう) (傷寒論)
〔桂枝湯に葛根六を加えたもの〕
桂枝湯證で、項背拘急が強いものに用いられる。
(3) 桂枝加黄耆湯
〔桂枝湯に黄耆三を加えたもの〕
桂枝湯證で、自汗の度が強く、盗汗の出るものに用いられる。
布団が黄色くなるほど汗が出る(黄汗)
(4) 桂枝加厚朴杏仁湯(けいしかこうぼくきょうにんとう) (傷寒論)
〔桂枝湯に厚朴、杏仁各四を加えたもの〕
桂枝湯證で、喘咳を伴うものに用いられる。
桂枝加厚朴杏子湯(けいしかこうぼくきょうすとう)が本来の薬方名。
(5) 桂枝加竜骨牡蠣湯(前出、順気剤の項参照)
(6) 桂枝加附子湯(けいしかぶしとう) (傷寒論)
〔桂枝湯に附子○・五を加えたもの〕
桂枝湯證で、冷えを伴うものに用いられる。したがって、腹痛、四肢の運動障害、麻痺感、小便が出にくいなどを目標とする。そのほか、小児麻痺、産後の脱汗(ひん死の状態の多汗をいう)、筋痙攣、半身不随(脳出血などによる)にも用いられる。
桂枝湯にしてはやや脈が弱く、
桂枝湯にしては寒気や倦怠感が強く、
足が抜けるようにだるく投げ出したいような場合に桂枝附子湯用いる(蓮村幸兌先生)
桂枝湯にしてはやや脈が弱く、
桂枝湯にしては寒気や倦怠感が強く、
足が抜けるようにだるく投げ出したいような場合に桂枝附子湯用いる(蓮村幸兌先生)
(7) 桂枝加朮附湯(けいしかじゅつぶとう) (本朝経験)
〔桂枝加附子湯に朮四を加えたもの。〕
桂枝加附子湯證に、水毒をかねたもので、水毒症状の著明なものに用いられる。したがって、関節の腫痛や尿利減少などを呈する。本方は、貧血、頭痛、気上衝、脱汗、口渇、四肢の麻痺感(屈伸困難)・冷感などを目標とする。
(8) 桂枝加苓朮附湯(けいしかりょうじゅつぶとう)
〔桂枝加朮附湯に茯苓(ぶくりょう)四を加えたもの〕
桂枝加朮附湯證で、心悸亢進、めまい、尿利減少、筋肉痙攣などを強く訴えるものを目標とする。本方は、苓桂朮甘湯(りょうけいじゅつかんとう)(後出、駆水剤の項参照)、真武湯(しんぶとう)、甘草附子湯(かんぞうぶしとう)(いずれも後出、裏証Ⅱの項参照)などの薬方の加減方としても考え られる。
(9) 桂枝附子湯(けいしぶしとう)
〔桂枝湯の芍薬を去り、附子○・五を加えたもの〕
表証があり、裏位に邪のないもの(したがって、嘔吐、口渇がない)で、身体疼痛し、寝返りのうてないものに用いられる。本方は、甘草附子湯證 (後出、裏証Ⅱの項参照)に似ているが、骨節に痛みがなく、ただ身体疼痛するだけのものに用いられる。また、本方は桂枝加朮附湯よりいっそう重症のリウマ チなどに用いられる。
中川良隆先生の口訣「足が抜けるようにだるい状態に桂枝附子湯」
中川良隆先生の口訣「足が抜けるようにだるい状態に桂枝附子湯」
5 桂枝加芍薬湯(けいしかしゃくやくとう) (傷寒論)
〔桂枝湯の芍薬の量を六としたもの〕
本方は、桂枝湯の表虚を治す作用が、芍薬の増量によって裏虚を治す作用へと変化している薬方である。本方に膠飴(こうい)を加えたものは、小 建中湯(しょうけんちゅうとう)(後出、建中湯類の項参照)であり、裏虚を治す作用が強い。したがって、本方は虚証体質者に用いられるもので、腹満や腹痛 を呈し、腹壁はやわらかく腹直筋の強痛を伴うものが多いが、ただ単に痛むだけのこともある。下痢も泥状便、粘液便で水様性のものはなく、排便後もなんとな くさっぱりしない。
〔応用〕
つぎに示すような疾患に、桂枝加芍薬湯證を呈するものが多い。
一 下痢、内臓下垂の人の便秘、腸カタル、腹膜炎、虫垂炎、移動性盲腸炎その他。
桂枝加芍薬湯の加減方
(1) 桂枝加芍薬大黄湯(けいしかしゃくやくだいおうとう)
〔桂枝加芍薬湯に大黄一を加えたもの〕
桂枝加芍薬湯證で、便秘するもの、または裏急後重の激しい下痢に用いられる。
6 桂枝麻黄各半湯(けいしまおうかくはんとう) (傷寒論)
〔桂枝湯と麻黄湯の合方〕
表証である悪感、発熱、頭痛があり、汗が出ないが体力は弱く、虚実の中間のものに用いられる。汗が出ないために、皮膚がかゆく感じられるものを目標とすることもある。
〔応用〕
つぎに示すような疾患に、桂枝麻黄各半湯證を呈するものが多い。
一 感冒、気管支炎その他の呼吸器系疾患。
一 皮膚瘙痒症、じん麻疹、湿疹その他の皮膚疾患。
【関連情報】
インフルエンザの漢方治療
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2010年11月23日火曜日
帰脾湯(きひとう)と加味帰脾湯(かみきひとう) 効能・効果 副作用
『臨床応用 漢方處方解説 増補改訂版』 矢数道明著 創元社刊
28 帰脾湯(きひとう)〔済生方〕
人参・白朮・茯苓・酸棗仁・竜眼肉 各三・〇 黄耆・当帰・ 各二・〇 遠志・甘草・木香・大棗・乾生姜 各一・〇
〔応用〕元気胃腸の弱い虚弱体質の者が、身心過労の結果、種々の出血を起こして貧血をきたしたり、健忘症となったり、神経症状を起こしたりしたときに用いる。
本方は主として腸出血・子宮出血・胃潰瘍・血尿等による貧血と衰弱・白血病・バンチ病・健忘症・嚢腫腎・不眠症等に用いられ、また神経性心悸亢進症・食欲不振・月経不順・ヒステリー・神経衰弱・遺精・慢性淋疾・瘰癧等に応用される。
〔目標〕心と脾の虚で、貧血・心悸亢進・健忘・不眠症・諸出血等を主目標とする。患者は顔色蒼白、脈腹ともに軟弱で、元気衰え、疲労感を訴え、多かれ少なかれ神経症状をともなっている。炎症や充血などのない場合である。
〔方解〕人参・黄耆・白朮・茯苓・大棗・甘草の六味は脾を強くし、すなわち健胃強壮をもっぱらとしている。竜眼肉・遠志・酸棗仁は心を養い、神経を強め、かつ鎮静し、木香は気分をさわやかにし、当帰は貧血を補う。当帰はとくに人参と組んで新血を生ずるとされている。
〔加減〕加味帰脾湯。帰脾湯に柴胡三・〇、山梔子二・〇を加えたもので、帰脾湯の証にやや熱状の加わったものに用いる。
〔主治〕
済生全書(補益門)に、「脾経ノ失血、少シ寝テ発熱盗汗シ、或ハ思慮シテ脾ヲ破リ、血ヲ摂スルコト能ハズシテ以テ妄行ヲ致シ、或ハ健忘征忡(心悸亢進・むなさわぎのこと)、驚悸シテ寝ネズ、或ハ心脾傷痛嗜臥少食、或ハ憂思シテ脾ヲ傷リ、血虚発熱シ、或ハ肢体痛ヲナシ、大便調ハズ、或ハ婦人経候不準、哺熱内熱、或ハ瘰癧流注シテ消散潰斂スルコト能ハザルヲ治ス」とあり、
勿誤方函口訣には、「此ノ方ハ遠志、当帰ヲ加ヘテ、健忘ノ外、思慮過度シテ心脾二臓ヲ傷リ、血ヲ摂スルコトナラズ、或ハ吐血、衂血、或ハ下血等ノ症ヲ治スルナリ。此ノ方ニ柴胡・山梔ヲ加ヘタルハ、前症ニ虚熱ヲ挟ミ、或ハ肝火ヲ帯ブル者ニ用ユ、大凡ソ補剤ヲ用ユル時ハ小便通利少ナキ者多シ。此ノ方モ補剤ニシテ、且ツ利水ノ品ヲ伍セザレドモ、方中ノ木香気ヲ下シ、胸ヲ開ク、故ニヨク小便ヲシテ通利セシム」とあり、
方櫝弁解には、「他ノ補薬ヲ用イテ胸膈ニ泥ムコトアルトキハ此方ニ代ユベシ。十全大補湯、或ハ補中益気湯ノ類ハ、病人胸ニ滞ルコトヲ覚ユ、此方ハ譬バ氷砂糖ヲ食スルガ如シ、反テ能ク胸ヲ開ク」とある。
〔鑑別〕
○十全大補湯62(貧血・気血両虚、神経症状少なし)
○六君子湯147(脾胃虚・胃内停飲)
○補中益気湯135(気虚・中気不足)
○黄土湯13(出血・陰虚証、悪寒、腹動悸・臍下不仁)
〔参考〕
矢数道明、帰脾湯の運用について(漢方と漢薬 四巻一号・漢方百話)
李建柱氏、帰脾湯に就て(漢方と漢薬 九巻一号・二号)
坂口弘氏、益気湯と帰脾湯(東洋医学 一巻三号)、坂口弘氏外、加味帰脾湯の二症例(日東洋医会誌 二七巻三号)。
〔治例〕
(一) 熱性病後の衰弱
鈴木某が疫(腸チフス)を病んで、発病以来数十日、大骨枯稿、大肉陥下、ただ凸起するものは肋骨のみで、ひどく痩せた。薬は吐いて受けつけない。衰弱の極、ついに妄語を発するようになった。考えてみると、これは邪熱は既に去って、心と脾が至極虚したもので、それを補足すれば即ち病は治るはずである。そこで帰脾湯一貼を与えてみたところ吐かない。二貼与えてみると爽快になり、食欲が出て妄言は止んだ。人々は驚いてその薬効に感心した。この方を続け用いて日一日と快方に向い、ほどなく起床して全治した。
(和田泰庵、和漢医林新誌 一二二号)
(二) 驚愕による神経症
五〇歳の思子。あるとき戯れて他人と首引きをし、だまされて後ろへ倒れた。その時は別状なかったが、三日の後、昼夜発熱して譫語を発し、一医は外感として治したが効なく、古林見桃の診を乞うた。見桃はその前因を審にきいて、これは驚気心に入るの症なりとして帰脾湯を与えたところ全く癒えた。
(百々漢陰翁、漢陰臆乗)
(三) 血尿
四一歳の婦人。腎臓腎盂炎による血尿で臥床し、発病以来二三日、初め発熱三九度以上で一〇日間も持続した。現在三七度二分。顔面蒼白・心動悸・脈沈微・食欲不振、舌苔なく、口唇結膜ともに蒼白、貧血甚だしく心雑音をきき、肝腫大し、腎臓腫れ痛み、血尿が甚だしい。不眠と健忘があった。帰脾湯を与えて日一日と快方に向かい、服薬二ヵ月でほとんど全治した。
(著者治験、漢方と漢薬 四巻一号)
(四) バンチ病
四二歳の婦人。バンチ病の診断をうけた。呼吸困難・眩暈・頭痛・強度の貧血・脈微弱・脾腫甚だしく・腹水があり、心音は貧血性雑音で下肢には微腫を認めた。そこで帰脾湯を与えたが、三週間で自覚症はほとんど消退し、後に五積散で調理した。脾腫は二分の一ぐらいに縮小し、家事雑用を弁ずるに至った。
(木村久雄氏、漢方と漢薬 四巻一二号)
(五) 嚢腫腎と子宮出血
三九歳の婦人。五年前に嚢腫腎といわれ、手術をうけた。尿中蛋白はいつも陽性で、赤血球も認められ、両腎はひどく腫れていた。本症は約一ヵ月前より始まり、月経の後出血が長びき、塊状の下り物が沢山で止まらず、すっかり貧血してしてしまった。病院の婦人科では子宮筋腫による出血で、即刻入院して子宮全剔手術をしないと生命が危ないといわれたという。体格小、顔色は貧血して白紙のよう。動悸・呼吸困難・心下痞悶・めまい・食不振・絶対安静を守っているが出血は止まらないという。脈沈細微、腹軟弱であるが、両腎は小児頭大に腫大している。この患者には芎帰膠艾湯・黄土湯・十全大補湯・帰脾湯のいずれかにしたいと思ったが、発病前後数ヵ月、患者は身心過労の極倒れたこと、貧血があまりに高度であること、脾と心の虚を目標にして帰脾湯を与えた。本方服用後、三日目から出血やみ、食欲が出て、一五日間服用起、起床してデパートへ買物に出かけることができた。貧血も回復し、腎臓の腫大もかなり小さくなった。(著者治験、漢方の臨床 一〇巻一一号)
『明解漢方処方』 西岡一夫著 浪速社刊
⑫帰脾湯(済生方)
黄耆 当帰各二・〇 人参 朮 茯苓 酸棗仁 竜眼肉各三・〇 遠志 甘草 木香 大棗 生姜各一・〇(二四・〇)
この方は四君子湯(脾胃の虚弱)を基にして、補血、止血の薬を加えたもので、四君子湯証の体質の人、即ち平常虚弱で顔色青白く食慾不振などの症ある人が、その上に何か精神的過労が加わって身心ともに疲労の極地になり、その結果、腎機能の障害(血尿、蛋白尿、腎臓腫大)を起してきたものを目標にする。古人も“思慮して脾を傷り、血を摂ること能わず”に用いるという。古方家の湯本求真氏は本方を酸棗仁湯の類方なりというが、果してどうであろうか、本方の主目標は四君子湯の脾胃の虚にあり、不眠、血虚を客証とみれば、古方ではむしろ人参湯と黄土湯の合方のように思え音¥なお熱症状のあるときは山梔子、柴胡各二・五を加えた加味帰脾湯を用いる。本方の詳細な研究については矢数道明氏が漢方と漢薬四巻一号(または漢方百話)に発表しておられる。出血性疾患。不眠症。
『漢方処方の手引き』 小田博久著 浪速社刊
帰脾湯(済生方)
人参・白朮・茯苓・酸棗仁・竜眼肉:三、黄耆・当帰:二、遠志・甘草・木香・大棗・乾生姜:一。
(主証)
胃腸の弱い者の寝冷えによるかぜの初期。
精神的過労による症状(神経・内臓)。食欲不振。
(客証)
貧血・虚弱が多い。心悸亢進、不眠。出血。腎機能低下。軽度の消化器潰瘍。
(加減)
熱の症状ある場合、柴胡:三、山梔子:二を加える(加味帰脾湯)。
(考察)
脾虚。
胃弱く胃内停水→六君子湯。
気力乏しい→補中益気湯。
貧血、神経症状ない→十全大補湯。
済生全書(補益門)
「脾経の失血、少し寝て発熱盗汗し、あるいは思慮して脾を破り、血を摂すること能わずして、もって妄行をいたし、あるいは健忘征忡(むなさわぎ)、驚悸して寝ず、あるいは心脾傷痛して臥するをこのみ少食、あるいは憂思して脾を傷り、血虚発熱し、あるいは肢体痛をなし、大便調わず、あるいは婦人経をみるに不準、補熱内熱、あるいは瘰癧流注して消散潰斂すること能はざるを治す。」
『健康保険が使える漢方薬の選び方・使い方』 木下繁太郎著 土屋書店
帰脾湯
症状
身体が弱って元気がなく、疲れやすく、貧血で、動悸があり、眠れない、物忘れする、出血があるといった場合に用いるもの。平素胃腸が弱い虚弱な人が心労、過労出血などで弱って精神症状を起こした場合に使う処方です。
①虚弱体質で胃腸が弱い。
②疲れやすく顔色が蒼白。
③貧血。
④動悸、息切れ。
⑤眠れない。
⑥健忘症になった。
⑦出血。
⑧盗汗、夕方になると熱が出る。
腹 腹壁は軟弱で力がない。
脈 軟弱で力がない。
舌 舌苔なく貧血状。
適応
貧血、不眠症、胃潰瘍、腸出血、子宮出血、血尿、食欲不振、神経性心悸亢進症、健忘症、神経衰弱、ヒステリー、白血病、再生不良性貧血、バンチ病、遺精、嚢腫腎、瘰癧の潰瘍、慢性淋疾。
【処方】黄耆、当帰 各2.0g。 人参、朮、茯苓、酸棗仁、龍眼肉 各3.0g。
甘草、乾姜、木香 各1.0g。 遠志、大棗 各1.5g。
本方は、人参、白朮、茯苓、大棗、甘草、黄耆(健胃強壮作用)、龍眼肉、遠志、酸棗仁(精神安定、鎮静作用)、木香(気のうっ滞を除く)、当帰(補血作用)という構成になっています。
健 ツ(済生方)
加味帰脾湯
症状
虚弱体質で、血色が悪く貧血気味で、不眠、動悸、精神不安があって、微熱が出たり、盗汗をかいたりするものに用い、熱病の回復期、神経症、血の道症などに応用します。
①貧血。
②動悸、心悸亢進。
③不眠。
④精神不安。
⑤出血。
⑥顔面蒼白。
⑦病後の衰弱、疲労感、体力虚弱。
⑧微熱。
⑨盗汗(ねあせ)
腹 腹部は全体に軟弱で力がない。
脈 弱々しく細い。
舌 一定しません。
適応
貧血、不眠症、精神不安、神経症、腸出血、子宮出血、胃潰瘍等による貧血と衰弱、白血病、再生不良性貧血、食欲不振、神経性心悸亢進、神経衰弱、月経不順。
【処方】黄耆、当帰 各2.0g。 人参、朮、茯苓、酸棗仁、龍眼肉 各3.0g。
甘草、乾姜、木香 各1.0g。 遠志、大棗 各1.5g。 柴胡3.0g。 梔子2.0g。
帰脾湯に柴胡、梔子を加えた処方で、全体の構成は四君子湯(84項参照、弱った消化器を治す)に酸棗仁、龍眼肉、遠志(鎮静、強壮)、黄耆(強壮、止汗)、当帰(補血)、木香(気分発散)、柴胡、梔子(解熱、消炎)という構成になっています。
本方は、人参、白朮、茯苓、大棗、甘草、黄耆(健胃強壮作用)、龍眼肉、遠志、酸棗仁(精神安定、鎮静作用)、木香(気のうっ滞を除く)、当帰(補血作用)という構成になっています。
健 ク・建・タ・ツ・東・虎(済生全書)
【参考】
・うつ(鬱)に良く使われる漢方薬
http://kenko-hiro.blogspot.com/2009/04/blog-post_23.html
28 帰脾湯(きひとう)〔済生方〕
人参・白朮・茯苓・酸棗仁・竜眼肉 各三・〇 黄耆・当帰・ 各二・〇 遠志・甘草・木香・大棗・乾生姜 各一・〇
〔応用〕元気胃腸の弱い虚弱体質の者が、身心過労の結果、種々の出血を起こして貧血をきたしたり、健忘症となったり、神経症状を起こしたりしたときに用いる。
本方は主として腸出血・子宮出血・胃潰瘍・血尿等による貧血と衰弱・白血病・バンチ病・健忘症・嚢腫腎・不眠症等に用いられ、また神経性心悸亢進症・食欲不振・月経不順・ヒステリー・神経衰弱・遺精・慢性淋疾・瘰癧等に応用される。
〔目標〕心と脾の虚で、貧血・心悸亢進・健忘・不眠症・諸出血等を主目標とする。患者は顔色蒼白、脈腹ともに軟弱で、元気衰え、疲労感を訴え、多かれ少なかれ神経症状をともなっている。炎症や充血などのない場合である。
〔方解〕人参・黄耆・白朮・茯苓・大棗・甘草の六味は脾を強くし、すなわち健胃強壮をもっぱらとしている。竜眼肉・遠志・酸棗仁は心を養い、神経を強め、かつ鎮静し、木香は気分をさわやかにし、当帰は貧血を補う。当帰はとくに人参と組んで新血を生ずるとされている。
〔加減〕加味帰脾湯。帰脾湯に柴胡三・〇、山梔子二・〇を加えたもので、帰脾湯の証にやや熱状の加わったものに用いる。
〔主治〕
済生全書(補益門)に、「脾経ノ失血、少シ寝テ発熱盗汗シ、或ハ思慮シテ脾ヲ破リ、血ヲ摂スルコト能ハズシテ以テ妄行ヲ致シ、或ハ健忘征忡(心悸亢進・むなさわぎのこと)、驚悸シテ寝ネズ、或ハ心脾傷痛嗜臥少食、或ハ憂思シテ脾ヲ傷リ、血虚発熱シ、或ハ肢体痛ヲナシ、大便調ハズ、或ハ婦人経候不準、哺熱内熱、或ハ瘰癧流注シテ消散潰斂スルコト能ハザルヲ治ス」とあり、
勿誤方函口訣には、「此ノ方ハ遠志、当帰ヲ加ヘテ、健忘ノ外、思慮過度シテ心脾二臓ヲ傷リ、血ヲ摂スルコトナラズ、或ハ吐血、衂血、或ハ下血等ノ症ヲ治スルナリ。此ノ方ニ柴胡・山梔ヲ加ヘタルハ、前症ニ虚熱ヲ挟ミ、或ハ肝火ヲ帯ブル者ニ用ユ、大凡ソ補剤ヲ用ユル時ハ小便通利少ナキ者多シ。此ノ方モ補剤ニシテ、且ツ利水ノ品ヲ伍セザレドモ、方中ノ木香気ヲ下シ、胸ヲ開ク、故ニヨク小便ヲシテ通利セシム」とあり、
方櫝弁解には、「他ノ補薬ヲ用イテ胸膈ニ泥ムコトアルトキハ此方ニ代ユベシ。十全大補湯、或ハ補中益気湯ノ類ハ、病人胸ニ滞ルコトヲ覚ユ、此方ハ譬バ氷砂糖ヲ食スルガ如シ、反テ能ク胸ヲ開ク」とある。
〔鑑別〕
○十全大補湯62(貧血・気血両虚、神経症状少なし)
○六君子湯147(脾胃虚・胃内停飲)
○補中益気湯135(気虚・中気不足)
○黄土湯13(出血・陰虚証、悪寒、腹動悸・臍下不仁)
〔参考〕
矢数道明、帰脾湯の運用について(漢方と漢薬 四巻一号・漢方百話)
李建柱氏、帰脾湯に就て(漢方と漢薬 九巻一号・二号)
坂口弘氏、益気湯と帰脾湯(東洋医学 一巻三号)、坂口弘氏外、加味帰脾湯の二症例(日東洋医会誌 二七巻三号)。
〔治例〕
(一) 熱性病後の衰弱
鈴木某が疫(腸チフス)を病んで、発病以来数十日、大骨枯稿、大肉陥下、ただ凸起するものは肋骨のみで、ひどく痩せた。薬は吐いて受けつけない。衰弱の極、ついに妄語を発するようになった。考えてみると、これは邪熱は既に去って、心と脾が至極虚したもので、それを補足すれば即ち病は治るはずである。そこで帰脾湯一貼を与えてみたところ吐かない。二貼与えてみると爽快になり、食欲が出て妄言は止んだ。人々は驚いてその薬効に感心した。この方を続け用いて日一日と快方に向い、ほどなく起床して全治した。
(和田泰庵、和漢医林新誌 一二二号)
(二) 驚愕による神経症
五〇歳の思子。あるとき戯れて他人と首引きをし、だまされて後ろへ倒れた。その時は別状なかったが、三日の後、昼夜発熱して譫語を発し、一医は外感として治したが効なく、古林見桃の診を乞うた。見桃はその前因を審にきいて、これは驚気心に入るの症なりとして帰脾湯を与えたところ全く癒えた。
(百々漢陰翁、漢陰臆乗)
(三) 血尿
四一歳の婦人。腎臓腎盂炎による血尿で臥床し、発病以来二三日、初め発熱三九度以上で一〇日間も持続した。現在三七度二分。顔面蒼白・心動悸・脈沈微・食欲不振、舌苔なく、口唇結膜ともに蒼白、貧血甚だしく心雑音をきき、肝腫大し、腎臓腫れ痛み、血尿が甚だしい。不眠と健忘があった。帰脾湯を与えて日一日と快方に向かい、服薬二ヵ月でほとんど全治した。
(著者治験、漢方と漢薬 四巻一号)
(四) バンチ病
四二歳の婦人。バンチ病の診断をうけた。呼吸困難・眩暈・頭痛・強度の貧血・脈微弱・脾腫甚だしく・腹水があり、心音は貧血性雑音で下肢には微腫を認めた。そこで帰脾湯を与えたが、三週間で自覚症はほとんど消退し、後に五積散で調理した。脾腫は二分の一ぐらいに縮小し、家事雑用を弁ずるに至った。
(木村久雄氏、漢方と漢薬 四巻一二号)
(五) 嚢腫腎と子宮出血
三九歳の婦人。五年前に嚢腫腎といわれ、手術をうけた。尿中蛋白はいつも陽性で、赤血球も認められ、両腎はひどく腫れていた。本症は約一ヵ月前より始まり、月経の後出血が長びき、塊状の下り物が沢山で止まらず、すっかり貧血してしてしまった。病院の婦人科では子宮筋腫による出血で、即刻入院して子宮全剔手術をしないと生命が危ないといわれたという。体格小、顔色は貧血して白紙のよう。動悸・呼吸困難・心下痞悶・めまい・食不振・絶対安静を守っているが出血は止まらないという。脈沈細微、腹軟弱であるが、両腎は小児頭大に腫大している。この患者には芎帰膠艾湯・黄土湯・十全大補湯・帰脾湯のいずれかにしたいと思ったが、発病前後数ヵ月、患者は身心過労の極倒れたこと、貧血があまりに高度であること、脾と心の虚を目標にして帰脾湯を与えた。本方服用後、三日目から出血やみ、食欲が出て、一五日間服用起、起床してデパートへ買物に出かけることができた。貧血も回復し、腎臓の腫大もかなり小さくなった。(著者治験、漢方の臨床 一〇巻一一号)
『明解漢方処方』 西岡一夫著 浪速社刊
⑫帰脾湯(済生方)
黄耆 当帰各二・〇 人参 朮 茯苓 酸棗仁 竜眼肉各三・〇 遠志 甘草 木香 大棗 生姜各一・〇(二四・〇)
この方は四君子湯(脾胃の虚弱)を基にして、補血、止血の薬を加えたもので、四君子湯証の体質の人、即ち平常虚弱で顔色青白く食慾不振などの症ある人が、その上に何か精神的過労が加わって身心ともに疲労の極地になり、その結果、腎機能の障害(血尿、蛋白尿、腎臓腫大)を起してきたものを目標にする。古人も“思慮して脾を傷り、血を摂ること能わず”に用いるという。古方家の湯本求真氏は本方を酸棗仁湯の類方なりというが、果してどうであろうか、本方の主目標は四君子湯の脾胃の虚にあり、不眠、血虚を客証とみれば、古方ではむしろ人参湯と黄土湯の合方のように思え音¥なお熱症状のあるときは山梔子、柴胡各二・五を加えた加味帰脾湯を用いる。本方の詳細な研究については矢数道明氏が漢方と漢薬四巻一号(または漢方百話)に発表しておられる。出血性疾患。不眠症。
『漢方処方の手引き』 小田博久著 浪速社刊
帰脾湯(済生方)
人参・白朮・茯苓・酸棗仁・竜眼肉:三、黄耆・当帰:二、遠志・甘草・木香・大棗・乾生姜:一。
(主証)
胃腸の弱い者の寝冷えによるかぜの初期。
精神的過労による症状(神経・内臓)。食欲不振。
(客証)
貧血・虚弱が多い。心悸亢進、不眠。出血。腎機能低下。軽度の消化器潰瘍。
(加減)
熱の症状ある場合、柴胡:三、山梔子:二を加える(加味帰脾湯)。
(考察)
脾虚。
胃弱く胃内停水→六君子湯。
気力乏しい→補中益気湯。
貧血、神経症状ない→十全大補湯。
済生全書(補益門)
「脾経の失血、少し寝て発熱盗汗し、あるいは思慮して脾を破り、血を摂すること能わずして、もって妄行をいたし、あるいは健忘征忡(むなさわぎ)、驚悸して寝ず、あるいは心脾傷痛して臥するをこのみ少食、あるいは憂思して脾を傷り、血虚発熱し、あるいは肢体痛をなし、大便調わず、あるいは婦人経をみるに不準、補熱内熱、あるいは瘰癧流注して消散潰斂すること能はざるを治す。」
『健康保険が使える漢方薬の選び方・使い方』 木下繁太郎著 土屋書店
帰脾湯
症状
身体が弱って元気がなく、疲れやすく、貧血で、動悸があり、眠れない、物忘れする、出血があるといった場合に用いるもの。平素胃腸が弱い虚弱な人が心労、過労出血などで弱って精神症状を起こした場合に使う処方です。
①虚弱体質で胃腸が弱い。
②疲れやすく顔色が蒼白。
③貧血。
④動悸、息切れ。
⑤眠れない。
⑥健忘症になった。
⑦出血。
⑧盗汗、夕方になると熱が出る。
腹 腹壁は軟弱で力がない。
脈 軟弱で力がない。
舌 舌苔なく貧血状。
適応
貧血、不眠症、胃潰瘍、腸出血、子宮出血、血尿、食欲不振、神経性心悸亢進症、健忘症、神経衰弱、ヒステリー、白血病、再生不良性貧血、バンチ病、遺精、嚢腫腎、瘰癧の潰瘍、慢性淋疾。
【処方】黄耆、当帰 各2.0g。 人参、朮、茯苓、酸棗仁、龍眼肉 各3.0g。
甘草、乾姜、木香 各1.0g。 遠志、大棗 各1.5g。
本方は、人参、白朮、茯苓、大棗、甘草、黄耆(健胃強壮作用)、龍眼肉、遠志、酸棗仁(精神安定、鎮静作用)、木香(気のうっ滞を除く)、当帰(補血作用)という構成になっています。
健 ツ(済生方)
症状
虚弱体質で、血色が悪く貧血気味で、不眠、動悸、精神不安があって、微熱が出たり、盗汗をかいたりするものに用い、熱病の回復期、神経症、血の道症などに応用します。
①貧血。
②動悸、心悸亢進。
③不眠。
④精神不安。
⑤出血。
⑥顔面蒼白。
⑦病後の衰弱、疲労感、体力虚弱。
⑧微熱。
⑨盗汗(ねあせ)
腹 腹部は全体に軟弱で力がない。
脈 弱々しく細い。
舌 一定しません。
適応
貧血、不眠症、精神不安、神経症、腸出血、子宮出血、胃潰瘍等による貧血と衰弱、白血病、再生不良性貧血、食欲不振、神経性心悸亢進、神経衰弱、月経不順。
【処方】黄耆、当帰 各2.0g。 人参、朮、茯苓、酸棗仁、龍眼肉 各3.0g。
甘草、乾姜、木香 各1.0g。 遠志、大棗 各1.5g。 柴胡3.0g。 梔子2.0g。
帰脾湯に柴胡、梔子を加えた処方で、全体の構成は四君子湯(84項参照、弱った消化器を治す)に酸棗仁、龍眼肉、遠志(鎮静、強壮)、黄耆(強壮、止汗)、当帰(補血)、木香(気分発散)、柴胡、梔子(解熱、消炎)という構成になっています。
本方は、人参、白朮、茯苓、大棗、甘草、黄耆(健胃強壮作用)、龍眼肉、遠志、酸棗仁(精神安定、鎮静作用)、木香(気のうっ滞を除く)、当帰(補血作用)という構成になっています。
健 ク・建・タ・ツ・東・虎(済生全書)
・うつ(鬱)に良く使われる漢方薬
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2010年11月20日土曜日
麻黄湯(まおうとう)とインフルエンザ・風邪 効能・効果と副作用
『《資料》よりよい漢方治療のために 増補改訂版 重要漢方処方解説口訣集』 中日漢方研究会
72.麻黄湯 傷寒論
麻黄5.0 杏仁5.0 桂枝4.0 甘草1.5
(傷寒論)
○太陽病,頭痛発熱、身疼腰痛,骨節疼痛,悪風,無汗而喘者,本方主之(太陽中)
○脈浮而緊,浮則為風,緊則為寒,風則傷衛,寒則傷栄,栄衛倶病,骨節煩疼,可発其汗,宜本方(弁脈,可汗,太陽)
○傷寒,脈浮緊,不発汗,因致衂者,本方主之(太陽中)
○太陽病,脈浮緊無汗,発熱身疼痛,八九日不解,表証仍在,此当発其汗,服薬巳微除,其人発煩目瞑「劇者必衂,衂乃解,所以然者,陽気重故也」本方主之(太陽中)
〈現代漢方治療の指針〉 薬学の友社
高熱,悪寒があるにもかかわらず,自然の発汗がなく、身体痛,関節痛のあるもの。劇しい咳嗽を伴ないこともある。乳児の鼻づまり,急性皮膚化膿疾患には高熱,悪寒がなくても使用できる。
本方は高熱を伴ないがちな流行性感冒に賞用される,葛根湯より作用が強いから通常長期にわたり投与してはならない。但しあまり虚弱でない乳児の鼻づまりで哺乳困難な時や,急性皮膚化膿疾患には0.5グラムを温湯50ccに溶かし,少量ずつ与えるとよい。
本方は盗汗を含む自然発汗がある症状には使用してならない。このような症状の感冒には柴胡桂枝湯,柴胡桂枝干姜湯などがよい。本方を服用後極端に発汗するときは,柴胡桂枝湯を与えると発汗状態を緩和できる。また食欲が減退したり,のぼせ,不眠などを訴える時は直ちに服用を中止し,柴胡桂枝湯,小柴胡湯,柴胡桂枝干姜湯,香蘇散などに転方すべきである。本方はまた感冒その他の原因でのぼせて鼻血が出る場合にも用いられ,更に桂枝湯と等量混合して桂麻各半湯として熱感があって痒みのひどい蕁麻疹に応用される。しかし本方を慢性疾患に用いる場合は虚弱な人には禁忌である。
〈漢方処方応用の実際〉 山田 光胤先生
○悪寒や悪風がして発熱,頭痛があり,汗が自然に出ないで脈が浮緊で力があり,このとき喘咳や咳嗽,胸満,身体痛,関節痛,腰痛などがある。
○麻黄湯証は,平素丈夫で頑健な体質の人に多い。激しい闘病反応である。したがって熱も高く,咳も激しく,からだがひどく痛いという強い症状がおこるわけである。
○本方の証は,胃腸の弱い,虚弱な体質の人には少ないが,小児には意外に多いものである。小児は新陳代謝が盛んで陽気が強いためであろう。しかしながら,これらの証はその人にとって固定したものではない。著者もへいぜい葛根湯がよく合うが数年前流感になったときは麻黄湯で治ったことがある。
○小児夜尿症(眠りが深くて目がさめずに失禁するもの―吉村得二氏経験方)覚醒作用があるので,試験勉強の眠気ざましなどに短気間用いられる。
〈漢方診療の実際〉 大塚、矢数、清水 三先生
本方は太陽病の表熱実証で裏に変化のないものに用い応用目標は悪寒,発熱,脈浮緊,発熱に伴う諸関節痛,腰痛及び喘咳等の症候複合である。そこで先ず感冒やインフルエンザの初期に用いられる。此方が病証に適当した場合は,身体温感を覚えて悪寒が去り,多くは発汗を来し,腰痛,諸関節痛,喘咳等は消散する。時に発汗せず尿量が増して下熱することもある。もし感冒であっても悪寒のない場合,脈が弱くて沈んでいる場合,自然に発汗している場合は本方を用いてはならない。
本方は諸関節痛を治するところから関節リウマチの急性期に応用される。また喘咳を治する所から喘息に応用される。また乳児の鼻塞,哺乳困難に用いて効がある。
本方は虚弱体質者には注意して用いねばならない。
本方は麻黄,桂枝,杏仁,甘草の四味から成る。麻黄と桂枝の協力は血管を拡張し,血行を旺盛にし,発汗を促す作用がある。杏仁と麻黄の協力は喘息を治する。甘草は一は治喘作用を助け,一は諸薬の調和剤を役目をする。
〈漢方処方解説〉 矢数 道明先生
いわゆる太陽病の表熱実症,熱性病で体質しっかりしていて充実感のある人で,表面に熱があって筋骨の位に移らんとし,いまだ裏の胃腸に熱が波及しない時期に用いて熱を発散させるものである。この方を用いるのに熱のあるときと熱のない雑病に用いるときがある。使い方を分けてみると,
(1) 熱性病の初期,すなわち感冒,流感,腸チフス,肺炎,麻疹などで,実証で悪寒,発熱,脈浮緊にして汗のないもの,雑病で熱のないもの
(2) 小児の鼻つまり症
(3) 流感で衂血の出るもの,汗のないとき。
(4) 喘息でかぜから起こり脈浮緊,汗のないもの。
(5) 夜尿症
(6) 乳汁分泌不足。
(7) 関節リウマチの初期。
(8) 気管支喘息。
(9) 卒中発作気絶,急仮死。
(10) 難産等 に応用される。
熱性病のときは頭痛,身疼痛,腰痛,関節痛,悪風などがあるが,汗が出ないというのを第一目標とする。熱のときでも脈が浮緊である。喘や衂などがある。
〈漢方入門講座〉 竜野 一雄先生
運用 1. 発熱
「太陽病,頭痛発熱,身疼,腰痛,骨節疼痛,悪風,汗無く而して喘するものは麻黄湯之を主る。」集:傷寒論太陽病中篇)之が麻黄湯正面の証であって,他の運用の機序は凡てこの中に含まれていると云ってよい。喘以外の症状は凡て体に起った発熱症状である。故に之を表熱とする。桂枝麻黄で発汗するし、麻黄湯の他の条文に脉浮緊とあるから実熱であることは言うまでもない。だが部位は桂枝湯よりも深い所に在り、そこが痛むのは概ね水や寒の変化によると考えられている。麻黄は甘草麻黄湯の適応症が裏水とあるように深い部分の水の停滞に対して之を除去する作用がある。尤も深いといっても体では腰や骨節であり、身では胸である。腹まで深くは入らない。そして桂枝湯が自然発汗しているような外に漏れ易い状態に有るのに対して麻黄湯は自然発汗がなく内に病邪が凝滞していると考えられるときに強く発汗する薬である。汗無く而して喘するとは汗が出ていれば喘はしないが,汗無く内に篭っているから,そのために喘を起すのだというのであって,病が深く且つ劇しいことを示している。
頭痛は熱気が上に昇って来るためと考えられる。故にこの機序は又鼻血を出す機序と等しいものである。悪風は風をにくむ,風に当ると気持が悪い。即ち知覚過敏である。前に述べたような発熱状態でなぜ悪寒せずに悪風するか,之に就ては古人の説にも決定的なものがなく,私も困るよく判っていないが,発熱するのは陰不足して陽気が陰中に陥入するからだし,悪寒するのは陽不足して陰気が陽中に入るからである。然るに麻黄湯の証は陽が重い,即ち陽熱の気が強いので陽不足による悪寒は起らずにただ発熱するだけである。悪風は衛が傷罪るから起るもので,衛を傷るのは風である。若し傷寒なら寒が直ちに栄血に入り陽気を奪い陽不足になって悪寒する。然るに此条は傷寒ではなく太陽病だからただ衛を傷るだけで栄血は冒さない。故に悪風だけで悪寒するには至らない。所が傷寒だと麻黄湯証でも悪寒する。「脉浮にして緊,浮は則ち風をなし,緊は則ち寒となす。風は衛を傷り,寒は栄を傷る。栄衛倶に病み骨節煩疼す。其汗を発すべし。麻黄湯に宜し」(傷寒論可汗編)がその場合である。臨床上では腰痛や骨節疼痛などがなくてもただ発熱脉浮緊だけでも本方を使う。「太陽病十日以去(中略)脉ただ浮のものは麻黄湯を与う」(傷寒論太陽中)
「脉浮の者は病表に在り,汗を発すべし」(同右)
「脉浮にして数のものは汗を発すべし」(同右)
「陽明中風(中略)病十日を過ぎ(中略)脉ただ浮にして余証なきものは麻黄湯を与う」(傷寒論陽明病)の如きは脉浮を以て病表に在りとし,数を以て熱となし,緊を以て実とし,先ずその表を解すために麻黄湯を用いるというのであって,頭痛とか頭だとかの有無に拘泥せずに使う。つまり表証があれば先表後裏治療原則に従ってとにかく表証を取ってみるのである。感冒,流感,肺炎,腸チフス,その他病気の種類如何を問わずに使うことが出来る。発病当初でも日がらを経たものでも表証さえあればよい。但し肺結核に使うことはない。
運用 2. 喘
喘は気管支喘息は勿論だが,他の病気でもぜいぜいするもの,呼吸困難のあるものは喘である。太陽病たると陽明病たるとを問わない。熱病たると無熱病であるとも問わない。ただ表去の状態は必ずなければならぬ。
「太陽と陽明の合病喘して胸満するものは下すべからず。麻黄湯に宜し」(傷寒論太陽病中)
「陽明病,脉浮,汗無くして喘するものは汗を発すれば則ち愈ゆ。麻黄湯に宜し」(傷寒論陽明病)はその例である。但し気管支喘息に麻黄湯を使う機会は少い。発熱を伴い脉浮緊数汗出があるときか,無熱で脉浮緊,他部に症状なき時とかだけで,多くの場合は脉浮でも例えば麻杏甘石湯,小青竜湯,厚朴麻黄湯など他の処方を使うことの方が多い。
運用 3. 鼻血
「傷寒脉浮緊,発汗せず。因って衂を致すものは麻黄湯之を主る」(傷寒論太陽中)この衂即ち鼻血は「太陽病,脉浮緊汗去く,発熱身疼痛,八九日解せず,表証仍ほ在り,これ当に其汗を発すべし。薬を服し已り微しく除き,其人発煩目瞑す,劇しきものは必ず衂す。衂すれば乃ち解す。然る所以のものは陽気重きが故なり。麻黄湯之を主る」(傷寒論太陽中)で説明されている通り陽気が重い。即ち陽の熱気が強いから,頭部に熱が強く充血性の鼻血を出すというのである。この鼻血は熱病でも無熱病でも(例えば高血圧性の鼻血)脉浮緊,のぼせた顔色をしていれば麻黄湯を以て治す。若し脉弱,脉沈,或は他部に症状があれば瀉心湯,桃核承気湯など他の処方の適応症である。
〈勿誤方函口訣〉 浅田 宗伯先生
此方は太陽傷寒無汗の症に用ふ,桂麻の弁(仲景氏厳然たる規則あり)犯すべからず。又喘家風寒に感じて発する者,此方を用ふれば速かに癒ゆ。朝川善庵終身此一方にて喘息を防ぐと云う。
〈古方薬嚢〉 荒木 性次先生
発熱頭痛,首すじ肩背中腰など痛み,息はやく,咳出て或は鼻塞りて通ぜず,或は咽喉痛み,或はぜえぜえと喘し,さむけありて汗の出ざる者,気力少く,脈沈なるものには用うべからず。熱はあるなしにかかわらず汗無きが本方の要なり。
〈類聚方広義〉 尾台 榕堂先生
○卒中風,痰涎壅盛シテ,人事ヲ者セズ心下堅ク身大熱シ,脈浮大ナル者ニハ白散或ハ瓜蔕ヲ以テ吐下ヲ取リシ後、本方ヲ用ユベキモノアリ。
○初生児,時々発熱シテ,鼻閉通ゼズ乳ヲ哺ムコト能ハザル者アリ此方を用ユレバ即チ愈ユ。
○痘瘡,見點時,身熱灼クガ如ク表鬱発シ難ク又大熱煩躁シテ喘シ,起脹セザル者を治ス。
『漢方診療の實際』 大塚敬節・矢数道明・清水藤太郎著 南山堂刊
麻黄湯(まおうとう)
麻黄 杏仁各五・ 桂枝四・ 甘草一・五
本方は太陽病の表熱実證で裏に変化のないものに用い応用目標は、悪寒・発熱・脈浮緊、発熱に伴う諸関節痛、腰痛及び喘咳等の症候複合である。そこで先ず感 冒やインフルエンザの初期に用いられる。此方が病證に適当した場合は、身体温感を覚えて悪寒去り、多くは発汗を来し、腰痛・諸関節痛・喘咳等は消散する。 時に発汗せず尿量が増して下熱することもある。
もし感冒であっても悪寒のない場合、脈が弱くて沈んでいる場合、自然に発汗している場合は本方を用いてはならない。
本方は諸関節痛を治するところから関節リウマチの急性期に応用される。また喘咳を治する所から喘息に応用される。また乳児の鼻塞・哺乳困難に用いて効がある。
本方は虚弱体質者には注意して用いねばならない。
本方は麻黄・桂枝・杏仁・甘草の四味から成る。麻黄と桂枝の協力は血管を拡張し、血行を旺盛にし、発汗を促す作用がある。杏仁と麻黄の協力は喘息を治する。甘草は一は治喘作用を助け、一は諸薬の調和剤を役目をする。
『漢方精撰百八方』
36.[方名]麻黄湯(まおうとう)
〔出典〕傷寒論
〔処方〕麻黄、杏仁各6.0 桂枝4.0 甘草2.0
〔目標〕証には、喘して汗無く、頭痛、発熱、悪寒し、身体疼む者とある。即ち、頭痛、発熱、悪寒し、喘があって汗なく、身体が疼み、脈浮緊なる者、その他、骨節疼痛、喘して胸満し、或いは衂血のあるものに適用する。
〔かんどころ〕発熱が強く悪寒し、頭痛し、汗が出ずに喘、咳が強く、関節等身体の節々が疼む者に適用する。要するに太陽病、表熱、実証の方剤の最たるものである。
〔応用〕
(1)熱性病の初期で、頭痛、発熱、悪寒し、身体疼痛し、脈が浮緊で発汗しないもの。
(2)感冒などで、発熱、悪寒し、脈が緊で数、喘、咳を発するもの。
(3)熱性病の初期で、衂血を発するもの。
(4)熱性病の初期で、発斑、或いは発疹するもの。目標の諸症を具えるもの。
(5)鼻カタル、水洟が出たり、鼻づまりがあるもの。
(6)気管支喘息
(7)気管支肺炎
(8)乳児の鼻閉症
(9)関節リウマチの急性期。これには麻黄加朮(朮6.0)の方がよく用いられる。加味薬としては、痰が粘って切れにくい者に、桔梗3.0~5.0を加える。身体疼痛の劇しいものには、朮、ヨク苡仁を加える。喘息の劇しいものには、生姜、半夏を加えて奏効することがある。
感冒、流感の初期で葛根湯を用いるか、麻黄湯を用いるか、判別しにくい場合がある。典型的の証を示していれば、判定しやすいのであるが、判定しにくい場合も少なくない。勿論、麻黄湯の方が、症状が劇しいのであるが、麻黄湯には喘、咳が強く出るが、葛根湯は喘、咳は弱いか伴わない場合がある。証に言う症状が似通っている場合の区別は、麻黄湯は全体として、より流動的で激しく、葛根湯はやや固まった感じである。麻黄湯は身体の節々、関節等が痛むが、割に筋肉の全体的の凝りは少ない。葛根湯は筋肉、筋がこって身体が痛むように思う。麻黄湯は水洟が劇しく出るが、葛根湯は、やや濃い洟の感じである。この様な区別が一応の目安になると思う。
伊藤清夫
『漢方薬の実際知識』 東丈夫・村上光太郎著 東洋経済新報社 刊
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インフルエンザの漢方治療
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インフルエンザと普通の風邪との違い
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72.麻黄湯 傷寒論
麻黄5.0 杏仁5.0 桂枝4.0 甘草1.5
(傷寒論)
○太陽病,頭痛発熱、身疼腰痛,骨節疼痛,悪風,無汗而喘者,本方主之(太陽中)
○脈浮而緊,浮則為風,緊則為寒,風則傷衛,寒則傷栄,栄衛倶病,骨節煩疼,可発其汗,宜本方(弁脈,可汗,太陽)
○傷寒,脈浮緊,不発汗,因致衂者,本方主之(太陽中)
○太陽病,脈浮緊無汗,発熱身疼痛,八九日不解,表証仍在,此当発其汗,服薬巳微除,其人発煩目瞑「劇者必衂,衂乃解,所以然者,陽気重故也」本方主之(太陽中)
〈現代漢方治療の指針〉 薬学の友社
高熱,悪寒があるにもかかわらず,自然の発汗がなく、身体痛,関節痛のあるもの。劇しい咳嗽を伴ないこともある。乳児の鼻づまり,急性皮膚化膿疾患には高熱,悪寒がなくても使用できる。
本方は高熱を伴ないがちな流行性感冒に賞用される,葛根湯より作用が強いから通常長期にわたり投与してはならない。但しあまり虚弱でない乳児の鼻づまりで哺乳困難な時や,急性皮膚化膿疾患には0.5グラムを温湯50ccに溶かし,少量ずつ与えるとよい。
本方は盗汗を含む自然発汗がある症状には使用してならない。このような症状の感冒には柴胡桂枝湯,柴胡桂枝干姜湯などがよい。本方を服用後極端に発汗するときは,柴胡桂枝湯を与えると発汗状態を緩和できる。また食欲が減退したり,のぼせ,不眠などを訴える時は直ちに服用を中止し,柴胡桂枝湯,小柴胡湯,柴胡桂枝干姜湯,香蘇散などに転方すべきである。本方はまた感冒その他の原因でのぼせて鼻血が出る場合にも用いられ,更に桂枝湯と等量混合して桂麻各半湯として熱感があって痒みのひどい蕁麻疹に応用される。しかし本方を慢性疾患に用いる場合は虚弱な人には禁忌である。
〈漢方処方応用の実際〉 山田 光胤先生
○悪寒や悪風がして発熱,頭痛があり,汗が自然に出ないで脈が浮緊で力があり,このとき喘咳や咳嗽,胸満,身体痛,関節痛,腰痛などがある。
○麻黄湯証は,平素丈夫で頑健な体質の人に多い。激しい闘病反応である。したがって熱も高く,咳も激しく,からだがひどく痛いという強い症状がおこるわけである。
○本方の証は,胃腸の弱い,虚弱な体質の人には少ないが,小児には意外に多いものである。小児は新陳代謝が盛んで陽気が強いためであろう。しかしながら,これらの証はその人にとって固定したものではない。著者もへいぜい葛根湯がよく合うが数年前流感になったときは麻黄湯で治ったことがある。
○小児夜尿症(眠りが深くて目がさめずに失禁するもの―吉村得二氏経験方)覚醒作用があるので,試験勉強の眠気ざましなどに短気間用いられる。
〈漢方診療の実際〉 大塚、矢数、清水 三先生
本方は太陽病の表熱実証で裏に変化のないものに用い応用目標は悪寒,発熱,脈浮緊,発熱に伴う諸関節痛,腰痛及び喘咳等の症候複合である。そこで先ず感冒やインフルエンザの初期に用いられる。此方が病証に適当した場合は,身体温感を覚えて悪寒が去り,多くは発汗を来し,腰痛,諸関節痛,喘咳等は消散する。時に発汗せず尿量が増して下熱することもある。もし感冒であっても悪寒のない場合,脈が弱くて沈んでいる場合,自然に発汗している場合は本方を用いてはならない。
本方は諸関節痛を治するところから関節リウマチの急性期に応用される。また喘咳を治する所から喘息に応用される。また乳児の鼻塞,哺乳困難に用いて効がある。
本方は虚弱体質者には注意して用いねばならない。
本方は麻黄,桂枝,杏仁,甘草の四味から成る。麻黄と桂枝の協力は血管を拡張し,血行を旺盛にし,発汗を促す作用がある。杏仁と麻黄の協力は喘息を治する。甘草は一は治喘作用を助け,一は諸薬の調和剤を役目をする。
〈漢方処方解説〉 矢数 道明先生
いわゆる太陽病の表熱実症,熱性病で体質しっかりしていて充実感のある人で,表面に熱があって筋骨の位に移らんとし,いまだ裏の胃腸に熱が波及しない時期に用いて熱を発散させるものである。この方を用いるのに熱のあるときと熱のない雑病に用いるときがある。使い方を分けてみると,
(1) 熱性病の初期,すなわち感冒,流感,腸チフス,肺炎,麻疹などで,実証で悪寒,発熱,脈浮緊にして汗のないもの,雑病で熱のないもの
(2) 小児の鼻つまり症
(3) 流感で衂血の出るもの,汗のないとき。
(4) 喘息でかぜから起こり脈浮緊,汗のないもの。
(5) 夜尿症
(6) 乳汁分泌不足。
(7) 関節リウマチの初期。
(8) 気管支喘息。
(9) 卒中発作気絶,急仮死。
(10) 難産等 に応用される。
熱性病のときは頭痛,身疼痛,腰痛,関節痛,悪風などがあるが,汗が出ないというのを第一目標とする。熱のときでも脈が浮緊である。喘や衂などがある。
〈漢方入門講座〉 竜野 一雄先生
運用 1. 発熱
「太陽病,頭痛発熱,身疼,腰痛,骨節疼痛,悪風,汗無く而して喘するものは麻黄湯之を主る。」集:傷寒論太陽病中篇)之が麻黄湯正面の証であって,他の運用の機序は凡てこの中に含まれていると云ってよい。喘以外の症状は凡て体に起った発熱症状である。故に之を表熱とする。桂枝麻黄で発汗するし、麻黄湯の他の条文に脉浮緊とあるから実熱であることは言うまでもない。だが部位は桂枝湯よりも深い所に在り、そこが痛むのは概ね水や寒の変化によると考えられている。麻黄は甘草麻黄湯の適応症が裏水とあるように深い部分の水の停滞に対して之を除去する作用がある。尤も深いといっても体では腰や骨節であり、身では胸である。腹まで深くは入らない。そして桂枝湯が自然発汗しているような外に漏れ易い状態に有るのに対して麻黄湯は自然発汗がなく内に病邪が凝滞していると考えられるときに強く発汗する薬である。汗無く而して喘するとは汗が出ていれば喘はしないが,汗無く内に篭っているから,そのために喘を起すのだというのであって,病が深く且つ劇しいことを示している。
頭痛は熱気が上に昇って来るためと考えられる。故にこの機序は又鼻血を出す機序と等しいものである。悪風は風をにくむ,風に当ると気持が悪い。即ち知覚過敏である。前に述べたような発熱状態でなぜ悪寒せずに悪風するか,之に就ては古人の説にも決定的なものがなく,私も困るよく判っていないが,発熱するのは陰不足して陽気が陰中に陥入するからだし,悪寒するのは陽不足して陰気が陽中に入るからである。然るに麻黄湯の証は陽が重い,即ち陽熱の気が強いので陽不足による悪寒は起らずにただ発熱するだけである。悪風は衛が傷罪るから起るもので,衛を傷るのは風である。若し傷寒なら寒が直ちに栄血に入り陽気を奪い陽不足になって悪寒する。然るに此条は傷寒ではなく太陽病だからただ衛を傷るだけで栄血は冒さない。故に悪風だけで悪寒するには至らない。所が傷寒だと麻黄湯証でも悪寒する。「脉浮にして緊,浮は則ち風をなし,緊は則ち寒となす。風は衛を傷り,寒は栄を傷る。栄衛倶に病み骨節煩疼す。其汗を発すべし。麻黄湯に宜し」(傷寒論可汗編)がその場合である。臨床上では腰痛や骨節疼痛などがなくてもただ発熱脉浮緊だけでも本方を使う。「太陽病十日以去(中略)脉ただ浮のものは麻黄湯を与う」(傷寒論太陽中)
「脉浮の者は病表に在り,汗を発すべし」(同右)
「脉浮にして数のものは汗を発すべし」(同右)
「陽明中風(中略)病十日を過ぎ(中略)脉ただ浮にして余証なきものは麻黄湯を与う」(傷寒論陽明病)の如きは脉浮を以て病表に在りとし,数を以て熱となし,緊を以て実とし,先ずその表を解すために麻黄湯を用いるというのであって,頭痛とか頭だとかの有無に拘泥せずに使う。つまり表証があれば先表後裏治療原則に従ってとにかく表証を取ってみるのである。感冒,流感,肺炎,腸チフス,その他病気の種類如何を問わずに使うことが出来る。発病当初でも日がらを経たものでも表証さえあればよい。但し肺結核に使うことはない。
運用 2. 喘
喘は気管支喘息は勿論だが,他の病気でもぜいぜいするもの,呼吸困難のあるものは喘である。太陽病たると陽明病たるとを問わない。熱病たると無熱病であるとも問わない。ただ表去の状態は必ずなければならぬ。
「太陽と陽明の合病喘して胸満するものは下すべからず。麻黄湯に宜し」(傷寒論太陽病中)
「陽明病,脉浮,汗無くして喘するものは汗を発すれば則ち愈ゆ。麻黄湯に宜し」(傷寒論陽明病)はその例である。但し気管支喘息に麻黄湯を使う機会は少い。発熱を伴い脉浮緊数汗出があるときか,無熱で脉浮緊,他部に症状なき時とかだけで,多くの場合は脉浮でも例えば麻杏甘石湯,小青竜湯,厚朴麻黄湯など他の処方を使うことの方が多い。
運用 3. 鼻血
「傷寒脉浮緊,発汗せず。因って衂を致すものは麻黄湯之を主る」(傷寒論太陽中)この衂即ち鼻血は「太陽病,脉浮緊汗去く,発熱身疼痛,八九日解せず,表証仍ほ在り,これ当に其汗を発すべし。薬を服し已り微しく除き,其人発煩目瞑す,劇しきものは必ず衂す。衂すれば乃ち解す。然る所以のものは陽気重きが故なり。麻黄湯之を主る」(傷寒論太陽中)で説明されている通り陽気が重い。即ち陽の熱気が強いから,頭部に熱が強く充血性の鼻血を出すというのである。この鼻血は熱病でも無熱病でも(例えば高血圧性の鼻血)脉浮緊,のぼせた顔色をしていれば麻黄湯を以て治す。若し脉弱,脉沈,或は他部に症状があれば瀉心湯,桃核承気湯など他の処方の適応症である。
〈勿誤方函口訣〉 浅田 宗伯先生
此方は太陽傷寒無汗の症に用ふ,桂麻の弁(仲景氏厳然たる規則あり)犯すべからず。又喘家風寒に感じて発する者,此方を用ふれば速かに癒ゆ。朝川善庵終身此一方にて喘息を防ぐと云う。
〈古方薬嚢〉 荒木 性次先生
発熱頭痛,首すじ肩背中腰など痛み,息はやく,咳出て或は鼻塞りて通ぜず,或は咽喉痛み,或はぜえぜえと喘し,さむけありて汗の出ざる者,気力少く,脈沈なるものには用うべからず。熱はあるなしにかかわらず汗無きが本方の要なり。
〈類聚方広義〉 尾台 榕堂先生
○卒中風,痰涎壅盛シテ,人事ヲ者セズ心下堅ク身大熱シ,脈浮大ナル者ニハ白散或ハ瓜蔕ヲ以テ吐下ヲ取リシ後、本方ヲ用ユベキモノアリ。
○初生児,時々発熱シテ,鼻閉通ゼズ乳ヲ哺ムコト能ハザル者アリ此方を用ユレバ即チ愈ユ。
○痘瘡,見點時,身熱灼クガ如ク表鬱発シ難ク又大熱煩躁シテ喘シ,起脹セザル者を治ス。
『漢方診療の實際』 大塚敬節・矢数道明・清水藤太郎著 南山堂刊
麻黄湯(まおうとう)
麻黄 杏仁各五・ 桂枝四・ 甘草一・五
本方は太陽病の表熱実證で裏に変化のないものに用い応用目標は、悪寒・発熱・脈浮緊、発熱に伴う諸関節痛、腰痛及び喘咳等の症候複合である。そこで先ず感 冒やインフルエンザの初期に用いられる。此方が病證に適当した場合は、身体温感を覚えて悪寒去り、多くは発汗を来し、腰痛・諸関節痛・喘咳等は消散する。 時に発汗せず尿量が増して下熱することもある。
もし感冒であっても悪寒のない場合、脈が弱くて沈んでいる場合、自然に発汗している場合は本方を用いてはならない。
本方は諸関節痛を治するところから関節リウマチの急性期に応用される。また喘咳を治する所から喘息に応用される。また乳児の鼻塞・哺乳困難に用いて効がある。
本方は虚弱体質者には注意して用いねばならない。
本方は麻黄・桂枝・杏仁・甘草の四味から成る。麻黄と桂枝の協力は血管を拡張し、血行を旺盛にし、発汗を促す作用がある。杏仁と麻黄の協力は喘息を治する。甘草は一は治喘作用を助け、一は諸薬の調和剤を役目をする。
『漢方精撰百八方』
36.[方名]麻黄湯(まおうとう)
〔出典〕傷寒論
〔処方〕麻黄、杏仁各6.0 桂枝4.0 甘草2.0
〔目標〕証には、喘して汗無く、頭痛、発熱、悪寒し、身体疼む者とある。即ち、頭痛、発熱、悪寒し、喘があって汗なく、身体が疼み、脈浮緊なる者、その他、骨節疼痛、喘して胸満し、或いは衂血のあるものに適用する。
〔かんどころ〕発熱が強く悪寒し、頭痛し、汗が出ずに喘、咳が強く、関節等身体の節々が疼む者に適用する。要するに太陽病、表熱、実証の方剤の最たるものである。
〔応用〕
(1)熱性病の初期で、頭痛、発熱、悪寒し、身体疼痛し、脈が浮緊で発汗しないもの。
(2)感冒などで、発熱、悪寒し、脈が緊で数、喘、咳を発するもの。
(3)熱性病の初期で、衂血を発するもの。
(4)熱性病の初期で、発斑、或いは発疹するもの。目標の諸症を具えるもの。
(5)鼻カタル、水洟が出たり、鼻づまりがあるもの。
(6)気管支喘息
(7)気管支肺炎
(8)乳児の鼻閉症
(9)関節リウマチの急性期。これには麻黄加朮(朮6.0)の方がよく用いられる。加味薬としては、痰が粘って切れにくい者に、桔梗3.0~5.0を加える。身体疼痛の劇しいものには、朮、ヨク苡仁を加える。喘息の劇しいものには、生姜、半夏を加えて奏効することがある。
感冒、流感の初期で葛根湯を用いるか、麻黄湯を用いるか、判別しにくい場合がある。典型的の証を示していれば、判定しやすいのであるが、判定しにくい場合も少なくない。勿論、麻黄湯の方が、症状が劇しいのであるが、麻黄湯には喘、咳が強く出るが、葛根湯は喘、咳は弱いか伴わない場合がある。証に言う症状が似通っている場合の区別は、麻黄湯は全体として、より流動的で激しく、葛根湯はやや固まった感じである。麻黄湯は身体の節々、関節等が痛むが、割に筋肉の全体的の凝りは少ない。葛根湯は筋肉、筋がこって身体が痛むように思う。麻黄湯は水洟が劇しく出るが、葛根湯は、やや濃い洟の感じである。この様な区別が一応の目安になると思う。
伊藤清夫
『漢方薬の実際知識』 東丈夫・村上光太郎著 東洋経済新報社 刊
4 表証
表裏・内外・上中下の項でのべたように、表の部位に表われる症状を表証という。表証では発熱、悪寒、発 汗、無汗、頭痛、身疼痛、項背強痛など の症状を呈する。実証では自然には汗が出ないが、虚証では自然に汗が出ている。したがって、実証には葛根湯(かっこんとう)・麻黄湯(まおうとう)などの 発汗剤を、虚証には桂枝湯(けいしとう)などの止汗剤・解肌剤を用いて、表の変調をととのえる。
各薬方の説明
1 麻黄湯(まおうとう) (傷寒論)
〔麻黄(まおう)、杏仁(きょうにん)各五、桂枝(けいし)四、甘草(かんぞう)一・五〕
太陽病の表熱実証で、裏に変化のないものに用いられる。本方は、悪寒、発熱、頭痛、無汗、脈浮、喘咳、諸関節および筋肉痛、腰痛などを目標とする。実証であるから、各種の症状は激しい。
〔応用〕
つぎに示すような疾患に、麻黄湯證を呈するものが多い。
一 感冒、気管支炎、気管支喘息、百日咳、肺炎その他の呼吸器系疾患。
一 鼻炎、鼻塞、衂血その他の鼻疾患。
一 関節リウマチ、関節炎その他の運動器系疾患。
一 そのほか、脳溢血、神経痛、夜尿症、乳汁分泌不足、麻疹、腸チフスなど。
5 麻黄剤(まおうざい)
麻黄を主剤としたもので、水の変調をただすものである。したがって、麻黄剤は、瘀水(おすい)による症状(前出、気血水の項参照)を呈する人に使われる。なお麻黄剤は、食欲不振などの胃腸障害を訴えるものには用いないほうがよい。
麻黄剤の中で、麻黄湯、葛根湯は、水の変調が表に限定される。これらに白朮(びゃくじゅつ)を加えたものは、表の瘀水がやや慢性化して、表よ り裏位におよぼうとする状態である。麻杏甘石湯(まきょうかんせきとう)・麻杏薏甘湯(まきょうよくかんとう)は、瘀水がさらに裏位におよび、筋肉に作用 する。大青竜湯(だいせいりゅうとう)・小青竜湯(しょうせいりゅうとう)・越婢湯(えっぴとう)は、瘀水が裏位の関節にまでおよんでいる。
【一般用漢方製剤承認基準】
麻黄湯
〔成分・分量〕 麻黄3-5、桂皮2-4、杏仁4-5、甘草1-1.5
〔用法・用量〕 湯
〔効能・効果〕 体力充実して、かぜのひきはじめで、さむけがして発熱、頭痛があり、せきが出て身体のふしぶしが痛く汗が出ていないものの次の諸症: 感冒、鼻かぜ、気管支炎、鼻づまり(使用上の注意:身体虚弱の人は使用しないこと)
【添付文書等に記載すべき事項】
してはいけないこと (守らないと現在の症状が悪化したり、副作用が起こりやすくなる)
1. 次の人は服用しないこと
(1)体の虚弱な人(体力の衰えている人、体の弱い人)。
(2)生後3ヵ月未満の乳児。 〔生後3ヵ月未満の用法がある製剤に記載すること。〕
2. 短期間の服用にとどめ、連用しないこと 〔1日最大配合量が甘草として1g以上(エキス剤については原生薬に換算して1g以上) 含有する製剤に記載すること。〕
相談すること
1. 次の人は服用前に医師、薬剤師又は登録販売者に相談すること
(1)医師の治療を受けている人。
(2)妊婦又は妊娠していると思われる人。
(3)胃腸の弱い人。
(4)発汗傾向の著しい人。
(5)高齢者。 〔マオウ又は、1日最大配合量が甘草として1g以上(エキス剤については原生薬に換算 して1g以上)含有する製剤に記載すること。〕
(6)今までに薬などにより発疹・発赤、かゆみ等を起こしたことがある人。
(7)次の症状のある人。
むくみ1)、排尿困難2)
〔1)は、1日最大配合量が甘草として1g以上(エキス剤については原生薬に換算して1 g以上)含有する製剤に記載すること。
2)は、マオウを含有する製剤に記載すること。〕
(8)次の診断を受けた人。
高血圧1)2)、心臓病1)2)、腎臓病1)2)、甲状腺機能障害2)
〔1)は、1日最大配合量が甘草として1g以上(エキス剤については原生薬に換算して1 g以上)含有する製剤に記載すること。
2)は、マオウを含有する製剤に記載すること。〕
2. 服用後、次の症状があらわれた場合は副作用の可能性があるので、直ちに服用を中止し、この文書を持って医師、薬剤師又は登録販売者に相談すること
関係部位 症 状 皮 膚 発疹・発赤、かゆみ 消化器 吐き気、食欲不振、胃部不快感 その他 発汗過多、全身脱力感 まれに下記の重篤な症状が起こることがある。その場合は直ちに医師の診療を受けること。
症状の名称 症 状 偽アルドステロン症、 ミオパチー 手足のだるさ、しびれ、つっぱり感やこわばりに加えて、脱力感、筋肉痛があらわれ、徐々に強くなる。
【一般用漢方製剤承認基準】
麻黄湯
〔成分・分量〕 麻黄3-5、桂皮2-4、杏仁4-5、甘草1-1.5
〔用法・用量〕 湯
〔効能・効果〕 体力充実して、かぜのひきはじめで、さむけがして発熱、頭痛があり、せきが出て身体のふしぶしが痛く汗が出ていないものの次の諸症: 感冒、鼻かぜ、気管支炎、鼻づまり(使用上の注意:身体虚弱の人は使用しないこと)
【添付文書等に記載すべき事項】
してはいけないこと (守らないと現在の症状が悪化したり、副作用が起こりやすくなる)
1. 次の人は服用しないこと
(1)体の虚弱な人(体力の衰えている人、体の弱い人)。
(2)生後3ヵ月未満の乳児。 〔生後3ヵ月未満の用法がある製剤に記載すること。〕
2. 短期間の服用にとどめ、連用しないこと 〔1日最大配合量が甘草として1g以上(エキス剤については原生薬に換算して1g以上) 含有する製剤に記載すること。〕
相談すること
1. 次の人は服用前に医師、薬剤師又は登録販売者に相談すること
(1)医師の治療を受けている人。
(2)妊婦又は妊娠していると思われる人。
(3)胃腸の弱い人。
(4)発汗傾向の著しい人。
(5)高齢者。 〔マオウ又は、1日最大配合量が甘草として1g以上(エキス剤については原生薬に換算 して1g以上)含有する製剤に記載すること。〕
(6)今までに薬などにより発疹・発赤、かゆみ等を起こしたことがある人。
(7)次の症状のある人。
むくみ1)、排尿困難2)
〔1)は、1日最大配合量が甘草として1g以上(エキス剤については原生薬に換算して1 g以上)含有する製剤に記載すること。
2)は、マオウを含有する製剤に記載すること。〕
(8)次の診断を受けた人。
高血圧1)2)、心臓病1)2)、腎臓病1)2)、甲状腺機能障害2)
〔1)は、1日最大配合量が甘草として1g以上(エキス剤については原生薬に換算して1 g以上)含有する製剤に記載すること。
2)は、マオウを含有する製剤に記載すること。〕
2. 服用後、次の症状があらわれた場合は副作用の可能性があるので、直ちに服用を中止し、この文書を持って医師、薬剤師又は登録販売者に相談すること
関係部位 症 状 皮 膚 発疹・発赤、かゆみ 消化器 吐き気、食欲不振、胃部不快感 その他 発汗過多、全身脱力感 まれに下記の重篤な症状が起こることがある。その場合は直ちに医師の診療を受けること。
症状の名称 症 状 偽アルドステロン症、 ミオパチー 手足のだるさ、しびれ、つっぱり感やこわばりに加えて、脱力感、筋肉痛があらわれ、徐々に強くなる。
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インフルエンザの漢方治療
http://kenko-hiro.blogspot.com/2009/05/blog-post.html
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2010年11月16日火曜日
酸棗仁湯(さんそうにんとう) の 効果・効果 と 副作用
『臨床応用 漢方處方解説 増補改正版』 矢数道明著 創元社刊
49 酸棗仁湯(さんそうにんとう) 別名 酸棗湯〔金匱要略〕
酸棗仁一五・〇 知母・川芎・ 各三・〇 茯苓五・〇 甘草一・〇
(酸棗仁は炒って半分ぐらいに減量してもよい)
水五〇〇ccをもって酸棗仁を煮て四〇〇ccとし、諸薬を入れ、再び煮て三〇〇ccとし、三回に分けて温服する。一般には同時に煎じて用いているが,論の指示に従うがよい。
〔応用〕体力が衰えて虚状を帯びている不眠症に用いる。反対に、虚労からくる嗜眠に用いてよいこともある。その他諸神経症に用いる。
すなわち、本方は不眠症・嗜眠症・神経衰弱・盗汗・健忘症・驚悸・心悸亢進症・眩暈・多夢・神経症等に応用される。
〔目標〕虚労病(疲労病)で、虚煩眠るを得ずというのが目標である。患者は体力が衰え、元気がなく、先も脈も虚状を呈し、胸中が苦しく、煩えて眠ることができないというものである。
しかし虚労の病で、かえって嗜眠の場合に用いてよいことがある。これは漢方薬が調整的に作用するからである。
〔方解〕主薬の酸棗仁には一種の神経の強壮鎮静薬としての作用がある。よく中を寧んじ気をおさむというのがそれである。元気が衰えて、胃内の停水が熱を帯び、上衝して心を攻め、煩えて眠れないという。この場合酸棗仁が主薬となり、知母と甘草は熱を清まして燥を潤す。すなわち滋潤強壮の作用となる。酸棗仁は中国や朝鮮から輸入されるサネブトナツメの種子で Betulin C30H50O2 その他を含んでいる。茯苓と川芎は気を行らし、停飲を除くものである。川芎には気の鬱を開いて、気分を明るくし、血行をよくして頭痛を治す効がある。茯苓は脾を益し、湿を除き、心を補い、水を行らし、魂を安んじ、神を養うといわれているが、強壮・利尿・鎮静の効があるものである。
これらの薬味の協力によって、陰陽の調和がとれ、不眠・嗜眠・虚煩等に有効的にはたらくものと解釈される。
〔主治〕
金匱要略(血痺虚労病)に、「虚労、虚煩眠ルヲ得ザルハ、酸棗仁湯之ヲ主ル」とある。
勿誤薬室方函口訣には、「此ノ方ハ心気ヲ和潤シテ、安眠セシムルノ策ナリ。同ジ眠リヲ得ザルニ三策アリ。若シ心下肝胆ノ部分ニ当リテ停飲アリ、之レガタメニ動悸シテ眠リヲ得ザルハ温胆湯ノ症ナリ。若シ胃中虚シ、客気(邪気のこと)膈ヲ動カシテ眠ルヲ得ザル者ハ甘草瀉心湯ノ症ナリ。若シ血気虚燥心火亢ブリテ眠ルヲ得ザル者ハ此ノ方ノ主ナリ。済生ノ帰脾湯ハ此ノ方ニ胚胎(もののはじまり)スルナリ。又千金酸棗仁湯ニ石膏ヲ伍ス者ハ、此ノ方ノ症ニシテ余熱アル者ニ用ユベシ」とある。
また古方薬嚢には、「平常ひよわき人、急に胸騒ぎして眠ること得ざるもの、本方の正証なり。つまらぬことなど気にかかりて眠れぬものにもよし。若し大いなる心配などありて眠れぬ者は本方にて治し難し」とある。
〔鑑別〕
○梔子豉湯59(不眠・炎症充血のため、脳および心臓が刺激されて不眠・煩躁)
○瀉心湯48(不眠・炎症充血強く、実熱の症)
○柴胡加竜骨牡蛎湯44(不眠 ・実証、炎症充血、心悸亢進、胸脇苦満)
○猪苓湯100(不眠・血熱による不眠、渇、小便数)
○五苓散41(不眠・口渇、小便不利)
○甘草瀉心湯119(不眠・心下痞硬、実熱)
〔参考〕
不眠症の聖剤のように思われるが、治験は比較的少ない。論のごとく煎じて用いた方がよい。現在酸棗仁は品不足で一五グラムは用いがたい。温胆湯には三・〇グラムで有効であるから、減量してもよいと思われる。
〔治例〕
(一)嗜眠症
東洞先生が、一病人の昏昏として醒めず、あたかも死状の如く、五~六日に及ぶ者を治するに此方を用いて速やかに効があった。まさに円機活法というべきである。(尾台榕堂翁、類聚方広義)
(二)不眠症
六二歳の男子。数年来不眠・頭重・耳鳴り・肩こりを訴え、疲れ易く、食も進まない。
痩せ型で、腹に力なく、臍のところに動悸が亢ぶっている。酸棗仁湯を与えたところ、一ヵ月余りで諸症好転し、記憶力が増してきた。そこで小柴胡湯に転方したところ、食欲が出て、体重も増加し、性欲が旺盛になって、十数年前の若さに返ったという。さらに続服したところ、十数年来の痔核も治った。 (大塚敬節氏、漢方治療の実際)
『明解漢方処方』 西岡一夫著 浪速社刊
26酸棗仁湯(金匱)
酸棗仁一五・〇 知母 川芎各三・〇 茯苓五・〇 甘草一・〇(二七・〇)
この方の運用は原典の条文“虚労虚煩眠るを得ず”に尽され仲いる。即ち虚煩 ( ) (梔子豉湯のように発汗吐下により津液を亡失しての虚煩でなく、貧血のため自然に起ってきた虚煩)して、その心煩のため不眠になっているものに用いる。
吉益東洞が本方を不眠とは逆の嗜眠症の治療に用いたのは有名な話であるが、気血水説では本方の薬能は血滞を除くことにあり、血滞って気めぐらんとして煩すれば不眠となり、血滞って気めぐるを止めるときは嗜眠となる。ともに原因の血滞を治せば不眠も嗜眠も共に癒えるのである。丁度八味丸が小便自利、不利を治すのと同じ理窟である。
水や血を亡失して煩する虚煩の反対は病邪が充満して煩する実煩で、実煩なら黄連解毒湯などのように胃部が痞硬するか腹部堅満などの充実の症がある。貧血性不眠症。
『漢方処方の手引き』 小田博久著 浪速社刊
酸棗仁湯(金匱)
酸棗仁:十五、知母・川芎:三、茯苓:五、甘草:一。
水五百mlで酸棗仁のみを煎じて四百mlとし、残りを入れて三百mlまで煮つめる。
(主証)
疲労からくる不眠又は、嗜眠。
(客証)
夢をよく見て熟眠感がない。
(考察)
炎症性充血、胸苦しい→梔子豉湯。
実熱(のぼせ)→三黄瀉心湯。
胸脇苦満、神経質→柴胡加竜骨牡蠣湯。
『漢方処方応用の実際』 山田光胤著 南山堂刊
101.酸棗仁湯(金匱)
酸棗仁8.0,知母,川芎各3.0,茯苓5.0,甘草1.0
〔目標〕 からだが弱って,煩躁して眠れないものである.
梧竹楼は,虚人,老人,長病人が夜目が冴えてねむれないものによいという.
類聚方広義には,ⅰ)諸病久しく癒えず,衰弱して身熱,ね汗,胸さわぎ,不眠,口乾,喘咳,大便軟らかく小便の出がわるく,水毒があり,ものの味が無いものに,本方に黄耆,麦門冬,乾姜,附子 などを選び加えて用い識とよい。ⅱ)また もの忘れして驚きやすく,胸さわぎする などの三症状は,本方に黄連,辰砂を選び加えるとよい.ⅲ)なお 出血多量で意識がぼんやりし,めまい,不眠、煩熱,盗汗,浮腫のあるものには,本方合当帰芍薬散がよい.ⅳ)東洞先生は昏々と眠って4,5日めがさめず,死んだようになっている病人に,本方を用いて速効を得たと書いてある.ただし 眠っている病人に,どのようにして服薬させたかは記していない.
〔参考〕 浅田宗伯は勿誤薬室方函口訣に,「本方は心気を和潤して安眠させる方である.同じ不眠の治療にも三つの方法がある.心下肝胆の部分に停水があって,そのため動悸して眠れないものは温胆湯がよい.また消化不良で眠れないのは甘草瀉心湯の証である.もし,血気虚躁して眠れないのは本方である.済生の帰脾湯は本方から出たものである」といっている.
ただし 実際には,本方の適応症はあまり多くない.
〔応用〕 不眠症,嗜眠症.
〔鑑別〕 湿胆湯の項 参照
[金匱要略]
気による精神症状としての不眠・不安・繊憂細慮等と、虚証による疲労倦怠・衰憊等と、上焦の熱証・燥証による生中煩悶等のあるもの。時に肺の水毒を伴う。
《少陽病から太陰病.虚証》
気による精神症状:不眠・不安・繊憂細慮を目標にする場合。
不眠症、ノイローゼ、健忘症、嗜眠症、出血や貧血等に伴う神経衰弱、驚悸
B 虚証:疲労倦怠・衰憊等を目標にする場合。
疲労倦怠状態、盗汗
C 上焦の熱証・燥証:心中煩悶・身熱等を目標にする場合
身熱
【参考】*虚労、虚煩して眠るを得ざるは酸棗仁湯之を主る。
*此の方は心気を和潤して安眠せしむるの策なり。同じ眠るを得ざるに三策あり。若し心下肝胆の部分にあたりて停飲あり、これが為に動悸して眠るを得ざるは温胆湯の症なり。若し胃中虚し、客気膈に動じて眠るを得ざる者は甘草瀉心湯の症なり。若し血気虚燥、心下亢りて眠るを得ざる者は此の方の主なり。『済生』の帰脾湯は此の方に胚胎するなり。『千金』酸棗仁湯、石膏を伍する者は、此の方の症にして餘熱ある者に用ゆべし。
『勿誤薬室方函口訣』
*本方は「虚労、虚煩、眠るを得ず」の状態に用いる精神強壮剤である。酸棗仁は催眠には炙ったものを使用し、覚醒には炙らず生のままで用いるとされる。
*本方で下痢することがあり、酸棗仁の油性成分によると考えられる。続服すれば下痢は止むが、生姜4.0gを加えても良い。
疲労して眠れぬ場合
疲れるとかえって眠れない人がある。また疲れが度を越すと眠れないことがある。眠れないから余計に疲れる。疲れるからますます眠れない。眠っても夢ばかりみている。
筆者はかかる患者に酸棗仁湯を用いて効顕を得ている。早ければ早いほど簡単に癒る。眠れない場合にも色々ある。例えば興奮して眠れないことがある。このような場合には酸棗仁湯は効がない。瀉心湯を用いなければならない。酸棗仁湯は疲れていくら眠ろうと努力しても眠れぬ時に用いる薬である。だから大病後心身が疲労して眠れない時、忙しい仕事が続いて心身の疲労が重なって眠れない時等に用いて良い。一種の神経の強壮薬であるから1日3回に服用しても、朝呑んだから眠くて仕事ができぬということはない。また翌朝睡眠から醒めた時の気分は頗る爽快で、また長期にわたって服用したからとて中毒や習慣になることはない。殊に面白く思うのは神経衰弱症に伴う盗汗が本剤で簡単に癒ることである。吉益東洞は1患者が昏々として睡眠より醒めないのに、この方を与えて治したといい、この薬方が単なる睡眠薬でない証拠として興味がある。 大塚敬節『生薬治療』11・8,9合併号
【症例】発熱後の不眠
40幾つかの婦人の方です。発病して5日目位に往診しました。発熱して39.5°Cで咳があり、幾分胸苦しく、右下葉にラッセル著しく濁音を呈していました。脈は浮で弱く、自汗があり、ぐったりとしていて、尿も少なく、口渇があるので、私は初め柴胡桂枝乾姜湯をあげたところ、2日分で熱は37°Cに下がりました。しかし3日目から譫語を発して何かの幻想に悩まされるようで、ほとんど一睡もできず、腹力なく、臍傍の動悸がありました。すなわちこれは不眠症によるものと思い柴胡加竜骨牡蠣湯と酸棗仁湯の合方で落ち着きました。
矢数道明『漢方と漢薬』8・6・51
衰憊(すいはい):おとろえ弱ること
【参考】
・うつ(鬱)に良く使われる漢方薬
http://kenko-hiro.blogspot.com/2009/04/blog-post_23.html
49 酸棗仁湯(さんそうにんとう) 別名 酸棗湯〔金匱要略〕
酸棗仁一五・〇 知母・川芎・ 各三・〇 茯苓五・〇 甘草一・〇
(酸棗仁は炒って半分ぐらいに減量してもよい)
水五〇〇ccをもって酸棗仁を煮て四〇〇ccとし、諸薬を入れ、再び煮て三〇〇ccとし、三回に分けて温服する。一般には同時に煎じて用いているが,論の指示に従うがよい。
〔応用〕体力が衰えて虚状を帯びている不眠症に用いる。反対に、虚労からくる嗜眠に用いてよいこともある。その他諸神経症に用いる。
すなわち、本方は不眠症・嗜眠症・神経衰弱・盗汗・健忘症・驚悸・心悸亢進症・眩暈・多夢・神経症等に応用される。
〔目標〕虚労病(疲労病)で、虚煩眠るを得ずというのが目標である。患者は体力が衰え、元気がなく、先も脈も虚状を呈し、胸中が苦しく、煩えて眠ることができないというものである。
しかし虚労の病で、かえって嗜眠の場合に用いてよいことがある。これは漢方薬が調整的に作用するからである。
〔方解〕主薬の酸棗仁には一種の神経の強壮鎮静薬としての作用がある。よく中を寧んじ気をおさむというのがそれである。元気が衰えて、胃内の停水が熱を帯び、上衝して心を攻め、煩えて眠れないという。この場合酸棗仁が主薬となり、知母と甘草は熱を清まして燥を潤す。すなわち滋潤強壮の作用となる。酸棗仁は中国や朝鮮から輸入されるサネブトナツメの種子で Betulin C30H50O2 その他を含んでいる。茯苓と川芎は気を行らし、停飲を除くものである。川芎には気の鬱を開いて、気分を明るくし、血行をよくして頭痛を治す効がある。茯苓は脾を益し、湿を除き、心を補い、水を行らし、魂を安んじ、神を養うといわれているが、強壮・利尿・鎮静の効があるものである。
これらの薬味の協力によって、陰陽の調和がとれ、不眠・嗜眠・虚煩等に有効的にはたらくものと解釈される。
〔主治〕
金匱要略(血痺虚労病)に、「虚労、虚煩眠ルヲ得ザルハ、酸棗仁湯之ヲ主ル」とある。
勿誤薬室方函口訣には、「此ノ方ハ心気ヲ和潤シテ、安眠セシムルノ策ナリ。同ジ眠リヲ得ザルニ三策アリ。若シ心下肝胆ノ部分ニ当リテ停飲アリ、之レガタメニ動悸シテ眠リヲ得ザルハ温胆湯ノ症ナリ。若シ胃中虚シ、客気(邪気のこと)膈ヲ動カシテ眠ルヲ得ザル者ハ甘草瀉心湯ノ症ナリ。若シ血気虚燥心火亢ブリテ眠ルヲ得ザル者ハ此ノ方ノ主ナリ。済生ノ帰脾湯ハ此ノ方ニ胚胎(もののはじまり)スルナリ。又千金酸棗仁湯ニ石膏ヲ伍ス者ハ、此ノ方ノ症ニシテ余熱アル者ニ用ユベシ」とある。
また古方薬嚢には、「平常ひよわき人、急に胸騒ぎして眠ること得ざるもの、本方の正証なり。つまらぬことなど気にかかりて眠れぬものにもよし。若し大いなる心配などありて眠れぬ者は本方にて治し難し」とある。
〔鑑別〕
○梔子豉湯59(不眠
○瀉心湯48(不眠・炎症充血強く、実熱の症)
○柴胡加竜骨牡蛎湯44(不眠 ・実証、炎症充血、心悸亢進、胸脇苦満)
○猪苓湯100(不眠・血熱による不眠、渇、小便数)
○五苓散41(不眠・口渇、小便不利)
○甘草瀉心湯119(不眠・心下痞硬、実熱)
〔参考〕
不眠症の聖剤のように思われるが、治験は比較的少ない。論のごとく煎じて用いた方がよい。現在酸棗仁は品不足で一五グラムは用いがたい。温胆湯には三・〇グラムで有効であるから、減量してもよいと思われる。
〔治例〕
(一)嗜眠症
東洞先生が、一病人の昏昏として醒めず、あたかも死状の如く、五~六日に及ぶ者を治するに此方を用いて速やかに効があった。まさに円機活法というべきである。(尾台榕堂翁、類聚方広義)
(二)不眠症
六二歳の男子。数年来不眠・頭重・耳鳴り・肩こりを訴え、疲れ易く、食も進まない。
痩せ型で、腹に力なく、臍のところに動悸が亢ぶっている。酸棗仁湯を与えたところ、一ヵ月余りで諸症好転し、記憶力が増してきた。そこで小柴胡湯に転方したところ、食欲が出て、体重も増加し、性欲が旺盛になって、十数年前の若さに返ったという。さらに続服したところ、十数年来の痔核も治った。 (大塚敬節氏、漢方治療の実際)
26酸棗仁湯(金匱)
酸棗仁一五・〇 知母 川芎各三・〇 茯苓五・〇 甘草一・〇(二七・〇)
この方の運用は原典の条文“虚労虚煩眠るを得ず”に尽され仲いる。即ち
吉益東洞が本方を不眠とは逆の嗜眠症の治療に用いたのは有名な話であるが、気血水説では本方の薬能は血滞を除くことにあり、血滞って気めぐらんとして煩すれば不眠となり、血滞って気めぐるを止めるときは嗜眠となる。ともに原因の血滞を治せば不眠も嗜眠も共に癒えるのである。丁度八味丸が小便自利、不利を治すのと同じ理窟である。
水や血を亡失して煩する虚煩の反対は病邪が充満して煩する実煩で、実煩なら黄連解毒湯などのように胃部が痞硬するか腹部堅満などの充実の症がある。貧血性不眠症。
『漢方処方の手引き』 小田博久著 浪速社刊
酸棗仁湯(金匱)
酸棗仁:十五、知母・川芎:三、茯苓:五、甘草:一。
水五百mlで酸棗仁のみを煎じて四百mlとし、残りを入れて三百mlまで煮つめる。
(主証)
疲労からくる不眠又は、嗜眠。
(客証)
夢をよく見て熟眠感がない。
(考察)
炎症性充血、胸苦しい→梔子豉湯。
実熱(のぼせ)→三黄瀉心湯。
胸脇苦満、神経質→柴胡加竜骨牡蠣湯。
『漢方処方応用の実際』 山田光胤著 南山堂刊
101.酸棗仁湯(金匱)
酸棗仁8.0,知母,川芎各3.0,茯苓5.0,甘草1.0
〔目標〕 からだが弱って,煩躁して眠れないものである.
梧竹楼は,虚人,老人,長病人が夜目が冴えてねむれないものによいという.
類聚方広義には,ⅰ)諸病久しく癒えず,衰弱して身熱,ね汗,胸さわぎ,不眠,口乾,喘咳,大便軟らかく小便の出がわるく,水毒があり,ものの味が無いものに,本方に黄耆,麦門冬,乾姜,附子 などを選び加えて用い識とよい。ⅱ)また もの忘れして驚きやすく,胸さわぎする などの三症状は,本方に黄連,辰砂を選び加えるとよい.ⅲ)なお 出血多量で意識がぼんやりし,めまい,不眠、煩熱,盗汗,浮腫のあるものには,本方合当帰芍薬散がよい.ⅳ)東洞先生は昏々と眠って4,5日めがさめず,死んだようになっている病人に,本方を用いて速効を得たと書いてある.ただし 眠っている病人に,どのようにして服薬させたかは記していない.
〔参考〕 浅田宗伯は勿誤薬室方函口訣に,「本方は心気を和潤して安眠させる方である.同じ不眠の治療にも三つの方法がある.心下肝胆の部分に停水があって,そのため動悸して眠れないものは温胆湯がよい.また消化不良で眠れないのは甘草瀉心湯の証である.もし,血気虚躁して眠れないのは本方である.済生の帰脾湯は本方から出たものである」といっている.
ただし 実際には,本方の適応症はあまり多くない.
〔応用〕 不眠症,嗜眠症.
〔鑑別〕 湿胆湯の項 参照
《少陽病から太陰病.虚証》
| 気による精神症状 | 虚証 | 上焦の熱証・燥証 | 肺の水毒 | |
| 主証 | ◎不眠 ◎不安 ◎繊憂細慮 | ◎疲労倦怠 ◎衰憊 | ◎心中煩悶 | |
| 客証 | ◯頭痛 頭重 ◯健忘 目眩 心悸亢進 驚悸 多夢 嗜眠 | ◯顔色不良 ◯盗汗 貧血 | ◯身体枯燥 ◯口燥 煩躁 身熱 | 咳嗽 軽度の呼吸困難 |
不眠症、ノイローゼ、健忘症、嗜眠症、出血や貧血等に伴う神経衰弱、驚悸
B 虚証:疲労倦怠・衰憊等を目標にする場合。
疲労倦怠状態、盗汗
C 上焦の熱証・燥証:心中煩悶・身熱等を目標にする場合
身熱
【参考】*虚労、虚煩して眠るを得ざるは酸棗仁湯之を主る。
*此の方は心気を和潤して安眠せしむるの策なり。同じ眠るを得ざるに三策あり。若し心下肝胆の部分にあたりて停飲あり、これが為に動悸して眠るを得ざるは温胆湯の症なり。若し胃中虚し、客気膈に動じて眠るを得ざる者は甘草瀉心湯の症なり。若し血気虚燥、心下亢りて眠るを得ざる者は此の方の主なり。『済生』の帰脾湯は此の方に胚胎するなり。『千金』酸棗仁湯、石膏を伍する者は、此の方の症にして餘熱ある者に用ゆべし。
『勿誤薬室方函口訣』
*本方は「虚労、虚煩、眠るを得ず」の状態に用いる精神強壮剤である。酸棗仁は催眠には炙ったものを使用し、覚醒には炙らず生のままで用いるとされる。
*本方で下痢することがあり、酸棗仁の油性成分によると考えられる。続服すれば下痢は止むが、生姜4.0gを加えても良い。
疲労して眠れぬ場合
疲れるとかえって眠れない人がある。また疲れが度を越すと眠れないことがある。眠れないから余計に疲れる。疲れるからますます眠れない。眠っても夢ばかりみている。
筆者はかかる患者に酸棗仁湯を用いて効顕を得ている。早ければ早いほど簡単に癒る。眠れない場合にも色々ある。例えば興奮して眠れないことがある。このような場合には酸棗仁湯は効がない。瀉心湯を用いなければならない。酸棗仁湯は疲れていくら眠ろうと努力しても眠れぬ時に用いる薬である。だから大病後心身が疲労して眠れない時、忙しい仕事が続いて心身の疲労が重なって眠れない時等に用いて良い。一種の神経の強壮薬であるから1日3回に服用しても、朝呑んだから眠くて仕事ができぬということはない。また翌朝睡眠から醒めた時の気分は頗る爽快で、また長期にわたって服用したからとて中毒や習慣になることはない。殊に面白く思うのは神経衰弱症に伴う盗汗が本剤で簡単に癒ることである。吉益東洞は1患者が昏々として睡眠より醒めないのに、この方を与えて治したといい、この薬方が単なる睡眠薬でない証拠として興味がある。 大塚敬節『生薬治療』11・8,9合併号
【症例】発熱後の不眠
40幾つかの婦人の方です。発病して5日目位に往診しました。発熱して39.5°Cで咳があり、幾分胸苦しく、右下葉にラッセル著しく濁音を呈していました。脈は浮で弱く、自汗があり、ぐったりとしていて、尿も少なく、口渇があるので、私は初め柴胡桂枝乾姜湯をあげたところ、2日分で熱は37°Cに下がりました。しかし3日目から譫語を発して何かの幻想に悩まされるようで、ほとんど一睡もできず、腹力なく、臍傍の動悸がありました。すなわちこれは不眠症によるものと思い柴胡加竜骨牡蠣湯と酸棗仁湯の合方で落ち着きました。
矢数道明『漢方と漢薬』8・6・51
・うつ(鬱)に良く使われる漢方薬
http://kenko-hiro.blogspot.com/2009/04/blog-post_23.html
2010年11月13日土曜日
葛根湯(かっこんとう)とインフルエンザ・風邪 効能 効果 副作用
『《資料》よりよい漢方治療のために 増補改訂版 重要漢方処方解説口訣集』 中日漢方研究会
9.葛根湯 傷寒論
葛根8.0 麻黄4.0 生姜4.0(乾1.0) 大棗4.0 桂枝3.0 芍薬3.0 甘草2.0
(傷寒論)
○太陽病,項背強几几,無汗悪風,本方主之。(太陽中)
○太陽与陽明合病者,必自下利,本方主之。(太陽中)
(金匱要略)
○太陽病,無汗而小便反少,気上衝胸,口噤不得語,欲作剛痙,本方主之。(痙)
〈現代漢方治療の指針〉 薬学の友社
頭痛,発熱悪寒して自然発汗がなく,項,肩,背などがこるもの。慢性の歯痛,鼻づまり,蓄膿症,肩こり,神経痛などには発熱,悪寒がなくても用いる。本方は急性の感冒薬としてよく用いられ,アスピリンの如き解熱作用を有するが,胃腸障害はほとんどなく,また各種急性疾患(例えば急性大腸カタル,赤痢など)初期で,発熱悪寒症状を現わす時,身体の疾病防衛力を強めるのでしばしば利用される一方,葛根,芍薬の働きを利用して,慢性の肩こりなどにも常用される。なお,感冒の頓服用には就寝前1.5ないし2.0グラムを温湯0.1リットルで服用させると,発汗して解熱する。また五苓散と併用すれば発汗作用は一層増強される。炎症疾患で化膿している場合は桔梗,石膏1回0.3グラムを加えること。
本方は盗汗を含む自然発汗がある症状には使用してはならない。このような症状の感冒には柴胡桂枝湯,柴胡桂枝干姜湯などを考慮すべきである。感冒の場合,高熱を伴って身体痛や関節痛が激しい時は,本方より麻黄湯の方が適当である。本方服用後極端な食欲不振,胃痛,のぼせ,不眠などを訴える場合は不適であるから,柴胡桂枝湯,小柴胡湯,補中益気湯,香蘇散などで治療すればよい。なお慢性疾患に使用する場合,虚弱体質には不適であるが,短期間なれば本方と小柴胡湯と合方すれば投与出来る。
〈漢方処方解説シリーズ〉 今西伊一郎先生
本方は急性熱性病に対して発汗解熱作用を発揮し,熱性病初期の疾病防衛力を強めるので,次のポイントを参考に応用すればよい。
(1)感冒 右記の初期症状に頓服的に服用させると発汗して解熱する。本方が適応するものは平素健康なもの,筋肉の発達したものなどに多い。
(2)麻疹 前駆期,発疹期で発熱,頭痛,悪寒などの症状を対象に用いられる。
(3)腸カタル 前記感冒や麻疹などの熱性疾患に続発する急性腸カタル,その他細菌性の急性腸カタルで,発熱悪寒,下痢,腹痛などの症候のあるものによい。
(4)中耳炎,蓄膿症,扁桃腺炎 急性の初期症状を目標に用いられているが,この場合発熱,悪寒するものと局所に熱が局限するものの両者によいが,特に局所の炎症が激しく,痛みや化膿の傾向あるものには,本方に桔梗,石膏を加えると,さらに治療効果を促進する。
(5)癰癤 発赤,腫脹,疼痛が激しく発熱,悪寒または頭痛などを伴うものに応用すると,消炎,鎮痛の効をを発揮する。化膿の傾向あるものは前項(4)に準じる今:
(6)神経痛,リウマチ 本方は主として上半身の炎症や発熱によく用いられるが,神経系疾患も偏頭痛,三叉神経痛,腕神経痛など上半身の痛みを対象にする。
(7)肩こり 発熱時の肩こり,慢性の肩こりを治す内服薬として,その効果からも重宝されている。
〈漢方診療30年〉 大塚 敬節先生
○くびから背にかけてこるのが葛根湯を用いる目標である。風邪をひいたときでも、この症状がなければ葛根湯は用いない。こんな症状があって頭痛とさむけと熱があり,脈が浮で力があり,汗が自然に出ないようならば、この方を用いてよい。
○葛根湯は破傷風のような症状のものに,古人は用いている。また大腸炎や赤痢の初期に用いる。この場合には,さむけを伴う熱としぶり腹の下痢があり,脈は浮で力がある。もし脈が弱ければ桂枝加芍薬湯を用いる。葛根湯で発汗すれば,頓挫的に病状が軽快する。もしその後なお腹痛下痢がつづくようなら,黄芩湯,大柴胡湯,芍薬湯などが用いられる。
○以上のほか葛根湯は湿疹,癤,神経痛,結膜炎,肩こりなどにも用いられる。
○江戸時代の人が「横なで」の症といって,小児が舌をペラペラと出して口のまわりをなめまわすような状態があれば,これを用いると効くと村井琴山は言っている。私もこれにヒントを得て試用したが三週間ほどで全快した。
〈漢方処方応用の実際〉 山田 光胤先生
○脈が浮で力持;あり,自汗がなく,悪寒,発熱,頭痛がして,くびすじや背中がこわばるもの。これを項背強急という。これはまた,体温上昇がないときにも用いられる。
○脈が浮で力があり,自汗がなく,悪寒,発熱して下痢するもの。このとき尿量が減少す識ことがある。熱のあるときの葛根湯証の脈は浮数で力があるものである。
○体表の炎症や化膿の初期で,発熱して痛み,まだ発赤,腫脹のはっきりあらわれないものによい。四肢の痛みの軽いものによい。
〈漢方診療の実際〉 大塚,矢数,清水 三先生
本方は感冒薬として知られているが,感冒の如何なる時期,如何なる症状に対して用いるべきかを知る者は少い。本方を感冒に応用するには太陽病で次の症候複合のあるものを目標とする。即ち悪寒,発熱,脈は浮いて触れ易く緊張し,項部,肩背部の緊張感等のある者である。この場合の悪寒は何時も身体がゾクゾクと寒気を覚えるものを指す。彼の時間を限って悪寒が来り,また去る者と区別しなければならない。葛根湯は感冒薬であっても前述の症候複合を現わさない場合には適当しない。これに反して感冒でなくても前述の症候複合を現わす場合は葛根湯の指示となる。これによって本方は次の諸疾患に応用される。
(1)結膜炎や赤痢の初期で悪寒,発熱して浮緊の脈を現わすことがある。その場合に本方を用いると悪寒が去り同時に下痢や裏急後重も緩解する。
(2)葛根湯には項背部の緊張感を治する効がある。これに関連して能く上半身の炎症を軽快させる。故に眼,耳,鼻の炎症,即ち結膜炎,角膜炎,中耳炎,蓄膿症,鼻炎等に屡々応用される。この場合は悪寒,発熱は必ずしも重要ではない。脈状は参考とする必要がある。
(3)その他肩凝り,肩甲部の神経痛,化膿性炎の初期,蕁麻疹等に応用される。本方は胃腸虚弱者に用いると,時に嘔心・食欲不振を来すことがある。本方の組立てを考えるに,桂枝湯に麻黄と葛根が加味されたものである。麻黄の加味によって本方は桂枝湯よりは血管を拡張し,血行を盛んにし,発汗させる力が強い。葛根は項背部の緊張感を緩める効がある。
〈漢方入門講座〉 竜野 一雄先生
運用 1. 発熱,悪寒あるいは悪風,僧帽筋の範囲における筋肉緊張,脉浮数緊を目標にする。これは傷寒論太陽病中篇
「太陽病,項背強ること几々汗無く悪風するもの」に基ずくもので,太陽病は体表に熱のある状態をさし,発熱症状を伴い,項背部が緊張するとはだいたいにおいて僧帽筋の範囲だが,後頭部に及ぶこともあり,頭痛としてあらわれることもあり,項や肩のこともある。たいてい自覚的にも化覚的にも之を認める。肩胛骨間腔に緊張がおよぶことは割合に少なく,腰まで及ぶことはない。もし腰まで及んで痛むようなら麻黄湯の適応証になる。悪風は風にあたると気持が悪い感じで,知覚過敏を示す。しかし臨床的には悪寒であってもかまわない。以上の条件があれば,感冒,流感,気管支炎,はしか,闘争,脳膜炎,リンパ腺炎,扁桃腺炎,丹毒,猩紅熱,その他の急性伝染性熱病のほとんどすべての場合に葛根湯は使用される。但し,使用し得る時期は発病後1~2日ぐらいのことが多い。それ以後でも前記適応症さえ具えていればもちろん使ってよい。(後略)
運用 2. 熱がなくて項背部緊張によって使う場合。
この場合は脉は浮緊が原則だが,浮はさほど著明でなくただ緊だけのこともある。しかし沈ではなく,沈だと効かない。項背強が著明に自覚されているときと,そうでなく,他の主訴が強調される余り,項背強は,こちらから糺さねばならぬときがあるから注意を要する。この用法に従うのは肩こり,四十肩,歯痛,蓄膿症(但しあまり慢性になっているものは原方だけでは奏効し難いから濃い膿には桔梗3.0を加え,のぼせて便秘するものには川芎3.0,大黄2.0を加える) 中耳炎(蓄膿症と同様)などである。(中略)
運用 3. 項背と限らず,身体のとこでもかまわないが,主に上半身における限局性の化膿性浸潤に使う。その場合目標になるのは,やはり運用1.2.の所見である。すなわち発熱,悪寒,頭痛などの症状を伴い脉浮数緊であるか,あるいは発熱症状がなくとも,脉浮緊であるかによる。発疹は赤味が腫脹は硬い。たとえば皮膚炎,急性湿疹,ジンマ疹などの皮膚病で分泌物がないか(無汗とみる)あるいは極く僅少で痂皮又は浸潤が著明のもの(しこりとみる)。
皮下膿瘍,筋炎,蜂窩織炎,リンパ腺炎,リンパ管炎,面疔,背癰など。(中略)
運用 4. 発熱して悪寒あるいは頭痛し,且つ下痢するものに使う。この場合の下痢は裏急後重することが多い。従って急性大腸カタルや赤痢の発病の初期に使う。たいてい1日か2日で治ってしまう。脉はやはり浮数緊である。この使い方は傷寒論太陽病中篇の「太陽と陽明の合病は必ず自下痢す。」に基ずいたものである。太陽病は前記の通り表熱の状態,陽明病は裏熱の状態で,消化器が熱実して腹満便秘あるいは下痢を起す。表と裏との状態が同時にあれば,先表後裏の法則で先ず葛根湯の如き発表剤を使うことになっている。それで表証も裏証も一ぺんにとれて治るのだが普通だが,もし表証だけはとれたが裏証が残ったとすれば,その時はじめて下剤を使うことにする。
〈漢方処方解説〉 矢数 道明先生
陽実証の体質のものが感冒その他の熱性病にかかり,いわゆる太陽病を発して,悪寒,発熱,項部および肩背部に炎症充血症状が起こって緊張感があり,脈は浮んで力がある。このような一連の症候複合を呈したときに用いる。またこれらの適応症から転じて種々の無熱性の難病にも広く応用される。
〈勿誤方函口訣〉 浅田 宗伯先生
此方外感の項背強急に用ることは五尺の童子も知ることなれども,古方の妙用種々ありて,思議すべからず。譬えば,積年肩背に凝結ありて,其の痛み時々心下にさしこむ者,此方にて一汗すれば忘るるが如し。又独活,地黄を加えて産後柔中風(偏側麻痺)を治し,又蒼朮,附子を加えて肩痛臂痛(50肩,40腕)を治し,川芎大黄を加えて脳漏(上顎洞炎)及び眼耳痛を治し,荊芥大黄を加えて疳瘡,梅毒を治すが如き,其効僂指(指おりかぞえる)しがたし。宛も論中合病下利に用い,痙病に用いるが如し。
『漢方診療の實際』 大塚敬節・矢数道明・清水藤太郎著 南山堂刊
葛根湯
本方は感冒薬として知られているが、感冒の如何なる 時期、如何なる症状に対して用いるべきかを知る者は少い。本方を感冒に応用するには、太陽病で次の症候複合のあるものを目標とする。即ち、悪寒・肩背部の 緊張感等のある者である。この場合の悪寒は何時も身体がゾクゾクと寒気を覚えるものを指す。彼の時間を限って悪寒が来り、また去る者と区別しなければなら ない。葛根湯は感冒薬であっても前述の症候複合を現わさない場合には適当しない。これに反して感冒でなくても前述の症候複合を現わす場合は葛根湯の指示と なる。これによって本方は次の諸疾患に応用される。
(一)結腸炎や赤痢の初期で悪寒・発熱して浮緊の脈を現わすことがある。その場合に本方を用いると悪寒が去り同時に下痢や裏急後重も緩解する。
(二)葛根湯には項背部の緊張感を治する効がある。これに関連して能く上半身の炎症を軽快させる。故に眼・耳・鼻の炎症、即ち結膜炎・角膜炎・中耳炎・蓄膿症・鼻炎等に屡々応用される。この場合は悪寒・発熱は必ずしも重要ではない。脈状は参考とする必要がある。
(三)その他肩凝り、肩甲部の神経痛、化膿性炎の初期、蕁麻疹等に応用される。
本方は胃腸虚弱者に用いると、時に嘔心・食欲不振を来すことがある。
本方の組立てを考えるに、桂枝湯に麻黄と葛根が加味されたものである。麻黄の加味によって本方は桂枝湯よりは血管を拡張し、血行を盛んにし、発汗させる力が強い。葛根は項背部の緊張感を緩める効がある。
『漢方精撰百八方』 日本漢方医学研究所
37.[方名]葛根湯(かっこんとう)
〔出典〕傷寒論
〔処方〕葛根8.0 麻黄、生姜、大棗各4.0 桂枝、芍薬各3.0 甘草2.0
〔目標〕証には、項背強急し、発熱、悪風し、汗無く、或いは喘し、或いは身疼む者とある。即ち発熱、悪風し、項背から頭にかけてこわばり凝り、汗が出ないで、喘し、身体が疼む者に適用する。その他、小便不利、上衝、下痢、口噤等の症の加わることがある。脈は浮、緊、数がふつうである。
〔かんどころ〕悪寒、悪風があって発熱し、背すじから項にかけてこわばり、汗が出ないで脈は浮で力があるものに適用する。筋肉や筋がこわばり、強ければ痛み、更に激しければ痙攣する状態があることを一特徴とする。麻黄湯の身体疼みは関節等疼痛するというので、深く強い。葛根湯の疼みはそれより表在している形である。
〔応用〕漢方薬の代表といってよい薬方であるが、風邪ばかりでなく、実に応用範囲の広い薬方である。熱のある場合は、目標の如き症状を具えているが、熱が無くても、筋肉の強直を目標として用いたり、急性、慢性の化膿性疾患に用いたり、実にさまざまな用途がある。
(1)感冒の初期で、目標に上げた症がある時は、先ずこの方を与えて発汗するのがよい。十分に発汗させないとうまくいかない。汗が出ないで尿が多量に出て解熱する場合もある。
(2)下痢の初期で、悪寒、発熱し、脈浮数のものに適用する。これは「太陽と陽明との合病にして、自下痢する証」に当たる場合であることが多い。流感のある種のものには下痢を伴う場合があるが、葛根湯がよく奏効する。なお、感冒で、葛根湯を用いる場合で、胃の弱いもの、嘔気を伴うものには加半夏湯(半夏6.0)にするがよい。
(3)麻疹、疫痢その他の熱性病の初期で、目標の症のあるもの。
(4)肩背痛のあるもので、脈浮数の者。又、肩、肩甲部の神経痛に用う。加朮附にして用いて効を得ることが多い。
(5)脳膜炎、或いは破傷風の類で、その初期、脈浮数、口噤、筋強直を伴うもの。
(6)歯痛、歯齦腫痛、咽喉腫痛、中耳炎初期の疼痛等に用いる。加石膏にすることがある。
(7)諸種の皮膚病、湿疹、疥癬、蕁麻疹、風疹、湿出性体質の小児等に適用する。局所が赤く腫れ、熱感があるものにはよく奏効する。蕁麻疹には最もよく用いられる。石膏、桔梗、薏苡仁等を加味することが多い。
(8)フルンケル、カルブンケル等の化膿性疾患の初期、発熱、悪寒、腫痛等の前記の目標を具えたもの。桔梗、石膏を加味することが多い。
(9)気管支喘息。感冒等に誘発された喘息発作に用いる。
(10)副鼻腔炎、肥厚性鼻炎、臭鼻症、嗅覚障害等に適用する。副鼻腔炎には、最もよく用いられる薬方の一つで、桔梗、薏苡仁、辛夷、川芎等を加味する場合が多い。なお、葛根加朮附湯、苓朮附湯にして奏効する場合もある。
(11)るいれき等には、証により反鼻を加えて用いる。
(12)眼科疾患では、麦粒腫、眼瞼縁炎、急性結膜炎、急性角膜炎、虹彩炎等、炎症症状を伴うものに頻用される。加味薬は、石膏、桔梗、薏苡仁、反鼻、朮、附子、川芎等である。
伊藤清夫
『漢方薬の実際知識』 東丈夫・村上光太郎著 東洋経済新報社 刊
『漢方医学十講』 細野史郎著 創元社刊
葛根湯
さて葛根湯は、以上に述べて来た桂枝湯に葛根・麻黄の二味が加わったものであるが、桂枝湯とは明らかにその趣きが異なっており、桂枝湯のように汗腺機能を調整するにとどまらず、発汗作用のあることが考えられる。しかし、その発汗作用は麻黄湯のように激しくはない。したがって臨床にあたって使いやすく、本方でカゼの大方は治すことができる。あまりに使いやすいので、安易に使われ、「カゼには葛根湯」と言われたり、また無批判にこれを用いる医者は「葛根湯医」と言われて嘲笑されたりしたわけであるが、やはり真に治療成績を挙げる然めには葛根湯の用い方を正しく心得ていなければならない。
葛根湯
右七味。以水一斗。先煮麻黄葛根減二升。去白沫。内諸薬。煮取三升。去滓。温服一升。覆取微似汗。餘如桂枝法。将息及禁忌。諸湯皆倣此。
(右七味、水一斗を以って、先ず麻黄、葛根を煮て、二升を減じ、白沫を去り、諸薬を内れ、似て三升を取り、滓を去り、一升を温服す。覆って微似汗を取る。餘は桂枝の法の如く、将息及び禁忌す。諸湯皆此れに倣う。)
*
構成生薬のうち麻黄以下の六味はすべて述べたので、ここには葛根のみについて解説する。
葛根
マメ科(Leguminosae)のクズPueraria lobata OHWI またはPueraria lobata OHWI Chinensis OHWIの周皮を除いた根を用いる。澱粉を10~15%を含み、またフラボノイド類のdaizin, daidzein,puerarin などを含む。また近年、生体内神経伝達物質であるアセチルコリンを含んでいることが証明された。
葛根の薬能は、『本草備要』では「胃の気を鼓し、上行し、津を生じ渇を止める」「腠を開き、汗を発し、肌を解し、熱を退く。脾胃虚弱、泄瀉を治す聖薬となす」とあり、古来、発表薬として発汗・解熱の作用を有し、また消化器系に働いて鎮痙作用を有し、下痢を止める。また、葛根は特に身体上部の血行をよくする働きがあると思われる。
薬理実験でも解熱作用が認められ、この作用は、皮膚血管を拡張して体表からの熱放出を促進するとともに、呼吸を促進し、肺からの水分受出を増して熱放出を促進することによるようである。
また葛根中には、平滑筋臓器に対して鎮痙または弛緩作用を示す分画と、反対に収縮作用をもつ分画が存在し、前者はフラボノイド類、後者はアセチルコリンがその作用成分として認められ仲いる。この版うに一つの生薬に相反する作用をもつ成分が存在することは、しばしば見られることである。したがって他の生薬と組み合わさって、一方の作用が増強され、他方が減弱されるなどにより、薬方によって多方面の作用が発現してくるものと思われる。
また近年、中国では、葛根のフラボノイドの循環器系に対する作用に注目し、薬理実験と臨床検討を並行して行なっている。まず動物実験においてフラボノイドは、血圧の安定化、脳内血流増加、冠状動脈血流増加、血管抵抗の減少、心筋酸素消費量の減少などの作用が認められ、また実験的に作った狭心症および心筋梗塞モデルに対しても有効性を認めている。この薬理結果にもとづき、葛根の製剤を臨床に応用した結果、狭心症、心筋梗塞などに一定の効果を認めている。
また、葛根は昔から胃熱をとるものと考えられていて、飲酒などによって起こったような急性胃炎の症状を治す作用がある。
*
麻黄が入っていることは、桂枝と協力して発汗性を強めることを示している。したがって『傷寒論』では「太陽病。項背強几几。無汗悪風。葛根湯主之。」と言い、太陽病の状態で、背中、首筋が激しく強ばり、悪風発熱があるが、汗が全く出ないときには、葛根湯をもって治すことができることを示しているのである。脈状の記載がないが、言うまでもなく脈は浮であり、数であり、かつ緊の性質を帯びることが多いわけである。
一般に、カゼ気味で、肩が凝り、頭が痛く、寒気がして、汗の出ていないときは、これを一服のむと発病に至らず、簡単に治るものである。それでも気分のよくならぬときは、一~二時間おいて、さらに一服飲むとよく効くものである。
『傷寒論』の条文に「太陽与陽明合病。不下利。但嘔者。葛根加半夏湯主之。」(太陽と陽明の合病、下痢せず、ただ嘔する者は、葛根加半夏湯之を主る。)とあるように、太陽病の時期で、同時に陽明病の症状があり、嘔気を催すときは半夏を加える。またカゼで扁桃炎を伴うときなどにも、この加味方がよく効く。
また「太陽与陽明合病者。必自下利。葛根湯主之。」(太陽と陽明の合病は必ず自下利す、葛根湯之を主る。)とあって、消化器障害、ことに下痢を伴うカゼにも葛根湯はよく効く。『傷寒論』では、太陽・陽明の合病で下痢する場合は葛根湯が主方であると言っている。
*
ついでにここで、脈の「浮」「緊」について少しく考えておくことにしよう。血管壁の一部は平滑筋より成っているが、平滑筋は骨格筋と同じように緊張していると考えられ、これらの筋肉の緊張度はまたその個体の活力を或る程度あらわす。皮膚にある汗腺もまた、血流の状態によって、発汗能に影響を及ぼす。つまり、脈緊の状態は、血管壁の緊張度の高まっているときであり、そのときは発汗能も低下していると考えられる。故に、葛根湯はこの緊張を緩めることになるのである。しかし、桂枝湯の脈である「浮緩」のように、血管壁の緊張度が低下している状態では、葛根湯よりも前述の桂枝加葛根湯を用いるのがよい。もしも桂枝湯証のような虚脈の人に葛根湯を用いると、ちょうど虚弱者にアスピリンを使ったときのように、汗が漏れて止まない状態に陥り、桂枝加附子湯の出馬を仰がねばならない状態に至ることもある。
以上の葛根湯の症状中、最も大切で特異な点は、後頭部、項、肩、背中の強ばりである。そしてこの主症状を目標に、急性の太陽病だけではなく、慢性疾患にも応用することができる。
〔一〕 副鼻腔炎、蓄膿症
慢性病の中で葛根湯を応用し得る疾患としては、まず副鼻腔炎、蓄膿症がある。
蓄膿症がある場合には、しばしば肩が凝り、後頭部が重く感じられたり痛んだりする。すなわち葛根湯の病状とよく似た状態を呈する。このようなときは、葛根湯だけでもよいが、頭痛のある者には川芎を加え、便通を整える意味でさらに大黄を加えることがある。消化管粘膜と鼻の粘膜とが密接な関係にあることは、臨床上しばしば経験するところで、過食や飲酒によって鼻閉を起こすことからも想像される。
したがって漢方で胃の熱をとると言われている葛根に、消化管内の毒性の消化残滓を瀉下して除く大黄を加えることは、副鼻腔炎にも好影響を及ぼすことになる。さらに一層よく効かすには、鼻の特効のある辛夷を加える。また、鼻汁が膿状となり治りにくいときは薏苡仁を加える。葛根湯で蓄膿症を治療しているうちに、皮膚の色が白くなって喜ばれたことが時にあるが、これも心の隅に覚えておいてよいことである。
〔二〕 脳炎や痙攣性の疾患
次に後業部の凝りを来たす疾患として慢性蜘蛛膜炎や脳炎などの初期にも応用される。私は、かつて、高熱を発し、激しい頭痛、悪心のある小児で脳膜炎を疑われるものに、葛根加半夏湯を与え、烏梅丸を兼方として用いたところ、服薬一貼で頭痛、発熱の大半がとれ、二貼で蛔虫を吐き出して解熱し、脳炎様症状も跡かたもなく消失した、という面白い治験例をもっている。
このように、葛根湯は脳炎様症状にも用いられるが、『金匱要略』の「痙湿暍病篇」に協、これが痙病すなわち破傷風や狂犬病などのような痙攣性疾患に用いられる機会のあることを述べている。
また赤痢や大腸炎の初期に応用する機会があり、その初期に、太陽病、陽明病の合病の状態で、裏急後重を伴う粘液や膿血便が頻回に排泄されるときに、葛根湯を与えると、軽く発汗したと思うまもなく、今まで一〇~三〇分間隔にあった便意も去り、膿血便もいちじるしく軽減していく。この場合に葛根湯に黄連・黄芩を加えると、さらによく効くようである。黄連中のアルカロイドであるベルベリンは強い抗菌作用のあるものである。
〔三〕 高血圧症
また、高血圧症の場合に、肩の凝りや頭痛を目標として本方を用いることがある。高血圧症の一部には、末梢血管の収縮による抵抗増大によって起こるものがあり、その場合、血管の収縮を緩める薬物を含む葛根湯を用いることは理に叶ったことであるが、特に頭痛や肩こりのように、カゼの初期の太陽病の症状と似た状態の場合に用いて効果があるのは、病的反応を起こしている生体を正常にもどすことにより、血圧を下げるからである。したがって葛根湯による治療は、世上の単なる血圧降下剤によるものとは趣が異なっているのである。この高血圧症の場合も、しばしば便秘がちであるので、大黄または芒硝を加えた方がよいことがある。或る高血圧症の患者は、カゼの始めに与えた葛根湯の粒剤で、体の調子もよく、ことに熟睡できて朝の起床時の気分が爽快になることを発見し、あたかも睡眠薬のように愛用していた。
〔四〕 酒の酔い、試験勉強に
また、酒に酔って肩や項の強く凝る人に葛根湯が効くということを、酒をたしなむ人々は、ちょっと覚えておくとよいだろう。それから、これは最初は患者自身の見出した応用であるが、試験勉強をする学生が、夜更かししても、葛根湯の粒剤を飲んでおくと頭が疲れないということで、試験の時期になると葛根湯を貰いにくる、というようなこともある。
〔五〕 皮膚疾患への応用
次に大切なことは皮膚疾患への応用である。和田正系先生の話によると、大概の皮膚病に応用して効果が挙がるということである。その理由は、葛根湯の発表作用によるものと考えられる。だから、蕁麻疹の初期、発赤、腫脹、掻痒のある場合にも、よく効く。なお湿疹のうち特に治療効果があるのは、いわゆる胎毒という種類のもので、頭瘡を主とするいわゆる「くさ」である。吐乳を伴う場合には、半夏を加え、便秘のある場合には大黄を加え、また荊芥を加えてもよい。
皮膚病のうち、湿疹はアトピー性体質の疾患の一つと考えられるが、一般的に漢方は、その体質を改善しつつ治療する優秀性がある。
〔六〕 肩こり、その他の肩の筋痛
肩こりに対しては、もちろん有力な薬方である。浅田宗伯の『勿誤薬室方函口訣』にもあるように、積年の肩背凝結があって、その痛みがときどき心下に刺し込むものに、本方で一汗かかせると忘れるようになくなった、というほどの卓効を現わすことがある。
寝ちがいと俗称される状態や肩の筋痛の場合にも葛根湯が応用されるが、これに地黄・独活を加えて用い、それを独活葛根湯と称する。この方は産後の柔中風という手足の運動の麻痺を来たしたものにもよい。
葛根湯に蒼朮・附子を加えると、頑固な三叉神経痛や肩臂の神経痛(五十肩)、むちうち損傷、リウマチ様疼痛にもよく効く。
頸筋は腰とともに力学的負担の多いところで、神経反射的にも種々の臓器の反射が筋の凝りとなって現われやすいところであり、筋の凝りが二次的にもまた種々の障害を起こすものである。筋の硬直が血行障害を起こすためか、眩暈などをよく伴い、しばしば本方に真武湯(第八講詳述)の合方、すなわち葛根湯加茯苓白朮附子のゆく状態が現われる。
〔症例 1〕 左三叉神経痛(女子)
一昨年、左の頬にひどい三叉神経痛が起きた。医者は歯からきているのだと言って、歯を次から次と全部抜いてしまったが、一向によくならなかった。それでも口腔内や歯齦、顔面など各所に注射をしてもらっているうちに、いつとはなく治ってしまった。
今度の病気は、昨年秋からのことだが、前回同様の左三叉神経痛で、痛みは前回以上に激しかった。きれいな唾液が絶えず口の中で滾々と湧くが、痛みのために口も動かせず、呑み込むことも吐くこともできない。
現在、或る神経痛専門の医者にいろいろと親切に治療してもらっているが、いまだにあまり好転しない。この頃では、頭も痛むし、口唇にちょっとさわっても電気にでも触れたようにひどく痛む。口は少ししか開かないので、話すことも思うにまかせないし、食事もただ液状のものだけで、固形物は噛むことも飲み込むこともできない。また、このようになってから、両肩、ことに左がひどく凝るという。
病人は、皮膚、顔面とも蒼白く艶のない水太りの感じである。脈は沈み気味の小さい弦緊数で、ことに右関上の脈が弱い(脾虚の脈)。右脾兪に圧痛がある。舌は厚い白苔があり、よく湿っている。腹は、診るといつも痛い痛いと騒ぎ、ことに横臥させると痛みは強くなり、ゆっくり腹診もできない。たた腹壁はやや脂肪と水で膨満し、左下腹部の隅の皮膚がひどく過敏である。小腹急結(桃核承気湯証の腹候)とみた。
そこで手早く、左頬車、左右の列欠などに置針、右脾兪に皮内置針、厥陰兪(両側)に灸を施した。痛みは直ちにやや軽快した。
そして、葛根湯加蒼朮附子(葛根四・五 麻黄二・五 桂枝三・〇 芍薬四・七 甘草二・〇 大棗三・〇 生姜四片 蒼朮五・五 附子一・〇各g)(以上、一日量)を煎剤として与えた。
二日後、やや好転の兆しが出る。薬が効いたのか、針灸が効いたのか明らかではないが、灸をもう少し、両側の陽陵泉、臨泣、胆兪へも増してみた。ところが、かえって悪化してきた。すなわち針灸による刺激が多過ぎたにちがいない。
同じく葛根湯加蒼朮附子を分量比を少し変えて(蒼朮八・二五 附子一・五 生姜五片 葛根七・〇 麻黄四・〇 桂枝五・〇 芍薬七・〇 甘草一・五 大棗四・五各g)を一日量として二週間分を与えておいた。
その後、東京からひどく喜びの電父がかかった。さしもの激しい三叉神経痛も、あれ以来漸次鎮静して、この頃ではほとんど普通に食事も話もできるようになった。しかし、時にちょっとした拍子にピリリと痛むことがあるとのことである。そこで前方三週間分送ったが、再び、私が東京で診たときは、九分通り以上によくなっていた。そして次の一ヵ月後は忘れてしまったように治っていた。(東京診療所にて)
〔症例 2〕 右三叉神経痛(女子)
数年前、右頬や軟口蓋、口唇などが痛み、それが頭の方へも放散したことがあった。その後、こんな神経痛が一年に数回起こるのだが、そのつど注射で治る。こんなことで三年前に上の歯を全部抜いてしまったのだが、その後しばらくは痛まなかった。ところが、今年の二月頃、例の痛みが起こり始め、話をしても、上を向いても寝ても痛む。今度はいろいろと注射をしてもらうのだが、少しもよくならず、近頃ひどくやせてきた。
特徴は、肩がひどく凝ること、食欲はあり、大便は一日一回。睡眠はよい。中背で少し太り気味で、両頬に細絡がつよいので(とくに右側)一見赭ら顔のようである。
脈―沈・小・弦・数、按じて弱。
舌―右奥のところどころに帯黄白色の厚い苔がある。やや湿り気味。
腹―小腹急結の腹候があるほか、特記すべきことはない。
両肩で僧帽筋の上部広範に高度の筋肉の攣急がある。
よって葛根湯加蒼朮附子乳香(葛根七・〇 麻黄四・〇 桂枝五・〇 芍薬七・〇 甘草一・五 大棗四・五 生姜五片 蒼朮八・五 附子一・五 乳香一・六各g)(一日量として一日三回)。桃核承気湯の粒剤一・〇g(一日一回)を兼用として与えた。
一ヵ月後、たいへんよくなり、痛みも止んだ。その翌年六月末に来たとき、「あれから一ヵ年間は全く痛まなかったが、この二〇日ほど前から、右側の上下の歯齦が歯もないのに痛みはじめ、前回同様ひどく肩が凝る。しかし、痛みの程度は前回よりはるかに軽いとのこと。再び前方を与えると数週を出ずして治った。
しさき、その後も前回に懲りて続いて服薬していた。
*
麻疹の初期に発疹を促すために升麻葛根湯を用いるが、単に葛根湯に升麻を加えても充分効くものである。
耳・目・鼻の病にも葛根湯がよく効く。要するに肩より上の諸病に本方が応用されることが多いことになる。
〔症例 3〕 葛根湯の発表作用を現わす好例
体は大きく一見栄養がよいようだが、顔色はさえず、漢方で言う水毒性で、アトピー体質でもある。幼時より腸が弱い。常に肩こり、疲労感があり、乳腺炎を患って十味敗毒湯で治療し、蛋白尿、浮腫を来たし、九味檳榔湯合五苓散で治し、以後、十全大補湯で充分元気になってきたのであるが、今度は耳に掻痒を伴う皮膚炎を来たし、ペニシリンを飲んだが、全身に蕁麻疹が強く出て、浮腫と倦怠感を来たした。耳朶から外耳道にかけて漿液性の分泌物が多く、カサブタがつき、難聴があり、且つ肩こりが強いという。荊防敗毒散を与えたところ、一週間で分泌物はなくなってきたが、耳がつまった感じがして肩こりが強いので、葛根湯加荊芥連翹大黄を与えた。そうすると一週間後に来て、体の調子は大変よくなったが、皮膚炎の分泌物がまた出てきたと訴えた。そこで荊防敗毒散に戻してよくなったのであるが、この症例は、葛根湯の発表作用により、分泌増加となって現われたことを示すと同時に、葛根湯証は確かにあり、事実、全身的に気持は非常によくなったのに、局所の悪化を来たしたわけで、漢方治療にも全体と局所の分離があること、証による医学と感うが、局所の状態も考えねばならぬことを教えるものである。
以上は、葛根湯応用の一断面について述べたに過ぎないが、要するに太陽病の葛根湯証の病態が現われているときは、慢性病と雖も、またその病名の如何にかかわらず、応用して効果のあることがわかるであろう。
すなわち、仲景によって唱えられた急性病の経過中に現われる病態の詳細は研究、そしてそれに対しての対策があれば、諸病の治療の目的の一半は達成されるという傷寒論医学の思想は、この葛根湯の運用の一例においても理解されることと思う。
【脚注】
○自下利―服薬によらず、自然に下痢すること。
消化管粘膜と鼻の粘膜とは密接な関係がある。
○兼方(兼用)―主となる薬方は主方と言い、これに兼ねて補助的に用いる薬方を兼方と言う。
○裏急後重―俗に言う「しぶり腹」のこと。腸炎や赤痢などの疾患で、炎症性の刺激があるとき、疼痛を伴う頻回の便意を催すが、肛門筋肉の痙攣によって排泄は困難となり、排便はほとんど行なわれない状態を言う。現代医学の正式の名称はテネスムス(Tenesmus)である。
○和田正系(一九〇〇~一九七九)―明治33年和田啓十郎の長男として長野県に生れ、千葉医専卒(大正11)、医学博士(昭和8)。以来千葉県富浦町に開業、主として地絹医療に尽して功績を挙げ、千葉医学講師(昭和26)としては医史を講じた。一方玄父の志を継ぎ、学生時代より漢方に志し、奥田謙蔵に師事して、啓蒙期日本漢方の先駆的活動を続け、日本東洋医学会に創立以来参加、昭和30~31年には理事長を勤めたほか昭和41年には中国より初の日本漢方界代表として招聘され日中医学交流に尽した。著作には『漢方医学臨床提要』『心身一如』『法然上人の人と宗教』「草堂茶話』「和田啓十郎遺稿集』『医界の鉄椎を巡って』等がある。
○脾兪(ひゆ)―背部、第11第12胸椎棘突起の左右3cmの辺にある経穴(膀胱経)。
○小腹急結―瘀血の腹証の一つで、左側の腸骨窩を指で強く圧すと急迫性の疼痛を訴えることを指し、桃核承気湯を用いる目標とされる。
○頬車(きょうしゃ)―顔面部、下顎骨と耳介下根部との中央、下顎枝の外後線にある経穴(胃経)。
○列欠(れっけつ)―手部、前腕掌側撓側面で手関節横紡の上方4~5cmにある経穴(肺経)。
○厥陰兪(けっちんゆ)―背部、第4・5胸椎棘突起間の左右約3cmにある経穴(膀胱経)
○陽陵泉(ようりょうせん)―足部、腓骨小頭直下の陥凹部にある経穴(胆経)。
○臨泣(りんきゅう)―第4、5中足骨底の中間にある経穴(胆経)。
○胆兪(たんゆ)―肺部、第10・11胸椎棘突起間の左右約3cmにある経穴(膀胱経)
○升麻葛根湯(局方)
葛根・升麻・芍薬・甘草
○十味敗毒湯(華岡)
柴胡・桔梗・防風・川芎・桜皮・茯苓・独活・荊芥・甘草・乾生姜
○九味檳榔湯(浅田家)
檳榔・厚朴・桂枝・橘皮・生姜・大黄・木香・甘草・蘇葉
○十全大補湯(局方)
人参・黄耆・朮・当帰・茯苓・熟地黄・川芎・芍薬・桂枝・甘草
○五苓散(傷寒論)
沢瀉・猪苓・茯苓・朮・桂枝
○荊防敗毒散(回春)
荊芥・防風・羗活・独活・柴胡・前胡・薄荷・連翹・桔梗・枳殻・川芎・金銀花・茯苓・甘草
(コメント)
芍薬の量が一般的な葛根加朮附湯に比べて多い。
桂枝湯と桂枝加芍薬湯との関係にも注意。
蒼朮の量も多い。
【一般用医薬品承認基準】
葛根湯
〔成分・分量〕 葛根4-8、麻黄3-4、大棗3-4、桂皮2-3、芍薬2-3、甘草2、生姜1-1.5
〔用法・用量〕 湯
〔効能・効果〕 体力中等度以上のものの次の諸症: 感冒の初期(汗をかいていないもの)、鼻かぜ、鼻炎、頭痛、肩こり、筋肉痛、手や肩の痛み
【添付文書等に記載すべき事項】
してはいけないこと
(守らないと現在の症状が悪化したり、副作用が起こりやすくなる)
次の人は服用しないこと
生後3ヵ月未満の乳児。
〔生後3ヵ月未満の用法がある製剤に記載すること。〕
相談すること
1.次の人は服用前に医師、薬剤師又は登録販売者に相談すること
(1)医師の治療を受けている人。
(2)妊婦又は妊娠していると思われる人。
(3)体の虚弱な人(体力の衰えている人、体の弱い人)。
(4)胃腸の弱い人。
(5)発汗傾向の著しい人。
(6)高齢者。
〔マオウ又は、1日最大配合量が甘草として1g以上(エキス剤については原生薬に換
算して1g以上)含有する製剤に記載すること。〕
(7)今までに薬などにより発疹・発赤、かゆみ等を起こしたことがある人。
(8)次の症状のある人。
むくみ1)、排尿困難2)
〔1)は、1日最大配合量が甘草として1g以上(エキス剤については原生薬に換算して1g以上)含有する製剤に記載すること。2)は、マオウを含有する製剤に記載すること。〕
(9)次の診断を受けた人。
高血圧1)2)、心臓病1)2)、腎臓病1)2)、甲状腺機能障害2)
〔1)は、1日最大配合量が甘草として1g以上(エキス剤については原生薬に換算して1g以上)含有する製剤に記載すること。2)は、マオウを含有する製剤に記載すること。〕
2.服用後、次の症状があらわれた場合は副作用の可能性があるので、直ちに服用を中止し、この文書を持って医師、薬剤師又は登録販売者に相談すること
関係部位
症 状
皮 膚
発疹・発赤、かゆみ
消化器
吐き気、食欲不振、胃部不快感
まれに下記の重篤な症状が起こることがある。その場合は直ちに医師の診療を受けること。
症状の名称
症 状
偽アルドステロン症、ミオパチー1)
手足のだるさ、しびれ、つっぱり感やこわばりに加えて、脱力感、筋肉痛があらわれ、徐々に強くなる。
肝機能障害
発熱、かゆみ、発疹、黄疸(皮膚や白目が黄色くなる)、褐色尿、全身のだるさ、食欲不振等があらわれる。
〔1)は、1日最大配合量が甘草として1g以上(エキス剤については原生薬に換算して1g以上)含有する製剤に記載すること。〕
3.1ヵ月位(感冒の初期、鼻かぜ、頭痛に服用する場合には5~6回)服用しても症状がよくならない場合は服用を中止し、この文書を持って医師、薬剤師又は登録販売者に相談すること
4.長期連用する場合には、医師、薬剤師又は登録販売者に相談すること
〔1日最大配合量が甘草として1g以上(エキス剤については原生薬に換算して1g以上)含有する製剤に記載すること。〕
〔用法及び用量に関連する注意として、用法及び用量の項目に続けて以下を記載すること。〕
(1)小児に服用させる場合には、保護者の指導監督のもとに服用させること。
〔小児の用法及び用量がある場合に記載すること。〕
(2)〔小児の用法がある場合、剤形により、次に該当する場合には、そのいずれかを記載すること。〕
1)3歳以上の幼児に服用させる場合には、薬剤がのどにつかえることのないよう、よく注意すること。
〔5歳未満の幼児の用法がある錠剤・丸剤の場合に記載すること。〕
2)幼児に服用させる場合には、薬剤がのどにつかえることのないよう、よく注意すること。
〔3歳未満の用法及び用量を有する丸剤の場合に記載すること。〕
3)1歳未満の乳児には、医師の診療を受けさせることを優先し、やむを得ない場合にの
み服用させること。
〔カプセル剤及び錠剤・丸剤以外の製剤の場合に記載すること。なお、生後3ヵ月未満の用法がある製剤の場合、「生後3ヵ月未満の乳児」をしてはいけないことに記載し、用法及び用量欄には記載しないこと。〕
保管及び取扱い上の注意
(1)直射日光の当たらない(湿気の少ない)涼しい所に(密栓して)保管すること。
〔( )内は必要とする場合に記載すること。〕
(2)小児の手の届かない所に保管すること。
(3)他の容器に入れ替えないこと。(誤用の原因になったり品質が変わる。)
〔容器等の個々に至適表示がなされていて、誤用のおそれのない場合には記載しなくてもよい。〕
【外部の容器又は外部の被包に記載すべき事項】
注意
1.次の人は服用しないこと
生後3ヵ月未満の乳児。
〔生後3ヵ月未満の用法がある製剤に記載すること。〕
2.次の人は服用前に医師、薬剤師又は登録販売者に相談すること
(1)医師の治療を受けている人。
(2)妊婦又は妊娠していると思われる人。
(3)体の虚弱な人(体力の衰えている人、体の弱い人)。
(4)胃腸の弱い人。
(5)発汗傾向の著しい人。
(6)高齢者。
〔マオウ又は、1日最大配合量が甘草として1g以上(エキス剤については原生薬に換算して1g以上)含有する製剤に記載すること。〕
(7)今までに薬などにより発疹・発赤、かゆみ等を起こしたことがある人。
(8)次の症状のある人。
むくみ1)、排尿困難2)
〔1)は、1日最大配合量が甘草として1g以上(エキス剤については原生薬に換算して1g以上)含有する製剤に記載すること。2)は、マオウを含有する製剤に記載すること。〕
(9)次の診断を受けた人。
高血圧1)2)、心臓病1)2)、腎臓病1)2)、甲状腺機能障害2)
〔1)は、1日最大配合量が甘草として1g以上(エキス剤については原生薬に換算して1g以上)含有する製剤に記載すること。2)は、マオウを含有する製剤に記載すること。〕
2´.服用が適さない場合があるので、服用前に医師、薬剤師又は登録販売者に相談すること
〔2.の項目の記載に際し、十分な記載スペースがない場合には2´.を記載すること。〕
3.服用に際しては、説明文書をよく読むこと
4.直射日光の当たらない(湿気の少ない)涼しい所に(密栓して)保管すること
〔( )内は必要とする場合に記載すること。〕
【関連情報】
インフルエンザの漢方治療
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インフルエンザと普通の風邪との違い
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9.葛根湯 傷寒論
葛根8.0 麻黄4.0 生姜4.0(乾1.0) 大棗4.0 桂枝3.0 芍薬3.0 甘草2.0
(傷寒論)
○太陽病,項背強几几,無汗悪風,本方主之。(太陽中)
○太陽与陽明合病者,必自下利,本方主之。(太陽中)
(金匱要略)
○太陽病,無汗而小便反少,気上衝胸,口噤不得語,欲作剛痙,本方主之。(痙)
〈現代漢方治療の指針〉 薬学の友社
頭痛,発熱悪寒して自然発汗がなく,項,肩,背などがこるもの。慢性の歯痛,鼻づまり,蓄膿症,肩こり,神経痛などには発熱,悪寒がなくても用いる。本方は急性の感冒薬としてよく用いられ,アスピリンの如き解熱作用を有するが,胃腸障害はほとんどなく,また各種急性疾患(例えば急性大腸カタル,赤痢など)初期で,発熱悪寒症状を現わす時,身体の疾病防衛力を強めるのでしばしば利用される一方,葛根,芍薬の働きを利用して,慢性の肩こりなどにも常用される。なお,感冒の頓服用には就寝前1.5ないし2.0グラムを温湯0.1リットルで服用させると,発汗して解熱する。また五苓散と併用すれば発汗作用は一層増強される。炎症疾患で化膿している場合は桔梗,石膏1回0.3グラムを加えること。
本方は盗汗を含む自然発汗がある症状には使用してはならない。このような症状の感冒には柴胡桂枝湯,柴胡桂枝干姜湯などを考慮すべきである。感冒の場合,高熱を伴って身体痛や関節痛が激しい時は,本方より麻黄湯の方が適当である。本方服用後極端な食欲不振,胃痛,のぼせ,不眠などを訴える場合は不適であるから,柴胡桂枝湯,小柴胡湯,補中益気湯,香蘇散などで治療すればよい。なお慢性疾患に使用する場合,虚弱体質には不適であるが,短期間なれば本方と小柴胡湯と合方すれば投与出来る。
〈漢方処方解説シリーズ〉 今西伊一郎先生
本方は急性熱性病に対して発汗解熱作用を発揮し,熱性病初期の疾病防衛力を強めるので,次のポイントを参考に応用すればよい。
(1)感冒 右記の初期症状に頓服的に服用させると発汗して解熱する。本方が適応するものは平素健康なもの,筋肉の発達したものなどに多い。
(2)麻疹 前駆期,発疹期で発熱,頭痛,悪寒などの症状を対象に用いられる。
(3)腸カタル 前記感冒や麻疹などの熱性疾患に続発する急性腸カタル,その他細菌性の急性腸カタルで,発熱悪寒,下痢,腹痛などの症候のあるものによい。
(4)中耳炎,蓄膿症,扁桃腺炎 急性の初期症状を目標に用いられているが,この場合発熱,悪寒するものと局所に熱が局限するものの両者によいが,特に局所の炎症が激しく,痛みや化膿の傾向あるものには,本方に桔梗,石膏を加えると,さらに治療効果を促進する。
(5)癰癤 発赤,腫脹,疼痛が激しく発熱,悪寒または頭痛などを伴うものに応用すると,消炎,鎮痛の効をを発揮する。化膿の傾向あるものは前項(4)に準じる今:
(6)神経痛,リウマチ 本方は主として上半身の炎症や発熱によく用いられるが,神経系疾患も偏頭痛,三叉神経痛,腕神経痛など上半身の痛みを対象にする。
(7)肩こり 発熱時の肩こり,慢性の肩こりを治す内服薬として,その効果からも重宝されている。
〈漢方診療30年〉 大塚 敬節先生
○くびから背にかけてこるのが葛根湯を用いる目標である。風邪をひいたときでも、この症状がなければ葛根湯は用いない。こんな症状があって頭痛とさむけと熱があり,脈が浮で力があり,汗が自然に出ないようならば、この方を用いてよい。
○葛根湯は破傷風のような症状のものに,古人は用いている。また大腸炎や赤痢の初期に用いる。この場合には,さむけを伴う熱としぶり腹の下痢があり,脈は浮で力がある。もし脈が弱ければ桂枝加芍薬湯を用いる。葛根湯で発汗すれば,頓挫的に病状が軽快する。もしその後なお腹痛下痢がつづくようなら,黄芩湯,大柴胡湯,芍薬湯などが用いられる。
○以上のほか葛根湯は湿疹,癤,神経痛,結膜炎,肩こりなどにも用いられる。
○江戸時代の人が「横なで」の症といって,小児が舌をペラペラと出して口のまわりをなめまわすような状態があれば,これを用いると効くと村井琴山は言っている。私もこれにヒントを得て試用したが三週間ほどで全快した。
〈漢方処方応用の実際〉 山田 光胤先生
○脈が浮で力持;あり,自汗がなく,悪寒,発熱,頭痛がして,くびすじや背中がこわばるもの。これを項背強急という。これはまた,体温上昇がないときにも用いられる。
○脈が浮で力があり,自汗がなく,悪寒,発熱して下痢するもの。このとき尿量が減少す識ことがある。熱のあるときの葛根湯証の脈は浮数で力があるものである。
○体表の炎症や化膿の初期で,発熱して痛み,まだ発赤,腫脹のはっきりあらわれないものによい。四肢の痛みの軽いものによい。
〈漢方診療の実際〉 大塚,矢数,清水 三先生
本方は感冒薬として知られているが,感冒の如何なる時期,如何なる症状に対して用いるべきかを知る者は少い。本方を感冒に応用するには太陽病で次の症候複合のあるものを目標とする。即ち悪寒,発熱,脈は浮いて触れ易く緊張し,項部,肩背部の緊張感等のある者である。この場合の悪寒は何時も身体がゾクゾクと寒気を覚えるものを指す。彼の時間を限って悪寒が来り,また去る者と区別しなければならない。葛根湯は感冒薬であっても前述の症候複合を現わさない場合には適当しない。これに反して感冒でなくても前述の症候複合を現わす場合は葛根湯の指示となる。これによって本方は次の諸疾患に応用される。
(1)結膜炎や赤痢の初期で悪寒,発熱して浮緊の脈を現わすことがある。その場合に本方を用いると悪寒が去り同時に下痢や裏急後重も緩解する。
(2)葛根湯には項背部の緊張感を治する効がある。これに関連して能く上半身の炎症を軽快させる。故に眼,耳,鼻の炎症,即ち結膜炎,角膜炎,中耳炎,蓄膿症,鼻炎等に屡々応用される。この場合は悪寒,発熱は必ずしも重要ではない。脈状は参考とする必要がある。
(3)その他肩凝り,肩甲部の神経痛,化膿性炎の初期,蕁麻疹等に応用される。本方は胃腸虚弱者に用いると,時に嘔心・食欲不振を来すことがある。本方の組立てを考えるに,桂枝湯に麻黄と葛根が加味されたものである。麻黄の加味によって本方は桂枝湯よりは血管を拡張し,血行を盛んにし,発汗させる力が強い。葛根は項背部の緊張感を緩める効がある。
〈漢方入門講座〉 竜野 一雄先生
運用 1. 発熱,悪寒あるいは悪風,僧帽筋の範囲における筋肉緊張,脉浮数緊を目標にする。これは傷寒論太陽病中篇
「太陽病,項背強ること几々汗無く悪風するもの」に基ずくもので,太陽病は体表に熱のある状態をさし,発熱症状を伴い,項背部が緊張するとはだいたいにおいて僧帽筋の範囲だが,後頭部に及ぶこともあり,頭痛としてあらわれることもあり,項や肩のこともある。たいてい自覚的にも化覚的にも之を認める。肩胛骨間腔に緊張がおよぶことは割合に少なく,腰まで及ぶことはない。もし腰まで及んで痛むようなら麻黄湯の適応証になる。悪風は風にあたると気持が悪い感じで,知覚過敏を示す。しかし臨床的には悪寒であってもかまわない。以上の条件があれば,感冒,流感,気管支炎,はしか,闘争,脳膜炎,リンパ腺炎,扁桃腺炎,丹毒,猩紅熱,その他の急性伝染性熱病のほとんどすべての場合に葛根湯は使用される。但し,使用し得る時期は発病後1~2日ぐらいのことが多い。それ以後でも前記適応症さえ具えていればもちろん使ってよい。(後略)
運用 2. 熱がなくて項背部緊張によって使う場合。
この場合は脉は浮緊が原則だが,浮はさほど著明でなくただ緊だけのこともある。しかし沈ではなく,沈だと効かない。項背強が著明に自覚されているときと,そうでなく,他の主訴が強調される余り,項背強は,こちらから糺さねばならぬときがあるから注意を要する。この用法に従うのは肩こり,四十肩,歯痛,蓄膿症(但しあまり慢性になっているものは原方だけでは奏効し難いから濃い膿には桔梗3.0を加え,のぼせて便秘するものには川芎3.0,大黄2.0を加える) 中耳炎(蓄膿症と同様)などである。(中略)
運用 3. 項背と限らず,身体のとこでもかまわないが,主に上半身における限局性の化膿性浸潤に使う。その場合目標になるのは,やはり運用1.2.の所見である。すなわち発熱,悪寒,頭痛などの症状を伴い脉浮数緊であるか,あるいは発熱症状がなくとも,脉浮緊であるかによる。発疹は赤味が腫脹は硬い。たとえば皮膚炎,急性湿疹,ジンマ疹などの皮膚病で分泌物がないか(無汗とみる)あるいは極く僅少で痂皮又は浸潤が著明のもの(しこりとみる)。
皮下膿瘍,筋炎,蜂窩織炎,リンパ腺炎,リンパ管炎,面疔,背癰など。(中略)
運用 4. 発熱して悪寒あるいは頭痛し,且つ下痢するものに使う。この場合の下痢は裏急後重することが多い。従って急性大腸カタルや赤痢の発病の初期に使う。たいてい1日か2日で治ってしまう。脉はやはり浮数緊である。この使い方は傷寒論太陽病中篇の「太陽と陽明の合病は必ず自下痢す。」に基ずいたものである。太陽病は前記の通り表熱の状態,陽明病は裏熱の状態で,消化器が熱実して腹満便秘あるいは下痢を起す。表と裏との状態が同時にあれば,先表後裏の法則で先ず葛根湯の如き発表剤を使うことになっている。それで表証も裏証も一ぺんにとれて治るのだが普通だが,もし表証だけはとれたが裏証が残ったとすれば,その時はじめて下剤を使うことにする。
〈漢方処方解説〉 矢数 道明先生
陽実証の体質のものが感冒その他の熱性病にかかり,いわゆる太陽病を発して,悪寒,発熱,項部および肩背部に炎症充血症状が起こって緊張感があり,脈は浮んで力がある。このような一連の症候複合を呈したときに用いる。またこれらの適応症から転じて種々の無熱性の難病にも広く応用される。
〈勿誤方函口訣〉 浅田 宗伯先生
此方外感の項背強急に用ることは五尺の童子も知ることなれども,古方の妙用種々ありて,思議すべからず。譬えば,積年肩背に凝結ありて,其の痛み時々心下にさしこむ者,此方にて一汗すれば忘るるが如し。又独活,地黄を加えて産後柔中風(偏側麻痺)を治し,又蒼朮,附子を加えて肩痛臂痛(50肩,40腕)を治し,川芎大黄を加えて脳漏(上顎洞炎)及び眼耳痛を治し,荊芥大黄を加えて疳瘡,梅毒を治すが如き,其効僂指(指おりかぞえる)しがたし。宛も論中合病下利に用い,痙病に用いるが如し。
『漢方診療の實際』 大塚敬節・矢数道明・清水藤太郎著 南山堂刊
葛根湯
本方は感冒薬として知られているが、感冒の如何なる 時期、如何なる症状に対して用いるべきかを知る者は少い。本方を感冒に応用するには、太陽病で次の症候複合のあるものを目標とする。即ち、悪寒・肩背部の 緊張感等のある者である。この場合の悪寒は何時も身体がゾクゾクと寒気を覚えるものを指す。彼の時間を限って悪寒が来り、また去る者と区別しなければなら ない。葛根湯は感冒薬であっても前述の症候複合を現わさない場合には適当しない。これに反して感冒でなくても前述の症候複合を現わす場合は葛根湯の指示と なる。これによって本方は次の諸疾患に応用される。
(一)結腸炎や赤痢の初期で悪寒・発熱して浮緊の脈を現わすことがある。その場合に本方を用いると悪寒が去り同時に下痢や裏急後重も緩解する。
(二)葛根湯には項背部の緊張感を治する効がある。これに関連して能く上半身の炎症を軽快させる。故に眼・耳・鼻の炎症、即ち結膜炎・角膜炎・中耳炎・蓄膿症・鼻炎等に屡々応用される。この場合は悪寒・発熱は必ずしも重要ではない。脈状は参考とする必要がある。
(三)その他肩凝り、肩甲部の神経痛、化膿性炎の初期、蕁麻疹等に応用される。
本方は胃腸虚弱者に用いると、時に嘔心・食欲不振を来すことがある。
本方の組立てを考えるに、桂枝湯に麻黄と葛根が加味されたものである。麻黄の加味によって本方は桂枝湯よりは血管を拡張し、血行を盛んにし、発汗させる力が強い。葛根は項背部の緊張感を緩める効がある。
『漢方精撰百八方』 日本漢方医学研究所
37.[方名]葛根湯(かっこんとう)
〔出典〕傷寒論
〔処方〕葛根8.0 麻黄、生姜、大棗各4.0 桂枝、芍薬各3.0 甘草2.0
〔目標〕証には、項背強急し、発熱、悪風し、汗無く、或いは喘し、或いは身疼む者とある。即ち発熱、悪風し、項背から頭にかけてこわばり凝り、汗が出ないで、喘し、身体が疼む者に適用する。その他、小便不利、上衝、下痢、口噤等の症の加わることがある。脈は浮、緊、数がふつうである。
〔かんどころ〕悪寒、悪風があって発熱し、背すじから項にかけてこわばり、汗が出ないで脈は浮で力があるものに適用する。筋肉や筋がこわばり、強ければ痛み、更に激しければ痙攣する状態があることを一特徴とする。麻黄湯の身体疼みは関節等疼痛するというので、深く強い。葛根湯の疼みはそれより表在している形である。
〔応用〕漢方薬の代表といってよい薬方であるが、風邪ばかりでなく、実に応用範囲の広い薬方である。熱のある場合は、目標の如き症状を具えているが、熱が無くても、筋肉の強直を目標として用いたり、急性、慢性の化膿性疾患に用いたり、実にさまざまな用途がある。
(1)感冒の初期で、目標に上げた症がある時は、先ずこの方を与えて発汗するのがよい。十分に発汗させないとうまくいかない。汗が出ないで尿が多量に出て解熱する場合もある。
(2)下痢の初期で、悪寒、発熱し、脈浮数のものに適用する。これは「太陽と陽明との合病にして、自下痢する証」に当たる場合であることが多い。流感のある種のものには下痢を伴う場合があるが、葛根湯がよく奏効する。なお、感冒で、葛根湯を用いる場合で、胃の弱いもの、嘔気を伴うものには加半夏湯(半夏6.0)にするがよい。
(3)麻疹、疫痢その他の熱性病の初期で、目標の症のあるもの。
(4)肩背痛のあるもので、脈浮数の者。又、肩、肩甲部の神経痛に用う。加朮附にして用いて効を得ることが多い。
(5)脳膜炎、或いは破傷風の類で、その初期、脈浮数、口噤、筋強直を伴うもの。
(6)歯痛、歯齦腫痛、咽喉腫痛、中耳炎初期の疼痛等に用いる。加石膏にすることがある。
(7)諸種の皮膚病、湿疹、疥癬、蕁麻疹、風疹、湿出性体質の小児等に適用する。局所が赤く腫れ、熱感があるものにはよく奏効する。蕁麻疹には最もよく用いられる。石膏、桔梗、薏苡仁等を加味することが多い。
(8)フルンケル、カルブンケル等の化膿性疾患の初期、発熱、悪寒、腫痛等の前記の目標を具えたもの。桔梗、石膏を加味することが多い。
(9)気管支喘息。感冒等に誘発された喘息発作に用いる。
(10)副鼻腔炎、肥厚性鼻炎、臭鼻症、嗅覚障害等に適用する。副鼻腔炎には、最もよく用いられる薬方の一つで、桔梗、薏苡仁、辛夷、川芎等を加味する場合が多い。なお、葛根加朮附湯、苓朮附湯にして奏効する場合もある。
(11)るいれき等には、証により反鼻を加えて用いる。
(12)眼科疾患では、麦粒腫、眼瞼縁炎、急性結膜炎、急性角膜炎、虹彩炎等、炎症症状を伴うものに頻用される。加味薬は、石膏、桔梗、薏苡仁、反鼻、朮、附子、川芎等である。
伊藤清夫
『漢方薬の実際知識』 東丈夫・村上光太郎著 東洋経済新報社 刊
4 表証
表裏・内外・上中下の項でのべたように、表の部位に表われる症状を表証という。表証では発熱、悪寒、発 汗、無汗、頭痛、身疼痛、項背強痛など の症状を呈する。実証では自然には汗が出ないが、虚証では自然に汗が出ている。したがって、実証には葛根湯(かっこんとう)・麻黄湯(まおうとう)などの 発汗剤を、虚証には桂枝湯(けいしとう)などの止汗剤・解肌剤を用いて、表の変調をととのえる。
2 葛根湯(かっこんとう) (傷寒論、金匱要略)
2 葛根湯(かっこんとう) (傷寒論、金匱要略)
〔葛根(かっこん)八、麻黄(まおう)、生姜(しょうきょう)、大棗(たいそう)各四、桂枝(けいし)、芍薬(しゃくやく)各三、甘草(かんぞう)二〕
本方は、つぎにのべる桂枝湯に葛根、麻黄を加えたもの、また、麻黄湯の杏仁(きょうにん)を去り、葛根、生姜、大棗を加えたものとして考えら れる。本方は、麻黄湯についで実証の薬方であり、太陽病のときに用いられる。本方證では汗が出ることなく、悪寒、発熱、脈浮、項背拘急、痙攣または痙攣性 麻痺などを目標とする。発熱は、全身の発熱ばかりでなく、局所の新しい炎症による充実症状で熱感をともなうものも発熱とすることがある。また、皮膚疾患で 分泌が少なかったり、痂皮を形成するもの、乳汁分泌の少ないものなどは、無汗の症状とされる。本方は特に上半身の疾患に用いられる場合が多いが、裏急後重 (りきゅうこうじゅう、ひんぱんに便意を催し、排便はまれで肛門部の急迫様疼痛に苦しむ状態)の激しい下痢や、食あたりの下痢などのときにも本方證を認め ることがある。本方の応用範囲は広く、種々の疾患の初期に繁用される。
〔応用〕
つぎに示すような疾患に、葛根湯證を呈するものが多い。
一 感冒、気管支炎、気管支喘息その他の呼吸器系疾患。
一 赤痢、チフス、麻疹、痘瘡、猩紅熱その他の急性熱性伝染病。
一 急性大腸炎、腸カタル、腸結核、食あたりその他の胃腸系疾患。
一 五十肩、リウマチその他の運動器系疾患。
一 皮膚炎、湿疹、じん麻疹その他の皮膚疾患。
一 よう、瘭疽などの疾患。
一 蓄膿症、鼻炎、中耳炎、結膜炎、角膜炎その他の眼科、耳鼻科疾患。
一 そのほか、リンパ腺炎、リンパ管炎、小児麻痺、神経痛、高血圧症、丹毒、歯齦腫痛など。
葛根湯の加減方
〔葛根湯に辛夷、川芎各三を加えたもの〕
(2) 葛根湯加桔梗薏苡仁(かっこんとうかききょうよくいにん)
〔葛根湯に桔梗二、薏苡仁八を加えたもの〕
(3) 葛根湯加川芎大黄(かっこんとうかせんきゅうだいおう)
〔葛根湯に川芎三、大黄一を加えたもの〕
(4)葛根湯加桔梗石膏(かっこんとうかききょうせっこう)
〔葛根湯に桔梗二、石膏一○を加えたもの〕
以上四つの加減法は、葛根湯證で頸から上の充血、化膿症を治すもので、蓄膿症、中身炎、咽喉疼痛、眼病一般その他に用いられる。
その中で、辛夷川芎や桔梗薏苡仁の加減は鼻疾患に多く用いられ、桔梗薏苡仁のほうは、特に化膿の激しく、膿汁の多いものに用いられる。川芎大 黄の加減は、炎症が激しく、膿も多く、痛みも強いものである。桔梗石膏の加減は、鼻炎の初期のように炎症によって患部に熱感のあるもので、化膿はそれほど 進んでいない。
(5) 葛根加半夏湯(かっこんかはんげとう)
〔葛根湯に半夏四を加えたもの〕
葛根湯證に嘔吐をかねたものである。
(6) 葛根加朮附湯(かっこんかじゅつぶとう)
〔葛根湯に朮三、附子一を加えたもの〕
葛根湯證で、痛みが激しく、陰証をかねたものに用いられる。したがって、腹痛を伴うことがある。本方は、附子と麻黄、葛根、桂枝などの組み合 わさった薬方であるため、表を温め表の新陳代謝機能を高めるが、本方證には身体の枯燥の状は認められない。特に神経系疾患、皮膚化膿性疾患に、本方證のも のが多い。
『漢方医学十講』 細野史郎著 創元社刊
葛根湯
さて葛根湯は、以上に述べて来た桂枝湯に葛根・麻黄の二味が加わったものであるが、桂枝湯とは明らかにその趣きが異なっており、桂枝湯のように汗腺機能を調整するにとどまらず、発汗作用のあることが考えられる。しかし、その発汗作用は麻黄湯のように激しくはない。したがって臨床にあたって使いやすく、本方でカゼの大方は治すことができる。あまりに使いやすいので、安易に使われ、「カゼには葛根湯」と言われたり、また無批判にこれを用いる医者は「葛根湯医」と言われて嘲笑されたりしたわけであるが、やはり真に治療成績を挙げる然めには葛根湯の用い方を正しく心得ていなければならない。
葛根湯
| 〔傷寒論〕 | 〔細野常用一回量〕 | |||
| 葛根 | Puerariae Radix | 四両 | 3.2g | |
| 麻黄 | Ephedrae Herba | 三両、節を去る | 1.0g | |
| 桂枝 | Cinnamomium Cortex | 二両、皮を去る | 2.0g | |
| 生姜 | Zingiberis Rhizoma | 三両、切る | 0.8g | |
| 甘草 | Glycyrhizae Radix | 二両、炙る | 0.3g | |
| 芍薬 | Paeoniae Radix | 二両 | 3.0g | |
| 大棗 | Zizyphi Fructus | 十二枚、擘く | 5.0g |
右七味。以水一斗。先煮麻黄葛根減二升。去白沫。内諸薬。煮取三升。去滓。温服一升。覆取微似汗。餘如桂枝法。将息及禁忌。諸湯皆倣此。
(右七味、水一斗を以って、先ず麻黄、葛根を煮て、二升を減じ、白沫を去り、諸薬を内れ、似て三升を取り、滓を去り、一升を温服す。覆って微似汗を取る。餘は桂枝の法の如く、将息及び禁忌す。諸湯皆此れに倣う。)
*
構成生薬のうち麻黄以下の六味はすべて述べたので、ここには葛根のみについて解説する。
葛根
マメ科(Leguminosae)のクズPueraria lobata OHWI またはPueraria lobata OHWI Chinensis OHWIの周皮を除いた根を用いる。澱粉を10~15%を含み、またフラボノイド類のdaizin, daidzein,puerarin などを含む。また近年、生体内神経伝達物質であるアセチルコリンを含んでいることが証明された。
葛根の薬能は、『本草備要』では「胃の気を鼓し、上行し、津を生じ渇を止める」「腠を開き、汗を発し、肌を解し、熱を退く。脾胃虚弱、泄瀉を治す聖薬となす」とあり、古来、発表薬として発汗・解熱の作用を有し、また消化器系に働いて鎮痙作用を有し、下痢を止める。また、葛根は特に身体上部の血行をよくする働きがあると思われる。
薬理実験でも解熱作用が認められ、この作用は、皮膚血管を拡張して体表からの熱放出を促進するとともに、呼吸を促進し、肺からの水分受出を増して熱放出を促進することによるようである。
また葛根中には、平滑筋臓器に対して鎮痙または弛緩作用を示す分画と、反対に収縮作用をもつ分画が存在し、前者はフラボノイド類、後者はアセチルコリンがその作用成分として認められ仲いる。この版うに一つの生薬に相反する作用をもつ成分が存在することは、しばしば見られることである。したがって他の生薬と組み合わさって、一方の作用が増強され、他方が減弱されるなどにより、薬方によって多方面の作用が発現してくるものと思われる。
また近年、中国では、葛根のフラボノイドの循環器系に対する作用に注目し、薬理実験と臨床検討を並行して行なっている。まず動物実験においてフラボノイドは、血圧の安定化、脳内血流増加、冠状動脈血流増加、血管抵抗の減少、心筋酸素消費量の減少などの作用が認められ、また実験的に作った狭心症および心筋梗塞モデルに対しても有効性を認めている。この薬理結果にもとづき、葛根の製剤を臨床に応用した結果、狭心症、心筋梗塞などに一定の効果を認めている。
また、葛根は昔から胃熱をとるものと考えられていて、飲酒などによって起こったような急性胃炎の症状を治す作用がある。
*
麻黄が入っていることは、桂枝と協力して発汗性を強めることを示している。したがって『傷寒論』では「太陽病。項背強几几。無汗悪風。葛根湯主之。」と言い、太陽病の状態で、背中、首筋が激しく強ばり、悪風発熱があるが、汗が全く出ないときには、葛根湯をもって治すことができることを示しているのである。脈状の記載がないが、言うまでもなく脈は浮であり、数であり、かつ緊の性質を帯びることが多いわけである。
一般に、カゼ気味で、肩が凝り、頭が痛く、寒気がして、汗の出ていないときは、これを一服のむと発病に至らず、簡単に治るものである。それでも気分のよくならぬときは、一~二時間おいて、さらに一服飲むとよく効くものである。
『傷寒論』の条文に「太陽与陽明合病。不下利。但嘔者。葛根加半夏湯主之。」(太陽と陽明の合病、下痢せず、ただ嘔する者は、葛根加半夏湯之を主る。)とあるように、太陽病の時期で、同時に陽明病の症状があり、嘔気を催すときは半夏を加える。またカゼで扁桃炎を伴うときなどにも、この加味方がよく効く。
また「太陽与陽明合病者。必自下利。葛根湯主之。」(太陽と陽明の合病は必ず自下利す、葛根湯之を主る。)とあって、消化器障害、ことに下痢を伴うカゼにも葛根湯はよく効く。『傷寒論』では、太陽・陽明の合病で下痢する場合は葛根湯が主方であると言っている。
*
ついでにここで、脈の「浮」「緊」について少しく考えておくことにしよう。血管壁の一部は平滑筋より成っているが、平滑筋は骨格筋と同じように緊張していると考えられ、これらの筋肉の緊張度はまたその個体の活力を或る程度あらわす。皮膚にある汗腺もまた、血流の状態によって、発汗能に影響を及ぼす。つまり、脈緊の状態は、血管壁の緊張度の高まっているときであり、そのときは発汗能も低下していると考えられる。故に、葛根湯はこの緊張を緩めることになるのである。しかし、桂枝湯の脈である「浮緩」のように、血管壁の緊張度が低下している状態では、葛根湯よりも前述の桂枝加葛根湯を用いるのがよい。もしも桂枝湯証のような虚脈の人に葛根湯を用いると、ちょうど虚弱者にアスピリンを使ったときのように、汗が漏れて止まない状態に陥り、桂枝加附子湯の出馬を仰がねばならない状態に至ることもある。
葛根湯の臨床応用
以上の葛根湯の症状中、最も大切で特異な点は、後頭部、項、肩、背中の強ばりである。そしてこの主症状を目標に、急性の太陽病だけではなく、慢性疾患にも応用することができる。
〔一〕 副鼻腔炎、蓄膿症
慢性病の中で葛根湯を応用し得る疾患としては、まず副鼻腔炎、蓄膿症がある。
蓄膿症がある場合には、しばしば肩が凝り、後頭部が重く感じられたり痛んだりする。すなわち葛根湯の病状とよく似た状態を呈する。このようなときは、葛根湯だけでもよいが、頭痛のある者には川芎を加え、便通を整える意味でさらに大黄を加えることがある。消化管粘膜と鼻の粘膜とが密接な関係にあることは、臨床上しばしば経験するところで、過食や飲酒によって鼻閉を起こすことからも想像される。
したがって漢方で胃の熱をとると言われている葛根に、消化管内の毒性の消化残滓を瀉下して除く大黄を加えることは、副鼻腔炎にも好影響を及ぼすことになる。さらに一層よく効かすには、鼻の特効のある辛夷を加える。また、鼻汁が膿状となり治りにくいときは薏苡仁を加える。葛根湯で蓄膿症を治療しているうちに、皮膚の色が白くなって喜ばれたことが時にあるが、これも心の隅に覚えておいてよいことである。
〔二〕 脳炎や痙攣性の疾患
次に後業部の凝りを来たす疾患として慢性蜘蛛膜炎や脳炎などの初期にも応用される。私は、かつて、高熱を発し、激しい頭痛、悪心のある小児で脳膜炎を疑われるものに、葛根加半夏湯を与え、烏梅丸を兼方として用いたところ、服薬一貼で頭痛、発熱の大半がとれ、二貼で蛔虫を吐き出して解熱し、脳炎様症状も跡かたもなく消失した、という面白い治験例をもっている。
このように、葛根湯は脳炎様症状にも用いられるが、『金匱要略』の「痙湿暍病篇」に協、これが痙病すなわち破傷風や狂犬病などのような痙攣性疾患に用いられる機会のあることを述べている。
また赤痢や大腸炎の初期に応用する機会があり、その初期に、太陽病、陽明病の合病の状態で、裏急後重を伴う粘液や膿血便が頻回に排泄されるときに、葛根湯を与えると、軽く発汗したと思うまもなく、今まで一〇~三〇分間隔にあった便意も去り、膿血便もいちじるしく軽減していく。この場合に葛根湯に黄連・黄芩を加えると、さらによく効くようである。黄連中のアルカロイドであるベルベリンは強い抗菌作用のあるものである。
〔三〕 高血圧症
また、高血圧症の場合に、肩の凝りや頭痛を目標として本方を用いることがある。高血圧症の一部には、末梢血管の収縮による抵抗増大によって起こるものがあり、その場合、血管の収縮を緩める薬物を含む葛根湯を用いることは理に叶ったことであるが、特に頭痛や肩こりのように、カゼの初期の太陽病の症状と似た状態の場合に用いて効果があるのは、病的反応を起こしている生体を正常にもどすことにより、血圧を下げるからである。したがって葛根湯による治療は、世上の単なる血圧降下剤によるものとは趣が異なっているのである。この高血圧症の場合も、しばしば便秘がちであるので、大黄または芒硝を加えた方がよいことがある。或る高血圧症の患者は、カゼの始めに与えた葛根湯の粒剤で、体の調子もよく、ことに熟睡できて朝の起床時の気分が爽快になることを発見し、あたかも睡眠薬のように愛用していた。
〔四〕 酒の酔い、試験勉強に
また、酒に酔って肩や項の強く凝る人に葛根湯が効くということを、酒をたしなむ人々は、ちょっと覚えておくとよいだろう。それから、これは最初は患者自身の見出した応用であるが、試験勉強をする学生が、夜更かししても、葛根湯の粒剤を飲んでおくと頭が疲れないということで、試験の時期になると葛根湯を貰いにくる、というようなこともある。
〔五〕 皮膚疾患への応用
次に大切なことは皮膚疾患への応用である。和田正系先生の話によると、大概の皮膚病に応用して効果が挙がるということである。その理由は、葛根湯の発表作用によるものと考えられる。だから、蕁麻疹の初期、発赤、腫脹、掻痒のある場合にも、よく効く。なお湿疹のうち特に治療効果があるのは、いわゆる胎毒という種類のもので、頭瘡を主とするいわゆる「くさ」である。吐乳を伴う場合には、半夏を加え、便秘のある場合には大黄を加え、また荊芥を加えてもよい。
皮膚病のうち、湿疹はアトピー性体質の疾患の一つと考えられるが、一般的に漢方は、その体質を改善しつつ治療する優秀性がある。
〔六〕 肩こり、その他の肩の筋痛
肩こりに対しては、もちろん有力な薬方である。浅田宗伯の『勿誤薬室方函口訣』にもあるように、積年の肩背凝結があって、その痛みがときどき心下に刺し込むものに、本方で一汗かかせると忘れるようになくなった、というほどの卓効を現わすことがある。
寝ちがいと俗称される状態や肩の筋痛の場合にも葛根湯が応用されるが、これに地黄・独活を加えて用い、それを独活葛根湯と称する。この方は産後の柔中風という手足の運動の麻痺を来たしたものにもよい。
葛根湯に蒼朮・附子を加えると、頑固な三叉神経痛や肩臂の神経痛(五十肩)、むちうち損傷、リウマチ様疼痛にもよく効く。
頸筋は腰とともに力学的負担の多いところで、神経反射的にも種々の臓器の反射が筋の凝りとなって現われやすいところであり、筋の凝りが二次的にもまた種々の障害を起こすものである。筋の硬直が血行障害を起こすためか、眩暈などをよく伴い、しばしば本方に真武湯(第八講詳述)の合方、すなわち葛根湯加茯苓白朮附子のゆく状態が現われる。
葛根湯の治験例
〔症例 1〕 左三叉神経痛(女子)
一昨年、左の頬にひどい三叉神経痛が起きた。医者は歯からきているのだと言って、歯を次から次と全部抜いてしまったが、一向によくならなかった。それでも口腔内や歯齦、顔面など各所に注射をしてもらっているうちに、いつとはなく治ってしまった。
今度の病気は、昨年秋からのことだが、前回同様の左三叉神経痛で、痛みは前回以上に激しかった。きれいな唾液が絶えず口の中で滾々と湧くが、痛みのために口も動かせず、呑み込むことも吐くこともできない。
現在、或る神経痛専門の医者にいろいろと親切に治療してもらっているが、いまだにあまり好転しない。この頃では、頭も痛むし、口唇にちょっとさわっても電気にでも触れたようにひどく痛む。口は少ししか開かないので、話すことも思うにまかせないし、食事もただ液状のものだけで、固形物は噛むことも飲み込むこともできない。また、このようになってから、両肩、ことに左がひどく凝るという。
病人は、皮膚、顔面とも蒼白く艶のない水太りの感じである。脈は沈み気味の小さい弦緊数で、ことに右関上の脈が弱い(脾虚の脈)。右脾兪に圧痛がある。舌は厚い白苔があり、よく湿っている。腹は、診るといつも痛い痛いと騒ぎ、ことに横臥させると痛みは強くなり、ゆっくり腹診もできない。たた腹壁はやや脂肪と水で膨満し、左下腹部の隅の皮膚がひどく過敏である。小腹急結(桃核承気湯証の腹候)とみた。
そこで手早く、左頬車、左右の列欠などに置針、右脾兪に皮内置針、厥陰兪(両側)に灸を施した。痛みは直ちにやや軽快した。
そして、葛根湯加蒼朮附子(葛根四・五 麻黄二・五 桂枝三・〇 芍薬四・七 甘草二・〇 大棗三・〇 生姜四片 蒼朮五・五 附子一・〇各g)(以上、一日量)を煎剤として与えた。
二日後、やや好転の兆しが出る。薬が効いたのか、針灸が効いたのか明らかではないが、灸をもう少し、両側の陽陵泉、臨泣、胆兪へも増してみた。ところが、かえって悪化してきた。すなわち針灸による刺激が多過ぎたにちがいない。
同じく葛根湯加蒼朮附子を分量比を少し変えて(蒼朮八・二五 附子一・五 生姜五片 葛根七・〇 麻黄四・〇 桂枝五・〇 芍薬七・〇 甘草一・五 大棗四・五各g)を一日量として二週間分を与えておいた。
その後、東京からひどく喜びの電父がかかった。さしもの激しい三叉神経痛も、あれ以来漸次鎮静して、この頃ではほとんど普通に食事も話もできるようになった。しかし、時にちょっとした拍子にピリリと痛むことがあるとのことである。そこで前方三週間分送ったが、再び、私が東京で診たときは、九分通り以上によくなっていた。そして次の一ヵ月後は忘れてしまったように治っていた。(東京診療所にて)
〔症例 2〕 右三叉神経痛(女子)
数年前、右頬や軟口蓋、口唇などが痛み、それが頭の方へも放散したことがあった。その後、こんな神経痛が一年に数回起こるのだが、そのつど注射で治る。こんなことで三年前に上の歯を全部抜いてしまったのだが、その後しばらくは痛まなかった。ところが、今年の二月頃、例の痛みが起こり始め、話をしても、上を向いても寝ても痛む。今度はいろいろと注射をしてもらうのだが、少しもよくならず、近頃ひどくやせてきた。
特徴は、肩がひどく凝ること、食欲はあり、大便は一日一回。睡眠はよい。中背で少し太り気味で、両頬に細絡がつよいので(とくに右側)一見赭ら顔のようである。
脈―沈・小・弦・数、按じて弱。
舌―右奥のところどころに帯黄白色の厚い苔がある。やや湿り気味。
腹―小腹急結の腹候があるほか、特記すべきことはない。
両肩で僧帽筋の上部広範に高度の筋肉の攣急がある。
よって葛根湯加蒼朮附子乳香(葛根七・〇 麻黄四・〇 桂枝五・〇 芍薬七・〇 甘草一・五 大棗四・五 生姜五片 蒼朮八・五 附子一・五 乳香一・六各g)(一日量として一日三回)。桃核承気湯の粒剤一・〇g(一日一回)を兼用として与えた。
一ヵ月後、たいへんよくなり、痛みも止んだ。その翌年六月末に来たとき、「あれから一ヵ年間は全く痛まなかったが、この二〇日ほど前から、右側の上下の歯齦が歯もないのに痛みはじめ、前回同様ひどく肩が凝る。しかし、痛みの程度は前回よりはるかに軽いとのこと。再び前方を与えると数週を出ずして治った。
しさき、その後も前回に懲りて続いて服薬していた。
*
麻疹の初期に発疹を促すために升麻葛根湯を用いるが、単に葛根湯に升麻を加えても充分効くものである。
耳・目・鼻の病にも葛根湯がよく効く。要するに肩より上の諸病に本方が応用されることが多いことになる。
〔症例 3〕 葛根湯の発表作用を現わす好例
体は大きく一見栄養がよいようだが、顔色はさえず、漢方で言う水毒性で、アトピー体質でもある。幼時より腸が弱い。常に肩こり、疲労感があり、乳腺炎を患って十味敗毒湯で治療し、蛋白尿、浮腫を来たし、九味檳榔湯合五苓散で治し、以後、十全大補湯で充分元気になってきたのであるが、今度は耳に掻痒を伴う皮膚炎を来たし、ペニシリンを飲んだが、全身に蕁麻疹が強く出て、浮腫と倦怠感を来たした。耳朶から外耳道にかけて漿液性の分泌物が多く、カサブタがつき、難聴があり、且つ肩こりが強いという。荊防敗毒散を与えたところ、一週間で分泌物はなくなってきたが、耳がつまった感じがして肩こりが強いので、葛根湯加荊芥連翹大黄を与えた。そうすると一週間後に来て、体の調子は大変よくなったが、皮膚炎の分泌物がまた出てきたと訴えた。そこで荊防敗毒散に戻してよくなったのであるが、この症例は、葛根湯の発表作用により、分泌増加となって現われたことを示すと同時に、葛根湯証は確かにあり、事実、全身的に気持は非常によくなったのに、局所の悪化を来たしたわけで、漢方治療にも全体と局所の分離があること、証による医学と感うが、局所の状態も考えねばならぬことを教えるものである。
以上は、葛根湯応用の一断面について述べたに過ぎないが、要するに太陽病の葛根湯証の病態が現われているときは、慢性病と雖も、またその病名の如何にかかわらず、応用して効果のあることがわかるであろう。
すなわち、仲景によって唱えられた急性病の経過中に現われる病態の詳細は研究、そしてそれに対しての対策があれば、諸病の治療の目的の一半は達成されるという傷寒論医学の思想は、この葛根湯の運用の一例においても理解されることと思う。
【脚注】
○自下利―服薬によらず、自然に下痢すること。
消化管粘膜と鼻の粘膜とは密接な関係がある。
○兼方(兼用)―主となる薬方は主方と言い、これに兼ねて補助的に用いる薬方を兼方と言う。
○裏急後重―俗に言う「しぶり腹」のこと。腸炎や赤痢などの疾患で、炎症性の刺激があるとき、疼痛を伴う頻回の便意を催すが、肛門筋肉の痙攣によって排泄は困難となり、排便はほとんど行なわれない状態を言う。現代医学の正式の名称はテネスムス(Tenesmus)である。
○和田正系(一九〇〇~一九七九)―明治33年和田啓十郎の長男として長野県に生れ、千葉医専卒(大正11)、医学博士(昭和8)。以来千葉県富浦町に開業、主として地絹医療に尽して功績を挙げ、千葉医学講師(昭和26)としては医史を講じた。一方玄父の志を継ぎ、学生時代より漢方に志し、奥田謙蔵に師事して、啓蒙期日本漢方の先駆的活動を続け、日本東洋医学会に創立以来参加、昭和30~31年には理事長を勤めたほか昭和41年には中国より初の日本漢方界代表として招聘され日中医学交流に尽した。著作には『漢方医学臨床提要』『心身一如』『法然上人の人と宗教』「草堂茶話』「和田啓十郎遺稿集』『医界の鉄椎を巡って』等がある。
○脾兪(ひゆ)―背部、第11第12胸椎棘突起の左右3cmの辺にある経穴(膀胱経)。
○小腹急結―瘀血の腹証の一つで、左側の腸骨窩を指で強く圧すと急迫性の疼痛を訴えることを指し、桃核承気湯を用いる目標とされる。
○頬車(きょうしゃ)―顔面部、下顎骨と耳介下根部との中央、下顎枝の外後線にある経穴(胃経)。
○列欠(れっけつ)―手部、前腕掌側撓側面で手関節横紡の上方4~5cmにある経穴(肺経)。
○厥陰兪(けっちんゆ)―背部、第4・5胸椎棘突起間の左右約3cmにある経穴(膀胱経)
○陽陵泉(ようりょうせん)―足部、腓骨小頭直下の陥凹部にある経穴(胆経)。
○臨泣(りんきゅう)―第4、5中足骨底の中間にある経穴(胆経)。
○胆兪(たんゆ)―肺部、第10・11胸椎棘突起間の左右約3cmにある経穴(膀胱経)
○升麻葛根湯(局方)
葛根・升麻・芍薬・甘草
○十味敗毒湯(華岡)
柴胡・桔梗・防風・川芎・桜皮・茯苓・独活・荊芥・甘草・乾生姜
○九味檳榔湯(浅田家)
檳榔・厚朴・桂枝・橘皮・生姜・大黄・木香・甘草・蘇葉
○十全大補湯(局方)
人参・黄耆・朮・当帰・茯苓・熟地黄・川芎・芍薬・桂枝・甘草
○五苓散(傷寒論)
沢瀉・猪苓・茯苓・朮・桂枝
○荊防敗毒散(回春)
荊芥・防風・羗活・独活・柴胡・前胡・薄荷・連翹・桔梗・枳殻・川芎・金銀花・茯苓・甘草
(コメント)
芍薬の量が一般的な葛根加朮附湯に比べて多い。
桂枝湯と桂枝加芍薬湯との関係にも注意。
蒼朮の量も多い。
【一般用医薬品承認基準】
葛根湯
〔成分・分量〕 葛根4-8、麻黄3-4、大棗3-4、桂皮2-3、芍薬2-3、甘草2、生姜1-1.5
〔用法・用量〕 湯
〔効能・効果〕 体力中等度以上のものの次の諸症: 感冒の初期(汗をかいていないもの)、鼻かぜ、鼻炎、頭痛、肩こり、筋肉痛、手や肩の痛み
【添付文書等に記載すべき事項】
してはいけないこと
(守らないと現在の症状が悪化したり、副作用が起こりやすくなる)
次の人は服用しないこと
生後3ヵ月未満の乳児。
〔生後3ヵ月未満の用法がある製剤に記載すること。〕
相談すること
1.次の人は服用前に医師、薬剤師又は登録販売者に相談すること
(1)医師の治療を受けている人。
(2)妊婦又は妊娠していると思われる人。
(3)体の虚弱な人(体力の衰えている人、体の弱い人)。
(4)胃腸の弱い人。
(5)発汗傾向の著しい人。
(6)高齢者。
〔マオウ又は、1日最大配合量が甘草として1g以上(エキス剤については原生薬に換
算して1g以上)含有する製剤に記載すること。〕
(7)今までに薬などにより発疹・発赤、かゆみ等を起こしたことがある人。
(8)次の症状のある人。
むくみ1)、排尿困難2)
〔1)は、1日最大配合量が甘草として1g以上(エキス剤については原生薬に換算して1g以上)含有する製剤に記載すること。2)は、マオウを含有する製剤に記載すること。〕
(9)次の診断を受けた人。
高血圧1)2)、心臓病1)2)、腎臓病1)2)、甲状腺機能障害2)
〔1)は、1日最大配合量が甘草として1g以上(エキス剤については原生薬に換算して1g以上)含有する製剤に記載すること。2)は、マオウを含有する製剤に記載すること。〕
2.服用後、次の症状があらわれた場合は副作用の可能性があるので、直ちに服用を中止し、この文書を持って医師、薬剤師又は登録販売者に相談すること
関係部位
症 状
皮 膚
発疹・発赤、かゆみ
消化器
吐き気、食欲不振、胃部不快感
まれに下記の重篤な症状が起こることがある。その場合は直ちに医師の診療を受けること。
症状の名称
症 状
偽アルドステロン症、ミオパチー1)
手足のだるさ、しびれ、つっぱり感やこわばりに加えて、脱力感、筋肉痛があらわれ、徐々に強くなる。
肝機能障害
発熱、かゆみ、発疹、黄疸(皮膚や白目が黄色くなる)、褐色尿、全身のだるさ、食欲不振等があらわれる。
〔1)は、1日最大配合量が甘草として1g以上(エキス剤については原生薬に換算して1g以上)含有する製剤に記載すること。〕
3.1ヵ月位(感冒の初期、鼻かぜ、頭痛に服用する場合には5~6回)服用しても症状がよくならない場合は服用を中止し、この文書を持って医師、薬剤師又は登録販売者に相談すること
4.長期連用する場合には、医師、薬剤師又は登録販売者に相談すること
〔1日最大配合量が甘草として1g以上(エキス剤については原生薬に換算して1g以上)含有する製剤に記載すること。〕
〔用法及び用量に関連する注意として、用法及び用量の項目に続けて以下を記載すること。〕
(1)小児に服用させる場合には、保護者の指導監督のもとに服用させること。
〔小児の用法及び用量がある場合に記載すること。〕
(2)〔小児の用法がある場合、剤形により、次に該当する場合には、そのいずれかを記載すること。〕
1)3歳以上の幼児に服用させる場合には、薬剤がのどにつかえることのないよう、よく注意すること。
〔5歳未満の幼児の用法がある錠剤・丸剤の場合に記載すること。〕
2)幼児に服用させる場合には、薬剤がのどにつかえることのないよう、よく注意すること。
〔3歳未満の用法及び用量を有する丸剤の場合に記載すること。〕
3)1歳未満の乳児には、医師の診療を受けさせることを優先し、やむを得ない場合にの
み服用させること。
〔カプセル剤及び錠剤・丸剤以外の製剤の場合に記載すること。なお、生後3ヵ月未満の用法がある製剤の場合、「生後3ヵ月未満の乳児」をしてはいけないことに記載し、用法及び用量欄には記載しないこと。〕
保管及び取扱い上の注意
(1)直射日光の当たらない(湿気の少ない)涼しい所に(密栓して)保管すること。
〔( )内は必要とする場合に記載すること。〕
(2)小児の手の届かない所に保管すること。
(3)他の容器に入れ替えないこと。(誤用の原因になったり品質が変わる。)
〔容器等の個々に至適表示がなされていて、誤用のおそれのない場合には記載しなくてもよい。〕
【外部の容器又は外部の被包に記載すべき事項】
注意
1.次の人は服用しないこと
生後3ヵ月未満の乳児。
〔生後3ヵ月未満の用法がある製剤に記載すること。〕
2.次の人は服用前に医師、薬剤師又は登録販売者に相談すること
(1)医師の治療を受けている人。
(2)妊婦又は妊娠していると思われる人。
(3)体の虚弱な人(体力の衰えている人、体の弱い人)。
(4)胃腸の弱い人。
(5)発汗傾向の著しい人。
(6)高齢者。
〔マオウ又は、1日最大配合量が甘草として1g以上(エキス剤については原生薬に換算して1g以上)含有する製剤に記載すること。〕
(7)今までに薬などにより発疹・発赤、かゆみ等を起こしたことがある人。
(8)次の症状のある人。
むくみ1)、排尿困難2)
〔1)は、1日最大配合量が甘草として1g以上(エキス剤については原生薬に換算して1g以上)含有する製剤に記載すること。2)は、マオウを含有する製剤に記載すること。〕
(9)次の診断を受けた人。
高血圧1)2)、心臓病1)2)、腎臓病1)2)、甲状腺機能障害2)
〔1)は、1日最大配合量が甘草として1g以上(エキス剤については原生薬に換算して1g以上)含有する製剤に記載すること。2)は、マオウを含有する製剤に記載すること。〕
2´.服用が適さない場合があるので、服用前に医師、薬剤師又は登録販売者に相談すること
〔2.の項目の記載に際し、十分な記載スペースがない場合には2´.を記載すること。〕
3.服用に際しては、説明文書をよく読むこと
4.直射日光の当たらない(湿気の少ない)涼しい所に(密栓して)保管すること
〔( )内は必要とする場合に記載すること。〕
【関連情報】
インフルエンザの漢方治療
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インフルエンザと普通の風邪との違い
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