健康情報: 甘草乾姜湯(かんぞうかんきょうとう) の 効能・効果 と 副作用

2014年4月9日水曜日

甘草乾姜湯(かんぞうかんきょうとう) の 効能・効果 と 副作用

漢方診療の實際 大塚敬節 矢数道明 清水藤太郎共著 南山堂刊
甘草乾姜湯
本方は手足厥冷の傾向があり、唾液・尿等の分泌物が多量で稀薄な場合に用いるのであるが、時に煩操の状を訴えることがある。
本方は甘草と乾姜との二味からなり、甘草は急迫を治し、乾姜は一種の刺激興奮剤で、血行を盛んにする効がある。故に組織の緊張を亢め、活力を賦与する効がある。
本方は発汗剤を使用してはならない場合に、誤用して発汗させたために、手足厥冷・煩操・吐逆・口内乾燥等の諸症を呈した場合に頓服として用い、また老人・虚弱者で尿意頻数・唾液稀薄・眩暈等の症があれば、此方を用いてよい。また弛緩性出血・後陣痛にも用いることがある。


漢方薬の実際知識 東丈夫・村上光太郎著 東洋経済新報社 刊
8 裏証(りしょう)Ⅱ
虚弱体質者で、裏に寒があり、新陳代謝機能の衰退して起こる各種の疾患に用いられるもので、附子(ぶし)、乾姜(かんきょう)、人参によって、陰証体質者を温補し、活力を与えるものである。

7 甘草乾姜湯(かんぞうかんきょうとう)  (傷寒論、金匱要略)
〔甘草(かんぞう)四、乾姜(かんきょう)二〕
虚弱な人の陽気が虚したために、瘀水が動揺し、種々の症状を呈するものに用いられる。したがって、煩操、吐逆(吐気)、咽中乾燥、四肢厥冷、尿意頻数、希薄な唾液分泌過多などを目標とする。
本方は、数多くの薬方の基本となっている。たとえば、人参の朮が加えられると人参湯となり、附子が加えられると四逆湯、茯苓と朮が加えられると苓姜朮甘湯(後出、駆水剤の項参照)となる。
〔応用〕
つぎに示すような疾患に、甘草乾姜湯證を呈するものが多い。
一 遺尿、夜尿症、萎縮腎、尿道炎その他の泌尿器系疾患。
一 吐血、喀血、子宮出血その他の各種出血。
一 そのほか、瘭疽、凍傷、気管支喘息、ルイレキ、唾液分泌過多など。


臨床応用 漢方處方解説 矢数道明著 創元社刊
p.95 尿意頻数・夜尿症・よだれ症・冷え症
24 甘草乾姜湯(かんぞうかんきょうとう) 別名 二神湯(にしんとう)・二宜丸(にぎがん)〔傷寒・金匱〕 甘草四・〇 乾姜二・〇

 水二〇〇ccをもって一〇〇に煮つめ、二回に分服する。また甘草六・〇、乾姜三・〇として、水三〇〇ccをもって一五〇ccに煮つめ、一日三回に分博してもよい。

応用〕 陽気の虚した者(皮膚が弱く、元気の衰えた者)を誤って発汗したために、水分が動揺し、手足は厥冷し、咽中乾き、煩躁・吐逆を発するものに用いるものである。
 本方は主として煩躁・吐逆甚だしく、手足の冷えるもの、老人や虚弱者の尿意頻数・遺尿症・夜尿症・萎縮腎・尿道炎・小児のよだれ・唾液分泌過多・弛緩性出血(吐血・喀血・子宮出血)・産後の後陣痛・めまい・吃逆(しゃっくり)等に用いられ、また瘭疽(熱性症候なく、ただ疼痛劇甚なるもの)・凍傷・喘息・癲癇・ひきつけ・附子中毒による煩躁・吐逆・漏風(ろうふう)(冷え症などにも応用される。

目標〕  虚証のもので、発汗剤を誤用し、そのため陽気さらに虚して、手足厥冷・煩躁・吐逆・口内乾燥等の諸症を発したものを目標とする。
 また次のような諸徴候を参考として諸病に用いる。
 脈は沈弱、腹も軟かく、尿意頻数、稀薄な唾液分泌過多などを目標とする。

方解〕  本方は四逆湯から附子を去ったものであり、また人参湯から人参と白朮を去ったものである。甘草は急迫を緩め、乾姜は一種の刺激性興奮薬で、組織の緊張を亢め、血行を盛んにし、元気活力をつけるものである。
 少陰病に属する薬方であるが、応用範囲を見てわかるように、臓器の方からいえば、脾と肺と腎の三臓の虚を補うものである。


主治
  傷寒論(太陽病上篇)に、「傷寒、脈浮、自汗出デ、小便数(シゲ)ク、心煩微悪寒、脚攣急スルニ、反テ桂枝湯ヲ与エテ、其ノ表ヲ攻メント欲スルハ、此レ誤リナリ。之ヲ得テ便(スナワ)チ厥シ(四肢が冷える)、咽中乾キ、煩躁吐逆スル者ニハ、甘草乾姜湯ヲ作テ之ヲ与エ、以テ其ノ陽ヲ復セ」とあり、
 金匱要略(肺痿門)に、「肺痿、涎沫(ゼンマツ)ヲ吐シテ、咳セザル者ハ、其ノ人渇セズして、必ズ刺尿、小便数(シゲ)シ、然ル所以ノ者ハ、上虚シテ下ヲ制スルコト能ワザルヲ以テノ故ナリ。此ヲ肺中冷ト為ス。必ズ眩シテ、涎唾多シ。甘草乾姜湯ヲ以テ之ヲ温メ、若シ湯ヲ服シ已(オワ)ツテ、渇スル者ハ消渇ニ属ス」とある。
 勿誤方函口訣には、「此方ハ簡ニシテ其ノ用広シ。傷寒ノ煩躁吐逆ニ用イ、肺痿ノ涎沫ヲ吐クニ用イ、傷胃ノ吐血ニ用イ、又虚候ノ喘息ニ此方ニテ黒餳丹ヲ送下ス。凡ソ肺痿ノ冷症ハ其ノ人ノ肺中冷、気虚シ、津液ヲ温布スルコト能ワズ、津液聚テ涎沫ニ化ス。故ニ唾多ク出ズ。然レドモ熱症ノ者ノ唾凝テ重濁スルガ如キニ非ズ、又咳セズ咽渇シ、必ズ遺尿小便数ナリ」とある。
 また漢方治療の実際には、「この方も遺尿や多尿に用いるが、白虎湯を用いる場合に相反する。白虎湯は熱性症状があって、新陳代謝の亢進したものを目標とし、この方は寒性症状があって、新陳代謝の沈衰したものを目標とする。甘草乾姜湯証には口渇がなく、脈も沈んで力なく、手足や下半身が冷え、口にうすい唾液がたまり、尿は水のように稀薄で沢山出る。
 甘草乾姜湯に附子を加えたものが、四逆湯であり、茯苓と朮を加えたものが、苓姜朮甘湯であり、人参と朮を加えたものが人参湯であるから、これらのものには、すべて多尿の傾向がある」また、
 「瀉心湯呉茱萸湯のような苦味の薬を与えて、反って嘔吐がはげしくなるようなものによい」とある。

鑑別
 ○乾姜附子湯 (煩躁厥冷・下痢)
 ○四逆湯 56 (煩躁吐逆・下痢清穀、身疼痛) 
 ○苓姜朮甘湯 150 (遺尿多尿・心下悸、腰中冷)
 ○白虎湯 121 (遺尿多尿・熱症状、口渇)
 ○人参湯 111 (涎沫・心下痞硬、小便不利)
 ○小青竜湯 70 (涎沫・心下停水、脈浮数)
 ○呉茱萸湯 39 (涎沫煩躁・頭痛、小便不利)
 

治例
 (一) 下後手足厥冷
 一女児。風邪にて発熱し、便通がないので、調胃承気湯を与えたところ、一回を服用して下痢数回あった。するとたちまち手足が冷え、煩躁悶乱、悪寒戦慄を発し、ガタガタと慄えだし、危篤状態となった。このとき急ぎ甘草乾姜湯を作って一服させたところ、即座に危症は一掃された。
(荒木性次氏、古方薬嚢)

 (二) 冷薬服後四肢厥冷
 一女児。熱があって、気分がすぐれないという。食も始まないので、まず小柴胡湯加石膏を与えた。二~三回服用したところ、手足が冷たくなり、咽が乾いて、ぼんやりして元気なく、煩悶の状が現われたので、急ぎ甘草乾姜湯を与えたところ、たちまち治った。
 本方は下剤や石膏剤などのため、腹中が冷反、手足厥冷し、悶え苦しむ者に神効がある。
(荒木性次氏、古方薬嚢)

 (三) 唾を吐く病
 他に病気がなくて、ただ唾を吐いて止まないというものは、大抵十のうち八~九人までは理中湯(人参湯)で治るものである。先年一男子があってこの症を発したが、理中湯では効かず、甘草乾姜湯で治ったのがある。また他の一人は茯苓飲で治ったものもある。この症は結局心下の停飲によるものである。
(有持桂里翁、校正方輿輗巻七)

 (四) 睡眠後の流涎症
 二十年も前に、十三歳になる女子の病を治したことがある。誰も肺結核という診断でいろいろの薬を用い、灸もすえたが治らない。全身の皮膚は黒く光沢なく、起居にも呼吸せわしく、咳は少しもなく、ただ涎沫を吐して衰弱するばかりであった。よくきくと、眠りにつくと涎れが流れ出て、枕の下まで濡れ、夜具の下まで通るほどであるという。よって甘草乾姜湯を与えたところ、二十日ばかりで夜の涎れが少くなり、昼間の涎沫も半分くらいになった。その後柴胡姜桂湯に人参、黄耆を加えて用い、下肢に瘡毒を発して腐爛し、膿血汁が沢山流れ出て、数ヵ月の後には全身の黒色が消えて色白く光沢を生じ、美しい女子となって全快した。
(宇津木昆台翁、古訓医伝十六巻)


和漢薬方意辞典 中村謙介著 緑書房
甘草乾姜湯(かんぞうかんきょうとう) [傷寒論]

【方意】 寒証による厥冷等と、水毒による稀薄な喀痰・稀薄な尿等と、水毒の動揺による吐逆等のあるもの。時に虚熱を伴う。
《少陰病.虚証》

【自他覚症状の病態分類】

寒証 水毒 水毒の動揺 虚熱
主証 ◎全身の厥冷


〔上焦〕
◎稀薄な喀痰
〔中焦〕
◎稀薄な唾液
〔下焦〕
◎稀薄な尿
◎激しい吐逆



客証  多尿 頻尿
 疼痛
 しびれ
 知覚麻痺
 運動麻痺


〔上焦〕
 息切れ 呼吸困難
 稀薄な鼻汁 胸痛
〔中焦〕
 腹痛 下痢
〔下焦〕
 遺尿 頻尿
 激しい咳嗽
 吃逆
 目眩
 心悸亢進
 逆上感
 痙攣
 煩躁
 口燥
 上熱下寒
 自汗 脱汗


【脈候】 沈微・弱・緩弱・微弱数・弱数・微浮・浮数・浮大弱・芤。。

【舌候】 湿潤。虚熱の強い場合は時に乾燥。

【腹候】 軟弱。時に上腹部に振水音がある。

【病位・虚実】 水毒があり寒証は顕著で、すでに新陳代謝の低下を起こしている。脈力、腹力共に低下し虚証であり少陰病。

【構成生薬】 甘草4.0 乾姜2.0

【方解】 甘草は緊急切迫した症状を主り、乾姜は寒証・水毒、更にこれらに由来する虚証を主識。本方意は条文では「肺中冷」とあり、上焦が主であるが、実際には上、 中、下の三焦にわたっている。甘草・乾姜の組合せは下記の薬方の基本となっており、本方意は多くの薬方の構成に関与している。小青竜湯苓甘姜味辛夏仁湯は上焦の水毒が基本である。人参湯半夏瀉心湯は中焦の水毒が関与し、苓姜朮甘湯は下焦の水毒が基本となっている。四逆湯は寒証による全身の機能低下に用いる。以上すべて甘草・乾姜が配剤されている。

【方意の幅および応用】
 A 寒証:急激に起こった全身の厥冷・疼痛等を目標にする場合。
   虚証に発汗剤を誤用し急に手足厥冷・煩躁・吐逆するもの、
   附子中毒、熱感のない疼痛の激しい瘭疽
  B1上焦の水毒:稀薄な喀痰・息切れ・呼吸困難等を目標にする場合。
   上下部気道炎で稀薄な喀痰多く・息切れ・冷え性のもの、気管支炎、気管支喘息、
   肺結核症、アレルギー性鼻炎
  2中焦の水毒:稀薄な唾液・下痢等を目標にする場合。
   赤痢、大腸炎、胃腸疾患で腹痛の激しいもの、よだれ、蛔虫症で生唾の多いもの
  3下焦の水毒:稀薄な尿・頻尿等を目標にする場合。
   老人・虚弱者の頻尿、夜尿症、遺尿、萎縮腎、尿道炎、前立腺肥大、膀胱炎

 C 水毒の動揺:激しい吐逆・心悸亢進等を目標にする場合。
   吐逆、吐逆し煩躁して四肢の冷えるもの、百日咳、咳嗽で尿失禁するもの、自家中毒、
   引きつけ、子癇、癲癇

 D 虚熱:煩躁・自汗等を目標にする場合。
   盗汗し煩躁するもの


【参考】 * 傷寒、脈浮、自汗出で、小便数、心煩、微悪寒し、脚攣急するに、反って桂枝を与え、其の表を攻めん欲するは、此れ誤りなり。之を得て便ち厥し、咽中乾き、 煩躁吐逆する者は、甘草乾姜湯を作りて之を与え、以って其の陽を復す。                     『傷寒論極』
* 肺痿、涎沫を吐して欬せざる者は、其の人渇せず、必ず遺尿し、小便数なり。然(しか)り所以の者は、上虚して下を制す能わざるを以っての故なり。此れ肺中 冷と為す。必ず眩し、涎唾多し。甘草乾姜湯を以って之を温む。若し湯を服し已りて渇する者は消渇に属す。              『金匱要略』
*厥して煩躁し、涎沫多き者を治す。    『方極附言』
*此の方は簡にして其の用広し。傷寒の煩躁吐逆に用い、肺痿の吐涎沫に用い、傷胃の吐血に用い、又虚候の喘息に此の方にて黒錫丹を送下す。凡そ肺痿の冷症は、其の人、肺中冷え気虚し、津液を温布すること能わず、津液聚って涎沫に化す。故に唾多く出ず。
『勿誤薬室方函口訣』
*本方は急激に虚寒証に陥入した場合に使われ、厥冷・煩躁・吐逆等の急迫症状を伴うこともあるが、四逆湯類ほど虚証は深くない。虚証の喘息発作に著効を示す。
*本方意は元来、中焦の虚寒があり、このため上焦・下焦の虚寒を引き起こしたものとされる。
*虚熱は、急激に発症した場合にみられる。
*本方は虚寒の出血、例えば胃腸虚弱で冷え性の吐血・喀血・子宮出血等にも有効である。患者は肌が黒ずむ傾向がある。

【症例】 気管支喘息兼急性湿疹
 42歳、主婦。頻尿で1時間小水をこらえられない。全身の湿疹があり、特に背部がひどい。背部に細絡がみえる。「貴女は喘息はありませんか」と尋ねると、実は10年以上前より喘息がひどくて、内科の医者にかかっているという。
 そこで『金匱要略』の「肺痿涎沫を吐して欬せざるものは、其人渇せず、必ず遺尿し、小便数す。然る所以のものは上虚し、下を制すること能わざるを以ての故なり、これを肺中冷となす、必ず眩し、涎唾多し、甘草乾姜湯を以て之を温む」を思い出して、唾が口に溜らないか、咽が乾燥しないかと尋ねると皆然りで、唾は細かい泡のようで気持ちが悪いという。甘草乾姜湯前後合計30日分でほとんど治癒廃薬す。
諏訪重雄『漢方の臨床」10・12・25


『類聚方広義解説(54)』   東亜医学協会理事長 矢数 道明
 本日は類聚方広義解説の54回目になります。甘草乾姜湯(カンゾウカンキョウトウ)から始めます。引き続いて乾姜附子湯(カンキョウブシトウ)、四逆湯(シギャクトウ)から白通加猪胆汁湯(ビャツクウカチョタンジュウトウ)まで、九つの処方について、三回にわたって解説をしてゆきたいと思います。

 まず甘草乾姜湯から始めることにします。甘草乾姜湯はまたの名を二神湯(ニシントウ)といいます。これは甘草と乾姜の二味で神効を発揮するという意味で名づけられたものと思われます。
 条文を読みますと「厥(けつ)して煩躁、涎沫(ぜんまつ)多きを治す」とあります。厥して煩躁というのは手足が冷たくなって、もだえ苦しむことで、心臓衰弱とか、ショックようの症状が起きる状態で、涎沫は肺が冷えて泡沫性の稀薄な痰がたくさん出たり、生つばやよだれが出たりすることで、これは気管支炎とか気管支喘息、あるいは肺炎、肺結核の時などに現われる症状の一つであります。
 処方は「甘草四両(二銭)、乾姜二両(一銭)。右二味、水三升を以て、煮て一升五合を取り、滓を去り、二つに分けて温服する」とあります。ここでいう一升は今の一合のことで、尾台榕堂先生は、日本流にこれを改めて「水一合二勺を以て、煮て六勺を取る」と註釈をしております。
 私たちは現在、甘草4g、乾姜2gとして、200mLの水を入れて煮て、100mLに煮詰め、二回に分けて温服することにしております。また甘草6g、乾姜3gとして、水300mLを入れて煮詰め、150mLとして、これを三回に分けて飲んでもよいとされております。乾姜はショウガを乾燥したもので、辛味が強くて、実際に味わってみますと、2gでも相当辛くて口の中が燃えるようになります。本によっては4gとか6gとかなっているものもありますが、とても飲み込めないほとであります。この本の講義の最初に、大塚先生が注意されましたように、大塚先生は大建中湯(ダイケンチュウトウ)をある本に示された通りに乾姜8gを与えましたところ、患者が膀胱炎を起こして困ったと述べられております。膀胱炎や、痔の疾患のある人、あるいは喀血しやすい人などには、2g以上は用いない方がよいと思います。分量はよほど注意しないと失敗することがよくあります。
 甘草乾姜湯は四逆湯(シギャクトウ)から附子(ブシ)を去ったものであり、人参湯から人参と白朮(ビャクジュツ)を去ったものであります。甘草は急迫症状を治すといわれておりまして、これは手足が冷たくなって、もだえ苦しむ、いわゆる急迫症状といって、急に切迫した症状を呈したもので、これを治す妙薬であります。また痙攣を起こして激しい痛みを訴えている時などに、たちどころにこれを治す鎮痛効果があります。一方、乾姜は新陳代謝機能の減退したものをふるい起こさせるという、いわゆる刺激性の興奮薬で、熱薬と称し、温める力が非常に強く、厥冷(けつれい)(手足が冷たくなる)、煩躁(はんそう)(もだえ苦しむ)を治し、さらに水分の代謝異常が起きて水毒が上にのぼって、泡沫性の痰や、生つばが出たり、よだれを流したりする、いわゆる涎沫を吐するというものを治す作用があります。
 次の本文を読みますと、甘草乾姜湯は、『傷寒論』や『金匱要略』で、どのような時に用いてい識のか、その条文が掲げられています。第一は『傷寒論』の太陽病上篇の条文で、「傷寒、脈浮にして自ら汗出で、小便数(しげ)く、心煩して微悪寒し、脚攣急するに、かえって桂枝湯(ケイシトウ)を与え、その表を攻めんと欲す。これ誤りなり。之を得れば便ち厥し、咽中乾き、煩躁して吐逆する者は、甘草乾姜湯を作りて之を与うればもってその陽を復す。もし厥愈えて足温まる者は、さらに芍薬甘草湯を作りて之を与うれば、その脚即ち伸ぶ。もし胃気和せず讝語する者は、少しく調胃承気湯(チョウイジョウキトウ)を与う。もし重ねて汗を発し、また焼鍼を加うる者は、四逆湯之を主る」とあります。
 これを解説しますと、脈が浮で、自ずから汗が出て、小便が近く、心煩微悪寒、脚攣急するというのは、表と裏、陰証と陽証とが相半ばしているもので、桂枝加附子湯(ケイシカブシトウ)の証であるのに、これを純粋な表証として桂枝湯をもって発汗するのは誤りで、もし誤ってこれを与えると便(すなわ)ち(たちまち)四肢厥冷し、咽中乾燥し、煩躁して吐逆を起こす、すなわち誤治によって水毒が動揺して急迫症状を起こすことになり、このとき甘草乾姜湯を与えて鎮静緩和するとよくなる、というものです。
 次は『金匱要略』の肺痿(はいい)門の条文です。読みますと、「肺痿(はいい)。涎沫(ぜんまつ)を吐して欬(がい)せざる者は、その人渇せず、必ず遺尿し、小便数(さく)なり。然る所以の者は、上虚して下を制すること能わざるを以ての故なり。これを肺中冷となす。必ず眩して涎唾し多し。甘草乾姜湯を以て之を温む。もし湯を服しおわって、渇する者は消渇(しょうかつ)に属す」とあります。
 肺痿というのは、『金匱要略』では、肺痿と肺癰とを区別して、虚なる者は肺痿とし、実なる者を肺癰としました。これは寸口(すんこう)の脈が数で、その人欬し(咳が出て)、口中かえって濁った生つば、涎沫すなわち泡沫性の痰があるものを肺痿としました。こういう症状は、肺が冷えているというのであります。呼吸器疾患の中の一種でありまして、広く虚証の気管支炎、気管支喘息、肺結核の一つの型の時に現われるものであります。涎沫とか、遺尿とか、小便数など、水毒があって熱のないもので肺の冷えている時に起こり、眩暈(めまい)を伴い涎沫が多くなるという時、これを甘草乾姜湯で温めるとよくなるというのであります。肺痿の症で渇のないものが本方を服用して、のちに渇きを訴えるものは、肺痿ではなく、消渇(しょうかつ)、すなわち糖尿病であるというのであります。
 尾台榕堂先生は欄外に自分の意見を補足しております。欄外の第一に「この方は生姜甘草湯と同じく、肺痿を治す」とあります。これはこの処方の前にありました生姜甘草湯と区別するわけです。
 「しかもその之(おもむ)く所に至っては正に相反す。以て乾姜と生姜の主治の異るを見るべし」といっております。いわゆる乾姜と生姜の作用によって違ってくるということを申しております。
 次にこの厥を起こしたのは、「ただ誤治による一時の激動急迫の厥のみ。四逆湯の下利清穀、四支拘急(ししこうきゅう)、脈微、大汗厥冷の比に非らず。それ甘草の分量の乾姜に倍するは、急迫を緩(ゆる)めるを以てなり。咽乾、煩躁、吐逆の症を観て、以てその病情を知るべし」としてあります。甘草が多いので急迫症状が激しいことを申しております。
 さらに「老人、平日小便頻数に苦しみ、涎を吐し、短気し、眩暈して起歩し難き者にこの方宜し」と補足しております。
 終わりに「為則按ずるに、まさに急迫の証あるべし」と東洞の意見を追加しております。

 生姜甘草湯は肺痿で、吐涎沫というのは同じですが、この方には渇があり、欬唾があり、寒証、いわゆる冷えがありません。ところが甘草乾姜湯の方は、肺痿で涎沫を吐すというのは同じですが、欬がない、渇がない、必ず小便がしばしばある、時にはもらすことがある、これがすなわち冷え(寒証)であり、尿は透明で色なく水のようであります。このような区別があるということであります。
 大塚先生の『漢方治療の実際』で、このことを述べて、甘草乾姜湯は夜尿や多尿に用い、寒冷症状があって、新陳代謝の沈衰したものが目標であるといっております。さらに口渇がなく、脈も沈んで力がなく、手足や下半身が冷えて、口には薄い唾液がたまり、尿は水のような稀薄でたくさん出るといっております。
 以上を総合しまして、甘草乾姜湯はどのような病気に応用されるかをまとめてみますと、第一が陽気が虚して元気がない、皮膚の抵抗力の弱いものを誤って発汗させたために、水分が動揺して不均衡状態となり、、ショック様症状を起こして手足が厥冷し、喉が乾いて煩躁吐逆を発したものに用います。
 第二は、老人や虚弱者、冷え症のものに起こった尿意頻数、夜尿症、遺尿症、萎縮腎や、前立腺肥大症、尿道炎などによる多尿症に用います。第三は、子供のよだれ症で、唾液分泌過多症にもよいわけです。第四には弛緩性の出血症で、これが吐血、喀血、子宮出血などに用いられます。第五は産後の後陣痛。第六はめまい。第七はしゃっくり。第八は瘭疽で熱がな決て疼痛の激しいもの。第九は冷え症、あるいは凍傷、喘息、てんかん、ひきつけなど。第十は漏風(ろうふう)といって、手足の爪の間から冷たい風が出るような感じがするという珍しい病気がありますが、こういうものにも使ってよいことが報告されております。

 乾草乾姜湯を用いた症例の報告として、代表的なものをあげてみます。その一は、荒木性次先生の『古方薬嚢』に二つの治験例が載っておりまして、「下した後に手足が厥冷し、もだえ苦しんで危篤状態となったもの」です。女の子が風邪をひき熱を出して便通がないので、調胃承気湯(チョウイジョウキトウ)を与えたところ、一回分を服用して下痢が数回ありました。するとたちまち手足が冷たくなって、煩躁悶乱し、悪寒、戦慄を発し、ガタガタとふるえ出し、危篤状態となったのです。この時急いで甘草乾姜湯を作って一服させたところ、即座に危篤症状が一掃されたというのです。これは下してはいけなかったものを下したためにショック症状を起こして、手足が冷たく心臓が衰弱し、急迫症状を発したので、この方を用い血行をよくし、冷えを温め、新陳代謝をよくしてよくなった例であります。
 その二は、「冷薬、すなわち解熱薬を服用したあとで手足が冷たくなった」例です。 一人の女の子が熱があって気分がすぐれない、食も進まないというので、小柴胡湯加石膏(ショウサイコトウカセッコウ)という解熱の処方を与えました。二、三回服用したところ急に手足が冷たくなって、喉が乾いてぼんやりして元気なく、煩悶の状が現われたので、これは逆治とさとって、急き甘草乾姜湯を与えたところ、たちまち治ったというのです。これは小柴胡湯加石膏という冷薬を与えたので、腹中が冷えて手足が冷たくなって、もだえ苦しみだしたものであります。
 もう一つ、「睡眠ののちによだれを流す病気」が治った例です。これは宇津木昆台先生の『古訓医伝』に載っている治験例であります。13才になる女の子が病気になって、多くの医師は肺結核という診断であった。いろいろ薬を与え、灸も長年すえたが治らない。全身の皮膚は黒くつやがなく、体を動かすと呼吸がせわしくなって、咳は少しもない。ただ涎沫を吐して、衰弱するばかりであった。よく聞きますと、眠りにつくとよだれが流れ出て、枕の下から夜具の下まで通るほどだというのです。これはすなわち肺痿涎沫を吐して欬せざるものに該当しているものと診まして、甘草乾姜湯を与えて治ったというのであります。以上で甘草乾姜湯は終わります。


※四支拘急(ししこうきゅう)? 四肢拘急(ししこうきゅう)のことか?


『類聚方広義解説(57)』  東京大学医学部第一内科 永井 良樹
 甘草乾姜湯・乾姜附子湯

 本日の『類聚方広義(るいじゅうほうこうぎ)』は甘草乾姜湯(カンゾウカンキョウトウ)と乾姜附子湯(カンキョウブシトウ)についてです。まず甘草乾姜湯の本文と註の部分を読んでみましょう。

■甘草乾姜湯

甘草乾薑湯 治厥而煩躁多涎沫者。
 甘草四兩二錢 乾薑二兩一錢
 右二味。以水三升。煮取一升五合。去滓。分温再服。
 以水一合二勺煮取六勺。
 
『傷寒。』脈浮自汗出。小便數。心煩微惡寒。脚攣急。反
 與桂枝湯。『欲攻其表。』此誤也。得之便厥。咽中乾。
 煩躁吐逆者。作甘草乾薑湯與之。以『復其陽』若
 厥愈足溫者。更作芍藥甘草湯與之。其脚即伸。若『胃
 氣不和。』讝語者。少與調胃承氣湯。若重發汗復加燒
 鍼者。四逆湯主之。○『肺痿。』吐涎沫。而不欬者。
 其人不渇。必遺尿。小便數。『所以然者。以上虚不
 能制下故也。此爲肺中冷。』必眩。多涎唾。甘草乾
 薑湯以溫。若服湯已。渇者『屬消渇。』
   爲則按。當有急迫證。


 「甘草乾姜湯。厥して煩躁し、涎沫多きものを治す。
 甘草(カンゾウ)四両(二銭)、乾姜(カンキョウ)二両(一銭)。
 右二味、水三升をもって、煮て一升五合を取り、滓を去り、分価値温め再服す(水一合二勺をもって、煮て六勺を取る)。
 傷寒、脈浮、自汗出で、小便数(さく)、心煩、微悪寒、脚攣急するに、かえって桂枝湯(ケイシトウ)を与う。その表を攻めんと欲するは、これ誤りなり。これを得てすなわち厥し、咽中乾き、煩躁吐逆するものは、甘草乾姜湯を作りこれを与え、もってその陽を復す。もし厥愈え足温なるものは、さらに芍薬甘草湯(シャクヤクカンゾウトウ)を作りこれを与うれば、その脚すなわち伸ぶ。もし胃気和せず、讝語のものには、少しく調胃承気湯(チョウイジョウキトウ)を与う。もし重ねて汗を発し、また焼鍼を加うるものは、四逆湯(シギャクトウ)これを主る。
 肺痿、涎沫を吐して、欬せざるもの、その人渇せず、必ず遺尿し、小便数、しかる所以のものは、上虚して下を制する能わざるをもっての故なり。これを肺中冷となす。必ず眩し、涎唾多し。甘草乾姜湯もってこれを温む。もし湯を服し已り、渇するものは、消渇に属す。
 為則按ずるに、まさに急迫の証あるべし。」

■甘草乾姜湯の頭註
 「この方、生姜甘草湯(ショウキョウカンゾウトウ)と同じく、肺痿を治す。しかれどもその之(ゆ)く所に至りては、すなわちまさに相反す。もって乾姜、生姜の主治の異なるを見るべし。
 この厥は、ただこれ誤治による一時の激動急迫の厥のみ。四逆湯の下利清穀、四肢拘急、脈微、大汗厥冷の比にあらざるなり。それ甘草の分量乾姜に倍するは、急迫を緩むをもってなり。咽乾、煩躁、吐逆の症を観て、もってその病情を知るべし。
 老人、平日小便頻数に苦しみ、涎を吐し、短気、眩暈起歩し難きもの、この方に宜し」。

■甘草乾姜湯の解釈
 「甘草乾姜湯。厥して煩躁し涎沫多きものを治す」と簡潔にまとめられています。体が冷えて苦しみ、唾液の多いものを治すという意味です。
 「甘草四両(二銭)」、一銭は一匁のことで3.75gですから、二銭は7.5gになります。甘草7.5g、乾姜3.75gを水三升(一合二勺、一合は約180ccですから約220cc)で煮て、煮詰めて一升五合(六勺、約110cc)にし、滓を去り、一日分を二回に分けてその都度温めて服用するということです。
 その次から『傷寒論(しょうかんろん)』からの引用になります。吉益東洞(よしますとうどう)の『類聚方』には、6行目の「肺痿」以下の『金匱要略(きんきようりゃく)』からの引用が先になり、それに続いて「傷寒」以下の文章が引用されてい移す。『類聚方広義』では『傷寒論』の文章が先に引先されています。
 「傷寒、脈浮、自汗出で」の文章は、すでに調胃承気湯の項、芍薬甘草湯の項に出てきました。また四逆湯の項にも出てきます。まったく同じ文章です。
 傷寒にかかり、脈が浮で、汗が出て、しきりに尿が出、胸苦しく少し悪寒があり、脚が引きつるものに、間違えて桂枝湯を与えた。このような患者に、表を攻めようとして桂枝湯を与えるのは間違いである。なぜなら「脈浮、自汗出で」「微悪寒」は桂枝湯の証として間違いではないのですが、「小便数、心煩し」「脚攣急」は桂枝湯の証ではないのです。しかし、とにかく桂枝湯が投与されてしまった。すると患者は「これを得てすなわち厥し」、つまり体が冷え、咽(のど)が乾き、苦しみ吐き戻したので、甘草乾姜湯を作ってこれを与えたところ、「その陽を復」した、すなわち体が温かくなった。そして体が温まり、足が温まったところで、芍薬甘草湯を作ってこれを与えたところ、脚の引きつれがとれて、脚が伸びやかになった。しかし消化器系の異常が取れず、うわ言をいうものには、少し調胃承気湯を与えるとよい。また重ねて汗を出させ、さらに焼鍼を使って発汗させた場合は、四逆湯が主治するところである、と述べられています。
 『傷寒論』では、甘草乾姜湯は、誤った治療によって病勢が急迫し、体が冷え、苦しみ吐き戻すといった状態になったところを改善する目的で使用されています。それに関連して頭註の第二節をみてみましょう。
 「主治の文に厥とありますが、甘草乾姜湯の適応となる厥は、ただ誤治によって一時的に急迫の状態をきたしたものであって、四逆湯が適応される下痢清穀、四肢拘急、脈微、大汗厥冷の比ではない」とあります。 註にはさらに「甘草の分量が乾姜の倍であるのは、急迫を緩めるためである。咽の乾き、煩躁、吐逆の状態をよく観察して、その病状を知らなければならない」と書かれています。
 『金匱要略』から引用された条文に移ります。「肺痿」とは肺の慢性虚弱性疾患で、肺結核などを含んでいましょう。肺病で、「涎」すなわち唾液を吐くが、咳は出ない、咽は乾かず、必ず小便を洩らし、尿が近く、必ず眩し、唾液の多いものは、甘草乾姜湯で温めてやるとよい。もし甘草乾姜湯を服用し終えて、咽が乾くものは、別の病気である消渇(糖尿病の類)に属する、というものです。
 「小便数」の後に「しかる所以のものは、上虚して下を制する能わざるをもっての故なり。これを肺中冷となす」とあります。肺病で、体の上部が虚して、体の下部を制御することができないので、尿を洩らしたり、頻尿になったりするのだ、これを肺中冷という、と註釈されています。
 ここで頭註の第一節をみてみましょう。この方は生姜甘草湯と同じく、肺病を治すけれども、患者の症状には反対のところがある。すなわち生姜甘草湯には、唾液が出るという症状があり、これは共通しますが、甘草乾姜湯にはない、咳が出、咽燥にして渇(咽が乾燥して水を欲する)という症状があるのです。この違いはまさに乾姜と生姜の違いによるのであると註釈されています。
 また頭註の第三節をみますと、老人で普段、小便が近く、唾を吐き、呼吸困難で、眩暈がし、歩行困難のものは、此の甘草乾姜湯がよいと述べられています。
 最後の行に「為則按ずるに、まさに急迫の証あるべし」とあります。為則とは吉益東洞のことで、甘草乾姜湯の適応される状態は急迫の症状があるだろうというのです。




『勿誤薬室方函口訣(16)』 日本東洋医学会理事 細野 八郎 先生
-乾地黄湯・甘草湯(傷寒論)・甘草湯(腹証奇覧)・甘草黄連石膏湯・甘草乾姜湯・甘草乾姜茯苓朮湯-

甘草乾姜湯
 この処方は『傷寒論』の太陽病篇に出ています。それによりますと、「桂枝湯(ケイシトウ)証に似ている傷寒に誤って桂枝湯を与え、手足が厥冷し喉が乾き、煩躁、嘔吐などの少陰病の症状を起こしてきた時に用いる処方」と書いてあります。
 宗伯の『古方薬議』の中で「乾姜(カンキョウ)はよく中を温め、飲を散ず」と述べてあります。わかりやすくいいますと、衰えている消化機能を高め、その結果水毒がとれるということです。このような乾姜に、さらに脾胃の働きを高める甘草(カンゾウ)を加えたのが甘草乾姜湯ですから、この処方は消化機能がかなり衰えている時に応用できるものと考えられます。またこの処方は必要に応じていろいろの生薬を加え、数多くの名処方を産み出す母体ともなっています。ちょうど芍薬甘草湯(シャクヤクカンゾウトウ)に桂枝(ケイシ)・大棗(タイソウ)・生姜(ショウキョウ)を加えて桂枝湯に、柴胡(サイコ)・枳実(キジツ)を加えて四逆散になるように、四逆湯になったり、人参湯小青竜湯になったりなど、甘草乾姜湯から有名処方が生まれてくるので、この処方をよく理解していただきたいと思います。
 『方函口訣』では「この方は簡にしてその用広し。傷寒の煩躁吐逆に用い、肺痿(はいい)の吐涎沫に用い、傷胃の吐血に用い、また虚候の喘息に此の方にて黒錫丹を送下す」と述べてあります。肺痿で熱状のない冷状のものに甘草乾姜湯を用いることが『金匱要略』に載っていまが、『方函』ではその条文をまとめて説明しています。
 すなわち「凡て肺痿の冷症は肺中が冷え、肺気が虚し、そのため津液を温和することができず、津液は集まって涎沫となったために唾が多く出るのである。そして咳もなく、喉も乾かず、寝小便をたれたり、小便の回数が多くなる。しかしこの時の唾は、熱症の時のように、濁った濃い唾ではなく、薄い粘りのないものである。こんな症状の時に甘草乾姜湯はよく効く。この薬を飲みにくくていやがるものには、桂枝去芍薬加皂莢湯(ケイシキョシャクヤクカソウキョウトウ)を用いると奇効がある。この処方を用いる時の唾液は濃厚で粘り気があるものではなく、肺痿の冷症に見られる薄い涎といわれるものである」と述べています。
 ここで肺痿というのは肺気が痿えてふるわない状態で、肺結核症のことです。このように肺痿の冷症に用いますが、脾胃に効く甘草と乾姜だけなのになぜ肺の機能もよくなるのでしょうか。これは痰は脾で作られ、肺で貯えられるという、脾と肺との相関関係があるからです。それで虚証ではまず脾の機能を高め、間接的に肺機能を強化する治療法をよく用います。たとえば実証の喘息では麻杏甘石湯(マキョウカンセキトウ)で即効がありますが、虚証になると、かえって悪化することがあります。こんな時に脾胃の機能を高める甘草乾姜湯とか、人参湯とかを用いますと、効果があるものです。
 『方函口訣』に、虚証の喘息には黒錫丹を甘草乾姜湯の湯液で服用せよ」と書いてあります。黒錫丹については、三二五ページに出ていますが、老人の虚喘に用います。私は黒錫丹を用いたことがありませんが、甘草乾姜湯を喘息によく用います。虚証で、手足が冷たく、食欲がなく顔色も悪い、冷えてくると発作が起こりやすいなどを目標に与えます。また、就寝前に服用させますと、夜間の発作を防ぐこともできます。また最近ふえてきているアレルギー性鼻炎にも、小青竜湯(ショウセイリュウトウ)麻黄細辛附子湯(マオウサイシンブシトウ)などとともに用いても効果があります。処方が簡単ですから、頓服として用いてもよいと思います。
 甘草乾姜湯は吐血に効果があると『方函』に書いてあり移す。『千金方』に「吐血止まざるものに乾姜の末を子供の小便で服用させるとよい」と述べてありますの、これは乾姜の止血作用によるものと考えられます。
 甘草乾姜湯の終わりのところで、『方函口訣』には次のように書かれています。「煩躁なくとも但吐逆して苦味の薬を用い難きもの、この方を用いてゆるむ時は速効あり」とあります。これについて龍野一雄先生は、こんな経験例を述べておられます。
 「ある日のこと、朝から嘔気があった。そこで喉に手を入れてみたが何も出てこない。そのうちに頭が重くなってきて、苦しくなってきた。そこで頭痛、嘔吐を目当にして呉茱萸湯(ゴシュユトウ)を飲んでみた。しかしこれを飲むと嘔気が強くなり、吐き出してしまった。脈を見てみると沈緊で、足は冷たい。これは寒の状態であると思いつき、甘草乾姜湯を一服飲んだところ気分もよくなり、やりかけていた仕事をどうにか終わりまですることができた」ということです。呉茱萸湯は苦味のある薬です。こんな時に甘草乾姜湯を与えればよいということを教えてくれた、貴重な先生の体験例です。
 甘草乾姜湯は、虚寒の証で、手足は冷たく、顔色も悪く、脈も沈みがちな人を目標にして、いろいろな症状に応用できます。嘔吐、下痢、食欲不振、唾液の多いもの、子供で唾を唾れ仲いるのがありますが、そういう時にも用います。またいろいろの場所の出血、便秘、喘息、アレルギー性鼻炎、夜尿症、月経痛など、いずれも冷えから起こってきた症状に用いて効果があります。


【参考】
甘草乾姜湯を含む漢方薬方
 1.小青竜湯(しょうせいりゅうとう)=甘草乾姜湯+麻黄+桂枝+半夏+芍薬+五味子+細辛
 2.苓甘姜味辛夏仁湯(りょうかんきょうみしんげにんとう)=甘草乾姜湯+茯苓+五味子+細辛+半夏+杏仁
 3.人参湯(にんじんとう)=甘草乾姜湯+白朮+人参
 4.附子理中湯(ぶしりちゅうとう)=甘草乾姜湯+白朮+人参+附子
 5.桂枝人参湯(けいしにんじんとう)=甘草乾姜湯+白朮+人参+桂枝
 6.四逆湯(しぎゃくとう)=甘草乾姜湯+附子
 7.通脈四逆湯(つうみゃくしぎゃくとう)=甘草乾姜湯+附子(四逆湯より甘草、乾姜の量が多い)
 8.四逆加人参湯(しぎゃくかにんじんとう)=甘草乾姜湯+附子+人参
 9.茯苓四逆湯(ぶくりょうしぎゃくとう)=甘草乾姜湯+附子+人参+茯苓
 10.半夏瀉心湯(はんげしゃしんとう)=甘草乾姜湯+半夏+黄芩+黄連+大棗+人参
 11.甘草瀉心湯(かんぞうしゃしんとう)=甘草乾姜湯+半夏+黄芩+黄連+大棗+人参(半夏瀉心湯より甘草の量が多い)
 12.生姜瀉心湯(しょうきょうしゃしんとう)=甘草乾姜湯+半夏+黄芩+黄連+大棗+人参+生姜(乾姜の量は少ない)
 13.黄連湯(おうれんとう)=甘草乾姜湯+半夏+桂枝+黄連+大棗+人参
 14.柴胡桂枝乾姜湯(さいこけいしかんきょうとう)=甘草乾姜湯+柴胡+桂枝+黄芩+牡蛎+括呂根
 15.苓姜朮甘湯(りょうきょうじゅつかんとう) =甘草乾姜湯+白朮+茯苓

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