健康情報

2014年6月17日火曜日

桂枝人参湯(けいしにんじんとう) の 効能・効果 と 副作用

漢方診療の實際 大塚敬節 矢数道明 清水藤太郎共著 南山堂刊
人参湯(にんじんとう)
人参 甘草 朮 乾姜各三・ 

別名を理中湯と云い、胃腸の機能を整調するの作用がある。
一 般に本方證の患者は、胃腸虚弱にして、血色があく、顔に生気がなく、舌は湿潤して苔なく、尿は稀薄にして、尿量多く、手足は冷え易い。また往々希薄な唾液 が口に溜まり、大便は軟便もしくは下痢の傾向である。また屡々嘔吐・目眩・頭重・胃痛等を訴える。脈は遅弱或は弦細のものが多い。腹診するに、腹部は一体 に膨満して軟弱で、胃内停水を證明する者と、腹壁が菲薄で堅く、腹直筋を板の如くに触れるものとがある。
本方は人参・白朮・乾姜・甘草の四 味からなり、四味共同して胃の機能を亢め、胃内停水を去り、血行を良くする効がある。従って急性慢性の胃腸カタル、胃アトニー症・胃拡張・悪阻等に用い、 時に畏縮腎で、顔面蒼白・浮腫・小便稀薄で尿量が多く、大便下痢の傾向のものに用い、また小児の自家中毒の予防及び治療に用いて屡々著効を得る。時として 貧血の傾向ある弛緩性出血に、前記の目標を参考にして用いる。
本方に桂枝を加えて、甘草の量を増して、桂枝人参湯と名付け、人参湯の證の如くにして表證があって発熱するものに用いる。
また人参湯に附子を加えて、附子理中湯と名付け、人参湯證にして、手足冷・悪寒・脈微弱のものに用いる。



漢方薬の実際知識 東丈夫・村上光太郎著 東洋経済新報社 刊
8 裏証(りしょう)Ⅱ
虚弱体質者で、裏に寒があり、新陳代謝機能の衰退して起こる各種の疾患に用いられるもので、附子(ぶし)、乾姜(かんきょう)、人参によって、陰証体質者を温補し、活力を与えるものである。

各薬方の説明
1 人参湯(にんじんとう)  (傷寒論、金匱要略)
〔人参(にんじん)、朮(じゅつ)、甘草(かんぞう)、乾姜(かんきょう)各三〕
本 方は、理中湯(りちゅうとう)とも呼ばれ、太陰病で胃部の虚寒と胃内停水のあるものを治す。貧血性で疲れやすく、冷え症、頭痛、めまい、嘔 吐、喀血、心下痞、胃痛、腹痛、身体疼痛、浮腫、下痢(水様便または水様性泥状便)、食欲不振(または食べるとながく胃にもたれる)、尿は希薄で量が多い などを目標とする。本方の服用によって、浮腫が現われてくることがあるが、つづけて服用すれば消失する。五苓散(ごれいさん)を服用すれば、はやく治る。 本方を慢性病に使用するときは丸薬を用いる。
〔応用〕
つぎに示すような疾患に、人参湯證を呈するものが多い。
一 胃酸過多症、胃アトニー症、胃下垂症、胃カタル、胃拡張症、胃潰瘍、大腸炎その他の胃腸系疾患。
一 萎縮腎その他の泌尿器系疾患。
一 心臓弁膜症、狭心症その他の循環器系疾患。
一 肋間神経痛その他の神経系疾患。
一 肺結核、気管支喘息、感冒その他の呼吸器系疾患。
一 吐血、喀血、腸出血、痔出血、子宮出血などの各種出血。
一 そのほか、悪阻、肋膜炎、糖尿病など。

2 桂枝人参湯(けいしにんじんとう)  (傷寒論)
人参湯に桂枝四を加えたもの〕
人参湯證で、表証があり、裏が虚し(特に胃部)表熱裏寒を呈するもの、特に動悸、気の上衝、急迫の状などが激しいものに用いられる。発熱、発汗、頭痛、心下痞、心下痛、心下悸、四肢倦怠、足の冷え、水様性下痢などを目標とする。
〔応用〕
人参湯のところで示したような疾患に、桂枝人参湯證を呈するものが多い。
その他
一 偏頭痛、常習性頭痛など



明解漢方処方 西岡 一夫著 ナニワ社刊
p.64
桂枝人参湯(けいしにんじんとう) (傷寒論)

処方内容 桂枝四・〇 甘草 朮 人参各三・〇 乾姜二・〇(一五・〇)

必須目標 ①下痢(稀には兎便のような便秘)  ②表証(発熱、悪寒、頭痛)がある、頭痛を訴えることが一番多い  ③脉は弱い ④胃部痞えている。

確認目標 ①手足倦怠感  ②下痢は水瀉便で粘液や血を混じえていない ③自然発汗する ④腹痛なし。

初級メモ ①本方は所謂協熱利といわれる表位に熱症状があり裏に寒症状のある下痢を目標にする。表熱には桂枝甘草湯、裏寒には人参湯の行くところで、この両者の合方である。

②平常人参湯を用いるような虚弱体質の人が感冒に罹り表熱症状を伴って下痢するときに用いる。もし丈夫な人で裏寒がないなら葛根湯五苓散を考える。

中級メモ ①たとえ下痢しなくても裏寒の証(小便自利、冷えると胃が痛むなど)のある人の表証(頭痛)に用いてもよい。
 ②南涯「表裏に病めるなり。心下に血凝って気行かず、表裏に熱あって水を逐う者を治す。その証に曰く、心下痞硬これ血凝って気行かず(人参主之)なり。曰く数(しばし)ば之を下すはその逆を示す。曰く協熱利、表裏解せずは表裏に熱あるなり。利下まずといって下痢といわざるは、この利、気行かずして水下降する者に非ずして熱のために逐わるる利ゆえなり。曰く協熱して利するには黄芩を用いず桂枝を加える所以な責」。この南涯の説は裏寒を否定していて、いささか不審の点がある。

適応証 陰証体質の急性腸カタル。感冒。

文献 「桂枝人参湯による常習頭痛の治療」藤平健(日東医15、2、27)
    「桂枝人参湯に関する諸家の説」奥田謙蔵(漢方と漢薬7、9、79)

『漢方臨床ノート 治験篇』 藤平健著 創元社刊
p.346
桂枝人参湯による常習頭痛の治験

〔1〕緒言
 常習頭痛(以下常頭と略)は、疾患そのものとしてはさほど重要性をもつものではないが、患者自身にとってはかなり苦痛の大きい疾患である。しかも本症は、根治がきわめて困難であるために、発病の当初においてはこれを根治しようと努力するものの、やがてあきらめて、ただ対症療法としての一時しのぎにのみ走るようになるのが常である。その結果は胃腸をもそこねて、頭痛と胃腸障害の二重の苦痛に悩まされ続けているものも決して少なくはない。私は或る機会から、私自身の「常頭」に桂枝人参湯を応用して著効を得た。以来本方を相当多数の「常頭」に用いてみて、本方が「常頭」に頻用さられる可能性の多い、しかも根治的効果のある薬方であることを知ったので、ここにこれを報告し、大方の御追試と御批判とを得たいと思う。

〔2〕治療症例
 症例は二十四例(女性二十例、男性四例)である。
 発病は三ヵ月前、あるいは二年前というような比較的新しい例もあるが、大部分は十年ほど前からの古い、いわゆる持病となっているものが多く、中には四十年前からというような古つわものもある。
 頭痛の程度は、おおむねの目やすで、発作時のそれが、つらく不愉快であるが、仕事は続けされる程度のものを(+)とし、仕事が手につかなぬ程度のものを(++)とし、とても激しくて横臥を余儀なくさせられる程度のものを(+++)とした。(+)は七例、(++)は十四例、(+++)は三例である。
 胃症状は「常頭」の発作の際よく出現する胃部のもたれ感、膨満感、不快感等を総称したのであるが、五症例を除いた他の例のすべてに、これが見られる。
 桂枝人参湯証には下痢を伴うのが原則であるが、ここに取り上げた症例に関する限りでは、それは見られない。
 脈は発作時に診たものは少ないのであるが、一般に虚脈の傾向を呈している。
 舌は、乾湿その他がまちまちで、一定していない。腹力は中等度のもの四例を数えるが、他は軟か、やや軟で、虚状を帯びるものがきわめて多い。
 心下痞は全例にこれを認める。
 治療日数は、早いものでは二週間あるいは三週間でよくなっているものもあるが、長いのは一年近くかかっている。
 治療成績は、第1・2・3・6・7・12・13・16・17・18・21・23の各症例では、現在のところ再発を見ておらず、うち数例などは会う機会ごとに感謝される状況であるが、第10・14・20の三症例にはすでに再発を見ている。まだ実験の期間が短いので、詳細な遠隔成績が出せないのが遺憾であるが、この件に関しては後日折を見て報告したいと思う。

〔3〕治療方剤の内容
 本症に用いた治療方剤である桂枝人参湯の処方内容は、奥田謙蔵氏著『漢方古方要方解説』所載の二回量を一日分として与えた。すなわち、桂枝6.4g、人参4.8g 甘草6.8g 白朮4.8g 乾姜4.8gである。なお人参はすべて竹節人参を用いた。ただし、これを用いたのは第1症例から第14症例までであって、あとの症例には、K製薬会社の人参湯の粉末エキス1.8gに桂枝末0.3gを加えたものを分二(一日量)として与えた。
 『傷寒論』に示されてある人参湯および桂枝人参湯の分量は、人参湯は「人参・甘草・白朮・乾姜各三両」で、桂枝人参湯は「人参・白朮・乾姜各三両、甘草・桂枝各四両」である。すなわち人参湯の甘草の量を一両増し、さらにこれに桂枝四両を加えたものが桂枝人参湯である。したがって人参湯エキスに桂枝末0.3gを加えたものは、厳密にいうと、桂枝人参湯とは組成的にやや異なったものとなる。
 甘草の増量は一応措いておいて、桂枝人参湯中の人参湯の量と桂枝の量とを比較すると三対一になる。したがって人参湯エキス1.8gに対して桂枝末0.6gを配合すべきはずであるが、これでは桂枝末の量が多過ぎると考えて、その半量にしたのである。原典の桂枝人参湯の煎法のところに、「右五味、水九升ヲ以テ、先ヅ四味ヲ煮テ、五升ヲ取リ、桂ヲイレ、更ニ煮テ三升ヲ取ル」と指示せられてあるが、これは、おそらく、桂枝の揮発性分をあまり逃がし過ぎないための経験上からの知恵であろう。とはいえ、人参湯エキスに桂枝末を加える場合、前述の比率そのままの0.6gを加えることは、常識的にも多きに過ぎる。
 私はかつて、苓桂朮甘湯をエキス化するに際して、桂枝の揮発成分を、装置を使って回収し、その全量を粉末エキスに加えるようにしてみたところ、これを白湯に溶解して服用する際、口中に長くとどめ難いほどの辛味を感じたばかりでなく、それを服用したあとも、胃の調子が変になったという経験がある。
 そこで、0.6gの半量あたりの桂枝末を添加することがよいのではないかと考えて、前述の如く、人参湯エキス1.8gに桂枝末0.3gを加え、これを一日分量として用いてみたところ、味わいも、効力も、ほぼ桂枝人参湯の煎液に等しい状態を得ることができた。それにしても、このエキス剤は、原方に比べて甘草の量が若干少ないわけであるが、使用してみると、原方と同様にきわめてよく応ずる。第10症例は、桂枝人参湯を四十九週間使用して、具合はよいのであるが、なかなか根治の域には達せず、なお月一回ぐらいの割で頭痛が現われるのであるが、それも本方を使用することにより直ちに氷解するので、当人は大いに感謝しているわけなのである。ところが経済的な理由から自由診療を受けることが困難になったので、保険診療操作のきくエキス剤に切り替え、現在も引続きこれを服用しているが社当人の言によれば、煎剤同様にエキス剤も実によく効くという。すなわち、この例から見ても、原方による煎剤と、私の用いたエキス剤とは、ほぼ同様の効果があるものと考えられる。このエキス剤では、明らかに原方に比べて甘草の量が不足なのであるが、効果の点ではほとんど差がないという事実は、種々と考うべき問題を含んでいると思う。

〔4〕総括ならびに考按
 常習頭痛の真の原因は西洋医学的にもいまだ不明とされているが、その発現機序としては、脳内血管の拡張によって起こると考えられる血管性要因、頭や頸の持続性収縮によって惹き起こされると思われる筋肉性要因、精神的な葛藤にもとづくと推定せられる心因性要因等のほか、内分泌障害、アレルギー、ビタミンその他の食餌性欠乏、自律神経の不安定状態、諸種の中毒、肝または胃腸の障害、眼障害、頭部外傷等の種々の要因が挙げられている。
 そしてその治療としては、頭痛の発作時の治療と、その予防との二面のそれが行なわれている。
 発作時の治療としては、アミノピリン、フェナセチン、カフェイン、酒石酸エルゴタミン、バルビツール酸誘導体、コントール、フェノチアジン誘導体等が、単独かまたは併用して用いられ、間歇時の予防法としては、精神的緊張の排除、胃腸等の整調、心因性要因の排除等につとめるとともに、ビタミン療法、食餌療法、内分泌療法、抗ヒスタミン剤、鎮静剤、トランキライザー等の応用が行なわれている。しかしこれらのいずれもが、発作を抑制し得るものではないとされている。
 要するに、西洋医学的には、発作の一時おさえ以外には、根治的な治療法は未だ適確なものはないわけなのである。
 常習頭痛に対する漢方の頻用薬方としては、古方では呉茱萸湯、桂枝加桂湯があり、後世方では半夏白朮天麻湯、香芎湯がある。これらの薬方や、その他によっても解決のつかない場合にしばしば遭遇するものであるが、そのような場合に、一度は本方を応用してみるのも、決して無駄ではないと思う。
 本方の応用目標は、『傷寒論』には「太陽病、外証未ダ除カズ。而シテ、シバシバ之ヲ下シ、逐ニ協熱シテ利シ、利下止マズ。心下痞硬シ、表裏解セザル者」とあり、『方極』の条には「人参湯証ニシテ、上衝急迫劇シキ者」となっている。応用目標のうちの主目標は協熱利すなわち表証がそのまま残って、しかも裏が虚して下痢したものであって、すなわち体質のやや虚弱なものの、発熱を伴う下痢に応用せられる場合が最も多い。
 私は、私自身常習頭痛の経験者であるが、かつては呉茱萸湯がよく応じたのに、ここ数年それが応じなくなり、ふとした機会に、頭痛、嘔吐、下痢、脈浮という状態の頭痛発作から、桂枝人参湯証に思いが及び、それを服用したところ、頓坐的に発作が治まった。これを数日服用することによって、以後この発作が出現しなくなったのである。
 この経験から、頭痛、上衝という病理概念の重要な一症状であるから、これがあ改aて、さらに下痢があれば、本方証として一応妥当と認められるのであるが、あるいは下痢がなくても「上衝急迫」の一証で、「常頭」に応用できるのではないかと推量し、これを応用してみたところ、既述のような成績を得たわけである。
 このような、下痢もない頭痛に本方を用いて、なおかつ有効であるというのは、いささか奇異に感ぜられないこともない。しかし考えてみれば、他の薬方においても、本来の応用目標からかなり外れたものに対しても頓用せられているものがある。たとえば、肋膜炎に対する小青竜湯加石膏、翼状片に対する越婢加朮附湯、肩こりに対する葛根湯、小児の鼻づまりに対する麻黄湯等の如きはそれであろう。
 さて以上の経験から、桂枝人参湯が常習頭痛に用いられるための目標を整理してみると次のようになる。
 (a) 虚証であること。
 (b) 脈は軟、沈、細、等。
 (c) 舌は乾湿まちまちであるが、一般には湿潤した微白苔である場合が多い。
 (d) 腹力は中等度以下で、上腹部の正中線に軽度の抵抗と圧痛とがあるが、これは剣状突起直下にある場合と、中脘の付近にある場合との二種類の場合があるようである。
 (e) 上腹部の振水音は、ある場合と、ない場合と、まちまちである。
 (f) 下訳は、発熱のある場合と、ない場合があるが、常習頭痛は下痢のない場合の方が多い。

〔5〕結論 
 私は常習頭痛に或る機会から桂枝人参湯を用いて、かなり効果をみた。本方はもちろん常習頭痛の特効薬ではないが、長年本症に苦しむ人に、上述の応用目標にしたがって用いるときは、予期以上の効果を挙げ、予期以上のよろこびをもたらすことができる場合がある。
(「日本東洋医学会誌」15巻2号、昭和39年11月)


※ 桂枝人参湯中の人参湯の量と桂枝の量とを比較すると三対一になる。したがって人参湯エキス1.8gに対して桂枝末0.6gを配合すべきはずであるが、これでは桂枝末の量が多過ぎると考えて
(コメント)
一般に煎じる場合と粉末にして用いる場合とは、使用量が異なる。
目安としては、散として用いる場合は、湯として用いる場合の四分の一程度。
例えば、散としても湯液としても良く用いられる安中散について、
『漢方診療医典』 では、桂枝4 延胡索3 牡蛎3 茴香1.5 縮砂1.5g 甘草1 良姜0.5 の合計14gを煎じて1日量とするが、
末とする場合は上記を末として、毎回1.0~2.0gを1日2~3回服用するとするとなっているので、
1日量は、2~6gとなる。
湯液の14gと比較すると、散剤は、一割四分~四割三分程度となる。
以上より、桂枝末の量は更に減らしても良いもの考えられる。

また、K社の人参湯エキス1.8gと書かれているが、これには賦形剤等が配合されている可能性がある。(量が少ないので、賦形剤は含まれていない可能性も高い。)

更に言えば、エキス量と粉末の量との比率を論じる点にも問題があると思われる。
エキス剤に含まれるもとの生薬との比較にした方がよいと思われる。

例えば、小太郎漢方製薬株式会社の「コタロー人参湯エキス細粒」は、

本剤6.0g中  日局 ニンジン3.0g、日局 カンゾウ.3.0g  日局 ビャクジュツ3.0g  日局 カンキョウ.3.0g
上記の混合生薬より抽出した人参湯の水製乾燥エキス3.2gを含有する。
添加物としてステアリン酸マグネシウム、トウモロコシデンプ ン、乳糖、プルラン、メタケイ酸アルミン酸マグネシウムを含有する。

となっているので、このもとの人参、甘草、白朮、乾姜との比率から桂枝の量を検討すべきであると思われる。


※揮発性分? → 揮発成分 or 揮発性成分 と思われる。


p.357
頭痛の治験例
〔第6例〕常習頭痛
 33歳の主婦。初診・昭和38年12月27日。
 患者は痩せ気味の、顔色の蒼白な中背の婦人。25歳の頃から一日として頭痛に悩まされない日はない。頭痛は起床したから就寝するまでつづき、それが激しいときには嘔吐を伴う。デパートに出かけたり、PTAの会合に出たりしたあとは、それが一層はげしくなる。約三年前からは、三日に一度くらいの割で、いわゆる胃痙攣の症状が起きて、その痛みにひどく苦しむ。
 いろいろと諸治療を受けたが、何としてもよくならないので、もう半ばあきらめていたところ、主人の会社の同僚の奥さんが同じような症状であったのが、ここの漢方の治療で治ったので、ものは試しと来てみたのだという。

〔自覚症状〕 みずおちがもたれ、痛み、胸やけがして、背中が張る。項背の凝ることも多い。口中の乾燥感が常にあって、食欲を感じたことがない。腰以下がしばしば冷えたり痛んだりする。少しの仕事にもすぐ疲れてしまう。睡眠は大体よい。大便は秘結して三日に一行。小便は近くて一日に十数回、夜はない。月経は順調である。

〔他覚症状〕 中背、痩せ気味で、顔もからだも皮膚の色が蒼白い。脈は沈の気味で軟。舌は湿潤していて苔がない。腹は全般に軟弱無力で、中脘あたりに軽い抵抗と圧痛とがある。臍の左斜上および下各々二横指の付近にも軽い抵抗と圧痛とがある。
 以上の自他覚症状から、本症は定型的な陰虚証であることが明らかである。便秘はあるが、おそらくこれは虚秘であろう。ここで私は自信をもって桂枝人族湯を投じた。効験はまことにあらたかで、一週間後には頭痛は半減し、二週間後にはほとんど感じなくなり、食欲も大いに亢進し、一ヵ月後には頭痛はもちろんのこと、胃痛の発作も全く消退して、仕事に対する意欲が湧いてきた。今日も隣家の奥さんとバスに乗ってきたところ、その奥さんから、あなたはいつもバスに酔うのに今日は平気ね、といわれ、最近バスに酔わなくなっていることに初めて気付いたという。ここまでくれば、どうやら卒業も近いようである。
 さて、さきに「私は自信をもって桂枝人参湯を投じた」と書いたが、これには少々わけがあるのである。だいたい桂枝人参湯で常習頭痛が治ったなどという例は、私の知る限りでは、古今を問わず、あまり報告されていない。常習頭痛といえば、古方ではまず呉茱萸湯、ついで五苓散、桂枝加桂湯などに思いが及ぶし、後世方では第一番に半夏白朮天麻湯、ついで川芎茶調散などを思い起こすというのが一般的な順序ではなかろうか。ところが最近の私は、常習頭痛といえば、まず真先に桂枝人参湯を考える、というふうになってしまっているのである。ことほど左様に桂枝人参湯の常習頭痛に対する応用頻度は高率なのであって、であるからこそ「自信をもって」投薬したのである。
 ではなぜ、いわゆる協熱利――すなわち表熱がそのまま残ってしかも裏が虚して下痢するという症状――が桂枝人参湯証の主要構成分子であるにもかかわらず、熱もなく、また下痢もない虚証の常習頭痛に本方を用うるに至ったか、という経緯につ感ては、本年度の日本東洋医学会の総会で詳細を述べる予定なので、ここでは省略させていただくこととする(本書346~354頁収録「桂枝人参湯に版る常習頭痛の治験」参照)。
 とにかく、デパートを巡って来たあととか、PTAの会合に出席した直後とか、二~三日間甚だしい過労が続いた後とかに、きまって来襲するのを常とする激しい頭痛で、脈や腹が虚しており、心窩または中脘のあたりに中等度以下の抵抗と圧痛とがある患者には、ぜひ一度本方を試みていただきたいのである。それこそ「旧痾洗うか如し」という形容の通りに、長年の頭痛が、拭うが如くに消え去って、感謝感激されるいくつかの例に必ずやぶつかるはずである。
 ここで私は、『傷寒論』や「金匱要略』に出ている薬方だけでも、研究次第で、いまの流行語でいえば開発の仕方一つで、まだまだいくらでも多くの応用面が見出され得るのではなかろうか、と考えざるを得ない気持になってきたのである。尾台榕堂翁が『方技雑誌』の巻頭で『余五十年来、仲景方バカリ使ヒ来リシ故ニ、古方ハ家常茶飯ノ如クニナリテ、如何ヤウノ病人ニテモ、仲景方ニテ窘塞ススコトナク、又闕乏スルコトナシ。……余鈍次為才ト雖モ、少ヨリ雑学セズ、一意専心ニ仲景ノ法方ニ従事セシ故、古方使用ノ自由ヲ得ルニ似タリ。此一事ハ海内広シト雖モ、敢テ他人ニ譲ラズ」と豪語したのも、決してひとりよがりの広言ではないと思う。
(「漢方の臨床」11巻3号、昭和39年3月)

※窘塞:行き詰まる
※闕乏:欠乏、不足する


p.361
〔第8例〕
 42歳の婦人。初診・昭和57年3月11日。
 数年前から偏頭痛が始まり、最近は、月に数回、ひどいときには週二回ほど頭痛発作が起こる。現代医学的な治療も受けているが、鎮痛剤を投与されるだけで、根治はしない。このごろは市販の鎮痛薬で痛みを止めているが、だんだん胃の調子も悪くなってきたので、漢方でなんとか治してもらえないか、との訴えである。

〔自覚症状〕 手足が冷えがちで、強いていえば多少のぼせる傾向がある。頭痛の発作が終わるころ、ときどき吐くことがある。下痢はない。

〔他積症状〕 やや背が高く、多少ほっそりとした体格で、顔色は普通である。脈は弦でわずかに弱。舌には乾湿中等度の白苔が中等度にある。腹力は中等度よりやや軟。心窩部に軽い抵抗と圧痛がある。
 桂枝人参湯証と認め、エキス剤6gを分二として投与した。
 二週間後に再院。発作の回数は少なくなったがまだあるという。同じ処方を続投する。その後、経過は順調であったが、9月に来院したとき、多少便秘の傾向があるというので、桂枝人参湯に大黄エキス0.6gを加えて投与した。
 その年の春まで、頭痛発作の回数は少なくなったが、まだときどき出る状態がつづいていた。
 翌年2月21日に来院。まだときたま軽い頭痛が起きるが、吐くことはなくなった。通じも快調であるという。同じ処方を投与。
 その後しばらく来院しなかったのであるが、6月4日に来院した折の話では、もう完全に頭痛が起きなくなり、体調も非常によいという。そこで治癒と認め、同じ処方を三週間分投じて廃薬とした。
 (未発表のカルテより、昭和59年1月)

p.367
甲斐駒冬山行と頭痛と
 妙な題であり、妙な取り合せである。私自身そう思うのであるから、読者諸賢におかれては、なおさらその感が強いに違いない。実は、この正月南アルプス甲斐駒岳に登り、その最中に激しい常習頭痛の発作に襲われた。最初はカゼと思い込み、後に常習頭痛とわかったのであったが、このような際、いかなる薬方を用うべきやの解答が得られずに山を降りたのであった。ところが、十日後に再び同様の発作に見舞われて、今度はどうやらその答えが得られたので、その自己治験を書いてみようと思ったのである。それで当時の日記をひっくりかえしてみると、あの素晴らしかった冬山行の思い出が髣髴(ほうふつ)として眼前によみがえってきた。治験もお伝えしたいが、この冬山行の模様も紹介したい、という欲が出て、二兎を追うの愚は重々知りながら、かくは奇妙な取り合せの題を付ける仕儀とは相成ったのである。以下は当時の日記からの抜萃である。
 38年元旦 快晴。
 お屠蘇をいただき、おせち料理を食べて、直ちに甲斐駒登行に出発。六貫(22.5kg)のリュックがズシリと肩に重い。手違いで、木更津組と千葉駅で合流できず、ようやく新宿で落ち合う。リーダーは木更津山岳会会長の春田氏。齢はとって62歳。短身痩躯ながら壮者をしのぐ元気と敏捷さの持主。総勢十八名の内訳は高校生、BG、銀行マン、公務員と、職種の雑家なる如く、年齢も種々。もっとも定型的な社会人パーティーと申すべきか。
 汽車はすごい混雑で、文字通り足の踏み場もない始末。10時30分発、2時30分韮崎着。バスからトラックに乗りついで、駒ヶ嶽神社前の尾白荘に着いたのは午後4時半。食後、いろりで歓談するが、異常に眠い。眠気ざましに屋外に出ると、踏む土はカンカンに凍てついていて、中天の月は銀のように白い。
 1月2日 くもり、時々小風雪。
 7時半出発。尾白川を吊橋で渡って、間もなく急登となる。11時粥餠岩着。小風雪の中で焚火をつくり、一時間の大休止をとって昼食。途中、旧臘28日、頂上付近で落下骨折し、ようやくここまでおろされて来た会社員の救援隊一行を、はるか下方、尾白川の右岸に望遠。桑原々々、このようなことになってはと、各自自重を誓う。風雪の中を刃渡りを過ぎ、刀利夫の梯(はしご)場も無事に通過して、4時半、五合目小屋に着く。
 早くも陽の落ちた中を、薪切り、雪とかしと、一同大多忙。夏の南ア聖岳登行では、頂上でテンプラを、というのが念願で、見事その願いが果たされたのであったが、その当時から次の甲斐駒冬山行ではサシミを、と聞いていたのであった。ところが、これまた見事に願いがかなえられて、一同素晴らしいマグロのトロの味覚に舌鼓を打ったのであった。BG大岩さんの作ってくれたそばがあまりにもうまく、いささか過食したせいか、食後急に下腹が張ってきて、夜中に苦しくなる。少し下痢した。
 1月3日 曇。
 ビニールカバーで覆ったシュラーフザックは、からだから出る蒸気で蒸れて、表面がビショビショ。覆わねば寒いし、覆えばかくの如し。ふたつながら良いということは、いつの場合にもなかなかむずかしいものだ。
 雪をとかして水をつくり、針葉樹の小枝や葉っぱの入ったにぎやかな雑煮を、けむい、いぶり小屋の中でパクつく。雪山讃歌ではないが、けむい小屋でも黄金の御殿とは、よくぞ言ったものだ。いかにけむくても、むさくるしくても、小山屋での味はまた格別。
 朝、起きぬけから頭痛とさむけがする。こんな所でカゼをひいたらかなわない。脈浮やや緊の状態なので、麻黄湯エキス1gをのむ。
 8時出発。天気はあまりよくない。間もなく小風雪。11時、不動岩着。垂直の岩壁に鎖がかかり、足場が切ってある。15メートルほどののぼりで、大したことはないのであるが、それでも万一足を踏みはずせば、それこそ千仭の谷底に落下するのであるから、一応の緊張を必要とする。ガイドさんを含めて十九名の隊員がここを通過し終ったのが12時。その間、悪寒と頭痛に悩まされて、麻黄湯エキスのむこと二回。
 2時半、七丈小屋に着く。五合目小屋よりはるかに上等。それに、五合目小屋では他に二パーティーの合客があったが、ここはわがパーティーで独占だ。小倉重成先生が、例によって犠牲的精神を発革し、せっせと掃きかつ床を拭く。ものぐさの小生も、つられてそれを手伝う。
 30日来、多少カゼ気味で、軽い頭痛と悪寒とが出たり引っこんだりしていたが、今朝からそれが激しくなって来た。はじめは、脈浮緊だったので、麻黄湯エキスを服し、登行中もそれを服しつづけたが、どうもハッとしない。小屋についてからも、ますます悪寒が甚だしく、脈は浮数弱と変って、頭痛も甚だしいので、桂枝湯を連服。これでも全く応ぜず、悪寒と頭痛はつのるばかり。持参シタチョッキその他を全部着込み、ヤッケとオーバーズボンをつけてもなお寒い。食欲も落ちて、そばをかるく一杯食べただけ。心下がなんとなくつかえて、ややむかつく。急に立ち上がると、心臓部が妙に嫌な気持になって、倒れるのではないかという感じがして、乾かしておいたシュラーフを小倉さんにとってもらうありさま。会員の合唱に加わる気力も全くなく、早目にシュラーフにもぐる。しかしからだ中が違和感で寝苦しく、どうしても寝つかれない。心窩部が次第に張ってきて、次いでむかついてくる。一同がシュラーフにもぐり込み、すやすやと寝息を立てはじめて間もなく、どうにもたまらなくなって這い出し、手さぐりでオーバーシューズをつけ、小屋の外に飛び出して、胃中のものを残らず吐き出す。万物みな森閑とした闇に沈んでいるなかに、降る雪の音だけがサラサラと耳を打つ。明当の登頂を思い、心は暗い。
 ここに至って明らかとなった。これはカゼではなく、例の水毒の激動による、常習頭痛の発作であったのだ。一体、これをどうやってカゼと区別すべきか。また薬方は何を処すべきか。とにかく吐いたら楽になった。ようやく寝入る。夢の中で、これこそ半夏白朮天麻湯の証なのだ、とさかんに合点する。夢のお告げというのに当たるのかもしれないが、めざめて考えてみると、どうも半白天麻の証ではなさそうだ。
 1月4日 晴。
 起きてみると、頭痛がまだわずかに残り、起ち上がると少しふらつくが、悪寒は全くなくなっている。朝の雑煮の餅を二つ頬張ると、はや全く普通の状態となった。
 外に飛び出してみると、鳳凰三山が重なるようにして、紅にかがやく御来迎の中に浮かび上がっている。あいだをへだてる谿谷からは、雪煙がさかんに舞い上がっては降りている。しめた、今日は晴れるぞ。
 9時半、全員勇躍して軽装で出発。ワカンでラッセルしてくれる先頭の苦労に感謝しつつ、写真を撮りながら最後尾を登る。群青の空、それをくぎる銀白のスカイライン。朝日にきらめく純白の霧氷。ただ夢中になってシャッターを矢つぎ早やに切る。遠くに目をやると、鳳凰三山、秩父の連嶺、金峰が、あるいは近く、あるいは遠く、頂に雪の衣をつけて連なりそびえている。金峰の頂には、かすかながらも五丈岩も見える。それにつづく八ヶ岳の悠然とかまえて勇姿は、残念ながら八合目あたりから上が雲にかくれて見えぬ。つづいて霧が峰、南アの峰峰。ただもう感激に快哉を叫ぶのみ。
 12時、八合目の石の大鳥居に着く。眺望はますます拡がる一方だ。駒のバットセルは目の前にそびえ立ち、その左、鋭い切れ込みをへだてて摩利支天が屹立している。その左には栗沢山、つづいてアサヨ峰、さらにその左には南アの主峰北岳が雪煙の中に見えつかくれつしている。
 天候われに味方して、陽光は燦然としてこの白銀の殿堂にふりそそぎ、空はあくまで青く、白雲去来して、天国とはまさにかくやと思うばかり。そっちに走り、こっちに返って、シャッターを切りまくっているうちに、早くも小一時間が過ぎてしまった。
 1日、八合目から引き返す。小屋をかたづけ、軽食をすませたのち、2有40分出発。4時15分、五合目小屋着。ここに沈没するか、それとも強行して山麓の尾白荘まで長駆するかを、リーダーに問われ、全員強行に賛成。よってここを素通りして、一路山麓をめざして下る。まだ明るいうちに、不動岩の嶮や、刃渡りを過ぎることができたのは幸いだった。刃渡りを渡り終えて右手を見ると、富士が夕陽に片側を茜に染めながら、いままさに夕闇の中に没し去ろうとしているところだった。と見ると、今まで白々として中央にあった昼の月が、にわかに輝きを増しはじめた。ときどき風が強く吹きぬけるが、依然として雪が降らぬのは有難いかぎり。月あかりをたよりに、雪の夜道をひた下りに下る。
 9時近く、尾白荘に着く。まさに十二時間に近い時間を、登降を連続したことになる。疲れもなく、頭痛も悪寒もなくて、快適そのもの。
 薬方は、やはり見証で、 昨日の桂枝湯でよかったのだろうか。でなければ、一回の吐出で、今日こんなに元気でおられるはずはないのではなかろうか。
 山を下る道に、はたしてこの際何を用うべきであったかを、小倉氏と語り合う。結局結論が出なくて、宿題ということにする。
 10時すぎ夕食を終え、11時就寝。
 1月14日 晴。
 朝から、下痢と心窩部の膨満感とに苦しめられる。昨夕外食した折のエビフライが悪かったか。桂枝加芍薬湯エキスを服し、ややよし。
 夕刻、コロナ会の新年会に出席している最中に、急に悪寒がおそってきた。脈浮やや緊。頭痛なく自汗なく、関節痛なく、項背強なし。カゼだな、と思いつつ、麻黄湯エキス1gを間をおいて都合二回のむ。幾分よし。10時帰宅。少し頭痛が出て来た。また麻黄湯エキスをのみ就寝。
 1月15日 晴、強風。
 夜中、頭痛と心窩部の膨満感に苦しめられて、しばしばめざめる。夜明けに下痢。少しむかつくので、吐出しようとしたが、あまり出ない。
 今朝もなお依然として、頭痛、悪寒、心窩部観満感が強い。脈は浮やや弱。心窩はやや抵抗があって、圧に対し非常に不愉快である。
 これはやはり、カゼではなかったのだ。まただまされた。この状態は、3日の山小屋での経験と全く同じだ。
 頭痛、悪寒、脈浮弱の表証に、心下痞硬、下痢の裏証があって、これはまさに協熱利ではないのか。表裏双解の剤、桂枝人参湯を用いるべき正証ではなかろうか。さっそく同湯を作り服するや、ほぼ一時間後には、頭痛も悪寒もほとんど感じなくなり、午後に至って完全に正常となった。
 正月の甲斐駒登行中、小倉さんと話し合って、このような時には一体何を処すべきなのだろうと、宿題にしたのであったが、今日この解答が得られて、まことにうれしい。さっそく小倉さんに電話で報告をする。
 考えてみると、元旦の夜、尾白荘のいろりばたで異常に眠たかったのが、すでに発作の始まりではなかったか。そして2日目の夜、五合目の小屋で、夜中に下痢したのは、すでに完全に桂枝人参湯証が開幕をしたのであって、翌3日の激しい頭痛や悪寒や心窩部の膨満感は、舞台で、桂枝人参湯証がはなばなしく演ぜられている真最中だったわけなのである。
 思えば昨年10月20日から21日にかけて、小田原、箱根で日本東洋医学会の関東地方会が催された折にも、同様な発作に苦しめられたのであった。ところが、この時も下痢があったのにもかかわらず、桂枝人参湯の証とは気が付かず、もっぱら桂枝湯呉茱萸湯のエキスを服して解決せず、とうとう自然消退にまかせたのであった。数年前、「漢方の臨床」誌上に、常習頭痛の呉茱萸湯による自己治験を発表したことがあったが、あれは下痢がなかったから呉茱萸湯でよかったので、下痢が加われば、当然薬方が変わるべきものであった。それを強いて下痢の方は注意せずに、呉茱萸湯の方ばかりに色目を使おうとしたのは、われながら浅はかの限りであった。
(「漢方の臨床」10巻4号、昭和38年4月)



※吐出しようとしたが? → 吐き出そうとしたが?

p.211
泄瀉奮戦記
 ひどい下痢だった。旅先のことで、どうなることかと一時はかなり心配をしたのだったが、これまた法方大明神のおかげで、どうやら切り抜けることができた。自家経験は自家の経験でも、今回は珍しく私自身のではなく、わがカミさんのそれなのである。例によって日記を繰ってみよう。
            *
 2月24日(火)。パリのオルリー・ウェスト空港から飛び立ったフランス国内航空のプロペラ機は、途中、ランスの約半数の乗客十五名ほどをおろし、再び離陸して、夜10時半、ブルターニュ地方の西方に位置するカンペール市の空港に着いた。夜こことで、よくはわからぬが、かなり小さな空港らしい。四坪くらいの待合室と、それに続く事務室があるだけの、まことに簡素な空港の建物である。たった一台だけで客待ちしていたタクシーに乗り、暗い田舎道を十数分走って、林の中にポツンと建っているホテル・ル・グリフォンに着く。これまたスレートの瓦葺き二階建ての、かなりこじんまりしたホテルだ。それでも、フロントに置いてある案内のパンフレットを見ると、部屋数は四十余室はあるらしい。さいわい、フロントのマダムの感じもよく、部屋も大変きれいで、これなら、これからの五日間を、快適に過ごすことができそうだと、ホッと一安心する。
 ところが、一安心するのは早すぎた。その頃から、いつも元気なはずの、家内のからだの具合がおかしくなってきたからである。パリ市内のタクシーで酔い。また飛行機でも酔ったという。そして、いつもにもなく疲れが甚だしいと訴える。
 2月25日(水)。午前中いっぱいを、朝食もとらずに、気分が悪いとベッドに増になっていた家内が、いくらかは具合がよくなったようだから、町へ出てみたいという。タクシーで7~8分走って町の中央のカテドラル広場に出る。二、三買物をしているうちにまた気分が悪くなってきた。急ぎホテルへ戻る。みずおちあたりが何となく気持が悪いという。食欲は全くない。小半夏加茯苓湯のエキスを投与。よくならない。好転しないばかりか、気分はますます悪くなってきた。
 夕刻、水様便を下す。軽度に頭痛が起きてきた。少しだが寒けもするという。脈は浮やや数で、わずかに緊。自分でも熱っぽく感じるという。腹力は中等度よりわずかに軟。心窩部に軽度の抵抗と圧痛がある。腹痛、呼吸困難などは全くないが、腹鳴があり、多少汗ばむ傾向がある。項背のこりはない。
 さて、薬方は何にすべきか。それよりも、この原因はいったい何だろう。昨日午後フォーションで食べたエクレアのせいだろうか。しかし、あんなにはやる店のクリームがいたんでいたなどとは到底考えられないことだ。とすると、ああそうだ、オルリー空港内のレストランで摂った昼食に違いない。ハ喜バーグの肉が、まるで生だった。ステーキの生なら、どうということはないが、挽き肉にし、手でこねたはずのハンバーグの生焼きなら、あたる可能性は多分にある。
 これで原因らしきものは判ったが、薬方は何にしよう。一番考えられるのは、『傷寒論』第一七九章の「太陽ト少陽トノ合病、自下利スル者ハ、黄芩湯ヲ与フ。若シ嘔スルモノハ、黄芩加半夏生姜湯之ヲ主ル。」の黄芩加半夏生姜湯だが、旅先きのことでは、どうしようもない。
 ええ、ままよ。数年前、ローマの旅舎の魚に中毒して苦しんでいた妻に、窮余の策として、葛根黄連黄芩湯の方意を含めて、葛根湯エキスと三黄瀉心湯エキスを合わせて与えてみたところ、これが実にうまく奏効したことがあったではないか。夢よもう一度、と与えてはみたが、よくならない。前のときには、項背のこりや、息苦しさがあったが、今度はそれらもなく、したがって葛根黄連黄芩湯の証ではないのだから効くはずもないわけだ。柳の下に再びどじょう、というわけにはまいらなかったのである。
 そうこうするうちに下痢と腹鳴はますます激しくなってきた。腹痛がないのが、せめてものなぐさめだが、こう頻々と下痢したのでは、からだが参ってしまわないか。半夏瀉心湯エキス、ついで生姜瀉心湯エキスと与えてみるが、全く反応がない。熱があるのだから、効くはずがないわけだ。ならば、桂枝人参湯はどうだろう。嘔があったり、脈が浮やや緊だったりするのが気にくわぬが、などと考えながら使ってみたが、やはり駄目。
 隣りのベッドに寝ていても、家内の腹鳴がよく聞こえる。ウトウトする間もなく、あわてて飛び起きて、トイレにとんで行く。ほとんど失禁に近いらしい。
 さてどうしたものか。このまま、このようにひどい下痢が続いたら、どうなってしまうのだろう。すでに零時を過ぎている。何としても、明朝までにはケリをつけたい。横になりながら考える。あんなにひどく下痢をしながら、腹痛もなく、あまりひどく苦しむ様子がない。これは、ヒョットすると真武湯なのではなかろうか。困するといえども苦しむところなし、という真武湯の一つの状態に該当しているのではなかろうか。与えてみる。しばしばし腹鳴がやんで、具合がよいな、と思ったのも束の間、またグルグルゴロゴロと激しい腹鳴がはじまって、家内は跳ね起きた。
 時計を見ると、午前3時。ベッドにもどった家内を、も一度精診してみる。脈は浮やや数、やや弱。夕刻時のやや緊は、やや弱に変ってきている。大分虚してきているのだ。腹力もやや軟となってきているが、それに反して、心下の痞硬はかえって増してきている。寒けはなおある。どう考えてみても、これは桂枝人参湯の協熱利としか考えられない。「さあ、これで下痢もうちどめだ」、などとつぶやきながら服用させる。実は、すでに何度この打ち止めをつぶやいたことか。
 だが、今度はたしかに打ち止めであった。これを服用して間もなく、激しい腹鳴が止み、寝息が聞こえはじめたのだ。万歳! 今度こそほんものだ。
 2月26日(木)。朝7時。下痢もやんで、やや元気になって、家内めざめる。念のため、もう一度、桂枝人参湯エキスをのむ。
 9時には、すっかりいつも調子を回眼し、このあたり一面に点在する有史以前の巨石文化の探訪にと出かけることができるようになった。朝のオレンジジュースの、あのすばらしいおいしさは、未だかつて味わったことがないほどでした、とは、タクシーの中での彼女の述懐であった。うまさを感じるようになれば、もう病気は退散した証拠である。
 以上が、家内と私との、泄瀉奮戦の始末記なのだが、いやはやひどい目にあつた。家内も私も、ほぼ徹夜の奮戦であった。しかし、これも、天の与えたもう試練の一つなのであろう。よい勉強になった。同じ桂枝人参湯エキス(中将湯)を用いて、夕刻の服用は効かなかったのに、あとになっての、午前3時のそれは、まことに顕著な効果をあらわした。そのわけは、いったい何だったのだろう。
 すでに賢明な諸賢がお気付きのように、初めのときは、まだ少陽病位で、既述のように黄芩加半夏生姜湯の証であったから、効かなかったのである。それが水瀉傾けるが如きという形容通りの、頻々たる下痢のために、急速に虚してきて、太陰位に陥り、しかもまだなお表熱も残っていたために、表熱をさしはさんだ裏寒の下痢、すなわち協熱利となり、午前3時の段階では、まぎれもない桂枝人参湯の証になってきていたからなのである。
 それにしても、桂枝人参湯の心下痞硬は、かなりのものであることを、如実に知ることができたのだった。夕方の診察のときにはそれほどではなかったのひ、午前3時のそれのときは、抵抗圧痛ともにかなりの状態であった。それにつけても思うのは、吉益東洞が、人参の主治を心下痞硬と決めたのは、すばらしい卓見であった。これは、単なる思考的産物ではなく、充分過ぎるほどの臨床の裏づけがあったからこそ導き出し得た結論なのであろう。
            *
 これと似たことで思い出すことがある。そのことについては、ずっと前の「漢方の臨床」誌に書いたことがあるから、あるいは思い出される方もあるかもしれない。
 私の友人の女性薬剤師さんが婦人科疾患で手術を受けた。手術は順調にいったらしいのだが、術後、嘔吐が激しくなり、全く食事を受けつけなくなった。内科の医師と協同して、いろいろと手をつくしたが、五~六日たっても嘔吐が止まらない。そこで見舞いに行って診察してみると、脈も腹力も弱り切っているが、心窩部だけが、非常に抵抗強く、かつ圧痛も強い。診る前の見当では、小半夏加茯苓湯あたりで片がつくのではないかなどとタカをくくっていたのだ改aたが、診てみるに及んで、そのように簡単なものではないことを思い知らされた。脈も腹力も極端に虚している。だのに、このように心窩がコチコチになっているとは、いったいどうしたことか。薬方は何を擬したらよいのか。結論の出ないまま家に帰り、『類聚方広義』を初めから終りまで、丹念に読み直してみる。何辺ひっくりかえしてみても、乾姜人参半夏丸のところでひっかかる。本方の条文は「嘔吐止まざるもの」だけの簡単なものだが、東洞翁は「按ずるに、まさに心下痞硬の証あるべし」と、『類聚方』で意見を付け加えている。このような虚状の強い太陰の薬方の腹候に、まさか心下痞硬などという実証を思わせるような腹候が出るはずはな感のではないか。ややもすれば薬味偏重の傾向のある東洞翁の、いわば思考的産物なのではなかろうか。言い換えれば、臨床の裏付けを欠く単なる推論に過ぎないのではなかろうか。常に、このところを、そんなふうに考えていたのであった。恩師の奥月先生にも、そのような意見を申し述べたところ、私もそう思いますと肯定されたので、ますますその思いを深くしていたのであ識。
 ところが、現実にこのような患者さんに直面してみると、この薬方以外に擬すべき薬方がない。しかも東洞翁が補足した心下痞硬の腹候を、本方証の重要な一要員に加えた上である。そこで本方料を煎じて、翌朝病室に持参し、服用せしめた。これがまさに劇的に奏効して、一服して、さしもの頑固な嘔吐が止まり、夕刻からは流動食が入るようになった。引き続き本方を約一ヵ月服用して、すっかり元気になって退院できたのである。
             * 
 この例といい、今回の家内での経験といい、人参剤における心下痞硬の存在は、ほぼ確実なものと考えてよいであろう。このようにいうと、人参剤を使う場合に、必ずしも心下痞硬がなくても効いている例がある、といわれる方もあろう。私の数多くの経験例をふりかえってみても、それはある。しかしそれらの例を、よく考えてみると、乗るか反るかの急を要する人参剤の症果では、ほぼ間違いなく強痿心下痞硬症状が存在しているのである。或る薬方の証が、その証どおりの症状を呈するのは、病人の症状が急性か、または重症かである場合が多い。このようなことから考えても、人参剤に心下痞硬があることはほぼ確実といってよいでおろう。したがってまた、人参の主治が心下痞硬であると定義した東洞翁の結論も、ほぼ正しい、と考えてよいであろう。
             *
 このようなことを、いささかくどくどしく述べたことには、去はわけがある。それは、長沢元夫理大教授が、最近号の「薬史学会」誌と、「和漢薬」誌に、東洞の『薬徴』を斥する主旨の論文を掲載された。理路整然とした、素晴らしい論旨で、大きな感銘を受けたし、また啓発されるところが少なくなかった。けれども、氏の論文は、いささか理詰めすぎて、実地の裏付けがある点を見逃しておられるところがあるのではないか、と成じたのである。そこで、読後、早速はがきを差し上げて、いずれ折を見て所感の一端を述べさせていただくことを、お約束したのであった。それが、雑事に追われて実行できず、心苦しく感じていたところ、今回はからずも前述のような経験を加えることができたので、この機会をとらえて、気付いた点を述べさせていただくことにしたのである。
 本来ならば、同氏の論文を傍に置いて記述を進めるべきであるが、機中のことで意にまかせない。また考えようによっては、論文が傍にあると、言及する範囲がつい多くなりすぎて、かえって論旨の明確を欠くようなことにならぬとも限らない。氏の論文を読んで、大きな感銘を受けながらも、ただ一つ感じたことは、東洞翁の『薬徴』は、一つの思想と、一つの数理的手法だけにもとづいてつくられた単なる思考的産物ではなく、東洞翁の長い臨床経験が土台となっているに違いない。その一端は、私どもの臨床経験からも証明し得られる。長沢教授は、その点を多少ないがしろにしておられるのではなかろうか。意見を述べたい、と感じたのは、この一点だけなのである。したがって、これだけ述べれば、私の言いたいと思っていたことは、ほぼ言いつくしたことになる。
             * 
 カンペールからの急行列車の中で書き、そしてパリで一泊してまたアンカレッジへの途中で書き綴って、北極の上空にさしかかったいま、この小稿を終えた。折しも、氷原の果てから太陽がのぼりはじめて、所どころに割れ目を見せる氷海がバラ色一色に染まった。雪山でも見かける壮麗な朝映え現象である。
(「漢方の臨床」23巻3号、昭和51年3月)



『健保適用エキス剤による 漢方診療ハンドブック 第3版』
桑木 崇秀 創元社刊


桂枝人参湯(けいしにんじんとう) <出典>傷寒論(漢時代)

方剤構成
 桂枝 人参 白朮 乾姜 甘草

方剤構成の意味
 人参・白朮・乾姜・甘草は人参湯で,この方剤は人参湯に桂枝を加えたものと考えればよい。
 桂枝は桂枝湯の桂枝で,頭痛や肩こりを発散させ,解消させるとともに,神経性心悸亢進をしずめる作用があるから,人参湯を用いたいような人で,頭痛・肩こり・神経性心悸亢進を訴えるような場合に適した方剤と言うことができる。人参湯を用いたいような人とは,顔色の悪い,腹力のない,胃アチニータイプと考えればよい。

適応
 胃アトニー者の常習性頭痛や肩こり,神経性心悸亢進に用いる。


和漢薬方意辞典 中村謙介著 緑書房
桂枝人参湯(けいしにんじんとう) [傷寒論]

【方意】人参湯証の脾胃の虚証脾胃の水毒および寒証虚証による心下痞硬・食欲不振・下痢・寒がり・疲労倦怠感等と、表の寒証表の虚証による悪寒・発熱等と、気の上衝による頭痛・のぼせ等のあるもの。
《太陰病.虚証》

【自他覚症状の病態分類】

脾胃の虚証
脾胃の水毒
寒証・虚証 表の寒証・表の虚証 気の上衝
主証
◎心下痞硬



◎寒がり


◎悪寒 ◎発熱



◎頭痛
客証 ○食欲不振
○水様性下痢
 軟便 泥状便
○稀薄な睡液 喜睡 悪心 嘔吐
 上腹部振水音

 人参湯証 
○手足冷
○頻尿 多尿
 身体痛
 心腹痛
 運動知覚麻痺感
 疲労倦怠
 
 人参湯
○自汗
 鼻汁
 咳嗽 
○のぼせ
○頭汗
 肩の凝り
 心悸亢進 


【脈候】 浮弱・浮遅・浮緩・浮弱数・浮数。このように人参湯証の場合と違い一般に浮の傾向がある。

【舌候】 湿潤して微白苔、または著変なし。

【腹候】 腹力やや軟。心下痞硬がある。しばひざ心下悸や臍上悸・臍下悸、時に上腹部の振水音がみられる。

【病位・虚実】 本方意は人参湯証の脾胃の虚証・脾胃の水毒を主としたものであるために太陰病に相当する。脈力も腹力も低下し、自汗し疲労倦怠して水様性下痢をするため表裏共に虚している。

【構成生薬】 桂枝4.0 甘草4.0 人参3.0 白朮3.0 乾姜3.0

【方解】 本方は人参湯中の甘草を増量し桂枝を加えた五味で構成されている。人参湯同様に人参・乾姜・白朮は脾胃の機能低下と水毒に対応し、心下痞硬・食欲不振を主る。特に乾姜・白朮は寒証の水毒より派生する寒がり・頻尿・多尿・手足冷を治す。桂枝は気の上衝による頭痛・心悸亢進を鎮静し、表の寒証・表の虚証の悪寒・発熱・自汗・疼痛を去る働きがある。また、急迫を主治する甘草が増量されているため、人参湯証よりも嘔吐・下痢が顕著に出現する傾向がある。

【方意の幅および応用】
 A 脾胃の虚証脾胃の水毒:心下痞硬・食欲不振・水様性下痢・喜睡等を目標にする場合。
   急性胃腸炎、慢性下痢、急性膵臓炎
 B 寒証:寒がり・手足冷等を目標にする場合。
   レイノー症候群
 C 表の寒証表の虚証:悪寒・発熱・鼻汁等を目標にする場合
   胃腸型感冒、アレルギー性鼻炎、気管支喘息
 D 気の上衝:頭痛等を目標にする場合
   福性頭痛、肩凝り

【参考】 *協熱利し、利下止まず、心下痞硬し、表裏解せざる者、桂枝人参湯之を主る。『傷寒論』
*病人、利下止まず、心下痞硬し、心腹時に痛み、頭汗出で、心下悸し、平臥すること能わず、小便少なく、或は手足冷ゆる者を治す。
『医聖方格』
*此の方は協熱利を治す。下利を治するは、理中丸に拠るに似たれども、心下痞ありて表症を帯ぶる故、『金匱』の人参湯に桂枝を加う。方名苟もせず。痢疾最初に一種此の方を用ゆる場合あり。其の症、腹痛便血もなく、悪寒烈しく脈緊なる者、此の方を与うるときはツト弛む者なり。発汗の宜しき所と混ずべからず。丹水子は此の方に枳実・茯苓を加えて逆挽湯と名づく。是は『医門法律』に拠って、舟を逆流に挽きもどす意にて、此の方と同じく下利を止むる手段なり。
人参湯証で発熱を伴う場合は本方を用いる。
*食欲不振はさして顕著ではないことが少なくない。

【症例】 カゼと膵臓炎と下痢
 41歳、女教員。カゼを引いて某院を受診し、1週間余り西洋薬を飲んだが、一向に解熱しないばかりか、上腹部に激痛、1日3~4回の下痢がはじまり、40℃の発熱となった。
左側胸部から肩甲間部に凝りを覚え、時に海老のように屈曲して激しい腹痛をこらえる。下着を4~5回替える程発汗がしきりで、煩渇・尿不利がある。
 膵臓炎を疑い、薬方は五苓散料とした。服薬すると間もなく腹痛と渇が減じだし、体温は最高38℃位になった。服薬3日間で腹痛と渇は全く消失し、食欲が少し出てきた。
 ところが、この頃から下痢の回数が4~5回に増え、自汗は再び増し、午後は38℃台の発熱をみるようになった。
 憔悴しておらず、脈は細弱やや数、腹力は軟弱で、胃部に抵抗圧痛がある。下痢便でも匂いと色がついている。挾熱ふの桂枝人参湯を投じた。晩から服薬果始め、翌朝までには下痢の量を減じ37.5℃にまで下り、3日目には便が固まり、自汗がわずかとなった。
きも良く、今はある会社の役員になっている。
小倉重成 『漢方の臨床』14・4・27


臨床応用 漢方處方解説 矢数道明著 創元社刊
p.144 急性腸炎・大腸炎・偏頭痛・常習性頭痛
35 桂枝人参湯(けいしにんじんとう) 〔傷寒論〕
 桂枝四・〇 人参・白朮・甘草 各三・〇 乾姜二・〇

 原本には水六〇〇ccをもって、桂枝以外の諸薬を煮て四〇〇ccとし、これに桂枝を入れて再び煮て三〇〇ccとし、滓を去って、日中二回、夜一回に分服することになっている。一般には同時に煎じている。

応用〕  表に熱があり、裏に寒があるものである。誤って下し、中焦(胃部)が虚し、心下痞硬し、内部の陰寒が、外熱におかされて下痢するというものに用いる。
 本方は主として感冒や流行性感冒で、発熱・脈浮弱・頭痛・悪寒などの表証があり、平素冷え症で軟便、裏(腸)に寒のあるもの、また急性腸炎・大腸炎に用いることが多く、偏頭痛・常習性頭痛・小児急癇等に用いた報告がある。

目標〕 頭痛・発熱・汗が出、悪風等の表熱の症状があって、心下痞硬・下痢があるもの、あるいは心腹疼痛・心下悸・四肢倦怠・足冷え・小便自利等を目標とする。
 脈は浮弱で数、舌はあまり変化がない。腹証は心下痞硬とあるが痞のこともあり、必発とはいいがたい。人参湯の裏寒の証に表証を兼ねているというのがねらいである。
 冷え症で下痢しやすく、虚証の人に用いられる。

方解〕  人参湯の甘草を増やし、桂枝を加えたものである。桂枝をもって表証を治し、人参湯をもって裏を治すというものである。
 桂枝は表を解し、白朮・乾姜は内の寒と水を去って下痢を止め、人参は心下痞硬を解し、胃の気を補い、甘草は急を緩める。

主治
 傷寒論(太陽病下篇)に、「太陽病、外証未ダ除カズ、而ルニ数シバシバ)之ヲ下シ、逐ニ協熱(キョウネツ)(表熱を挾み合わせるの意)シテ利シ、利下止マズ、心下痞硬シ、表裏解セザル者、桂枝人参湯之ヲ主ル」とあり、
 勿誤方函口訣には、「此方ハ協熱利ヲ治ス。下利ヲ治スルハ理中丸ニ拠ルニ似タレドモ、心下痞アリテ表症ヲ帯ブル故、金匱ノ人参湯ニ桂枝ヲ加フ。方名苟モセズ、痢疾最初ニ一種此方ヲ用ユル場合アリ。其症腹痛便血モナク、悪寒烈シク脈緊ナル者、此方ヲ与フルトキハスツト弛ム者ナリ。発汗ノ所宜ト混ズベカラズ。
 丹水子ハ此方ニ枳実・茯苓を加エテ逆挽湯(ギャクバントウ)ト名ヅク。是ハ医門法律ニ拠テ、舟ヲ逆流ニ挽(ヒキ)モドス意ニテ、此方ト同ジク下利ヲ止ル手段ナリ」とある。また、
 古方薬嚢には、「熱があり、悪寒して、汗出で下痢する者、下痢は一~二回のものもあり、回数多き者経あり、必ず胸中若しくは胃中塞りたるが如き、重苦しき感じあり。頭痛も大抵あ責、小便は近き者、反って遠き者もあり、定まらねど参考に入るべし。脈は必ず弱く、つまるところ、熱とさむけと下痢と胸のあたりのつまる感じ等を主として考え与うれば、大いなる誤り無かるべし」とある。


鑑別
人参湯 111 (下痢・裏寒証、表熱少なし)
葛根湯 20 (下痢・実証、脈浮緊)
○葛根黄連黄芩湯 19 (下痢・表裏実熱症、脈促)
四逆湯 56 (下痢・脈沈遅)
真武湯 75 (下痢・眩暈、動揺症状)
五苓散 41 (下痢・渇、小便不利、嘔吐)
半夏瀉心湯 119 (下痢・実熱、心下痞硬)

参考
 藤平健氏、桂枝人参湯による常習性頭痛の治療(日本東洋医学会誌、一五巻二号)






治例
 (一) 下痢発熱
 三歳の男児。かぜをひきやすく、かぜをひくと喘息様のせきが出るくせがある。一五日ほど前から、一日二~三行の水瀉性の下痢があり、ときどき熱が出るという。食欲はない。桂枝人参湯を与える。三日分で下痢がやみ、食欲が出た。
 桂枝人参湯は、人参湯に桂枝を加えたもので、表に熱があり、裏に寒があって、下痢する場合に用いる方剤である。桂枝で表熱を解し、人参湯で裏寒を治するのである。
(大塚敬節氏、漢方診療三十年)
 (二) 慢性下痢症
 五〇歳の婦人。一〇年ほど前に腹膜炎を病み、一年ほどにて癒えた。今年春ごろよりブラブラと病み始め、また腹膜炎といわれた。熱が少しあり、頭痛ときにあり、食欲はあるが、食すればただちに吐き、心下不快であ識。腹は少しふくらみ、時を限ってゴロゴロと鳴り、多少痛みもあり、手足冷え、一体に寒がりにて大便一日に数行、水のごとしという。脈はやや数にて力無く、手足の冷えと腹中雷鳴を主として当帰四逆湯を与えたところ快方に向かい、元気づいたが、下痢は相変わらずやまない。小便の出ぐあい悪くなるときは下痢必ず多しという。よって桂枝人参湯を与え、服す識こと三~四日、一夜にわかに大吐利を発し、暁方までやまず、手足厥冷して正に死せんとして一座を者を驚かした。翌朝には吐利さっぱりと止まり、諸症ことごとく消失し、翌日よりは大便一日一回、桂枝人参湯を服すること一週間にて元の身体に復した。
(荒木性次氏、古方薬嚢)
 (三) 常習性頭痛
  三五歳の男子。四年前から相当はげしい常習性頭痛に悩まされていた。胃症状もあり、舌には薄い白苔がある。脈は軟弱で、腹は軟かいが膨満している。少しく心下部が痞えているが、振水音は認められない。便秘がちで、頭痛のときは嘔吐を起こす。この患者に桂枝人参湯を与えたところ、四年来の常習性頭痛が軽快し、全一七週間の服薬で、嘔吐や便秘も同時に治癒した。
 桂枝人参湯を常習性頭痛に用いる目標は、「人参湯証にして、上衝急迫劇しき者」という方極の指示に従ったもので、(1)虚証であること、(2)脈は軟・沈・細等、(3)舌は乾湿区々であるが、一般に湿潤し、微白苔のことが多い、(4)腹力は中等度以下で、上腹部正中線に軽度の抵抗と圧痛がある、(5)上腹部の振水音は不定、(6)下痢・発熱は、ある場合とない場合があるが、常習性頭痛の場合、下痢のないことが多い。
(藤平健氏、日東洋医会誌、一五巻二号)




『健康保険が使える 漢方薬 処方と使い方』
木下繁太朗 新星出版社刊

桂枝人参湯(けいしにんじんとう)
 ツ、カ、シ
傷寒論(しょうかんろん)

どんな人につかうか
 胃腸の弱い人におこる頭痛、動悸(どうき)、息切れなどに用いる処方で、身体の表面に悪寒(おかん)、頭痛、発熱、関節痛などの熱症状(表証)があるのに胃腸が冷(ひ)えて機能が衰え、吐いたり下したりする(裏証)ような時に効きます。

目標となる症状
 ①下痢。②頭痛、発熱、悪寒(おかん)、関節痛(表熱証、中医学では表寒)。③胃部に痞(つか)え感がある。④下痢は水様便で、粘液や血液はまじらない。⑤手足がだるい。⑥自然発汗がある。⑦腹痛はないがお腹が冷(ひ)えている。

 みぞおちに痞(つか)え感がありたたくとピチャピチャ音(振水音)がし、腹壁は軟弱。

 弱く遅い脈。

 湿無苔。

どんな病気に効くか(適応症) 
 胃腸の弱い人の、頭痛動悸慢性胃腸炎胃アトニー。慢性頭痛、偏頭痛(へんずつう)、急性胃腸炎、感冒性下痢、感冒、流行性感冒、急性腸炎、大腸炎、神経性心悸亢進症(しんきこうしんしょう)、心臓病。

この薬の処方
 桂皮(けいひ)4.0g。人参(にんじん)、甘草(かんぞう)、白朮(びゃくじゅつ)(又は蒼朮(そうじゅつ))各3.0g。乾姜2.0g。

この薬の使い方
前記処方を一日分として煎(せん)じてのむ。
ツムラ桂枝人参湯湯(けいしにんじんとう)エキス顆粒、成人一日7.5gを2~3回に分け、食前又は食間に服用する。
カネボウ(一日6.0g)前記に準ずる。

使い方のポイント
 平素、人参湯(にんじんとう)(175頁)を用いるような虚弱な人が感冒にかかつて頭痛発熱し、下痢する様な場合に用いるものですが、慢性頭痛にも用います。

処方の解説
 人参湯(にんじんとう)に桂枝(けいし)を加えた処方で、人参湯(にんじんとう)は胃腸の冷え、虚弱を改善します。桂枝は発汗、解熱、鎮痛、抗菌作用があって、風邪(かぜ)症状を治してくれます。桂枝(けいし)は又末梢血管(まっしょうけっかん)を拡張し、胃腸の分泌を如し、消化吸収の働きを良くし、人参湯(にんじんとう)の働きを増強します。



副作用
1)重大な副作用と初期症
1) 偽アルドステロン症: 低カリウム血症、血圧上昇、ナトリウム・体液の貯留、浮腫、体重増加等の偽アルドステロン症があらわれることがあるので、観察(血清カリウム値の測定等) を十分に行い、異常が認められた場合には投与を中止し、カリウム剤の投与等の適切な処置を行うこと。
2) ミオパチー: 低カリウム血症の結果としてミオパチーがあらわれることがあるので、観察を十分に行い、脱力感、四肢痙攣・麻痺等の異常が認められた場合には投与を中止し、カリウム剤の投与等の適切な処置を行うこと。
[理由]
厚生省薬務局長より通知された昭和53年2月13日付薬発第158号「グリチルリチン酸等を含 有する医薬品の取り扱いについて」に基づく。

[処置方法]
原則的には投与中止により改善するが、血清カリウム値のほか血中アルドステロン・レニ ン活性等の検査を行い、偽アルドステロン症と判定された場合は、症状の種類や程度によ り適切な治療を行うこと。低カリウム血症に対しては、カリウム剤の補給等により電解質バランスの適正化を行う。

2) その他の副作
過敏症:発疹、発赤、瘙痒、蕁麻疹等
このような症状があらわれた場合には投与を中止すること。
[理由]
本剤には桂皮(ケイヒ)、人参(ニンジン)が含まれているため、発疹、発赤、瘙痒、蕁麻疹等の過敏症状があらわれるおそれがあるため。

[処置方法]
原則的には投与中止により改善するが、必要に応じて抗ヒスタミン剤・ステロイド剤投与等の適切な処置を行うこと。

2014年6月16日月曜日

啓脾湯(けいひとう) の 効能・効果 と 副作用

漢方診療の實際 大塚敬節 矢数道明 清水藤太郎共著 南山堂刊
啓脾湯
本方は四君子湯を基礎として脾を補い、健 胃・利尿を図って更に消化の剤を配したもので、虚證で貧血性、脈腹共に軟弱となり、食欲不振、水瀉性下尿が荏苒として止まず、時に腹痛・嘔吐の気味のある ものによい。大人でも脾胃虚弱の慢性胃腸カタルや腸結核などにも用いてよいことがある。
方中の人参・白朮・茯苓・甘草は四君子湯で専ら脾胃を補う。即ち胃を健にし食欲を進め、山査子・陳皮は食を消化し、蓮肉は脾を強めて瀉を止め、沢瀉は胃腸内の湿を消導して渇を止める。
以上の目標に従って本方は、小児消化不良症・慢性胃腸カタル・水瀉性下痢・腸結核・病後の食欲不振等に用いて胃腸を強壮にする。


明解漢方処方 西岡 一夫著 ナニワ社刊
p.137
⑲啓脾湯(けいひとう)(万病回春)
 人参 白朮 茯苓 蓮肉 山薬各三・〇 山査子 陳皮 沢瀉各二・〇 甘草 生姜 大棗各一・〇(二四・〇) 以上煎剤、または蜜丸とする。
 後世方なら四君子湯、古方なら人参湯を用いるような、胃寒によって起る嘔吐を伴った下痢の症状が慢性化して脉も腹状も軟弱で食慾不振が劇しく、その上神経的にも所謂”癇性”を起している場合に用いられる。または大病後の胃腸機能の亢進剤に用いる。主として小児に適応者が多く、もし本方無効のときは甘草瀉心湯、真武湯などを考える。大塚、矢数両氏には本方で腸結核を治した治験がある。小児の慢性下痢。腸結核。


『臨床三十年 漢方治療百話 第一集』  矢数道明著 医道の日本社刊
p.476
いわゆる「かんむし」について
〔啓脾湯〕
 人参三・〇 白朮 茯苓各四・〇 蓮肉 山薬三・〇 山査子 陳皮 沢瀉各二・〇 甘草一・〇
  この方は小児の消化不良で、泄瀉性下痢を繰り返えし、栄養衰え、筋肉弛緩し、貧血甚しく、食思衰え、嘔気などを伴い、腹張り、しかも軟弱で、羸痩はなはだしいものに用いられる。


臨床応用 漢方處方解説 矢数道明著 創元社刊
p.147 慢性腸炎・消化不良・腸結核
36 啓脾湯(けいひとう) 〔万病回春〕
 人参三・〇 白朮・茯苓 四・〇 蓮肉・山薬 各三・〇 山査・陳皮・沢瀉 各二・〇 甘草・乾生姜・大棗 各一・〇

 原本には啓脾丸とあって、右細末とし、煉蜜にて丸となし、毎服一~二グラム、重湯にて服す。あるいは末として重湯にて服するのも可である。しかし一般には煎じて服用している。
 脾(古書の脾は消化器系の臓器を代表している)を啓(ひら)く(鞭撻する、力をつける意)という意味である。

応用〕  虚証で、いわゆる脾胃虚弱の水様性下痢、小児の消化不良によく用いられる。
 本方は主として小児の消化不良症、大人でも慢性胃腸炎や腸結核に応用され、また病後の胃腸の強壮剤として使われる。

目標〕 虚証で貧血性、脈腹ともに軟弱無力となり、食欲不振、水瀉性下痢が長く続いて、ときどき腹痛や嘔吐の気味のあるものである。
 他の処方の効かぬ水瀉性下痢に試用する。


方解〕  人参・白朮・茯苓・甘草は四君子湯で、もっぱら脾胃を補う。すなわち胃の機能を旺んにして食欲を進め、山査、陳皮は食を消化し、蓮肉は脾を強め、瀉を止め、沢瀉は胃腸内の湿を消導して渇を止める。

主治
 万病回春(小児泄瀉門)に、「食を消し、瀉を止め、吐をとめ、疳を消し、黄を消し、脹を消し、腹痛を定め、脾を益し、胃を健にす」とある。
鑑別
参苓白朮散 76 (水様性下痢・気滞の傾向がある、腹鳴)
 ○人参湯 111 (水様性下痢・唾が出る、尿利増加)
 ○桂枝人参湯 35 (下痢・心下痞え、熱症状があり、脈浮)
 ○真武湯 75 (下痢・虚寒の証で、嘔吐、腹痛などがある)
 ○胃風湯 4 (下痢・直腸部に邪が多い)

 これらの鑑別はなかなかつけがたいことがあり、実際に使ってみて、その効果を知るほかないことが多い。

治例
 (一) 慢性下痢(腸結核の疑い)
 四二歳の映画女優。平素から胃腸弱く、下痢するくせがある。今度は約半年前から下痢が始まり、止まらない。腸結核と疑われて、ストマイ・パスを用いたが、それでも止まらなかった。
 患者は痩せて脈が弱く、舌苔なく、腹部は軟弱で振水音をきく。肩こりやすく、手足が冷える。
 真武湯を七日分のんだが変わりなく、啓脾湯に転方したとこ犯、二週間で下痢一回となり、一ヵ月あまりで下痢がやんだ。
 真武湯で止まらない下痢が啓脾湯で止まり、啓脾湯で止まらない下痢が真武湯で止まることがある。
(大塚敬節氏、漢方診療三十年)
 (二) 消化不良症
 二歳の女児。離乳期に消化不良となり、水様の下痢日に一〇数行もあって、食物が入るとすぐに下痢してしまう。水様で緑色である。食欲全くなく、一〇数日間続いたので、すっかり痩せて衰弱極度に達した。脈も腹も軟弱で無力、腹中は真綿を按ずるようで何物もないようである。初めのころは胃苓湯で効なく、のち啓脾湯によって下痢は次第に減少し全治した。
(著者治験)
 (三) 腸結核
 一七歳の男子。戦前から肺結核で私のところで漢方の薬をのんでいた。私が五年間戦地に楽改ar帰国してみると、患者は大変海岸近くの焼け残ったアパートで静養していた。老父母の間の一人息子であった。戦後はすっかり衰えて、ときどき喀血を繰り返し、腸結核を併発して、暁方四時ごろになるとゴロゴロ腹が鳴って、水様の下痢が起こり、日に三~四回もあるという。これではとても助かる見込みはなく、死期も近いと思われた。ところが啓脾湯を与えたところ、大便が固まってきて、だんだん太ってきた。胸部所見は空洞がいくつもあってひどかった。そのうち抗生物質ができるようになり、これを併用させたところ、大変よくなって、すっかり一人前となり、あの骸骨のような患者は、めでたく結婚生活に入ることができた。母親が大変よろこんでわざわざあいさつにきた。
 これは腸結核のとき啓脾湯で生命をつなぎとめ、その後抗生物質の力によって普通の人と同じ生活ができるようになったわけである。
(著者治験)
※白朮 茯苓 四・〇 → 白朮 茯苓各四・〇



『漢方後世要方解説』 矢数道明著 医道の日本社刊

p.34補養の剤
方名及び主治 一五 啓脾湯(ケイヒトウ) 万病回春 泄瀉門

○ 食を消し、瀉を止め、吐を止め、疳を消し、黄を消し、腹痛を定め、脾を益し、胃を健にす。
処方及び薬能人参 白朮 茯苓 蓮肉 山薬各三 山査子 陳皮 沢瀉各二 甘草 生姜 大棗各一
 右小児一日量

 人参、白朮、茯苓、甘草=四君子湯で脾を補う。
 山査子、陳皮=食を消化す。
 白芷=陽明経風熱を治す。
 蓮肉=健脾、瀉を止む。
 沢瀉=渇を止め湿を除く。

解説及び応用○ 此方は四君子湯を基礎として消食の剤を加えたもので、小児疳瀉と呼ぶ所謂小児の消化不良症に最も屢々用いられるものである。
他に大人にても脾胃虚弱即ち慢性胃腸炎にて諸薬応ぜぬ水瀉性下痢に広く応用される。
余は腸結核の初期に用いて卓効を収めたことがある。脈腹共に虚状にして微熱あるもよい。


応用
 ① 小児の消化不良症、② 慢性胃腸炎、③ 腸結核、④ 病後の胃腸強壮剤。








和漢薬方意辞典 中村謙介著 緑書房
啓脾湯(けいひとう) [万病回春]

【方意】 脾胃の虚証による軟便・泡沫状下痢・食欲不振等と、虚証血虚による貧血傾向・顔色不良等のあるもの。
《太陰病.虚証》

【自他覚症状の病態分類】

脾胃の虚証 虚証・血虚

主証
◎軟便
◎泡沫状下痢
◎食欲不振


◎貧血傾向
◎顔色不良






客証  胃腸虚弱

 口中甘味
 嘔吐
 軽度の腹痛
 軽度の裏急後重
 上腹部振水音
 疲労倦怠
 るいそう
 衰弱


  


【脈候】 軟弱。

【舌候】 無苔。

【腹候】 発病して日の浅い場合には腹力中等度からやや軟程度。慢性のものは軟弱無力まで。

【病位・虚実】 本方は四君子湯の加味方で脾胃の虚証が中心的な病態であり、太陰病に相当する。自他覚症状からも、また脈候および腹候からも虚証である。

【構成生薬】 人参4.0 蓮肉4.0 山薬4.0 白朮4.0 山楂子2.0 陳皮2.0 沢瀉2.0 甘草2.0 時に大棗2.0・生姜1.0を加える。

【方解】 人参・茯苓・白朮・甘草・大棗・生姜は四君子湯で脾胃の虚証に対応し、沢瀉の利水作用も協力して下痢傾向・食欲不振・胃腸虚弱・貧血傾向・顔色不良・疲労倦怠等を治功。蓮肉・山薬・山楂子は虚証お版び脾胃の虚証に対応し、滋養・強壮・消化・健胃・整腸・収斂作用により止瀉する。陳皮の健胃・消化・整腸作用もこれに協力する。大棗・生姜は以上の構成生薬の作用を穏やかにし応用を広げる。

【方意の幅および応用】
 A 脾胃の虚証虚証血証:軟便・泡沫状下痢・食欲不振・貧血傾向・顔色不良等を目標にする。
 小児の消化不良、慢性胃腸炎、腸結核症、病後・術後の胃腸虚弱

【参考】 *食を消し、瀉を止め、吐を止め、癇を消し、黄を消し、腹痛を定め、脾を益し、胃を健にす。
『万病回春』
*此の方は四君子湯を基礎として消食の剤を加えたもので、小児癇瀉と呼ぶ、所謂小児の消化不良症に最も屡々用いられるものである。他に大人にても脾胃虚弱、即ち慢性胃腸炎にて、諸薬応ぜぬ水瀉性下痢に広く応用される。余は腸結核の初期に用いて卓効を収めたことがある。脈腹共に虚状にして、微熱あるものもよい。
【症例】 肺結核に合併した骨盤カリエスと腎結核
 昭和23年の10月上旬、もう4年も前から床についているという青年。左側の肋膜炎の後に肺結核となり、更に骨盤の結核となり、最近また腎臓が結核に冒された。主治医は患側の腎臓を摘出するように指示した。手術をせずに治るものなら治したいという希望である。
 病人は背丈の高い痩せた血色の良くない青年で、言葉少なく静かに床についている。体温はたまに37.2~3℃。きわめてまれに38℃近くなったことがある。食欲はあ移りすすまない。ときどき下痢する。便秘はしない。まれに嘔吐を伴う下痢があり、頭痛がする。排尿後にかすかに尿道に異常感覚がある。
 脈をみると弦細で1分間62至。舌に苔はなく湿っている。腹部は臍部で動悸を触れ、心下部で振水音をきく。腎臓は左右とも触診上異常を認めない。左肺は全般的に濁音を呈し、呼吸音を聴取できない。レ線像ではほとんど全面的に浸潤が拡がっているらしい。腰部に大豆大の瘻孔があり、そこから排膿している。尿は混濁し多数の膿球や赤血球がみえる。培養によって5週間目に1視野に10数個のコロニーがみえたという。私は手術はかえって危険であることを述べた。
 カリエスや腎膀胱結核には地黄の配剤された薬方、例えば十全大補湯八味丸四物湯合猪苓湯のようなものをよく用いる。ところがこの青年には地黄剤を用いることを遠慮した。胃腸障害を起こすようでも困ると考えたからである。
 六君子湯を3日分与えて、様子をさぐることにした。ところが1回分だけ飲んだが、咳が出て、痰がしきりに出た。私は服用を中止させ清心蓮子飲を与えた。これで咳も痰も出なくなった。しかし1ヵ月に1~2回の下痢と、ときどき気分の悪い頭痛が起こる。この頭痛は胃腸の調子の悪いときに起こり、嘔吐を伴うこともある。食もあまりすすまない。
 そこで3ヵ月ほどたって、今度は啓脾湯に黄柏2.0を加えて与えた。以後胃腸の調子が良くなり、下痢もあまりせず食もすすむようになった。体重も少しずつ増加した。しかし尿には別に変化はみられず、ときどき血点状のものが混じることがある。瘻孔からの排膿も同じことである。そこで露蜂房を1日6.0宛兼用することにした。2ヵ月ほどたつと、尿の混献が少しずつ減じるように思われた。5週間後の培養ではまだ1視野に2~3個のコロニーがみえた。
 そこでストレプトマイシンの注射とパスを用いることにした。ところが、パスを飲むと食欲が全くなくなり、悪心が起こったので止めた。マイシンも15本で止めた。その頃から、なかなか良くならなかった瘻孔からの排膿が減じた。
 患者は少しずつ室内を歩行し始めた。昭和28年の5月から尿の結核菌は全く陰性になり、それが1年続いた。瘻孔もふさがり、胸部も石灰沈着を治したまま固まった。そこで露蜂房は止め、啓脾湯加黄柏だけの内服を続け、昭和29年には10日分の薬を1ヵ月くらいかかって飲むようになり、昭和30年からはいっさいの治療を中止している。
 患者はすっかり元気になり、肉づきも良く、今はある会社の役員になっている。
大塚敬節 『漢方診療三十年』348

『健保適用エキス剤による 漢方診療ハンドブック 第3版』
桑木 崇秀 創元社刊


啓脾湯(けいひとう) <出典>万病回春(明時代)

方剤構成
 人参 白朮 茯苓 甘草 生姜 大棗 陳皮 沢瀉 山査 蓮肉 山薬

方剤構成の意味
 人参から大棗までは四君子湯で,これに陳皮以下が加わったと見るべきである。あるいは,六君子湯の半夏の代りに沢瀉以下が加わったと見ることもできる。
 陳皮には袪痰作用(消化器の湿を除く作用と見てもよい),沢瀉には燥湿作用があり,山査・蓮肉・山薬に協いずれも止瀉作用があるので,四君子湯よりいっそう止瀉効果が強いと思われる。
 陳皮・山査の消化作用,蓮肉・山薬の滋養・強壮作用も評価すべきである。

適応
 ①消化不良症(ことに小児の)
 ②慢性胃腸炎,ことに慢性の水瀉性下痢。
 ただし,寒虚証者であることを条件とする。



『健康保険が使える 漢方薬 処方と使い方』
木下繁太朗 新星出版社刊

啓脾湯(けいひとう)
 東、ツ
万病回春(まんびょうかいしゅん)

どんな人につかうか
 比較的体力の低下した人の下痢に用い、顔色が悪く、食欲不振で、水様あるいは泥状(でいじょう)の下痢便で、腹しぶりはせず、腹痛や嘔吐(おうと)を伴うこともあります。

目標となる症状
 ①水様性の下痢(泥状便のこともある)。②腹痛、嘔吐(おうと)。③食欲不振。④体力衰弱。⑤顔色が悪い、やせ。⑥神経質。⑦貧血。 

 軟弱無力で腹壁の緊張は弱い。胃内停水。

 軟弱で力がない。

 白苔(はくたい)があり、舌質(ぜつしつ)は淡白。

どんな病気に効くか(適応症) 
 やせて顔色が悪く、食欲がなく、下痢の傾向のあるものの、胃腸虚弱慢性胃腸炎消化不良下痢

この薬の処方
 蒼朮(そうじゅつ)(又は白朮(びゃくじゅつ))、茯苓(ぶくりょう)、 各4.0g。山薬(さんやく)、人参(にんじん)、蓮肉各3.0g。沢瀉(たくしゃ)、陳皮(ちんぴ)(蜜柑の皮の干したもの)、山査子(さんざし)各2.0g。甘草(かんぞう)1.0g。

この薬の使い方
前記処方を一日分として煎じてのむ。
ツムラ啓脾湯(けいひとう)エキス顆粒、成人一日7.5gを2~3回に分け、食前又は食間に服用。東洋(一日7.5g)も同じ。


使い方のポイント
四君子湯(110頁)に山薬(さんやく)、山査子(さんざし)、陳皮(ちんぴ)、蓮肉(れんにく)、沢瀉(たくしゃ)を加えたもの。
大病後の食欲不振に、胃腸の強化に使え、他の色々の薬で効かない水様性の下痢に試みてみると良い。
啓脾湯(けいひとう)というのは脾(ひ)(消化器)を啓(ひら)く(力をつける)という意味。

処方の解説
 人参(にんじん)朮(じゅつ)茯苓(ぶくりょう)甘草(かんぞう)四君子湯(110頁)で、胃腸の機能を盛んにして食欲をすすめる(補気健脾(ほきけんぴ))作用があり、山査子(さんざし)陳皮(ちんぴ)は食べたものを消化し、蓮肉(れんにく)は胃腸の力をつけ、強壮、利尿効果もあって下痢をとめ、沢瀉(たくしゃ)は下痢をとめ、口の渇きを治す働きがあります。


副作用
1)重大な副作用と初期症
1) 偽アルドステロン症: 低カリウム血症、血圧上昇、ナトリウム・体液の貯留、浮腫、体重増加等の偽アルドステロン症があらわれることがあるので、観察(血清カリウム値の測定等) を十分に行い、異常が認められた場合には投与を中止し、カリウム剤の投与等の適切な処置を行うこと。
2) ミオパチー: 低カリウム血症の結果としてミオパチーがあらわれることがあるので、観察を十分に行い、脱力感、四肢痙攣・麻痺等の異常が認められた場合には投与を中止し、カリウム剤の投与等の適切な処置を行うこと。
[理由]
厚生省薬務局長より通知された昭和53年2月13日付薬発第158号「グリチルリチン酸等を含 有する医薬品の取り扱いについて」に基づく。

[処置方法]
原則的には投与中止により改善するが、血清カリウム値のほか血中アルドステロン・レニ ン活性等の検査を行い、偽アルドステロン症と判定された場合は、症状の種類や程度によ り適切な治療を行うこと。低カリウム血症に対しては、カリウム剤の補給等により電解質バランスの適正化を行う。

2) その他の副作
過敏症:発疹、蕁麻疹等
このような症状があらわれた場合には投与を中止すること。
[理由]
本剤には人参(ニンジン)が含まれているため、発疹、蕁麻疹等の過敏症状があらわれるおそれがあるため。

[処置方法]
原則的には投与中止により改善するが、必要に応じて抗ヒスタミン剤・ステロイド剤投与等の適切な処置を行うこと。

2014年6月14日土曜日

四苓湯(しれいとう) の 効能・効果 と 副作用

漢方診療の實際 大塚敬節 矢数道明 清水藤太郎共著 南山堂刊
分消湯(ぶんしょうとう)の項
白朮・茯苓・猪苓・沢瀉は四苓湯で利水を図り、




漢方薬の実際知識 東丈夫・村上光太郎著 東洋経済新報社 刊
四苓湯(しれいとう)〔五苓散(ごれいさん)から桂枝を除いたものであり、瘀水が体内にあるが、気 の上衝がないため、頭痛、めまい、嘔吐などが弱いものである〕



『健保適用エキス剤による 漢方診療ハンドブック 第3版』
桑木 崇秀 創元社刊


四苓湯(しれいとう) <出典>温疫論(清時代)

方剤構成
 沢瀉 茯苓 猪苓 白朮

方剤構成の意味
 五苓散から桂枝を除いただけの方剤である。
 五苓散中の桂枝は,表虚すなわち頭痛やめまいを治す作用を期待して入れられているものと考えられるから,五苓散の証で表証がないものは四苓湯でよいということになる。

適応
 ①腎炎・ネフローゼ,②嘔吐(悪阻(つわり)などで,水を飲むとすぐ吐く場合)。



『健康保険が使える 漢方薬 処方と使い方』
木下繁太朗 新星出版社刊

四苓湯(しれいとう)

温疫論(うんえきろん)

どんな人につかうか
 五苓散(ごれいさん)(87頁)から桂枝(けいし)をぬいたもので、口渇(こうかつ)があって水を飲むけれどもうまくおさまらず,尿の出も悪く,嘔気(おうき),嘔吐(おうと)、腹痛、むくみなどを伴う場合に用い、暑気あたり、急性胃炎、むくみなどに応用します。

目標となる症状
 ①口渇(こうかつ)。②嘔気(おうき)、嘔吐(おうと)。③浮腫。④腹痛。⑤下痢(水様性)。

   五苓散(ごれいさん)に準ずる。

どんな病気に効くか(適応症) 
 のどが渇いて水を飲んでも尿量が少なく、吐き気、嘔吐、腹痛、むくみなどのいずれかを伴う次の諸症。暑気あたり急性胃腸炎むくみつわり。

この薬の処方
 沢瀉(たくしゃ)、茯苓(ぶくりょう)、朮(じゅつ)、猪苓(ちょれい)各4.0g。

この薬の使い方
前記処方の一日分として煎じてのむ。
前記四種の生薬の粉末を等分にまぜ、散剤として1回1.0~4.5gを服用します。

オースギ四苓湯細粒(しれいとうさいりゅう)、成人一日3.0gを2~3回に分け、食前又は食間に服用する。


使い方のポイント
五苓散ごれいさん)の症状で、のぼせ、頭痛、発熱などの表証のない場合に用います。

浅田宗伯の勿誤薬室方凾(くごやくしつほうかん)には、四苓散(しれいさん)(四苓湯(しれいとう))が「能(よ)く雀目(じゃくもく)(夜盲症)を治す」とあります。

処方の解説
 五苓散(87頁)の項参照(頭痛、発熱、のぼせはない)。

※勿誤薬室方凾(くごやくしつほうかん)? → 勿誤薬室方凾(ふつごやくしつほうかん)

『勿誤薬室方函口訣(51)』 日本東洋医学会理事 内炭 精一
 -四物湯(局方)・四物竜胆湯・四苓散・紫根牡蠣湯・紫蘇子湯-

 四苓散(しれいさん)
 次は四苓散(しれいさん)です。本方は呉有性の著書である『温疫論』所載の薬方であります。最初に本文の訂正をします。本文の上から十一字目の下に「飲」が脱落しています。さらに一行置いて、次の薬方は「即五苓散ゴレイサン)方中去桂枝」とありますが、これは『寿世保元』の四苓散(シレイサン)(茯苓(ブクリョウ)、沢瀉(タクシャ)、猪苓(チョレイ)、白朮(ビャクジュツ)であって、『温疫論』の四苓散は茯苓、沢瀉、猪苓、陳皮(チンピ)の四味であります。 主治の文の「治煩渇」以下「名停飲」までは「温疫論」に出ている主治の文の引用で、しかも、のちに続く文を省略してあります。「説約云」以下、薬方、浅田先生の『口訣』をも含めて全文は『寿世保元』の四苓散として記述したものと考えられます。
 そこで『温疫論』 の四苓散の主治を原典の通りに解説します。温疫という流行性の激しい熱病で、熱の邪が胃腸に伝わって、口渇が激しくて水分が飲みたければ、ほどほどに与えるのがよろしい。もし口渇が強くて飲むことが多過ぎると、水が心下部に停滞します。これを停飲といいます。四苓散を用いると大変効果があります。もし口渇が至って強く、冷たい水を飲みたく思えば夏冬に関係なく、これまたほどほどに与えたらよろしい。流行性熱病の熱の甚だしいものが冷たい水を飲む時は大変治療の助けとなるので、熱を冷ますためにもよいのであります。しかし飲もうと思う半分で止めなさい。一時に多く飲むのは悪いのです。暫くして再び口渇があれば、また飲ませなさい。梨の汁、蓮根の汁、サトウキビの汁、西瓜の類をあらかじめ貯蔵して、不意の求めに応ずるのがよい。もし冷えたものを嫌うものには温い湯を用いる。口渇の止まった時は胃腸が正常に回復したのであります。
 次に五苓散から桂枝を去った四苓散、すなわち『寿世保元』の四苓散(茯苓、沢瀉、猪苓、白朮)について解説します。香川修庵の著書『医事説約』によると、四苓散に唐蒼朮(トウソウジュツ)を加えて、夜盲症に大変効果があると述べているが、浅田先生は「この方(寿光保元の四苓散)はよく夜盲症を治すことができる。また胃腸に水分が多くて、膀胱に熱があり、すなわち小便の出が悪く、下痢するものには、本方に車前子を加えて与えると効果がある」といっております。
  夜盲症の治療については浅田先生はその治験録である『橘窓書影』で「四苓散から猪苓(チョレイ)を去って、大量の唐蒼朮を加得て用いるという香川修庵の伝や、逍遙散ショウヨウサン)に大量の夏枯草(カゴソウ)を加えて用いるという老医葦田氏の伝などがあるが、鶏肝丸の速効があるには及ばない。鶏肝丸はニワトリの肝臓一味を細末にしてヤマイモの細末と等分に合して米糊(べいこ)で固めて丸薬にしたものである。自分はこの薬方を遠江(静岡県)の川カトの眼科医和田玄晁に習った」といっております。
 同じく『橘窓書影』で浅田先生は「婦人で下痢の止まらないものを治療するのに四苓散加車前子(シレイサンカシャゼンシ)を用いて、往々特異な効果をあげている。あるいは時によって車前子一味を兼ね用いることもある」といっております。『橘窓書影』に出ている治験では、婦人産後の下痢で浮腫を伴ったものに奇効を得ています。


『勿誤薬室方函口訣』浅田宗伯
四苓散
  此の方は能く雀目を治す。また腸胃の間、水気ありて脬熱下利する者に車前子を加へて効あり。




オースギ四苓湯細粒(調剤用)
【組 成・性 状】
(1)本剤は1日量3.0g中、下記の生薬末を含有する。
  日局 タクシャ末   0.75g
  日局 ソウジュツ末  0.75g
  日局 ブクリョウ末   0.75g
  日局 チョレイ末     0.75g

 (2)本剤は暗褐色~灰褐色の細粒で、特異なにおいがあり、味 はやや苦い。

【効能又は効果】
のどが渇いて水を飲んでも尿量が少なく、はき気、嘔吐、 腹痛、むくみなどのいずれかを伴う次の諸症 : 暑気あたり、 急性胃腸炎、むくみ

【用法及び用量】
成人1回1.0g、15歳未満7歳以上1回成人の2/3量、
7歳 未満4歳以上1回成人の1/2量、
4歳未満2歳以上1回成人の 1/3量、
2歳未満1回成人の1/4量、
いずれも1日3回食前また は食間に水または白湯にて経口投与する。 

【使用上の注意】
(1)重要な基本的注意
    1)本剤の使用にあたっては、患者の証(体質・症状)を考 慮して投与すること。なお、経過を十分に観察し、症状 ・ 所見の改善が認められない場合には、継続投与を避ける こと。
    2)他の漢方製剤等を併用する場合は、含有生薬の重複に注 意すること。

(2)高齢者への投与
    一般に高齢者では生理機能が低下しているので減量する など注意すること。

(3)妊婦、産婦、授乳婦等への投与
    妊娠中の投与に関する安全性は確立していないので、妊婦 又は妊娠している可能性のある婦人には、治療上の有益性 が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与すること。

(4)小児等への投与
    小児等に対する安全性は確立していない。[使用経験が 少ない]






副作用
漢方薬にも少しは副作用があります。人によっては、服用時にむかついたり、食欲がなくなるかもしれません。しだいに慣れることが多いのですが、つらいときは医師と相談してください。    
・胃の不快感、食欲不振、軽い吐き気

2014年6月10日火曜日

胃苓湯(いれいとう) の 効能・効果 と 副作用

漢方診療の實際 大塚敬節 矢数道明 清水藤太郎共著 南山堂刊
平胃散五苓散の合方を胃苓湯と名づけ、水瀉性下痢または浮腫に用いる。

胃苓湯(いれいとう)
蒼朮 厚朴 陳皮 猪苓 沢瀉 白朮 茯苓各二・五 桂枝二・ 大棗 乾姜各一・五 甘草一・ 
平胃散五苓湯の合方で、急性腸カタルによく用いられる。下痢・口渇・微熱界を目標とする。またネフローゼに用いて効がある。



漢方薬の実際知識 東丈夫・村上光太郎著 東洋経済新報社 刊


五苓散の加味方
(1) 胃苓湯(いれいとう)  (古今医鑑)
五苓散平胃散の合方〕
本方は、五苓散證に平胃散證(前出、裏証Ⅰの項参照)をかねたもので、平素から水毒体質の人が胃腸をこわしたために、激しい腹痛を伴う水様性下痢や浮腫を起こすものに用いられる。
〔応用〕
つぎに示すような疾患に、胃苓湯證を呈するものが多い。
一 大腸炎、胃腸カタル、食あたりその他の胃腸系疾患。
一 ネフローゼ、腎炎その他の泌尿器系疾患。
一 そのほか、神経痛、暑気あたりなど。


明解漢方処方 西岡 一夫著 ナニワ社刊
p.133

胃苓湯(万病回春)
 蒼朮 厚朴 陳皮 猪苓 沢瀉 白朮 茯苓各二・五 桂枝二・〇 大棗 乾姜各一・五 甘草一・○(二三・五)
 平胃酸と五苓散を合せて煎剤にした処方で、平胃散を主に考えたときは、食べ過ぎ、食当りで,下痢して口渇や浮腫のある場合に用い、五苓散を主に考えたときは、慢性ヌフローゼで食慾不振になった場合に用いるものでいかにも万病回春の処方らしい投網式である。



和漢薬方意辞典 中村謙介著 緑書房
胃苓湯(いれいとう) [万病回春]

【方意】 平胃散証の脾胃の気滞脾胃の水毒による心下痞・悪心・嘔吐・腹痛・腹満と、五苓散証の水証による口渇・尿不利・下痢等のあるもの。

【自他覚症状の病態分類】

脾胃の気滞
脾胃の水毒
水証

主証 ◎心下痞
◎悪心
◎嘔吐
◎腹痛

◎口渇
◎尿不利
◎下痢





客証 ○腹満

○上腹部振水音
  微熱

 





【脈候】 緩・やや浮。

【舌候】 乾湿中間で白苔がある。

【腹候】 腹力中等度。多くは腹満して心下痞硬がある。しばしば上腹部振水音を伴う。

【病位・虚実】 平胃散証も五苓散証も共に少陽病の虚実中間に位する。

【構成生薬 蒼朮3.0 厚朴3.0 陳皮3.0 猪苓3.0 沢瀉3.0 白朮3.0 芍薬3.0 茯苓3.0 
         桂枝2.0 大棗2.0 生姜1.0 甘草1.0

【方解】 平胃散の構成生薬は蒼朮・厚朴・陳皮・生姜・甘草であり、これにより脾胃の気滞・脾胃の水毒を治す。五苓散は沢瀉・猪苓・茯苓・白朮・桂枝であり水証を主る。本方はこの二方に芍薬が加味されたもので、腹痛・腹満に対して一段と有効になっている。

【方意の幅および応用】
A 脾胃の気胞脾胃の水毒:心下痞・悪心・嘔吐・腹痛・口渇・尿不利・下痢を目標にする。
  夏負け、急慢性胃腸炎、熱射病、過敏性腸症候群、胃腸神経症

【参考】 *脾胃和せず、腹痛泄瀉(単なる下痢症)し、水穀化せず、陰陽不分なるを治す。
『万病回春』
*此の方は平胃散五苓散の合方なれば、傷食に水飲を滞ぶる者に用いて宜し。其他水穀化せずして下痢、或いは脾胃和せずして水気を発する者に用ゆべし。『回春』に所謂陰陽分たずとは、太陰の位して陰陽の間に在る症を言うなり。
『勿誤薬室方函口訣』
*細菌性の下痢ではなく、食あたりの下痢に用いる薬方で、特に尿不利・顔面浮腫を伴う場合に適応がある。(細迫陽三)。

【症例 高血圧と下痢
 57歳の婦人。1年前から血圧が高くなり、一時は210/130にもなった。
 体格栄養ともに普通で、一見いかにも健康そうにみえる。患者の主訴は、上昇したり下降したり常ない血圧の動揺で、フラフラとめまいがし、肩や首すじが凝って、腰がだるく、全身倦怠感があって、よく眠れない。それと毎日2-3回の下痢便が続き、ガスが多く出て困るという。降圧剤を飲んでも血圧はどうも下がらない。
 腹は全体としては軟弱で、臍の周りに抵抗と圧痛がある。初診時の血圧は170/120であった。腹証によれば、虚証で攻撃の剤は与えられないし、柴胡剤の胸脇苦満もない。しかし陰証ではないので、『万病回春』の泄瀉門にある胃苓湯を与えた。胃苓湯は平胃散五苓散の合方である。胃苓湯の指示は、「脾胃和せず、腹痛泄瀉、水穀化せず、陰陽分たざるを治す」というものである。
 胃苓湯を2週間分服用すると、下痢が止まり、不百議と思われるほどすべての訴え、全身症状が良くなり、血圧が140/80に安定した。
矢数道明『漢方治療百話』第五集87

数年来の血尿
 39歳の婦人。主訴は5年前から尿が赤くなり,毎日のように血尿が出ていた。検査を受けたが、腎臓が両方とも傷がついていて、片方なら手術をするが、両方とも同じようであるから、手術をするわけにはいかないといわれたという。栄養は良い方で血尿が続いているにもかかわらず、顔色もそれほど悪くはない。脈も正常で血測は136/84、舌は白苔、大便1回、小便は少なく赤く濁っている。背が痛むことがあり、月経は不順で子供は3人ある。
 初診のとき長男がみたのだが、この患者に胃苓湯の生姜を去って与えた。すると1週間服用すると数年来の血尿が普通の色となった。検尿したが蛋白はなく、血尿でもない。3ヵ月飲んだところ、ほとんど正常尿となり、服薬後1回も赤くならないで元気である。私が初めにみたなら猪苓湯合四物湯などを与えたかもしれない。
矢数道明『漢方治療百話』第四集175


臨床応用 漢方處方解説 矢数道明著 創元社刊
p.541
129 平胃散(へいいさん)〔和剤局方〕
p.542
〔加減方〕
 胃苓湯。本方に五苓湯を合方したもので、急性胃腸炎による下痢に用いる。

p641
3 胃苓湯(いれいとう) 〔古今医鑑・泄瀉門〕
    蒼朮・白朮・茯苓・猪苓・沢瀉・陳皮・厚朴・芍薬各三・〇 桂枝二・五 大棗・
    乾生姜・甘草各一・〇

 「中暑、傷湿、停飲、夾食(きょうしょく)(食を夾(さしはさ)む、食の停滞)脾胃和せず、腹痛洩瀉(えいしゃ)(水様下痢)渇(かつ)を作(な)し、小便利せず、水穀化せず、陰陽分たざるを治す。」
 急性胃腸炎で、小便不利し、腹痛下痢するもの、急性腎炎・ネフローゼ・夏期の食あたり・夏の神経痛などに用いられる。



『健保適用エキス剤による 漢方診療ハンドブック 第3版』
桑木 崇秀 創元社刊


胃苓湯(いれいとう) <出典>万病回春(明時代)

方剤構成
 生姜 大棗 甘草 厚朴 蒼朮 陳皮 沢瀉 茯苓 猪苓 白朮 桂枝

方剤構成の意味
 平胃散五苓散の合方で,重複するものがないので,二つの方剤がそのまま加えられた形になっている。
 平胃散が既に強い胃内停水除去剤であるのに,さらに湿を除く代表的方剤ともいうべき五苓散が加わっているのであるから,胃内停水や腸内の水分の停滞を除く作用が強い方剤と見ることができよう。

適応
 急・慢性胃炎,消化不良,食あたりなどで下痢する場合に用いる。
 胃内停水・腸鳴・尿量減少・口渇を目標に広く用いることができるが,著しい寒虚証者には適さない。


 <
 芍薬・縮砂・黄連を加えることもある。




『健康保険が使える 漢方薬 処方と使い方』
木下繁太朗 新星出版社刊

胃苓湯(いれいとう)
健 ツ、建
万病回春(まんびょうかいしゅん)

どんな人につかうか
 食べすぎ、食あたりなどで下痢(水様性)をしたり吐いたりし、口が渇いて尿量が減っているような場合に用います。又浮腫(ふしゅ)(むくみ)のある疾患で、食欲不振になった時にもよいようです。(体力中等度の人)。
 (平胃散(へいいさん))+(五苓散(ごれいさん))の組み合わせ処方です。 

目標となる症状
症 ①水様性下痢。②口渇(こうかつ)。③嘔吐(おうと)。④腹痛。⑤みぞおちの不快感。⑥腹部膨満感(ぼうまんかん)。⑦食後の腹鳴(ふくめい)・腹痛。⑧食欲不振。⑨尿量減少。⑩浮腫(むくみ)。


腹 腹にある程度の緊張があり、みぞおちをたたくとピチャピチャ音がする(胃内停水(いないていすい))。

脈 ひどく弱くはない。

舌 不定

どんな病気に効くか(適応症) 
 水瀉(すいしゃ)性の下痢、嘔吐(おうと)があり、口渇(こうかつ)、尿量減少を伴うものの、食あたり暑気あたり冷え腹急性胃腸炎腹痛急性腎炎 
ネフローゼ、夏の食あたり、夏の神経痛。

この薬の処方
 蒼朮(そうじゅつ)、厚朴(こうぼく)、陳皮(ちんぴ)、猪苓(ちょれい)、沢瀉(たくしゃ)、白朮(びゃくじゅつ)、芍薬(しゃくやく)、茯苓(ぶくりょう)各2.5g。桂枝(けいし)2.0g。大棗(たいそう)、乾姜、甘草各1.0g。(平胃散五苓散を合わせたもの)。

この薬の使い方
①前記処方を一日分としてを煎(せん)じてのむ。
②ツムラ胃苓湯(いれいとう)エキス顆粒(かりゅう)、成人一日7.5gを2~3回に分け、食前又は食間にのむ。(ツムラは芍薬ぬき)
③カネボウ(一日8.1g)前記に準じて服用する。


使い方のポイント
平胃散へいいさん)(193頁)と五苓散ごれいさん)(87頁)を合わせた処方で、水ぶとりなど水はけの悪い体質で、体力中程度の人が水様性の下痢をしたり、吐いたり、口が渇いて、腹がはったり、尿の出が悪く、胃に水がたまったような時に用います。



『重要処方解説(98)』
胃苓湯(サイレイトウ)・茯苓飲合半夏厚朴湯(ブクリョウインゴウハンゲコウボクトウ) 北里研究所付属東洋医学総合研究所医長 花輪壽彦


胃苓湯(イレイトウ),茯苓飲合半夏厚朴湯(ブクリョウインゴウハンゲコウボクトウ)の2方は,どちらかといえば実証タイプの消化器疾患に使われる処方です。

胃苓湯・出典
 胃苓湯は平胃散(ヘイイサン)と五苓散(ゴレイサン)の合方で,一般には出典は『万病回春(まんびょうかいしゅん)』とされております。しかし矢数道明先生の『漢方処方解説』には『古今医鑑(ここんいかん)』とありますし,他の本には『丹渓心法(たんけいしんぽう)』とするものがあります。結論からいいますと、平胃散五苓散の合方としての胃苓湯は,明代の方廣(ほうこう)の編著『丹渓心法付餘』が出典であるとするのがよいと思います。『古今医鑑』も『万病回春』もともに龔廷賢(きょうていけん)の著書で,両書ともに平胃散五苓散に加芍薬(カシャクヤク)として芍薬(シャクヤク)が入っております。その理由についてはのちほど申し上げます。
 江戸時代のわが国では,龔廷賢の著書が大変よく読まれまして,後世派の人々は,胃苓湯という芍薬の入った処方を用いたようです。その意味では構成生薬の差を知った上で,胃苓湯の出典を龔廷賢の書としてもよいのですが,その場合『万病回春』は1587年に,『古今医鑑』は1576年に著わされましたので,成立年代からいうと出典は『古今医鑑』とするのがよいと思います。ちなみにツムラ115番の胃苓湯は平胃散五苓散で,芍薬は入っておりませんので,パンフレットなどにある出典の『万病回春』は誤りで,『丹渓心法付餘』に直して下さい。
 また浅田宗伯(あさだそうはく)の『勿誤薬室方函口訣(ふつごやくしつほうかんくけつ)』も『万病回春』になっておりますが,これも誤りです。ただ厳密にいうと出典はなかなかむずかしく,五苓散が『傷寒論』で,平胃散が『和剤局方(わざいきょくほう)』ですから,その2つを合わせた合方は,それ以降ならばいつでもあり得るとはいえます。ここでは一応,出典は『丹渓心法付餘』といたします。
 『丹渓心法付餘』巻七,泄瀉門の附諸方には,「暑に感じ,食を夾み,泄瀉し,煩渇するものを治す」と,簡単に胃苓湯の主治する目標があります。

■構成生脈:薬能薬理
 胃苓湯の構成生薬は当然,平胃散の構成生薬である蒼朮(ソウジュツ),厚朴(コウボク),陳皮(チンピ),大棗(タイソウ),甘草(カンゾウ),生姜(ショウキョウ)と,五苓散の猪苓(チョレイ),茯苓(ブクリョウ),沢瀉(タクシャ),白朮(ビャクジュツ),桂枝(ケイシ)の11味になります。『古今医鑑』巻三,泄瀉門には,以上の11生薬に芍薬が入ります。そしてその条文は「中暑,傷湿,停飲,夾食(食が停滞すること),脾胃和せず,腹痛洩瀉(水様性下痢),渇をなし,小便利せず,水穀化せず,陰陽分たざるを治す」とあります。「陰陽分たざるを治す」ということについては二通りの解釈がありますが,それについてはのちほど申しあげます。
 構成生薬の簡単な解説をいたします。一番重要と思われるものは,白朮と蒼朮と両方入っておりますので,この両者の違いについて簡単に述べてみます。『神農本草経(しんのうほんぞうけい)』の上品に朮と記載され,『傷寒論』『金匱要略』では朮は区別されておりませんが,江戸時代には蒼朮を用いることが多かったようです。今日では臨床的にも,また現代薬理学的にも,白朮と蒼朮は使い分けた方がよいというのが一般的であります。『本草綱目(ほんぞうこうもく)』に,水毒を去り,脾胃を健やかにする点は白朮も蒼朮も同じであるが,蒼朮は発汗作用があり,白朮は止汗作用があると区別しております。
 現代中医学では白朮と蒼朮の違いを簡単に,白朮は補脾,蒼朮は運脾(脾をめぐらす)ということで両者の差を述べております。白朮はやや甘く,虚を補う作用があり,蒼朮はやや苦く,実邪を去る作用が強いというわけです。ですから私どもが実際に臨床に使う場合には,健脾,整腸,止瀉というか,胃腸を丈夫にするという意味では白朮の方が働きが強く,解熱,鎮痛,湿を乾かす,発散作用というものは蒼朮の方がよくて,胃腸を丈夫にするという意味では白朮の方がよいというのが臨床的な使い方です。ただし白朮と蒼朮は,本方のごとく一緒に用いることも少なくありません。
 現代薬理学の立場からも,白朮と蒼朮については多くの知見が報告されるようになりました。2,3述べてみますと,例えば両者とも利尿作用がありますが,利尿効果につ感ての知見は一定しません。どちらも利尿作用があるという報告と,あまり利尿効果はみられなかったという報告と,水を過剰に負荷した時にはみられるという報告などで,一定しません。中枢作用については,蒼朮にはあるが,白朮にはないと報告があります。すなわち蒼朮中のβ-eudesmol,hinesolなどには鎮静作用,抗痙攣作用などの中枢抑制作用があるという報告があります。
 抗炎症作用についての報告もありますが,一般に私どもは,例えば葛根湯加朮附湯(かっこんとうかじゅつぶとう)の朮は蒼朮をよく用いますので,抗炎症作用は蒼朮の方が強いのではないかという臨床的な印象を持っておりましたが,現代薬理の報告では,むしろ抗炎症作用は白朮に強く,蒼朮にはほとんど認められないという報告が多いようです。例えばadjuvantによる関節炎の抑制効果などついては、蒼朮はむしろ増悪させるという報告もあります。
 消化器作用についてもいろいろな報告がありまして,朮の種類によって,例えば白朮類,フルダテ蒼朮,西北蒼朮などの違いによって,ストレス潰瘍における効果などをみても大変違うようです。白朮類はストレス潰瘍に有効であるが,ヒスタミン潰瘍には無効であるとか,フルダテ蒼朮はH,H-receptor拮抗作用があって,ヒスタミン潰瘍に有効であるとか,西北蒼朮はセロトニン潰瘍に有効である等々いろいろな報告があります。
 また肝害護作用なども認められるようになりまして,白朮のatractyloneは四塩化炭素肝障害を抑制するとか,蒼朮にも肝障害抑制作用があるなど,いろいろな報告があります。これらの知見は今後の臨床応用に際して,いろいろ有用な知見となる可能性が高いと思感ます。
 白朮,蒼朮以外には厚朴が大事な生薬ですから簡単に申し上げます。厚朴は『神農本草経』の中品にあり,古来より鎮痛,鎮静作用があるとして,消化器疾患や神経疾患によく用いられました。中国産の厚朴と和厚朴(ワコウボク)は基源植物が異なります。日本産はモクレン科ホオノキの樹皮を用います。私どもが臨床的に用いる時は胸腹部の膨満,疼痛,あるいは鎮咳,不安,また精神的緊張による骨格筋の異常緊張状態の緩和などに用います。パーキンソン病などにもよく用います。
 薬理学的にはクラーレ様作用,ジフェニール化合物のmagnololおよびhonokiolに中枢抑制作用があるとか,種々の細菌に対する殺菌作用があるとか,いろいろな知見が報告されております。特に最近は厚朴の抗アレルギー作用が注目されており移す。
 構成生薬中の五苓散は,全体として利水作用を持つとされております。 利尿と利水の相違はよく問題になるところですが,簡単に申しますと,利尿は腎に働いて一方向的に尿量をふやすのに対して,利水は水分の偏在を正すというようによくいわれます。現在の薬理学的実験では,利尿作用それ自体はそれほど強くはないとする意見が多いのですが,たとえば猪苓,茯苓は水を家量に負荷する時には非常に多くの利尿効果を認めるとする報告が多いようです。利水と利尿の違いの1つとして大事なことは,例えば五苓散は現代医学の利尿剤の持つ経腎的な尿排泄作用以外にも,数多くの薬理学的作用点を持っているということだと思います。その1つとして例えば,水分の吸収作用,抗炎症作用,免疫調節作用などの腸管に対する作用が,利水ということの科学的根拠として,いろいろ知見が出てくるのではないかと考えます。
 一般には利尿作用はいわゆるループ利尿剤などに比べて落ちるといわれておりますが,必ずしもそうではなく,例えば肝硬変,ネフローゼ,心不全など重症な病態に対して,現代医学的に利尿剤がうまく効かないようなところに,五苓散などが非常によく効くことを臨床的に経験しておりますので,利尿効果という効果についても,必ずしも現代医学の利尿剤に劣るとは一概にいえないと思います。
 五苓散を構成する生薬の薬理の中で,最近注目されていることを一言申し添えますと,たとえば猪苓(サルノコシカケ科チョレイマイタケの菌核)は,その中の多糖類,水溶性グルカンに抗腫瘍活性のあることが注目されております。また茯苓(サルノコシカケ科マツホドの地中にできた菌体成分)の多糖にも,種々の免疫学的活性があり,根癌作用の報告などもあります。しかし茯苓についての研究報告は意外に少ないようです。沢瀉(サジオモダカの根茎)は利尿作用以外に,抗脂肪肝作用,コレステロール低下作用,循環器作用などいろいろな報告があります。

■古典における用い方
 それらの入った胃苓湯について説明してみたいと思います。古典による用い方は,18世紀から19世紀の初めにかけて活躍した浅井貞庵(あさいじょうあん)の書いた『方彙口訣(ほういくけつ)』が参考になるかと思い移す。この中で「胃苓湯は分利剤である」と述べております。その意味は胃苓湯は脾胃に水湿が滞って,小便に出るべき水分が大便の方に行ってしまうため下痢をするので,水分は陽道である尿路に,カスは陰道である大便の側に分ける処方である,平胃散で脾胃の湿を乾かし,余分な水は五苓散で小便へという方意であると述べております。
 浅井貞庵の『方彙口訣』にある胃苓湯は,出典を『万病回春』としておりまして,したがって構成生薬の中に芍薬が入っております。芍薬の意義につ感て,「芍薬は津液の関閉(しまり)をつける」と述べております。この意義は大事なことでして,単に利尿として,どんどん水を出すのではなく,一方で津液を保持するという作用を持ちながら余分な水をさばくということです。真武湯(シンブトウ)にも芍薬が入っております。真武湯を利尿剤と考えるならば,芍薬は入らない方が利尿作用は強いといえますが,そのあたりが漢方処方の面白いところで,芍薬を入れて体液の保持をしながら,余分な水をさばくというところが面白いと思います。
 先ほど『古今医鑑』の出典のところで「陰陽分かだるを治す」といったのは,1つにはこういう意味であるということです。「陰陽不分」について、浅田宗伯の『勿誤薬室方函口訣』の中では「『回春』に所謂陰陽不分とは,太陰に位して陰陽の間に在る証をいうなり」といっております。つまり陽証と陰証の中間にある証であるといった別の解釈をしております。これも1つの見解だと思います。なお蛇足ながら,浅田宗伯は「平胃散は後世派は称美すれども顕功はなし」と評しております。

■現代における用い方
 現代における胃苓湯の中では用い方は,矢数道明先生の『漢方処方解説』に簡潔に述べてあります。すなわち,急性胃腸炎で小便不利し,腹痛,下痢するもの,急性腎炎,ネフローゼ,夏期の食あたり,夏の神経痛などに用いるとあります。
 平胃散四君子湯(シクンシトウ),人参湯(ニンジントウ)のように胃腸の働きが衰えて湿邪が停滞するのではなく,食べすぎ,飲みすぎなどによって胃内に実邪としての食毒,水毒が停滞して,それが盛り上がっているような形になっているものを平らにするということが,平胃の方意であります。一般の,そのような胃腸疾患に用いる以外に,矢数先生はこの処方を鼻アレルギーに用いたことがありました。それを見ておりまして,私も鼻アレルギーに胃苓湯を使ってよい結果果得た症例があります。


■症例提示
 36歳の女性で,本来胃腸が丈夫ではなく,5年前に横浜に引越してから,季節の変わり目にクシャミ,鼻水が出て困った。漢方薬局へ行ったところが小青竜湯(ショウセイリュウトウ)を出されたが、それを飲んで胃腸をこわしてしまった,何とかしてほしいと来院しました。腹力はやや虚で,胃内停水が多少みられ,臍傍の動悸があり,臍傍の圧痛はありませんでした。舌は湿っており,白苔があります。というわけで麻黄(マオウ)はあまり使わない方がよいと考え,胃苓湯で心下の水をさばこうとしました。そうしたところ胃腸症状も鼻アレルギーも改善したという症例です。このように鼻アレルギーという病名にとらわれずに,水毒の偏在を正しながら水をさばくという用い方が,本来の漢方薬の使い方で,非常に面白いと思います。




※葛根湯加朮附湯(かっこんとうかじゅつぶとう)? 
→葛根加朮附湯(かっこんかじゅつぶとう)

※adjuvantによる関節炎の抑制効果などついては、
→adjuvantによる関節炎の抑制効果などについては、

※フルダテ蒼朮? → 古立蒼朮(コダチソウジュツ)

※平胃の方胃? → 平胃散の方意?



『勿誤薬室方函口訣(5)』
北里研究所附属東洋医学総合研究所部長 大塚 恭男
-葦茎湯・已椒黄丸料・痿証方・・胃風湯・胃苓湯・郁李仁湯(聖恵)・郁李仁湯(本朝経験)-

胃苓湯
 次は胃苓湯(イレイトウ)です。これは『万病回春』に載った処方です。「脾胃和せず、腹痛泄瀉、水穀化せず、陰陽分かたれざるものを治す」とあります。厚朴(コウボク)、橘皮(キッピ)、甘草(カンゾウ)、蒼朮(ソウジュツ)、猪苓(チョレイ)、沢瀉(タクシャ)、茯苓(ブクリョウ)、桂枝(ケイシ)の八味より成ります。
 「この方は平胃散ヘイイサン)、五苓散ゴレイサン)の合方であるから、平胃散の目標する食あたりと、五苓散の目標とする水毒が加わったものに用いてよい。その他食物が消化しないで水のように下ってしまうもの、あるいは消化機能一般の不調で下痢を起こす場合に用いなさい。『万病回春』にいっている陰陽分かたれずとは、この目標は太陰が病位で、陰陽の間にある症である」ということであります。胃苓湯は、ここに巧みに記されてありますように、平胃散五苓散の証が合わさったような感じのものによく使われます。

『Kampo Square 38号』 2006.12.25発行
緊急特集:ノロウイルス感染症と漢方 
大野クリニック院長(埼玉県比企郡)       大野 修嗣 先生に聞く

悪心・嘔吐・下痢で
・熱なし、弱脈でない、心下痞硬がある場合→半夏瀉心湯
・熱なし、弱脈でも良い、腹部の冷え→人参湯
・熱あり、弱脈でない、胃内停水→五苓散
・熱あり、弱脈でない(弦脈が良い)、胸脇苦満→柴苓湯
・熱少、弱脈でない、上腹部膨満感→胃苓湯



『Kampo Square 47号』 2007. 5.10発行

連載 --- 私の漢方診療日誌(35)---  

なにやら厚生労働省は、医療費削減に向けて2012年度までにメタボリック症候群の該当者を10%以上減少するという数値目標を設けたそうである。昔から「腹八分に医者いらず」という諺がある。健康診断を推奨するよりも、ちょっとだけ少食を心がけるように呼びかける方が効果的ではないかと思ったりする。  しかし食べ過ぎないのに胃腸をこわす人は、これこそ明らかな病気であり、漢方薬は素晴らしい効果をもたらしてくれる。今回は、これからの暑い季節にはなくてはならない胃苓湯のお話しである。

食傷と下痢を2処方の合方で解決
食べ過ぎ、飲み過ぎには胃苓湯

ももち東洋クリニック院長 木村豪雄

 A氏は55歳の男性でツアーコンダクターとして活躍している。6ヶ月前から毎朝といってよいほど食後2時間経つと下痢をするということで来院された。下痢の性状は水様性で臭いは少ないが、左下腹がシクシクと痛むことがある。「卵が合わないのかな?」とも云われる。既往歴に胆石症があるが、これまでに疝痛発作のような激しい痛みは経験したことはない。

 身長167cm、体重70kg。体格は中等度で栄養状態は良好である。血液検査では肝胆系酵素に異常はなかったが、高脂血症(総コレステロール224mg/dl、中性脂肪366mg/dl)と高尿酸血症(尿酸8.9 mg/dl)がみられた。漢方医学的所見では、脈は弦脈(浮沈間)で、舌には乾いた白黄苔がついている。腹診では腹壁の緊張は良好である。心下部がパンと堅く張っており、軽く揺さぶるとチャポチャポと音がする(振水音)。

 ツムラ胃苓湯(イレイトウ)(J-115)7.5g/日を処方する。

◇8日後再診  下痢は毎日しなくなった。腹痛もない。
◇1ヶ月後  尿の回数が増えた。腹痛はなく、ときに油物を食べると腹が緩む。
◇2ヶ月後  下痢はまったくない。「漢方っていいものですね。妻も診てください」と云われる。血液検査を再検すると、総コレステロール207mg/dl、中性脂肪216mg/dl、尿酸7.8 mg/dlと改善傾向にあった。

 さて、紹介されたA氏の奥さんは48歳。4~5年前から月経痛がひどくなり、経血量も多くなったのが悩みであった。婦人科では子宮腺筋症と診断された。

 こちらは手足の冷えと浮腫を目標に、ツムラ当帰芍薬散(トウキシャクヤクサン)(TJ-23)7.5g/日で月経痛は楽になった。今では二人で仲良く漢方薬を飲んでいる。一度、間違って妻の漢方薬を飲んだ夫が、「うちの奥さんはあんな不味い薬をよく平気で飲めますね」とこぼしたことがあった。なるほど薬の味も大切である。

考案
 胃苓湯は平胃散(ヘイイサン)と五苓散(ゴレイサン)の合方である。平胃散は“食傷”の基本方剤と云われている。食傷とは飲食物によって身体が傷つけられたという意味で、平たくいえば食べ過ぎ、飲み過ぎ、冷たいものや刺激物などによって消化器が侵されるものを指す。(山本厳:東医雑録2)
 この患者さんの場合、食後に調子を崩すということから広い意味の食傷と考えて平胃散をイメージした。さらに下痢を伴うことから五苓散を合わせた胃苓湯を選択した。
 胃苓湯は平素体質的に水はけの悪い体質(水毒)の人が腹をこわしたため、水分の吸収が悪くなって食物が不消化のまま水様便として下るもので、口渇、胃内振水音、腹がはり、尿量減少の症状があるものに用いる。腹痛はあまり激しくなく、また痛まないこともある。(一般用漢方処方の手引き:薬業時報社)

 下痢に対する漢方治療も病態の陰陽を基本として考える。陰証とは冷えが主体の病態である。陰証の下痢の特徴は臭いが少ない水様性下痢が多く、腹痛や裏急後重(しぶり腹)を伴わない。代表方剤には真武湯(シンブトウ)や人参湯(ニンジントウ)がある。一方、熱が主体となる陽証の下痢は、腹痛があり下痢の臭いも強いことが多い。さらに排便するときに肛門に灼熱感があり、排便後もスッキリ感がない。黄芩湯(オウゴントウ)が代表である。


『漢方後世要方解説』 矢数道明著 医道の日本社刊

p.126
10 胃苓湯(イリヨウトウ) (古今医鑑 泄瀉門)

 〔処方〕  蒼朮 厚朴 陳皮 猪苓 沢瀉 白朮 茯苓 芍薬各二・五 桂枝二・〇 大棗 生姜 各一・五 甘草一・〇 (多く茯苓、沢瀉を増量して用う)
 本方は、平胃散五苓散との合方にさらに芍薬を加えたものである。

 〔主治〕 胃苓湯の主治として古今医鑑に、「中暑、傷湿、停飲、脾胃和セズ、腹痛洩(セツ)瀉渇ヲ作シ、小便利セズ、水穀化セズ、陰陽分タザルヲ治ス」とある。
 また医療手引草には、「飲食停積、浮腫、泄瀉、脈証倶ニ実ナル者ヲ治ス」とあり、
 また牛山方考には、「飲食過多ニシテ、腹脹リ口渇泄瀉、小便赤渋ノ症ニ奇効アリ」と述べている。
 これらの諸説は本方の主治をよく約言していると思われる。

 〔運用〕 勿誤方函口訣に、「此ノ方ハ平胃散五苓散ノ合方ナレバ、傷食ニ水飲ヲ帯ブル者ニ用ヒテ宜シ。其他水穀化セズシテ下利、或ヒハ脾胃和セズシテ水気ヲ発スル者ニ用ユベシ。回春ニ所謂陰陽分タズトハ、太陰ニ位シテ陰陽ノ間ニ在ル症ヲ云フなり」とある。
 また校正方輿輗、泄瀉門には、「時節ニ拘ハル所アラザレドモ、胃苓湯ノ症ハ夏秋ノ際ニ多キモノナリ」とあり、
 また、医療衆方規矩には、
 「脾胃調ラズ、暑湿飲ムモノナヅミ腹痛ンデ瀉(クダ)り、飲ムモノ食フモノ化(コナ)サズ、陰陽ヲ分タズ、水ノカハリテ中ルヲ治ス。一切ノ泄瀉ヲ治スルノ総司ナリ。夏月ニ初メハザツト下シテ、後ニ渋リコヽロヨカラズト云フモノ此ノ湯ヲ用ユベシ。又夏月痛風ヲ患フ、按ズルニ暑湿ニヨツテ身骨節イタム故ナリ、此湯ヲ用ヒテ瘉ユ。或人語ツテ云ク、此方ハ四五月ヨリ八九月ニ至テモパラ用ユ、何トナレハ暑湿ヲ治スルノ故ナリ」と述べている。
 また、医方小乗、泄瀉門には、「飲食過多ニシテ腹脹口渇シ、小便渋ツテ裏急後重、赤白下利スルニ、胃苓湯ニ黄連、芍薬ヲ加エテ用ユベシ、裏急甚シキモノニハ木香、檳榔ヲ加ヘ用フベシ。
 夏ノ痢病ノ始メニハ胃苓湯ニテ暑湿ヲ去ルベシ。腹熱アルニハ解毒湯ヲ合シテ、渋ルコト甚シキニハ枳実大黄湯ヲ加フベシ」とあり、
 また、牛山方考には、
 「元禄四年五六月ノ間、長雨ニテ士民尽ク暑湿ノ気ニ感ジテ頭痛裂クガ如シ、余為メニ一方ヲ製ス。胃苓湯に柴胡、黄芩を加ヘテ本トシ、熱甚シク大便秘セバ黄連、石膏を加フ。大便泄するには白扁豆、升麻ヲ加フ、腹痛ニハ木香、砂仁ヲ加フ、咽渇ニハ葛根ヲ加フ、頭痛ニハ羗活、川芎ヲ加フ、眼中黄ムニハ茵蔯ヲ加エテ之ヲ用フルニ手ニ応ジテ效あり。津城三千戸及便ビ国中ノ人、其霊方ノ応験ヲ聞キ伝ヘテ薬ヲ乞フ者門ニ満ツ、毎日此方ヲ修合シテ人ニ与フルコト百ヲ以テ数フ。奇々妙々」とある。
 また、当荘庵家方口解には、
 「四時トモニ大便瀉スル主方ナリ。無熱ニハ木香ヲ加フ、食モ少シ滞リ大便瀉スルニ吉(ヨ)シ。平胃散ニテ脾胃ヲスカシ、食ヲ圧エテ分利スル故ニ水道ノセキキレ水流ルヽ意也。水腫脈進而力アルニ加車前子、木通、燈心ヨキコトアリ。脈進マズ弱キハ脾腎ノ元陽虚冷ナリ、用フベカラズ。胸フクレ不食スルニ加檳榔子ヨキコトアリ。是ハ脾胃モ少シ塞リ大小腸和セズ、故ニ胸フクレ不食シ湿ニモアタルユヘナリ。夏秋ノ間此ノ如キコトアリ」とある。
 また和漢纂言要方には、
 「亀渓先生ノ曰ク、総ジテ痢ニ初メヨリ驟(アワテ)テ芍薬湯(芍薬二・〇 当帰一・〇 黄芩一・〇 大黄〇・七 ケイシ〇・七 木香〇・七 檳榔〇・七 甘草〇・五)ヲ用ユレバ、却ツテ腸胃ヲ害シ難治ノ症トナルコト多シ、殊更小児ナドノ痢病ニハ此方ニ木香、黄連ナドノ加味ニテ療スベシ。丹渓先生ノ曰ク小児ノ血痢ハ食積ナリト豈妄リニ河間ノ芍薬湯ヲ用ユルコトヲセンヤ」と述べている。

 〔薬能〕 名医方考には、「湿盛ニシテ泄瀉スル者コレヲ主ル。蒼朮 厚朴 陳皮 甘草は平胃散ノ味ニシテ湿ヲ乾カス所以ナリ。白朮 茯苓 猪苓 沢瀉 桂枝ハ五苓散ノ味ニシテ湿ヲ利スル所以ナリ」とある。
 また、和漢纂言要方には、「通仙先生ノ曰ク、古方胃苓湯ニ芍薬ナシ後哲此ノ味ヲ加フルモノハ此薬味酸クシテ能ク肝ノ陰気ヲ収歛シ、中焦脾胃ヲ補ヒ、瀉ヲ治スル故ナリ」とある。

 〔応用
 (一) 急性胃腸炎-殊に大腸炎で腎臓機能障碍を伴い、小便利せず腹痛泄瀉を発し、俗に云う夏期の食あたりというものに多くこの症がある。時に軽度の血便粘液便等を混じ、少し裏急後重を訴えるものには、黄連、木香、檳榔を加えて用いる。脈証は多くは沈で力があり、腹証も相当抵抗があるものである。舌は多くは白苔である。
 (二) 浮腫-食傷から来る急性腎炎や、下利し易いもの。
 (三) 夏期の神経痛 リウマチの類。




副作用
1) 重大な副作用と初期症状
1) 偽アルドステロン症 :低カリウム血症、血圧上昇、ナトリウム・体液の貯留、浮腫、体重増加等の偽アルドステロン症があらわれることがあるので、観察(血清カリウム値の測定等)を十分に行い、異常が認められた場合には投与を中止し、カリウム剤の投与等の適切な処置を行う。

2) ミオパシー :低カリウム血症の結果としてミオパシーがあらわれることがあるので観察を十分に行い、脱力感、四肢痙攣・麻痺等の異常が認められた場合には投与を中止し、カリウム剤の投与等の適切な処置を行う。

[理由]〔1)2)共〕
厚生省薬務局長よ り通知された昭和53年2月13日付薬発第158号 「グリチルリチン酸等を含有す る医薬品の取り扱いについて」 及び医薬安全局安全対策課長よ り通知された平成9年12月12日 付医薬安第51号 「医薬品の使用上の注意事項の変更について」 に基づく。


[処置方法]
原則的には投与中止により改善するが、血清カリウム値のほか血中アルドステロン・レニン活性等の検査を行い、偽アルドステロン症と判定された場合は、症状の 種類や程度によ り適切な治療を行う。 低カリウム血症に対しては、カリウム剤の補給等により電解質バランスの適正化を行う。



4) 劇症肝炎、肝機能障害、黄疸: 劇症肝炎、AST(GOT)、ALT(GPT)、Al‑P、γ‑GTP 等の著しい上昇を伴う肝機能障害、黄疸があらわれることがあるので、観察を十分に行い、異常が認められた場合には投与を中止し、適切な処置を行う

 [理由]
本剤によると思われる劇症肝炎、AST(GOT)、ALT(GPT)、Al‑P、γ‑GTP等の著し い上昇を伴う肝機能障害、黄疸が報告されている(企業報告)ため。
(平成24年1月10日付薬食安発0110第1号「使用上の注意」の改訂について に基づ く改訂)


[処置方法]
 原則的には投与中止により改善するが、病態に応じて適切な処置を行う。

2) その他の副作用
過敏症:発疹、発赤、瘙痒等

このような症状があらわれた場合には投与を中止すること。

[理由]
本剤にはケイヒ(桂皮)が含まれているため、発疹、 発赤、瘙痒等の過敏症状があらわれるおそれがあるため。

[処置方法]
原則的には投与中止にて改善するが、必要に応じて抗ヒスタミン剤・ステロイド剤投与等の適切な処置を行うこと。

【医療用漢方製剤 】
商品名 製造販売元
発売元又は販売元
一日 製剤量
(g)
添加物 剤形 効能又は 効果 用法及び用量 蒼朮(ソウジュツ) 白朮(ビャクジュツ) 厚朴(コウボク) 陳皮(チンピ) 猪苓(チョレイ) 沢瀉(タクシャ) 茯苓(ブクリョウ) 桂皮(ケイヒ) 大棗(タイソウ) 生姜(ショウキョウ) 甘草(カンゾウ)
1 ツムラ胃苓湯エキス顆粒(医療用) ツムラ 7.5 日局ステアリン酸マグ ネシウム、日局乳糖水 和物 顆粒 水瀉性の下痢、嘔吐があり、口渇、尿量減少を伴う次の諸症:
食あたり、暑気あたり、冷え腹、急性胃腸炎、腹痛
食前又は食間
2~3回
2.5 2.5 2.5 2.5 2.5 2.5 2.5 2.0 1.5 1.5 1.0

2014年6月5日木曜日

柴苓湯(さいれいとう) の 効能・効果 と 副作用

漢方診療の實際 大塚敬節 矢数道明 清水藤太郎共著 南山堂刊
小柴胡湯五苓散との合方を、柴苓湯と名づけ、小柴胡湯の證で口渇・尿利減少の者に用いる。



漢方薬の実際知識 東丈夫・村上光太郎著 東洋経済新報社 刊
(2) 柴苓湯(さいれいとう)
五苓散小柴胡湯の合方〕
本方は、五苓散證に小柴胡湯(前出、柴胡剤の項参照)をかねたものに用いられる。本方と同様な目的で、他の柴胡剤も五苓散と合方される。


明解漢方処方 西岡 一夫著 ナニワ社刊
p.85

小柴胡湯(傷寒論,金匱)
(中略)
p.86
類方 柴苓湯
 本方と五苓散の合方で、小柴胡湯証で下痢を伴うとき、即ち発熱、嘔気、口渇、下痢のあるときで、夏季の食中毒に多い症である。


和漢薬方意辞典 中村謙介著 緑書房
柴苓湯(さいれいとう) [得効方]

【方意】 小柴胡湯証の胸脇の熱証による胸脇苦満・口苦・口粘等と、五苓散水証による煩渇・尿不利・下痢傾向等のあるもの。
《少陽病.虚実中間からやや実証》

【自他覚症状の病態分類】

胸脇の熱証 水証

主証 ◎胸脇苦満


◎煩渇
◎尿不利
◎下痢傾向





客証 ○口苦 ○口粘
○心下痞硬(水)
○食欲不振(水)
○悪心 嘔吐(水)
 発熱
 往来寒熱
 浮腫

 





【脈候】 弦やや浮・浮にして力あり。

【舌候】 乾燥して白苔。

【腹候】 腹力中等度。胸脇苦満がある。多くは心下痞硬し、時に上腹部に振水音および腹直筋の緊張を伴う。

【病位・虚実】 小柴胡湯証も五苓散証も共に少陽病位である。脈力、腹力より虚実中間からやや実証で用いることが分かる。

【構成生薬 柴胡8.0 沢瀉7.5 半夏6.0 猪苓4.5 白朮4.5 茯苓4.5 黄芩3.0 大棗3.0 人参3.0 桂枝3.0 甘草3.0 生姜1.0

【方解】 本方は小柴胡湯五苓散の構成生薬をそのまま合わせたもので、それぞれの作用が共存して感る。

【方意の幅および応用】
A 胸脇の熱証水証:胸脇苦満・煩渇・尿不利を目標にする。
  急慢性胃腸炎、熱射病、水瀉性下痢等の急性胃腸炎、慢性肝炎、肝硬変
  急慢性腎炎、ネフローゼ症候群、妊娠中毒症、浮腫、クインケ浮腫
  滲出性中耳炎、関節リウマチ加療中の蛋白尿

【参考】 *傷風、傷暑、瘧を治す。『得効方』
*此の方は小柴胡湯の症にして、煩渇下利する者を治す。暑疫(夏の流行病、カゼや下痢)には別して効あり。
『勿誤薬室方函口訣』
*本方・四逆散・解労散などを慢性肝炎に用いる場合、硬い肝腫では別甲・檳榔子を加えるのが良い。 

【症例 出題と解答 脳腫瘍
 患者は9歳の婦人。5歳のとき猛烈な頭痛を訴え、吐いたので名古屋の大学でみてもらったら脳腫瘍ということで手術を受けた。しかし、その後半年の間は同様の頭痛と吐き気を催していた。学校へはかろうじて通学していた。
 昨年の11月より、眼瞼が下垂し、眼球が動かなくなり、耳も遠くなり、両手が細かに震え始めた。そこでまた名古屋の大学へつれて行くと、再発といわれ、4ヵ月間入院してコバルト療法を受けたが震えは増悪。東京で治療しようと上京した。都内の2ヵ所の大病院では、いずれも脳腫瘍と診断され、ダメであっても手術を要するといわれたという。
 体は小さく、皮膚は全身蒼白で水ぶくれの状態。脈をみて驚いたことには、弓弦のように力があり、頻数で、こわいような脈。書物に出ている死脈の中の弾石の脈と思われるような脈状を呈している。腹は全体が膨満し、心下の反応過敏で右の季肋下部が特に敏感。わずかな圧を加えただけでも、顔をしかめて痛いという。舌は白苔あり、口渇を訴える。頻尿で20分に1回、量は多くない。診察を終えると、「ありがとう」といたいけにも礼をいう英で、気持ちはしっかりしている。
 そこである古方の合方を用いました。また、兼用としてある粉薬を用いました。1ヵ月分を飲み終わって再び患者が来ました。今度は親に抱かれずに診察室へ一人で入って来ました。腹をみると前と違って圧しても痛くなく、食欲も出て来て、一般状態がかなり良くなって来ているのです。
 聞くと20日分を飲み終わったころから、自ら進んで床をはなれて本を読むようになり、小便は2時間に1回ぐらい、眼球も動くようになって来たというのです。次の1ヵ月分の薬を与えました。すると患者がどうしても行きたいと学校へ行き始めたというのです。3回目の来院のときは、第2回目のときにまだ残っていた手の震えも治っており、以上合計2ヵ月間の服薬でかなり好転して来たことが認められました。これは今後どうなるか目下大いに期待を持ち、祈る気持ちでいます。以上に対して用いる処方はどのようにお考えでしょうか。

 〔解答〕小柴胡湯五苓湯(2名)、小柴胡湯桂苓丸(2名)、苓桂朮甘湯(2名)、呉茱萸湯柴胡桂枝湯(1名)、柴胡加竜骨牡蠣湯五苓散(1名)、小柴胡湯芍薬甘草湯(1名)。
 〔出血者解答〕私の用いた処方は小柴胡湯五苓散の合方でした。それは、腹証の上から、まず小柴胡湯を考え、頭痛を目標に五苓散を用いました。それと尿量は少ないが頻繁にあるというこ選か現、水毒体質と考えて小柴胡湯五苓散の合方を用いたわけであります。兼用の粉薬ですが、私は脳腫瘍には山豆根を以前に何回か用いたことがありますので、今回も三豆根を1日1gを2回に分けて午前と午後に飲むようにしました。
矢数道明『漢方の臨床』11・11・22


臨床応用 漢方處方解説 矢数道明著 創元社刊
p.294
(2) 小柴胡湯 合 五苓湯(柴苓湯)
 小柴胡湯の証と五苓散の証と合併したもので、煩渇・下痢・暑中の疫病に多く用いられる。腎盂炎・腎炎・ネフローゼ・マラリアおよびその類似症などにも柴苓湯として用いることがある。

p.561 
実腫のときには柴苓湯・分消湯五苓湯木防已湯等を用いるが、




『健保適用エキス剤による 漢方診療ハンドブック 第3版』
桑木 崇秀 創元社刊
柴苓湯(さいれいとう) <出典>得効方

方剤構成
 柴胡 黄芩 半夏 生姜 大棗 人参 甘草 
 沢瀉 茯苓 猪苓 白朮 桂枝

方剤構成の意味
 小柴胡湯五苓散の合方で,重複するものがないので,二つの方剤がそのまま加えられた形になっている。
 小柴胡湯の証(胸脇苦満があって,軽度の虚証と見られる場合)で五苓散の証(この場合は主として尿量減少と水分停滞傾向を目標とする。口渇もあるのを原則とするが,必須条件ではない。頭痛・嘔吐・下痢を伴うこともある)を兼ねる場合に用うべき方剤と言えよう。

適応
 ①腎炎・ネフローゼ,②肝炎で腹水を伴うもの,③急性腸炎(下痢)または胃炎(嘔吐)。潰瘍性大腸炎にもしばしば効を奏する。
 ただし,小柴胡湯の証であることを前提とする。
 その他,小柴胡湯を用いたい場合で,尿量減少やむくみがあれば,広く用いてよい。


『健康保険が使える 漢方薬 処方と使い方』
木下繁太朗 新星出版社刊

柴苓湯(さいれいとう)
健 ツ、カ
得効方(とくほうこう)

どんな人につかうか
 吐き気や食欲不振があって、のどが渇き、浮腫(ふしゅ)などがあって、尿量の少ないものに用い、腎炎、肝硬変、下痢などに応用します。

目標となる症状
症 ①嘔気(おうき)。②食欲不振。③微熱。④口渇(こうかつ)。⑤口が苦(にが)い。⑥尿量の減少。⑦浮腫(ふしゅ)。⑧悪心(おしん)、嘔吐(おうと)。⑨下痢、腹痛。⑩頭痛。⑪めまい。⑫蛋白尿。

腹 季肋部(きろくぶ)に抵抗圧痛があり(胸脇苦満(きょうきょうくまん))、胃部をたたくとピチャピチャと水の音がし(胃内停水(いないていすい))、上腹部に軽い皮膚の盛り上がり(心下満(しんげまん))がある。

脈 弦(げん)を張ったような、なめらかな脈。

舌 白い薄い湿(しめ)った舌苔(ぜったい)。

どんな病気に効くか(適応症) 吐き気、食欲不振、のどの渇き、排尿が少ない人の、水瀉性下痢急性胃腸炎暑気あたりむくみ 急性腎炎、ネフローゼ、血管運動神経性浮腫、クインケ浮腫(ふしゅ)、感冒、肝硬変、滲出性(しんしゅつせい)中耳炎、起立性調節障害、アレルギー性鼻炎、IgA腎症、ジュリング氏疱疹(ほうしん)状皮膚炎。


この薬の処方
 柴胡7.0g 沢瀉(たくしゃ)、半夏(はんげ)各5.0g。黄芩(おうごん)、朮(じゅつ)、大棗(たいそう)、猪苓(ちょれい)、人参(にんじん)、茯苓(ぶくりょう)各3.0g。甘草(かんぞう)、桂皮(けいひ)各2.0g。生姜(しょうきょう)1.0g。(小柴胡湯(しょうさいことう)と五苓散(ごれいさん)の合方)

この薬の使い方
①前記処方(一日分)を煎じてのむ。
②ツムラ柴苓湯(さいれいとう)エキス顆粒、成人一日7.5gを2~3回に分け、食前又は食間に服用する。
③カネボウ(一日8.1g)前記に準じて服用する。


使い方のポイント
小柴胡湯(しょうさいことう)(125頁)と五苓散ごれいさん)(87頁)を合方したもので、小柴胡湯しょうさいことう)が適応する症状があって、口渇と尿量の減少、浮腫(ふしゅ)、嘔吐(おうと)(水様の吐物、水逆(すいぎゃく))。下痢(水様性)。頭痛などの症状が加わった場合に広く応用されます。
②ネフローゼ症候群やリウマチなどの膠原病(こうげんびょう)に、副腎皮質ホルモン(ステロイド)剤を使わなければならない場合に、柴苓湯(さいれいとう)を併用すると、ステロイド剤の効力を増強して、減量することが出来ます。又ステロイド剤の副作用防止にも役立っています。
③柴苓湯(さいれいとう)には利尿作用がありますが、現代医学の利尿剤(チアジト、アセタゾラミド、フロセミド、プレドニソロン、デスラノシド、ジギタリス葉末)と比較しても、これらの利尿剤に劣らぬ利尿作用があり、尿量の増加が認められます。
 現代医学の利尿剤では、血液中のカリウムの喪失がありますが、柴苓湯(さいれいとう)ではカリウムの喪失が少なく、腎臓に対する作用の仕方は、腎血流量を増加させることが考えられます。
④漢方のエキス剤が普及してから、色色な病気に柴苓湯(さいれいとう)が応用されるようになりましたが、現代医学で治りにくい、アレルギー性鼻炎、滲出性中耳炎、IgA腎症(腎臓の系球体にIgA抗体が沈着しておこる病気で、蛋白尿や血尿で発見されることが多い、そんなに悪性の病気ではない)、起立性調節障害、ジューリング氏疱疹状皮膚炎などが良くなったという症例が報告されています。

処方の解説
 柴苓湯(さいれいとう)は小柴胡湯しょうさいことう)と五苓散ごれいさん)を合方したもので、それぞれの作用の複合と考えてよいものです。
 小柴胡湯を形成しているDL分のうち柴胡(さいこ)、半夏(はんげ)、生姜(しょうきょう)は、情緒的に抑鬱(よくうつ)状態におちいり、自律神経の緊張が加わった状態(肝気鬱血)を治す疎肝解鬱(そかんげうつ)の効果があって、嘔気や咳(せき)をとめる効果があります。
 五苓散ごれいさん)も構成する生薬のうちの、茯苓猪苓沢瀉はいずれも、水分代謝をよくする効果があり、同時に、胃腸を丈夫にし、気を補い(補気健脾ほきけんぴ))、気持と安定させる(安神)効果があります。小柴胡湯しょうさいことう)の一部である人参(にんじん)、大棗(たいそう)、甘草(かんぞう)にも同様の補気健脾胃、安神(あんしん)の効果があり、分泌を促進する効果もあります。
 小柴胡湯黄芩(おうごん)は、充血を緩解(かんかい)し、興奮を鎮静させる瀉火(しゃか)作用があり、五苓散ごれいさん)の桂枝(けいし)は、気をめぐらし、身体を温める効果があります。


※プレドニソロン? → プレドニゾロン
※IgA腎症(腎臓の系球体? → IgA腎症(腎臓の糸球体



『重要処方解説(98)』
柴苓湯(サイレイトウ)   日本東洋医学会評議員 藤井 美樹

■出典・構成生薬・薬能薬理
 柴苓湯(サイレイトウ)の出典は,中国,元時代の人,危亦林(きえきりん)の撰した『世医得效方(せいとくこうほう』巻2(1337年)です。
 これは2つの処方の合方です。つまり小柴胡湯ショウサイコトウ)と五苓散ゴレイサン),あるいは五苓散料ゴレイサンリョウ)(湯(トウ))の合方です。処方の内容は,柴胡(サイコ),半夏(ハンゲ),生姜(ショウキョウ),黄芩(オウゴン),大棗(タイソウ),人参(ニンジン),甘草(カンゾウ)(以上が小柴胡湯),沢瀉(タクシャ),猪苓(チョレイ),茯苓(ブクリョウ),白朮(ビャクジュツ),桂皮(ケイヒ)(以上が五苓散)の12味になります。
 柴胡はサイコの根で,薬能は胸脇苦満(季肋下部の重苦しい感じ,および同部の抵抗,圧痛)を主治し,往来寒熱(発熱したり悪寒がしたり交互にくる),腹中痛,脇下痞硬をも治すとされています。薬理学的には,サイコサポニンなどを含み,中枢抑制,抗炎症,解熱,利尿,抗潰瘍作用などが知られています。
  半夏はサトイモ科のカラスビシャクの周皮を除いた塊茎で,薬能として痰飲,嘔吐を主治し,心痛,逆満,咽中痛,咳,悸,腹中雷鳴をも治すとされています。成分としてはhomogenistic acidなどが含まれ、鎮吐,鎮静,去痰などを目標に悪心,嘔吐などに用います。
 生姜はショウガの根茎で,嘔を主治するとされます。辛味成分はジンゲロール,ショウガオールを含み,鎮嘔,鎮咳,食欲増始に用います。
 黄芩はコガネバナの周皮を除いた根で,薬能は心下痞(みぞちのつかえ)を主治し,胸脇満、嘔吐,下利をも治すとされています。成分としてオウゴニン,バイカリン,オロキシリンなどを含み,消炎性解熱薬として嘔吐,腹痛,下痢などに用います。

 大棗はナツメの果実で,緩和,強壮,利尿薬で,筋肉の急迫症状,牽引痛,知覚過敏を緩解し,咳嗽,煩躁,身体疼痛,腹痛などをも治すとされます。成分としては糖質,粘液質,リンゴ酸塩,酒石酸塩などが含まれています。そして水エキスには中枢抑制作用があり,エタノールエキスには抗アレルギー作用があることがわかりました。
 人参はオタネニンジンの根で,薬能は心下痞堅,痞硬,支結を主治するとされ,また不食(食欲不振),嘔吐,喜唾(しばしばつばをはく),心痛(胸のあたりの痛み),腹痛,煩悸などで,薬理作用として水エキスには血糖下降,RNA合成促進作用があり,含水エタノールエキスにはコリン性増強,血圧下降,血糖下降,副腎皮質機能増強作用があり,ジンセノサイドRb群には中枢抑制作用があり,Rg群には中枢興奮作用があることがわかりました。
 甘草はマメ科の多年草カンゾウの根であり,薬能は急迫を主治し,故に裏急,急痛,攣急を治すとされています。成分としては,甘味成分のサポニンであるグリチルリチンを含み,その他,糖分,苦味質などを含んでいます。水エキスには鎮咳,抗消化性潰瘍,抗高脂血症,平滑筋弛緩作用などがあり,グリチルリチンには電解質ホルモン様作用,糖質ホルモン様作用,抗炎症作用,抗アレルギー作用などがあることが知られています。急迫症状の緩和,解毒,痙攣性筋肉痛,腹痛,咳嗽などに用います。
 沢瀉はサジオモダカの塊茎で,薬能は小便不利(尿が快通しない)して冒眩(めまい)するのを主治し,渇をも治すとされています。成分はトリテルペノイド,その他澱粉,蛋白質などであり,利尿作用,抗脂肪肝,抗高脂血症,肝障害予防作用などが知られています。
 猪苓はチョレイマイタケの菌核で,薬能は渇して小便不利するのを主治するとされています。成分は多糖類,ステロイドなどがあり,水エキスに利尿作用があり,利尿,消炎,水腫に用いられています。
 茯苓はマツホドの菌核で,薬能は悸および肉瞤筋惕(にくじゅんきんてき)(筋肉の間代性痙攣でピクピク動くこと)を主治し,かたわら小便不利,頭眩,煩躁を治すとされています。成分はトリテルペノイド,エルゴステロールなど,その水エキスには胃潰瘍予防,血糖降下作用が知られています。利尿,健胃,整腸の作用を応用します。
 白朮はオケラの根茎で,『薬徴』には朮として,「水を利するを主るなり。故に能く小便の自利,不利を治す。身煩疼,痰飲,失精,眩冒,下利,喜唾を旁治す」とあります。白朮は成分としてアトラクチロンなどを含んでいて,水エキスには利尿,抗炎症,血糖下降,抗疲労作用などが知られています。健胃,整腸,利尿に応用します。
 桂皮は桂樹などの樹皮で,薬能は衝逆を主治し,奔豚(ほんとん),頭痛,発熱,悪風,汗出でて身痛するをも治すとされています。桂皮の成分はケイアルデヒドには解熱,末梢血管拡張,胆汁分泌促進作用などが知られています。健胃,解熱を目標にして,発熱,頭痛,心悸亢進,四肢痛,胃腸障害に用います。
 以上,柴苓湯を構成する12の生薬の薬能および薬理(成分)をのべました。

■古典における用い方
 次に柴苓湯の原典における指示をみますと,「小柴胡湯五苓散を合和し,柴苓湯と名づく。傷風,傷暑,瘧を治するに大効あり。毎服,薑(キョウ)三片,麦門冬(バクモンドウ)二十粒心を去り,地骨皮(ジコッピ)少許を煎じ温服す」とあります。傷風は,風の邪に傷られて発症する感冒様疾患で,傷暑は夏期に暑さに傷られておこる疾患であり,瘧はマラリア様疾患であると考えられます。あとで述べる『勿誤薬室方函口訣(ふつごやくしつほうかんくけつ)』にみられるように,一般には,薑,麦門冬,地骨皮を去って用いられてきています。柴苓湯に関する先哲の論議の二,三をみてみましょう。
 『方彙口訣(ほういくけつ)』瘧疾門の柴苓湯の条に,「此の方は小柴五苓の合方にして今時善く用ゆ効(ききめ)も大分に在るぞ。瘧の熱多く,口の渇き強く,頭痛して,小便の通じ悪きに妙なり」とあります。
 『牛山活套(ぎゅうざんかっとう)』瘧疾門に「瘧疾初額の程は熱甚だしく,傷寒などのようなる者なり。夏の時,初秋の頃に是の如く煩う時は,多くは瘧に変ずると知るべし。(略)柴苓湯の類を大料にして用いて大いに汗を解すべし」。
 『梧竹楼方函口訣(ごちくろうほうかんくけつ)』瘧類・柴苓湯の条に,「雑病,下痢,熱強く,赤子の糞の如きを下すに用ゆ。(略)痢にはあらず,泄瀉(せっしゃ)の類なり,夏月に此れ等の症多し」。
 『医療衆方規矩大成(いりょうしゅうほうきくたいせい)』中湿門・五苓散の条に「傷寒三四日熱さしひきありて自利する者は,本方(五苓散)に小柴胡湯を合して姜棗を入れ柴苓湯と名く,一切の発熱して寒を憎むものには邪気,半は表,半は裡にあり,此の湯に宜し」。「瘧,寒熱ありて病の表裡陰陽にあること分ちがたきにもまた宜し」。「五苓散は湿瀉を治し,下部の湿(しつ)を退く。柴苓湯は瘧の寒熱を治す」。
 『勿誤薬室方函口訣』柴苓湯の項此の方は小柴胡湯の症にして、煩渇、下利する者を治す。暑疫には別して効あり」。煩渇はたえがたい渇で,暑疫は夏の流行病です。
 次に薬方としての柴苓湯をみますと柴胡は黄芩の助けを得て胸脇部に働き,消炎,解熱の作用があり,胸脇部のうっ滞をよく通ずる効があり,半夏と生姜は悪心,嘔吐を止め,食欲を増進させ,柴胡,黄芩に協力します。人参,甘草,大棗は共同して胃の機能をたかめ,胸脇部の充塞感を緩解します。沢瀉,茯苓,白朮はひとしく胃腸内の停水を去り,尿量を増加させて,浮腫を去り,桂枝は表熱を去り,気の上衝を治し,他薬の利尿作用を助けると,解説されています。

■現代における用い方
 さて,現代における柴苓湯を使用目標は,体力が中等度か,やや実している者で,小柴胡湯証と五苓散証が同時にあるものに用います。小柴胡湯の目標は,胸脇苦満,往来寒熱,口が苦い,食欲不振などであり,五苓散の目標は,口渇,尿量減少,浮腫,瀉痢などであります。
 柴苓湯は,小柴胡湯の証があって,さらにのどが渇いて小水の出が悪く,水瀉性の下痢をする人に向くという処方であります。そして原典にありましたように,風にやぶられたり,暑さにやぶられたり,おこり(瘧)のように熱と寒さが交互に来るという状態,つまり熱が出ているわけですが,そういうものを治すというわけです。
 もともとは夏の発熱,下痢に用いられた処方でしたが,肝臓疾患,腎臓疾患に用いられ,近年は耳鼻科領域,整形外科領域にも広く使用されてきています。応用としてネフローゼ症候群,慢性腎炎, 慢性肝炎,肝硬変,急性・慢性胃炎,暑気あたり,滲出性中耳炎,常習性頭痛などのほか,ステロイド剤と併用して,その減量や副作用の軽減などに役立つことが注目されております。
 夏に消化器の働きが弱っていて,熱もあり,胃腸炎を起こし,水瀉性のサッと下る下痢があるこという場合が柴苓湯の適応になります。 柴苓湯を使いますと,熱が下がって下痢もおさまってきます。水瀉性の下痢ですから,体から水分が出て行って,劇しく渇するのですが,この薬を飲みますと渇が次第に癒されます。
 子供の場合に扁桃炎,のどの炎症から慢性腎炎になってなかなか治らないという場合があります。もちろん体の弱い子供は別ですが,中等度の体力があって今述べた症状当向現s慢性腎炎の場合に柴苓湯を使いますと,のどの炎症を起こすようなかぜをひくことが次 第に少なくなりますし,むくみも取れてきます。蛋白尿が減りにくいので,プレドニゾロンを併用している場合は,その量を減らすことができるようになります。このようによくかぜをひく慢性腎炎,ネフローゼに使います。
 肝硬変で顔面の赤茶けたり,皮膚の特有の赤い斑点が出たり,また腹水が溜まってきて静脈が浮いてくるものに,柴苓湯を長期間使っておりますと,それらがだんだん取れてきます。肝硬変は非常にむずかしい病気ですが,試みる価値があると思います。
 そのほか腎盂炎に使う場合があります。現代医学的に抗生物質を使ったり点滴を行って一応はおさまりますが,また体調によってたとえば体が疲れたり,睡眠不足をしたりすると,時に高熱を出し,腰背部が痛むといった症状が出てくることがあります。その場合,小柴胡湯が向いている体の場合には,柴苓湯を使うと腎盂炎が軽くすむようになりますし,そのうち腎盂炎を起こしにくくなってきます。普段蛋白が出ていたような人が出なくなるということもあります。
 現在はマラリアは少なくなりましたが,戦後復員された方の中に外地でかかったマラリマの発作を起こす例に,小柴胡湯だけでよい場合もありましたが,症例によっては柴苓湯を使いました。もちろん現代医学の抗マラリア薬と併用すると,非常によい場合がありました。
 鑑別としては,小柴胡湯(本方証に五苓散証のあるもの),五苓散(本方証に小柴胡湯証のあるもの),半夏瀉心湯〔心下痞(硬),腹鳴,下痢(しぶりばら)を目標とする〕,八味地黄丸(小便不利,軽い口渇,小腹不仁,身体下部の浮腫のあるもの),真武湯〔やせて生気が乏しい,手足冷え,下痢(水瀉性),めまい感,尿利減少〕などがあげられます。
 柴苓湯との鑑別を考えた場合に,これは小柴胡湯五苓散の合方ですから,基本的にはまず小柴胡湯の証があって,五苓散を使う証があるということを考えれば,柴苓湯は使えるのではないかと思います。繰り返し申しあげますが,小柴胡湯は,体力,体格中等の人で,胸脇苦満があり,往来寒熱(熱が出たり悪寒があったりすること)があって,かぜをひきやすい,場合によっては扁桃炎を起こすという患者に用います。
 五苓散の古典的な証は,のどが渇いて小水の出が悪い場合です。口渇はあまり劇しくない場合でも使えますが,むくみのあることが利水剤が多く入っている五苓散の目標になります。浮腫は現代医学的にいろいろ調べても原因がわからない場合が多くありますが,五苓散を使ってみると,むくみがとれることがあります。扁桃炎をよく起こす,かぜをひくと熱を出しやすいというものには,五苓散単独よりも小柴胡湯と合方して柴苓湯として使うという方法をとります。

■症例提示
 症例を申しあげます。昭和5年生まれ,某会社役員,以前から肝臓が悪く,治療を受けていましたが,仕事が忙しくゆっくり療養ができないし,なかなかよくなりません。そのうち腹が張るという自覚症状が出てきました。診察によって腹部膨満,静脈怒張し,臨床的には明らかに肝硬変の状態で,検査所見もそれを裏づける結果でした。定年までの数年間を何とか元気でいたいとの希望で,漢方治療を求めて2年前に来院しました。顔は赤ら顔,体格中等度,脈は特記すべきものはなく,腹部は膨満し,肝臓が腫れ,腹水が溜まっております。腹壁には静脈が浮いております。足の脛の部分を圧しますと,少しむくみがあります。
 胸脇苦満が右に認められるので,迷うことなく柴苓湯を使いました。そうしますと,むくみが徐々にひくとともに全身的に元気になってきて,仕事が前よりできるようになったということで本人は希望を持って,治りきらなくてもこれより悪くならないようにと,現在なお服薬中ですが,顔の色艶もよくなり,自覚的に腹部が張らなくなり,他覚的にも腹部が少しずつ小さくなってきております。小康を得て,この状態から悪くならないように初診の時に本人が希望したごとく,定年まで何とか元気に過ごせるようになるのではないかと思っております。
 もう1例は昭和3年生まれの男性,会社員です。この人も慢性肝炎の歴史が古く,勤務しながら現代医学の治療を受けておりましたが,元気が出ないし,時におなかの調子が悪くなるので,漢方治療を求めて来院しました。赤ら顔で元気そうにみえますが,肝臓は腫れており,各処に紅斑がみられます。持続した臨床データをみますと,肝硬変の疑いのある検査結果が出ております。この人にも柴苓湯を出しました。
 現在ひき続き服薬中ですが,顔のいやな赤味は大分取れてきましたし,全身的に元気になってきまして,以前は会社から帰るとすぐに横になって安静にしていたそうですが,最近では体力がうちえきて,帰宅してからも自分の好きなことができるようになったとのことです。
 第3例は,大正10年生まれの女性,茶道の先生です。第子もたくさんおられて忙しく,無理をするとかぜのような症状が出て,熱が出てのどが痛くなります。腎盂炎の持病があり,おなか,特に腰背部が痛くなり,茶会などのあとは寝込んでしまうのですが,持病で仕方がないと思っていたそうです。ある人の紹介で漢方治療を求めて来院しました。
 この人も小柴胡湯証がありまして,時々,同時に腎盂腎炎起こすということがわかりましたので,小柴胡湯のほかに五苓湯五苓散料)を合方して,柴苓湯として使いました。服薬しているうちに,無理をすると時々は熱が出て寝込むことはありましたが,約3年間服薬したころには腎盂炎という病気を忘れるくらい元気になり,以前より張り切ってお弟子さんの指導ができるようになって感謝されております。今は続けて服薬はしておりませんが,体を無理したような時に来院して,柴苓湯を服用す識という状態です。このような持病と思われていた病気が治るばかりでなく,元気になり,以前よりもいろいろなことができるようになるということは,漢方治療の特色ではないかと思います。
 次の例は小学1年生の男児,発熱のあと慢性腎炎になったということで,一時は入院もしました。ネフローゼ型の腎炎で,蛋白がかなり出ており,どうしてもプレドニンを使わなければならない例ですが,長く服用することに対して,心配をして漢方治療を求めて来院しました。
 時々熱を出し,のどを腫らすということで,まず小柴胡湯が考えられます。さらに蛋白がたくさん出ており,かぜをひくとむくみっぽくなるということで柴苓湯 にしました。柴苓湯を使い出しましてからは,かぜをひくことが少なくなり,プレドニンの量がわずかずつ減量できるようになりました。以前はプレドニンを少し減らすと蛋白が陽性に出ましたが,柴苓湯を併用するようになってからは,少しずつ減らしても蛋白が陽性にはならずにすむということです。来院当初は顔色がすぐれず,いかにもステロイド服用患者らしい独得な顔貌でしたが,柴苓湯を服用しているうちに少しずつひきしまってきて,何となくたくましくなってきたことが感じとられます。まだプレドニンから離脱できませんが,柴苓湯だけで治療が続けられることを望みながら現在服薬中です。
 柴苓湯は応用範囲が広いので,最近の治験例も各科から報告されています。東北大学の池田勝久先生らは,難治性の滲出性中耳炎患者18例にツムラ柴苓湯を投与し,有効率72.4%で副作用もなく,ツムラ柴苓湯は滲出性中耳炎の薬物療法として臨床的に有用であると認めています。
 藤田学園保健衛生大学の矢崎雄彦先生らは,小児ネフローゼ症候群患者の副腎皮質ステロイド剤からの離脱,減量あるいは同剤の副作用の軽減に柴苓湯が有効であることを報告しており,日赤医療センターの石井策史先生らの報告では,成人の慢性病炎患者の蛋白尿減少,ステロイド副作用の軽減に有効であると思われるということです。
 また中勢総合病院の大萱稔先生,京都市身障者リハビリテーションセンター附属病院の田中大也先生らは,柴苓湯が慢性関節リウマチに有効であることを認めて報告しています。
 また東京医科歯科大学の渡辺建介先生らは,副鼻腔炎術後の頬部腫脹に柴苓湯が有効であることを報告しています。



※心下痞(みぞちのつかえ)? → 心下痞(みぞおちのつかえ)の誤りか
※水瀉性のサッと下る下痢があるこという場合が柴苓湯の適応になります?
   → 水瀉性のサッと下る下痢があるという場合が柴苓湯の適応になります


副作用
1) 重大な副作用と初期症状
1) 間質性肺炎 :発熱、咳嗽、呼吸困難、肺音の異常(捻髪音)等があらわれた場合には、本剤の投与を中止し、速やかに胸部X線等の検査を実施するとともに副腎皮質ホルモ ン剤の投与等の適切な処置を行うこと。また、発熱、咳嗽、呼吸困難等があらわれた場合には、本剤の服用を中止し、ただちに連絡するよう患者に対し注意を行うこと。

[理由]
厚生省医薬安全局安全対策課長より通知された平成9年12月12日付医薬安第51号「医薬品の使用上の注意事項の変更について」に基づく。

[処置方法]
直ちに投与を中止し、胸部X線撮影・CT・血液ガス圧測定等により精検し、ステロイド剤 投与等の適切な処置を行う。

2) 偽アルドステロン症 :低カリウム血症、血圧上昇、ナトリウム・体液の貯留、浮腫、体重増加等の偽アルドステロン症があらわれることがあるので、観察(血清カリウム値の測定等)を十分に行い、異常が認められた場合には投与を中止し、カリウム剤の投与等の適切な処置を行う。

3) ミオパシー :低カリウム血症の結果としてミオパシーがあらわれることがあるので観察を十分に行い、脱力感、四肢痙攣・麻痺等の異常が認められた場合には投与を中止し、カリウム剤の投与等の適切な処置を行うこと

[理由]〔2)3)共〕
厚生省薬務局長よ り通知された昭和53年2月13日付薬発第158号 「グリチルリチン酸等を含有す る医薬品の取り扱いについて」 及び医薬安全局安全対策課長よ り通知された平成9年12月12日 付医薬安第51号 「医薬品の使用上の注意事項の変更について」 に基づく。


[処置方法]
原則的には投与中止により改善するが、血清カリウム値のほか血中アルドステロン・レニン活性等の検査を行い、偽アルドステロン症と判定された場合は、症状の 種類や程度によ り適切な治療を行う。 低カリウム血症に対しては、カリウム剤の補給等により電解質バランスの適正化を行う。



4) 劇症肝炎、肝機能障害、黄疸: 劇症肝炎、AST(GOT)、ALT(GPT)、Al‑P、γ‑GTP 等の著しい上昇を伴う肝機能障害、黄疸があらわれることがあるので、観察を十分に行い、異常が認められた場合には投与を中止し、適切な処置を行う

 [理由]
本剤によると思われる劇症肝炎、AST(GOT)、ALT(GPT)、Al‑P、γ‑GTP等の著し い上昇を伴う肝機能障害、黄疸が報告されている(企業報告)ため。
(平成24年1月10日付薬食安発0110第1号「使用上の注意」の改訂について に基づ く改訂)


[処置方法]
 原則的には投与中止により改善するが、病態に応じて適切な処置を行う。

2) その他の副作用
過敏症:発疹、発赤、瘙痒、蕁麻疹等

このような症状があらわれた場合には投与を中止すること。

[理由]
本剤にはニンジン(人参)、ケイヒ(桂皮)が含まれているため、発疹、 発赤、瘙痒、蕁麻疹等の過敏症状があらわれるおそれがある 。また、本剤によると思われる過敏症状が文献・学会で報告されている 。

[処置方法]
原則的には投与中止にて改善するが、必要に応じて抗ヒスタミン剤・ステロイド剤投与等の適切な処置を行うこと。


消化器:口渇、食欲不振、胃部不快感、悪心、嘔吐、腹部膨満感、腹痛、下痢、便秘等
[理由]
本剤によると思われる消化器症状が文献・学会で報告されているため。

[処置方法]

原則的には投与中止により改善するが、必要に応じて適切な処置を行う。



泌尿器:頻尿、排尿痛、血尿、残尿感、膀胱炎等
このような症状があらわれることがあるので、観察を十分に行い、異常が認められた場合には投与を中止し、適切な処置を行うこと。

[理由]
厚生省薬務局安全課長より通知された平成5年9月27日付薬安第87号「医薬品の使用上の注 意事項の変更について」に基づく。

[処置方法]
直ちに投与を中止し、適切な処置を行う。


その他:全身倦怠感
[理由]
本剤によると思われる全身倦怠感が文献・学会で報告されているため。

[処置方法]
原則的には投与中止により改善するが、必要に応じて適切な処置を行う。


2014年6月2日月曜日

猪苓湯合四物湯(ちょれいとうごうしもつとう) の 効能・効果 と 副作用

『健康保険が使える 漢方薬 処方と使い方』
木下繁太朗 新星出版社刊

猪苓湯合四物湯(ちょれいとうごうしもつとう)
健 ツ
本朝経験方

どんな人につかうか
 猪苓湯(ちょれいとう)(160頁)に四物湯(しもつとう)(113頁)を合方したもので、猪苓湯(ちょれいとう)が効く病気で、ややこじれて長びいたものに用います。

目標となる症状
症 ①体力中等度。②頻尿、残尿感、排尿痛。③混濁尿、血尿、膿尿。④口渇。⑤胸苦しい(心煩)、不安感。⑥顔色が悪い。⑦冷え症。⑧胃腸虚弱の傾向がない。⑨慢性化した泌尿器疾患、あるいは反復しておこる泌尿器疾患。
腹 脈 舌 猪苓湯(ちょれいとう)にほぼ同じ。
どんな病気に効くか(適応症)
 皮膚が枯燥し、色つやの悪い体質で胃腸障害のない人の、排尿困難排尿痛残尿感頻尿(その他猪苓湯(ちょれいとう)の項を参照を参照)。

この薬の処方
 猪苓(ちょれい)、沢瀉(たくしゃ)、茯苓(ぶくりょう)、滑石(かっせき)、阿膠(あきょう)(以上猪苓湯(ちょれいとう))、地黄(じおう)、芍薬(しゃくやく)、川芎(せんきゅう)、当帰(とうき)(以上四物湯(しもつとう))、各3.0g

この薬の使い方
①前記処方(一日分)を煎じてのむ。但し阿膠(あきょう)は後から滓(かす)をとって加える。
②ツムラ猪苓湯合四物湯(ちょれいとうごうしもつとう)エキス顆粒、成人一日7.5gを2~3回に分け、食前又は食間に服用する。

使い方のポイント
①昔は腎結核、膀胱結核によく用いたものですが、最近は治りにくい尿道炎や膀胱炎に用います。
②水分を負荷(ふか)したラットで、猪苓湯(ちょれいとう)は通常量では明らかに利尿作用を示すが、大量(二~四倍量)では利尿作用が現われない。有効量域が存在する。
③成長期のラットでチアジド、アセタゾラミド、フロセミド、プレドニゾロン、デスラノシド、ジギタリス葉末などの現代利尿剤の効果と、猪苓湯(ちょれいとう)の利尿効果を比較すると、殆(ほとん)ど差がなかった。又猪苓湯(ちょれいとう)が、腎におけるナトリウムの能動輸送を抑制し、カリウム喪失に対する生体防御作用を示した。又、腎血流量増加が推定されている。猪苓湯(ちょれいとう)には蓚酸カルシウム結石形成を抑制し、又、腎機能の改善、慢性腎不全での電解質(Mg,K,Ca)の代謝を改善する効果がある。


『健保適用エキス剤による 漢方診療ハンドブック 第3版』
桑木 崇秀 創元社刊
<註>
猪苓湯合四物湯(ちょれいとうごうしもつとう)
 猪苓湯を使うべき状態で慢性化し,顔色も悪く,皮膚もカサカサしているような場合に,四物湯を合方して用いてよい場合がある。
 芍薬が入るので排尿痛にもよく,排尿困難,残尿感,排尿痛,頻尿,血尿などを目標として用いられる。ただし,地黄が入っているので,胃腸弱者には不向きである。



『漢方医学』Vol.34 No.3 (2010年7月発行)
東京女子医科大学東洋医学研究所 稲木一元

漢方重要処方マニュアル
基礎と実践の手引き


猪苓湯合四物湯 ちょれいとうごうしもつとう
構成生薬/沢瀉,猪苓,茯苓,滑石,阿膠,当帰,芍薬,川芎,地黄

処方の特徴
1.猪苓湯合四物湯とは
 猪苓湯合四物湯は,元来は血尿に用いる漢方薬であるが,現在は慢性再発性尿路感染症などに応用されることが多い.比較的長期にわたり尿路の愁訴が続く例に有用である。

2.臨床上の使用目標と応用
 尿路感染症で症状が遷延する例,感染を反復する例に用いる.尿路結石で肉眼的血尿が続く例によい場合がある.顕微鏡的血尿以外に特別の所見のない例にも試みてよい.効果発現までに数週以上を要する例が多い.足先の冷えがポイントとなる.虚弱者では胃腸障害に注意が必要である.

論説
1.原典は本朝経験方
 猪苓湯は『傷寒論』『金匱要略』を出典とする.『金匱要略』消渇小便利淋病篇に「脈浮,発熱し,渇して水を飲まんと欲し,小便利せざれば,猪苓湯之を主る」とあり,“淋病”すなわち現在の尿路感染症に用いている.四物湯は『和剤局方』婦人諸病門を出典とし,月経障害,妊娠中の不正出血,産後不調などに用いるとされる.この2処方の合方は中国医者に前例がなく,わが国で経験的に始まったものと思われるが,誰が最初に用いたのかは明らかでなく,本朝経験方とされる.しかし最初の用例と断定できないにしても,早い記載例は見出されている.

2.江戸期から明治初期の記載について
 本間棗軒(1804-1872)は『瘍科秘録』(1837年自序)で,「血淋(血尿で排尿痛を伴うもの)は,黄連阿膠湯竜胆瀉肝湯猪苓湯などから撰用する.血尿の出ることが多いときには,犀角地黄湯,八味地黄丸,四物湯猪苓湯合方を用いる」という.棗軒は『内科秘録』(1864年初版)では,白濁(尿が白く濁ること)の治療法として,「原因は異なるけれども尿血(血尿),遺精,久淋(慢性尿路感染症),消渇(糖尿病)などの治療法から選用する.長年の自分の経験では八味地黄丸で治った者が多い。しばしざ血尿となる者には猪苓湯四物湯の合方を与える.頻尿で腹力のない者は補中益気湯である.諸治療が無効なときは清心蓮子飲などを試用するとよい」(抜粋)という.また「尿血(血尿)は猪苓湯四物の合方でいったん治っても完治する者は少ない.鮮血が多く出て止まらないときは芎帰膠艾湯がよい.下腹部が軟らかくて冷え(小腹虚冷),頻尿で“血の偏虚する者”は八味地黄湯,“気の偏虚”する者は補中益気湯がよい.血尿は排尿痛がないのを常とするけれども,稀に陰茎の中が渋り痛み,頻尿で淋のようになる者がある.これには竜胆瀉肝湯などを撰用する」という.
 幕末の浅田宗伯は『方読便覧』で「猪苓湯四物湯合方は血淋を治す」とのみ述べている.

3.近年の諸説
 真柳によれば,大塚敬節・矢数道明・木村長久・清水藤太郎共著『漢方診療の実際』1941年版の腎臓結核に対する処方の筆頭に猪苓湯があり,「もし血尿著しいものには四物湯を合方する」と記されているという.筆者が直接確認しえた同書1954年改訂版では,腎結核の筆頭に四物湯合猪苓湯を挙げ,「膀胱障害を起こして尿意頻数,排尿時疼痛を主訴とするものに用いる.腎臓摘出後になお膀胱障害の残存しているものにも良く効く」と適応を拡げた記載がある.
 大塚敬節自身は,「私がこの処方を腎,膀胱結核に用いるようになったのは,亡友,小出寿氏の経験にヒントを得てからである」と述べている.真柳は「現代に本方の応用を蘇らせたのは,やはり大塚敬節先生の貢献が大きかったと言うべきだろう」という.

鑑別
猪苓湯(チョレイトウ)
 膀胱炎で要鑑別.急性列に用いる.猪苓湯合四物湯は慢性再発例.
芎帰膠艾湯(キュウキキョウガイトウ)
 血尿で要鑑別.血尿初期で出血の多い例に用いる.猪苓湯合四物湯は遷延している例に.いずれの場合でも原疾患検索が必須なのは言うまでもない.
清心蓮子飲(セイシンレンシイン)
 慢性再発性膀胱炎で要鑑別.清心蓮子飲は胃腸虚弱者.猪苓湯合四物湯は胃腸虚弱ではない者に用いる.
八味地黄丸(ハチミジオウガン)
 慢性再発性膀胱炎で要鑑別.八味地黄丸は,中高年で腰痛や下肢痛をともなう例によい.猪苓湯合四物湯は方向炎症状のみで年齢を問わない.
竜胆瀉肝湯(リュウタンシャカントウ)
 膀胱炎で要鑑別.排尿痛,残尿感の強い例に用いる.猪苓湯合四物湯では症状は軽度.

 


『重要処方解説(96)』 北里研究所付属東洋医学総合研究所所長 大塚恭男
清心蓮子飲・猪苓湯合四物湯

猪苓湯合四物湯・出典・構成生薬
 本日のもう1つの主題である四物湯猪苓湯の話をいたします。四物湯はいろいろは疾患に使いますが,またいろいろな名処方の中の一部分を構成している因子であるということでも特徴のある処方であります。四物湯は非常に簡単で,当帰(トウキ),芍薬(シャクヤク),川芎(センキュウ),地黄(ジオウ)という4味の処方であります。
 『和剤局方』の婦人諸病門に出てきまして,条文は「営衛(気血と訳してもよいと思うが,体を中から守る機転と,環境から受ける障害に対して抵抗する機転)を調益し,気血を滋養し,衝任虚損(婦人の性器に関係するといわれる衝脈とか任脈が衰えた場合)、月水不調(月経不順)、臍腹䉘痛(おなかと臍のあたりが痛む),崩中漏下(月経異常),血瘕塊硬(婦人の性周期に関連する症状),疼痛を発歇し,妊娠宿冷,将理宜を失し,胎動して安からず,血下りて止まず,及び産後虚に乗じ,風寒内に博ち,悪露下らず,結して瘕聚を生じ,少腹(下腹部)堅痛,時に寒熱をなすを治す」とあります。ここに書いてあるのは,いずれも産婦人科領域のいろいろな症状,ないし疾患に関して述べているものでありまして,産婦人科領域の基本方であるといえると思います。
 ところが,最初にちょっと申しましたように,これは例えば十全大補湯とか,あるいは温清飲ウンセイイン)といった,よく使われるいろいろな処方の中の構成因子になっているわけで,最近では私は婦人病で使う用途のほか,何か免硝がらみの,現代非常に問題になっているような疾患に使う処方の中の,1因子として大事なものてはないかと考えております。
 一方の猪苓湯は非常に古い処方で,『傷寒論』,『金匱要略』に出てきますが,猪苓(チョレイ),茯苓,滑石(カッセキ),沢瀉(タクシャ),阿膠(アキョウ)から構成されております。
 『傷寒論』には「陽明病,脈浮にして緊,咽乾き,口苦く,腹満して喘し,発熱汗出で,悪寒せず。反って悪熱し,身重く,もし汗を発すればすなわち躁し,心憒憒として反って讝語す。もし脈浮発熱,渇して水を飲まんと欲し,小便不利する者は,猪苓湯これを主る」とあります。咽が乾いて水が飲みたい,しかも小便が出ないという者は猪苓湯が行くということであります。
 さらに少陰病篇には「少陰病,下痢六,七日,咳して咽渇し,心煩眠るを得ざる者(何か胸苦しくなって眠ることができない者)は,猪苓湯これを主る」とあります。

■古典・現代における用い方
 四物湯について,浅田宗伯先生の『勿誤薬室方函口訣』にはちょっと面白いことが書いてあります。「この方は『局方』の主治にて薬品を勘考するに,血道を滑らかにするの手段なり。それ故,血虚はもちろん、瘀血血塊の類,臍腹に滞積して種々の害を為す者に用ゆれば,たとえば戸障子の開闔(開閉)にきしむもの(うまく開かないもの)に,上下の溝へ油をぬるごとく,活血して通利を付くるなり」とあります。これは非常にうまい表現で,物事がうまく運ばない場合にうまく運ばせてやるということで,必ずしも産婦人科領域ばかりでなく,一般の疾患に対応する四物湯の役割として,非常によく言い得ていると思います。そのものに大変効くわけではないのですが,ほかのものを使ってそれを滑らかに進行させる,戸障子がきしむのを素直に動くようにさせてやるというのは,,非常に名言だと思います。
 そして「一概に血虚を補うとなすは非なり。東郭(和田東郭(わだとうかく))の説に,任脈動悸を発し、水分の穴にあたりて動築最も激しき者は,肝虚の症に疑なし。肝虚すれば腎もともに虚し,男女に限らず必ずこの処の動悸劇しくなる者なり。これすなわち地黄を用うる標的となす」とあります。
 四物湯はですから婦人病,あるいは必ずしも産婦人科に限らず,泌尿器領域にも非常によく使われるが,さらにいえば免疫からみの,いろいろなむずかしい現代的な病気に対応すると思われる十全大補湯,あるいは猪苓湯などの構成因子として非常に大きな役割を果たしているということがいえるのではないかと思います。
 猪苓湯については『勿誤薬室方函口訣』に,「この方は下焦の畜熱,利尿の専剤とす。もし上焦に邪あり、或は表熱すれば、五苓散ゴレイサン)の証とす。およそ利尿の品は津液の泌別を主とす。故に二方ともによく下利を治す(五苓散との比較)。ただ,その位異なるのみ。この方下焦を主とする故に,淋疾或は尿血を治す」とあります。下焦の方が主なる作用点である,ですから淋疾とか,尿血(血尿)を治すということです。「その他,水腫実に属する者(実証に属する水腫),および下部水気有って,呼吸常のごとくなる者に用いてよく功を奏す」とあります。
 四物湯は婦人科領域,泌尿器科領域によいのでありますが,猪苓湯も下焦ということで,これは産婦人科領域というよりは泌尿器科領域で,どちらかといえば炎症的な因子を含むような疾患,いわゆる前立腺肥大のようなものではなくて,膀胱炎とか尿道炎といった炎症的なニュアンスのある尿路の障害で,尿が出にくいものに使います。昔は何でも小便が出渋るものを全部淋といったわけでありまして,その中には尿路結石とか様々なものが含まれていたと思いますが,昔にいう淋に非常によく使われたのであります。猪苓湯は尿路の疾患に用いることが多々ありますが,四物湯単独で尿路の疾患に用いることは少ないのであります。
 猪苓湯合四物湯は,どちらかといえば急性の症状に使うことが多いと思います。急性の症状でも同じく尿路に効くものでは,たとえば大黄牡丹皮湯ダイオウボタンピトウ)のようなものとの鑑別が必要になります。大黄牡丹皮湯の行くような場合は,症状が非常に激しく,排尿時の痛みが猛烈に強く,激しい血膿尿が降りるようなものに,実によく奏効することがあります。このような場合には猪苓湯はちょっと向きません。私もたとえば抗生物質などを使ったあとで,なおかつそのような症状が強い場合に,大黄牡丹皮湯で実際に著効を示した例を持っております。
 猪苓湯合四物湯はそのような場合ではなくて,それほど強くないがしぶといといった症状,ちょっとよくなってはまた悪くなる,しかも抗生物質などを用いるとたちまちよくなるが,止めるとまた悪くなる,ただ抗生物質をずっと続けているわけにはいかないという場合で,比較的長期に連用するのには向いております。長期に連用して慢性症状を根治するという意味では,この猪苓湯合四物湯は非常に優れた処方だと思います。

■症例提示
 たくさんの症例が報告されておりますが,私の最近の1例ですが,冷え症の中年の女性で始終膀胱炎が起きまして,そのつど抗生物質を使い,使うとすぐによくなるが,止めるとすぐ悪くなるということでした。その方に猪苓湯合四物湯を比較的長く使ってもらうことにしました。抗生物質ですと長期に使うわけにもいきませんが,猪苓湯合四物湯なら一ヵ月や2ヵ月使っても何ともないので,症状がとれてもなお使っていただくことで,膀胱炎なり尿道炎が出にくいような体質に持っていくのに役立つような気持がいたします。現在はそのようなケースが大変多くて,婦人の慢性の膀胱炎とか,尿道炎には非常に便利な,使いやすい処方の1つであると思っております。
 最近の研究として,尿路不定愁訴に対する治験成績をご紹介します。大阪鉄道病院の堀井明範先生らの報告では,30例(男4例,女26例)に猪苓湯,猪苓湯合四物湯を投与し,総合有効率が猪苓湯76.0%,猪苓湯合四物湯80%であったということです。
 和歌山県立医科大学の大川順正先生は,前立腺肥大症,尿路結石症,下部尿路不定愁訴などの尿路系疾患に,五淋散八味地黄丸当帰芍薬散猪苓湯,猪苓湯合四物湯などをそれぞれ使い分けて,77.7%に下部尿路不定愁訴の改善を認めています。猪苓湯合四物湯の有用性は,プラセボ群と比較検討し,極めて有用8.5%,有用14.3%,やや有用27.7%であり,すぐれた有効率が示されたと報告しています。


※䉘:(病-丙)+(巧-エ)
※あるいは猪苓湯などの構成因子として? 猪苓湯温清飲の間違い?


副作用
1) 重大な副作用と初期症状
  特になし

2) その他の副作用
  消化器:食欲不振、胃部不快感、悪心、嘔吐、下痢等

[理由]  本剤には地黄(ジオウ) ・川芎(センキュウ)・当帰(トウキ)が含まれているため、食欲不振、胃部不快感、悪心、嘔吐、下痢等の消化器症状があらわれるおそれがある。
また、本剤によると思われる消化器症状が文献・学会で報告されているため。

[処置方法]  原則的には投与中止により改善するが、病態に応じて適切な処置を行う。


2014年6月1日日曜日

桂枝茯苓丸加薏苡仁(けいしぶくりょうがんかよくいにん) の 効能・効果 と 副作用

『健康保険が使える 漢方薬 処方と使い方』
木下繁太朗 新星出版社刊

桂枝茯苓丸加薏苡仁(けいしぶくりょうがんかよくいにん)
健 建、ツ
金匱要略

どんな人につかうか
体力中程度以上の人で冷(ひ)えのぼせ、赤ら顔のことが多く,下腹部に抵抗圧痛を訴えるなどの瘀血(おけつ)(ふる血)の症状があり、肌あれ、しみ、そばかす、にきび、いぼなどの皮膚症状を伴ったり、頭痛、肩こり、めまい、のぼせ、足の冷え、月経の異常を伴う場合に用います。
(桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)に薏苡仁(よくいにん)=はとむぎを加えたもの207頁参照)

目標となる症状
症 桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)(74頁)に同じ。その他に①肌あれ。②にきび。③しみ。④そばかす。⑤手足のあれ。⑥いぼ(疣贅(ゆうぜい))。
腹 脈 舌 桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)に同じ。

どんな病気に効くか(適応症)
 比袋的体力があり、ときに下腹部痛、肩こり、頭重、めまい、のぼせて足冷(ひ)えなどを訴えるものの、月経不順血の道症にきびしみ足手のあれ(その他桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)(74頁)参照)。

この薬の処方
薏苡仁(よくいにん)10.0g 桂皮(けいひ)、芍薬(しゃくやく)、桃仁(とうにん)、茯苓(ぶくりょう)、牡丹皮(ぼたんぴ)各4.0g。
この薬の使い方
①前記処方を一日分として煎じてのむ。
②ツムラ桂枝茯苓丸加薏苡仁(けいしぶくりょうがんかよくいにん)エキス顆粒(かりゅう)、成人1日7.5gを2~3回に分け、食前又は食間に服用する。

使い方のポイント
①桂枝茯苓丸に薏苡仁(よくいにん)(はとむぎ)を加えたもの。前述の皮膚症状のある時によく用い、美肌剤としても受用されています。
薏苡仁(よくいにん)には消炎、排膿の効果があり、それを目標に使うこともあります。
③妊娠がはっきりしたときは、使ってはいけません。妊娠には使用禁忌です。



『健保適用エキス剤による 漢方診療ハンドブック 第3版』
桑木 崇秀 創元社刊
<註>
桂枝茯苓丸料加薏苡仁(ケイシブクリョウガンリョウカヨクイニン)
桂枝茯苓丸を使うべき状態で,皮膚の荒れやニキビ・シミ・ソバカスのある場合に用いられる。最も普通には,月経不順のある比較的虚証の人の同様の症状に対して用いる。




『皮膚科漢方10処方Part2解説①』
大阪市立大学大学院医学研究科皮膚病態学教授 石井 正光

桂枝茯苓丸加薏苡仁
国際名 keishibukuryogankayokuinin

コンプライアンスに優れる
この方剤は先はどの桂枝茯苓丸に薏苡仁を合わせたものであり,効能・効果に記載のある通り,桂枝茯苓丸の投与目標に加えて,にきび・しみ・手足のあれなどが記載されています。
桂枝茯苓丸加薏苡仁(けいしぶくりょうがんかよくいにん)

◆構成生薬
ヨクイニン(薏苡仁),ケイヒ(桂皮),シャクヤク(芍薬),桃仁(トウニン),ブクリョウ(茯苓),ボタンピ(牡丹皮)

◆投与方法
7.5g/日を経口投与(通常食前または食間分3)

◆効能または効果(保険適応病名)
比較的体力があり,ときに下腹部痛,肩こり,頭痛,めまい,のぼせて足冷えなどを訴えるものの次の諸症:月経不順,血の道症,にきび,しみ,手足のあれ

◆皮膚科実地臨床における応用例
・桂枝茯苓丸が適応とたる諸疾患
・皮膚のかさつきや乾燥が目立つ場合
・脂漏性角化症
・疣贅
・肝斑や老人性色素斑なとのしみ
桂枝茯苓丸と薏苡仁製剤をそれぞれエキス剤として1日量投与するのは,保険診療上やや困難なうえ,内服量が多くなるので患者さんが全部飲んでくれない可能性もあります。その点で1日量7.5g中に10.0gというかならの量の薏苡仁から抽出されたエキスが配合されたこの方剤はとても使いやすく,コンプライアンスに優れた薬剤と思われます。

桂枝茯苓丸と薏苡仁の相乗効果
桂枝茯苓丸の証に加えて薏苡仁の証を考えればよいのですが,古来薏苡仁は上薬に分類されており,証にこだわらずに処方できるものとされています。桂枝茯苓丸に薏苡仁の作用が加わり相乗効果があると考えられますが,適応は桂枝茯苓丸の使用目標と同じでよいと考えられます。
薏苡仁には,水を巡らせ,抗炎症・抗ウイルス・抗角化効果があります。
また一方,瘀血状態からは皮膚の角化亢進が起こると考えられています(前出,山本談)。皮膚がかさつく・乾燥するなどの角化を伴う疾患群には使ってみる価値があると考えます。

大量内服には注意
これも,桂枝茯苓丸とほぼ同じですが,薏苡仁が腸管水分の吸収を促し,やや便秘傾向を訴える場合があります。また,薏苡仁の油脂成分があるため大量に内服すると尋常性痤瘡の一過性の悪化がみられることもあります。



重要処方解説(94)』 日本東洋医学会評議員 青山廉平 先生

温経湯・桂枝茯苓丸加薏苡仁

 次に桂枝茯苓丸加薏苡仁(ケイシブクリョウガンカヨクイニン)について簡単に申し上げます。
 現在,一般用医薬品として210の漢方処方が承認されております。桂枝茯苓丸加薏苡仁もその中の1つであります。一般用医薬品は,広く一般消費者に使用されるものであり,これらの210の漢方処方はわが国で広く用いられている漢方の成書による基本処方,加減方,合方剤であります。
 本方は,桂枝茯苓丸(ケイシブクリョウガン)に薏苡仁(ヨクイニン)を加えたものであります。桂枝茯苓丸についてはいうまでもありますが,駆瘀血剤としてもっとも汎用される処方の1つであります。虚実中等の人に,瘀血の腹証である下腹部の抵抗,圧痛,その他の瘀血の症状を目標として,月経不順,月経困難症,不妊症,子宮筋腫,骨盤内臓器の炎症,尿管結石,蕁麻疹などに広く用いられております。桂枝茯苓丸加薏苡仁の応用は,桂枝茯苓丸を用いる場合と同様でありますが,筋の緊張の強いもの,腫瘍などを目標として薏苡仁を加えるのであります。
 薏苡仁はハトムギの種であり,『神農本草経(しんのうほんぞうけい)』には上品として解蟸(カイレイ)という名で収載されております。『薬徴(やくちょう)』には「主治は浮腫なり」とあり,『重校薬徴(じゅうこうやくちょう)』にはこれを補足して「癰膿を主治し,浮腫,身疼を兼治す」となっております。また『古方薬議(こほうやくぎ)』には「痺閉を開き,瘀血を排す」とあります。『新古方薬嚢』では「薏苡仁,味甘,微寒,急を緩め,熱を消し、和をいたすの効あり。故に胸痛,肺癰,風湿,腸癰などに用いらる。また疣をとるの効あり」と述べられております。利水,利尿,鎮痛,鎮痙,排膿作用があり,浮腫,リウマチ,神経痛などの疼痛,下痢,化膿症などに用いられているのであります。
 桂枝茯苓丸加薏苡仁は,瘀血が原因で起こる皮膚の荒れ,にきび,肝斑,進行性手掌角皮症,うおのめ鞏皮症,子宮筋腫,乳腺症などに応用されております。
 大塚敬節先生の症例を申し上げます。昭和18年生まれの女子学生。顔に粉瘤がたくさんあって,それが時々化膿する。大便は1日1行,月経順調,腹診するに左下腹部に瘀血の腹証としての抵抗,圧痛のある部位を証明する。桂枝茯苓丸加薏苡仁を投与,2週長の服用で瘀血の腹証が消失,4週間で粉瘤の大半が消え,2ヵ月後にはほぼ全治したと報告されております。

※粉瘤(アテローム、アテローマ)
皮膚の下に袋状の構造物(嚢腫)ができ、本来皮膚から剥げ落ちるはずの垢(角質)と皮膚の脂(皮脂)が、剥げ落ちずに袋の中にたまってしまってできた腫瘍の総称。



【一般用漢方製剤承認基準】
75 桂枝茯苓丸料加薏苡仁

〔成分・分量〕 桂皮3-4、茯苓4、牡丹皮3-4、桃仁4、芍薬4、薏苡仁10-20

〔用法・用量〕 湯

〔効能・効果〕 比較的体力があり、ときに下腹部痛、肩こり、頭重、めまい、のぼせて足冷えなど を訴えるものの次の諸症: にきび、しみ、手足のあれ(手足の湿疹・皮膚炎)、月経不順、血の道症 注)

《備考》 注)血の道症とは、月経、妊娠、出産、産後、更年期など女性のホルモンの変動に伴って現れる精神不安やいらだちなどの精神神経症状および身体症状のことである。
【注)表記については、効能・効果欄に記載するのではなく、〈効能・効果に関連する注意〉として記載する。】




副作用

1)
重大な副作用と初期症
特になし


2) その他の副作
過敏症:発赤、発疹、掻痒等
このような症状があらわれた場合には投与を中止すること。
[理由]
本剤にはケイヒ(桂皮)が含まれているため、発疹、発赤、掻痒等の過敏症状があらわれるおそれがある。

[処置方法]
原則的には投与中止により改善するが、必要に応じて抗ヒスタミン剤・ステロイド剤投与等の適切な処置を行うこと。


消化器:食欲不振、胃部不快感、下痢等

[理由]
本剤には薏苡仁(ヨクイニン)が含まれているため、胃部不快感、下痢等の消化器症状があらわれる おそれがある。
また、昭和58年4月22日付第21次再評価結果「ヨ クイニンエキス」を参考とした。

[処置方法]  原則的には投与中止にて改善するが、病態に応じて適切な処置を行う。